八幡「本物語」 (67)

◆年明け、1月後半くらいからのif。
◆ちょっとだけエロあり




八幡「はぁ? 一色が登校拒否?」

平塚「うむ。もう一週間ほど経つ。これ以上休めば生徒会業務に支障が出る」

八幡(葉山に振られたからか? ……いや、それだったら年明けからずっと休んでるはず)

八幡(……あぁ、そういや元からイジメられてたんだっけか)

八幡(葉山の庇護下にあると思って手出しできなかった連中が行動に出る可能性はあるな)

八幡「……教師も大変ですね。頑張って下さい」

平塚「おいおい、こんな時こそ奉仕部の出番じゃないか」ガシッ

八幡「イヤダ ハチマン イエ カエル。プリキュアノ ロクガ ミル」

平塚「なんだその気持ち悪いミスターポポは」

八幡「あのですね、もうそういうのは生徒の手に負える問題じゃないです。荷が重すぎですよ。スクールカウンセラー何してんすか」

平塚「いやいや、そうじゃない。一色のことは私が何とかする」

平塚「比企谷には溜まりに溜まった生徒会の仕事を手伝って欲しいという話だ」

八幡「はぁ」

平塚「雪ノ下、由比ヶ浜にはもう伝えてあるからさっさと行くがいい」

八幡「わかりました」(面倒くさい……逃げよう)

平塚「逃げたらお前はどうなるんだろうな?」ゴゴゴゴゴ

八幡「どうなるんスかね……」


【生徒会室】

八幡「うーす…」ガラガラ

結衣「…ヒッキー遅いし」

雪乃「あら、遅かったわね。雑務ヶ谷くん」

八幡「なんでお前らしかいないんだよ……」

【2時間後】

八幡「ふぅ」(仕事溜め込みすぎだろ)カタカタ ターン

八幡(めぐり先輩は推薦とはいえ忙しい時期だし、副会長と書記は入試会場の準備に駆り出されてあちこち走り回ってるらしい)

結衣「うー、何だか頭が働かなぃ…」ボー

八幡(由比ヶ浜は想像以上にバカだった。エクセル分からんとか事務職も無理じゃねーか。将来を心配して下さい親御さん)

雪乃「……」カタカタカタカタ

八幡(それに比べて、やる気満々だな雪ノ下。まぁ、一応生徒会長目指してたもんな)

雪乃「とは言っても、こんな急場のピンチヒッターなんかゴメンだわサボリヶ谷くん」

八幡(くっ、こいつ思考を読みやがる)

雪乃「こんなのは偽物よ」

八幡(偽物ねぇ)

雪乃「今日はこれくらいにしましょうか」

結衣「…え……ぇ? あ、あう……」

八幡「もう終わりだとさ。戻ってこいよ……なぁお前、顔真っ赤なんだが大丈夫なのか?」

結衣「うぅー……なんか頭とか体とかだるいかも…」

雪乃「あら、風邪かしら」

八幡(バカなのに?)

八幡「お前、朝は普通だったよな?」

結衣「うん…お弁当忘れたから昼休みにコンビニに行って、その後くらいからなんか熱っぽくて……///」

雪乃「風邪をうつされたのかもね。もっと早めに言ってくれればよかったのに」

結衣「…ごめん。なんかいろはちゃん大変だったみたいだから手伝わなきゃって…」

雪乃「あなたが無理して倒れたら元も子もないわ。平塚先生に家まで送らせるからここで少し待っていなさい」

ガラガラ ピシャ

八幡(平塚先生をタクシー扱いとかなにそれ怖い)

結衣「ふぇぇ…風邪移してたらごめんねヒッキー」

八幡「いや問題ない。移ってたらそれはそれで学校休めるし」

結衣「ヒッキーまじキモイ…」

【生徒会室前】

雪乃「鍵は私が返しておくわ」ガチャ

八幡「はいよ。おつかれさん」

雪乃「待ちなさい」

八幡「何ですか…」

雪乃「……あなたはどう思うの?」

八幡「ん? ああ、知恵熱じゃねえの?」

雪乃「違うわ。一色さんのことよ」

八幡「そっちはどうもこうも、本人にしか分からんだろそんなもん」

雪乃「彼女またイジメられてるんじゃないかしら?」

八幡「さあな」

雪乃「あなたのやり方で完璧に救えなかった、のであれば依頼は継続中とも言えるわ」

八幡「一色の件は平塚先生が対応中だ。子供が出しゃばってもしょうがないだろ」

雪乃「彼女、相談できるような家族や友人はいるのかしら?」

八幡(やめろ)

雪乃「また数十人がかりで嫌がらせされているなら、それを知った学校側はどんな対応を取るのでしょうね?」

八幡(やめてくれ)

雪乃「進学校でそんな大人数に処分を下せば誰かが責任を取ることになるわ」

雪乃「ありがちだけど『イジメなどなかった』と事実を隠すかもしれないわね」

八幡(そんな期待を押し付けないでくれ)

八幡(俺はヒーローなんかじゃないんだよ)

雪乃「……」

八幡「……」

雪乃「あなたって本当に卑屈なヘタレヶ谷くんのままね」

八幡「ほっとけ」

【比企谷家】

小町「ねーねーお兄ちゃん、ちと相談なんだけど」

八幡「おいおい、兄に人生相談だなんて不用意すぎるぞ。千葉的に」

小町「なにそれ。小町的にはポイント低いよ。妹には人生相談したくせに」

八幡「それもそうだったな。なんだよ?」

小町「お兄ちゃんは占いって信じる?」

八幡「信じるわけないだろ。あんなもん作家が勝手にでっち上げて書いてるだけだぞ。んでそれ見た思考停止民が自分に都合の良いとこだけ切り取って勝手にポジティブになってんだよ。身の程をわきまえろってんだ。勝手に期待なんかして見返りが無かったら『占いなんて当てになんねーな』って勝手に失望すんだぜ? 最初から何も無いにも関わらず」

小町「うわぁ……ネガティブトークだと饒舌になる兄とか引くわー」

八幡「これは親切心だぞ。期待というのは確固たる根拠がある時にだけしていい。働いた分の給料を計算するのと、宝くじ買って当たった気になってるのでは全然違うだろ? そういうレベルの話だ」

小町「なんだか夢が無いねお兄ちゃん」

八幡「自覚はある」

小町「じゃあさ、呪いって信じる? わら人形とか」

八幡「んー……それは結構信じてるかもな」

小町「へー意外」

八幡「例えばさ、ものっそい性格悪い奴がいるとするじゃん?」

小町「うんうん」(自分のことかな?)

