勇者「ここは異世界か」イケメン「見つけましたよ、女神さ、ま?」(298)

勇者「たあああ!」ザンッ

触手玉「オオオオオォォォ!」ザザザッ

触手「」シュルル

触手「」ビュビュビュ

勇者「ちっ!」ガガガ

勇者「はぁっ!」ヒンッ

触手「」ギィン

勇者「くっ邪魔だ!」

勇者(流石に残っている触手は強靭なものか)

勇者(真正面からじゃ両断できないし……こんなのぶち当たったら骨ごとやられる!)

触手玉「オオオオ!」ギョロギョロ

黒い炎を纏った人「オオ」ズォ
黒い炎を纏った人「ォォ」ズズ

勇者「今更そいつらで止められると思ったのか! 触手ごと吹き飛べっ!」

勇者「雷駆!」カッ

雷撃「」シャッ

触手玉「アアアアア!」ズシャァァン

黒い炎を纏った人「オアア!」シュゥゥ
黒い炎を纏った人「アー」ジュウウ

勇者「はあああ!」ザンッ

触手玉「ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!」

勇者(必殺の一撃、ここだろ!)キッ

勇者「食らえ!」ギンッ

触手玉「オオッ!?」ズォ

触手玉「オオオォォォ!!」ギョォォォ

触手玉「オ……ォ」ビシ ピシピシ

触手玉「」ガラガラガラ

勇者「はぁっ! はぁっ! はぁっ!」

勇者「はぁっはぁっ、っはーーー」

勇者「何とか、倒せたか」ドッカ

勇者「ようやっとで魔王討伐……ここまで、これたんだな……」

勇者「……」

勇者「駄目だ……眠い……少し、だけ……」スゥ

……
勇者「……」

勇者「!」ガバッ

森 ソヨ チチチチ

勇者「森の、中?」

勇者「馬鹿な、さっきまで魔王と……」

勇者「幻覚か……? まさかまだ生きていたのか?」サス

勇者「木の感触……空気も……これで幻覚だとしたら随分と強力だな」

勇者「むしろ異世界に飛ばされた、か? それこそ厄介だな」

勇者「だが……あの状況で魔王が生きているなど……だとしたら誰が? 何が?」

勇者「考えても仕方がない……少し移動して周囲の確認をするか」

勇者(しかし、ここは本当に何処だ。異世界なのかただの転移なのか、はたまた幻覚か……)ガサガサ

勇者(だが、不穏な空気も妙な魔力もない……ある程度、平和な場所なのだろう)

勇者(これで本当に幻覚だとしたら、俺ではもうどうする事もできない相手だな)

勇者「うん?」ガサササ

勇者(向こうから何かが近づいてくる……なんだ?)スッ

イケメン「こちらにおいででしたか! 女神さ、ま?」ガサァッ

勇者「……女神?」

イケメン「あ、あれ……すみません、間違えました」

イケメン「いや、しかしだとすると」ブツブツ

鎧を着たイケメン「王子! お気持ちは分かりますが走り出さないで下さい!」

細身のイケメン「くそ、見かけによらず体力、バカ」ヒィヒィ

可愛い服の女の子「ひぃ……ひぃ……速いよぉ……待ってよぉ……」

勇者「……ええ、と」

細身のイケメン「お見苦しいところを、失礼しました。女神……んん?」

イケメン「どうやら人違いみたいだ……再度、探索を」

細身のイケメン「……」ゾォ

鎧のイケメン「どうしたんだ?」

細身のイケメン「こちらの方が、女神様のようです」

勇者(えぇーーー?!)

イケメン「馬鹿を言うな。どう見てもこちらの御仁は男性だぞ」

細身のイケメン「その……こちらの方から女神様のお力が……」

「……」

イケメン「えええぇぇ!?」

鎧のイケメン「ば、馬鹿な……」

可愛い子「えぇ、うっそぉ!」

勇者(……あーそれ心当たりあるけどどうしよう、めっちゃめんどいなこれ……)

勇者(しかしこれは逆に渡りに船か?)

勇者「状況は分からないが、こちらも聞きたい事がある」

イケメン「……」

イケメン「そう、ですね。こちらも見ての通りです。よろしければ、城までついてきては貰えませんか?」

勇者「ああ」

勇者(城があるのか……思ったより情報収集は進みそうだな)

細身のイケメン「ではこちらに来て下さい」

勇者「?」

細身のイケメン「いきますよ。テレポートオール!」カッ


勇者「!」パッ

勇者(転移魔法か。しかし……テレポートオールか。完全に異世界か)

イケメン「今の時間はあの部屋が空いているか……こちらへどうぞ」


広間
イケメン「ご自由におかけ下さい」

可愛い子「ボク、お飲み物持ってきますねー」パタパタ

勇者「……」

勇者「一応、あの子が戻ってきてから話したほうがいいんだろうな?」

鎧のイケメン「え? ああ、はい。お気遣いありがとうございます」

勇者「先に言っておくと、まずこちらから話をさせてほしい」

イケメン「構いませんが、何故でしょうか?」

勇者「端的に言ってしまえば、俺は異世界の人間だからだ。魔法の体系が違うから確実だろう」

鎧のイケメン「なるほど……」

……
可愛い子「お待たせしましたー☆」キャルン

イケメン「それではまず、自己紹介だけさせて頂きますね」

イケメン「私はこの国の王子をしている者です」

王子「一応と言いますか立場上と言いますか、この者達の責任者となっています」

鎧のイケメン「私は王子の側近で勇者と言います。以後お見知りおきを」

勇者(おっと)

細身のイケメン「俺はここで宮廷魔術師をしている魔術師です」

可愛い子「ボクは皆のアイドル、召使ちゃんですっ☆」

魔術師「……いい加減気持ち悪いからそれをやめろ。大体、男だろうが。何がアイドルだ」

勇者「え、男?」

召使「そうですよー☆」

勇者「……見えない」

召使「えへへ~☆」

召使「確認してみます?」ピラッ

勇者「……」

勇者「いや、ここまで普通に男である事を主張している奴の股間見てもなぁ」

勇者「しかも救いないという」ゾォッ

王子「全くです」

イケメン勇者「召使、そういうのは止めろと何度も何度も」クドクド

召使「うわぁ勇者ちゃんのが始まったぁ」

召使「ぶー! 勇者ちゃんが苛めるぅ!」

魔術師「よし、俺も加勢しよう」

召使「ありがとう魔術師ちゃん!」

魔術師「まずは捕縛魔法でこのバカの動きを封じる」ギロリ

召使「あれー!? そっちの加勢!? 加勢いらないよね!? 王子様はそんな事しませんよね!?」

王子「あ、うん、しないけど、流石に助けてあげられないからね」

召使「傍観っ!?」

勇者「あー……いいか?」

王子「は! 見苦しいところを失礼しました!」

勇者「いやいいさ。それにこういう賑やかなのは俺も好きだ」

勇者「えー改めて……俺は異世界で勇者と名乗っていた者だ」

勇者「俺の世界では突如、無数の触手を生やしている肉塊の姿をした魔王と呼ばれる者が現われた」

勇者「神々の神託により? 俺は神々から力を授かり、これの討伐の任を受けたんだ」

勇者「魔王討伐に成功し、一休みして気づいたらあの場にいた……というのが俺の状況だ」

王イ勇魔召「……」

王子(何で神託で言い淀んだのだろうか)
イケメン勇者(神託のところ疑問符がついていたような)
魔術師(なんだ? 本当は神託じゃないのか?)
召使(勇者ちゃんと被ったっ! けど、キャリアは向こうのが上だ!)

勇者「まあ、俺の事は男とでも呼んでくれ」

王子「え? しかしそれは……」

男「どの道、この世界では功績などないからな。気にしないでくれ」

勇者「え、ええ……そう割り切れるものですか?」

男「この程度、甘いもんさ。話を戻すが、そちらは女神を探していたんだな?」

王子「はい……」

男「事情、聞いてもいいだろうか?」

遥か昔、この地は楽園と呼ぶに相応しい世界であった。
山は笑い野は錦。その豊穣の地はある女神によって守られていた。
そこでは、人々は何不自由なく、切磋琢磨し生を謳歌していた。

だが、そこに大きな力を持った邪悪が産み落とされた。
それは地を、世界を侵食し腐敗させる力を持っていた。
人々が対策を立てる間もなく、腐敗の力は周囲に広がっていった。

その時、女神は人々にこう言ったのだ。
"最早、この地は楽園にあらず。されど、これを放置する事は世界の破滅と同じ事。
故に、私はこの地を悪しき力ごと封印します。あなた達は東の果てへ向かいなさい。

この先、恐ろしい困難が待ち構えている事でしょう。
ですが、あなた達にはそれを乗り越える力があります。
必ずや、生き抜いていくと信じています。

これから先、500年後の今日。ここより東にある広大な森に、新たなる私が産み落とされるでしょう。
その者と共に神殿へ向かい、儀式を行うのです。
そうする事で、私の力は大地へと還り、この悪しき力ごと飲み滅ぼす事ができるでしょう。"




男(なげぇ……)

男「えーと、平和な土地が脅かされた。それを女神が封じてる」

男「どういう理屈か分からないが、あの森に女神の分身かなんかが出現するから……」

男「とりあえず指定の神殿でその人物と共に儀式を行えば、脅かしていた存在は消える、と」

王子「要約すればそのようなところです」

男「新たな私、ねー……」

魔術師「女神様に心当たりがあるのですか?」

男「一応、俺に力を与えた神々代表は女神だけど……」


女神『ウイゥイスゥイ~スゥッ! あっすどうもー、あ、魔王とか現われたんで』

女神『力与えるからとっとと倒してきてーマジウケル』


男(……あのアマ、いつか耕す)

男「同一の女神ではないな」キリッ

王子「だ、断言?!」

男(ていうか、同一だとしたらあいつ、封印した後別の世界行って遊んでね?)

魔術師「しかし、確かに女神様と同質の……」

男「そもそもそれはどうやって調べているんだ?」

王子「唯一残された、女神様の宝玉。この魔力と同質の魔力かどうかで判断しています」

男「うーん……」

勇者「とすると、異世界であれど、本質的には同じ女神様という事でしょうか?」

召使「でもそれって、女神様の言った新しい女神様、ていうのとは違うよね?」

王子「もしかすると、この言い伝え自体がどこかで間違ってしまったかもしれないな」

魔術師「あるいは……何か状況が変わり、力を託した者を召還させた、とかか?」

勇者「ありえそうですね。流石に500年後の状況が予想通りなどとは思えませんし」

男「うーん……まあどの道、俺もする事がないし、何ならここでの生活基盤も欲しいしな」

王子「え?」

男「え、なんだ? なんか不味いのか?」

王子「いえ、その……帰りたい、という意思があまり感じられなかったものでして」

男「孤児だったからな。特に帰りたい場所はないし、知り合いはいるが絶対に帰りたいって事でもないしな」

召使「えぇ? それはそれでなんていうか……」

男「本当に親しい奴らはもういないからな」

王勇魔召「あっ……」

勇者「……し、失礼しました」

男「気にするな。というより、命を預けあったからこそ、そうした信頼関係になっただけだ」

男「戦いの中で得たのだから、戦いの中で失うのも不思議な事じゃない」

男「その外で、そうした場所や人物を作れなかった、作ろうとしなかった自分の責任だ」

男「話が逸れたな。俺も同行した方がいいんだろ?」

王子「ええ、こちらとしてはそうして頂けると助かります」

男「なら選択肢はないな。その旅に同行しよう」

男「うん? そういえば儀式って何をするんだ?」

王勇魔召「……」

男「え、なんだこの空気」

王子「ええと……非常に言いづらいのですが」

召使「SEX!」

勇者「おまっ!!」

男「」

魔術師「あー……この馬鹿っ」ボリボリ

男「まあ……女神の探索とそこからの旅の面子が男四人って時点で、何となく予想はしていたが……」

男「どうすんだこれ……」

王子「一応、他の方法がありますし、そちらに関しては男様のお手を煩わせる事はありません」

男「その場にいるだけでいいって事か?」

王子「はい、その通りです」

男「ふーん」

男(俺がついていくのは、現地で何らかの反応があるかもしれないとしても……)

男「今日の明日に出発って事じゃないんだろう?」

勇者「ええ、予定としては十日後です」

男「まあ、少しはのんびりする猶予はあんだな。とりあえず……」グー

男「……腹が減ったな」

王子「す、すぐに用意させます!」

男「というか、王子様なんだろ。俺に様付けなんていらないだろ」

王子「いえ、あなた様は女神様のお力を持つ方。この世界においては救世主に他なりません」

勇者「その通りですよ。我々からしてみれば、男様は最重要人物」

魔術師「我々が護衛として……護衛になるのだろうか……?」

男「正直それは何とも言えないが、あんまり神経質に考えなくていいと思うぞ」

召使「男様のお世話は任せて下さいっ」ムンッ

男「そんな待遇、逆に落ちつかねえよ。いらねえからな?」

召使「えー?」

男(なんか色々と苦労しそうだが……久々に賑やかで悪くないな)

男「ふーご馳走さん。久々のまともな飯がこんな豪勢だなんて罰あたりそうだな」

王子「とんでもない! いくら望まれたとは言え、こんな賄い程度の食事を男様にお出しするなどと」

王子「なんとお詫びすればいいものかっ!」

男「いや、とにかく食いたかったし、召使の賄いでも十分豪勢なんだけどなぁ俺」

男「というかやばいなこの世界。俺を堕落させる。過去、類を見ないほどの、頭一つ飛びぬけた待遇だ」

勇者「……」

勇者「あ、あの、あちらの世界においても男様は救世主のお立場では……?」

男「その筈なんだけどなぁ。なんだったんかなー」ハァ

魔術師(……凄い苦労されてきた方なのだろうか)

男「俺が泊まる部屋とかあるのか?」

王子「勿論、ご用意しております」

男「女神の、だけどか?」ハハッ

召使「あははー、男様にはだいぶ可愛いお部屋かもしれませんねー」

男「だと思ったさ」

魔術師「召使、城内も含めて案内してこい」

男「そっちは今後の予定の調整でもするのか?」

王子「それは後日。一先ず現状について、一部の者への周知ですね」

男「あーそりゃそうだな。まあ、悪いがそこら辺は任せる」

男「あと、案内が終わったら夕方ぐらいまで休んでるから、何かあったら遠慮なく呼び出してくれ」

王子「……」

勇者「王子……」

王子「落ち込む事はない。これが逆に女性であれば、もっと話は拗れていただろうし、辛いお気持ちにさせていただろう」

魔術師「本気でお前が儀式を行うのか?」

王子「それが私の責務だからね」

勇者「私は今でも貴方こそが残るべきだと思っています。私が変わりに……」

王子「勇者、君は何時から私に意見するようになったんだい?」

勇者「……こういう時だけ、そういう物言いは卑怯です」

王子「ふふ、すまないね」

王子「しかし、現われたのはあの方なのは、幸運であると言っていいだろうね」

勇者「と言うのは?」

魔術師「単純に能力的な事だろう?」

王子「世界が違う以上、同じという事にはいかないのでしょうが」

王子「それでも男様の話が本当なら、あの方は既に世界を救った方」

王子「必ずや、この旅を成功させる。君達も、尽力させる事になるがついてきてほしい」

勇者「……仰せのままに」

魔術師「元よりそのつもりだ」

……
召使「で、こちらが男様のお部屋ー」

男「おお、悪いな」

男「さて、俺は休んでいるからな」

召使「はーい」

召使「……」

男「なんだ?」

召使「それって男様を襲えって振りですか?」ソワソワモジモジ

男「」ゾォッ

召使「うぇぇぇん」

勇者「泣きながらどうした……まあ予想はつくが」

召使「男様に拳骨もらったぁぁぁ」

魔術師「……何をしたんだ?」

召使「うう、休むからって言うから、冗談で襲えって意味ですかって言ったらぁ」

王子「それは怒る」

勇者「怒るなぁ」

魔術師「むしろその程度で済んでよかったな」

召使「そこまで?!」

男「……」

男(いくつか気になる点がある)

男(まず、代替の儀式。そもそも、女神と性交をする事で何故解決するのかがよく分からんが)

男(それを差し置いても、彼らが変わりに何かをして解決となると、生半可な事ではないだろう)

男(次にそもそも邪悪という、害悪ある存在はなんだ? 生命体なのか? 現象なのか?)

