常務「ふむ、今回のコミケの収穫はこれくらいか」ちひろ「今年も豊作でしたね~」 (81)



―某日、美城常務の部屋―


コンコン


常務「……どうぞ」


ガチャ


ちひろ「失礼します、常務」ペコリ

常務「ふむ、千川か。遅かったな」

今西「千川君、今日もお勤めごくろうさま」

ちひろ「あっ、今西部長も来てたんですね!」

今西「僕もさっき来たばかりだよ」

常務「の割には、随分くつろいでるみたいですが?」

今西「はっはっは、相変わらずキミは手厳しいな」

常務「そういうわけではありませんが……」

ちひろ「……あー、えーっと」キョロキョロ



ちひろ「――あっ! そういえばこの前のコミックマーケットお疲れ様でした!」





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常務「ふっ、今年の夏はかなり暑かったな」

今西「例年、暑くなってくるとこの歳には辛いなあ」トホホ

ちひろ「私も今年は列に並ぶのがすごく大変で……うう……」

今西「千川君は、半休で午後から行ったんだっけ?」

常務「なに? それは本当か?」

ちひろ「はい……、最近、プロデューサーさんのお仕事がかなり多忙になってきてまして……」

常務「……勤務体系の見直しが必要だな」カタカタ

今西「相変わらず仕事熱心だねえ」

ちひろ「わわっ、ありがとうございます!」ペコリ

常務「なに、気にするな」





ちひろ「それよりも、今回の収穫品の評論会ですね!」

常務「ふむ、そうだな」

今西「毎度ながら腕が鳴るね」

ちひろ「それじゃあ、誰から出していくかクジ引きしますか?」

常務「ああ、それなら既に作成済みだ」スッ

今西「ほ~、このクジ引き、プロジェクトクローネのメンバーのイラストが入ってるのか」

常務「ええ、特注品です」

ちひろ「あ、このフレデリカちゃんのイラスト可愛いですね!」ウフフ

今西「ほほう、これはなかなか」

常務「吹き出しでしるぶぷれ~、と言っているのがポイントだ」





―クジ引き後―


ちひろ「はい、えっと。あ、私は2番目ですね」

今西「僕は最後」

常務「となると、私がトップバッターか」

ちひろ「常務の収穫品、楽しみですね」ニコリ

今西「ああ、その前にお茶でも出そうか」スッ

ちひろ「ああ、それなら私がっ、」

今西「いやいや、大丈夫だよ。玉露でもいれてこよう」

常務「ありがとうございます」ペコリ

今西「先に二人で進めといてくれ」スタスタ





常務「……よし、それではこれが今回の収穫品だ」

ズラッ

ちひろ「わ~!! 常務、今回も大量ですね~!」キャッキャッ

常務「……ふふ、まあな」

ちひろ「ああああ!! と言うか、これ、私も欲しかったあんきら本じゃないですか!」ガタッ

常務「列に並ぶのにかなり苦労したな、それは」

ちひろ「ううう……読んでもいいですか」

常務「ああ、構わん」

ちひろ「では、遠慮なく――」




ちひろ「……ああ、これは。……尊いですね」ペラリ

常務「……ああ、分かるぞ千川」ウンウン

ちひろ「杏ちゃんの怠け癖をきらりちゃんが優しく包み込んであげる、一見、単なるゲロ甘ストーリーなんですけど、いや、でも、それがたまらないですね」ペラリ

常務「尊すぎて、な、ふふっ、」

ちひろ「あんきらの美しさときたら、もう」

常務「そうだな……まるで手の届かない古城の空に輝く二つの星のようだ」

ちひろ「あ~、またポエムしてる~」

常務「……べつにいいだろう」





ちひろ「はぁぁぁぁあああ。良かったぁぁぁぁあああ」ドサリ

常務「どうだった」

ちひろ「……やっばいですね」

常務「その様子だと気に入ったみたいだな」

ちひろ「……これ、読み返したいんで後で貸してもらえますか」

常務「そう言うと思って、もう一冊買ってある」スッ

ちひろ「やったーー!」

常務「最後の二冊を手に取ったとき、並んでた後ろの男が青ざめてたな」

ちひろ「えっ」

常務「その隣を涼しい顔で私が去っていったんだが、」

常務「まあ、コミケとはそういうものだから仕方ないだろう」

常務「そんな彼の気持ちも受け取ってやれ」

ちひろ「もしかして、さっき私が言ったこと怒ってません?」




常務「あとは、おすすめはだな。……これだな」ゴソゴソ

ちひろ「はっ、これはもしや、」

常務「ああ、うづりんだ」

ちひろ「常務。グッジョブです」グッ

常務「ああ」グッ

ちひろ「やはり、うづりんはある種完成系ですよね」

常務「ああ、かくいう私もうづりんには目がない」

ちひろ「いつもは、シンデレラプロジェクトを目の敵にしてるのに~、このこの~」

常務「ふふ、やめないか」




ちひろ「と言うか、この同人誌かなり分厚いですね……」

常務「なんでも130pあるらしいからな」

ちひろ「130!? 化け物ですか!?」

常務「しかし、それだけの価値はあったな」

ちひろ「末恐ろしい人もいるんですねえ……」

常務「それが購買力に繋がるのだから、やはり同人はやめられないな」

