男「カゲロウ」 (62)

教授「……では、本日はここまで。水曜日までに瑕疵担保責任の要件や判例などをまとめて提出してください」

男「やっと終わった」

友「民法はやたらと時間が長いよな。レポートもあるし取らなきゃよかったかな」

男「全く。あ、俺バイトあるから。また明日」

友「おう」

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病院・カフェ

男「お疲れ様です」

店長「お疲れ。ああ、今日の日替わりサンドはハムと卵ね」

男「はい」

店長「ていうか今日暇すぎ。話し相手になれ」

男「それで給料がいただけるなら喜んで」

店長「かわいくないなー。こんな美人が言ってんのに」

男「そうですね。何話します?」

店長「スルーっておい。えっと……その、学業はうまく行っておるのかね?」

男「ぼちぼちです。……話題もっとあったでしょう」

店長「パッと思いつかなかったんだよ」

女「あのー……」

男「あ、い、いらっしゃいませ……」

店長「私裏いるから」

男「ご注文は何にされますか」

女「抹茶ラテのSで」

男「はい。少々お待ち下さい」

男「お待たせしました」

女「ありがとうございます」

男「いえ……あ、280円です」

女「はい」

男「ありがとうございました」

女「ありがとうございます」




男「はぁ……」

店長「かわいい子ね」

男「うおっ、びっくりするじゃないですか」

店長「何何、好みなのー?」

男「勘弁してください……」

店長「あの子、病気かね?見ない子だけど」

男「さぁ……」

店長「……通ってくれたら仲良くなれるかもね?」ニヤニヤ

男「そんな邪な」

男「ただいまーって、誰もいないけど」

男「(うーん大学も奨学金で通ってる身だし、新しいバイト始めたほうがいいかなー。明日タウンワークでももらってこよう)」

男「(……でもバイトばかりで勉強ダメだと奨学金ががががが…はぁ、今日はレポート終わらせたら早めに寝よう)」





テレビ『続発するポケモンGOによるトラブル……』

男「……」カキカキ

テレビ『明日の天気は……』

男「……」ペラッペラッ

テレビ『今日のプロ野球、首位を独走する……』

男「終わった!」

病院・カフェ

男「いらっしゃいませー」

女「キャラメルラテのSをお願いします」

男「はい」

女「……」

男「(美人な子だなぁ……)」




男「キャラメルラテでございます」

女「ありがとうございます」

男「はい。ありがとうございましたー」

店長「おっ、今日も来てたね」ニヤニヤ

男「おわっ!見てたんですか」

店長「いつもクールぶってる君がソワソワしてるの面白いね」

男「別にぶってません!」

店長「今日はマスクしてるし、入院着ね。患者さんだったのね」

男「どこが悪いんだろう……」

店長「……その制服で手出すなよ?やるなら外でな?」

男「人聞きの悪い……」




男「バイト上がり~」

店長「お疲れ」

男「はーいお疲れ様ですー」

病院前・本屋

男「新刊は……無いか」

女「……」

男「(あ、あの子だ)」

女「?」

男「(っと、ストーカーかなんかと思われたらまずい)」ソソクサ




男「そろそろ帰ろう」

女「……」ペラッペラッ

男「(読書好きなのかな)」

大学・研究室

男「これでもない、あれでもない」

先輩「よう、新しいバイトでもやんのか?」

男「お疲れ様です。はい。奨学金の身なもんで。なかなか条件合うのが無いですけど」

先輩「居酒屋とかどうだ?」

男「あー…夜は寝たい派なんですよね」

先輩「そうか。じゃあウチの家庭教師とかやってみるか?結構自由に組めたりするし」

男「いいんですか?」

先輩「今日連絡してみな。口利くから」

男「ありがとうございます!」

病院・カフェ

男「今度家庭教師のバイト始めることになりました」

店長「なっ、裏切り者!」

男「ここやめるわけじゃありませんよ」

店長「なんだ、そっか。まあ、お金稼ぐのはいいけど、身体は大事にな 」

男「店長が優しい」

店長「いつもだよ」

男「そうですかね」

女「あのー…」

男「あ、いらっしゃいませ」

女「ココアラテを…」

男「はい、かしこまりました。サイズは……」

店長「ん、16時か。休憩入っていいよ」

男「はい、お疲れ様です」




病院・ルーフバルコニー

