サーニャ「私の白い狐な王子様」 (81)



今回は地の文が大量に含まれています。
苦手な人はブラウザバック推奨です。
拙い文章ですがお付き合いください。

前スレ 【R-18】バルクホルン「ハルトマン、お菓子が欲しいか?」





日が過ぎ行くのはあまりにも早い。

昨日は、今日を、明日が。

誰もが予想した自分を、完成させることなく、時は流れていく。

昨日だって、今日だって、明日だって。

例外なく、私も、彼女も、彼女たちだって。

つまりいつかは何かが終わる。そう信じている。私だって、彼女だって。

しかし、激化の一途を辿る異形の存在との戦闘の収束には未だ着かず。

ここにも、戦争が一刻も早く終結することを祈り、またそのために幼いカラダで戦いに臨む少女がいた。

そんな少女に、ある知らせが届いた。

彼女のご両親が非難した地区への、予期せぬネウロイ出現の知らせが。




SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1371034834




シールドを張れるようになったあの日から、3週間経ったある日のこと。

その日は大雨だった。

窓を叩きつける雨粒をよく覚えている。

割れそうなくらい激しく叩く音は、何かを暗示しているようでいて、誰かの叫びのようでもあった。

「サーニャさん、手紙よ。執務室まで来て頂戴」

談話室で夜間哨戒に備えて、寝る前に紅茶を飲みながら、
次の休みに街へ行く計画を立てている最中の私たちに、割って入ったのは中佐だった。

どうして今渡さず、部屋まで来させるのか、そのときの私は気にすることもなかった。

談話室まで来て、サーニャの顔を見て置き忘れたのに気付いただけだとか、きっとそんなことしか思っていなかった。






「了解しました。じゃあエイラ、先に部屋で寝てて。私もすぐ行くから」

私はただ、うんと返すとサーニャも頷く。

そうして残った冷めた紅茶を飲み干したサーニャに、私が片付けるから置いといてくれ、のジェスチャーをすると彼女は微笑む。

しかし、そのときの中佐の言い難い、申し訳ないような顔に、

私は気付くはずもなく、ただサーニャが中佐についていく背中を見守るだけだった。









冷めた二つのカップを片付けて、待機の仲間に寝ると言い残し、私は部屋に向かう。

部屋に入ると、まだ昼前だというのに薄暗くなっていた。

どんよりとした雨雲に私は苛立ちを覚えつつ、先にベッドに入ることにした。
 
そうして部屋のベッドで寝転がって、一向に来ない眠気とサーニャを待ちわびるが、どちらも来る様子はなかった。

まだどこかで起きているとしたら夜間哨戒のために寝かしつけなくてはならないし、

別の場所で寝て風邪でも引かれたら困る。

私は薄い毛布から出ると、お気に入りの星型がプリントされたパーカーを着てサーニャを探しに出た。







彼女はすぐに見つかった。



着任してすぐの頃は、格納庫に一人でいる彼女を思い出したからだ。

扉を開け、中に入る。

冷たい空気にゾクリとしながら、中を探す。

使用禁止になったジェットストライカーが鈍く光って、置き去りにされて寂しそうにしていた。

そのすぐ傍、開け放たれた扉の向こうに、彼女はいた。






格納庫から出た滑走路の脇、土砂降りの雨にうたれるサーニャを見つけた。

様子がヘンだとは思った。

どうしてかは、見当もつかなかった。

私はパーカーのフードを被りつつ、サーニャのところまで駆け寄ると、彼女の手を引いた。

「サーニャ!何してんだ、こんなトコで。びしょびしょじゃないか。さぁ、着替えなくちゃ」

手を引っ張ろうと繋いだ手はするりと抜けた。

濡れた手が滑ったワケではなかった。

ただ、握り返す力が入っていなかった。






「サー…ニャ?」

「ねぇ、エイラ。もう、エイラとの約束、叶わないわ」

こちらを振り向かず、ただ雨が降る灰色の空を見上げる彼女の後ろ姿は、熱を感じなかった。

「どういうことだ、サーニャ。私との約束って…」

私は、この時の私を恨んだ。何か無いはずがない。

しかし、私や彼女、そして周りの人に何かが起こるなんてコト、無いと思っていた。

