みほ「アリス・ゲーム」 (201)


怖い夢というのは印象に残る。

楽しかった夢や、なんてことない平凡な夢ほど簡単に忘れていくのに。

怖い夢というのは印象に残る。

起こるはずの無い事態も当然の様に見せつけてくる。大切な人もお構いなしに失う。

だからこれは怖い夢だ。

目の前で倒れている優花里さんも、華さんも、この薄暗い部屋も全部。

そして私の前に立つ銀髪の小さな子も、全部夢なんだ。

夢じゃないとダメなんだ……。

銀髪の少女が手を上げる。

かつて敵として戦い、お互いに健闘を称え合った少女。同じボコ好きとして一層仲良くなれたと思っていたのに。

その少女が今、感情の見えない瞳で手を上げる。

視界を覆う様に差し出された掌が怖くて、私は静かに瞳を閉じた。

悪夢から目覚める為に、私は夢に逃げていた。


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「西住殿ー!」

元気な声に呼ばれて振り返ると、優花里さんがこっちへかけてくるのが見えた。服装は私と同じ大洗女子学園の制服だ。

「優花里さん、おはよう」

「おはようございます、優花里さん」

「おはよーゆかりん!」

「おはよう……」

「皆さんもおはようございますぅ! お待たせしてしまいましたでしょうか?」

「ううん、私達も今来たところだよ」

私は首を横に振りながら言った。優花里さんは安心した様な笑顔を浮かべる。

「それはよかったですぅ。昨日遅くまで戦車道の歴史を読み返してたのが仇となりました……」

「ゆかりん、女の子だからってデートに遅刻していい訳じゃないんだよ? 彼氏の器量を試すって高等テクなら話は別だけど!」

「試した事もないのに……」

「捕らぬ狸のなんとやら」

沙織さんの言葉に華さんと麻子さんが呆れた様子で肩を落とす。

「ひえぇ、私にはとてもそんな真似は出来ないです」

「気にするな秋山さん。実践経験の無い言葉だ」

「麻子酷いー! デートの基本テクニックの一つなんだから!」

「そんなことより、そろそろ中に入った方がよろしいのでは」

「華も何気に酷いスルー!」

私は頬を膨らませる沙織さんにとりあえず笑顔を浮かべながらも、華さんの言葉に頷いた。

そして背後に建つ建物を見上げる。

それは少し寂びれたショッピングモールで、お世辞にも華やかとは言えない佇まいをしていた。


寂びれたモールの玄関を潜りながら、私達は指定された場所へと向かう。

「こんな辺境の地に呼び出すなんて、文科省の人間は何を考えているんだ」

「随分年季の入ったショッピングモールですね……場所も人里から離れていますし」

華さんが頬に手を当てながら首を傾げる。

麻子さん達の言う通り、ここは学園艦でもなく、人の多い都会でもないのどかな場所。

更に民家から離れた場所にある為、ただでさえ人が少ない場所からさらに人気が無くなってしまっている。

なので傍から見れば廃園した遊園地の様な、少し不気味で寂しい印象を受ける。

「ネオンモール祢屋河店、構造は一階を中心として地下一階、二階。上に二階、三階といった構造ですね」

「ゆかりん詳しいね」

「流石は優花里さんです」

「斥候はお手の物か」

「いいえ、そこのパンフレットを拝借しました!」

優花里さんが得意気にパンフレットを突きつける。

そんな優花里さんに皆が思い思いの表情を浮かべながら、私達は指定された三階へと向かいました。


三階に上がって突当りに見える扉が、今回指定された集会所だ。

時刻は午前十一時。日も昇り始めた時間帯だと言うのに、モール内は閉店後の様な薄暗さをしている。

館内に流れるBGMもはっきり聞こえないためか、どこか不気味な囁きの様に思える。