男「休憩もらってもここでくつろぐしかないもんなー」

女「……」

男「あっ」

女「あら?カフェの店員さん……?」

男「は、はいそうです」

女「休憩ですか」

男「ええ」

女「ここ、景色がいいですもんね」

男「そうですね」

女「……」

男「……」

男「(何か話題、話題を!あっ、そうだ!本屋!)」

男「えっと……」

女「なぜ入院しているか?ですか」

男「えっ」

女「気にしないでください。昔からちょっと身体が弱くて、ただの風邪なのに親に大事を取って、って無理に入院させられたんです」

男「そうでしたか」

女「大学生、ですよね?敬語じゃなくていいですよ?」

男「いや、店員なので」

女「今は休憩中、ですよね?」

男「ああ、そうでしたね」

女「ふふっ」

男「(あ、かわいい)」

女「昔から入院してばっかりでもう、うんざり」

男「はぁ……」

女「最近カフェが病院にできて嬉しいんですよ。病院って暇だし」

男「そうですね、本屋さんも前の通り横断しないといけないし」

女「本当に……あら、ごめんなさい。同じくらいの年代の人少なくて、つい話しすぎちゃいましたね」

男「いえ、僕でよければ話くらい聞きますよ」

女「あら、真に受けちゃいますよ。そのお言葉」

男「ど、どうぞ」

女「ふふ。また行きますね」

男「ありがとうございます。あ、僕そろそろ戻りますね」

女「はい。また」

男「はい」




店長「顔にやけてない?」

男「そ、そうですか?」

店長「怪しい」



・・・・・・・・



店長「吐けっ!吐けっ!」ギュウウウウウウ

男「ギブギブギブギブ」パチパチパチパチ

店長「ほーほー」ニヤニヤ

男「嫌な店長だ……」

店長「君もなかなかやるなー」

男「別にちょこっと話しただけですって」

店長「そんな些細なことから恋に発展するもんよ」

男「はいはい、この話おしまい!」

店長「はい、カプチーノTサイズ、2つですね」

男「切り替え早っ」

病院・ルーフバルコニー

男「あ」

女「あら、また会いましたね」

男「お身体、大丈夫ですか?」

女「ええ。本当に大したことないので」

男「よかった」

女「ただのお客ひとりに、優しいんですね」

男「あ、えっと……」

女「あは、ちょっと意地悪でしたか」

男「いえ、気にしないで下さい。病院から出歩けないなら、暇ですもんね」

女「そうなんです。暇を潰したくて向かいの本屋さんに通ったりして……」

男「そうだったんですか。どんな本を?」

女「……引きませんか?」

男「?はい」

女「……かん」

男「え?」

女「図鑑です!図鑑!」

男「図鑑?何のですか?」

女「なんでもです。図鑑を見てると自分の知らないものを知ることが出来るから……病院の外とか」

男「なんか、いいですね。そういうの」

女「引かないんですか!」

男「は、はい。引きませんよ」

女「よかった…打ち明けて。貴方なら受け入れてくれる気がしたんです」

男「はぁ…何でですか?」

女「ラテを手渡してくれる時の優しさ?」

男「な、なんか照れますね。そういうの」

携帯電話「こーの声が聞こえーるかーい」

男「あっ、もしもし……はい…………はい……そうですか。わかりました」

男「はぁ……」

女「どうしました?」

男「ああ、家庭教師のバイト始めようと思っているんですが、今は条件に合う子がいなかったみたいで」

女「そうでしたか。勉強、出来るんですね」

男「はは、大したことないですよ」

女「でも、そんなに働いて大丈夫ですか?」

男「奨学金、借りてるんですよ。だから勉強もバイトも頑張らないと」

女「すごいですね!」

男「いえ、そんな」

女「身体の弱い私には、出来ないことです。褒め言葉は素直に受け取った方が良いですよ?」

男「そうです、ね。ありがとうございます」

大学

教授「ここで重要になってくるのが登記をどちらが先に……」

男「……」

友「……」




友「講義中窓の外ばっかり見てどうしたんだ。なんか悩み事か?」

男「いや、大したことじゃないんだ」

友「ふーん」

男「……」

友「……」




友「ひとりでカッコつけんな!言えっ!言えっ!」ギュウウウウウウ

男「言うっ!言うからっ!」パチパチパチパチ

友「はぁ、気になる客ねぇ」

男「そ、そう」ゼーハーゼーハー

友「ふーん。好きになっちゃったと」