そうして彼女の口から聞かされた事実に、私は奇しくも自分の考えを改めるきっかけになった。



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「お父様とお母様が避難した地域に」

こちらに振り向き様に話す彼女の横顔、そして正面を向く顔を視界に入れた瞬間。

私は気付いた。

絶対安全だって、安心だって、そんな甘い世の中ではないのだ。

なおの事。驚異的な敵が現れたこの世界で。

「複数のネウロイが現れて」

それ以上聞きたくなかった。

しかし、私は彼女の口を止めることはできなかった。

彼女の虚ろな瞳、そして絶望したその表情に、私は立ちすくんだ。

「一瞬にして、街を壊滅状態にしたって…」






そこまで話した彼女は、立っていることも困難だったようで、膝から崩れ落ちた。

寸でのところで抱えた私だが、彼女のカラダはあまりにも軽かった。

今にも消えてしまいそうなくらい、重さが感じられなかった。

「サーニャ…」

私はただ彼女の名前を呼ぶしかできなかった。




彼女は、ただぼーっと首が向いた方へ目線を送っているだけだった。

何か励ましの言葉を。

だがどんな言葉をかける?

今、この状況で。

彼女の大切な家族を、失ったという現実に対して、私は彼女にどんな言葉をかけられただろう。

私には、ひとつも浮かばなかった。

何かを言って、彼女をもっと傷つけるんじゃないかと、私はソレから逃げた。

何も浮かばないフリをして、ただ彼女を抱きしめた。







私は彼女を部屋に連れていき、服を着替えさせ、ベッドに寝かせた。

彼女はふっと気絶したように、目を閉じた。

青白い顔をしていた。

私は今の彼女が最優先で心配だった。

しかし、今日の任務もある。

彼女に聞こえないだろうと思ったが、すぐ戻ると声をかけると部屋を出た。








足早に向かった先は中佐の執務室だった。

木製のドアを小気味よく二度鳴らす。

部屋の主は、ただ一言どうぞと声をかける。

ドアを開けると中佐は私の顔を一瞥し、険しい表情になった。

「エイラさん。もう、理解できたかしら」

私はその問いに、後ろ手でドアを閉めつつ返す。






「少し…。だけど、そんなはず」

「そんなはず、無いと?私たちは今戦争をしているのよ。貴女は覚悟していなかったとでも?」

私を見る目が更に険しくなっている。

そうして私は思い出した。

中佐も、友人を亡くされていたんだと。

「理解、できる…」






中佐は少し黙り込み、考えを巡らしてから、また口を開いた。

「サーニャさんは、今は?」

「気絶したように、眠ってる」

「そう。今の貴女にできることは、ただサーニャさんの傍にいることだけよ」

私は中佐の厳しい目から逃げるように、目を逸らして黙り込む。

「どこまで聞けた?」

聞いたではなく、聞けたと私に問いかけた中佐には、サーニャが全部は話せないだろうと確信を持っていたからのように思えた。

そうして淡々と分析する中佐に少し苛立ちを感じたが、私はそれを抑えて問いに答えた。






「サーニャのご両親が避難した地域に複数のネウロイが現れて、街は壊滅状態になった、とだけ…」

「今さっき掃討作戦が終わったそうよ。ネウロイ出現区域から大幅に外れていたためウィッチの援護が遅れて、着いた頃には街は…。
周りは辺鄙な場所でね、誰が逃げ延びたのかも未だに分からないそうよ。だからご両親が」

「でも、そうして希望を持たせるだけ持たせて、それでサーニャのご両親が本当に…」

「そうね。それは私から伝えるわ。今の貴女がサーニャさんにしてあげられることはあまりにも少ない。だけど、分かっているわね」

「…あぁ」

「行きなさい。サーニャさんとエイラさんは当分シフトから外すわ。
お願い、サーニャさんの傍にいてあげられるのは、エイラさん、貴女だけよ」






「分かってる…」

「分かっているなら、そんな顔をしないで頂戴。なんて、今は言えないわね。けれど彼女の前では今の顔はしないで」

頷いた私は今どんな顔をしているのだろう。悲しそうな顔、泣きそうな顔、憐れんだ顔?

