みほ「逆ドッキリ?」 (85)



――生徒会室


みほ「あの、話って……」

杏「まあまあ、あんこう鍋でも食べて~」

柚子「会長の作るあんこう鍋は絶品なのよ」

杏「まず最初にアンキモをよく炒めるといいんだよ。そこに味噌を入れて~……」

みほ「いや、鍋の作り方はいいですから……」

杏「そうだ。珍しいものがあるんだよ」

杏「ホラこの写真、河嶋が笑ってる」

桃「そ、そんなもの見せないでくださいよ!」

みほ「このくだり、やりましたよね……たしか8話あたりで……」

杏「これは仮装大会の時の写真」

杏「これは夏の水かけ祭り」

杏「こっちはどろんこプロレス大会」

杏「これは、エルヴィンちゃんが秋山ちゃんにドッキリを仕掛けられたとき」

みほ「!?」

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杏「それでこっちは、クリームまみれになったあんこうチームの4人」

みほ「何で!?」

杏「廃校が撤回されてからしばらくして、ようやく実感がわいたっていうか」

杏「肩の荷がおりたなーって気持ちが出てきてね。ついみんなにドッキリの話を持ちかけちゃって……」

桃「いつもの会長に戻ってよかったです」

柚子「会長、イタズラ大好きだもんね」

みほ「それってほんとうにいいことなんですかっ!?」

杏「みんなとの仲だし、まあ笑って許してくれたよ」

柚子「そのうわさが他校にも広まったのか、ドッキリに協力してほしいって頼まれたの」

杏「そ・こ・で! ただ向こうの言うとおりに相手をダマすんじゃひねりがないって思ってね~。ドッキリを仕掛ける人間のほうを真のターゲットにしちゃえと考えたわけ!」

みほ「そういう所は全力なんですね……」

桃「会長はいつだって本気だ」

柚子「桃ちゃんそれが言いたいだけでしょ?」


表向きのドッキリ内容:格言が超適当
仕掛人(真のターゲット):ダージリン


杏「では登場してもらいましょ~。 聖グロリアーナからこの方が参戦!」

ダージリン「こんな言葉を知っている?『だました男がだまされるとき、初めて女を知るのか』」

杏「『君は薔薇より美しい』の一節。布施明(ふせあきら)の曲だね」

ダージリン「ドッキリだなんて、わたくし初めての経験だわ。わくわくしちゃう」

みほ「ダージリンさんって、意外とノリがいいですよね……」

杏「じゃあ説明するね。戦車道の試合観戦に来たダージリンとオレンジペコちゃんの2人は、いつものようなやりとりをする」

杏「でも、ダージリンが放つ言葉はどれもヘンなものばかり」

杏「当然困惑するオレンジペコちゃん。最後にダージリンが勉強不足よ! と理不尽にキレて、オレンジペコちゃんをビビらせて、ネタばらしって流れ」

杏「そんなわけでよろしく~」

ダージリン「杏さんもいじわるなことを考えるのね。でも、嫌いじゃないわ」

ダージリン「ペコはどんな顔するかしらウフフ……」

杏(ま、そのセリフはそっくり自分に返ってくるだろうけどね~)

みほ(こっそり仕掛けたカメラから、別室のモニターで確認します……)


――試合中、観客席

ドーン! ドーン! ズズーン…


オレンジペコ「いまのところ有利ですが、やや混戦ぎみですね。ここからの逆襲に気をつけなくては……」

ダージリン「ペコ」

オレンジペコ「はい」

ダージリン「こんな言葉を知っている?『ケツの谷間に、イボ痔の花が2つ咲き』」

オレンジペコ「はいっ!?」ビクッ

オレンジペコ「だ、ダージリン様、いま何と……」プルプル

ダージリン「ペコ、どうしたの?」

オレンジペコ「い、いえ、何でもありません……」


 杏「ブフォウ! あっはは!」
 みほ「誰が考えたんですかあんな言葉……」
 杏「オレンジペコちゃん本人らしいよ」
 みほ「ええ~~っ……」


オレンジペコ「……あっ、1輌飛び出してきました。速さでかく乱するつもりです」

ダージリン「そうね。さしずめ『軍手の匂いでタイムスリップ』といったところかしら」

オレンジペコ「!!??」

ダージリン(フフフ……困ってる困ってる)


 みほ「オレンジペコさんすごい顔してますね……」
 杏「いやーたいした演技力だね。ダージリンもすっかりだまされてうれしそうに……」


ダージリン「ペコ、さっきからどうも反応がにぶいわね」ジロッ

オレンジペコ「す、すみませんダージリン様……」

ダージリン「こんな言葉を知っている?『ライジングインパクトの打ち切りには納得がいかない』」

オレンジペコ「ええっ、えええっっ!??」

ダージリン(ああ、もう泣きそうになってる……たまらないわ)ゾクゾク


 杏「まあ、いまは七つの大罪がヒットしてるし、許してあげようよ」
 みほ「ただの感想じゃないですか……しかもけっこう昔のことを根に持って……」
 杏「んではダージリン、そろそろシメの言葉をよろしく~」


ダージリン(杏さんから指示があったわ。どんどん不機嫌になっていく演技をするのね)

ダージリン「……わたくし、ペコはそれなりに聡明なひとだとおもっていたけど、勘違いだったようね」

オレンジペコ「ごめんなさい……グスッ、ごめんなさい……」

ダージリン「ねえ!!!」

オレンジペコ「ひッ」ビクッ!

ダージリン「あなた最近たるんでるのではなくって!?」

オレンジペコ「すみません、すみません! わからなくってすみません……」メソメソ

ダージリン「まったく! どうせこんな簡単な言葉でさえも知らないんでしょ!?『さみしくなると、子犬になっちゃう!』」

オレンジペコ「あ、それは知ってます」ケロリ

ダージリン「えっ?」

オレンジペコ「確かダージリン様が1年生のときにおっしゃった言葉でしたよね」

ダージリン「えっ??」

オレンジペコ「でも、正確な言葉は違ったような……ちょっと確かめてみましょう」

ダージリン「えっ えっ? え??」

オレンジペコ「機材をお願いしまーす!」


ローズヒップ「かしこまりましたのよーーっ!」ガラガラ

アッサム「液晶画面と機器との配線は完了しました」テキパキ

ルクリリ「こちらもオッケーです!」グッ

ダージリン「あ、あなたたち……? ん? えっ、なに? なんなの?」

オレンジペコ「まあまあダージリン様、ここに座ってゆっくり観てみましょう」

ダージリン「わたくしが1年生のとき? まったく覚えがないのですけど……」

杏「いや、ダージリンは確かに言っていたそうだよ」

ダージリン「!?」

オレンジペコ「ではVTRスタート」パッ


 ――聖グロリアーナ(2年前)

