「innocent summer」 (90)

「男君は、楽しかった?」

男「……? なにが?」

「私といた時間は楽しかったかな?」

男「そ、そりゃあ……も、もちろん楽しかったけど」

「そっか……。私もおんなじ」

「男君といれた時間は楽しくて……とても幸せだった」


「ずっと忘れないよ。男君との思い出」



「あなたと過ごした、この夏を――」


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男(一時も忘れたことのない、彼女との思い出……)

男(夏になると彼女の事を思い出し、過去を記憶に浸っている)

男(隣の家に住んでいた幼馴染。彼女は五年前にこの街を去っていった)

男(夏の思い出だけを残して、ここからいなくなってしまった)


男(幼馴染と会えることはもう無いのかもしれない。しかし、それでも過去を捨てることなどできやしない)

男(彼女と過ごしたあの"無邪気"な夏は誰にも汚すことのできない、僕の宝物なのだから)


男(幼馴染……。君は今年の夏は何をしているのだろうか)

男(……。もう幼馴染とは関係のない僕が思うには少し変だな……)

男(はぁ……。夏休みの宿題、早く終わらせないと)

~♪

男「ん?誰かな……」

ピッ

男「もしもし……」

『よぉ男!お前宿題終わったか?』


男「友か……。半分は終わらせたけど」

友『なら、その半分を見せてくれ!』

男「えぇ……。今年は自分の力だけで終わらせるって言ってたじゃないか」

友『そ、それは……。じゃ、じゃあ分かった!駅前のカフェのパフェおごるから!』

男「……」

友『頼む!トッピングもつけるから!』

男「……し、仕方ないなぁ。それじゃあ、駅前のカフェに集合でいい?」

友『さっすが親友!オッケー!なら、先に中で待ってるぜ!』

男「わかった。それじゃあまた後で」

ピッ


男「……パフェ食べれるなら、仕方ないよね」






「いらっしゃいませー。一名様でよろしいでしょうか?」

男「あ、いや、連れがいるんで」

友「」ヒョイヒョイ

「失礼いたしました。ではごゆっくり」


友「やっぱりここのパフェの誘惑には負けるんだな」

男「そ、それは……。ゴホン。と、とにかく宿題をやりにきたんだろう?」

友「甘党め……。っと、そういえば本来の目的はそうだったな。じゃあ早速頼むぜ」


男「はいはい……。それで何で宿題を僕に頼ろうとしたんだい? 終業式の日にあれだけ威勢よく僕に頼らないって言ってたのに」

友「今年の夏は忙しくなりそうだからな……。ほら、2日後に祭りあるだろ?」

男「毎年言ってるヤツね……。それがどうかしたの?まさか友に彼女でもできたの?」

友「そうだったらよかったんだけどなぁ……」

友「親父の焼きそばの屋台を手伝うはめになった。それでその準備に追われてるってこと」

男「へぇ……。お父さんの屋台、遂に手伝う事になったんだ」

友「俺の成績表を見て、お前は実家の定食屋を継ぐしかねぇんだって言うもんだから、そっからはもう流れによって、な」

男「確かに……。今の友の成績だと進学は厳しいかもね」

友「よく言うぜこの秀才野郎め」

男「宿題、見せなくたっていいんだよ?」


友「わるいわるい。……そういう事で祭りはお前といけねぇや」

男「まぁ、話からして大体分かってたけどね」

友「そういえばお前こそ、一緒に祭りに行くよう女の子とかいないのか?」

男「……」

友「だよなぁ……。成績も顔もいいのに女性関係だけはホント何もないよな、お前」

男「う、うるさいなぁ……」


友「……幼馴染ちゃん、今頃元気にしてっかな」

男「っ! た、多分元気にしてるんじゃないかな……」

友「そうだといいけどなぁ……。俺らに何も言わずに引っ越しちゃったもんなぁ」

男「……」

友「っと、湿っぽい話はここまでにしといてさっさと宿題やろうぜ」

男「そ、そうだね」







友「どうだった、人の金で食べるパフェの味は」

男「すごく美味しかったよ」

友「だろうなぁ……。たっぷりトッピング乗せやがって……!」

男「友がいいって言ったんだろう?僕はその言葉に甘えただけだ」

友「そうなんだけどよぉ……!」


友「とにかく。今日はありがとな、男」

男「僕も集中して残りの宿題に取り掛かれたし、良かったよ」

友「そうか。また、なんかあったら連絡するわ」

男「うん、それじゃあ」

友「おう、じゃあな!」


男(さてと。暗くなってきたし早く帰らないと……)


男(――その時、だった)



男「――!!」




男(自分を疑った。いくら友と幼馴染の話をしたからって、他の誰かを見間違えてるだけだと)

男(僕の勘違いのはず――)


「……ぁ」


男(しかし、目の前にいる少女の顔は多少の差異はあるものの、僕が一時も忘れたことのない顔)


男(僕の大切な記憶の中の少女と同じ顔だった)