ちひろ「なんだか顔が怖いですよ、常務」

常務「あまり気にするな」




書きだめ尽きました。のんびり書いていきます。



常務「どうだ、少し読んでみるか?」

ちひろ「う~ん、それじゃあちょっとだけ」ペラッ

常務「相変わらず素直だな」

ちひろ「常務の選ぶ百合本は基本あたりが多いですからね」ペラッ

常務「ふっ、そこまででもないさ」

ちひろ「あっあっ、こ、これ初っ端からヤバいですね。うっわ、や、ヤバいです、え、あああっ」ペラッ

常務「このうづりん本は、主に二人のなかなか進展しない、もやもやとした関係に重きを置いているんだがな、」

ちひろ「おぉぉ、こ、これは……」ペラッ

常務「なんといっても見どころは、中盤の、すべてを知った島村が渋谷を追いかけて街中を走るシーンだろう。夜の街頭に照らされながら息をきらす様ときたらな、」

ちひろ「……常務、それ、ネタバレですか」ムッ

常務「おや、口が滑ったみたいだな」

ちひろ「うわ、絶対わざとだ、この人……」




今西「お~、盛り上がってるねえ」スタスタ

ちひろ「あっ、今西部長」

常務「ずいぶんと時間がかかりましたね、もうお歳ですか」

今西「ははは、お茶を淹れるついでに、ちょっとしたお菓子も用意していたんだ」

ちひろ「お菓子ですか?」

今西「ああ、シベリアって知っているかな」スッ

常務「また、そんな古臭いものを……」

ちひろ「あの、シベリア……って?」キョトン

常務「老獪の好む食べ物だ」

今西「私への風当たりは相変わらずきついなあ」

常務「気のせいでは?」ムシャムシャ

ちひろ(とか言いながら、もう食べてるし)




ちひろ「これは……カステラ、ですかね」

今西「ああ、カステラ生地の中に餡を包んでいるんだ」

ちひろ「へぇぇ、面白いですねぇ~」

常務「……なぜか、よく冷えていますが?」

今西「この部屋の冷蔵庫を拝借させてもらったよ」フフフ

常務「私の部屋で、勝手な行動をされては困りますね」

今西「千川君は喜んでいるみたいだがね」チラッ

ちひろ「あっ、これ冷たくておいしいかも――んんっ、あれ、どうかしました?」モシャモシャ

常務「……フン」

今西「千川君には弱いみたいだね」

ちひろ「?」




―数分後―


ちひろ「……」ズズズ

ちひろ「ふわ~、このお菓子、すごくお茶に合いますねえ」

今西「気に言ってもらえて、何よりだよ」

常務「今西部長にしては、まずまずでしたね」

ちひろ「あー、またそうやって今西部長にだけ強く言って~。ダメですよ、もー」

常務「むっ、」

今西「なに、もう長い付き合いだからね」チラッ

常務「……」

今西「……」ジー

常務「……何か言いたいことでも?」

今西「とまあ、こんな感じ」

ちひろ「仲良いですね」フフッ

常務「そんなことはない」

今西「ははは、さてさて、一息ついたところで評論会を再開しようか」




常務「私からのおすすめは、さっき千川に見せた通りだ」

今西「ふむふむ、なるほど。今回は、わりと既存カップリングが多いね」ガサゴソ

常務「マイナーカプを発掘するのにも時間がかかりますからね」

今西「ふーむ、それもそうか」

ちひろ「そう言えば今西部長は、どんな本がお好きなんですか? 前回の評論会は本を持ってきてなかったですよね?」

今西「……ふふふ、それ聞いちゃう?」チラッ

ちひろ「えっ」

常務「……千川」

ちひろ「じょ、常務?」

常務「…………世の中知らなくていいこともあるものだ」

ちひろ「えっ、わ、私、なにか地雷踏みました!?」キョロキョロ

今西「まあ、私の番を楽しみにしといてくれたまえ」ニッコリ

常務「……はあ」ガックリ

ちひろ(今西部長の笑顔がすっごい怖いんですがそれは)




ちひろ(結局、怖くて聞き出せなかった……)

常務「次は、千川の番か」

ちひろ「あっ、そ、そうですね」チラッ

今西「ふふふ」

ちひろ(やばい、めっちゃ笑ってるよ……)

常務「どうかしたか?」

ちひろ「いえ……お気になさらず」

常務「?」

ちひろ「えっと、……今回は少ない割にはかなり豊作でした」ゴソゴソ


ズラッ


常務「ほう」

今西「千川君は、たしかPドルものが好きなんだっけ?」

ちひろ「ええ、あっ、そうですね」コクリ




常務「まあ、はじめはNLにハマるのは無理もないか」フフッ

ちひろ「常務も、そうだったんですか?」

常務「いや、私は違うな」

今西「キミは、向こうでの生活が長かったからね」

ちひろ「ああ、そう言えば確かに……」

常務「ふふふ、向こうの連中は正に常軌を逸しているからな」ガクリ

ちひろ「と、言いますと」

常務「……ぴにゃ×黒ぴにゃ、とかだな」

ちひろ「へ?」

今西「向こうの人はそういうの好きだよねえ、ホント」ズズズ

ちひろ「いやに冷静ですね、今西部長……」

常務「付き合いで無理やり読まされたこともあったが、ははは、あれは私には理解できなかったよ」

ちひろ(うわあ、コレ、ぜったい古傷だぁ……)