 『ダージリン、一緒に紅茶はいかが?』

 『もちろんです、お姉様っ!』


ローズヒップ「キャーかわいい!! オレンジペコをもっと幼くした感じっぽいですわ!」

ルクリリ「ち、ちっちゃいダージリン様ウフフ……」クスクス


ダージリン「なっ、ななな……!」カアア


 『ダージリンは、ほんとうに紅茶が好きなのね』

 『はい! わたくし、お姉様の淹れた紅茶でしたらなんでもいただきます!』

 『アラほんとう? じゃあ、こんな紅茶を知っているかしら? ウェンリー式というのだけれど』

 『わたくし、聞いたことがありません』


みほ「素直wwwかわいいwww」

ローズヒップ「ピュアすぎますわwww」

オレンジペコ「ダージリン様にも、こういう時期があったんですね」

ダージリン(赤面)「~~~~~っ!!」プルプル


 『これがウェンリー式紅茶。飲んでみる?』

 『お姉様、ありがとうございます! いただきます!』ゴクゴク


ローズヒップ「ところでウェンリーってなんですの?」

アッサム「データによると、『銀河英雄伝説』の主人公のひとり、ヤン・ウェンリーのこと。その彼が好んだ紅茶の飲み方です」


アッサム「なお、紅茶にブランデーを加えるというものですが……」

みほ「えっ?」

オレンジペコ「それってつまり……」


 ――数分後
 
 『うう~~ん……』トローン


みほ「やっぱり……」

ルクリリ「ダージリン様www」

ローズヒップ「顔が真っ赤ですわwww」

ダージリン(赤面)「」


 『おねえさまぁ おねえさまったらぁ』ゴロゴロ

 『ダージリン、どうしたの?』

 『そんなよびかた、やですぅ……ダぁってよんで!』

 『あらあらウフフ、フフ……』


みほ「ダぁwwwwwww」

ローズヒップ「ダぁwwwダぁてwwwww」

アッサム「ブフォwwwゲホゲホッwww」

ダージリン(赤面)「誰かわたくしを殺して……」


 『おねえさまぁ ダぁをだっこしてぇ♪ ダぁをだっこ♪』ムギュー

 『はいはい』ギュー

 『くう~~ん♪ くうう~~ん♪♪』スリスリ

 『ダぁは甘えん坊さんになっちゃったわね。まるで犬みたいフフ……』

 『そうなのぉ♪ あのねっ、ダぁはね、ダぁはね』

 『さみしいとぉ こ い ぬ に な っ ち ゃ う の ぉ ♪』

ダージリン(赤面)「」

ルクリリ「ぶわははっはwwwww」

ローズヒップ「wwwおなかがwwwおなかがちぎれますわwwwwww」

アッサム「ごめんなさいダージリンwwwwでも笑うなという方が無茶ですwwwwwwww」


オレンジペコ「ダージリン様、いえ、ダぁ様。これがかつてのあなたの格言ですが、いかがですか?」

ダージリン(赤面)「あが、あがが……グギギ……」プルプルプル

ローズヒップ「ダぁ様が壊れましたわ!」

アッサム「しれっとダぁ呼ばわりはおよしなさい、ローズヒップ」

杏「ハイここで看板をドーン!」


 < 『逆ドッキリ大成功!』 >


ダージリン(赤面)「……み、みなさん……おやりになるわね……」プルプルプル

アッサム「誰だって1年生だった頃があるんだから、後輩をからかうのもほどほどにね。ダージリン」

杏「映像をくれた聖グロのOGさんに感謝」


杏「ウフハハハwwwグワッハッハッハッハwww」

みほ「笑い方が悪魔!」

杏「ムフ……いや~傑作だね。ドッキリを持ちかけたときのダージリン、ノリノリだったでしょ?」

みほ「それはそうでしたけど……」

杏「しか~し、これは逆ドッキリ!」

杏「だます側がだまされる側にまわったときの顔! この瞬間ってのは何度見てもたまんないね!」

みほ「さわやかに言ってるけど人としてギリギリの発言ですっ!」

杏「『こんな言葉を知っている?』」キリッ

みほ「やめてあげてくださいっ!!」

杏「『だましてやろうと待ち構えている奴ほどだましやすいものだ』ってね」キリッ

柚子「攻殻機動隊の、バトーですね」

杏「さ~て、次の企画はどこの学園艦かな~っと」

みほ「わたし、戦車道やり始めた会長しか知りませんでしたけど……素はこんな感じなんですか!?」

桃「そうさ。学園艦を生徒の楽園にするのが会長の野望だからな」

柚子「わたしたちも、こういうドタバタには慣れてるわ。もちろんいい意味で」

杏「いよーし! 次はあそこに決定!」


表向きのドッキリ内容:修羅場
仕掛人(真のターゲット):ケイ


ケイ「ハーイ! アンジー! 来たわヨ!」

杏「いらっしゃ~い」

みほ「ケイさんがドッキリ……確かにそういうのは面白がりそうですが」

ケイ「イエース! 今回のターゲットはアリサ!」

ケイ「あたしとナオミが実はレズで、アリサを奪い合う設定! ドロッドロの三角関係ドッキリよ!」

みほ「明るく言っていますがエグすぎじゃ……」

ケイ「ドッキリをやる前から少しずつスキンシップを多くしてたから、下ごしらえはバッチリ!」グッ

杏「いいね~いいね~! んではよろしく~~」

ケイ「オーライまかせて! しっかりダマしてやるんだから!」

ガチャ バタン

みほ「……あんなにノリノリのケイさんをだまし返すんですか?」

杏「いつも明るい隊長だけど、その笑顔が曇るところもちょっぴり見てみたいんだって。副隊長の2人が」

みほ「ええっ!? それじゃあケイさんひどい目に遭うんですか……?」

杏「……無事を祈ってあげて」

みほ「そんなに……!?」


――サンダース大付属高校 戦車道練習場


ドーン! ドーン! ズズーン……

シャキン シュパッ!

<『フラッグ車、走行不能! よって、Aチームの勝利!』>

ケイ「やるわねアリサ! ついにあたしを負かすだなんて!」

アリサ「YEAH! やりましたよ隊長!」

ケイ「とってもエキサイティング! まだ胸のドキドキがおさまらないワ!」

ケイ「ホラこんなにドキドキしてる! 確かめてみて!」ムギュー

アリサ「むぐッ!?」ムギュー

 
 みほ「うわあ露骨……」
 杏「グイグイいってるね~。さすがサンダース、アメリカンだ~」


ケイ「アリサ、あなたの戦車道はまだまだドンドン強くなるわ! そのために、成功の秘訣を教えてあげる」

アリサ「ほんとうですか隊長!」

ケイ「ええ、あそこの部屋で教えてあげる……2人っきりで」ナデリ


アリサ「ッ! ちょっと隊長! お尻を触らないでくださいよ!」

ケイ「AHAHA! ソーリー! ジョークよジョーク」

ケイ「……半分くらいね」ボソッ

アリサ「!?」
 

――空き教室


ケイ「……ここで、こう。そしてこう動くの。そうすればこっちが有利に」

アリサ「しかし……ここで、こうすると、戦車1台を犠牲にすることでさらに敵陣を引き裂くことができるのでは?」

ケイ「捨て駒はフェアじゃないわ。それに、その役目をつとめたがる人はウチにいるかしら?」

アリサ「私がやります。勝利のためなら」

ケイ「アリサ……その気持ちは嬉しいけど、勝てばいいってもんじゃないのよ」

アリサ「でも私は……」

ケイ「わからない? あたし、アリサが傷つくのがイヤなの……」ズイッ

アリサ「ちょ、ちょっと隊長、顔が近いですよ……」

ケイ「『隊長』はイヤ。名前で呼んで」


アリサ「っ……!?」

ケイ「アリサ……かわいいアリサ……ウフフ……」ナデナデ


 みほ「ケイさん完全に獲物を狩る目つきですよ……」
 杏「エロいね」


アリサ「た、隊長……何して……」

ケイ「あたし、戦車の強い子を見ると……カラダの奥がきゅってあつくなるの……」

ケイ「アリサ……あついよ……」ヌギヌギ

アリサ「あ、あああ……」ガタガタガタ

ガラッ!

ナオミ「……そこで何をしている」

アリサ(助かった……)

ケイ「見て分からない?」

ナオミ「……成程。アリサが試合で勝ったから、興奮しているというわけだ」

ナオミ「でもだからって、わたしから乗り換えるのが早すぎるんじゃないか!?」


アリサ「えっ」

ケイ「だってきょうのナオミ、ぜんぜんイケてなかったわ。腕が鈍(なま)ったんじゃない?」

ナオミ「信じてたのに!」

ナオミ「わたしを愛してるって言ってくれた! アレはウソなのっ!?」

ケイ「そんなこと言ったって、いまはもうアナタに魅力を感じなくなっちゃったんだもの」

ナオミ「SHIT! BITCH!」

ナオミ「わたしだってアリサを狙ってた! だけどケイに迫られたから受け入れたのに、この仕打ち!?」

アリサ「えっ? えっ??」


 みほ「怒られるかもしれないけど、ナオミさんの演技がハマりすぎてて怖いんですけど……」
 杏「放送当時、海外のファンからは『知り合いのそーいう人にすげー似てるんだけど、ナオミってマジもんのレズなの?』っていうコメントがあったらしいよ」(※マジです)
 みほ「ええ~~っ……」


ケイ「とにかく、この話はおしまいにして」

ナオミ「私は終わってない!」

ケイ「終わりよ! 何もかも!!」


ナオミ「身勝手な!!!」


バキューー―ン!!


ケイ「!?」

アリサ「フリーーーーーズ!!!」バッ!!

ケイ「け、拳銃……!? ウソでしょ!?」

ナオミ「アリサ、おい何を……!!?」

アリサ「隊長たちのこと……信じてたのに……」ポロポロ

アリサ「あたしのこと、そんな目で見てただなんて……」ポロポロ

ケイ「待って! 待ってよアリサ! 実はこれドッキリ……」

アリサ「あたしの名前を呼ぶな!!!」

アリサ「何も聞きたくない!!!」

アリサ「汚らわしい!!!」

アリサ「同性愛者はバケモノと同じよおおおおおっっっ!!!!」グッ!!

ナオミ「危ない!!」バッ!


ケイ「ナオミ!??」


バキューー―ン!!


ナオミ「ぐッ……! ああッッ……!!」

ケイ「ナオミイイイイッッ!!!」

ナオミ「うぐッ……痛ッ……だ、大丈夫……足をかすめただけ」


 みほ「拳銃出てきちゃいましたよ……」
 杏「ありえないけど、こういう勢いの場面だと冷静になれないよね」


アリサ「……ッ! ハアーーッ……! ハアーーッ……!」

アリサ「あ、あたし……なにやって……」ガタガタガタ

アリサ「ヒヒッ……アハハ……仲間を撃っちゃった…………」ポロポロ

アリサ「ごめんねナオミ……あたし、先にいくから……」スチャッ

ケイ「頭に当てて……!? 何をしようとしてるのッ!??」

ナオミ「ハァ……ハァ……アリサ、よせっ!」

アリサ「……さようなら……」グッ


ケイ「NOOOOOOOOッッ!!!」


バキューー―ン!!