男「――幼馴染……?」


「男、君……?」


男「う、うん、そうだよ」


「おとこ、くん……!!」ギュッ


男「ちょ、ちょっといきなりどうしたの!」

「会いたかった……!あの日からずっと……!」

男「……」


男「僕もだよ、幼馴染」

幼馴染「……ただいま、男君」

男「……ああ。おかえり、幼馴染」



幼馴染「っ!!い、いきなり抱きついてごめんね!」バッ

男「あ、う、うん……。唐突すぎて少しびっくりしたよ」

男(幼馴染と再会した喜びで全く意識してなかったけど、今幼馴染が抱きついてたんだよな、僕に……」

男(……なんか、名残惜しいっていうか、もうちょっと堪能しておけばよかった……)

男(って何を思ってるんだ僕は……!)ブンブン


幼馴染「? ど、どうかしたの男君……」

男「な、なんにもないよ。そ、それで幼馴染はなんでここに?」

幼馴染「ちょっとした旅行って感じかな。この日の為にお金を貯めてきたんだー」

男「そうなんだ……。じゃあ、泊まる所とかももう決まってるんだ」

幼馴染「そ、それがね……」

男「ん……?」


幼馴染「男君の家に泊まらせてもらうんだ……」ポッ


男「……マジで?」

幼馴染「うん。大マジ」

男「……ということは、うちの両親は幼馴染が来ることを知ってたの?」

幼馴染「そのはずだよ。何日か前におばさんとおじさんには連絡したからね。……聞いてなかった?」

男「そんな話はまったく聞いてない。……困った両親だ」

幼馴染「ちょうど駅にいたから迎えに来たのかと思ってたよ」

男「さっきまでそこで勉強してたんだ。だからこれは単なる偶然」

男(これが単なる偶然、ねぇ……)


男「じゃあ、暗くなってるし家に向かおうか。荷物、持つよ」

幼馴染「それじゃあ、お願いします」






男「そういえば、幼馴染は今どこに住んでるの?」

幼馴染「神奈川だよ。だからここからだと三時間ぐらいかな?」

男「長期休みとかじゃないと、あんまり気軽に来れる距離ではないね」

幼馴染「そうなんだよー。それに私、方向音痴だから親が心配だって言ってね……」

男「確かに。森に言った時も危うく遭難しかけただろう?」

幼馴染「あはは……。そういえばそうだったね」


男(久しぶりに会った幼馴染は外見こそ変わったところはあるけど、やっぱり根本的な所は変わってない)

男(幼馴染はあの頃と同じ、無邪気で、笑った顔が誰よりも似合う女の子だ)


男「ほら、着いたよ」

幼馴染「わぁ……!懐かしいな……」

男「どう?自分の昔住んでた家を見るのは」

幼馴染「なんともいえないなぁ……。今の場所に慣れちゃうと、ね」

男「言われてみれば確かにそうだ。昔の事より今の事の方が記憶に残ってるし」

幼馴染「そんなことないよ。ここで過ごした記憶は忘れることなんて無い」


男「……。じゃあ、はいろっか」

幼馴染「うん……」

男「ただいまー」

男母「男!あんた電話にでなさ……」

幼馴染「お久しぶりです。おばさん」

男母「あら、幼馴染ちゃん……!!」

男母「ちょっと、幼馴染ちゃんといるなら連絡よこしなさいよ……! 何度もあんたの携帯に電話したんだから!」

男「それどころじゃなかったんだよ……」

男(一応気になってスマホの画面を見てみると……着信30件!?)

男(どれだけ気にかけてるんだ母さん……)


男母「それじゃあ、部屋に案内するからついて来て」

幼馴染「は、はい。よろしくおねがいします」

男母「男、あんたは部屋でも片付けておきなさい」

男「片付けるほど散らかってないけど」

男母「バカねぇ……。隠すもの隠しておきなさいってことよ!」

幼馴染「……?」

男「……母さん、ちょっと静かにしてようか」






男「ふぅ……」


男(あれから夕食を食べ終え、風呂にも入った。もう今日は寝るだけといった所)

男(……ちなみに僕はダウンロード派だから隠すものなんてないんだよね)