つづきは後ほど。



常務「ないものねだりで、向こうでようやく見つけたのが百合本だったわけだが、」

ちひろ「え、まだ続きがあるんですか」

常務「ははは、なぜか謀ったかのようにマイナーカプしかなくてな。……いや、今思えばそれが私のすべてを歪ませたのかもしれない……」

今西「あと、あれもあったよね。ほら、向こうの人にさ、」

常務「どれだ……、ははは、もしかしてアレか。確かあれは、ぴにゃと――」

ちひろ「いや、もう、あれです。お腹いっぱいです……。なんか、すいませんでした……」

今西「あれ、そう?」

ちひろ「はい……常務、大丈夫ですか」

常務「なぜ……なぜ、私ははじめにあの本を読んでしまったんだ……なぜ、」

ちひろ(トラウマスイッチ押しちゃったよ、どうしよう)




今西「まあいいや。少しの間、彼女は放っておこうか」

ちひろ「……今西部長ってちょっとそういうところありますよね」シラー

今西「ん? なんのはなし?」

ちひろ「うわあ……いま、すごい良い顔してますよ」

今西「はっはっは」

ちひろ「……」チラッ



常務「ああああああっ―――」ガクリ



ちひろ「……まあ、その気持ちは分からなくもないですけど」フフフ

今西「うわあ、千川君もすごい良い顔してるよ」




今西「そう言えば、千川君の持ってきた本まだ手を付けてなかったね」

ちひろ「あ、読みますか?」スッ

今西「……コレがおすすめ?」

ちひろ「はい、イチオシです」コクリ

今西「そっかぁ」

今西「ふーむ」ペラッ

ちひろ「……どうですかね」ソワソワ

今西「うーん、実は前回も思ってたんだけどね」ペラッ

ちひろ「はい?」

今西「ふーむ」ペラッ

今西「……あぁ今回の同人誌も、か」

ちひろ「なんですか。そんな勿体ぶって」

今西「いやぁ、ね」ペラッ

ちひろ「はい」



今西「……千川君の趣味ってちょっとアレだよね」

ちひろ「えっ!?」




今西「うーん、うん、やっぱりなぁ」ペラッ

ちひろ「ちょ、そんなにヤバいですか。私」ガタッ

今西「えっ、もしかして自覚ない?」

ちひろ「はい、まったく」

今西「うわぁ……」

ちひろ「え、うっそ、ドン引きですか!?」

今西「……まずね、」

ちひろ「はい」コクリ

今西「この本、初っ端から半裸のプロデューサーが目隠しして縛られてるよね?」スッ

ちひろ「ええ」コクリ

今西「それでね、このシーンでアイドルが持ってるのはなに?」

ちひろ「沸騰したエナドリですね」



今西「……」

ちひろ「……」



今西「えっ、ホントに自覚ない!?」

ちひろ「ええ!? 私、そんなですか!?」




今西「沸騰したエナドリを担当プロデューサーに浴びせる鬼畜アイドルが好きって、事務員としてどうなのかな、ソレ」

ちひろ「えぇぇ……でも、このシチュ萌えませんか?」

今西「……同人沼にハマるタイプだね、千川君」

ちひろ「否定はしませんけど、けど……そんなストレートに言われるとちょっと心に来ますね」ガクリ

常務「実は、私も前から千川はS気が強いとは思っていた」

ちひろ「わっ、常務が急に復帰した」

今西「だよねえ、僕も千川君は少し……いや、結構いきすぎてる節があるとは感じてたけれど。本人が自覚なしとは思わなかったよ」

常務「それは私も驚きました」

ちひろ「私、ここにきてこんなパンチ受けるとは思ってなかったです」




常務「それに、気になっていたんだが。なぜこの本のプロデューサーには顔が描かれていないんだ?」

ちひろ「ええ!? そんなのダメに決まってるじゃないですか!!」

今西「……」

常務「ほう、それはなぜだ」



ちひろ「だって、だって、そんなの妄想の余地がなくなるし、なにより実用性がっ――」



常務「……」

今西「……」

ちひろ「えっ、あっ、」

常務「……じ、実用性?」



ちひろ(ぼ、墓穴堀ったぁぁぁぁぁあああ)




ちひろ「え、あ、あの、えっと、その、そういう意味じゃなくって、あの、」ワタワタ


常務「……」

常務「……」チラッ

今西「……」コクリ



常務「あー、えー。まあ、本来の用途を守っているという意味でだな、」

常務「うむ、大丈夫だ」ポンッ

ちひろ「…………………はい、アリガトウゴザイマス」



ちひろ(消えてなくなりたい)



ちひろ「もう、私の番は終わりでいいですか……」スッ

今西「そうだねえ、面白いものも見れたし」フフフ

ちひろ「……今西部長、すごく楽しんでますネ」

今西「まあね」

常務「――ふむ、それでは次は今西部長の本を、」


コンコン


常務「ん? 来客か?」

ちひろ「えっ、でも、今は机の上すごいことになってますよ!?」

今西「コレ見られたら、中々すごいことになるね」

常務「確かに、それもそうだな」




アノースミマセーン!!


ちひろ「お、男の人の声ですね」

今西「どこかの部署のプロデューサーかもしれないね」

常務「ふむ、こうなれば居留守にでもして――」


シ、シツレイシマス!!


