【再利用】千早「いつか」P「いつか」【+α】 (93)

昔書いたの+追加


P(やれやれ、これで買い出し分は一通り揃ったか。後は事務所に戻るだけ)

P(小鳥さんが結婚式で休んでるからなぁ……。こういう時は有り難みが分かるよ)

P(ん? あそこに見えるは……)

P「おーい、千早」

千早「? あ、プロデューサー」

P「こんなところでどうしたんだ?」

千早「本屋に行った帰りです。そういうプロデューサーは……、買い出しですか」

P「その通り。小鳥さんが休みで人手がな」

千早「ああ、そういえば」

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1473426873

P「確か……、今年で4回目だっけか」

千早「?」

P「ご友人の結婚式」

千早「ああ。大変ですね」

P「大人の付き合いってものがあるからなぁ」

千早「……小鳥さんはそういうお話はないんでしょうか」

P「さあ、聞いたことはないけど……。今は仕事が恋人って感じじゃないか?」

千早「……大変ですね」

P「全くだ」

千早「……ふぅ」

P「どうしたため息なんてついて」

千早「呆れたような安心したような、という感じです」

P「何が?」

千早「分からないでいいです」

P「?」

千早「…………はぁ」

P「ところで本屋では何か買ったのか」

千早「本です」

P「そりゃそうだ」

千早「?」

P「……どんな本かを聞いたつもりだったんだが」

千早「あ、ああ。……えっと」

P「?」

千早「その……、……笑いませんか?」

P「? ああ」

千早「……恋愛小説です」

P「? ああ、いいんじゃないか。年頃らしくて」

千早「いえ違います! 恋愛に興味があるんじゃなくて恋の歌を歌うときに参考になるかと思って……っ!」

P「別にそんな慌てんでもいいが」

千早「慌ててません!」

P「ああ分かった分かった」

千早「……くっ」

P「でも、意外だなぁ」

千早「え?」

P「千早が恋愛小説を参考にしようっていうのがさ」

千早「そうでしょうか……。具体的なところは私に欠けてる経験ですし、ないよりは、と思って……」

P「んー、そういうんじゃなくてさ」

千早「?」

P「千早って、凄い歌に拘りがあるじゃないか」

千早「はい」

P「で、恋愛小説なんかだと夢と好きな人を天秤に掛けたりするじゃないか」

千早「はい」

P「それで、途中で夢を諦めようとしたりするだろ?」

千早「ええ」

P「だから、好きな人のために夢を諦めてしまう登場人物の気持ちが分からないから参考にならない、とか言いそうで」

千早「ああ、確かに。昔はそんな風に考えていました」

P「やっぱりな」

千早「もう、笑わないでください……」

P「ははは。けど、昔はってことは、じゃあ今は分かるようになったのか?」

千早「……うーん、どうでしょうね。それが歌なら、きっと捨てることは出来ないと思います。ただ……」

P「ただ?」

千早「ただ、今は同じくらいに譲れないものができて。……そうですね。全く分からない、とはもう言えません」

P「ふぅん。じゃあ、もしそのどっちかを選べと言われたら、千早はどうするんだ?」

千早「迷う、でしょうね。そう、死ぬほど迷い続けて……。……選べないで、死んでしまうかも。ふふっ」

P「おいおい、俺を残して死んでしまうのか? 薄情だな」

千早「そうですね……。じゃあ、一緒に死んでくれますか?」

P「ははは、まるで昔話の悲劇みたいだ」

千早「ふふ。でも、私はハッピーエンドの方が好きです」

P「死んでしまったお姫様が王子様のキスで目を覚ます、とか?」

千早「な……っ」

P「……想像した?」

千早「し、してませんっ! プロデューサーと、き、キスなんて……!」

P「ん? 俺が言ったのは昔話。白雪姫だよ?」

千早「……、……もう! プロデューサー!!!」

P「ははは、悪い悪い」

千早「……もう」

P「……」

千早「……。……ふふっ」

P「?」

千早「……私は、幸運だと思います。この道を行く限り、選ぶ必要はないでしょうから」

P「どういう意味だ?」

千早「い、今は、言えません……」

P「なんで?」

千早「恥ずかしいですし……。何よりも、怖い、ですから」

P「……ふむ。よく分からん」

千早「分かられると、その……。困ります」

P「ふぅん? まあとにかく」

千早「?」

P「俺はお前がトップアイドルになれるようにサポートしていくだけさ。……お前の隣でな」

千早「……はい。今は」

P「ああ。今は、な」

千早「…………。分かってるんじゃないですか」

P「いんや? 何のことやらさっぱりだ」

千早「……もぅ」

P「……」

千早「……」

P「……」

千早「……いつか」

P「……そうだな、いつか」

千早「……、はいっ!」

一方その頃、小鳥は友人代表として新郎新婦にむけテントウ虫のサンバを歌っていたのであった。

前のにある美希やよまこは省略

P(……ふう、これで今週の仕事は終わりか)

P(みんな売れてきて、スケジュール管理をするだけでも大変だ
  まあ、こんな苦労なら買ってでもしたいくらいだけどな……)

P(……いかん。だんだん、眠く、なって……)