とはいえ正式な書類で送られてきた以上、いたずらという事はない。

私達はどこか緊張した面持ちで、その扉へと向かって踏み出した。

その時。

視界の隅に、見知った人影を捉えて私は振り返る。

私達から見て右側、十メートル程離れた場所に彼女はいた。

「愛里寿ちゃん……?」

私達とは別の通路を歩く彼女の後ろには、これまた見知った人物が一緒に歩いていた。

綺麗に整えられた七三分けの髪、無機質な四角い眼鏡に黒スーツ。文科省の役人さんで、名前は確か……辻廉太さん。

二人はこちらに気付いた様子もなく、真っ直ぐに通路を歩いていき、商品棚の影へと消えてしまった。

「みぽりんどうしたのー?」

足を止めた私を不審に思って、皆が私に振り返っている。

「あ……ううん、何でもない」

私は直ぐに皆の元へと小走りで駆け寄り、再び歩き出す。

(愛里寿ちゃんも呼ばれてたのかな?)

書類には大洗女子学園の戦車道履修者と書かれていたけど、もしかしたら他の学校の人達も呼ばれているのかもしれない。

そう思って私は、深く考えないまま正面の扉へ手を伸ばした。

久し振りの更新乙です。
辻の背後に現れたのはいったい誰なのか…。
次回も楽しみな文章の切り方ですね。


判明している戦死者

-大洗-
秋山優花里
五十鈴華
武部沙織
磯辺典子
ねこにゃー(猫田)
ナカジマ(中島悟子)

-黒森峰-
エリカ

-プラウダ-
不明(飛び降りた描写のみ)

-聖グロリアーナ-
無し

-アンツィオ-
ペパロニ
カルパッチョ

-千波単-
西
福田

乙です。
ノンナとカチューシャも逝ってしまったか…。
辻に話しかけた人間が女性と云うのは分かったが果たして…。

アリスは12人を直接手に掛けたのか。


判明している戦死者

-大洗-
秋山優花里
五十鈴華
武部沙織
磯辺典子
ねこにゃー(猫田)
ナカジマ(中島悟子)

-黒森峰-
エリカ

-プラウダ-
カチューシャ

-聖グロリアーナ-
無し

-アンツィオ-
ペパロニ
カルパッチョ

-千波単-
西
福田


-生死不明-
ノンナ(本文では意識不明の重体)

まさかノンナは…。

∠(・ω・´)

乙です。

このガス爆発でアリスはどれ程のダメージを受けただろうか…?
ホールに有る辻たちが覗くカメラは全滅しただろうけどね。


判明している戦死者

-大洗-
秋山優花里
五十鈴華
武部沙織
磯辺典子
ねこにゃー(猫田)
ナカジマ(中島悟子)

-黒森峰-
エリカ

-プラウダ-
カチューシャ
ノンナ

-聖グロリアーナ-
無し

-アンツィオ-
ペパロニ
カルパッチョ

-千波単-
西
福田

sage消えていた(汗)

京太郎「ペロペロ催眠もオワル」

菫「此れをキニオレヌシはDMMゲームを引退する」

オレヌシ「そもそも思い」

照「ラビリンスバックアップハヨ縛ってチン巫女バックアップハヨは縛るの難しかった」

淡「ハーレムカンパニーは知名度死」

誠子「ダンジョンプリンセスは二期厨の性」

尭深「ひつじ×クロニクルは婦女子と追加男キャラの性」

オレヌシ「本当にDMMゲーム引退してΩとα遣るンゴ」

本当に御仕舞

イケメン金髪王子須賀京太郎様処女膜を捧げる

会長以下生徒会も全滅か…。
役人に口で勝てる人材が失われたか…。


判明している死者

-大洗-
秋山優花里
五十鈴華
武部沙織
磯辺典子
ねこにゃー(猫田)
ナカジマ(中島悟子)
カエサル
角谷杏
小山柚子
河嶋桃
園緑子(そど子)

-黒森峰-
エリカ

-プラウダ-
カチューシャ
ノンナ

-聖グロリアーナ-
無し

サンダース
ナオミ

-アンツィオ-
ペパロニ
カルパッチョ

-千波単-
西
福田

不明
アリサ(泡を吹いて痙攣している)
オレンジペコ(意識はあるものの重傷か?)