ちひろ「えええっ!? 入ってきちゃいますよ!?」

常務「くそっ、どうするんだ今西!!」

今西「とりあえず、体で隠すんだ!」バッ

ちひろ「い、今西部長!?」

常務「くっ! 背に腹は代えられない!」バッ

ちひろ「あああ、も~!」バッ




◇ ◇ ◇


ガチャ


P「あの~、美城常務はいらっしゃいますか~?」

P(うっわ、すごい広い部屋だ……。し、新人の俺なんかが入っても良かったのかな……)

P(いや、でも部署の人に書類関連の提出を頼まれたし……。と言うか、ここで合ってるよな……?)

P(ヤバい、急に手汗が)



P「……あの~、すいませ~ん」キョロキョロ


常務「私に何の用だ」


P「あっ、美城常務――実は、書類の提出でお伺いしたんですが、」チラッ



常務「……」

ちひろ「……」

今西「……」

P「……」

P(あれっ、なんで机で寝てるのこの人たち)





常務「何か用かと聞いているんだが?」

P「あの、え~っと、しょ、書類の提出に来たんですが……」オドオド

常務「……そうか、ならそこに置いておけ」

P「あっ、はい」スッ



常務「……」

P「……」



常務「なんだ、まだ何か用か?」

P「いや、あの……え~、あ~」

P「なんで、机の上で寝てるのかなあって……」アハハ



常務「……」

P「……」



P(うわ、やっべ。めっちゃ睨まれてるんだけど)




常務「シエスタだ」

P「えっ」

常務「シエスタだと言っているのが聞こえなかったのか?」

P「ああ、えっとシエスタ、ですか」

常務「そうだ」



P「……」

常務「……」



P「さ、三人で、ですか」チラッ



常務「……」

ちひろ「……」

今西「……」

P「……」


P(……あっれー、この部屋こんなに暑かったっけ?)




ちひろ「シエスタ、ですね」

P「えっ」

今西「最近は3人が主流らしいからね」ハハハ

P「えっ、あっ、そういう」

常務「……もういいだろう?」

P「え、あっ」

常務「私たちも暇ではないんだ」

P「ハッハイ、シ、シツレイシマシタ……」スタスタ



ガチャ




バタン





◇ ◇ ◇


常務「……行ったか」

ちひろ「……行きましたね」

今西「間一髪だったねえ」

常務「ああ、なんとか乗り切ったな」

ちひろ「いやあ、もうアレ完全にアウトだと思いますけど……」

今西「ふむ。それより、彼には悪いことをしてしまったね。たぶん、まだ新人だったろうに」

ちひろ「別の部署の方、でしたからね……。ひどい醜態を晒してしまいました」

常務「なに、問題ないだろう」

ちひろ「問題しかないと思いますが」



今西「私たちも暇ではないんだ」キリッ



常務「……」

ちひろ「……ぶふっ」プルプル

今西「いやあ、なかなか決まっていたね」

常務「定年より前に解雇ということで、よろしいですね」

今西「冗談だよ、冗談」

ちひろ「……くくくっ」プルプル




常務「それよりも、もうそろそろ時間だ。片づけをしよう」

ちひろ「えっ、でもまだ今西部長の本が――」チラッ

今西「……ふふふ」

常務「何か言ったか?」

ちひろ「いえ、なんでもないです」

常務「なら良い」ガサゴソ





◇ ◇ ◇


P「……あぁぁぁぁぁ、やっちまったなぁぁぁ」ガックリ

P(美城常務と初めて会ったのに、割と真面目に怒られちゃったよ……)

P(他の二人も、あれは絶対重役だよなあ)

P「はあ……」トボトボ

P(まだ入ったばかりなのに、仕事減らされるかもしれないな)

P「いやいやいや、さすがにそれはないだろ! ……な、ないよな?」

P(……否定しきれない自分がいるんだよなあ)

P(――にしても、シエスタって)


ガチャ


P「やっぱり、大手プロダクションの常務はやることがすごいよなあ――」



比奈「ユリユリ、ここは絶対この男が受けッス!!」

由里子「はぁぁぁぁ、ホント比奈センセは分かってないじぇ!!」プンスカ



ギャーギャー



P「……またかよ」


P(俺のユニット、大丈夫かなあ)


もうちょっと続きます。今日はキリが良いので、このへんで。



比奈「まったくユリユリはこれだから……、ん? プロデューサー、なんでそんなとこに突っ立ってるんスか?」

由里子「突っ立ってる!? 何がっ!?」ギョロッ

P「お前らなあ……」ガクリ

由里子「比奈センセ、なんかプロデューサーが落ち込んでるじぇ」コソコソ

比奈「ん~、まあ、あんまり触れない方がよさそうスね」

P「いや、ちっとは気にかけろよ」

比奈「ユリユリ言われてるっスよ」チラッ

由里子「ええ~、アタシ~?」

比奈「当たり前っスよ。事務所で騒ぎ出したのユリユリなんスから」

由里子「んもー」スタスタ



由里子「……ん、落ち込んじゃだめだよ?」ポンッ

P(なんか慰められたら余計に悲しくなってきた)




ガヤガヤ


比奈「で、さっきの続きなんスけど、」

由里子「ん~、ほうほう、なるほどなるほど、」



P「……」



P(俺は、ちょっと前にこの二人の担当になった新米プロデューサーだ)

P(アイドル達を全力でプロデュースしてやる、なんて意気込みでここの就職を決めたわけだが、)

P(実をいうとまだこの空気に慣れていない)

P(……と言うか、二人が何話してるのかイマイチよくわかっていない)

P(なんかアニメ……の話ではあるみたいだけど、男がどうとかなんとかかんとか、俺の理解の範疇を超えた話には間違いないだろう)

P(産まれてこの方アニメなんて、子供の頃に夕方か朝にやってたやつしか見てなかったしなあ)

P(そんな俺なんかが、二人と話が出来るわけなんてなかろうにっ!)