八幡「当然周りの奴らはそいつのことすごい嫌いなわけじゃん」

八幡「みんなが『不幸になれ』とか『怪我しろ』とか『病気になれ』って心の中で思いながらそれぞれの生活送ってるわけよ」

八幡「で、その嫌いな奴と絡む時があればちょっと嫌がらせしてやろうって思う奴も出てくるじゃん」

八幡「そういう負のwillパワーみたいなのが偶然ピタゴラスイッチみたいに連鎖すると、結果的に呪いが叶ったように見える瞬間ってあると思うんだよな」

小町「……それ嫌われまくってる人限定の話じゃん」

八幡「ふぅ……誰からも好かれている奴なんていないぜ、小町」

小町「別にかっこよくないからねゴミいちゃん」

八幡「……で何の相談なんだよ」

小町「いやね、今クラスで流行ってるみたいなの」

八幡「占いがか?」

小町「呪いの方」

八幡(発端はティーンズ誌の特集でエンジェルさんが載っててその真似事の延長らしい)

八幡(当初の目的は恋占い程度だったが、年明けから内容が過激化しているとのこと)

八幡(方法はいくつかあるようで、ロウソクに呪いたい相手の名前を書いたり、粘土で人形を作って埋めたり、対象の写真と髪の毛を燃やしたり、etc etc…)

八幡(超胡散臭いし眉唾垂れてきそうな勢いだが、儀式自体は百均で道具一式揃うような内容ばかりで難易度が高いわけではない)

八幡(問題は二つある。一つはある程度被害者を出していること)

八幡(呪われた相手は急に体調不良を起こしたり、情緒不安定になったりするらしい)

八幡(広まっている儀式の種類に比べ被害者は少ないので呪いなのか偶然なのか微妙なところではあるが、呪いには成功率というものがあるらしい)

八幡(もう一つの問題は、こういった手法をJCに販売している奴がいるということ)

八幡(呪いの方法を知りたいなら五千円、呪いの代行は八万円)

八幡(本物の呪いだとすれば良心的価格といえる。が妙に生々しさを感じる価格設定だ。自身のリスクを把握している大人の思考が垣間見える)

八幡(……いや、俺は買わないよ? ホントだよ? 今年のお年玉で丁度それくらい貯金溜まったけどPC新調する予定だし)

八幡(そりゃあ葉山あたり爆死してくれねーかなってたまに思うけど、その程度の悪意は誰にだってあるはずだョ☆)



小町「でさ、なんだかみんな疑心暗鬼になっちゃってさ。私も入試控えたナイーブな時期にそういうのに巻き込まれたくないっていうか」

八幡「そんなオカルトありえません。過度な被害妄想とかプラシーボとか集団ヒステリーとか気のせいとか、まぁそんな感じだろ」

小町「うーん、そうだとは思うんだけど」

八幡「なんなら、その販売しているって奴を警察に突き出せばいいじゃん。詐欺罪だぜそれ。八万円コースなんて傷害事件を起こしますって言ってるようなもんじゃねーか」

小町「あ、そっか。そうだね! 私も利用したいってことで連絡方法ゲットして通報しちゃえばいいか」

八幡「ああそうだな。直接会いに行ったりすんなよ。どんなマジキチが出てくるか分からんからな」

小町「オッケーかしこまちー」

八幡 イラッ (でもかわいい)

【次の日の放課後、生徒会室】

八幡「ん? そういえば由比ヶ浜は休みなのか。やっぱ風邪だったのかね」

雪乃「なんであなたは同じクラスなのに放課後になるまで気付かないのかしら?」

八幡「そういえば今日は静かな一日だったな。誰に話しかけられることもなく、誰を気に留めるでもない平穏がそこにあった……」

雪乃「あなたが登校拒否になっても誰も気付かないでしょうね」

八幡「…? いや待て、おかしい」

雪乃「目つきが? 頭が?」

八幡「言っておくが、あんまりそういう弄り方続けると俺は泣くからな」

雪乃「あらごめんなさい」

八幡「…とにかく今日は戸塚と話していない。毎日話しかけてくれるマイエンジェルなのに」

平塚「戸塚も風邪で休みだったぞ」

八幡「あ、居たんですか先生」

平塚「ずっとここに居たわけだが、お前にそれを言われると何だか無性に腹が立つな」 ニィィ

八幡「笑顔と殺気って同時に出せるもんなんですね」

雪乃「一色さんはまだ登校できないのですか?」

八幡「……」

平塚「む…うーむ。なんと言えばいいのやら。プライバシーに関わる問題だからな」

雪乃「こうして仕事が回ってきている以上、ある程度聞く権利はありますよね?」ジ-

平塚「ふむ。……まぁなんだ。恐らく君たちが危惧しているであろうイジメ問題とはあまり関係がない、と思う…」

八幡(え。そうなの? じゃあなんだよ)

平塚「私は生活指導だからな。昨日アポ無しで無理矢理家庭訪問してみたんだが」

八幡(登校拒否ったらこの人連絡なしで乗り込んでくるのかよ……)

平塚「元気そのものだったぞ。……というよりも、あれは元気過ぎるというかなんと言うか」

雪乃「? 意味が分かりません」

平塚「あー、コホン、とにかく一色については気に病むような問題はない」

平塚「わ、私だって、その、なんだ、そういう時もあるから分かる? みたいな///」

雪乃「その全体的に自信なさそうな感じは何ですか?」

平塚「も、もうこの話はおしまいだ! 終わり終わり!! ほら、手が止まってるじゃないか!」

八幡(どうしちゃったの? この人)

雪乃「……」

【下校時】

雪乃「ねぇ」

八幡「断る」

雪乃「まだ何も言っていないのだけれども?」

八幡「言いたいことは分かる。一色の様子を見に行くつもりなんだろ? 冷徹にして冷血にして毒舌の雪ノ下にしちゃ気を利かせすぎだろ」

雪乃「枕言葉が気になるけど概ねその通りよ」

八幡「やめておけ。先生も言ってたろ。イジメは関係ない」

八幡「じゃあ後はあいつ個人の問題だ。生徒会の仕事で疲れきって葉山にも避けられて現実逃避したい時期なんだろ」

雪乃「何か引っかかるのよ。先生の言い方だと明らかな仮病なのに放置しているということじゃない」

八幡「……」

雪乃「今は問題になっていないかもしれないけど、このまま生徒会長が登校拒否を続ければ付け入る隙になるわ」

雪乃「イジメは再開するわよ」

八幡「……はぁ、分かったよ。ただし明日な。休みだしチラ見程度なら付き合うよ」

雪乃「…逃げたらどうなるか……わかる?」ゴゴゴゴゴ

八幡「なあ、その脅し方流行ってんの?」


【次の日】

八幡(雪ノ下と待ち合わせして一色の家まで来たよ!)

八幡(なんかビッチイメージと全然違う古風な家だな) ピンポーン

雪乃「……」

八幡「……」

雪乃「……出ないわね」

八幡「留守じゃね? 車庫に車ないし。ってか留守だろ。あーなんだ留守なら仕方ないなーじゃあ解散しようかー(棒)」

雪乃「待ちなさい。物音がするわ」

八幡「おいおい、他所ん家の玄関先で聞き耳立てるとか淑女にあるまじき行為だぞ?」

雪乃「ちょっと黙って…」

??「…ぁ……んっ………ぃ………」

八幡「なんか言ってるな」

雪乃「居留守とはいい度胸ね」ピポピポピホピホピポーン

八幡「おい…」

インターフォン『…はい、一色ですが』

雪乃「雪ノ下と申します。いろはさんはご在宅でしょうか?」

いろは『え……雪ノ下先輩ですか?』

雪乃「そうよ。見舞いに来たわ。早く開けなさい」

八幡(借金取りですか?)

