穂乃果「戦国μ's」 (747)


中二を極めるよ

地の文

時代考証?そんなの知らないぜ!


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静かで美しい日本庭園

どこか気品のある、侘び寂びを感じさせるその風景を見ながら、2人の男が真剣な面持ちで会話をする


武蔵国の彼の国の様子はどうか?

最近急速に勢力を拡大していると聞く


はっ、突如として現れた勢力ながらなかなかの戦力を有しております

その上、野心隠すことなく周辺諸国との戦も多いと聞きます


上杉も苦戦しておるとの事

早めに潰さねば危険か…


相手の戦力はどうか?


はっ、主な戦力は9名の姫武将にございます


うむ、噂の見目麗しき姫武将か


まず、筆頭に挙げられるのはやはり「金色夜叉」絢瀬絵里

オロシヤ国の血を引き、黄金のたてがみを持つ者です

武勇、知略ともに優れ、緻密な戦術で冷徹に敵を駆逐する、その名の通り夜叉のような恐ろしき武将と聞きます



美しき金色の夜叉か

恐ろしいものよ


続くは剣豪、園田海未

主君に対する忠誠は家中随一、自らの命すらも主君の為なら容易く差し出すと言われております

常に主君の側に寄り添い、事が起こればたちまちに敵を討ち滅ぼす

その姿を見た者は「鬼園田」と呼ぶそうな


鬼の名を持つ姫とは

よほどの腕前と見える


騎馬隊の主力は「流星」星空凛

その速さは坂東一

誰も彼女の部隊には追いつくことすら能わず

打撃力、突破力も言うに及ばず

故に「流星」


騎馬の力を存分に発揮する

恐れを知らぬ猛将か


曲者も揃っておりまする


先ずは矢澤にこ

武将としては一見目立った手柄はありませぬ

しかし矢澤は今までの戦いの中で、ただの一度も敗北したことが無いと聞きます

どのような劣勢であろうと必ず形勢を立て直し、敗北する事なく戦闘を終えるのです


聞き及んでおる

「不敗の矢澤」

敵に回すと厄介な将であるな


忍を統率する「月夜の東條」こと東條希も厄介な存在です

既にかなりの数の忍を各国に送り込んでおり、全ての情報は筒抜けとも言われておりまする

戦闘においても権謀術数に秀でており、一筋縄ではいかぬ相手との事


謀こそ戦国を生きる術

忍の頭領としての器量もあると見える


奉行衆も非常に優秀です


筆頭奉行は西木野真姫

非常に豊富な知識を持つと聞きます

特に外交手腕は見事なものがあり、多くの国々との窓口となっております

政の中心であると同時に戦闘時には軍師として従軍する事もあり、知の要と言えます


西木野は知っておる

あの小娘にはいつか痛い目を食らわせてやるわ


勘定奉行なる新たな役も設けておるようで南ことりがその任に就いております

この南が中々のやり手で国内に商人衆を呼び寄せては定期的に市を開き、若者に新たな流行り物を見せては銭を稼ぐ

商人衆はただ同然で商売ができるとの事で城下はかなりの賑わいを見せておるとの事


銭の流れは人の流れ

逆もまた然り

商人衆を味方につけるか


そして郡奉行の小泉花陽

彼の国の特徴の一つに郡奉行の地位が高い事が挙げられます

そのためこの小泉の着任以来急速に開墾や治水が進み、元々の湿地帯が今では見渡す限りの水田地帯となっております

戦の継続には米が必要ですが、その米が蔵に収まりきらぬほど溢れているとか


急速な領土拡張には理由があるという事か

何やら農民共が新たな方法での作付けも行っておるとも聞く

中々の智慧者揃いの奉行衆であるな


して、その強者どもを束ねる高坂とは一体何者だ


高坂穂乃果

謎多き者でございます

戦働きは目を見張るものがありますが、絢瀬や園田のような圧倒的なものではありませぬ

内政にしても奉行衆に委任しておる様子で自らは方針の指示を行うのみと聞き及びます


なるほど、ただの神輿という事か

しかし、それでは家臣団の忠誠の高さの説明がつかぬ


その通りでございます

高坂の最も恐るべきは、その天然の人誑しの力にございます

例え敵将であろうとも彼女に会うとその場でひれ伏し召し抱えを願うとか

事の真偽は不明ですが、彼の国が急速に勢力を拡大出来ているのは、敵国武将をまるで旧知の友のように扱える、彼女の力が最も大きいと思われまする


徳で国を治める

治世の世であれば良き臣であったであろう

だが今は乱世

再び足利の名にて天下を治めるため、早めに叩いておくか


男のその一言を合図としたかのように、俄かに屋敷内が騒がしくなる


「何事か!」

声に合わせる様に、伝令と思しき者が興奮した様子で部屋の前に走り寄り報告を行う

「敵襲!利根川周辺地帯で交戦!!」

「敵方の勢い凄まじくお味方の砦は次々と降伏しております!」


「な、この古河公方に対して攻め入るとな?」

「どこの不届きものじゃ!」

「旗印は?」


「μ’s(みゆうず)!」

「高坂九将揃い踏み時のみ掲げられる旗印!!」


「んなっ?高坂…!」


利根川沿いに布陣する音ノ木軍

その中で一際目立つ橙色の軍旗が総大将、高坂穂乃果その人である


「いけー!私達も突撃だ〜!」

意気揚々と号令をかけようとする横で黒髪の少女、園田海未がその姿勢を諌める

「こらっ!穂乃果!総大将がいきなり突撃してどうするのですか?」


続いて隣に控える赤髪の少女、西木野真姫も口を開く

「そうよ、あなたの部隊は本隊なんだから、もう少し待ちなさい」


2人に注意された穂乃果は頬を膨らませ

「ぶー!だっていっつも凛ちゃんとか絵里ちゃんばっかり!」

「私も一番槍したい!」

子供のような我儘を口にする


その後ろからまさに小鳥の囀りのような声の持ち主、南ことりがどこかのんびりとした口調で

「でも今日はにこちゃんと希ちゃんの部隊が一番槍だね」


更にもう1人の愛らしい声の持ち主、小泉花陽が続く

「利根の渡河作戦だから、強力な足軽隊のにこちゃんと地理の情報を持つ希ちゃんが要なんだ」

「凛ちゃんと絵里ちゃんの部隊は陽動ってことだよ」


そのような言葉など全く耳に入らぬようで、穂乃果は

「早く穂乃果も出撃したーい!!」

余計に駄々をこねる始末

そのようなやり取りをしていると、本陣に伝令が駆け込んでくる


「矢澤隊、東條隊共に渡河成功!」

「敵側面より攻撃を開始しました!」


この報せを受け、真姫は号令をかける

「よし!ことり、花陽、弓隊で側面支援」

「斉射後凛とエリーの部隊は即時渡河!」


色めき立つ音ノ木本陣

「私は!?」

「穂乃果と私の部隊の出番はその後よ」


「古河御所まで一気に進んで古河公方を討つ!」

「海未、穂乃果を頼んだわよ」

「命に代えても!」


「それじゃあ穂乃果、命令を」


総大将、高坂穂乃果は声高らかに号令をかける


「よーし!全軍、作戦開始!!」

「目指すは天下統一だー!!」


これはゲームの世界に閉じ込められた、九人の少女達の物語

脱出する方法はただ一つ



天下統一




本日ここまで


少数対多数

撤退戦

籠城戦

攻城戦

を予定しています


再開します



金色の夜叉は戦場で舞う


「佐竹が音ノ木の軍門に降りました」

屋敷の奥の暗がりの中、蝋燭が揺らめく部屋で報告を受ける一人の男

男の名は会津一帯を治める「蘆名盛氏」


盛氏は静かな部屋の中で考えを巡らす


古河公方、そして幕府に与する勢力の掃討を終えた高坂家はその勢いのままに佐竹氏攻略を開始

筑波山を挟み南側の土浦城と西側の下館城を拠点とし、双方より侵攻

周辺諸国との微妙な関係も利用され「鬼義重」率いる佐竹家は降伏を余儀なくされた

名門佐竹氏が高坂家に降るという事は、北関東の覇権はほぼ手中に収めたという事である


この戦いで軍功を挙げたのは、やはり家中随一の猛将、「金色夜叉」絢瀬絵里であった


そして佐竹家の領地と家臣団を手中にした高坂家の次なる目標は奥州である事は明白

その入口とも言える会津を支配する蘆名盛氏

謀にも長けた盛氏は高坂家との激突を前にして一つの計略を仕掛ける事を決意


その相手は『金色夜叉』絢瀬絵里

内部からの切り崩し、しかも家中随一の将を落とす為の策を放つ


絢瀬絵里は上機嫌であった


この不思議なゲームの世界にやって来てからというもの彼女の好物のチョコレートを食べられないという不満が蓄積されていたのだが

つい先日偶々知り合った自分のファンを名乗る女性から金平糖なる菓子を貰った


これがとても気に入ったと言ったところ、ちょくちょく顔をみせるようになった彼女は、

お土産と称して菓子を持って来てくれるようになった

偶に友人だという者も一緒に連れて来るようになって、更にお土産が増え、甘い物が好きな絵里は礼として歌や踊りを披露するようになり、

何だかライブをしている様な気になれて、とても幸せになれた


この事は仲間達には内緒にしてある


何故ならこの菓子類は中々手に入れるのが骨らしく、量が無い

彼女は商人の娘という事で特別に手に入れられるが、その苦労は絵里のためであればこそと言う

この好意と甘い物への誘惑に勝てなかった絵里はその条件を呑んだ

その代わりと言っては何だが彼女が求めるままに歌を披露する様になった

お互いが納得する条件での取引は成立し、この関係が続いているのである


この秘密の関係というのがまた心に高揚感を生んだ

μ’sの仲間にも、親友の東條希にも打ち明けていない


少し悪い事をしていると言った気持ちもまた、真面目な絵里には初めての体験で、

益々のめり込む要因となっていた


「〜♪♪」

こんな風に自然と鼻歌も出てくるくらいに機嫌よく歩く絵里に声を掛ける少女

「えりち!ご機嫌さんやね?」

絵里の親友、東條希である

「希!どうしたの?」

菓子よりも好きな希の登場で更に絵里の機嫌は良くなる

「今日はお天気も良いし、戦いもひと段落ついたし、希にも逢えたしでとっても良い日だわ!」

すると希は顔を赤くして

「ちょっと…えりち!人が一杯いるんやから、あんまり大きい声で恥ずかしい事言わんとってよ」

嬉しいけど、と付け加え顔を赤くして抗議する


「あら?私何かおかしな事いったかしら?」

首を傾げる絵里に

「むー!えりちのアホ!タラシ!ポンコツ!」

希はプイと顔を背けそのまま1人で歩き出す

「え?な、何?私何したの?の、希ぃ!」

慌てて希の後を追いかける絵里



とても平和な日常の裏で、計略の毒は絵里を蝕んでいく


その事が発覚するのは、数日後の評定の席の事である


「これより評定を執り行います」


海未の宣言により、音ノ木の評定が始まる

筆頭奉行の真姫が後を引き継ぎ

「では先ず現在の周辺国の状況から『あいや!待たれい!』」

声をあげたのは、先日正式に高坂家に臣従を誓った佐竹義重である


「義重さん、何か?」

話を遮られたため、少し不機嫌な様子の真姫の言葉を追いかける様に全員の視線が義重に集まる

「末席より失礼つかまつる」

「つい先ほどの事、我が家臣が蘆名の忍を捕らえました」

その言葉に家臣団は騒めく


それもその筈、次の攻略対象は蘆名である事は誰の目にも明白

その蘆名からの忍、どの様な情報をもたらされるかで今後の戦略方針にも関わってくる


「その報告は先程聞いています、佐竹殿、ご苦労様でした」

海未が義重に労いの言葉をかける

「恐悦至極」


深々と頭を下げつつ義重は状況の分析を行っていた


『家臣達は幾分動揺が見られたか』

『しかし流石の姫武将たちよ、男どもの動揺に比べれば落ち着いたものだ』

『特に高坂穂乃果、全く表情にも出さぬ、大したものだ』


その分析の通り、高坂穂乃果は全く動じる様子もなくただ静かに微笑みを浮かべ座っていた

その心の内を窺い知る事は難しい


「して、その忍は?」

旧足利家臣より質問があがる


「近くに居合わせました東條殿に引き渡しております」

「何やら不穏な書状も持っておりました故合わせて引き渡しておりまする」

「情報を得次第、こちらに向かわれるとの事でございます」


義重の報告が終わると同時に

「…遅れました」

東條希の声が部屋に響くと全員が希に注目する


ただ1人穂乃果だけはいつも通りの呑気な様子で

「おー希ちゃん!遅刻しちゃダメだよ!」

太陽の様な笑顔で出迎える


しかし希は青ざめた顔で穂乃果の前に座りこう報告した


「本日、蘆名よりの忍を佐竹殿から引き渡され情報の引き出しを行いました」


先程よりも大きく騒めく家臣

しかし穂乃果だけは全く動じる事がない

義重が再びその強心臓に感心していると、側近の海未が何やら耳元で囁く


すると穂乃果の表情はみるみる青ざめ

「うそ!大変だ!敵が攻めてくるよ!」

「何とかしなくちゃ!!」

バタバタと慌て始める


なんという事

この娘はただ単に状況を理解していなかったという事だ

これでは唯の馬鹿者ではないか

所詮噂は噂、やはり唯の神輿に過ぎぬという事か

ならば…


様々な思考を巡らす義重を他所に、他の家臣達は先ほどの慌てぶりが消え落ち着き、笑顔すら見えている

これは一体…?

訝しむ義重など気にする様子もなく、次々に家臣達が口を開き始める


「はっはっはっ!相も変わらず穂乃果ちゃん殿はお馬鹿さんじゃのう!」

「全く困ったものですな、そんな事ではまた海未ちゃん殿に叱られますぞ」

家臣団が一斉に笑う


…ちゃん?何だ?これは??



「穂乃果馬鹿じゃないもん!」

「バカでないならもう少ししっかりなさい!皆さんの前で反省しなさい!」

まるで夫婦の様に海未から小言を言われる穂乃果


それを見た家臣達はまた大笑い

「ほら見た事ですか!奥方がお怒りですぞ?」

「はっはっ!そろそろことりちゃん殿の出番ですぞ!」

「わーん!ことりちゃん!海未ちゃんがいじめるよー!」

言うや否やことりの元へ助けを求めて駆け寄る


「は〜い、よしよし、海未ちゃん?もういいんじゃないかな?」

「しかし…」

「海未ちゃん?」

「は、はい…」

ことりの仲裁により騒ぎに幕が降ろされる


これを見てまた家臣達は笑いながら

「鬼園田の弱点はまさかの小鳥の囀りですな」

海未は顔を赤らめながら元の位置へ戻る


絵里はこの騒動の中、希を見つめ続けていた

いつもならばこういった騒ぎになれば一番に茶々を入れてくるのに、今日は俯いたまま微動だにしない

蘆名の忍の情報とやらはかなり深刻なものなのか

はたまた他の理由があるのか


佐竹の様子も気になる

臣従を誓ったとはいえ、まだ心の底は見えない

先ほどから家臣団や穂乃果の様子を頻りに観察している様にも見える

言葉の端々にも何やら含みを感じる


「みんな、もういいかしら?」

真姫の言葉に皆頷く

「それじゃあ希、報告を」


そして希の口から衝撃的な言葉が吐き出された



「蘆名の間者の目的は…絢瀬絵里への接触」

全員の視線が絵里へと向かう


「…絢瀬絵里は蘆名への寝返りを約束したとの事」


騒然とする中、絵里は平然としていた

自分はやましい事などしていない

これは見え見えの分断工作だ


しかしこの余裕は次の瞬間覆される

「約束の印として書状も押収しました…」

希が差し出した書状にはこう書かれていた


『いつも金平糖とお菓子をありがとうございます

娘さんにはいつも良くして頂いていますので、是非お礼がしたいと思います

私ができる事といえば歌と舞程度ですが、機会があればそちらにお伺いして一曲披露出来ればと考えています』


確かに絵里の字で間違いない

それもその筈、この手紙は絵里がいつも菓子を届けてくれるあの娘に渡したものだ

なぜその手紙がここにあるのか

ここで絵里は己の過ちと浅はかさに気付く


「間者によりますと、この菓子や金平糖は金銭の事、これにより絢瀬絵里は蘆名への寝返りを約束するとの内容と言っております」

希は顔を上げぬまま、淡々と報告する


絵里は希の心境が手に取るように分かった

希の事である

揉み消しも考えたであろう

しかし佐竹が情報を掴んでいる以上、下手な事は出来ない

他の家臣の手前、下手をすれば直参のμ’s以外が全て敵となる事もあり得る


私は何と酷い人間であろうか

大事な親友に、この様な苦しい想いをさせている

それも自分の招いた、些細な欲望の招いた結果である

この無様な状況をどう切り抜ける?

恐らくは佐竹は音ノ木を試しているのであろう

この結果いかんによっては、再び敵として、さらなる脅威として立ちふさがる事は必至である


ならば音ノ木の威厳を保つ為、力の誇示が必要である



そうこうしているうちにも周囲のざわめきは益々大きくなっていく

「絵里ちゃん殿!どういう事か?説明してくだされ!」

「賢く可愛いえりゐちか!その姿は偽りであったのか?」

「絵里ちゃん!遠くに行っちゃうの?」

騒めきは収まる気配もなく喧騒といっても差し支えのないところまで来た時、絵里が口を開いた


「皆様、お静かに」



冷たい氷の様な声が響くと今までの騒ぎが嘘の様に静かになる

「この様な蘆名の離間の計に騒ぎ立てる事はありません」

この言葉に義重は猛然と反論する

「しかし絢瀬殿!この書状は貴殿の書いたものではないのか?」

「蘆名の計略と申すが、その証拠は何処に?」


やはり佐竹が食いついてきたか


絵里の予想通りである

高坂と蘆名を天秤にかけているのであろう

まぁ、この時代では当たり前のことである


ならば、音ノ木の力に屈服させるのみ

絵里は己への罰と音ノ木の威信をかけた一世一代の勝負にでる


「なるほど、佐竹殿の仰ることも然り」

「ならばこの絢瀬、蘆名の兵の首級一千を佐竹殿に差し上げることにより、この疑い晴らしてみせましょう」


この発言を自分への挑発と受け取った義重は絵里に対してさらなる難題を突きつける

「その様なことを言って、部隊ごと相手に寝返る気であろう!」

しかしこの発言は想定の範囲内

絵里は皆の想像以上の条件を自らに課す


「部隊など要りません、この絢瀬絵里、1人で結構です」


この発言には流石の義重も言葉を失う

静まり返る中、皆の視線は自然と穂乃果に向かう


穂乃果は何やら考え込んでいる様子

うんうんと唸り、ああでも無いこうでも無いとブツブツと一人で呟いていたが、突然はっとした顔を見せ、いつもの太陽の様な笑顔を見せるとこう言い放つ


「よし!それじゃあこうしよう!」

「まず早速だけど蘆名さんの所に宣戦布告しよう!」

「いくら絵里ちゃんでも、一人で千人の部隊を相手にできるわけ無いから、三百人連れて行っていいよ」

「それで千人以上相手を倒したら勝ちってことにしよう!」


この意見に義重は当然の如く反対の意向を示す

「そんな事をすれば、絢瀬殿がそのまま部隊ごと寝返った際に取り返しがつきませぬぞ!」

穂乃果は余裕の笑顔で義重の話を聞いている


『何だこの余裕は?』

『絶対の自信があるかのような、あの笑みは一体…?』


訝しむ義重に穂乃果はこう言った



「だから、義重さんの部隊で絵里ちゃんの部隊を見張って欲しいんだ」

「何かあれば、弓で射掛けられる位置に布陣して、そこからずっと狙ってたら変な事もできないでしょ?」


何と!

大胆不敵!

この娘はただの馬鹿か、それとも稀代の大物なのか?


己の部隊の一番の功労者に対し、新参者の部隊に弓で射掛けよとの命令

『みゆうず』は一枚岩と思っていたが違うのか?

それともそれ以上に絢瀬を信頼しているのか?