コンコン

男「ん、どうぞ」

幼馴染「お邪魔します……」

男「なにもそんなに畏まらなくてもいいよ。知らない人の部屋に入るってわけじゃないんだし」

幼馴染「そ、それでも緊張するもん……」

男「まぁ、そうだよね。五年ぶりだもんね、僕の部屋に来るのも」

幼馴染「うん……。あっ、あれって!」


幼馴染「これって私達が小学生ぐらいの時の写真?」

男「そうじゃないかな。僕達の顔が今より全然幼いし」

幼馴染「友君もいる……。そういえば友君とは同じ学校?」

男「ああ。同じ学校で同じクラス。今でも友達続けてるよ」

男「今日、駅前にいたのも友の宿題を手伝ってたからなんだ」

幼馴染「そこはやっぱり小学校の時から変わってないんだね」

男「友がお礼をしてくれるようになったってぐらいかな、変わった所といえば」

幼馴染「……そうなんだ」


男「そういえば幼馴染はいつまでこっちにいるの?」

幼馴染「3日後の昼ぐらいまでかなー」

男「……ってことは」


友『今年の夏は忙しくなりそうだからな……。ほら、2日後に祭りあるだろ?』


男「……。幼馴染、二日後の予定は?」

幼馴染「実は予定らしい予定なんて無いんだよね。だから、そこは男に任せるって感じかな」

男「……なら、二日後は必ず祭りに行こう。友が屋台をやってるらしいし」

幼馴染「本当……!?絶対いく!一緒にりんご飴食べたり、金魚すくいしたり、それから……」


男「ふふっ……。祭りとか久しぶりかな?」

幼馴染「うん!すごく……ひさしぶり」

男「そっか。じゃあ、とりあえずは明後日の予定は決まったけど……明日はどうする?」

幼馴染「男君に任せるよ」

男「……じゃあ、森の方にでも行こうか」

幼馴染「森って……よく虫取りとか行った所だよね?」

男「もちろん。僕も最近行ってなかったんだ。幼馴染と会ったら久々に行きたくなってきたよ」


幼馴染「小さな頃あそこでよく遊んだよね……。まだクワガタいっぱいいるかな?」

男「それは明日のお楽しみだ」

幼馴染「うん……! おっと、もうこんな時間。……男君、明日楽しみにしてるね」

男「僕も楽しみだよ」

幼馴染「じゃあ、おやすみなさい」

男「うん、おやすみ」

バタン……


男(……なんだか色々と急だったな。友の宿題を手伝ったら偶然幼馴染と会って、そしたら幼馴染は僕の家に泊まるし)

男(改めて考えるとこの状況はなかなかすごいような……)


男(――帰ってきたんだよなぁ、幼馴染)

男(……にやけが止まらない。平静を保とうとすればするほど、顔が綻んでしまう)

男(幼馴染がここに居ることがそれほどに嬉しいんだな……)

男(……幼馴染がいるのはあと3日。その3日間をこれまで以上の思い出にしよう)


男(彼女と過ごせる夏はきっと……何にも勝る、大事な物だから)


男「……おやすみ」

短編のつもりなのでさくっと終わらせる予定。書き溜めてからの更新になります。

よろしくおねがいします。







幼馴染「おとこくんみて! おっきなクワガタっ!」

男「ほんとだ!すっごくおっきい!」

幼馴染「えっへん!すごいでしょー」

男「ぼくもまけてられないぞー! おさななじみにまけないぐらいのクワガタをつかまえる!」

幼馴染「それじゃあ、わたしだってもっとおっきいのつかまえるもん!」

男「よーし、しょうぶだおさななじみ!!」






男「昨日よりも暑いな……。幼馴染、水分はこまめにとってね」

幼馴染「大丈夫。幼馴染さんはこの日の為に大量の水分と塩分を用意してあるのですよ!」エッヘン

男「それ、母さんから渡されたやつだよね……」

幼馴染「ぎくり」


男(幼馴染と僕は町外れにある山の麓を目指している。幼馴染と僕はこの場所を”森”と呼び、よく遊びに来たものだった)

男(子供ながらよくここまで歩いていったもんだ。すっかりインドアな人間になった僕にとって、森に向かうのは少々キツイものがある)

男(なんせこの体の水分を全て枯らさんとばかりに差す陽射しが凄い。なのに隣の幼馴染は暑さなどを感じさせず、上機嫌で僕の先を行く)

男(ほんとに……無邪気で、元気な女の子だ)


男(そういえば……。母さんが幼馴染の体調には常に気をつけるように言ってたな。この上ない煩さで)

男(女だから分かることがあるのだろう。だからこんだけ水分と塩分を持たせたんだと思うし)


幼馴染「男君大丈夫? ちょっと休憩していく?」

男「いや、大丈夫だよ。少し汗をかきすぎてるだけだよ」

幼馴染「じゃあ……はいっ」

男「ん、ありがと……。んぐっ」

男(幼馴染から差し出されたペットボトルに入った水を飲む……。ん、待てよ?)

男(その水……。まさかさっきまで幼馴染が飲んでたヤツじゃ――)


男「――」

幼馴染「……顔真っ赤になってるよ? やっぱり休憩したほうが」

男「いや!大丈夫だ!森までもう少しだし、急いでいこう!」

幼馴染「? わ、わかった……」


男(まったく、思わぬ所で元気を貰ったよ……)






幼馴染「ついたー!」

男「ふぅ……。やっとだね」

幼馴染「なに言ってるの男君!本番はまだまだこれからだよ!」

男「先にお昼にしない?時間も時間だし、体力回復に意も込めて」

男「はっきり言って僕はもうお腹が減ってしょうがないよ……」

幼馴染「う~ん。そうだね!お昼食べよっか!」


男(幼馴染はそう言うと、僕の背負っていたリュックサックからブルーシートを)

男(そして自分の背負っていたリュックサックからは花柄の布に包まれた物を取り出した)