P「…………」

雪歩「プロデュ、……?」

P「……」

雪歩「……ぷろでゅーさー? ねちゃってます?」

P「……」
スースー

雪歩「……ねちゃってる」

P「……」

雪歩「……んー、いっつもがんばってるもんね」

P「……」

雪歩「……ふふっ」

P「……」

雪歩「……」
ソーッ

P「……」

雪歩「……」
ツィー

P「……」

雪歩「……♪」
ツンツン

P「……、ん……」

雪歩「……っ!」
ビクッ

P「……んん」
スースー

雪歩「……ほっ」
ドキドキ

P「……」

雪歩「……」
…ナデ

P「……ん」

雪歩「……っ」
ピタ

P「んふぅ……」

雪歩「……ふぅ。……、ふふ」
ナデ…ナデ…

P「……んむぅ」

雪歩「……すごいです」
ナデナデ

P「……んぐぅ」

雪歩「プロデューサーは、すごいです」
ナデナデ

P「……」

雪歩「みんながちゃんとお仕事できるように、いつも遅くまで頑張ってて」

P「……」

雪歩「みんなのことをちゃんと見ててくれて、自分でも気付かないような魅力も引き出してくれて」

P「……」

雪歩「私達が、……私が、一人前のアイドルになれたのも、プロデューサーのおかげで」

P「……」

雪歩「……ふふ」

P「……」

雪歩「……最初は、男の人だから怖かったんですよ?」
ツンツン

P「……」

雪歩「プロデューサーに担当するって言われたとき、本当はいやだったんです、怖くて」

P「……」

雪歩「言葉にはしなかったですけど……。きっとプロデューサーにはわかってたでしょうね」

P「……すー」

雪歩「あはは……。私、いやな子ですね」

P「……」

雪歩「……でもプロデューサーは、ゆっくり、ゆっくり向き合ってくれて」

P「……」

雪歩「……今はこんなことも出来ちゃいます」
ニギニギ

P「……ん」

雪歩「……えへへ、関係ないですね」

P「……ぐぅ」

雪歩「……夢」

P「……」

雪歩「トップアイドルになるのは、夢だと思っていました。……きっとこんな自分じゃ叶わないってどこかで思ってて」

P「……ん」

雪歩「でも今は……。ちゃんとなれるんだって、目標だって思えるようになりました。まだ口には出せませんけど」

P「……」

雪歩「これもプロデューサーのおかげ。……えへ、考えたらなんだかみんなプロデューサーのおかげなんですね」

P「……」

雪歩「……」
……ギュ

P「ん、むー……」

雪歩「……いつか」

P「……」

雪歩「いつか、こんな風に手を握って、……並んで歩けたら、うれしいな」
ニギニギ

P「……ん」

雪歩「……ふふ」

P「……」

雪歩「……プロデューサー」

P「……ぐぅ」

雪歩「……これも、面と向かっては言えませんけど」

P「……」

雪歩「……だいすき、です」
……チュッ


………………

………………


P「……ん、……んー」

雪歩「♪~」
シュンシュン

P「……ふぁ……」

雪歩「♪~~」
ジョボボボ

P「……、雪歩?」

雪歩「あ、プロデューサー。よく寝てましたね」
ジョボ ジョボ

P「……! いかん寝過ごしたっ! すまん、すぐ送るから!」

雪歩「いいですよ、疲れてるんだからゆっくりしてください。それより今お茶を入れてますから」
ジョボ ジョボ

P「いや、でもな」

雪歩「大丈夫です、家にも連絡を入れてますから」

P「……あー、悪い」

雪歩「いえ。♪~~~」
パラパラ

P「はぁ……」

雪歩「どうしたんですか?」
ジョボジョボ

P「いや……。俺、みんなの助けになれてるかなって」

雪歩「……」
ジョボ ジョボ

P「多少の無理は慣れてるし、そもそも原因は自分の力不足だ。

  それでもお前らのためになれるなら苦にはならない。
  だが……、その無理のせいで肝心なとき今日みたいなことが起きたらと思うとな」

雪歩「お茶、どうぞ」
トン

P「ああ……」

雪歩「……」

P「……」

雪歩「大丈夫です」

P「?」

雪歩「プロデューサーとなら、大丈夫です。みんな」

P「……」

雪歩「そりゃ、うまくアイドルにするんならもっと上手な人もいるかも知れないです」

P「……」

雪歩「でも、私達は、……私は、プロデューサーがいいです」

P「……」

雪歩「ゆっくりでもいいから、一歩一歩進んでいこうって行ってくれたプロデューサーがいいんです」

P「……でも」

雪歩「私は、男の人が苦手でした。いえ、今もプロデューサー以外は苦手ですけど……」
ギュッ

P「……なっ」

雪歩「……ゆっくりゆっくり、進んでいって。今はこんなことも出来ちゃいます」
ニギニギ

P「……」

雪歩「プロデューサーのおかげです。だから、私はプロデューサーを信じます」

P「……そか」

雪歩「はい」

P「……ありがとう、でいいのかな」

雪歩「はい」

P「…………ありがと。これからよろしく」

雪歩「……はい」

P「……んー」

雪歩「……」

P「ところでさ」

雪歩「はい?」
ギュッ

P「…………手、離さない?」

雪歩「送ってくれるんですよね?」
ギューッ

P「……まじか」

雪歩「ふふ、冗談です」
パッ

P「そっか」

雪歩「……はい、今は」

P「……そっか」

雪歩「……」

P「まあ、いつかな」

雪歩「…………はいっ」


一方その頃、小鳥は買い出しから戻る際この雪歩の様子を目撃してしまい、居たたまれなさに飲み屋に退避しているのであった。

P(ふぅ……、今日も一日よく働いた。通常業務に加えて新人研修もあったからな)

P(ちなみに新人と言ってもアイドルじゃなくプロデューサー。半月ほど前から新人Pとして指導を受けていた)

P(正直なところ……、経緯が経緯だけに俺にとっては複雑な相手だ)

