【ミリオンライブ】アイドルヒーローズ17話 (16)

アイドルヒーローズR/Vでは語られなかった物語

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対手を観察する

重心は低く安定、それでいて足腰は柔らかく、体軸は曲線的

構えから察するに空手、和道の流れを汲むが若干の崩れあり

腰の細身の刺突剣は鞘に収まったまま、脇差などの軽武装もなし

恐らくは武装ではなく体技を中心とした格闘スタイル

背丈はこちらより1回り大きく、腕のリーチは恐らく拳1つあちらが上

対するこちらは日本刀を正眼に構える型

相手を正面に見据え、臨機応変に対応できるように呼吸を計るーー

「あなたはこちらに来る権利があるわ」

対手、デストルドー総統の田中琴葉はさも当然のように言い放つ

「あなたは南インド支部を壊滅させたとはいえ、元々は私たちが作り出した怪物。デストルドーは破壊と暴力には寛容だわ」

その表情からは何を思慮しているのかが深くは読み取れないが、恐らく彼女の言っていることは本当であろう

デストルドーという組織は破壊と暴力を体現する組織、その組織がより強い力によって壊滅させられるのは教義に則るところではある、しかしーー

「田中琴葉総統、私はもうデストルドーには戻らない」

私、高山紗代子はすでにダークセーラーではないのだ

「そう、残念だわ。武力の権化、誰よりも真実に近づいた少女・高山紗代子。私たちの崇高なる使命を理解出来なかったのね」

「あなた達のいう真実はあまりにも狭い範囲しか捉えていない。それを真実と主張し天下に流布させようとするは道理が通らない」

「通らない道理すら通すのが力というものよ、この惨状をご覧なさい」

そう言って田中琴葉は壊れた街並み、燃える建物、崩れた雑居ビルに目をくれる

「あなたの言う通らない道理が引き起こした現実よ。不平等の体現者、マイティセーラーとの戦闘によって、昨日まで幸せだった町並みも今では現代アートだわ」

「…………」

「誰もが沈黙せざるを得ない。圧倒的な暴力の前には平和なんてものは前衛アートにすら劣る代物なの」

「しかし、しかし。だからといって暴力が支配する世界には未来がありません。弱者を許さず、強者生存のみの世界には」

「それは何故?まだ誰も到達したことのない未知の世界に結論を出すには早計だと思わない?」

「琴葉総統、あなたは最初から力を持っていましたか?」

「…………」

「そう、誰もが生まれつき強者というわけではないのです。それはデストル化ガスを作り出したあなた達自身がよくわかっているでしょう」

「それでも私たちは力をつけたわ、そして数刻後にはこの街の住人も、ね」

「まさか、デストル化ガスをこの街に!?」

「もはや問答はこれまで。組織に降らぬというのならばやむなし、ここで消えて頂きます、ダークセーラー!」

再び対手の構えに力が満ちる

(もし本当にデストル化ガスがこの街に持ち込まれようとしているのならば、時間はない。早々にケリをつけなければ!)

こちらも心を整え、構えを中段から右上段へ

間合は5mほど

これが互いに離脱可能かつ急襲不可の間合であった

敵と再び相対する

リーチだけ見ればこちらが日本刀の分だけ長いため、一見有利に見える。が、長いリーチというものは裏を返せば懐に入られてしまうと相手に有利に働く

懐に入られる前に切りつけねばなるまい

日本刀で切りつける際には十分な加速が必要だ

加速を得られない太刀では柔肌を裂くことは出来ても、相手の戦闘力まで一息で奪うことはできまい

相手はマイティセーラーを圧倒する実力の持ち主、恐らく膂力が並と考えるのは楽観が過ぎるであろう

一息で斃せなければ、懐に踏み込まれ、マイティセーラーでさえ戦闘不能にさせる攻撃を貰ってしまい、こちらの敗北は必至

ゆえに相手を斃す条件は3つ

一つ、間合いを詰められることなく戦闘力を奪うこと

一つ、敵がマイティセーラーを斃していることを忘れないこと

一つ、デストル化ガスが到着するまでに決着をつけること

幸運なことに琴葉総統はデストル化を限界以上にはしていない

これは会話が成立することや、キレを必要とするレイピアを武器にする以上当然のこととも言える

限界以上にデストル化していないということは一突きでビル倒壊なんていう馬鹿力は持ってないないということ

恐らく町並みを破壊したほとんどはマイティセーラーによるものではないだろうか

(それでも私と戦った時よりよっぽど被害が少ない。力をセーブして戦ったのか、はたまた別の理由か……)

勝利条件は相手の無力化およびデストル化ガスの散布の阻止

敗北条件は勝利条件以外のすべて

考慮すべきはマイティセーラーを斃しているということ

間合は5m

こちらの構えは右上段

対手は徒手空拳、和道空手の流れ、崩れアリ

右上段の構えを取ったのには理由がある

相手が自分より1回り大きいこと、徒手空拳であること、デストル化していること

なるべく上段から振り下ろすことによって威力を増しつつ、こちらのリーチを活かし、間合に入った相手を最速で叩き斬ることが出来る

対する田中琴葉は間合が不利である以上、こちらの攻撃を1度防いだ上でもう1歩さらに踏み込まなければ拳は届かない

速度がのる前に刃の出先を捉えに来るか、刃を躱すかいなした上で踏み込んで来るかの二者択一

高山紗代子は先の先を狙う

田中琴葉は後の先を狙う

呼吸の気配を消す

呼吸を読まれることは相手の出鼻を捉えることと同義だ

戦場はもやは無音の世界

二つの影が機を逃すまいと正対する

先に動いたのはやはり田中琴葉

姿勢を低くし素早く踏み込んでくる

もちろん高山紗代子もこれを逃さない

間合に入る前からその刀は田中琴葉を捉えている

刀をまっすぐに振り下ろす

右上段を取った高山紗代子に対して低い姿勢で踏み込む田中琴葉

姿勢が低い分だけ刀の到達が遅れるのは自明の理

そのコンマ数秒にも満たない時間

その数瞬で田中琴葉は刀の軌道を読む

正確に頭を狙いに来ているのか、肩口から切り落とそうとしているのか

読んだ軌道にわずかに手を添えてやるだけで、必殺の刀は大きく逸れる

先に右上段を晒してしまったが故に生まれた数瞬が次の一歩を生み出す

(しまったーー)

刀の軌道を逸らされてから自分のミスに気付く

もはや田中琴葉は目の前

急いで逸れた刀の刃を返し、返す刀で両断せんと腕を振るう


が、時すでに遅し


振り下ろした刀を切り上げんとした胸に、低い姿勢から跳ね上がるようにしてアッパーが放たれる

避ける術はなし

防ぐ技も間に合わず

高山紗代子の思考はそこで途切れた


これは語られなかったアイドルヒーローズの幕間の物語

ダークセーラーであることを辞め、真実から遠ざかった少女では田中琴葉総統を斃すことは出来なかった

より真実に近い少女が田中琴葉総統を斃すことによって物語は完結を迎えるのだが、それもまた始まりに過ぎない

ヒーローズとデストルドーは対の概念ではなく、全く同じ概念なのだ

そのことにヒーローズが気づくまでにはまだ時間がかかるが、真実に近づいた少女は誰よりもその事実に苛まされる



次回、【ミリオンライブ】アイドルヒーローズ18話
アイドルヒーローズR/Vの終わり、新たなるD

奈良原一鉄のような文章が書きたい
書きたいことを表現するのが如何に難しいか
HTML化依頼してきます

次は16話か18話を書くかもしれません

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