それを知る術もなく、私は中佐の部屋を後にした。



悲しい知らせが、501全体に広まったのはその日の夕方だったそうだ。

皆同じように、どう接していいか分からないという顔をしていた。

しかし、それと同時にネウロイを憎む気持ちは一層増していたように思えた。






それから3日が経った。

サーニャは少しずつ立ち直っていたように思えた。

そうして、彼女は夜間哨戒のシフトに戻すように中佐に懇願していた。

ネウロイを一刻も早くこの世から消し去るために。

普段のサーニャは今までより元気は無かったが、訓練も夜間哨戒も以前と、否それ以上の成果を発揮していた。

そんな現実を私は未だに受け入れられず、彼女の傍にいることしかできなかった。






そうしてその日はやってきた。



夜間哨戒のために就寝するサーニャの傍にいたいと、その日は待機だった私は部屋で何を話すでもなく、ただぼーっとしていた。

そうして部屋の静寂を破ったのは、最近任務以外で口開かなかったサーニャの方だった。

「生きてると思う?お父様と、お母様」

その言葉に、今までに無いくらいの重みを感じた。

すぐに返せる問いではないのは明白だった。

たっぷり時間を使う。

今の彼女に最良の答えは何か。

そう考えたら、やはりこの言葉しかなかった。






「生きていると、思う。いや、生きてる」

「根拠は?」

素早く返事をする彼女に、どこか自嘲めいた雰囲気を感じた。

「…無い」

「気休めね」

瞳を伏せながら短く返す彼女に、私は苛立ちを隠せなかった。






「でも、サーニャが信じなきゃ、ダメだろ…。ダメだろ!?」

珍しくサーニャに語気を荒げる私に、彼女は静かに悲しく微笑んだ。

「そうだね」

一言。その一言に、私はついに耐えられなくなった。

「何が、そうだね、だよ。そんな人事みたいに…自分のコトなのに、どうして」

「どうして?考えても無駄だからよ。私には確かめる術がないもの」

「だからって、諦めるのかよ。サーニャは」

黙りこくると、彼女はまた目を伏せた。



元ネタ何ざんす?

>>22
ストライクウィッチーズというアニメです。




「ねぇ、エイラ。私ね、もう怖いの。このまま祈り続けて、結局一生会えなかったらと思うと。

ミーナ中佐がまだ周辺の捜索が終わっていないと言っていたけれど。まだ見つからない。

何も、何も。もう、私は待つのに疲れてしまったのかもしれない」

目を閉じながら、静かに話すサーニャの話に相槌を打つでもなく、私はただ聞いていた。

「だから、二人でどこか遠いところに行きたい。何もかも忘れて。

誰も知らない場所で生きるの。森に囲まれた小さな家で、エイラと。どう?とっても、ステキだと思わない?」






そうして振り向いた彼女は、弱々しく微笑んだ人形のようだった。

「あぁ、そうだな」

私は率直に、その返答をする。

今の会話の内容で判断するなら、私は迷わず賛成だった。

ただ…

「エイラ、ついてきてくれる?いえ、連れ出してくれる?」

「それは…だめだ」

私は、今度は全部の事柄を省みて、そう答えた。






「そう…」

私は短く、あぁとだけ返すと、彼女をジッと見つめる。

彼女は瞬きせず、私の瞳を見つめ返す。

そうして彼女がまた静寂を切り裂いた。

「どうして?」

「私とサーニャが軍人で、国を、人類を、世界を救っているからだ。私たちが逃げればそれだけ戦争が長引く。
私たちはエースなんだ。だから、この戦いを終わらせるのも私たちだ。そうだろう、サーニャ」