P「まあ、でも、そんなことも言ってられないしなあ……」

P(二人と仲良くできるきっかけとかあれば――なんて、な)

比奈「ん~、このまま二人で話しても埒が明かないスね」

由里子「確かに……」ウンウン

比奈「……」チラッ

P「ん、どうかしたか?」


P(なんかめちゃくちゃ見られてるんだけど……)


比奈「……いっそ、プロデューサーに聞いてみるってのはどうっスか」コソコソ

由里子「ええ~、でもそれ大丈夫かなあ」チラッ


P(嫌な予感しかしない)




由里子「プロデューサーは、タケ×バネ派? バネ×タケ派?」

P「は? なんだそれ」

比奈「……まあ、いきなりソレは分かんないっスよねえ」ウーム


由里子「プロデューサーは”アイドルマスターシンデレラガールズ”ってアニメ見たことないの?」キョトン


P「知らんな」

比奈「えっ」

P「ん? あれっ、うそ、俺いままずいこと言った?」ワタワタ

比奈「そのアニメ、うちの会社のアイドルがモデルになってるんスよ」

P「え? マジで?」

比奈「マジもマジ、大マジっス」




由里子「で、そのアニメに出てくるプロデューサーと……まあ、他の事務所のプロデューサーとの組み合わせが、どっちがいいかなって話なんだじぇ」

P「ヤバい、言ってる意味が何一つ分からん」

比奈「逆に一発で理解出来たらスゴイと思うっス」

P「俺、正常だよね?」

比奈「んまあ、比較的」

由里子「どうかしたの?」

P「いや、正常ならいいんだ」


P(さっき、常務が3人でシエスタしてるとこ見ちゃったから不安だったなんて言えない)




比奈「でも、このアニメ知らないとなると結構正常じゃないかもしれないっスね」

P「えっ、うそっ」

由里子「ん~、まあやっぱり自分の会社のリサーチが甘いかも……」

P「マジデスカ」



比奈「……あっ」

由里子「ん? どうかした比奈センセ?」

比奈「ユリユリ、ちょっと耳貸して」コショコショ

由里子「ふんふん――あー、ふむふむ、なるほど」

P「あの~、お二人ともなにしてるんですか」




比奈「実はっスね、今度、ユリユリと二人で同人誌を出そうと思ってるんスよ」

P「ど、同人誌……?」

由里子「さっき言ってた、アニメは二次創作も盛んなんだじぇ!」

P「二次創作……?」

比奈「で、プロデューサーもまだアタシたちのこと詳しく知らないと思うし、ちょうどいいかな~と思ってでスね」

由里子「売り子さんも足りてなかったし!」

P「ちょっと待て、本筋を話してくれ」

比奈「ん~、まあ親睦も兼ねてアタシ達と同人即売会に参加しようってことっスね」グッ

由里子「頑張ってね」グッ

P「あ~、え、えっと~……」ダラダラ


比奈「……」ジー

由里子「……」ジー



P(やっべー、めっちゃ断りづらい空気醸し出されてる)




P「あの、え、えっと、」

比奈「……」

由里子「……」

P「……ヨ、ヨロシクオネガイシマス」ペコリ



ワーイ!! ヤッター!!



P「……」

P(母さん、俺、今度、担当アイドルと同人誌即売会ってやつに行ってきます)

P(アイドルって、色んな子たちがいるんですね)

P(……そう言えば、同人誌即売会ってなんですかね)

P(ははは、お茶会みたいな空気ならいいですね)

P(まあ、んなわけ、ないんでしょうなあ……)



P(俺の、プロデューサーになって初めての活動がコレって……、いやマジで泣いちゃいそう)



ちょっと休憩挟みます。次から常務編に戻るはず。



◇ ◇ ◇


―某日、美城常務の部屋―


常務「今度の同人誌即売会に行く者は挙手を」スッ

ちひろ「あ、はいっ」スッ

今西「ははは」スッ

常務「うむ、今回も全員参加のようだな」

ちひろ「まあ、定石ですね」

今西「そう言えば、次の即売会はなんてイベントだっけ?」

ちひろ「知らないで手を挙げてたんですか」ギョッ

今西「はっはっは、なあに、いつものことさ」

ちひろ「は、はあ」チラッ

常務「……うむ」


常務「次は、”歌姫庭園”ですね」




今西「ああ~、もうそんな時期かあ」

ちひろ「楽しみですねっ!」ワクワク

常務「ああ、なにせ、アイドルマスター関連のオンリーイベントだからな」

ちひろ「オールジャンルを扱ってますからね~」ウンウン

今西「コミケよりも規模は小さいけど、それでも十分に人は集まっているね」

ちひろ「朝から並びますか?」

常務「まだ未定だが、私は朝から重役会議が入っている」

今西「僕もその会議に参加するよ」

ちひろ「ええ~、そしたら私一人ですかあ……?」

常務「問題ない、そうならないためにも午前6時からのスタートにしている」

ちひろ「えっ」

今西「海外グループの人もTV通話で参加するからね」

ちひろ「……そんなすごい会議なんですか、それ」

常務「社の利益的に言えばこれくらいだな」スッ


ちひろ(わあ、モバコインがたくさん増えそうな額だあ)





