瀬名詩織「海沿いにて」 (29)

・モバマスSSです
・瀬名さんの魅力を少しでも伝えたくて
・嘘みたいだろ。未成年なんだぜ、それで…

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「海が…聞こえるわ……」

私の声は海沿いを走る車の窓から流れ出て、海風に溶けた。

窓から見える海は日の光を反射して輝いていた。

「美しい…海……」

私は運転席に向かって話しかけた。今度は声が海風に溶けてしまわないように気をつけながら。

「だろ?」

モバPさんは嬉しそうに言った。
前を向いて運転をしているので顔は見えない。けれども、照れ隠しの笑顔を浮かべている事は分かった。

短くはない付き合いだから…どんな時にどんな顔をするのか…そのぐらいは知っているもの。

「ええ…海風も…潮騒も…教えてくれているわ。美しい海は…美しい歌を聴かせてくれるのよ…」

「…そうか」

モバPさんは左手を後頭部に当てた。これは照れ隠しをする時の癖。

「…」

私はふと少しだけいじわるが言ってみたくなった。小学生ぐらいの男の子はこんな気持ち……なのかしら。

「大丈夫よ……抑えていなくても…海風は運んではいかないから」

「抑えてるんじゃねーよ!」

「事あるごとに人の髪をネタにしやがって!いいか、俺は禿げてるんじゃァない!ただ生え際がちょっとアレなだけで……」

「こんぶ……食べる…?」

私はハンドバッグから昆布菓子を取り出す。誰もが知っている(と私は思っている)赤い箱入りのアレだ。

「だから禿げてねーんだよ!だいたい昆布に増毛効果はない!全くの都市伝説だ!」

「あら……そうなの…?」

私はわざとトボけてみせる。

「そうだ!諸説あるんだが、一説によるとその昔昆布の抽出液で髪の手入れをしてたから昆布=髪にいい=増毛に効果がある、にいつの間にかなってたとかなんとか…他にも昆布の産地に増毛町ってとこがあるんだが……」

「詳しいのね」

「調べたり試したりしたからな!……あっ!」

「ふふ…」

「謀ったな、詩織ッ!」

「ウミネコが…飛んでいるわ…」

「オイコラ」

「ふふふふっ…」

自分の顔は自分では見ることはできない。

けれども自分が今どんな顔をしているのかも分かっている。

きっと今の私の顔に浮かんでいるのは悪戯っぽい笑顔。

モバPさんに出会わなければ…自分にそんな表情が出来ると知ることはなかった表情の一つ。

「信じてスカウトした海の似合う幻想的なアイドルが……」

「人は変わるもの……そうでしょう?それで……?」

「…くれ」

「増毛に効果は……」

「知ってるよ!今自分で説明したばかりだからな!」

ついいじわるになってしまうのは……いけないこと?