男(それ次第では解決策がありそうな気がするが……)

男(他にもあるが……まずは)

男(この今まで俺が寝た事がないようなフッカフカベッドで惰眠を貪る事ぉぉ!!)ルパンダーイブ

夕食
王子「男様、こちらへおかけ下さい」

男「……」

豪華なテーブル「」キラキラ
豪華な食器「」キラキラ
なんか凄いご馳走「」キラキラ

男男男「「「」」」ガタガタブルブル

王子「男様!?」

勇者「え!? ちょ、どうなさいましたか!?」

魔術師「凄いな、ブレて見えるぞ」

召使「局地的大地震だね」

男「はっ! あ、あまりにも上流階級過ぎてアレルギー反応が……」

魔術師「これで世界を救った存在なのか……何と言うか、今までの待遇が不憫に思えてならないな」

勇者「しーっ」

王子「え、ええと、その、お気に召さないと」オドオド

男「い、いや、俺には分不相応というだけの事だ」

男「と、というかテーブルマナーとかナイフが左手、フォークが右手ぐらいしか分からないレベルだぞ」

召使「男様、逆っ逆っ」

魔術師「いや、向こうの世界でのテーブルマナーはそうなのかもしれんな」

男「しかも部屋めっちゃ広いし、メイドずらーーっだし超落ち着かねえ……」ダラダラダラ

男「悪いがもっとどっか狭い部屋か、もう俺の部屋の運んで……いや、それは流石に失礼か」

王子「いえ、男様に苦しい思いをさせる訳にはいきません」

王子「今日のところはお疲れでもありますでしょうし、お部屋のほうに通させますね」

男「ああ、我侭を言ってすまないな」

王子「いえ、滅相もございません」


可愛い感じの広い部屋
男「まあ、この部屋も落ち着かないっちゃあ落ち着かないがな」ハンッ

翌日
王子「一先ずはこのようなルートとなっています」

男「地理は分からんからそっちに任せるとして」

男「魔物や獣。当然こちらを襲ってくる害意ある存在はいるんだろう?」

勇者「その通りですが、獣はともかく何故魔物と言い切れたのですか?」

男「楽園であり女神が守っていた、だからさ。ただの豊穣の地というだけではそうは言わないだろう」

男「だとしたら、そうした敵がいつつも、そいつらに晒されない環境であった事は簡単に想像できる」

男「まあ、話だけなら土壌を汚染する現象とかから、って可能性もあるが森といい辺りの様子からはそれもなさそうだしな」

召使「おぉぉ。男様、切れ者っ」

魔術師「現在、我々が魔物と呼ぶ存在が主だった外敵ですね」

魔術師「邪悪な存在が生まれた日を災厄の日と呼んでいますが、その災厄の日からしばらくは」

魔術師「邪悪そのものが魔物を産み落としていましたが、今はもう見かける事はありませんね」

魔術師「ただ元々の原生種である魔物はいますので、それらとの戦いがメインとなるでしょう」

男「ほうほう。おっし、午後は実践訓練だな」

王子「え?」

男「任せっきりって訳にもいかないし、互い……というか俺とそっちとで、能力を知っておくべきだろ」

勇者「確かにそうですね」

召使「……」プルプル

魔術師「お前もだぞ?」ガッシ

召使「うわぁ……やだなぁ」ハァ

王子「あーだこーだ」

勇者「そーだどーだ」

魔術師「こーだどーだ」

男(俺、なんか居る意味ねえな)

召使「ぶー」

男「暇そうだな」

召使「だってぇこういう話ってボクいらなくないですかぁ」

男「まあ、俺もなんだがな」

召使「じゃあじゃあ、男様の話をして下さいよ! 魔王ってどんなのなんですか?!」

男「あーそうだな」

男「前にさらっと言ったが、一つ目の肉塊に夥しい数の触手が生えた存在だった」

召使「うわぁ……」

男「だが、その触手は一本一本に攻撃能力が備わっていて……まあ純粋に相手を殺す為のものだ」

召使「うわぁぁ」

男「魔王は自らの肉塊を分け、地に落とす事で分身を増やす厄介な奴でな」

男「いや、あれはあれで子なのかもしれないな。最終的には、全部ぶっ殺したが相当苦労したぞ」

召使「へー」

男「その地の力を貪り成長していくから迷惑な話だ。うん?」

王勇魔「……」ジィ

男「何だよ……?」

王子「いえ、我々も男様の話に興味がありまして」

男(えー会議はいいのか?)

……
男「そこで俺が放った神々の力で、魔王は見事絶命して消滅したという訳だ」

勇者「おぉ……私も武勲でこの地位を得たとは言えまだまだ未熟。勉強になります」

王子「そういえば、その女神様のお力はどういったものですか?」

男「相手の生命力をぶっ壊す恐ろしい力だ」

魔術師「それはまた何とも強力な……」

召使「お、恐ろしいね」

男「言っても一発使えば、立っているのもやっとな程の疲労感だからな」

男「使い勝手は超悪いぞ」

王子「おや、いい時間ですね」

召使「あ、お昼ご飯用意してきますねー」

勇者「ああ、すまないが頼むぞ」

男「そういえば、勇者は武勲を立てたんだっけか? 一体、何があったんだ?」

勇者「ああ、いえ大した事はありませんよ」

勇者「ただ、遠方にドラゴンが現われたのでその討伐で大きな戦果を出したと言うだけです」

男「ほードラゴンか。俺は対魔王だったからなぁ。まあ魔王の魔力に中てられて」

男「魔物化した敵はいたんだが、流石にドラゴンは戦った事がないな」

王子「しかし、男様ならドラゴンでも倒せるのでは?」

男「どうだろうか。神々の力も絶対じゃないから、いきなりぶっ放して倒せるもんじゃない」

男「それに巨体の相手ってした事がないからな。そこら辺の経験の差を考えると勇者には負けるだろうな」

魔術師「……やはり魔王討伐の成功の秘訣は、そうした冷静な客観視なんでしょうか?」

男「いや、単純に戦闘能力だと思うぞ……? 結構な仲間が死んだしな」

王子「そう、ですか……」

男「任務達成したんだ。それだけでも喜ぶべきなんだよ」

午後
王子「ぜぇ……ぜぇ……」

勇者「はぁ……はぁ……」

魔召「」

男「ほー……」

男「まあ、予想以上に良い結果だな。全体で見れば」

勇者「そ、そうですか……」

王子
力A- 体力B 持久A- 敏捷B+ 剣B+ 魔力B+ 魔法E

勇者
力A 体力A- 持久A 敏捷B 剣A+ 魔力C 魔法C

魔術師
力B 体力C 持久C+ 敏捷B- 近接D 魔力A+ 魔法A

召使
力C 体力D+ 持久C- 敏捷C 近接E 魔力A 魔法A

男「ま、こんな感じか」

王子「勇者の方が私より動きが遅い、ですか? それに私は魔力があまり高くないはずですが」

男「あー……そこら辺は簡単に説明するさ」

男「項目が多くなり過ぎるから簡略化してるのと、特殊能力的なもんがある」

男「まず王子だが、結構強い前衛タイプだな。魔法は使えないし、魔法を使うための魔力」

男「俺らの世界では魔力量って言ってんだが、これも低い。ただ、生まれつきなんだろうが、魔法耐性が高い」

男「俺らの方だが魔力量と魔法耐性は比例するんだがな。結構驚いたぞ、その耐性」

男「勇者は見てのとおり高水準の前衛型だが、魔法が扱え攻撃支援回復と使えるってのがポイント高いな」

勇者「孤立したりしない限り活躍はしませんがね」

男「ただ、命綱になるからな。あと敏捷の件だが、単純に素早さは王子の方が上だ」

男「だが敏捷というもの自体は移動速度ではなく、動作方向の正確さ等を示す言葉だ。俺の世界だと速度と正確性の評価に使われるがな」

男「で、勇者に関しては反応速度と予測が凄い。剣の腕前からしても、予測は今までの経験によるものなんだろう」

男「ぶっちゃけ、これも評価に含めるとSになるが、内容が特殊過ぎるからあまり加味しないで考えた」

男「魔術師は多少動ける魔法使いタイプ。召使は典型的な魔法使いタイプ……いや少しだけ力があるか?」

男「まあ戦闘じゃ大して変わらないがな。んで、魔術師が攻撃魔法特化に支援魔法多数。召使は回復魔法特化と」

魔術師「……もしかして、召使の魔力の高さは」

男「ああ、耐性の高さもあって、だな。単純な魔力量ならB-ぐらいか」

召使「えー……隠された魔力に気づいたとかじゃないんですかぁ?」

男「ねえよ」

王子「因みに男様ご自身はどういった具合なんでしょうか?」


力A- 体力A+ 持久A 敏捷A- 剣S 魔力B 魔法B-

男「ハイレベルな前衛型の上に魔法が使える万能型ってところだな」ムフー

魔術師(凄い自信だ)

召使(Sついた)

男「つっても、お前達から見て、勇者と俺の試合はどうだった? 俺のが圧勝だったか?」

王子「確実に男様の方が優勢でしたが、圧勝かと言われますと……」

男「これだけの能力差を埋めてるのが、勇者の反応速度と予測だ。これで少しでも他の能力が高ければ」

男「今の俺では勝てないだろうな」

勇者「そ、そんなまさか」

魔術師「なるほど……数値上はこれであっても、それが全てでないと」

男「そういうこった」

召使「そう言えば男様の魔法ってなんですかー?」

男「攻撃魔法特化だな。僅かに回復魔法も使えるが。よく使うのは雷駆。三十本の雷撃が正面へと駆けていく頼もしい魔法だ」

魔術師「ほほう……それは中々興味がある話ですね」

召使「お、男様って仲間必要だったのかな」ヒソ

勇者「う、うーん……」

男「おうこら、聞こえてんぞー」

男「つーか、初めからこんだけ強い訳がないだろう。数多の命の上に、今の強さがあるんだよ」

王子「説得力以上に重たさが……」

勇者「こういう話題は、聞くたびに胸を締め付けられますね……」

男「まあ、魔法についてはまた今度な。とりあえず、こっちの世界の敵ってのがどんなもんかは分からないが」

男「基本的に俺と王子がアタッカーで、勇者が後衛の護衛」

男「魔術師が状況見て魔法による攻撃と、召使が回復ってところだな」

王子「じ、自分が男様と並んで戦うんですか」

男「正確には俺が突っ込むから、後ろから仕損じた敵を倒してくれりゃいいさ」

男「更にこぼした奴や、挟撃・伏兵には勇者が対応」

勇者「分かりました」

魔術師「配慮してくださりありがとうございます」

召使(ボクは戦わなくていいんだ)ホッ

男「おっし、こんなもんかな」

勇者「勉強になりました。ありがとうございます」

男「俺も勉強になるぜ。全く、異世界には面白い奴がいるな」

魔術師「剣から始まる友情……」

召使「異文化コミュニケーションだね」

王子「いや、それはなんか、どうだろうか」

王子「おっと……私は所要がありますのでそろそろ失礼します」

男「おー、じゃあ解散って事で」

魔術師「男様はどうされますか?」

男「俺は書物庫にでもいってみっかな」

勇者「言語は同じようですが、文字まで同じなのですか!?」

男「みたいだな。まあ、女神の繋がりがあるみたいだし、ありえなくもないだろ」

男(それも謎っちゃ謎なんだがな)

男(悉く外れだな)ペラペラ

男(まあ、世界の成り立ちはいいとしても、その邪悪ってもんについては)

男(王子なんかが知らん訳じゃないだろうし、あの場で詳しく話さなかったという事は)

男(その詳細はあんまし分かっていないって思うべきか?)

男(しかし参ったな。出来れば正体不明の儀式なんてもんより、確実な方法を取りたいんだが)

男(しかもあの時の王子の顔、相当覚悟した顔だったな。まだ、聞いても教えちゃくれないだろうな)

男(地図を見る限りだと、封印されている地ってのは儀式を行う場所の奥ぐらいか?)

男(どうにかして、そこまで行ってみたいが、あいつら許可しちゃくれねえだろうな)

翌日
召使「男様っ!」バーンッ

男「うるせえな。静かにドアを開けろよ」

召使「んもー、魔術師ちゃんや勇者ちゃんみたいな事を言うー」

男「その時点で本来そうすべき事だって思わないのかよ」

召使「そんな事よりもですね、街に行きませんか! お出かけです! お買い物です!」

男「俺の案内を口実に出かけたいんだな」

召使「ワー、何でもお見通しですかー?」

男「お前が単純なだけだ」


召使「わーい、何だかんだ言って来てくださる男様大しゅきー!」ヒシッ

男「暑苦しいわ」グイ

男「あと、度が過ぎれば俺も折檻するからな」ギリギリギリ

召使「痛い痛い痛い!! うぅ、男様までそんなぁ」ヒリヒリ

男「……」フゥ

召使「男様?」

男「お前みたいな奴が仲間にいたんだよ……ちょっと懐かしいな」フッ

召使「男様……」

召使「男様さえよければ、ボクの事、そのひ」ガッシ

召使「……? ?? あのー頭ちょっと痛いんですがー」ミチミチ

男「そいつと時間を共有して分かったんだ」

召使「は、はあ……あのー頭が」キリキリキリ

男「ああいう……お前みたいな輩は定期的に、それも短い頻度で〆ないと調子に乗るってなぁ」ゴゴゴ

召使(あ、めっちゃ悪者の顔)ギリギリギリ

召使「ただいま……」

勇者「召使、お前また……って、え? なんでこんなにテンションが低いんだ?」

魔術師「なんだ? ぼったくりにでもあったか?」

男「いや、俺がちゃんと事ある毎に絞っておいた」

召使「もう男様とお買い物しないっ!」プンッ

男「おーし、今度はひっそりと後ろからついていってやろう」

召使「ひぃ!」

勇者「……」ウンウン

魔術師「いや、これで改心するとは思えないぞ?」

勇者「そういえば、男様は何か買われたのですか?」

男「お前らからお小遣いもらったからな」ゴソゴソ

魔術師「お小遣い……」

勇者「う、すみません、急だったもので」

男「あ、いや、額を言っている訳でもなんでもないんだが。それに俺自身は凄い助かっているし」パッ

勇者「これは……ああ、武具の手入れ用品ですか。それでしたら、仰って頂ければ、城のをご用意しますのに」

男「こういうのは選ぶところから楽しむもんだろ」ウキウキ

数日後の夕食
男「ふー食った食った。不味いな……働きもせず豪華な食事を食らう。完全に堕落している」

王子「そんな、男様に労働などさせられませんよ!」

勇者「しかし、能力的に外に出れば否応もなく最前線に立たれる事になるでしょうけども」

男「そうだな。じゃそれまでのツケって事で無銭飲食を楽しむか」

召使「それ楽しむものなんですか?」

魔術師「それにしてもよく食べますね……」

男「食える時に食う能力がないとな。割とやばい状況とか珍しくなかったぞ」

……
男「専ら、魔王の子株駆除がやばかったな」

王子「どうしてですか?」

勇者「逃げるから延々と追い続けなくてはいけない、とかでしょうか?」

男「いや、孵化っていうんかな。触手が生えてこない肉塊のままなら、動き回らないからいいんだが」

男「奴らは周りの大地の力を吸う事で、周囲を瘴気で満たすんだよ」

男「当然、周囲は食物なんてないし、近づけば手持ちの食料もダメになる」

魔術師「瘴気、ですか。こちらの世界では何となくの概念しかないのですが、そちらでは明確に存在しているのですね」

男「明確ってもんでもないかな。あらゆる事に害悪を及ぼす存在っていう感じの意味合いで使われている」

男「もしも毒性や腐食性の強い液体が湧いたりしたら、瘴気に汚染された水が湧いたと言う。そんな感じだ」

男「ふあ……少し長話だったか。軽く体を動かしてから寝るかなぁ」

勇者「私としてはもっと話を聞きたいのですが」

男「んなもん、道中でいくらでも時間があんだろ」

王子「確かに、少なくとも二ヶ月はかかりますからね」

男「そういや、テレポートオールだっけか? あれで一気に行く事はできないもんなのか?」

魔術師「残念ながらテレポートオールでいけるのは一箇所のみで、事前にその場所に行った事がないと出来ません」

男「それって使える人間が二人いりゃ、神殿とこことを行き来できんじゃねえの?」

王子「お、男様、テレポートオールが使える者は殆どおりませんし、神殿までは過酷な旅なのですよ」

勇者「確かにその案は考えなくもなかったですが、女神様の力なしで行うにはハイリスクだと判断したのです」

男「あー……つっても俺の神の力も大した事ねえんだけどなぁ」

男「まあいいさ、全員で神殿まで行けばいいんだろ」

召使「わー軽い」

魔術師「既に一度世界を救った方は違うな」

勇者「ああ、本当に頼もしいお方だ」ウンウン

男「両手で数えられない死線を潜れば度胸もつくさ」

王子「ああ……そういう……」

勇者「歴戦の戦士とはかくも……」

勇者「はっ! やっ!」ヒヒン

男「よ、と」ギギィン

男(俺の太刀筋に順応してきているか? こいつ、予想以上の強敵になるな)

男「はぁっ!」ヒッ

勇者「ぐうっ!」ガギィン

男「せいっ!」ギィィン

勇者「あっ!」ィィ

剣「」カーンッ

勇者「参りました……まだまだ追いつけませんね」

男(正直、あと一歩のところの差が大きいだけでそれを超えたらあっという間だが、言ってやるのも癪だな)ニヤッ

男「これでも俺は使命を果たした身だからな。もっと精進しろよ」

勇者「はいっ!」

男「とは言え、俺も何時追い抜かれるか冷や冷やしているがな」

勇者「そ、そんな。まだまだ男様には敵いませんよ」

男「さあてどうだがな」

男「ま、俺は期待してるってだけの話だ」バンッ

勇者「……お、男様」

勇者「分かりました。必ずや、貴方を超えてみせます」

男「ま、ただじゃ抜かせないがな」ニヤ

魔術師「こちらにおいででしたか」

男「おう、なんか用か?」

魔術師「そちらの世界の魔法についてお話を伺いたかったのですが、お取り込み中のようですね」

男「いや、そろそろ休憩にしようと思っていたところだ」

男「というより、今日はここまでとしておくか。あんまし無理しても仕方がないしな」

男「って事でいいか?」

勇者「はい、ご指導頂きありがとうございました」

男「……それ、逐一言う気か? 要らねえよ、んなもん」

……
男「とまあ、こんな感じだな」

魔術師「やはり魔法体系が完全に違うのですね」

男「どっかしら通じる物があると思うんだが……悪いが俺じゃそこまで提示してやれなさそうだ」

魔術師「いえいえ、これだけでもかなりの情報です」

魔術師「あーこほん、ところで……その」

男「こっちの魔法を見たいってか?」

魔術師「……顔に出ていますかね」

男「出てるし、気になって仕方がなさそうっていうのは、以前から感じていたからな」

男「とは言え、雷駆はあまり精密性が高くない魔法なんだよな」

魔術師「三十本の雷撃、でしたよね」

男「壁なんかにあたっても跳ね返る性質でな。狭い空間や敵が密集している場所では」

男「表面上の能力を遥かに凌ぐ効果を発揮するもんなんだが、その分ってところだ」

魔術師「なるほど」

男「つーわけで、あんまり使わないが雷光という魔法を見せてやる」

魔術師(雷で統一されているのだろうか?)