P「……さて秋月。仕事も終わったし、帰るか」

律子「はいプロデュ……、先輩殿!」

P「まだ慣れないなら、別に好きに呼んでかまわないぞ」

律子「いえ、公私のけじめはきっちりとしておかないと」

P「……」

律子「今はまだ事情を知ってる子たちばかりですけどね。いつかそう呼ばないとなら早いほうがいいでしょ」

P「……お前がそう言うならそれでいいけどな」

律子「それに、先輩殿だってちゃんと出来てますし」

P「一応これでも年期が違うからな」

律子「そうですね。……ふふ、最初はどうなるかと思いましたけど」

P「いきなり変なおっさんに声掛けられて連れてこられたんだぞ? そんなんでろくにこなせるか」

律子「それを言うなら私達だって似たようなもんですよ」

P「……全くあの人は」

律子「まあ、そんな人じゃないと私もあっさりプロデューサーに転向なんてできなかったでしょうけどね」

P「かもな」

律子「ふふ。先輩やみんなを見抜いた我らが社長の慧眼を信じましょう」

P「……」

律子「……どうかしたんですか、先輩殿」

P「だったら」

律子「……」

P「だったらお前はどうなんだ」

律子「なんのことですか?」

P「とぼけるなよ。わかってるだろ」

律子「……はは」

P「お前だってあの人に選ばれたアイドルだったはずだ」

律子「やめたのは私の意志です」

P「だとしても、それだけの素質は……」

律子「仮に素質があったとしてもそれを活かせなかったら枯れるだけですよ」

P「お前は頑張ってたじゃないか!」

律子「頑張るだけでどうにかなるものじゃないんです、この世界は」

P「……」

律子「それに、他の子たちだって頑張ってますから。自分の努力だけが特別なんて思いません」

P「……それは」

律子「そりゃね、悔しくないなんてことはいいませんけど」

P「……ああ」

律子「ただ、勘違いしないでほしいんです。私は出来る限りのことをやりました」

P「……」

律子「素質は目に見える物じゃないですが。他の子に比べて大きく劣っていたとも……、今は思ってません」

P「……」

律子「プロデューサーの協力も十二分に頂きました。感謝しています」

P「……それが俺の仕事だ、感謝なんてされることじゃない」

律子「……ふふふ。それでも、ありがとうございます」

P「……」

律子「ただ、私は理屈で考えちゃうんです。これ以上の深追いは損だって。性分なんですかね」

P「……」

律子「結局、思い切りとか、執念とか、運とか……。いくつかのなにかが、ほんのちょっとだけ足りなかっただけなんです、きっと」

P「……」

律子「そんな顔しないでください。別にやけになってるとか燃え尽きてるとか、そんなんじゃないですから」

P「……」

律子「アイドル・秋月律子として花を咲かすことは出来なかったけど」

P「……」

律子「それでも私は続いていくんですから」

P「……」

律子「アイドルとしては活かせなくても、他に活かせる道があるはずだって」

P「……」

律子「……いえ、多分わかってたと思います。ここで活かせるって」

P「……」

律子「アイドルとしてあなたと二人三脚で歩んだ日々は、きっと他にないわたしの大きな武器です」

P「……」

律子「寄り添うべき時はともにあり、離れるべき時は見守ってくれた」

P「……」

律子「そのさじ加減をプロデューサー殿が身をもって示してくれましたものね?」

P「やめてくれ。……俺は、お前にアイドルの頂点を見せてやるって約束を守れなかった」

律子「確かに結果は不本意でしたけどね。やれることはやったので悔いは……
   そりゃ、全くないといったら嘘になりますけど。少なくとも引きずるような過去じゃありません」

P「……それでもな」

律子「そもそも、引退はわたしが決めたことです、そこにプロデューサーが責任を感じることはないんですよ」

P「……それではいそうですかと切って捨てられるような奴は、プロデューサーとして失格だ」

律子「なるほど、確かにそれも然りですが」

P「……」

律子「……」

P「……」

律子「……ふぅ。強情ですね」

P「性分でな」

律子「ふふ、そうきましたか。……そうですね、それじゃあこうしましょう」

P「……?」

律子「わたしはプロデューサーとしてあなたを越えることをここに宣言します」

P「は?」

律子「そして先輩殿よりも早く担当アイドルを頂へと導きその眺望を手に入れてみせましょう」

P「……」

律子「あ、でも着任時からのカウントで勘弁してくださいね。今からよーいどんじゃ流石に不利すぎますから」

P「……」

律子「アイドルの頂を目指し、それを手に入れて。その傍らにわたしがいるのなら、……約束は果たされます」

P「……だがそれは」

律子「アイドルであるわたしの傍らにいてくれた人は、脇役でも、道具でもありませんでした
   ともに戦う戦友であり、二人三脚で歩むチームであり、……アイドルであるわたしの一部だったって、思ってます」

P「……」

律子「……」

P「……」

律子「なんか、言ってください。さすがに恥ずかしいです」

P「……いや、なるほどな」

律子「……」

P「確かにお前は大物になるかもしれんね。アイドルの経験は確かに大きな武器だ」

律子「……ふふ、これに関してだけは先輩殿にも負けません」

P「だが俺もうかうかと道を譲るわけにはいかんからな。こんどは手取り足取りとはいかん。見て盗め」

律子「望むところです」

P「……じゃあ。約束は継続、宣言は承ったということでいいか?」

律子「あ、あと一ついいですか?」

P「? なんだ?」

律子「もう一つ、約束を」

P「ん?」

律子「わたしのモチベーション維持の為に、ぜひ」

P「ああ、まあ聞くだけなら聞いてやろう」

律子「……いつか」

P「ああ」

律子「いつか、わたしがあなたを越えられたら。聞いてほしい話があります」

P「……それだけか」

律子「はい」

P「わかった、覚えとく」

律子「ええ。……ふふっ。さっ、覚悟してくださいね先輩殿? うかうかしてたらあっさり追い抜いちゃいますよ?」

P「……ふ、プロデューサー業を舐めるなよ? お前に教えてない極意が山ほどあるからな」

律子「ふふふ、元知性派アイドル律子さんを舐めないでください。その極意、見事盗んでご覧にいれましょう」

P「……くくく、やれるもんならやってみろ」

律子「ええ、ええ。そしていつか先輩殿を越えて差し上げますので、首を、……いえ、耳を洗ってその時を待っててくださいね」

P「ああ。……いつかな」


一方その頃、小鳥さんは一人風呂であ゛~とか言ながら湯船につかり見られたら百年の恋も冷めるような姿をさらしていたのであった。

P(今日は今度撮影するCMについて伊織とスポンサーが同席しての打ち合わせ)

