【咲-Saki-】菫(25)「合コン行ったら大変なことになった」 (591)

三年生組が社会人設定

他の学年とは10年ほど年が離れています。

照と淡が従姉妹設定


以上が問題ない方はどうぞ
暇なとき更新します


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オフィス。


久「ねぇ菫? もしよかったら今夜の合コン参加しない?」フワッ

菫「合コンだと?」


菫(…突然、直属の上司(同期入社)から合コンの誘いを受けた)


怜「せやで~、若い果実をつまみ食いすんねん」

菫「……なに?」


久「ちょっと怜―、せっかく菫誘ってる時にそういう事言わないでよー」

怜「あははは~っ」

菫「なんだ、冗談か…」


久「さすがにそこまでするかは向こうのメンツ次第よねー」

菫「!?」


久「まあ、初めは楽しくお酒飲む場とでも思っておけばいいわ」

菫「そういう場はあまり好きではないな……」


怜「まーまー、そんな固いこと言わんと」サワッ

菫「ひゃっ、ちょっと! どこを触っている!?」

怜「何って……太股撫でてるだけやん」

怜「なんや菫はん、お固いこと言うわりに体つきは程よぅ引き締まってはって、ええ太股してはりますな~」サワサワ

菫「くっ、そこは太股ではなくて内腿だ…っ! やめろ!!」

バッ

久「ちょっと怜、菫にそういうことするの止めてって言ったでしょ?」

怜「そんな本気で振り払わんでも……ちょっとからかっただけやん」


久「大丈夫、大丈夫よ、菫はちょっとした数合わせだもの。ゲスト扱い」

久「帰りたくなったら帰ってもいいからさ」

久「……私的には帰って欲しくないけどね」ボソッ

菫「ん?」


久「そんな難しく考えないで、出会いがあればな~、程度にさ」

久「ちょっとお願いできないかなー?」

菫「だいたい、なんで私なんだ……」


久「なんでって、だってほら」



久「……菫って今、フリーなんでしょ?」ニコッ




居酒屋。

「「「かんぱーい!!」」」



菫(やばい……)ドキドキ

菫(同期二人に連れられて参加した3on3の合コン)

菫(相手の子たち、とんでもなくレベル高いんだが……)

菫(特に……)チラッ



淡「!」

淡「……っ」ニコッ

淡「えへ~♪」フリフリ~



菫(……なんだあの娘、可愛すぎる…)ゴクリ


久「……」チラッ

菫「……」ゴクリ

久「……ふふっ」ニヤリ


久「なになに菫、あの娘が好み? 可愛いものねー!」ダキッ

菫「!……いや、別に、たしかに可愛いが、そんな…」

久「もう、強がっちゃってこの娘は~」


久「でも、今日私と来て良かったでしょ?」

菫「…………くっ///」カァア


久「じゃあ、そちらから自己紹介お願いしまーす」

「は~~い」

「え~っと~、私達みんな~、趣味繋がりの友達で~」

淡「淡です」ジィ


菫(胸の前で手を合わせて、ちょっとお淑やかな感じ……金髪だけど)

菫(淡ちゃん……かぁ)

菫(なんかこの娘とずっと視線合ってるんだが、これはいったい)


久「そっかー、みんな学生なのねー、やだぁ…オトナっぽーい♪」

菫「が(学)っ!?」ガタッ

怜「飲み過ぎたらアカンで~、お姉さんたち困ってまうからな~」

「「「はぁ~い」」」


菫(おいっ、竹井、お前なぁ!?)

久(何よぉ、さっきから落ち着きないわねぇ)

久(オトナの余裕よ、オトナの余裕♪)

菫(学生相手だなんて聞いてないぞ!!)

久(言ったじゃないのよー)

菫(いつだよ!!)

久(…………怜が『若い果実をつまみ食い』って)

菫(真に受けるわけないだろ!!)


久「……」クスッ

久(わかった、わかったっての……でももうちょっとだけ付き合ってよ)

久(今日は結構メンツいいから、怜はもうノリ気だもの。ぶち壊したら可哀想よ)

久(ね、お願い…?)

菫(…………む)


久(……その代わりと言っちゃなんだけど~)ニヤリ

久(これがお開きになったら、お詫びも兼ねて、私達で飲み直してもいいし)

久(奢るわよ?)


菫(…………わかった)

久(決まりね。ありがと、菫)

久(私、あなたのそういう優しいところ、大好きなのよね)ニヤッ

菫(……ここで言われても、まるで褒められているように思えないな)

久(あら残念、お詫びの前払いにキスしてあげよっか?)

久(だから機嫌~、な・お・し・て?)ギュムッ

菫(い、いらん!!)バッ

久(あらら……)クスクス





淡「…………むぅ」ジィ


怜「で、そこでイチャコラしながら仏頂面してる大和撫子が弘世さん」

菫「あっ、弘世菫です」

淡「ヒロセさん……、スミレ……」ブツブツ


久(あの娘……菫狙いかしら?)ジィ

久「ふーん…?」ニヤリ

久(焚きつけてやろ~っと♪)

久「やだも~菫ったら、お見合いじゃないんだから~」バシバシ!!

久「でも~、そこがいいトコ~♪」ギューッ

キャハハハ


久「ふふ…」チラッ

淡「!」

久「………」フフン

淡「~~っ!!」ムカッ


淡「スミレ~、まじめ~、おもしろーい♪」

淡「かわい~~!」


久(語彙が足りないのね~、可愛い♪)

菫(可愛いってなんだ……そんなこと言われたことなんて)



照『菫……可愛いね、とっても』

照『……好き…』

照『大好きよ…』

照『菫…』チュ…



菫「……くっ」ブンブン

菫「……はぁ」

菫(高校時代の恋愛を未だに引き摺って、)

菫(淡ちゃん…………学生でさえなければ…)ハァ


淡「ちょっとスミレ、全然元気な~い!」

淡「ほら飲んで~?」

菫「……君はあまり飲みすぎないようにな」

淡「えー! なにそれー!」


菫(淡ちゃん達学生グループは、全員でお手洗いに行ってしまった)ポー

菫(残ったのは、私たち社会人チーム)ポー


久「ちょっと大丈夫? 酔いすぎよ、もう…」アセアセ

怜「今日はみんな可愛いし、妥協の必要もなしやんなー」

怜「とりあえず、淡ちゃんは菫指名やろ」

菫「え?」ポー

久「ねー、あそこまで露骨な子も珍しいわよね?」

怜「どう見ても初めから狙われてとったやん」

怜「淡ちゃん、ほとんど菫にしか話し掛けてへんかったし」

怜「それにしても……」チラッ

菫「…ん…」グデー

怜「そんなに飲まされて、情けな…」ヤレヤレ


久「いいじゃない別に。楽しければ。ねー、菫~?」ムギュー

菫「…ん…んんっ…」ハァハァ

久「あ、暑いの…? ごめんね、もうちょっとで淡ちゃんに、服脱げる場所に連れて行って貰えるからね?」ナデナデ

菫「ん……」

久「うふ……よしよし…」ナデナデ

怜「ま、これだけ飲めば、そら潰れるわな」

久「ほろ酔い程度がちょうどいいんだけど。……菫はもう半分寝てるし」

菫「zzz…」

怜「なー。ここからが本番なんやけど」

久「ま、いっか」

久「私達は私達で、今夜は楽しみましょ♪」ジュルリ


繁華街。外。


菫「…ん…」ポー

ギュ

菫「……ん…?」ビクッ

淡「うえぇぇぇ……気持ちわる~い……」グデー

菫「えっ!?」

菫「だ、大丈夫か!?」

淡「んー……」ポケー…

淡「あはっ……スミレだぁ?」ポスッ

菫「……っ!!」

淡「酔っちゃったよぉー」ムギュー

菫「!」

淡「んふふ…///」ポー

菫「…………」


菫(ああ………なんだ、やばい。照以来こんな気持ち――)

菫(したい、凄くしたい)

菫(この娘と―――)


ホテル。


カシャ パシャ

淡「んふ……うふふ♪」

淡「はぁい、顔寄せてぇ~♪」

淡「はい、チー…………ちゅ」

チュッ

淡「はぁい、唇献上~、証拠OK~♪」

パシャ


菫「zzz」

淡「にへへ……寝顔キレ~」ニマニマ

淡「スミレ、ちょー美人じゃん?」ギュー

淡「…………」ジィ

菫「zzz」

淡「まさか、部屋入ってすぐ寝ちゃうなんて……」ボソッ

淡「ウーロン茶飲み過ぎて……お腹いっぱい…」

淡「ん……まぁいいやぁ~」

淡「私、も……眠……」

淡「…zzz」


チュンチュン


「―――て、―――ってば」

ゆさゆさ

菫「んっ……」

「スミレ、スミレ、起きて起きてッ!」

菫(……あれ?)

菫「……んぅ?」

淡「なに『んぅ』って?」

淡「寝ぼけたー、かわい~♪」キャハッ

菫「…………」

菫「………」

菫「―――っ!?!?」ガバッ

淡「わぁ~お、俊敏~~♪」

淡「ほら、急いで急いで! もう出る時間だよー?」

菫(えっ、何!? 誰!?)


菫「ん……?」

菫(今日初めて目に留まった、ベッドの傍に設置された小さな箱)


箱『スキン(無料)はコンビニBOXに入っております。』


菫「…………ッ!?!?」ガーン!!

淡「ん~~っ!! よ~し、準備かんりょ~!」

淡「あれ? スミレまだ裸んぼーなの? 着替えて、着替えて~!」

菫「はだ……って、やっ、きゃあ!!」全裸

淡「もう~、今更隠すことないじゃんー」

淡「ほらほら、はーやくー♪」


菫「な、なんなの……。朝から何なんだ一体……」ボサボサ


菫「…………」コソコソ

淡「何キョロキョロしてんのー。スミレ、ちょー挙動不審~」

淡「なんかもう、見るからに不審っていうかー、もろ犯罪者って感じ~?」キャハハ

菫「おいお前、マジで黙れ」


菫「っていうか、すまん。もうちょっと離れて歩こうか」

淡「え? なんで?」

菫「なんでって…」

淡「あ、駅着いた!」

菫「へ? あ、ああ、そうだな…」

淡「じゃ、またご飯食べ行こーね」

菫「え? ああ、うん」

菫「そうだな、またご飯…………え?」


淡「昨日アドレス交換したんだし、連絡してね!」

菫「……え?」

淡「じゃねー!!」フリフリ~

菫「…………」

菫(全然、何も覚えてなんだが……)

菫「…………」ゴソゴソ

菫「……頼む、ウソであってくれ…」ピピッ




あわい
080-538x-xxxx
awawa.1215@xxxx.ne.jp


菫「あ、あはは…………」ガタガタ

菫(…………や、やばいぞ…)プルプル


オフィス。


照「ふぅ……」

怜「ん? どないしたん、照?」

照「うん……来週の商談に向けた資料を作って、上司に送ったとこ」

怜「お疲れさん」

照「いえいえ」

久「んー……っかしーわねー」キョロキョロ

照「あれ……久? どうかした?」

久「え? あ、ああ……菫がさ、普段ならもう出社してるはずなのに、まだ来てないから心配で…」

照「……菫が?」

久「あぁ……やっぱりマズかったのかしら…」ブツブツ

百合物ならそうと注意書きして欲しいな


菫「………………おはよう、ございます……」レイプメ

久「!? ちょっと、目が死んでるわよ!?」

照「…? なに、この陰気な人…」

怜「菫、さては昨日上手くいかなかったんやなぁ~?」

菫「!? んなっ…バカ!!」

久「あっはは…!えっ、あ、なになに!? 図星なのっ!?」パァアア

菫「ち、な、なんでそんな嬉しそうなんだ! そんな訳ないだろう!」

照「え、なに…? なんなの?」

怜「あんな――」

菫(くっ、よりによって照の前で――!)

菫「おい待て、園城寺!」

怜「JDとコンパで、ええ感じやってんな~?」ニヤニヤ

菫「あ、あぁぁぁ……」ガクッ

菫「…………」チラッ


照「…………(汚物を見る目)」ドンビキ

菫「!」ガーン!?

>>26
遅まきながら
すみません、男子は出ないです


照「あ、いや……確かにちょっと引きましたけれども、でも一度は行ってはみたい所ですよね、ハイ」ヒキッ


怜(照が雑談中に菫に敬語使うの、初めて聞いたわ…)

久(うわぁ、見事な棒読み……これは辛いわねぇ)


菫「うっ、ううぅ…」

照「………」

照「ねぇ、それってヤリ目コンパだったの?」

菫「!? ち、違うぞっ! そんな訳ないだろっ!?」

怜「なに格好付けとんねん。一緒に働き始めてもう二年経つのに、恋人の影もないんやから溜まってんねやろ?」

久「自然の摂理だもの。そりゃもうビンビンよね~」フフフッ

菫(こ、こいつら~~ッ)イラッ

怜「また、今度は普通の飲み会しよな~?」ポンポン

久・怜「あはははは~~っ!」



照「ふーん」シラー

菫「あっ……」

菫「…………」シュン



オフィス。夜。



菫(オフィスにはいつの間にか、私と照しか残っていなかった)

菫(照のデスクに、コーヒーを持っていく)



菫「はい、お疲れ」コトッ

照「あ、ありがとうございます」ニコッ

菫「…………」


菫(こんな見事な営業スマイル…………されたの、ほんと何年振りだろう…)

菫(照は……怒っているのだろうか…?)

菫(だとしたら、何に…?)




照「……なんですか?」カチカチッ

菫(こいつ……視線も合わせずに)ズキッ


菫「コーヒー、冷めるぞ」

照「そうですね。ではいただきます」ズズッ

照「ふぅ…」フニャ

菫(照の、温かいものを飲んだ時の安心したような表情に、思わず気持ちが溢れた……)


菫「っ…あの……だな」

菫「……朝の、あの……コンパの話は……違うんだよ」

照「はい……?」


照「……とっくの昔に別れた女になに言い訳してるの?」


菫「……あ、やっぱ引いてるよな?」

照「ドン引きしてますけど?」

菫(……やばい、早くも心が折れそう)


照「菫には高校からお世話になってて……」

照「正直、イイところも悪いところも……もう知り尽くしてると思ってた」


照「これで全部だって、そう思ってた」


照「……でも違ったんだね」アハハ

菫「照……?」

菫(まさかコイツ……嫉妬してる?)


照「もういっぱい菫には引いてきたけど、でも今日」

照「――ああ、アナタもついにそこまで行ったかーって感じです……ハイ」ハァ

菫「ぐは……っ!!」


照「まぁでも、菫の人生だから。私は応援してる」ニコッ

照「10代いいよねー。うんうん、わかるよ? お肌とか全然違うもんね」ニコニコ

照「大丈夫。私自身が身に染みて感じてるから」ニコニコ

照「でも気を付けてね」

照「逮捕されないようにっ!」フンッ

菫「逮捕……っ!」グサッ


菫「いや、待て! 大学生は18歳以上なんだから、別に私が逮捕される謂れはないだろ!!」

菫「そもそも!私は別に女子大生に興味はない……!」

菫「照と別れてから、もう8年!」

菫「あれから全くそういうことして無いから!!」

菫「本当に!!」

照「まだ6年と8か月だけど」

菫「え?」

照「え、あっ…………」

照「…………いや、別に。何でもない……けど」


照「だいたい、何なのその……やってない宣言」クスッ

照「ほんとにもう…」フフッ

照「そういうとこ……ドン引きだって…」クスクス


菫「あ……」ハッ

菫(照が、笑っていた……)

菫(いつの間にか、あの営業スマイルは消えていて)

菫(敬語も外れている……)


菫「ふふっ」

菫(つられて……私も笑っていた)


照「…………でも」

菫「ん?」

照「菫ってね、不安な要素とかあるとやたら饒舌になる癖があるの」

菫「え……」

照「知らなかったでしょ?」

菫「………」

菫(不安な要素?……なんて……)ガクブル



淡『スミレ~♪』ニパー



菫「……」ダラダラ

菫「」チーン


照「高三のインターハイでは、結局菫の麻雀の癖を見つけられなかったけど……」

照「菫すら知らない、菫の癖その1。でした~」

照「私だけ知ってる…………みたいな? なんてね…」カァアア


菫「」


照「コーヒーありがとう。嬉しかったよ」

照「高校の頃みたいで、ちょっとドキッとした」


菫「」


照「…………」ソワソワ



照「…………あの、もし良かったら、この後……」モジモジ

照「ご飯にでも、……い、いかない?」ウワメヅカイ


菫「」


照「……」モジモジ


菫「」


照「……?」キョトン


菫「」


照「……あっそ、じゃあね」プイッ


菫「」


照(……なにも、無視しなくたって)シュン


弘世家。


菫(そんな、そんなそんなそんな――)

菫(文武両道、清廉潔白、質実剛健)

菫(そんな私が――!!)バッ

菫(第二次処女期と言っても差し支えないほどのこの私が……)

菫(たかが女子大生なんかに……!!)ギリッ



淡『スミレ~?』ポワポワ

淡『可愛い~?』フワフワ

淡『酔っちゃったぁー?』ウルウル



菫「…………。」

菫(…………)

菫(私はいったいどこまでしたんだ?)

菫(だが、事後っぽい雰囲気ではなかった……いやでも、随分してなかったし…)

菫(……したのか? 途中? どこまで?)

菫(え、何が?)




ヴー…ヴー…

菫「……ん? メール……………っ!?」


From:あわい
ごはんいつ行く?


菫「あ、わわ……あわわわわわわ………っ」

菫「…………」

菫「む、無視だ……無視、無視」

菫「テレビだ……そうだ、テレビでも点けよう」


ピッ



ニュース『――は未成年と知りながら、猥褻な行為をした疑いがあり、警察は事情を調べています――』

菫「」

ニュース『容疑者と加害者はインターネットを通じて知り合ったとみて、……』

菫「だ、だから!! 相手大学生なんだから淫行条例に引っ掛からないって言ってんだろ!!」

バンッ、バンッ


菫「はぁ、はぁ、はぁ……く、くそっ!」

菫「もはや、逃れられぬというのか……!!」



一週間後。

白糸台高校、大学。正門。


菫「」

照「懐かしい~。久しぶりだね、この校門も」

菫「」

照「白糸台高校が周囲の土地を買い取って、拡張した敷地内に大学も併設したって話を聞いた時は驚いたけど」

照「でも結構立派みたいで、卒業生としてはちょっと誇らしいかも」

照「私の従妹も白糸台高校に通ってるの、来年はこの大学に進学するんだってー」

菫「」

照「知らなかったでしょ?」フフッ


菫(今の私に、女子高生、女子大生の居る場所は鬼門――)

菫(だというのに、どちらも存在する敷地内に訪れることになるなんて……)

照「………」

菫「」


照「……」

照「……良かったね、菫の大好きな女子大生の巣窟で仕事できて」アハハ

菫「ちょっと! 本気でやめろよっ!!」ビクッ

照「……フンッ」

照(私の話には耳も傾けてくれないくせに、女子大生って言葉には反応するのね)



照「じゃあ私、ちょっと事務室に行ってくるね」

菫「ああ、頼む」

菫(下手に移動して、あの娘に遭遇しても困る)

菫(いや、この学校と決まったわけではないが、用心するに越したことはない)

菫「…………」


「もってるー?」

「もってるよー」

「なげるよー」

ギャハハハ

「まってまってまって~」

パタパタパタ

「せーのっ」

「ちょーーーっ」

キャハハハ



菫「!……痛っ」ポスン

菫「?」

私の頭に何かが当たり、廊下に落ちた。

菫「これは……」


□←ナプキン


菫「…………っ!?」

菫(ナプキン……だと?)ビクッ

菫(なぜ、廊下に立っていてナプキンが飛んでくるんだ……風紀が乱れすぎだ…)


「あ――っ!!」

「ちょ、ちょっと淡っ、どこ投げてんのよー!」

「あのぉ~…す、すみませぇ~ん」


菫「……君、こういう物で遊ぶのは関心しないな」

菫「君も白糸台高校の生徒なら、その誇りをもって――」


パタパタパタパタッ

「ちゃんとうけとれー」

ギャハハハハハハハッ


菫「…………」

菫「……廊下を走るなど、言語道断――!」

菫「こう見えて、私は体育会系なんだ」

菫「教育してや―――うぇッ!?」

淡(制服着用)「あ…」

菫「……あ…あぁ……」ガタガタ

淡(制服着用)「………」

菫「………」

菫(……女子大生だと思っていた子が、女子高生でした)

菫(うっ……胃が……)キリキリ


淡「なんでメール返してくれないの?」

淡「……てか、なんでいるの? うちの学校…」

淡「もしかしてスミレ、ストーカー?」

菫「仕事だ、仕事。人聞きの悪いこと言うんじゃない…」

淡「えー、何の仕事ー?」

菫(いや、ここで会話してたら照に見られる……早く切り上げないと)


菫「ここだと人来るから、また今度な」

淡「ぶー! 何の仕事かくらい教えてくれたっていいじゃん!」

淡「どうせまた無視する気でしょ~!?」

淡「そういうのマジムカつくんですけど!」


菫「……………麻雀関係だよ……」

淡「えっ、まーじゃん…!?」

菫「そうだよ。この学校は麻雀部が強いだろう?」

淡「うんっ! 麻雀部ちょー強いよ!」

菫「ああ、そうだな」

菫(知ってる、だって私OGだし)

淡「だって今、私がエースだもん!」

菫「……へ?」


淡「高校100年生の私が率いる白糸台が、日本一なの!」

淡「スミレよく分かってんじゃん!」ダキッ

淡「さすが私のスミレ~♪」スリスリ

菫「ははは、離れてくれ……」グイッ

淡「でも、スミレも麻雀やってたんだ~」スリスリ

淡「なんか~、運命~って感じしなぁ~い?」ムギュ

菫(う、運命……だと?)ガクブル


菫「し、しないっ」

菫「ほら、仕事についてはもう答えただろ」

菫「もう行け、しっしっ!」


淡「……」ムスッ

淡「……っ!」ピピッ

淡「んっ!」グイッ


菫(淡ちゃんは突然私にスマホを見せてきた)


菫「おい、いったいなん……………………え?」


菫(見せられたスマホ画面には、私と淡ちゃんが裸でベッドで寝てるツーショット)


菫「え………」アゼン

淡「んふふ~♪」パッ

菫「ぁ………えっ」




―――――――――


照「菫~? あれ、トイレかな……?」

照「菫ー?」


菫「!! しまった!」

菫「淡ちゃん…えっと。あーまぁ、アレだ、うん」

菫「麻雀、応援している! じゃあな!」タタタッ

淡「あっ、ちょ、ちょっと~っ!?」

淡「……っ」ムスーッ



淡「~~っ!」ムカムカ

淡(ムカつく! 私、可愛いのに!)

淡(無視されたことなんて、一度もないんだから!)

淡「……」ピッピッ

淡「………送信、っと」

淡「………はぁ…っ」

淡「………早く返信、こないかなぁ…」ウズウズ


菫「はぁ、はぁ……照…」ゼェゼェ

照「もう、菫……どこ行ってたの? 心配したんだからね…?」

菫「照……」キュン


照「ほんとの……ほんとうに……」

照「菫が迷子になったのかと思ったじゃない…」ウルウル

菫「いや、お前にその心配をされる筋合いはない」キッパリ


ヴー…ヴー…


菫「ん?」

ピッピッ


From:あわい
ヤリ逃げいくないっ


菫「」胃が破裂したような顔

照「!? 菫、どうしたの?」

菫「……なぁ照……、私はいま、どんな顔をしている」

照「うん……なんか、顔色ヤバイよ? ねぇ、ほんと大丈夫?」

菫「……大丈夫だ、商談に向かうぞ…」フラフラ…

照「えっ……あ、うん…」テクテク


監督「宮永さん、弘世さん、お久しぶりですね」

照「はい。ご無沙汰してます、監督」

菫「お元気そうで何よりです、先生」


監督「宮永さん」

照「はい…?」

監督「……高三の夏に、突然プロでなく進学を目指したいと相談された時は驚きましたけど…」

監督「ですが、あなたがこの道を選んだのは、間違いでなかったようですね…」

監督「今のあなたを見てそう思えました。私は、とても嬉しく思っていますよ」

照「はい。ありがとうございます、監督」

監督「お仕事、ちゃんと頑張っているのね」ナデナデ

照「……」ホクホク


菫(……あ、照が喜んでる)


監督「弘世さん」

菫「はい」

監督「あなたは、真面目過ぎるところがあるから心配していたのだけど」

監督「不安が的中しているみたいですね……なんだか顔色が悪いわ…」

菫「はい……すみません…、いやもうほんと、最近ちょっとありまして……」ビクビク

監督「たまには羽を伸ばして、もっと気楽に、色んなものに触れてみなさい」

菫(すみません先生……色んなものに触れすぎて、あなたの教え子は法にまで触れてしまったようです)


監督「人間で言う羽は何かしら……。手? 足?」

照「……私は、お風呂で脚を伸ばして浸かるのがゆったりしてて好きです」

監督「あら偶然……私もよ? じゃあ私たちにとっての羽は、きっと脚なのね」

照「はい」

監督「うふふ」

照「……」ホクホク

菫(この二人、高校の頃から仲良かったんだよなぁ……)


監督「それにしても、まさか教え子と仕事の話をする日が来るなんて…」

監督「感慨深いわ~、私も歳をとったのね…」

照「やだもー先生~、まだまだお若いですよ~」

照「私達は高校を卒業したのだって、まだたったの7年前なんですから~」

監督「あらやだ私ったら、そうよねぇ。まだまだこれからよね~」

照「そうですよー、もう~お願いしますよー?」

照「あはははは」

監督「おほほほほほ」

菫「………」


菫(相手を擁護しながら、同時にしっかり自分のメンタルも死守)

菫(最近、すっかりこういう会話が板についてきた照であった)

菫(外回りの仕事の賜物……?)

菫(それともこれが、所帯染みてくるって奴なのか?)


夕方。


照「先生、元気そうで良かったね」

菫「そうだな」

照「先生見るとお菓子食べたくなっちゃった、帰りコンビニちょっと寄ってこ?」

菫「お前、失礼すぎるぞ…」

照「だってぇ~、お菓子食べるようになったの…」


菫(それにしても、まさか白糸台に来て淡ちゃんに遭遇するなんて…)

菫(しかも淡ちゃん、高校生だったとは…)ズキズキ


照「でね~? 先生ったら―――」


菫(それに、なんだあの写メは……いつ撮ったんだ?)

菫(いや、何時っていっても、あの日しかないんだけど……)

菫(あー、なんか最近淡ちゃんに振り回されっぱなしだ)


照「菫……、菫~?」

菫「………」ブツブツ

照「………」ムスッ

照「………女子大生…」ボソッ

菫「」ブツブツ

照「…女子高生…」ボソッ

菫「っ!?」

照「むぅ……」ジィ

菫「ん? なんだ…?」

照「菫……、私の話聞いてた?」

菫「え? あ、いや…」

照「ふーん?」ジトー


照「何なのいきなり……女子大生だの、女子高生だの…」

菫「っ……おえっ」

照「えっ…ちょっと、今吐かなかった? やだもー」

ピトッ

菫「!」

照「んー……、熱はなさそう?」

菫(照は私の顔に手を伸ばし、額に手を当ててきた)

菫「……すまん、風邪かもな」

菫(照、お前は今ゲスに触ったんだぞ。ちゃんと手は洗ってくれ)


ヴー…ヴー…


菫「!」

菫「………っ」ビクビク

ピッピッ


From あわい
今日7時、ハチコー前しゅーごー!


菫「―――っ!?!?」魂が干乾びた顔

照「ちょっと! 死人面が悪化してるって!!」

菫「……っ!!」

菫(……おい待て…)

菫(ハチ公前って、超絶人込みスポットじゃないか…!!)



To : あわい
渋谷は勘弁してくれないか。



From : あわい
だめ


菫「あ、ああ……嘘だろ…っ」

照「菫…? どしたの、やっぱ体調悪い? 家まで送って――」

菫「すまん、照。急用ができた」

照「ええっ、ちょっと!?」



ハチ公前。


淡「………」キラキラ

「ちらっ」
「……」ジィ


菫(待ち合わせ場所に着いたはいいが……)

菫(淡ちゃん、可愛いからか、注目浴びすぎ……)


菫(マスク、伊達メガネ着用)「お、お待たせ」

淡「!……へっ?」キョトン

菫「………」

淡「――――……っ!!」( ゚д゚)ハッ!

淡「えっ! あっ、もしかしてスミレ~!?」パァアア

淡「キャハハハハッ」

淡「何それぇ~、ちょー面白~い!」ダキッ

菫「誰が見てるかわからないだろ」パシッ

淡「あ……っ」シュン


淡「………っ」プルプル

淡「な、なんで…? 嬉しくない?」

淡「周りから、可愛い彼女連れてるって思われるよ?」ギュム

菫「……結構な自信だな…」

淡「客観論っ!!」

淡「こんなの……おかしいよ…」プルプル…

淡「スミレが……」

淡「スミレがおかしいんだから!!」

菫「………」

淡「~~~っ!!」ウルッ

淡「無視しないで……っ!!!」ダキッ

菫「ひゃっ…!?」

淡「………」ギュー

菫「………」

淡「………っ 」ムギューッ!!

菫「………」

淡「何でぇ―――!?」ガーン

菫「はっ?」


淡「何でぎゅってしてこないわけぇっ!?」

淡「普通するでしょ! 私がぎゅってしたら、ぎゅぎゅ~って!! 返すでしょっ!?」

淡「じょーしきじゃん!」

菫(Hold on tightな状況において、淡ちゃんを抱き返すのは常識だったらしい)


菫「………」

菫「淡ちゃん、いったい何が目的なんだ?」

淡「え?」

菫「年上といっても、私は別に特別お金を持っているわけでもない」

菫「私は正直なところ、君の意図を図りかねている」

淡「……っ」ウルウル

淡「……っ!!」グイッ

菫「っ!?」グラッ

淡「っ…」

チュッ


菫「!?」

淡「私に触れたいと思わないの!?」

淡「スミレって、もしかして処女?」

淡「それとも男の方がいい?」

菫「え、ええっ!?」

淡「信じらんないっ! 私のこと好きにならないなんて!」グスッ

菫「……可愛いな、君は」フッ

淡「え!?」

淡「えっ、今何て?今何て言ったの!? もっかい言って!!」

淡「ねーぇ、ねーぇってばぁ~!! スミレ~♪」

菫「ふふふ……」

淡「え、えへ……えへへ」


菫「………なぁ、私達は、本当にしたのか?」

淡「っ!?」ギクッ

淡「あ、当たり前じゃん!」

淡「何で? 証拠だってホラ!」ビシッ


菫(確かに証拠写真はある)

菫(だが泥酔した状態でできるとは思えない…)

菫(それに……)


菫「なぁ、私はどんなエッチをした?」

淡「えっ!?」ビクッ

淡「ど、どんなって……色々だよ、色々!!」アワアワ

菫「色々とは……。例えば?」

淡「うぅ……は、菫が激しすぎて、よく覚えてない……けど…っ」アセアセ

菫「さっき、私に『処女なの?』って聞かなかったっけ?」

菫「それなのに色々…?」

淡「うっ…」ギクリッ


菫「私は……」

淡「う、うるさい! うるさいうるさ~い!!」

菫「淡ちゃん」

淡「もううるさいったら!」ブンブンッ

淡「何なの? もうっ、ほんと調子狂う!」

淡「私、これでも結構モテるのに!」

淡「せっかくイイなって人見つけて!」

淡「なのに、なんで落ちてくれないの!」グスッ


淡「勇気出してホテル入ったのに、スミレ一人で寝ちゃうしさぁ~!」

淡「すんっ、スミレ……ひどいよぉ~…」グスッ

菫「……期待を裏切ってしまったのは、謝ろう」

菫「ところで、私は君に手を出してはいない。」

菫「確かに、言質は取ったぞ?」


淡「! なによもうー!」ウガー

淡「もういい! スミレなんて大っ嫌いッ!」

菫「そうか」

淡「帰る! 私、もう帰るから!」

菫「そう」

淡「っ……わ、私…本当に帰っちゃうからね!?」

菫「わかった」

淡「っ~~!」ウルルッ


菫(淡ちゃんはその場でしゃがみ込んで、終いには泣き出してしまった)

菫「……はぁっ」

淡「うっ……えっぐ…」グスグスッ

菫「……」


ダキッ


淡「っ………え?」キョトン

菫「……落ち着くまで、こうしといてやる」

淡「っ……うんっ!」ムギュー!