男「こいつは逆に雷と言いつつ、超精度の魔法だ。命中させるには術者の技量が問われる魔法だが」

男「瞬時に貫くから、しっかり照準さえ合わせられれば、動き回る敵にも有効と言えるだろう」

魔術師「それが難しいのではないのですか?」

男「まーな」

男「そうだな……あの遠くに見える旗を見とけ」

魔術師「城壁に掲げた旗ですね」

男「……」スゥ

男「雷光っ!」カッ


旗「」チュンッ


魔術師「消えたっ!?」

男「あんぐらいの物だと、命中した瞬間木っ端微塵だろうな」

魔術師「とんでもない威力ですね」

男「まーな。ただ、こいつはかなり魔力量の消耗が激しいんで」

男「そう連発できるもんじゃないな」

魔術師「しかし、魔力の流れは同じように感じられたのですが……一体何処に違いが」

魔術師「そもそも魔力を魔法に変換する際に……」ブツブツ

男「うお、研究者特有のトリップが始まりやがった……俺はもう部屋に戻ってんぞ」

魔術師「しかしそれだとしたら……いや」ブツブツ

男「うん?」

王子「おや、男様。どうかされましたか?」

男「あーいや、魔術師と話していただけだ。別に迷子になった訳じゃねーよ」

王子「あ、いえ、そういうつもりでは……」

男「お前はちっとあれだな。俺の事を敬い過ぎだ。もう少し砕けて接してくれていいんだぞ」

王子「そのような訳にはいきませんよ」

男「俺が言っているのは、お前はいき過ぎているって話だ」

男「俺は神様でも何でもないんだから、せめて人間扱いしてくれ」

王子「そ、それは……」

男「していないだろ?」

王子「……」

男「お前の立場上、俺の存在の重たさについても分からんでもない」

男「だが、お前達の世界で求められている力を、俺が持ち合わせていないのが現状だ」

男「と、いうよりも、それ故に戦う力を与えられた気がしなくもないし」

男「俺の事は飽くまでも、めちゃ強い助っ人とでも思っておけよ」

王子「……」

男「ま、すぐには無理だろうとは思うけどもさ、俺はお前達と良好な関係を築けりゃいいと思っている」

男「だから、そう堅くなんなよ」バンバン

王子「……そうですね、それで男様が息苦しく感じられるのでしたら本末転倒ですものね」

男「そういうこった。ま、よろしく頼むよ」

男「それとだ」

王子「はい?」

男「困ったら遠慮なく頼れよ。政は分からないが、剣なら見せたとおりだ」

男「お前達が何を考えているかは知らんが……」

男「俺は既に世界を滅ぼす存在を討ち取ったんだからな?」

王子「……」

男「この意味、努々忘れるんじゃねえぞ」

王子「……ええ、肝に銘じておきます」

……数日後
男「という訳で今日出発して」

男「さっそく戦闘があった訳だが」チラ

魔物の死体の数々「」

男「よえなぁ……」

王子「いや、いや……」

勇者「この魔物は戦った事があるが、十分強い部類のはずなのに……」

魔術師「ああ、見るのは初めてだが知っている。確か兵士が1ダースいても全滅する相手だぞ」

召使「殆ど一太刀で終わっていたよね……」

男「なんか拍子抜けするな」

勇者「と、いいますか、この間の手合わせは一体……」

王子「かなり手加減されていた……?」

男「いや、本来の敵というか戦っていた相手は人型じゃないからな」

男「あーやっぱこういう魔物は戦いやすいな」

魔術師「魔物特化、ですか」

召使「うーん? 男様の世界の魔物ってこんな感じなんですか?」

男「雰囲気だけならな」

男「ま、しばらくは変なもんが出てこない限りは楽勝だな。つっても慢心すると足元すくわれる訳だが」

王子「はいっ」

勇者「こういう気の持ちようが生き残る秘訣なのだろうな」

魔術師「ああ、全くだな」

召使(ボク、本当に何もしなくてよさそう)ホッ

男「お前はその分、野営時に働いてもらうからな」ガッシ

召使「ひゃぁっ! え、あ、はい。あ、でもそれなら何時もの事だからいっか」

男(最も、敵が意思ある存在なら馬鹿じゃないだろう。この機に眠りこけてるなんて都合の良い事はないはずだ)

一週間後
男「町だ……町がある」

王子「えぇ?!」

魔術師「町ぐらいありますよ。なんで驚いているんですか」

男「いや、だってなんだ、この旅って相当過酷な扱いなんだろ?」

男「だから、あの城が人が住める領域ギリギリなんだと思っていたんだが」

勇者「ああ、そういう事でしたか。何箇所かは元から聖域のような力を持つ土地がありまして」

勇者「この旅の為にもそうした土地に町を作っていたんですよ」

男「へえ、そういう事か」

魔術師「まだ、この辺りは町が多いですが、神殿に近づけば近づくほどに減っていきますよ」

「み、見て!」
「王子様! キャー! 本物っ!?」
「勇者様もいるわ! あぁんもー! 格好良い!」
「魔術師様も!」
「キャー! 目つきキツイ!」
「ドS攻めされたい!」
「召使きゅん可愛いー!」
「あーもー持ち帰りたい!」

((((もう一人の男性誰だろう……))))


男(超アウェー感)

王子「す、すみません。騒々しくなってしまって」

男「別に王子が謝る事じゃないだろう。てかお前らめっちゃ人気なんだな」

男「って、役目的に考えれば不思議でないか」

魔術師「まあ、そういう役割でしたので、色々と期待されている人物で旅が出来る者になってしまいますからね」

勇者「何と言うか、その、男様には居心地が悪いかと思われますので、変わってお詫びを」

男「別にいらんって言っているだろ。それにアウェーの洗礼ならもっと酷いのを体験している」フー

召使「え? 男様が? 何でですか?」

男「そりゃまあ、中には自国の軍隊で魔王を討伐したいところもあったからな」

男「そこからすりゃ、俺は目の上のコブみたいなもんさ。酷かったぞぉあの国の対応は」メラメラ

魔術師「機会あらば復讐せんと目が語っている……」

宿屋
勇者「我々は物資の補填に行ってまいりますので」

男「おう、つっても全員個室だから留守番も何もねえけどな」

男「というか、誰か残ってんのか?」

男「お? 召使が残ってんのか、何となく理由は分かるが……あいつが大人しく待っているもんか?」ソロー

召使『はぁ……はぁ……はぁ……』チュコチュコ

男(うん?)

召使『女神様……女神様……男様……男、様……うっ』ドピュ


男「……」

王子「あれ? お、男様?」

勇者「わざわざこちらを手伝って頂かなくても……て、どうされたんですか、顔真っ青じゃないですか」

男「と言う訳だが……」

王勇魔「あー」

男「おい、どうにかしろよあの発情ショタ。おかしいだろうが」

王子「いえ、まあ……手を出してくる事はないので」

男「え、待ってお前ら全員まさか」

勇者「ええ、本人は隠しているつもりですがね」

魔術師「まあ流石にそれを伝えるのもどうかというところで、今のところは黙認している訳です」

男「お前ら凄いな……何ていうか凄いな。魔王討伐なんて霞むわ」

男「というか本当に大丈夫なんだろうな? あいつ、飯係だぞ」

王子「食べて一時間はお互い、健康チェックをしております」

男「時折、部屋に尋ねてきていたのはそういう事か……」

男「待て、その対策をするのは言ってやった方が優しくないか?」

勇者「どう、でしょうか……」

魔術師「知られたら知られたで、開き直る可能性がありますし」

男「それは……想像できる分なんとも言えねえなあ……」

宿屋
召使「あれー? 男様も買出しに行っていたんですかー?」

男「……おう」

召使「??」

王子「男様は疲れてらっしゃるようだから、もう部屋で休まれるそうだ」

召使「え……町に来た時は元気だったじゃん」

勇者「まあ、色々とあるんだよ」

召使「ふーん?」

男「んじゃあ俺はちと休んでいるから夕食になったら言ってくれ」バタン

勇者「はい、ごゆっくりお休み下さい」

魔術師「それにしても、召使の奴も困ったもんだな」

勇者「全くだ。少し体罰を考えなくてはいけないのだろうか……」

魔術師「というか、奴は恐れ知らずだな……」

勇者「ああ……まさか男様までオカズにするとは認識が甘かった」

魔術師「間違った勇気だな」

勇者「というか、あれはその気があるんだろうか……」

魔術師「……少し、警戒するか」

勇者「同行を把握する魔法とかかけておいてくれないか?」

魔術師「弾かれるんだよなぁ……男様が言ったとおり耐性が高いから」

王子「……二人してこんなところでどうしたんだ?」

勇者「王子、いざと言う時の為、我々に召使への生殺与奪権を与えて下さい」

王子「た、確かに今回は少々あれだが流石にそれは……」

魔術師「というかアレはもう玉をとっちゃいましょう。アイドルアイドル言っているのだから、惜しくはないだろう」

王子(慈悲がない)

翌朝
男「よ、と」グッグッ

勇者「男様、お早うございます」

男「おう、おはよーさん」

勇者「今日も朝が早いですね……」

男「まあ習慣だわな。一通り訓練も終わったし、飯だな飯」

勇者「一通り?」

男「まあ、軽く一時間程度さ」

勇者「え、あれ? まさか野営時も朝早かったですが常にですか?」

男「あたぼうよ」

王子「次はこのルートから次の町を目指します」

男「ほー」モグモグ

男「こっちの町は寄らなくていいのか?」

勇者「全ての町を巡る訳にはいきませんからね」

魔術師「少し険しい道のりですが、このルートの方が早く神殿に向かえます」

召使「ボクは楽なほうがいいなー」

男「かかる日数が増す分、そっちも楽じゃねえだろ。俺はどっちでもいいが」

森の中
男「……止まれ」ピタ

勇者「なんだ、この気配……」

王子「?」

魔術師「一体……?」

召使(あ、多分、これ離れてないとヤバイパターン)ススス


黒い靄をまとった牛「ォォ」ゴオォォ

勇者「なん、だあれ……」

魔術師「黒い靄……まさか、災厄の日に現われたという魔物の類……」

王子「馬鹿な……今になって」

男「……」

男「……」ダッ

勇者「男様!?」

男「おらー! こっちだかかってこいうらああああ!」バタバタ

王子「男様ー!?」

牛「オオオオ!」

魔術師「! まさか自身を標的にする為に!」

牛「オオ!」ドゥッ

男(分かりやすくていいな。横にかわし)ザッ

男(すれ違い様に首をっ!)ヒンッ

牛「オボォ!」ザンッ

勇者「な……」

王子「凄い、一撃で決めた……」

牛頭「オオオオオ!」ゾゾゾ

勇者「! こいつ、まだっ!」

牛頭「オウッ!」ダンッ

召使「え……? 嘘、ちょ」ゴオォォ

王子「召……!」

牛頭「モ゛オ゛オ゛」ザンッ

牛頭「」ドザ

男「間にあったか……」フー

召使「ひっひぃっひっ……」ガタガタ

勇者「よしよし、流石に怖かったな」ポンポン

召使「うううう」ガタガタガタ

男「……」

勇者(それにしても……魔物が倒れた地点で言えば一番、距離が離れていたのは男様だ)

勇者(気を取られていて見ていなかったが、恐らく首を落として尚、絶命していない時点で動き出したのだろう)

勇者(経験というより、覚悟の差か……。それさえ、届かないとは)

男「俺の世界の魔物の中にはああいう、生命力が高い奴がいたからな」

男「知っているからいつだって警戒しているだけだ。変な事で落ち込んでんじゃねーぞ」チラッ

勇者「……困りましたね、男様にはお見通しですか」

男(黒い靄をまとった存在か……)

男(この類は災厄の日に現われた連中だとすると、邪悪とやらの影響が強まっている?)

男(あるいは予想通り、このタイミングで打って出てきたか。こんな序盤から馬鹿な奴め)

男(これを偶然で片付けるほど、世界を知らないわけじゃないぞ。邪悪は生命体か。正体に一歩近づいたな)

王子「魔術師、どう思うだろうか?」

魔術師「分かる訳がない。ただ……もしかすると女神様が今この時代を指定したのは」

魔術師「邪悪を封じておく事の限界から、なのかもしれないな」

王子「そしてこの魔物が現われたのは予想よりも早く、とかだろうか?」

男(その可能性もなくはないが、強敵の出現地点がピンポイント過ぎる。飽くまで俺らを狙っただけの可能性が高いな)

男「まあ、少し急いだほうがいいかもしれないな」

男「封印切れの問題か、それとも俺を恐れているのかは分からないが」

男「どっちであっても、時間がかかればリスクが増すだけだ」

男(何より一番は相手に準備する時間を与えない事だが、流石にそれは難しいな)

王子「そうですね……しかし、あまり無理な進行も難しいですし」

男「ま、戦闘は俺が気張ればいいんだし、少しだけペースを上げりゃいいだろ」

魔術師「しかし、それでは男様の負担が増してしまいますよ」

男「俺はアタッカーする分にはいいんだよ」

男「落ち着いたか?」

召使「……」コクリ

召使「あ、の……ごめんなさい」

男「? ああ……別にお前に戦闘能力を求めちゃいねえよ」

男「全員役割があるんだ。お前は傷を負った者に治癒する事、極力影に隠れて攻撃を受けない事に集中しろ」

召使「はい……」コクリ

男「なあに、あんな程度ならいくらだって守ってやる。こんなの綿より軽い重荷だ」ハッ

男「だからそんな不安そうな顔をしてんじゃねえよ」ナデナデ

召使「は、はい」キュンッ

男「……」

森「」シィン

人影「」サッ

男「……」

王子「男様?」

男「いや、出発の準備をしよう」

勇者「こちらは大丈夫です」

召使「大丈夫ですっ」コクコク

男「おし、行くぞ」

男「ここらの森、意外ときっついな」ザッ

王子「はぁ……はぁ……そ、そうですか……?」

勇者「ふう……魔術師は大丈夫、じゃなそうだな」

魔術師「ひぃ……ひぃ……」

召使「え、えと、男様、ここからは下りなんで自分で歩きます」

男「おう。だが下りの方が転倒の危険と、筋肉への負荷が大きくなる。気をつけろよ」

勇者「そうなんですか?」

男「まあ、筋肉云々は階段の話だけどな。同じ段数を上るのと下るのだと、下るほうが筋肉痛になり易い」

王子「それは……普段使う筋肉と違うという話なのでは?」

勇者「確か筋肉の動き上、下る時に筋肉損傷するというものでは?」

男「な、なに、マジか? じゃあ延々と下るだけじゃ筋トレにならないのか……」

勇者「筋肉損傷からの修復において、増強される事を考えれば間違っていないとは思いますが……どうなんでしょう」

召使「え、待ってなにそのトレーニング。どうやっているんですか」

勇者「お、町が見えてきたな」

魔術師「ようやく、休める……」

王子「しかし、二人はしばらく筋肉痛になってそうだけども……」チラ

勇者「まあ、免れないでしょうね」チラ

魔術師「王子達と一緒くたにして頂きたくないのだが」

召使「王子様ってなんでそんな武道派なんですか?」

勇者「いや、王族全員だ。あれ? 陛下が若い頃に騎士団まとめていたの知らないのか?」

召使「うぇ!? 王様なのに!?」

王子「いや、その当時は王子だからね?」

男「この旅の使命の為か? つっても何時ってのが決まってんのに、それもおかしな話か」

王子「いえ、それで間違いありません。例え子孫が果たす使命と言えど」

王子「自分達がぬるま湯で生きてはならない、という自戒等があったようです」

男「ほー……」


王『大した財も与えられぬ、援軍も与えられぬ我々を許してくれ』
王『そなたには苦しい使命しか与えられんが、何としてでも魔王を打ち倒してほしい』


男(ホント都合のいい事言っていたな……こっちの世界で勇者やりたかったなぁ)