P(といってもそれ自体はつつがなく終了、あとは撮りを残すだけなのだが)

P(しかし未だに俺は混乱している。なにせそのスポンサーというのが……)

P「なあ、本当によかったのか?」

伊織「なによ、今更。私がやるっていってるんだからいいじゃない」

P「いや、それはそうなんだが……」

伊織「別にすっぽかしてアンタに迷惑なんて掛けないわよ」

P「そんな心配もしてないが……」

伊織「じゃあなによ」

P「どういう心境の変化かなと思ってな」

伊織「……」

P「水瀬グループの仕事を受けるってのは」

伊織「……別に、お父様やお兄様たちのことは尊敬してるし、嫌ってるわけじゃないもの」

P「でも、今までは受けてなかっただろう?」

伊織「……」

P「言いたくないなら無理には聞かんが」

伊織「……」

P「……」

伊織「……」

P「……。ま、いいさ」

伊織「……」

P「お前なりに考えてるだろうし、間違うような心配もしてない」

伊織「……」

P「でもまあ、パートナーとして、言えるようになったらいってほしいがな」

伊織「……。……別に」

P「?」

伊織「言えないわけじゃないし。言いたくないのは……、ちょっとだけあるけど」

P「……」

伊織「あーもう! 言うけど! 聞いても調子に乗らないこと! いいわね!?」

P「あ、ああ……」

伊織「……水瀬グループってさ、すごい規模なのよ」

P「ああ、知ってるが」

伊織「重工軽工金融不動産物流その他諸々。はっきりいって、この日本で一切水瀬に関わらずに生きていくことは、まず一日だって出来ないわ」

P「……そこまでか」

伊織「そこまでね」

P「ふーむ」

伊織「ん」

P「……、で?」

伊織「……」

P「実家の自慢がしたいわけじゃないんだろ」

伊織「……そんなグループの広告塔として、一人の新人アイドルが抜擢されたとしたらどうなると思う?」

P「……ふむ」

伊織「そしてそれが、容姿端麗才色兼備な水瀬家のご令嬢様だったとしたら?」

P「なるほどな」

伊織「……ちょっと、ツッコみなさいよ」

P「ん? 別にツッコむべきところはないだろ?」

伊織「……ふんっ」

P「言っといて照れるな」

伊織「話がそれたわっ。要するに水瀬の力を使えば例えそこらの女の子だろうがトップアイドルになるのは簡単なのよ」

P「言いたいことはなくはないがひとまず流しておこう。それで?」

伊織「もちろんお父様はそんなこと許さないし、なにより私が許せない
   私がなりたいのは水瀬のお嬢様なセレブじゃなくて、トップアイドル・伊織なんだから」

P「そうか」

伊織「……」

P「……」

伊織「……。あのさ」

P「ん?」

伊織「アンタ、私の言ってることについてきてる? 今言ってるのはこの仕事と正反対のことじゃない」

P「言っただろ、ことお前に関しては心配してないってな」

伊織「……」

P「最後まで聞けばちゃんとわかる話なんだろ? そのくらいは信頼してるんだよ、これでも」

伊織「……ぐっ」

P「さ、それからどうした」

伊織「……、はぁ。……簡単に言うと、余裕が出てきたのよ」

P「ふむ」

伊織「アイドルになって、色々やって。それなりに顔も知られるようになってきて」

P「……トップアイドルまでもうちょっと、ってところか?」

伊織「それはまだまだよ。伊織ちゃんの掲げる目標がそんな安い物であってたまるもんですか」

P「はは、……そりゃ確かに」

伊織「それで、……そんな時、水瀬からのオファーがきた」

P「……」

伊織「最初は迷ったわ。水瀬の力を借りることは負けだと思ってた」

P「ああ」

伊織「私以外でも、その仕事に事務所が絡むのも許せなかった時期だってあった」

P「まあうちはもともと弱小だからな。水瀬から直々の仕事なんてこねーよ」

伊織「……」

P「……ん?」

伊織「……ごめん」

P「謝られてもそんなもんはなかったからな。俺は知らん、あいつだってな」

伊織「…………でも、ごめん」

P「……まあ、あれだ。この仕事が終わったら、一緒に二人でボイトレでもしてこい。避けられてるって寂しそうだったぞ」

伊織「……ん」

P「で? そこから今の心境に達した経緯は?」

伊織「……自分でも言ったのよ。縁故で使うなんてお父様は許さない」

P「ああ」

伊織「お父様が、……水瀬グループが声を掛けるのならその人にはそれだけの価値がある」

P「だな」

伊織「水瀬がこの伊織を認めたなら、胸を張って受けてこそ対等なの」

P「……」

伊織「水瀬の力に縛られまいとする、という考えに縛られていたってわけね。バカみたい」

P「そうか。……しかしそうなるとあれだな」

伊織「? なによ」

P「つまり、必要以上に水瀬を遠ざけないってことだろう?」

伊織「まあ、公私混同しない程度にはね」

P「ということは、だ。なんだかんだ言ってもお前は水瀬の伊織なのも事実なわけで」

伊織「……? なにそれ?」

P「セレブアイドル水瀬伊織は、アイドル伊織より捕まえるのがよっぽど大変だよなってことだよ」

伊織「…………ふふん、そんなの当たり前よ。なんたってスーパーアイドル伊織ちゃんなんだから」

P「全くもってそのとおり」

伊織「……」

P「もしそんなのに釣り合う奴が出てきたら、そいつは尊敬に値するね」

伊織「……む」

P「……」

伊織「…………むー」

P「なんだよ」

伊織「……」
プイッ

P「……あー」

伊織「…………」

P「参考までに聞くんだが……」

伊織「なによっ」

P「……俺がそのスーパーアイドルを捕まえようとしたら、どのくらい頑張らなきゃいけないんだ?」

伊織「……、変態プロデューサー」

P「あー、もうそれでいいよ。で?」

伊織「ふふんっ、……そうね。アンタなら、もーっと頑張って、いつかトップアイドルのスーパープロデューサーになれたら考えてあげてもいいわよっ!」

P「そうだなー。いつかなー」

伊織「ええっ」


一方その頃、小鳥は通販サイトaseminで手を出したら負けな気がする婚活ガイドをカートへ出し入れしていたのであった。

P(ふぅ……。これで今日のイベントは終わりか。知名度も上がったおかげか、最近は仕事も増えたなぁ)

P(……その分外に出かけなきゃ行けないんだが。人が人だけにトラブルも……)

P(おっといかんいかん。早く回収しとかないと見失って……)