いろは『……えーっと』

雪乃「誠に不本意ではあるけどあなたがサボっている間の生徒会業務を奉仕部で引き受けているの。顔くらい見せたらどうなのかしら?」

八幡「おい、言いすぎだ。マジで病気かもしれないだろ」

いろは『え? もしかして先輩もいるんですか?』

八幡「そーだよ。悪かったな。俺だって一生懸命生きてるんだよ」

いろは『ちょ、ちょっと待っててください!』

ドタッ バタバタ ガタン

雪乃「…………」


【15分後】

いろは「お待たせしました。どうぞ上がってください」

雪乃「別に上がるつもりはなかったのだけれども」

八幡(待たせすぎだろ…)


【いろはの部屋】

八幡(じょ、女子の部屋だぁああ)

八幡(何? 何なの? この甘い匂いは? エロフェロモンなの?) クンカクンカ

いろは雪乃「……」ジー

八幡「……ふむ。なんだ、女子らしい部屋だな」

雪乃「一色さん。この男に近づかない方がいいわ」

いろは「別に構いませんよ? いくらでも深呼吸してくださいね先輩///」

八幡「し、してないぞ?」

雪乃「……」イラッ

雪乃「随分元気そうだけれども、何? 仮病なの?」

いろは「……今は落ち着いているだけです」

雪乃「何が?」

いろは「発作というかなんといいますか。生理みたいなもんです」

八幡「!」ピコン

雪乃「……その感嘆符は何かしらエロヶ谷くん」

いろは「あれあれ? せんぱぁーい、生理という言葉だけで興奮しちゃう変態さんなのですか?」

八幡「違うからな。ガールズトークに慣れてないんだよ、察しろ。」

雪乃「……とにかく、イジメは無関係なのね?」

いろは「へ? なんすかそれ」

八幡「いきなり登校拒否してたら選挙戦の延長で考えてしまうだろ」

いろは「ああ、そういうことですか。全然関係ないですよ。生徒会長に歯向かう度胸は無いようですね」

雪乃「そう。ならもう用はないわ。さっさと体を治すことね」

いろは「え~、せっかく来たんだからもっとお話しましょうよ。ねえ先輩?」

八幡「…なんかいつになくビッチ臭いぞお前」

いろは「ひどぉ~い。先輩が思うより身持ち固いですから。私、処女ですよ?」

八幡「聞いていな聞いてない」

いろは「ああ、まだ疑っているんですね? ……先輩。確かめてみますか?」ニジリヨリ-

八幡「」

雪乃「……やめなさい、見苦しい。帰るわよエロヶ谷くん」

いろは「へぇ邪魔するんですか、雪ノ下先輩。構いませんよ? 三人でしても」

雪乃「………あなた、何を言っているのか分かっているの?」

八幡「お、おい離れろ一色」

いろは「もちろんわかってますよ」ノシカカリー

いろは「セックスの話です」ハァハァ

八幡(言った! セックスって言ったぞこいつ!)

いろは「はぁ………んっ、ずっと……ずっとオナニーしてたんですけど……んぁっ…はぁああ………もう我慢できません先輩…。本物が欲しいんです 」ギュー

雪乃「」

八幡「」

いろは「ふふ、何ぼーっと見てるんですか雪ノ下先輩? 一緒にこのエッチなおちんちんをイジメましょうょ」スリスリ

八幡「ちょ、おまっ」

いろは「おま? いいですよ。好きなだけ私のおまんこ触ってください先輩……///」グイッ

八幡(はぁあああ!? 触ってる! ぼく女の子のあそこ触ってる! ぬるぬる!)

八幡(いやいやいやいや、落ち着け八幡。こいつ急にどうしちゃったのよ!?)

いろは「……もしかして見ながら一人でするのが好きなんですか雪ノ下先輩?」

雪乃「ち、違うわよ!」

いろは「ベットの下に愛用のオモチャがあるから使っていいですよ…んっ///」

いろは「一昨日平塚先生の初めてを奪ったかわいい子ですから」

八幡(し、静ちゃん!!!) ブワッ

いろは「ほぉら……先輩。もっと……うぅぅ……もっと掻き回して…」ハァハァ

いろは「わたしわぁ…もう我慢なんか…ひぅん! ……し…しなくてもいいんです」

いろは「だから先輩ももう我慢な」

ズビシッ

いろは「」カクン

雪乃「……軽く気を失ってもらったわ」

八幡「」

雪乃「なに放心しているの? 帰るわよ」

八幡「」

雪乃「か え る わ よ」

八幡「ひ、ひゃい」


【帰り道】

八幡(あ、ありのまま起こったことを話すぜ)

八幡(いろはすがまじビッチだった)

八幡(……ん? 普通じゃないか?)

八幡(いやいや、少なくともあんなに自暴自棄な奴じゃないはずだ、多分)

八幡(というかゆきのん怖ぇ…チョップで失神とか達人かよ…ゾルディック家かよ…)

雪乃「ねぇエロヶ谷くん」

八幡「はい」ビクッ

雪乃「あ、…あれはどういうことかしら?///」

八幡「俺にもなにがなんだか……」

八幡(確か発作と言っていたな。あのビッチいろはすになるのが発作ということなのか?)

雪乃「とにかく、今日のことは忘れなさい。なにもかも」

八幡「……」

雪乃「去勢が必要なようね…」ゴゴゴゴゴ

八幡「忘れりゅ! 今日のことは一切合切忘れ申した!」

雪乃「そう。よかったわ」


【比企谷家】

八幡(ふぅ)

八幡(三回抜いちゃった…)

八幡(仕方ないじゃん。どう考えても俺の人生最大のイベントだろ)

八幡(手マンして今だ童貞、どうも比企谷八幡です)

八幡(……次からどんな顔して会えばいいんだよ一色。あと平塚先生も)

八幡(病気というのは異常性欲のことなのか?)

八幡(いや、あれはまるで人格が変わったような…)

八幡(まさかな)

オニーチャン! ドンドン ガチャ

八幡「何だよ」(危ねぇ パンツ履いててよかった)

小町「ねえねえ昨日の話だけどさ、連絡先教えて貰っちゃた。ほら」

八幡「名刺配ってんのかよ… 何だこりゃ? ゴーストバスター カイキドロフネ?」

小町「もの凄い胡散臭いよね。ちなみに書かれている住所は駅前のカラオケ店だったよ」

八幡「子供銀行券みたいな名刺だな」

小町「でさ、どうしよ?」

八幡「警察に行って説明すりゃいいじゃん」

小町「え~、それだと私が通報したってバレたりしない? ってか面倒だよ」

小町「この人が捕まって刑が確定するまで書類作るために何回も出頭して、一から説明させられたりするんだよきっと」

八幡「そういうもんなのか?」

小町「そうだよお兄ちゃん。私はそんなに暇じゃないの! 再来週には入試なんだよ!」プンスカ

八幡「じゃあ学校の先生にでもチクってやればいい。あとは大人が何とかするだろ」

小町「あ、それいいアイデアだね! そーするよ」

八幡「ああそーしろ」

八幡「……ところで小町」

小町「なになに?」

八幡「呪われた奴が情緒不安定になったりするって言ってたけど、具体的にどんな感じになるんだ?」

小町「うーん、なんていうか妙に攻撃的になったり鬱っぽくなったり色々あるらしいよ」

八幡「急にエロくなった奴とかいないのか?」

小町「ゴミいちゃん……中学生だよ? 通報するよ?」

八幡「まぁそう言うな。たかだか集団ヒステリーでどこまでの事が起きるのか興味あるんだよ」

小町「……そういう子もいるにはいるらしいけど」

八幡「ふーん」


【月曜日の放課後】

八幡(やっぱ週明けても一色は来なかったな…)