常務「そんな会議よりも、即売会の方が重要だろう」

ちひろ「うわっ、この人完全に私利私欲のために動いてるっ!」

常務「無論だ」

今西「断言しちゃうんだね、そこは……」

ちひろ「この会社、大丈夫ですかね……」

常務「会議と言うものは、その場で決めるものではないからな。あくまで、確認のために開かれる、言わば出来レースだ。決めるべきことは既に事前に決まっている」カタカタ

ちひろ「もしかして、さっきからキーボード打ってるのって、」

今西「まあ、そういうことだろうね」

常務「有能すぎるのも困りものだな」


ちひろ(自分で言っちゃったよ)




常務「ふむ、まあこんなものか――」

ちひろ「あっ、もういいんですか?」

常務「ああ、商談は成立した。会議も開かれるみたいだ」パタン

ちひろ「あー、えーっと。結局、歌姫庭園はどうなるんですか?」

今西「ああ言ってるけど、たぶん行けるのは午後からになりそうだね」

常務「……」

ちひろ「ええ~! やっぱり朝から並ぶの私だけじゃないですかー!」

常務「すまない」

今西「有能すぎるのも困りものだね」キリッ

ちひろ「……ぶふっ」プルプル

常務「……」ジロリ

今西「冗談だよ、冗談」

ちひろ「……くふふっ」ブルブル




常務「まあいい。千川、当日の朝は頼んだぞ」

ちひろ「あー、お目当ての本ですか」

常務「売り切れが怖いからな」

ちひろ「いいですよ、今西部長もどうですか?」

今西「え、僕の分も?」フフフ

ちひろ「……いえ、やっぱり遠慮しておきます」

今西「はっはっは、僕は早めに会議を抜けていくから問題ないよ」

常務「部長と言う肩書にあるまじき行為ですね」

今西「まだ遊べるくらいの余裕はあるさ」


ちひろ(事務員には混じりづらい会話)




常務「リストは既に作ってある、頼んだぞ」スッ

ちひろ「えっ、あ、はい」

今西「ところで千川君に見返りは何かあるのかい?」

ちひろ「え、今西部長、そ、そんなっ、」

常務「ふむ、そうだな。終わった後に三人で食事でもどうだ?」

今西「ほほ~、いいね」

常務「会計は私が持とう」

ちひろ「あっ、ありがとうございます!」ペコリ

今西「僕の分もいいのかい」

常務「二人分、に決まっていますが?」

今西「手厳しいなあ」

ちひろ「部長なんですから、それくらいは出してもらわないと」

今西「あれ、千川君なにか怒ってる?」

ちひろ「いえ、別に」

ちひろ(事務員の仕返しですよ、ふふふ)




今西「そう言えば、そろそろ出る時間だけど」

常務「ふむ、もうそんな時間ですか」

ちひろ「あっ、お茶の片づけはやっておきますね」パタパタ



今西「千川君はホントいい子だねえ」

常務「ええ、あれでまだ未婚ですからね」

今西「あれ、そういうこと君が言うとはね」

常務「いい人材が野放しになっていることを危惧しているだけですよ」

今西「ふーん、まあ、でもすぐに良い人が見つかるとは思うけどねえ」

常務「……あの趣味があっても、ですか」

今西「……ごめん、さっき言ったこと撤回できるかな」ガクリ



ちひろ「いま、なにか言いました?」クルッ

今西「いや、なんでもないよ」

ちひろ「?」

今西「……大丈夫かな、彼女」

常務「……それは私も思います」


コミケやコミ1はオールジャンル
歌姫楽園はオンリーイベントで、オールジャンルではないぞ
それと今年の夏コミもだいぶ涼しい方だった

>>58
本家やミリオンライブなども含めてのオールジャンル、という意味で使ったんですが間違っていましたね……、すいません。訂正しておきます。


※訂正
>>52
ちひろ「オールジャンルを扱ってますからね~」ウンウン  → ちひろ「全てのアイマスジャンルを扱ってますからね~」ウンウン



ちひろ「片付け終わりました!」

常務「ふむ、すまないな」

ちひろ「いえいえ、いつも部屋を使わせて頂いているので」

今西「千川君の昇格もそろそろかもね」ハハハ

常務「そうですね、とりあえずは上でふんぞり返っている古狸から抹消すべきでしょうか」

ちひろ「今西部長辞められるんですか?」

今西「やっぱり古狸で僕って分かっちゃうんだね……」

ちひろ「ええ、それは、まあ」

常務「やはり、こういうところを矯正すべきかもしれませんね」

今西「天然は直しようがないんじゃないかな」

常務「……たしかに」

ちひろ「さっきから何の話してるんですか?」

常務「千川の将来についてだ」


ちひろ(あれ、すごい規模の大きな話してる)