男「つーかよく考えたら、二人が筋肉痛でダウンするとなると、このルートってあんまり意味ねえな」

勇者「まあ、我々にとって休暇だと思えばこそ、では?」

男「正直、俺は体が鈍りそうだけどなー」グッグッ

勇者「はは、では稽古の方お願いします」

男「おう」

男「あ、そうだ。魔術師と召使は俺の部屋に来い」

召使「えっ」ドキンッ

魔術師「まさか筋トレ……」

男「んな訳あるか。あと召使その顔やめろ。マジやめろ」

男「……」グッグッ

魔術師「くあ~~~こんな、ふうぅぅ」

召使「男様ぁマッサージ上手すぎぃ」

男「おう、仲間に教えてもらってからは、他の奴らによくやってやったからな」グッグッ

王子「お、男様のお手を煩わせるなんて……というか二人も平然と男様に身を預けないっ!」

男「王子、お前もいい加減にしろよー? 何時までホスト気分なんだ」

男「いくら温いと言っても、俺達は外からの援護や後ろ盾のない旅のメンバーだぞ」

王子「う……申し訳ありません」

魔術師「お、おお……王子に説教を……」

召使「貫禄が違うよね……」

男「まあ、お前みたいに自らの責務を理解し、それを全うしようとする姿勢、俺はすげー好きだけどな」

男「ぶっちゃけ俺の世界の王族はかなりいい加減で、割と責任の押し付け合いする連中だったからな」

男「だが、限度や作るべきでない壁もある。お前はそこを学べ、そして良き王になれ」

王子「……」

魔術師「……」

召使「……あ」

男「うん? どうした? なんだこの空気」

王子「い、いえ! その、ありがとうございます!」ペコ

男「……」

男「……」ギィィンキィン

勇者「たあああ!」ヒンッ

男「……」ガギィィンッ

勇者「くお!」ズザァッ

勇者(な、何だ今の動き……やはり今までは手加減されていたか)

男「ん? うお、わ、悪い、大丈夫か?」

勇者「は、はい……男様、ご気分が優れないのですか?」

男「あー……悪い。優れないわけじゃないが気になる事があってな」ボリボリ

……
勇者「なるほど……」

男「何か知っているか?」

勇者「……」

勇者「申し訳ありません。存じてはおりますが、私の口からご説明する事はできません」

男「まあそんな気はした。あいつ自身が話してくれっかなぁ」ボリボリ

勇者「……」

勇者「男様は、この旅の終着点をどのようにお考えでしょうか?」

男(切り込んできたか。やはり、王子が絡んでいそうだな……)

男「儀式については分からないが」

男「もしもお前達が言う邪悪の正体が生命体であって、現象の類でなければ」

男「邪悪そのもののを排除を考えている」

勇者「! そう、ですか……」

男「邪悪については詳しく知らないのか?」

勇者「ええ……ですが、もし多少なりとも知っているとしたら」

男「……王族、王子だけか」

勇者「もしかしたら古文書などから魔術師も知っている可能性もありますが」

勇者「それでしたら、男様に対して何らかのアクションがあるでしょうし……」

男「そうか。まあ情報ありがとうな。だいぶ助かる」

男(しかし、王子のあの様子じゃあ、簡単には口を割らないだろうな)

男「それにしても」

勇者「はい?」

男「お前は随分と王子が大切なんだな……」

勇者「は? え? それはどういう……」

男「いや……前にも言ったが、俺は旅の仲間以外に大切な存在がいなかったし、彼らはもういないからな」

男「少しお前達が羨ましいと思ってな。ただの王子と従者ってんでもないんだろ」

勇者「ええ、まあ、幼馴染というやつですね」

勇者「それこそ幼い頃はお互いの立場も理解しておらず、なんの隔たりもなかったぐらいですね」

男「いざ、隔たりを作らずにはいられなくなった時は、さぞ揉めたんじゃないか?」

勇者「はは、ご想像の通りです」

男「だが、今の関係を見るとお互い上手く消化しているみたいだしな。だからこそ俺はお前らが羨ましいよ」

勇者「男様……」

男「ま、それもこの世界でどうにかしていくさ」

男「お前らの関係性を羨まない位の人生を……人生を? うーん、人付き合い得意じゃねえんだよなぁ……」

勇者「お、男様……あとその言い方は控えて下さい。何やら私と王子がただならぬ仲に聞こえますっ」

男「お、おお悪いな。あ? もしかして城のメイドとかになんか言われてるとか?」

勇者「止めて下さい! くれぐれも他者がいる場で冗談でも軽率な発言は慎んでくださいよっ!?」

男(あ、これガチで噂されてるパターン)

翌日
男「おはよーさん」

王子「お早うございます」

勇者「男様、お早うございます」

男「分かっちゃいたが、起きてきたのは俺達だけか」

男「そういや、召使は回復魔法使えるんだろ? 筋肉痛ぐらい治せないもんなのか?」

勇者「あー……以前、聞いた事があるのですが」

勇者「傷の回復、神経毒などの解毒、呪いの解呪、骨折や内臓の損傷等には応急処置程度の効果だそうです」

男「全能って訳じゃないのか……てか解呪できんのか。それはそれで凄いな」

王子「……こちらでは呪いって凄く珍しいんですよね」

男「残念な奴だな……」

勇者「ええ、珍しいですし高等技術とされていますが、重宝はされません」

王子「……」カリカリカリ

王子「むー……」ガシガシ

王子「はー……一服するか」コンコン

王子「どうぞ」

勇者「失礼します。どうかされましたか?」

男「お前が部屋に篭るってのも珍しいな」

王子「あー……いえ、ちょっと」

勇者「書類? ああ、王城への報告書ですか」

男「わざわざんな事もしてんのか……ご苦労なこった」

王子「まあ……城の者達も気が気でない事を思えばこそ、やって然るべきというところですね」ハハ

男「つーか、そんなに悩むような報告があんのか……」

王子「邪悪の影響力が増した点をどう伝えるべきかと」

男「面倒臭けりゃありのまま書いちまえよ。今のところ、俺がさくっと倒してんだしな」

勇者「ですよねー……しかし、これをそのまま書くと、城ではちょっとした騒ぎになりそうなんですよ」

王子「流石に恐怖の根源の力が増しているとあっては、皆心穏やかではいられませんし」

男「心配性な……つーかその為の旅なんだから、事態の悪化自体は想定内だと思うんだがなぁ」

勇者「それでも気が気ではないんですよ。記憶はなくても、絶望の記録は残されてきましたからね」


宿屋外
「ね、ねえあれ! 宿屋の窓見て!」
「王子様と勇者様! と、誰?」
「でもあそこって一人部屋だよね」
「あんな密室で三人……キャーー!」
「やっぱり噂って本当なのかな!」
「それに謎の男性が増えて……三角関係!」

数日後
魔術師「……」

召使「……うー」

勇者「まだ痛むのか?」

召使「そんな言うほどじゃないから辛いっ」

王子「堂々と休めないからか……」

召使「うんっ!」

魔術師「力強く肯定するな」

男「おい、そろそろ行くぞー」

黒い魔物達「オオオオ!!」ドドド


勇者「す、凄い数がこちらに!」

男「俺が突撃をかける。王子、ついて来い!」

王子「それほど……は、はい!」

勇者「いくらなんでもあの数は無茶ですよ!」

男「……」コォォォ

魔術師「! 王子、男様から少し離れろ!」

王子「?? わ、分かった」

男「……」バヂバヂィ

王子「お、男様!?」

魔術師「……」ゴクリ

召使「わっわっ! 男様が魔法使う!?」

男「ひっさびさの全力だ! 受け取れ! 雷駆!」ズシャァァァ

黒い魔物達「ガアアアアア!!!」ズガァァン

勇者「っ! 何と言う威力だ……」

王子「凄い……魔術師とどちらが上だろうか」

魔術師(単体火力なら男様に負けない自信があるが……魔法とはそれそのものの威力以上に)

魔術師(立ち回りや効率やロスといった技量部分が明暗を分ける。どれほどの期間かは分からないが)

魔術師(渦中の真っ只中を生きてきた男様に追いつくことなど、到底叶わんだろうな)

勇者「バックアップ頼むぞ!」ザンッ

王子「は、はい!」

王子(そうか、今の一撃で敵の足並みが崩れて、逆にまとめて倒すのが難しくなるのか)

王子(しかし雪崩の様な敵の数が減らせたのだから、十分な効果といえる)

勇者「敵がばらけたな……」

魔術師「ここは俺に任せてくれ」ザッ

召使「おお、魔術師ちゃんがやる気だっ。男様の魔法に興奮している?」

勇者「お二人を巻き込むなよ」

魔術師「当然だ」

魔術師「ライトニングレイ!」カッ

光線「」ヒッ

黒い魔物達「ギャ!」ジュァッ

王子「魔術師の魔法か!」

男(光線系……しかも貫通すんのか。いいなぁ)

男「左側は魔術師に任せちまうか。王子は右側の敵を叩け!」

王子「はい!」

黒い魔物達「」

男「……」シャー チンッ

王子「それにしても凄い数でしたね」

男「ああ、そうだな」

勇者「正直に言って、もし我々だけだと考えたら」

魔術師「下手をしなくても全滅していたな……」

男「……」

人影「……」

人影「」スッ

召使「は、早く先進んでここを抜けちゃいましょうよー」

男「慌てる事はないだろ。相手が焦ってんのだったら、この数を分けて送ることはない」

王子「そうでしょうか……我々の疲労を狙って……狙って?」

勇者「敵が馬鹿でなければ、逆に可能性が低いですね」

召使「だといいんだけどぉ……」

魔術師(……この魔物達を目視で確認出来た時点で)

魔術師(男様の魔力の流れは膨れ上がっていた……恐らく誰よりも早く敵襲を)

魔術師「俺も男様と同意見だ。急いで転ぶより確実に歩くべきだろう」

勇者「へえ、魔術師が珍しく……」

王子「それだけ確証があるという事か」


勇者「魔物すら出ませんでしたね」

男「だから言ったろうが」

「おや、これはこれは」

イケメン「王子様ではありませんか……という事は、女神様の旅という事ですな」

王子「あの男は……」

勇者「この一体の領主を勤めている男ですね」

イケメン「どうです! いくら王子とは言え無意味な少数精鋭を掲げておられる!」

イケメン「私のところの兵士と共に向かわれませんか! 女神、さ、ま?」

男「……」

王勇魔召「あー……」

イケメン「?? これは一体?」

王子「女神様のお力を持ったのがこちらの男様だ」スッ

イケメン「んな……」

イケメン「いや、しかし、穴は……ある」ブツブツ

王子「! 貴様っ!」ゴォッ

勇者「男様になんたる無礼な発言を!」

魔術師「ほんの一瞬だけ思わなくもなかったが!」

召使「ボクでさえ自重したのに!」

男「おう、んな事言っていたら八つ裂いてたわ」ゴゴゴ

イケメン「」ボッコボコ

召使「裂かないんですかー?」

男「んな手間かけるかよ」

魔術師「剣で裂けばいいじゃないですか」

男「手入れの手間が増えるだろ」

勇者「ひ、酷い会話だ」

男「つーか、こいつ儀式の事知ってたよな。どういう事だ」

王子「彼自身、色々と力を持っている方なので、情報を集めていたんでしょう」

男「王子のところにもこいつの間者がいるって事か。まあ、害意がある訳じゃないしいいっちゃいいのか」

魔術師「間者、ですと完全に害意しかないですけどね」

男「それとこいつの言っていた少数精鋭だが」

男「人が増えりゃその分、動きがもたつくとかそんな理由なんだろ?」

王子「ええ、魔物との戦争という訳ではないですから、大勢いればいるほどいい訳ではないですからね」

勇者「ご理解が早いですね……もしや魔王討伐は」

男「まあそうだな……人材支援もなしに魔王討伐命じられたのに比べりゃあなぁ」

召使「……男様の世界、ヤバくない?」

魔術師「正直、人間性が不味い世界のようだな」

男「……」

王子「どうかされましたか?」

男「いや……。ああそうだ、こいつ見たく情報持ってそうな奴って他にいるのか?」

勇者「どうでしょうか。彼は自らの地位や力の誇示に執着しているので」

勇者「今回、女神様との儀式を含めた旅を自らの手で、と考えたのでしょうが」

勇者「そこに特別な褒賞が用意されている訳ではないので、大抵の者は役目を奪うつまりはないかと」

男「んじゃ、こういう馬鹿はこいつだけって事だな」

王子「……?」

勇者「とっとと宿とって休むかー」

召使「イエーイ☆」

魔術師「ここの町は……確かあちらに」

王子「……」

勇者「どうされました?」

王子「いや、先ほどの男様は何か考えておられる様子だったが……」

勇者「今回のように人に襲撃されるやも、という事を警戒しているのですかね……」

王子「あの方が、その程度の事に考え込む事はしないだろう。一体何をお考えになられていたのか……」

翌日
勇者「ここから先は木々が鬱蒼とした森となっています。慎重に行きましょう」

男「変わってんな。こんな森の中に町があんのか」ガササ

魔術師「事実上、そこが最後に立ち寄る町ですね」

男「結構距離はあんのにか……食料きつそうだな」

召使「進みながら食べられそうな木の実とか採取していきますね」

王子「ここは魔物も多い土地です」

男「だろうな……既に結構な数がこっちを窺っている」

召使「えっ」ゾォッ

魔術師「散らしますか?」

男「いや、警戒している分にはいいだろう。こっちを襲うつもりではなさそうだし」

男「……」ザッザッ

召使「ひぃ……ひぃ……」

魔術師「ふう……ふう……」

召使「誰かぁおんぶぅ……」

勇者「お前な……」

男「召使、耐えろ」

召使「えぇぇ……」

男「……」

王子「? 男様?」

男「ちと、やばそうだな、これ」

勇者「……? なっ!?」ゾゾォッ

黒い靄をまとった人「」コォォォ

男(最近見かけていた奴はやはり敵か……この間の阿呆じゃないだろうとは思ったが、随分と強敵だな)

男(敵は一体だが……久々に本気で戦うか)

男「お前達は下がれ。伏兵に警戒」

勇者「は、はい!」

王子「お一人で戦うつもりですか!?」

男「お前達を気にしないで戦えた方が安全だ」

魔術師「分かりました」ササッ

男「……」ダッ

男「しぃっ!」ヒンッ

黒い人「……」ガギィィン

男「腕で!? いや、こいつ!」グググ

黒い人「……」グォッ

男「う、おっ、と!」ズザァ

黒い剣「」コオオォォ

男「黒い武器か……」

男「はっ!」ギィンギィィン

黒い人「……」ガギィンキィン

王子「凄……」

勇者「男様の本気の太刀……対人型でもあれほどなのですか、あの人は」

男「雷駆!」カッ

黒い人「……」ズシャァァッ

黒い人「……」ヨロ

男「はっ!」ヒンッ

黒い人「」ザンッ

黒い人「」シュゥゥゥ

召使「うわっ! うわっ! 溶けてく! キモ!」

男(剣のみだったらかなりの強敵だったが、魔法を加えたらこの程度か)

男(勇者との稽古がなけりゃ、剣だけじゃ勝てなかったかもしれないな……しかしこれから更に強いのがいんのか)

男(こいつらとも、もっと連携とって戦えるようにならねえと危ないかもしれないな)

王子「これは一体……」

魔術師「見た事も聞いた事もありませんね」

男(……)

男(今までのは黒い靄をまとった魔物だったからスルーしていたが)

男(黒い靄をまとった人型か……)

男(魔王は黒い炎だが逐一、被るんだよな。気のせいかと思ったが、いよいよおかしいな)