幼馴染「ささっ、男君。早く座って」

男「うん……。っしょと」

幼馴染「見ておどろかないでよ……。じゃじゃーん!私とおばさん特製のお重箱でーす!!」

男「おぉ……! すごいよ幼馴染。こんな量をいつの間に……」

幼馴染「早起きして作ったんだよ! ……って言ってもおばさんに結構手伝って貰っちゃったけどね」

男「それでも嬉しいよ。ありがとう、幼馴染」

幼馴染「えへへ……」


男「それじゃあ、いただきます」

幼馴染「うん、召し上がれ」ニコ

男(まずは何から食べようかな……。やっぱり卵焼きかな……)

幼馴染「……」ジー

男(幼馴染がすんごい見てる。……なるほど、そういうことか)

男「ん……。お、おいしい!」

幼馴染「ほ、ほんと!?」

男「僕好みの味ですごくおいしいよ!」

幼馴染「ふふん。幼馴染さんの料理の腕上がったでしょ」

男「そういえば、昔は全然料理ダメだったよね」

幼馴染「せ、成長したってこと!」

男「うん、さすが幼馴染だよ」






男「お腹いっぱいだ……」

幼馴染「少し作りすぎちゃったかもね……」

男「ちょっと一休みしていこうか」

幼馴染「うん……。このままだと、とてもクワガタなんて捕まえられそうにないよー」

男「ははっ。その通りだ」


男(幼馴染と母さんが作ってくれた重箱弁当を食べ終えた僕達だが、あまりの量に腹がいつも以上に膨れてしまい、動けない)

男(なので、日陰に入って少し休むことにした。……気怠い暑さが森の中の日陰だと、少しだけ緩和されてるように感じる)

男(このままだと、少し寝ちゃいそうだな……)


幼馴染「すぅ……」

男「……幼馴染。君が寝るのか」

男(安らかに寝息を立てている彼女の顔は、いつも元気な彼女からは想像しがたいものだった……)

男(まるで、儚い物のような……。そんな印象を受けた)

幼馴染「んぅ……。おとこ、くん……」

男(彼女は夢のなかでも僕のことを見ているみたいだ)

幼馴染「そばに、いてね……」

男「……」

男「大丈夫。僕は幼馴染の傍にいるよ」


男(……この何日間だけ、だとしても)







幼馴染「むにゃ……。……はっ!わ、わたし!」

男「……おはよう」

幼馴染「男君、もしかして私寝ちゃってた?」

男「まぁ……うん」

幼馴染「ど、どれくらい?」

男「2時間ぐらいかなぁ……」

幼馴染「~~!!」


男「ど、どうしたの。そんなに赤くなって」

幼馴染「……見た?」

男「な、なにを?」

幼馴染「……私の寝顔」

男「……うん」

幼馴染「だ、だめだよ~!そんなに乙女の寝顔は安々と見せられないものなんだよ~!」

男「えーと……。か、かわいかったよ?」

幼馴染「~~!!」

男(幼馴染みは起きてジタバタとしたと思ったら、ポーチを持ってどこかにいってしまった)

男(女の子がポーチを持ってどこかに行く……。そして幼馴染の顔は赤くなっていた……。つまり……ゴホン)

男(……静かに待ってるか)


男(用を済ませた幼馴染と僕が次に行うことといえば、もう決まっていた)


幼馴染「むしとり対決だ―!」

男「やっぱりやるんだね」

幼馴染「森といったらこれでしょ! ということで、時間までに大きな虫を捕まえてきた方の勝ちね!」

男「よし、今日こそは幼馴染に勝つぞ!」

幼馴染「ふふん、それはどうかなー?」

男「じゃあ、30分後にここに集合で」

幼馴染「わかった。じゃあ、よーいスタート!」


男(その声を皮切りに幼馴染と僕は別々の方向へ歩き出す)

男(……幼馴染、迷ったりしないかなぁ。かくいう僕も心配だから印つけていこう)






男(――そして30分後)

男(僕はそこそこの大きさのクワガタを捕まえ、印を頼りに集合場所に辿り着いた)

男(しかし、その場所に幼馴染の姿はなかった)

男(大雑把な幼馴染の事だ。少しぐらい遅れてくるだろう)


男(しかし、10分待っても幼馴染は姿を現さない。僕の中で嫌な予感がよぎる)

男(……幼馴染っ!)


男「幼馴染ーっ!いたら返事をしてくれー!」

男「どこにいるんだー!幼馴染ー!」


「こ、ここだよ……男君……」

男(僕の心配を他所に、幼馴染は思ったより簡単に見つかった)

男「幼馴染っ!」

幼馴染「大きなクワガタ捕まえたのに、逃げられちゃった……」

男「そんなことはどうでもいいっ!どこか怪我はしてない?」

幼馴染「だ、大丈夫だよ……。早起きしたせいかちょっとフラってしちゃって……」

男「……ほら、捕まって」

幼馴染「……?」


男「おんぶ。あまり無理できないだろう?」

幼馴染「う、うん……。じゃあ、お願い」

男「よいしょっと。じゃあ、行くよ」

幼馴染「うん……」




男(僕の記憶の幼馴染は、僕よりもずっと元気でたくましく、天真爛漫。そう表すのが的確な少女だった)


