モバP「橘ありすは矛盾に気づく」 (18)

――ハワイ海岸、夜。

P「飛鳥くんやっほー」

飛鳥「……来ると思っていたよ、プロデューサー。都市を照らす、夏色の喧騒…それが、すこしばかり煩わしくなったんだろう。…ああ、理解るさ。キミもボクも、常夏の楽園には相応しくない異邦人だからね……」

ありす「待って下さい、ハワイには冬もあるので『常夏の楽園』という名称は間違っていると思います、旅行情報サイトによればハワイと言えど冬場の夜中や早朝はパーカーやトレーナーなどの羽織ものが必要と書いてありました」

飛鳥「………………」

ありす「それと『都市を照らす夏色の喧騒』と仰っていますが、雑音が夏色という形容も、雑音が何かを照らすという現象も私には分かりません。少しだけ説明してもらえませんか、私が飛鳥さんを好きになるために」

飛鳥「ありす、キミも来たのか」

ありす「うるさいのが嫌で出てきました」

P「ありすのそのセリフが、そのまま飛鳥の言っている事だ」

ありす「一緒なんですね」

飛鳥「同じと言ってしまえばそれまでさ。でも、微妙に言葉のアトモスフィアが異なる。似て非なるものだよ」

ありす「プロデューサーさん、やっぱり違うみたいですよ?」

P「すまん、違かったか」

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P「それにしても綺麗な海辺だな。昼に見た光景とは違う美しさだ」

飛鳥「暗闇が海を妖しげに粧飾しているね、吸い込まれそうで思わず軽い目眩を覚えてしまう」

ありす「大丈夫ですか飛鳥さん、しっかりして下さい」

飛鳥「…………」

P「ずっと見つめていたくなる、それぐらい綺麗だ」

飛鳥「あまり見つめてはいけないよ。夜の深淵は、魅惑的すぎる……」

ありす「どうしてですか? 魅惑的な景色こそ、しっかりと見て記憶しておくべきだと思いますっ!」

飛鳥「いや……ちょっと」

ありす「そうだ、写真を撮っておきましょうか。ダブレット持ってきているので」

飛鳥「ええー……」

P「こんな暗い場所で撮れるモンなのか?」

ありす「さすがにデジカメには負けますが、最近のタブレット機器を馬鹿にしてはいけません。暗所撮影にも耐えるタブレットが近頃ちらほらと出てきました」パシャパシャ

飛鳥「やれやれ……文明の進化も行き過ぎると情緒が無くなってしまう」

ありす「そうですか? けっこう趣きのある写真が撮れましたよ」

飛鳥「……いい写真だね、不覚にも。あとでボクのスマホにも送っておいてくれよ」

ありす「もちろんです」

P「夜でも水温が丁度良いな、手を入れると気持ちが良い」

飛鳥「ああ、海水の感触…優しく、懐かしい」

ありす「え?」

飛鳥「……え?」

ありす「飛鳥さんはハワイの海は初めてですよね、どうして懐かしいんですか?」

飛鳥「いや、それは……」

P「広義的な表現だ、ありす。深い意味はない」

飛鳥「いや、無意味では決して無いんだプロデューサー」

ありす「でもハワイの海が懐かしいっておかしいです、飛鳥さんアメリカ人じゃないですよね。日本海ならまだ分かるのですが」

飛鳥「………………」

P「まあまあ。なあ飛鳥、ちょっと足入れてみたらどうだ?」

飛鳥「あ、ああ。折角だから、そうしようかな」

ありす「私も、靴下脱ぎます」

飛鳥「うん、いいね。足元から広大な世界を感じるよ」

ありす「すごいですね、私は水温しか感じられないです。とても気持ち良いですが」

飛鳥「キミも入っておいで。かつてボクたちが生まれ、やがて還る故郷へ」

ありす「飛鳥さんの実家ってアメリカなんですか? 飛鳥さん、いつかアメリカに還っちゃうんですか?」

飛鳥「いや、だから……」

P「あー、いいね。足を入れると、またひと泳ぎしたくなってきちゃうな」

飛鳥「キミと一緒なら、かまわない。もう少し、深い場所へ行かないか?」

ありす「止めといた方が良いですよ、飛鳥さん泳げないじゃないですか!」

飛鳥「グフッ」

P「ごめん、ばらしちゃったてへぺろ」

飛鳥「プロデューサー、キミってやつは……」

ありす「ただでさえ暗いですし、危ないです。あまり奥には……」

飛鳥「か、かまわないさ。さあプロデューサー、ボクと共に」

ありす「なるほど『キミと一緒ならかまわない』ってつまり溺れないように助けてって意味ですね!」

飛鳥「おうっ。……そ、そ、それは断じて違うよ、ありす。この言葉には海よりも深いニュアンスが含まれているんだ。ボクとプロデューサーの心意。そして緊密たる紐帯の関係」