どちらにせよ高坂家の力を見極めるのにはうってつけだ


「絢瀬殿が宜しければこちらとしては異存は御座らぬ」

義重の言葉に続き、絵里も

「異存などありません」

「この金色夜叉の美しき舞、是非ともその目で御照覧下さい」


この二人の言葉を聞いた穂乃果は満足気に頷いて

「よし!決まり!」

「それじゃあ、絵里ちゃんはゴメンだけどお家で謹慎」

「希ちゃん、任せるからよろしくね」

「…ありがとう、穂乃果ちゃん」

「真姫ちゃん、ことりちゃん、花陽ちゃんは戦の準備をお願い」

『はい!』


「本日の評定は以上で終了します!」


評定が終わり、解散となる際、穂乃果は海未に一言つぶやく

「海未ちゃん、最近は天気も良くてお散歩にはうってつけだねぇ」

「海未ちゃんもたまにはみんなでお出掛けしてみたら?」

「今なら山の方が綺麗なんだって!」

海未は笑顔で

「まぁ!それではみんなで見に行ってみましょうか」

「お土産楽しみにしていて下さいね」


絵里と希は暗くなり始めた空の下、静かに歩き続けていた

お互いがお互いを想うあまりに、結果として傷つけ合う様な形となり、そして更に想いを募らせ、心を締め付ける

辛い沈黙がこの世の全てかと思わせる様な感覚に陥りながらひたすら歩き続ける二人

そんな長い、とてつもなく長く感じた帰路も終わり、絵里の屋敷に到着する


「それじゃあ、えりち、もうすぐウチの子達が来るから大人しく待っとってな」

希はそう言うと踵を返す様に元来た道を歩き出そうとする


「待って!希!」


絵里は希の手を掴みそれを止める

「待って、話を聞いて…」

「今回のこの事態を招いたのは私の責任、そしてこの無茶な提案をしたのも私」

「ごめんなさい希、貴方は何も悪く無いのに、私の所為でそんなに苦しい想いをさせてしまった」

「本当にごめんなさい」

絵里は深々と頭を下げる


すると今度は希が涙を目に浮かべながら


「えりち…ゴメンね」


「ウチ、えりちの事守ってあげようとしたけど…出来なかった……」

「何とかしようと…でも他の人に情報が……ここまで来たのに…初めからなんてみんなの心が持たない……」

「ウチはえりちを……見殺しに」

そこから先は涙声で聞き取れなかった


そんな希を絵里は優しく抱きしめこう言った

「いつも貴方には守られてばかり…」

「だから今はこうして貴方を守ってあげる…」


「好きよ…希…誰よりも貴方を愛してる」


希は絵里を抱きしめる力をさらに強くして


「私も…貴方が好きです」


顔を上げるとそこには愛しい人の顔

二人は自然に顔を近づけ…


「うにゃっ!」


「あっ!バカりん!何してんのよ!」

「にこちゃんが押すからだよ!」

「ふ、二人とも静かに!いいところなんだから!」

「花陽こそうるさいわよ」

「真姫ちゃん!かよちんに酷いこと言っちゃダメ!」


………


「見てた?」

絵里はにこりと笑いながら聞く


『うん、見てた!』

元気の良い返事が返ってきた


「えーっと…どっから見てたん?」

希はにこりと笑いながら聞く


『かなり初めの方から…』

てへへという笑い声も聞こえる


うん、と納得すると同時に二人の顔がみるみる赤くなり


『ああああぁぁぁぁ〜〜〜〜〜!!!!』


という悲鳴があがる

そしてそのままの勢いで絵里が胸を張り宣言する

「正直言うわ!怒る気も起きないほど恥ずかしい!!」

絵里の堂々たる敗北宣言に続き

「ウチも!反撃する気も無いくらい恥ずかしい!!」

希の完敗宣言も飛び出す


そしてその訳のわからぬままに絵里はとんでも無いことを口にした



「恥ずかしいついでで悪いけど、決心したわ!」


「希!私と結婚して下さい!!」


驚愕する外野を他所に希もまた、絵里に続く


「恥ずかしいついでで悪いけど、ウチも言うわ!」


「えりち!ウチをお嫁さんにして下さい!!」


今度はひっくり返る外野を背景に二人で宣言する


『私達、結婚します!!』


『ヴェェェ!!!!!』



こうしてここに新たな夫婦が誕生した



翌日

絵里の屋敷内にて慎ましやかながら二人の祝言が挙げられた


参加者はμ’sのメンバーのみ

仲間内だけのささやかな結婚式であったが、二人はこの上無い幸せを感じていた

最高に愛する人との結婚を最高に愛する仲間に祝福してもらえる

これよりも幸せなことがあるのかと思うくらい心が満たされている


永遠にこの幸せが続きます様に



しかしその願いは叶わない


蘆名との戦は数日後に迫っていた

絶望的とも言える戦いに赴かねばならない

しかし絵里に悲壮感など無い


「だって希と結婚しちゃったのよ?」

「こんなハラショーな幸せ絶対離さないんだから」

「死ねない理由があるのなら、私は死なない」

「生きてこの幸せを享受するんだから!」


本日ここまで


再開します


決戦前日の早朝

現在の居城、宇都宮城から絵里の率いる部隊が出立する


三百騎とはいえ精鋭揃いで士気も高く、その表情には悲壮感など感じさせるものなどいない

むしろこの戦に選ばれた誇らしささえ感じている者ばかりであった


それもその筈、この部隊は絵里だけでなく他のμ’sの部隊の者も多く含まれている

各員ともに部隊長より直々に絵里の手足として働く様にと「願われて」そこにいるのだ


穂乃果の隊からは指揮が優れ絵里の補佐が出来る者が

海未の隊からは一騎で戦況を打破できる様な武芸者が

凛の隊からは騎馬の扱いに長けた者が


他の隊からも知恵者や地理に長けた者など各隊の精鋭が集められた

奉行衆からも最高の武器防具類が渡されている


当然、希の隊からも優秀な忍が数人派遣されてた


「みんな、えりちをよろしくね」

そう言って、希は数人の忍に深々と頭を下げる

忍たちは更にひれ伏し

「我々、遂にお館様にご恩をお返しする時が到来し感謝に打ち震えております」

「我らの命に代えましても必ず金色夜叉をお護り致します」

希はふるふると首を振り

「それはアカンよ」

「全員生きて帰るんや、命令やで」

忍たちは目頭を熱くし答えた

「お館様は相も変わらず難しい事を仰る」

「しかし我ら月夜衆、その御命令承りました」

「では、御免」


一人取り残された希は流れる涙を拭きもせず、絵里の部隊をいつまでも見送っていた


「奥方様、あまりお気を落とさぬ様に」


「海未ちゃん…」

いつの間にか隣に海未が立っている

自分は人の気配には敏感な方だと思っていた希は、我ながら取り乱しているなと心の中で笑う


「どうしたん?ウチもう人妻やからナンパは受け付けてないよ?」

恥ずかしい所を見られた仕返しに少し意地悪をする

すると海未は予想通りに、顔を赤くしたり破廉恥ですとか言ってわたわたしている

ケラケラと笑っていると、海未も少し落ち着いた様で、もうっと言いながら


「希、そんなことより少し『お散歩』でもいかがですか?」

「お天気も良い事ですし、『少し遠出』してみたいと思いまして」

「凛も誘って『みんなで』行きましょう?」

「『穂乃果が』お勧めしてくれた所がありますので、そこに行きたいと思っています」


それを聞いた希は、再びこぼれ落ちそうになる涙を堪え

「穂乃果ちゃん…」

「よーし!お散歩の準備してみんなでお出かけしよか!」

笑顔で海未の誘いを快諾した


絵里は大田原城に一旦立ち寄り軍備を整える

義重の部隊も間もなく到着、あの事件以来の顔合わせをする


「絢瀬殿、今ならば間に合いますぞ」

「己が過ちを認めれば、高坂殿も寛大な処置で対応して頂けるはずです」

義重の言葉に絵里は笑顔で言葉を返す

「過ちであればそうでしょうが、私は過ちなど冒しておりません」

「私はただ久々に本気の舞を披露しようかと思っただけです」

「明日はきちんと私の舞の見える場所で、しっかり見ていて下さいませね?」

「彼方此方へ移動する事となりますので、見失う事のありませぬ様…」

そう言うと、年に似合わぬ妖艶な笑みを浮かべその場を去る


「…ふん!女狐めが、言われんでも貴様の心の臓、いつでも貫いてくれるわい」


そして戦が始まる



明朝、絢瀬絵里率いる精鋭三百は白河に向け出陣

黒川周辺の丘陵地帯中程迄部隊を進めた後、蘆名側の物見櫓に見える、丘の上に陣を構えた

義重もまた、絢瀬隊と共に軍を進め、絢瀬隊後方の森林地帯に布陣する

そこは絢瀬隊を見下ろす形となっており、正にいつでも命を狙える場所である

この位置であれば後数刻もせず蘆名の部隊が到着するであろう

「ふん、余計な意地を張らねば命まで落とさずに済んだものを」

「所詮は小娘か…」

義重が独りごちたその時、予想外の来客が姿を現した


「にゃー!凛は山登りなんて聞いてないよー!」


不満気な声が周辺に響く

すると今度は声の主をなだめる様に

「まぁまぁ、この位の丘ならそんなにしんどく無いし、ウチはすきかな?」

この声に続くのはどこか自慢気な声

「希に気に入って貰えて良かったです!」


その後も謎の会話は続く

「確かに眺めはいいけど…かよちんとイチャコラするのを諦めてまで来たんだから、それなりの報酬が欲しいにゃ!」

「凛ちゃん!それ以上はいけない!!」

「なるほど!さすが凛ですね!」

「さらなる報酬の為、この辺りを一望できる最高の場所を目指しましょう!」


「さあ!皆さん!山頂アタックです!!!」



身を隠す様子も無く、かしましい声と共に現れた集団

その旗印は…白い百合の花

義重は驚愕する


「何故…何故『白百合衆』がここにいる?!」



音ノ木には幾つかの特殊任務集団がいる

白百合衆はその内の一つ

強襲という新たな戦術思想の元、敵陣へ楔を打ち込むように深く食い込み、そのまま陣中突破すると言う

彼女達にしか出来ない特殊戦術を用いる集団である


その白百合衆は一帯を見渡す高台に布陣

こちらも絢瀬隊と同様、敵に見える場所に構えた


義重は馬を走らせ、白百合衆の陣へ向かう

「何事か?今回の戦は絢瀬殿の晴れ戦でありますぞ!」


陣に走り込む義重に海未は笑顔で答える


「まぁ、佐竹殿、ご機嫌麗しゅう」

「たまにはお散歩でもと思いまして、皆を誘ったところ、中々の大人数になってしまって…」

「私、山登りが趣味でついつい熱くなって、気がついたらこんなところまで」

「戦の邪魔立ては致しません故、こちらで見物させて頂きます」


希は続いて

「ウチがちょっと寂しそうな顔してたもんやから、みんなが気を使ってくれて…」

「みんな優しくって感動しちゃった」

と芝居掛かった言葉


あちらが狐ならばこちらは狸か

たかが散歩に白百合衆千五百揃い踏みなど


「ならばその白百合の旗印、下ろして頂きたい」

この義重の言葉に対して

「それは無理だよ〜」

直ぐに拒否の回答


この娘、見るのは初めてだが、恐らくは『流星』星空凛か

「μ’sの内この三人が揃った時はこの旗立てないといけないって穂乃果ちゃんと決めたから」


やはり高坂穂乃果が動いた

元より絢瀬を見殺しにする気など無かったか

しかし、それでは絢瀬の立場がなくなる上に他の家臣への示しも付かぬ

浅はかなり、高坂穂乃果

まぁ良い、いざとなれば絢瀬の首を土産に何処かへ降り、機を持って常陸を奪い返すのみ


「なるほど、では某も大殿よりのご命令を果たさねばならぬ故、これにて失礼する」

「下手な手出しは、お互いの為になりませぬぞ、努努ご承知置きを」

義重はこう言い残し自軍に帰っていく

振り返ると三人がにこやかに手を振っているのが見える


「ちっ!気に入らん!!」

怒る義重が帰隊する頃、蘆名の軍勢が山間より姿を現した


遂に両軍が相見える



「金色夜叉、敵が見えました」


「数は?」

「およそ五千程かと」

絵里は笑いながら

「穂乃果ったら、どんな宣戦布告をしたのかしら」

こう言うと表情をガラリと変え


「全軍、作戦開始!」


号令を下す

それと同時に絢瀬隊から陣太鼓が鳴り響いた


黒川を北から進む蘆名軍に対して、絢瀬隊は数十騎の弓騎兵を走らせる

そしてその弓騎兵が背負う弓は…


「改良型の弓胎弓か、先制し気勢を削ぐのが目的か…」

義重の言う通り、先ずは射程の長い絢瀬隊が先制する


たかが数十騎とは言え周辺の地形は狭い山間地帯

しかも練度の高い兵のため矢数も多い

敵の進軍速度を遅くするには充分の成果を見せる


しかし圧倒的な数の不利は如何ともし難く徐々に接近される

だが相手方は一定の距離を保ち黒川の渡河にかかる様子は無い

この間に絢瀬隊は弓の補充を完了し再度の遠距離攻撃を再開する


この蘆名軍の動向には白百合衆が大きく関与していた


絵里は敵方の物見の場所を事前に把握していたが、敢えて攻撃はしていない

元々は自軍に敵を引き付けるのが目的であったが、状況が変わった

相手に不可解な情報を多数与え、疑いからの自滅を待つ作戦が取れるようになったのだ

そもそもたったの三百人で来ること自体が狂気の沙汰である

何かあるものと訝しむのは当然である


そしてこの戦場に混乱を招いているその白百合衆はというと


「ウチあれ見たいな、あの海未ちゃんの必殺技」

「凜も!やってやってー!」

「何ですか?必殺技って?」

「いっつもやってるやん、なぁ凛ちゃん?」

「そうだよ!アレだよ、アレ」


『ラブアロー⭐シュート!!』


「んなっ?!」

「ななななにをいっているんですかねこのひとたちははれんちですいみふめいです」


このように戦に出る気など微塵も無く遊び呆けている

この事が蘆名側に余計な思惑を生み、軍を推し進める事を躊躇させていた


その間にも弓騎兵の攻撃は続く

熟練の弓技は一矢で二人を貫くことも可能

しかもこの隊の弓騎兵は皆腕自慢の者ばかり


蘆名側も遠距離とはいえ被害が目立ち始めた頃、遂に陣太鼓が打ち鳴らされた



後方の部隊、約半数が渡河を開始

山向こうより一気に攻める腹積りである

人数を考えれば当然の策である

前線に蘆名の渡河を阻むだけの人数はおらず、例え白百合衆が向かってきても渡河してしまえば数的優位で戦える


筈であった



「総員!矢を放て!!」


渡河地点付近の林から透き通った美しい、それでいて冷たく、恐怖を覚えるような声が響く

同時に無数の矢が渡河中の無防備な部隊に降り注ぐ


慌てふためく蘆名側

「こちらも矢を放て!」

応戦するものの絢瀬隊は森の中

放つ矢の威力も無くなり、ましてや当てるなどとても出来ない


一方絢瀬隊からの攻撃は間断なく続く

「一体敵方は何人いる?伏兵か?」

蘆名側が驚くほどの矢数が放たれる


そのカラクリは弓にあった

先程の弓騎兵は長距離射程の弓胎弓を使用していたが、こちらの部隊は連写可能な大陸型の短弓を装備

射程は短いものの矢数で圧倒できる

射程の短さを地形を利用する事により欠点を補いこの状況を作り出した


「怯むな!川を渡ればこちらの勝ちだ!」

「矢板を持て!威力は弱い!攻めろ!」

数に物を言わせ一部が遂に渡河に成功、後は部隊をまとめ攻め上がるのみ

蘆名側に一瞬の安堵の心が芽生えかけた、その時


「総員!掛かれ!!」

白馬に騎乗した黄金の鬣の夜叉が現れた


「金色夜叉だ!」

「あれが絢瀬絵里!」


部隊の残り殆ど、約二百を伴い渡河したばかりの集団に突撃を敢行する絢瀬隊

瞬く間に敵集団を討ち取っていく


「強い!夜叉の名は伊達ではない!」

「しかし何故ここに本隊がいる?!物見は何をしておった!」

数箇所の物見からは敵陣動きなしの狼煙が上がるのみ


それもその筈、蘆名側の物見は既に絢瀬隊の手に落ちていた

東條隊の忍が中心となり密かに別働隊を動かし、これを制圧

その後は偽報として狼煙を上げ続けていたのである


その後も絢瀬隊は川沿いに横隊陣の形となり次々と敵を薙ぎ倒す

敵味方がひしめく混戦に持ち込んだ事で、敵方の弓隊の攻撃は無い

絵里自身は愛用の大身槍では無く、薙刀を持って迫り来る敵を討っていく


「いゃ〜ん!えりちカッコいい!見て見て!あれウチの旦那やねん!!」

完全な観客と化した希が黄色い声援を送る


「希ちゃんがスパークし始めたにゃ!」

「お惚気全開ですね」

呆れ顔の二人を差し置き希は嬉々とした様子で

「だってカッコいいんやからしゃあないやん!」

「ウチら結婚したから隠してコソコソする必要ないし、二人も早く結婚したらええのに」


この意見に凛は目を輝かせ

「凛もかよちんと結婚したい!海未ちゃんは?」

この質問に海未は顔を赤くしながら

「わ、私はまだそんな…まだ早いです!!」

手と顔をブンブン振りながら口早に答える


その様子を見て希はニヤニヤしながら質問する


「ところでどっちなん?」


「?希が何を言っているのか分かりません」

今度は凛がニヤニヤ笑いで続ける


「だから、穂乃果ちゃんとことりちゃん、どっちなのかなって」


海未は更に顔を赤くして

「んなっ!?何を言っているんですか?!」

アワアワと混乱する海未に凛がキョトンとしながら

「あれっ?違うの?」

この問いに対して海未はうつむきながら

「……違いませんけど」

『けど?』


「どちらかなんて選べません!!」


中々の衝撃発言

しかし二人は納得の表情で

「成る程、二人ともお嫁さんにするのかぁ、アリやね」

「うん!アリだね!」


海未は目をグルグルと回しながら

「ふ、二人とけ、結婚…」ポワポワ

幸せな世界へと旅立っていく


「海未ちゃん妄想世界に旅立っちゃったにゃ」

凛の言葉通り、海未はだらけきった表情でブツブツと何か独り言を言っている


「ホノカ、コトリ、サイコウデス…」ポワポワ


「うーん、幸せそうだし、少しこのままにしといてあげようか」

諦めた様子の凛であったが

「そうやね、でももう直ぐちゃうかな?準備しといてもええかもね」

という希の言葉に頷き

「本当だ!おーい!海未ちゃーん!帰ってくるにゃー!!」

海未の気付を図るが


「ダメデス、フタリトモ…ネルマモアリマセン…」ポワポワ


全く帰ってくる様子は無い

二人はジト目で海未を見ながら

「…海未ちゃんって基本ムッツリだよね」

「三人の結婚生活が爛れたものにならんか心配や」


白百合衆がこうしている間にも絢瀬隊は次々と敵を討ち続ける

薙刀で戦う姿は舞うように優雅でどこか気品さえも感じられる


蘆名の部隊は完全に分断されており機能していない

前方は相も変わらず弓騎兵に良いようにあしらわれ、進むも引くも出来ない状態

後方は渡河もままならず、渡河してもそのまま絢瀬本隊に討たれていく

中央の部隊は双方に挟まれ完全に機能を停止している


「絢瀬め、本当に一人で千の首級を上げる勢いだな」

義重は戦況を見ながら呟く


もう既に弓構えは解いている

ここまで見れば寝返りの疑いなどありようがない


最初からわかっていたことだ


清和源氏の血筋、名門佐竹

この名を引き継ぎ、守ることが自分の役目


しかしその役目は叶わなかった


年端もいかぬ小娘の率いる新興国に敗北した

そんな事実を認められず、下らない自尊心で煽り立て、結果この様である


高坂穂乃果は見えていたのであろう


「大馬鹿者は自分であったか…」

自嘲する義重


その時、馬廻り衆から声が掛かる

「お屋形様、好機です」


「…儂は既に臣下の身、屋形などではない」

「それに好機とは何だ?」


「我らと白百合衆の力を合わせ、絢瀬隊の援護をすれば、この戦勝てますぞ!」

「我ら佐竹家の力を見せつけてやりましょうぞ!」

「おうよ!坂東武者の強さを見せてくれようぞ!」

次々と声を上げる兵士達

「…貴様ら」


「それに我らにとってお屋形様はお屋形様、佐竹家の旗のもと戦う事こそが我らの誇り」

「お屋形様がいる限り、佐竹の名は続くのです」


この言葉に義重は

「本当に…儂は大馬鹿者であった」

呟くと同時に顔付きが変わる


「戦況の詳細を報告せよ!」

「はっ!現在黒川流域で絢瀬隊が交戦中!敵方が攻めあぐねておりますが、徐々に押されております」


「数は?」

「蘆名方現在約四千!絢瀬隊にはほぼ被害はありません!」


「白百合衆は?」

「白百合衆がいません!何処かへ移動した模様!!」


「…成る程、そういうことか」

「お屋形様?」

義重はニヤリと笑うと


「流石は『穂乃果ちゃん』殿よ!」

「我等も全軍突撃!絢瀬隊を援護する!」


「白百合衆に遅れをとるな!佐竹の名を知らしめよ!」

『おぅ!!』


その間も絵里は舞い続ける

しかし流石に体力の消耗を感じる

このままでは押し込まれる

そうなる前に相手の心を折らねばならない

相手が引けばそれで良い


希達の様子はどうか、ここではわからない

ただひたすらに敵を討ち続ける事が今自分に出来ること


何としてでも生きて帰るのだ

愛する希の元へ


仮想世界とは言え愛する人と結ばれた

その幸せを離す訳にはいかない

その気持ちだけで身体を動かす

しかし疲れは隠せず


「一気に掛かれ!!」


「しまった!?」

この人数は捌ききれない!


「希!!」



「ぐあ!?」


目の前の敵が倒れる

「これは一体?」

周囲の敵が一斉に絵里の後方に注目する

絵里が振り向くと


「絢瀬殿!援護つかまつる!!」


自分を狙っていたはずの佐竹隊が敵に突撃を敢行する

「な、何故貴方達が…」

困惑する絵里の元に義重が近づき

「絢瀬殿、約束の品、確かに頂戴した!」

約束の品?


私が約束したのは…千の首級



「よってこれより我等も全軍、戦に参加しますぞ!」

「坂東武者の強さをごゆるりと御照覧くだされ!」

そう言うと自らも戦場へ繰り出す


そして川向うでは特徴的な陣太鼓が鳴り響く

「ふふっ、もう、皆んな遅いんじゃないかしら?」


「敵襲!側面から騎馬隊が!!」

「何?!何者だ!!」


「白百合衆です!!」


「い、いつの間に川を渡ったのだ?」

「陣を整えよ!魚鱗!!」

慌てて陣形を整えようとする蘆名方だが『流星』星空凛の騎馬隊はそれを許さない


「あそこが本隊だね!とつげーき!!」



圧倒的な速さ

驚異的な突破力


元々横伸びしていた蘆名軍はなす術なく突破される

「くっ!囲い込め!!囲い込んで殲滅しろ!!」

敵陣深く突撃する星空隊を囲もうとするが


「残念!そこはウチの仕事場でした!」


後から続く東條隊によって阻まれる

強力な足軽隊と火薬を使った足止めにより蘆名軍の足止めを行う


敵方大将の付近まで突き進んだ星空隊は

「じゃあ後よろしくね!」

そう言うと突然進路を転換し反対側へ突き抜ける


「何が起こっている?!」

混乱する敵陣の前に重武装の集団が現れる


「やあやあ!我が名は園田海未!いざ尋常に勝負!!」

「…鬼園田!」



白百合衆の突撃が開始されて間も無く


『えい!えい!おう!!』


戦場に勝鬨が響く

「流石リリホワ、すっごい手際の良さね」

大将をなくした蘆名軍は壊滅

散り散りに逃走を始める


こちらも追撃する余力はない為、戦はこれにて終了となった



疲れ果てた絵里は馬から降りその場に座り込む

そしてそこへ義重が現れた

義重は馬を降りるとその場で土下座をして

「絢瀬殿、此度の非礼誠に申し訳ない」

「伏して謝罪致しまする」

絵里は慌てて

「佐竹さん!私はそんなつもりはありません!頭をあげてください!!」

しかし義重は頭を上げず

「本来であれば腹を捌いてお詫び致すところながら、某は佐竹の名を守らねばならぬ故、それもまかりなりませぬ」

「願わくば、末席で結構、絢瀬殿の配下にして頂きたくここに頭を垂れまする」


絢瀬絵里の力と強さを間近に見ることにより、遂に佐竹氏は、その名の通り音ノ木の軍門に降ったのである



「いやぁ、うまくいって良かったよ」


縁側で茶を啜りながら、早馬の報告を受けるのは、高坂穂乃果


「絵里も意地張って無茶するからよ!」

「この可愛いにこにーと一緒ならもっと楽に勝てたのに」

隣で同じように茶を飲みながら、小柄な少女、矢澤にこが文句を垂れる


「まぁまぁ、にこちゃん?上手くいったんだから、良しとしよう?」

柔和な笑顔の小泉花陽がそれを嗜める


「まっ、エリーもこの世界で帰るところができたわけだし、もう軽はずみな事もしないでしょ」

溜息混じりで西木野真姫が口を開くと、南ことりがその言葉に合わせるように

「真姫ちゃんとにこちゃんはいつ結婚するの?」

ホンワカとした口調で爆弾を投下する


『ヴェェェ?!』


「はぁっ?!なんで私がにこちゃんと…」

「こっちこそ!なんで真姫なのよ!」

「なんですって?」

「何よ!」


ギャーギャー



いつも通りに大騒ぎするメンバーを笑顔で見つめながら

「うふふ、楽しいな」

「早く元の世界に戻って、本当に楽しい世界で、またみんなと一緒にスクールアイドルしなくちゃね」

そう言うと天に輝く太陽を見る


「その為には目的は一つ」




「天下統一!!」


金色の夜叉は戦場に舞う 完


おまけ


今回のヒロイン

佐竹義重ちゃん(JK)


清和源氏からなる名門佐竹氏の18代目当主(JK)

佐竹氏の最盛期を築く(JK)

知勇に優れ「鬼義重」「坂東太郎」とも称された(JK)

とにかく凄い(JK)


保守しつつ自分で荒らすスタイル


遅筆でごめんなさい

もう少し待ってください


再開します



御代田合戦 ~軽井沢の退き口~


「穂乃果!あれ程言ったでしょう?」

「いや、それはその…」

「言い訳無用です!全く貴女はいつもいつも……」クドクド


穏やかな午後のひととき

城中に響き渡る怒声と小言が聞こえると、奉行衆が集まり井戸端会議が始まる


「穂乃果ちゃん殿はまた何かされたのか?」

「何でも菓子のつまみ食いをしている所を海未ちゃん殿に見つかったそうですぞ」

「昨日も何やらどやされていたようだが?」

「昨日は勉学の時間を寝て過ごしたのを咎められており申した」

「海未ちゃん殿は普段は撫子の如く美しい女性だが、穂乃果ちゃん殿の事になると途端に戦場での鬼園田が顔を覗かせますな」

「致し方なし、穂乃果ちゃん殿を愛する奥方様としては、常に己が亭主に美しく聡明であってほしいのだろう」

「成る程、愛ゆえの怒りですか」

「いかにも、全ては愛ゆえで御座る」


奉行衆が全会一致でいつも通りの答えを導き出すと、襖の向こうから何やら殺気だった気配がこちらに向けられる


「そこっ!何やら聞こえますよ!勝手にいい加減な事を言わないでください!」


「むむっ?いかんぞ!奥方様の矛先が此方に向き申した!」

「此処は撤退を進言致しまする!」

「ならば殿は其方にお譲りしましょう、全軍撤退じゃ!」

「何とご無体な!某には荷が重すぎまする!儂も撤退しますぞ!」


くわばらくわばらと唱えながら奉行衆は笑いながら撤退していく


「もう!戦の前にみんな気が抜けすぎです!」

はぁ、と溜息を吐く海未にもう復活した穂乃果が絡んでくる


「大丈夫だよ!次は武田さん攻めだけど、向こうの本隊は上杉さんとこと織田さんとこに行ってるんでしょ?」


「油断は禁物です!付近はあの真田の支配下にあります、何があるか分かりませんよ!」


「でも海未ちゃんと一緒だし、穂乃果は何の心配もしてないけどなぁ」

「しかも今回はその真田さんの真田本城を攻める準備の為の侵攻作戦だし、簡単簡単!」

「ことりちゃんの部隊も直ぐに合流するし、大丈夫だよ!」

「海未ちゃんは心配性だね〜」


「そうならば良いのですが…」


楽天的な穂乃果の隣で不思議な胸騒ぎを覚える海未を置いて


「さぁ!出発するよー!」

穂乃果はそう言うと走り去っていく


「穂乃果!待ちなさい!出陣は明日、それにこれから軍議ですよ!」

一抹の不安を払拭するように海未もその後を追っていく


海未にもわかっている

彼女達には進む道以外ないという事を


「では先ずは現在の音ノ木の状況を再度確認しましょう」


海未の言葉により軍議が開始される

軍議の間には穂乃果と海未の他、従軍予定の将数名、奉行衆に加え上野を任されている長野業正の姿もあった


「現在我が国は北条氏、織田氏と同盟を組んでいます」

「領地は関東中部から北部を平定し、安定した領地経営を行えていると言えます」


「周辺国との状況は、まず東北方面で絵里、希の部隊が伊達領への侵攻を開始しています」

「義重さんもいるしこの辺は問題なさそうだね!」


「しかし伊達政宗、やはり強敵との事で流石の『金色夜叉』も苦労しているとのことです」

「なんか、政宗さんに絵里ちゃんがやたら気に入られて大変なんでしょ?」


「はぁ、何やら敵方なのですが顔をあわせるたびに求婚されているとか…」

「希が毎日のように暗殺の刺客を送っているとも聞きますし…相手の術中にはまらなければ良いのですが」

「あはは、希ちゃん…」


「会津はにこと真姫が最終的な平定の詰めを行っています」


「蘆名さん強かったね〜」

「当然、容易い相手などいませんよ」


「しかも会津平定となると次は長尾、いえ今は上杉氏ですね、遂に南北で領地が接することになります」



「南部は房総半島を制した里見氏に対して凛と花陽が攻勢をかけています」


「そこは北条さんとの共同作戦だよね?」

「その通り、花陽は氏康殿に特に気に入られていますから支援も手厚く、こちらに関しては時間の問題でしょう」


「そして私達の次なる目標は武田氏」


「強敵ですがここを打たねば京への路は開けません」

「武田氏は北条殿とも同盟を組んでいますが、北条殿は不戦中立を確約しています」

「これも花陽ちゃんのお陰だね!エライ!」


「武田氏にとっても上杉氏、織田氏に加え私達音ノ木を相手にしなければならない状況、北条殿が不戦中立なだけでも大きいのでしょう」


「ここ上野は業正殿の力で北の上杉勢の侵攻を阻止できています」


海未は業正に向け力強い視線を送る

視線の向こうの業正は大きく頷き

「可愛い孫たちのためです、なんという事は御座いません」


この言葉に穂乃果は

「お爺ちゃん凄い!カッコいい!」

業正に手を振る


「こら、穂乃果!業正殿に失礼ですよ」

「だっていっつも孫みたいだーって言われてるよ!」

「それでも失礼のないようにしなければいけません」


「はっはっは!構いませんぞ、園田殿」

「某もこの様に愛らしく、そして勇敢な姫達に爺と呼ばれて年甲斐も無く心躍りまする」


「わーい!長野のお爺ちゃん大好き!」

太陽の様な笑顔を振りまく穂乃果の隣で海未は、すみませんと一言業正に声をかける


「兎も角、私達は此処から碓氷峠を超え、軽井沢を抜け佐久平の入り口、小田井城を目指します」


「途中軽井沢では入山峠から来るはずのことりの部隊と合流します」

「やったー!ことりちゃん久しぶりだよ!!」

穂乃果は、今度はバンザイして感情を表現する

「ふふっ、そうですね」

いつもは注意する海未であったが、ことりに逢える嬉しさは穂乃果と同様

ここは大目に見て軍議を進める


「周辺の国人衆の調略も含め準備は出来ていますが、彼らはその時の旗色で寝返りも考えられますので、余り信用し過ぎるのも良くありません」

「しかも相手は表裏比興の真田昌幸、更には『鬼美濃』馬場信春が考えられます、油断出来ません」


「しかし、ここを抑えれば佐久平から小諸城、更には伴野城への睨みにもなります」

「武田攻めの初戦となりますし、ある程度の力を誇示するという意味でもそこまで無理をする事もありません」

「一定の戦果を残せればそのまま戻る事も視野に入れての行動となります」


「えーっ?一気にガーンと攻めこもうよ!」

穂乃果の意見に海未は首を横に振り

「何事にも順序というものがあります、多方面での作戦が同時に進行している状態ですから、今は無理をせず、準備に勤しむべきなのです」


「それにそのうち嫌でも無理をしなければならない時がきます」

「はーい」

穂乃果は納得いかないといった様子は見せたが、強硬的な態度に出る事も無く引き下がる


「では、明朝出陣となります、全員十分に身体を休めるように、以上」


その日は月の美しい夜だった

その美しさに惹かれたわけではないが、海未は何とは無しに寝所の障子を開け、空を見上げていた


月は太陽の輝きを映す鏡のようなもの

太陽がないと輝くことはできない


まるで私のように…


そんな想いに耽っていると、ふと我に返り

「ふふっ、私などと比べては月に失礼ですね」

などと独りごちる


海未には誰にも打ち明ける事のない想いがあった


それは幼馴染である高坂穂乃果への想い


同じ幼馴染である南ことりへの感情とは全く違う想い



それは恋である




彼女は常に自分を照らし続けていた

海未は常に彼女の光の下生きてきた


それが海未にとっての日常であり、全てであった

それが愛情である事を知った時、海未は狼狽した


この感情は圧し殺さねばならぬと思った

太陽を曇らせるわけにはいかぬ

自分は太陽なくしては生きられないのだから


この感情を彼女にぶつければ間違いなく今までの関係ではいられない

それは海未という人間にとって死を意味する


ならばこの気持ちを無かった事にすれば良い

簡単な事だ

自分の心を固く閉ざせば太陽はいつも私を照らしてくれる


それで十分ではないか



それに穂乃果には好きな人がいる

これは海未の想像であるがなぜか確信めいたものとして自分の中で確立していた


それは絵里か、ことりであろうというものだ


絵里を見る彼女の目は尊敬と憧れの光を湛え、まさに恋する少女のものである


そして、ことりに対する態度は慈愛に溢れ壊れ物を扱うかのごとく柔らかで、姫をエスコートする王子のような雰囲気を醸し出す



自分に対するものとは違う


自分に対してはそんな態度をとる事はない

常に同じ、いつも笑顔で笑いかけてくれる

それは海未にとっては素晴らしい事であったが、恋という感情を知ってしまった今では唯の絶望的な事でしかない


自分は彼女にとっての特別ではないという事だから…



嫉妬や独占欲のような暗い感情に潰されそうになる事もある

最高の友、最高の仲間に対してその様な感情を抱く度に自分を嫌いになっていく

辛い、逃げたい、しかし逃げる場所などない


だからこの気持ちは無かった事にした


無いのだからそれ以上も以下もない

そうすれば仲間と共に暖かい太陽の下で、楽しく楽しく過ごせるのだ


「いけませんね、一人でいると心が暗がりに引き込まれそうです」

明日は早い、海未は布団に横になる

朝になれば再び太陽は燦々と輝いてくれる


これでいい…

これで良いんです…


眠りにつく自分への子守唄の様に海未は呟いた



翌日、穂乃果と海未の隊を中心とした信濃侵攻部隊は箕輪城から出陣

予定通り碓氷峠より軽井沢へと入った

途中ことりの部隊から入山峠の天候不順により予定より一日遅れで軽井沢到着の報せがあったが、他は順調に事が運んでいた


周辺の国人衆の懐柔も問題無く、先行する偵察隊からも武田の目立った動きは報告されないため、滞り無く進軍

中山道と入山峠側の街道の合流点でことりの部隊を待つ事とした


「では穂乃果、決してここから先は単独先行しないでくださいね」


「大丈夫だよ、海未ちゃんは心配性なんだから」

仮の陣を敷いた後、一部態度を曖昧にする周辺国人に対する示威行為を行う為、海未の部隊は本隊より離れ行動する事とした


武田方に未だ動きは無く、恐らくはこのまま小田井城で迎え撃つ算段であろう

ならば周辺の国人衆を確実に味方に付けておかねば、背後を突かれる可能性もある

そういった判断からの行動であった


「明日にはことりも到着するでしょう」

「それまでには私も戻りますから、何かあればことりと合流する事を第一にして、決して無茶はしてはいけませんよ」


「もう!何度も言われなくても分かってますよーだ」

ふくれっ面で穂乃果が答える


すると周囲の配下達が

「大殿、奥方様は心配なのです、お察し下さい」

「全く、出来た奥方様で羨ましい限りです」

といった様な冷やかしを次々に口にする


「えーっ?海未ちゃんそうなのぉ?仕方ないなぁ」

穂乃果も便乗して悪乗りを始める


「///もうっ!知りません!」

海未は顔を赤らめ、ぷいと顔を背ける


「兎に角!私は行きますから、くれぐれも無茶はしないでくださいね!」

そのまま海未はすたすたと去っていく


そうしないと今の緩みきった表情を見られてしまうから

冗談でも良い

刹那的でも良い

今は自分が穂乃果の女房役なのだ

それだけで私は幸せな気持ちになれる


今だけ夢を見させて…



穂乃果は海未の出立を見送ると部隊に指示を出す


「一番から三番隊は交替で陣周辺の見張り」

「五番隊は荷駄隊の方よろしく」

「先見の物見隊も交替で常に小田井城を見ておく事」

「街道の通行人は忍の可能性も高いから陣容は外から余り見えない様に」


「以上、では散会」


『ははっ!』

きびきびと指示を出し穂乃果は数名の共を連れ陣幕内に戻る


「大殿、まるで先程とは別人のようですな」

将の一人が驚いた顔で呟く


「貴殿は大殿の部隊は初めてか?」

「はっ、はい」

「大殿はいつもこうだ、園田殿の前では『穂乃果ちゃん』だが、離れると途端に『高坂穂乃果』となる」


「なぜ?でございましょう」

「それが女心というものらしい、正直某にも分からん」

「はぁ…」


「はっはっはっ!さあ、いくぞ!戦はもう始まっておるのだ」

「はい!」


部隊の動向の報告を受けた穂乃果は

「ありがとう、何かあったら言ってね」

「私、少し休憩するね」

そう言うと陣の隅に移動し草の上に寝転んだ


穂乃果は、燻り今にも泣きだしそうな空を見ながら、なんとなく頭に浮かぶ今までの事を考える


初めは戸惑うことばかりで、皆んなで右往左往する日々であったが、状況が理解できると徐々にいつものペースに戻っていった

μ’sのみんなは穂乃果のおかげだと口をそろえて言うが、そんなことは無いと思っている


穂乃果も混乱し戸惑うばかりであったが、なぜか海未が近くにいるということが彼女に不思議な安心感をもたらした

だから他の子よりも少しだけ早く前向きに物事を考える事が出来ただけだ


実はこの事は彼女に大きな衝撃を与える出来事であった


当時の穂乃果は間違いなく絵里に恋心を抱いていた

この世界に来てからも絵里が先頭に立ち物事を進めていくことが多く、その姿は間違いなく穂乃果が求める絵里の姿であった


しかし、穂乃果の心が本質的に求めている何かとは違うものだった

その何かを持っていたのは憧れの絵里でも、彼女にとって癒しの頂点、南ことりでも、他の誰でもなく、ただずっと、それこそ生まれた時から彼女の隣に寄り添う、園田海未だった