P「……あ、あずささーーーーんっ!!!!???」


あずさ「あらー、プロデューサーさん。どちらにいらっしゃったんですかー?」

P「……ええ、あずささんを探してこのビルの中を3周ほどしていました」

あずさ「……あらー」

P「仕事が終わったらその場に待っていてください。お願いですから」

あずさ「……ごめんなさいー」

P「別に、怒っているわけではないんですが」

あずさ「……」

P「その右手に持ってるのは?」

あずさ「……えっとー、プロデューサーさんお疲れかなって思ってー」

P「……ありがとうございます。でも、大丈夫ですから。飲み物くらいは自分で買いにいけます」

あずさ「……でもー」

P「それよりも待っていてもらった方がありがたいです」

あずさ「……そうですかー」

P「……」

あずさ「……怒っています?」

P「怒ってはいないです。だから落ち込まないでください」

あずさ「……はい」

P「……」

あずさ「……しょぼーん」

P「口で言わないでください……」

あずさ「あらあらー?」

P「……」

あずさ「……」

P「はぁ……、いいですか?」

あずさ「……はい」

P「昔とは違って、あずささんもそろそろ有名タレントなんですよ」

あずさ「……はぁ」

P「一人でフラフラしてると何があるか分からないんですから」

あずさ「……はいー」

P「最近は変な奴だって多いんです」

あずさ「? ……あらあらー?」

P「衆目環視の的の中、アイドルのイベントで不審者に襲われることだって……。あずささんっ!?」

あずさ「……あらー?」

P「いってるそばから離れないでください……。……お願いですから」

あずさ「……でも、これプロデューサーさんに似合うなーって」

P「……はぁ」

あずさ「……ごめんなさい」

P「何度も言いますが、怒ってはいません」

あずさ「……はい」

P「なんで毎回そんなことを、って聞くのは野暮なんでしょうが」

あずさ「……プロデューサーさん、のど渇いてるかなーと思ったらジュースを買って待っててあげないとーとかー」

P「はい」

あずさ「似合うなーってものを見かけたら頭がそれでいっぱいになってしまってー」

P「……ねぎらおうとしてくれるのは嬉しいですよ、すごく」

あずさ「はい」

P「でもね。俺にとっては、ものをもらうよりあなたがそばにいてくれる方がありがたいんです」

あずさ「……はいー。……あらー?」

P「?」

あずさ「……あらあらー?」

P「どうしましたか」

あずさ「……あ、いえー、なんでもー」

P「……とにかく、仕事が終わったらその場にいてください。すぐに合流しますから」

あずさ「はいー」

P「では行きましょう、そろそろ戻らないと」

あずさ「んー、……うふふー」

P「どうしました? あずささん」

あずさ「……えいっ」
ギュッ

P「っと!?」

あずさ「ふふー」
ギューッ

P「な、何を……」

あずさ「これで、迷子になりませんよー?」
ニギニギ

P「……えっとですね」

あずさ「はいー」
ニコニコ

P「そういうのも……」

あずさ「はいー?」
ニコニコ

P「……」

あずさ「んー?」
ニギニギ

P「はぁ……」

あずさ「うふふー」

P「……せめて記者には見つからないようにお願いします」

あずさ「はいー」

P「……」

あずさ「うふふー」

P「ご機嫌ですね」

あずさ「はいー」

P「なぜ?」

あずさ「んー」

P「?」

あずさ「またいつか、聞きたいなー、なんて」

P「なにを、ですか」

あずさ「わからないなら内緒ですー」

P「……いきますよ」

あずさ「はいー」

P「……」

あずさ「……」

P「そばにいてください。……見失ったら困るので」

あずさ「あらー」

P「今は、これで」

あずさ「はいー」

P「いつか」

あずさ「……」

P「いつかは、違う続きを」

あずさ「……はいーっ」


一方その頃、小鳥はYoutube広告に婚活系ばかり表示されることに頭を抱えているのであった。

雪歩「こここことりさんああああありがとうございました! つつつぎは……」

真「がんばれ雪歩!」

雪歩「ううううう、ま、真ちゃーん……。代わってー……」

真「だめだめ! きっと雪歩ならできるよ!」

雪歩「ううううう……」

伊織「……ていうか、仕事は普通にこなしてるのに、なんで内輪の集まりであんなに緊張してるわけ?」

真美「んっふっふー、やっぱ憧れてた兄ちゃんだからじゃないのー?」

伊織「……全く、あんなののどこがいいんだか。訳わかんない」