菫「!」ピコーン!

菫「……そうだ、スマホも持っといてやろう」

菫「なに、君が泣くのに、私の胸以外は必要ないだろ?」キリッ

淡「」キュン

淡「う、うん……♪」

淡「じゃあコレ、持ってて?」

菫「ああ、任せろ」


ピッピッピッピッピ

菫(淡ちゃんのスマホを受け取った瞬間)

菫(私は淡ちゃんのスマホ内の、私とのツーショット写真を削除してやった)

菫(ククク……、計画通り……)ニヤッ


淡「ん? 何やって…………って、ああっ!?」

淡「うそっ、あの画像消したー!」ガーン!

淡「さいてー! スミレ、本当に最低!」バシバシッ

淡「他人のスマホ勝手に弄るとか、まじプライバシーの侵害なんですけどー!」

菫「何とでも言え」フフン

菫「……ああ、そうだ」

菫「そういえば、この近くにパフェの美味しい喫茶店があるんだ」

菫「今日の私は大変に気分がいいからな、奢ってやろう」ハハハッ

淡「はぁ!? そんなんで釣られるほど、わたし子供じゃないし!」

淡「オトナってほんと、まじズっこい!」

菫「褒め言葉だ」キッパリ


喫茶店。


「デラックスジャンボパフェでございます」

淡「わぁ…! スゴ~ッ!」キラキラ

淡「写メっていい?」

菫「ああ」

淡「えへへ~」

パシャ パシャッ


淡「あ、スミレも写真映ろ!」

菫(テーブル越しに顔を寄せてくる)

菫「えっ」

淡「はい、チーズ!」

パシャ

淡「はいOK~、ありがと~!」


淡「デートなう? っと!」ピピピッ


菫(3000円のパフェ……5日分の昼食代が飛んだ…)

菫(だが、心の平穏を三千円で買ったと思えば、安い買い物だった)フゥ


淡「……でさ、これ何?」

菫「ん? 何って、パフェだが?」

淡「見ればわかるし! そうじゃなくて、なんで頼んだのって聞いてんの!」

菫「いや、淡ちゃん用だが」

淡「なんで? 私別に頼んでないけど」

菫「いや、勝手にスマホを弄ったことにご立腹のようだったから、パフェでも奢ってやろうと思ってな」

淡「なにそれ意味わかんない」

淡(うぅ…菫との初めてに備えて、頑張って減量してたのに…)

淡(いじめだ、これ絶対いじめだ…)


淡「せ、せめてっ、スミレも一緒に食べよっ? ね?」ウワメヅカイ

菫「嫌だ」

淡「なんでよ!」ウガー!!

菫「私に気を遣う必要はない。遠慮せんと、存分におあがりやす」

淡「なんで京都弁! ていうか、私の顔よりも高さのあるパフェなんて、食べ切れるわけないじゃん!」

菫「またまた~」ハハハッ

菫「大丈夫だよ、食べ終わるまで一緒にいてあげるから」

菫(照ならこれくらい、ペロリと食べてしまうのに)

菫(謙遜して私にも食べさせてくれようとするなんて、優しい子だなぁ~)フフッ

淡(今私のこと見て笑った……これ、絶対仕返しじゃん!!)プルプル…


翌日。オフィス。


菫「なぁ照、白糸台高校には次いつ行くんだ?」ウキウキ

菫「私はもういつだって構わないぞ!」ルンルン

照「……なに、いきなり?」

照「行きたいの?」

菫「そうじゃない。だが、行ける!」

菫「心置きなく! いつだってな!」ババーンッ

怜「なんやあいつ……」ジトー

久「さぁ? こないだ訪問して、可愛い娘でも見つけたんでしょ」クスクス


照「うーん……よくわからないけど。ごめんね、まだ日程とか決めてないんだ…」

菫「そうか、そうか」

菫「お騒がせして悪かったな、昨日から大変に気分が良いんだ!」

菫「あーっはっはっはっはっはっはっ!」

照(この人やばい……何か壊れてるんだけど…)タラリ

菫「あははは…………ふぅ」クラッ

菫「」バタン

照「っ!? ちょっと菫!?」ビクッ


弘世家。


菫(……気づけば、自宅の天井…)

菫(私……いったい何が……)ボー…


照「あ、起きた?」フワッ

菫「………照…?」

照「覚えてる? 昼間、オフィスで倒れたの」

照「医務室の先生がね、過労だろうって言ってた」

菫「そうか……」

菫(部屋に、エプロンをつけた照がいた)ポー…


照「……でも大丈夫」

照「食事制限とかはないから、冷蔵庫に入ってた梅干しとか漬物もちゃんと食べられるよ」

照「それにほら……菫、今日はお昼も食べてないし…」

照「これ以上、体調を壊しちゃ大変でしょ?」

照「だから……その……」

菫(照……こんな私のこと、そんなに心配してくれて)

菫「…ありがとうな、照」ニコッ

照「!……ううん、別に」


照「ふふ、それにしても、今日の菫ちょっとおかしかった」

菫「そうだったか?」

照「そう。だって、やたらハイテンションだし」フフッ

菫「ああ……」

照「なんかイイ事あったんでしょ? ね、昨日何かあったの?」

菫「何もないよ」

照「うそ、だってあんなに嬉しそうな菫なんて、凄いレアだもん」

照「絶対何かあった」

菫「ないって」

照「あった」

菫「ない」

照「……もう、菫ったら、相変わらず口堅いんだから」クスクス

菫「………」ポー


菫(照と二人の時間が好き……あの頃から)

菫(ワイシャツにエプロンを着ただけの照を前に、いま凄くドキドキしている)

菫(昨日、あんなに着飾っていた淡ちゃん相手には、そんな気持ちにならなかったのに)

菫(高校の時から、照を性的な目で見ていた)

菫(高校時代、何度も肌を重ねた……もう数えきれないほど)

菫(でも今、高校生の淡ちゃんに迫られても、何かしたいとは思わない)

菫(これは……高校生に興奮しないように、私が変わったから?)

菫(それとも、相手が照だから……?)

菫(確かなことは、すぐ近くに照を感じて、私は……)


菫「……」ギュッ


照「っ……菫…?」ビクッ

菫「………私、女子高生相手じゃ全然濡れなかった…」ボソッ

照「っ…ぷっ、何それ…」クスッ


菫「……」ジィ

照「ん……」

チュ


菫「…っ」

照「ぅ………っ///」カァア

菫「………」

照「……///」ギュッ

菫「…………て、照……」

照「っ……な、なに…?」ビクッ




菫「照……、私は、照を、もう一度……」


菫「今からお前を……」




……トサッ

照「あ……////」




菫「……レコンキスタ、する」


※ちなみにここでは

「レコンキスタ = 再征服」 と訳します


深夜。


照(気づけばもう終電間近)

照(菫に抱かれて、離れるのはとても名残惜しかったけど)

照(でも明日も仕事があるのに、さすがに泊りはマズイ)


 リーン サンカイデス

照「んっ……はぁっ、はぁ…っ」

照(電車に乗って、駅からマンションまで歩いたのに……)

照(なのにまだ、体が熱を手放してくれない…)ポッ


照「足腰も、もうガクガクだし……」ガクガク

照「もー……ほんと、菫のバカ……っ///」

照「はぁっ……ふぅ……ふぅ……んっ」


ガチャ

照「……、…………――っ!?」


照(一人暮らしをしているマンションの自室に入ると、誰かが居る気配)

照(だ、誰……っ?)


照「……っ」ソロリ、ソロリ


照(廊下を抜けて、その先の半開きになっているドアの隙間)

照(そこから、真っ暗なリビングを覗く)ジィー

照(すると――)


照「っ……!」


照(そこには、液晶テレビに僅かに照らされる、金髪ロングの後ろ姿があった――)


照「」ホッ



照「淡~~~っ、もう脅かさないでよ~~~」

照「うちに来る時はちゃんと連絡してって言ったでしょ~~」

照「親しき仲にも礼儀あり!」

淡「………」ボー


照「てゆーか、ほんと、テレビ見るならせめて電気くらい点けてよ……」

照「真っ暗な中で誰か居る気配ってすっごく怖いんだからね」

淡「んー………」ボー


照(淡はクッションを抱き締めながら、ぼーっとただテレビを眺めてる)

照(そんな従妹の背中はなんだか哀愁漂ってて、少し寂しそうだった)


照「………ふふ」

照(後ろ髪をゴムで纏めながら聞いてみる)

照「淡、ご飯は? 何か食べる?」

淡「………」

照(淡はかく、とクッションに顔を埋めた)


淡「……ねぇ、テルー……」

照「ん? どーしたの?」

淡「私……………好きな人できた…」

照「へー、いつもは告白された話ばかりなのに、珍しいね?」


淡「うん…………スミレっていうの」


ピタ


照「すみれ……さん?」

淡「うん……」ギュー…

照「すみれ……」

照(……学校の人なのかな?)

照(さすが従妹………好きになる人の名前まで一緒なんだ……私達って)フフッ


照「そっか、頑張ってるんだね」

淡「うん……」ギューッ

照「そっかそっか」

淡「あ、テルー……」

照「ん?」

淡「おなか、ちょっとすいた……かも」

照「♪ はいはい、ちょっと待ってて」

淡「……ん」


照「あ、そうだ淡……いいこと教えてあげる」

淡「? なにー?」

照「実はね、私の好きな人の名前も、菫って名前なんだー」

淡「ええー! なにその偶然~!」

照「ふふ、本当にね」

照「私たち、一緒だね♪」

淡「!……うんっ」

照「名前だけじゃなくて、もし一緒の人だったらどうしようか?」

淡「ええー……テルー、さすがにそれは欲張り。というか困る……」

照「あはは…まぁ有り得ないから言ったんだけど」

淡「ねえねえ、菫さんってどんな人!」

照「えー、教えなーい」

淡「ええ~!!」


照(いつになく幸せな気分のまま、可愛い淡との夜が更けていく)



照「zzz…」





淡「………」チラッ


スマホ『』


淡「……っ」ウルッ

淡(返信くらい、くれたっていいじゃん……っ)グスッ、ギューッ!



菫(高二の夏、最後の日…)


菫(……私は、宮永照に告白をした……)





菫(最初は……ずっと友達だと思っていた)

菫(一生モノの友達ができたと思ってた……)

?

菫(でも、そんな彼女が初めて個人戦で優勝した日)

菫(……本当は彼女が、手の届かない存在なのだと感じた瞬間―――)

菫(私はコイツの事が好きなんだ……と、初めて気づいた)


?

菫(その年のインターハイ団体戦、個人戦の二冠)


菫(清潔感のある整った顔立ち、愛嬌のある外面)


菫(将来は日本麻雀界を担うだろうなんて言われている、そんなメディアにも引っ張りだこな女子高生)
?


菫(でも普段の彼女は、毎月のお小遣いを全て本とお菓子に注ぎ込む、入学当初から若干変な奴で…)


菫(いまいち地理に疎くて、たまにボヤッとしてて危なっかしくて放っておけない)
?

菫(そんな、普通の高校生だった…)

?


翌日。早朝。


久『じゃあ今日一日しっかり休んで、土日挟んでまた来週、元気に職場復帰して頂戴』

菫「職場復帰って……。私は別に、長期で休んでいる訳じゃ」

久『細かいことは気にしない、気にしない。体に障るわよ~』

菫「……」


久『来週はまた仕事が溜まってそれどころじゃないから、ちゃんと安静にしてなさい』

久『あ、どんなにロリコンの血が騒いでも家にいること』

久『合コンなんか行っちゃダメだからね!』

菫「だ、誰のせいだ誰の…! お前にだけは言われたくない!」

久『ふふっ……元気元気』


久『ともかく、少なくとも今日は外出禁止ね。わかった?』

菫「わかった…」

久『ん……、じゃあまた夜にでも電話掛けてあげるわ』

久『…か、勘違いしないでよねっ。上司としての務めを果たしてるだけで…したくてしてる訳じゃ、ないんだからね!』

菫「……」

久『……』

久『ん、んんっ……ごほんっ』

久『あー……それじゃあ、お大事に』

菫「……ありがとう」


プツッ


菫「……」

菫「……竹井なりの励まし、なのか?」


ガチャ


久「……」ハァ

久「……あーあ、渾身のギャグって、滑ると辛いのよね…」

久「いやあれはさすがにナイか…」

久「でもせめてツッコミ……何か一言欲しいわよね…」

久「…怜なら『ボケには容赦ないのがこの国の文化や!』って言ってくれるのに~」ジタバタ

久「うぅ、うぇっぐ…恥ずかし、もうダメ、飛び込む!」



怜「どこに飛び込む気なん…」フワッ

久「…ぁ、怜…」ビクッ


怜「このオフィスからI can flyは止めてな? 久が着地する前に、うちがショックで死んでまうわ…」

久「怜~…っ」ギュッ

怜「っ……なんやねん、朝から鬱陶しわぁ」ソワッ

怜「叫んだり泣いたり……ほんま見てて疲れんねん」

怜「せめてうちから見えん所でしてぇな」


久「あんたも容赦ないわね……泣いてたら労りなさいよ。唯一無二の仲でしょーが…」グスッ

怜「はぁ……、徹夜明けで、テンションおかしいんと違う?」

久「貫徹なんてしてないって、ちゃんと寝たわよ~」

怜「……はぁ。ほんま、よくやるわ…」


怜「そろそろ有休消化し始めへんと、人事から色々言われるで?」

久「ん、ありがと……怜」

怜「ふん、別に礼なんかいらんわっ」


怜「……お願いやから、体調にだけは気ぃ付けてな」

久「……うんっ」

久「病弱キャラに言われたんじゃ、洒落になってないものね」

久「…わかった、今日は終電前に帰るわ」

怜「それが普通やねんけどなぁ…」



怜「あ、そうや。ほんなら今日はうちで飲まへん?」

久「…あ、コイツ私のこと休ませる気ねーわ」


弘世家。


菫(暇だ……)

菫(今日一日、無理やり有休を消化させられた私は、自室のベッドで横たわっている)

菫(昨日、照と交わったこのベッドで……)

菫「~~っ///」

菫「…はぁ、寝れない。だが寝るくらいしかやることがない」

菫「しかし昼間寝過ぎると、今度は夜に寝られなくなる」

菫「私はいったい、どうすればいいんだ……」



ヴー…ヴー…

菫「…ん?」

ピピッ


From:あわい
おはよーございます!
今日も部活頑張るぞい!☆彡


菫「ぷっ…」クスクス

菫「ぞいって何…」プルプル

菫「ぁ……そっか、白糸台はそろそろLHRの時間だっけ…」

菫「遅刻………は、さすがにしないか…」フム

菫「勉強も忘れるなよっと……」ピピッ

菫「送信………ハッ!?」

菫(…何を、返信しようとしてるんだ…)



菫(あまりに暇すぎて、危うく返信してしまうところだった…)

菫(危ない危ない…)

菫「……無視無視」



淡『無視しないで……っ!!!』ダキッ

淡『っ~~!』ウルッ



菫「……」ズキッ

菫(頭がもやもやする…)


菫(確かに、若い子に迫られて嬉しい気持ちはある――)


菫「……ん?」


菫(いや待って欲しい……。25歳は別に老いてはないだろう)

菫(私はまだ健康的な若い……若いよな。今年で社会人三年目だしまだ若いよな?)

菫(とにかく私はまだまだ健康な若い女なのだ……若手なんだ)

菫(若手という言葉が妙に逃げ腰で妥協した気分になるのは、きっと気のせい……)


菫「……」ハァ


菫(……馬鹿らし…)グッタリ

菫「zzz…」ウトウト


オフィス。昼休み。


怜「……?」ジィー

照「?……な、なに?」キョド

怜「…なーんか今日照、肌が艶々してへん?」

照「へっ!?」ビクッ

久「!」


怜「うちの目は騙せへんで~」ジィ

怜「実は今日、化粧も気合い入っとるやろ~」

照「えっ、ええぇ~~…やだ何言ってるの!?」

照「そんなこと…」チラッ

久「!」

照「……や、やっぱり、分かっちゃう……?///」



怜「そらなぁ。ますます綺麗になってるし」

怜「これはもう、春が来たんと違う?」

久「まだまだ、やっと冬到来ってトコなんだけどねー」

怜「恋人が欲しい季節ってことやん! なぁ?」

照「……///」


怜「んで? 昨日はもしかしてお楽しみやったとか?」

照「っ!?」ガタッ

怜「ほら、昨日菫を自宅まで送ったら、照もそのまま直帰やったやん?」

怜「その帰りに立ち飲み屋でも寄って、肉欲滾る出会いでも…」


久「そぉい!!」バコッ!!


怜「いたっ」

久「こーら、そういうこと聞かないの。照が困ってるでしょ」

照「――い、いいの、久…」

久「…え?」

照「あの……実は昨日ね……」




照(……菫の名前は出さずに、昨日の話をした)

照(言いたい……でも口に出すのは恥ずかしい。だから二人とも察してっ……)



怜「つまり、昨日はその人に、全身ペロペロ綺麗にされてもうた訳やな?」

照「ペロ…!?」

怜「表現がなんか犬っぽいかなぁ~……」

久「犬って……ぷぷっ」クスクス

照「……でも、付き合ったとかじゃなくて、その…」

怜「まぁええんちゃう?」


怜「それで? 相性は良かったん?」

照「相性……///」

照「ぅん……まぁ…///」

久「あら~」

怜「連絡先は? もう交換してあんの?」

照「え? ああ、うん。もうしてる…けど」モジモジ

怜「あー……これは、今年のクリスマス女子会には照は呼べへんな」

怜「幸せにならなかったら許さへんぞ、って捨て台詞付きで破門やわ」



久「そうねー。今年は私と怜の二人きりになりそうね」ニコッ

怜「えっ、何で? 菫に恋人は出来てへんやろ…」

久「…えっ?」

怜「あ、もしかして合コンの時のJDのこと言ってはんの?」

怜「いやぁ、まぁ確かに……でもどやろなぁ~www」

久「え、ちょっと待って怜……今のは……」

久「ひぁっ……!?」ゾクリッ



照「………………」ゴゴゴゴゴゴゴゴ

久「……っ」ビクビクッ

須賀京太郎様に処女膜捧げる弘世菫様の娘8歳で小学一二年生でいそう



照「………」

照「ねぇ、二人の意見が訊きたい」

照「菫が付き合う人って、どういう人だと思う?」

怜「え、どやろ、そうやなぁ……」


怜「わりと天真爛漫で、でもしっかり菫のことを引っ張ってくれる人……とか?」

怜「あぁー……何かそう考えたら、この前の娘はわりとベストなんちゃう?」



照「へぇ……」ゴゴゴゴゴゴゴゴ…


久「はわわわ~っ」

久(ちょっと怜まじ空気読んでっ)アセアセ

菫(…突然、直属の上司(同期入社)から合コンの誘いを受けた)

はい伊藤静さんの自演

声優的に斎賀様の方が先輩で上位

菫「社長見習いだと」

神皇「そうだ我が娘よ」

此処から遣り直せ


久「わ、私は……ちょっと大人しいけどしっかりしてて、菫のことを支えられる人、かな~」

照「!……そ、そう、かな?」テレッ

久「そうそう! たぶん…いやマジ超絶対!」

久「頑張れ!気合いよ!」

照「…う、うん、頑張る…」フンス


怜「お―――」

久「おい怜」

怜「ん?」

久「お前いい加減にせぇよ」

怜「!?」

菫「ひゃっ、ちょっと! どこを触っている!?」

怜ユルサン[ピーーー]


久(結局、今日の昼休みはずっと照の惚気と、菫関係の話だった…)

久(……ていうか、怜も地雷ばっか踏んでないで、さっさと気付きなさいよ……)

久(でも……)



怜「てかさー、菫の部屋ってどんな感じやった? なんか余計なモノ無さそう…」

照「あー、確かに……冷蔵庫の中も整理整頓されてたもん…」

怜「はー。さすがやなぁ…」

照「でもあれは、ほぼ空だったっていうのが正解…?」

照「…あ、一応おかゆ作って置いてきたけど、絶対足りないよね…」

照「……今日も晩御飯、作りに行ってあげようかな…///」


怜「仲ええなぁ…」

照「…まぁ、一応。これでも三年間共に戦った同士でしたから」

怜「ほぅ」

照「……」ホクホク

久「………そ、っかぁ…」


久(…照、上手くいってるんだぁ…)

久「…………」

元主人公頭高過ぎ

さっさと竜華に帰れ

後須賀京太郎様に処女膜捧げる8年後蕾ちゃん娘登場まだ

カップリング厨打ち切りか

運営本部がレーシング娘。と打ち切りダークネス40万人9月30日終わる寂しいデス

京太郎「ペロペロ催眠完全無料版始まったら本気出す」

菫「ダンジョ&プリンセスも終わった」

尭深「ラビリンスバインに似てるゲームチン巫女ゲーも終わった」

照「ハーレムカンパニー艦これに似てるゲームも終わった」

SEIKO「ひつじ×クロニクル男追加シネ白髪神父様のゲームも終わった」

淡「本当に終わった作品は名作バカリでしたね」

運営本部が恋姫夢想でプレイさせてくれない戦車チトちゃんも艦これ化してない

死にたい



白糸台高校。
麻雀部室前、廊下。放課後。


淡「うぅぅ~~……」グデー

淡「うぅ~~~っ」ゴロゴロ


誠子「淡……、淡……」ツンツン

尭深「淡ちゃん、こんな場所で何してるの?」

淡「ふて寝」ガバッ

淡「私いまね!猛烈に溢れ出る感情を必死に押さえてるの!」

誠子「…? そ、そう…」

淡「うん…!」ムフー

尭深「そっかそっかぁ」フフフ

尭深「よしよし……」ナデナデ

淡「わふわふ!」

尭深(それでも、少し滲み出ちゃってたんだね……子猫みたいで可愛い……)ポワポワ


淡「……でね、なんか。私、ほんとダメダメなの…」ショボーン

誠子「……うん。慣れるまでは大変だろうけど、頑張れ淡。この前引継ぎ終わって部長に就任したばかりじゃない」

尭深「今日はちょっと元気ないよね…この前まで凄く楽しそうに部長のお仕事してたのに」

淡「部長の仕事は楽しいよ?…部員達が慕ってくれるのって嬉しいし」

淡「なんか、おっしゃ頑張ろー!ってなる」


淡「……でも別件で。落ち込むっていうか、なんか全然調子出なくて…」

誠子「悩み事?」

淡「うん…」シュン

尭深「……」


尭深「…じゃあ淡ちゃんの部活終わったら、一緒にお茶しに行こっか?」

淡「えっ!」ピクッ

尭深「今日は予備校も休みだし、私も誠子とお茶しに行くところだったの」

尭深「……ね?」チラッ

誠子「!…そうそうっ」コクコク


淡「え……。あ、でも、二人とも引退して受験期だし……家で勉強とか」

誠子「なに、可愛い後輩が悩んでる時に助けてあげる時間くらいはあるよ」

尭深「最近はあんまり部室に顔出せてないし、久しぶりだから…」

尭深「淡ちゃんとお話ししたいなって…」ニコッ

淡「!……うんっ!」パァアア


誠子「さぁ、部活終わるまで待っててあげるから、部室行ってきなさい。可愛い後輩たちが待ってるよ」

淡「同学年もいるってば!!」スタッ


淡「じゃあ私っ、部活行ってくるね!」ニパー

淡「絶対! 気が変わったとかで先帰っちゃダメだからね!」ビシッ

淡「あ、でもその!なんか急ぎの用とかあったら仕方ないけど、でもそれ以外はダメ!」

淡「ほんと!絶対だからね? これ振りじゃないんだから……」プクー

淡「わ、わかった……っ?」ウルッ


誠子「はいはい。わかったわかった」クスクス

尭深「いってらっしゃい淡ちゃん。練習頑張ってね」フリフリ

淡「100年生だもん、とーぜんッ!!」

タタタッ


誠子「……ねぇ、尭深」

尭深「うん? どうかした?」

誠子「……淡さ、留年した設定なのかな…」

尭深「え?」

誠子「いやだって、去年も100年生って言ってたから……なんとなく」

尭深「……」ジトッ

誠子「ははは……」

尭深「……」

尭深「きっと私達がいた時代のアレは、過度の自信の表れ…」

尭深「でも今は、先輩なんだからしっかりしなくちゃって、自分を鼓舞するために言ってるんだと思う…」

誠子「一年の時に淡が準決勝で失点して、2位通過した時……あれがかなり効いたらしいよね」

誠子「ほんと、妙に責任感強く育っちゃってさ…」


尭深「淡ちゃん完璧主義だし……実は真面目な上に、凄く頑張り屋さんだから」

尭深「でも、未だにこんなに甘えん坊な淡ちゃんが、部活ではしっかり先輩してるんだもん」

誠子「ほんとにね。エースで部長で……大変だ」

尭深「でも……息が詰まらないように、適度にガス抜きをしてあげないと」

尭深「私たちの……最後の仕事」

誠子「そうだね…」


誠子「淡は確かに成長してしっかりしたし、強くなった」

誠子「まだまだ子供っぽいけど、でも、根拠のない自信を保つのが難しい程には子供じゃない…」

誠子「でもその反面……凄く寂しがり屋な子だから」

誠子「プレッシャーに押し潰されないように、ちゃんと私達が見ていてあげないと…」

また夜にageで


カフェ。部活後。


淡「後輩の彼氏がね? 菓子パン食べた後いつも唇を親指で拭うんだってー」

淡「で、「それがほんっと格好イイんです!」とか後輩が言ってくるから、皆でその写メを休憩中に見せて貰ったの」

淡「ぷふっ……そしたら佐奈がその写メ見て「なんかハードボイルドっぽい」とか言い始めてまじ笑ったー」

淡「ハードボイルドって何!? そのコメントまじ謎!って。もうほんとウケんの~」キャッキャッ


誠子(……佐奈って誰?)チラッ

尭深(私達が引退後の虎姫メンバー、だったと思う…)

尭深(…たしか淡ちゃんと同じ二年生、たぶん)チラッ


淡「でね、私が「でも菓子パンって時点でハードボイルドじゃなくない?」って言うじゃん」

淡「あーそれなー。って。じゃあまず菓子パン止めるべきだよな、って流れになってさ」

淡「そしたら後輩が慌てて「別にハードボイルド目指してる訳じゃありませんから~!」ってムキになっちゃって」

淡「もうそんな後輩ちゃんが世界一可愛いよ~!……って話なの!」バッ

淡「で~、結局今日はずっとその子の次のデートの髪型考えて、皆で髪弄り合ってたんだ~」キャッキャッ

誠子「麻雀しなさいよ、この麻雀部……」


誠子「でも……へぇ、そうか」

誠子(チーム虎姫特有の、あの休憩時間中の緩い雰囲気は健在なんだな…)

尭深「淡ちゃん頑張ってるんだ、えらいね」ナデナデ

淡「え、……えへっ、えへへ…」

淡「あのね、それから――――」



――――――――――――――



尭深「じゃあまたね」

誠子「じゃあな淡!」

淡「うんっ、セーコもタカミーもじゃあねー!」フリフリ


淡「………」フリフリ

淡「………」ピタ

淡「………帰ろ」ボソッ

淡「……」ピピッ


――新着メッセージはありません――


淡「……」

淡「……今日も返信なし、っと」キュッ

淡「あはっ…」

淡「……っ」ウルッ


淡「っ…あーあ! 晩御飯っ、何食べよっかなー!」

淡「今日の寮のご飯何だっけ~」

淡「た、たまには外食とかしちゃおっかな~!」


シーン…


淡「………」


淡「バカじゃん……なにナイーブになってんの、きも」

淡「こんな…私がしっかりしないでどうすんの…っ」

淡「っ!っ!」パンパンッ

淡「よしっ!気合い入ったっ!」


淡「」

淡「ぁ」ピタ

淡「あれって…」

タタタッ


久「はぁ~……まだ8時じゃん、こんな時間に帰るなんてほんと何ヵ月振り……?」

久「怜に宅飲み誘われてるのよね……。連絡しとくか、いや、いいか…」

久「怜はご飯なに作ってるんだろー……あ、そうだっ、スーパーでお寿司でも買って帰ろっと!」

久「遅くまで頑張った自分へのご褒美よね~。この時間ならそろそろ値引きシール貼られてるかな…」

久「~♪」


淡「――あ、あのぅ!」


久「……ん? なに、私?」

淡「そ、そうっ! あんた!」

久「はい、何でしょ……って、ああ、淡ちゃんじゃない?」

久「久しぶりね。一か月ぶりくらいかしら?」ニコニコ

淡「うん……まぁ、たぶんそれくらい…だっけ?」

淡「日付よく覚えてないけど…」ボソッ


久「元気そうね」

淡「ま、まぁね!」

久「…それにしてもあなた、高校生だったのね」

淡「え?…うん、え、なに? それがどうかした?」

久「いや……うん、何でもないわ」


久(これ……菫が知ったら発狂しそうね…)ハラハラ


淡「…あ、あの!」

久「ん? なぁに?」

淡「あ、あの……スミレ……」モジモジ


久「すみれ…? ああ、菫ね……彼女がどうしたの?」

淡「ぁ……、えっと、その……元気かなって…」ソワソワ

久「うん?…うん、元気よ? 結構忙しそうだけど」

淡「あ、忙しいんだ……スミレ」ホッ


久「そうねぇ…」

久(最近……顔色悪かったり、寝込むほどテンション高かったり…)

久(結構忙しそうよねー)クスクス


淡「そっか、そっかぁ! スミレ、最近忙しいんだっ♪」

久「え、ええ…」

淡「そうだったんだ、なんだぁ、良かったぁ~!」

久「え……よ、よかったんだ…?」

淡「うん!」ニパー

久(満面の笑み……ですって?)