穂乃果の求めていたものは、格好の良い王子様でもなく、究極の癒しを与える姫でもなく、彼女をやさしく見つめてくれる月の存在であった


穂乃果は太陽に例えられることが多い

自分ではただの能天気だと思っているが、周りの人間は皆口をそろえてそう言う


ならば、と彼女は思う


太陽が輝かねば月の表情は見えなくなる

それは穂乃果にとって絶望に他ならない


だから私は輝き続ける

月の表情が常に見えるように


この世界に来てからいろいろあったが、自分の傍には常に海未がいた

その前もずっと、思えば海未が隣にいた


今もたった一日、彼女と離れることが辛くてたまらない

余りにも当たり前すぎて気にも留めなかった幸福

今はその当たり前の幸福を矜持するため、そのためだけに自分の全てを費やすのだ


「…あ、雨だ」

垂れ込めるような雲から遂に雨が降り始める

「雨、嫌いだな…」


「海未ちゃん、早く帰ってこないかな」


穂乃果は恨めしそうに空を見上げながら、想い人の名を口にすると

「///か、風邪ひかないようにしなくちゃ!」

なんだか急に恥ずかしくなり、そそくさと陣幕内に戻っていった


一方その頃、海未隊は軽井沢北部を拠点とする国人の砦を訪れていた

最後まで色よい返事がなく、最悪交戦も辞さない覚悟での訪問であった


「ただいまお迎えの支度をして居りますゆえ、もう少々お待ちください」

「支度など良いのです、答えだけを聞かせていただきたい」

「少々、お待ちください」

交戦は無かったものの、門の前で暫くこのようなやり取りが続いている


「園田殿、これはやはり…」

「はい、次に同じやり取りとなれば武力制圧を行います、各員準備を」

「はっ」


そうこうしていると再度門番が姿を見せ

「支度の者が粗相をしまして、今しばらくお待ちください」

先ほどと同様のやり取りの言葉を発した瞬間


「そのお気遣いは無用」

馬廻集が門番に対し槍を向ける

「…これはいかなる御料簡で?」

「問答無用、門を破りなさい!」

海未が命令を下す


門番は観念したようにため息をつきながら

「ふむ、門を破壊されれば修復も手間ですな」

「かしこまりました、開門いたしましょう」

あっさりと引き下がり門を開ける


そして中の様子はというと




「無人…!」


「やられた!穂乃果が危ない!!」

「三番隊、砦に火を放て!残りは急ぎ本陣に戻ります!」



降り始めた雨の中、海未は全力で馬を走らせる


大丈夫、陣は中山道沿い、何かあれば撤退も容易な場所

しかも後続にことりの部隊もいる

そこまでたどり着けば命の危険はない


大丈夫、大丈夫だ


自分に言い聞かせるように大丈夫と心の中で繰り返し唱える

しかし、そんな海未に最悪の知らせが飛び込んでくる



それは反転して間もなくの事である


本陣側より穂乃果の隊の早馬が園田隊に合流した

そしてその知らせは海未を絶望させるのに十分な内容だった


「園田殿!なぜここに?!」

「どういうことですか?」

「我が隊、数刻前より武田方、真田隊の奇襲からなる戦闘を開始!」

「大殿の指示により混乱は少なく被害は最小限で済みましたが…」

穂乃果は無事、そう安堵したのも束の間


「敵方より園田殿他数名を捕虜としたとの宣告あり」

「それを聞いた大殿は数少ない共を率いて敵陣を突破」

「おそらくはそのまま小諸まで抜け、園田殿救出に向かわれるものと思われます!」




な、なんで…そんな……


「本隊は真田勢に阻まれ、未だ大殿に追い付けず…」


あれほど言ったのに……


「小田井城には『鬼美濃』馬場信春が入ったとの報告もあり…」


私のせいだ…私がもっとしっかりしていれば…


「…田殿…園田殿!」

「園田殿!!」

馬廻衆の呼びかけに


「…穂乃果の救出に向かいます」


ただ一言命令を下すと自ら先頭となり山を下っていく



穂乃果…穂乃果!!!

どうか無事で

私が助けますから

お願い

間に合って!!


「穂乃果ぁぁぁ!!!!!」


強くなる雨の中、海未は自らを奮い立たせるように愛する人の名を叫びながらただひたすらに馬を走らせるのであった



本日ここまで!

続く!!


再開します

今回短いです


海未達の部隊が本陣に到着した時、主を失った本隊は未だ真田隊を抜けずにいた


「このまま突撃します!」

海未隊は速度を落とす事なく真田隊に突撃、正面突破を図る


やや後方で指揮を取る真田昌幸はこれを見て

「これはまた、元気な姫だな」

「しかしタダで通すわけにはいかんな」

「後方に引いて包み込め!勢いを殺せばなんという事はない!」

鶴翼陣による防御を指示する


「関係ありません!勢いを止めるな!突破せよ!!」

「首級になど目もくれるな!穂乃果に追いつくのです!!」


海未の部隊は元より忠誠度の非常に高い親衛隊的な組織である

園田隊に配属される事が音ノ木での名誉であり、武を持って力を示す事がこの隊での栄誉であった

その部隊の勢いは真田を持っても止められず、海未隊はそのまま戦線ごと突破し佐久平方面へ向かう


その勢いを見た昌幸は笑いながら

「いやはや、先ほどの高坂といい、今の園田といい、鬼美濃殿が喜びそうな将であるな」

「こちらも次の段階に移るとするか」


先行する高坂隊は小田井城の横をすり抜けそのまま佐久平に突入していた

「海未ちゃん…待ってて、助けてあげるから!」

今の穂乃果には周りは全く見えていない


穂乃果に対し、他の武将からの制止の言葉が再三投げかけられるが彼女の耳には入らない

ただ彼女の心を支配するのは園田海未という最愛の人を失う事への恐怖のみであった


まさに猪突猛進、彼女の特徴を表すような進軍

しかし今はそれが悪い方向で暴走していた

高坂穂乃果という武将が絢瀬絵里や園田海未と比較して劣るといわれる所以である

そしてその暴走する穂乃果の部隊が御代田を抜け塩野に差し掛かった時


「正面!敵集団布陣確認!」



「北へ抜けるよ!時間が惜しい!」

穂乃果の号令とともに方向転換、中山道を外れ突破を図るが


「騎馬隊接近!このままでは戦闘に入ります!」

武田騎馬隊が待ち受ける


「南へ!千曲川支流を渡りそのまま川沿いを進む!」

さらに方向転換し、南方千曲川支流付近まで接近したとき


「敵襲!伏兵です!」


「くっ!」

進軍を阻まれた穂乃果



しかし彼女はあきらめない

「一旦街道を戻る!佐久平中心を突っ切って南から小諸に向かうんだ!」

転進を図る高坂隊だが


「それはまかり通らんぞ!高坂穂乃果!」

そこに立ちはだかる武田菱の旗印


「馬場…信春!!」



「大殿!このままでは完全に囲まれます!」


「薄いところに突撃!そのまま突破する!」

穂乃果の号令に対し


「武田の隊に弱点など無い!」

「突破するならそれ以上の力で来い!!」

馬場の一喝


「それでも…それでも私は進むんだ!」


「突撃!!」


穂乃果の突撃指令で北東方面、騎馬隊横を目指し突撃を敢行


「人様の横を無断で通ろうなんぞ、片腹痛い!」

瞬く間に囲まれる


「まだだ!まだあきらめない!!」


「折れぬ心は大したものだが、それではただの猪武者だ」

「高坂穂乃果、いかほどの者かと思っておったが、武将としてはこの程度か」

「まあ良い、一気に潰す!このまま高坂を打ち取れ!」


完全に包囲された穂乃果隊はなすすべなく次々と打ち取られていく


「大殿を守れ!なんとしてでもここをっ…」

「みんなっ!」

「我々を盾にしてください!なんとしてでも脱出を!!ぐはっ…!」

「そ、そんな…なんで……」

「あなた様はこの日の本を治めなければならぬ方です!」

「あなたならできる!そう信じているからこそ、我々は戦えるのです!」

次々と突撃を繰り返し徐々に突破口を広げていく


そしてついに

「さあ殿!こちらから脱出を!!」

希望の光が見えた


…ように見えた



「残念だったな」


そこには馬場の本隊が待ち構えていた


「そ、そんな…」

穂乃果は絶望した


遂に心折れる

太陽の光は急速に失われ

周囲に向けられていた光もなくなり

その輝きを糧としていた者の命の灯をも

小さくしていく


「助けて…」


「命乞いか?所詮は女よ」


「助けて、海未ちゃん…」


「園田海未の事か」

「まあいい、覚悟せよ」


ああ、御免なさい

私が馬鹿なせいでみんなを巻き込んで

私はいつも迷惑ばかり

これはきっと罰が当たったんだ

もっと海未ちゃんのいうことを聞いていればよかった


海未ちゃん

会いたいよ


最後に会いたかった

そして…伝えたかった


私の想い

あなたのことが…


穂乃果の頬を伝う涙が地に落ちる

まさにその時




「穂乃果ぁぁぁ!!!!!」




気合一閃

敵包囲を突破し駆け抜ける集団

その先頭には



「海未ちゃん!!」




「穂乃果!」


生きている

穂乃果はそこにいる

間に合った


どれだけ人が多くても一目で見つけられる

私の愛する太陽


「蹴散らせ!穂乃果の周りの敵を全て!」


『応!』


敵包囲網の中に侵入した園田隊は高坂隊周辺の敵に攻撃を仕掛ける

元々一人一人の技量が高い者で構成される隊のため、瞬く間に敵を打ち取っていく


これを見た信春は

「これが鬼園田の部隊か」

「こちらは噂通りの強さのようだな」

「一旦距離を取れ!体制を整える!」


包囲を続けたまま一旦仕切り直しを命じた


「穂乃果!」

「海未ちゃん…良かった、無事で…」

二人は互いの無事を確認するように抱きしめあう


穂乃果は小さく震えながら海未の胸でつぶやく

「海未ちゃんが捕まったって聞いて…私、心配で…」


海未は優しく髪を撫でながらつぶやく

「大丈夫、それは敵の計略、嘘ですよ」

「私は捕まってなどいません」


それを聞いた穂乃果は

「そ、そんな…」

「私、簡単に騙されて…みんなを巻き込んで、海未ちゃんまで危険な目に…」


ここまで言うと遂に泣き出してしまう


小さく震えたまま、自分の胸で泣き続ける穂乃果に


「泣かないで、穂乃果」

優しく声をかける


こんなに震えて

怖かったのだろう

辛かったのだろう

かわいそうに



愛おしい


守ってあげたい


この感情を隠すことなどもう出来ない




「穂乃果、もう泣かないで、顔を上げてください」


海未の言葉に健気にも顔をあげる穂乃果

目の前に現れた愛しい人の顔を見つめながら海未は告げる


「私の愛する人、穂乃果」

「あなたを愛する心を隠すことはできません」


「好きです、あなたを愛しています」

「私の全てはあなたのために…」




そういうと海未は驚く顔の穂乃果に



キスをした




愛おしい

守ってあげたい


この感情は彼女に伝えられた



海未はその満足感と同時に自分の中に黒い感情が生まれるのを感じた





愛する穂乃果


誰にも渡したくない


この太陽を


永遠に私だけのものにしたい


この身を焦がすような感情を



あなたにも




永遠とも思えた長い口づけを終え、再び目の前に現れた愛おしき太陽に海未は告げる


「ここから脱出します」


「私も戦うよ!二人で力を合わせれば…」

穂乃果の提案に割り込むように


「私が殿を務めます、あなたは何としてでも生き延びてください」


「な、何を言って…」


「私がどうなろうとも、必ずあなたを逃してみせます」

「たとえこの身滅びようとも、私はあなたの側に、永遠に…」


「う、海未ちゃん!ダメだよ!二人で一緒に…」

海未の告白に、穂乃果は泣きながら共闘を懇願するが


「最低な私を許してください」


小さくそう言うと

「はっ!」

その声を合図に穂乃果の身体が崩れ落ちる


「う…うみ…ちゃ……」



「大殿!」


周囲の兵達が慌てて声をかける


海未は冷静に

「…当身です」

と答え、続き宣言する



「これより我ら園田隊は死地に入る」


『はっ!』


「高坂隊は穂乃果を連れ南隊と合流、その後撤退せよ!」


「し、しかしそれでは園田隊が!」

高坂隊から声が上がるが直ぐに園田隊馬廻衆から否定の声があがる


「我らは武人である」

「仕える方の為に力を振るうのが我らの務め」

「戦場にて命散らすは真の誉である」


「そういう事です、あなた達はあなた達の仕事をしなさい」

「私達は私達の仕事をします」


『ははっ!!』



「もし願いがあるとすれば…」

「この戦での一挙手一投足、言動全てを穂乃果へ報告して頂きたい」


「その願い、某が命にかえましても叶え申します!」

高坂隊の一人が名乗りを上げる


「…ありがとうございます」


これでもう心残りはない




「それでは皆!地獄で会いましょう!!」


『おうっ!!』



「作戦開始!」




「鬼美濃殿!敵が動きます!」


信春は心底楽しそうに呟く

「さあ、どう出る鬼園田」

「またお前らの好きな逃げやすい場所を作ってやったぜ」

「網にかかれば貴様らに次は無い」


一瞬の静寂の後

「突撃!!」


海未の号令一下、全軍が駆け始める

その目標は


「敵軍、一斉にこちらに向かってきます!!」

「先駆けは…園田です!鬼園田を先頭に全軍が本隊に向かってきます!」


この報告を受けた信春は更に狂喜し

「こいつも猪か!?」

「だが、とんでも無い大物の猪だ!!」

「気合いを入れよ!生半可な心意気ではこの猪は止まらんぞ!!」


直後両軍が激突する




鎧袖一触


そこにいた武田軍全てが、まるで悪夢を見ているかのような気分になる

包囲の一番硬く閉ざされた場所

馬場信春本隊の正面を嵐が通り過ぎる


嵐の通った場所にいたはずの兵は

抵抗する事も叶わずそのまま崩れ落ちていく



「包囲突破されました!」

「お味方の被害甚大です!」

「馬場殿!ご指示を!!」


ほぼ五倍の兵数

圧倒的優位に立っていたはずの武田軍が一瞬の内に恐慌状態に陥る


そんな中、馬場信春は心震わせていた



あの目

あの気迫


あれは死を覚悟した者の目では無い

それ以上の

そう、例えるならば


羅刹




「面白い…面白いぞ!園田海未ぃ!!」

「地獄の獄卒!羅刹の化身!」

「相手にとって不足なし!!」


「全軍追撃!羅刹狩りだ!!」


『おう!』



音ノ木軍は包囲突破後、穂乃果を運ぶものを中心とし、ひたすら駆け続けていた


何とか佐久平より軽井沢に進入

街道が狭くなった頃


「武田軍に追いつかれます!」


報告があるや否や指示をだす

「高坂隊はこのまま南隊を目指して下さい!」

「この先は真田隊もいますが、高坂本隊と交戦中のはず、隙を突いて突破して下さい!」

「穂乃果をお願いします!」


「お任せください!何があろうと必ずやお届け申す!!」

「園田隊の皆様方!御武運を!」


集団から高坂隊を送り出すと海未の顔から表情が消える


そして



「園田隊!転進せよ!!」


『応!』


「これより我等が進むは修羅の道」

「一歩も引いてはならぬ!」

「背中を見せてはならぬ!」

「背中の刀傷など末代までの恥である!」

「主君の為、己が為に、ただひたすらに敵を討て」

「正義など要らぬ、道理など要らぬ」

「神と会わば神を切れ!鬼と会わば鬼を切れ!」

「悪鬼羅刹となりて、全ての敵を討ち滅ぼせ!」


『応!!』




「面白い!武田の騎馬隊、止められるものなら止めて見せろ!」


「全軍!そのまま突っ込めぃ!!」



『応!』




遂に二人の鬼が激突

戦場に響く咆哮は誰のためか?


というわけで次回に続く!!



少し間が開くかも…



再開します


遂に激突する両者

武田軍騎馬隊がその突破力を生かし、突撃を敢行する


「騎馬を潰せ!一番隊!槍衾!!」

騎馬隊の標的となった中央の一番隊は整列し膝をついて得物を斜上に構える


「させるかよ!踏み潰せ!」

勢いを落とさずそのまま立ち向かう


転倒する騎馬

吹き飛ばされる兵

轟く怒声

両者全く引くことのない乱戦


「三番隊側面から突撃!敵を分断!殲滅せよ!」


「分断されんのは貴様らだ!中央から斬り裂け!!」


戦線左翼から反転攻勢を仕掛けようとする園田隊に馬場隊も応戦

此方も敵味方入り混じっての大混戦となる


「二番隊斉射開始!全ての敵を貫き通せ!」


「当たらなければいい!近づけば何もできん!」


右翼では園田隊の長弓に対し数と機動力を背景にした戦いが始まっていた


そして中央戦場では激しい戦闘が続いていた


「園田を討て!大手柄がそこに在るぞ!」

「首を取れば侍大将だ!」


敵が集中する海未であったが、その手に持つ大太刀が全ての敵を屠っていく

「園田海未は此処です!手柄が欲しければ掛かってきなさい!!」

「足りない…足りませんよ!」

「武田の力はこの程度ですか!?」


この様子を見つめる信春は心底嬉しそうに笑う


「園田…!いいぞ…もっと舞え!」

「最高の舞を見せてみろ!園田海未!!」


数では圧倒的に不利な園田隊だが気迫で敵を留める


「大将殿!このままでは高坂に逃げられます!」

この報告を受けた信春は舌打ちしつつ次の指示を出す

「鏑矢だ!右から潰せ!」


戦場に鏑矢の音が響き渡る


「やっと来たか、あの戦闘狂め…」

「皆の者かかれ!目標は右翼、長弓隊!」


鏑矢の合図に応えるは街道南に潜んでいた伏兵

その旗印は


「六文銭!真田です!右翼から真田隊突撃してきます!!」

「お味方陣形保てません!」

予期せぬ真田隊の出現に園田二番隊の陣形は崩壊、混戦となる


これを皮切りに各所で数的不利の影響が表れ始める


「左翼三番隊分断されました!何とか敵を押しとどめていますが、劣勢!」

「二番隊副隊長…討死!」

「園田殿!一旦引いてご指示を!」


「くっ!なぜ真田がここに」



真田昌幸は戦況を見つつ答えるように呟く


「あのような雑魚にいつまでもかまけておるのもつまらんからな」

「それに武田の菱に媚びを売ろうとするものはいくらでも居る」

「そいつらにとっては高坂の首は極上の手柄だ、こちらが言わずとも必死に獲りに行くさ」



混迷する戦場

各々の命の花が

美しく舞盛る


その中心で舞う花は

ひときわ輝きを放つ


その姿はまるで太陽の光を

一身に受けているかのようであった



場面は変わり、追撃の手から逃げ続ける高坂護衛隊


「まもなく交戦地域に入る、皆の者準備は良いか!」

部隊長の声に

「おうよ!」

「園田隊の忠義を無駄にはできん!我々も続くぞ!」

次々と気合と覚悟を口にする兵たち


「よし!いくぞ!!」

掛け声とともに坂を駆けあがりそこに見えた光景は


優に五千を超えようという大軍に完全包囲された友軍の姿であった



「な、なんだこの軍勢は…」

「近隣の国人衆!こやつら初めから武田と繋がっていたのか!」


戦況は膠着状態のようだが、味方は完全に包囲され身動きが取れずにいる

街道は完全に封鎖され強行突破が図れるような状況でもない


「くっ…!どうする…」



躊躇したその時


「いたぞ!高坂だ!高坂穂乃果の馬印が見えるぞ!!」

「逃すな!生死は問わぬ!捕らえよ!!」


戦場の雰囲気が一気に変わり、敵兵が押し寄せる



どうする!?

部隊長は考える


このままでは大殿が…

何としてでもお命を救わねば

この日の本を救うのは高坂穂乃果殿以外に無いのだ


私に力があれば…


またなのか…あの時と同じ想いを繰り返すのか!




部隊長の記憶が蘇る


自分も昔は地方の領主だった

混乱する世の中に苦しむ民の為、平和を求めて戦う日々であった


しかし自分には力がなかった

周辺大名に城を奪われることもあった


それでも民は自分を信じて付いてきてくれた



そんな時、突如勃興した新興国「音ノ木」に国を奪われ私自身も捕虜とされた


音ノ木の城下に連行された自分が見た光景は、民が皆活気にあふれ、笑いあい、子供たちが駆け回る、自分が理想としている場所そのものであった


民の平和、そしてそれを守ることのできる力

私が欲してやまなかったもの



そして初めて大殿、高坂穂乃果殿に謁見した際に言われた言葉


「私たちと一緒に戦争を終わらせようよ!」



私は伏して願ったのを覚えている

「ぜひともお召し抱えください」

「小さな力ですが、必ずお役に立って見せます」



そうだ、思い出せ!

私はあの時、名を捨て生まれ変わったのだ

今こそあの時の誓いを果たすとき


奮い立て!



小田天庵!!






「大殿の馬印をここへ!」


「何をする気だ!天庵殿!」


「私が囮となる!時間を稼ぐ故、貴殿達は隙を見て脱出せよ!」

隊員に指示を出す


「しかし天庵殿は…」

「今はとにかく脱出だ!南隊は近くまで来ている!合流すれば良い!」


それだけ言うと


「では、さらば!!」


一人敵に向かい馬を駆る



私は親と神に感謝する

この姿に生まれたことを

顔かたちは違えども

髪色、背格好いずれも似ている

そして何より私は








天庵は敵に向かい宣言する


「我こそは音ノ木国の高坂穂乃果である!!」

「我が首、欲しければかかってこい!!」

「貴様ら腰抜けの槍刀など全て砕いてくれるわ!!!」



「大将自ら出てくるとは…どういう了見だ?」


敵将は一瞬戸惑った様子を見せるが、すぐに配下の者が

「しかし、馬印、外見特徴全て一致しております!」


この報告を受け

「確かに、見目麗しき姫武将などそうそうおるまい」


「よし!高坂の首を取れ!!」



影武者となった天庵を穂乃果と見た敵方は雪崩を打った様に襲いかかる

天庵は一瞬恐怖に怯えるものの


「穂乃果ちゃんは心折れない!」


自分に言い聞かせ果敢にも敵中に突撃を敢行する


その鬼気迫る姿に敵も身じろぎ

「怯むな!討ち取ったものには武田からの報酬が思いのままだぞ!」

敵方大将が檄を飛ばすが


「穂乃果ちゃんは皆に勇気を与えてくれる!」


再び天庵は自らを奮い立たせるかのように言葉を唱えると、襲いかかる敵相手に大立ち回りを演じる


心の優しさで目立つ事は無かったが、元々武技はかなりの腕前である

それがこの窮地で自己暗示をかける事により開眼した形となった


そして包囲され、抵抗出来ずにいた高坂隊にも変化が起こる


「あれは…天庵…いや大殿!」

「なんと!あの心優しき方があの様な勇敢な振舞いを!」

「我らも続け!汚名を返上するのだ!」

「大殿を守れ!敵を討て!!」



「な、なんだ!高坂本隊の士気が…」


驚く敵方大将の元に伝令が駆け寄る


「お頭様!包囲軍交戦再開!」

「敵方勢い強く包囲破られます!」



戦場は一気に混戦状態となり、各小隊が彼方此方でぶつかり合う展開となった


「好機到来!護衛隊!一気に突っきれ!!」

本物の穂乃果を匿う護衛隊はこの機に乗じ戦場の突破に成功する



これを見た天庵は安堵する


「良かった、これで音ノ木は守られる」

「私はここまでだが、ただで死んでやるわけにはいかん!」


「一人でも多く…連れて行く!!」


死を覚悟した天庵は、明日の音ノ木の為、戦い続ける

声を上げ目立つ振る舞いをし、敵を引きつけひたすら戦う


包囲されていた友軍も包囲を離脱し危機を脱した様だ


我ながら上出来だ


これならば地獄で会うであろう園田殿に顔向けできる


戦況有利とはいえ、自分自身は孤立無援

迫り来る敵は数知れず

流石に生き残る事は無理であろう


覚悟していたとはいえやはり恐怖と未練を感じる

しかしそれ以上にある自分はやり遂げたという満足感


体力も限界

恐らく次の敵集団は捌き切れまい

一層の事、腹を切って敵への嫌がらせでもしてやろうか


そんな事が頭を過ぎった、その時




『諦めないで!』




何かが聞こえた気がした


「くっ!」


天庵は気力を振り絞り、巧みに馬を駆って敵集団を撃退する


「今の声は…?」

戸惑う天庵の耳に再び声が届く





『もう少しだから…何とか味方の所まで…』



極度の危機の連続に遂に自分の頭がやられたか

しかしこの声に従わねばならぬような気がする

どうせ捨てた命だ


「なるようになれ!!」


天庵は叫ぶとそのまま敵中突破を敢行

這々の体で本隊の元へたどり着いた瞬間




「撃てーーーー!!!!!」



戦場に響き渡る声の後、耳を劈く様な乾いた火薬の音

「こ、これは…鉄砲隊!?」


雨霰の様に敵に降り注ぐ鉄の弾丸

攻勢をかけていた武田方はなす術もなく倒れる味方を前に大混乱に陥る

最早それは軍隊の程をなさず、単なる烏合の衆


呆然とする天庵と高坂本隊を他所に戦況は一気に大詰めを迎える





「騎馬隊突撃!敵を追い払って!」



緊張感の中にもどこか愛嬌の残る声が響く


「この声は…さっきの」


この声を天庵は知っている


はたして、その軍旗は天庵の思うその人のものであった



その頃殿軍戦線では


「五番隊…壊滅しました!」

「二番隊副隊長、単騎にて馬場隊に突撃!奮戦むなしく御討死!」


次々に報告される戦況不利の報告


「まだ…まだです!ここで馬場と真田を討たねば音ノ木に大きな仇をなす!!」

「私は!園田海未は生きていますよ!!」





「そう…私は生きている…」



「まだ…まだ足りない…」


「まだ太陽には届かない………」




続く!!