男「なあ、王子。邪悪の正体はなんだ?」

王子「え?」

男「もう様子を窺うのもやめるぞ。俺は邪悪とやらが生命体ならぶっ殺すつもりだ」

男「よく分からん儀式に頼るつもりもない。王子、知っている事を全て話せ」

勇者「お、男様」

魔術師「何故、このタイミングでそんな事を……」

男「あまりにもこっちの邪悪ってのと魔王に被る点が多い」

男「今の人型だって、魔王は黒い炎をまとった奴を生み出してきたからな」

王子「……」

男「悪いが、お前の覚悟も王族の責務も知った事じゃない」

男「今、俺がここにいる意味を……俺に出来る全力を尽くさせてもらう」

王子「……分かりました。と言っても私自身、そう多くは知らないのですが」

王子「一応、儀式についてお話しておきます」

王子「本来の儀式は、女神の破瓜の血を大地に垂らし、男の精、命を受ける事で神の力が女神様より放出され」

王子「大地へと還ると考えられています」

王子「代替の儀式は、女神様の加護を受けた一族の命を捧げる事で、女神様のご加護を大地に与えるというものです」

男「覚悟した顔だったが、その一族が王族という事か」

王子「他にも勇者の家系と魔術師の家系もです。まあ二人は同じ家系なんですがね」

男「親戚だったのか」

勇者「私達ではかなり遠い親戚なんですけどね」

魔術師「正直、それを知ったのも最近の事ですんで、繋がりは薄いもんですよ」

男「まあ、500年経ってんだしな」

王子「本題の邪悪ですが……恐らく、の話でしかありません」

王子「黒き繭、黒き臓器、黒き蛹、と呼ばれていたそうです」

勇者「は、初耳だ……むしろしっかりと目撃した者がいたのですか」

魔術師「しかし黒以外に共通性が……」

王子「本当に丁度、巡回中の兵士の近くに現われたそうだよ」

王子「あまりのもおぞましい事と、災厄の日からの悪夢を思い出させない為にも」

王子「黒をイメージさせる邪悪の存在については、かん口令が敷かれて封じられたのです」

男「……なあ、姿のイメージとか知らないか?」

王子「ええと……網目の模様がある肉のような存在で、鼓動していた、と。眉唾ですが」

男「……」


勇者『くそ……なんて瘴気だ。だがこの先に魔王の卵があるんだな』

網目模様のついた黒い肉の塊『』ドクンッ ドクンッ

勇者『キモッ!? キッモ! うわ、何これ! マジか!! 斬りたくねえ!! 完全にモツってかハツ!!』


男「……」


魔王『オォッ』キラッ☆(怨霊フォント)


男「うおおおおおおお!! やっぱりあいつじゃねええええかああああああ!!」

魔術師「男様!?」

男(やつか! やっぱりやつなのか!? けどなんで? どうして!?)

男(封じたんだろ!? なんで俺の世界に現われた!?)

勇者「あ、あいつ……?」

王子「あ……その……黒き繭は大小大きさの違う三つが現われたという記録があります」

男「……」

男(まさか、三つ抑えられないから、一部は封印して残りを俺の世界に持ち込んだ……? けど何故……)


髪の毛もっさり女神『……』ニヤニヤ


男「がああ! あのワカメ頭ぁぁぁ!! つまり俺の世界でリハしたって事かああああ!!!」ブチブチブチィ

王子「男様!?」

勇者「ご乱心!?」

男「殺すっ! あのワカメ収穫したるぅっ!! ワカメご飯炊いて煮込みハンバーグをおかずに食ってやるぅ!!!」

召使「わー男様ガチ切れ……」

魔術師「……まさか、女神様は男様の世界に邪悪を、ご自身ごと転移したと?」

王子「しかし未だに邪悪の脅威がある事を考えると……」

勇者「三つの邪悪を封じれなかった、という事でしょうね」

男「はー! はー!」

男(それでもあの影は魔王の奴の方が弱い。黒い炎の方が強そうだが弱い)

男(だとすれば、一応は何らかの弱体化はなされていたという事か)

男(くそビッチめ……力を与えた奴の特訓も兼ねてか。ふざけやがって)ブチブチ

男「目標変更ぅっ!!」

王勇魔召「は、はいっ!」

男「我々はこれより封印の地を目指すっ! 目標は邪悪こと魔王の殲滅!! 絶対だ!!」

男「あ? 封印されてるんか……どうぶっ壊したろうか、雷光でぶち抜いてやろうかぁっ!!」ワナワナ

勇者「! ま、待ってください! それは!」

王子「し、神殿で祈りを捧げれば、封印の中に入る事ができるとの言い伝えですのでまずはそちらを!」

男「おし、神殿で行ってから、魔王を皆殺す! あーくそ! あんのアマに祈るのか! 腹立たしい!」

男「ああぁぁそうかぁぁっ!! こうなる事折込済みの封印かあああああ!!!」

男「まさか封印内部に入り易いように、そろそろ耐久年数の親切設計だったりするぅ!!? くそったれえええええ!!!」ビキビキビキ

勇者「女神様へのヘイトMAXですね……」

王子「男様の世界では相当、腹に据えかねる事があったのだろうね」

魔術師「これだけで女神様の正体が見えてくるな……」ゴクリ

召使「伝承と違いすぎるけど、男様が嘘ついているようにはみえないしね……」

勇者「しかしそうなると、言い伝えは一体……」

男「伏線だろうよ」ビキビキ

王子「え?」

男「一応は儀式だけで終わらせたかったんだろうさ」

男「第二案で討伐。だからこそ、俺達の世界は端から討伐させたんだろうな」

男「何を思ってか知らんが、儀式で解決は放棄したみたいだがぁ?」ビキビキ

魔術師「この世界に魔王が降り立った……」

召使「ボク、ちょっとだけ邪悪に同情する……」

王子「今の男様を止められる者はいなさそうだ……」

勇者「ですね……」

男「……」コォォォォ

黒い靄をまとった魔物「」ジュゥゥゥ
黒い靄をまとった人「」ジュウウウ

勇者「……これは」

王子「敵の猛攻もさることながら」

魔術師「男様の手加減なしはこうも……」

召使「ボク達ほんと要らないね……」

男「ふー」ドッカ

勇者「こちら、水です」サッ

男「おーすまんな」

男「あーくそ、空回りし過ぎだな」ハー

魔術師「そうですか?」

男「60の力でも倒せるのに、100で倒す意味あんまねえからな」

勇者「落ち着かれましたか?」

男「だいぶな」

王子「あの、男様」

男「おう」

王子「男様の話を聞くに、こちらにいた女神様は男様の世界にいるわけですが」

王子「その、女神様の扱いはどういった状況なのでしょうか……いきなり正体不明の神が現われた、という状況のはずですよね」

男「あー」

勇者「そういえばそうですね」

男「俺の世界、とくに俺の国には万物に神が宿るって考えがあってな」

男「そりゃ太陽神とか名前が明確になっているメジャーな神もいるが」

男「ほっとんどが名前もよく知らない神なんだよな」

魔術師「それは何とも凄い話な……」

男「ぶっちゃけ、あの女神の名前なんて誰も気にしちゃいないと思うぞ……」

男「いや、多少は調べている奴もいんのかなぁ」

勇者「そ、そのレベルですか」

男「神々について詳しいって言ったらかなりの学者とかだからなぁ」

男「主要の神でさえ、名前がくっそ長いのとかいるし……」

召使「へぇ……絶対覚えられなさそう……」

男「太陽神の子供が五人いて自然界において中核を担っているけど、俺は一人も言えないからな」

男「あー無駄話が過ぎたな。そろそろ行くぞ」ザッ

王子「召使、早く荷物を持ちな」

召使「はーい」

男「……」ザッザッ

男「!?」ゾゾォ

勇者「な、なんだ!?」ゾォ

黒い影「」ジワァァ

黒い靄をまとった人「」ヌゥ

魔術師「囲まれた!?」

王子「な、馬鹿な!」

男(分断された!? しかし、何故気づかな……こいつ等、ピンポイントに発生した、させたのか!)ゾッ

男「ちぃっ!」ヒンッ

黒い人A「……」ガギィィン

黒い人B「……」バッ

男「く!」バッ

男(不味い、王子っ!)ジリッ

王子「つっ!」ガギィン

黒い人C「……」ギギギ

召使「わーーー! わあああああ!」

勇者「……」ギンッ

勇者「おおおお!」ダッ

黒い人E「!」ザンッ

黒い人G「」ザシュゥ

黒い人D「……」ガギィ

勇者(数が、多い……)ギギ

黒い人D「……」ググ

魔術師「伏せろ!」

王子「!」バッ

勇者「……」ダッ

魔術師「ライジング」ジジッ

魔術師「インパクト!」ジガッ

黒い人D「!」バヂン

黒い人C「……」ズガァ

黒い人F「……」ヂンッ

黒い人H「?!」バヂィ

勇者「吹き飛ばした!」

魔術師「倒せは、しないか」ジ ジジ

男「……」

黒い人A「……」バッ

男「おっと……」バッ

黒い人B「……」ヒュンッ

男「よっと」ヒラリ

男「は……」

男「ははは、はーはははは!」

召使「お、男様ぁ……?」

王子「召使! 頭を上げるな!」

召使「ひぅっ!」ブルル

勇者「王子! 何とか一体を受け持って下さい!」

王子「私を甘く見るな! と、言いたいが、一体だけなら責任はもとう!」

魔術師「……」キィィ

勇者(魔術師の魔力が高まっている……次はあと数秒か十秒ほど)ダッ

黒い人C「!」ギィン

黒い人D「……」ガギィ

勇者(止められたっ!)ゾォ

王子「勇者!」ギギ

黒い人F「……」ググ

勇者(く……! もう一体がっ!)

黒い人H「……」ダッ

召使「ひぃっ!」

魔術師(……間に合わないっ)ィィン

黒い人H「」ズバァン

召使「ひっ!?」

黒い人H「」ジュォォォ

男「お・待・た・せ」ニィ

黒い人AB「」ジュウゥゥ

勇者「男様っ!」パァ

魔術師「! フレイムアロー!」

黒い人CDF「!」バシュシュシュ

王子「ふ、ふうう……」フシュウウウ

勇者「い、生き延びた……」

魔術師「男様が笑い出した時はダメかと思いましたよ」

男「悪い悪い」ヘラヘラ

王子「しかしあれは一体?」

男「いや、なあに。嬉しくなっちまってよ」

勇者「え? えぇ……?」

男「お前達が面白いほどに成長していてよ」

魔術師「そうでしょうか……?」

男「正直言って、油断した事を呪ったし誰か死んだと思った」

男「だがあの一瞬で、どうすべきかを判断し、即座に行動し敵の猛攻を掻い潜った」

王子「まあ……無我夢中でしたからね」

男「最前線の空気に触れて、直接の戦闘は僅かとは言え、あそこまで臨機応変に、そして機敏に対応した」

男「とても、城で稽古つけたのと同じ連中とは思えない程だ」

男「俺はいつの間にか、俺一人で戦っている気になっていた事に呆れると共に」

男「お前達の成長が、嬉しくてたまらなくなったんだよ」

魔術師「あまり実感が湧きませんが……」

男「それでいいんだよ。ああ、それでいい」

勇者「とは言え、私は元々実戦経験はそこそこ程度には、ある、と思い、ますが……」

王子「ゆ、勇者? 何故、語気が弱くなって……」

勇者「いえ、その……男様と比べたら自分の実戦経験は果たして……」

男「詳しくは知らんから何とも言えないが、ドラゴン討伐までは兵士として魔物と戦っていたんだろ?」

勇者「ええ。それと、時折ではありますが王子も討伐隊に加わっていましたよ」

男「飽くまで部隊だ。ここまで少数精鋭って事もなかったろ」

男「それが逆に良い刺激になってんだろ。王子にとっても、討伐隊の時は結構周りを固められていたんだろうし」

王子「ええ……お恥ずかしいながら」

男「ま、それは仕方がねえよ。国の重鎮なんだから然るべき対応だろう」

男「だが、生きるか死ぬかの瀬戸際になっても臆することなく敵と対峙したんだ。立派なもんだぜ」

男「魔術師も、あの一瞬で周囲の敵を吹っ飛ばして距離を取る。その魔法の選択、今まで実戦経験なしとは思えなかったぜ」

魔術師「あの状況、一体を減らしただけでは駄目でしたし、少しのダメージぐらいならば体勢を立て直す時間をと思いまして」

男「すっげー良い判断だ。長く戦線に身を置いてる人間と見間違えるほどだ」

男「勇者も初めの三連撃。あの時の稽古でやられてたらと思うとぞっとしなかったぞ」

勇者「そ、そんな、勿体なきお言葉!」

召使「」ボー

魔術師「ぅぉ……死んだ目」

王子「あっ……」

勇者「う……んん、召使は、うん……」

男「……」ポンポン

召使「慰めですかぁ……」

男「いや……俺はお前にも感動してんだよ」

召使「はいぃ……?」

男「……お前、自分自身でも気づいていないのか」

男「あの最中、お前は回復魔法を何時でも放てるよう構えていたんだぞ?」

召使「え?」

男「確かにお前から魔力の高まりを感じた、つってんだよ」

魔術師「き、気づかなかった……」

勇者「あの一瞬でそこまで……」

男「全員が著しい成長を見せた。が、それに感極まって、俺自身一瞬対応に遅れた。それは正直、すまなかった」

勇者「あ、謝らないで下さい。それにあの時、男様が駆けつけて下さらなかったら……」ゾォ

王子「それは……そうですね。結局、男様がいて下さらなければ我々は……」

男「まあ、な。だが、よく持ち応えてくれた」

男「お前らは、一方的に俺が庇護すべき人間じゃない」

男「俺からしても、お前らからしても……俺達はお互いの背中を預けあう仲間だ」

王子「男様……」ドクン

勇者「……認めて、頂けた」ジィィン

魔術師「……」グッ

召使「男様ぁ……」キュンキュン

男(あ、なんか言わなきゃよかった。一人だけ)

男「おっし、とっとと行くぞ!」

召使「も、もうですかぁ?!」

魔術師「男様、テンションが高くなっているな」

勇者「それほど、私達の成長を喜んでおられるのだろう」

王子「う、今ので力が入らない……」

勇者「少し荷物を持ちますよ」

王子「す、すまない勇者」

男「……」フッ

男「改めて言わせて貰うぞ」

王子「え?」

勇者「何でしょうか?」

男「魔王を、邪悪を倒すぞ」

男「俺達の手で。必ずっ!」グッ

王勇魔召「……」

王勇魔召「はいっ!」

森の中の町
男「おーすっげえな」

町長「これはこれは王子殿」

王子「お久しぶりです」

男「一番の僻地なのに面識があんのか?」コソ

勇者「はい。以前お世話になった方で、加護を受けた一族でもあるのです」

男「ほー」

勇者「王族、大臣などの家臣、騎士団長がその家系でして、私や魔術師は家臣」

勇者「ここを守っているのが騎士団長の家系です」

男「なんか色々とごちゃごちゃしてそうだな。どうせ俺には関係ねえし、そこまででいいや」

勇者「まあ、確かに戦いを行う一族が離れている理由は、説明すると長くなりますからね」

町長「さあさ、ゆっくり英気を養っていって下さい」

王子「お心遣い感謝いたします」

町長「王子殿が我々に畏まってはいかんでしょうに」


男「しかし、俺に関しては何も言ってこなかったな」

勇者「あの方はああ見えて、中々鋭い方ですからね。おそらくはこちらの事情を察したのでしょう」

男「いくら何でも無理じゃないか、それ」

魔術師「どうでしょうかね。時折、ぞっとする時がありますよ」

男「クーデターでも起こされそうってか?」

魔術師「まあ、思う時はありますね」

召使「でもあの人、そういうのは関心なさそうだけどなー」

勇者「うーん、まあそうなんですよね」

男「えらく掴みどころがないな」

王子「とりあえずのお話はつけてきました」

男「何のだよ」

王子「あちらの方も加護を受けた一族ですので、男様についての説明です」

召使「そもそも驚いてなかったけどどんな感じだったんですかー?」

王子「あの人はあの人で、この地を守る武人ですからね。男様が只者ではないのは気づいていたみたいで」

王子「原因が排除されるのであれば何でもいいだろう、と構えていらっしゃったよ」

勇者「あー……」

男「なるほど。確かに武人肌だな、そりゃ」

男「つーか、一番遠い町の人間に世話になったって、何があったんだ?」

勇者「町長になられる前、我々が幼少の頃に王城まで来て、剣の稽古をつけて下さっていたんです」

勇者「我々にとっては恩師なんですよ」

男「城まで行き来したのか。確かな腕なんだろうな」

王子「外の世界を知るにつれて、それはよく思いましたよ」

勇者「しかも単身で現われますからね」

男「何度か来たって事か……」

術師「……俺はあの暑苦しさが嫌いだがな」

召使「……? あれ? 魔術師ちゃんって子供の頃から王城に出入りしてたの?」

王子「両親も宮廷魔術師だし、城の寮で暮らしていたからね」

男「夫婦で寮暮らしってなんか……こっちじゃ普通なのか?」

勇者「魔法の研究もされていて、帰るのが億劫だったから、というのは聞いた事がありますね」

魔術師「漏れなく俺も寮暮らしですよ。面倒臭いんですよ、研究に没頭したら日付変わる事なんてざらですんで」

男「そんな仕事、俺なら御免だな」

王子「……」

男「お? なんだ? 何か聞きたそうだな」

王子「個人的の話で恐縮なのですが……男様は邪悪についてどうお考えなのでしょうか?」

男「? 大体の事は喋ったと思うが」

王子「いえ、男様からはその、男様にとっての魔王に対する憎しみなどが感じられないんです」

勇者「あー……それは私も思っていました」

召使「全然気づかなかった……」

魔術師「確かに、倒すべき敵という認識はあるようですが」

男「うーん……なんて言ったらいいのかな。王子の言うとおり、憎むべき対象としては見ていないんだよ」

男「この世界にしても空から飛来、俺の世界に至ってはこの世界からの持込」

男「奴がやった事は、周囲を瘴気に満たすという副次的な被害を出すが、ただ単に栄養補給と子孫繁栄」

男「積極的に人を襲うとかした訳でもない。実際のところ、俺の世界ではあの黒い敵による被害は」

男「驚くほどに少ないんだ。まあ、あいつを倒そうとした俺には、てんこ盛りで襲い掛かってきたがな」

魔術師「確かに、恐ろしく強い魔物として、黒い靄を纏った敵に関する記述はありますが」

魔術師「彼らによる直接の被害は少なかったそうですね」

王子「……ちょっと待て。魔術師、その事を記した書物は厳重管理されていたはずじゃ」

魔術師「人伝に聞いただけだ」サラリ

男(こいつ……)