久(菫……あなた何したのよ。淡ちゃんにめっちゃ嫌われてるじゃない……)


淡(返信来ないの、スミレが忙しかったからなんだ…良かった…)


淡「あ、ねぇっ」

久「どうしたの?」

淡「スミレと知り合いなんでしょ?」

久「知り合いっていうか……まぁ」

淡「この後暇? 私これからご飯なんだけど、一緒にお店入らない?」

久「えっ…まじ?」

淡「まじまじ! 大マジだって!」

久「いや流石にそれは…」


淡「あ、もしかしてお金ないの? 大丈夫、今月のお小遣い残ってるから奢ってあげるよ!」

久「学生に奢られてたまるかっての!……違う。そういう問題じゃないわよ」チラッ


久(今から……でも怜、うーん……)


淡「ねぇダメ? いいでしょ? ねぇねぇお願~いっ!」ユサユサ

久「いやぁ……でも~……」

淡「お、お願い…っ、お願いっ」ウルッ

久「え……」

久(なに、必死な顔して泣いてるのよ…)モヤモヤ


久「……」ハァ

久「ああ~もうっ、わかったわよ……晩御飯付き合ってあげるわ」

久(怜……ごめんっ)

淡「えっ、いいの!? やったぁ! ありがと~っ!」ダキッ

淡「あー、えっと…」



淡「…………何とかさん!」

久「…………竹井久」ガクッ


淡「ふーん、ああ、ヒサ、ヒサね。おっけ、覚えたよ」

久「軽いわねえ。なんか明日にはもう忘れられてそうだわ…」

淡「そんなことないって!ヒサヒサヒサヒサヒサ!はい覚えた~!」フフン

久「おっけ……まあ一度忘れられても、また覚えて貰えば別にいいんだけどね」


淡「あ、じゃあさ? ついでにあと一つお願い聞いて?」

久「お願い?…モノによるわね、言ってみなさい」

淡「お願い! スミレもここに呼んで!」


久「……あなた、菫とご飯食べたいから私を誘ったわね?」ジトッ

淡「……えへへ」

久「まったく……。そんな形で、もう立派に女ね」

久「ちょっと待ってなさい」ピピピッ



ヴー…ヴー…


怜「…ん?」

ピッ


From:竹井久
今日晩御飯いらない!!
ごめん!



怜「はぁぁぁぁぁあああっ!?」

怜「ふっざけんなっ!! もう作ってもうたわ!!!」

怜「言うの遅いんじゃボケェ~~~!!!」ピピピピッ



ヴー…ヴー…


菫「……? あ、メールだ…」ピピッ


From:竹井久
これから女子高生と一緒にご飯食べるんだけど、一緒に来ない?


菫「……っ!?」

菫「あいつ、また合コンしてるのか……!」

菫「しかも……女子高生、だと…?」ガタガタ

菫「何が高校生だ!ふざけやがって。学生と称して高校生連れてきたくせに!」

菫「今度は中学生でも連れてきたのか?」

菫「まったく……このっ、このっ」ピピッ



ヴー…ヴー…


久「お、返信きた。スゴ…はっや…」

淡「ねぇねぇ! 何て何て!?」

久「はいはい、待って待って」ピピッ


From:園城寺怜
今夜帰ってきたら寝られると思うなよ?



久「ひぃ…っ」ゾクッ

淡「っ!?」アワワッ

淡「ええっ、なにこのメール超こわ!」

淡「ねぇヒサこれっ、この人絶対ヤバイ人だって!!」

久「……だ、大丈夫大丈夫…」

久「怜は……理解のある方だから…」ガクブル

久「無視無視…っ」カタカタ



ヴー…ヴー…


久「!…お、キタキタ!」

ピッ


From:弘世菫
行くわけないだろ


久「あ、はは……、バッサリ」

淡「………」シュン

久「はぁ、まぁ仕方ないでしょ。菫にだって予定があるんだもの」

淡「うん……」


淡(こんなにバッサリ……)

淡(……なんでこんな私にばっか冷たいの……スミレ?)

淡(もしかして……今回の誘いも、私がいるから来ないのかな?)グスッ


久(残念ながら、菫を狙っているのは貴女だけではなくて)

久(そして私は、照を応援するつもりなのよね…)

久(申し訳ないけど、菫がここに来たくなる誘い方はできないの…)

久(……できないん、だけど…)タラリ



淡「っ……」ウルウル


久「うっ……さすがに罪悪感がヤバい……」キリキリ

久「お、おーい……淡ちゃーん?」オロオロ

淡「っ…べっ、別に泣いてないしっ!」グシグシ

久「あー…うん」

淡「ん、グスッ……」

淡「……っ」ピピッ



ヴー…ヴー…

菫「……ん?」

菫「あ、今度は淡ちゃんからだ……」

ピピッ


From:あわい
ひどいよ


菫「……え、なにこれ」

菫(なんだこの精神攻撃は…)

菫(うっ……胃が……)キリキリ



淡「うっ、う…うぇぇ…ん…、んぐっ…」

久「………」

淡「うえ…えっぐ…ぅ、ぐすっ」

久「……」

久(一回スマホ触ってから、淡ちゃんの涙が止まらない)

久(き、気まずい……。だいぶ人目も引いてるし…)


久「……とりあえず、どこかお店入らない?」

久「ここじゃ体冷えちゃうし、落ち着かないでしょ?」

淡「……行かない」ボソリ

久「え?」

淡「スミレ……来ないなら、だって行く意味ないもん……」グスッ

久「……」


久「うーん……ま、そりゃそうよね?」

久「……でもさ、このまま帰るのって、負けた気がしてちょっと悔しくない?」

淡「……っ、負けた……?」ピクッ


久「こんなに可愛い淡ちゃんが誘ってるのに、まさか断るなんて…」

久「あの薄情者が『来れば良かった~』って、本気で悔しがるくらい美味しい物、食べてやろうって気にならない?」

淡「……それは」ウズウズ


久「……実はさ。ここから徒歩数分の場所に、凄く美味しいイタリアンのお店があるのよねー」チラッ

淡「イタリアン…」ゴクリ

久「お詫びも兼ねて、ご馳走してあげるわ」

淡「え……お詫び……?」



久「……ねぇ、淡ちゃん」


久「菫の奴にさ……」


久「飯テロ、してやんない?」ニヤ


菫(やばい……昼寝し過ぎて全く眠くない……!)

菫(寝なきゃ……寝なきゃ……)ウンウン



ヴー…ヴー…

ヴー…ヴー…

ヴー…ヴー…

ヴー…ヴー…

ヴー…ヴー…




菫「……」イライラ

菫「~~~っ」

菫「うるさいぞ! 誰だ!」

ピピッ


From:あわい
添付ファイル:jpg
スミレが悪いんだから



菫「……えっ、私、何かしたかな?」

ピッピッ

菫「……なんで、食べ物の画像ばかり送られてくるんだ…?」

菫「しかも……なんか無駄に美味しそうなのがまた何とも……」ジュルリ

菫「淡ちゃん、本当によく分からない子だな……」ハァ…


レストラン。


淡「ねぇヒサ、これ! これ美味しい!」

久「ねー。美味しいわよねー、これ」

久(すっかりご機嫌ね)フフッ


淡「どれだけ美味しいか、またメールで送りつけてやろっかなー」

久「淡ちゃん、写真撮ってメールで送る以外は、スマホは置きなさい」

淡「なんで?」

久「なんでって……ながらで食事するのはマナー違反なの。食事にも、一緒に食事している相手にも失礼でしょ?」

久「あ、これ、デートの基本よ♪」

淡「デートじゃないし!」ガタッ


久「練習で出来ないことを、緊張してる本番で気を付けるのは難しいんじゃないかしら?」

淡「むむむ……そうかも」

久(ほーんと、こんなテキトーな説得で納得してくれる。素直でイイ子よねぇ~)シミジミ


久「そういうのは、普段から何気なく身に付けておくとスマートに見えるものよ」

久「だからせいぜい、写真撮って送りつけるくらいにしときなさい」

淡「はぁい……」



淡「もぐもぐ……」

淡(本当においしい)

淡(スミレが居れば、もっと嬉しいのに……)ポロ…

淡「あ、あれ……私なんで……」ポロポロ

久「淡ちゃん……」

淡「……っ」

淡「な、なんでもない…っ」タタッ


トイレ


淡「はぁ、はぁ……はぁ……」

淡「スミレ……」グスッ

淡「すんっ……声、訊きたいよぉ……」

淡「……メールも返ってこないのに、電話なんて…」

淡「……」ギュッ

ピッ

prrrr


弘世家。


prrrr


菫「…ん?」

菫「淡ちゃんから……今度は電話か」

ピッ

菫「はい、弘世で――」

淡『……ぇ……あ、スミレ……?』

菫「ああ、そうだが」

淡『出て……くれた……っ』ウルッ

淡『う……ぐすっ』

菫「淡ちゃん?……どうしたんだ? 泣いてる?」

淡『う、ううん……泣いてない、泣いてないよ……』


菫「……もしかして、お酒とか飲んでるのか…?」

淡『…飲まない……そんなの、飲むわけないじゃん…』グスッ

菫「そ、そう…」ホッ


淡『……ぁ、あはっ、スミレが……私のこと心配してくれてる……』

淡『う、うえ……うぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇん!!!』

菫「え…え? なに? 何だ……?」

淡『すんっ……すんっ……』


菫「……」

菫「淡ちゃん……今どこ?」

淡『……ヒサって人と、ご飯食べてる』

菫「ヒサ……え? 久ってもしかして、竹井久?」

淡『うん……そう、だけど』

菫(おいおい、久は……)


久『若い果実を~、つまみ食いしちゃ~うぞっ♪』キャルン


菫(―――とか言ってる奴だぞ!?)


菫「なんでそんな…」

淡『……だって、スミレに会いたくて、でも断られたし……』

菫「え、断って……」

淡『だから二人で、断られた仕返しに飯テロしてやろー、みたいな話になって』


菫「っ……淡ちゃん、今どこだ!?」

淡『え、今? ファミーユっていうイタリアンのお店だけど』

菫「ファミーユ?…ああ……あの、イタリアンなのに店名がフランス語の…」

菫「そ、そこ!絶対動いちゃダメだ! 分かったか!?」

淡「え? うん、いいけど…」

菫「じゃあな!」

ピッ




淡「え、うーん?……どういうこと?」

淡「……スミレ、こっち来るの?」キョトン


繁華街。


久「淡ちゃんお待たせ~」

淡「あ、うん、ご馳走さまでした」

久「いえいえ。おうちどこ? さすがにこの時間だし、送っていくわ」

淡「うん……あ、待って」

久「なに?」

淡「なんかスミレがね、ここを動くなって」

久「え、菫が?」

淡「うん」

久「ふーん、菫来るんだ?」

久(菫……どういうつもり?)

淡「わかんない、でもここのお店の名前言ったら、そこ動かないでって」


久「そう……じゃ、そこのベンチにでも座りながら、二人で菫のこと待ってよっか?」

淡「うん……でも、いつ来るのかな…?」

久「さぁねえ、私も菫の家の場所は知らないし」


淡「………本当に来てくれるのかな…?」

久「さぁね、それは分からないわ」

久「でも……分からないからこそ、待つって、とっても大事なことよ?」

久「待っても……待ち人は来ないかもしれない」

久「でも、待つ価値があるのなら、たとえ無駄になっても……」

淡「………」

久「どうする?」

淡「……待ってる」

久「そう」


弘世家。



ピーンポーン

ピーンポーン



照「?……菫、どこか出掛けてるのかな?」

照「……もしかしたら寝ちゃったのかも」

照「……」チラッ


買い物袋


照「……まあ明日、メールすればいいか」

照「じゃあね。おやすみ……菫…」

テクテク


淡「zzz…」

久「あーあ、疲れて寝ちゃった、か…」

久「こんな夜中に、寒空の下じゃ仕方ないか…」

久「……寒いな」

久「………」

久「……ぁ、本当に来たんだ…」


菫「淡ちゃん!」

淡「zzz…」

久「やっと、待ち人来る……ね」フフッ

久「やるじゃない。あなた……賭けに勝ったわよ、淡ちゃん」


菫「っ…淡ちゃん!? おいどうしたんだ!」

菫「おい竹井! どういうことだ!」

久「え?」

菫「淡ちゃんを眠らせて、いったいどうするつもりだったんだ!」

久「……こんな夜中に、寒い中一時間近くも外で待ってたんだもの」

久「そりゃ寝ちゃうに決まってるでしょ?」

菫「……」


久「じゃ、あとは任せるわよ?」

久「女の子をこんなに待たせて、しっかりしなさいよ」

久「それから……」クルッ


久「本命は誰か、よく考えて行動しなさい。」


菫「………」

久「あ、あと…」ピタ

菫「ん?」


久「私…、この土日で確実に腰痛めると思うから…」

久「あなたたちのせいなんだから…今度何か奢ってよね…っ」ガクブル

菫「は?」

菫「……何故半泣き?」


――――――――――



淡「ん……」

菫「…あ、起きたか?」

淡「あれ…スミレ? なんで?」

菫(覚えてないのか…)


淡「?? 誘っても来なかったのになんで? 菫用事あったんじゃないの?」

菫「それは……」

菫「それより、なんで竹井と二人で食事なんて…」

淡「えっ? なんでって、だって菫が誘っても来なかったもん」

菫「私は、淡ちゃんからお誘いメール貰ってないけど」

淡「だってヒサから誘って貰ったから」

菫「なんで…」


淡「っ……だって菫、どうせ私からのメールじゃ返事くれないじゃん!」

菫「……まぁ、たしかに」

菫「でも今回は大事にならなかったが、これからはもっと気を付けろ」

菫「お前はまだ子どもなんだ」

淡(なによ……返事も碌にくれないクセに)ムッ

淡(子ども、子どもって……)イライラ


菫「どうした? まだ眠いか?」

淡(せっかく部長を任されたのに、麻雀に打ち込めてない…)ウツムキ

淡(恋愛も……恋人なんていたことないけど)

淡「……」イライラ

淡「……スミ――」ゴゴゴ…


菫「頼むから、あまり私を心配させないでくれ……」ボソリ


淡「――――!」ドクンッ

淡「ぁ…………好き……」ボソッ


ギュッ


菫「っ!?」

バッ

淡「やっ……」

菫「な、何をする!?」ビクッ

淡「わかんない! わかんないけど…」

淡「……でも今、ああ菫がいる~…ってなったの」

淡「あぁもう何なのっ!? わかんない…っ!」ドキドキ

菫「くっ………///」


菫「……淡ちゃん…」

淡「え?」

菫「…たしかに、淡ちゃんは凄く可愛いと思う…」

菫「だが……すまない」

菫「女子高生には興味ないんだ……」

淡「っ!?」ガーン


菫「もっと身近に、もっとお似合いの子がいるはずだ」

菫「…さ、もういい時間だ。帰ろう、送るよ」

淡「―――いい!」プイッ

淡「私、子供じゃないし。一人で帰れるもん!」ムスッ


菫「駄目だ。疲れてるだろうし、もう遅い」

菫「補導ならまだいい。…いや良くないが」

菫「それに不審者にでも遭遇したら大変だろ。夜は危ないんだ」

淡「いいっ」


菫「~~っ、なら、せめて駅まで…」

淡「要らないってば!」

淡「女子高生に興味ないんでしょ! いいから要らない!」

菫「それとこれとは関係ないだろ!」

淡「むぅ~~っ!!」

菫「ええいっ、鬱陶しい! いいから行くぞ」グイッ

淡「む~~~っ!!!!」ズルズル…


白糸台高校。学生寮。


菫「………」

淡「…っ」ツンッ


菫(結局、淡ちゃんの生活拠点である白糸台高校学生寮まで送り届けてしまった)

菫(懐かしい建物。私や照も過ごした思い出の地)

菫(そんな小奇麗なマンションのようなロビーに、二人で立っていた)


淡「あ、あの……ありがと。送ってくれて」

菫「あ、ああ…」

淡「疲れたでしょ?……こんな遠くまで歩かされて」プイッ

菫「い、いや…全然」


菫(時間を、忘れていたから)

菫(淡ちゃんがいつまで経っても「ここでいいよ」と言わなかった)

菫(そして…)


淡「お、お茶でも…飲んでく?」モジモジ

菫「え…」

淡「っ……///」サッ

菫(表情を誤魔化すように俯きながら、髪を耳に掛ける仕草)

菫(震える声。合わない視線。暗くても分かるほど真っ赤な顔)


菫「いや……だが」

淡「あ…っ、いや、でもほらっ」ビクッ

淡「だって菫……、夜道は危ないからって…だから」

淡「………その……闇宿り、みたいな?」チラッ

菫「ああ…」


菫(頑張って私の逃げ道を塞ごうとする姿が――)

菫(どこか、高校の時の照の姿と被って見えてしまったのは、きっと気のせい――)


菫「淡ちゃん……」

菫(私は――懐かしい記憶を呼びさましながら、彼女の手に……)



白糸台高校、学生寮。
大星淡部屋。


ポフッ

淡「………」パフパフ

淡「はぁ……」

淡「………っ」ムギュー


ヴー…ヴー…


淡「…?」

ピッピッ



From:竹井久
どうだった?
ちゃんと帰れたかどうか、朝起きてからでも連絡ください。

菫のことだから大丈夫だとは思うけど、一応ね。


淡「……むぅ」

淡「……」

ピピッ


To:竹井久
さっきはごちそうさまでした!
ご飯美味しかったです。
無事帰宅しました。
今夜はこれから菫と過ごすの!



淡「むふー」ドヤァ



ヴー…ヴー…


淡「!」

ピッ


From:竹井久
誘ってはみたけど逃げられた、か。
ご親切にどうもありがとう。
ま、どんまい(*^^)v!



淡「はぁ!? なんでバレてんのっ!?」ガバッ

淡「……」ピピッ


To:竹井久
なにそれきも


淡「」ソワソワ


ヴー…ヴー…


淡「!」ピピッ


From:竹井久
だってそんな状態なら私に返信なんかしないでしょ。
オトナにウソは通じないわよ?



淡「~~っ」カァァア

淡「何なのみんなして!」

淡「私は子どもじゃないっての!」

ピッピッ


園城寺家、門前。


From:あわい
大人なんて大っ嫌い!!


久「」クスッ

久「あらあら、嫌われちゃったか」クスクス

久「……そういうところが子どもなのよ。お姫様」

久「……」ピッ



久「……さて。とかいう私も、他人の心配してる場合じゃないのよねぇ」

久「すぅー……はー……」

久「……よし」グッ



ガチャ


久「お、お邪魔しまぁす……」


怜「……」ユラッ

久「……」ビクッ

久「……お、おっす怜」アセアセ

怜「……」

久「……」チラッ


冷めきったご飯「^^」



久「」

久「……す」

久「すみませんでしたーー!!!」


白糸台高校、学生寮。
大星淡部屋。


淡「……」

淡「確かに、お泊まりは断られたけど…」

淡「……」ガサゴソ


弘世菫
東京都X区XX町XX-XX-XX


淡「住所……名刺も貰っちゃった……///」ポー

淡「~~♪」

淡「……はぁ」ポスッ

淡「菫……今日体調悪くて会社休んでたのに、私のために来てくれたんだよね……」ポー



淡「明日のお見舞い、何持って行こっかなー…」

淡「スミレ何が好きかなー? 果物? でも定番すぎ? チョコでも持ってく?」

淡「いきなり手作りとか重いよね……?」

淡「うぅー……」ドキドキ

淡「あーっもう!緊張して寝れなーい!!」ガバッ

淡「~~~っ!」モヤモヤ

淡「ちょっと皆のとこ行って、相談乗ってもらおっと…!」

タタタ


ガチャ


淡「ちっすちっす! 起きてるー?」

「あ、淡じゃん~、おっす」

淡「あ、ちょ、何食べてんの~っ? 何それ超美味しそうなんですけどー?」

「あ、淡先輩も一緒にデブ活しますかー? コンビニでデザート買い占めて来たんです~」

淡「するする~! えっ、てか何これズルーいっ、私も呼んでよーっ!」ウガー!

「呼びに行ったけど居なかったんじゃん~」

淡「え、ごめん」

「どれにするー?あんねー、とりあえずこのロールケーキはやばい」

淡「えー、あーじゃあ私それにするー」キャッキャッ


翌朝。土曜。


淡「zzz..」

淡「……」ムクッ

淡「……ん」ポー


08:42


淡「っ?!」ガーン!?

淡「……えっ……うそ……」ヒ ゙クッ

淡「……やっばぁ、お見舞いどーしよ…」タラリ


バタバタバタバタッ

「淡なにやってんのっ! 部活!遅刻遅刻~っ」


淡「はっ!そうだったっ!?」ガーン

淡「うぅ~っ、もう!髪梳かす時間もないよぉ~!」グスグス

今回はここまでで。
次は、淡ちゃんの弘世家訪問から始まります。

あまり進んでいないですが、途中まで。
淡ちゃんのターンです


白糸台高校。麻雀部。
昼過ぎ。


淡「お疲れさまでした。では、今日の練習はここまでです」

淡「監督、お願いします」

監督「お疲れさまでした。午前練だけでごめんなさいね」

監督「明日もオフにしてるから、ゆっくり休んでください」

監督「以上です」

淡「はい。では、気を付けっ、礼!」


「「「ありがとうございました~」」」


淡「ふぅ…」

淡「よ、よぉし、スミレのお見舞―――」

監督「大星さん、お疲れさま」

淡「あわわっ、監督……!」

淡「……お疲れさまです」シュン


監督「調子はどうかしら?」

淡「調子、ですか…? そうですね…」

淡「今年入った一年生も少しずつ力を付けてきてますし、二年生も実力を伸ばしてます」

淡「ランキング戦、結構楽しみですよ!」グッ


監督「そう、頼りにしてますよ、部長さん」

淡「はいっ」

監督「…でも、私は監督なの」

監督「部長だからって。もっと私を頼ってくれてもいいんですよ?」

淡「え…」

監督「最近、ちょっと疲れてるでしょ? 思い詰めてるみたい…」

淡「そ、そんなこと…」


監督「この前、OGに会ったんだけどね。その人も凄く疲れた顔してて」

監督「そこで、やっぱりお風呂ってイイわよね~、って話になったのよ~」ウフフ

監督「それで最近、温泉の素なんて買ったりしちゃってね」

淡「え……。は、はぁ…」

淡(ウッソ、マジ!? この流れ超長いヤツじゃん…!!)


監督「甘い物は欠かせないけど、それでもお風呂は別格っていうかぁ――」

監督「大星さんもそう思うわよね~」

淡「で、ですよねぇ~…」

淡「あ、ははは…」

淡(うぅ…、早くスミレのお見舞いに行きたいのに…)

淡(よりにもよって監督に捉まっちゃうなんてぇ~…)



監督「でねぇ?」

淡「あ、あの! 監督っ!」

監督「はい?」

淡「今日午前練だけなのは、監督にご用事があるからじゃ…」

監督「え?…あらやだ、そうだわぁ。すっかり忘れてた…」

淡「だ、だよね! ほら。急がないと…」

監督「でもこれだけ喋らせて! あのね――!」

淡「く、ちくしょぉ…」ウルッ


~~


淡「……」

淡「……どうしよ、もう二時じゃん」

淡「このまま向かって、三時頃?」

淡「二時間もしないで、もう夕食の支度の時間になっちゃう…」

淡「監督のことは好きだけど、今日のことは一生恨む!」

淡「……ぁ、そうだ。私、お見舞いの品もまだ買ってないんだった…」ガクッ

淡「もうやだぁ…」グスッ

淡「」

ピピッ


弘世家。


ヴー…ヴー…


菫「ん? 淡ちゃんからか…」ピピッ


From:あわい
ごめんなさい!部活長引いちゃった!
たぶん三時頃にお邪魔します!(*^^*)ゞ


菫「ふふ、部活か…懐かしいな」

菫「コホッ…コホッ…」

菫「あぁ…ちょっと、ダルイか…」

菫「えっと…」


白糸台高校。正門。


ヴー…ヴー…


From:弘世菫
わかった。待ってる
気を付けてな

弘世菫



淡「……お、お、おお~!」キラキラ

淡「返信、返信…っ!」プルプル

淡「なにこれやばぁ…///」

淡「返信来ただけで嬉しいとか、私マジ頭おかしいって!」

淡「しかも『待ってる』って……」

淡「~~~っ」

淡「お土産!……じゃなかった、お見舞い!」

淡「頑張れ、私っ!ファイト!」グッ


弘世家。4時頃。


ピンポーン


ガチャ


菫「……ぁ」

淡「あ、えっと。そのっ、こんにちは…!」

淡「お見舞い……来たよ」

菫「ああ……うん。ありがとう」

菫「……いらっしゃい」


菫(昼と夕方の、ちょうど境目あたり)

菫(淡ちゃんが、我が家にやってきた)


~リビング~


菫「お疲れさま。寒かったでしょう? 上着預かるよ」

淡「あ、うん。ありがと…」

淡「ぁ。わぁ…」

淡「ぁ、わわっ」アセアセ


菫(彼女の背後に回り込んで。上着を脱ぐエスコート)

菫(スーツを仕立てる店でよく受ける特段珍しくもないサービスは、淡ちゃんには新鮮だったらしい)

菫(裏返った声に一人で慌てている。……本当に元気な子)

菫(本当に、よく心の機敏が表に出て、素直な子だと思う)

菫(感情があまり表に出ない照とは、まるで正反対)


菫「座ってて。今、何か温かいものを入れてくるから」

淡「えっ、あ…はいっ! ……お、お構いなく!」

菫「……どっちなの」フフ

菫(彼女の緊張が、手に取るように分かる…)


菫「せっかくお見舞いに、来てくれたんだし」

菫「…それに、淡ちゃんはお客さんだから」

淡「……うん。わかった…」モジモジ

菫「うん……。ありがとう」


菫(紅茶の準備をしてリビングに向かう)

菫(すると淡ちゃんは、まだ突っ立ったままだった)


菫「……淡ちゃん?」

淡「っ……」ビクッ

菫「どうしたの、座らないのか?」

淡「あ、うん。……どこに座ろうか、迷ってて」

菫「そう…」


菫(少し広めのワンルーム。ベッドもテレビも全ての家具が一緒くたの部屋)

菫(…何もかも風景な、必要なモノしかない殺風景な部屋)


菫(私が率先して、ベッドのふもとに腰掛ける)

菫(見上げると、彼女の揺れる瞳に、どこか探るような色があるような気がした…)

菫(隣に座ってもいい? そう聞かれてるような)


菫「……いいよ」

淡「ありがとう…」


菫(ほっと安堵したような声が上から聞こえてくる)

菫(……緊張、してる……)ゴクリ


淡「じゃあ、失礼しまう…」

菫「……しまう…?」

淡「うっ…か、噛んだの! それくらい気づいても流してよっ!///」カァァア

菫「ぷっ、ははっ…ごめっごめ…くくっ…」

淡「笑いすぎ~っ! スミレのいじわるっ!」プンプン


菫(隣に正座で座った淡ちゃんは、私の方を向いて、大声で拗ねては、肩をポカポカ叩いてくる…)

菫(そっぽを向いた)

菫(淡ちゃんの手は、不思議と痛くない…)

菫(……悪い気も、しなかった…)


淡「…て、あれ?…スミレ、ちょっと体温熱くない?」ピト

菫「ああ、まぁ。でも大したことないよ」


淡「些細な事ならあるってことっ!?」


菫「お、おお……喰い付きいいな。さすがに声大きい…」

淡「あっ、ごめん!なんか昨日から私、緊張しまくりで、朝からもうアガりっぱなしで」

淡「でも大丈夫だよ。静か静か、もう超静かにしてるから!」

菫「……」


淡「えっと……風邪、ひどい? 辛い?」

菫「いや、大丈――コホッ、コホッ」

淡「やだちょっと、風邪!――じゃなくて咳! 咳出てんじゃん」

菫「いや、今のはむせただけで…」

淡「ダメダメ! はい、ベッドに寝る!」

菫「いいから…」

淡「寝て!」

菫「……わかった」

淡「はぁ…」ホッ

菫「はぁ…」グッタリ


淡「スミレ、ぐったりしてる……かわいそう」

淡「今日ごはん食べた?」

菫「ああ。お粥を、少しな…」

淡「おかゆ? え、そういう系じゃないと喉通らない系?」

菫「大丈夫だよ、梅干しも食べられるから」

淡「あ、そうなんだ……良かった。あいやえっと良くはないんだけど、ちょっと安心したっす」

菫「いや、今のはツッコむトコなんだけど…」

淡「え、どこが?」

菫「……いや、いいんだ。詰まらないこと言って、すまん」

淡「?……変なスミレ…」エヘヘ

菫(ギャグセンが無さ過ぎて、辛い…)


淡「昨日のせい? 私のこと迎えに来てくれたから?」

淡「ごめんね、スミレ……」

菫「いや、そんな。気にしないでくれ、私が行きたくて行ったんだ。淡ちゃんのせいじゃない…」

淡「……うん」キュン


菫「さ、じゃあもうこの話は終わりだ。水に流そう。はい、ジャー」

淡「……」

淡「……ぷ、んふっ、あはははは! ジャーって何それ、トイレに流したみたいじゃん?」

菫「あ、ははは…。まあ一応それを連想したからな」

淡「やだもう~、スミレってば。私の中では殿堂入りしちゃってんのにさ…」

菫(殿堂入り…?)


淡「でも、スミレが言うなら……。ありがとね!」

淡「寝起きでちょっとアレだったけど、でも超格好良かったよ!」

淡「ほんと、全米も泣いたくらい感動した!」

菫「その指標は、あまり当てにならないな……」

淡「えぇ~っ!」ガーン!?


淡「もうスミレの株、ストップ高だもん」

菫「そう、なんだ…」

淡「今も上がってる最中だから大丈夫、安心してね」

菫「…そっか」

淡「うん!」

菫「……///」


菫(この、余す事のない剥き出しの好意に、むず痒い気持ちになってくる)


菫「……」ポフ


淡「スミレ……可愛い」ボソッ


菫「え…?」

淡「今の! その、恥ずかしそうに布団で口元隠す仕草、超可愛かった!」

淡「ね。ね、もっかいやって?」

菫「や、嫌に決まってるだろ!」ガバッ


淡「あ、ちょ…布団被ってなきゃダメ!具合悪くなっちゃうでしょ!」アワアワ

菫「だ、誰のせいだ誰の!」

淡「他人にせいにしない!」

淡「そうやって他人のせいにしても、結局自分に返ってくるんだからね?」メッ

菫「……仰るとおりで…」

菫(高校生に人生を説かれる社会人……)


淡「じゃあ、はい……どうぞ」ニコニコ

菫「……///」

淡「……」ニマニマ

菫「……一生忘れないからな」ジトッ

淡「うんっ。私にとっても、一生の思い出だよ!」ニパー

菫「くっ…///」

菫(くそぅ…)



淡「はぁ、なんか、スミレ見てたらお腹空いてきちゃった…」

淡「スミレはお腹空いてたり……って、ああ!?」

菫「ん? なんだ、どうした? 忘れ物でもしたか?」

淡「そうそう。私、そうなの!」

淡「ちょっと待ってね」ガサゴソ


淡「はい、これお土産。麻雀部のみんなから!」

菫「麻雀部のみんなから?」

淡「うん。皆にスミレのお見舞い行くって言ったら、一緒に選んでくれて…」


菫(私のことを何て説明すれば、部員勢が一緒にお見舞いの品を選ぶ羽目になるのか――)

菫(……気にはなるが、聞く勇気がない)タラリ


菫「そうなんだ……。悪いな、なんか」

淡「ううん、楽しかったし」



菫(淡ちゃんがビニール袋を手渡してくる)

菫(その中には駄菓子がたくさん詰まっていた。チョコ系が多い気がする)

菫(なんというか。……さすが女子の部だ)

菫(感傷と共に――ほっこり、温かい気持ちになる)

菫(自分はしっかりしていたつもりでも……。傍から見れば、高校生の私もこんな感じだったのだろうか)


淡「スミレって独身なんでしょ? ちゃんと食べてる?」

菫「食べてるよ。毎日三食な」

淡「いつも自分で作ってるの?」

菫「いや…まぁ、忙しい時はお弁当とか…」

淡「わぁ~、愛妻弁当~!?」

菫「そんなもの、いったい誰に――っ!?」

淡「!」パァァ

菫(しまった…!)