そうして彼女は、微笑んだ。

「えぇ。そうね。そうだったね」






安堵したような表情をすると、サーニャはもう一度こちらに向く。

「ありがとう。エイラは、いつも私のためを思って、ちゃんと言ってくれるよね。本当に、ありがとう」

ニコリと笑みを送る彼女に、私は目を合わすことができず、少し照れたように顔を下げる。

「ねぇエイラ。私はここで私ができることをするわ。だから、お父様とお母様が生きているように、一緒に祈ってくれる?」

「当たり前だろ。私はサーニャの友達なんだから」

彼女は、うんとだけ返すと眠りに落ちた。

安堵したような横顔に、私もほっとする。



だが。

本当に生きているのだろうか。絶望的だと聞いた。

しかし、それを話す勇気は、その時の私には無かった。







私は、私の現実がいともたやすく、また崩れてしまうなんて、思いもしなかった。



その日の夜。私はサーニャの夜間哨戒の準備を手伝う。

今日も雨だった。

サーニャを見送ると、私は眠る気にもなれず格納庫のひんやりとした床に座った。

これからどうしようかと考えを巡らす。

サーニャのご両親を見つけるために、二人で休暇を貰う?

それ以外、私には考えが浮かばなかった。






ふと、意識を遠くに及ばせていた私を引き戻したのは誰の声でもなく、警報音だった。

その忌々しい音に、私は背筋を凍らせた。

夜間哨戒中の敵、それもこんな雨の夜に。

そしてもうひとつの要因。

その日は昼過ぎにネウロイが出現した。

待機の私とペリーヌ、そして夜間哨戒のサーニャ以外の全員が出撃し、これを撃破。

しかし戦闘は長引き、出撃した者は魔法力を使い果たして戻ってきた。

夕食が終わると就寝へと急ぐものがほとんど。

そのため、まともに出撃できるのは私とペリーヌくらいであった。






午前4時。

急いで作戦室に入ると、皆も集合していた。

中佐から現在状況の説明が入る。

こうして現状を聞いている今、私は今すぐにでも助けに行きたいという気持ちを抑えて留まる。

しかし、次に入った通信で、私はついに抑えられなくなった。

ノイズが入る、サーニャの声。






「大型ネウ…イと現在戦闘中、残存魔…力では30分も持…ません」

そうして通信は切れた。

私はそれだけ聴くと、作戦室を飛び出した。

後ろから何か声をかけられていたと思う。

しかし、私の耳には入らなかった。








再び格納庫に来た私は自分のストライカーの前で立ち止まった。

その戦闘区域までは、ここからどう見積もっても30分はかかる。

私のストライカーではたどり着く前に…。

シャーリーや大尉は魔法力を使い果たして、まともに飛べないだろう。

他部隊の増援は、私よりもきっと遅い。

私は、視線を逸らした先に見つけたモノに、恐怖と不安と狂気を感じた。






使用禁止になったジェットストライカーがあった。

あの時回収され、整備され、しかし鎖で繋がれていた。

私はMG42を構え、鎖の端を狙い、兆弾に気をつけて放った。

鈍い音の後に、甲高い音がして、鎖が切れる。

その音を聴き、警報音を聴き、通信を聴いた整備兵達が格納庫に入ってくる。

勝手にこんなことをしてしまったのだ、捕まっても文句は言えない。

「頼む。今、サーニャを助けるためにはコレしかないんだ」






しかし意外にも、彼らはジェットストライカーを囲むと私には一言も発せず発進準備を進めた。

「ありがとう」

短くお礼を言うと、私も自身の準備を進める。

今、この空でサーニャは一人で戦っている。

その事実が、私に飛ぶ決意をさせた。

私は急いで始動前点検をする。

(大丈夫、飛べる。私はエースだ。だから、どんなストライカーでも乗りこなせる。そうだろ)

そう確信した私に、声をかけたのは、追いかけてきたペリーヌだった。






「おやめなさい。それは、使用禁止になっているはずですわよ」

私は答えず、スクランブルの準備をする。

「コース確認。始動準備、事前チェック済み。全て、異常無し」

しかし次のペリーヌの言葉に、私は驚いた。

「落ち着いてくださいまし。今の貴女、酷く青ざめていますわよ」

私は、落ち着いていなかったことも分からないくらい、自分が分からなくなっていた?

そうだ。だってそうだろう。大切な人が今危険な状態なのだ。

落ち着いていられるはずがない。サーニャが、危険。危険なんだ!!