生死リスト作ってくれる奴さん、いつもありがとうございますw作者です。

気づきにくいでしょうが、アリサはもう昇天しています。

麻子とは違って暴走したアリスの○○をもろに受けたので助かりません。描写が少なくて申し訳ない……。

>>114 作者氏
アリサは戦死していましたか。

タカシに御焼香してもらう事を祈っておこう。

乙です。

ケイも戦死か…。

「急いで! 今にも崩れそうよ!」

駐車場に出ると、蝶野さんが私達に手を振っているのが見えた。

部下の人達や戦車は先に脱出したのだろう。その場には蝶野さんしかいなかった。

「家元は!?」

「まだやり残したことがある、と」

「……そう、分かったわ。ならすぐにここを離れるわよ。しっかりついてきて!」

「「「はい!」」」

蝶野さんを筆頭に、ダージリンさんと麻子さん、愛里寿ちゃんと続き、最後尾に私とお姉ちゃんが走る。

「くっ……」

途中、ダージリンさんが呻き声を上げて足を止めそうになる。

見れば、ダージリンさんの足は既に限界を迎えていた。血の気は失せ、白い肌が一層不気味に白んでいる。

「少し失礼するわね!」

「きゃ……ッ!?」

すかさず蝶野さんがダージリンさんを抱き上げる。

「しっかり掴まっているのよ!」

「お、お願いしますわ」

ダージリンさんを抱き上げたまま、蝶野さんは先ほどよりも速度を上げて走り出す。

そうして進んでいくと、やがて目の前に白いスロープが見えてきた。

「あそこを下れば建物の外へと直接出れるわ! もう少しだけ頑張って!」

蝶野さんの声に励まされ、私達はスロープへと最後の力を振り絞って走り抜けた。

緩いカーブのスロープを抜けると、後は大きく長い下り坂だけだ。

ここを下りれば、建物の外へと出られる。

私達は息をつく間もなく走り出す。

そして、下り坂を半ば程下った時だった。

ドゴォン!! と、激しい爆発音とともに、周囲が激しく揺れる。

「マズイ……!! 本格的に崩れ始めた!!」

ぐわん、ぐわんと左右に揺さぶられるスロープに這い蹲りながら、私達は何とか揺れをやり過ごそうと耐える。

しかし。

ビキリ、と嫌な音が鼓膜を叩く。

それは私の真下から聞こえてきた。

「みほ!!」

咄嗟にお姉ちゃんが手を差し伸べる。その手にしがみ付く様に、私はお姉ちゃんへ向かって勢いよく飛びこんだ。

直後、ついさっきまで私のいた場所が裂ける様に崩れ落ちた。


私の体が宙に浮く。

崩れていく瓦礫と共に、真っ暗闇へと吸い込まれる様に落ちていく。

「みほぉぉぉぉぉぉ!!」

間一髪、お姉ちゃんの手が落ちていく私の手を掴む。

ガクン、と掴まれた腕に鋭い痛みが走る。

「ぐ、あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

「お、お姉ちゃん……!」

お姉ちゃんが苦痛に歪んだ表情で叫ぶ。

私を支えているお姉ちゃんの痛みは相当のもののはずだ。

「みほさん!」「西住さん!」

対岸にいる愛里寿ちゃん達が心配した様子でこちらを見ている。

しかし、距離が空きすぎて向こうからは手出しができない様だった。

このままじゃみんなも危ない。

「……」

私は視線を下に向ける。

真っ暗闇とも思える場所には、薄らと瓦礫の姿が見て取れる。

目安でしかないが、恐らく十メートル足らずといった所だろう。

私は一つ大きく息を吸って、顔を上げる。

「……お姉ちゃん、手を離して」

「な……ッ!?」

私の言葉に、お姉ちゃんの目が驚きに見開かれた。


「ダメだ! 諦めるんじゃない!」

「聞いてお姉ちゃん。このままじゃみんなが危険な目に遭う。私なら大丈夫、この高さならきっと落ちても死ぬ事はないよ」

もちろん、無事では済まないのは分かっている。

十メートル足らずとは言え、この高さから落ちれば両足の骨折は免れないだろう。

墜ち方が悪ければ背骨にまで影響が及び可能性も十分にある。