菫「ん、んんっ…高校の時はたしかにダイエットとか気にしがちだが、適度な食事を習慣づけることがよほど――」

淡「大丈夫大丈夫!私、ダイエットなんて三日も続いたことないしー、全然おっけー♪」

淡「あ、ていうかスミレ、今話題逸らしたっしょ。超逸らしたっしょ?」

菫「白糸台は弁当だったな、淡ちゃんは自分で作ったりとかは…」

淡「スミレ、恋人いないんだ~~~~」

菫「……」

淡「そっかぁ、そうなんだぁ、へーー、ほーーん、ふーーーん♪」

菫「」


菫(失敗した……油断していた。まさかこんな罠を仕掛けてくる娘だったなんて…)グヌヌ


淡「んふふ…♪」ギシッ


菫(勝ち誇ったような笑みを浮かべながら、淡ちゃんがベッドの縁に腰掛けてきた)

菫(すらっとした健康的な長い脚を組む)

菫(……スカート折ってるのか、今時って感じのスタイルだ)


淡「」


淡「ねーねーねーねー、コイバナしよーよー。コイバナ!」

菫「やだ…」

淡「えー、じゃあ触っていい?」

菫「何でだよ…、ハードル上がってるから」

淡「いいじゃん、減るものじゃないし」

菫「だめなものはだめだ」

菫(体をガードするように、クビまで布団を被る)


淡「えー、やだやだ、つまんないー」

菫「ダメったらダメ」ガバッ

淡「あ、頭まで布団被っちゃった…」

淡「もう…」ムスー


淡「ふーん、いいもんねー」プイッ

淡「あ、お菓子食べていーい? スミレも食べる?」ガサゴソ

菫「言いながら開けるんじゃない」

菫「まったく、用が済んだなら帰りなさい。門限とかあるだろ?」

淡「まだそんな時間じゃないって。まだ5時だよ? だいたい部活ある時はもっと遅いじゃん?」

淡「ていうかひどくない? せっかくお見舞い来てあげたのに~」

菫「……う、まぁ、それもそうか…」

菫(そうだよな……。部活帰りにわざわざ来てくれたわけだし。無碍にするのも悪いか…)


淡「ふんふんふ~~ん♪」ガサゴソ

菫(見ると、淡ちゃんがチロルチョコの箱を開け、一粒食べていた)

淡「?」チラッ

淡「……あ、スミレも食べたい?」

淡「いいよー。スミレも、ほら。あーーーん」

菫「自分で食べられるから」

淡「えへへーっ♪」


菫「じゃあ、えっと…手渡しで…」モソモソ


淡「隙あり~」サワッ


菫「ひゃっ!?」

菫「ど、どこ触っている!」

淡「どこって、腕じゃん?」

菫「に、二の腕を摘んだだろ今ぁ…!」

淡「え、それが?」

菫「こっちからしたら、超絶に死活問題なんだよ…!」

菫(秋物シーズンから体型管理を疎かにし過ぎたせいで、少しプニプニに…)グヌヌ


菫「それにしても、チョコなんて久しぶりだな…」

淡「そうなの?」

菫「ああ、最後に食べたのが何時かも、いまいち覚えてないくらいにな」

淡「ふーーん」

淡「ならじゃんじゃん食べて食べてー、もーっといっぱいあるからーっ」

淡「私の愛をっ、受け止めてみろ~~~!」

淡「どばぁー!」


菫(私の手に、だばーっと大量のチョコがぶちまけられた)

菫「うわっ!?」

淡「あはははは!」


菫(道端で転んでも、それが笑いになるお年頃)

菫(元気な淡ちゃんと接していると、こっちまで明るく、元気になっていく気がする)


菫「こんなに出して……、食べきれないだろ」フフフ

淡「あ、スミレ、今日初めて笑った」

菫「えっ……そうだったか?」

淡「うん、そうだよ」

菫「そう」

淡「……」


淡「ね、スミレ…」

菫「なんだ」

淡「あのね、実はね、私……スミレのこと好きなの」

菫「そっか」

淡「うん」


菫「……。」

菫(……。)

菫(……っ!?)

淡「スミレ、彼女いないんでしょ? なら、私と付き合ってよ!」

菫「い、いやあのな!」

淡「ああ、いいのいいの。返事とか別に急がないし。どうせ明日もまたお見舞い来るから!」

淡「てか、毎日来る! 通う! なんてーか、事実婚とか通い妻とか?…もうそっち系も狙ってるし!」

淡「理想のプロポーズは、日常の延長線上で!」

淡「そんな、お手頃な女です、はい♪」

菫「……」

淡「はい!」

菫「……」

淡「はいっ!!!」

菫「いや聞こえてるから。大丈夫だから」


菫「……」

菫「なんで、いきなり…」

淡「全然いきなりじゃないよ…」

淡「あのね。渋谷で会った時、菫に『なんで私なんだ?』って聞かれたこと、あったでしょ?」

淡「『こんなに好きなのに、何で分かってくれないの!』ってなったよ」

淡「でも、そういえば私、まだ『好き!』って言ってなかった気がして。……いや分かんないけど」

淡「それで昨日のアレでしょ? もう、これが言わずに居られるだろうか、いや反語!みたいな…」

淡「だから……」


淡「優しい菫が好き」

淡「好きだよって、ちゃんと言おうって思ったの!」

菫「いや、その……淡ちゃん。私は…」

淡「スミレ」

菫「……ああ」

淡「大好き!」ニパー

菫「……っ///」


菫(優しくもまぶしい笑顔が、わずかに俯く)

菫(それを見て、僅かにでも胸が高鳴ってしまった私は――)

菫(不覚にもときめいてしまった私は、きっとロリコンなんだろうな…)


菫(そういえば――)

菫(照と付き合っていた頃、こんなにも正面から好意を当てられたことなんて一度もなかった)

菫(むしろこっちがアプローチして、僅かな表情の機敏を見逃さないようにして…)

菫(きっとこの子は、アイツとは正反対で――)


淡「おし! 告白できた! 超元気でてきた! 今の私、めっちゃ高校100年生してるっ!」グッ

菫「え……、100年生?」

淡「うううぅぅ~~、好き好き。超好き! 超恋してる!」

菫「な、え、う……」


淡「あ、そだ!スミレってさ、食べられない物ある? 好き嫌いとかでも何でも」

菫「へっ? いや、その……特にこれといっては…」

淡「わかった! じゃあ明日のお昼は私の手料理ね!」

菫「え?」

淡「じゃ、また明日!」


ガシャン


菫「……」

菫「……薄々分かってはいたけど、」

菫「告白、されてしまった……」

菫「…あむ」

菫「……チョコ。いちご味……」

菫「あっわあわ……なんてな」


菫「……こほこほっ」


菫(窓から見た世界は……いつの間にか、陽が沈んでいて)

菫(それは、まるで宇宙のような、満天の星空だった……)

今回はここまでです。

少しゆっくり目なので、次回である程度展開進ませる予定です。

日曜日が丸一日使えなくなったので、今日明日で投下します。


~深夜~

宮永家


ガチャ


淡「お邪魔しまーす」

照「淡…? いらっしゃい」

淡「テル~、晩御飯まだー?」

照「アポなしで、しかもこんな夜中に来ておいて何言ってるの?」

淡「冷蔵庫にあるプリンでもいいや~」

照「……」

淡「……」

照「…わかった、何が食べたい? 丁度食料品買いに行ったばかりだから、色々作れるけど…」

淡「あ、そこはプリン譲ってくれないんだ?」


淡「……ふふふ」

照「どうしたの?」

淡「なんか、さっきまで心臓バクバクだったから…。ちょっとテルの顔見て、安心したっていうか」

照「なぁにそれ、意味不明なんだけど」

淡「ねっ、だよね!」

照「ふふ…」

淡「あはははは!」


照「じゃあ少し待ってて。今、バナナケーキ作るから」

淡「やっぱり普通の料理は作ってくれないんだ!?」

照「丁度ここに、腐りかけのバナナがある。明日は日曜日だし。夜中のスイーツほど美味しいものはないから」

淡「わかる」

淡「それにテルー、太らないもんねー」アハハ

照「淡ほどじゃない」


淡「えへへ。あ…そうだ、ねぇテルー?」

照「なに?」

淡「大人って、二の腕触られたら嫌なのかな?」

照「二の腕…? なにそれ、でも状況に依らない?」

照「ああでも、二の腕って肉がつき易いから…」

照「確かに体型が気になってる時なら、好きな人に触られそうになったら全力で拒否るかも」ムムム

照「デブって思われたくないし…」

淡「そっかぁ」


照「なになに淡、あ、この前言ってたスミレさん? 何か進展あったの?」

淡「えー、ないしょー」ニヤニヤ

照「えぇ~、それ絶対何かあったでしょ~」

淡「あはは、あ、私も隣で一緒にケーキ作っていい?」

照「いいよ。楽しみにしてる」


淡「あ、言っておくけど、今から作るのはテル用じゃないからね?」

照「え……?」


* * *


照「どう、バナナケーキ、美味し?」

淡「…うん」

照「どうしたの? なんか元気ないね…」

淡「……うん。ほんとは、明るい話だけしようと思ってたんだけど…」

淡「でも、もう12月だから……」

淡「怒らないで訊いてくれる? テル…」

照「うん?」



淡「今年も、長野には帰らないの?」



照「!」ビクッ

淡「サキ、まだ待ってるって。あの家で…あの卓で…」

淡「たった独りで…」

照「……それは…」


淡「……テルさ、最近いつ長野に帰った?」

淡「単刀直入に言うと……サキに最後に会ったのいつ?」

照「……」

淡「私、毎年冬休みは長野の宮永家に遊びに行くんだけどさ…」

淡「サキ…、暇さえあれば、ずっと麻雀打ってた…」

淡「サキ、ずっと待ってる。物置で。独りで自動卓の前に座って、毎日独りで麻雀打ってるんだって……テルの伯父さんが言ってた」

淡「それで毎局毎局、全家が、プラマイゼロなんだって……。止めろって言っても、下りないって」

淡「……」

淡「あ、あのね、私が言いたいのは…」



淡「もしよかったら、今年の冬は一緒に長野行かない?」

照「…でも淡、好きな人いるんでしょう? 年末はその人と過ごしたりとか…」

淡「その人とは……ううん。でも、少しは考えてみて!」

照「……」

照「……分かった。考えておく」

淡「うん。お願い」


淡「私も二人のこと、待ってるから……」ボソッ


~翌日~

弘世家。


淡「できたよー!」パァァ

菫「ああ、なんか悪いな…」

淡「いいの。ささ、食べて食べて~っ。私の自信作!絶対美味しいから、超絶妙!」

菫「……」


淡「ほらほら、タカミーが京都の宇治から取り寄せてくれたんだよ? 美味しいよ?」

菫「なぁ」

淡「ん?」

菫「これは……」

淡「うん? 茶そばだけど?」

菫「しかも冷たいの…」

淡「私、お出汁とかから取ってたら時間掛かっちゃうし」

菫「今、12月なんだが…」

淡「寒いときってさ、冷たい物食べたくならない? アイスとか、ゼリーとか。あ、それは年中か」

淡「え、えへ……」モジモジ


菫「まぁ、そうだな。いただきます」

菫「……」ズズッ

菫「!……美味しい…」ボソッ

淡「!」パァァ

淡「ありがと! あのね、あとね、今日バナナケーキ作ってきたの!」

菫「バナナケーキ?」

淡「うん、私、けっこう尽くしたいタイプだから!」

菫「そっか、ありがとう」



淡「お仕事、たいへん?」

菫「……どうだろうな。まあ、そこそこだと思う」

淡「スミレは、趣味はある?」

菫「趣味……か」

淡「部活の監督がね、ワークライフバランスが大事なのよ、って」

菫「ワークライフバランス……また懐かしい言葉を」


菫(就活生の時には、もう既に聞き飽きていた文句)

菫(懐かしいと感じてしまうのは、それがもう過去の事だから)

菫(照との思いでも、過去なんだ)

菫(そしてこれは、耳珍しく感じる淡ちゃんとの年齢差でもある)


淡「趣味と仕事の両立が大事なんだって~。大変な時こそそうだって」


菫「あれ……そういえば今日、部活は?」

淡「今日は休み。監督に用事があって、部室も使えないの。もったいないよね」

淡「強くなりたいし、部員の皆にも強くなって欲しい…」

淡「けど、本当に強い人と練習する機会は少ないから…」

菫「淡ちゃん…」


淡「あ…ごめんね、何でもないのっ」アセアセ

淡「そうだっ、そういえばもうすぐ冬休みだね!」

淡「菫は冬休みいつから?」

菫「冬休みか…懐かしいな。社会人には無縁の響きだ」

淡「そうなんだぁ、じゃあ早いうちに予約しとこうかな!」

淡「一緒に遊ばない? 冬休み、一日だけでも」


菫「うん…。そうだな…」

淡「いいの!? 会ってくれるっ!?」

菫「連日という訳にはいかないが、それくらいなら構わないぞ」

淡「あ、じゃあ24日!クリスマスイブね!」

菫「……あいにくと、私の冬休みもどきは28日からなんだ」

淡「えーーーっ、そうなんだ…」

淡「じゃあ普通の時にもあそぼ! 24日とか!」

菫「ふふ……」


菫「あ、ところで、白糸台はその前に定期試験があるんじゃなかったか?」

淡「ぎくぎく!」

菫「……」クスッ


菫「淡ちゃんのお陰で、体調も良くなった」

菫「明日からはまたお互い、学校や会社がある。毎日来るのは止めてくれ」

淡「毎日じゃなければ会っていいってこと?」

菫「ああ、いいよ」

淡「!……やった…」

淡「ありがと、菫…!」

菫「お礼を言うのはこっちだよ…」


淡「あのさ、じゃあお礼……頂戴……」

菫「……言ってみろ」ゴクリ

淡「わ、私のこと、『淡』って呼び捨てにして!」

菫「え……」

淡「……」

菫「……」

淡「ぁ……ごめんなさい……流石に図々しかったよね?」シュン


菫「!」

淡「あの、嫌なら別に……っ」

淡「ごめ……やっぱり帰っ……」タタタッ



菫「……あ、待て、淡……!」

淡「!」

菫「これで……その、いいだろうか……?」

淡「」ポカーン

菫「………何か反応してくれ…///」

淡「あ、ごめ。でもその、いいの…?」

菫「ああ、いいさ…」

淡「だって私……、別に菫に好かれてないよね…?」

菫「……そんなことない」

淡「嘘つき……。判るよ、それくらい…」シュン

菫「……」


菫「……たしかに、付き合いたいとは、今は思っていない」

淡「ほら、同情じゃん……」

菫「違う、違うんだ!その、何というか……君と居るのは凄く楽しくて…」

菫「だから、私はただ、淡の喜ぶ顔が見たくなっただけで――…」



淡「……え」

淡「……」ニコッ

淡「ありがとうっ、菫…」パァァ

菫「……っ///」


菫(やだもう…)

菫(淡ちゃんが喜ぶと、私まで嬉しくなっちゃう…)


淡「今日はありがとう、菫…私のワガママに付き合ってくれて」エヘヘ


菫「」


淡「こ、ここで無言で見つめてくるのは卑怯だよ…って…」

淡「や…やだ…菫…」

淡「もう…何言わせるの…っ///」カァァア


菫「」


淡「えへへ、菫って…やっぱり優しい」

淡「……」モジモジ

淡「ま、まずいな…」

淡「私…どんどん甘えちゃいそう…」

淡「…な、なんてね!」

淡「……大好き!!」

淡「えへへ……」

淡「またね」フリフリ


ガチャン


菫「」


菫(そんな、そんなそんなそんな――)?

菫(文武両道、清廉潔白、質実剛健)?

菫(そんな私が――!!)バッ?

菫(今また処女膜が張っていたとしても、一度は処女を捨てたはずの、この私が!)

菫(未だ処女の一つも捨ててない女子高校生なんかに…!)クワッ



淡『……ありがとう、菫っ』ニコッ

淡『もう…何言わせるの…っ///』カァァア

淡『私…どんどん甘えちゃいそう…』ウルウル



菫「…………。」

菫(…………)

菫「……くっ///」

菫(私は、淡ちゃんが好きなのか?)?

菫(だが、性欲は感じな……)

菫「」ムラッ

菫「う、あわああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!」



~週明け・月曜~

オフィス。


久「はい、これ」⊃□

菫「…何だ、これは?」

久「何って、これ『快気祝い』の先渡しよ?」

菫「快気祝いの……って。それ言葉の使い方間違ってるぞ…」

久「でね。これ、年末長野温泉ツアーのペアチケット」

久「実はさ、デパートが土日やってる福引きで、ただでさえ幸薄な怜が、遂に残りの人生の運すべて使い果たしちゃってね」

怜「ああ~、うちもうお嫁に行かれへん。その前にお迎えが来てまう…」ヨヨヨ

菫「おい、朝から園城寺のその手のギャグは、洒落にならんから止めてくれないか?」


久「本当は一等のハワイ旅行ペア狙ってたのに、怜が『自分がやる』って言って引かなくて」

怜「悪待ちやない久に、こんな大事なもん任せられるはずないやん」

久「やだわぁ、信用なくて」

怜「その点、どう回せば欲しい球が出てくるか未来を見れるウチには、楽な話やなぁ…」

久「私にだってトキちゃん付いてるし」

菫「なに、意味のわからないことを言ってるんだ…」


菫「というかお前たち、前々から思っていたが、もうちょっと真面目に生きられないのか?」

怜「かぁ~っ! 過労で倒れてまうくらい仕事してる人は、さすが言う事が違うなぁ」

久「ちょ、怜、なに煽って…」

菫「…よしわかった、その喧嘩買おう。女らしく、女子力で勝負だ」イラッ

菫「夜通し拳で語ろうじゃないか、あ?」バキッ



久「なにその漢気溢れる女子力…! 初めて聞いたんだけど…」

怜「ギャップ……それは人をより魅力的に魅せるもの」

怜「……あまりの魅力に、うち、危うくちびりそうになったわ…」


怜(そういえば、菫って高校で麻雀部に入部する前は、弓道部でバリバリの体育会系だったような…)チラッ

久(ああ、根っこはスポ根ってね…)チラッ


久「え~と、話を戻すと……」

久「年末に二人一組で、長野県中の温泉をはしごしたい人募集中なのよね…」

菫「またピンポイントな…。竹井と園城寺で行けばいいだろう?」

久「ああー、ダメ。私、年末は海外出張が入ってて、そのまま海外で年始も過ごす予定だから」

怜「うちも途中から合流して、一緒に観光すんねん」

菫「……なるほど、な」フム


久「ってな訳で、菫! これは私たちからの気持ちよ!」


菫「……え?」


怜「今回その騒動――ってほどやないけど、まぁ倒れた時にお世話になった相手居るやろ?」

怜「日頃の感謝と、労いと、ありったけの愛を込めたれって。案外、簡単に仲が進展するかもしれへんで?」

怜「久って、まだまだ未熟な上司やからこんな事しかできへんけどさ…」

怜「菫のこと、これで結構心配してたんやで?」

久「ちょ、そういうのいいから。やめて!!」カァァア


菫「……お前ら…」ウルッ


怜「……」ニヤ


怜「で、で、誰誘う?」

菫「え…?」

久「は? 何言ってんのよ、んなもん一択っしょ」

久「アンタ、照のこと誘わなかったらマジコロスから。そのつもりで」

菫「えっ」


怜「いやいや、待ちぃや。この前の合コンの、淡ちゃん、やっけ? あの娘でええやん」

怜「温泉街で肌ける浴衣、じっとり濡れるXX、身も心も温まり、汗流しながら二泊でしっぽりガチXXX」

菫「おい、今の伏字は何だ!?」


久「……ちょっと、いい加減にしてくれない? 怜」

久「さすがの私も我慢の限界……」ゴゴゴゴゴ


久「前々から思ってたんだけど、怜のその無駄な淡ちゃん推し、ほんっと何なの!?」

久「普通に考えて、マジあり得ないから!!」


怜「だって可愛いし。菫とくっ付けば、たまに顔合わせることもあるかも知れへんやん」

久「いやそれ、だからって、怜がつまみ食いできる訳じゃないからね?」

久「他人の恋人を、あたかも自分との共用財産みたいに考えるのやめなさいよ…」

怜「はぁ!? そんなん考えてへんわ、アホ!」


菫「………」

久「まあ実際、照なら一も二もなくOKよ」

久「判断基準なんて、そもそも菫の体調次第でしょ?」

菫「なんで言い切れるんだ…」

久「へっ!? いや、なんでって、それはその…」アセアセ

久「……女のカン?」アハハ

菫「……無視、っと」

久「ちょっとーぉ!」ウガー!!


怜「淡ちゃんかて、そうやで。あの娘にめっちゃ好かれとったやん」

怜「ウチのカンが言ってる。……未だに連絡取ってんねやろ?」

菫「え…、いや、それは…っ」アセアセ

久「……」ジトッ

菫(竹井の視線が痛い…)ガクブル


菫(とはいえ、確かに、誰を誘うかという問題は、このチケットを有効活用するうえで重要な問題だ)

菫(今度の怪我で、一番迷惑を掛けた…)

菫(私を一番心配してくれて、私が一番恩返ししたい相手は…)


菫「……あれ?」

菫(待てよ……、照ってそういえば、長野は…)

菫「………」


菫「判った。すまんな、二人とも。ありがとう。なら遠慮なくいただこう」

ガシッ

怜「……受け取ったな?」ニヤ

久「受け取ったわね?」ニヤリ


菫「え…?」


怜「ほな、まいど~。それじゃあ快気祝いとして3万円徴収させていただきます~」

菫「へ…?」



久『何って、これ『快気祝い』の先渡しよ?』

菫「快気祝いの……って。それ言葉の使い方間違ってるぞ…」



菫(あれ、ちょっと)カタカタ


快気祝い・・・

病気、怪我をした側“が”、見舞いをしてくれた人“に”、
贈り物などのお礼をすること。



菫「」

菫「」

菫(はめられた……)


久「今日誘いなさいよー、善は急げってね!」


~夜~


菫「はぁ……」

菫(どうしようか……、一瞬照を誘おうかとも迷ったが、たしか長野出身だったはず……)

菫(世話になったとなれば、淡ちゃ……淡にも当てはまるしな……)

菫(しかし……温泉か)

菫(そういえば今日、部署の違う照とは顔を合わさなかったな…)

菫(……照と、シたんだよな。つい4日前に…)

菫(色々あったから……なんだか)


菫「………」



菫「長野………行ったことなかったが、どんな場所なのだろうか……」

菫「………調べてみるか」

菫「……」


菫「そういえば長野って近頃、魔境って呼ばれてるんじゃなかったっけ…?」

菫「……」カタカタ


~某巨大掲示板にて~

267 名前:love 山ノ神 ID:????
最近友達が長野に引っ越したから特徴あげてけ

268 名前:猫にゃー ID:????
おっぱい

269 名前:かじ ID:????
先輩と私の愛の巣

270 名前:咲さんかわいい ID:????
ノーパンでダッシュは国宝

271 名前: ワハハ ID:????
とりあえず魔境ですーっと

272 名前:カツ丼 ID:????
麻雀だろバカども
⊃【悲報】インターハイ長野県予選の会場が全壊していた…

273 名前: 世界二位さん ID:????
272 やばすぎワロタwww

274 名前: ID:????
うえの

275 名前:カツ丼 ID:????
行けばわかる、まず空気が違う。雑魚は麻雀やれば死ぬ



菫「」



菫「………」

菫「なんか、行きたくなくなってきたんだが……」

菫「……でも、麻雀のレベルは高いのか」



淡『強くなりたい…』

淡『けど、本当に強い人と練習する機会は少ないから…』



菫「……」

菫「……淡ちゃん」

菫「照……でも、アイツたしか、長野は妹が……」

菫「……」

ピピッ


prrrr


~竹井家~


prrrr


ガチャ


久「やっほー、起きてた?」

照『……久』

久「むふふ、そりゃ寝れないか。……どう?旅行の件、菫から電話来た?」

照『……』

久「合コンの件といい、今回といい。あなた随分遠回りするのね。素直に告白すればいいのに」

照『……うん』


久「最初に照に『菫を合コンに連れて行って欲しい…』なんて、言われた時は吃驚したもの…」

久「まー同郷のよしみだし、頼まれれば協力くらいするけどさ」

照『久……』


久「でも貴方たち、どう見ても相思相愛だもの。イケるってきっと」

照『でも、私から告白するわけには……』

久「……」

久「ま、貴方達の間に何があったのかは無理に聞かないわ」

久「話してくれるまでは、別にいいから」

久「でも、ここまでお膳立てしたんだもの。ちゃーんと向こうで決めて来なさいよね!」

照『……』



久「……照?」

照『あの、さ……』

久「ん?」

照『……菫から、電話こないんだよね……』ボソ

久「……えっ」


~オフィス~


ピッ


菫「あ……」

淡『あ、菫? ほんとに?』

菫「うん……本当に」

淡『あはっ……。は、初めてだね……菫が電話掛けてきてくれるなんて』

菫「ああ、そうだな……」

淡『えっと、何か用事……? えっ、あ、全然!用なんて無くても毎日電話OKなんだけど! でもちょっと、なんか珍しいなぁって…』

淡『あーやだもぅ、私、何緊張してんだろっ、なにこれ恥ずかし~~っ!』アワアワ

菫「ふふふ……」

淡『あ……っ』

淡『え、えへ、えへへ…』


菫「……」


菫「あのさ……」

淡『ん、うんー?』

菫「……」

菫「突然、なんだけど……」

菫「淡ちゃんの麻雀強化合宿も兼ねて……長野」


菫「冬休み……旅行、行かない?」

菫「一緒に。その、二人で……」


淡『え――――…』

とりあえずこんなかんじです。


翌日。

~オフィス~


久「すーみーれっ!」ダキッ

菫「!?……って何だ、竹井じゃないか…」

久「むふふ……おーはよっと!」


久「あー、そーそー。そういえば昨日の件、どうなった?」

菫「昨日の?」

久「もう~とぼけちゃって。旅行の話よー、旅行の話」

菫「ああ…あれか。まぁ…」

久「何よその曖昧な返事は…。私、その件が気になって、夜もまともに眠れなかったんだからね!」

菫「はは……また大袈裟な」

久「あははっ、バレたかー」


久「……それでさ、ほんとに、あれからどうした?」

久「あ、もしかして! ?まだ相手決められてない? それならそれで…」

菫「……いや、決めたんだ」

久「…っ」

久「へ、へー。……それで?」

菫「昨日…その、電話で誘って、それから…」

久「…………」

久「……ごめんなさい、間違ってたら言って。もしかしてその相手って」


ヴー…ヴー…


菫「…?」

久「あ、私か。……ちょっとごめんなさい。…ああ、この後会議なんだ…」ゲンナリ

久「あ、そだ。菫、今夜私と飲まない?」

菫「は? ?私は病み上がりだし、しかも今日は…」

久「いいじゃなーい。私と二人きり。あなた幸せ者よ?」

久「なんなら怜も連れてく?女の子ももれなく付いてくるけど」

菫「……」


久「ふふ……んじゃ決まり。あとでお店のスクショ送るから、現地集合ってことで」

久「じゃーね。逃げないでちゃんと来てよね!」

菫「逃げずにって…。まるで尋問でも受けるみたいじゃないか」

菫「ああ、わかったよ」フリフリ

久「よしっ、じゃあ読書の冬よ!今日もしっかり仕事しましょう!」タタタッ



菫「……色々ツッコミどころはあるが、とりあえず…」チラッ


>ドッサリ


菫「読書って……この書類の山のコト?」タラリ


~白糸台高校 麻雀部~

放課後。


淡「……」ペラ、ペラ

誠子「やっほ。淡~」

尭深「淡ちゃん」

淡「あれ、どうしたのー、二人とも?」

誠子「いやぁ…淡の可愛い顔が見たくなって」

尭深「久しぶりに部室来たくなったの。最近来れてないから…」

淡「二人とも引退して、もう受験期だもんね」

淡「でもこの前も遊んだのに…。もしかして受験ってらくしょーなの?」


誠子「えっ。う、うん、まあね。…あれ、可愛いはスルー?」

淡「ん?だって、ツッコミ所なんてナイじゃん?」
誠子「ま、そうなんだけどさ…」


尭深「誠子は淡ちゃんに抱き付いて欲しかったみたいだよ?」

誠子「ちょ、尭深っ!?」

淡「…えー。そっか、でもごめんねセーコ、私、本命いるからそういうのはちょっと…」

誠子「…………え? 本命?」

尭深「本命……好きな人?」

淡「う、うん…。まだ付き合えてないけど……できれば、みたいな?」モジモジ

淡「あはっ、ヤバっ、恥ずすぎっ///」カァァ


尭深「…淡ちゃん、猫みたいで可愛い」フフフッ

誠子「いや、淡は犬でしょ」

尭深「え?」

誠子「え、なに?」

尭深「……」

誠子「……」

尭深「……猫の方が可愛い、よね?」

誠子「犬でしょ、何言ってんの」

尭深「……」ゴゴゴゴ

誠子「……」ゴゴゴゴ


淡「ど、どっちでもいいから喧嘩はやめてよぉ~」アワアワ


誠子「さて、練習まだなんだね。私たちもそれまで、雑誌でも読んでるよ」

尭深「麻雀部で買ってる雑誌に、まだウィークリー麻雀TODAYってある?」

淡「あ、それね、誰も読んでないみたいだったから、私が監督に言って変えて貰った」

淡「『月刊ふわわんこ』に」

誠子「月刊ふわわんこ!? なにそのロマン溢れる名前!」キラキラ


淡「世界中の可愛い犬の写真月刊誌。部室にあるから、月に一度顔出せば全部読めるよ」

淡「バックナンバーも取ってあるから、もし良かったら遊びに来てね」

誠子「行く行く~! もう毎日でも行く~!」キャッキャッ





尭深「……誠子?」ズズッ

誠子「……!」ハッ



誠子「ん、んんっ……ごめんな淡、やっぱり毎日は行けないわ……」

淡「だから毎日じゃなくて、月一で来たら?って話じゃん!」



尭深(相変わらずこの麻雀部は、麻雀に部費使わないんだなぁ…)

尭深(10年くらい前の、エースのためにお菓子に注ぎ込んだ時代かららしいけど)

尭深(その時期の部長さん、相当エース中心に物事考えてたんだろうなぁ…)