ガチャ


常務「――それでは千川、当日はよろしく頼んだぞ」

ちひろ「ええ、それは確かに」ニコリ

今西「あー、僕も朝から行きたかったなあ」

常務「良かったな千川、やはり昇進は近そうだぞ」

ちひろ「本当ですか! やったあ!」

今西「冗談きついなあ」

常務「冗談だと思っているんですか?」

今西「あれ、顔が本気だ」


ダカラー、ウリコダッテバー


ちひろ「あっ、向こうから誰か来ますよ!」ワタワタ

常務「では、私はここで失礼する」スッ

今西「ああ、それじゃあ僕も」スッ



ちひろ「あっ……二人とも行っちゃった……」




P「だから売り子ってなんだよ!」

比奈「んー、まあプロデューサーには分かんない世界っスねえ」

由里子「でも、次の即売会で出すのは百合本だから大丈夫」グッ

P「いや、なにが大丈夫なの?」

比奈「ユリユリがBLじゃないなんて天地がひっくり返るっスよ?」

由里子「だってー、比奈センセと意見合わなかったから結局こうなったんだじぇ」

比奈「そもそも次のイベントは――ん?」



ちひろ「……」テクテク



P「……社内だから挨拶はちゃんとしとけよ」コソコソ

比奈「こんにちはっス」ペコリ

由里子「こんにちはー」ペコリ

P「こんにちは」ペコリ

ちひろ「ええ、こんにちは」ニコッ



ダカラー、ソウジャナイッテー



ちひろ「……」クルッ

ちひろ「さっきの人、どこかで見たような……」ウーン

ちひろ「ま、気のせいかな」

ちひろ「よしっ、私も仕事仕事っ!」



・・・・・・

~沙織の部屋~


ノンナ「寮住まいなんですね」

みほ「私も最近まで実家住まいだと思ってたんだけどね……公式プロフィールで寮住まいらしいの」

ノンナ「公式プロフィール?」

みほ「さ、入りましょう」


 ピンポーン

 ガチャッ


沙織「はーい……」ゴホゴホ

みほ「来たよー」

沙織「う、うん……ありがと。ノンナさんも」ニコッ

ノンナ「見舞いの品も無く、申し訳ありません」

沙織「ううん! 他校の人が部屋に来たのって初めてだし!」

誤爆申し訳ありません!!



―当日の朝―


ガヤガヤ


ちひろ「うー、結構並んでるなあ」

ちひろ(二人はいないけど、でも前も私一人で行ったし……)

ちひろ「あ、でもなんか今回はすごい心細い」

ちひろ「二人とも早く来てくれないかなあ……」ションボリ



――――その頃の会議室――――


常務「それでは、この商談についてですが、」

今西「……」

常務「で、この事業部の拡大を目的として、」

今西「……」

常務「その件に関しては、今後、社として検討していく予定で――」

「つまり、このあたりを揺り動かしていく、ということですか」

常務「百合……?」

「?」

常務「いえ、こちらの話です」


今西(……千川君、大丈夫かなあ)


―――――――――――――――




ジュンバンニナランデクダサーイ


ちひろ「わっ、列が動き出した」

ちひろ「う~、常務のリストだとまずはあっちから行けばいいのかな」キョロキョロ

ちひろ「百合本はいつも買わないからなあ」

ちひろ「えっと、この辺かな、あれっ」

ちひろ「あっ、この本よさそうかも……」

「良かったら見ていきますか」

ちひろ「あ、じゃあちょっとだけ……」ペラッ

ちひろ「……」ペラッ

ちひろ(うわっ、めっちゃ良いコレ)

ちひろ「買います」スッ

「500円になります」



※ミス


ジュンバンニナランデクダサーイ


ちひろ「わっ、列が動き出した」

ちひろ「う~、常務のリストだとまずはあっちから行けばいいのかな」キョロキョロ

ちひろ「と言うか、リストすごい多い気がするけどコレ全部買うのか……」

ちひろ「えーっと、この辺かな、あれっ」



【サークル:ピヨピヨ堂 新刊置いてます】 



ちひろ「あっ、この本よさそうかも……」

「良かったら見ていきますか?」

ちひろ「あ、じゃあちょっとだけ……」ペラッ

ちひろ「……」ペラッ

ちひろ(うわっ、めっちゃ良いコレ)

ちひろ「買います」スッ

「500円ですピヨ~」





ちひろ「うーん、一期一会ってあるんだなあ」ホクホク

ちひろ「常務の本も大体買えたし、あとは向こうの一冊だけね」テクテク

ちひろ「むふふ、今日の夜はどんなお酒飲ませてもらおっかな~」

ちひろ「っとと、ここのサークルか。よーし、」

ちひろ「すみませ~ん。新刊1冊いいですか~?」



P「あ、いらっしゃいませ」ペコリ

ちひろ「……」

P「……ん? あれっ?」

ちひろ「すいません、もしかしてどこかでお会いしたことありますか」

P「いや、えっと……アッタヨウナ、ナイヨウナ」ゴニョゴニョ

ちひろ「……んー?」




比奈「あれっ、プロデューサーどうかしたっスか?」

由里子「顔真っ青だじぇ?」

P「あっ、おい、お前ら今はマズイって!」

比奈「え?」

由里子「ん?」

ちひろ「えーっと、ぷ、プロデューサー?」

P「いや、ははは、えっと、あだ名的な奴ですね、あははは」

ちひろ「……隣にいるのは、荒木比奈ちゃんと大西由里子ちゃんですよね?」

P「あ、ははは、はは」ダラダラ

ちひろ「どうして346プロのアイドルと一緒にいるんですかね?」



P「す、すいませんでしたぁぁぁぁああああ!」ドゲザー




◇ ◇ ◇


ちひろ「アイドルとプライベートで同人活動するなんて、どういうことか分かっていますか?」

P「ハイ、エト、アノ」

ちひろ「分かっていますか?」

P「ハヒッ」



比奈「……うわあ、めっちゃ怒られてるっスね」

由里子「ユリユリ達も謝った方がいいのかな……」

ちひろ「いいのよ二人は。プロデューサーさんには同じ会社の人間として忠告してあげてるだけだから」

P「あ、あの、俺、ど、どうなりますか」ブルブル

ちひろ「まあ、私次第ですね」

P「も、もしかして……」

ちひろ「ふふふ、さあ、どうでしょう」ニコリ


P(死にそう)