八幡(正直もう会いたくないという思いすらあるんだが)

八幡(戸塚も由比ヶ浜も週末を挟んでの休みとは随分と長引く風邪だな)

八幡(……)

ガラガラ

材木座「おお! 探したぞ! はちえもん!」

八幡「雪ノ下、部活動の陳情書をまとめたから補修費用は会計監査に回してくれ」

雪乃「分かったわエロヶ谷くん」

八幡「もうよしてくれよ。俺的にもトラウマなんだから」

雪乃「あら、何のことかしら? 完全に忘却することを命令したはずだけど」

八幡「ハイ、ソウデシタネ」

材木座「おーい! 無視しないで!!」

雪乃「チッ」

材木座「うわぁ、すごい舌打ち…」

八幡「見りゃ分かるだろ。お前の相手してる暇はない」

材木座「ちょ、ちょっと待たれい八幡! これはある種の校内暴力、傷害事件の話だぞ?」

雪乃「喧嘩なら職員室に行ってくれるかしら?」

材木座「そういう訳にもいかん。事は直接的な暴力ではなく呪術の類ぞ! 現代の法では裁ききれぬ」

雪乃「……はぁ。くだらない三文以下小説の設定を話し合うのは自宅の壁とやってくれないかしら」

材木座「それただの独り言だから!」

八幡「おい、材木座。その話聞かせろ」

材木座「…へ……お、おうよ! さすがは三千世界唯一無二の朋友であるとこ

八幡「早く話せ。誇張とかいらねーから要点をまとめて話せよ」

材木座「……えーと、あーつまりはだな、前に我にちょっかいをかけてきた遊戯部のガキどもが、今度は我に呪いをかけようとしていたのだ!」

八幡「で、呪われたのか? まぁ前々からある意味呪われているけどな」

材木座「まぁな! 我の血脈は忌まわしい呪いの歴史よ。……それは置いといて、珍しく遊戯部の奴らが『新しいボードゲーム作ったんで遊びませんか?』と誘ってきたのだ」

材木座「その後、まるでコックリさんを改変したようなゲームに始まり、果ては我の髪を編み込んだ藁人形を燃やしたり、写真をプロフィール付きで出会い系サイトに貼ったり、メアドをホモ掲示板に貼ったりの悪行三昧!」

材木座「さすがに我もこれはゲームではないと気付き問いただしたならば『あ、バレちゃいました? これ女子の間で流行ってる呪いの検証実験なんです』と来たもんだ!!」

材木座「もはや怒髪天を衝く状態の我は八幡に助けを求めにきた次第である」


八幡「……えっ? あゴメン。聞いてなかった」

材木座「何で聞いてないんだよおおおお!!」

八幡「分かった、分かったから抱きつくな。ジョークだよジョーク」

八幡「それで特に呪いの効果なんて無かったんだろ? 別にいいじゃねーか。楽しく遊んでたと思え」

材木座「くっ、なんと不甲斐ない… 見損なったぞ八幡! 我のレジストの前に呪術など無力ではあるが立派な攻撃ではないか!」

材木座「かくなる上は通販で取り寄せた世界一辛いソース『キルソース』を千葉銘菓ピーナツ最中に仕込んで届けてくれるわッ!」

八幡「お前の方が傷害事件起こしそうじゃねーか」

雪乃「盛り上がっているところ悪いのだけれども、そろそろ目障りなので消えてくれないかしら?」ニコッ

材木座「ひっ、と、とにかくだ八幡。手が空いたら我を手伝うのだぞ? 待っているからな!」

雪乃 バンッ!!!

材木座「ひぃい! ごめんなさいごめんなさい!」

ガラガラ ピシャン


雪乃「……お陰様で、無駄に神経擦り減らしたわ」

八幡「なぁ、女子の間で呪いが流行ってんのか?」

雪乃「進学校のトップである私にする話ではないわね」

八幡「そっか。どっちかといえばお前は呪われる側だもんな」

雪乃 ギギギギギ バキンッ

八幡「スミマセンデシタ。よく分からないけど怖い擬音鳴らさないでください」

ガラッ

平塚「やあ。頑張っているようだな」

八幡(あ、いろはすに処女奪われた平塚先生だ)

平塚「比企谷、お前はもう帰っていい」

平塚「今親御さんから連絡があってな、妹さんが倒れて病院に運ばれたらしい」

雪乃「!!」

八幡「は?」










八幡「はぁあああああああああ???」


一旦休憩&書き溜め。
続きは夜中に投下します。


【病院】

八幡「小町ぃいい!!!」

小町「……お兄ちゃん。大したこと無いから騒がないでよ恥ずかしいしキモいし」

八幡「だって、だって小町が倒れたら兄ちゃんこれからどうすればいいんだよ」ブワッ

小町「あーもーキモ面倒くさいから落ち着いて」

雪乃「足を滑らせて駅の階段から落ちたらしいけど、特に外傷はないのね?」

小町「はい。ちょっと腰打っただけです」

雪乃「私が誰だか分かる?」

小町「……別に頭は打ってないですよ、雪乃さん」

八幡「本当に何ともないんだな? どのみち診断書見るんだから正直に言うんだぞ?」

小町「うーん、強いて言えばちょっと足が痺れてる? みたいな?」

八幡「……本当に痺れているだけか?」

小町「…う、うん」

八幡「……本当に?」

小町「…わ、わりと動かない的な、みたいな?」

八幡「あ? ヤバいだろそれ! 見せてみろ」ガバッ

小町「ちょ、ちょっと! ズボン下ろさないでよ!!」

雪乃「比企谷くん、警察を呼……っ!」

八幡「……! なんだよこれ……」

小町(あちゃー見られちゃった…)


雪乃「これはまるで動物の噛み跡……」

八幡(しかも無数の噛み跡、のような痣が浮き出ている)

八幡「小町、お前犬にでも噛まれたのか?」

小町「えーと、んーと、なんかそんな感じかな? あははは…」

八幡「会ったのか? 貝木という奴に」

小町「……」

八幡「会ったんだな?」

小町 コクン

雪乃「?」

八幡(マジであるのかよ…呪い)


【病院の外】

雪乃「説明しなさい」

八幡「えーと、んーと、よく分かんない」テヘッ

雪乃「殴るわよ」

八幡「ひぃ……ほ、本当によく分かんないんだよ」

八幡「経緯を言うとだな……カクカクシカジカ」

――――
―――
――

雪乃「……」

八幡「事実をありのままに言っただけだからな。呪いの信憑性はともかくその貝木って奴が怪しいのは間違いない」

雪乃「ねぇ、それって一色さんの件とは関係ないのかしら?」

八幡「分からんが呪いにはバリエーションがあるからそういう可能性もある」

雪乃「念の為、由比ヶ浜さんや戸塚くんも確認するべきね」

八幡「戸塚は本当にただの風邪だ。真っ先に電話して確認している」キリッ

雪乃「……なら後は由比ヶ浜さんね。一応今から会いに行くけどあなたも来る?」

八幡「いや、俺は小町の着替えを取りに帰るから動けない」

八幡(それに由比ヶ浜が一色みたいになってたら後々尾を引く問題になりそうだし…)

八幡(……それはそれで見たい。超見たい。でもここは我慢する!)

