男（おお、いかにもって感じの内装――）



常連A「……」ｼﾞﾛｯ

常連B「……」ｼﾞﾛｯ

常連C「……」ｼﾞﾛｯ



男（うおっ！？）

常連たち「……」



男（なんだ、この常連たちの目つきは……）

男（『誰だよコイツ』『知らない奴が来たんだけど』と言いたげな感じの目つきは……）

男（そこまでは思われてないにしても、歓迎されてないってのは確かだろうな）

店主「えと、ああ……いらっしゃいませ」

男（この人もなんで戸惑ってるんだよ）

男（俺の入店をさも『予想外の事態』みたく扱うのはやめてくれよ……）

男「えぇと、どこに座ればいいですかね……？」

店主「ああ、お好きな席にどうぞ……」

男「分かりました」



常連たち＜ﾍﾟﾁｬｸﾁｬﾍﾟﾁｬｸﾁｬﾍﾟﾁｬｸﾁｬﾍﾟﾁｬｸﾁｬ



男（あの人らの邪魔になると悪いし、隅っこに座るか……）ﾁｮｺﾝ…

男（メニューは、と……）ﾍﾟﾗ…

男（うおっ、高え！）

男（コーヒー700円で、ケーキセットは1200円……！？）

男（いや、まぁ、昔ながらの喫茶店ってのはこのぐらいの値段設定なんだけどな。場所代も入ってるだろうし）

男（でも、チェーン店に慣れちゃうと、やっぱり高く感じちゃうなぁ……）

男（せっかく初めて来た店で、コーヒーだけ飲んで帰るってのもアレだし、ケーキセットにするか……）

店主「お冷やです」ｺﾄｯ

男「あの……注文をお願いします」

店主「あ、はい……」

男「ケーキセットを一つ」

店主「すみません……今これやってなくて……」

男「あ、そうなんですか……すみません」

男「じゃあ……コーヒーで」

店主「かしこまりました」

男（やってないならメニューにバッテンつけるなり、白い紙を貼るなりしといてくれ……）

常連たち＜ﾍﾟﾁｬｸﾁｬﾍﾟﾁｬｸﾁｬﾍﾟﾁｬｸﾁｬﾍﾟﾁｬｸﾁｬ



男（気まずい……）

店主「お待たせしました」ｺﾄｯ

男「ありがとうございます」

男「……」ｸﾞﾋﾞｯ

男（あ、さすがにコーヒーは美味い！　俺はコーヒー通でもなんでもないけど、それは分かる！）

男（でも――）

常連たち＜ﾍﾟﾁｬｸﾁｬﾍﾟﾁｬｸﾁｬﾍﾟﾁｬｸﾁｬﾍﾟﾁｬｸﾁｬ

店主「へぇ～、そうなのかい！」

常連たち＜ｱｯﾊｯﾊｯﾊー…

店主「アッハッハ！」



男（とても本なんか読める空気じゃねえな……）

男（明らかに浮いてるもん……俺）

男（明らかに異物だもん……俺）

男「……あ」

男（気まずさをごまかすために、コーヒーチビチビ飲んでたら、もう飲み終わりそうだ）

男（もういいや、全部飲んじゃおう）ｸﾞｲｯ

男「すみません、お会計お願いします」

店主「700円になります」

男「……」ｽｯ

店主「300円のお返しになります」

男「ごちそうさまでした」

店主「ありがとうございました」

ｷﾞｨｨ…　ｶﾗﾝｶﾗﾝ…