「ふふ…冗談よ」

私は後部座席から手を伸ばし、運転席のモバPさんの口に昆布菓子を入れてあげた。



「ん……サンキュ」

「どういたしまして」

「なんかこれ偶に食べたくなるんだよ」

「そうね…」

私も昆布菓子を口に入れた。
甘いような酸っぱいような…あの味がした。

「お茶が欲しくなるな…」

「運転しながらは…飲めないでしょう…?」

「む…確かに」

「だから……」

私はハンドバッグからあるものを取り出しながら言った。

「少し…車を止めない…?」

「接続詞の使い方が微妙におかしくないか?」

モバPさんはバックミラー越しに私が取り出した物を見ると言った。

「海のように雄大でいなくてはいけないわ……モバPさん「は」…」

「…若干の悪意を感じた気がしたんだが」

「気のせいよ。誰もストレスは薄毛の原因になるから……なんて、言っていないわ…」

「言ってるじゃねーか!」

「…?」

「首を可愛く傾げてもごまかされ…あぁ、もう可愛いなチクショウ!」

「分かったよ、誤魔化されてやる!」

「ふふ…」

私はモバPさんといるうちに…少しだけ「ずるさ」と言うものを覚えた。

「まさか最初からこの為に昆布を…?」

「さぁ……どうかしら…ね」

「ハァ…物静かな人魚拾いましたと思っていた時期が俺にもありました」

モバPさんはそう言うとわざとらしくため息をついた。

「まぁ、いいか。時間には余裕があるし…この先に海岸があるんだが、 そこでいいか?」

「お任せするわ…」

私はさっきハンドバッグから取り出したもの…朝入れたお茶の入った保温機能付きの水筒を右手に持ちながら言った。

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そこは静かな海岸だった。

「はい」

私はコップにお茶を注ぐとモバPさんに差し出した。

「ん」

手と手が触れる。
モバPさんの手は今日も海のように温かかい。

「…白魚のような指って表現を最初に考えついたヤツは偉大だな」

何の前触れもなくモバPさんが言った。

「…?」

「いや、な。なんと言うか的確な表現だな、と思って」

モバP「こうして詩織の白くて綺麗な指を見ているとおわあっ?!」

あ…ついコップを持っていた手を離してしまった…

モバP「っぶな!おっとっとぉ…」

モバPさんはコップを掴み直すことに成功したようだ。

モバP「詩織……」

詩織「ハゲ……」

モバP「直球?!」

モバPさんがいけないんだもの……いつもそう……急に今みたいなことを言ったりするから……

私は帽子を深く被り直す。

「こうして詩織の白くて綺麗な指を見ているとおわあっ?!」

あ…ついコップを持っていた手を離してしまった…

「っぶな!.コップを落とすところだった…」

モバPさんはコップを掴み直すことに成功したようだ。

「詩織……」

「ハゲ……」

「直球?!」

モバPさんがいけないんだもの……いつもそう……急に今のようなことを言ったりするから……

私は帽子を深く被り直す。

私は「ずるく」なった。
それでもやっぱりモバPさんの「ずるさ」には敵わない。

肌が白いからすぐに分かるといつも言われる。

私は帽子を深く被り直す。
私たちがいる場所が夕方の海なら良かったのに。

「おっ、照れてるのか?」

「照れてないわ……」

「照れてるだろ?」

「照れてないわ……」

「照れて……」

「あっ…!」

こうなったら一か八か…私は声を上げて海を指差した。

自分でも名演技だったと思う。アイドルとして培ってきたものがここで役立つとは思わなかったけれど。

「…ん?」

その甲斐があってモバPさんは一瞬そちらを向いてくれた。

「………」

その隙に私はモバPさんの頭にそーっと手を伸ばすと……

「えい」

ぷちり、と白髪を一本抜いた。

「NOOOOOOOO!!」

モバPさんの声が海に響いた。

「お、おまっ…!おまっ…!」

「白髪が…あったから…」

「白かろうが髪は髪なんだよ!!」

「ふふ…」

「ぐぬぬ…」

よく大人びて見える…と言われるけれど、私はまだ19だもの…
照れ隠しをしたって……

「はぁ……もう本当…詩織は……変わったな」

モバPさんは大きなため息を吐いた。

「出会った時とはまるっきりの別人だ…」

「そんな私は……嫌い…?」

私は…思い切って言ってみた。
潮風が背中を押してくれた。

するとモバPさんはことも無さげに言った。

「馬鹿言え。んなわけないだろ。むしろ逆だ、逆」

「逆…?」

どんな答えが返ってくるかは分かっているけど…モバPさんの口から聞きたくて。

「よく笑うようになった詩織を魅力的だと思わない男がいるもんかよ」

モバPさんの左手は後頭部に当てられていた。

…お茶を濁す、とか、嘘をつく…と言ったことができない人なんだから……

「言わせんな、恥ずかしい」

モバPさんはコップを傾けてお茶を飲んだ。