幼馴染「男君の背中広いね……」

男「あ、ああ……」

幼馴染「すごく、頼もしいな……」


男(しかし、今僕の背中にいる彼女は……ただのか弱い一人の少女にしか思えなかった)







男(その後、幼馴染にあまりを無理をさせないように母さんに迎えに来てもらおうかと言ったが、幼馴染はこれを頑なに拒んだ)

男(幼馴染の強い意志に僕も折れるしかなく時折、休憩を挟みながら家に帰ってきた)

男(家に帰ると幼馴染は、森での事が嘘のように元気になっていた。本当に寝不足だったのだろう)


コンコン


男「ん、いいよ」

幼馴染「お、お邪魔します」

男「やっぱり堅苦しいのは抜けないね」

幼馴染「き、緊張するから……」

男「そういうもんかなぁ……」

幼馴染「そういうものなの」


男「それでもう体調は大丈夫なの?」

幼馴染「……うん。もう大丈夫だよ。心配かけてごめんね」

幼馴染「それに、色々としてもらって本当に助かった。やっぱり男君は頼れる男の子だよ……」

男「当たり前の事をしただけだよ。それに、僕も幼馴染の事を一人にして悪かった」

幼馴染「そんなことないよ……!悪いのは、私だから……」

男「……そ、そうだ!! 明日は祭りに行く予定だけど、祭りは夕方から」

男「そういうわけで……午前中はどうする?」


幼馴染「実は……午前中はおばさんとお出かけするんだ」

男「そ、そっか……。ならしょうがない」

幼馴染「ご、ごめんね? 男君に予定は任せるって言ったのに」

男「いや、しょうがないよ。せっかくこっちにいるんだから、僕だけと過ごすなんて勿体無いもんね」

幼馴染「そういうわけじゃないんだけどなぁ……」ボソッ


幼馴染「それじゃあ、私は部屋に戻るね」

男「うん、分かった。おやすみ」

幼馴染「おやすみ、男君」


バタン



男(今日は久しぶりに動いたから、いつもより眠いな……)

男(……幼馴染が作ってくれた卵焼き、おいしかったなぁ)

男(夫婦になればあれを毎日……ってなにをかんがえている僕は!!)

男(話が飛躍しすぎだ……! けど、幼馴染の卵焼きはそれほどにおいしかった)

男(今日は幼馴染もたくさん休んでくれ……。もうあんなに心配するのは嫌だからね)


男「……おやすみ」


きょうはここまで。








男「わぁ……! きれいだなぁ……」

幼馴染「うん……! なんかおはなみたい……」

男「花の火で、花火だからね。ほんとにおはなみたいだ!」

幼馴染「みにこれてよかった……。おとこくん、ありがとう」ギュッ

男「お、おさななじみ!」

幼馴染「ふふ、おれいだよ」

男「……」

幼馴染「……おとこくん。また、わたしをおまつりにつれていって」

幼馴染「これから、ずっと。だよ」







男「……」

男(扇風機が静かに動く部屋の中で、僕は昨日と変わらぬ暑さによって起こされた)

男「……今、なんじだ……?」

男(時間を見てみると、いつもより寝ていたみたいだ。昨日はそれほどに動いたからな)

男(とりあえず、朝食を食べに行こう)


男「母さーん。幼馴染ー。……誰も居ないか」



男(リビングに行くと、そこには幼馴染と母さんの姿は無く、既に出かけているようだ)

男(机の上には食器類と、卵焼きが置かれていた)

男(また作ったのか、幼馴染)

男(幼馴染は料理を作ることが好きになったのだろう。……成長、してるんだなぁ)

男(……僕も、成長したってところを見せないと)







男(部屋で宿題に取り組んでいると、下の階から物音がした。大方、誰かが帰ってきたんだろう)

男(大きな物音を立てながら階段を上がってきている……。これはもしかしてももしかしなくても、幼馴染だろう)

コンコンッ

男(いつもより威勢のいいノック……。なにかうれしいことでもあったのだろうか)

男「ん、入って」

幼馴染「ただいま!」

男「おかえり……。すごくうれしいそうだね。なにか良いことでもあった?」


幼馴染「それはね……。秘密だよ」

男「なんだそりゃ。……母さんとの買い物は楽しかった?」

幼馴染「うん、とっても……」

男「それなら良かった。母さんが何かしでかしたんじゃないかと、すこし不安だったよ」

幼馴染「そんなことないよ……。おばさんはとても優しいよ」

男「そうかなぁ……? そうだ、祭りに行くのは何時ぐらいにしよっか」

幼馴染「……私、前もいったよね? 男君に全部任せるって」


男「そうだったね。……じゃあ、花火の時間に合わせて6時ぐらいに家を出よう」

幼馴染「了解っ。……ちょっと、疲れちゃったから昼寝してくるね」

男「幼馴染が疲れるなんて、相当母さんと歩きまわったんだな?」

幼馴染「……そんなところ。じゃあ、また後でね」

男「うん」

幼馴染「あっ……。あと、時間ギリギリまで下には降りて来ないで」

男「? 別にいいけれど……」

幼馴染「……ありがとう」







男「……あれ、幼馴染は?」

男母「もう外にいるよ」

男「分かった。……それじゃあ、行ってくる」

男母「……ええ。いってらっしゃい」


男母「……男」

男「……?」

男母「幼馴染ちゃんの姿、しっかりと目に焼き付けるのよ」

男「……もちろん」


男「……そういうことか」


男(さっき、幼馴染が僕に言ったことの意味が分かった)