次回、御代田合戦 決着!!



するはず!!!


あと今回μ’sちゃんの出番が少ないやん!とかは言ってはいけない!



自分で痛いところを突っ込むスタイルも確立だ!


今回の準ヒロイン

小田天庵ちゃん(地味系真面目女子)

関東八屋形の内の一つ小田家15代目当主
守りにくく攻めやすい小田城を拠点にしていた
戦では連戦連敗のような伝承があるが、実は結構勝利も収めている
なんといっても相手が、北の佐竹・南の北条・西からは上杉、結城といった名だたる相手
結構頑張っていたと思う
領民からはかなり慕われていたようで、他の大名には年貢を納めるのを拒否したという逸話がある
そのためやられてもやられてもまた復活してくることから一部では「フェニックス天庵」として
アイドル的な存在となっている

1の中では地味系真面目女子として確立している


すまぬ…

もう少し…もう少しなのだ…

私に時間を……

というわけで保守だ!!
ごめんなさい!!!


ただいま最終校正中

本日中に再開予定です


再開します


穂乃果が危機を脱したその頃も、殿軍戦線では激しい戦闘が続いていた


馬場隊の攻撃に加え真田隊に横腹を突かれる形となった園田隊は徐々に人数を減らされ、既に半数余りとなっていた

しかし隊長の海未を筆頭に各員の意気凄まじく、武田の兵は一人として穂乃果を追うことが出来ずにいた



「園田海未、思った以上にやる」


戦況を見る信春にも焦りが見え始める

これだけの兵力差を以ってして手ぶらで戦闘を終えるわけにはいかぬ

そこに真田よりの伝令が到着し何事かを伝える


伝令からの報告を受けた信春は苦虫を噛み潰した様な顔で

「くそっ!」

悪態をつき指示を出す


「作戦変更だ!高坂を追う必要はない!」

「全力で園田海未の首を獲れ!!」


『応!!』


武田隊から陣太鼓が鳴り響く

その直後から海未に敵攻撃が集中する



明らかに敵の目標が変わった

どうやら私の首を狙っている様子

という事は…


「ふふっ…」

「また一歩、太陽に近づきました…」


怪しい笑みを浮かべ呟くと部隊に指示を出す

「全軍に通達!退ける者から順次撤退!」

「我らの目的は叶いました!!」


敵の集中する海未の元へ味方が集まろうとするが

「指示を聞いていなかったのですか?撤退です!!」

怒りとも思える口調で援軍を拒否する


「しかし隊長が…」

部下の心配の声にも耳を貸さず

「誰かがやらねばならぬことです!早く指示を守りなさい!!」



「…それにこの先の戦闘は単なる私闘、あなた達を巻き込む訳にはいきません」


この言葉に遂に部下も折れ

「隊長!御武運を!!」

その場から離れて行く




これでいい


太陽を近くに感じる…


もう少し…もう少しで私は…



海未は、完全に敵に囲まれるも鬼気迫る戦いを続ける

その姿には囲んでいるはずの敵が怖気付き躊躇するほどであった

「…どうしました?休憩するならこちらから行きますよ!!」


この声に反応する一騎の騎馬

「ならば俺がその首頂こう!鬼園田!!」

遂に大将馬場信春自ら槍を構え突撃する


海未は信春の槍を躱し返す刀で切り返しを試みるも、他の兵からの攻撃のため断念

再度体勢を立て直す

そこへ再び信春の槍が海未を狙う

そうはさせじと大太刀を使い槍を防ぎ、そのまま周囲の兵ごと切り捨てを図る

信春は見事な騎乗でそれを躱す


その後も交戦が続くも両者譲らず

しかし一対多数の状況下で確実に海未の体力は奪われていく

そしてあわやと思わせる場面も徐々に増す中、彼女の表情に変化が現れる

その表情は戦う者に疑念と畏怖を与えていく



信春も例外なくその一人であった


「これだけの人数、これだけの戦闘時間」

「なぜ園田、貴様は倒れない、そして何より…」



「なぜ笑っている?!」






そう、海未は笑っていた



だがその笑みは常人の想像するものでなく、何処までも昏く、重く、しかしどこか官能的で、欲望に満ちた、見た者に厭忌感を覚えさせるものであった



「…なぜ笑うか、ですか…?」

海未は戦闘を継続しながら呟いた


「もう少しで…太陽が私だけのものになるのです…」


信春は訝しみながらも問いかける

「ど、どういう意味だ?」


海未は笑みをさらに強くし答えた



「我が愛する太陽!高坂穂乃果!」


「彼女が私だけのものに!」



海未は笑みを絶やさずぽつりぽつりと語り始める


「私はここで死ぬでしょう」

「あなた達に無惨に切り裂かれ、首を狩られ、晒し者にされるのです」

「ひょっとしたら殺される前に多勢に犯されるのかも知れません」

「何と悍ましく、哀れなことでしょう」


「しかし私は最期まで戦う事を止めません」

「穂乃果を守る為ならば命も捨てる」

「それが園田海未だからです」



「私の死を知った穂乃果はどう思うでしょう」


「優しい子です、きっと『私のせいで死んだ』と考えるはずです」

「私はそんな彼女に別れ際、愛の言葉を贈りました」

「『この身が滅びようとも、私の心は永遠にあなたと共にある』と」

「彼女の事ですからこの言葉と私の死をとても重く捉えてくれるはずです」



「穂乃果は一生誰とも結ばれることは無いでしょう」

「生きている限り私の言葉に囚われるのです」

「永遠に私の心と共に生きるのです」



「古来より太陽を欲する者は、手に入れる前に焼き尽くされ、身を滅ぼすと言います」


「…しかし私は違う」


「手は届いた、後は抱き締めるだけ」


「この身、この命を捧げるだけであの太陽が手に入る」


「絵里にも!ことりにも!μ’sの誰にも手に入れることが出来なかった太陽!」


「私は手に入れる!!ずっとずっと欲しかった!!」


「穂乃果の心!穂乃果の身体!穂乃果の笑顔!!」


「全て私だけのものに!!!」


「あなた達は太陽へ辿り着くまでの手段」



「さあ!掛かって来なさい!我が愛の礎となれ!!」




気迫か、執念か、それとも憎しみか

その場にいる全ての人間を威圧するその独白


それは鬼美濃と謳われた馬場信春も例外では無かった

なんだこれは…

恐怖?恐れている…?この鬼美濃が?

初陣から数十戦、戦場を駆け回り、軍功をたて、その上傷一つ負ったことのないこの俺が…


「進む事を躊躇っている…だと…」




「くっ!ふざけるな!」


首を振り声をあげる

「懸かれ!園田を討ち取れ!」


号令と共に再び斬りかかる信春

槍と大太刀がぶつかり合う金切音を合図として周囲の兵も一斉に攻撃

再度の乱戦が開始された




「…穂乃果…ああ、穂乃果」

「近付いてくる…あなたがそこまで」


海未はひたすらに敵を討ち続け、徐々に標的である馬場信春に迫る


「潰せ!止めろ!」

「複数で一気に斬りかかれ!」

怒号渦巻く中、淡々と敵を討ちつつゆっくりと歩を進めていく



信春の勘が危険を告げる


此奴は危険だ

今獲らねば必ず後々武田の大きな仇となる!


「矢を射かけよ!」


この言葉に馬廻衆が否定の声をあげる

「しかしお味方が巻き添えになります!」


「構うな!アレは人では無い!羅刹…いやそれ以上の鬼神だ!!」

「武田の為にも生かして返すわけにはいかん!」


「は、ははっ!」




「矢!放て!!」


号令一下

無数に放たれた矢嵐が海未周辺の武田兵ごと飲み込む

『ぐあっ!』

『そんな!味方ごと…うっ』

様々な悲鳴が飛び交うも矢嵐は暫く止むことなく続き、そして



「ふ、フハハ!」

「誰も立っておらぬ!鬼神、遂に討ち取った…な、なに?!」


信春だけでない、そこに居る全ての者が己が目を疑った


視界を遮るかの量の矢嵐

全ての命を奪い去った筈の地獄


その中心で再び立ち上がる鬼神

身体に矢が突き刺さりながらもその表情には未だ笑みが浮かぶ



「ば、化物…」

「む、無理だ…勝てる訳ない!」

兵士達に動揺が走る


そして遂に

「に、逃げろ!」

「殺される…!」


敵前逃亡を図る者が出始め、このまま戦線崩壊かと思われたが


「ぐふっ!?」


逃亡を図った兵士の腹部に槍が突き刺さる



槍の持ち主、馬場信春は冷たく言い放つ

「敵前逃亡は処刑、その者の出身の村は全て金山送り」

「これが掟だ、よもや忘れた者はおるまいな」


周囲に訪れた一瞬の沈黙の後


「う、うわぁぁぁ!て、敵を討て!!」

「相手は手負いだ!一気に行け!!」

「休ませるな!押し切るのだ!!」

引くこと叶わずと覚悟した兵達が一斉に襲いかかる

その勢いは先ほどの比ではない

信春もその勢いに乗って海未に迫る



海未に動きはない

矢の突き刺さる箇所からは止め処なく血が滴り落ち、なぜ立っているのかすら不思議な状態


このままなす術なく討たれるかと思われたその時




「蹴散らせ!」

「囲え!場を整えよ!!」


軍旗を持たぬ謎の集団が乱入

瞬く間に海未と信春を取り囲むように布陣する


その姿を見た信春は苦々しく呟いた

「貴様ら…園田隊!」



「撤退した筈の園田隊が何故ここに?!」

「命令違反か?!」

包囲の外に追いやられた将達が口々に疑問を口にする


その声に応えるように園田隊が口を開く

「『園田隊』の撤退は完了した」

「今ここに居るもの達は『海未ちゃん』の友」

「友が命を賭け太陽を求めるのならば、我等はそれを手助けしよう」


そう言うと全ての者が囲い込んだ敵大将に背を向け囲いの外に向く



敵に包囲され海未と単騎対峙する信春は吐き捨てる様に言う

「音ノ木、愚かなり」

「大名の親衛隊がこの様な感情的な動きを見せるとは…」


しかし直後ニヤリと笑い

「だが嫌いじゃない」



海未は未だ笑みを浮かべたまま立ち尽くしている

その目には己が目的地である太陽しか見えていない

それが海未の全てである様に



「目の前の俺は全く無視か…」

「これだけの女にこれだけ惚れられるとは…高坂穂乃果、興味はあるが…その前に」


信春は愛用の槍を構え直し

「この鬼神を討ち滅ぼす!!」


気合いと共に馬を駆る



再び相見える両者の刃


しかし満身創痍の海未に騎馬武者の攻撃を交わす余裕はない

一気に追い込まれ打ちのめされていく海未


それでも立ち上がり、大太刀を持って立ち向かう

信春も馬を降り完全な一騎打ちの死合いが続く



「私の願い…!」

「太陽の元へ!私は辿り着く!!」

先程までの笑みは消え必死の形相で大太刀を打ち込み続ける


そんな海未に対し信春は

「園田!俺は貴様には負けることはない!」


「貴様の希望は単なる『死』」

「そんな死に体の者に俺は負けん!」


「俺の希望は生きること!何としてでも生き延びる!」

そう言うと渾身の力で槍を振り下ろす



「くっ!」

再び辛うじて攻撃を受け止める海未

そんな海未に対し信春は怒涛の様な攻撃を繰り返す


「そんなに死にたきゃさっさと往け!」

「太陽だか何だか知らんが好きなとこに行っちまいな!!」


「おらよっ!!」

渾身の突きは遂に海未の大太刀を砕き、その衝撃で海未は吹き飛ばされる



はぁはぁと荒い息遣いで海未を見下ろす信春

「やったか…?」

信春が近づこうとした時


「うああああぁぁぁぁぁ!!!!」

轟くような声と共に再度海未が立ち上がる


その表情を見た信春は満足そうに

「そうだ園田、その顔だ」

「その表情こそが本物だろう!」

そう信春が言う海未の表情とは



怒り




「私だって…私だって死にたくない!」

「生きてあの子と添い遂げたい!」

「でも私じゃ駄目なんです!けど…」



「誰にも渡したくない!」



「私は命を捧げるんです!」

「そのぐらいの我儘いいじゃないですか?!」



「私は最低の人間です!」

「そんな事は分かっています!」

「でももう我慢できない!」



「だったらこうするしかないじゃないですか!!」




そう言うと海未は腰の長刀を抜き信春に斬りかかる


先程とは逆に海未が嵐の様に攻め立てる

だが信春は落ち着いて全てを捌き、逆に攻撃そして遂に信春の槍の石突きが海未の鳩尾を抉る




「ほ、のか……ごめんな…さ……」

軽い海未の身体が宙に浮き、そしてそのまま地面に叩きつけられ、動きを止める



「遂に力尽きたか…」

「これも戦国の世の定め!その首頂く!!」


とどめを刺すため槍を掲げた、その時




目の前に何かが見える

なんだ…?

俺は知っている、そうだこれは…




刀!!





「ぐあっ!」

体を地面に倒し刀を交わす信春


「な、何が?」

我に返り周囲を見渡す

そこに立っていたのは…




「高坂穂乃果!」





見上げたその先には撤退した筈の高坂穂乃果がいた

その手には先ほどの刀

そして周囲には音ノ木の軍勢

掲げる軍旗は


「μ’s…」



「ちいっ!戦闘狂め!」

「撤退の陣太鼓が聞こえんかったか!」

毒付くのは真田昌幸


「我等は一旦小田井に戻る!」

「馬場隊は放っておけ!!」

こう言うと軍をまとめ、撤退するため街道に向かう


しかし街道に差し掛かった時



「にっこにっこにー❤」

「この超かわいいにこにーのとこに来るなんて、結構分かってるのね〜」


街道を抑える集団

「不敗の矢澤か…」


「私達もいるわよ」

その声の先に布陣するのは


「絢瀬に西木野」

「特殊戦術隊『美毘』とは、これは光栄だな」

余裕のある言葉とは逆に表情にはこれ以上ない緊張が走る


「あんたら私の可愛い後輩をいい様にしてくれて…覚悟しなさい!」



場面は戻り、海未と信春の周辺は一気に状況が混沌としていく


海未の救出の為、大将である穂乃果自身が敵大将馬場信春に一騎討ちを仕掛けたことにより続く音ノ木軍の士気が一気に向上

包囲する武田軍を押し返していく


戦線に綻びが出た所には、続く南隊の鉄砲による鉄雨が降り注ぐ



「よくも!海未ちゃんを!許さないよ!!」

怒れる穂乃果の勢いに押され、流石の鬼美濃も

「この勢い…猪が獅子になって戻ってきたか」


「園田め…何が太陽だ!」

「これは業火…灼熱の業火だ!」


「一旦小田井に戻る!」

「撤退だ!!」


遂に撤退を指示する



穂乃果は馬場隊の撤退を見届ける事なく直ぐに倒れている海未の元へ


そこでは既に東條希が応急手当を施している所であった

「海未ちゃん!!」

「しっかりして!目を開けてよ!!」


興奮状態の穂乃果を希が制する

「穂乃果ちゃん!大丈夫だから!」

「海未ちゃんは生きてる!だから落ち着いて!!」

「でも!私の所為で!海未ちゃんが…こんなに…」

そこまで言うと穂乃果は、そのままその場に泣き崩れる


「ごめんなさい…ごめんなさい海未ちゃん…」



その姿を見た希は穂乃果を抱きしめ優しく声を掛ける

「大丈夫、大丈夫だよ、絶対助けてあげるから」

穂乃果は泣きじゃくりながら、頷く


そして希はこう続けた

「ウチらの大切な友達にこんなに事してくれて、タダでは済まされへんな」

「直ぐに仕返ししてあげるわ」


「倍じゃ済まんよ、百倍返しや!!」



馬場隊は総崩れ一歩手前の状況に置かれながらも何とか城の見える所までたどり着く

「ここは高台の城、入口さえ封鎖すれば容易くは落とされん!」

やっとの思いで城門にたどり着いた瞬間


「砲撃始めー!!!」


大地轟き、地も裂けんばかりの爆発音が戦場に響き渡り

戦場の全てが動きを止める


その数秒後


「城が?!」

「なんだこれは?!雷か?」

小田井城の建屋が音を立てて崩れ落ちて行く

これを見てさらに混乱を深める馬場隊

さらに追い討ちをかける様に再度声が聞こえる


「第二射!撃てーー!!」


再び轟音が響き、大音響と共に城門が崩壊する



「な、何が起こっているのだ…?」

「この音の正体は一体?」


信春が周囲を見渡すと、遥か数里先であろうか?

布陣する集団が見える

そしてその集団の先頭に見えるのは


「大筒!奴らこんなもんまで!」



「ピャァァァァ!!すごい音だよぉ!!」

砲兵隊を率いる将、小泉花陽は想像以上の爆音に目を回していた

「ことりちゃんに言われて持ってきたけどこんなに凄いとは…」


その隣では花陽の親友、星空凛も同じ様に目を回していた

「にゃぁー…凄い音だにゃー…」

「ド派手だけど少し離れて見てたいよ〜」


二人して目をクルクルと回している中、物見が二人に報告する

「敵城門、破壊に成功しました!」

「また、敵は大筒の威力に怯み、混乱しております」



凛はこの報告を聞くや否や、今迄目を回していたのが嘘の様に目を輝かせ

「よし!一気に城に踏み込むよ!」

「かよちん!凛達が途中まで走ったらもう一発打ち噛まして!」

「うん!気をつけてね、凛ちゃん!」


笑顔で送り出してくれる最愛の友に、凛も最高の笑顔でこたえる

「行ってくるよ!」


「さぁ!駆けろ!流星隊!!」










ここは…夢?

あそこにいるのは…



ほ、ほのかぁー!

まってください!


うみちゃん!はやくおいでよ!

もっとたのしいことがいっぱいあるよ!


まって!

そんなにはやくはしれません!

ほのか?

どこですか!

わたしをひとりにしないでください!!


ふぇぇぇん

こわいです!

ひとりはいやです!

ほのか!ほのかぁー!!




これは昔の私?


暗い暗いどこかで私は泣いていた

小さい頃は気が弱くて、泣き虫で、いつもあの子に助けられていましたね


いや、今も変わりありませんか

私はあの子に助けられてばかり

あの子がいないと何も出来ない、弱虫のまま


そんな優しいあの子の心を壊してまで自分の欲望を果たそうとした私

このままこの暗いどこかで永遠に一人泣き続けるのがお似合いです




ふぇぇぇん!

ほのかぁー!ほのかぁー!!



私はここだよ



ほのか?

どこですか?くらくてなにもわからないです!


「ここにいるよ!海未ちゃん!」


いきなり抱きしめられる感覚

この暖かさ

この安心感


そう、これは…





「穂乃果!!」



私はその愛する人の名を声に出す


その瞬間暗く閉ざされていたその場所が真っ白な光に包まれ、大地と、空が目の前に現れる

そしてそこには街並みが見え、いつの間にか自分を飲み込んでいく

その街並みは…




「ここは…音ノ木坂…?」




「そうだよ、海未ちゃん!」


「私達が帰る場所だよ」





海未が目を開くとそこには見慣れぬ空の色

成る程これが地獄の空の色かなどと考えているうちに徐々に頭が冴えてくる



どうやら地獄の空と思っていたのはただの天井の様だ

そしてとにかく身体のあちこちが痛く重い

あまり覚えていないが殴られ蹴られ、更には矢の雨が降ってきた様な気がする


よくもまぁ生きていたものだ




…逆に生きていなかった方が良かったかも知れない


あの子に会わせる顔がない

これから私は何を生き甲斐としていけば良いのか


幸か不幸か今は夜中の様だ

このまま人目のつかぬところで…


最後に穂乃果に文を認めよう

あの様なくだらない呪縛から解き放ち、再び皆を照らす太陽となってもらわねば



海未はそう思い立つと重い身体を起こそうとする

しかしまるで誰かに押さえつけられているかの様で身体を起こすことができない


情けない

しかし穂乃果にこれ以上の苦しみを与えるわけにはいかない


海未は何とか起き上がろうと身体の隅々まで神経を巡らす

まず胸から肩にかけての痛みが大きい

そして足、特に太ももの辺りは何かに挟み込まれている様な感覚さえある

その二箇所では熱を持っているのか暖かさを感じる

更に耳元では誰かの寝息が聞こえる…



「えっ?」


痛む首を動かし寝息のする方へ振り向くと、よく見知った顔が見えた



「ほ、穂乃果?」




海未の隣には穂乃果が寄り添う様にして眠っていた

泣いていたのだろうか?目元には涙の跡が見える

そこまで来て海未はようやく自分の身体の痛みの原因を知る事となる


穂乃果は完全に海未を抱きかかえる様にして眠っていた

ご丁寧に足まで完全に挟み込まれている


まるで海未が遠くに逃げぬ様にしているかのように


海未は、この状況で僥倖と思える自分の愚かさを呪いたいと思いつつも、愛する人に抱きしめられている事実と目の前にある可愛らしい寝顔に一瞬『据膳』という言葉がよぎるが…


「はっ!私は一体何を!?」

何とか理性を取り戻し、現実と向き合う



この状況では逃げる事は叶わぬ様である

辛いが直接謝罪するしかないようだ


生き地獄とはこの事か

しかし己の罪を考えれば当然の報い


海未は意を決して穂乃果に語りかける



「穂乃果…穂乃果、起きてください」

海未が声をかけると


「ん、うみちゃ…?!海未ちゃん!!」

穂乃果は驚いたように身を丸くするがすぐにその目は涙で溢れかえる


「良かった…!良かったよぉ〜〜!」

「もう目を覚まさないのかと思って…私…私!!」

そう言うと感極まったのか力の限り抱きしめる




大怪我をしている海未を……





「い!いたたたた!!痛い!痛いです穂乃果!!」

「ちょっ!そこは!いーたい!!あーーーっ!!!」

残念ながら穂乃果にはこの叫び声は届かぬようで、抱き締める力を更に強くする


愛する人に抱きしめられても嬉しくない時がある事を海未が知った時、幸いにも侍従の者がこの騒ぎに気がついた様で

「う、海未ちゃん殿!!」


「海未ちゃん殿が!奥方様お目覚め!!」

「急ぎ医者と真姫ちゃん殿を呼べ!!」

「みゅうずの方々にも急ぎ使いを寄越せ!大至急だ!!」


かくしてμ’sの面々が屋敷に集合する事となった



「海未、目が覚めたって聞いたけど…」

「凄い痛がってて、見てられないよぉ」

「頑張りなさい!私達が付いてるから!」


集合したμ’sの面々は未だ布団の上でうんうんと苦しそうなうめき声をあげる海未を見て、次々と励ましの声を掛ける



そんな中、部屋の隅の方では穂乃果が怒られた犬の様にシュンとして座っていた

「穂乃果ちゃん!穂乃果ちゃんも海未ちゃんに声を掛けてあげて!」


親友のことりに声をかけられるが

「いやぁ、あのお、実はぁ」

どうも歯切れが悪い


ことりが首を傾げていると真姫がやって来て事情を説明する

「ことり、放っておきなさい」


「全く!折角怪我が治りかけてたのに…」

「この『アホのか』が何にも考えずに思いっきり抱き付くもんだから、また悪化しちゃったの!!」


「そこでしばらく反省してなさい!!」



ことりは『あはは』と苦笑いしながら困った親友を慰める

「穂乃果ちゃん、良かったね」

「もう一週間、ずっと付きっ切りだったでしょう?」


穂乃果は海未が目覚めるまでの一週間、殆ど寝ずに看病していた

他の者が変わると言っても聞かず、ひたすら手を握り、祈り、声をかけ続けていた

この二日程は容態も安定していたが、それでも彼女は海未の側を離れようとはせず、夜は隣に寄り添い眠っていた


二人の気持ちを知ることりとしては喜ばしくもあったが

「ことりの王子様候補を取られちゃったし、もう少し穂乃果ちゃんには反省しといてもらおうかな?」

やっぱり納得のいかないところもありは少しだけ意地悪をして気を紛らわす事とした


翌朝には海未の容態も安定し、皆と言葉を交わす事も出来る様になった


海未は一通り皆と会話をした後

「すみませんが穂乃果と二人で話がしたいのです」


こう言うと、全員が何となく理由がわかった様な表情で頷き、部屋を出て行く



なんとも、皆にも私の愚かな所業が気づかれてしまいましたか


これは益々針の筵

本当に生き地獄が始まるんですね

正直本物の地獄の方がずっと気が楽ですが…


身から出た錆

甘んじて受け入れざるを得ませんね



二人きりになった部屋で海未は覚悟を決め話を切り出す

「穂乃果、私は穂乃果に謝らねばなりません」


「貴女にとてもひどい事をしてしまいました…」



穂乃果は顔を真っ赤にして

「ホントだよ!穂乃果結構怒ってるんだよ!」


「あんなに大勢の前で…初めてだったのに…」

「あの、ちゃんとね、責任取ってもらうからね!」

可愛らしく怒っている


そうですね

初めての武田攻め

その第一歩で躓いたのです


でも責任を取れとは…

腹を切るか、生き恥晒して生き続けるか…


どちらにしても辛い選択です


「わかりました、貴女の言う通りです」

「園田海未、責任を取らせて頂きます」






「///そ、それって…そんな、いきなりすぎるよ」


穂乃果…そんなに狼狽えて…

そうですよね、優しい貴女が切腹を申し付けられるはずありません


最後まで貴女を苦しめる

私は何と最低な人間…いや、畜生にも劣る存在なのでしょう



「貴女が言葉にする必要はありません」

「私も同じ気持ちなのですから…」



「///海未ちゃん……」




「では、早速ですが白装束を用意して頂けますか?」

「私はこの様な性分です、覚悟が鈍るといけません」

「今すぐ準備をお願いします」


「そ、そんな…私の返事も待たずに強引な……」

「///で、でも、いいよ!///」


穂乃果の許可が出ましたか…

そんなに顔を赤くして…

疲れているのですね


でも大丈夫です

貴女を苦しめる園田海未はもう直ぐ居なくなりますから…


「///あの、思いっきり幸せにしてね!」

「///ずっと…ずっと一緒だよ!!」


ん?あれ?