「貴女は、助けるのでしょう。そんな青い顔をしては、ヒーローが台無しですわよ」

ペリーヌなりの励ましに、私は深呼吸することで答える。

油の匂いと火薬の匂い、そして雨の匂いを肺に入れ、ペリーヌに短くありがとな、と返した。

彼女はそれを聞くと、今度は自身のストライカーの発進準備を進めた。

それから整備兵のGOサインを目に入れると、私はエンジンを始動させた。

「装備異常無し。始動。MG42、良し。コントロール。こちらヘルッタ・エッセア。出撃準備完了」

(今、行くからな。サーニャ)

「発進!!」

コントロールからの返事を待たず、私は発進した。






風を切り、離陸する。視界が悪い。ものの数秒で私の軍服はびしょぬれになってしまった。

通信が入る。誰かも名乗らず、矢継ぎ早に告げられる。

「エイラさん。今は行きなさい。けれど必ず戻るのよ。サーニャさんと一緒に。いいわね、これは命令よ」

「あぁ、分かってる」

そうして通信を自ら切る。

軍規違反で今度は自室禁錮だけではすまないだろう。

それでもサーニャを助けられるなら、私は構わなかった。






キリがいいので夕食にします。

再開はフタヒトサンマル時過ぎになります。



しえん
今回はアへ顔じゃないんだな
期待しておく



再開します。





私は、私に命令した。

もっと早くと。もっと、もっと。

そうして、ストライカーが悲鳴をあげた。

リミットに近いのだろう、制御も徐々に利かなくなっていた。

しかし、今こうしている間にも、サーニャは命の危機に瀕している。

魔翌力を吸い続けるジェットストライカーに、もっと多くの魔法力を供給するため、更に開放する。

その過程で、私は、そこに未来を視た。

サーニャに、降り注ぐ敵の…。

頭を一瞬にして過ぎった悪夢を遮り、私は飛行に集中した。






20分足らずで、目標戦闘区域まで飛んだ私の目に映ったのは、今まさに摘み取られようとしていた、一輪の百合があった。

左のストライカーを被弾し、体勢を立て直そうとするサーニャ。

だが、右のストライカーだけですぐには上体を起こせない。

ネウロイが下に向き、被弾して墜ちていくサーニャに追撃しようとする。

ジェットストライカーを使用し、それも出鱈目に魔法力を注いだ私に、もう魔法力は少ししか残っていなかった。

シールドが張れるかどうかも怪しかった。






スローモーションのように、忌々しい赤い光線が、サーニャに延びていく。

私は魔法力を一度に放出し、シールドを展開した。

墜ちていくサーニャの背中から、タッチの差でサーニャの前に躍り出た私に、ビームが襲う。

もともとシールドを張るのが得意ではない私には、そのすべてを受けきれるはずがなかった。

しかし、今このシールドを解除するか、私が離脱すればサーニャはビームの直撃を受けてしまう。

シールドは張れた。しかしいつまで持つかは分からない。

だから。

私はそのまま落ちていくサーニャをチラリと一瞥すると、今度は上にいるネウロイへと加速する。

上昇する。上昇する。ビームを引き裂きながら、私は上昇する。






カラダが軋むのを感じた。

魔法力を一気に開放しているのだ。カラダに負担が無いはずがない。

ストライカーのスピード、それにかかるG、そして上昇に伴う気圧の瞬間的な変化。

私のカラダは、悲鳴をあげた。

カラダ中が痛い。圧迫死しそうなほどの圧力。

だけど許せなかった。このネウロイが。

もう、自分が何を叫んでいるのかも分からなかった。

この間、数秒も無かったように思えた。

私はネウロイにシールドを張りつつ、突撃した。






残された魔法力ではシールドを張り、更にこのまま上昇してネウロイを切り裂く、その両方はできなかった。

私はそこでストライカーへの供給をやめ、残った魔法力でシールドを張り、上昇の惰性でネウロイを切り裂いた。

もっと、もっと、もっと奥まで。

そうして半分までネウロイを引き裂いた。

しかし、もう上昇する力もなく、私のカラダは自由落下へと移行する直前だった。






ピンクの幾何学的な模様のコアを晒す。

コアを少し抉ったところで、私は自由落下していく。

同時にシールドも持続できず、伸ばした手を引いた。

後はこのコアを撃ち抜くだけだ。

コアにまで上り詰めた私は、愛銃を構えて気がついた。

もう私には魔法力は残っていない。

つまり、ネウロイを破壊した後の爆発、そして金属片を守る術がなかった。






死を覚悟していないわけではなかった。

それでも私は未来予知の魔法が使えたから被弾するなんてことは考えられなかった。

そう思うと、途端に怖くなってくる。

この引き金を引けば、私は…死ぬ?