ありす「紐帯もいいですけど、それでプロデューサーさんと一緒に溺れちゃったら目も当てられません。悪いことは言いませんから戻ってきて下さい飛鳥さん」

飛鳥「………………」ズンズン

ありす「ああっ、飛鳥さん!」

P「止めろ、それ以上飛鳥を挑発するなありす」

ありす「挑発なんかじゃありません、警告です……」

飛鳥「フフッ、痛いほどに強く握って、引き止めてくれるね」

ありす「それは溺れて戻ってこれなくなったら大変だから……」

飛鳥「けれど、キミがくれる痛みは、南国の果実のように甘い…離れがたいよ」

ありす「ええ?!」

飛鳥「…………今度はどうしたんだい、ありす」

ありす「痛みが果実のように甘いんですか、不思議です!」

飛鳥「こ、子供のキミには、難解な感情かもしれないね……」

ありす「いいえっ、でもネットで聞いたことがあります。痛いことが好きな人がこの世の中には居るって。飛鳥さんもそういう人なんですか?」

飛鳥「ありす、ちょっとボクの話を聞くんだ。訂正の必要がある」

ありす「分かりました飛鳥さん! 飛鳥さんの日頃の痛々しい言動は、飛鳥さんが痛いことが好きだから起こるんですね! 私、すっごく納得しました!」

P「あああああ、飛鳥、落ち着けっ! それ以上進むな! 本当に溺れるぞ! 深呼吸だ! すってはいて! すってはいて! どうどう! よしよし、いい子いい子。ちょっと誤解されちゃったな。大丈夫、飛鳥は超かっこいいぞ! だから、いったん海から出るんだ! そうだ、一歩ずつ陸へ戻るんだ。 かつて魚が陸に上がったように、一歩ずつ……」

P「ありす、この世の仕組みはとても複雑で入り乱れている。そして飛鳥の心情も、それと同じように捕らえ所がなくて、そんでもって自由なんだ」

ありす「つまり飛鳥さんは生きてる証を時代に打ち付けているんですね」

P「そうだ。今のありすに理解するのは難しいかもしれない、でも絶対に数年後に理解できるから、むしろ2年後のありすも危なそうだが……とにかく、それで今は容赦してくれないだろうか。これ以上に飛鳥にツッコんではいけない」

ありす「突っ込んだつもりは無いのですが、分かりました。プロデューサーさんの言うことを聞きます」

P「よし、ありすが聞き分けの良い子で助かるぞ」ナデナデ

ありす「えへへー」

飛鳥「……ふぅ。ボクとしたことが取り乱してしまった。すまないプロデューサー」

P「別にいいさ。生きていれば、そういう事もあるさ」

飛鳥「……これからの言葉は、楽園に惑っての繰り言。本気にしないほうがいい。また、ここへ来たい……キミと」

P「飛鳥……」

飛鳥「…………フフッ」

ありす「あの……」

P「……ん? どうしたありす」

ありす「本気でもない繰り言なら聞かなくても良いですよね! ところでプロデューサーさん。私すっごくこの場所が気に入りました、また私をここへ連れて来て下さいっ!」

飛鳥「あぅ……」

ありす「あれ、飛鳥さん泣いているんですか? そうですよね、この景色すっごい感動的で、私も思わず泣いちゃいそうです。子供じゃないんで泣きませんけど」

P「い、い、いよーしっ! ホテルに戻るか二人とも! 明日も早いしなー」

飛鳥「…………」

P「ほ、ほらっ、飛鳥、立てるか、……歩けるか?」

飛鳥「す、すまない……プロデューサー。精悍なる騎士のよう、慈心を以ってボクを安息の地へ誘ってはくれないか」

ありす「え、なんですって?」

P「………………」ヒョイッ

ありす「ああ、お姫様抱っこの事だったんですね。今のセリフでよく分かりましたねプロデューサーさん」

P「ありす、ちょっと飛鳥を介抱するから、先にホテルに戻っててくれないか」

ありす「ええっ、飛鳥さん大丈夫ですか、もしかして日中に無様に溺れた後遺症ですか? 私も連れ添います!」

P「な、なんとかするから……、ありすは先に戻ってくれ。もう暗いし、危ないから」

ありす「分かりました、飛鳥さんお大事になさって下さい!」

飛鳥「…………う、うん」

――ホテルロビーにて

ありす「むむむ、なんだかよく分かりませんが、ちょっとだけ飛鳥さんを傷つけてしまったようです」

ありす「うーん、明日は飛鳥さんに何と声をかけるべきでしょうか。ちょっとタブレットで調べておきましょうかね」

ありす「……ふむふむ『ゆうべは、お楽しみでしたね』。いいですね、これでいきましょう」

おわりです。
スカイクラッドの観測者を聞いていたら書きたくなっちゃいました。
ご拝読ありがとうございました。


こっちも書き終わったんで暇な方は是非。
P「ドラマ主演が決まったぞ森久保ォ!」
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