何かがおかしい

海未が状況を把握出来ずにいると


「大好き!海未ちゃん!!」


そう言って穂乃果は、また海未に抱き着き人生二度目の口づけをかわす



「ん〜〜!?んん〜〜〜〜!!!」

海未は恥ずかしさと痛みと訳の分からなさで悲鳴を上げたいが口は穂乃果に塞がれたまま

しかし救出は直ぐにやって来た


『おめでとう!!!』

メンバーが一斉に部屋になだれ込んでくる


「ぷはっ!えっ?な?え?」

目を白黒させる海未を他所にメンバー達は次々と祝福の言葉を二人に投げかける

そして次の言葉で海未は三たび意識を失う事となった



『穂乃果(ちゃん)!海未(ちゃん)!』

『結婚おめでとう!!』




意識を取り戻した海未は希に事の顛末を全て聞いた


戦はあの後、音ノ木が小田井城を落として勝利した


馬場信春と真田昌幸は退却

その際、絵里はかの有名な真田信繁と壮絶な一騎討ちを演じた

決着はつかなかったが、日ノ本一の兵と互角な勝負をするスクールアイドルというのも如何なものかと海未は思ったがあえて口にはしなかった



その絵里達は何故信濃に来たのかというと、事前にことり元へは国人衆の動向の情報が入っていた

この為ことりが動いたが、忍の力も強大な武田である


他のメンバーには情報が届いたものの、肝心の本隊には武田の偽報が為されていた

出立日時から何から筒抜けの上、ことりの部隊の到着も妨害されていた


何から何まで武田の手の上で踊らされていたという事だ




そして最後に海未にとっては致命的な情報が…



「いやぁ、あの子元々講談師希望やってんてー」

「お話スッゴイ上手であっという間に国中で大人気になっちゃってね」


「少しは脚色があると思って聞いてみたら全部本当のことなんだって?」

「海未ちゃん意外と情熱的やね」


「そりゃあれだけ愛されて落ちない女の子なんておらんよ?」



海未は思い出した

確かにあの戦場でこう言った


『この戦での一挙手一投足、言動全てを穂乃果へ報告して頂きたい』


その兵士は律儀にもその言いつけを守り、海未が眠っている間に穂乃果や皆の前で、私の告白やらキスのことやら、更には黒歴史確定の発言の全てを赤裸々に語っていた

そしてその類稀なる弁舌で各所で講演を開き、それがまた話題になりを繰り返し、今では国中で知らぬ者はいない程の話となっている


巷では海未には新たな二つ名として「不死身の鬼神」と「愛の武神」のどちらが良いかで世論が沸騰しているほどである




「なるほど私は人前でファーストキスを披露し、情熱的な愛の言葉を大声で叫び続け、プロポーズまで衆目に晒したということですね」


「しかも音ノ木中の人たちがそれを知っていると…」




「希…切腹の準備を」


などと海未は宣うが


「穂乃果ちゃんに怒られるで?」

という希の一言であえなく轟沈




「うぅっ、やはり太陽に近づく者はその身を焼かれる運命なのですね…」


そう言って項垂れる海未に希は笑顔で

「天国と地獄をいっぺんに味わえるなんて、スピリチュアルやね!」

という心の底から他人事を楽しもうとするありがたいお言葉で慰めるのであった




―甲斐国 躑躅ヶ崎館―


「小田井城が落ちて以来、音ノ木には大きな動きはありません」

「だが、我が国は国人衆の発言力が強く日に日に音ノ木支持の動きが強まっておりまする」


躑躅ヶ崎館の広間では武田家臣団が出口の無い議論を繰り返していた




『お館様、御成りでこざいます』


軍僧の声に広間に緊張が走る


扉が開く

そこから現れた、威風堂々を体現する様な姿

上座に座るその者の名は




武田信玄




信玄は家臣団に告げる

「音ノ木を討つ」


おぉっと言う声が上がる中、一人の家臣が声を上げた

「然しながらお館様、音ノ木の『μ’s』の力、侮りがたいものが御座います」



信玄は不敵に笑い

「内藤昌豊ともあろうものが気弱だな」


「如何な強大な堤とて、一穴開けばもろくも崩れる」

「弱き所から徐々に削り取り、崩壊させる」



「そう…弱き所から」




遂に武田が本腰を上げる

μ’sの運命はいかに?


そしてこんな予告しちゃって大丈夫なのか?!

1よ!リアルという名のクソゲーに負けるな!!!



続く!はず!!っていうか続け!!!



忘れてたよ!



御代田合戦 ~軽井沢の退き口~





危なかった

BDを見たら魂を持ってかれていた…

みんなもそうだろう?


というわけで再開します



河越城軍絵巻


小泉花陽は変人である

こう言うと語弊があるかも知れないが、実際そうであるから仕方がない


今、花陽はゲームの世界にいる


舞台は戦国

国取り合戦を題材としたものである


この世界に来た時、システム自体は何故か皆んな知っていたのだが、戦国時代の知識など全員皆無で途方に暮れていた

かの絵里でさえ、当初は混乱しすぎて極度のポンコツ化で場を混乱させていたほどである


この状況を収めたのは実は花陽であった


彼女はアイドルオタクとして知られていたが、実は更に歴女も兼任していた

皆に戦国の何たるかや、時代背景や文化・風俗、更には戦闘について教授したのは全て彼女である


今や『金色夜叉』として名高い絢瀬絵里や、『緋色の孔明』西木野真姫でさえ、彼女の知識の受売りが全ての源であるほどだ


当然、当人達の才覚があったとはいえこれは如何ともしがたい事実である


一般的な考えでいえば彼女が中心となり、集団が形成されるべきであろう

また彼女達は仮にもアイドルである

そしてアイドルであろうとするものは多かれ少なかれ、自己顕示欲というものが存在する


しかし彼女は前面に立つ事を良しとしなかった


いつの間にか穂乃果を先頭に立て、ことりと海未を補佐とした

更に絵里達三年生を中心とする合議制を確立し、自分はいつの間にか隠れるようにして、いつものように身を潜めた


そしていつものように道端に咲く花のように柔らかな笑顔で皆を見守るのであった


余りにも見事な手腕で誰にも気づかれる事なくこの状況を作り出した花陽であったが、ただ一人見抜いている人間がいた


それは幼馴染の星空凛である


凛は花陽の才覚を非常に高く評価しており、友としての情や恋愛感情としての愛を超えた、もはや崇拝に近い感情を持っていた


信者たるものやはり教祖の扱いは気になるもので、常日頃から花陽の地位向上の活動に勤しんでいるのだが、当の本人に発覚すると非常に厳しい罰が下される為、中々思うような結果が出せず、日々悶々と過ごしていた


実はこれも花陽の思惑通りであり、全ては彼女の掌の上でのことなのだが、単純明快な凛はそんなこととはつゆ知らず今日も奔走を続けるのであった


小泉花陽は変人である


この世界の目標が戦による全国統一である以上、当然将たる者には兵士が与えられる

それは奉行衆であろうとも例外はない


当然、彼女にも部隊が存在する


各部隊はそれぞれ各部隊長毎の特徴が色濃く反映されている

例えば星空凛の部隊は、部隊長である凛の性格、特徴を反映し速さと打撃力に特化した騎馬隊として名を馳せている


他のメンバーの部隊も然り

各人の性格や特徴がよく現れた部隊となっている


そして花陽の部隊の特徴はというと、「無」である



そもそも彼女は自ら戦に赴く事はない


恐れや臆病といった理由では無い

実際出陣した戦では与えられた作戦を問題なくこなし、確実に貢献している

しかし、それは与えられた作戦をこなしただけであり、彼女の意思とは別の行動である


本当の彼女の戦というのは誰も見たことが無いのである



そんな彼女が積極的に部隊を動かす時もある


例えばこんな時である



「うぅ〜、すごい音だよぉ真姫ちゃん…怖いにゃ〜」

凛からは何時もの朗らかな笑顔も隠れ、心配そうな顔で隣に座る西木野真姫にすがりつく


真姫は少し青い顔をしながら凛に話しかける

「だ、大丈夫よ!此処は高台だし日本家屋はこういった台風みたいな気象条件を考慮した構造でそうそう何かあるなんてことは…」


此処まで話したところで屋根から何が割れたような大きな音が屋敷内に響き渡る



『キャーーーー!!!!!』


二人は大声を出してお互いの体を抱きしめ合い

「かよちん!早く来てー!!」

「花陽!何してるのよぉ!!」

二人はこんな時一番頼りになる人物の名前を呼ぶ


そう、花陽ならばこの様な事態でもあの笑顔で包み込んでくれるはずなのだ

凛は言わずもがな、真姫もそれを期待して此処にやって来たのだ



此処は花陽の屋敷

季節外れの台風の影響で天候は大荒れ

しかし肝心の家主は不在


屋敷の者に聞いても

「何もなければ直ぐに戻られます」

としか答えない


そんな中二人は薄暗い部屋の中で手を繋いでガタガタ震えていると

「ご出陣!」

「小泉隊!ご出陣であります!!」


俄かに屋敷内が慌ただしくなる


「えっ?!今出陣って…」

「何があったの?こんな中敵襲?」


凛と真姫が慌てて屋敷の小姓を呼び出し事のあらましを聞き出す



「花陽様は河川決壊の恐れが見られた為、全軍率いられて補修に向かわれました」


それを聞いた二人は

「えっ?そんな危ないところに?!」

「凛の言う通りだわ!直ぐに引き返させないと!」


慌てて部屋から飛び出そうとする二人に小姓は両手を広げ制し

「例えお二方と言えども此処はお通し出来ません」

「私が花陽様にお叱りを受けてしまいます」


「でも洪水なんてなったらかよちんも危ないよ!」

「そうよ!今なら間に合うわ!」


小姓を押しのけ玄関に向かう二人に対し

「畏れながら!!」

震える声で続けた


「河川の付近には村があり人が多く住んでおります」

「また、その人々の命となる田畑もあり、洪水となれば忽ちにその全てを飲み込んでしまいます」

「どちらを失っても民にとっては死も同然」

「花陽様はその様な民を守るために命をおかけになるのです!」


「そのお覚悟、例え高坂九将のお二方とは言え邪魔立てはさせません!」

「どうしてもと言うのならば、私めをお切りになってお通りくださいませ!!」


顔を伏せ体を強張らせながら必死で二人を止めようとする小姓


そんな必死の小さな侍に、凛と真姫は優しく声をかける

「そんな理由だったら、邪魔なんてしないわよ」


「ただ凛達はかよちんの事も心配なんだ」

「だから手伝いに行かせて欲しいな?」


二人は僅かな共を連れ急ぎ花陽が向かった川へ


激しい風雨の中やっとの事で現場にたどり着くと、ずぶ濡れの姿で陣頭指揮をする花陽がいた



「あれ?二人とも!危ないよ?!」


何だか的外れなお出迎えをされると

「危ないのはかよちんだよ!」

御冠の凛に続き


「本当よ!連絡してくれれば幾らでも手伝うのに!」

真姫も強い口調で不満を口にする


「ご、ごめんね、なんか心配かけちゃったみたいで…」

「でももう大丈夫だから」


花陽が指差す先は土嚢が積まれ所々に杭で補強された堤防がみえる

「この短時間で?」

「凄いにゃー!建設会社の人みたい!」



凛と真姫が驚くほどの工事を驚くほどの短時間で施行する技術と知識

それは間違いなく花陽の能力である


しかしさも当然のごとく任務を遂行し

「体が冷えちゃうよ?帰ってお味噌汁とおにぎりを食べよう!」


にこにこと笑って全員に帰投を命じる姿は皆が知っている花陽の姿であった



この様に小泉花陽の行動原理はあくまでも他人に依存されている

我が無い訳では無い

しかしその考えは余人の思う所と離れている様でその行動を読む事は難しい


しかし皆が知っている事もある


それは彼女は食事をする時

特に皆で食卓を囲んだ時の笑顔は最高に魅力的なのだ



この様な性分の為、領民には大変人気が高い


搾取される事が常である民にとって、共にあろうとする支配者は非常に奇異な物に映った

また、音ノ木の特徴として『四公六民』と言う税率が挙げられるが、これは花陽の提案で導入されたものである


この政策を支えるのはことりが司る商業政策との連携があってのことなのだが、その連携の元を構築したのも花陽である



音ノ木は領民に寛容であると言う話は瞬く間に広がり、村ごと寝返ってくるという事すらあった


戦わずして国土拡大を成し遂げるのである

周辺諸国には脅威でしかない



この国土の充実は戦闘の継続に直結し、音ノ木の戦闘力にも大きく貢献していた

兵站の充実こそ国の強さ


しかし目立たぬ立場でもある

μ’sは戦闘もかなり派手であり、そちらが注目され、小泉花陽の存在は忘れられる事も多い


彼女は常に目立たぬ路傍の花なのだ

そしてその事こそが音ノ木の強さの秘密でもあった



国家の命運を握っているといっても過言ではない彼女だが、本人はのほほんと農民の田植えや野良作業の手伝いなどをしては作物を分けてもらい、皆と共に飛びっきりの笑顔でそれを食している


やはり彼女は変人である


小泉花陽は変人である


先程も述べた様に変人であるが故に民衆の支持は絶大である

彼女はよく視察と称して農村をうろついているのだが、彼女を見かけると老若男女問わず皆が笑顔で話しかけてくる


「花奉行様!またお歌聴かせてよ!」

「うん、いいよ!」


「花奉行様、今年もうちの村祭りが近いです、是非いらして下さいね」

「楽しみだね!遊びに来るよ」


「花奉行!芋が煮えたから食べていきなさいな」

「ジュルリ…ありがたく頂いちゃおうかな?」

こんな感じである


ちなみに花奉行というのは子供達がつけた名で、本人もなんとなく気に入っている為、皆そう呼ぶ様になったものである



そんな花陽の愛する農村も稲刈りが終わり冬支度となる


そしてその季節は戦の季節でもある

今年も花陽の指示の元、各地へ兵糧米が運搬されていく

そして各村々の男衆も戦場前線へ向かっていく


と言っても音ノ木は基本的には常備兵の軍隊

男衆はというと後方支援の仕事、所謂出稼ぎとして遠征している


このため、前線から離れた農村部ではこの時期は女子供や老人達が住民の大半を占めている

各城には当然兵士も常駐しているが決して多いとは言えない数である


これもひとえに国政の安定がもたらす音ノ木の特徴である



μ’sの面々も其々の戦地へ散って行く

花陽の親友、星空凛もその一人である


「ううっ…かよちん、凛頑張って来るからね」

何やら捨て猫を彷彿とさせる様な佇まいで花陽邸を訪れる凛に花陽はいつもの笑顔で


「うん!凛ちゃんすごいから、絶対勝てるよ!」

と語りかける



すると凛は元気が出たのか笑顔に戻り

「ありがとう!じゃあ行ってきますのチューを…」

「///ピャーッ!り、凛ちゃん?!だ、ダメだよ!そういうのはもう少しオトナになってから!!」

突然の求愛に慌てふためく花陽


「えーっ?!絵里ちゃんと希ちゃんもやってるのに!」

不満気な凛に対し


「あの二人はオトナだし結婚してるからいいの!」

花陽は顔を真っ赤にして言い繕う


「じゃあ凛がもっとオトナになったらかよちん結婚してね?約束だよ!」


本人が何処まで分かっているのか不明だが何故か突然プロポーズされた彼女は

「///あ、あの、その、り、凛ちゃんが良かったらその時ちゃんと返事するね……」

混乱のままこんな事を口走る


「やったー!よーし凛頑張って来るにゃー!!」

「じゃあね!かよちん!行ってきまーす!!」

元気一杯という言葉を体現するかの様に弾ける様な笑顔でちぎれんばかりに手を振り屋敷を飛び出す凛に


「うん!行ってらっしゃい!」

いつもの優しい笑顔で見送る花陽であった



そんな微笑ましい光景の陰で彼女に近づく過酷な運命


現在の彼女の居城、河越城に暗雲立ち込める




それから数週間後


秋も深まり朝晩の寒さが身に染みる様な時期となった

そんなある日の事



「敵襲!入間砦が敵に攻撃され陥落しました!!」


突然の報告に城内は騒然となる


「何者だ?!」

「入間とは…まさか、謀反か?」

そこへ再び伝令が飛び込んで来る


「敵は…武田です!」

「武田菱の旗印!」


「敵軍大将は内藤昌豊!!」

この報告で喧騒は更に深まる


そこへ騒ぎを聞きつけた花陽が到着

情報の整理を始める



「敵の数は何人くらいかな?」


「物見の報告では、およそ一万!」

「勢い凄まじくお味方の砦は成すすべなく陥落しております!」


「目標地点はここ河越だよね?」


「は、はい、おっしゃる通りでございます」


「敵の部隊構成はどう?」


「騎馬五分、足軽五分、火器の使用は見られず不明です」


「武田っぽいね、なるほど」


花陽は微笑みを絶やす事なく「よっこらしょ」と上座に座る

「さて、それでは現在の状況とこれからの作戦を伝えます」


喧騒に包まれていた広間はいつの間にか落ち着きを取り戻し、皆花陽の声に耳を傾ける


「武田方の目的は私、小泉花陽」

「μ’sの中で一番弱い所を狙い音ノ木の崩壊を目論んでいるんだろうね」


花陽のこの言葉に広間は再び色めき立つ

「花陽殿が弱いとな!」

「何たる無礼!我らがかよちん殿に対して…怒りで震え申す!」



「まぁまぁ、みんな落ち着こうね」

「物事を主観的に捉えると見えるものも見えなくなるよ?」


この言葉で広間に静けさがもどる


「続けるね、世間一般的な見方ではやっぱり軍功の少ない私やことりちゃんは組し易しと見られちゃうんだよ」

「実際槍働は苦手だしね」



「ことりちゃんは国内の移動が多いから居場所の特定が難しい」

「私はこの時期は各所への兵糧米の分配の指揮があるからほぼこの河越城にいる」


「武田の忍の力量は、希ちゃんの月夜衆も苦労してるくらいだからこの程度の情報は当然掴んでいるはず」


「だから此処に攻めてきたんだ」



「しかし此処は国境から離れております」

「何故突如として近辺に敵が出没したのでしょう?」


家臣からの質問に花陽は少し考えてから

「恐らく北条方の誰かさんが内応か寝返りしたのかな?」


「そして背後にはもっと大きな力を感じる」


「多分総兵数の半分が河越攻め、残り半数が援軍を阻止するための部隊だね」



「お見事、私達は完全に包囲されて進むも引くも出来ない状態です」




「では、我々は一体どうすれば…」

動揺する家臣達


その家臣達の前で花陽は、彼女にとっては珍しく大きな声、そして大仰な振り付けで宣言する



「敵の目的が私ならばお相手いたします」


「此処は名城河越、かの太田道灌が作りし城」



「武田の皆様方にはこの城の素晴らしさ、たっぷりと味わって頂きましょう」




小泉花陽は変人である


豊富な知識を持ち、他人に愛され、冷静に判断を下す

だが、自分に自信が持てない為、常に人の後ろに隠れる事を好む

その為μ’sの中では目立たず後塵を拝している様にも見える


しかし彼女は何かを守る為ならば命を惜しまない





その時の小泉花陽は『最強』である




花陽の居城、河越城に迫るは武田四天王の一人「内藤昌豊」

音ノ木、そしてμ’sを守るため彼女は戦うことを決意する


次回、ついに小泉花陽の戦いが幕を開ける



そして例のファイナル的なBDで魂の全てを持っていかれた1の気力は持つのか?

続く…のか?いや続くよ?マジで!


保守!

明後日辺りに投稿予定です


明後日と言ったな…

あれは嘘だ


武士の嘘は軍略

自分の尊敬する人はそう言った


時間の都合で今日と明日に分けて少しずつ投稿します


では、再開します


「さて…」

花陽は考える


皆の前では大見得を切ったが、状況はかなり悪い


武田の主力が音ノ木の中心まで出てきた

という事は此処にそれだけの戦力を注ぎ込む余裕があるという事だ


音ノ木の他、織田や上杉といった強豪と隣接する武田はそこまでの軍勢を一箇所に投入できない

そう見込んでの音ノ木の拡大戦略であったがここにきて突然の襲撃



まさか領地をかなぐり捨てて攻めてきたわけではないだろう

しかも同盟国である北条の家臣を調略している

重要な同盟国との信頼関係を破壊してまでの侵略行動



やはりこれは…




となれば何としてでも単独で武田を撃退せねばならない


此処を抜かれれば音ノ木の本城まで落とされる可能性もある

こちらの戦力は約千五百

籠城戦を行うならばそれ程少なくは無い

しかし籠城は後詰があってこその戦術


私の予想が正しければ、後詰は…来ない



ならばどれだけの長期戦を行えるかだが、残念ながら現在河越城には約一ヶ月分程しか兵糧の備蓄がない


ここ河越はあくまでも米流通の通過点

国内が安定している音ノ木では前線以外の城は政治的な拠点となっている場合がほとんどで、ここも例外ではなかった


「これは大失態、みんなに合わせる顔がないよ…」



「でも!」




「私がやらなくちゃ皆んなの帰るところが無くなっちゃうもんね」

「何処まで出来るかわからないけど…じゃなかった」


「絶対守ってみせるよ!」



「さあ、前向きにいこう!」


入間の砦が落とされたという事は入間川は渡られたという事

次は狭山

そして敵は三枝守友か…


破竹の勢いでこのまま狭山まで進軍してくれそうだね

ならば…



花陽の軍略が今ここに顕現する




一方武田軍の先鋒、三枝守友は異常なほどの進軍速度で狭山を目指していた


「この機を逃すわけには行かぬ!」

「再びお館様に認めていただく為、力を見せねばならぬのだ!」


守友は前年、ある失態のため主君武田信玄から蟄居を命じられていた

それが今回、命あって強敵音ノ木攻めの先鋒を任された


「高坂九将『みゆうず』の中でも小泉花陽は最弱と聞きおよぶ」

「これは千載一遇の好機!天運我に味方せり!」


「このまま一気に狭山も落とせ!」

「本隊が到着するまでに河越までの道を切り開くのだ!」



武田軍先鋒、三枝隊の勢いは止まることを知らず、次々と狭山に続く砦を落としていく

しかも殆ど戦闘らしい戦闘はしていない


なぜなら武田菱を掲げた三枝隊が接近するや否や

「武田だ!武田軍が来たぞ!!」

「旗印は三枝守友?!勝てるわけがない!」

「砦を棄てて逃げろ!急げ!!」



この調子である

「小泉隊は弱いと聞くが、まさかここまでとは…」


「まぁ良い、我が名声の礎となって貰おうか」

「進め!このまま河越も落としてくれようぞ!」


『応!』



勢いづく三枝隊はそのまま狭山まで到達


「流石にここは易々とは落ちんか」


その言葉の通り、狭山はここまでとは違い抵抗が激しい

駐留する隊も組織立って行動する為、迂闊に攻撃できずにいた


三枝隊が攻めあぐねている、その時



「水だ!逃げろ!!」

三枝隊後方から悲鳴があがる


「何事か?!」

守友が報告を求めると

「空堀に突如水が流入!お味方に被害が出ています!」

さらに馬廻衆からは絶望的な報告がもたらされる


「三枝殿!退路が絶たれました!」

「んなっ?!」



三枝隊が大混乱に陥る中


「いまだっ!掛かれ!」

小泉隊の伏兵が横腹を突く


「ふ、伏兵です!隊の横から伏兵の攻撃!」

直後には

「討って出るぞ!敵を蹴散らせ!!」


「狭山砦から敵出陣!対応できません!」


「…小泉花陽……ぬかった!」



「狭山砦にてお味方勝利!」

「三枝守友を捕らえました!」


早馬の報告に

「ふぅ、取り敢えずは予定通りだよ」

「と言うより捕虜を取れたことは上出来だね」

安堵の表情で答える花陽


「さて、次はどっちかな?」

花陽の問いに側に控えていた小姓が答える

「先鋒の別働隊として南側から進軍する部隊が残っています」


「随分遠回りだね」

「と言うことは部隊の構成は…ふむ」



「季節外れだけど代掻きのお手伝いでもしてもらいましょうか」


花陽の言葉に小姓は深々と頭を下げる

「御意にございます」



南側からの進軍を続ける武田軍の分隊は先鋒三枝守友隊の敗北を知り進軍を停止していた


「合流するはずの先鋒隊が潰滅…」

「ここは一旦戻るか?」


しかしここまで敵砦や拠点では抵抗らしい抵抗を受けていない

それどころか相手は皆、武田の菱を見るだけで尻尾を巻いて逃げるのみであった



狭山は防衛上の重要拠点

そこに精鋭を集中していた可能性は高い


ここで引いて他の将に弱腰と見られることは避けなければならない

ならば次の拠点まで進み本隊の進軍に合わせるのが上策

この辺りは見渡す限りの沼地と聞き及んでいたが、農地が整備され進軍に影響はない


「国力の充実が仇となったな、音ノ木よ!」

「進軍せよ!入曽拠点を落とす」



武田軍の進軍後間も無く

「伏兵!茂みから伏兵の攻撃です!」


伏兵による矢の攻撃を受けるが

「蹴散らせ!敵は少数だ!」

号令一下、反撃を開始


すると反撃も殆どせず

「退却!」

瞬く間に小泉隊は退却する


「弱い!弱すぎるぞ!」


このまま河越まで突き進むのも可能ではないか?

頭にそんな思いが横切ったその時


「敵襲!再度伏兵の攻撃です!」

「ええい!蹴散らせ!敵は弱兵だ!!」


再び現れる伏兵も直ぐに蹴散らされる



その後も一里どころか数町毎に何らかの攻撃が続く


流石に辛抱たまらず

「一気に駆け抜けろ!弱兵は相手にするな!!」

入曽迄の道を駆け始める武田軍

入曽拠点が目に見える距離まで走り抜け、一旦軍を止める


その時周辺の農民と思しき者が遠くから声を掛けてきた



「戦かね?」


「その通り!間も無くこの一帯は武田の物となる!」


「そんなに急ぐと怪我をなさりますぞ」


「武田の兵にその様な弱兵はおらん!」


「しかし、こんな見晴らしの良い田んぼの細い畦道を一直線になど」

「数の多さを生かせぬぞ…」


「まるで横腹をついてくれと言っているかの様だ!」


「?!貴様!!」



「撃て!」

農民が号令をかけた瞬間、乾いた火薬の音が響き渡る



「鉄砲です!鉄砲隊の攻撃!!」

「拠点からも敵が出撃しています!」


「そんな事は分かっておる!」

「くっ…退却!!」


しかし道を戻ろうにも細く伸びた己が部隊に阻まれ動けない


「ええい!退け!道に拘るな!」

堪らず農地に入り逃亡を図るが

「田に水が!馬が進めん?!」


いつの間にか周辺の田には水が引き込まれ馬で逃亡が図れる様な状態ではなくなっていた


その間も鉄砲隊の攻撃は続く


「くっ…に、逃げろ!馬など放っておけ!」

遂に馬を置いて武田軍は逃亡する




「深追い無用、花陽殿に報告だ」


逃げる武田軍に対し小泉隊は追撃を行う事なく戦闘は終了となった





「ありがとう、ご苦労様です」


再び早馬の報告を受けた花陽はいつもの柔らかな笑顔で伝令に労いの言葉をかける



農地を利用した『灌漑要塞』河越城


元々の城の防御力に花陽が作り上げた独自思想の攻撃的防衛

今の所完全にこちらの思惑通り


これで南側からの進行は阻止できた

これで敵の気勢を削ぐことが出来たはず


残るは西、城下町側からの侵攻を迎撃するのみ



時間が無い


私達には時間が無いのだ


次は敵も本腰を入れて来るだろう



決着を急がねば





「住民を城へ」


「河越城総構えの真骨頂、味わっていただきます」



『ははっ!』





音ノ木本城を守る最強の盾 河越城


その盾の守護者小泉花陽は全ての知識を振り絞り、戦国最強の矛である武田騎馬隊と対峙する




続く!!



本日ここまで!