アリサ「――――」ドサッ

ケイ「イヤアアアアアアッッ!!!」

ナオミ「アリサ……クソッ! 何で……!!」

ナオミ「うぐッ……ブッ! ゲホゲホッ!!」ブバッ

ケイ「あなた、血を……!!」

ケイ「お願いよナオミ! しっかりして!! これ以上あたしをひとりにしないでえええっっ!!!」

 
 杏「うっひゃっひゃっひゃっひゃっ!!」バシバシ
 みほ「何で爆笑してるんですか……」
 杏「だってwww足を撃たれてるだけなのに吐血www」
 みほ「ブッ! ……た、確かにそれはちょっとウフフ……」


ナオミ「……ケイ……まだそこにいる?」ハァハァ

ナオミ「目がかすんで、よく見えないんだ……」ハァハァ


ケイ「ッッ!!」ゾッ!

ケイ「ええここにいるわ!! 手をにぎっているわよ!!」ポロポロ

ナオミ「……ゲホ、そうか。よかった……」ハァハァ

ナオミ「…………いままでありがとう」

ケイ「……イ、イヤよ……そんな……これでお別れみたいじゃない……」ガタガタガタ

ケイ「……もうしゃべらないで……! すぐ助けを呼ぶから!」ポロポロ

ナオミ「…………ねえケイ……頼みがある」ハァハァ

ケイ「な、なにっ!? どうしたのっ!!?」

ナオミ「さ さいごに……ハァ…ハァ…ひとつだけ……」

ケイ「…………ナオミ? ナオミッ!?」

ナオミ「…………うしろを、見て」ガクッ

ケイ「えっ!?」バッ


 < 『逆ドッキリ大成功!』 >


ケイ「」


アリサ「隊長、意外とだまされやすいですね」ムクリ

ケイ「」

ナオミ「映画が好きだっていうのに、血のりのトリックに最後まで気づかないなんて」ムクリ

ケイ「」

みほ「あ、あの……ケイさん?」

ケイ「…………オーマイガ」(呆然)ヘナヘナ

杏「こりゃ相当なショックを受けちゃってるわ」

ナオミ「腰が抜けて立てないのか……? 手を貸そう」スッ

ケイ「ちょ、やめて! いまのあたしに触らないで!」ビクッ!

アリサ「なぜです?」

ケイ「…………ちょっと出ちゃったからよ」ボソッ

ナオミ(赤面)「OH……」

アリサ(赤面)「WAO……」

ケイ(赤面)「……バカッ! もうみんなバカ! 履き替えるからとっとと出て行ってよおおっ!!」


杏「恥じらうケイがあんなにかわいいなんて……。新しい可能性を見つけちゃったかなあ」

柚子「普段からは想像もつかない顔でしたね」

みほ「それにしてもちょっとやりすぎたんじゃないですか……?」

杏「いやいや~。あれくらいじゃないと、いつもと違う一面が見られないからね」

桃「犠牲なくして勝利なし。西住流の真髄もそうだろう?」

みほ「そういう意味じゃないですよう……」

杏「ふだん完璧に見えるひとが、あーいうふうにほころびを見せるとこうグッとくるものがあるよね」

柚子「ギャップ萌えですね」

みほ「ものは言いようですが……」

杏「んじゃ次は、ノリと勢いであそこに決定~~」


表向きのドッキリ内容:死んだフリ
仕掛人(真のターゲット):アンチョビ


杏「シンプルながら、インパクトはバツグン!」

杏「シナリオはこう。うちとの練習試合が決まって、作戦を必死で考えるチョビ子」

アンチョビ「チョビ子とゆーな! ……まあいいや、それで?」

杏「で、その過労がたたって倒れる」

杏「病院に運び込まれるもご臨終となり、アンツィオでお別れ会を開く。そこでネタばらし」

アンチョビ「いくらなんでも唐突すぎないか……?」

杏「いやいや、こういうことって意外と突然、なんの前触れもなくやってくるもんだよ」

杏「それに」

アンチョビ「?」


杏「もしも自分が死んだら、周りの人はどれだけ悲しんでくれるか、気になったことはない?」

アンチョビ「そ、それを言われるとちょっぴり気にはなるが……」

杏「ねっ! ここはアンツィオの総帥(ドゥーチェ)としての人望を確かめるためにも、やってみようよ」

アンチョビ「む、むぐ……わかった」

アンチョビ「あの2人には少々気の毒だが、わたしがいなくなった後のことを考えさせるいい機会になりそうだからな!」

杏(ま、ホントはその2人に頼まれたんだけどね~)

みほ(悪魔との契約も、こんな感じで人の心のすき間にスイーーっと入ってくるんだろうなぁ……)



――アンツィオ高校 空き教室


アンチョビ「あーでもない、こーでもない……」ブツブツ

カルパッチョ「ドゥーチェ、もう遅いですからきょうはこのへんで……」

アンチョビ「いや、せっかくの大洗女子学園との戦いだ。練りに練ったプランを備えておかなきゃ……」

カルパッチョ「それにしたって根(こん)をつめすぎでは……お疲れのようですし……」

アンチョビ「ここまでしないとあいつらには勝てない。いや、もっとなにか改善すべき点が……」グラッ

カルパッチョ「ドゥーチェ!?」


ドサッ


アンチョビ「――――」

カルパッチョ「あ、ああっ……」ガタガタガタ

カルパッチョ「誰かあっ!!! 誰か助けてえっ!!!」

カルパッチョ「ドゥーチェがああっ!!! いやああああっっ!!!」


――某病院 待合室


ダダダダッ! バンッ!

ペパロニ「姐さんが倒れたってホントか!?」

カルパッチョ「…………」

ペパロニ「お、おい、カルパッチョ、なんとか言えよ……」

カルパッチョ「…………ペパロニさん……」

ペパロニ「?」

カルパッチョ「……ひと足……」

カルパッチョ「……ひと足、おそかったよう……」ポロポロ

ペパロニ「――ッ!!!」

カルパッチョ「一瞬だけど、意識が戻って……エグッ、さ、最後までヒッ ヒック……さいごまでわたしたちのなまえをよんでたわぁ……」ポロポロ

カルパッチョ「でもいまはもう……もういなくなっちゃったあ゛あ゛っ…………」ポロポロ

カルパッチョ「う゛あ゛、う゛あ゛あ゛あ゛あ゛……あ゛あ゛あ゛~~~~っ……」ポロポロ

ペパロニ「…………」ギュッ

カルパッチョ「グス……ウグッ……」ギュッ



 
 みほ「(演技とはいえ)あのカルパッチョさんがここまで取り乱すなんて……」
 杏「チョビ子もびっくりしたでしょ」
 アンチョビ「う、すまんカルパッチョ……ていうかホントに心臓が痛くなってくるぞコレ……」


ペパロニ「……落ち着くまで、胸を貸してやるから」ギュッ

カルパッチョ「ごめんね、ごめんねペパロニさん……これから、もっと大変になるのに……」ギュッ

カルパッチョ「……お葬式は、ご実家のある愛知で行うそうよ……」

ペパロニ「……そうか」

カルパッチョ「……それで、港につくまでに、学園艦でお別れ会をすることになったの」

ペパロニ「……そうか」

カルパッチョ「……わたしたちが、しっかりしないとね」

ペパロニ「……そうだな」

カルパッチョ「……ペパロニさん。あなたも泣きたいなら、泣いてもいいんですよ」

ペパロニ「……ヒッ ヒック……うぐッ……!!」ポロポロ

ペパロニ「あ、あたしウグッ……ねえさんに……なっ なにも言えずに……」ポロポロ

カルパッチョ「…………」ギュッ

ペパロニ「う゛う゛っ!! う゛う゛う゛~~~っっ!!」ポロポロ




 アンチョビ「……グスッ」
 みほ(ペパロニさんいい演技するなぁ……)
 杏(ヤバイ。わかっててもちょっと泣きそう)


ペパロニ「グスッ……帰ろう、カルパッチョ」

カルパッチョ「はい……これから、いろいろと準備しないといけませんからね……」


 アンチョビ「……じゃあ私はお別れ会の準備があるから、行ってくる」
 みほ「棺(ひつぎ)に入って、じっとしなきゃいけないなんて結構たいへんですよね……」
 杏「いちおう言っておくけど、ネタばらしまで泣いちゃったりしたらダメだよ?」
 アンチョビ「わかってるよ。でも、自信ないなあ……」


――アンツィオ高校 告別式会場


アンチョビ(棺桶の中)「――――」

ウエーン ウワーン メソメソ…

ペパロニ「うっ……ううぅ……グスッ 姐さん……」

カルパッチョ「ドゥーチェ……どうして死んでしまったの……」メソメソ

ペパロニ「こんな形でいなくなっちゃうなんてイヤだよう……」


カルパッチョ「ペパロニさん、お別れの前に、アンツィオの思い出になるものや、ドゥーチェの好きだったものを入れてあげましょ……」

ペパロニ「そうだな。そうしたら、姐さんもさみしくないもんな……」

カルパッチョ「ドゥーチェが好きだったお花……」スッ

ペパロニ「ドゥーチェとしてのシンボルだった、マント……」スッ

カルパッチョ「ドゥーチェの代でようやく買えたP40……本体はさすがに無理だけど……」

ペパロニ「せめて……よいしょ……砲弾だけでも受け取ってください……」ポイッ

アンチョビ(棺桶の中)「ッ!」ズシン
(※7キロくらいあります)

ペパロニ「それから、あたしは姐さんが好きだった鉄板ナポリタンを入れるよ……」

アンチョビ(棺桶の中)「!!?」

ペパロニ「まず! オリーブオイルはケチケチしな~い!」

ペパロニ「具は肉から火を通す~」ジュー

ペパロニ「今朝とれた卵をトロトロになるまで~」ジュワー

ペパロニ「ソースはアンツィオ高秘伝のトマトペースト!」

ペパロニ「パスタのゆで上がりとタイミングをあわせて~」グツグツ


ペパロニ「ハイ完成!」ホッカホカ

アンチョビ(棺桶の中)(え、え? 何が起こってるんだ???)