勇者(意外と手癖悪いんだよなぁ……)

召使「でも、悪いものには変わらないよねー」

男「ただ、奴にしてみれば、ごく自然に生命活動を行っているに過ぎないからな」

男「恐らく、この遥か空の果て……それこそ瞬く星を旅をしながら生きている生物なんだろう」

男「ちゃんと近くで観測した者がいないから、悪者っぽい扱いだが俺はそう思っていない」

男「害悪ではあるが邪悪ではない。駆除はするが恨む事はない……てところか」

男「まあ、お陰で迷惑な役柄をやらされているという点は、恨み言の一つでも言ってやりたいがな」

王子「なるほど……やはり、自分は未熟ですね」

勇者「これは何と言うか、視野が広いとも寛大とも言えるけどももっと別の……」

魔術師「一種の悟りのようにも感じられるな。万物というか生命に対するというか」

召使「神父様とかが言いそうな感じだよね……」

翌朝
男「おーし、各自しっかり休めたかぁ!」

王子「はい!」

勇者「はい!」

魔術師「勿論」

召使「もっと!」


召使「うう……痛いよぉ」シュゥゥゥ

勇者「そりゃあ拳骨も貰う」

魔術師「ただでさえ、テンション高めなのに勇気あるな……」

王子「顔はかなり冗談交じりだったけれども、結構な勢いで振り下ろしていたね……」

男「最短ルートを突っ切っていくぞ」

王子「しかし、それは敵の数が……」

男「どうせ向こうはこっちにしか眼中にないさ」

男「こそこそして、逆に敵を大勢残していくよか、正面からぶった切っていった方がいいだろう」

勇者「確かに……大部隊に挟撃されるのは避けたいですね」

召使「うー……怖いけど挟み撃ちの方がもっと怖いー」

魔術師「しかし、それではこちらが疲弊ばかり……いっその事、敵を振り切って封印内に行くのは?」

男「どうだろうなぁ。俺のところの魔王は、黒い奴を一旦手元に戻したりできるみたいだからな」

勇者「封印内で総力戦は避けたいですね……」

男「ま、兵士を生み出すのに力を使うのか、ある程度倒すと敵の数が一気に減るから」

男「倒していった方が総合的にはプラスになるんだよ」

魔術師「飽くまで、身を削ってきているわけですか」

勇者「確かに、これが無尽蔵であるならば、これほどの脅威はないですね……」

男「そういうこった」

男「こっからはそれなりに傷を負うだろう。召使、そろそろフル稼働してもらうからな」

召使「うひぃ……でも、ボクだって遊びでついて来た訳じゃないですっ!」ムンッ

王子「お、おぉ……」

勇者「本気で褒められた事で、見違える成長を……」

魔術師「男様……恐るべし」

……二週間後
男「ここが……神殿か」

王子「なんて……濃い二週間だった……」ボロ

勇者「これからまだ、根源である敵がいるなんて」

魔術師「しかし、随分と敵が減ったな。もしやこれが男様の言う……」

男「ああ、頭打ちってところだろうな」

召使「もうへとへとぉ……」フラフラ

男「よく頑張ったな。それにサポートも助かったぞ」

男「? なんだ?」

勇者「何か、入った瞬間……」

魔術師「魔力に大きな変化があったな。何かを施していた、か?」

王子「それにしても随分と綺麗ですね」

魔術師「……ちょっと待て、これはいくらなんでも綺麗過ぎでは?」

召使「埃とか全然つもってないね」

男「いくら神殿とは言え、そんな事があるのか……?」

男「……妙だな」

召使「そもそも、災厄の日以降にここに来た人っているのかなぁ」

男「判断材料が乏しいし今は置いておくか……なあ、ここはお前達の楽園だった場所の範囲内なのか?」

王子「ええ、話によりますとその端であるのがこの神殿だったと」

男「……」

男「もしかして神殿は、楽園の四方にあるのか?」

王子「そうですが、何故お分かりに……」

男「邪悪を即座に封印できた事を考えただけだ」

男「楽園の地を封印する事で、外部から侵入されない場所とし」

男「神殿はそれを維持させる為の物で四方にあるのではってな」

魔術師「元からある技術だから即座に邪悪を封印……が、神殿で囲んでいない為に不完全、といったところでしょうか?」

男「確かな事は言えないがそんな感じかもな」

召使「何ていうか、相変わらず学者肌ですよね。男様って」

男「旅をしていると色んな物を見るからな。下手な学者より実際に触れる物が多い」

男「そうなると色んな物に興味が出てくるんだよ。そうすると自然にそういうのを考えたりするようになる」

魔術師「羨ましい話ですね……こちらは世界の広がりがないと言いますか」

魔術師「結局のところ、女神様の加護や聖域のない場所に根付いている者はいないのですから」

魔術師「外の世界で触れられるものなんて、自然環境と魔物の生態ぐらいなものですよ」

男「まあ仕方がないだろうな。それは安住を約束された地で生きる代償みたいなもんだろ」

男「とりあえず今日はもう休んじまおうか」

王子「え? お祈りはされないんですか?」

男「祈りからの封印の入場券が何時切れるか分からないからな」

男「明日の出発時でいいだろ」

魔術師「入場券……」

勇者「間違ってはいないんですけどね……」

召使「男様ー! なんかベッドがあります! しかも綺麗!」

男「勝手に一人で行動するな! と言いたいがでかした!」

男「しかしそこも綺麗ってのはどうも……まさかこの神殿の中、時間の流れがおかしいのか?」

魔術師「そういった話は聞いた事がないのですけどね」

召使「なんていうか、入った時に抵抗感があったよねー」

男「封印されていた、のか? いや、だがそれだとおかしいな……」

王子「ええ、楽園があった頃には、少なくとも年に一回はこちらの神殿にお供えなど、人の手が入っていたはずです」

男「そのお供え、翌年腐ってなかったか?」

王子「え? さ、さあ……そのような細かい事までは」

魔術師「外部からの接触がない場合、封印状態にある、とかでしょうか?」

男「かもなぁ。でないと云百年とここが放置されていたはずなのに、こんだけ綺麗って事はないだろ」

男(だが、だとしたらそれは……?)

召使「さあ今日は豪勢にしましたよー☆」キャルン

男「珍しくすげー張り切ってんな」

王子「……? うん?」

勇者「ちょっと待て……ちゃんと帰りの事も考えての配分だよな?」

召使「……」

召使「……」ダラダラダラ

魔術師「お前……」

男「まあ、あと数日分くらいはあんだろ」

男「とっとと片付けて、狩りをしにいきゃいいだろ」

王子「か、軽いですね」

男「最悪、数日は草でも食ってりゃいいんだよ」

勇者「流石、経験の差が違いますね……」

翌日
男「……」ォォ

王子「これは……まるで暖かい毛布に包まれるような……」

勇者「これが封印を超える為の? いやこれは……」

魔術師「まるで加護のような」

召使「なんだか、力が湧いてきた!」

男「……」

王子「男様?」

男「いや、ちと考え事だが……まあ後回しでいい事だな」

封印の外
男「見た目は普通の景色だな」

王子「一度調査団がここまで来た事があるらしいのですが」

王子「このまま真っ直ぐ進むと、いつの間にか来た道を戻っているそうです」

男「調査団、これたのか」

勇者「総勢40名、帰還時には僅か7名との事です」

男「よえーだろ……それ。てか黒いのがいなかったら、勇者が単身でもここまで来れるだろ?」

魔術師「というか、初め以外に魔物等は出てきてませんからね」

召使「そういえばそうだね……何でだろ? そんなに襲われないものだっけ?」

男「多分、邪悪に狙われてるってのを察したんだろ。巻き込まれたくないから、連中もこちらに近づかない」

男「ま、俺が魔物だったらそうするわな」

男「さて、そろそろ行くぞ」

王子「は、はい……」ドクンドクン

勇者「すー……はー……はい、行きましょう」

魔術師「いよいよか」ドギドギ

召使「」バグンバグンバグンバグン

王子「……」スー

魔術師「……」スー

男「何だかんだで、召使はいいポジションにいるよなぁ……」

封印内部
男「!」ジリ

勇者「く……なんだ、肌がピリピリくる」

男「本来ならもっと強い瘴気だが、かなり防がれている……やはりこれは」

王子「男様?」

男「何でもない。召使、何か改善できそうな魔法はあるか?」

召使「ええぇぇ……うーんうーん、リフレッシュ!」パァ

魔術師「駄目か」ジリジリ

召使「他、他……うーん。ディスペル!」

男「お」シュゥ

王子「消えた……?」

召使「う、嘘、とりあえずのつもりだったけど、解呪魔法で瘴気が……」

勇者「呪い、なのでしょうか?」

男「あるいはただの解呪魔法と思われていたそのディスペルってのが、他の効果を持って……」

男「このディスペルって魔法は何時できたものだ?」

魔術師「災厄の日以降、王城の魔術師によって生み出されたという記録を見た事がありますね」

男「どんな呪いを元に作られた?」

魔術師「そ、そこまでは」

勇者「まさか、この為に開発された……? いやしかし、それだとおかしい」

男「妙だとは思った。呪い自体が珍しいって話なのに、ちゃんと対抗策があって」

男「しかもちゃんと学ぶ事が出来る。まあ、どうやってかは聞いた事がなかった訳だが……どうなんだ?」

召使「今更っ!? ええと、普通に魔法の教本みたいなのに載っているんです」

男「なんでそれを覚えようとした?」

召使「うーん、ボク自身、元々この旅に参加したいって思いはあったんですよ」

召使「それで邪悪って何なのか分からなかったし、呪いは一般的じゃないし」

召使「そもそも呪い自体、研究されて実際に使えるものが完成したーってだけで、実用はされていないですしー」

召使「じゃあ解呪魔法って何の為ー? と思って、一応習得してみたんです」

王子「動機が……召使じゃない」

勇者「考察……しているっ?」

魔術師「まあ、その側面は考えた事があったが……検証する手段もなかったからな」

男「……やはり」ボソリ

王子「え?」

男「おし、行くぞ」

勇者「は、はいっ」

召使「?? え、どういう事?」

魔術師「さ、さあ……」

男「!」ビクッ

王子「どうされました?」

男「……おいおい、こりゃあ」

勇者「!」ゾゾォ

魔術師「なんだ、これは……」

召使「ひっ、ぅっ」

王子「この、圧迫感は……」


触手玉A「……」ノソ

触手玉B「……」シュルル

触手玉AB「オオオオオオオ!!」

男「っ!」ビリビリビリ

王子「あ、あ……」ガタガタ

勇者「はぁっはぁっ……落ち着け、落ち着け、落ち着け」ブツブツ

魔術師「これは、中々……」ブルル

召使「ひっ、ひっ、ひっ」ガタガタガタガタ

男(くそ……孵化してやがった)

男(ああそうだ。ここが封印なら、楽園と同じ封印ならば、時間は止まっていない)

男(最悪だ……魔王より強い邪悪が……二体……)

男(……だが)

男「落ち着け。確かに魔王より強い奴だ」

男「だが……お前達がいる」

男「俺は今、一人じゃない」スラァン

王子「……」スゥ

勇者「……」コクリ

魔術師「……」フー

召使「はっはっ……んぐ……うんっ」ドギンドギン

男「共に戦ってくれるな?」

男「一体はそちらで抑えてくれ!」ダッ

勇者「了解っ!」ザッ

邪悪A「オオオ」ギョロッ

男「こいよ、お前の相手は俺だ」

邪悪A「オオオオオオ!」

触手「」ビュビュッ

男「っと!」バッ

邪悪A「オオォ!」

触手「」ビュァッ

男「うおお!」ヒンッ

触手群A「」ザンッ

男「はぁっ!」シッ

触手群B「」スンッ

男「せぃっ!」ヒュッ

触手群C「」シュパッ

男「たぁっ!」シンッ

触手群D「」バララ

勇者「はっ!」ズパンッ

魔術師「なんだ……今の男様の」

王子「あの斬り払い方……黒いのに襲われた時の勇者と同じような」

勇者「……」

勇者「なるほど、旅に出てからの訓練で、初めの稽古は手を抜かれていると思ったが」

勇者「あれは私から対人剣術を吸収していった結果だったのか……」

召使「剣がS……え、人の剣術とかガンガン吸収していっちゃうって事?」

魔術師「今まで対人の技量を重視していなかったからあの時はああだったが……」

王子「本当に、凄いお人だ」

勇者「こちらも来ましたよ」チラ

邪悪B「オオオオオ!」ビュッ

触手「」ビュァァッ

勇者「はっ!」ザザン

王子「やぁっ!」ザシュ

触手「」ッヂン

王子「ぐ!」ブシュァ

召使「ヒール!」パァッ

王子「すまないっ!」バッ

魔術師「……吹き飛べ、エクスプロージョン!」カッ

ゴゴォォォン
男(向こうもやってんな)ニィッ

男「雷駆!」ズシャァァ

触手の壁「」バシィィン

触手の壁「」ジュウゥゥ ボト ボト

触手「」ビュッ

男「ちぃっ!」ヒンッ

触手「」ザンッ

邪悪A「オオオ」ザァァァ

男(回り込んだ!? くそ、こいつ動けるなっ!)