明日か明後日にまた来ます


泳いで参った!(大嘘)

昨日の続き、再開します


武田軍本陣


先鋒隊の潰滅、別働隊も命からがら逃げ帰るという体たらく

予想外の出来事に一部の将から大将、内藤昌豊の弱腰姿勢に不満が発生

今後の方針を巡り軍議は紛糾していた


「『みゆうず』の名に恐れをなし、下らぬ包囲策を選んだ結果、この有様である!」

「大将殿は如何お考えか!?」


強硬派の急先鋒、一条信龍が昌豊に詰め寄る

「一気呵成に攻め立てれば小細工など気にせず今頃河越を手に入れられていたはず!」

賛同する者もそうだそうだと騒ぎ立てる


批判の矢面に立つ昌豊は特に慌てる様子もなく落ち着いて反対派の意見を聞いていた


この姿勢が更に信龍の癇に障り

「何か言うことはないのか!!」

立ち上がり激昂する


「さて…信龍殿の言い分は以上ですかな?」


昌豊は静かに口を開く

その口調は落ち着いているが鋭い眼差しは信龍達強硬派を黙らせるのに十分であった


「なるほど、では信龍殿であればあの網の目の様に広がる堀、細く伸びた街道、的確に配置された拠点を掻い潜り河越城を落とせたという事ですな」



「入間川を渡りし時から既に蜘蛛の巣に入り込み雁字搦めになっていた…」

「その危険性を憂慮し、確実に各拠点を落とし、敵の連携を無効化、河越を完全に孤立化させようとしたのですが…」


「先鋒隊が殊の外勇猛で想定外に奥地に踏み込んでしまったのが確かに失敗でした」

「しかも戦前にあれ程危険と伝えていた南側の道に別働隊を送るとは…」


「いやはや、戦とは予想外の事が起こるものでございますな」



一条信龍を筆頭とする強硬派は皆黙るしかなかった

何故なら全ては内藤昌豊の言う通りであり、一気に攻めたのも、別働隊を送ったのも強硬派の独断であるからだ


「攻めるのであれば、このまま城の西側である街を抜けるか、防御に優れる東から攻めるかですが…」


「やはりここは当初の予定通り包囲すべきと考えます」



「待たれよ!大将殿!」

「ここはやはり一気に攻めるべきである!」


それでも声を上げる一条信龍

「『みゆうず』と言えども弱兵の小泉花陽」

「某が兵を率いれば、瞬く間に河越を落としてご覧に入れよう」


信龍は武田信虎の八男

当主信玄の弟である


今回の戦では大将に志願したものの、兄信玄は内藤昌豊を大将とした

傾奇者として名を馳せる彼としては非常に面白くない事である


しかも自分の息のかかった者が大きな失態

何としてでも兄に己が力を誇示しなければならない


昌豊は頷き

「そこまで仰るのであればお任せ致しましょう」


「河越城は攻め辛き城に御座る」

「そして小泉花陽は中々のやり手と感じます」

「お気をつけくだされ」



再び河越城に武田軍赤備えの脅威が迫る




新たに組織された武田軍一条隊は入間川北部を東に進軍


狭山砦に本隊が張り付き無力化する間に入間川を渡河

一気に城下町を目指す


総構えの城らしく街に入る前には門が構えられているが単なる冠木門


「一気に矢を放て!」

「この様な板塀踏み潰してくれるわ!」


その言葉の通り小泉隊にほとんど反撃の機会を与えず城下になだれ込む



その先には小泉隊が待ち構えるが


「遅いな!小泉隊!城下に入ればこちらのものよ!」

「懸かれ!」

『応!!』


恐れを知らぬ赤備えは小泉隊の放つ矢など物ともせず一気に攻めかかる


「強い?!引け!引けぇ!!」

一条隊の圧力に堪らず退却を始める小泉隊


「逃すな!攻め込め!」

「これが武田の力だ!全軍このまま城まで突き進め!」


遂に一条隊全軍が城下に入り一気に虎口まで突き進まんと進軍するその裏では…




「門を閉じよ…」


静かに街の門は閉められる




一条隊は細く入り組んだ街並みを進軍

しかし入り組んだ道により思い通りに城に近づく事が出来ずにいた

しかも各所に櫓が配置され食い違い虎口となった街並みでは様々な攻撃を受け、被害は拡大している


それでも何とか二ノ丸が見えるところまで来た時、不意に城門が開かれた


そしてそこに現れたのは…



「いらっしゃいませ、武田軍の皆様」


「流石の赤備え、この小泉花陽、感服致します」




城門の向こうには愛らしい姫の姿


「あれが小泉花陽…」


花陽は堂々とした立ち居振る舞いで一条信龍へ告げる

「遠路遥々来て頂いた御礼でございます」

「この河越城の素晴らしさ、是非体験していってくださいませ!」



「ちっ!言ってくれるわ!」

「構うな!攻撃……」


信龍が命令する声をかき消す様に花陽の声が響き渡る





「攻撃開始!!」





その声に呼応し花陽の背後に鉄砲隊が現れ、そのまま耳をつんざく様な火薬の炸裂する音が続く


「ちっ!建物の陰に隠れよ!」

慌てて後退するも


「撃てー!!」


次は家屋の上に鉄砲隊が現れる

「こいつら!?」


「弓隊!撃ち落とせ!!」

弓隊の攻撃が開始されるその時



「家が?!」

「倒れるぞ!避けろ!」

突如家屋が倒壊し一条隊の一部が巻き込まれる


「何事か?!」

状況を把握しようとするも即座に聞こえる声


「突撃!!」


倒壊家屋の背後から伏兵が出現、攻撃を開始する



「くっ!敵の狙いは我々の戦力分散だ!」

「慌てず組織を維持せよ!」

「各隊は落ち着いて目の前の敵を討て!」


崩壊するかと思われた武田軍だが、流石の一条信龍

組織を維持しつつ態勢を整える



「一条信龍…凄いです!」


「あの状況で隊を混乱させる事なく反撃を…」

「でも負けられない!」


「火を放て!!」

花陽の号令と共に火矢が放たれる



これには信龍も目を疑う

「自分の城下に火をかけるとは…」

「正気の沙汰か!?」


「小泉花陽!貴様は何者だ!!」



河越城の総構え


本城を囲む本丸

軍事施設や施政設備を中心とした二ノ丸

城下町を囲い込む三ノ丸

灌漑設備を利用した独自の外堀

そして自然の川を利用した大外堀


しかしそれだけではない

更にもう一段階の構えがある


それは



「花奉行!敵は北の庄屋の家の方に向かったぞ!」

「もうすぐです花奉行!家に火をかけて下さい!」


次々と入る情報

その情報源はその街に住む住人達

自分の家が引き倒され、火をかけられるが特に構うでもなく協力を惜しまない



これこそ花陽が構築した総構えの真骨頂


住人の家屋は国が作る

国を守る為の盾の一つとして街並みを整える

農村部も然り

その為この様な戦術も可能としているのである



そして花陽は気づいていないが、住人が彼女を慕うからこそ完成した、彼女独自の要塞であった





その要塞に引き込まれた者は、例えどの様な強敵であっても無力化させられる


この一条信龍の様に…




「外へ向かえ!一旦引くぞ!」


信龍の号令も時すでに遅し

脱出の為何とか入り口に戻るも


「…少し見ぬうちに随分と立派な門になったものだ」


門は固く閉ざされ、更には補強がなされていた




次々と来襲する小泉隊に対して遂に



「…降伏する」





「花陽様、一条信龍が降伏しました」

伝令の報告を受けた花陽は、ふぅと息を漏らしつつ


「ありがとう、ご苦労様でした」

と労いの言葉をかける


ここで大名の親族を捕虜に出来たのは大きい

相手の気勢もかなり削ぐことが出来るだろう


もう少しだ


時間との戦いだが、勝機は見えてきた

何としてでも相手の心を折らねばならない



弱い小泉にいい様にやられ、武田の誇りも傷つけられ、次は必ず力攻めで来るはず


そうすればこちらの勝ちだ

必ず撃退してみせる


それでこの戦は終了

武田を退かせることが出来れば良いのだ


その後は何とか態勢を整えることが出来るはず



花陽が思い描く戦の流れ

ここまでは正に掌の上で踊らせる様に事が進んで来た


このままいけば…



そんな思いは翌日打ち砕かれる事となる




「武田軍、西外堀周辺に陣取り静観の構え」


「東からも別働隊と思しき部隊が出丸を望む位置に布陣しています」


「周辺街道の通行が武田軍により妨害されています」


次々と入る報告

それは花陽が最も忌諱する事態、包囲による兵糧攻めの構えであった


まずい…


今この城には兵糧が殆どない

その為の強硬防衛策だったのに


なぜ?


総大将内藤昌豊は誇り高き武人

私などに良い様にされて冷静でいられるはずもないはず


…悩んでいても仕方がない

何としてでも敵をおびき寄せる!



「武田軍は何やらのんびりしているねぇ」

「少しこちらも挨拶に伺いますか」


味方にも、あくまでも余裕であるところを見せねばならない

負の心は伝染が早い


私が弱気になったらみんなの心が折れてしまう

私が頑張らねば!



「一緒に来る人は少しで良いよ?」

「あくまでもご挨拶だから」


笑顔でそう言うと軽装で敵軍の見える三ノ丸物見へ



到着後すぐに敵軍陣地へ向けて大声で叫ぶ


「武田の皆様方、お初にお目にかかります」

「音ノ木はμ’sが内の一人、郡奉行小泉花陽でございます」


武田軍にざわめきが走る中、花陽は声を上げ続ける

「我が自慢の河越城、お楽しみ頂いている様で何よりでございます」




「まさかこの寒い中、信玄公の兵の方々に代掻きをお手伝いいただけるとは思いもよらず、感謝感激でございます」


「残念ながら戦本職の『金色夜叉』や『流星』は不在の為お相手出来ず、戦慣れしておらぬ私ごときで申し訳ありませんが、本日も趣向を凝らしてお相手いたしますゆえ、ご堪能くださいませ」
花陽は笑顔で微笑み続ける



ううっ…ごめんなさい


結構失礼な事言っちゃった

でも、このくらいしないと私達勝てないから…


一条さん達には後で謝ろう



花陽の狙いは強硬派の暴発

血の気の多い将校がいれば、行けるはず


しかし、花陽の狙いとは別に武田軍は僅かにざわめきが聞こえるのみ

そしてそのざわめきの中から、一人の人間が姿を現わす


大将旗をなびかせ威風堂々と現れたのは




「…内藤昌豊」


花陽が口にした名を持つ者は重く、しかしよく通る声で音ノ木に語りかける


「丁寧な挨拶痛み入り申す、我が名は内藤修理亮昌豊」

「此度の戦は流石の采配、感服いたす」


この後の発言は花陽の戦略の根底を覆すものであった



「彼の国の偉人、蕭何にも匹敵する知識と張良の軍略に匹敵する采配、この目で見させて頂いた」


「流石は高坂九将『最強』扇の要、小泉花陽殿である」


「我が主君武田信玄が命を受け、如何な手段を用いても勝利させて頂く」

「互いに持てる全てを出す戦となろう」

「だが、勝つのは我が武田家だと言うことを思い知って貰おう」



「我等の目的は貴公の首一つである」

「努努、ご承知置きを」


そう言うと内藤昌豊は一礼後、陣の奥に去っていく


これは花陽にとって完全に想定外の出来事である


まさか敵が『小泉花陽』をそこまで過大評価しているとは…

μ’sの皆んなの凄さは既に全国津々浦々まで広がっている

きっとそれで武田家も自分を勘違いしているのであろう


まずい事になった


相手が自分を舐めてかかって来てくれなければ今回の戦闘に勝ち目はない

何せ後詰は来ないのだ


後数日もすれば何らかの動きが伝えられるであろう

そうなればこちらの兵の士気に重大な影響を及ぼす


助けを求め様にもμ’sは最前線でそれぞれに戦闘中

同盟国の北条家も望み薄



辛い、心が痛い


みんなこんな想いでいつも戦っているんだ

私はいつも後ろで見ているばかり


やはりμ’sの中でも間違いなく最弱




「でも!」


花陽は折れそうになる心を奮い立たせる様に

「私もμ’s」

「音ノ木のため、何よりでみんなの為」

「守ってみせる!みんなの事を!」



「そう…みんなの事を守るんだ」




音ノ木を守る


花陽の決意は揺るぐ事なく彼女を支える

だが彼女を待つのは過酷な現実

そこに待つ結果とは…




次回に続く!!




かよちん!頑張って〜〜〜!!

一体どうなるんだ?

誰にもわからないよ




だって目の前のWord真っ白なんだもんあっいたいものなげないでくださいがんばりますから





もうWordは白くない

もう少し待って下さい保守!


機材トラブル発生中
何とか今週中には…

すみません


お、遅れちゃった…

誰も見てないうちに再開しなくちゃ(コッソリ)


時は遡り数か月前


音ノ木による信濃侵攻

双方に大きな損害を出しつつもμ‘sの参戦により小田井城が落ちた


これにより音ノ木に信濃への足掛かりを与えた形となった武田はついに当主信玄の命により音ノ木との全面戦争を開始することとなる

その軍議において信玄はμ‘s討伐を指示する



「弱き所より徐々に削り取り、崩壊させる」





この一言に対して内藤昌豊は

「恐れながら御館様」

「μ‘sの各個撃破には賛同いたしますが、弱きところを突くなどすれば当家の威信にかかわるものと進言いたします」


信玄は表情を変える事無く昌豊に問いかける

「当家は現在北は上杉、西は織田、そして新たに東の音ノ木と事を構えておる」

「帥の言うことも尤もであるが、音ノ木の主力と全力でぶつかるには時期尚早とみるが」


「どう考える」



昌豊は顔を上げ考えを述べる

「音ノ木を疎ましく思う者は少なくありませぬ」

「当家だけではなく侵攻を受ける伊達、上杉、そして織田も危険視して居るとのこと」


「そして幕府も何とか音ノ木を駆逐せんと考えておるようで…」


ここまで言うと後方の者に目配せをする





「実は先ほど客人が参られました」


この言葉に信玄が訝し気な表情を見せる

「客…?」


そしてそこに現れたのは…




再び時は戻り河越城



短期決戦の目論見が外れた花陽は焦っていた

さすがに食料の不足を隠すには限界がある

総構えとして住民を城内に入れている以上食料の減りも当然早くなる


「何とかしなくちゃ…このままでは…」



武田の包囲は着々と強固さを増していく

各拠点が徐々に落とされ攻め手がなくなっていく


様々な挑発行動を行っても頑として行動を起こさない

確実にこちらの窮状を推察しての行動であろう



「周辺の状況を確認しておこうか」


無意識に独り言を口にしてしまう花陽

常日頃から人に苦労を見せず、自分の中に閉じ込めてしまう悪癖が出ている証拠だ




「まず、西側」


武田軍の本隊はここだ

狭山砦を落とした後はここを拠点としている様子

そこから入間川南岸に沿うようにして徐々に包囲を狭めてきている


南側も本隊と連携し行動している様子

小さな拠点一つにおいても非常に慎重な攻めを見せ、もともと戦力の乏しいこちらはなすすべなく敗北を重ねている




「そして北側…」


戦力は一番薄いようだが入間川の流れがこちらの攻め幅も奪う形となっている

最高の自然の要塞がまさかこちらの足枷になるとは…

相手もそれを承知のようで戦力の大多数を街道の通行妨害に充てている


北部は音ノ木の戦力も健在であるが、その牽制も兼ねているのだろう




「東は膠着状態だなぁ」


一番防御の堅い東部は武田軍も手を出してこない

しかも後方は音ノ木の支配地域

ここを使えば何とか包囲の突破も可能かもしれないが…


未だ東方からの援軍が来ないのは足止め部隊の大半がそこにいることを示す

月夜衆からの報告からもその傾向が推測される



推測というには訳がある


音ノ木や周辺諸国に張り巡らされた月夜衆の情報網

それが現在はほとんど機能していない


その理由として考えられる第一の理由は敵陣中にて目撃された『飛加藤』こと加藤段蔵の姿

武田の忍衆の頂点が従軍している


μ‘sの周辺には希の息のかかった優秀な忍が配属されるがその者達でもわずかな情報を手に入れるのがやっとの状態であった



「…南の北条さんに援軍を頼めば」


そこまで言って花陽は首を振り

「駄目だ…今は駄目」


南部は北条氏との国境も近い

花陽は北条とは特に懇意にしており、通常であれば援軍を頼むことも可能


しかし今はそれが出来ない

花陽が援軍は来ないと言っていた訳であり、無理な短期決戦を仕掛けた理由



その理由は翌日遂に白日の下にさらされることとなる





北信濃侵攻軍本陣


音ノ木を率いる高坂穂乃果、そして怪我から復帰した園田海未の元へ幕府からの勅使が訪れていた


「こ、これは…!?」

勅使から受け取った書状を読んだ海未は驚愕の声を上げる


この様子を見た穂乃果はただならぬ海未の様子に慌てて声をかける

「どうしたの!?海未ちゃん!」



「…これを読んでください」

青ざめた顔で書状を穂乃果に渡す


書状を見た穂乃果は真剣な面持ちで

「海未ちゃん…これ……」


答えを聞くことなく海未は頷き

「困ったことになりました…」


そう答える海未に対し穂乃果は首を横に振り

「違うんだよ、海未ちゃん」


「違うとは、いったい?」


この質問に穂乃果は答える




「穂乃果…これ、なんて書いてあるか全然わかんないんだけど…」




「………」


「………」




「穂乃果!あなたあれほど私と花陽がこの時代の作法を説明したのに…」クドクド


説教を始める海未に対し

「だって、こんなミミズが這ったみたいな字、読める訳ないじゃん!!」

「なんか最後に変な落書きしてるし!!」




「み、蚯蚓…落書き……」


勅使は明らかな不機嫌さを見せ直接説明を始める

「高坂穂乃果、貴殿の目に余る狼藉に、遂に将軍様の怒りが頂点に達したのだ」

「よって貴殿は幕府の敵として全国の幕臣により討伐されることとなった」


「将軍様は天下泰平の為、自ら各地へ出向き幕臣に命を出したのだ」

「関東管領 上杉、奥州探題 伊達、甲斐守護 武田、さらには織田弾正を含め各地の者が成敗に参上することであろう」



実際は京を追われた足利義昭が行く当てもなく各地を放浪した結果であるが、音ノ木を危険視する風潮も相まって、結果巨大勢力となったものである


勅使は虎の威を借りる狐のごとく、居丈高な態度でこう言い放つ

「地に這いつくばり許しを請い、貴殿の首を差し出すのであれば家臣の命は考えてやらなくもな…」


しかし言葉はここで止まる




その首元には海未により刀が突きつけられていた


「ひっ…ひいぃ、お、お助け…」

冷たくにらみつける海未に命乞いする


「穂乃果に対してそのような言葉は謹んでいただきたい」

「でないと私、この刀を振らねばならなくなります」


一触即発の事態に穂乃果が仲裁に入る

「まあまあ、海未ちゃん、そこまでにしなよ」

「このおじさん、泣いてるよ?」



穂乃果が止めたことにより海未は刀を引く


「ぶ、無礼者めが!幕府の勅使に対して…何たる…」

「覚えておれ!貴様らに未来は無いのだ!」


勅使はそう捨て台詞を吐き捨てると逃げるように立ち去る



「全国の大名がすべて敵…」

「しかも織田までもが遂に我らの敵となりました」

「敵の攻撃が日々苛烈になっていくのも全ての戦力を音ノ木に向けているからということですか…」

「こんなことをしている暇はないのに…」


海未の言葉に穂乃果もうなずき

「そうだよ!早く敵をやっつけて花陽ちゃんの所に行かなくちゃ!」


河越急襲の報はこの地にも届いていたが、敵の攻撃が激しく二人は釘付けにされていた

「花陽ちゃんが負けるわけないと思うけど、それでも助けに行かなくちゃ!!」


その言葉を合図にしたかのように伝令が飛び込んでくる




「大殿!!新たな敵集団を確認しました!!」


「こんな時に?!」

「また武田の増援?しつこーい!!!」


「いえ、敵の旗印は」



「上杉です!!」



「うそ…」

「仇敵の両者が手を組むとは…」


二人の驚きと焦りなど無視するかのように音ノ木への攻撃は激しさを増していく





音ノ木討伐令の件は他のμ‘sの元へも届いていった


越後侵攻部隊の星空凛と西木野真姫が参戦するここも例外ではなかった



「この敵の数、多すぎる」

「幕府の勅令が下ったのは本当のことらしいわね」


冷静な真姫の横で焦りとも怒りともつかぬ表情で凛は叫ぶ

「そんなことは解ってる!でも凛はかよちんの所に行かなくちゃならないの!!」


「かよちんは強いけど…でもきっと辛くて泣いてる」

「凛はいつも助けてもらってた…」

「だから私もかよちんを助けるんだ!!」



興奮する凛に真姫は

「落ち着きなさい、凛」

「あなたの気持ち、わかるわ」


「だって私も同じ気持ちだもの」


「落ち着いてなんかいられないよ!急いで『だからこそ!!』

凛の言葉に真姫が割り込む

「だからこそ、私も協力させて頂戴」


「私とあなた、二人で花陽を助けましょう」



この言葉に我に返る凛

「真姫ちゃん…うん!二人で力を合わせてかよちんを助けよう!」


笑顔が戻った凛に向かい真姫は告げる

「さあ、そうと決まれば目の前の雑魚を片付けましょう」





「『緋色の孔明』と『流星』の力、しっかり見せてあげる」




その頃、河越周辺で不穏な動きを見せる集団があった


「あの小泉花陽がここまで追い込まれるとは…」

「でもこの戦場で一番の大手柄を上げるのは私」

「必ず恩に報いて見せるよ」



「出陣!!」




遂に完成した音ノ木包囲網

河越城の花陽も徐々に窮地に追い込まれていく


この危機を脱する策はあるのか?

凛と真姫は間に合うのか?

そして謎の集団の正体は?


続く!!



そしてさらにこんなに投稿が遅れた原因と>>1の責任は!?

明日投稿される超短編 μ’sのみんなで>>1を糾弾するよ!にて明らかに!!


ホントすみません、まじで


閑話休題

穂乃果「μ’sのみんなで>>1を糾弾するよ!」


始まり始まり


海未「さて、軍議の時間ですが…」

真姫「その前にやらなきゃいけない事があるわね」

穂乃果「うーん、まぁ仕方ないかなぁ」

ことり「色々聞きたいこともあるしね」

絵里「まぁ本人も何か言い分があるかもしれないし」

希「納得いかなかったら戦国ワシワシハラキリバージョンやね」

にこ「…ポップだか物騒だかわかんないわね、それ」


凛「おーい!連れてきたよー!」

花陽「凛ちゃん!待ってぇ〜!」


海未「来たようですね」

真姫「では、始めましょうか」


海未「只今より今回の更新遅れに対する>>1への事情聴取を執り行います」

真姫「因みにカッコ内には簡単な翻訳が入るから読んでみてね」


1「高坂穂乃果様、そしてμ’sの皆様方、お久しぶりでございます(※はわわわ〜穂乃果ちゃん!μ’sのみんな!かわいい〜!!)」

穂乃果「さて、どこから聞いたら良いのかな?」

絵里「取り敢えず前回の更新後あたりからで良いんじゃない?」

希「そしたらその辺りから説明してくれる?」


1「ははっ、前回更新後河越防衛の策を練っていた折、不覚にも敵の奇襲に会い馬が重傷を負い申した(※ぼーっと車を運転してたらおかま掘られて車が中破)」

凛「凛知ってるよ、あれだけの事故で凹むどころか事故車の写真をツイッターにあげまくってたの」

花陽「でもそれって結構前の事だったような…」

1「その通りにございます」

1「問題はその後にございまする、馬を治療に出し某は徒歩にて行軍を再開、遂に河越防衛の秘策が見えたころ、再び敵の急襲を受けたのでございます(※仕方ないので歩って通勤しつつ、プロットが完成してきた時、今度は原チャリと女子校生が空から降って来たんです、マジで)」

にこ「…あんたどんだけついてないのよ」

1「しかし某も武士の端くれ、身体には大した怪我を負う事なかったのですが…情けなや、刀を折られ申した(PCとスマホが物故我た…)」

海未「武士が刀を折られるなど…情けない」

1「面目次第もございません」

1「しかも相手が錯乱し仲間を呼びつけ、決死の抵抗虚しく捕縛され申した…(※なんか1人で大騒ぎし始めて警察から救急車から親から色々呼び出して、早く帰りたかったのに病院に連れていかれてなぜか入院させられたんですよ)」

穂乃果「うへ、なんか大変だね」

1「しかし某には次の戦場が待っており申す、あの様なザル警護、抜け出すのは容易いものでござった(※次の日の大事な用事の為抜け出したった)」

1「要件が済み次第愛刀を刀鍛冶に出したのですが…口惜しや、名工の手でも元には戻ることは叶いませんでした(※PCとスマホを修理に出しだけど、PCデータサルベージ不可(涙))」

1「急ぎであったため脇差しのみでありますが体裁を整え再びこの地に舞い戻った次第であります(※取り敢えず生き残ったスマホで書き直して会社からUPしたった)」


海未「なるほど、致し方なき理由があったのですね」

1「如何なる処分も甘んじて受ける所存でございますが、願わくば何卒、今の戦場にてお仕えさせて頂きたく…」

穂乃果「それじゃあ、次からまた頑張るということで」



1「……」ニヤリ



希「ちょっと待って」

1「な、何か?」

希「おかしくない?だって事故起こしてから一週間くらいたってるやん?」

希「本気出したらもう少し早くUP出来たんやないかな?」

1「い、いや…その点はやはり申し訳ないと考えて…」

希「申し訳ないねぇ…シラを切るならしゃあないなぁ、ことりちゃん?」

ことり「うーん、実は私見ちゃったんだけど」

1「な、なにを、でございましょう」

ことり「病院抜け出してまで行ったトコって…スクフェス感謝祭だよね?」

μ’s『?!!』

1「な、なにを…おっしゃられて……」

ことり「待ってくれてる方達がいるのに遊びに行くのは少しどうかなって」

真姫「どういうことかしら!?」

絵里「説明、してくれるわよね」

1「い、いえ、そのこれには…その」


にこ「にこもぉ〜ひとつしってるんだけどぉ〜」

1「ファッ?!(※ファッ?!)」

にこ「あんたこないだ某所で短編UPしたでしょ、こっちを差し置いて」

1「…あ、あ、のそれは…」

凛「サイテー!かよちんのピンチに何やってんの?」

花陽「ちょっと…これはないかな?」

穂乃果「ヒドイよ!ケーキだと思ったらクリームの下が全部うぐいす餡だったくらいヒドイ!」

海未「…あなたは最低です!!」ボグー

1「………」ピクピク


ことり「んー?でもこのままだと>>1さんが可哀想だから条件付きで許してあげたらいいんじゃないかな?」

1「み、南殿…(※こ、ことりちゃんマジ天使…)」

μ’s『条件?』

ことり「そう、UPするのが遅いのが悪いんだから今度から早くすればいいんじゃないかな?そうだなぁ…3日にいっぺんくらい?」

1「み、3日!?さ、流石にそれは…せめて10日ほど…」

ことり「3日」

1「い、いや…その」

ことり「3日」

1「戦略や戦術の調査だけでも時間が…」

(・8・)「3日」


1「い、一週間で…」

ことり「だって、みんなどうする?」

μ’s『賛成』


1「………ことりちゃんマジことりちゃん………」


という訳で短くても長くても一週間に一回は話を載せることになりました

何曜日かはまた決めます

今週からスタート

がんばるぞ(棒読み)

8・)「………」


よ、よーし!気合い入れちゃうぞぉ〜!