「ん…!美味い…」

「お粗末様……なんて…ふふ…」

誰かに喜んでもらう…その喜びを教えてくれた人。

その人に喜んでもらえるのは…嬉しい

私は目の前の海を見た。

蒼くて…どこまでも続いている海。
広くて…果てしない海。

「ねぇ…モバPさん」

「ん?」

「この海がモバPさんの故郷…なのよね…?」

「おう」

「モバPさんは……どんな子ども……だったの…?」

「リアル「われは海の子」だった。「生まれてしほに浴して、浪を子守りの歌と聞き、千里寄せくる海の氣を、吸いて童となりにけり」ってな」

モバPさんは「われは海の子」の一節を暗唱した。

「子どもの頃は毎日のように海で遊んでた。で、毎日体中ベタベタになって家に帰ってた」

「ふふ……」

私は子どもの頃のモバPさんを想像しようとしてみて……あんまりにも簡単に想像できたものだから思わず笑ってしまった。

「まさかそんなガキンチョがアイドルのプロデューサーになるなんてな…人生ってのは分かんないもんだ」

「私だって…考えたこともなかったわ……アイドルなんて…」

最初にスカウトされた時はとても驚いたの。
こんな私が……って。

「……不思議なものね」

でも…私はアイドルになれた。
とても意外なことに。

私の心の中にある海に沈んでいた言葉を引き上げてくれた人がいたから。

私を見失なわないでくれた人がいたから。

「私ね…アイドルになって……よかったわ」

潮風はいつだって私の背中を押してくれる。

「アイドルになって……たくさんのファンに認めてもらえるようになって……」

言葉は伝えなければ……伝わらない。

「初めてファンレターをもらったときの気持ちは……今でも思い出せるわ……」

すぐには分からなかった。どうして心の海が波立つのか。

ファンレターを最初から最後まで読んで…初めて分かったの。それが…「嬉しい」…だって。

ずっと忘れていた気持ちだったから。

「友だちも……できて……」

事務所には私以外にもたくさんの…色んな「アイドル」がいた。

個性的な子が多くて…初めは馴染めるか不安だったけど。

今ではみんな仲間で…ライバル。

「ここに…モバPさんの故郷に来れたのも……アイドルになったおかげだから…」

今日の仕事は私の写真集用の写真の撮影。

撮影場所に選ばれたのが…偶然モバPさんの故郷の海だった。

私の写真集なんて…と言ったら、モバPさんは大丈夫、と言ってくれた。

詩織の写真集なんだから売れる。俺が保証する…って。

その言葉は……潮風と同じぐらい私の背中を押してくれた。

「伝えたい言葉があるの……聞いてくれる…?」

「…何だ?」

私は息を小さく吸って…吐いて…吸って…吐いた。
なるべくきちんと言いたかったから。

もう一度だけ息を小さく吸って…私は言った。

「ありがとう」

言葉に全てを乗せた。

「………ば、馬鹿…」

モバPさんは左手を後頭部に当てた。

言葉にしなければ…気持ちは伝わらない。裏を返せば…きちんと言葉にすれば気持ちは伝わる。

「きゅ、急にそんなこと言うなよ…困るだろうが……」

自分だってよく急に言うくせに……なんて。

「そんな……ご、ゴホン!」

モバPさんは大きな咳払いを一つした。

「…こっちこそ…その……ありがとな」

モバPさんは隠し事が出来ない人。
だから…全てが表に出る。

「詩織と会えて…良かった」

「ずるい」…私は勇気を振り絞らなくちゃ…言葉に全ては乗せられないのに。

まぁ…私はそんなモバPさんだからこそ……なのだけれど。

……かなわないわ。

改めてそう思った。

だけど……そう素直に認められるほど……私は大人じゃないの。

私はもう一言付け加えることにした。

「ねぇ……モバPさん」

「な、何だ…?」

「車の中と違って…ここには壁がないから……飛ばされないようにするにはもっと……しっかり……」

「おう。……ってだから抑えてるんじゃねーんだよ!!」

「ふふ……」

ごめんなさい。
つい……いじわるしたくなるの。

「お前ってヤツは…!!」

「ふふふっ……」

だって私は……いいえ…この言葉はまだ心の海に…そっと沈めておきましょう。

寄せては返し…返しては寄せる波のような…日々。

同じように見えて…同じ波は二度とない。

だから私は今日も前を向く。

「失ったものばかり……数えてはいけないわ……」

「う、うるせえ…!ぐすっ……」

「ふふ……」

それに何より美しいのは……モバPさんと生きる今だから。

せなしー愛してるぞぉぉぉぉ!!(終わりです)

モバマスで1番ウェストが美しい(※個人の感想です)アイドルこと、瀬名詩織さんにもっと課金させてください

別に宣伝と言う訳ではないのですが……え?デレステに瀬名さんが?いやー、偶然だなぁ!いや、もー偶然も偶然!

瀬名詩織をよろしくお願いします(ステマ)

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