夜。

~居酒屋~


菫「っ……くしゅんっ」

久「大丈夫? 体調良くなってなかったの?」

菫「いや…そんなハズは。おかしいな…」

久「誰かに噂されてるのかも?」フフッ

菫「まさか」ハハ


久「それじゃ、かーんぱい♪」

菫「乾杯」

カラン

久「ん、んっ……ぷはー」

菫「ふぅ」

久「あ、そうそう。今日は奢るから、好きなモノ頼んでよ」

菫「いいのか?」

久「無理やり引っ張ってきたの私だし、上司だし。…日頃の労いも兼ねて?」

菫「そうか…。じゃあ、お言葉に甘えようか」

久「うーい!」


菫「竹井はモテるだろ?」

久「えーやだ、なに突然? 口説いてんの?」

菫「違う。面倒見いいと思ってな」

久「だから……モテるって?」

久「……モテる、ね。 どーかしら…」フフッ

久「うーん、でもノーかな。全然よ」

菫「まさか」

久「ほんとよ。…私の場合、欲しいと思ったらモノこそ、ことごとくアウトって感じなの」


久「…ていうか、モテるってどういうことなのかしらね…」

菫「え? それは、そうだな。人から好意を寄せて貰える機会が多いこと?…」

菫「いや、いまいち…」

菫「こう、好きな人と両思いになれること。…うーん、違うか…」

久「まぁ、だいたいそんな感じよねえ~」


菫「竹井の見解は?どう思っているんだ?』

久「私?私は…」



久「パートナーにいっぱい大切にして貰えること、かな…?」



菫「……ほぅ」

久「……あはっ。やだ、何言ってんのかしらね、私ったら。ちょっと酔っちゃったみたい…」

久「お冷たーのも。菫は次、何飲む?」

菫「まだサワー一杯なんだが…」


久「あのさ、誤魔化すのも面倒だから、単刀直入に聞くわね」

久「旅行の件、誰誘ったの?」

菫「…淡だ」

久「……呼び捨て?」

菫「あ、いや…」


久「いいって、気を遣わないで。……それで、付き合ったとか?」

菫「いや、違うぞ」

久「でも、照じゃなくて淡ちゃんを選んだんでしょ?」

菫「…ああ、そうだな」

久「あ、えっと、攻めてるわけじゃなくてね」


菫「竹井は…優しいな」

久「えっ」

菫「凄く気を遣われているのが分かる」

菫「だが、申し訳ないが、今回の件では照は絶対に誘えない」

菫「照にとって長野は、何か因縁があると思うから…」

久「そ、っか…」

久「……よしっ」

久「少し、思い出話しない? お互いにさ」

菫「…は? 突然何を…」



久「じゃあまず私から! 長野県の公立、清澄高校出身です」


久「菫は、長野県の清澄高校って知ってる?」

菫「……清澄…? いや、すまない、わからないな」

久「ははは、そりゃそーよ。だって大会出てないし」

菫「…そうか、県予選で敗退したのか」

久「ううん、違うわ。敗退すらしてないの」

久「…まともな部員数が足りなくてさ、公式戦に出場できなかったのよね…」

菫「へぇ」

久「まあ田舎だからね、麻雀やりたい子はだいたい私立の強豪に集まるわけよ」

菫「それはまた…。ちなみにその、清澄高校には部員数は何人だったんだ?」

久「一人よ」

菫「………は、なに?」

久「だから、一人。私だけ。一人ぼっち。3年間一人で部活してたの」

菫「…………(絶句)」


久「一人で部活して、暇だから学生議会長……俗にいう生徒会長やってて」

久「で、あとそれから、行く所といえば知り合いの麻雀喫茶くらい?」

久「まこちゃん、っていう小さい娘がいてさー。よく一緒に遊んでたなぁ…」

菫「なんか……凄いな」

久「あはは、まあ何だかんだ楽しんでたけどね」


久「……それで、菫は? どんな高校生活を送ってたのかしら?」

菫「私か? 私は……別に普通だぞ」

久「私の普通と、菫の普通は違うでしょ?」

久「それとも何? 菫も白糸台高校麻雀部に居ながら、一人で部活してたわけ? たぶんそれは菫の人格に問題があると思うなー」

菫「違うから!」

久「ははっ、じゃあ勿体つけずにほらほら~」


菫「……」

菫「……私は、そうだな…」

久「なんでもいいのよ。ただ、菫の話が聞きたいだけなんだから」

久「どんなことがあって、どんなことを思っていたのか…」

久「ほんと、それだけ」


菫(このタイミングで思い出話―――照との話を聞きたいんだろう…)


菫「私の麻雀人生、そして高校生活は、照と共にあった。…と思う」

菫「とは言っても、初めから一緒に居たわけではない」

菫「照は1年の初めから虎姫だったから……レギュラーでない同学年の私たちと練習をすることは少なかったし」

菫「おまけに、照は感情表現が分かりにくい奴で、見た目通り、あまり気さくな方ではなかった」


菫「だから…その、たまに学年ごとの練習があった時も。なんというか、一人だけ浮いていて」

菫「本人はいつも無表情だったが、寂しそうにしているような気がした…」

菫「だから、話し掛けたんだ。『チーム戦において、孤独は罪だ』――とか適当に、話しかける理由を必死に探して」

菫「それで……それからか。二人の時間が少しずつ増えていって…」

菫「普段でも一緒になって、お菓子好きなこと、地理に疎いこと、読書家なこと」


菫「誰よりも麻雀を愛している、そんな照のことを、少しずつ知っていった――」

菫「気付けば、ずっと照の傍にいたいと思うようになっていた……」


久「………」


菫「最初は……ここまま、ずっと友達だと思っていた」

菫「一生モノの友達ができたんだと――」

菫「だが、照が2年生で初めて個人戦で優勝した日」

菫「……本当は彼女が、手の届かない存在なのだと感じた瞬間――」

菫「照のいる時間は安らかで、優しくて、幸せだったから。だから私はもっと、欲張りになってしまったんだろう…」

菫「告白して……その日、私たちは特別になった」


菫「ともに過ごす日々はあっという間だった」

菫「ずっと笑顔でいたような気がする…」

菫「それこそ……照の隣にいると、辛いことも苛つくことも、全てがどうでもよくなるくらい」

菫「……部員が100人もいるとさ、部長って結構大変なんだ。上手くまとめ上げられず泣きそうな時も、部員に怒り狂いそうな時もあった」

菫「そんな時は、いつも決まって近くに居てくれる照が、何よりも支えだった……」

菫「そうして高校三年のインターハイで、私たちは悲願の三連覇を果たした」


菫「インターハイも終わり、新学期が始まるまでの数日間…」

菫「照は『実家に顔を出す』と行って長野へ旅行に出掛けたのだが」

菫「数日後。…始業式の前日になって戻ってきた照は、まるで全国優勝なんて忘れたかのように、打ちひしがれていた…」


菫「そしてその翌日、始業式の日の帰り路に、私は照に、唐突に別れを切り出された訳だ…」

菫「あまりの深刻な雰囲気に負け、反論も無しにそれを受け入れて――」

菫「『わかった』と返事をして。…一瞬だけ勇気を出して盗み見た照の顔は、何というか…絶望したような顔だった――」


菫「その挙句、照はいきなり、確定していたはずのプロ行きを辞退」

菫「私は大学へ進学。照も大学へ進んだらしいが……卒業まで話し掛けることもできなかったから、よくわからない」

菫「……で。その後就職したら、偶然にも新入社員の中に照も居て」

菫「そして今に至る、って話」


久「そんなことがねぇ…」

久「ねえ、質問。なんで菫はフラれたのかしら?」

菫「……さあな。わからない」

久「え、その辺聞いてないわけ?」

菫「そんなこと聞ける様子じゃなかったんだ…」


久「外野が言うことでもないけどさ、ちゃんと話してみるべきじゃない?」

菫「そうだな、それは、そう思う…」

菫「だが、少なくとも今回の長野旅行には、照を誘う事はできない」

菫「わかってくれ」

久「そっか」

菫「すまないな」


久「やだ、なに謝ってんの。やめてってば」

久「むしろ照のこと、色々考えてくれてるみたいで…。正直驚いたっていうか、安心したっていうか…」

菫「なんで竹井が安心するんだ?」

久「へっ? いやっ、うーん。なんでだろっ!?」アセアセ


菫「ふふふ……、竹井の百面相なんて珍しいモノも見れたし、追及はしないでおくか」クスッ

久「ひ、人のことを勝手に珍獣みたいに言うのやめてよっ!!」

菫「ははっは、なんだ、結構可愛いところあるんだな」

久「あー、やめやめ!なんか変な流れになってる!」

久「おっし!尋問は終わったし、今日は飲むわよ~~!!」グッ

菫「はぁ…週末じゃないんだから、ほどほどにな…」


~1時間後~


久(手元のボトルは、いつの間にか空)

久(随分なペースで日本酒を飲み始めた菫は、どうやら遂に、酒に呑まれつつあるらしい…)

久(私も、もう何杯飲んだか数えるのも億劫になるくらい、ボトルのキャップを開けたり締めたり…)



菫「…………なー、竹井~?」ポー

久「…何~、菫…」

菫「……」

久「?…どうしたのー? もしかして気持ち悪いとか?」

菫「ん~……」

久「お~い、菫……ほんと大丈夫?」


菫「あのさぁ…」

久「ん? どうかした? もう出る? それともトイレに…」

菫「照」

久「……ん?」

菫「て~るっ」

久「え?なによ、いきなり…」

久(普段、こんな隙のある話し方する人じゃないでしょ、貴方…)


菫「えっ? って何だ、えって」ポー

菫「…そりゃ私だって、最初照の名前聞いた時は、珍しいと思ったけどさぁ…」

久「いや、何の脈絡もないから思わず聞き直したんであって、別に照という名前にどうこうなんて…」


菫「……照の奴。そういえば昔、小学校の頃『照れテル』とか男子に毎日言われてて、自分の名前大嫌いだった、とか言ってたっけ…?」フフッ

菫「咲って名前が良かった~っ、とか訳のわからない事を呂律の回らない口で呟いて、よく泣き出してたっけ…」


久「…………へぇ、まあ照可愛いしね。てことはアレ?好きな子イジメちゃう的なアレ的な?」


菫「でも、私と出会ってからは、照、自分の名前気に入ってるんだって」

菫「菫が呼んでくれるから、って。言ってくれたのになぁ…」


久「あー、わかる。好きな人に名前呼ばれるのが、案外地味に幸せだったりするのよねー」

久「ちなみに私はあだ名を付けられるより、ストレートに名前呼び捨て派かなー」


菫「……うっ、ぐすっ……くっ」ポロポロ


久「……ぁ……」

久「よしよし……」ナデナデ


久「……心配して、損した」

久「なんだぁ。やっぱ、両思いじゃん……貴方たち」グスッ

久「や、やだっ。なんか、私まで泣けてきちゃったじゃないっ…」ポロ…ポロ…

久「や、ウソっ……やば、マジ?こんの、ちくしょぉ…」ポロポロ

久「居酒屋の個室で泣いてる酔っ払い二人とか、マジ地獄絵図なんだけど…っ」ゴシゴシ

久「明日目が腫れてたら、思いっ切り叩いてやるんだからぁ~!」グスグスッ





菫「んっ………淡ちゃ……zzz」


久「」

久「…」

久「へぇ………寝言で呟くのは、淡ちゃんなんだ?」シラー

久「っ……わ、私の涙返せっ、このバカぁ…!」ポカッ

とりあえずここまでです。
また水曜か木曜に更新できれば。


菫(夢を見ている…)

菫(笑顔の彼女が、私の隣を歩いている夢…)

菫(…彼女の笑顔に笑顔を貰い、私の笑顔に彼女がまた笑み掛けてくる)

菫(…幸せの連鎖)

菫(でも一度目を離せば、見失ってしまいそう――)


『――…! …す――?』
『――れ…? すみ――…』



菫(意識の外から、声が聞こえてくる…)

菫(私はその声を聴いて――)



・目を覚ます

・目を覚まさない



※√分岐点です


>>目を覚まさない



??「……もしもし。もしもーし……」トントン

??「大丈夫?」

菫「え……」

??「どうしたの? 酷く酔ってるみたい…」

菫「あ、ああ……お前は……」

菫「照……?」


照「うん。菫、気が付いたんだ。よかった……。ふふふ♪」

菫「…………」

菫(私は少なからず動揺していた)

菫(なんでここに照がいるのか…)

菫(向かいの席で一緒に飲んでいた筈の竹井は、一体どこへ行ったのか…)


照「お酒、だいぶ飲んだの?」キョロキョロ

菫「あ、うん…っ、痛…」ガンガン

菫「すまん……少しだけ。すぐに…っ」

菫(喋ると頭が痛む。というか話しかけられても結構痛む)

菫(急いで姿勢を直そうとしても、机に突っ伏す体は鉛のように重い…)


照「……。どこかで休もうか?」

菫「休む…? あ、ああ…そう、だな。休みたいな…」

照「じゃあ、待ってて。いま、タクシー呼ぶから」
菫「……?」

照「…あ、もしもし。タクシーを手配していただきたいのですが。…はい…はい。ええ、場所は…」


照「じゃあ、こっち……一緒に来て。タクシー、もう軒先に着いたって」

菫(私の手を引く照の手は、酷く温かい……まるで風呂上りみたいに)

菫(誰かと手を繋ぐのは、こんなに温かいのか…)


~弘世家~


ガチャ

照「お邪魔しま~す。……ほら菫、靴脱いで」

照「えっと……菫、照明どうしようか。暗めがいいよね?」

菫「んん……」

照「ベッドに、寝かせるよ? せーのー…せっ」

ごろん

菫(視界が反転した――)

菫(ベッドに寝転んだのだろうか…くらくらする)


照「大丈夫? えっと、どうしよう…とりあえずお水、飲んだ方がいいかも…」

照「……と、思うんだけど…。どうかな?」

菫「あ、ああ……」

菫(甘い声が耳をくすぐる。頭痛と共に)

菫(照の言葉はどれも自信なさげな疑問形で、所作もどこかぎこちない)

菫(こういった介抱に慣れてない様子があって、それをどこかぼんやり嬉しく思っている自分がいる)


菫「……み、ず……くれ…」

照「あ、うんっ。待ってて」タタタッ

菫(私の息は間違いなく酒臭いし、顔面は蒼白だろう)ハァ

菫(照の前で、恥ずかしい…くそっ。なんでこんなことに…)


菫(蛍光灯がまぶしくて、思わず頭を庇うように体を丸める)モゾモゾ

すると――

菫「ぅ……ぅぇ……」

菫(冷や汗がどんどん溢れ出してきた)

菫(気が遠くなる感覚の中で、不快感に無理やり現実に引き戻される)

菫(汗が出る。全身が震えだす)


菫「てぅ……。ト……イレに――」

照「うん――」


菫「はぁ、はぁ…はぁ…」

照「大丈夫?」

照「はい。…お水、持ってきたから……」

菫「あ、ああ……」

菫(照は私のすぐ横にしゃがんで、水のペットボトルの口を開けてくれた)


菫「ん……んっ……」ゴクゴク

菫(口の不快感と臭いを、一刻も早く消し去りたい)

菫(もう今更だが、それでも照に不潔と思われたくなかった…)


照「急がないで。…もう一本、持ってくるね」

菫「……悪いな、照。助かる…」

照「それは言わない約束。…大丈夫だから、無理しないで」

菫「ん……ありが――ぅぇ」

菫「……っ、ごめ……、また吐くかも……だから」

照「うん。辛いよね、ごめんね…」

照「大丈夫だよ、今度はちゃんと傍にいるから…」サスサス

菫「……っ、ぅ、ぅぇえ……っ」

照「……」サスサス


照「すっきりできた?」

菫「たぶんな…」グッタリ

照「ぐったりだね。お風呂は……やめといた方がいいかな。服、脱いで……。楽な恰好になろうか?」

菫(照は慣れない手つきで、でも自然な仕草で私のシャツに手を掛ける)

菫「…………」

照「……っ///」

照「……えと、下も脱いでっ。その後、ベッドで休もう?」ドキドキ

照「あ、その前に、濡れタオルで体拭くね?」アセアセ

菫「……な、んで……」ボソッ

照「え……?」

菫「なんで……ここまでしてくれるんだ……」

照「…………」

照「……菫のこと、大切だから…」


照「ごめん……菫……」

菫「なん、で……」

菫(今、こうして情けない姿を晒して迷惑掛けてるのは私で、高校時代の照を支え切れなかったのも私で…)

菫(本来謝るはずなのは私の方なのに…)

菫(なぁ照……お前、何を謝っているんだ…?)ホロ…


照「泣かないで……。大丈夫、明日の朝は、私がちゃんと起こしてあげるから」ナデナデ

照「そうだ、替えの下着と寝巻…。…タンス開けるね…」

照「菫、眠いよね、ごめんね……もうちょっとだけ頑張って。そのままじゃ風邪ぶり返しちゃうから」

照「少しだけ腰浮かせて……。そう……うん、ありがとう」

照「よいしょ。うん。はい、おっけ」

照「いいよ。どうぞ。横になって――…」ポンポン

照「どう? 毛布二枚で寒くない? もう一枚いる?」


菫(照と居ると、時間は穏やかにゆっくりと流れていく)

菫(辛い事なんて、何も無かったような気がしてくる)

菫(横になって温かくして貰って)

菫(……アルコールが醒めていくとき特有の頭痛と寒気が、僅かに和らいだ気がした――)




菫「てる……」


照「ん?」


菫「…………ありがとう……」


照「――――――……うん…」



菫(照の前でこんなに気を抜いたの、初めてかもしれない…)

菫(照の前では、頼られる存在でいたくて、気を張って…)

菫「それで……」


菫「zzz……」


照「……菫…?」

菫「ん……zzz」

照「寝た……のかな……」

照「ふふふ……相変わらず、子どもみたいな寝顔ですねー。菫は♪」ツンツン

菫「zzz……」


照「………」

照「…私ね、菫の介抱できて、今凄く嬉しい…」

照「ははっ……最低だよね、私…」

照「高校時代の菫は、いつも私を見守って、守ってくれて…」

照「なのに私は……麻雀しか取り柄がなくて…」

照「…その麻雀も、全国優勝しただけで、小学生の咲相手にまるで歯が立たなかったけど…」


照「私は…菫にも、私のこと頼って欲しかったんだ…」

照「……必要とされてるって、実感したかったの…」


照「菫はいつも、私を見て微笑んでくれてて。……でも、菫に必要とされてる気がしなかった」

照「私がどれだけ迷惑掛けても、怒ることもなければ、泣くこともなくて」

照「恋人としてっていうか、対等に見て貰えてないような気がした――」

照「もっと色々な感情を、見せて欲しかったの……」

照「………」

照「でも、だからって…あんな試すようなことして…」

照「結果、菫のこと傷つけてちゃ、世話ないよね…っ」


照「菫……」ナデナデ

照「もう、クリスマスだね……」

照「……菫は私のこと、許してくれるかな? 今度こそ私のこと、必要としてくれるかな?」

照「他に本命の人……長野旅行に誘った人のこと、好きなのかな…」


照「……」

照「……っ」チュ

照「おやすみなさい。…菫」

照「ぁ……私、明日着ていくスーツどうしよ…」

照「あふぅ…まあ明日起きてから、朝一で着替えに帰ればいいかー…」ポス

照「………」ジィ

照「この光景……久しぶりだなぁ」

照「ふふふ……今夜こそは隣で寝かせてね?」ギュッ



ヴー…ヴー…


照「……?」

照「なに……どこ、スマホが鳴ってる?」

照「……私のじゃない」

照「菫の…?」



ヴー…ヴー…


照「………コール、長いな。電話かな?菫のこと起こすべき?」

照「仕事の電話とかだったらマズイよね…?」

照「ごめん。非常識だけど、相手だけ確認させてね…」

照「……」ゴソゴソ


着信♪
From : あわい


照「え……」

照「あわい……って……」

照「…?」



ピーンポーン


照「ひゃあっ!?」

照「え……ぁ、こんな時間に来客…!?」

照「えっと……うそ、どうしよ…菫寝ちゃってるのに…」



スミレー イナイノー!?

リョウノモンゲン スギチャッタノー!!

オネガイ トメテー!!



照「――――え?」

照「…………この声って……まさか」

照「……っ」スタッ


ガチャ


淡「あーもうやっと開けてくれたぁ。駅前で待ち伏せしてたのに会えない上、電話にも出てくれなくてマジ焦――……て……」

照「……」

淡「ぇ……」

照「……」


淡「……テ、テル…?? えっ、なんでテルがこんな所に…っ」アワアワ

照「……それは、こっちの台詞なんだけど…」

淡「えっ、え?え、だってここ……スミレの家じゃ…」

照「…………」

照「……とりあえず、部屋の中に入りなさい」

照「このままじゃ体冷えるし、こんな時間じゃ学生寮の門限も過ぎてるでしょ…?」

淡「……」コクリ


照「……淡は、菫とどこで知り合ったの?」

淡「えっと……友達に食事会に誘われて……」

照「食事会……?……え、まさか…っ」

淡「テルは…? その、スミレとはどういう…」オドオド

照「私は……」

照「職場の同僚……」

淡「あ、なんだぁ……よか――」





照「――兼、元恋人」

淡「こっ……!」



照「ねえ淡……」



照「……コイバナ、しよっか?」

照「どうやらお互い、積もる話も多そうだ…」


少しだけ用事に。
またあとで、残りあと少し更新します。


照「……」

淡「……」

淡「それで…、話って…?」

照「…………」

淡「……テル?」

照「え?……あ、うん。そうだね、そうなんだけど」

照「でもごめん、自分で言っといてなんだけど、とりあえず…」

照「………コンビニ」


照「お菓子、買いに行こっか?」ニコッ


淡「え…?」


照「……」テクテク

淡「……」トボトボ

照「静かだね…」

淡「え…っ、あ、うん…」

照「……さっきはごめん。ちょっと驚いて、言い方キツくなっちゃったから…」

照「それに、頭も冷やしたかったし…」

照「…菫がね、ベッドで寝てるんだ。お酒の飲み過ぎで」

淡「えっ…」

照「あ、でも大丈夫だから。今はもう…」

淡「そっか……」

照「思えば私達、いつもお互いの好きな人の話で盛り上がってた…」

照「でもまさか、狙ってる人、一緒だったなんてね……」

淡「……」

照「……私から、話そうか」

淡「うん……。」

照「あのね――」


照「――私の言葉のせいで、関係は終わっちゃったけど、社会人になってまた再会して…」

照「今……菫とこうしてまた話せるようになったの、やっと」

淡「………」


照「淡はさ……私みたいにやり方を間違えて、それで誰かを傷つけた人は、いつまで許されないものだと思う?」

淡「……分かんないよ、そんなの」

照「私はね、『一生』許されてはいけないと思うんだ」

淡「えっ…」

照「だってもう、その人と幸せになる資格はないから」

照「残りの人生は、菫に近づかないで、償いと反省に使うべきだと思った…」

照「身を慎んで、楽しい事から遠ざかって。…喜びから遠ざかって生きるべき…って」

淡「……」


照「…でもね、ダメだった」

照「私、今の仕事好きだし、今の職場は楽しいし、ご飯も毎日美味しくて、」

照「そして、極め付け…」

照「…――毎日大好きな人に会えて、それで笑ってたりしちゃうんだ」

照「それで歳甲斐もなく、胸をときめかせてたり…」


照「だからね、考えを改める代わりに、決めたの――」

照「誰に許して貰うとかじゃない…これを許して貰えるのは、菫だけだから…」

照「だからもう一度、菫に告白して貰えたら…って」

照「その時はきっと――菫が私の罪を許してくれた時だと思うから…」

照「私が幸せになるには、やっぱり菫が必要…今も昔も」

照「だから――ねえ淡…」


照「…菫から手、引いてくれないかな?」

照「脳裏にこびりついた、菫の悲しそうな顔」

照「すべてを清算して…そして菫を幸せにできるのは、私だと思うから」


淡「……」

淡「スミレの幸せとか、言われても、私よく分かんないよ…」

淡「でも…テルにとってはそんなに、スミレとの高校生活は幸せだったんだ…?」

照「うん、そうだよ」

淡「っ本当に? 思い出を美化してるだけじゃないの? テルにとってのスミレって、そんなに素敵な人だった?」

照「……なにが言いたいの? 菫との生活が生涯最高の思い出じゃ悪い?」

淡「いいわけないじゃん。嫌いになってないのに別れようって言ったの? 冗談でも訳わかんないよ!」

照「だから説明したでしょ…、それは――」


淡「私なら、好きな人のこと絶対離さない!嫌われても、ウザがられても、直す努力する!」

淡「だって…スミレの傍に居たいもん!」


淡「…一回でも、振り向いてさえ貰えれば!」

淡「ましてや、自分からフるなんて…っ」プルプル

照「…………」


淡「悪いけど、テルの話、私全然理解できない」

淡「テルのそれ、自慢にしか聞こえないよ」

照「…菫は、私が独りの時、いつも声を掛けてくれるの」


照「周りの目とか全く気にしないで、迷わず私の隣に来てくれる…」


照「優しいところが好き…」

照「私にとっての、王子様なんだ」



淡「…そんなことないよ」

照「え…?」


淡「スミレはね、確かに、ちょー優しいよ!!」


淡「でも、ちょーーちょーー、ちょーーーー周りの目、気にするよ!」


淡「出逢ってばっかの頃なんて、私と会う度に子犬みたいになってたし」


淡「ホテルから出た直後とか、離れて歩こうかーなんて言ってくんの。デリカシー無さ過ぎだし、そんなの嫌に決まってるし、ほんと!」


淡「それから、まじムカつくくらい用心深くて、言い寄ったらむしろ逃げてくし!」


淡「メールシカトしてきて、でも泣きながら電話したら出てくれて…」


淡「あとそれから、スミレは、迷わず人を助けたりだとか、そんなヒーローみたいな人じゃないと思う!」


淡「スミレとか本当、会う度にいっつも何かに悩んでる…!」


淡「…私の言葉に色々考えて、悩みながら、一つ一つ、ちゃんと反応してくれるの…」キュッ


照「……淡にだけかもしれないでしょ?」

淡「そうかもしれない……。でも、私が言いたいのはそう言う事じゃなくて」

淡「私の知ってるスミレは、全然カッコ良くなんかなくて。…どっちかというと『可愛い』だし…」


照「…何? 何が言いたいの?」

淡「つまり、えっと…」

淡「何て言っていいか分かんないんだけど、私が言いたいのはつまり…」

淡「…テルの見てる格好良いスミレって…」

淡「――本当のスミレなの?」

照「――――え?」


淡「テルさ、ちゃんとスミレのこと見えてる?」

とりあえずここまで


―――弘世家。


菫「zzz…」

菫「ん…」

淡「……」ツンツン

菫「………ん?」

淡「ばぁ!!」

菫「きゃぁぁああ?!」

淡「あはははっ、スミレ超驚いてる~、可愛い~」

菫「あ、れ……私は……痛っ」ズキズキ

淡「はい、スミレ。喉乾いてるでしょ、ソーダ飲んで」

菫「ああ、えっと…ありがとう…」

菫「ごく…ごく…」

淡「知ってた? しじみよりも、スプライトの方が二日酔いにいいらしいんだって! 昨晩テルと一緒にコンビニ行ったの」

菫「そう、なんだ……」



菫「あれ、照は…?」

淡「テル? 会社行くための準備があるからって、六時前に家出て行ったよ」

菫「そうか…」

淡「うん」

菫「……ん、あれ? なんで淡がここにいるんだ」

淡「まだ寝ぼけてるの? だって昨日私もここ泊まったんだもん、トーゼンじゃん?」

菫「そ……なんだぁ。」

菫「…………」

菫「…?? あれっ??」

菫「ちょ、ちょっと待ってくれっ、いつの間に淡ちゃんがうちに!」

淡「だから、昨日夜スミレの家に泊めて貰ったんだよ」

淡「スミレは寝てたみたいだから、テルとしか会ってないけどさ」


菫「ああ、そうか…。照が入れたのか…なるほど。通りで覚えてないわけか…」

淡「スミレね、すっごいスヤスヤ寝てたよ! テルがね、お酒の飲み過ぎだってさ」

菫「……なんか、少し思い出してきた気が……」

淡「テルに介抱して貰ったらしいじゃん? てかテルとスミレ、同じ会社なんだってね」

淡「私、全然知らなかった」

菫「ああ……。それは、テルから聞いたのか…」

淡「うん。でさ、実は私たち、ちょっとした知り合いなのね」

菫「……え? なにその横のつながり…」

淡「そりゃそーよね。その反応になるよね」

淡「テルとね、昨日…話したよ。色々、いっぱい話した」

淡「スミレとテル、昔付き合ってたって話、本人から聞いたよ」

淡「別れた時の話も…聞いた」

菫「…うん」


淡「スミレ、今もテルのことが好きなの?」

菫「……うん、そうだ」

淡「そっか…じゃあその、告白とかってする予定は…」

菫「……」

菫「私は、フラれた側だからな……。また付き合えるとは、思ってないさ」

菫「学生の頃は、言葉少なな照の、その僅かな表情の変化から感情を読み取っていたが」

菫「……その解読が果たして当たっていたのか……」

菫「もっと、照の気持ちを汲み取れてあげられたら良かった……」

菫「未だに何故フラれたのかすら分からない、どうしようもない奴だから」

菫「全部私が悪いのに、勝手に落ち込んで、ほんと馬鹿だろ?」ニコッ

淡「…~っ」プルプル


菫「そうだ…、今何時かな?」

淡「……七時前、だけど」

菫「そうか…そろそろ準備を始めないとっ…っとと」ヨロッ

淡「…!」ダキッ

菫「ありがとう…支えてくれて…」

淡「……」ギュッ

菫「淡ちゃん……?」

淡「……私ね、スミレのこと好きだよ」

淡「ヒサと晩御飯食べた時、悩みながらも、ちゃんと私を迎えに来てくれたの。凄く嬉しかった…」

菫「ありがとう……。私も淡のことは、とても好ましく思ってるよ」


淡「私、スミレの魅力、ちゃんと知ってるよ」

菫「うん」

淡「…スミレはね、いつも悩んでるの」

淡「あのね、私はね、迷うって凄くいいことだと思うの。わかる?」

菫「そう、かな…」

淡「だってさ、プログラムは迷わないよ。インプットされた通りに動くだけじゃん? でも人は迷うことができるの」

淡「…まとめるとさ、スミレは、迷いながらも行動してるって。それだけなんだけど――」

淡「でもそれって、私はすごいことだと思うんだ」


淡「だって、迷うっていうことは、まず自分のなかの弱さとか葛藤、そういうものに出会うってことで」

淡「何か行動を起こすのは、……それらに打ち勝って、選んでくれたってことだから」

淡「もしスミレがそれで、楽な方へ逃げないで、ちゃんと前に進んだなら」

淡「つまりそれは、弱い自分を知って、乗り越えたってことにならない?」

淡「いいこと、悪いこと。楽なこと、難しいこと」

淡「大丈夫。……スミレは、強い人だと思うよ」

淡「ちゃんと考えて、悩んで迷って」

淡「より良い自分になろうと頑張れる人だから…」

淡「スミレは自分で思ってる程、ダメな人じゃないよ」

淡「それに……」


淡「…私ね、テルと話して思った。やっぱりスミレは悪くないよ」

淡「悪く…ないんだよ…」

菫「励ましてくれてありがとう。けど、もう大丈夫だよ。私」

淡「大丈夫って? …これからどうするの?」

菫「正直、まだわからない。でも、もう一度話してみないとって思ってる」

淡「また会うつもりなの? テルに」

淡「……あの最低女に」

菫「このまま芽を摘ませるわけにはいかないんだ。納得できないし、照に対してあまりに不誠実だと思うから」

淡「……不誠実なのはどっちよ」


菫「別れるにしても、元に戻るとしても、私が動かないと。きっと何も変わらない気がするから」

淡「私には…よく分かんない」

菫「…そうかな」

菫「でも、迷って、それで行動しようって。私のけじめをつけるためにも…」

淡「私が分かんないのはね、テルの方なんだ」

菫「え…?」

淡「私…このままじゃ宮永照のこと、嫌いになりそう」

菫「あ、淡ちゃん…?」


淡「だってっ、だってそうじゃん? 自分の都合で非のないスミレのことフッといて、今頃になって何様なわけ!」

淡「スミレはテルのために一生懸命頑張ってたのに、ちゃんと向き合おうとしてるのに…」

淡「『また告白して貰えたら…』とか!」

淡「ほんっと何様よ、あの女!! 甘えすぎだしっ!」

淡「絶対頭沸いてるって!!」

菫「ご、ごめん…って、うん? 『告白して貰えたら』って…?」

淡「うっさい!そういうとこばっか反応しないの!」

菫「は、はい…」アセアセ

淡「そこよそこ! だいたいねぇ!?なんでそこでスミレが謝るの!?」

淡「なんでテルの代わりに、何でもしようとしちゃうの? 甘やかし過ぎだから!」

淡「テルにいいように使われてるのが、なんで分からない!?」

菫「そうじゃないんだ…。ただ淡ちゃんは誤解してるだけで。きっと、淡ちゃんは仲良くなった私に感情移入しすぎて…」


淡「感情移入して何が悪いの!? それに私、何も誤解なんてしてない。だって、本当に菫は何も悪くないもん!」

菫「違う! テルは悪くない!」

淡「なに! じゃあスミレは私が悪いって言うわけ!?」

菫「…なに言ってるんだ。淡は全然関係ないだろ」
淡「じゃあどうしたら関係あることになれるのっ!?」

菫「……」

淡「てかさ、ぐすっ…だって、だってさぁ…っ」

淡「好きな人がこんなに苦しんでるのに、他人事になんてできる訳ないじゃんっ!」グスッ

淡「好きな人に振り向いて貰えないのって…、ほんと凄い辛いのに…!」

淡「ほんとアイツ、…マジむかつく…!!」ポロ…ポロ…

淡「私だってっ、…私だって…本当はっ…」

淡「うぇぇ…ぅぇぇぇぇ…っ、ふ、ぅぁ…ぁぅっ、ぅ~っ!」

菫「淡ちゃん…」


菫「…淡ちゃんは、凄くよく人のことを見ているな…」

淡「っ…えっぐ…えへへっ、ぐすっ…」

菫「くすっ」

菫「ありがとう…淡ちゃん、私のために泣いてくれて」

菫「少しだけ、救われたような気がする…」

菫「…頑張ってみるよ」

淡「……もし」

淡「もし…一人のとき、誰かと一緒に居たくなったら、電話でも何でも、私のこと呼んで…っ」

淡「私…どこまでだって菫のこと、抱き締めに行くから…!」

菫「ありがとう」


淡「えぐっ……そういえばさ、クリスマスイブは私と一緒に過ごす話、覚えてる?」

菫「……ああ、そういえばそんな約束したような…」

淡「忘れたとは言わせないからね!」

淡「…お願い、一日だけ、私に菫の時間をください」

淡「それだけ…それだけでいいから…」

菫「……わかった」

淡「ありがとう…」


淡「えっと…じゃあ明日、クリスマスイブ、夜予定空いてる?」

菫「っ……まあ、今のところな…」

淡「ふぅん。そっか……。うん」

淡「そんじゃね、明日の夜九時、絶対家に居て!」

菫「夜九時以降に……、外出しなければいいのか?」

淡「うん!……約束できる?」

菫「ああ、わかったよ」

淡「……うんっ」


淡「っ…じゃあ私! 学校行ってくる!」

菫「えっ、まだ七時じゃないか。もう少しゆっくりしていっても…」

淡「いいの! 寮に戻ってしたい事あるし」

淡「じゃあね…スミレ!」ニコッ

バタン

淡「……」

淡「……」ピピッ

prrrr...