という訳でもう少しお付き合いください

宜しくお願いします



再開します

なんとなく土曜日夜くらいの更新ということで


季節は晩秋


朝晩は冬の気配を感じさせる冷たい空気を運んでくるようになった

河越城の包囲も日々進み、打開策も見出せずにいた、そんな折



「花陽様!火急の案件でございます!」

花陽の寝所の前で小姓が慌てて声をかける


元より殆ど睡眠を取れずにいた花陽は

「入っていいよ、どうぞ」

優しく声をかけ小姓を部屋へ通した


「どうしたの?」

小姓の慌てぶりとは対照的に花陽は落ち着き払っていた


その様子は、まるで何が起こっているのかを既に知っているかのようであった



「幕府より音ノ木討伐令が発せられました!」

「武田や上杉、更には伊達、そして元々の同盟国である織田、まだまだ多数の大名が参加し一斉に音ノ木に攻め込んできております!」


「…遂にきたんだね」

ため息とともに花陽が呟くと今度は伝令が部屋の前まで走り込み声をあげた


「ご報告!西城門、及び東馬出し周辺で武田の伝令が騒ぎ立てております!」

「内容が内容な故、城内に動揺が広がっております」



「……一通り迎撃の後、集まれる者は全て二の丸へ集めて下さい」

「兵士だけでなく町の人たちも含めて、お願いします」

花陽はそれだけ伝えると着替えるから、と言い隣の部屋へ姿を消す


その背中を見つめる小姓はただ頭を垂れ

「仰せのままに…」

と答えるだけであった



周辺の小競り合いは午前中には方がついた


元々の目的が騒ぎ立てる事であったため大した抵抗もなく武田は引いたためだ

騒動の後、花陽の指示に従い手の空いた兵士や城内に匿われている住民達全てが集められた


それぞれに、今朝の武田の話がどうとか、やれ新しい作戦だ、反転攻勢だなど口にしながら花陽の到着を待っていた

少し間を置いて花陽が姿をあらわすと、そこにいる者の期待の眼差しが彼女に集中する


しかし彼女の口から発せられる言葉はその期待に添う物ではなかった



「皆様、此度の戦、厳しい戦いの連続ながら見事な働き、ありがとうございます」


花陽は深々と頭を下げる

「流石の武田も皆様の力を恐れ、ここ数日は手出し出来ずにいます」

「しかし我が城、いえ我が音ノ木は現在大変な危機を迎えております」


「今朝、武田が騒ぎ立てていた件、皆様も聞き及んでいることと思いますが、それらは全て事実です」


「幕府の勅命により、音ノ木は全国の大名に狙われることとなりました」

「この武田の攻撃もその一環です」


聴衆の騒つきが大きくなる

そんな中、花陽は話を続ける



「この戦、勝ち目はありません」


「この城には食料がもう無く、このままでは戦いの継続は困難だからです」


この言葉に先程の騒つきが嘘のように一瞬で静まり返る


「しかし私は戦うことをやめません」

「何故なら私は音ノ木が好きだから」

「μ’sのみんなやこの国の人達が大好きだから」


「そして私がμ’sだから」


そう言うと花陽は興奮を冷ますように深呼吸する




「住人の皆様にはこの城を脱出していただきます」


「その策はありますので機を見て実行します、ご安心を」


そう言うと花陽はもう一度頭を下げた



そんな中住民の一人が声をかける

「お奉行様…わしらをお見捨てになるのですか?」


花陽は顔を上げ必死の表情で

「それはありません!必ず全員無事で脱出させてみます!」

と答えるが、他の住民からも不安の声が上がり始める


「土地も家も全て失っては生きる術がありません…」


「それも大丈夫、北条殿の支配地まで行けば悪いようにはなりません」

「いずれは必ずこの地に戻って来れるように取り計らっていただきます」

花陽は不安を払拭するように丁寧に答えていった



そんな中このような質問が飛んできた


「花奉行…我々が戻るその地は音ノ木なのでしょうか?」

「そこに花陽様はおられるのですか?」



「……………」


花陽は答えることが出来ない


そしてその無言は質問に対する答えでもあった




この答えに対する住民達の答えは



「…ならば我々は退避を拒否します」





「なっ?!それは認められません!」

予想外の答えに慌てる花陽


そんな彼女に住民達は想いを告げる


「この地が音ノ木となる前、我らの暮らしはそれはそれは酷いものでした」

「続く戦乱の中、食い物など食えなくて当たり前、木の根や土を食らって生き延びてきた者ばかりです」


「それが今ではどうでしょう」

「田畑は実り、子供らは笑いながら駆け回る」

「全ては音ノ木の、そして花陽様のお陰です」


「我々が生きてここにいるのはあなた様のお陰なのです」

住民達はそうだそうだと声を上げる



「ここに残っているのは年寄りや女子供ばかりです」

「しかし爺でも元々戦場を経験したものも多く、少しは役に立ちまする」

「女達も畑仕事に勤しんでおり、そんじょそこらの男どもにも負けません!」


「我々は音ノ木でなければ既にこの世の者ではなかったでしょう」

「そしてこれからもそうだと考えております」


「だからここに残り戦います!」

「お奉行様が認めてくれなければ外で一揆を起こしてでも戦ってみせます」


ざわつきは喧騒となり、広場は一種異様とも言える雰囲気となる



花陽は俯いて皆に問いかける

「……兵糧攻めは最も酷い攻城戦法、悲惨な末路以外ありえないよ…?」



「何度も言わさんでくだされ、花奉行」

「ワシらの命はアンタのモンじゃ!好きにせい」



「………わかりました」

「ただし!子供達だけは脱出させます」

「これは絶対条件です」


「みんなの命、私が預かるね」

「そして私の命も、みんなに預ける」



「何としてでも…勝つんだ!!」




河越城を守る総構え

音ノ木は全ての人々の心を繋げ、正に百万一心


絶望的な戦いの第二幕が遂に開かれる




その頃武田軍荷駄隊駐屯地では事件が起こっていた

「敵襲!?ここは安全なはず?」

「野盗か?迎え撃て!」


前線より遥か後方

兵糧を蓄えた荷駄隊が急襲される


「音ノ木か?!」

「いえ!違います!」

「黒頭巾で顔を覆っている為正体不明です!旗印はありません!!」


「強い…!こやつら一体!?」



混乱する武田軍を尻目に黒頭巾の頭領と思しきものは配下に命令する

「さぁ!手柄の挙げ放題だ!」

「全て奪い尽くせ!!」


「河越は近い!!ここで土産を頂いて一気に城へ突入するぞ!!」

『応!!』




そこに住む人々全ての力を合わせた新生音ノ木軍

勝ち目の無い戦いに挑む花陽はどう動く?


そして遂に行動を起こした謎の集団


さらに混沌を深める河越戦線

一体何が起こるのか?



次週に続く!!




今回短いですが以上です

土曜日くらいの更新を予定していますのでよろしくお願いします!



もう土曜日!

というわけで再開します


翌朝


「じゃあ、お願いね」


「お任せ下さい」

朝霧に包まれる城から月夜衆を先導として護衛数名、そして子供達が脱出する


「これで一安心…かな」


花陽は胸をなで下ろすと同時に険しい表情を見せ

「さて…どうする、私…」


そう呟くと一人部屋の中へ姿を消すのであった



しかしその日の昼、そんな陰鬱な気分を吹き飛ばす事件が起こる



「花陽様!謎の集団が河越城に向かい突撃してきます!」

「どうやら武田軍に追われている模様!」


見張りからの報せに花陽は部屋を飛び出し情報を集める


「何者かわかる?」

花陽は月夜衆に問いかける


「恐らくは最近武田の小荷駄隊を襲撃している盗賊集団ではないかと…」


「小荷駄隊を?」


「はい、盗賊風情の割には統率が取れ、個々の力も非常に高く、更には全員が馬持ちと言う謎の黒頭巾集団です」



「頭領が女との噂もあり、μ’sの別働隊との話も上がっているようです」

「情報不確定の為報告が遅れました、申し訳ございません」


「大丈夫だよ、ありがとう」

花陽が頭の中を整理しようとした時、新たな情報がもたらされる


「花陽様!黒頭巾集団が城門付近で騒ぎ立てております!」


「早い?!今行きます!」

花陽は急ぎ物見櫓へ登り状況を確認する



門前では黒頭巾の頭領と思しき者が騒ぎ立てていた

「開門!かいもーん!!」

「小泉はなよー!私だー!あけろー!!」


「この声?まさか?!」

そう、この声には聞き覚えがあった


「反撃は禁止!い、急いて開門を…」

花陽が指示を出す直前


「えーい!面倒じゃ!突き破れ!突破じゃ!!」

言うが早いか城門の破壊を目論み始める


「うわわっ!待って!開けるから!」

「開門!急いで!あの子本当に突き破る気だよぉー!」


「誰か助けてぇ〜!!」



「小泉花陽!無事であったか?!」


黒頭巾集団は無事?河越城に入り武田の追撃を免れた

流石の武田軍も自ら城下に入ろうとする者などいなかった為である


黒頭巾集団の頭領はそのまま本丸まで突き進み花陽を見つけると先程の言葉を投げかけそのまま抱き着いてきた

側近には事前に正体を伝えていた為、何もなかったがそうでなければ大事になるところだ


余り深くものを考えない辺り、ウチの大名様と似てるな、などと考えながら声をかける


「久しぶりだね」



「久しぶりだね、ではない!」

黒頭巾はお怒りの様子


しかし次の瞬間には泣きそうな声で

「河越城での状況を聞いて、心配で心配で…」

「父上や大殿を説得しても動かず…」


「でもやっとここにたどり着けた!」

「星空凛や西木野真姫より早かったぞ!」

今度は頭領は踏ん反り返って自慢する


花陽は、そんなコロコロと変わる黒頭巾の態度に苦笑しながらもう一度声をかける

「そろそろその黒頭巾、外してもいいんじゃないかな?」


「おお!忘れていた!」

そう言って黒頭巾を外す頭領


するとそこからは周りの人間全てが息を呑むほど美しい美女が現れた




「ありがとう、甲斐ちゃん」


彼女の名前は成田甲斐

北条家の誇る姫武将である



数年前の事

成田甲斐は常に退屈だった


毎日毎日つまらない稽古事ばかり

でも仕方がない

私は女なのだ

いつか何処ぞの知らない男に嫁がされ、子を産み、そして朽ちていくだけの存在


本当は外で思いっきり暴れたい

自分も武士として儚き命を輝かせたい


そんな気持ちは押し殺さねばならない

私は女だから、そんな事は考えてもいけない


だから心を殺したのだ

故に私は死人だった



甲斐が年頃となり、そろそろ縁談などと言う下らない話が聞こえた頃、城内はある話で持ちきりだった


「武蔵に新たな勢力が旗揚げしたそうな」

「ふむ、戦も強く連戦連勝、民には温情厚く、正に飛ぶ鳥を落とす勢いとの事」

「しかもその主力は美しき9人の姫武将だそうな」

「『みゆうず』などと名乗っておるとか」


…えっ?

姫武将?


女ながら刀を持ち、戦場駆け巡り、しかも強く美しい

そこには甲斐が求めていた世界があるように感じた


更に聞けば音ノ木なるその国は旧態然とした物の考えをせず、聞いたことのないような新しい方法で国を治めているようだ



甲斐は初めてこの世に色が付いたように感じた

女だからと諦めていた世界

それらを全て否定するμ’sという存在


そうか…

いいんだ

私みたいな考えの人間がいたっていいんだ!



「父上、お話が御座います」


甲斐は己が心の内を父に打ち明けた

当然難色を示す父であったが、偶々その話を聞いた北条家重臣の一人が助け舟を出した


その理由は音ノ木対策

同じ姫武将がいた方が有事の際役に立つ事もあるだろうとの理由だった


こうして誕生した姫武将 成田甲斐は努力と研鑽の結果、五色備に次ぐと言われる活躍をみせた

そして遂に音ノ木への同盟の使者としてμ’sと対面することになる


初めてμ’sに会った甲斐は己の理想と現実の違いに戸惑った

連戦連勝、坂東無双とまで言われる武将達

さぞや男勝りな者達と勝手な想像をしていたが、実際会ってみれば自分とほぼ同い年のものばかり


そして優しく、華やかで、楽しい、そんな姫達だった


人はこんなに光り輝く事が出来るのか

こんなの私は知らない


凄い!

世の中はこんなにも明るく輝けるんだ!


衝撃を受けた甲斐はその後も事あるごとに音ノ木を訪れμ’sと親交を深めていった


特に歳の同じ花陽、凛、真姫とは懇意になりお互い親友と呼ぶ間柄になっていた



そんな中での今回の戦


大殿も父も動けず、気持ちだけが急かされる毎日

苦境に立たされている友、いや私に命を吹き込んでくれた恩人の力になりたい


甲斐はある日の評定でこう発言した

「皆々様方にご報告申し上げます」


「私、成田甲斐に翻意あり」

「一大事となる前にいち早く国外に追放されるべきと進言いたします」




「父上も大殿も直ぐに賛成してくれた」


「故に私は宿無しだ、拾ってくれ小泉花陽!」

にこやかに重い事をさらっと言うものだ、と花陽はため息をつきつつ感心する


そして、そこまでしてここに駆け付けてくれた事に純粋な感謝の気持ちも大きい

当然答えは


「よろしくね!甲斐ちゃん!」



甲斐はうむと頷いて

「土産も持ってきた!」


「土産ってあの門のところの大荷物かな?」


「そうだ!武田から奪った兵糧だ!10日は持つだろう」


「すごい!ありがとう!」


「我らにかかれば何と言うことはない」

「もし花陽に拾ってもらえなかったら山賊にでもなろうかと思ったほどだ!」


自信満々にそう言う甲斐に花陽は苦笑いで

「それは勘弁して欲しいかな…?」



「ところで甲斐ちゃんの連れてる人達は?」


追放なら部隊は連れてこれないはずである

しかし相当な手練れの集団だ

この人達は一体?


「うむ!餞別がわりに地黄八幡が貸してくれた!」

「ただし貸りただけだから全員無事帰さないと私の首が危ういのだ!」

「中々際どくて格好よいであろう?」


「綱成さんの精鋭部隊…なるほどさすがです」

「何かあったら私の首も危ういね」

花陽もクスリと笑いかえす



「でもこれなら…いける!」





花陽は小姓に命じ各隊代表を広間に集めた


そこにいるのは本来の正規軍だけでなく、町衆の代表や農村部の長老、女衆も姿を見せる

今や河越を守る大事な仲間達である


「軍議を開始します」

小姓の宣言により軍議が始まる



花陽はいつもの柔らかな表情ではなく、引き締まった表情

それは彼女の決意と共に心の弱さを曝け出していた


しかしそれは周りの全員が望んだ事

彼女のその表情は周りを信頼している証であった


「現状と今後の作戦について伝えます」

「現在我々は武田軍により完全に包囲され、補給もままならぬ状況です」

「このままでは城内全ての人間が飢え死にを待つこととなります」


「でも我々にはまだ希望が残されている」





「それはこの河越城」



「幸いにもこの城はまだ三の丸迄武田軍の侵入を許していません」

「これによりこちらから討って出ることも可能です」


「花陽様、まさかこの戦力で武田に正面から?」

「如何に士気高しといえども流石にそれは…」


口々に不安を口にする将達に花陽は笑顔で

「大丈夫だから最後までキチンと聞いてね?」


将達は住民達の笑い声もあり二つの意味で顔を赤くする


「続けるよ?」

「流石にまともでは勝てません」


「だから策を講じました」






「名付けて忍辱の計」





「勝つのは私達です」


「音ノ木の強さ、しっかとその心に刻み込んで頂きましょう」



新たに甲斐姫を仲間とした花陽

音ノ木の力を結集し遂に反撃の狼煙を上げる

その為の秘策 忍辱の計とは



次週に続く!




なんか1週間て早くない?

自分の周りだけ時間おかしくない?

なんて思いつつ再開します


「じゃあ甲斐ちゃん、よろしくね」

「大変な仕事だけど甲斐ちゃんなら出来るって信じてるから…」


朝日も昇らぬ宵闇の中、花陽は出陣する甲斐を見送る



「花陽!任せてくれ!」


「…そして信頼してくれてありがとう」

「必ず勝って、再び歌や踊りをともに楽しもう…」


そう言うと、恥ずかしそうにプイと顔を背け

「出陣」


甲斐の部隊は闇夜に消えていく



「…月夜衆のみんな、いるね?」


「はっ、ここに」

暗がりに声をかけると今まで人の気配すらなかった場所に数名の人物の姿が現れる


「加藤段蔵については任せます」

「今回の作戦は情報が全て」

「大丈夫、みんななら出来るから」


「μ’sの皆様はお館様を含め、難度の高き依頼が多くございまする」

表情は見えないが声からは大凡の感情が伺い知れる


「なればこそ、我らの士気も高まらざるを得ません」

「必ずや御命令遂行致しましょう」


「では…」

あっという間に消える気配


「流石、希ちゃんの部隊だね」



「さて、他のみんなは準備出来てるかな?」

花陽が振り返るとそこには男衆と女衆に別れた住民達の姿


「全員準備万端じゃ」

「いつでもかかってこいだよ!」

口々に意気込みを口にする


「では打ち合わせ通り、指揮はお願いしますね、お爺ちゃん」

花陽は代表の老人に告げる


「任せてくだされ、我らまだまだ若いもんには負けませんて」

花陽は笑顔でその言葉でへの答えとする



「そして、女衆の指揮は…出来るね?」

花陽の視線の先にいるのは…


「は、はい!お任せ下さい!」

裏返った声で返事をする小姓の姿があった



緊張が服を着ているかのような様子の小姓を花陽は優しく抱きしめ

「大丈夫、あなたなら出来るよ」


「だってずっと私の事、見てたでしょ?」

「初めて自慢しちゃうけど、私、結構すごいんだよ?」


「だから大丈夫…」


「は、花陽様…」

顔を赤くしながらも心が落ち着いていくのを感じる小姓に対し


「大将様!顔が赤くなってるよ!」

「本当に大将様は花奉行が大好きだねぇ!」

女衆からやいのやいのと声がかけられる


「こ、これは…ち、違います!花陽様の叡智をお借りする儀式のようなものです!」

恥ずかしさから慌てて言い訳をする小姓



「ふふっ、ねっ?もう大丈夫でしょ?」


「…花陽様」

「はい!お任せ下さい!」



「では、作戦開始!」


花陽の合図とともに遂に反攻作戦『忍辱の計』が開始される




朝日がもうすぐ顔を見せようと東の空を染め始めた頃、武田河越包囲軍西部部隊は大混乱に陥っていた


「敵は少数だ!慌てず討ち取れ!!」

「賊の狙いは兵糧だ!荷を守れ!」



甲斐の部隊は敵後方からの夜襲に成功

そのまま武田軍荷駄隊の襲撃を開始した


「さあ奪え!河越への土産は多い方が良いからな!」

「持てぬ分は焼き払え!」



「…何か凄い悪者みたいだが大丈夫か?私達?」

「ご安心下され!いつもとあまり変わりませぬぞ!!」


「納得いかないがまぁ良い!暴れまくれ!」


『応!』


しかし時が経つと武田軍も態勢を整え反撃の構えを見せる

数に勝る武田軍は甲斐隊を取り囲もうと展開する

その時



「今です!突撃!!」




「何者?!」

「小泉隊です!本隊が突撃してきます!」

「展開間に合いません!!」


背後の甲斐隊への反撃の為、本隊の守りが手薄になった所に突撃する花陽隊

「しまった!!」

再び混乱する武田軍

本隊が機能を失い総崩れの様相を見せた、その時


「援軍です!」

「武田軍の援軍が来ます!!」


物見の早馬から報告を受けた花陽は

「よし!全軍退却します!!」


あっさりと退却指示を出す



まるで嵐のような一瞬の出来事であったが武田軍の被害は大きく西部包囲部隊は再編成を余儀なくされた





この日を機に河越からの夜襲部隊が数日に渡り武田軍宿営地を襲い続けた


人的被害もさることながら兵糧や武器を奪われ、または破壊される事が問題となった




武田本陣


内藤昌豊はこの状況を分析していた

「小泉花陽、包囲部隊の精神的疲労と合わせて兵站の破壊を狙ってきたか」

「しかしこの作戦は諸刃の剣、自ら窮地を曝け出しているようなものだ」


「そちらがそう来るのならこちらも仕掛けさせてもらう」

そう言うと伝令に作戦を伝え、各隊に命令を出す


「次は河越城陥落ぞ」



そしてその機会は数日後訪れることとなる




「敵襲!黒頭巾だ!」

「荷を守れ!奴らの狙いはこれだ!」


夜襲も繰り返せば対応されるもので、甲斐隊が襲いかかった部隊は大きな混乱をする事なく反撃にかかる


「ふん!流石の武田のぼんくら供でも学習するか」

「それならばよし!正面より切り崩してくれるわ!」


果敢に敵部隊に斬りかかる甲斐

しかし多勢に無勢

徐々に追い詰められていく


「囲い込め!一網打尽だ!」

数に物を言わせ包囲を試みる武田軍



左右に展開しようとしたその瞬間


「好機到来です!突撃!!」

暗闇から花陽隊が一気に襲いかかる


「ちっ!そんな所に隠れていたか?!」

だが挟まれる形となった武田軍に混乱の様子はない

困惑する花陽隊に荷駄隊護衛兵が言い放つ


「かかったな!小泉花陽!」

「貴様らがこの荷駄隊を襲撃する事はわかっていたぞ!」


「なっ?!」

花陽の驚く表情に満足気に笑う武田の兵士達


「今頃河越城はもぬけの殻であろう」

「肉を切らせて骨を断つ、兵法の基本だ」



その様子を見た甲斐は

「かかったな!武田のぼんくら供!」

笑いながら満足気に言い放つ


花陽も同じ様な表情

「河越城がもぬけの殻?多分『飛び加藤』の情報かな?」

「情報を伝えるって難しいね、私も口下手だからわかるよ」


「だから特別に教えちゃいます」




「今あそこはね、歴戦の強者達の巣窟なんだよ」




その頃河越城では


「…な、なんだ…どう言う事だ?」


「もぬけの殻どころか何処に行っても敵襲が止まぬ、話が違うぞ!」


武田軍河越城突撃隊は恐怖していた



三ノ丸城門を難なく突破し城下に侵入した途端そこかしこから様々な攻撃を受ける

反撃を試みようと接近すれば罠が仕掛けられ、さらに路地裏に誘い込まれ撃破される

恐怖心を煽ろうと脅しをかけても逆に士気を上げる始末



あれだけいた部隊は今何人残っている?

ここには老人や女しかいないのではないか?


敵は何処だ?

我々は何と戦っているのだ?



「若いのう、残念じゃがもう手遅れじゃ」


「この河越城は力では落とせん」

「今は無き我が主、道灌様の知恵と、新たな主、そして我らが友、花陽様の叡智の結晶」


「貴様らの相手は我らだけではない」

「『河越城』こそが貴様らの相手なのだ!!」



「今じゃ!家屋を倒せ!」

『おう!』


掛け声とともに路地の武田軍に向かい周囲の家が倒壊する

逃げ惑う兵士に向かい煮え湯や石が降り注ぐ


完全に崩壊した部隊に向かい駆け行く騎馬

瞬く間に敵将を討ち取って行く


「…うむ、馬子にも衣装とはよく言ったもんじゃい」

「流石、花奉行が可愛がるだけあるわ」


騎馬隊の先頭にはあの小姓

勇敢にも先頭に立ち、見事に農民兵を統率し数倍の武田軍を壊滅状態に追い込む


小姓は逃げて行く兵に向かい叫ぶ

「帰り内藤昌豊に申し伝えよ!」


「この河越には強兵が集っている!城が欲しくば総掛かりで来るがよい!」

「ただし一歩足を踏み入れれば最後、音ノ木の力が貴様らを打ち倒すであろう!」



「さあ皆さん!勝鬨をあげましょう!」

「えい!」

「えい!」


『おう!』




この河越城の戦闘は内藤昌豊にとっても衝撃であった


まさか農民如きにしてやられるとは

やはり迂闊に手を出せばやられる


元より長期戦は覚悟の上だ

城の食料もそうは持つまい


音ノ木に援軍は来ない

北条も動く気配はない

ここを落とせば一気に音ノ木本城を狙えるのだ


「一旦部隊を再編成する」

「兵糧攻めを本格化させるぞ」



遂に反攻作戦を開始した音ノ木軍は総力戦で敵に立ち向かう


対して兵糧攻めの強化を図る武田軍


花陽の次の一手は何か?



次週に続く!



また来たよ土曜日!

というわけで再開!!


数日間の渡り小さな小競り合いが続いたものの大きな動きもなく戦況は硬直状態を保っていた


そんなある日

遂に内藤昌豊が大きく動く



「花陽様!武田に動きあり!」

「各城門や馬出しに向かい一斉に進軍してきます!」


伝令の報告を受けた花陽は即座に命令を下す

「西側は城下に誘い込み迎撃、東は堀を越えさせなければ大丈夫、こちらは出撃のそぶりを見せておけば相手は攻めてこないから」


「みんな、慌てないで行動して下さい」

「河越城が付いていますから」


花陽の指示は皆に安心感を与える

城内の者たちは各々持ち場に散って行く



一人になった花陽は再び状況を整理する


力攻め?いや違う、もしそうならば部隊の展開がおかしい

こちらを完全に封じ込める作戦か…


悩む花陽の元へ再び伝令の報告が入る

「武田軍が城門前にて櫓の設営を開始しました!」

「各隊阻止に動いていますが敵方の攻勢激しく難航!」


「ご指示を!!」


なるほど

武田はこちらの完全な封じ込めを選択したか


櫓を組まれたら三ノ丸と出丸は無効化されてしまう

城の防御を大きく削られてしまうのはよろしくないね


花陽は伝令に指示を伝える

「各隊に連絡、なんとか設営を阻止して下さい」

「弓矢が扱えるものには火矢を使うように」



しかしここで正規軍の少なさの弊害が見えてきた


弓矢は扱いにある程度の訓練がいる武器だ

城内に引き込めば様々な攻め手で翻弄出来る


しかし野戦となれば話は変わる

そこには兵の練度が大きく関わってくるからだ


練度の高い直属兵は数が少ない

甲斐の部隊は遊軍として城外に出撃中

城を封鎖されれば連携も取れず戦力は半減する


元より兵士自体が圧倒的に少ないのだ


内藤昌豊もそれを分かっているのだろう

だからここまで大胆な行動に打って出た




「…これは少し厳しいかな」


花陽は珍しく厳しい面持ちで独り呟いた




それから数日間城の周りで様々な妨害工作を講じた音ノ木軍であったが決定的な効果も見られず、遂には各所に武田軍の櫓が設営された


櫓は城門の中まで確認できるほど高く、討って出ようにも瞬く間に敵兵が集中し、思うような行動がとれない

内藤昌豊は城内に侵入することなく三ノ丸を完全に沈黙させる事に成功したのだ


武田軍はそれから完全に動きを止め、包囲に徹するようになった

武田に動きがない以上、音ノ木も動く訳にもいかない

甲斐の部隊も様々な工作を試みている模様だが、いかんせん数が少なすぎるため思うような効果を得られぬ様子



こうして河越城の完全封鎖は完成したのである





そのまま膠着状態に陥り半月が過ぎた


士気の高かった住民兵も包囲の重圧による精神的疲労と食料不足による肉体的疲労が重なり城内では愚痴を聞くことが多くなった

それでも皆は花陽を信じ勝利の為にひたすら辛さを耐え抜いていた


音ノ木は時折散発的な抵抗を見せるがその度に簡単に撃退され城に追い返されていた

「まるで訓練だな!」

「まぁ年寄りや女相手では訓練にもならんがなぁ!」

武田軍はこの様に嘲笑い城に向かい野次を飛ばした



その様な絶望的な状況が更に一週間程続いた時、戦況を揺るがす事件が発生する





「ほらよ、飯だ」


乱暴に置かれる椀の中には僅かな稗と葉物が入った汁のみ

ここは河越城内の一角にある牢獄

そこには今回の戦闘で捕虜となった武田兵が投獄されていた


その中には一条信龍や三枝守友の顔もみえる


椀の中を見た信龍は見張りに声をかける

「随分と質素な生活となったな」

「侘び寂びの世界にでも没頭しておるのか?」


捕虜達の疲れた笑いが牢内に広がる



「貴様ら…食わせてもらえるだけありがたいと思え!」

「花陽様のお慈悲が無ければ貴様らの首などとうの昔に飛んでおるのだ!」


見張りの一人が声を上げる

本来は見張りが牢内の者と言葉を交わすことは禁じられているが、この追い詰められた状況に精神的に参っているのであろう

声を荒げて威嚇する


「…まぁそう怒るな、儂は貴殿らの心配をしておるのだ」




「心配だと…?」


「その通り、まず貴殿の言う小泉花陽」

「確かにこの国の豊かさ、非常に優秀な者であることは間違いない」

「しかし忘れてはならぬ、今の過酷な現状を作っているのもその小泉花陽である事を」


「貴様!花陽様を侮辱するか?!」


「まぁ、落ち着きなされよ」

「考えてもみよ、小泉が籠城などしなければこの様な事には至らなかったのだ」


「それは貴様らが攻め入ったせいであろうが!」


「その通り、しかし戦いの選択をしたのは小泉だ」




「そしてなぜ戦いを選択したのか」





「それは所詮奴もただの欲望にまみれた人間だからだ」


「ここを失えば富や名声が失われる、簡単に言えば食いっぱぐれだ」

「その証拠に今奴はどこで何をしておる?」

「安全な本丸の奥で命令を出しているだけではないのか?」


「そ、それは違う!花陽様は我らのために智慧を振り絞っておられるのだ!」


「我らの為…か」

「貴殿らを思うのであれば既に降伏しておるのではないのか?」

「貴殿らの苦しみより己が命の方が大事なのだ」

「何とも酷い事よ…」


「そ、そんなことは…」

見張りにみえる明らかな動揺

信龍は諭す様な声で語り続ける


「武田とて鬼ではない、降伏すればそのまま上が変わるだけで庶民は平和に暮らせるものを…」



「………何が言いたいのだ」



「いや、ただの戯言よ」

「我らであればこの様な事にはならぬであろうと皆で話しておったのだ」


「ただ、我らが本陣までたどり着けばこの窮状やお主達の気持ちをお伝えする事はできる」


「そして皆を救う事ができる」





「…お主、皆の救世主になってみぬか?」




その数日後


「捕虜が逃げたぞ!!」

「探せ!どこだ!」


夕暮れというには少し遅い時間

河越城内に怒号が響き渡る



花陽の部屋に小姓が息を切らしてやってくる


「花陽様!一条信龍、三枝守友ら武田の捕虜達が脱走しました!」

「どうやら城外まで脱走した模様!」


報告を受けた花陽はふと目を瞑りふぅといきを吐く

「…遂にきたね」

「城内のみんなに伝えて」



「明日武田軍の総攻撃があるからって」





一方武田軍本陣


脱走に成功した一条信龍達は城内の様子を報告

数名の内通者も確保した旨を伝える


約一月に渡る包囲により武田兵達にも厭戦機運が生まれ始めた頃合いである


「この機を逃す手はなし」

内藤昌豊は遂に決断する



「明日河越城に総攻撃を開始する」





その夜は数週間ぶりに河越城から飯炊きの煙が見えた


「小泉花陽、我らの思惑を知るか…」

「最後の飯だ、楽しむがよい」



河越籠城戦最後の時はそこに迫っていた




窮地に追い込まれた花陽

武田軍は最後の総攻撃を開始する


このままなす術なく陥落してしまうのか?