でも、この選択肢以外皆が無事に逃げ延びる方法は考え付かなかった。

しかし、

「絶対にダメだ!」

お姉ちゃんは頑なに手を離そうとはしなかった。

それどころか、自身を支えていたもう片方の手でも私の手を掴む。

「絶対に離さないから!」

確固たる意志を感じさせる声音で、お姉ちゃんは言い放つ。

その瞳に、私の気持ちがどうしようもなく揺さぶられる。

「お願いだよお姉ちゃん! 私だって本当は怖いけど、でも決めたの!」

「そんなのは決めたとは言わない!」

「だって、他に皆が助かる方法なんて──」

「みほが助かってない!」

「ッ!?」

「犠牲を前提にした選択肢なんて選択肢じゃない! それは貴方が一番嫌いな事でしょう!?」

……お姉ちゃんの言う通りだ。

勝つ事よりも仲間を助ける事を選んだ私が、自分だからと犠牲を容認してしまった。

「でも……だったらどうすれば」

「決まっている」

痛みに耐えながら、それでもお姉ちゃんは笑って見せる。

「お姉ちゃんに任せなさい」

お姉ちゃんは歯を食いしばりながら、ゆっくりと上体を持ち上げる。

ミチ、ミチと体が悲鳴を上げているのが分かる。

それでも、お姉ちゃんは腕を上げるのを止めようとはしなかった。

その気持ちが嬉しくて、気付けば私は涙を流していた。

「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」

私の体が、数センチ引き上げられる。


しかし、それまでだった。

「ぐ、ぅ……!」

互いに体力の限界だった。

繋いだ手から徐々に力が抜けていくのに、そう時間は掛からなかった。


「く、そ……」

必死に力を籠めようとしていても、私達の手はゆっくりとその距離を離していく。

「み、ほ……みほ!」

「お姉ちゃん……!」

そして、遂に私達の手が放れる。

その直前、

ガッ!! と、突然力強い手が私達の手を掴んだ。

「2人とも気をしっかり持ちなさい!」

「お母さん!」「お母様!」

私達の手を掴んだのは、紛れもなく私達のお母さんだった。

「まほ、呼吸を合わせて一気に引き上げるわよ」

「はい!」

お母さんの合図で、私の体は一気に橋の上へと引き上げられる。

「みほ!」

お姉ちゃんがギュッと私を抱き締める。

私もいざ窮地を脱すると途端に恐怖が込み上げてきて、お姉ちゃんの背中に手を回してしがみ付く様に抱き返す。

「お姉ちゃん……!」

「よかった……よかった!!」

「ありがとう、お姉ちゃん……私、すごく嬉しかったよ」

「安心するのは早いわよ二人とも」

お母さんはそう言うと、少し離れた場所で倒れていた役人さんを拾い上げ、勢いよく橋の向こう側へと放り投げた。

「みほ。まほは足を怪我しているわ。私と貴方で支えながら跳ぶわ、いいわね」

「う、うん!」

まだ安心はできない。

私とお母さんはお姉ちゃんの手を両脇から握り、助走をつける為少し下がる。

「行くよお姉ちゃん!」

「あぁ、分かった!」

「しっかり踏み込むのよ!」

ピッタリと息を合わせて私達は暗い、暗い闇を飛び越える。

同時に、惨劇の舞台となったショッピングモールが一際大きな爆発音と共に燃え上がった。





こうして、私達は死の実験場から逃げ出すことが出来た。


どうも、作者です。

ここまでお読みいただいた方、コメントくれた方々、本当に励みになりました。ありがとうございます。

こんなちょっと怖い夢見ただけで作り上げた稚拙な話を最後まで書ききれたのは見てくれている人がいるという思いだけですw

改めてありがとうございました。

まだ話は終わっていません。

出来れば明日か明後日、遅くても今週中には完結させるつもりですので、もう少しだけお付き合いいただければ幸いです。

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