雪乃「そうね。エロガッパくんが暴走したら由比ヶ浜さんの親御さんに殺されるかもしれないものね」

八幡(モノローグ読み取るお前のがよっぽどオカルトですよ?)

八幡「とにかく、今日は小町の側に居てやりたい。由比ヶ浜のことは明日報告してくれ」

雪乃「ええ、そうしましょう」

八幡「巻き込んだようで悪いが、お前こそ勝手に暴走するなよ」

雪乃「……分かっているわ」


【次の日 教室】

彩加「はちまーん、おはよ! 風邪治ったよ!」ニコニコ

八幡「…おぉ、今日は一段とかわいいな」

彩加「……え///」

八幡「いや、言葉のあやだ。おはよう戸塚」

八幡(戸塚はセーフ)

八幡(由比ヶ浜は……肝心の雪ノ下が学校に来ていない上に、連絡も取れない)

八幡(……まさかな)


あーし「なに、また結衣は休みなの? 長くない?」

隼人「今年の風邪は長引くようだから気を付けないとな」

八幡(……あいつらはセーフなんだよな。トップレベルにヘイト集めてそうなんだが。確率の問題か?)ジー

姫菜(比企谷君の熱い視線… これはハチハヤ!? 攻守交代??)ハァハァ

隼人「……」


【休み時間】

八幡(……気は進まないが平塚先生に相談するべきか?)ガタッ

隼人「ちょっといいかな、ヒキタニくん」

八幡「…んだよ」

隼人「いやなに、今日はやけに視線を感じると思ってね。何かあったのか?」

八幡「ねぇよ」(見過ぎてたか)

隼人「そうか」

八幡「あ、いや、待ってくれ」

隼人「なんだい?」

八幡「雪ノ下は今日欠席だそうだ。何か知らないか?」

隼人「…そういう連絡を取り合う仲じゃないしな」

八幡「ふーん。……昨日な、やけに思いつめた顔で『姉と話すことがある』と言ってたから、あれから何かあったのかと思ってな」

隼人「……それは初耳だ。悪いが本当に何も知らないよ」

八幡「そうか。ならいいんだ。別にそれほど気にしている訳じゃない」

隼人「……力になれなくてすまない」

八幡(……これで一応保険はかけたとしよう)



【同日正午 ○△駅コインロッカー】

貝木「……ここか」カチャ

ドンッ

貝木「あ?」

雪乃「振り向かないで。今押し当てているのは改造スタンガンよ。即死レベルの電流が流れるわ」

貝木「誰だ? お前」

雪乃「貝木デイシュウさん? でいいのよね。はじめまして。雪ノ下雪乃です」

貝木「知らん。人違いだぞお前。俺は阿良々木暦という名前のお人好しで面白味のない一般市民だ」

雪乃「そのコインロッカーに何の用かしら?」

貝木「あぁ、お前のロッカーだったのか? すまんすまん。俺のロッカーは隣だったよ。間違えたんだ」

雪乃「そう。じゃあ隣のロッカーを開けてみなさい」

貝木「……」

雪乃「無理よね。あなたが持っている鍵も含めて、この一帯のコインロッカーは全て私が借りたわ。これが残りの鍵よ」ジャラン

雪乃「そしてあなたに呪いの依頼をして、報酬の受け渡しで鍵を送ったのも私というわけ」

貝木「はぁ…次からは振込用の口座を用意するべきか。その手の口座は結構金がかかるんでな。惜しんでしまったよ」

貝木「で、お前は誰かに依頼でもされたのか? それとも正義のヒーローか?」

雪乃「依頼なんて誰にもされてないわ」

貝木「そうか。されておくべきだったな。その行動、十万は取れる」

雪乃「黙りなさい。一色さん、由比ヶ浜さん、比企谷小町さんに何をしたの?」

貝木「……はぁ。…つい最近俺が直接呪いをかけた奴らがそんな名前だったかもな」

貝木「ただその一色とかいう奴は本当に知らんぞ」


雪乃「何 を し た の ?」グリッ

貝木「知ってるだろ? 依頼があって金を受け取り呪いをかける。それだけのことだ」

貝木「由比ヶ浜とかいう娘の依頼人は誰だったかな? 名前は忘れたが冴えない女子高生だったよ」

貝木「痴情のもつれか逆恨みか、まぁそんなとこだろう」

貝木「ひき?…なんとか小町は友人に俺のことを紹介するよう頼んだらしい」

貝木「そしてそいつは自分が呪いをかけられると思ったんだろうな。小町という娘を呪ってくれと依頼してきたよ。バカなガキほど金は持ってるもんだな」

雪乃「呪いとは何を指すのかしら? まさか本物のオカルトだなんて言わないわよね?」

貝木「ああ、呪いなんてものはない。だがそれを恐れる心は誰にでもある。意識していなくてもな」

貝木「幽霊なんていないと理解しながらも暗闇を恐れるような心理、それを利用する。俺がやるのは静かな水面にインクを一滴だけ垂らすようなものだ」

雪乃「催眠術かしら? 要は偽物ねあなた」

貝木「本物なんてものは存在しない」

雪乃「…何のためにそんなことをしているの?」

貝木「金のためだ」

雪乃「くだらないわね」

貝木「くだらなくはない。金で買えないものはない。友情も愛情も信頼も地位も名誉も金で買える」

雪乃「哀れね。お金で本物は買えないわ。人間関係なんて最たるものよ」

貝木「なるほど……ご立派な価値観をお持ちで」

貝木「で、本物の人間関係とは何だ?」クルッ


雪乃「……動かないで!」

貝木「運命の巡り合わせとかテレパシーのように通じ合うとか、そういうファンタジーじみた超常現象を指しているのか?」

貝木「だとしたら憐れなのはお前だ。少女漫画を読み過ぎてもそうはならんよ。これは常識の話だ」ユラリ

雪乃「……!」(何? 指が……体が…動かない)

貝木「或いは、理想を追い求め足掻き続けることを言うのか? それはよくある勘違いだ」

貝木「相手のことを理解することと、理解しようとすることはまるで違う。後者は理解した気になっているだけだ」

貝木「理解した気になる、ということは個人の願望だ。こうなって欲しい、こうであって欲しいという曖昧な幻想を相手に押し付ける行為だ」

貝木「お前は相手の願望を理解した気になって、叶えた気になる。 その結果、相手が思い通りにならなくて勝手に失望する」

貝木「そんな茶番を偽物と言うのだよ雪ノ下」

雪乃(違う……)

貝木「価値ある偽物があることは認めてやる。だがお前は前提からして間違っている」

貝木「自身がどれだけ努力しようと他人と分かり合えることはない。全ての願望は自己愛に帰結するからだ。

貝木「完全に見返りなく他人のために行動できる人間なんていない。いるとするなら、そいつはどこか壊れているのさ」

貝木「或いはそういう『壊れ』を怪異と呼んだりするんだろうな。お前はそんな非現実的イカレ野郎を模倣しているだけの度し難い偽物だ」

貝木「このことからお前が得る教訓は『本物に見える偽物はいても、本物など存在しない』ということだ」

雪乃(助け……比企…)