それとも…



次週、遂に決着?!




来週は更新日曜になるかも…




|8・)…



が、ガンバります!!


やっぱり遅刻しちゃった

ごめんね

再開します


翌日

夜明けと同時に戦いの火蓋は切って落とされた


武田軍は東側の出丸を強襲

馬出し堀まで一気に押し寄せる


対する音ノ木軍は弓、鉄砲で応戦

激しい応酬が繰り広げられる


一方西側では音ノ木軍が先制

櫓に対し火矢と奇襲をもって攻撃


それに呼応して武田軍が動く形となった

櫓の半数を無効化された武田軍は数に任せてそのまま城下へ向かい進軍を開始する


城下に侵入を試みる武田軍に対し音ノ木軍は激しく抵抗

これまでと違い侵入後の迎撃ではなく城門付近での戦闘となった



「出丸はあと一歩の所で堀を渡りきれません」

「城下では音ノ木の抵抗激しく一進一退!趨勢未だ流動的です!」

「南方待機部隊が追撃の許可を求めています!」


武田軍大将内藤昌豊の元へ次々と戦況が報告される

「攻撃の手を緩めるな」

「数はこちらが圧倒的に上なのだ、必ず綻びが表れる」

「後詰はまだ待機、直ぐに出番が来る」



昌豊は指示を出すと腰掛けに座ったまま目を閉じる


出丸の攻略は想定内

正規兵を釘付けに出来ている


しかし三ノ丸攻略は想定外だ

即席の兵と侮った訳ではないが練度の高い行動をとっている


「なるほど…」

包囲して数週間、無駄と思われる散発的な反撃


その目的は兵の鍛錬であったか

その直前に行われていた夜襲は単なる兵站の破壊や兵の士気を削ぐだけでなくこの為の布石

小泉花陽も決戦に向けて準備を整えていた訳か…


「しかしそうは上手くいかん」

「付け焼き刃では武田の強兵を切ることはできん」



各地で続く激しい戦いに動きが出たのは日も高く登った正午前の事


「多田隊が城下への侵入に成功!」

「櫓部隊との連携により徐々に敵を押し込んでいます!」

伝令が武田本陣に飛び込んで来る


「よし!二番隊、三番隊は多田隊の援護に回れ!」

「生き残った櫓は攻勢を強めよ!」

「城門の攻撃隊は各隊突破を目指せ!」


矢継ぎ早に指示を出すと馬廻衆にも声をかける

「戦闘準備を整えよ」


「しかし…ここは御大将が出る場面ではないと思われますが…」

怪訝な顔で確認する


「我らが対峙するのは音ノ木最強の小泉花陽ぞ」

「奴が何事もなくただ攻撃されると思っておるのか」


「来るぞ…」


その言葉を合図としたかの様に

「敵襲!本陣目掛け突っ込んで来る部隊があります!!」


「黒頭巾隊です!真っ直ぐこちらに向かってきます!!」



「止まるな!私達が止まったら花陽達がもたない!」

「突撃!!」


『応!!』


甲斐隊は本陣付近の部隊が動くのを見て突撃を敢行

距離のある場所からの出現であったが騎馬の機動力を生かし瞬く間に本陣に迫る


「慌てるな!数は少ない!」

「鶴翼!矢を射て追い払え!」


内藤隊が甲斐隊に正対する



次の瞬間


「今です!突撃!!」

「狙うは大将内藤昌豊の首一つ!!」


茂みの中がら現れる旗印は


「八巻の稲穂!」

「小泉花陽です!!」


「このままでは側面を突かれます!」

「ご指示を!」


慌てる側近

しかし昌豊は落ち着き払いこう指示を出す

「本隊はこのまま黒頭巾を攻撃、撃退せよ」


「しかしそれでは…」


「慌てるなと言っておろう」

「この程度は織り込み済みだ」


不敵に笑う昌豊

「鏑矢を放て!」


命令通り馬廻衆は鏑矢を放つ


風切り音が戦場に響く



一瞬の静寂ののち


「囲い込め!小泉を討て!」

『応!!』


まるでこの事を見通していたかのように出現する援軍

瞬く間に花陽隊と甲斐隊が包囲される


「見破られた?!そんな!」

声をあげ驚愕する花陽に昌豊が話しかける


「小泉花陽!ここまでの戦い見事であった!」

「だがここまでだ!昨日の夜の飯炊きの明かり、今までの窮状からしても多すぎたな!」

「夜影に乗じ出陣する人影も把握している」


「小細工が過ぎたな!小泉花陽!」

「覚悟せ『…ちょっと、話が長いんだけど』



昌豊の話を遮るように一人の兵が不満気な声を上げる

兵は不満を更にぶつけるように話し出す


「全くさっきから聞いてれば花陽花陽って…」

「いい加減気付きなさいよね、流石に花陽でもこんなちっこくないわよ」

兵が指差す方にいるのは確かに姫武将だが


「小泉の小姓!影武者か!」


「あと考えても見なさい、あの小泉花陽がそんな簡単に裏見せると思う?」


「無礼千万な物言いだが…」
「貴様…何者だ?」



「この陣羽織を見てそう聞かれるなんて、私もまだまだねぇ…」

「やっぱり変な二つ名のせいかしら?」

「にこちゃんにもっとかっこいいの考えてもらわなくちゃ」


「その陣羽織…なるほど」

「赤より紅き紅蓮の炎、その知恵の焔は全てを飲み込む」



「『緋色の孔明』西木野真姫か」




「まさかここに援軍が現れるとは…」

「しかも大物、上杉はどうした?放っておいても良いのか?」


「あんなのμ’sの敵じゃないわ」

「そんなことより自分の心配したら?」


「心配とな?」

「緋色の孔明、この状況をもって心配すべきは己が命ではないのか?」

「それともこの人数に囲まれ無事で済むとでも思っておるのか」


「多勢に無勢って中々経験したことないのよ」

「だって真姫ちゃん天才だから、まずそんな状況にならないからね」

「でも一回やって見たいことがあったのよ」




「火牛の計って知ってる?」





「花陽を散々いじめてくれたお礼たっぷり味わってもらうわよ」


真姫の言葉を合図に一斉に馬車が方々へ走り出す

完全包囲を保っていた武田軍は避けることも出来ず馬車を破壊していく


そして荷台から現れたのは


「猪だ!突っ込んで来るぞ!」


荷台に乗せられていたのは数十頭猪の猪

興奮した猪は四方八方にひたすら突撃を繰り返す


「来るなっ!避けろ!!」

「矢を射かけろ!!」

「馬鹿者!この様な所で矢を射るわけにはいかん!」



「ふむ、派手さに欠けるけどまぁまぁね」


「では攻撃開始」

混乱を見た真姫は攻撃を指示

混乱に拍車をかける


「馬鹿者が!慌てるな!」

「陣形を保て!我らの優位は変わらんのだ!!」


「落ち着いて敵に集中せよ!!」

昌豊は陣太鼓をもって全軍に再指示

練度の高い本隊から徐々に体制を立て直す

「包囲しているのはこちらだ!覚悟せよ!!」


しかし真姫はその様な事も気にせずといった風に淡々と話を続けた

「あぁそうそう、因みにもう一つ忠告なんだけど…」


「あなた達、東の出丸攻撃してるでしょ?」

「あそこの堀に橋なんてかけちゃ駄目よ?」



「何を言っておるか?もう遅い、今頃は陥落しておる頃だろうて…」


「あっそ、知らないわよ?」

「あの中には遊びたくて遊びたくてうずうずしてる跳ねっ返りの猫がいるのよ」


「ただあなた達が花陽を苛めすぎたから多分今頃虎になってると思うけど…」


「何を…?」

昌豊は真姫の言葉の真意を図る間も無く意味を知る事となる


遠くから響く陣太鼓と騎馬の蹄の音

その勢いは武田騎馬軍団といえども到底敵わぬ程の速さでこちらへ向かって来る


「ご報告!旗印は猫に星!!」

「『流星』星空凛の騎馬隊です!!」


「…流星、星空隊だと?」

「出丸の攻め手は一体…」



「まぁ良い!本隊はこのまま西木野隊と黒頭巾を潰せ!」

「その他は星空隊を止めろ!」


この布陣を見て甲斐は嬉しそうな笑顔で

「そんな事をして良いのか?」

「では、遠慮なくいかせてもらおう!」


「突撃!鶴の翼をもぎ取れ!!」

「星空凛に負けるなよ!!」

『応!!』

鶴翼陣左翼に向かい突撃を敢行する


「あぁ、そう言えばここにもう一人おんなじ様なのが居たわね」

真姫が感想をいう間も無く瞬く間に包囲を突破

それに合わせるかの様に凛の部隊も迎撃部隊と激突する


「かよちんの痛みを知れ!!」

「凛は怒ってるんだよ!!」



流星隊の圧力に屈し迎撃部隊の陣が崩れかける


「まだだ!右翼は黒頭巾に集中せよ!」

「左翼と本隊は八卦陣!立て直せ!」

「流星隊迎撃部隊はそのまま二手に分かれよ!無理に止めようとするな!!」


再度の昌豊の指示

武田軍は再び陣を再構成崩壊を阻止したかの様に見えた


その時



「河越城の門が開きます!何者かが出陣する模様!!」

「旗印は…」



「八巻の稲穂!!」

「今度こそ本物の小泉花陽本隊です!!」




「突撃!一気に決めます!!」


花陽の号令一下

小泉隊はそのまま本隊に向かい突撃

西木野隊と挟み撃ちの形となった


そこに迎撃部隊を置き去りにした星空隊も攻撃に参加

甲斐隊はそのまま遊撃部隊として敵を翻弄

戦況は一気に音ノ木有利となる


しかし昌豊は諦めることはない

次の指示を繰り出す

「こちらは八卦陣だ!早々削られることはない!」

「散った部隊を再編せよ!小泉花陽の背後を付くのだ!!」

「敵大将は目の前だ!!」


激しさを増す陣太鼓



攻める花陽も兵に叫ぶ


「前へ!突き進んで!」

「これを破れば私達の勝ち!」


「辛くて怖いけど…敵も同じ!」

「耐え忍んで自分に打ち勝つ!!」


「その向こうに勝利があるから!!!」


『応!!』


圧力を強める小泉隊

それに呼応する西木野隊、星空隊、甲斐隊の三隊


しかし練度の高い武田の八卦陣に徐々に圧力を弱められる

再編された部隊も徐々に迫って来る


花陽の部隊は敵陣に食い込み退くことは出来ない

「もう少し…もう少しなのに!」


戦況は再び武田優位になろうとしていた



「……た…った」

「か……っ……」


遠くから何かが聞こえて来る

激しい戦闘の為聞き取りにくいがかなりの人数の声の様だ


人々の声は徐々に大きくなる

「…った!かった!」

「かった!勝った!我らの勝ちだ!」

「勝った!!勝った!!」


現れたのは数千人にも及ぶ人々

兵士だけではない

ほとんどが農民の集団、所謂一揆勢である


集団は口々に

「勝った!!勝った!!」

と叫びながら進軍して来る


その先頭に立つのは…


「地黄八幡!北条綱成!!」

甲斐がその名を叫ぶ


甲斐の姿を見た綱成は

「お転婆姫!無事であったか!」

「儂の部下は無事だろうな!!」


「当然だ!首を刎ねられるのは嫌だからな!!」

「しかし、その一揆勢は一体…?」


「知らん!儂らが河越に行くと言ったら勝手について来たのだ」

「我等が来れば勝ちは確定、だから景気付けに勝った勝ったと叫んでおるのだ」


「我等…?」

「という事は!」



甲斐が一揆勢の更に向こうを見ると

赤、青、白、黒

そして黄


「五色備!皆来て来れたのか!!」

「それにあの旗印は…まさか?」


旗印を見た昌豊は苦々しく呟く

「北条氏康…」

「音ノ木と共に破滅の道を歩むか…」



氏康は静かに軍配を掲げると

「敵を排除せよ、攻撃開始」

振り下ろされる軍配を見届けると北条軍、一揆勢共に攻撃を開始する



「蹴散らせ!勝利は我等のものぞ!」

『応!!』


「勝った!勝った!我等の勝ちだ!!」

「音ノ木の勝ちだ!!」

一揆勢も口々に勝利を唱えつつ突撃を敢行する


「みんな…」

花陽は溢れそうになる涙を堪えて最後の命令を下す


「総員突撃、武田軍を殲滅せよ!!」


『応!!』



陽も傾き寒さを肌で感じる頃、戦場に響く鬨の声


『えい!えい!』

『おう!!!』



多数の援軍を得た音ノ木はそのまま武田に猛攻を加え撃退

大将内藤昌豊は這々の体で退却する事となった


河越城を攻めていた部隊もほぼ壊滅

全ての敵は河越城と小泉花陽の前に敗れ去った




約一ヶ月に及ぶ河越城合戦はこうして幕を降ろした




本日ここまで


遅れてごめんなさい!

あと1話でかよちん編完結です


すみません

ネット環境極悪の為1月3日更新します


良いお年を


遅くなりましたが明けましておめでとうございます!

再開します


河越城を巡る攻防から一週間が過ぎた



あの直後から花陽は心労と体力の消耗が激しく床に伏せる日々が過ぎていた


事後の処理は真姫を大将、凛と甲斐を副将とした部隊を編成

武田軍の掃討を行なったが、総崩れの撤退であった為、数日で作戦は完了した


北条から寝返り武田を手引きした旧幕臣に関しては氏康自ら兵を率いて討伐する事となった

旧領回復も時間の問題だろう



現在は花陽も随分体調が戻り、掃討隊も河越城に入り復興の道筋をつける段階まで来ていた


花陽は久しぶりに陽を浴びる為、寝所を出る


城下の復興は始まったばかり

人々は住む家を立て直し、一刻も早く元の生活を取り戻そうと動き始めている


少し離れた城の鍛錬場では凛と甲斐が何やらやっているのも見える


「見て見て!こんな事出来るんだよ!」

凛は元気一杯宣言すると愛馬『ミケ』に跨りそのまま背中の上で片足上げや後ろ向き、更には逆さまになって馬を駆る


「おおっ!?凄いぞ星空凛!」

「だが私も負けてはいないぞ!これを見よ!」

そう言うと甲斐は薙刀を持ち出しわら編みの標的を一刀両断、打ち上げられた半身を次々に切り刻みそれをまた薙刀で刺し集めるなどという離れ業をやってのける


「にゃー!?す、すごいよ甲斐ちゃん!!」

「それじゃあ凛もとっておきを…」



「あいつら何やってんの?」

「あれってあれでしょ?チートってやつなんでしょ」

「もしくはパラメータ、バグってんじゃないの」

花陽の隣でその様子をいう見ていた真姫がため息混じりに呟く


「いやぁ…多分あれは元々の性能なんじゃないかな?」

困った様な笑い声で返す花陽


体調もだいぶ良くなり笑顔も見せる様になった

籠城中はほとんど食を口にせず柔らかな頰もすっかりなりを潜め、再会した時は凛が泣き喚き大変な事となった


しかし元々健啖家である

既に粥を口にし始めるまで回復している


元の状態にはすぐに戻るだろう



「しかし良く持ち堪えたものね」

「少し嫉妬しちゃうわ」

珍しく真姫は素直な感想をぶつける


「偶然が重なったのもあったから…」

「もう一度同じ事があったら絶対無理だよ」

花陽はいつも下がり気味の眉を更に下げ、もう懲り懲りといった仕草を見せる


「ふーん…」

真姫がなんとなく気の無い返事をした時


「花陽様!一大事です!!」

誰かがバタバタと音を立て騒ぎ立てる


その声の主は



「晴朝ちゃん、どうしたの?」


晴朝と呼ばれたその名の主は、あの小姓である

今回の戦で初陣を飾り、見事に役割を果たした褒美として花陽から名を与えられたのだ

本人は花陽のどちらか一文字が欲しい様であったが、花陽がもっと相応しい名があるからとこの名を送った


さて、その晴朝が騒ぎ立てるほどの要件とは何か

花陽が問うと


「北条殿より重要なご用件」

「使者として幻庵殿が参られております」


花陽の表情があからさまに変わるのがわかる

「…すぐにお会いしましょう」

「丁度真姫ちゃんもいるし、いいよね?」


花陽の様子を見て真姫も只ならぬ様子を感じ取り

「わかったわ、行きましょう」


二人は使者を迎えるため広間へ向かった



話の内容は驚愕に値するものであった


北条は音ノ木国への併合を望む

条件は旧領を小泉花陽が統治する事



外交担当の真姫は首を横に振る選択肢などなく話を進める事となった

凛と甲斐は素直に喜びあった

花陽はいつも通り笑っていた

真姫はただそんな花陽をじっと見つめていた



その日の夜、真姫は花陽の寝所を訪れた

突然の訪問であったが花陽は予想していたかの様に身支度を整えていた


真姫は人払いをした後、花陽の正面に座り話を切り出す



「さあ花陽、答え合わせをしましょうか」




「答え合わせ?」

「いつもの感想戦じゃないのかな?」

花陽は微笑んだまま少し首をかしげる


「…花陽、私ね、怖かったのよ」

「お友達を失う恐怖がこんなに怖いものだなんて知らなかった」


「私がもっと広い視点で、思慮深く、豊富な知識で、全てを見渡していればこんな事態にならなかった」

「私はもっと完璧にならなきゃいけないの」


「それともう一つ…」

「戦わずして勝つ、究極の戦略」



「今回の『北条攻め』の内容を知りたい」




真姫の言葉の後訪れた静寂

花陽からは微笑みが消え、静かに真姫を見つめる


先に口を開いたのは花陽

「…今回は対音ノ木連合による河越急襲」

「それをみんなの力を合わせて何とか防衛した」

「北条さんが音ノ木と手を組む選択をしたのは南関東の覇権を確固たるものとするため」

「それが全てじゃないのかな?」


困った様な笑顔をする花陽


そうだ、この子はいつもこの表情をする

こうやって己が意見を隠して妥協点を探しているのだ

いつもならその妥協に乗るところだが今回はそうはいかない


私、西木野真姫は負けず嫌いなのだ

私の予想もしていなかった北条併合をやってのけたその軍略を知りたい

しかしそれよりも悔しいのは此の期に及んでも本心を隠していることだ


「…花陽、一回しか言わないからよく聞いてね」

「私はこれでもあなたの事信用してるの」

「あなたも私のこと、信用して欲しいわ」


この言葉を聞いた花陽は静かに真姫を見つめて

「…分かったよ、真姫ちゃん」

「全部教えるね」


「でも凛ちゃんには内緒にして欲しいの」

「…それと、真姫ちゃん…」


「……私のこと、嫌いにならないで……」

蚊の鳴くような声で懇願する花陽


真姫は優しく微笑んで

「覚えておいて…私は何があってもあなたの味方よ」

「当然凛も、μ’sのみんなもよ」


花陽は頷くと今回の計略の全てを語り始めた



音ノ木包囲網の成立は予想できていた

音ノ木が武蔵、下総、上総、そして常陸四カ国を抑えた

この時点で各国にその機運が高まっていた


盟主は武田

そこで花陽は武田潰しに動く


北は穂乃果と海未の部隊が一進一退の攻防を繰り広げていた

そこへ包囲網による援軍が期待できる状況が生まれる


そこに合わせ南から音ノ木に直接攻め込める道を作った


「…まさか北条方の寝返りを工作したのは」

驚く真姫に花陽は淡々と答える


「その通り、私だよ」



この調略は成功

表向きは北条の配下を武田が調略した形となり北条の武田への不満は頂点へと達する事となる


元々方針を決めきれず、身動きが取れない北条であったが、これで対外的にも動かぬ口実ができた為、包囲網に穴を開けることに成功する


その後の河越城の攻防は実は準備万端の状態

槍働の少ない小泉花陽が強兵武田軍相手に優位に立つ状況は武田家だけでなく他家に対しても衝撃を与える


その証拠としてμ’sのいる戦場では過大な戦力投入や逆に戦況の膠着といった通常考えにくい状況が生まれていた


「なるほど、だから私達μ’sの配置を変更して私と凛が動ける状況に出来たわけね」


花陽は静かに頷く



そんな中、北条から甲斐が援軍として駆けつける

これは北条が音ノ木に荷担する意思ありと見る決定的な事件であった


もちろん甲斐はそんな深い事は考えていない

ただ単純に友として花陽を助けたい一心での行動だ


「純粋に嬉しかったんだ…」


「でも私はそれと同時に、『指揮の出来る武将』として甲斐ちゃんを見たんだ」

「最低だね…」


「それはあなたが本気だからよ」

「本気でみんなの為に戦うからこそ、自分の心に嘘をついてまで非情に徹した結果よ」

「私はあなたを尊敬するわ」


再び静寂が二人を包む


意を決した花陽が

「ゴメンね、続けるよ」



本当は河越城の防衛力で凌ぐ方針だったが、敵方大将内藤昌豊の消極戦略の為方針を転換


表向き敵方兵站の破壊と兵の疲労を誘う、実際は素人の住民兵の訓練期間の時間稼ぎを実施

兵糧の持つ限界の時間を使い弓や槍が使える段階まで訓練した


そうして遂に西木野隊と星空隊が到着する

指定した期日丁度であった


「全く、援軍に行くのに期日まで指定されるとは思わなかったわ」

「間に合わなかったらどうするつもりだったの?」


「ゴメンね、私、真姫ちゃんと凛ちゃんにはわがまま言っていいって自惚れてるから…」


それを聞いた真姫は顔を赤くしながら

「ま、まぁいいんだけど!」


「つ、続けなさいよね!」



その後捕虜を利用して城内に不穏な空気が流れているように思わせ故意に逃亡騒動を起こした

そしてこれ見よがしに飯炊きの火を見せ敵に余計な思惑を植え付ける

当然わざと見えるような場所から伏兵役の真姫を逃して


翌日の城内の守り

武田はこう考えていたはず


総指揮 小泉花陽

東出丸 正規軍

西三ノ丸 住民兵

遊撃隊 黒頭巾隊、少数の援軍


しかし実際はこうだった


総指揮 なし

東出丸 星空隊、住民兵の半数

西三ノ丸 小泉花陽、正規軍、住民兵の半数

遊撃隊 西木野隊、黒頭巾隊


各隊毎に細かく作戦を伝え正確にそれを実行させる

それにより総指揮から花陽を外し、城内に入り込んだ敵を殲滅する


各々がそれぞれの仕事をすることにより結果として連携が取れていく

各人の力を正確に把握し、戦場の状況を完全に掌握した上の作戦


結局この戦はきっかけから結果まで全て花陽の掌の上の出来事だった


包囲網は結成直後に盟主の敗北という大きな痛手を負い、勢いは大きく削がれるだろう

そして武田はその立場が大きく揺らぎ、攻勢一転、瓦解の危機が訪れる事になった



しかしこの戦はあくまでも大きな計略の流れの一つ

真の目的は先にも述べた通り『北条攻略』であった


誰にもさとられることなく静かに、そして確実に行われていたこの計略は遂に北条が花陽の傘下に入るという形で結実した


「いつから始まっていたの?」

真姫は純粋に疑問を口にする


今の花陽に真意を隠すような真似は無粋だ


当然花陽も全てを包み隠さず話す

「最初からだよ」


「1番初めから、この『忍辱の計』は始まっていたんだ」




音ノ木がまだ弱小勢力出会った頃

関東の強豪は旧幕府軍、佐竹、そして北条であった


中でも北条は別格

初めはとにかく友好関係を構築する事に勤めた


そうしながらも自然と旧幕府軍を敵とし、北条の北上を抑え、武蔵を手中に収めた

その後も北を攻め、南は北条に手を貸し遂には北条を凌ぐ国力を手に入れた

しかしそれでも北条を軽んじるどころか更に厚遇し、信頼を厚くしていった


そこへ今回の事件である

最初に北条が動かなかった時点でほぼ成功を確信した


そして甲斐の援軍

これは非公式ながら北条の意思が見て取れた


さらに武田に対する攻勢

無勢ながらも優位に事を進める音ノ木を見る目は如何程のものだったか



周辺地域でも音ノ木の不利は聞こえなかったはず


後詰があれば勝てるのではないか

そういう考えが頭に浮かぶ様になった時、月夜衆から情報がもたらされる


後詰として『流星』と『緋色の孔明』がやって来る、と


この危機を音ノ木だけに解決させると一気に周辺は飲み込まれる

それは同盟国とて同じ事

ならば今の内に恩を売り、名も実も取るのが最良


音ノ木はμ’sの様な軍団長待遇の者は領地は切り取り次第となっている

現在はμ’s以外では佐竹義重と長野業正がその任に就いている

人数的にもこれ以上は増えにくいだろう


となれば今が最後の機会

しかも最大の危機に恩を売る形となる


幸運な事に領地経営に関しては共通するところも多い

住民も音ノ木ならば何も言うまい


そして遂には河越城に大名、そして五色備を揃え援軍に駆けつけた

その後の事後処理も含め完全に自分達で対応


そして遂に一番懇意にしていた小泉花陽の名をもって傘下に入ると表明したのだ



「こうして忍辱の計は成功を収めたんだ」


「最初からみんなの事騙して、利用してたんだよ」

「最低でしょ、私…」


「そう…わたし……ごめんなさ…い」

花陽はそこまで言うと顔を覆い泣き崩れる



真姫はそんな花陽にこう告げた

「忍辱の計とはよく言ったものね」

「耐え忍ぶのは何者でもない、あなた自身だったのね」

「ごめんなさい花陽、あなたにばかり辛い思いをさせて」


そう言うと真姫は泣き崩れる花陽を抱きしめる

「でももう大丈夫…」

「必ず私があなたを超えて一番になるわ」

「そして優しいあなたにこんな辛い思いをさせたりしない」

「だから今は一杯泣いていいのよ…」


「凛達はきっとあなたを責めたりしない」

「だって花陽は自分の心を犠牲にしてまでみんなを守ろうとしたんだもの…」


「約束通りみんなには内緒にするから…」

「その代わり明日にはいつもの笑顔を見せてね…」



『うぅっ…うわぁぁぁ〜〜ん』


正に泣き叫ぶ様な声が響き渡る


「花陽…辛かったでしょう、我慢しなくていいからね」

『ガマンなんてできないにゃ〜〜!かよち〜ん!!うえぇぇぇん!!』

「そう、ガマンしないで、かよち…ん?」


真姫が違和感に気が付き襖の方を見る

花陽も同じ方向を向いている


真姫が襖を開けた途端、大きな猫が花陽に飛びついた

「ゴメンね!かよちん!!」


飛び付かれた花陽は目を白黒させながらもその猫の名を呼ぶ



「り、凛ちゃん?!」



凛は花陽を抱きしめたまま

「かよちんが何かしてるのは知ってたけど!凛はバカだから!」

「ゴメンね!もっと勉強して色々知ってたら手伝えたのに…」

ここまで言って大泣き状態となり、収拾がつかなくなる





真姫はそんな凛の様子をみて花陽に語りかける


「ほらね、あなたを責めたりしないでしょ?」

「それどころかあなたの計略も見抜いてたみたいよ」


「だからもう一人になったりしないで…」



花陽は涙を拭く

そしてとびっきりの笑顔でこう答えた


「うん!ありがとう!真姫ちゃん!!凛ちゃん!!」




季節は冬


身にしみる寒さとは裏腹に、花陽の心は春の陽を受けた様に暖かかった




河越城軍絵巻 完


河越城編終わりです

次は少し間が開くと思います


まあもし落ちても立て直すんですけどね

ほな、また

史上最悪のSS作者◆ゴンベッサこと先原直樹
http://i.imgur.com/Kx4KYDR.jpg
痛いssの後書き「で、無視...と。」の作者。

2013年、人気ss「涼宮ハルヒの微笑」の作者を詐称し、
売名を目論むも炎上。そのあまりに身勝手なナルシズムに
パー速、2chにヲチを立てられるにいたる。

以来、ヲチに逆恨みを起こし、2017年現在に至るまでヲチスレを毎日監視。
バレバレの自演に明け暮れ、それが原因で騒動の鎮火を遅らせる。

しかし、自分はヲチスレで自演などしていない、別人の仕業だ、
などと、3年以上にわたって稚拙な芝居でスレに降臨し続けてきたが、
とうとう先日ヲチに顔写真を押さえられ、言い訳ができなくなった。

2011年に女子大生を手錠で監禁する事件を引き起こし、
警察により逮捕されていたことが判明している。


先原直樹・ゴンベッサまとめwiki: http://Goo.gl/CNdeGX

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