【モバマスSS】泉姉さんが添い寝するお話 (11)

大石泉の弟くん視点のお話です

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僕の姉は、アイドルだ。

同い年の友達2人と一緒に静岡を出て、東京の芸能プロダクションで毎日頑張っているらしい。

家族の僕が言うのもなんだけど、姉は整った顔立ちをしていて、おまけに頭がいい。それもすごくいい。

おかげで、弟である僕は出がらしみたいな取り柄のない人間になってしまったのかもしれないけど。


さて。そんな姉が、久しぶりに静岡に帰ってきた。お盆の時期だから、アイドル活動を休んでこっちに顔を出しに来たらしい。……なんだか、もう一人前の社会人みたいな言い方だな、なんて思った。


……うん。まあ、それは今は置いといていいや。


今この時、僕がいの一番に気にするべきことは――



「あはは……来ちゃった」


くだんの姉――泉姉さんが、両手で枕を抱えたまま、僕の部屋に入ってきていることだ。

時刻は午前0時。そろそろ寝ようかな、と考えていたところである。

こんな時間に、わざわざここに枕をもってやってきた理由。思い当たる節はひとつしかない。



「……ねえ。久しぶりに、一緒に寝ない?」



「………ねえ」


「………」


「ねえ。どうしてこっちを見ないの?」


僕の部屋のベッドは、そこそこ大きめだ。だがそれは『一人用のベッドにしては』という言葉が頭にくっつく。

つまり、二人同時に寝ると、どうしても身体が触れ合ってしまう。

互いのパジャマがこすれあうたびに、びくりとした緊張が体中をかけめぐる。こんな状態なんだから、とてもじゃないけど姉さんのほうを向くなんてできなかった。


「ねえって」


「べつに、深い理由は」


「こっち、向きなさい」


「………はい」


ちょっと強い調子で言われただけで、あっさり従ってしまう自分に呆れてしまう。

でも、うちの姉は怒らせると怖いんだ。だからしょうがない。

「む、向くよ」


どきどき。

どきどき。


やっとの思いで、体の向きを180度変えることができた。


「……ふふっ。やっと顔が見られた」


そうしたら、くすりと笑う姉さんの顔が間近にあって。

僕は、思わず頬が熱くなるのを感じていた。


「どうしたの? そんなに恥ずかしがって」


「だって。最後に一緒に寝たのなんて、もう5年以上前のことだろ。だから」


「いいじゃない。姉弟なんだから」


姉弟だから。

確かに、僕もそう思う気持ちがないわけじゃない。

姉さんが、以前の姉さんのままなら、たぶん普通に受け入れられた。


だけど。


「ね?」


水色のシンプルなデザインのパジャマと、頭には水玉模様のナイトキャップ。

優しい声で、ニコリと微笑む姉さん。

その表情に……なんていうか、色気がある。


――そう、色気だ。僕の知ってる泉姉さんは、こんなに色気のある女子じゃなかった。

顔立ちはもともと整っていたけれど、それだけというか。

なのに、東京から帰ってきた姉さんは……文句なしの『美人』になっていた。

これが、アイドルなんだろうか。いわゆる、垢ぬけたってやつなのかな。

「姉さん」


「なに」


「なんで、急に一緒に寝ようだなんて」


気になっていたことを、素直に聞いてみる。

そうしたら、姉さんはふっと笑って。


「私ね。あなたとの距離感を、測りかねていたの」


「距離感?」


「うん。いいお姉さんでいるためには、どうしたらいいのか……そういうことを、頭の中で考え込んじゃってて。理屈をこねくり回しているうちに、弟本人とのコミュニケーションがおろそかになっちゃってた」


ちょうど、僕らが一緒に寝ることがなくなった時期。そのあたりから、姉さんは僕に気を遣うようになった。

僕は生まれつき体が弱くて、学校を休むこともしばしばだった。病弱な弟に、どう接したらいいのか、姉さんなりにいろいろ考えていた……って、ことなんだと思う。

その結果、ちょっと距離を置くようになってしまって。僕もそんな姉さんを見て、スキンシップを控えるようになってしまって。


「でも、アイドルになって、たくさんのことを経験していくうちに、思ったんだ。ロジックで考えているだけじゃ、うまくいかないこともある。時には、ただ自分の気持ちに素直になることも大切だって」


「自分の気持ち? それって」


「弟のことが大事だって気持ち」


前髪を、ゆっくりと優しく撫でられる。少しくすぐったい。

「それと……これは、言うのがちょっと恥ずかしいんだけど」


「なに?」


優しい微笑みから一転、今度は照れくさそうに笑う姉さん。


「……静岡を離れて、寂しかったから」


「寂しいって……さくらさんと亜子さんがいるじゃないか」


「そうね。あの二人がいてくれたから、すごく心強かった。でも、家族と会えないことって、やっぱり結構ダメージなの」


「……だから、一緒に寝ようって?」


「……うん」


……やばい。

我が姉ながら……かわいいと思ってしまった。



と、とにかく。

姉さんは、僕への接し方がなんとなくわかったらしい。

これからは、もっと仲のいい姉弟になれるのかもしれない。そう考えると、なんだか心が温かくなる。


「ねえ、姉さん」


「なに?」


「好きな人とかいないの?」


「どうしたの? いきなり」


「いや、なんとなく気になった。僕も思春期だから」


「そっか。でも、そういう人はいないかな……親しくしている男の人なんて、家族をのぞいたらプロデューサーくらいだし」


「そのプロデューサーはどうなの?」


「プロデューサーは、プロデューサーだから。頼もしい人だけど、異性として好きになるってことはないわ」


「ふーん。そうなんだ」


「うん、そう」


小さくうなずきながら、姉さんはそう答える。

でも、その後……頼んでもいないのに、プロデューサーの話を山ほどしてくれたから。本当のところは、どうなんだろうって思った。


「明日の朝ごはん。久しぶりに私が作ってあげる」


「姉さんが?」


「うん。楽しみにしておいてね」


「わかった」


「……そろそろ、寝たほうがいいわね」


「うん」


「おやすみ」


「おやす……あ、ちょっと待って」


「うん?」


「一個、聞いてもいい?」


「うん」


「アイドル、楽しい?」


「うん。楽しい」


「そっか。おやすみ」


「おやす……あ、待って」


「なに?」


「明日、プールに行かない?」


「プール? いいけど」


「ふふ、よかった。今度こそ、おやすみ」


「おやすみ、姉さん」


顔と顔を突き合わせたまま、お互いに笑って挨拶をする。

すぐそばに、温かいものを感じられて……今日は、いつも以上によく眠れそうだと思った。



おしまい

おわりです。お付き合いいただきありがとうございます
泉の弟に関してはわからない点が多いですが、こんなやりとりがあればいいなあと思って書きました
水着SRのセリフを見ている限り、今でもその気になれば一緒にプールに行けるような状態っぽいです

過去作
渋谷凛「長女」大石泉「次女」佐城雪美「四女」橘ありす「五女……じゃなくて三女」
モバP「しるぶぷれーなお隣さん」

などもよろしくお願いします

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