ちひろ「冗談ですよ。アイドルとコミュニケーションをとるのもプロデューサーの役目ですからね」

P「え?」

ちひろ「うちのプロデューサーもそれくらいの気概があればよかったのに……。ま、人目につかない程度に抑える努力はしてくださいね」

P「あれ、俺、見逃してもらえた――」



ちひろ「ふふふ」

P(めっちゃ笑ってるの、めっちゃ怖い、重役こわい、ちびりそう)

ちひろ「それじゃあ私はこの辺で失礼します」スッ

P「は、はい」

ちひろ「それでは」テクテク




P「……行ったな」

比奈「行ったっスね」

由里子「行ったねえ」



P「はぁぁぁぁああああ」ガクリ

P「やっちまったぁあああああ」バタリ

比奈「うわっ、地面に寝転がるのはやめるっスよ~」ギョッ

由里子「汚いじぇ……」

P「もうなんとでも言ってくれ……もっと貶して……」

比奈「ちょっとヤバいっスよこの人」コソコソ

由里子「もう放置でいいんじゃ」コソコソ

P「ちょっとは気遣って!! お願い!!」ガバッ




P「重役にあんな姿見られるなんて……ハハハ、もう俺はおしまいだ……」ズーン

比奈「ん? 重役?」

P「なんだ、どうした」

比奈「さっきの人、たしか事務員っスよ」

P「……事務員?」

由里子「千川ちひろって人だね」

P「……千川、ちひろ?」

比奈「ん。まあ、346プロの人には変わりないっスけど」

P「……」

比奈「あれっ、なんか固まったっスよ」スッ

由里子「顔が怖い」

P(事務員なら、まあ大丈夫か……も?)

P「はじめてお前らに感謝したくなったよ」グッ

比奈「……まあ、立ち直れたならいいスけど」

P「ははは」

P(あれっ、でも元凶招いたのこいつらじゃね?)

P「いや、やっぱりさっきのナシ!」ズビシッ

由里子「最近、この人の性格分かった気がする」

比奈「奇遇っスね、アタシもっス」




◇ ◇ ◇


ちひろ「あっ、いたいた~! こっちです!」

常務「ふむ、ご苦労だったな」

今西「結局、こんな時間になっちゃったねえ」

ちひろ「そうですよー、もー」プンスカ

常務「すまないな、話がかなり弾んでしまってな」

ちひろ「言い訳はダメですよ~」

今西「ははは、まいったね」

ちひろ「今西部長も、早く来れるって言ってたのに」

今西「いやあ、僕だけ抜けようと思ったらもの凄い眼差しが飛んできてね」

常務「なんのことでしょうか」

ちひろ「仲良いですね、ホント」




ちひろ「ああ、そうだ。これ戦利品です」スッ

常務「ふむ」

今西「どれどれ、ほほう、これは中々」

ちひろ「よ~し、私だけ待たされたのでもう今からご飯行きますよ!」

今西「今から? まだ、昼時だけれど……」

ちひろ「一次会ですよ!!」

常務「……まあいいだろう」

ちひろ「ほらほら、行きますよ!!」テクテク

常務「あー、千川。その前に一ついいか?」

ちひろ「はい? なんですか?」クルッ





常務「さっきから顔が真っ赤だが……、なにかあったか?」

ちひろ「――えっ!?」



おわり





『番外編1』


――飲み屋――


今西「それで、そのプロデューサーに即売会いたのを見られたのが恥ずかしくてあえて涼しい顔をしたんだ」ハハハ

常務「……ふふ」

ちひろ「ふふ、じゃないですよぉ! も~、めちゃくちゃ恥ずかしかったんですからぁ!」グビグビ

今西「いやいや、まあ、なあに。あっはっはっは!」ケラケラ

ちひろ「またそうやって笑って……ぐすん。いいもん、今日はたくさん飲むもん」

常務「千川、あまり無理をしては、」

ちひろ「どうせ、彼氏いない歴年齢ですよ~だぁぁ!!」

今西「これはかなり重症だね」

常務「ふむ、どうしたものか」

ちひろ「うぅぅ……このまま朝まで飲みますよぉ……」

今西「らしいけど?」

常務「明日も朝から会議があるんだが」

ちひろ「常務ぅ~」ガシッ

常務「……今日だけだぞ」

今西「はっはっは!」




『番外編2』


―常務の部屋―


ちひろ(あっ、コレ今西部長の置いていった本だ……)

ちひろ「……」キョロキョロ

ちひろ「誰もいないわね」

ちひろ「……まあ。うん、少しだけなら、」ペラッ



ちひろ「……」



ちひろ「……」



ちひろ「……」




その日は会社を早退しました。



これでおわります…。ありがとうございました。

訂正

>>48
比奈「ん~、まあ親睦も兼ねてアタシ達と同人即売会に参加しようってことっスね」グッ →比奈「ん~、まあ親睦も兼ねてアタシ達と同人誌即売会に参加しようってことっスね」グッ

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