真美「んなこといって、いおりんのうさちゃんにメイクが流れてるよー?」

伊織「んな……っ! ちゃんとハンカチで拭いっ、はっ!!??」

誤爆


あれから数年。

小鳥「あーかあーおきーろのー! いしょーをつーけたー!」

高木「ふぅ、やはり音無くんの歌声はすばらしい……。お前もそう思うだろう黒井」

黒井「……ふん、そんなことは分かっている。だからこそあの日、この逸材を活かせなかった業界に、そして私たち自身に絶望したのだ」

高木「黒井……」

黒井「ふん、酔いが回ってきたようだ。年は取りたくないものだな」

あずさ「まあまあお二方とも~。今日はそういうのはなしなしで~」

亜美「そーそー、うちの事務所のいわば投打の両輪のおめでたい日だかんねっ」

雪歩「こここことりさんああああありがとうございました! つつつぎは……」

真「がんばれ雪歩!」

雪歩「ううううう、ま、真ちゃーん……。代わってー……」

真「だめだめ! きっと雪歩ならできるよ!」

雪歩「ううううう……」

伊織「……ていうか、仕事は普通にこなしてるのに、なんで内輪の集まりであんなに緊張してるわけ?」

真美「んっふっふー、やっぱ憧れてた兄ちゃんだからじゃないのー?」

伊織「……全く、あんなののどこがいいんだか。訳わかんない」

真美「んなこといって、いおりんのうさちゃんにメイクが流れてるよー?」

伊織「んな……っ! ちゃんとハンカチで拭いっ、はっ!!??」

亜美「んっふっふー?」

伊織「ぐぐぐ……っ/// ていうかあんたたちはどうなのよっ」

亜美「亜美たちはいもーと枠だし? ねえ真美?」

真美「え? あ、うん。……そーだね」

亜美「だからこれまでどーりベタベタしほーだいなのだー!」

真美「えええっ、ちょっと亜美それは……」

伊織「……。ガキンチョ」

亜美「なにおーっ! 亜美だってちょっとは大っきくなってんだぞー!」

伊織「そっちのが困るってのがわかんないのがガキンチョっていってんのよ!」

亜美「んっふっふー? いつ亜美が"わかんない"なんていったのかなぁ?」

伊織「なっ、あんたまさか……」

真美「ちょっと亜美!?」

亜美「まあでも兄ちゃんたち悲しませるわけにもいかないしなぁ。……いもーとだしね」

伊織「……」

真美「……」

伊織真美「…………亜美、恐ろしい子ッ」

美希「むぐむぐむぐむぐ」

春香「はふはふはふはふ」

貴音「ずるずるずるずる」

美希「むしゃむしゃむしゃむしゃ」

春香「はむはむはむはむ」

貴音「ずるずるずるずる」
 
響「……あのさ、美希、春香、貴音。そろそろプロデューサーのとこに」

美希「」

春香「」

貴音「ずるずるずるずる」

美希「……は゛に゛ー゛ー゛っ゛!!!」

春香「ぷろりゅーしゃーしゃーんーーっ!!!」

貴音「ずるずるずるずる」

響「あああああああ、美希、春香、自分が悪かったぞ……」

美希「…………は゛ー゛に゛ー゛ー゛ー゛ー゛っ゛!!!」

春香「ぷーろーりゅーーしゃーーしゃーーんーーーーっ!!!」

貴音「……ふぅ。ごちそうさまでした」

響「……あー、貴音は普通なんだな」

美希春香(音声Cut)

貴音「? らぁめんは美味しいですが」

響「ははっ。貴音らしくて自分も安心だぞ」

貴音「しかし、食べても食べても満たされぬこの胸はなにゆえなのでしょうか……」

響「……え」

貴音「……あ、そこなお方、おかわりをお願いいたします。……ありがとうございます」

響「……」

貴音「……おや。湯気が、目に」

響「……ぅ、ぐす……」

貴音響(音声Cut)

あずさ「ふぅ」

律子「お疲れ様です。あのお二人のお相手は疲れたでしょう?」

あずさ「あらー、そんなことないわよー? 二人とも可愛いじゃない」

律子「……可愛い、ですかねぇ」

高木「確かに金やシステムによって一定レベルのアイドルを量産することが出来るかもしれん! だがそれは個性を平坦に慣らすだけで決して最高のアイドルを生み出すことはできんのだ!」

黒井「突出した個性は受け手を選ぶ! 個人の感性により選ばれるものに最高などありえん! むしろその一定レベルのアイドルのパッケージングをこそ大衆は望んでいる! ならばそれを与えればよいのだ!」

高木「ならば音無くんの例はどうなる! お前も後悔していると言っただろう!」

黒井「個性の強さを磨き上げるはすなわちコスト! そして受け手を選ぶのだ! ハイコストローリターンだからこそ投資するにはベースとしてのそれだけの金が、力が必要なのだ、高木! なぜそのことがわからない!」