カルパッチョ「ドゥーチェ、心をこめて作りました。召し上がってください……」

ペパロニ「姐さん……天国でも、アンツィオの味を忘れないように……」

ペパロニ「ぜんぶ姐さんの顔にかけて、食べさせてあげますね……」ドバーッ

アンチョビ(棺桶の中)「~~~~~ッッ!!!!」ビクビクッ!!

カルパッチョ「ペパロニさん、ドゥーチェは、濃い味付けが好きだったよね……」

ペパロニ「ああ。名前のとおり、アンチョビも好きだったんだ。これも食べさせてあげよう……」ドバドバ

カルパッチョ「瓶ごと放り込んであげた方が、ドゥーチェもよろこぶわ……」ポイッ

アンチョビ(棺桶の中)「ゲホ! ゲホゲホ!!」ジタバタ!

カルパッチョ「ドゥーチェが好きだった赤ワイ……ゴホン! 大人の高級ぶどうジュースも入れますね」ドボドボドボドボ

アンチョビ(棺桶の中)「ガボガボゴボ!!!」ジタバタジタバタ!!

アンチョビ「う゛わ゛あ゛~~~~~~っ!! お゛がじい゛だろ゛お゛ま゛え゛ら゛あ゛~~~~っっ!!!!」ガバッ!

アンチョビ「な゛ん゛でだよ゛お゛~~~~~っ!!!! な゛ん゛でナ゛ポ゛リ゛タ゛ン゛な゛ん゛だよ゛お゛~~~~っ!!!!」


アンチョビ「……ハァ……ハァ……なんなんゲホ……! うう……ウエッ!」ビッショリ

カルパッチョ「ドゥーチェがよみがえった!」

ペパロニ「やったあ! 姐さんが帰ってきたぞ!!」

ワー! ワー! ヤッター!!

ドゥーチェ! ドゥーチェ!

ドゥーチェ! ドゥーチェ!

杏「ドゥーチェ! ドゥーチェ!」スタスタ

みほ「ど、ドゥーチェ、ドゥーチェ……」スタスタ


 < 『逆ドッキリ大成功!』 >


杏「だまされるアンチョビさんサイドにも問題がある」

みほ「その言い方、まれに見かけますけど理不尽ですよ……」

アンチョビ「お、お前ら全員グルか……!?」プルプルプル

ペパロニ「でも、あの涙にウソはないッス」


カルパッチョ「演技とわかってても、倒れたドゥーチェの姿を見たら胸がつぶれそうになりました……」

アンチョビ「うっ! そ、そりゃ悪かったが……」

カルパッチョ「もう、さみしい思いをさせないでください……」ギュッ

ペパロニ「もしも本当にこんなことになったら、あたしは……」ギュッ

アンチョビ「ご、ごめんよ……」ギュッ

カルパッチョ「それじゃ、いまから一緒にお風呂ですね♪」グイッ

ペパロニ「あたしが姐さんをパスタまみれにしたんだから、洗うのもあたしの役目ッス♪」グイッ

アンチョビ「えっ? いやそれはちょっと恥ずかしいからさすがに……ってオイ! なんで私をガッチリとつかんでるんだっ!」ガシッ!!

ペパロニ「フニクリ♪ フニクラ♪ フニクリ♪ フニクラ~~~♪」グイグイ

カルパッチョ「ドゥーチェのフニクリを、フニクラしちゃいます♪」グイグイ

アンチョビ「お、お前らどういう意味で待って待ってう゛わ゛あ゛~~~~っ!!」ズルズルズル


杏「いい感じにまとまってよかったね~」

桃「雨降って地固まるとはこのことだ」

みほ「ええ~~っ……」

柚子「勘違いしてほしくないのは、会長はイタズラ好きだけど、人の不幸を喜ぶ人間ではないということなの。ドッキリも最終的には笑い話になるような内容でしょ?」

杏「そ。結果的にうまくいったもんね。アンツィオの3人」

みほ「それはそうかもしれませんが……」

杏「ドッキリだから性質上、どうしても! どうしてもやむを得ずひどい目に遭うだけなの! ほんとうはこんなことしたくないんだけど……」ニヤニヤ

みほ「絶対うそです……」

杏「だいじょ~ぶだって~。次はマイルドにいくからさ~」


表向きのドッキリ内容:ビックリさせる
仕掛人(真のターゲット):ノンナ


杏「ドッキリの原点にして頂点」

杏「陰からいきなり……わッ! と飛び出る! シンプルでいいでしょ」

ノンナ「カチューシャには少々気がひけますが、より大きな喜びのための辛抱です」

ノンナ「プラウダの同志たちも、全面協力すると言ってくれました」

杏(ま、そりゃそうだ。黒幕がいるからね~)

みほ(カチューシャさんもイタズラ好きそうだからなあ……)

ノンナ「では作戦遂行の前に……これを用意します」イソイソ

みほ「なにかの着ぐるみですか?」

ノンナ「はい。我がプラウダのOGがかつて仕留めたという熊を模したものです」スッ

杏「うわあ……リアルな顔……」

みほ「ボコとは違う……ホンモノの熊っぽいですね」

ノンナ「では行ってきます」

ノンナ「フンフフ~~♪」


※BGM:カチューシャ(楽曲)

『ラ~スッヴェタ~リ ヤブラニィ グル~シ~~♪』

『パ~プウリィ~トゥ マ~ヌィ ナドリェコ~イ~~♪』
 
『ヴィ~ハ ヂ~イリャ ナ~ベリェク カチュ~シャ~~♪』

『ナ~ヴィ ソ~キ ベ~リェク ナックルト~イ~~♪』

ノンナ「~~~♪♪」

ガチャ バタン

みほ「……歌を口ずさみながら……」

杏「これだけでも貴重なシーンだね。ノリノリのノンナ」

杏「ま、これからもっと貴重なシーンが撮れるんだけど」



――プラウダ高校 戦車道練習場


ノンナ「きょうの練習はここまでです」

『ありがとうございましたーっ!!』

カチューシャ「……ふう。ニーナたちも、やっとカチューシャの足もと程度には近づいた感じね」

ノンナ「はい。大洗との戦い以降、さまざまな戦闘経験を積ませた効果が出つつあります」

カチューシャ「ただ、まだ命令に迷いが見られるわ。判断が遅れたその一瞬が命取りになるのよ」

カチューシャ「よく釘をさしておかないと。ノンナ、ニーナを呼んで」

ノンナ「それが……。ニーナはこれから入り用で、早々に帰ってしまいました」

カチューシャ「ふうん。用事ねえ……ならアリーナでいいわ」

ノンナ「……アリーナも一緒に出ていきました」

カチューシャ「じゃあクラーラはっ!?」

ノンナ「クラーラは……きょうは最初からいません」

カチューシャ「なによ! なんなのよまったく!!」

ノンナ「カチューシャ……実は私も用事があり、これから出なければなりません」

カチューシャ「はあっ? 何で!」


ノンナ「申し訳ありません……個人的なことですので……」

カチューシャ「なによみんなして……。フン……さみしくなんて、ないんだから……」ショボーン

ノンナ(ああ申し訳ありませんカチューシャ……。でも、これには理由があるのです)ゾクゾク
 

 みほ「ノンナさんの顔……すごく活き活きとしてますよね」
 杏「悪い顔だね~」ニヤニヤ
 みほ「会長がそれを言いますか……」


カチューシャ「どんな用事か知らないけど、早く帰ってきてよね」

ノンナ「それが……込み入ったことで……泊まりになりそうなのです」

カチューシャ「ええっウソでしょっ!? じゃあきょうはカチューシャがひとりなのっ!?」

ノンナ「申し訳ありません。今晩は我慢してもらうしか……おみやげを用意しますから」

カチューシャ「そう。わかった。わかったわよ! そうすればいいんでしょ! いいわよもう」ムスー

ノンナ「それでは私はこれで。出かける準備をしてきます」スタスタ

ノンナ(すねてるカチューシャもたまりませんフフ……)ゾクゾク


 みほ「ノンナさん、カチューシャさんの扱いを知り尽くしてますね……」
 杏「わがままを聞かされているようで、実はコントロールしているのは向こう側ってパターンだね」




 みほ「でもこれって、カチューシャさんの演技なんですよね?」
 杏「そう。そんなことノンナは知る由(よし)もないだろ~ね~」


――プラウダ高校 女子寮(カチューシャの部屋)