だけど。私は軍人だ。誰かを守れるなら、それも大切な人を守れるならそれは本望だ。

「こんなに嬉しいことはないじゃないか」






再び銃を構えなおす。

自由落下していく私。

目の前から再生をしていくネウロイ。

どんどん墜ちていく。ネウロイに開けた穴から出た瞬間、コアに照準が合う。

「迷うな!!」

私は、私に言い聞かせて引き金を絞った。






コアに命中する。

瞬間、炸裂する閃光。

私は、とっさに両腕で顔と頭を隠した。

せめて、頭だけでも守れれば、と。

そして気づいた。

思わず、声が漏れた。

私はまだ覚悟していなかったんだと。

彼女と、サーニャとまだ生きていたいと、願っていたことを。






降り注ぐ金属片。あと数秒で私のカラダを貫くだろう。

それはとっても痛いのか。それともとっても苦しいのか。

そのどちらでもなく、私は泣いていた。

(ありがとう、サーニャ。さようなら、サーニャ。…幸せにな)






そう願った瞬間、ネウロイが爆発した衝撃で開いた雲の隙間から漏れた月の光。

それが一瞬にして遮られた。照らされていた私の視界が、陰った。

片方のストライカーだけで上昇し、もう残っていない魔法力を振り絞り、シールドで私を守る彼女がいた。

しかし、サーニャももう魔法力は残っていない。

両腕を前に突き出し、シールドを張りながら、サーニャは私に向く。

彼女は、微笑んでいた。そして泣いていた。






そうしてシールドが切れる直前。

カラダごとこちらに向き直り。

私に抱きついた。

ネウロイの爆発から私を守るようにして。

私に被弾させないために。

サーニャは、背中を晒して。






瞬間、シールドが切れる。

自由落下で距離が離れていたとはいえ、それでも降り注ぐ金属片は、サーニャのカラダを突き刺した。

苦痛に漏れる声が耳元に聞こえる。

二度。

そして三度と刺さるソレに、私は絶句した。






高高度で戦闘をしていた私たちは、真っ逆さまに海上に墜ちる。

「サーニャ、どうして」

震える声で、私は彼女に問いかけた。

「私は、エイラに生きていて欲しい。それに、この間私を守ってくれたお礼。…これで、返せた?」

苦痛に顔を歪めながら彼女は答える。

「返すだなんて…。これじゃ、サーニャが…。返せてない…返せてないよ…こんな、こんなのって!!」






「エイラ、ごめんね…」

「…っ!」

「それとね。あの時、私を追いかけて助けたいんだって、そう言ったエイラの気持ち、今分かったわ。
大切な人を守れるって、とても素晴らしいのね」

「サーニャ…?」

「ありがとう、私、エイラに会えて、良かった…」

「そんな、サーニャ、サーニャ…サーニャ…」

「エイラ…お願い、じっとしてて。目を、つぶって…






私はサーニャの言うとおりにした。

直後、頬に柔らかいものが押し当てられた感触にどきりとして、目を開けた。

サーニャは唇を私の頬に当てていた。

「サーニャ?」

目を閉じたサーニャは何も答えず、何かに集中しているようだった。

そうして感じたのは衝撃だった。

カラダ中の魔法力が、呼び起こされる。

自分のモノではない感覚に、激痛を感じて私は声が漏れそうになる。

これは私の魔法力ではない。サーニャの魔法力だった。

私のナカに、サーニャの残った魔法力が移された。






「うまく、できたみたい…」

私の頬に、唇のカタチをしたサーニャの血がついていた。

「なんだ、いまの…」

「昔、こうして魔法力を他人に分け与えるウィッチがいたって、聞いたことがあって…。けど、うまくいったみたいね」

「どうして…」

「今なら、エイラだけでも助かるわ。貴女のストライカーはまだ動く。一人分の重さなら、きっとなんとかできる。
私にはストライカーが片方しかなくて、こんなキズを負っていて。エイラ、貴女だけでも」