淡「あ、テル……? 今忙しい? 忙しいよね、じゃあ要件だけ」

淡「明日、先約ないでしょ? 夜七時に、ハチ公前で待ち合わせね」


淡「…『罪だから』とか意味不明な言い訳して…逃げて」

淡「そのくせ、スミレに中途半端に飴ちらつかせて」

淡「……いつもそう。テルって、自分はリスクを背負わないまま、何とか巧く自分の望む方へ持って行こうとするんだ…」

淡「テルの能力『照魔境』だってそう……」

淡「誰かが自分のために行動してくれるのを待ってるだけ…。」

淡「相手の出方が分からないと、怖くて行動できないの」

淡「テルのそういう臆病なとこ、変わってない」

淡「それどころか、むしろ拍車がかかってんじゃん…」

淡「今まではそれで何とかやって来たのかも知んないけど、今度ばかりは私が許さない」

淡「…絶対に、テルの思い通りにはさせないから…」


―――オフィス。


久「す~み~れっ!」

菫「っ、な、なんだよ…」

久「ち、ちょっと…なんでそんな警戒するのよ!」

菫「私は知ってるぞ。…今までの経験則からいって、どうせ今回も何かの誘いだろ?」

久「……まぁそうなんだけどさ?」

久「でも今日のはそういうのじゃないわよ」

久「明日クリスマスじゃない? だから独り身同士仲良く、皆でクリスマス女子会しよーぜ! っていうお誘い」

久「どうする? 去年みたくまた焼肉でも行く?」

久「……それとも、もう予定入っちゃった?」ニヤ

菫「…まぁ、先約があるんだ」

久「!……へぇ…」


菫「…だいたい竹井、お前、昨晩私を置いてどこに行ったんだよ…」

菫「居酒屋で目が覚めたら、照だけ目の前にいて、本気でびっくりしたんだが」

久「あー、それね。照に連絡したのよ、菫のこと迎えに来てあげてってさ」


菫「……竹井って、やたら照と仲いいよな…」

久「そ?…まあねぇ。同郷のよしみだし、照いいコだから」

菫「竹井って。やっぱ、無駄に面倒見いいよな?」

久「ま~ね~。本命以外にはワリと、ウケはいいのよ~?」

菫「あんまり無茶して、早死にしないで下さいよ。上司」

久「ねえ菫…?」

久「…好きな人が嬉しそうな姿ってさ、ずるいよね」

菫「…はぁ? 急になんだお前…」ドンビキ


――翌日。


夜七時。
ハチ公前。

照「……」テクテク

照「お待たせ」

淡「うん、じゃあ行こっか――」

淡(もう七時……スミレと約束した時間まで、あと二時間)


―――繁華街。


照「ごめん、さすがにお腹空いたかも。どっか入ろっか」

淡「うん、でも軽めがいいなぁ、私」

照「そう?今日はクリスマスだし、ちょっと高級店に連れて行ってあげようかと思ってたんだけど」

淡「そうなんだぁ」


淡「……もしかして、私と一緒に行くために?」

照「当たり前でしょ。他に誰がいるの?」ニコッ

淡「……ふーん?」

淡(この無駄に人当たりのいい笑顔…)

淡(スミレは今夜、私との約束があるから……。だからテルは、今日誘われてないんだ…)

淡(テルの笑顔、不機嫌が滲み出てる…)

照「ならこの近くにあるアジア屋台料理店にしようか」


―――アジア料理店。


照「このお店ね。トムヤンクン美味しいし、無料でパクチー大盛とかしてくれるんだ」

照「穴場でさ、職場の友達とかとも結構一緒に行くの」

淡「えっ、屋台だから安いかと思ったけど、メニューの金額全然安くないじゃん!?」

照「クリスマスだから、多少は贅沢したって罰は当たらないよね」

照「大丈夫、味は保証する」

淡「なにこれっ、アジア料理なんて名前だけじゃ分かんないよ~!」

照「ふふっ…、ファミレスもいいけど、メニュー表に写真が載ってない店にも、少しずつ慣れていこうね」

淡「むむむ……この『カオマンガイ』って何?」

照「鳥だしご飯に鶏肉が載ってて、そこにピリ辛のタレがかかってる、料理…だったかな?」

淡「疑問形じゃ困るんだけど!」


照「学校の方はどう? そろそろ虎姫の新規メンバーも揃って、練習がキツくなってくる頃だと思うけど」

淡「うん…。でも、まだまだ練習不足。一年生もいるから、今は緩い雰囲気で練習してる」

淡「でも…もう冬休みに入ったから、もう練習中に雑談なんかしてられなくなる」

照「そうだね…、虎姫が緩い雰囲気でいられるのは、この時期までだもんね」


淡「それからね、…今年の年末年始は、麻雀合宿に行くし…」

照「…麻雀合宿? へぇ。なにそれ、友達とどこか行くの?」

淡「友達っていうか、まぁ。知り合いとね」

淡「温泉旅行も兼ねて、……長野まで…」

照「長野…」

照「…………淡だったんだ、あれって」ボソッ

照「…そっか、頑張りな」

淡「……うん」


淡「……よし、決めた!」

照「どれにするの?」

淡「カオマンガイ! テルのおススメだもん、きっと美味しいだろうし」

照「そっか」

淡「テルは?」

照「来てからのお楽しみ、来たら少しずつ交換しよう」

淡「うん!」



照「そういえばこの前白糸台に行ってさ。あの学校、かなり校舎の規模が大きくなっててびっくりした」

淡「そーなの? よく分かんないけど」

照「もう、自分の学校なんだから…」


淡「まあテルとは世代がねぇ…。お水おかわりいる?」

照「ありがとう、淡」

淡「照ってコーヒー派? 紅茶派? お茶派? お茶といえば部活の先輩でめっちゃお茶飲む先輩いてさ」

淡「その人の淹れるお茶がほんと美味しくて。あれ何なの? 100g一万円程度だよ、って教えてくれたけど、高いのか分かんなくて」

照「100g一万円って。……最高級茶葉?」

照「そんなお茶を……普段飲んでるの……?」

淡「え? いや、もうタカミ―引退しちゃったから飲んでないけどね。おかげで学食の無料のお茶が飲めなくなっちゃって」

照「だろうね……」タラリ

淡「ほんと私立なんだからもっといいお茶買えばいいじゃんね~」

照「…? 白糸台って公立高校のはずだけど…」

淡「ええっ!? 白糸台って私立じゃないの!?」

照「……あれ、どっちなんだろ……」

淡「あ! ね、ね、聞いて聞いて! 校舎といえばねテル~ふふふ♪ あんねぇ、――」


淡「美味しかったぁ、ごちそうさま!」

照「いえいえ。喜んでもらえて良かった」

淡「今の時間は……」

照「八時過ぎ、だねぇ」

淡(スミレとの約束の時間まで、あと一時間――)


淡「……ねぇ、テル」

照「どうしたの?」

淡「ちょっとお腹いっぱいで休みたいなぁ。公園とかで休まない?」

照「寒くない? 大丈夫?」

淡「うん、大丈夫」

照「………。わかった、いいよ。公園に行こうか――」


―――繁華街。


照「そういえば、淡とこうしてどこかに出掛けるって、かなり久しぶりな気がするね…」

淡「そうだねー」

照「大学時代に一回くらい……あったっけ?」

淡「テルが大学生になった時に、うちでお祝いしたんだったよね」

照「ああー…、うん、そうだった。」

淡「てゆーか、もうちょっと最近であるのに~…」

照「ふふふ…」



ざわ… ざわ…

「あれ、あそこにいるの、大星淡と宮永照じゃん?」


淡「!」ビクッ



「え? 大星淡は知ってるけど、宮永って誰?」

「10年くらい前のインハイチャンプ。プロ行きが決まってたのに、急に取り止めた選手だよ」

「へーーー」

「大方、プロ行くのが怖くなったのよ。高校三年間負けなしだったもんね」



淡「……っ」ブチッ

淡「……」スタスタ

淡「今の言葉、取り消して」

「え?」


淡「今、テルの悪口言ったでしょ。アレ、いいからすぐ取り消しなよ」

淡「テルのこと何も知らないくせに…っ!!」

淡「テルっ、すごい人だから! 馬鹿にしたら許さないから!」ゴッ!!

照「あ、淡…? 止めなって」

淡「照は戦ったら最強だもん! 戦ったら、私も勝てないくらい、誰にも負けないんだから!」

淡「アンタたちなんて、一回もアガれずにトビだから!」

照「淡止めて、問題になったら出場停止とか…」


淡「なんで? あんなこと言われて、テル悔しくないわけ!?」キッ

照「プロ行き辞退したのは本当だから…」

淡「っ…なんでそんな腑抜けになっちゃったの…?」

照「……。いいから、気持ちを静めて」

照「公園まで歩こう」


―――公園。


照「公園なんて、ほんと久しぶりだなぁ。高校生の時に来たことあったけ?」

淡「……」

照「……。 淡…?」

淡「…こないだの話、私まだ納得してないから」

淡「終わってないよ。何も」

淡「…今、戻そうよ」

照「…………」


淡「私思うんだ。テルはスミレのこと、やっぱり分かってないよ」

照「…まだその話する? ちゃんと分かってるってば」

淡「ほんとに?」

照「うん。というか、菫は私のことを何でも分かってくれる。いつでも察してくれたの」

照「言葉より強い絆で結ばれてる」

照「それが私たちなんだよ」

照「菫と知り合って間もない淡には、分からないかもしれないけど」

照「私と菫は、長い時間、そういう関係を培ってきたんだから」

淡「……ああ、そういうこと言うのね…」

淡「…………」

淡「いいよね…。何も言わなくても伝わる人はさ……」

照「え……」


淡「自分から伝えにいかなくても、相手が勝手に察してくれるんだもん」

淡「一緒に居て楽だし…、そりゃ離したくもなくなるよね…」

淡「でもさテル、それ、スミレに甘え過ぎだと思う」

照「甘えてなんかないよ」

淡「私はさ、そんな無条件の繋がりなんてないから……」

淡「だから言葉にして、態度に出して、行動で示すしかない」

淡「でもテルは……」


照「……いいよね、淡はさ」


淡「え?」


照「私はそんなに表現が得意じゃないし、言葉もぽんぽん出てこない」

照「淡が羨ましいよ、表に出すのが上手でさ」

淡「………………でよ…」

照「…?」

淡「茶化さないで!! 真面目に聞いてよ!」

照「……」


淡「そりゃ、テル達には一生分かんないかもね!私のことなんて!」

淡「麻雀から逃げたテルも、長野に引き籠ったまま出てこないサキも!」

淡「二人に勝つのを目標に頑張ってきた私はどうなるの!?」

淡「テルと公式戦で戦うのを夢見て頑張ってきた私は!?」

淡「インターハイ出てみたら、サキの学校は全国出てなくて? 訊けば大会どころか、麻雀部にも入ってないし!!」

淡「私だけ浮かれてバカみたいじゃん!!」

照「……それについては、何も相談せずに、悪かったとは思う」

淡「……あはっ、何謝ってるの? ぐすっ、別にテルは悪くないじゃん…」

照「…………」

淡「テルが麻雀やめたのは、テルの勝手。サキが麻雀部に入らないのも、サキの勝手」

淡「自分の思い通りに事が進まなくて、ただ拗ねて、私が一人で勝手にキレてるだけ…」

淡「ぜんぶ、ぜんぶぜんぶ……私の自分勝手なわがままなの……」

照「淡……」


淡「高校一年生の時。インターハイ、それでガッカリしてさ……。全然力出せなくて……」

淡「照の時代から10年間、公式戦では一瞬も一位を譲ってこなかった天下の白糸台高校が、準決勝でまさかの二位抜け」

淡「もうよく分かんなくて、ずっと黙ってた」

淡「でもね、黙ってる私に、タカミー……私の先輩がね、言ったの」

淡「『言葉には、特別な力があるのよ』って」

淡「…意味不明だよね? だからなに? 落ち込んでる人にそういうこと言う普通?って思った」

淡「けど、一回『悔しい』って口に出してみると、凄い悔しくなって。悲しくなった」

淡「それで、先輩に抱き締められて『一人じゃないんだよ』って言われて、なんか泣いちゃった…」

淡「チーム戦だって分かってても、どこか個人戦をしているような感じだったから」

淡「口に出さないことも美徳だけど……。でも、表に出さないと自分でもわからない、伝わらないことだってあるの」


淡「……そんでね、私、気づいたの…」

淡「私、二人と麻雀の話なんて、全然してなかった。そもそも離れて暮らしてたし」

淡「皆が麻雀してるのが当たり前で……。だから裏切られたって思ってた」

淡「だけど、本当は私の気持ちなんて伝わってるはずなかったんだって」

淡「…………だから」

淡「伝わる心、じゃなくて、伝える心」

淡「勝手に伝わるんじゃなくて。……ちゃんと自分の力で伝えるの」

淡「どんなに恥ずかしくても、伝える努力をしなきゃ!どれだけぼやかしても、伝わるまで伝え続けなきゃ!」

淡「だから私、去年サキに会って気持ち伝えた! テルにも、サキと会って仲直りしてって言った!」

淡「私……怖かったけど、ちゃんと言ったよ!」


淡「スミレとの関係が壊れたのだって、テルがそういう努力をしなかったせいでしょ?」

淡「だったら何で、それを努力して改めようとしないの!!」

淡「テル本当は…っ、スミレのことなんてちっとも好きじゃないんでしょ!!」

照「…っ」パシン

淡「ぃっ……」ヒリヒリ

照「……それ以上は許さない」

淡「……あははっ」

淡「……そーそう。やっと、本性出てきたじゃん、テル」

淡「昔っからそう……テルって。表情あんまり変わんないけど、中ではマグマみたいな感情溜めこんでんの」

淡「自分の譲れないものを馬鹿にされて、怒らないでいられないんだよね」

淡「――じゃなかったら、中学・高校もずっと長野。東京になんて、いなかったでしょう…?」


淡「欲しいモノのために一切手は抜かないし、そのためならとことんストイックだった」

淡「そんなテルが、私は大好き……」

淡「だから……、ちゃんと、スミレにも思ってること言いなよ」

淡「サキにも気持ち、ちゃんと言ってあげてよ…」

淡「スミレも、サキも……」

淡「こんな面倒くさくて、臆病な、特別でも何でもないテルのことが大好きって言ってるんだからさ!」

淡「テルの照魔境は……臆病さの表れ。今までテルは、相手の事を先読みしてからしか行動しようとしなかったの」

淡「でも、相手の出方がわからなくて怖くても、逃げないでちゃんと向き合って!」

淡「スミレにも、サキにも、私にも!」

淡「―――そして、テル自身にも」


照「淡……」


淡「あ…九時だ。そろそろタイムリミットだね」

照「タイムリミット? 何の話?」

淡「ん? ううん。何でもないよ。ただ…」

淡「……ただちょっと、魔法が解けちゃうだけだから…」

照「……」

淡「…行っていいよ、スミレのところ。家に居るはずだから」

照「え?」

淡「大丈夫。ちゃんと気持ちを伝えれば、ちゃんと受け止めてくれるよ。スミレなら」

淡「テルのこと、ちゃんと分かってくれるよ…」

照「…うん」

淡「あと、それから…年末の長野旅行の話、スミレに言っといて」

淡「『一旦忘れてあげる』って…」

照「……なんで?」


淡「だからさ、旅行。スミレと行ってきなよ」

淡「…あ、その時はちゃんと、咲にも会ってきてね!」

照「淡……でも」

淡「いいの!元々スミレには、冬休み一回は会う約束する、っていう約束だったんだし。しかもクリスマスイブ」

淡「……きっともう会えないけど」

淡「でも私、これで満足だからさ!」ニコッ

照「淡…なんでそこまでっ」

淡「なんで? なんでって…分かんじゃん、そんなの」

照「……淡は、これでいいの?」

淡「…いいの、いいんだよ。これで」

照「あわ――「こないで!!!!」

淡「やめて。これでも私、今言ってて死ぬほど後悔してるんだから…」

照「……」

淡「いいから…っ、もう早くっ……どっか行ってよぉぉぉおお!」

照「……わかった、淡」

照「ありがとう…」


タタタッ










淡「っ…」

淡「はぁ…やっちゃった」

淡「」スッ


 20:42


淡「……」

淡「…牌じゃなくて、神様に愛されたかったなぁ」

淡「……」

淡「……ぁ、雪?」


―――弘世家。


ピーンポーン
ガチャ

菫「はい」

照「菫…!」ダキッ

菫「おおっと…照?」

照「菫! 好き! 好きだよ!」

照「ごめんね! 私、身勝手で! ごめんね!」

照「欲張りでごめん! 破局した時も!大事にされてるの分かってても」

照「もっと求めてって。強い感情で愛されてるって実感したくて」


照「菫の気持ちも考えないで、一方的にあんな事言って!」

照「一日も忘れた事はない! 菫を見る度に、何度やり直せたらって思ったか…!」

菫「ま、待ってくれ」

照「合コンの件も! 菫がまだ脈アリか判断したくて、私が久に合コンに誘うようお願いしたの!」

照「合コン参加した事を私に知られた時の反応を見ようって、菫をまた試してた!」

菫「照?……わか、分かったから。落ち着け、聞くから落ち着いてくれ! な?」

照「待って、お願い!それから、それから…っ! もっと、もっと言わなくちゃいけない事が…」

菫「照っ!!!」

照「っ」ビクッ


菫「私も、照のことは好きだよ」

照「~~っ」

菫「それで? えっと、もう夜だし…」

菫「……もの凄く、近所迷惑だから…」

照「……、あ、うん」

菫「だから…」

菫「うちに、入ろう」

照「……うん」


ガチャン


照「……」

菫「……」

菫「それで? その、言わなくちゃいけない事っていうのは…」

照「その…」

照「……」

照「好きです…付き合ってください」ペコリ

菫「―――…」

菫「…はい、喜んで」


照「!」

菫「…私も、照とのこと。ずっと後悔していた」

菫「でも、照は私のことを、ちゃんと好きでいてくれたんだな」

照「そんなの当たり前。ずっと大好きなままだった」

…ちゅっ

照「んっ」

菫「……っ!」

照「ふふ…。ふにゅってした…」

照「菫って、優しいよね。とっても、やわらかいよね…」

照「…はあ、もうダメ…我慢の限界」スルッ

菫「えっ、いやちょっ!? ここ玄関…!」

照「んっ…」

ちゅむううううぅ…ちゅう、ちゅう、ちゅううぅ…

菫「~~~っ!?!?」


菫「はむっ…ふー、ふー…」

照「菫…かわいい…」

ちゅう、ちゅう…にゅむ、にちゅ…れろ…

菫「んっんっんっんっ…」

照(菫が愛しくてたまらない…)

ちゅううううぅ、れろ、ちゅむうぅ、にちゅうううぅ…

菫「んう、むー、むー!」

照(菫のこと、もっと欲しい…もっと、もっと…!)


菫「ぷはぁっ!っは、っは、っは…」

菫「はぁ、はぁ…もう、照っ、激し過ぎるって…」

照「はぁ、はぁ、はぁ…」グイッ

菫「えっ、ちょちょっとまってくれ、照…」

菫「頼む、ちょっとだけ休ませて…」フラフラ

ギシッ ばふっ

菫「はぁ、はぁ…ちょっと、せめてベッドっ…横にならせて…ドキドキしすぎて、身体もたな…///」


照「……っ」ガシッ…

菫「えっ、照…?ちょっと休ませてって…」

照「菫…」

菫「お、おい照、目が怖っ…」

照「……」

菫「て、照…だめだって、まだ…お願い、ちょっとでいいから…んむううっ!?」

ちゅううううううううっ


ちゅううっ、ちゅう、ちゅうう

菫「ん、むっ…ちょ、ちょっと照…あむっ!」

照「んっ…んっ…」

ちゅむ、ちゅうううっ、ちゅうううううっ

菫「はむっ、ん…や、やめ…ふうっ!」

照「んっ…菫、かわいい…んぅ…」

ちゅうううう、ちゅうううう、ちゅううううううっ

菫「らめ…らめなのぉ…あむぅっ」

照「だめだよ、もう絶対離さないから…菫…んっ…」


照「す、菫が悪いんだからねっ?」

菫「はぁ…?」

照「こ、こんな…菫の匂いが充満してる空間なんかに、私を引き込むから…」

照「わたしのこと…誘ってたんだよね…?」

菫「え、いやちょっ…」

グイッ

照「抵抗してもムダだから」


照「す、菫が…菫がっちゅっちゅしまくるから」

照「スイッチ…入っちゃったんだから…」

照「……今日こそ、私の子を孕んでもらうよ」スルッ

菫「ば、ばか!なんでぱんつ脱いでるんだよ」

菫「昔から何度言わせる気だっ…!」

菫「女同士じゃ子どもはできな…っ」

菫「あっ…あっ…あああっ…」


―――繁華街。


淡「……」ポケー

「やっほ!」

淡「? …あぁ、久じゃん」

淡「どうしたの?」

久「んーん、別に」

淡「ふーん、あっそ」

淡「…じゃあどっか行ってよ。今、あんまり楽しい気分でもないんだよね」


久「なんかあったの?」

淡「別に。…大丈夫だけど」

久「訊かれてもないのに、自発的に『大丈夫』って言う子ほど、大丈夫じゃないのよねぇ」

淡「……」

久「……」

久「…ま、私は大丈夫だけどね」

淡「あはは…確かに。自分から『大丈夫』って言われると、全然大丈夫じゃないって感じ…」

久「ふふふっ」


淡「……なに、ヒサ、何かあったの?」

久「んー?」

淡「……ヒサも、もしかして失恋?」

久「…ま、オトナには色々あるのよ。人間関係のもつれとか、しがらみとかね」

淡「ふーん、っそ…」

久「うん…」スト

淡「……」

久「……」

淡「ねぇ…」

淡「私、まだモヤモヤ収まんないんだよね」

淡「カラオケ、行こーよ」


久「あら…。可愛い子に誘われるようなら、まだまだ私も捨てたもんじゃないのかしら?」

淡「ヒサみたいなおばさんに言われても嬉しくなーい」

久「なんだとこいつぅ~、うりうり」

淡「あはははっ、確かに嬉しくはないけど」

淡「でも…ちょっと、救われたかも。わりとガチで凹んでたから…」

淡「ありがとう…」

久「…そっか、うんっ」

淡「ヒサは?」

久「私がなに?」

淡「なんでクリぼっちなの? 絶対恋人居てモテそうなのに」

久「そうかしら?」

淡「だってチャラいし」

久「…………」ガクッ


―――翌朝。弘世家。


菫「zzz…」

照「ん…」

菫「………ん?」

照の顔面ドアップ

菫「!?!?!?」

菫「はぁ?!」

照「ん~~…さむい…」

照「昨日夜更かししたんだから…も少し寝かせてぇ」ふにゅ

菫「な!なにお前一緒に寝てんだよ!!」

菫「ぁ…そういえば、昨日…」


照「ん…。あーでも、一度着替えに帰らないとだった…お風呂も入りたい…」

照「もう安心して、部屋にも帰れると思うし」

照「ね?」

菫「?」

照「…あ、そだ。帰るといえば、」

照「長野に帰るよ、私」

照「あの子と、ちゃんと話をするつもり」

菫「あ…」

照「あ! 安心してね、また逃げ帰るなんて無様な真似、しないから」

照「あの子と…色んな事、ちゃんと逃げないで、向き合おうって、決めたから」


菫「―――帰るなよ」


照「え?」

菫「せっかくこっちで仕事頑張って、やっと慣れてきたところだろ?」

照「え? あ、や…」

菫「いい職場だって、仕事も楽しいってお前、言ったよな!」

菫「帰るなよ……もうずっとこっちに居ろよ」


照「―――なんか、プロポーズみたい…」



菫「えっ!?」

照「『帰るなよ』……『ずっと私の傍に居ろよ』」

照「……みたいな?」キリッ

菫「ちがっ…そこまで言ってないだろ!!」


照「ん?」フフッ

菫「……///」

照「ん?」スッ

菫「っ」フイッ

照「んん~~?」

菫「っ」プイッ

照「チューしてくれないの?」

菫「そ!」

菫「そ…そういうの…だって私、まだ寝起きだし…」

菫「恥ずかしいから…///」


照「ぷふっ…」

菫「な、なんで笑う!///」

照「あ、いや…ごめんごめん」

照「馬鹿にしたんじゃなくて、ただ……」

照「あー……。たしかに菫は『格好いい』じゃなくて『可愛い』なんだなぁ…って」フフッ

菫「か、かわっ!?」

照「あ、それとね…」

照「だから…話をしに帰るだけ。『帰省』するだけね、ただの…」

菫「……」

照「初めからそのつもりで言ってたんだけど…」



菫「~っ、っっ!」プルプル

照「えーっと…」

照「プロポーズみた…」

菫「そーゆうのいいからもう!」

照「チュ?」

菫「やめて!!」


―――オフィス。


久「私まだ寝起きだから…恥ずかしい…///」

久「――って…」

久「乙女かっつーの!!」

菫「黙れ」

久「穢れを知らない子羊か!」

久「もしかしてアナタ、処女だったする?」

菫「違うから」


久「あー分かった。アレねアレ。処女拗らせるよりもーっと面倒臭いアレね」

菫「やめてくれ頼むから…オフィスで大声でそういうの言うの…」

菫「人に聞かれる…。死ぬから…ほんと、社会的に…」

怜「大丈夫やって、みんな聞こえてへんで~」

菫「反応してないだけでっ、聞き耳立ててるのバレバレなんだよ。特に園城寺!」

菫「根掘り葉掘り聞いてくるから白状したのに…」


久「いいじゃない~」

怜「初々しいなぁ…」

久「そういう怜は随分やつれてるわね。何かあった?」

怜「いや…実は大阪から竜…………高校の同級生が来とって」

久「へーー、なになに、仕事関係?」

怜「あー、ちゃう。なんか…」

~~~

竜華『トキもこの三年、もう十分自由を満喫したやろ。いい加減、そろそろうちに嫁いできぃ。もう用意は整ってんねんで?』

竜華『で早速やねんけどな、今日は結婚式の日取りを決めよう思って』

~~~

久「なにそれ、その光景ちょー見たかった!」

怜「やめぇや。結婚とかしたない。そら結婚はしてみたいけど、縛られんの嫌やし」

怜「もっと手軽で、気楽な……」

怜「ケッコンカッコカリ、とかええんとちゃう?」

菫「それは結婚してないのでは……?」


久「いやいや、結婚と名の付くモノは、何であれ多少の負担は付き物よ」

怜「なんで結婚したいとか思うんかなぁ」

久「大好きだからに決まってるじゃない!!」

久「大好きだから! ずぅっと一緒にいたいから結婚するのよ!」

怜「お、おう…なんか熱こもっとるなぁ…」


怜「だいたい、『会いに行く』とか『恋人になる』とかを、愛情表現だと思ってるから間違ってんねん」

怜「会うのも結婚するんも、お互いがそうしたいからであって!」

怜「それを『愛情表現をちゃんとしてる』って思って油断すると、今度は『ウチ愛されてない』なんて言い出して…」

久「あんた女心わかってるわねー……って、怜は女子だったわ」

久「さすが、恋愛経験が濃いお人は違うわね」

久「いいこと言ってるんだけど、でも怜が言ったら台無しよねぇ…」


怜「結婚なんて、だってええ事ばかりやないやん?」

久「…たしかに辛いことはいっぱいあるし、なんで別れないの? って思われる状況もあるかもしれないけど」

久「でもねえ、ほら『苦楽を共にする』って言うじゃない?」

久「良いことも、悪い事も、すべては夫婦の営みのうちだと、私は思うのよねぇ」

怜「…………」

怜「な、なしたん。結婚したいん? 今日の久、ちょっとおかしいで?」

久「アンタほんっと失礼よね!」


怜「そんで、菫の見解は?」

菫「は?」

怜「だから。結婚に関する意見。なんか無いん?」

菫「結婚……なぁ」

菫「……相手のことは、本当のことはずーっとわからないままだが」

菫「だから余計に、そばにいなきゃなー。と思う」

菫「ていうか、思った!」

菫(照とは色んな事があった――良い事も、すれ違いも)

菫(けれど、あの頃も……今も、まだ一緒にいる……)

菫「一緒にいるって、大事だと思うよ」

菫「……決めたんだ。ふたりでまた、頑張るって」

怜「ほうほう…」ニヤニヤ

久「ま、頑張りなさい」フフフッ


―――長野。宮永家。


照「自分が傷つくのは怖いけど、自分のせいでひとが傷つくのはあんなにキツイなんて……」

照「なんにもわかってなかった」

照「色々ごめん…」

咲「……」

咲「もっと、優しいひとになりたいなー…」

咲「思うままに行動して」

咲「それでも、みんなに優しくできるような」

咲「みんな笑顔にできる、そういうひとがいいな…」

照「……うん」

咲「淡ちゃんみたいな、純粋なやさしさ、まっすぐさがいい」


照「……」ギュッ

咲「…あの…」

照「……お姉ちゃん、で、いいよ…」

咲「え…」

照「……」

咲「……」クスッ

咲「ありがとう。…お姉ちゃん」

照「私は、たしかに咲から逃げ出したけど…」

照「それはきっと、あまりに咲の優しさがまっすぐ過ぎたからだと思う」

照「咲は…、ちゃんと優しいと思うよ」

咲「ありがとう…」ニコッ


照「年末さ…、また帰省するから」

照「だから一緒に麻雀しようよ」

咲「いいけど…三麻もできないよ? お父さんが、私との麻雀はもう飽きたって…」

照「お父さんってば…」

照「でも、大丈夫だよ。ちゃんと、私含めて3人連れてくるから」

咲「三人…?」

照「そう、私と、私の恋人……あーそうそう、菫っていうの。今度紹介するね」

照「あとそれから……もう一人は……」




―――白糸台高校。

prrrr...