カチューシャ「はあ……誰もいないんじゃ……」

カチューシャ「ヒマね……」ゴロゴロ

ピリリリリ ピリリリリ

カチューシャ「うん? ノンナから電話?」ピッ

ノンナ『カチューシャ。いま寮にいますか?』

カチューシャ「え、ええ」

ノンナ『実は忘れ物をしてしまい……戦車の車庫にあるはずですから、行って取ってきてほしいのです』

カチューシャ「なによ! このカチューシャをあごで使おうっていうの!?」

ノンナ『大事なものなのです……お願いします』

カチューシャ「……まったく、しょうがないわね。ノンナはカチューシャがいないと何もできないんだから」

ノンナ『……感謝します』

カチューシャ「今回はカチューシャの優しさに免じてあげる。だけどね、いつまでも頼りっぱなしじゃダメよ?」


ノンナ『肝に銘じます』ピッ

ノンナ(熊)「……カチューシャがこちらに来ます」

クラーラ「承知しました。ノンナ、かぶり物の用意を」

ニーナ「おどろかせてやりましょう!」

アリーナ「やっちゃいましょう!」


コツ… コツ… 


クラーラ「来ました!」

ノンナ(熊)「…………」グッ

カチューシャ「はあ~あ、意外と遠かったわ……」ガラリ

ノンナ(熊)「ウ~ラアアアアッッ!」ガバッ!

カチューシャ「」

ノンナ「フフフ……私ですよカチューシャ……これはドッキ……」(熊の頭を取る)スポッ

カチューシャ「……がッ……! ぐッ……カヒュッ……」ドサッ

ノンナ「!?」


カチューシャ「あぎッ……うッ……苦し……」プルプルプル

ノンナ「カチューシャッ!?」

クラーラ「どうしましたカチューシャ様ッ!??」

ニーナ「胸を押さえているべ!」


 みほ「……これって」
 杏「ビックリしすぎて心臓発作ってこと」


カチューシャ「ヒューッ……ヒューッ……」ガタガタガタ

クラーラ「ただごとではありません……! ニーナ! あなたは救急車を!!」

ニーナ「ハイッ!」ダッ

クラーラ「アリーナは毛布をありったけ!」

アリーナ「は、はい!!」ダッ

クラーラ「ノンナもアリーナを手伝い……ノンナ!!」

カチューシャ「…………!」ビクッ ビクッ!

ノンナ「あうぁ……あ゛あ゛あ゛あ゛……っっ! ウソです……なんでこんなことに……」ポロポロ


ノンナ「ごめんなさい……エグッ……ごめんなさいほんとうにごめんなさい……」ポロポロ

ノンナ「私のせいだ……ヒッ ヒック……私がこんなことをしなければ……」ポロポロ

クラーラ「泣くのはあとです! 動きなさい!!」

ノンナ「う゛あ゛あ゛……ああカチューシャぁ……」ポロポロ

ニーナ「救急車来ました!」バッ!

クラーラ「急いで早く!」

バタバタ ガヤガヤ

クラーラ「私が付き添います。2人は……ノンナのそばにいてあげてください」

ニーナ・アリーナ『はいっ』

ブロロロ ピーポー ピーポー…

ノンナ「ごめんなさい……カチューシャごめんなさい……」ガタガタガタ

アリーナ「副隊長……」
 

プルルル プルルル


ノンナ「ッ!!」ビクッ!


ニーナ「ノンナ副隊長、電話だべ」

ノンナ「……クラーラからです。まさか……!!」ピッ

クラーラ『ノンナ……悪い知らせです。病院に着きましたが……』

ノンナ「ウソです……ウソですよ……ウソって言ってください……」ガタガタガタ

クラーラ「集中治療室に運ばれ、力を尽くしました。ですが……カチューシャ様は息を引き取ったそうです……」

ノンナ「あ゛あ゛あ゛あ゛……っっ! う゛あ゛あ゛あ゛あ゛~~~~っっ! 」ガタガタガタ

ノンナ「ウ゛ソ゛だ゛そ゛ん゛な゛こ゛と゛~~~~っっ!!!!」ガクッ!!


 杏「仮面ライダー剣(ブレイド)かな?」
 みほ「そういうコト言わないでくださいよ……ノンナさん不憫すぎです……」
 杏「ま、確かにそろそろ潮時だね~。クラーラちゃんよろしく~」


ノンナ「グス……ウグッ……ヒック……ウッ ウウウ……」

クラーラ『ノンナ……つらいことですが……カチューシャ様から最後のお言葉を預かっています』

ノンナ「言葉……!?」グスッ

クラーラ『はい……最後まであなたのことを気にかけ、力を振り絞って遺したものです』

クラーラ『カチューシャ様が言ったことをそのまま伝えます』


クラーラ『カチューシャはあなたを許すわ。だからノンナも自分を責めないでね』

ノンナ「う゛あ゛あ゛……私は……私は地獄に落ちるべきです……なんてことを……」ブワッ!

クラーラ『そしてもうひとつあります』

ノンナ「……?」グスグス

クラーラ『このドッキリは、すり替えておいたのさ!!!』

ノンナ「!?」

ガラッ!

カチューシャ(蜘蛛男コスチューム)「地吹雪からの使者、プラウダーマッ!」デッデデーン!

ノンナ「!!???」

ガラッ!!

アリーナ(蜘蛛男コスチューム)「戦車道世界チャンピオン、プラウダーマッ!」デッデデーン!

ニーナ(蜘蛛男コスチューム)「黒森峰(てつじゅうじ)キラー、プラウダーマッ!」デッデデーン!

クラーラ(蜘蛛男コスチューム)「ノンナを手玉に取る女、プラウダーマッ!」デッデデーン!

カチューシャ(蜘蛛男コスチューム)「実は全員が仕掛人、プラウダーマッ!」デッデデーン!

ノンナ「」


杏「ハイここで看板をドーン!」


 < 『逆ドッキリ大成功!』 >


カチューシャ「このカチューシャにドッキリだなんて100年早いのよ……ってノンナ!?」

ノンナ「カチューシャ……カチューシャぁっっ!!! 生きててよかった……!!」ダキッ!

カチューシャ「モゴ!!……苦し……!」ギュー

ノンナ「ハッ! ご、ごめんなさいごめんなさい……苦しませてごめんなさい……」ビクッ!

カチューシャ「怯えてるんじゃないわよ。カチューシャは健康。いままでのはぜんぶウソ。いいわね?」

ノンナ「はい……グスッ……私はカチューシャに一生ついていきます……」ポロポロ

みほ「ノンナさん……とりあえずハンカチを……」スッ

杏「もう顔じゅう涙と鼻水と……よくわかんないものも混ざってすごい顔だよ」

カチューシャ「まあノンナがここまでカチューシャのことを思ってるってのが分かったから、収穫ね」

クラーラ「ほんとうにノンナは、カチューシャ様のことが大好きですね」ニッコリ

ノンナ「はい……。これも、カチューシャが仕掛人だからこそです。私もやられ甲斐があるというもの」

ノンナ「……しかし、もしも違う人がやったなら殺しました。何度も殺すでしょう」


ノンナ「そして、死体を埋めた土に種もみをまき、そこから生えた麦でパンを焼いて食べます」ニッコリ

クラーラ(!?)

カチューシャ(えっ?)

杏(怖っ!)

みほ(ええ~~っ……)

ニーナ(お、おっかねえ~~~っ!)

アリーナ(あの目はマジだべ~~~っ!!)