邪悪A「オォッ!」

触手「」ビュンッ

男(この触手はきりがないな。ならっ!)ダッ

男「本体を狙うっ!」ヒンッ

邪悪A「オオオオオオ!」

強靭触手「」ガギィィン

男「随分と器用に使うな」ググ

触手「」シュルル

男「おっと、そっちから来るか」バッ

邪悪A「オォ……」

男「……」ジリッ

触手「」ビュルル

男「そらっ! こっちだ!」ダッ

邪悪A「……」ギョロ

触手「」ビュッ

触手「」ビッ

男「よっと!」

男(これで触手が手薄になったな!)ダダッ

邪悪A「オオオオ!」

強靭触手「」シュルルル

男「勝負っ!」ダッ

強靭触手「」ビビビッ

男「ぐっ!」ザッヂンッ

男(こっちに飛ばしたのは半分かっ! だが十分だ!)ダダ

背後の触手群「」シュルルル

男「食らえ!」バッ

邪悪A「オオ!」

強靭触手の壁「」シュルルル

男「跳ね返ろ! 雷駆!!」ズザァァ

雷撃「」シャ

強靭触手の壁「」ズシャァァ

背後の触手群「」ズシャアアァァ

邪悪A「オオ!!」バヂンッ

男(流石に滑り込みながらじゃ、より精度が悪いな)バッ

男(背後の触手から更に跳ね返って、魔王を狙いたかったが……)

男(だが、これでだいぶ減ったな)

男「もらったぁっ!」バッ

邪悪A「!」

男「はっ!」ヒッ

土煙「」オオォォ

召使「……やった! 魔術師ちゃん! 倒したっ!」

魔術師「これで死ぬのならそうそう苦労はしないだろう……警戒を怠るなよ」ジリッ

召使「えっ! う、うん……!」

王子「とは言え、今のは確実に直撃していた……私達でも、戦える」グッ

土煙「」オォッ

勇者「……くる」ピクッ

邪悪B「オオオオ!」モッ

魔術師「!?」

触手「」ブアァッ

王子(触手がばらけ……)

勇者「召使、魔術師、伏せろ!」

触手「」ビュアァァァァ

勇者「ぐ! くっ!」ザザンッドシュッ

王子「ぐあ!」ヂンッガッ

魔術師(まさか、無傷……? ならばっ)キッ

召使「ヒ、ヒール! ヒーリング!」パァァ

王子「はっ! はぁっ! はっ!」シュゥゥ

勇者「強い……」ギリ

魔術師「釘付け!」

勇者「無茶を言う……」ニィ

王子「魔術師、任せるよ」

邪悪B「オオ……」ギョロギョロ

邪悪B「オオォン!」ゴゥッ

勇者「やはりこちらか」

邪悪B「オンッ!」ブンッ

勇者「しぃっ!」ヒンッ

太い触手「」ザンッ

太い触手「」ドザァッ

邪悪B「……」

勇者(様子を窺っている? こいつ……知能があるのか)

勇者(というかこの状況で観察されるのは不利なんじゃ……魔術師?)タラ

王子(なんだ……? まずいな、横から斬りつけるにもこの間合いは入り辛いぞ……)

魔術師(……ここに来て観る事に割くとは、馬鹿な奴め)

魔術師(観るべきはこちらだ。より情報を落としてもらうぞ!)クワッ

魔術師「ライトニングレイ!」カッ

邪悪B「!?」ジィィィィィッ

勇者「な!?」

王子「光の筋が……邪悪の表面を弾く様に……?」

召使「凄い吹っ飛んだ! これで余裕はできそうだね」

魔術師「……」

魔術師(ライトニングレイを弾く……? 馬鹿な、平時であれば貫通する魔法だぞ)

魔術師「魔法耐性……不完全ではあるが、直接的なダメージに関しては無敵の類か」ギリ

勇者「しかし距離は取れる。情けないが、最低でも男様の時間稼ぎにはならなくてはな」

強靭触手「」シュッ

男「なっ!?」ガギィィィンッ

男「あの位置から、触手が間に合う、のか……」ギギギ

邪悪A「……」

邪悪A「オオオオオオ!!」

男「ぐ……」ビリビリビリ

男(失敗したが焦るな……一旦距離を取れ)バッ

邪悪A「オオォッ!!」

強靭触手「」ブワワッ

男(一度に来たかっ決着を焦ったな!)ギィンギィィン

男(これを捌ききった時がお前の終わりだっ)ギンギィン

男(一撃一撃が重たいが……これならいけるな!)ガギィギィン

男「ふっ! はっ!」ガンギィン

男「くっ!」ガギィン

男(なんだ……?)

男(こ、こいつ……)

邪悪A「オオオ!」

強靭触手「」ビュァァァ

男(これが本当の魔王? これほどまで、連続でこの触手を振り回す事が……)

男(インターバルなしに、か……?)ジリ

男「ぐ! うっ!」ギィンガギィィ

強靭触手「」ビュビュビュ

男「はっ! はっ! くっ!」ガガンガギィ

男「ぐぅっ!」ブシッ

男(不味い……物量が……それに、息が……)ジリジリ

男「く! はっ! がぁっ!!」ギィンガッザシュッ

男(体勢を立て直せな……これは……このままは……)

男(この物量の攻撃を……まだ速度に、衰えが……何時まで……続く……)

土煙「」モウモウ

邪悪B「」ノソリ


勇者「無傷……」

魔術師「ライトニングレイさえ撃てれば時間を稼げる。焦る事はないだろう」

王子「……待て、男様が」

召使「押されてる……嘘……だめ、ここからじゃ魔法が届かない!」

勇者「魔術師、あれを抑えられるか?」

魔術師「不足の事態に備えたいからな、せめて王子は……?」フッ

魔術師「!?」ゴシャァッ

王子「え……魔術……」

大きい石「」ゴロンゴロ

召使「! ヒーリング!」

魔術師「く……あ? な、にが?」シュウウ

勇者「……」ギロリ


邪悪B「……」

触手「」シュルルル

岩「」シュル

邪悪B「オオ!」ブォンッ

勇者「ぐ!」ゴシャァッ

勇者「盾で受け止めて、これかっ」ヨロ ドザ

魔術師「召使、行け! 男様をお守りしろ!」

召使「え?! う、うん!」ダッ

地面「」バンッ

召使「ひあっ!?」ビクッ

岩「」ゴンッガンッガラゴロゴロゴロ

勇者「……これは」

王子「釘付けにされたのは、私達か?」

魔術師「どころか、かなり不利だろ……このままじゃ嬲り殺しにされる」ジリ

邪悪B「オオ」ビュビュビュビュ


勇者「もっと触手を減らしておくべきだったかっ!」バシンッ

王子「精度は低いが……ずっと避け続けなくては……」

魔術師「雨のように岩が飛んでくる中、魔法を放つ……? 悪い冗談だな、これは!」

召使「ひいいいい!」

勇者「このままでは……」ジリ

王子「男様……」チラッ

男「……」ヒンヒンガッスンッシッ

男「……」シュッシンッズガッヒッゴッ

男(捌き切れ……これは……本当に……)

男(神の力……駄目だ……届かない……)

男(俺は……)スゥ

人影()ボヤァ

男(幻覚……お迎え……はは……誰だ……皆……)


髪の毛増える若布女神『え? アレが死んだの? うはっ、ウッケルーー↑↑☆』


男()ブツッ

男「……」ユラユラ

邪悪A「……」ピク

邪悪A「オオオ!」

強靭触手10本「」ブォッ

男「」シッッ

邪悪A「?!」

強靭触手10本「」シィィン

邪悪A「……?」

強靭触手10本「」ボトボトボトボトト

邪悪A「オオッ?」

男「ああああぁぁぁぁぁ!!」

邪悪A「オォ!?」ビリビリ

男「死ねるかあああああ!!」ビキビキ

男「あの頭、収穫するまでえぇぇああ!!!」ビキビキビキ

邪悪A「オオオオ!」

強靭触手「」ビュアアア

男「ふっ!」シシシッ

強靭触手「」ボトト

男(あと少しで届くっ!)ダンッ

邪悪A「オオォ!」

強靭触手「」ヒュッ

男「ちぃっ!」バッ

左腕「」ゴシャァッ

男「~~~~~!!」

男(盾にしたとは言え、一撃で左腕をもっていかれたかっ!)ギリギリギリ

男「だが! これで!」ダッ

男「おおおぉぉ!」ヒッ

強靭触手「」ザッ

邪悪A「!」ザンッ

邪悪A「オオオオオオ!!」

触手「」ブアァァ

強靭触手「」ゾァッ

男(まだ、これだけの数の触手をもっていたのか……)

男(ここで距離を取ったら、次こそやられる……)

男(俺達五人ならば……任せるぞ!)ギンッ

邪悪A「オオオオオ!?」ギョォォォ

男(流石に、生命力がまだ……だが!)ギギギ

男「ここで退くわけにはぁ!」

邪悪A「オオオオオ!!」バタバタ

触手「」シォォ

強靭触手「」ヘナヘナ

邪悪A「オオ、ォォ……」シナシナ

邪悪A「ォ……ォォ」ドザァ

男「よし」バッ

男「あ……」グニャアァ

男(視界が……やはり、耐えられ、ないか……)ガク

男(あいつらの……援護……)

男(くそ……すまない……)ドザ

男「……すー……すー……」

勇者「はぁっはぁっはぁっ」ボロ

王子「おっと……」ドロドロ

岩「」バァンッ

召使「ヒ、ヒヒ、ヒー……」ブルブル

魔術師「それ以上、連続で使うな」グイ

魔術師(魔法の連続使用による反動か……もう少し、魔法を使わせて、慣れさせておくべきだったか)ボタボタ

魔術師(とは言え……この状況で回復できないのは……!)バッ

岩「」ガァンッ

勇者「魔術師!」

魔術師「気にするな……十分防いでもらっている。防ぎきれない分ぐらい、避ける」

王子「しかしこのままでは……もう長くは」

勇者(せめて、隙が生まれてくれれば……)

魔術師「っ!」バッ

岩「」ゴッ

魔術師(駄目だ……魔法に集中していたら、確実に当たる)

召使「はっ、はっ、はっ」ガタガタ

王子(回復まで早くても数分、それでも一回のヒーリングが限界だろう)

王子(苦しいな……)ジリ

勇者「? 男様……?」

王子「え?」

魔術師「邪悪が……倒れていく!」


邪悪B「!」ギョロッ

勇者「!」

勇者「……」スゥ

魔術師「……」

勇者「エリアヒール!」パァッ

王子「! 勇者!」シュゥゥ

魔術師「シールドウォール!」シュァッ

勇者「王子! 行って下さい!」

魔術師「召使、走れ! 男様を助けろ!」

召使「え? え?」ブルブル

勇者「明らかに剣による攻撃じゃなかった! あれは恐らく……」

王子「神々の……そうか! 召使!」

召使「は、はいぃぃ!」ヨタヨタ

邪悪B「オオオオオオ!!」ギョロギョロ


魔術師「ロックシューター!」

大岩「」ゴンッ

大岩「」ゴォォッ

大岩「」シュンッ

邪悪B「オオオ!」

勇者「!?」

勇者「い、今、岩が消えた?!」

魔術師「……」

魔術師「アーススパイク!」

隆起した地面「」ズガガガ

隆起した地面「」ビタッ

邪悪B「オオ……」

邪悪B「オオオオ!」ブァッ

魔術師「さて……どうやら俺では一切傷つけられないようだ」

勇者「考察していたのか!? こんな時に!」

魔術師「有効性を測っていただけだ」

魔術師(ロックシューターは岩を飛ばす魔法。一見、完全物理作用の魔法のようにも見える。決して間違ってはいない)

魔術師(しかし細かく見れば、岩を別の空間より存在させて飛ばす。そしてそれは一定時間で消滅する)

魔術師(攻撃としては物理作用ではあるが、岩そのものの存在とその運動エネルギーは魔法を帯びている)

魔術師(魔法を打ち消されて岩の召還が途絶えたというところか)

勇者「くおおおお!」ザンザン

邪悪B「オオオオ!」

魔術師(アーススパイクに至っては魔法の力で地面を隆起させている訳だが、隆起が止められてしまっているのだろう)

魔術師(こうなってくると風に関わる魔法で物を飛ばしても……慣性の法則であれば命中するか?)

魔術師(いや、有効的な威力となると、今この場で出来る事は……難しいな)

魔術師(ライトニングレイほどの威力と速度があれば、邪悪を包む、あるいは発している対魔法障壁ごと押しやれるのだろうが……)

勇者「せめて支援魔法ぐらいしてくれ!!」

男「すー……すー」

王子「お、男様……」

召使「こ、この左腕……」ワナワナ

王子「治せるか?」

召使「無理ですよぉ……しかもこんな重症、えぇーこれ骨が砕け散ってるんじゃ……」ゾォ

召使「せめて添え木、も意味あるのかなぁ」ウーンウーン

召使「それに何回魔法使えるのかなぁ……」

王子「あ、そうか……」

召使(軽めの魔法なら二回は連続で使えるかなぁ)

召使「うう、賭けだなぁ」

王子「今の状態の男様が動けそうになる魔法となるとどうだ?」

召使「確実ってなると、ボクの回復待ってる間に全滅しちゃいますよぉ」

王子「だから賭けなのか」

召使「はいぃ……」

王子「……やってくれ」

召使「はいぃ……」

召使「ヒール」

男「すー……すー……」シュゥ

召使「リフレッシュ」パァ

男「すー……ふがっ」ビクン

男「お、ぁ……なん、だ?」

王子「! 男様! 大丈夫ですか?!」

男「あー……なん?」ズキンッ

男「ぐ、お! 左、腕……!」ズキンズキンズキン

男「あ、が……! あ、ああ! 思い出したぞ!」ズギズギズギ

男「なんか木とかないか!?」ズギズギ

召使「は、ひ!」ブルブル

王子「召使は休んでいるんだ」バッ

男「……?」ズギズギンズギ

召使「ま、魔法は、連続で使いすぎるとショック症状、みたいのが、出るんです」

男「……頑張ったな」ナデ

召使「男様ぁ」トロォン

男(やべぇ痛みの所為で選択肢間違えた気がする)ズギンズギンズギン

王子「こちらでどうでしょうか」

男「サンキュ、状況報告」グルグル

召使「か、片手で自然に包帯巻いてる……」

男「こんくらいできなきゃ、一人で戦うなんて出来ないからな」

王子「もう一体は完全魔法耐性で、魔術師の魔法がほぼ無力化」

王子「距離を取っていたのですが投石による攻撃に切り替えられ、成すすべなく消耗していきました」

男「小型の分、そういった部分で力をつけたか? 魔術師、出番食われてんなー可哀想な奴」

召使「え、あの、男様、戦う気ですか?」

男「ああ、くっそいてぇがあいつさえ片付けばな」

王子「確かに、勇者の回復魔法も受けられるでしょうが……」

男「あー……まあそんなところだ」

王子「? それはどういう……」

男「とは言え、あんまし勝算がなぁ……」ズギンズギン

男(もう一発、神々の力ぶち込むにしても、ある程度はダメージを与えないと失敗するし)

男(この状態でそこまで削れるか……?)

男(いや、やるしかないな。俺自身、長くもたないだろうし)ハァ

男「小さいとは言え、片腕であの触手群とやりあうのか……きっついなぁ」

勇者「おおおお!」

強靭触手「」ギィン

勇者(まずい、集中力が落ちているな……)

勇者(段々あの触手が両断できなくなってきた……)ジリ

強靭触手「」ビュッ

勇者「くっ!」

魔術師「アーススパイク」

隆起した地「」ズガァ

強靭触手「」ガァンッ

勇者「た、盾に使ったのか……すまない」

魔術師「逆にこれぐらいしか出来んがな」

勇者(せめてもう少し、傷を与えられればと思ったが……)

勇者(触手を捌くのでやっとだ……今までのダメージ、思った以上に効いてるな)ジリ

男「雷駆!」

雷撃「」シャァッ

雷撃「」シュゥッ

男「俺の魔法でも駄目か」

勇者「男様!」

魔術師「! 左腕……」

男「おう。悪いがそんな訳だから、お前らももうしばらく気張れよ」

男「勇者、左! 王子、後ろ!」

勇者「はっ!」ダッ

王子「はいっ!」ダッ

邪悪B「オオオ」ギョロギョロ

邪悪B「オオオオ!」ギョンッ

触手「」ブワァッ

男「ま、俺を狙うわな……」

男「だが」ヒヒヒンッ

触手「」バラララ

男「さっきのより肉体的能力の劣るお前に、そう易々と遅れを取るわけにはいかねえ」

王子「たあああ!」

邪悪B「オンッ!?」ザンッ

勇者「はぁっ!」

邪悪B「オオッ!?」ザシュッ

召使「凄い! これなら!」

魔術師「ああ……そうだな」

魔術師(ここまで来て役立たずか……? いや、ならばこそ俺は……)グッ

邪悪B「オオオオ!」

強靭触手「」ブアァァッ

勇者「ぐっ!」ガギィン

王子「うぁっ!」ガァンッ

男「ちぃっ!」ガギギンッ

男(流石にこいつは両断できないか。痛みが邪魔だ)ズキンズキン

邪悪B「オオオオオ!」ギョロギョロ

男(もう一度、不意をつきたいが……流石に警戒されているな)ジリ

魔術師「散れ!!」クワッ

勇者「!」バッ

王子「な、何を……?」ダッ

魔術師「アーススパイク!!」

隆起した地「」ズガガガガガガガ

邪悪B「オオ?」

勇者「魔術師? それは効果が……」

魔術師「伏せろぉっ!」

召使「う、うんっ!?」バッ

男「……お、そうか」ガバ

魔術師「……」グググッ

魔術師「環状……エクスプロージョン!」バッ

邪悪を取り囲む隆起した地「」ポポ

邪悪を取り囲む隆起した地「」ポポポポポ カッ

ゴゴォンゴゴゴゴォォォンッ

召使「ひぃっ!」

勇者「ず、随分と外側で爆発させたな……あっ! まさか」

魔術師「はーっはーっ」ブルブル

魔術師(流石に、思い切りが良すぎたか)ガタガタ

王子「何が何やら……」

男「飛び込む準備しておけよ」バッ

勇者「はい!」ザッ

邪悪B「オォン」ダラダラダラダラ

召使「うわっハリネズミみたいになんかいっぱい刺さってる!」

王子「全身から出血……アーススパイクを爆発で砕いて、その破片で?」

男「そうらっ!」ダッ

邪悪B「オンッ!」ギョッ

強靭触手「」ヒッ

男「遅い!」サッ

男「った!」ヒンッ

邪悪B「オォッ!」ザンッ

勇者「……」ダッ

邪悪B「オオオオ!」

強靭触手「」ブワワァッ

強靭触手「」ビュビュ

勇者「うん?」バッ

勇者(動きが遅く……? そうか、あの四方からの攻撃、邪悪と言えど十分なダメージに)