高木「ぐぬぬぬぬ!」

黒井「ぬぬぬぬぬ!」

あずさ「……ふふ、二人とも子供みたい」

律子「……言われればそう見えなくもないですが」

あずさ「でしょう? ふふ」

律子「…………あずささんは、大丈夫なんですか?」

あずさ「うふふ。慣れてるから」

律子「……あはは。それ、笑えません」

あずさ「…………。律子『ちゃん』」

律子「?」

あずさ「ごめんなさい。こんな時くらいはお姉さんぶらせてね」

律子「……」

あずさ「……泣いて、いいのよ?」

律子「……」
ギュッ

あずさ「……」
……ポンポン

律子「……っ……ぅっ……ぐっ……ふぅぅぅぅ……」
ギューッ

真「……はは、ボクも結構可愛くなれたつもりだったんだけど」

伊織「真?」

真「……みんなみたいに泣ければ、もっと可愛くなれてたのかなぁ」

伊織「……」

真「……くやしいなぁ」

伊織「まあ、そこで『悔しい』ってなれるのは、アンタだけよね」

真「……へへっ。……全然嬉しくないや」

伊織「……はい」

真「?」

伊織「……ハンカチ。使ったのだけど」

真「……。……へへっ、ありがと」
ガシガシッ

伊織「…………。やっぱアンタは男前よ……」

真「……ひどいなぁ」

やよい「うっうーっ! お色直し終わりましたーーーっ!!!」


真「うわぁ……」

雪歩「……」
ポカーン

美希「……千早さん、きれーなの」

春香「うん」

響「だな」

貴音「プロデューサーも、凛々しくていらっしゃいます」

美希「ぅ……」

春香「でも、幸せそう」

あずさ「……そうねぇ」

律子「あんなの見せられたら、祝福しないわけにはいかないわね……」

美希「律子、目真っ赤なの」

律子「さんを付けなさいさんを。……だいたい、アンタだってそうじゃない」

美希「……それは言わない約束なの」

律子「なによそれ。……もう」

やよい「きねんさつえーでーすっ! みんなまえにあつまってくださーい!!!」


亜美「亜美兄ちゃんのとーなり! 真美も来なよー」

真美「ええ!? 真美は後ろでいーよ……」

伊織「……」

美希「デコちゃん隣ずるいのちゃっかりしすぎなの!」

伊織「早い者勝ちよ! 後何回か取り直せばいいじゃない!」

美希「そのときの写真はそのときしかないの!」

響「自分も隣に行きたいぞ……」

貴音「そうですね、わたくしはお姫様だっこというのを所望いたします」

春香「え、それありなんですか!?」

律子「いやなしでしょ」

貴音「……面妖な」

あずさ「じゃあ、恋人繋ぎは?」

律子「駄目に決まってるでしょ!!!」

あずさ「あらあらぁ~」

真「じゃあボクは肩を組んで!」

律子「……アウト!」

雪歩(……こっそり)

律子「雪歩、アウトー!!!」

雪歩「……あぅっ」

千早「……」

千早「…………」

千早「……」
ポロポロ

春雪真律伊あ亜真美貴響「」

春香「ごごごごめんね千早ちゃん! つい私たち調子に乗って」

美希「そうなの全ては律子がいけないの!」

律子「だからさんを付けなさい! というか止めてる私が何で悪いのよ!!」

雪歩「ごめんなさいごめんなさい、穴掘って埋まってますぅ……」

千早「……すんっ、ちが、……違うの」

春雪真律伊あ亜真美貴響「?」

千早「……嬉しくて」

春雪真律伊あ亜真美貴響「???」

千早「事務所に入ったときは、ただ歌えればよかった。他に何もいらなかった」

千早「でも……、一生懸命プロデュースしてくれたPさんと出会って……、失いたくないと思えるものになった」

千早「そして……、みんなとこんな風に大騒ぎしていく内に……、みんなのことも……、大事に……、ぐすっ」

伊織「……ふん。今更そんなことに気付くなんて遅いくらいよ」

真「ふふ、伊織。顔が真っ赤だよ」

伊織「うるさいわねこのイケメンッ!」

真「……ひどいよ伊織」

あずさ「うふふ。でも、気持ちは伊織ちゃんと同じよぉ?」

亜美「んっふっふー。千早お姉ちゃんも亜美たちの魅力にめろめろだったってことだねー!」

真美「真美も千早お姉ちゃんのこと、大好きだよ」

響「もちろん自分もだぞ。家族と思ってる」

千早「……家族」

貴音「765プロは、家族ということですね。まことに響はよいことを申します」

響「へへ、照れるぞ……」

千早「…………プロデューサー」

P「ん?」

千早「私、…………幸せですっ!」


おわり

とみせかけたハッピーバースデーぴよ

P(あれからどのくらい時間が経っただろう。多くのアイドル達を一人前にし、社長から次世代の育成を託された俺)

P(今の立場は新設された765プロサテライト・145プロダクションの所長だ。場所はたるき亭上のボロ事務所。初心を忘れないのと……、主に独立採算による経済上の理由で)

P(……そして、今も隣にいるのは)

P「そっちはどんな感じですか……って、なに見てるんです?」

小鳥「ふふっ、棚を整理していたらこんな写真が出てきました」

P「……おお、懐かしいなぁ」

小鳥「春香ちゃんに千早ちゃん、美希ちゃんに……」

P「ははっ、みんな若い」

小鳥「そんなこと言ったら怒られますよ?」

P「大丈夫、面と向かっては言いません」

小鳥「とかいって。この間だって昔は昔はって美希ちゃん泣かしてたじゃないですか」

P「はははは」

小鳥「また笑って誤魔化して。……もう」

P「あいつらが今じゃ芸能界のトップ集団だもんなぁ。時が経つのは早いですね」

小鳥「……ふふ、みんなここから巣立っていったんですね」

P「寂しくなった、とは全く言えませんけどね」

小鳥「あはは。未だにモテますもんね、プロデューサーさん?」

P「久しぶりですね、その呼び方。でもその方がしっくり来ますよ」

小鳥「そうですか?」

P「所長なんて柄じゃないですよ」

小鳥「でも立派に職務は果たせてると思いますけどね」

P「うーん。自覚はないんですが」

小鳥「その方がよっぽどいいです。自信過剰よりは。……で?」

P「で? とは」

小鳥「本命ですよ。清楚なAちゃん? 活発なBちゃん? それとも引っ込み思案なCちゃんですか? はっ! まさか三人一緒に毒牙に掛ける気ですかっ! エロ同人みたいにっ!」