男「そういうわけじゃなくて、なんかほっとけないというか、なんというか……」

友「お前オカン属性あったんだ」

男「そうなんかねぇ」

友「いいんじゃあねーの?応援してやるよ」

男「ありがとーよ……」

病院前・大通り

男「今日もバイトですよ~っと」

女「……」

男「あ、あの子だ。すごい本抱えてる……」

女「きゃっ!」コケッ

男「!」ダッ




女「きゃっ!」ドサッ

男「大丈夫ですか!?」

女「ああ、店員さん……うああああああ!!」

男「よかった……無事で」

女「うう……」

男「無理して大荷物抱えたらダメですよ。荷物は僕が持つので、病院まで送ります」

女「ごめんなさいっ……ごめんなさいっ……」

男「無理は良くないですけど、気にしないでください」

病院・カフェ

男「店長~今日の発注、牛乳多めでお願いします」

店長「はいよー」

女「あのう…」

男「ああ、いらっしゃいませ」

女「さっきは本当にありがとうございました。お礼に何をしたらいいか……」

男「そんな、本当に気にしないでいいんですよ」

女「そういうわけには……」

男「じゃあ、コーヒーを一杯おごってください。……ここの店長、ケチなんで一杯もくれないんですよ」コソコソ

女「ふふっ……そうなんですか」

店長「聞こえてるぞー」

男「やばっ…じゃあ、今度お願いしますね」

女「はいっ」

病院・ルーフバルコニー

男「では、乾杯……」

女「乾杯……ふふ、コーヒーで乾杯ですか」

男「まぁ、いいんじゃないでしょうかこういうのも」

女「そうですね。今日はありがとうございます」

男「当たり前のことをしただけですよ、そんなに頭を下げないでください」

女「やっぱり優しいですね……あの、私たち、まだ名前を教えあっていませんでしたよね。よろしければお名前を」

男「ああ、そうですね。僕は男と言います。円谷大学の1年生です」

女「私は女です。石森高校の2年生です」

男「えっ?高校生、ですか」

女「はい。そんなに老けて見えますか?」

男「い、いや違うんです!何というか、大人っぽくて……」

女「ふふ、それよく言われます」

男「(大学生とかならとにかく、高校生ならこんなに関わりもっちゃまずい気がしてきた)」

男「あ、あー、今日は休憩が短いんで、僕もう戻りますね。コーヒーありがとうございました」

女「あっ…………もう…………」

病院・カフェ

店長「はぁー高校生だったのあの子。そりゃまずいわねぇー」

男「はい」

店長「あの子がだめでもいいさ。次の子を探すんだよ」

男「だから、何で狙ってた風に持っていくんですか」

店長「あら、違ったの」

男「ずーっと違うって言ってましたけどね」

店長「そうだったんだねぇー。あ、明日髪切り行こ」

男「聞いちゃいねぇ」

自宅

携帯電話「こーの声が聞こえーるかーい」

男「もしもし……はい、はい。そうですか。木曜日だと………18時に……はいお願いします」

男「よしっ!家庭教師の子が見つかった」

男「……急に教えられるか不安になってきた」

病院・カフェ

男「いらっしゃいま、せ……」

女「エスプレッソを」

男「はい。かしこまりました。270円でございます」

女「はい」チャリン

男「ありがとうございます。少々お待ち下さい」

女「……暑いですね」

男「そうですね」

女「最近なんでバルコニーに来ないんですか」

男「え、えーっと休憩入る程バイト入ってなくて……」

女「……そうですか」

男「はい……エスプレッソでごさいます」

女「ありがとうございます」

男「またお願いします」

店長「あれはダメだよ」

男「見てたんですか」

店長「あんなにあからさまに冷たくしたら傷ついちゃうに決まってるじゃん。私何かしたかなーってさ」

男「そうですよね……でも、これでいいんです」

店長「君も不器用だねぇ」

男「生まれつきです」

店長「はぁ……そう言うなら止めないけどさ。かわいそーな女の子」

男「……」

市内中央・家庭教師派遣会社・多目的室

「では、以上で講習会は終了です。えーっと、男さんは早速、明日から入っていますね。よろしくお願いします」

男「はい。わかりました」

市内高級住宅街

男「地図だとこの辺か……にしても豪華な家が立ち並んでるなぁ、肩身が狭いよ」




男「ここ、かな。緊張する」ピーンポーン

ガチャ

男「!?」

女「あら『先生』。私、今日からお世話になります、『女』です」