「できない!サーニャを見捨てるってことだろ!?」






「そうなるね…。でも、このままだと二人とも助からない。それならせめてエイラだけでも」

「…」

「でも、このまま落ちて死ぬのは怖いわ、エイラ。だからこれで、私を…」

501着任の時に支給されたPPKを取り出すサーニャ。

渡してくる彼女は、悲しく微笑んでいた。

「そして、離して」

「できないよ…」

「お願い」






「できない…」

「…それなら、命令よ。エイラ」

「…くっ…」

「分かった?ユーティライネン中尉」

「…」

「答えなさい、ユーティライネン中尉」






私が助けたいのはサーニャで、サーニャが助けたいのは私。

使用できるストライカーは私のだけ。

サーニャは負傷している。

魔法力は、私に注がれた分のみ。

どう考えても、状況は絶望的だった。

そして、サーニャは先任中尉。

私は、サーニャの後に中尉になったのだ。

上官の命令は、絶対だ。



しかし、本当にそれで、いいのか。






「…了、解…」

装填を確認する。

ガチャリと、小さく音が聞こえる。

サーニャのこめかみに銃を当てる。

もう何が正しくて何が間違いなのかも分からない。

引き金に指を当てる。

正しい判断など、出来ないことくらいわかっていた。






「うわぁあああああああああああああああああああああああああああ!」

どうしてこんなことになってしまったのだろう。

どうして、どうして…。

答えは明白だった。

私は軍人で、彼女も軍人で。

今が、戦争中だったからだ。



引き金に添えた指を引く直前。








「悲しいね、エイラ…」







瞬間、世界中の音が消えた気がした。

サーニャとの思い出がフラッシュバックする。






「撃てません!!」






私は泣き叫ぶと、PPKを手放した。

一筋の涙を流すサーニャを、私は視界に入れて思い出す。

あの日守ると誓ったのはウソだったのか。

私に出来ることはこれだけなのか。

違う。

私が、私だけがサーニャを救えるんだ。







「撃てるはず無いだろ!私だけがサーニャを守れるんだ。そうだろ!だから、今の私に出来ることは、これだけだ!!」

サーニャから貰った魔法力で、私はカラダを起こすと、更にソレを増幅させるために魔法力を呼び出す。

私のカラダのナカに残った魔法力をかき集める。魔法力を生成する大事なソレごと呼び寄せる。

これで魔法力が無くなっても構わない。それでサーニャが助かるなら、私はそれでいい。

飛べなくていい。私は、サーニャがいれば、いい。それだけで、私は、私は…。

かき集めた魔法力のほとんどをジェットストライカーに吸い尽くさせる。






「パージ!」

私はサーニャのストライカーを強制的に切り離し、他の武装も放り投げた。

近くの森へと狙いを定めると、エンジンを吹かした。

落下のスピードとソレが合わさった、かなりの速さになる。

私はシールドを張るために片手を伸ばす。

張れるだろうか。

違う。

私は張るしかないんだ。






そのときの私はひどく落ち着いていた。

今なら、何でもできる気がした。

最大出力の魔法力開放により、私はまた未来を視た。

それは…。



目の前に展開されるシールド。

そうして、そのままなるべく地面を水平になるように調節し、シールドでカラダを守りながら不時着する。

背中から落ちた私は、背面シールドを使ってみせた。






何とか着地はできたが、サーニャの息が荒い。

「だめ、私、血が止まらない」

上着を切り裂き、背中を止血する。

しかし止まらない。

「私、もっとエイラとお話していたかった」

「サーニャ?サーニャ、サーニャ…サーニャ、サーニャ!」

「もう、寝かせて…」

「だめだ。ずるいぞ…いつも私を起こすだろ?今日ばかりは、寝させてやらないんだからな」

震える声で私は抗議する。






「ふふ、そうだね……。…」

「わ゛ぁあああ!!サーニャ!だめだ、サーニャ!サーニャぁあああああああああ!」

「やっぱり、私ダメみたい。それにお父様とお母様は、きっと…。私には、もう生きる理由が」

「だめだ…。死ぬのは…もったいない…」



        違う。私はそんなことを言いたかったんじゃない。私は…私は!!