幼馴染「あ、男……」


男(浴衣を身に纏った幼馴染の姿を見て、この準備の為に僕にあんなことを言ったのか)

男(そしてあれだけ喜んでたのは多分、着物が着れるって事でだろう)


幼馴染「えへへ……。ど、どうかな……?」

男「すごく、似合ってて……。き、綺麗、だよ」

幼馴染「~~!」


男(幼馴染のその姿に思わず、僕も緊張してしまう)

男(こんなに綺麗な彼女とお祭りに行けるなんて、僕はなんて幸せなんだろう)


男「じゃ、じゃあ、行こうか」

幼馴染「……」サッ


男「……?」

幼馴染「手、繋いでほしい……」

男「――」

男「わ、わかった……!」ギュッ

幼馴染「……」ニコ


男(小学生の時ぶりに握った彼女の手は、思ったよりも暖かくなく、僕の手の熱が伝わらないか不安になるほどだ)

男(……大事に、しなきゃ)








幼馴染「わたがし食べて、りんご飴食べて……それからチョコバナナも……」

男「食べてばっかりじゃないか。そんなにお腹壊すよ」

幼馴染「大丈夫だよ。甘いモノは別腹だもんね」

男「本当かな……」

幼馴染「あ、屋台が見え始めたよ!」

男「だね。よし、じゃあ早速何から食べに行こうか」

幼馴染「うーん。友君の焼きそばを食べに行こう!」

男「そういえば、友が屋台やってるのか。ちょっと忘れてたよ」

幼馴染「男君が言い出したんでしょ。そうと決まったら早く行こう?」

男「……ああ」


友「らっしゃいませー……。って男!? ちょ、お前彼女できたなんて聞いてねーぞ!」

友「さらにこんな可愛い子を……!」

幼馴染「友君、久しぶり」

友「ん、んん? ま、まさか……!」

男「幼馴染。少しだけこっちに帰ってきてるんだ」

友「おお!! 幼馴染ちゃんか! こんなに可愛くなって……!」

幼馴染「ありがとう。そんなに褒めてもなにも出ないよ?」


友「ちぇっ……。それで、二人の注文は?」

男「とりあえず、焼きそば一つって所で」

友「了解……。ほれっ」

幼馴染「わっ、暖かい」

男「じゃあ、500円……」

友「いや、お代はいらねぇよ。俺からの幼馴染ちゃんの帰省祝いってやつだ」

男「友……。久しぶりに君を見なおしたよ」

幼馴染「友君、ありがとう! おいしくいただくね!」

友「おう! 俺の分まで楽しんできてくれよ」

男「……任せて」







男(その後も俺と幼馴染は……)


男「違う、もうちょっと右!」

幼馴染「えっ、わ、わぁー!」

男「全然違う所撃ってる!」


男(射的でぬいぐるみを狙ったり……)


幼馴染「……またポイ破けちゃったよ」

男「大きなのを狙い過ぎ。……ほら」

幼馴染「す、すごい……! 男君流石だよ!」

男「そ、それほどでも」


男(金魚すくいに挑戦したり……)


幼馴染「こんなにわたがし食べられないよぉ……」

男「りんご飴二個も食べらからね。……ん、甘い」

幼馴染「あっ、こら。私のわたがし……!」

男「一口ぐらいならいいだろう?」

幼馴染「むぅ……。特別だよ?」


男(……色んな物を食べた)


男「……そろそろ花火の時間かな」

幼馴染「なら、早く見る場所決めなきゃね……。あそことかはどう?」

男「幼馴染が言うなら、そこがいいと思う」







男(僕達は、幼馴染の指した場所にゆっくりと腰を下ろし、空を見上げる)

幼馴染「……あの時以来、だね」

男「……うん」



男(あの時以来に、見る幼馴染との花火)


男(僕達は、打ち上がる一つ一つをなにも言わずにただ、見続けた)


男(触れ合った手と手を、互いに重ねあいながら……)






男(……楽しかった、いや、違う。僕の満たしている気持ちは一言なんかじゃとても表せられない)

男(この幸せな気持ちは……きっと)


コンコン


男「……いいよ」

幼馴染「……」


男「浴衣脱ぐの大変だった?」

幼馴染「ううん。おばさんが手伝ってくれたから全然大変じゃなかったよ」

男「それじゃあ良かったよ。……下駄だったからそれなりに疲れたでしょ」

幼馴染「そうだねぇ……。でも、男君がしっかり気遣ってくれたから大丈夫」

男「……そんな大層なもんじゃないよ。あれぐらいは当然だ」

幼馴染「それでも、嬉しかったよ」

男「……」



幼馴染「ねぇ、男君」

男「なに?」

幼馴染「今日、一緒に寝よ?」

男「……なにいってるんだ幼馴染。それはちょっと――」

幼馴染「おねがい」

男「……」







男「……」

男(結局、幼馴染の押しに負けて一緒に寝ることになった)