男「え、え?なぜ君が?」

女「それはもちろん、学力向上を目指して……」

男「それはそうだろうけど……病気は?」

女「ふふ、先生。玄関で立ち話も何ですから、中に入りましょう?」

男「は、はい。お邪魔します……」

女の部屋

女「『先生』。まずは何のお話をしましょうか?」

男「じ、じゃあ、身体は大丈夫でしたか」

女「前にも言った通り、大事をとっての入院でしたから。何ともありませんよ。でもその分勉強が少し遅れちゃって……」

男「じゃあ僕が君の家庭教師になったのは、偶然……?」

女「はい」

男「その割には、驚きが少なかったような……」

女「ふふ、なぜかあなたが私の先生になる気がしたんです」

男「女の勘的な」

女「はい」

男「こんな偶然ってあるんですねぇ……では、そろそろ始めましょうか」

女「はい♪」

男「では、このテキストの23ページから…………」




男「では、時間なので今日はここまでですね」

女「はい、ありがとうございます」

男「はい。それにしても、女さんはすごいですね。公式の証明をしたらするする応用問題まで解いていって……」

女「そんなことないです。たまたまです」

男「これだと僕もすぐにお払い箱かな」

女「……それは違うと思いますよ」

男「はは、そうだと嬉しいです」

女「本当ですか!?嬉しいですか!?」

男「あ……誤解を招くような言い方ですね」

女「いえ!私も嬉しいです!」

男「そ、そうですか。ありがとうございます」

男「では、そろそろお暇します」

女「はい。次回は明後日、ですね」

男「はい。よろしくお願いします」




男「こんな偶然ってあるんだなぁ……どうしよう」

男「ん?病院退院したからもう病院では会わないのか、そっかそっか」

病院・カフェ

女「アイスコーヒーをお願いします♪」

男「あれぇ?」




3時間後・病院前バス停

女「あら、また会いましたね」

男「ま、また?」



郊外大型商業施設・メンズファッションのエリア

女「お買い物ですか?」

男「なんだと……!?」

大学

女「あら、こんにちは」

男「ちょっと待って」

女「何ですか?」

男「最近会いすぎじゃないですか?」

女「偶然ですよ」

男「はは、偶然かぁ……そっかぁ……」

女「はい♪私たち、何か運命的なもので繋がっているのかもしれませんね?」

男「そうかもしれないですね、ここまで来ると」

女「あなたもそう思いますか?嬉しいです!」

男「うーん」

女の家

男「ここはルートを有理化して……」

女「なるほど……」


・・・・・


男「うん、解法も正解ですね。では今日はここまでということで」

女「男さん」

男「何ですか?」

女「年下相手に、ずっと敬語は疲れませんか?タメ語でも良いですよ。……ちょっと距離も感じちゃいますし」

男「あっ、ついクセで……できる範囲でやっていきます」

女「ありがとうございます。その方がフレンドリーで嬉しいかなって」ニコ

男「(すごい破壊力だ)」

病院・ルーフバルコニー

男「ふわぁ~……眠……今日は忙しかったなぁ」

女「あら、奇遇ですね」

男「今日は何用で……?」

女「違いますよ。ただの検査ですっ」

男「大丈夫ですか?」

女「はい。私、小さい頃から身体が弱いって言いましたよね?お医者様に長生きは出来ないかもしれないとまで言われたこともあるんです」

男「そんな……」

女「先生、『カゲロウ』って知っていますか」

男「カゲロウ?」

女「カゲロウ、という虫は大人になったらたった1日で死んじゃうんです。必死に幼虫時代を生き抜いたら、あとはすぐさよならなんです」

男「そんな虫がいるんですね」

女「はい…なんだかカゲロウは私と重なるように思えて……」

男「女さん……」

女「でも!私はカゲロウでも良いから太く!短く!生きようって思えるようになってきたんです!……あなたのお陰で」

男「えっ?」

女「昔の私は、毎日無気力に生きていました。どうせすぐ死んじゃうんだ私はーなんて思って」

女「でも、あなたに会って、お話をして、そして、命を助けてもらった時、私には、あなたしかいない、そう思えました」

男「……」

女「すー……はー……私、あなたのことが好きです」

男「!」

女「よかったらお付き合いしてください!」

男「ありがとう。その気持ち、とってもうれしいです」