貝木「ところでお前、『犬と猫』どっちが好きだ?」




【同日放課後 校門】

八幡(ふぇぇ……一人で残業だなんてやってられないよぉ…)

八幡(マジムリ…マッ缶買って帰ろ…)

陽乃「ひーきーがーやーくーんー」ガシッ

八幡「ひぃ」

陽乃「ちょっとそこに車停めてるんだけど、そう、君を轢いたあの黒い車を違法駐車してるんだけど」ギュウウウ

八幡「痛い痛い!」

陽乃「四の五の言わずにさっさと乗ってくれないかな? かな?」 ギュウウウウメキメキメキ

八幡「は、はひぃ、乗ります! 乗らせてくだしゃい!」 ズルズル

バタム ブロロロロ……


陽乃「で、何なのかしらアレは?」

八幡「へ、アレ? アレってなん、うぐッ」

陽乃「あ、痛かった? ごめんね~。私をこき使うのはセーフだけど、雪乃ちゃんに被害が及んだならアウトなの」

陽乃「手段とか選ばないからそのつもりでいてね」

陽乃「あの噛み跡について知ってることをさっさと話してくれる?」


八幡(やっぱりかよ、あのバカ)

バキッ

八幡(話すべきか? 陽乃さんとはいえ、呪いに対抗する手段なんて持ちあわせているのか?)

ボグッ

八幡「…ぐぅッ!」(腹ばかり狙うとか随分慣れてるな…)

陽乃「な~んで、黙ってるのかな? おしっこ赤くなっちゃうかもよ?」

八幡「…俺を…雪ノ下に会わせてください」

陽乃「はい~? 全然説明なってませんけど?」

ドゴッ

八幡「ッッ! 今は説明できません。……そのへん、雪ノ下は何て言ってたんですか?」

陽乃「それがね~、全然教えてくれないのよね雪乃ちゃん。どうしてなの? おねえちゃん悲しい!」

ボゴッ

八幡「おぅぐッ ……は、はは、馬鹿かよ。そんなことも分からないのか?」

陽乃「……」

八幡「そんなもんあんたを守るために決まってんだろうが。俺にそれを台無しにする権利はねぇつってんだよ」

八幡「四の五の言わずにさっさと妹のところまで連れて行け。こき使うのはセーフなんだろ? 自分で決めたルールは守れよ」

陽乃「……ふーん。まぁいいか。じゃあ、それまではお預けにしてあげる。上手な言い訳でも考えておくのね」

八幡「……」(怖い怖い怖い怖い)



【病室】

八幡「うーす」 ガラガラ

雪乃「! ひきが……ねえさん?」

陽乃「あー、なんかすぐそこでばったり会っちゃってさ、思わず連れて来ちゃった」テヘペロ

陽乃「さて、解答編に突入ね比企谷君。どうするのかな?」

八幡「……ふぅ」(もし間違えたら死ねるな……)

八幡「小町に聞いたよ。『犬と猫』だろ? お前は猫と答えて犬を貰った、そうだろ?」

雪乃「……そうよ」

八幡「犬の怪異はそれほど多くない。猫とは違い、化けて出る民話は少ないからな」

陽乃「??」

八幡「送り犬、関東地方では送り狼という。足を狙う、転倒に関連して発動する呪いだと推測すればそれしかない」

八幡「対処法は単純。こんな風に片方の履物を差し出せば」

ポイッ スゥー

陽乃「! スリッパが消えた…」

八幡「それを咥えて帰っていく」

雪乃「………ん……あら、足が動くようになったわ。割りと簡単なのね」

陽乃「!!」


雪乃「とりあえずお礼を言わないとね、小町さんに」

八幡「おいおい、怪異という線を発見したのは俺だからな? その後は小町がググって解決しちまったが」

雪乃「そうね。ありがとう。妹以下ヶ谷君」

八幡「感謝の時くらい苗字でdisらないでくれる?」

陽乃「ちょ、ちょっとストーップ! おねえちゃんにも分かるように話しなさい!」

雪乃「あら? まだいたの? もう解決したわよ。ほら、噛み後も消えたわ」

陽乃「……マジ? なんなのそれ。本当に本物の呪いなの? 怪異って」

雪乃「違うわ。偽物よ」

陽乃「いやいやいやいや」

雪乃「そんなことより、まず比企谷君に謝りなさい。二度と口聞かないわよ」

陽乃「……ごめん」

八幡「あ~痛かったなぁああああいきなり車に押し込まれて腹をひたす 陽乃「ごめんなさいいいいいい!!」

雪乃「ねえさん、あなた…」

陽乃「何にもしてない! 何にもしてないから! ちょっとタイム! 比企谷くんちょっと来て!」グイー



【病室の外】

陽乃「しゅ、しゅみましぇんでした!」ドゲザ-

八幡「え、あ、いや、マジ止めて下さい。気にしてないですから。そういう雪ノ下さんの行動も含めて利用しただけですし」

陽乃「うぐぅ、それはそれでイラつく……殴りたい……」

八幡「やめてよね」

陽乃「でも、でもぉ、今回は雪乃ちゃんの為に動いたのよね? ね? なんか積極的になってきたじゃ~ん!この、この~」

八幡「………」

八幡(この人は俺と同じ、少し捻くれたシスコンだ)

八幡(もし根源にあるものが『妹への嫉妬』だったら俺はどうしていただろうか……)