勇者「覚悟しろ、邪悪!」ヒッ

邪悪B「オオオオ!!」ザザザッ

王子「はっ!」ザンッ

男「……」

男(押し切れそうだが……隠し玉がないとも言えない)

男(だが、ここで力を使って隠し玉を使われたら……)

男「不味かったら任せるぞ!」ダンッ

王子「えっ?」

勇者「まさか、神々の力を……」

魔術師「……男様も、思い切った事を」

召使「えっ? えっ?」

邪悪B「オンッ!」ザシュ

男「そーら頭の上、マウントを取ったぞ」

召使「それマウント言わないような」

男「たっぷり喰らえ……全力だっ!」ギンッ

邪悪B「オオオオオオオ!」ギュォォォ

触手「」シュォォ

強靭触手「」ヘナァ

勇者「干からびて、いく……」

邪悪B「オォォ」ドザァッ

男「ぐ……」ドザンッ

王子「男様!」

男「流石に……連続二発は……」ウツラウツラ

勇者「……勝った、のか」

魔術師「……ああ」

邪悪B「」

召使「や、た……やった! やったぁ!!」

召使「あ、とと、男様っ」パタパタ

邪悪B「ォ」ギョッ

触手「」シュッ

召使「ぇ……」ォォ

勇者「はっ!」ザンッ

触手「」トサァッ

勇者「止めっ!」ヒンッ

邪悪B「ォンッ」ザッ

召使「ひっひっ」ガタガタガタ

勇者「大丈夫か、召使!」

召使「っ! んっ!」コクコクコク

魔術師「最後の力、だったか……油断していた」フー

王子「うん……?」ォォォォ

勇者「なんだ、この光……」

召使「……あ、れ? 嘘、体が」シュゥゥ

魔術師「魔法の使用過多によるショックが……いや、傷さえも……」シュゥゥ

男「やっぱりな」ムク

王子「え?」

男「別に責めるつもりはないが、姿まで見せるつもりはないんだな?」

『申し訳ありません……』

『そして、ありがとうございます……遥か彼方の勇者……』

『そして貴方がたも……本当によくやって下さいました』

王子「この声は一体……」

勇者「まさか、女神様……?!」

召使「え? ええぇぇぇ!?」

魔術師「……とするとどうなっているんだ?」

男「多分だが、俺の世界の女神と手を組んだってところなんだろうな」

男「邪悪を転移させる為に、別の世界への道を作った時か」

男「あるいはこの事態に際して、俺の方の世界の神々がお前達の女神様に接触したのか」

男「その時に、いくつかの対策をお互いで講じたんだろう」

『……その通りです。私の力では彼らを完全に抑える事は出来ませんでした』

『しかし、かといって彼らを転移させるという事は、別世界に脅威を押し付ける事となる……決断できないでいました』

『その時に、貴方の世界の神……司る力としては同一神にあたる女神が、こちらに接触してきたのです』

男(雰囲気は真逆だけどな)

『……出来る事なら、貴方をこちらに連れてこず、私の力でもって解決したかったのですが……』

『二体を封じるには、私自身をこの地に縛り付けなくてはならなかったのです』

男「代替の儀式、一族の者の命を封印に組み込んで、より確かな物にするって訳か』

王子「やはりそういうものなのですね」

召使「あれ……でもそれだと、女神様も……」

『元より、この命を失ってでも、彼らの脅威を止める覚悟でした』

『ですが……まさか本当に倒してしまうだなんて……本当に何と言えばいいのか……』

王子「あの……気になっていたのですが、男様は女神様がこの世界に健在していると確信していましたよね?」

魔術師「そういえば何かに感づいている様子ではありましたね」

男「途中からだけどな」

男「封印に入る為のあれはもう完全に加護だろ」

男「それにディスペルと呪いそのものもな。基本的に魔物怖いで、町の往復すら億劫だってんだし」

男「楽園の環境もあって、ここの人間の歴史にお互いの争いは少ないんだろう」

男「つーか、環境的に土地の奪い合いってのも意味ないんだろうしな。手元にない土地の維持、ここじゃ相当面倒だろうからな」

魔術師「その土地に関わる町をまるごと、占拠し続けるようなものですからね」

勇者「効率が悪すぎて誰も考えもしない話ですね」

男「俺の世界じゃ歴史は闘争の歴史だ、なんて言うが……競争はあれど殺しあうほどの闘争とはかけ離れている」

男「とすると、呪いそのものの存在が異質な訳だ。実際に行使される事もないようだし」

男「なら、その二つの魔法は、本来の効果は別にあると共に、何らかの方法で神が人に落としたもん」

男「って考えた方がよっぽど都合がいい。実際、俺の世界にも神々から賜って始まった魔法があるからな」

『凄い……そ、その通りです。補足がいらないぐらいです』

召使「呪い自体は何に使えるんだろう……」

王子「邪悪そのものへの攻撃する手段、かな?」

男「そんなところじゃねえの?」

男「因みに向こうの神々が処理せず俺に戦わせたのは、この為でもあったと思ってんだがどうよ?」

『う……す、すみません。貴方の存在は、最後の保険でもあったのです』

男「いや、俺の推測が合ってたか知りたかっただけだ」

男「というか……なんでこの女神が俺の世界の女神じゃないんだ……」ガクッ

王子「お、男様」

男「しかも力的には同一神? 俺、物理的にすら癒された事ないぞ……おい」

魔術師「不憫な……」

勇者「神々の力というのも、それとは真逆であるしな……」

『あの……』

男「……んー?」

召使「男様のテンションがっ」

『本当に申し訳ありませんでした。私の所為で貴方の人生を狂わせ』

『あまつさえ、元の世界にお返しする事もできず……』

男「あ、そーなんか?」

『えっ』

勇者「予想通り軽い……」

魔術師「今までの話を聞いているとなぁ……」

男「ぶっちゃけ、どう見てもこっちの世界の方が待遇いいんだよなぁ」

男「国も一応一つだろ? 向こうはごちゃごちゃしてて、そのしがらみの所為で痛い目見てきたし」

男「まーあんたが謝る事ねえよ。というか、あの女神とは今でも連絡とか取れるのか?」

『恐らくあと一回、ほんの少しの接触がもてるかどうか、でしょうか?』

男「なんか制約でもあるのか」

『邪悪とも魔王とも呼ばれた彼らの存在。それはあちらの世界の神々は認識していたのです』

『そして、この世界に降り立った彼らと関係を持つ覚悟の上で、こちらに接触してきました』

『これにより、彼らを起点とした因果を持つ事で、繋がりを得ていたのです』

男「面白い話だな。接触する意思だけで因果が結ばれたのか。鶏が先か卵が先かみたいな話だな」

王子「難しい話だ……」

召使「うー????」

魔術師「ああ、そういう事か……降り立った邪悪が完全に死滅した今となっては」

男「その接触の為の穴みたいなのって俺らでも干渉出来るのか?」

『さ、流石に通り抜ける事は……』

男「いや、"道"さえあればいい」

男「……」ォォォォ

召使「!」ビリ

勇者「息がっ重い」ビリビリ

魔術師「こ、これは」ワナワナ

王子「男様の本気……?」

魔術師「どころじゃない! 離れろ! 巻き込まれるぞ!」

召使「え!? えっ!?」

勇者「魔術師が焦ってる……本当に不味いのかっ!」ダッ

男「ぉ……ぉぉ……」ギギギギ

『ひ、開きます』

男には聞き覚えのある声『お、あっすあっすぅどう? アレ使えた?☆ もしかして死ん』

男「死っねぇ雷光ぉっ!!!」ドッ

異世界への穴「」ボシュッ

男「……」シュゥゥゥゥ


召使「お、男様の体から湯気が……」

魔術師「遠方の景色が揺らいでいる……超高濃度の魔力を放出した所為か……」

王子「あ、あんな現象が起こるのか。初めて見た……」

勇者「今の衝撃で周囲の地面が抉れている……近くにいたら」ゾォッ

『ほ、本当に、よろしかったのでしょうか』

男「あー……少しだけスッキリした」パァッ

王子「純粋な笑顔っ」

勇者「かつてない笑顔だ……」

魔術師「逆に怖いな」

男「よーし、帰るかっ」

召使「笑顔がまぶしいっ」

『城へ転移させます』

王子「……」

王子「女神様……貴女はこの先、どうされるのですか」

勇者「王子……」

『最早、楽園を築くほどの力は残っていません。ですが、変わらずこの地を見守ります』

『私は何時も貴方がたの傍にいます』

王子「……」ジィン

王子「貴女が命をかけて守って下さった我々は……長久に」

王子「正しき道を歩み、より発展させていきます。必ずっ」グッ

『ええ……ずっと、見守っています』


勇者「はぁっ! はぁっ!」ヘナヘナ

男「くっそ、あの女神、城内部に転移してくれりゃいいものを!」

魔術師「まさか町の外とは……」

召使「凱旋だったねぇ……」ホケー

王子「……」

男「悪いな、先陣きって道を作ってもらっちまって」

勇者「い、いえ……」ハァハァ

魔術師「……」チラ

王子「……」

男「ま、あいつは双肩に色んな責任と覚悟を背負ってきたんだ」

男「誰よりも、女神の言葉は救いになったんだろう」

勇者「でしょうね……私とて、感極まりそうになりました」

召使「そんなものなのかなぁ。そりゃあ女神様とお話できて感動だったけども」

男「……お前、会話したっけ?」

召使「男様が難しい話ばっかするから、話せなかったぁー」ブー

勇者「男様はこれからどうされますか?」

男「なんか褒賞とかあんだろ? そんで部屋なり借りるかな」

男「この町に根付いて生きようと思っているが、仕事はどうするかなぁ」

魔術師「兵士でも指南でも何でもできるじゃないですか」

男「組織とか集団の中で生きた事がないからな」

勇者「男様ほどの方なら、多少無茶な事をされても問題ないとも思えますが」

召使「いいなぁー」

魔術師(度が過ぎたら一瞬で蒸発、と言いたいがこいつもこいつで功績を立てた以上)

勇者(そうそう悪い事にはならないんだろうが、言ったら調子に乗るだろうから黙っておこう)

数ヵ月後
男「そらっ!」ヒンッ

勇者「くっ!」ガギィン

勇者「たぁっ!」バッ

男「……」キィィッ

兵士達「受け流っ」

男「よっ」バッ

勇者「っ!」ガッ

男(お、流石にここでの蹴りは止められたか)

勇者(く……男様に手が届いたと思った数日後には、更に先にいる……

勇者(追いつくイメージすら見えない)

……
勇者「はあ……男様の隣に立てるのは一体何時になるのやら」

男「……正直に言えば、十分に追い抜けるところまできてんだぞ?」

勇者「え?」

男「俺はまあ、あの手この手でずる賢く立ち回ってるから、お前には手が届かないように見えるが」

男「そこら辺の柔軟性というか、狡猾さが備わったらもう、俺じゃお前の相手にならないだろうな」

勇者「そんなまさか!」

男「ま、そうなったら悔しいが嬉しくもある。頑張れよ」バンバン

勇者「……っ。 はいっ!」

魔術師「ご足労頂きすみません」

男「俺が魔法撃ってれば、こっちの世界の魔法発展に繋がるんだから構わないさ」

男「何か分かったんか?」

魔術師「恐らく、魔力そのものの扱い方が違うのでしょう」

魔術師「そもそもにしてこちらの魔法とは……」

男「あ、やっぱいい。聞いても分からん」

魔術師「そうですか。是非とも男様の意見も聞きたかったのですが」

男(こういうのって大抵数時間喋りっぱなしになるパターンだからな。知ってる)

男「ま、時間はあるんだ。気長にやれよ」

魔術師「勿論ですとも」

召使「あ、男様ー!」パタパタ

男「おう、どうした?」

召使「王子様が呼んでましたよー」

男「またか……いい加減、あいつの仕事の事を相談されても困るんだがなぁ」

召使「凄い頼りにされてますもんね」

魔術師「確実に専門外ですよね」

男「見ての通りな」

召使「何時もの部屋にいますからー」

男「あー行くだけ行くか……」

男「またな」スタスタ

魔術師「はい、また連絡します」

召使「……」トテトテ

男「……」スタスタ

召使「……」トテトテ

男「うぉい」

召使「えー?」

男「お前は自分の仕事があるんだろうが」

召使「だって案内って口実で男様と一緒にいられるしー」

召使「いいじゃんいいじゃん、ボクから男様への用事の口実ってないんだよー!」

男「用事の口実って……まあ言いたい事は分かるが」

男(というか)

召使(男様、男様)ニコニコ

男「……」ゾクゥ

男「はぁ……今まで、だいぶ選択間違えたなぁ」

召使「はい?」

男「来たぞ」

召使「来ましたー」

王子「召使、君は自分の仕事があるだろうに……」

召使「うー王子様までそんな事言うー」

男「で、何だって?」

王子「あ、はい。先日の件でここの地区の……」ウンタラカンタラ

男(よし、分からん。ついでに言えば先日の件もなんだったか分からん)

男「つーか……」チラ

王子「はい?」

男「また今日も随分と書類の山を築いているな」

王子「そうですか?」

男「お前、ここんとこずっと根を詰めているんじゃないか?」

召使「あー……そうですよね。何度か夜食頼まれましたし」

王子「あ、こらっ召使」

男「……」

男「気合が入ったのも分かるが、ちっとは肩の力を抜けよ」

男「お前、これから先あと何年その役職にいるんだよ。何度ぶっ倒れるつもりだ」

王子「う……」

男「それとここら辺はもう俺には分からないから聞くな」

王子「あー……しかし、男様の助言は的確なんですよ」

男「あんまり頼りにすんなよ。所詮、今までの経験則だぞ」

男「それに、何時でも居る訳じゃないんだ」

召使「えっ!? 男様、出て行っちゃうんですか?!」

王子「そんなっ! 何か不満な事でもあるのですか! 申し付けてくださいよ!」

男「ちっげーよ。この世界は未踏の場所がいくらでもあんだろ?」

男「そういうところ、探検してみたくなってな」

召使「冒険癖ですか?」

男「みたいなもんかもな」

男「まあ、ちょくちょく帰ってくる……遠征みたいなもんだから、そんな心配そうに見んなよ」

王子「ですが……」

男「今まで俺がいなくたってやってきたんだろ。甘えるな」

王子「……はいっ」

男「まあ、すぐの話じゃないんだけどな」

召使「男様だったら、今日の明日にでも出かけそうですけども」

男「いや、色々と作物やら難やらも調べて、知識をつけていきたいからな」

男「育って食えるんなら、遠方の作物とか持ってきたいだろ」

召使「おぉっ! なんか凄そう!」

男「ま、そんな訳だから色々と頼むぞ」

男「お前らからしたら俺こそが英雄なんだろうが、この世界の人々はお前らこそが英雄なんだからな」

男「あんま自分を過小評価してやるな」

王子「……はいっ!」

召使「ボクも? ボクも?」

男「まあそうなんだが、多分、世間はそう見ちゃいないだろうな」

召使「えー!? なんでー!?」

男「まあ、お前の頑張りは俺らが知ってんだからいいだろ」

召使「」キュンッ

男(あ、またやらかした気がする)

男「じゃ、じゃあな」バッ


「あ! 男様だ! 初めは誰あの人とか思ったけど、イイよね、あの人も!」
「あたしこないだ召使きゅんと男様がお買い物してるの見た!」
「もう召使きゅんの笑顔天使だった! 絶対あれだよね!」
「勇者様だって男様との稽古の時、凄い活き活きとしてるわよ!」
「魔術師様が柔らかい笑顔するのって、男様といる時だけよね」
「王子様なんて男様といる時、尻尾が見えるわよ」
「あれヤバイよね。めっちゃ振ってるのが見える」
「凄いよね、男様ハーレム。きっと日夜連日……」


脅威の去ったある世界ではその後、英雄の一人の影響による一部の人々を色めき立たせたという。
そしてその者は遠くの果てへと旅をしては、様々な作物等を持ち帰り、
人々は長く豊かに、徐々に広く繁栄していった。

余談だが、とある世界では命を司る神が一時、その力の全てを失う何かが起こったと言われ、
以降十年ほどの間、人の子が産まれる事がなかったという。


   勇者「ここは異世界か」イケメン「見つけましたよ、女神さ、ま?」 終

このSSまとめへのコメント

このSSまとめにはまだコメントがありません

名前:
コメント:


未完結のSSにコメントをする時は、まだSSの更新がある可能性を考慮してコメントしてください

ScrollBottom