女「そんな、今から振るみたいなことっ……言わないでくださいっ」

男「ごめん、でも僕たちは付き合うことは出来ないんだ」

女「どうして!?どうしてですか!!」

男「好きな人がいるから」

女「嘘」

男「いや、本当です。その人を裏切ることはできない」

女「そんな……」

男「……家庭教師は、他の先生を派遣してくれるよう申請するよ。僕たちはもう合わない方がいいのかもしれない」

女「うっ……うっ…ひっく…嫌…嫌ぁ……」

男「……さようなら」

女「うあああ………!!」

自宅

男「(……好きな人なんていないのにな。彼女を振るためだけの嘘なんてひどいやつだ、自分)」

男「(でもこれでいい。彼女はただ、偶然出会った僕に対して過度な期待をしているだけだ。少し頭が冷静になったら、いっときの気の迷いだったと気づくだろう)」

男「はぁ……」

病院・カフェ

店長「なんか元気ないね」

男「気のせいですよ」

店長「ふーん……そういえば最近来ないね」

男「……退院したからじゃないですか」

店長「あれ?私、女ちゃんだとは言ってないよ」

男「しまった」

店長「何かあったの」

男「はい、実は……」




店長「ふーんそんなことがねぇ」

男「はい、そういうわけなので」

店長「まあ、若いうちは色々経験しといて損はないぞよ。かくいう私も…」

男「いらっしゃいませ~」

店長「なんてタイミングだよ」

大学

男「今日はサークルの飲み会か」

友「おう。あ、そういや伊藤のやつがバイト先の人と付き合いだしたって」

男「ホントか。羨ましいなー」

友「何言ってんだよ色男」

男「ん?」

友「知ってるぞ、前言ってたバイト先に来る子と付き合ってるって……」

男「ああ……それは」

友「こないだ会ってさ、ついに付き合えるようになったーって」

男「えっ?」

友「礼儀も正しいしさぁ……俺も欲しいなぁ彼女」

男「たしかに、女さんだったのか」

友「ん?おう。こないだお前一緒に帰ってる時会ったからな。覚えてたぜ」

男「(どういうことだ?)」

男「あ、母さん久しぶり。何?」

母『彼女できたらしいわね』

男「え」

母『しらばっくれたって無駄よ!聞いたんだから!おめでとう』

男「ちょ、ちょっと待って。それ誰から聞いたの」

母『うちの近くに偶然来たからって、彼女さん本人からよ。美人さんな上に、わざわざ挨拶に来るなんて、出来た娘さんねぇ』

男「そ、そっか……でもその子は」

母『大切にしなさいよ~』




男「どうなってるんだ……女さん、一体何を」

自宅

男「手紙?珍しいな…………!?これ、宛先住所が書かれてないぞ。直接投函されたってことか……」

男「なんだこれ……」

『好きです。愛しています。この世の誰よりも。』

男「まさか、女さん……」

男「もう一回、きちんと話をしてみようか……」

ブーン ブーン

男「電話?」スッ

女『もしもし?』

男「お、女さん!なんでこの番号を……」

女『私と、話をしたいんですか?』

男「な、なんで……」

女『なんでもわかりますよ♪あなたのことなら、ね』

男「なんでこんなことをするんですか!?」

女『こんなこと、とは?』

男「とぼけないでください。変な噂を流したり、変な手紙を……」

女『変?私のこの想いは変だと言いたいのですか』

男「だってそうてしょう!僕はあなたと付き合うことは出来ません!理由は…」

ガチャリ…

男「!?」

女「好きな人が、いる。でしたか」

男「ど、どうして……」

女「好きな人なんて嘘ですよね」

男「嘘じゃありません!」

女「ふふっ……ふ」

女「好きな人って誰、ですか……?教えてみてくださいよ?」

男「あなたに言う義務はありません」

女「今日は随分冷たいんですね?別人みたいです。それともこれが本当のあなた?もっとあなたのことが知りたい……」

男「いや、やっぱり話は終わりです。もうお帰りになってください」

女「どうして…?」

男「いい加減にしてくだ……?」

女「ちゃんと、話をしてくださいよぉ……わたしっ……どうして、も……っあきらめきれなくて……ごめいわくだっ、てわかってたのに……」

男「女さん……」

女「あなたのせいです、よ。私が、こんなになってしまったのは……」

男「……あなたの気持ちは本当に嬉しいです、が僕はあなたを『そういう目』て見ることが出来ません」

女「っ……!」