男(も、もちろん、幼馴染とは背を向け合ってだけど……)

幼馴染「……男君、まだ起きてる?」

男「う、うん……」

幼馴染「よかった……」

男「……」


幼馴染「今日のお祭りを含めた3日間、男君のおかげですごく楽しかった」

幼馴染「最初に見た時は、男君も成長したなーって思ったけど、やっぱり中身は昔のまんまのかっこよくて、とても優しい男君だった」

幼馴染「……私、男君に会えて本当によかった」

幼馴染「ありがとう……」

男「……」

男「……幼馴染」

幼馴染「……なぁに?」

男「僕も、幼馴染に久しぶりに会えてよかった」


男「幼馴染も外見こそは成長して、綺麗になった……けれど、中身はやっぱり変わってなくて」

男「あの頃の、無邪気な君と一緒だ」

幼馴染「……」


男「……幼馴染、こっち向いてくれないかな」

幼馴染「……なんで?」

男「いいから」

幼馴染「……わかった」


男(少ししか無い間で幼馴染と向き合う。今までにないぐらい近い距離で)



男「――好きだ。幼馴染」


幼馴染「……!」

男「出会ったあの頃からずっと僕は、幼馴染に惚れていたんだ」

男「突然、ここからいなくなってしまった後も、ずっと幼馴染の事を考えていた」

男「いつ帰ってくるんだろうとか、いまはなにしてるのかなとか……。いろいろ」

男「……幼馴染のことが好きで、それ以外なにも考えられなかったんだよ。僕は」

幼馴染「男、君……」


幼馴染「……私も、男君のこと、好き」

幼馴染「好きで、好きで……大好きで……! 私も、男君の事以外考えられなかった……!」

幼馴染「私も男君がなにしてるかって考えてたし、男君がその……他の女の子と仲良くなってないか不安だった……」

幼馴染「だから、会いに行くのは少し怖かったな……」

男「……安心して。僕は幼馴染以外は考えられないから」

幼馴染「……うん」


幼馴染「……男君がいたから、今の私がいる……ここまで頑張ってこれた」

幼馴染「本当に、大好きだよ……男君」

男「……幼馴染」

幼馴染「……男君は楽しかった?」

男「……うん。すごく楽しかったよ。幼馴染といれて」

幼馴染「……私も、同じ」

幼馴染「すごく楽しくて……とても、幸せだった」


幼馴染「忘れないよ……。男君と過ごした日々」


幼馴染「だから、男君も忘れないでね。私と一緒に過ごした日々を」

男「……絶対に、忘れないよ」


男(……そして僕達は、ゆっくりと顔を近づけ――)


男(キスを、した)

ここまでなのだ





幼馴染「ありがとう、男君」

幼馴染「幸せな、夏の思い出をくれて」

男「……」

幼馴染「……」



幼馴染「……もう、いかなくちゃ」

幼馴染「これ以上、心配かけられないもんね」

幼馴染「……男君、私――」


幼馴染「――さいごに、あなたに会えてよかった」






男(……目が覚めると、昨日の夜一緒に寝ていたはずの幼馴染がいない)

男(おおよそ先に起きて、荷造りでもしているんだろう。……それに)



幼馴染『本当に、大好きだよ……男君』



男(――。駄目だ、昨日のことを思い出した顔が熱くなる……)

男(むしろ、隣に幼馴染がいなくてよかったかも。今の僕の顔はとても見せられるような物じゃない)

男(……これから幼馴染を見送らないといけないし。いつまでもこうしていられないな)

男(……よしっ。いこう)


男「……帰った?」

男母「そう、帰ったよ。今朝の電車でね」

男「そんな! だって幼馴染、昨日こんなに早く帰るなんて一言も……!」

男母「……気が変わったんじゃないの」

男「……っ」


男(幼馴染はまた、突然いなくなってしまった)

男(五年前と同じ様に、別れの言葉を交わさずに)


男(……けれど、今回は五年前と違う気がしている)

男(あの夜、僕達が交わしあった恋の話はきっと、僕達をまた巡りあわせてくれる)

男(だから僕は忘れないでいようと思う。幼馴染と過ごしたこの3日間の出来事を)


男(……君と過ごした、誰にも汚すことはできない、綺麗な夏の思い出を)




男(――そして数日後。その報せは突然届いた)


男母「……それでは」ガチャ


男「どうしたの母さん。そんなに暗い顔して」

男母「……」

男「え、ちょっと……。一体、何が」

男母「幼馴染ちゃんが……」

男「お、幼馴染がどうしたの」



男母「――亡くなった」


男「……え」


男母「五年前からずっと病気だったのよ……」

男「うそだろ? だってこの前来た時だってあんなに元気そうに―ー」


男(――思い返してみれば、幼馴染の体は弱々しく、軽かった。それに何回か、体調を崩していた)