陽乃「……ちょっと目が怖いよ、比企谷くん?」

八幡「ここからは先は誰も巻き込みませんから」

陽乃「そ。なんだか比企谷くんに借りができちゃったね。お礼にひとつだけ何でも言う事聞いてあげるよ☆」

八幡「え?」

陽乃「な・ん・で・も」

雪乃「シャー!!」ガラッ

陽乃「ひぃ! お、お姉ちゃん、用事思い出したわ! ちょっと席外すね!!」バヒューン



【病室】

雪乃「はぁ…これからどうする気? とりあえず由比ヶ浜さんは猫の怪異でしょうね。1つずつ民話を辿っていくしかないのかしら」

八幡「おい、お前は安静に寝てろ。もう関わらなくていい」

雪乃「……は? 嫌よ」

八幡「勝手に暴走するなと言っただろ。その結果がこのザマだ。十分教訓は得たろ。多分警察でも歯がたたない相手だ」

雪乃「……」

八幡「ヒーローごっこはお終いだ。俺も由比ヶ浜や一色を治したらもうこれ以上関わらない」

雪乃「それで終わりならいいのだけれども」

八幡「……くだらない理想を追っかけるのはもうやめろ」

雪乃「……どういう意味?」

八幡「呪いだなんて、さぞ甘美な響きだったろう?」

八幡「本当にそんな超常現象があるのなら、叶いそうにない理想の逃げ場所として相応しく思える」

雪乃「………」

八幡「何があったのかは知らないがお前は自分を押し殺し、誰かの望むままに生きている。それも嫌々とだ」

八幡「そんな嫌悪すべき状況を打開する奇跡が現れたら無視できないはずだ」

雪乃「…何か勝手な妄想をしているようだけど、あなたに私の何が分かるのかしら?」

八幡「お前は自分のこととなると何も語らないからな。エヴァQくらいわけ分かんねーよ。だが、こちとら人間観察が得意なんでな」

八幡「本物は知らないが偽物ならいくらだって知っている。偽物蒐集家と言えるくらいにな」

雪乃「……」


八幡「妬み、嫉み、欺瞞、軽蔑、憎悪、逃避……そんな感情に常識人な皮を被せて毎日を演じているような奴らだ」

八幡「お前は偽物図鑑の貴重な一ページを飾るに相応しい程の偽物だよ。『依存』という名前のな」

雪乃「……」

八幡「俺はあの時『本物が欲しい』だなんて言うべきではなかったんだ」

八幡「あの嗚咽のせいで俺自身も実態の分からない幻想を見させてしまった」

八幡「この世のどこにも存在しない理想は、現実との間で齟齬が生まれる」

八幡「そんなもの手放してしまえばいいのに、依存そのものが目的であるお前にはそれが容易に出来ない」

八幡「いずれ逃げ場が必要になる。呪いだか祝福だか知らないが、そんなものにすがるしかなくなる」

雪乃「……いつになく饒舌かと思えば、結局私を見下したいのかしら」

八幡「見下してなんかいないさ。俺より下なんてそうそう居ねーよ」

八幡「結局のところ、誰にだって弱みや二面性はある。俺の知る偽物もそいつらの上澄みを掬っただけにすぎない」

八幡「一見、充実した生活を送っている奴らの恥部やコンプレックスを発見してはほくそ笑んでいるゲス野郎なんだよ俺は」

八幡「そんな俺ごときに過剰な期待をしないでくれ。依存しないでくれ。迷惑なんだよ」

雪乃「あなたは、ここにきて自分が追い求めてきたものをくだらない幻想だと切り捨てるの?」

八幡「そうだ」

雪乃「また、そうやって逃げるのね」

八幡「そうだな。俺は逃げるよ。もうたくさんだ」

雪乃「……」

八幡「じゃあな」



ちょい休憩&書き溜め
朝までには最後まで投下する


【比企谷家】

八幡(分かってたけど怖い。雪ノ下姉妹超怖ぇ…)

八幡(ふぇぇ…今になって震えが止まらないよぅ……) ガクブル


携帯<ヴーヴーヴー

八幡 ビクッ

八幡(久しぶりに鳴ったから焦っちゃった…)ピッ


陽乃『ひゃっはろー』

八幡「ひぃ……な、何で番号知ってんすか」

陽乃『適当に押したら繋がっちゃった。テヘッ』

八幡「どんな確率だよ…」

陽乃『ねーねー比企谷くん。迷惑かけた手前、言い難いんだけど…雪乃ちゃん泣かしたら許さないから』

八幡「分かってますよ」

陽乃『分かってないよ、君は』

陽乃『君が持っているのは、歳の割には精度の高い経験則だけ』

陽乃『誰がどんな思いでいるかなんて分かっていない。分かろうとしない』

八幡「コミュ症の割には頑張ってると思うんですけどね」

陽乃『自分と向き合うことすら怖い臆病者のくせに』

八幡「……」

八幡「そういえば、何でもって言いましたよね?」

陽乃『ん? うんうん! なになに? 何でも命令していいよ!!』

八幡「妹さんが勝手に動き回らないよう見張っ

陽乃『いいよ! おっぱいくらいいくらでも揉ませてあげる///』

八幡「話聞いてください」





【二日後 正午】

八幡(ズル休みして平日の昼間に街歩くのはなんか緊張するね!)

八幡(この開放感はたまらない、癖になる)

八幡(ノスタルジーって年じゃないけど、小学生の頃はずっとこんな日が続くと思ってたよ…)

八幡(なんでこんなことになったんだろうな)

八幡(折本のせいだろうか?)

八幡(交通事故のせいだろうか?)

八幡(そんなわけない全て自分のせいだ、と思いつつも心の何処かに他人のせいにしたい思いもある)

八幡(まぁ、人間そんなもんかもね)

八幡(平塚先生は俺は優しいとか言ってたけど、結局のところ防衛本能みたいなもんだからなぁ)


【○×デパート 一階広場】

八幡(ここのフードコートで食べるソフトクリームがまた美味い)

八幡(小さい頃、母さんの買い物がてらに食べてた記憶がよみがえる)

八幡(小町まだもちっちゃくて人見知りでおどおどしてて可愛かったな)

八幡(今も可愛いけどね!)



【○×デパート 中央エスカレーター】

八幡(なるほど。確かに小町の言う通り腐った目をしてたな)

八幡(今、エスカレーター前方に突っ立てる黒ずくめの男が貝木で間違いないだろう)

八幡(怪しさ全開なんだが警戒心とかないのかよこいつは)

八幡(…まだ大丈夫だろう。周りに人はいるし、そもそも俺の顔もバレていない)

八幡(あいつは金銭的な損得が全てだ。俺が俺自身を呪うために八万円も払って依頼したとは思わんだろうな)

八幡(呪う対象は材木座の名前使わせてもらったけどね)

八幡(…………)

八幡(何の因果か俺の周りばかりピンポイントで狙いやがって)

八幡(手段、思考、行動パターン……初対面だが分かる。俺の人生の延長線上に立っているような奴だ)

八幡(呪いの解き方を聞くのが手っ取り早いんだが、そこで更に金を要求するのが狙いなんだろうなぁ)

八幡(被害は今後も増え続ける)

八幡(だったら何も遠慮することはない。俺のやり方で終わらせてやる)



【○×デパート 屋上広場】

八幡(材木座こと、俺を呼び出す約束の場所だ)

八幡(一時間前に来たつもりだろうが俺の方が早かったな)

八幡(幸い今は屋上に誰もいないようだ)

八幡(デパートの屋上ってなんで子供広場になってんのかね)

八幡(乗っかって50円入れると動くアンパンマンとかダンボとか今だにあんのな)

八幡(…………)

八幡(……)


八幡(まずは振り向いた顔にキルソースを水鉄砲で飛ばす)

八幡(スコヴィル値は軍用催涙スプレーの百倍だ。高確率で失明する。目から外れても粘膜に当たれば効果は十分出る)

八幡(二撃目は金属バットで頭部を振り抜く)

八幡(場数を踏んだ相手なら咄嗟に頭部を守るかもしれない)

八幡(その場合は逃がさないようネイルガンで足を潰す)

八幡(距離を詰めてきた場合はバットからナイフに持ち替えて両脇腹を刺す)

八幡(武器を取り出すかも知れないし、呪いとやらを発動するかもしれない)

八幡(だが相打ち覚悟の特攻ともなれば対処できる人間なんてまずいない)

八幡(何度もイメトレしたから身体も問題なく動く)

八幡(コートの内側にマジックテープで留めた武器の位置は見なくてもわかる)

八幡(四秒以内に致命傷を負わせる)

八幡(まだ無警戒のまま歩いているが、距離が詰まれば足音や衣擦れの音で振り返るだろう)

八幡(水鉄砲を構えたまま、慎重かつ早足で間合いを縮めないと)

八幡(? 立ち止まった)

八幡(電話に出たのか。誰からだ?)