淡「…?」

From:弘世菫

淡「えっ…」

淡「は、はい!…もしもし」ピッ

菫『淡ちゃん? いま大丈夫か?』

淡「う、うん…大丈夫だけど」

菫『そうか、それは良かった…』


淡「どうしたの? いきなり電話なんて…」

菫『ああいや…その、なんというか…』

菫『実は、旅行のお誘いなんだけど…』

淡「え…旅行…?」

菫『ああ。私と照……まぁ、皆で行くことになるが、温泉旅行と』

菫『照と咲ちゃんの仲直り。ご家族へのご挨拶とか』



菫『それから、家族麻雀』


淡「麻雀…」

菫『参加者は今のところ、私と照と、そして咲ちゃん』

菫『なぁ、淡。麻雀のメンツが足らないんだよ』

菫『合コン……。夜通し麻雀を打てる『親睦会』が長野であるんだ』

淡「!」

菫「淡ちゃんの麻雀強化合宿も兼ねて……長野」?






菫『年末、旅行行かない?』





宮永姉妹、そして淡。

この三人と同時に麻雀卓を囲う暴挙に出て、

無事で済むはずがないと気付くのは、まだ先の話。






【咲-Saki-】菫(25)「合コン行ったら大変なことになった」

カン!

以上でエンディングです。

2ヶ月もかかりましたが、コメント書き込んで下さった方、本当にありがとうございました。
とても嬉しかったです。

では、私はそろそろ始発が動き出すので、家に帰りたいと思います。
12月末までに、有休あと3日消費しろとか無料ゲー過ぎ(-_-;)

>>360より分岐。


>>目を覚ます



??「ちょっとぉ~……おーい」トントン

??「こんなとこで寝ないでよぉ…」

菫「んんっ……寝、てない……って」

??「あ、起きたー」

菫「起きたもなにも、あ、ああ……お前……」

菫「久……?」


久「ここ、居酒屋よ。二人で飲んでたの……覚えてる?」

菫「…あ、ああ。そうだったな…」

久「こりゃやばいかな……」

菫「私は……」

久「一分くらい寝てたの。…タクシー呼ぼっか?」

菫「…いや、大丈夫だ。電車で帰れるよ」

久「そう?」


―――最寄り駅。


久「とりあえずここまで来たけど。…いい? 改札出たら、すぐタクシー拾いなさいよ?」

菫「わかってる…」ハァハァ


久「~っ、ああもうやっぱ心配! 私、家まで送って行く!」

菫「要らないって」

久「だって~!もし道端で寝ちゃって、朝起きたら身ぐるみ剥がされてたりしたら…!」

菫「大丈夫だ……。少し歩いて、多少もち直したから…」

久「でもぉ…っ」

菫「それより竹井、終電なくなるぞ? 明日も仕事なんだから」

菫「私もいい大人だ。…大丈夫、ちゃんと家まで帰れる」

久「ぜ、絶対によ? 何かあったらすぐ連絡頂戴ね、すぐ駆け付けるから!」

久「何もなくても帰宅したら連絡してよね! 絶対よ? 振りじゃないんだからねっ」

菫「わ、わかったから…。頼むから静かにしてくれ、頭に響く…」ガンガン

久「……じゃ、私帰る」

久「明日、会社でね~!」タタタッ



菫「はぁはぁ…はぁ…っ」

菫「さて、タクシー…呼ばないとだな…」

菫「はぁ…、はぁ…」

菫「…頭がクラクラする…。私、どれだけ飲んだんだよ…くそ」

菫「たしかタクシー乗り場は…」キョロキョロ


淡「あ、スミレ~」タタタ

菫「……淡? どうしてこんな場所に…」

淡「ぅ…、やなんか偶然?ちょっと通り掛かったというか…」

菫「は? そんなはずは……。だって、白糸台は駅が全然…」

淡「うぅ…――そ、そんな細かいことどうでもいいじゃん!」

淡「ていうかスミレ、どうしたの! すっごい辛そうなんだけど!」

菫「…ちょっと、な……」


淡「今日もしかして、そんな状態で会社行ったの?」

菫「いや…風邪は治ったんだが…」

淡「風邪治ったんだ!? ほんとよかったおめでとう~!」

菫「あ、ああ、ありがとう…。あと声デカい…頭に響く…」ズキズキ

淡「あごめんっ」アセアセ

淡「でもよかったね~、うんうん。本当によかった。私感動した!」

菫「…大げさだって。言っておくが、私の自己管理の問題であって。淡は何も悪くないんだから」

淡「うんうん!スミレやさし~~~超好き~~~」

菫「だから……」

菫「……」

菫「…まったくもう、絶対分かってないだろっ?」フフフッ

菫(どんな教育を施したらこういう風に育つんだろう。純粋培養とはまさにこのことか)



淡「ところでスミレ、スーツなんだー」

菫「あ、ああ…仕事帰りだからな…」

淡「仕事帰り~? そんなにお酒の匂いさせてるのに?」

菫「…………」

淡「あははっ、スーツ姿のスミレって、いっつも酔っぱらってる気がする!」

淡「合コンの時とかさ。ほら覚えてる?」

菫「忘れられるはずがないよ」

淡「ね~!」

菫(隣に並び歩き始める淡と話していると、自然と酔いが引いていくような感覚)

菫「あ、タクシー……」

淡「タクシー? 歩いて帰らないの?」

菫「ちょっと厳しそうだからな…」

淡「そっか。タクシー乗り場はあっちだよ」


菫(さりげなく支えてくれる淡に軽く体重を預けつつ、タクシーに乗り込む)


菫「ふぅ…」

「お客さん、どちらまで?」

淡「えっと、OO区XX町までお願いします」


菫「……なんで、淡まで乗ってるんだ?」

淡「だ、だって、スミレ……キツそうだし……」

淡「それとちょっと…寮の門限過ぎちゃって…」

菫「んなっ、……何をやってるんだお前は…!」

淡「えと…、ごめんなさい…」

菫「はあ、まったく。で…淡は? 今日は学校どうだった?」

淡「あ! ね、ね、聞いて聞いて! 今日も虎姫で遊んでさ~ふふふ♪ あんねぇ――」


淡「でね、その先生がね。この前のアレ、おかしくてさ……ふふふ、その先生腕毛濃いのね。なのにさー、この前の授業で、誰かが指毛剃ったって気付いてぇ」

淡「指毛ない!つって。え、マジ? まじぽん? ってなって、それから授業のたびに先生の指毛見て。剃ってた? とかまた生えてきた? てかなんで剃ったし?とか、あははは」

菫「ふふふっ」

この年頃の女子の目というものは残酷だ。
その深堀先生とやらも、まさか指毛剃ったくらいでそんなに話題にされるとは、露にも思ってなかっただろう。

淡「そんでね、先生についたあだ名が何だと思う? これがまた超ウケんだけど~、あは、ふふふ♪ 剃るつながりでー、何だと思う?」

菫(剃る……剃るっていうと……)

菫「パイパン…とか?」

淡「えぇー? やだ、スミレ、えろー! あははは! もう、パイパンって! そんなことばっか考えてんでしょ? 違うよ~~」

菫(え、ハズした? 絶対合ってると思ったのに…。ほらだって、指と指の間がちょうど割れ目で、そこの毛を剃――)

菫「って、淡! 声、声…」

淡「え? あごめんごめん、ふふ、スミレが変態って通報されちゃうね」

淡「そんでね、えと何だっけ、あ、正解はね…」コソコソ



菫(正面から抱き締めるようにして体を密着させ、耳元に口を寄せてコソコソと)

菫(声のトーンを低くして、こうして楽しいくだらない話は続いていく)


淡「あははっ、やんっ。やだこれ、なんか耳の中舐められてるみたいでビクッてなっちゃう! ははっ、あははははっ」

淡「もう、くすぐったいなぁ……ふふふ♪」ギュッ

菫「……」クスッ

菫(なんだろう…今日はやけに、淡を近くに感じる…)

菫(頭が、クラクラしてくる……)

菫(淡がいてくれて、良かった……)ウトウト

菫(……温かい……)ギュッ

菫「zzz…」

淡「あっ……スミレ寝ちゃった。可愛い…」ナデ

淡「そうだ!ええと…、『酔っ払いの介抱』っと…」ピピッ



淡「はいっ、とーちゃく!」

淡「スミレ、お家着いた……――スミレ? 起きてスミレ」ポンポン

菫「んぅ……あ、ああ……起きてるぞ…」ボー

淡「ふふふ」


―――弘世家。


淡「スミレほら、鍵開けたよ~」

菫「……あぁ…」

淡「もうちょっと、もうちょっと」

菫(淡に半分背負われながら、ようやく自室にたどり着いた)

菫(重心がぐらつく体を、淡が必死に支えてくれている)

菫(目の前にある高校生の顔と髪。体の近くに細い体の体温があるのを何となく感じる)


淡「スミレ、大丈夫? このままトイレ直行ね」

菫「うぅ…」

淡「今お水持ってくるから。できるだけいっぱい吐いた方が良いんだって。できるよね?」

菫「あ、ああ……すまない、こんな…」

菫(年下で、しかも慕ってくれてる淡ちゃんの前で、こんな。情けない……恥ずかしい、悔しい。眠い……)

ごろん

淡「…あ~、だめだめ!ここで寝ちゃだめ!ほらスミレ~、まずお水飲もうねー」

菫(淡は私のすぐ隣にしゃがんで、水のペットボトルを開けてくれた)

菫「ん……んっ……」ゴクゴク

菫「ぅっぇ…ごほっ」

菫(気管に入ったせいで、一気に込み上げてくる)

淡「よしよし」サスサス

淡「えっとあとは……ぁ、体を冷やさないように!」

淡「スミレ、タンス開けるね!上着取ってくる!」タタタ



ベッド。

菫「ふぅ…」

淡「横向きで寝てて? そっちの方が苦しくないんだって」

淡「あとね、カフェインも二日酔いにいいんだって。だから今お湯沸かしてるんだぁ、温かいお茶もあるから」

菫「……ありがとぅ」

淡「ううん。全然大丈夫!」

菫「……」ジィ

淡「?」

菫「…これが巡り合わせって奴なのかな。淡は、私が辛い時に、いつもそばにいてくれてるんだ…」

淡「うん…」

菫「それなのに、私は情けない姿ばかりで…、とても淡ちゃんに好かれる要素なんて」

淡「ううん。そんなことない」

淡「…そんなこと、全然ないんだよ」

菫「そ……っか」

淡「うん…」


菫「なぁ…」

淡「んー?」

菫「どうしてそんなに……その、私のこと、好きでいてくれるのかな……って」

淡「え/// あ、それ聞く? それ聞いちゃう? 今それ語らせちゃう?」

菫「訊きたいな…。ずっとわからなくて、今まで落ちつかなくて…」

淡「そっか。そっかぁ……OOは理屈が必要な生き物っていうけど、スミレもそっか」クスッ

菫(淡はにこにこと笑って、小さく頷いた)

淡「好きになったのは、飲み会の日、のことなんだけどね」

淡「スミレの……あんまり自分に自信なさそうなトコ、が良かったんだよねぇ」

菫「…えっ?」


淡「私、情緒不安定っていうか、感情先行型みたいなトコがあって…」

淡「直さなきゃ、しっかりしなきゃって。エースで、部長で……だから。皆のことちゃんと引っ張っていかなきゃって……」

菫(私も部長だった当初は、同じこと考えてた気がする)

淡「でも全然上手くいかなくて。…そんな時、麻雀友達に誘われて参加した食事会で、スミレに会ったの……」

菫(食事会。……あれは明らかに合コン、ってか飲み会だったんだがな…)

淡「スミレの第一印象はね、『うわぁ、格好いいけど厳しそうな人~。きっと学生時代は硬派な生徒会長とかやってた、クールを地でいく感じ』って」

菫「ふふ…」

淡「そんでもって……ガチ好み。どストライク」

淡「三人の中でっていうか、他どうでも良くなるくらい、スミレしか見てなかった……」

淡「もう好き!……って」

淡「でも最初とかスミレ、ヒサとずっとくっ付いてたから、初対面の人なのにヤキモチ焼いてた……」

菫「そっか…」


淡「ヒサとトキも、チャラくて~、場を盛り上げるの巧くて~。大人の余裕っていうか、ザ・オトナ~って感じだった」

淡「皆、私とは違う、別世界の人だなぁ~って思ったの…」

淡「でもね、スミレの隣に座ってお話しして思ったの」

淡「あ、この人……実はそうでもないなって」

菫「…ん? え? ここで唐突なディスり?」

淡「ふふふ。やっぱり……。あの時さ、どんな話ししたか、スミレ覚えてる?」

菫「……いや、覚えてないな」

淡「あはははっ。そりゃそーだよね!だってスミレ、ずっとお酒飲むんだもん」

淡「私が話し掛けても怯えるみたいに。最初はめっちゃ凹んだなぁ」

淡「でもね、時間が経つにつれて、少しずつスミレのことも話してくれるようになったの」

淡「自慢とか武勇伝とかじゃなくて、普通の会話。部長アルアルとか? 部活で部長で、皆で毎日頑張ってたって」

淡「だから、淡ちゃんも大変だろうけど頑張れって」


淡「途中で意味不明な……テルテル?とか何とか言ってて」

淡「てるてる坊主のこと?って聞いたら、ちょっと悲しそうに笑うの」

菫「てるてる坊主って…」クスッ

淡「大人なのに自信満々じゃないし、完璧でもない。すぐ酔っ払っちゃって……全然格好良くない」

淡「でもスミレは、逃げないでちゃんと努力して頑張ってる人なんだなって思ったの」

淡「自分に自信ある人が、格好いいって思ってた」

淡「でも違った。私は、怖くて上手くいかなくても、それでも逃げないで頑張ってる人」

淡「ちゃんと努力できる、より良くなろうとしてる人が好き」

菫「……」

淡「それにね、これはもっと後で分かったんだけどね。スミレはいっぱい迷う人だから」



淡「あのね、私はね、迷うって凄くいいことだと思うの。わかる?」

菫「そう、かな…」

淡「だってさ、プログラムは迷わないよ。インプットされた通りに動くだけじゃん? でも人は迷うことができるの」

淡「…まとめるとさ、スミレは、迷いながらも行動してるって。それだけなんだけど――」

淡「でもそれって、私はすごいことだと思うんだ」

淡「だって、迷うっていうことは、まず自分のなかの弱さとか葛藤、そういうものに出会うってことで」

淡「何か行動を起こすのは、……それらに打ち勝って、選んでくれたってことだから」

淡「もしスミレがそれで、楽な方へ逃げないで、ちゃんと前に進んだなら」

淡「つまりそれは、弱い自分を知って、乗り越えたってことにならない?」

淡「いいこと、悪いこと。楽なこと、難しいこと」

淡「大丈夫。……スミレは、強い人だと思うよ」

淡「より良い自分になろうと頑張れる人だから…」?

淡「大星淡は、そんな弘世菫さんが、好きです」



菫(ぼっと顔が熱くなった)

菫(いつもの彼女とはどこか違っていて、彼女に認識されている私も、いつもとどこか違うような感覚)

菫(名前を呼ばれるイントネーションが、どことなく大人っぽかった所為だろうか)


菫(言われながら、頭の中で少し考えてみる)

菫(確かに――本当に酷い事を起こしてしまうのは、私みたいなタイプではないかもしれない)

菫(だからって、こんな情けない自分を肯定することはできないが…)

菫(でも――それを乗り越えようとしているなら、それはそこまで悲観することでないのかもしれない)

菫(その過程でもし、大きな『罪』を犯してしまっても……それを悔い改め、よりよい自分になろうと努力すること)

菫(…それが大事なのかもしれない)



菫「なんというか……ありがとう。本当に、淡には教えられることばかりだな」

淡「私も言えて嬉しい。で、ね? スミレはぁ、私のどんなところが好き?」

菫「……そうだなぁ、明るいところ――」

菫(私の言葉に、切羽詰まるように淡が被せてくる)

淡「おしゃべりでうるさくない?」

菫「うるさいとは思わないな。だって、悪いことは全然言わないし、いい子だなって思う」

淡「そっかぁ、そっかそっかぁ。うんっ、嬉しいね楽しいね!それに安心する!」

淡「ほんわかして、ふわふわで? もー私すごい盛り上がってきちゃった! これ以上聞いたらヘンになりそう!」

菫「まだ一つしか言ってないん――」

淡「じゃ、残りはまた今度!少しずつ言ってよ! それに、言えなかったことが心残りで、余計スミレが私のこと好きになってくれたらラッキーじゃん?」

淡「ていうかもう、胸がいっぱいになんだもん~~♪」ギュゥゥ

菫(ベッドで横向きに横たわる私に覆い被さって、淡ちゃんが抱き締めてくる)

菫(安心する、いい匂い…)


プシュー!


淡「あ、お湯沸いた! スミレは日本茶飲む?」

菫「ああ、飲もうかな…」

淡「おっけ♪」トテトテ

菫(縦にするにはキツイが……それでも。あんなにだるかった体が、すっと軽くなったような気がした)

淡「あ、そうだ!もう終電もないし、今日スミレの家に泊めて?」

菫「……それ、ダメって言われたらどうするんだ?」フフフッ

淡「えへへ…スミレのこと信じてる♪」

菫(調子いいなぁ。…それでも)

菫「ああ、いいよ」

淡「やったぁ!スミレ大好きっ」

菫(今夜は淡ちゃんと一緒に居たい、そう思ったのだった――)



―――園城寺家。


久「ふぅ、たっだいま~」

怜「お邪魔するでー」

久「…ったく、うちに泊まるのはいいけどさー、私はもうお酒付き合えないからねー?」

怜「わかっとるって」

久「もう…」


怜「……で?」

久「んー?」

怜「今日の逢瀬はどうやったん?」

久「逢瀬って、何の話よ…。そんなんじゃないっての」

怜「菫と飲んで、昔話、聞いたんやろ?」

怜「その感じやと、相当~酒、あおったんとちゃう?」

久「まあそれなりにね。…一人でボトル一本空けたわ、一時間で♪」

怜「何者やねん。…アル中で死なんといてな」

久「ははっ……。接待じゃこんなもんじゃ済まないから…」



怜「はぁ…。元気ないやん?」

久「そお?」

怜「そう」

久「ま、これでも色々考えてんのよ、これでもさ…」

怜「ふーん?」

久(なーんであそこで、菫のこと起こしちゃったのかしらね……私)


久(あそこで菫に何もせず、すぐ照に電話してれば、きっと菫と照は……)

久「……二人は今頃、お楽しみだったのかしらねぇ」

久「や…、あんだけ酔ってたら菫の方が無理か…」クスッ

久「…っ」ウルッ


怜「……」




怜「ん!」⊃

久「なによ」

怜「水や、水!」

久「いや、どう見ても缶ビールじゃない…」

久「言ったでしょう? 私、菫に付き合ってお酒めっちゃ飲んだの!」

怜「付き合って……ねぇ」

久「なによぉ…その顔~…」

怜「ええわ、もう。……わかった。ほんなら飯や。食欲満たそ!」

久「いやいや、」



怜「久」

久「んー…?」

怜「今から卵焼きと冷ややっこでも作るわ。久も食べるやろ?」

久「……もう深夜よ?」

怜「だいぶ酒飲んどるし、少しお腹に入れとくべきちゃう?」

久「うーん」

怜「腹が減っては戦はできぬ、って言うやん?」

久「いくさって……、また物騒な」

怜「『恋や戦争ではあらゆる戦術が許される』。この格言では……恋と戦争が同列に並べられてるやん?」

怜「恋愛してる人は、もしかして戦争してる時と同じ心理状態なんかなぁ、って」

怜「だったら、久も体力付けるために、飯食べるべきやろ」

久「!」

久「……怜、もしかしてアナタ……」



怜「他意はないで。それだけ」

久「……」

怜「安心しぃ。…うちは、何があっても久の味方やから…」


久「……うん」

久「……」

久「怜」

怜「うん?」

久「卵焼き……、作って?」

怜「はいはい…」クスッ


久「はぁ…。それにしても、菫から連絡来ないわねぇ。ちゃんと帰れたのかしら、あの子…?」



―――翌朝。弘世家。


淡「ん…っ」

菫「ほら、起きろ淡。もう六時だぞ?」ユサユサ

淡「あふぅ。まだ六時じゃん……なんで起こすのぉ~~」

菫「昨日シャワー浴びてないだろ? しかもここは寮じゃないんだぞ?」

淡「う……?」ガバッ

淡「……」ポケー

菫「……? おーい、起きろ」

淡「あわわ!? 寝顔見られた、サイアク!!」

菫「えっ」


淡「ええええっと! とりあえずシャワー貸して!?」ボサボサ

菫「あ、ああ……私はもう使い終わったから。シャンプーとリンスも好きに使って」

淡「ありがと!!」タタタ

菫「朝ごはん食べていくよなー?」

淡「食べる――! ありがと――!!」バタバタ

淡「じゃシャワー借りま――す!」


バタン


菫「さて、と。朝食を作らないと……」

菫「……あれ、いつの間にか卵すらないんだが」ガサゴソ

菫「朝食……」


――――――
脱衣所。

淡「うぅ~///」

淡「でも、菫の手料理かぁ…///」
――――――



菫「……」

淡「いただきまーすっ!」

菫「……悪いな。ジャムトーストと牛乳だけって」

淡「全然全然! おいしーよ!」

菫「なんか、貧相だなぁ……」

淡「遠足みたいで楽しいじゃん!!」ニコッ

菫「……今度までにちゃんと買い物しとくから…」

淡「またお泊りしたいね――!」

菫「そうだな…」クスッ



淡「あ、クリスマスイブの日。スミレ予定空いてる?」

菫「ん? 24日か……。うん、何もないよ」

淡「じゃあさ?夜あそぼ! デートしよ、デート!」

菫「……」

菫「……あぁ、分かった。いいよ」

淡「ほんとに!?」パァァ

菫「ああ、本当に」

淡「やった!」

菫「どうする? 一緒にイルミネーションでも見ようか」

淡「イルミネーションかぁ~~」

菫「どう?」



淡「うぅ……、確かにイルミは見たいけど~~。でも寒いし、混んでるから…他の人もいるし」

淡「で、できたら…、ケーキとピザとか買って、おうちクリスマスが良いなぁ~~なんて…」

淡「……///」

菫「ぁ……」

菫(あれ……実は淡ちゃんって、意外にインドア派?)


菫「淡ちゃんは外より、中遊びの方が好き?」

淡「え? うん、そうだけど…。菫も?」

菫「ああ。私もかな」クスッ

菫「わかった。じゃあ当日、帰りがてら二人で決めようか」

淡「うんっ!」

菫(活発なイメージで見るからにパリピな淡ちゃんも、蓋を開けてみればインドア派)



―――オフィス。


久「…おはよ、菫」ゴゴゴ

菫「竹井か、おはよう」

久「す~~み~~れ~~~」ゴゴゴ

菫「!? なんだ、なんだいきなり、朝っぱらから…」

久「昨日、私に連絡し忘れたでしょ~~!?」

菫「は?」

久「駅で別れた後! 帰宅したら連絡してね、って言ってたじゃない!!」

菫「…………」

菫「……ぁっ」

久「あっ、じゃない!! 私がどれだけ心配したと思ってるのよぉ!」

菫「わ、悪い……素直に忘れてた。てかそんな余裕もなかったんだ、多めにみてくれ」




久「……」ジト

久「……別に、心配で一睡も出来なかったとか、そんなんじゃないんだけどさ!」

菫「すいませんっ、すいませんっ、すいませんっ、すいませんっ、すいません!」


怜「そうやなぁ。十分おきに目が覚めとったけど、一睡も出来てへん訳やないし~」

菫「えっ?」

久「いやっ、ちょっと! 怜、アンタ何てこと言うのよ!!」

怜「事実やん」

久「トイレが近かっただけよ!寝る前に食べた冷やっこのせい! 菫のせいじゃないったら!」

怜(あれ以上豆腐を水切りしたら、パッサパサになってまうわ…)ムスッ

怜「ふーーん。ま、久がそういうなら、そうなんやろな?」

久「だからそういうのを止めなさいって言ってんのっ!誤解されるでしょ!?」

怜「……」チラ

菫「……?」

怜(久はうちに任せとき)b

菫(すまん…)ペコリ



―――昼休み。


菫「はぁ……お腹空いた…」


久「なになに、どーしたの?」

菫「いや、朝食がトースト一枚と牛乳だけで……」

久「少なっ」

怜「え、十分やろ」

照「菫……大丈夫?」

菫「あ、ああ、その分昼にしっかり食べようと思ってな」

怜「まぁ。菫の家の冷蔵庫が『すっからかん』なんは、うちらの中じゃ常識やし」


菫「はぁ!? どこ情報だよ!」ガタッ

久「どこって。私達の中で菫の部屋に入ったことがあるのは……」チラ

怜「……」チラ

照「えぇ!?」ビクッ

菫「て~る~…」ギロ

照「あ、わわっ……! 二人ともヒドイ!!」

怜「ははははっ」

久「何なら~~、また照がご飯作りに行ってあげれば?」

久「ククク……どうせ24日とか、菫は暇でしょー?」ニヤ

怜「いやいや、もしかしたr―――もごもが!?」

久「はぁ~い、怜はちょ~っと黙っててねぇ~~」


照「……」

照「い、いいよ…」

菫「……え?」

照「菫さえ良ければ……。私、ご飯作りに行っても、大丈夫だよ?」

照「っ……24日、とかも。特に用事ないし…っ」

菫「……っ」

菫「悪い。……先約があるんだ」

照「――――!」

久「は?」

怜「……」

照「え…っ、ぁ…えっと、あぁ、うん。そう…だよね…」

照「……ごめん」

菫「いや……、照の申し出は嬉しかった。ありがとう」

照「……」

久「~~っ」フルフル


怜「はーいはい。早く食べへんと冷めるで~」

菫「あ、ああ……そうだな……」

照「う、うん…っ」

久「…………」

照「久?」

久「――えっ?」

照「大丈夫、だよ」コソ

久「…~~っ」


怜「あはははっ。菫~、脱クリぼっち記念や、この蒸し野菜やるわ~」

菫「ちゃんとビタミン摂れ、自分の健康のためだぞ」

怜「お堅いなぁ~。そんな貴方には、程よく柔らかくなった、この蒸し野菜を進呈しますー」

菫「人の話聞いてたっ!?」



久「……」ピピッ


ヴ―…ヴ―…


照「?」

ピッ


From:竹井久
ごめん


照「……」

照「……」ピピッ




ヴ―…ヴ―…


久「!」


From:宮永照
私のためにありがとね(*^_^*)


久「……」

久「……私の前で、こんな記号みたいに笑わないでよ…」

久「」ピピッ


To:宮永照
もしよかったら、イブの夜私と?



久「……………」

久「……削、除」


To:宮永照


久「私……最低だ……」



―――12月24日。早朝。

宮永家。玄関。


照「淡…!?」

淡「っ」ビクッ

照「もうそれでお化粧終りなの…!?」

照「相変わらずヘタクソ。口紅の輪郭もぼやけちゃって……」

照「ちょっとこっち向きなさい」

淡「やめてよ、テル~~!私はこれでいいの!」

照「こんなに服のコーデは良いのに、化粧のせいで顔面残念じゃ悲しいでしょ?」

淡「ががが、顔面残念とか失礼なっ!」



照「いいから、直してあげるからこっち向きなさいってば」

淡「でも自分で化粧したいんだもん~~っ」

照「そんなのいつでも練習できるでしょ! クリスマスデートは年に一回なんだから、もっとさ~…」

淡「うぅ~」

照「ほら早くっ、私も朝は時間無いんだから」

淡「……じゃあ私のこと放って早く行けばいいのに」

照「ああ?」

淡「お、お願いします…っ!」

淡(うぅ…、なんか今朝のテル、ちょーー機嫌悪いんですけど~!?)