P「……いやいや、亜美真美より下の子たちですよ? ないない」

小鳥「その子達をナチュラルにジゴロってるのはあなたですよ?」

P「……自覚はないんだがなぁ」

小鳥「その方がよっぽど悪いです。たちが」

P「……うーむ」

小鳥「それともまさか……」

P「はい?」

小鳥「……天ヶ瀬くんと?」

P「は?」

小鳥「あっちも独身だし……、たまに二人で遊びに行って……」

P「いやいやいやいや! あれとは単なる悪友で!!!」

小鳥「大丈夫! 私そういうのに偏見はありません!! いやむしろご馳走です!!!」

P「ないです! ないないないない!!!」

小鳥「まあ、冗談はともかく」

P「……冗談だったんですね」

小鳥「ナチュラルジゴロは事実ですけどね」

P「そうなんですか……」

小鳥「頑なに結婚しないのは……。……もしかして、心に決めた人がいたりとか? 具体的には事務所のきれいな先輩事務員さん、なんて」

P「はっはっはっはっは」

小鳥「……言ってみただけです。そんなに笑うことないじゃないですか」

P「結婚しなかったのは、単にアイドル達の関係に区切りが付かなかったってだけです」

小鳥「そのアイドル達からどれだけ迫られても躱してきたのに、ですか?」

P「そういうのじゃないですよ。あくまでプロデューサーとアイドルとして、です」

小鳥「本当に?」

P「……そうですね。白状すると、全くあいつらにぐらっとこなかったとは言わないです。ほんのちょっとのボタンの掛け違いで、そうなることもあり得たと思います」

小鳥「なるほど」

P「でも今の付き合いは、愛やら恋やらよりも、戦友って言葉の方がしっくり来ますね」

小鳥「んー、やせ我慢でなく全く惜しくないと言えます?」

P「あはは、そこはノーコメントにしてください」

小鳥「ふふっ、じゃあ聞かなかったことにします」

P「ありがたい」

小鳥「あ、プロデュースといえば、うちの子たちもようやく名前が売れてきましたね」

P「ええ。まあこれで一安心です」

小鳥「百戦錬磨のプロデューサーさんでもそう感じるんですねぇ」

P「百戦錬磨なんて。一人一人、夢中でやってきただけで」

小鳥「それができることがすごいんですよ」

P「そういうもんですかね」

小鳥「そういうもんです」

P「まあ、実際はここからが大変なんですが」

小鳥「ええ」

P「とりあえず、……一区切りはついたかなと」

小鳥「……長かったような、短かったような」

P「そうですね……」

小鳥「ふふ。……あ、この書類。ここ間違ってますよ」

P「……しまった。修正しておいてもらえますか」

小鳥「はいはい。……もう、所長はあたしがいないとダメダメですね」

P「申し訳ない。今後もご迷惑をおかけします」

小鳥「はいはい。末永くよろしくお願いいたしますよーだ」

P「……ははは」

小鳥「……。……いつか」

P「はい?」

小鳥「……いーえっ、何でもありません」
……プイッ

P「そうですか」

小鳥「はい。……ふふっ」

P「…………ふぅ」

小鳥「……」

P「あ、時間が。そろそろ書類片しちゃいましょうか」

小鳥「? はぁ、何か予定でも?」

P「……いえ、特には。ただ定時で帰れるならそれに越したことはないですし」

小鳥「私はどーせ帰ったってなんにもないワンルームですけどねぇ」

P「……あー」

小鳥「……もー、そこは"よかったら一緒に飲みに行きませんか"って誘うところですよ?」

P「……ははは、だったら行きますか?」

小鳥「いーですよーだ」
……プイッ

P「……あはは。じゃあ埋め合わせは次の機会に」

小鳥「…………もう、絶対ですよ?」

P「はい、それじゃあ続きを。……」

小鳥「……」
……カリカリ、カタカタ

P「……」
……カタカタカタ

小鳥「……」
……ペタペタ、カリカリ

P「……」
……ゴソゴソ

小鳥「……」
……シャカシャカ

P「……。あー」

小鳥「? どうしました?」

P「……いえ、その」

小鳥「? はい」

P「ちょっと、小鳥さんに見てもらうものが」

小鳥「……あー。その顔、また接待の領収書とか隠してたんですか?」

P「あはは、……ちょっと違いますけどね」

小鳥「もー。ここも軌道に乗ってきてはいますけど、そんな余裕があるわけじゃないんですからねー?」

P「あー、面目ない」

小鳥「はいはい、いいからさっさと出してくださーい」

P「……じゃあ、この書類なんですが」

小鳥「えっと、どれどれ……」

P「……」

小鳥「……え?」
ポキュ

P「……」

小鳥「………………は」
パチクリ

P「……」

小鳥「…………え」
ジーッ

P「……」

小鳥「……えーっと」
ゴシゴシ

P「……」

小鳥「…………」
ジーーーッ

P「……」

小鳥「…………、……こ、これ!」
ガサッ

P「……、はい」

小鳥「……あ」

P「……」

小鳥「……う」
……ポロ

P「……」

小鳥「うぅぅぅぅぅぅぅぅっ!」
……ポロポロ

P「おいやですか?」

小鳥「……」
……ブンブンブンブン!

P「……色々考えましたが、あなたが」

小鳥「……」

P「小鳥さん」

小鳥「……?」
……ポロポロポロポロ

P「さっきあなたが言った、そのいつかに出しにいきましょう」

小鳥「あ゛い゛、…………あ゛い゛っ」
ボロボロボロボロ

P「……小鳥さん」

小鳥「……?」
ヒックヒック

P「順序が逆になりましたが……」

小鳥「……、…………はい」
……グシグシ

P「俺と、結婚してくれますか?」

小鳥「……………………、喜んでっ!」


一方その頃、Pに事前に計画を打ち明けられていたアイドル達は泣き笑いしながら小鳥のお祝い準備を進めているのであった。

おわり

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