桃「あのときのノンナはヤバかった……」ガタガタガタ

柚子「怖かったね、桃ちゃん……」ブルブル

みほ「だってネタがキツいですよ……マイルドなやつって言ったのに……」

杏「マイルドだとおもうよ? 用意したのは救急車1台ですんだわけだし。ほかの学校に比べたら低予算で仕込みができたから……」

みほ「予算がマイルドってことですかっ!?」

桃「それでもなかなかの内容だったろう? 泣くノンナという貴重な一面が見られた」

杏「つまりドッキリの面白さは、大がかりな仕掛けが必ずしも必要ないってこと」

柚子「アイデアと、演技力。この2つで意外となんとかなりますもんね」

杏「意外な人物がドッキリをやるとインパクトあるよね、西住ちゃ~ん?」ニヤニヤ

みほ「……どういう意味ですか会長?」

杏「ふっふふ~。それでは次いってみよ~」


表向きのドッキリ内容:メシマズ
仕掛人(真のターゲット):西住まほ


まほ「失礼する」

みほ「!?」

杏「黒森峰からお姉ちゃん参戦~」

みほ「ウソでしょ……!? お姉ちゃんがドッキリを……」

まほ「その先入観こそが、人間の心理につけこむところだ」

みほ「ふえっ?」

杏「ジョークが通じなさそうな人が仕掛人! このインパクトこそが醍醐味ということ!」

杏「まず副隊長の逸見エリカちゃんを食事に誘い、自宅に招待する」

杏「そこで出された手料理。実はなんの味も感じさせない特殊な調味料が仕込まれている!」

杏「わかりやすくゲテモノ料理とかじゃなくて、見た目はふつうなのがポイントだね」

まほ「まさか私がこんな企画を思いつくとは夢にも思うまいフフ……。では行ってくる」

ガチャ バタン

杏「まさか自分が対象だとは夢にも思ってなさそうな顔だウフフ……」

みほ「うう……身内がハメられるのはキツいよお……」



――黒森峰 女子寮(まほの部屋)


まほ「エリカ。身体の具合はもういいのか?」

エリカ「は、はいっ隊長。体調は万全です。ご迷惑をおかけしました」

まほ「フフ……ダジャレか?」

エリカ「い、いえ……そんなつもりじゃ……」

まほ「うちに来るので緊張している? 遠慮はいらない。私が望んだことだ」

エリカ「ですが、こんなにしてもらうなんて勿体ないです……」

まほ「この時期の風邪は治りにくいからな。ふたりで快気祝いといこう」


 杏「逸見ちゃんが風邪をひいてしばらく休んでた。ま、これがあとになって意味を持つんだけどね」
 みほ「エプロン姿のお姉ちゃん、意外と似合う……」


まほ「エリカが喜んでくれるといいんだが。ハンバーグだ」

エリカ「隊長の手料理! ありがとうございます!」パクッ

エリカ「ッ!?」

まほ「どうだエリカ。うまいだろう」


まほ「料理はあまり得意じゃなかったが、ハンバーグだけはたくさん練習したんだ」

エリカ「え、ええ……おいしいです」モグモグ

まほ「……どうした? 箸の進みが悪いな。まさか……」

エリカ「そんなこと! わたし、隊長にウソなんてついたことはありません!」モグモグ!


 杏「ちなみに、いま食べさせてるハンバーグはこれ」
 みほ「お肉のにおいさえ感じない……粘土みたいな食感だけ……」モグモグ
 杏「……なるほどこりゃひどい。わかっててもキツいね」モグモグ


まほ「……なあエリカ。私は無理をさせたり、心にもないことを言わせたくない」

エリカ「な、何を言っているんですか隊長……」ビクビク

まほ「顔でわかる」ジロッ

エリカ「ひッ!」ビクッ!

まほ「そんな顔で食べられても、うれしくない。私のハンバーグは失敗作だったと言え」

エリカ「や、やめてください、そんな言い方……」ガタガタ

まほ「ほんとうのことだろう! それとも、単に口に合わなかったということなのか!?」ダン!

エリカ「ご、ごめんなさい、ごめんなさい……」ビクビク


まほ「なぜ謝る。まずいモノを食べさせて、勝手に逆上して、ぜんぶ悪いのは私じゃないか!!」

まほ「私が悪いんだ! ああそうだ!!!」


 みほ「イヤすぎ……実際にありそうなすごく面倒な怒り方……」
 杏「お姉ちゃんノリノリだね~。ま、ふつう実生活で怒鳴り散らすチャンスなんてないからね」


まほ「ウソなんてついたことがないだと!? 笑わせるなっ!」

エリカ「……グスッ ヒッ ヒック……ごめ゛んなざい……」ポロポロ

まほ「他にも隠してることがあるんじゃないのかっ!?」

エリカ「エグッ、うぅ……実は……」

まほ「なんだっ!!」

エリカ「わ、わたし、もう……長くないんです……なおせない病気なんです……」ポロポロ

まほ「ん!? えっ!?」

エリカ「ほんとうは、風邪をひいてたんじゃないんです……!」ポロポロ

エリカ「風邪によく似た症状なんですけど……発熱があって……少しずつ体力が消耗して……」ポロポロ

エリカ「その繰り返しで……。だんだん身体の機能が衰えて……」ポロポロ

エリカ「味覚とか……感覚がおかしくなって……五感が失われて……」ポロポロ


エリカ「最後には記憶も意識も薄まって……息もすることも難しくなって……」ポロポロ

エリカ「そっ それがっ! 発症してから半年の間に起こるって……!」ポロポロ

まほ「」


 みほ「実際にこんな病気、あるんですか?」
 桃「実在はしないが、架空の病気として存在するらしい。『ヴァリアビリテートウ・フルミナント・コネーゲネ・クランクハイト』という病名だ」
 柚子「日本語だと『変異性劇症膠原病(へんいせい げきしょう こうげんびょう)』と表記されるそうよ」
 杏「『銀河英雄伝説』の主人公のひとり、ラインハルトがかかった病気だね。ちなみに味覚が消えるっていうのはここだけの設定」


エリカ「隊長がつくってくれたハンバーグ……おいしいです……ほんとうにおいしい……」モグモグ

まほ「お、おい……エリカ待て、実はそれ……」

エリカ「おいしいのに……エグッ ヒッ ヒック……おいしいはずなのに……!」

エリカ「味がわからない! なにもわからないんです…………!!」ポロポロ

まほ「」ダラダラダラ


 杏「さあ~。いまさら料理のドッキリだとは言えないよ。病気のことを知ってしまったからには、あともどりはできない!」
 みほ「お姉ちゃん……あんなに余裕のない顔初めて見た……」


エリカ「うう……グスッ……み、味覚がないってことは、脳がやられはじめたって……」

まほ「す、すまないエリカ……。そんなことだったとは……」

まほ(ウソだろう……ここで人の秘密を知るなんて……)

エリカ「……隊長にお願いがあるんです……!」

まほ「な、なんだ!? 私にできることがあれば言ってくれ。できる限りのことは尽くしてやれるかもしれない!」

エリカ「隊長……!」ギュッ

まほ「う、うむ……なんだ」ギュッ

エリカ「抱いて、ください」

まほ「……こ、こうか……?」ダキッ

エリカ「そういう意味じゃありません!!!」ガシッ! グイッ!!

まほ(私の手をつかみ、エリカが自分の胸に当て……まさか……!!)ダラダラダラ

エリカ「ちょくせつ、さわって……ください……」ウルウル

まほ「お、女同士だぞ……!!? エリカまさか」

エリカ「ちがうんです。ただ、わたしの心臓の音。肌のぬくもり……」


エリカ「こんな身体だけど……いっぱいさわって、それを覚えていてほしい……。わたしのこと、わすれないでほしいんです……」


 みほ「重い……そしてキツい……」
 杏「恋愛とかそういうのじゃなくて、生存本能からやってくる性感情かあ……これはお姉ちゃん拒めないなあ~」


ヌギヌギ ヌギヌギ

パサッ…

まほ「あっ、お、おい……エリカ……!」

まほ(エリカが……下着だけの姿に……)

エリカ「隊長…………きて」ゴロン

まほ「ハァーッ……! ハァーッ……!」ドッドッドッド……!!

まほ(やるのか……!? ほんとうにやってしまうのかっ……!!?)

エリカ「1度だけでいいんです……わたしに、思い出をください……」

エリカ「どんなこと、してもいいですから……」

エリカ「痛いことでも、苦しいことでも、隊長だったらいいかな……いえ、わたし、そっちのほうがうれしい……」


エリカ「隊長……これを」スッ

まほ「な、なんだ……!? 小さな箱のようだが……何が入ってるんだ……!??」ビクッ!

エリカ「開けてみてください」

エリカ「そして、それをつかって……」

エリカ「わたしをめちゃめちゃにして……!!」

まほ「…………!!」ゴクリ…!

まほ(も、もうだめだ……エリカの目はマジだ……!)

まほ(いったい中に何が……! いや、覚悟を決めるしか……!)ドッドッドッド

まほ(……ぐッ! ううっ……ぐぅがあああっ……!!)ドッドッドッド

まほ(…………お父様、お母様…………お許しください)

まほ(私の初めての相手は、どうやら同性になりそうです……!!)

まほ「南無三!!!」パカッ!


 < 『逆ドッキリ大成功!』 >


まほ「…………」


まほ「…………え?」

杏「ハイここで看板をドーン!」スタスタ

みほ「お姉ちゃん、ご、ごめんね……全部ウソなの……」スタスタ

エリカ「隊長の苦悩と葛藤、そして覚悟。確かに見せてもらいました」

まほ「~~~~ッッ!!」ヘナヘナ…

みほ(ボーゼンとしてる……)

杏(……ちょっぴりやりすぎちゃったかな?)

まほ「…………エリカ」ボソッ

エリカ「はいッ……!」ビクッ!