照「私の分も、ガッチリ相手のハートを射止めてくるのよ!」グッ

淡「ハートを射止めるって。なにそれ……表現古くない?」

照「…っ」ギュルルル

淡「ぎゃああああっ――――!?」


―――オフィス。夜。


久「ねぇ」

照「うん?」


久「もし…よかったさ、この後、女子会しない?」

照「女子会…?」

久「ええ…。その、メンバーなんだけど…」

―――――――――

ヴ―…ヴ―…

From:園城寺怜
うちは今日は不参加で。
大阪から友達来とんねん

―――――――――

久「……二人で、なんだけど…」

照「…? もちろんいいよ、むしろ予定なくて困ってたくらいだし」

久「そ、…そう」ホッ


久「この前言ってたイタリアンのお店、予約してあったのよね?」ニコッ

照「ああ…。……うん」

久「あそこ美味しかったからさー。あの薄情者の菫とは行けなくても、照も是非食べるべき~って思って。しかも今回コースでしょ?」

久「…クリスマスイブの夜に、二人席で予約してあったレストランに、一人で行くのはさすがにアレじゃない」

照「……ありがとう、久」

久「ううん♪」

照「そういえば、あのお店に、前に誰かと行ったことあるの?」

久「まーね」

照「怜?」

久「え? ああ、違う違う。ちょっと高校生とね」

照「……高校生?」



久「そう。まぁ、ちょっとした縁でさ、知り合いになったの」

久「…あ、もちろん女子よ?」

照「高校生と高級レストランって……」

久「ねっ、あの時は私もびっくり! 普通に事案発生よね!」

照「ふふふっ」


照「あっ、でも大丈夫だった?」

久「え? 何が?」

照「ほら、今話題の……淫行条例、とか」

久「ちょっと、照~~っ?」



照「あはははっ」

照「そういえば少し前ね…。菫が『女子高生』とか『女子大生』とかに過剰反応してて面白かったなぁ~」

久「あ、ははは…」タラリ


―――駅。

菫「……」

菫「お待たせ」

淡「あ、うん! 今来たこと!」

菫「本当に?」

淡「…えへ、まぁ」

菫「そっか。じゃあ行こう、今日は寒いし、クリスマスイブだし。食べたいと思ったモノをそのまま買って帰ろうか」

淡「えっ」

菫「大丈夫だよ。何たってクリスマスイブだからな、多少の贅沢は許されるんだ」

淡「ありがと。そうだよね! じゃあ神様に感謝――!、だねっ!」

菫「いや、お金出すの私なんだから、感謝するのは私にしてくれない…?」


―――
 ―――

菫「ピザ、チキン、エビチリにフライドポテト。みかんとロールケーキだけって、これはさすがに……。せめてサラダくらいは作るからな?」

淡「いいじゃんっ別に! 野菜いらない!」

菫「ダメだ。一週間後に必ず後悔することになる」

淡「スミレのイジワル~!」

菫「確かに何でも買っていいとは言った。…だが、家でサラダを作らないとは言ってない」

淡「おーぼー! スミレ、おーぼー!」

菫「何とでも言え。私は何を言われようと……サラダを作ることを止めない!」

淡「どんだけ野菜好きなの? ちょーー凹むんだけど~~…」



菫「…まぁでも、これくらいかな?」

淡「うんっ」

菫「じゃあ早く帰ろう。ここじゃ冷える」

淡「うん……」

菫(私は、淡の方に手を伸ばす)

淡「えっ、え? ……え?」


菫「いや、握手じゃなくて。袋、持つよ」

淡「あ……、そっち」

菫(差し出された手は冷たかった)

菫(そして持ってくれていた、お惣菜の入った袋は、見た目より重かった)



―――弘世家。

淡「あ、この前のままだぁ……」

菫「この前って、つい一昨日の朝、うちに居ただろ?」クスッ

淡「あはは…」

菫「座ってて。暖房入れるから。あとお茶も」

淡「うん」

菫「あ、外だったからかな……。あんまり気付けなかったけど、お化粧してるんだね」

淡「うん……。その、テルー……じゃなくてえっと、親戚がね、近くに住んでるから、その人に」

菫「そうなんだ。大人っぽいその服と、よく似合ってる。可愛いよ」

淡「あ……えへ、ありがとう……」

菫「……」

淡「……うぅ…///」

菫(会った時に褒めればいいものを、何故このタイミングで褒めるんだ……私は)

菫(自分の部屋という密室なせいか、妙な緊張感が…)



菫「お腹、空いてるよな?」

淡「……へいき」

菫「今ご飯買ってきたばかりなんだが……。人間、腹が減ってるとろくなことを考えないからな」

淡「スミレ……こそ、お腹すいてる?」

菫(いつもの淡ちゃんとどこか違う雰囲気。お化粧のせいかもしれないけど、なんだか少しだけ…)

菫「…もうちょっと、ご飯は後にしようか?」

淡「うんっ。あ、部屋、ちょっと見ていーい?」

菫「ん? ああ、かまわないが。でも何回も来てるだろ」

淡「部屋の物色はまだだし」

菫「何もない部屋だけどな」

淡「そんなことないもん」

淡「スミレの生活が……。私の知らないスミレが、たくさん隠れてるよ…」

菫(どこか感慨深げな言い方は、淡の年齢とはやはりアンバランスだ。でも不思議と、違和感はない)



菫(まだ子どもだと思っていたが……でも。“大人”ではないだけで、“子ども”とも言い切れないのかな)

菫(この年頃の子は、どんどん成長していく)

菫(態度が女らしくなって、体つきもほんの少しだけなら――)

菫「!?」ハッ

菫(な…、なに一人でムラムラしてるんだ!馬鹿か、私は…!)

菫(…出会った当初は、何でもしてあげられるが、何をするのがいいのかわからなかった)

菫(『どうせパフェなら、この娘も好きだよな?』……とか思ってた)

菫(だが今は、何でもしてあげられるとはあまり思わない)

菫(むしろ、淡にしてはいけないことや、言ってはいけないこと――という風に、疑問よりも禁止が湧いてくる)

菫(嫌われたくない……。ずっと、嬉しそうに笑っていて欲しい)

菫(どこか、子ども扱いできない――)



淡「うふ…」

菫「ん? …おい」

淡「あ…ぅ、ん…?」

菫「棚を開けて、中をどうするつもりだ」

淡「パンツとかどこにあるのかな~って」

菫「確かにあるが、見ても面白いものでもないだろ」

菫(人の家の匂いって、棚の中の服とかにも付いてたりするし……)

菫「……この部屋、臭くないかな?」

淡「? ぜんぜん。どうして?」

菫「いや……。他人の家の匂いに敏感だったりしないのかな、と」

淡「?」

菫(昔、照に『菫の部屋の匂いだ…』とか言われたのを、実は今も気にしていたりする)

菫(けっこう、小心者の私です)



淡「あ!あらあらスミレさん、窓のさんが汚れてますわよ!」

菫「…なにごっこだよ、それは」

淡「嫁姑問題……ごっこ?」

菫「やめろ。それは…、軽々しく遊びにしていい代物じゃないから」

菫「嫁……か」

菫(そういえば、立ち振る舞いも堂々として、立派に見える)

菫(姿勢も良くて、おしゃれで――金髪が少しウェーブかかって綺麗で)

菫(気づけば、部屋のなかに、どこか甘さが漂い始めていた)


淡「ね、ね」

菫「うん?」

淡「座っていい?」

菫「いいよ」

淡「一緒に座ろ?」

菫「うん」

淡「じゃあ、ちょっと待ってね。買ってきたみかん出すから」

菫「そうだな。みかん、食べたいな」

淡「一緒に食べたら美味しいよ。でも、こたつあればもっと楽しかったのに~」

菫「そんなもの置くスペースはないからなぁ」

菫(私も、淡ちゃんと同じ事をするのが、何故かいま凄く楽しい…)



淡「菫、ベッド、先に座って?」

菫「ん? ああ」

菫(淡は上機嫌に笑いながら、座った私の傍らに立った)

淡「じゃあ、座るね」

菫「ああ、どうぞ。別にいちいち私に断らなくても――」

淡「よいしょ、っと」

菫「―――――」

菫(淡が、私の膝の上に腰掛けてきた)


菫「お、おい。ちょっと」

淡「いいって言ったもん…」

菫(こちら振り返り、ちらりと様子をうかかってくる)

淡「えへへ…」

菫「こら……何してるんだ。もう」

淡「だってぇ…」

菫「だって、何」




淡「だめ……?」

菫「―――っ!」

菫(その甘えた声に、咎める気持ちが揺さぶられた)

「……だって、暑いから」

淡「暑くないもん。…冬だもん」

淡「人肌恋しい季節、だから…///」

菫「おい、そんな言葉どこで覚えた」

淡「お願い!」

菫「もう……」

淡「えへへ…」

菫(こんな調子では、どこまでもつけあがりそうだ……。でも、甘えられて嬉しい)


菫「重くて脚が痺れるから、少しだけな」

淡「あー、重いって言ったぁ~…」

菫(実際にそれなりに重い。だって現役高校生だ、それなりに体重はある)

菫(おまけにお尻の感触は柔らかくて――)

菫「……///」

淡「……重くないもん…」シュン

菫「ごめん、だがそれは言葉の綾で…」

淡「『言葉の綾』ってさ? 思いがけずに、核心ついちゃった時に使う言葉だよね」

菫「う……反論できない」

菫(…淡のお尻が気になって、いまいち頭が働かない)



淡「みかん食―べよっと♪」

菫「この体勢でか」

淡「スミレも食べるよね?」

菫「……いや、私は」

淡「あーーーん♪」

菫「……」

淡「あーーーん♪」

菫「……くっ」

淡「あーーー♪」

菫「……あーーむ」

淡「ふふっ♪ おいし?」

菫「むぐむぐ……うん」

淡「あ、スミレ照れてる~~♪可愛い~、好き!」

菫「ふふっ」


菫「なぁ、淡」

淡「ん?」

菫「そろそろご飯たべよう」

淡「お腹すいた?」

菫「ああ。お腹すいた」

淡「じゃあ食べよっか」

菫「よし、じゃあ淡はお皿出してくれ」

淡「うん!」

菫(この泥沼のように心地よい時間に嵌っていくのが、少しだけ怖かった…)


―――街道。


菫(淡を実家まで送り届けるため、駅に向け歩いている)

菫(もっとも、淡自身はちっとも納得できていないみたいだが…)

淡「……帰りたくない」

菫「ダメだ」

淡「やだ!」

菫(冬休み期間、寮の門限は早いらしく、今回は実家に送り届けることになっている)

淡「うぅ~、おうちデート。せっかくの性の6時間がぁ~…」

菫「……」

菫(……聞かなかったことにしよう)



淡「……」

淡「クリスマスツリー……」ボソ

菫「え?」

淡「あのね菫、イルミネーション見なくていいって言ったんだけど、やっぱり見たいんだよね。……いい?」

淡「綺麗なクリスマスツリーが見たいなって」

菫「えっ、でも、」

淡「ね、今日最後のお願い!」

淡「駅前に、確かあったよね。大きくて、綺麗なやつ」

菫「突然だな、まあいいよ」

淡「ほっ…」

菫「じゃあ行くぞ」



―――駅前広場。


淡「わぁぁ~~!」

菫「ぁ……」

菫(ちゃんと見たことなかったが、こんなに綺麗だったんだ……)

淡「凄い! スゴイ! 綺麗~っ!」

菫「ああ、本当に…」

菫「……」

菫「なぁ、淡」

淡「ん~~?」

菫「…なんで突然、クリスマスツリーが見たいって思ったんだ?」

淡「え、っと…その」



淡「…ほら、『寄らば大樹の陰』って言うでしょ?」

淡「こんなに綺麗で、大きなクリスマスツリーを見てれば、幸せまで寄ってきてくれそうじゃん?」にこ

菫「―――――……」

菫「……ふふっ」

菫「そうかもな…」

菫(言葉の意味は全然違うが、言いたい事は伝わってくる)


淡「それにね…、大樹―――…咲の元に、また皆で集まれたらなっていう、願掛けも」

菫「……サキ?」

淡「うん。……ちょっと、仲たがいじゃないけど、姉妹で揉めてて……」

淡「テルも、サキも、……また麻雀してくれたら嬉しいなって」

淡「二人とも凄く強くて、格好良くて、私の憧れなの!!」

淡「いつか絶対、勝つって決めてるんだ!」ニコッ


菫(クリスマスツリーを見たい理由が、―――『菫との思い出が欲しかったから』)

菫(……そんな甘い言葉を期待していた訳ではなかったけど、)

菫(目の前で勝気に笑う淡が泣いているように見えて、私は――)


菫「あわい……」チュ

淡「んー? どうした―――んんっ!?」

菫「んっ、んぅ…」ンフ

淡「~~~~っ!?!!?」

菫(淡の体温、唇の感触が伝わってくる)



菫(人肌恋しい季節、か……)

菫(ただ寒いというだけのことを、そんな風に言った奴はどこのどいつだ)

菫(ここが外じゃなかったら、本気で襲ってた気がする―――)



淡「…………………………………」

菫「……いきなりキスして、悪かった。だが淡には、笑っていて欲しいんだ――」

淡「」

菫「ん? なぁ、おい、淡?」

淡「」

菫「……」

菫「……し、死んでる……」



―――駅前広場。


久「美味しかったでしょ♪」

照「うんっ」

久「さーてと、この後どーしようか? バーでも行ってみる?」

照「お酒飲みたーいっ」



「こんなに綺麗で、大きなクリスマスツリーを見てれば、幸せまで寄ってきてくれそうじゃん?」

「そうかもな…」



照「……?」



「それにね…、大樹――咲の元に、また皆で集まれたらなっていう、願掛けも」

「……サキ?」



照「――――…!?」

照「………あれ、って……」



久「ん? どうしたの?」



菫「あわい……」

淡「んー? どうした―――んんっ!?」

菫「んっ、んぅ…」

チュ



照「あ……」

照「あ、あ……あああああっ!」


久「え…? 照、どうかした?」

照「あ、あ、あ……ごめん久、久ごめん。っでも私行かなきゃ……!」

久「ちょ、ちょっと待って! どこ行くの?」

照「あっ、だめ!やだ、やだやだやだやだやだ…!」


久「ちょ、ちょっと落ち着いて! なにいきなり!」

照「す、すす、菫が―――!」

久「菫が? 菫がな―――」クルリ

久「……に……えっ」

照「っ…」ダッ

久「あ、照! こらっ、待ちなさい!」ダッ



―――池袋。


怜「…それで? 今どこなん?」

竜華『それがなぁ、偶然ばったり白水に会ってもーて。覚えてる白水哩? インハイん時の…』

怜「そんなことどうでもええわ。うちは、竜華がどこにいるのか聞いてんねん」

竜華『あんな、聞いて怜。空港でバス待っとったら、そん時に偶然うちの席の正面に白水が座っとって…』

竜華『そんなん、話し掛けるしかないやん? あはは……いや~、世間様は狭いもんやわ~。ああ、怖い怖い』

怜「…要するに竜華は、偶然知り合いに再会して話し込んだ挙句、乗る予定だったバスを逃した……と」

竜華『…まぁ、否定する部分はないなぁ』

怜「…ほんま、人懐っこいのも大概にせぇや。こんなん、白水にも申し訳ないわ…」

竜華『ああ~、白水は違うバスに乗る予定やって、今しがたバス乗り場向かってったで?』

怜「……」

竜華『………ごめん』


怜「はぁ…とりあえず、迷子やないみたいで安心したわ」

竜華『迷子て…』

怜「こんなことなら、家で寝とけば良かったわ。うち、病弱なもんで」

竜華『取って付けたような病弱アピールやめい!』

怜「だいたい…どんだけ探したと思ってんねん。携帯出ぇへんし。寒いわ滑るわで散々やわ!」

竜華『ええ!? 怜、転んで怪我したん? 急いで病院行かな…!!』

怜「滑っただけやし! 別にコケてへん!」

竜華『そうなん…? ああ~、ええと!とにかく、そういうことやから…。こっちは合流できるまでもう少し時間掛かんねん』

怜「…うち、じゃあ家で待ってればええの?」

竜華『ごめんなぁ~。急いで向かおうと思ってんねんけど、空港から出てるバスの本数少なくて~…』

怜「はぁ……。なら、電車乗れや…」

竜華『だってぇ~、東京の乗り換えはダンジョンやって、セーラが言っててんもん~~っ』

怜「乗り換えアプリと駅員さん使えや! ああもうっ、世話の焼ける奴っちゃな~!」



ピッ

怜「はぁ…」

怜「……」

怜「……とりあえず、帰るか」

prrr…

怜「?」


着信
From:竹井久


怜「…久?」

怜「はい、もしも――」

久『どうしよう! ねえどうしよう怜…! 私、私…どうしよ~っ』

怜「!?」


怜「な、なしたん!?」

久『照が……、菫と、たぶん淡ちゃんがキスしてるの、駅前広場で偶然見つけちゃって…!』

久『照が走ってどっか行っちゃったの! どうしよう~っ、私のせいだ。私がレストランに誘ったから!』

怜「久、落ち着け」

久『私…必死に追いかけたのに、全然捕まらなくて…!』

怜「久……!!」


『っ……』

怜「えっと…今、どこ? どこ居るん?」

怜「会いに行ったる、場所教えて。な…?」


―――駅前広場。


怜「はぁはぁ……久……っ」

久「! ああ怜!照がどこにもいないの!」

怜「うん……」

久「どうしよう~。私のせいだ……、私の……」

怜「久のせい……。やっぱな、そういうことか……」

怜「……なぁ久」

久「えっ? え? なにっ?」

怜「丁度ええわ。ずっと気になっとったこと、答え合わせさせて」



久「はぁ!? 人の話聞いてた? 私は……!」

怜「……やっぱりな。さっきから、照、照って」

怜「ああ、ちゃうわ。ずっと、もっと前からや……」

怜「おかしいと思ってん。照に対してあれほどの献身っぷり。……あまりに面倒見良すぎやろ」

怜「仲のいい友達? 同郷のよしみ?……よくもまぁ抜け抜けと、そんな言い訳、笑顔で吐けるもんやわ」

怜「まぁ、この結論に至ってからは、むしろ納得やけどな」

怜「そうとしか言われへんもんな……。どれだけ辛くても」

久「な……、にを……っ」

怜「…………」

怜「なぁ久……」

怜「あんた、照のこと好きやろ?」

久「……!!」


怜「わからないとでも? ……そんなはずないやろ」

怜「うちら……唯一無二の、親友やんか……」

久「…………」

怜「久が、菫との件で照のこと気遣ってた時、うちは『菫には淡ちゃんがお似合いや』って言った」

怜「久はうちに、空気読めって言ったけどな。……うちからしたら、あんたこそ何やってんの?って感じやったわ……」

怜「最初から勝負諦めるなんて、久らしくもないやん……」

久「怜……」ポロポロ

怜「辛かったな……気持ち押し殺して、好きな人の傍に居るんは。苦しかったな……好きな人の恋を応援するんは」

怜「大丈夫……。うちが傍に居るから、好きなだけ泣いてええで」

久「……!!」

怜「……」ギュッ



prrrr..

怜「……?」


From:清水谷竜華


怜「……」

ピッ

怜「…はい、園城寺です」

竜華『あ、怜ー? あんた今どこ居るの? もう家の前についてしもてんけどー!』

怜「……」

怜「……なぁ、竜華」

竜華『うんー?』

怜「いい加減……解放してくれへん? うちら別に、恋人でもなんでもないやん……」

竜華『恋人?……え、突然何言い出すん、怜?』


怜「竜華……!」

竜華『ひゃ!? な、なしたん?』

怜「大阪を離れて3年。…もう自由は要らへん。せやから、大切な人に頼られて、守れる人になりたい」

怜「生涯掛けて、この人を守りたいって思える人……見つけてん」

怜「たとえ、友達としてでも、傍にいたいって」

竜華『怜……』

怜「でも、その人な……今、めっちゃ苦しんでんねん」

怜「結婚が何? 報われへんでも、それでも捨てられない……貫きたいモンやって、あるやん」

怜「側にいたい……」

怜「好きな人には、だって、笑顔でいて欲しいやん……」

竜華『……』


竜華『……そっか』

竜華『怜なりに、なんや逞しゅうやっとるようで……うち安心したわ』

怜「竜華」

竜華『膝枕』

竜華『膝枕は……怜が大阪に帰って来たときにしか、してあげへんっ!』

竜華『あーそれと。たまには大阪にも顔出しや? せーととかおばさん、怜に会いたがってんで?』

怜「……ありがとう」

竜華『ええの、ええの。病気がちやった怜が、ここまでやりたがってんねんで?』

竜華『うちが守ったらなあかん!……なーんて、今のいままで思っとったけど』

竜華『でも、親友としては……怜のこと応援したいし』

竜華『あ、でも、梯子を外したわけやないから、……辛くなったらいつでも帰ってきぃ』

竜華『なに戻ってきてんの!さっさと先に進みぃや!……て発破掛けたる』

竜華『……グスッ』



怜「竜華……?」

竜華『!……な、泣いてへんっ。うち、泣いてへんで!』

竜華『だってうち、怜の味方やもんっ。グスッ……親友やし、怜のこと誰よりも応援するん!』

竜華『怜には……好きな人には、笑顔で、幸せでいて欲しいから……』

怜「……せやな。そのために、誰かに守られてるんやなくて、自分の脚で進もうって決めて、東京来たんやったな……」

怜「大切なもの、見つけたよ」

怜「ありがとうな……竜華」

竜華『えっと……ほな、どないしよ。うち、どっかホテルでもとるわ』

怜「いや、うちに泊まってええで?」

竜華『え、でも、』

怜「竜華と話したいことめっちゃあるし、久しぶりに顔見たいわ」

竜華『ほんまに? だってうち、今フラれて……』

怜「だってうちら、これからも親友なんは変わらへんやん?」

竜華『!』


怜「うちの家の前で、待っとって。竜華におかえりって言われるの……懐かしゅうて楽しみやわ」

竜華『……グスッ』

竜華『……なんやの、それっ!ならうちと結ばれてくれたらええやん!いつでも言ったるわ!』

竜華『おかえり、おかえり、おかえり、おかえり、おかえり、おかえり!』

怜「いや、偶にでええねん……」

竜華『!……トキのワガママ…!』

竜華『欲張り、スケコマシ!あとそれから性格悪い!詐欺!』

竜華『もうアンタなんか知らんわ!寒さに凍えながら、うちの存在のありがたみを再認識すればええねん!』

竜華『ちょっと、聞いてんのトキ?うち誤魔化されへんからなぁ!?』

怜「……」クスッ

怜「竜華……」

竜華『うん……?』

怜「…………ありがとう」

竜華『……うん///』


―――麻布十番、某所。


淡「さて、と」

菫「え?」

淡「ここだよ、わたしの実家」

菫「あ…そか」

菫(しばらく、ずっと俯いて歩いてたから、ここが麻布十番のどの辺りなのかもよくわからない)

菫(けれど、似たような建て売り住宅の並んだその一角に、確かに『大星』という表札がかかっていた)

菫(この一か月足らず、かなり濃い付き合いをした淡だけど、そういえば苗字を知らなかった)

菫(…聞くという発想も出なかった)



淡「送ってくれてありがとう。…実は結構嬉しかったりして」

菫「そりゃ…こんな時間だからな」

淡「も一つ実は、初めてスミレに寮に送って貰った時、子ども扱いされてると思ってムっとしてた…」

淡「でも今は…、送って貰えて、どこか幸せなの」

淡「なんだろう…。私の街に、スミレが居る。不思議……」フフフッ

菫「…それじゃあ、風邪をひいたら大変だし、そろそろ」

淡「うん、じゃあ次は…」

菫「年末の…長野旅行の時かな。連絡するから」

淡「…うん」

菫「あわい…」

淡「ん…」

チュ

菫「じゃあ…」

淡「……うん///」


菫「じゃあな。もう終電ギリギリだから、ちょっと」

淡「うん、気を付けて帰ってね~」


淡「……」フルフル

淡「はぁ~っ、キス……されちゃった」

淡「~~~っ///」

淡「……性の6時間はダメだったけど、おうちデート楽しかったなぁ」

淡「お泊りは断固阻止されたのは……さすがスミレって感じだけどね」

淡「ふふふ♪」

淡「はぁ、実家久しぶりだな―――」


―――弘世家、門前。


菫「……照?」

照「……ぁ、よかった……帰ってきてくれた…っ」

菫「え……?」

照「菫……菫……!」ダキッ

照「菫…。お願い…ここに居て…。ずっと、ずっと、お願い…どこに行かないで…」

菫「照……どうしたんだ? なにがあった?」

照「……」フルフル

菫「……すまん。私じゃ、照の考えてることを全部汲み取ることはできないんだ……」

照「っ…」


菫「雪…」

照「…本当だ」

菫(震えたまま動けないでいる照に抱き付かれたまま、空を見上げると雪が降って来た)

菫「…これは積もるかもなぁ」

照「……ん」ギュッ

菫「照……」

照「……私達、昔のまんまだよね? 誰よりも、お互いのこと理解し合ってて。好き同士の」

照「ずっとずっと、これからも、いつも一緒だよね……?」

菫「……」

菫「照、高校時代は楽しかったな。…麻雀に打ち込んでさ、お互いの距離も近くて」

菫「…でも、私達はもう社会人だ。昔のようにはいかないさ」

照「っ~~」



菫「だから、つまり。その――」

照「……待って」

菫「え……?」

照「ねぇ、菫…」

菫「なんだ?」

照「……菫が今から話そうとしてること、当ててあげようか?」

菫「……悪い、私に言わせてくれ。その……ケジメなんだ。自分と、そして照への」

照「…菫がスムーズに話し出せない段階で、何が言いたいのかわかっちゃってるんだけどなぁ…」

菫(照はそう言って、私から離れてた。……顔は、小さく俯いている)

照「…ほんと、わかっちゃうって辛いね」

菫「ごめん…」

照「何についてのごめんなんだか…」

照「謝らなくちゃいけないのは、こっちなのに…」



菫「照……私の話を聞いてくれ」

照「…うん」

菫「けど…」

照「ごめん、このままでお願い」

菫(目の前で、小さく俯いたまま。視線を合わさず、照が、優しい声で諭す)

菫「私さ……照以来、初めてこんな大事に思える娘が、出来たんだ」

菫「出逢ったのは、一か月くらい前」

菫(さすがに合コンで出会ったJKというのは、伏せておいた)

菫「今の私には、淡が世界で一番大切にしたい女の子なんだ―――」


菫(照は、体では反応しなかった)

菫(ただ、照の内心が静かではないことくらい、私にも容易に想像がつく)

照「……」

照「…めでたいね。菫が新しい人と新しい人生を歩み始めるのは、心のソコから嬉しいよ」

照「だって、今の菫、凄く幸せそうだもん」

照「でもなぁ…もうちょっと相手、何とかならなかったのかなぁ」

ほうっと空を見上げて吐いた、苦笑交じりの白いため息も。

照「…私は、菫を支えることはできなかった。寂しさを埋めてあげられなかった」

照「結局、私は自分勝手で……私が菫に貢献できたことといえば、麻雀だけ」

菫「そんなことない。…照がいてくれて、本当に良かった。支えになったし、嬉しかった」

照「……でも、私の前で菫が怒ったり、笑ったり泣くことは一度もなかった」

菫「…なに?」

照「ほら…そうやって。菫はそうやって、私の前ではいつも難しい顔をしてる…」


照「…私ね、ずっと嫉妬してたんだ」

照「私がどんなに興味を惹こうと頑張ったって、菫は硬い表情を変えてくれることはなかった…」

照「終いには、菫の関心を惹こうとした」

照「…私ね、たしかに本は好きだけど、さすがに自己管理くらいできるよ?」

菫「え…」

照「新しい本を買ったことをアピールして、わざと夜更かしして、菫の電話なしじゃ起きれなくなったり……迷子のふりして、試合会場に着いてきてもらったり」

照「そんな人、いるわけないでしょ? もう高校生だよ?キャラ作ってるに決まってる」

照「それに迷子癖なんてありえないって。現に今、私一度も会社まで行くのに遅刻したことないんだから」

菫「照…」

照「私は菫に……ただ、仕方ないなぁって叱ってもらったり、ほほ笑んで欲しかったの……」

照「……終いには菫のこと、一方的にフッて。怒ってくれるどころか、あっさり破局して…」

照「……そんな迷惑ばかり掛けて、フラれて当然だよね…」


菫「照!」

照「いいの!!」

照「いいから……最後まで言わせて」

照「えっと、だから……菫はきっと、淡との方が上手くやっていけると思う」

菫「え…、ちょっと待て。お前、淡のこと知ってるのか?」

照「知ってるもなにも、従妹だよ。…同じ血統。なら、好みの相手も似るのは仕方ないよね…?」

菫「……」

照「あはは…、さすがに知らなかったよね。じゃあ、絶句次いでに、ネタ晴らし」

照「菫…、久と合コン行ったでしょ?」

菫「あ、ああ…」

照「あれね、私が久に頼んだの。菫のことを、合コンに連れて行って欲しいって」


菫「…は? な、なんでだ」

照「ヤリ目の合コンに行ったことを、私に知られた時の反応で、脈アリか判断しようとして…」

照「その時は…、まだ望みはあると踏んでたのにね…」

照「せめて菫を悲しませた償いのために生きようって決めて、それで散々考えた作戦がこれ。…馬鹿みたいでしょ?」

照「でも、結果には納得かな…」

照「…だって、淡と出会ってからの菫は、今まで見たことないほど落ち込んだり、喜んだり…」

照「……私には引き出せなかった、菫の魅力が溢れてるんだもん…!」

照「私にはない魅力を…、あの子は総なめにしちゃったから…」


照「淡は素直で、とっても素敵な子だから。強くて、真っ直ぐな子…」

照「だから……」

照(照はそこで区切って、小さく俯く)

照「今はできることは少ないかもしれないけど、きっといい子のまま、いい恋人になってくれる」

照「私なんかいなくても……菫のこと、悲しみから救ってくれるって、わかってる」

照「…こんな嘘と策略ばかりの、悪い女の親戚とは思えないほどに」

菫「……」

照「…私たち、似てるね。構ってちゃんなんだよ…」

照「でも、アプローチを間違えれば、それは愛じゃなくて……私の場合は、ただの保身になってた」


菫「でも照は……私じゃないと」

照「私のことを心配してるっていうのなら、それは筋違い」

菫「え…」

照「私は、いつか必ず幸せになるから。菫の幸せのために、自分を犠牲になんかしないから」

菫「……ああ」

照「だからこの話は、これでお終い。お互い、絶対に幸せになりましょうね?」ニコッ


菫「照、あのさ…こういうこと言うと、また叱られるかもしれないけど」

照「うん?」

菫「私は、これからも、できる限り、照が幸せになるための力になりたい…」

照「…っ」

菫「もし…ほんの少しでも、照の役に立てるんだったら…」

菫「これからも…近くにいて、照を見守っていても、いいか?」

照「……っ」


照「…それって、淡に凄く嫉妬されないかな?」

菫「淡の願掛けを―――さっきクリスマスツリーの前で訊いたんだけどさ」

菫「咲の元に、……もう一度、皆が集まることなんだって」

照「!」

菫「私には何のことか、さっぱり分からないが、でも仲たがいした姉妹に仲直りして欲しいって」

照「……」

菫「それにさ…もし、淡が嫉妬するようなら、喧嘩でも何でもするよ」

照「恋人をないがしろにしといて、あげく喧嘩するの…?」


菫「私が、世界で一番大切な女の子は、淡ちゃんだが…」

菫「……照には、世界で一番大切な親友でいて欲しいから」

照「…聞きようによっては、なんて酷い言葉」

菫「……」

照「菫、ほんと最低。このタラシ」

菫「私の希望だけだ。だから照が、自由に選んでくれ」

照「………考えとく」

菫「ありがとう」


照「……」

菫「……そろそろ帰ろうか。雪も、強くなってきたし」

照「わたし、もう少しここにいるから…だから菫、先に行ってて」

菫「でも…」

照「5分だけ…この舞う雪を、見ていたいから」

菫「…わかった」

照「さようなら、菫」

菫「また、な」

照「……さようなら」


菫(照は最後まで、私と目を合わすことはなかった)

菫(もう、雪に覆われ、その背が何を語っているのかもわからなかったけど)

菫(それでも私は、ただ一人、照をおいて、その場を去った)


菫(そして私は…最後にまた、照の方を一度だけ振り返り…)


菫「あ…」

照「…ぅ、ぅ…っ、ぅぅ…っ」

菫(5分だけ雪を見ていたい、と言っていたはずの照は、空なんて見上げていなかった)

菫(迷子のように地面に蹲るその様は……、高校時代に、私が照からの電話で駆け付けた時に見た光景と、何も変わっていなかった)


菫(……なぁ照、あの頃のお前に迷子癖がないなら、誰が迷子癖があるっていうんだよ…)

このあと、エピローグがあるのですが、今夜の投稿にします。
すいまそ

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