                「私のために生きて!!」



そう叫んだ私は、サーニャを強く抱きしめる。

「サーニャ。私を一人に、しないでくれ…」






目に涙が溢れるほど溜まる。

ソレが頬を伝わり、サーニャの顔に落ちる。

止め処なく涙は流れる。

拭うことなく、私は更に強く強く抱きしめる。

「エイラ…」

サーニャはゆっくりと私の名前を呼ぶと、私の頭を撫でた。

わずかな力を振り絞って口を開くサーニャ。

そうして答えたサーニャの言葉は、朝日が昇り、雨が止んで、虹がかかった、その空に現れた9つのストライカーの音にかき消された。

しかし私には、はっきりとそれが聞こえた気がした。






それから気絶したサーニャは、シャーリーに抱えられて基地へと帰還した。

ネウロイが出現する可能性もあり、一刻の猶予もなかったため、
大尉がミヤフジを抱え、彼女の治癒魔法を受けながら帰還という、前代未聞の飛行をした。

改めて、私はウィッチに不可能はないのだと理解した。

まだネウロイが出てくるかもしれないとの予想により、ハルトマンと少佐、リーネとペリーヌが残った。

私は、みんなが駆けつけてきた時はサーニャを庇うカタチで気を失っていたらしい。







それが、3日前のことだった。

私の体調は戻り、魔法力も徐々に戻ってきているとのことだった。

かなりの数の軍規を一気に破ってしまった私に科された罰は、前回よりもやはり多かった。

それでもいい。私は結果的にサーニャを救えたのだ。

一生会えない刑に処されないだけ、まだマシだと思うことにした。






しかしサーニャは、今もまだ目を覚まさない。

ミヤフジにキズはすべて消してもらったが、サーニャは極度の疲労と魔法力の使用で昏睡状態に陥った。

魔法力の移動なんて荒業、聞いたことがないと皆口を揃えて言う。

それは彼女の土地の伝承か、それともただのウソか。

しかし、あの時感じた魔法力は、私のではないことは、私自身がよく分かっていた。

それほどまで、彼女は私を…。






彼女を見る。静かに眠っている。

その傍に置いてある、病室に不釣合いなネコペンギンを私は抱く。

キレイな髪を撫でてやる。

普段はこんなことできないから、私はいつまでも撫でていた。

医者が言うには、すぐにでも目を覚ますだろうとのことだった。

起きたら、嬉しい知らせが詰まった手紙もある。彼女は喜ぶだろう。






そうして私は思いついた。

そういえば、彼女は私の頬に口付けをしていた。

やり返すなら、今しかないだろうと。

同じ場所では、味気ない。

ネコペンギンを窓際に置くと、私はサーニャの額に唇をつけて、願う。






(早く、サーニャが起きて、私と一緒にいてくれますように)



そうして、ポケットの中の誰かが、微笑んだ気がした。



まるで寝起きの猫のように、眠たそうに目を擦る彼女に、私は…。




◇◆

「おはよう」

      涙が溢れる。

「サーニャ」

      彼女の名前を呼ぶ。

「まったく」

      私は待ち続けた。

「こんなに」

      彼女が起きるのを。

「寝坊して」

      感極まって喉が絞まる。

「いいのは」

      声がうまく出せない。

「ほんと」

      ありがとう。私のために生きてくれて。


「ほんと!キョウダケダカンナ、サーニャ」







私の白い狐な王子様    
                   おわり







テテテテンッ デデデンッ!           つづく






オワリナンダナ
読んでくれた人ありがとう。

くぅ〜
たまには地の文も書かないと感覚を忘れそうなので書きました。
1人称&回想だけで構成するのはかなり骨が折れるのを再び実感しました。
描写削ったり…などの裏話はまぁ別の場所で。

TakeoffVoice、UCep4、ガンスリ、などを少し参考にさせてもらいました。
次回は芳リーネになります。

某まとめサイト様、pixivやTwiなどのコメントありがとうございます。
励みになります。
それでは、またどこかで。

ストパン3期アルマデ戦線ヲ維持シツツ別命アルマデ書キ続ケルンダナ



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