まほ「…………無事でよかった。病気はウソなんだな……」グスッ

エリカ「えっ!? え、ええ……もちろんです」

まほ「怖かったぞ……ホントに怖かったんだからな……いろんな意味で…………」グスッ

エリカ「ご、ごめんなさい隊長……」

まほ「……エリカ」

エリカ「……はい」

まほ「その……もうドッキリが終わったなら……服を着てほしいんだが……」プイッ

エリカ「~~~~ッ!!!」バッ!!

杏「いや~、逸見ちゃん迫真の演技だったね。まさかあのまま放っといたらマジでおっぱじめ……」

エリカ「バカッ! そんなわけないでしょう!!」カアア

みほ(もしそうなったら、わたし耐えられなくて逃げ出しちゃったかも……)


杏「西住流後継者といえども、やっぱり人間だったね」

柚子「うろたえたり、泣きそうだったり、恥ずかしがったりと、意外な一面が見られましたね」

みほ「いやいや誰だってそうなりますよ……」

杏「でもさー、そもそも西住ちゃんのお姉ちゃんがドッキリやりたいっていうのが意外だったでしょ?」

みほ「え、ええ……まあ……」

杏「実はね~、もうひとり意外な人物からのご依頼があってね~」

みほ「だ、誰ですか……!?」

杏「西住ちゃんもよ~く知っている娘。ま、それが真のターゲットになるんだけど」


表向きのドッキリ内容:家出
仕掛人(真のターゲット):島田愛里寿


みほ「愛里寿ちゃんッ!?」

愛里寿「…………うん」コクリ

杏「再び大洗女子学園にようこそ!」

みほ「どうしてこんなことを…………」

愛里寿「13歳の女の子って、ふつうは親への『反抗期』があるらしい」

愛里寿「でも、私にはない。だからどんなものか経験してみたいの」

みほ「反抗期って自分から始めて自分から終えられるものだったっけ……?」

杏「まあまあ~。本人がやってみたいっていうんだから、ねっ!」

みほ「絶対楽しんでる……」

柚子「というわけで、愛里寿ちゃんにはお母さんに対して、もう戦車に乗りたくないと反発してください。そして、編入する先は戦車道のない高校に通いたいという旨の話をしてもらいます」

杏「さぞかしショックだろうね~。愛里寿ちゃん、親子ゲンカの経験は?」

愛里寿「……ない。でも、ふつうの女の子は、親を困らせるものらしい」

愛里寿「私、お母様を困らせてみたい」


柚子「ケンカ別れの後しばらくの間、ほんとうに高校生活を過ごしてもらって、ほとぼりが冷めたら帰宅。ネタばらしとともにお母さんと仲直りという段取りです」

愛里寿「…………がんばる!」フンス

みほ(……これ逆ドッキリってことは、真の依頼人はまさか……)ヒソヒソ

杏(そう。島田流の家元さん)ヒソヒソ

みほ(ええ~っ……)

杏(愛里寿ちゃんの困った顔が見たいそうだよ)ヒソヒソ

みほ(こんなところで親子が似るなんて……)


――島田家 自宅


愛里寿「お母様。大洗女子学園に行ってきましたが、あそこに転校するのは取りやめました」

千代「そう。それが愛里寿の答えなのね」

愛里寿「次の転校先を選ばなくてはいけません。それで、できれば……」

千代「?」

愛里寿「私……次は戦車道のないところがいい」

千代「えっ!? 何を言うの?」

愛里寿「……もう戦車に乗りたくありません」

千代「ど、どうして……」

愛里寿「ちょっとだけでいいから、普通の女の子として過ごしてみたいんです」

千代「愛里寿、あなたどうしちゃったの……」

愛里寿「いままでお母様のために頑張ってきましたが、私には私の人生があるから」

千代「なんですかその言い方は! 島田の家に生まれたからには……」

愛里寿「お母様は家のことばっかり! 私のことも、西住流をやっつけるだけの手駒だと思ってる!!」

千代「なッ……!」


愛里寿「私……お人形じゃないもん!」

千代「ちょっと待ちなさい!! 話を聞きなさい!!!」

愛里寿「私には何もない! あるのは戦車の知識と技術だけ!!」

千代「えっ……!?」

愛里寿「同じ年頃の子がどんなおしゃべりをしてて、どんな服が流行ってるかもわからない!!」

愛里寿「それで……グスッ……家柄を続けるためだけの人生が決まってて……」ポロポロ

愛里寿「ふつうの生活も、なにもかも、ヒッ ヒック……私には一生縁のないものなんだぁ……」ポロポロ

千代「愛里寿……そんなことないわ……そんなことないのよ……!」


 みほ「……ほんとうに演技? 愛里寿ちゃん……」
 杏「こんなこと言われたらショックすぎるよねえ」


千代「……愛里寿がそんなに思いつめていたなんて……!」

愛里寿「私、ぜったい戦車には乗りません! 乗りたくありませんっ!!!」ダッ!

千代「愛里寿ッ!? どこへ行くのッ!!?」

愛里寿「どこへだっていいでしょうっ! しばらく家には戻りませんから!!」ガチャ バタン!!



 みほ「愛里寿ちゃんが叫んでるだけでもうショックなんですけど……」
 杏「レアなシーンだね~。ま、年相応な感じもするけどね」
 みほ「ところで、転校先ってどこなんですか?」
 杏「東京の陣代(じんだい)高校ってとこ」


――都立陣代高校

『……というわけで転校生を紹介します。島田愛里寿さんです』

愛里寿「よろしくお願いします」ペコリ

パチパチパチ

愛里寿(お母様……すごくショックな顔してた……)

愛里寿(ここでの学校生活が終わったら……謝らないとだめだよね)

『では、朝のホームルームを始め……』


 チュドーーーン!!!


愛里寿「!?」

『なんだっ!?』

『何が起こったっ!?』


『2年の相良宗介(さがらそうすけ)のしわざだっ! また下駄箱を爆破したぞっ!!』

愛里寿「爆破!!?」

『コラーッ! 宗介ーっ!!』ダダダッ!

千代(制服)「転校生を驚かせちゃだめじゃないのーーっ!」スパーン!

愛里寿「ん? えっ!?」

千代(制服)「あなたが転校生の島田さんね! 天才少女ってウワサの!」

千代(制服)「わたし、千代鳥(ちよどり)かなめ! ヨロシクね!」

千代(制服)「高校2年、17歳よっ♪」

愛里寿「」


 杏「うわあ……」
 みほ「うわあ……」


愛里寿「お、お母様……なんで……?」ガタガタガタ

千代(制服)「なんのこと? それより、学校を案内するわ、ついてきてっ!」

愛里寿「い、いや……」ガタガタガタ


愛里寿「私、ほかの学校に編入するッ!!」ダッ!


 杏「あ、逃げた」
 みほ「そりゃそうですよ……何の罰ですかこれ……」
 杏(ま、逃げられないんだけどね)


――岩鳶(いわとび)高校


愛里寿「ハァ、ハァ……」

愛里寿「あれは何……悪い夢!?」

『あら、あなた、見学の子?』

愛里寿「えっ?」

千代(水着)「それとも、水泳部のマネージャー希望かしら?」クルリ

愛里寿「」

千代(水着)「わたし、水泳部の顧問の千代方美帆(ちよかた みほ)。みんなからは千代ちゃん先生って呼ばれているわ」

千代(水着)「ちなみに、元グラビアアイドルだったの♪ でもまだまだイケるでしょ?」クネクネ

愛里寿「ウグッ」(不整脈)


千代(水着)「さ、島田さんも一緒に泳がない?」

愛里寿「わ、私が戦車に乗らないと言ったせいで……お母様が壊れた……」ガタガタガタ

愛里寿「ああ、あああ…………」ガタガタガタ

杏「限界だね、行こう」

みほ「愛里寿ちゃん大丈夫!?」


 < 『逆ドッキリ大成功!』 >


千代(水着)「ドッキリとはいえ、娘にあんなこと言われたんです。少々刺激を強めにしました」

愛里寿「お母様ごめんなさい。ほんとうは戦車だいすきです……」

愛里寿「だから……だから早く着替えて……私が悪かったから……」グスッ

みほ(愛里寿ちゃんの心に消えない傷が……)

杏(家元さんのコスプレ自体は単なるストレス解消だよね絶対……)


