神谷奈緒「bitter sweet autumn」 (10)


これはモバマスssです



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はぁー…何でだろうな…


大きくため息を吐きながら、あたしはトボトボと下を向いて歩いていた。


夕陽に赤く照らされている坂道は、今の心象の様に斜め下がり。
地面に突き刺さっている標識はまるで心のつっかえ棒。
少しばかり太陽にかかる雲は腫れとも曇りとも言えず。
カラスの鳴き声をBGMに、センチメンタルな気分に浸っていた。


何時もより重い足取りは、おそらくダンスレッスンのせいだけではない。
普段からある程度動いているあたしがこの程度でバテる筈が無いんだから。
そう、原因は他にある。
その原因とついさっきまで、あたしは口論していたのだから。


何がダメだったんだっけな…


細かい事は残念ながら思い出せないけれど、それはあたしの記憶力が残念だからでは無いと苦言を呈させてもらう。
嫌な気持ちになっている時は、きちんとした平常時程思考は回らないものなのだから。
気分を変えようとスマートフォンを開いて昨晩のアニメのまとめを覗く。
けれどコレを解かなければ次の問題も解けないテストの様に、どうにも意識がそちらへは向いてくれなかった。









気が付けば斜度は既に0になっていた。
足元から目線を後ろへ回せば、夕陽に染まった真っ赤な坂道。
結構な長さがあったはずだけれど、それ程までにあたしは思考と視覚の両立が向いていないらしい。
それか、あまりにも深いところまで心がへこんでいるか。


最初は、大した事の無い話だった気がする。
ありきたりな、何時ものあたしなら色々言いながらも最後は笑って流せる様な。
でも何故だろうか、あたしがつい強い口調で返してしまって。
そこから、あたしの口にブレーキが掛かるのは暫くしてからだった。


気の無い事、言っちゃったな…


今更になって、後悔が溢れる。
もしかしたら向こうも、今のあたしみたいに暗くなってるかもしれない。
あんな事言わなければ、もう少し気持ちを抑えられたら。
涙腺が栓の役割を果たさなくなる前に、あたしは顔ごと目線を空へ飛ばした。





ごめん、って。
直ぐに言えれば良かったのにな…


余計な強がりが、あたしの謝罪を遮蔽してくれやがって。
素直になれず、傾いた気持ちは斜度を増し。
行き場の無い悔しさが秋の高い空に吸い込まれていった。


SNSアプリには、既に通知が数件。
トークを開かずホーム画面の履歴を見れば、ごめんといった単語が届いている。
けれど、あたしの指は既読をつける事を拒み。
再びディスプレイを暗くし、ポケットへと仕舞い込んだ。





…はぁー…


再度、誰に届くでもない大きな溜息。
幸せが逃げるとはよく言ったものだ。
こんな事をしてる時間に素直な言葉を返せれば。
直ぐにでもまた、何時ものあたしに戻れるのに。


ほんとは、あんな事言いたくなかったのに。
もっと優しく、可愛く振る舞いたいのに。
くだらない事で喧嘩なんてしている時間に。
もっと楽しく、笑顔で過ごせた筈なのに。


そして、何よりも。
それだけちゃんと考える事が可能になるくらいには落ち着いてきている筈なのに、未だに素直になれないあたし自身に嫌になる。
今だって、ポケットに仕舞い込んだ端末を開いて数文字打ち込むだけで解決出来るのに。
チャンスなんて幾らでもあるのに。


それを全部不意にして、無駄に悩んでいるだけのあたしが…


何度目か数える事を忘れられた溜息が酸素を二酸化炭素に変える。
足元に浮かぶ影が少しずつ背を伸ばし、道の色を赤から黒へ染めていった。
もしかしたら、あたしのこの悩みも時間が解決してくれるかもしれない。
実際、何度もそう言った事があったんだから。


でも、それじゃダメなんだ


きちんと謝らないと、前へとは進めない。
今のあたしは時間に引っ張られてるだけなんだ。
自分の足で、心で。
前に進まないと。





けれど、乙女心と秋の空だったか。
天気の予報は出来ても此方の意思で変更は出来ない様に、頭では理解していても行動には移せないまま。
もう既に、自宅の扉があたしの目の前にまで来ていた。


晴れない気持ちのまま、夕食と風呂を済ませる。
髪を乾かそうと洗面器の前に立って鏡を覗き込めば、さえない表情の女子高生。
まぁ、あたしなんだけど。
なかなか乾いてくれない長い髪に余計苛立つけど、それも全て自分が原因なんだ。


なんだか全てが全て上手くいかない。
病は気からじゃないけど、今の気分じゃ何をやっても失敗する気がする。
イヤホンを取り出せば滅茶苦茶に絡まってるし、スマートフォンの充電は1割を切ってるし。






こんな時、励ましてくれるんだろうな…


何故だか、ふと。


突然、会いたくなった。


あたしから飛び出しておいて難だけれど。
それでも、どうしても。


今直ぐ会って、声を聞いて、喋りたくなってきた。


ベッドに横になっても全然寝付けず。
寝る事を一旦諦めても、ずっと。
思い浮かべるのは、彼の姿で。


考えない様にしても、気付かないフリをしても。
直ぐにまた、心を埋めて。





カーテンを開ければ、外は綺麗な満月。
雲もまったくかかっていない、一面晴れた秋の夜。
風は心地よく、あたしの髪をなびかせる。


…よし、うん


充電が少し回復したスマートフォンを開き、SNSの通知を無視して電話を掛ける。
まだ仕事をしてるかもしれないし、一息ついて寝ようとしてたかもしれない。
でも、ちょっと我儘だけど。


一緒に、笑顔になりたいから







短かめですが終わりです
お付き合いくださった方、ありがとうございました

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