男母

男母「……そういうことよ。あの時期になんで幼馴染ちゃんが来たかも考えれば――」

男「そんなはずない! 幼馴染が死ぬことなんて……!」

男「幼馴染が……しぬなんて……!!」




男(僕は、その場で泣き崩れ、しばらく動く事ができなかった)

男(信じたくないのに、それを確信させる要素が浮かんできて、僕は分かってしまう)

男(……幼馴染が最期に僕に会いに来ていたのだと)

男(最期に、僕の所に来てくれたと思うと……幼馴染が僕のことをどう思ってるのかも分かってしまって)


男(余計に、涙が出た)








男(……幼馴染の葬式が終わって、自分の家に帰ってきた)

男(数日前には、そこにいた幼馴染。なのに、今はもう手の届かない所にいってしまった)


男「……幼馴染」


男(その時、ある物が目に入った。……小さい頃、幼馴染と一緒に撮った写真)

男(……幼馴染、これに過敏に反応してたな……)

男(……? なんだろう。写真立ての裏に紙みたいな感触が……)

男(手紙……?)


男(丁寧に折りたたまれた紙を広げてみると、そこには黒くか細い文字が並んでいた)

男(……間違いない。これは幼馴染の字だ)

男(僕の名前から始まるその手紙を、読み始めた)


幼馴染『男君へ。こんにちは、幼馴染です』

幼馴染『よくこの手紙を見つけてくれました! ちょっと分かりにくかったかもって心配です』

幼馴染『冗談はここまで。男君がこの手紙を読む頃にはもう私は死んでいるかもしれません』

幼馴染『だから、これまで言えなかった事を全部ここに書き記したいと思います』

幼馴染『まず五年前、突然いなくなってごめんなさい。大変な病気だって事が分かって、治すには神奈川の病院に行く必要がありました』

幼馴染『その事を男君に話したら、心配かけちゃうと思って何も言わずに引っ越しました。その時はまだ治って帰ってこれると思ってたから』

幼馴染『今になって、その事をずっと後悔してます。もし、あの時引っ越す理由を言っていれば、もっと男君といれるかもしれなかった』

幼馴染『次に、卵焼き! 去年の夏に余命が1年ぐらいだって分かってから、私はそれまでの長い入院生活をやめて家に帰ることにしました』

幼馴染『けど、病気の影響と入院してたから体が上手く動かなかくて、だから体が普通の人と同じように動かせるまで、すごくリハビリを頑張りました!』

幼馴染『それでようやく7月にお家に帰れる様になりました。それからは男君に会った時のことを考えて、色んな事をしました』

幼馴染『その中で一番頑張ったのが、男君の大好物の玉子焼きを作ることです。お母さんに教えてもらって、何度も何度も失敗して、その度また挑戦して……』

幼馴染『で、結果があの卵焼き! 男君にあんなに美味しいって言ってもらえてすごく嬉しかったです!』

幼馴染『最後に、男君。私にとって一番の幸せは、男君が幸せであることです』

幼馴染『死んでしまった私の事なんて放っておいて、また新しい幸せを掴んでください』

幼馴染『では、これが本当に最後の言葉。』

幼馴染『忘れないでね、私と過ごしたこの夏の思い出』

幼馴染『本当に、大好きです』


幼馴染『幼馴染より』


男「……っ。卑怯だよ幼馴染……!」ウルウル


男「こんなもの残していって、僕が君の事を放っておけるわけないじゃないか……!」

男「絶対に忘れない……! 君との思い出は……僕の宝物だ……!」

男「君と過ごした夏は、ぜったいに……!!」



男「くっ、うっ……うぅ…………」








男「やぁ、幼馴染。久しぶり」

男「今回は嬉しい報告がある。……実は、あの病院に勤めることが決まったんだ」

男「遂に、夢に一歩近づいたような気がするよ」

男「……今年の夏も、暑いね。森なんかに行ったら熱中症で倒れてしまいそうだ」

男「あの時以上にクーラーの聞いた部屋に篭ってたからね。正直、今も結構きついよ」

男「どれ、水をかけてあげる……。これで大分涼しくなっただろう?」


男「さて、と。今日そろそろ帰るよ……。まぁ、こっちに住むことも決まったし、これからは夏以外にも来ることができるよ」

男「だから、またその時は待っていてほしいな」

男「……」

男「じゃあ、またね。幼馴染」



男(あれから数年……。毎年、夏になったら幼馴染の眠るこの場所に来る)

男(夏になれば必ず、君の事を思い出してしまって、会わずにはいられない)

男(……もう、幼馴染とは会えない。しかし、過去を捨てることなどできやしない)


男(幼馴染。君と過ごしたあの夏は、誰にも汚すことのできないあの綺麗な夏は……僕の宝物だ)


男(この宝物を、絶対に手放したりしない。そう君と約束したから)


男(君と過ごした日々を、僕は忘れない)

以上。ありがとうございました。

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