男「今まで、妹が出来たような気持ちで親しくさせて頂いていましたが、もう本当にこれが最後になるでしょう。その方がお互いのためです」

女「……わかりました」

男「ありがとうございます……では」

女「はい……」ガチャリ






男「ふぅ……神経がすり減ったようだ。あれ?何で女さんこの家知ってたんだ」

男「あー…家庭教師の自己紹介欄に書いてたっけな」

病院・カフェ

男「はい、サンドイッチセットですね。ドリンクは……」





帰途・河川敷

男「最近、すっかり暗いな……つるべ落としだね」

???「……」

男「……おっ、サワムラーだ。ラッキー」

???「っ!」

男「!?ちょ、なんですか!?誰か!誰かーっ!」

???「うるさい。黙って乗れ!」チャキ

男「!……わ、わかりました」

???「ふん……よし、出せ」

男「(何だこれどうなってんだ……)」

男「あの」

???「何だ。静かにしてろ」カチャカチャ

男「は、はい」

男「(手錠に目隠しまで準備してるとは……交渉の余地すら無さそうだ……)」

男「(でも妙だな。身代金目当てならこんな大人の男より、子供を狙った方が断然楽だろう。だとすれば臓器……それにしたって誘拐は不効率だ。わからない……)」




???「着いたぞ。ゆっくり降りろ。余計なことはするなよ」

男「(海の匂いと音が下から……崖の上か何かのようだ)」

???「こっちだ。歩け」

男「(本当にわからなくなってきた)」

???「ここで座って待て」

男「(わからない、わからない。本当に何だこれは)」




「随分惨めな姿になられましたね?」

男「誰、ですか?」

女「ふふ、わかりませんか……私です。女です」

男「女さん、あの話はもう終わり…っ」

女「状況がよくおわかりになられていないようですね?あなたは最後のチャンスをふいにしたんですよ」

男「何を言っているんですか。あなたはこんなことをするような人じゃないはずだ!まだ引き返せます。警察にも言わないで起きますから…痛!」

女「だから、状況がよく、おわかりになられていませんね?と言っているじゃありませんか」

女「あなたは最後まで、私の好意を『吊橋効果のような一時の気の迷い』か何かだと真剣に見てくれませんでしたね」

女「私は!こんなに!思っていた!のに!」

男「っつ……」

女「ふふっ…顔が赤くなっちゃいましたね……?どうですか?年下の女に殴られるお気持ちは?」

男「あまり、良くないですね」

女「ふふ、こんなものではありませんよ?私の味わった気持ちは」

男「……あなたの望みは何です」

女「決まってるじゃないですか。あなたを私のものにするんですよ。無理矢理にでもね」

男「……バイトや大学に僕が来ていない、家にもいないということを警察に知られたらあなたは終わりです。こんなやり方は無茶ですよ」

女「バイトのシフトは3日後でしょう?それまでにあなたを私のものにすればいい話ですよね。大学の講義なんて1日2日休んだ程度じゃ何もおかしいことじゃありませんよね?」

男「(全部バレてら……)」

女「絶対に私のものにしますから、そのつもりでよろしくお願いします」

男「……」

女「無視、ですか。いいでしょう。覚悟していてくださいね」

男「(彼女がこうなってしまったのは僕のせいだ。たしかに、真剣に向きあうことがまだ足りていなかったのかもしれない。何がきっかけは今となってはわからないが、僕が彼女を想いを無碍にしたせいで秘められた独占欲に火を付けてしまったのかもしれない。あぁ…そういえば聞いたことがある。カゲロウ、と言えばすぐ死んでしまう弱い虫。だが、カゲロウの幼虫は蟻地獄。僕は蟻地獄に捉えられた……蟻ってことか。ふふ、こんな状況なのに妙にしっくりくる。そういえば、今月の電気代の払込まだしてないっけ……怒られちゃうな。店長もバイト行かなかったら怒るだろうな。友にもノート貸す約束してたのに。妙に眠い…何か薬でも打たれたか……何も聞こえない……見えない……)」

おわり

ヤンデレが書きたかったのにこれじゃない感しかなくてすみませんでした。依頼出してきます。



過去のやつです

榛名「鼻毛提督」

榛名「鼻毛提督改」

初霜「提督が基地航空隊につきっきりです」

男「異世界来た」

男「ツイてない」

異星人「今からあの惑星『地球』を破壊します」

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