杏「複数の学校を巻き込むなんて、さすが家元さん。スケールが違う」

みほ「単にいろんな服を着たかっただけでは……」

杏「けど正直キツかったね」

みほ「わたし、目と心が痛かったです」

柚子「水着がビキニじゃなかったのが、せめてもの救いでしたね」

桃「そういえば……以前あの家元さん、私の水着をどこで買ったかやたらと聞いてきたな」

みほ「!?」

杏「一歩遅かったら、もっと恐ろしい目に遭っていたかもね……」

みほ「愛里寿ちゃんの今後の人格に影響が出なきゃいいけど……」

杏「や~ってやる や~ってやる やあ~ってや~るぜ~♪」

杏「し~まだ あ~りすを ボ~コボコに~~♪(精神的な意味で)」

みほ「ソレ本人の前で歌わないでくださいねっ!?」


杏「さて、これで依頼のあった学園艦はぜんぶ終了」

みほ「よ、ようやく……。疲れた……」

桃「さすが会長です。みんな楽しんで、大成功を収めましたね」

みほ「ほんとうにそうかなあ……?」

杏「ま、ちゃんとフォローは入れるから」

柚子「協力してくれた各学園艦には、あとでお礼として心ばかりの品を贈ることにしたの」

杏「こんな感じのラインナップだよ」


・聖グロリアーナ:漫画「だぁ!だぁ!だぁ!」全9巻

・サンダース大付属:紙おむつ

・アンツィオ高校:大人の高級ぶどうジュース

・プラウダ高校:救心

・黒森峰女学院:ハンバーグ(レトルト)

・島田家:大人用ボコパジャマ


みほ「ケンカ売りすぎですよ!!!」



おしまい


おまけ
普通のドッキリ「もしも秋山理髪店がとても威勢のいい床屋さんだったら」


エルヴィン「むう……髪が伸びてきたな……」

エルヴィン「そういえば、グデーリアンの家は床屋だったな。よし、せっかくだからそこで散髪してもらおう」

エルヴィン「ごめんくださーい」ガラッ

おりょう「ヨッ♪イヨッ♪(太鼓を叩く)」ドコドン! ドコドン!
カエサル「ハッ♪ハッ♪(太鼓を叩く)」ドコドン! ドコドン!
佐衛門佐「(ほら貝を吹く)」フォオオ~~♪ フオオオ~~♪

淳五郎「いらっしゃーーい!!」

好子「いらっしゃいませーーっ!!」

優花里「ようこそいらっしゃいましたエルヴィン殿!!!」

エルヴィン「!!?」

淳五郎「ささささ座って座って座って!」グイグイ

好子「ハイハイハイハイ布かけかけかけ!!」ファサー

優花里「シャンプーシャンプーシャンプーシャンプー!!!」ダバダバ

『ヨイショヨイショ! ヤレヤレ!! ヨイショヨイショ! ヤレヤレ!!』ワシャワシャワシャワシャ


エルヴィン「」ワシャワシャワシャワシャ

おりょう「ヨッ♪イヨッ♪(太鼓を叩く)」ドコドン! ドコドン!
カエサル「ハッ♪ハッ♪(太鼓を叩く)」ドコドン! ドコドン!
佐衛門佐「(ほら貝を吹く)」フォオオ~~♪ フオオオ~~♪

優花里「ハイハイハイハイすすいですすいで!」ジャバー

エルヴィン「ガボガボゴボ!!!」

『ハイもう一丁! ヨイショヨイショ! ヤレヤレ!! ヨイショヨイショ! ヤレヤレ!!』ワシャワシャワシャワシャ

エルヴィン「~~~ッッ!!!」ワシャワシャワシャワシャ

優花里「ハイもう一丁すすぎ~~~~ッ!!!」ドバーーッ

エルヴィン「ガボガボゴボ!!! ガボガボゴボ!!!」

淳五郎「タオルタオルタオル!!!」ゴシゴシゴシゴシ

好子「ドライヤードライヤー!!」ゴゴーーッ

優花里「ハイハイハイハイブラシブラシブラシ!!!」バババッ!!

エルヴィン「~~~ッッ!!!」ジタバタジタバタ

淳五郎「一丁上がりーーーッ!!!」


おりょう「ヨッ♪イヨッ♪(太鼓を叩く)」ドコドン! ドコドン!
カエサル「ハッ♪ハッ♪(太鼓を叩く)」ドコドン! ドコドン!
佐衛門佐「(ほら貝を吹く)」フォオオ~~♪ フオオオ~~♪


 < 『ドッキリ大成功!』 >


エルヴィン「……ハァ……ハァ……ゲホ……」ビッショリ

優花里「いかがでしたか? 秋山流の粋を尽くしたサービスです!」

エルヴィン「ぐ、グデーリアン……」ヨロヨロ

優花里「なんでしょう?」

エルヴィン「……髪……洗っただけで……切ってないぞ……」バタッ

優花里「ウフフンwww」

佐衛門佐「そこかwww」

カエサル「真面目www」

おりょう「律儀ぜよwww」

おまけ2
普通のドッキリ「もしも知波単学園が経営する戦車喫茶があったら」


『いらっしゃいませー!』


優花里「ケーキセットで、モンブランを。ドリンクはホットコーヒーで」

沙織「和三盆をつかった限定和風ケーキにしよっと」

麻子「……季節のフルーツタルト」

華「米粉のシフォンケーキと、和風ティラミスと、抹茶ロールケーキをお願いします」

店員「かしこまりました! 少々お待ち下さい!」ダッ!

…………

……



店員「和風ケーキのお客様ー!」タタタ

沙織「あ、はい。わたし……」

店員「突撃ーーッ!」ブン

沙織「うムグッ!!?」ベシャア!


優花里「武部殿ーーーーッ!!」

沙織「」ベットリ

麻子「あ、ああ……沙織の顔がいろんな色のクリームまみれに……」

店員「季節のフルーツタルトのお客様」

麻子「」ガタガタガタガタ

店員「突撃ーーッ!」グワッ

麻子「ッ!」ベシャア!

華「3つ頼んだ私は、3回ブチ込まれるというわけブフウッ! ウグウッ!! ムグウッ!!!」ベシャア! ベシャア! ベシャア!

店員「突撃ーーッ!」グワッ

優花里「オブェッ!」ベシャア!

優花里「ああ……せっかくの外出用のお洋服がぁ……」ベットリ

沙織「ちょっとちょっと! おかしいでしょ!!」ベットリ

華「(無言でクリームをなめる)」ペロペロ

麻子「」ベットリ


沙織「なにしてくれるのよもー! 店長呼んできて!!」

絹代「はっ! わたしが店長の西でありますが!」ビシッ!

沙織「あなたねー! どーしてくれるのよ! 顔も服も台無しじゃない!!」

絹代「はあ」

沙織「こんなことになっちゃって! 弁償してくれるんでしょうね!!」

絹代「べん……何でありますか?」

沙織「弁償よ! べ・ん・しょ・う!!」

絹代「と・つ・げ・き? 突撃でありますか!?」

絹代「かしこまりました! いよしっ! 吶喊(とっかん)!!」


 ドンガラガッシャーーーーン!!!


優花里「うおああーーっ!! 九七式戦車が壁をブチ破ってーーーーっっ!!?」

麻子「危ないってレベルじゃないぞ!?……って、車体に何かが書いてある……」


 < 『ドッキリ大成功!』 >


華「(死んだ目でクリームをなめる)」ペロペロ

絹代「突撃のご注文、入りました! それではごゆっくり!!」ビシッ!

沙織「やだもー! 二度と来ないわよーーッ!!」


おまけ3
一方そのころ西住家では


まほ「お母様……島田流の家元がコスプレをしたというのは私の耳にも入っています」

まほ「ですがっ!!」

しほ(ピッチピチのコスチューム)「何ですか、まほ」

まほ「張り合う必要はないじゃありませんかっ!!」

まほ「それに、なんでよりによってモリガンなんですっ!! 確かに髪型は少し似てますけどっ!!」

まほ「それを目の当たりにした娘の気持ちも考えてくださいっ! 視界に入るとツーンと目にしみます!!」

しほ(ピッチピチのコスチューム)「まほ。これはあなたにも関係があります」

まほ「どういうことですかっ!?」

しほ(ピッチピチのコスチューム)「あなたも一緒にモリガンになるということです」

まほ「!!?」

しほ(ピッチピチのコスチューム)「これを見なさい」スッ


< 『モリガンの担当声優一覧』 >

・神宮司弥生

・佐久間レイ

・井上喜久子

・冬馬由美  ←

・田中理恵  ←



まほ「」

しほ(ピッチピチのコスチューム)「つまり西住流は、モリガン道につながっているといっても過言ではありません」

まほ「いや過言でしょうよ……なんなんですかモリガン道て……」

しほ(ピッチピチのコスチューム)「さあ、早くこれを着なさい」ズイッ

まほ「い、イヤです……! お母様の言いつけといえどもそれだけは無理です……!」

しほ(ピッチピチのコスチューム)「きょうは久々にお父様が早く帰ってくる日。これで出迎えてびっくりさせましょう」

まほ「どこの世界に妻子(おやこ)揃ってサキュバスの格好して出迎える家庭があるんですかっっ!!!」



ほんとにおしまい


以上です
ガルパンの劇場版が、レンタル店にも並びはじめましたね


過去作↓

みほ「プロ戦車道1日訓練?」
みほ「未公開シーン?」

みほ「笑ってはいけない西住流?」
みほ「笑ってはいけない西住流の未公開シーン?」

みほ「○んしゃ道?」
みほ「ガンシャ・ウォー!」

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