八幡(……いや関係ない。今がチャンスだ)

八幡(悪いが不意打ち先制攻撃は普遍の必殺技だ)

八幡(貝木……)

八幡(殺してやるよ)ザッ





雪乃「やめなさい! 比企谷くん!!」

八幡「なっ!?」ピタッ


貝木「……そうですか。わざわざどうも」 ピッ

貝木「オーケー、俺の負けだ比企谷八幡」

貝木「さすがに命を懸けて戦う覚悟など俺にはない」

八幡「……は??」(こいつ今、俺の名前を…)

貝木「俺を殺してもお前は少年法である程度守られるからな。覚悟してしまえば何の負い目もないだろう」

八幡「……どうして」

貝木「多少の運が俺に残っていたようだ。なんでも知っている知り合いが電話で忠告してくれたのさ」

八幡「……何を言っている?」

貝木「バット、ペティナイフ、ネイルガン、……相打ち狙いの特攻なら威力は十分だろうな」

貝木「水鉄砲をこっちに向けないでくれ。辛いのは苦手なんだよ」

八幡(看破されている……何者だよそいつは…)

貝木「更に何よりもだ、向かいのビルからスナイパーライフルで狙われているらしい。お陰さまでこの柱の陰から出れそうにない」

貝木「たかが成金の娘だと思っていたが銃刀法を無視するとは思ってなかったよ」

八幡(なにそれ…マフィアですか)

雪乃(姉さんね)

貝木「命の奪い合いになれば肉体的な強さは然程意味を成さないからな。割に合わない」


貝木「望みは何だ? 金か? 謝罪の言葉か? すまなかったな」

貝木「ああ、警察は勘弁してくれ。今日にでもこの街を離れ二度と近づかないようにする」

八幡「……だったら呪いかけた奴らを元に戻してから消えろ」

貝木「ははっ、お前も結局は利他主義者か」

八幡「俺は俺の平穏を守りたいだけだ。見知らぬ奴が呪われようと苦しもうと知ったこっちゃない」

雪乃「……」

貝木「俺がかけた呪いは送り犬と五徳猫だ。放っておけばいずれ解けるがな、それぞれ対処法はある」

雪乃「犬の方は分かっているわ」

貝木「そのようだな。じゃあ猫だ」

貝木「五徳猫は百鬼夜行に出てくる忘却の怪異だ。俺と出会ったことやその他の諸々を適当に忘れてもらった」

貝木「この怪異は猫な上に火が関連している。頭から冷水でもぶっかけてやればいいさ」

八幡(まぁ予想通りか)

雪乃「もっと穏便な方法はないのかしら?」

貝木「これ以上無く穏便だろ」


八幡「一色の方はどういう呪いだ?」

貝木「雪ノ下にも言ったが俺はその一色という奴は知らん」

貝木「だが呪いを広めたのは俺だ。不完全な儀式は時として不完全で有り得ないモノを降ろす」

貝木「こっくりさんに代表されるアゼハシリなんかがそうだ」

貝木「つまりどこかの誰かがその一色を呪おうとして不完全ながら成功してしまったという可能性はある。どんな症状だ?」

八幡「…急に性欲過多になったというかエロくなったんだが」

貝木「性欲といえばウサギだ。存在しないもの、不完全なものの例えとして出てくるジャッカロープだろう」

貝木「好物はウィスキーだそうだ」

八幡「……」

貝木「なんだ? まだ不服か?」

八幡「なあ、怪異ってのは実在するのか?」

貝木「もちろん実在などしない。だが暗示というものはある」

貝木「怪異というものに取り憑かれていてその対処法を実行する、と説明して暗示を解くもの同じことだ」

八幡「催眠術師ってことか」

貝木「ただの詐欺師だよ。そこの嬢ちゃんに言わせれば偽物だそうだ」

八幡「……」(全然説明になってねーよ…)


貝木「過去の教訓から、お前ほど追い詰められた奴を作らないようにしていたのだがなぁ」

貝木「このことから俺が得る教訓は『シスコンを怒らせるな』か。……いや『無欲の凡人ほど怒らせるべきではない』というとこか」

貝木「はは、こんな狂気が本物とやらか? 俺には一生理解できそうにないな」

雪乃「黙りなさい。誰かの為にここまで出来るのが彼よ。狂気などとは呼ばせない」

八幡「……」

貝木「もはや宗教だな。大したもんだよ、お前たちは」

雪乃「あら? 大人の説教なんて大抵自分の後悔から来るものでしょう?」

雪乃「つまりあなたにも期待していた時期もあるということよ。きっとどこかで目を逸らしたのね」

雪乃「代わりに実らない努力の時間を否定することに置き換えた。そんなものを求めることはバカのすることだと」

貝木「おい……何勝手に説教始めてんだ?」

雪乃「実らないながらも積み上げた努力で得られたものもあるでしょうに、全てを拒絶してしまったのよ」

雪乃「足掻く者には無駄だと否定し、手に入れた者にはそれは偽物だと宣う」

雪乃「買ってもいない宝くじの結果が気になって仕方がない。根底にあるのは嫉妬なのにそれと向き合いたくない」

貝木「……」

雪乃「私にはあなたの否定が懺悔の言葉に聞こえるわ」

雪乃「今回の件からあなたが得られる教訓は『目を逸らしても逃げたことにはならない』ということだけよ」フフン

八幡(……すげえドヤ顔してる)

貝木「………はぁ」

貝木「……そうか。そこまで言うのなら好きなだけ本物とやらを求め続けるがいいさ」

貝木「それはそうと向かいのビルにいる奴らをどかしてくれると助かるんだがな」



八幡「おい、最後に一つ聞きたい」

貝木「何だよ」

八幡「何で八万円なんだ?」

貝木「末広がりで縁起が良いからさ。それで呪うのだから何だか帳尻合いそうだろ?」

貝木「じゃあな」

――――
―――
――

陽乃『そう、終わったんだ。こっちで処理できるけど、どうする?』

八幡「しなくていいです」

陽乃『えー。野放しにするの?』

八幡「あいつは100%損得で動く化物ですから、もうこの町には関わってこないでしょう」

八幡「それに多分……あいつの協力者はもっとヤバいです」

陽乃『ふーん…』

八幡「雪ノ下さん」

陽乃『何?』

八幡「ありがとう」

陽乃『お、お姉ちゃん口説くのはまだ早いんじゃないかな?/// でもでも~八幡がどうしてもって』

ピッ


雪乃「話は済んだかしら?」

八幡「雪ノ下…俺は……」

雪乃「まずその物騒なコートをゴミ箱に捨てなさい」

八幡「……」

雪乃「捨てなさい」

八幡「はい…」

ヌギヌギ ポイッ


雪乃「比企谷くん。私、怒ってるわ。猛烈におこよ」

八幡「おこですか…」

雪乃「そうよ。よくも偽物だの依存だのチクチクチクチクと……」

雪乃「それで自分は殺人未遂だなんて、あなたの自己犠牲は完全に間違っているわ」

八幡「……」

雪乃「自分は底辺? カースト最下位? 死んでも誰も困らない? 勘違い自虐はいい加減にして」

雪乃「差し伸べられた好意をはたき落としてるのも、努力した見返りを放棄しているのも全てあなた自身よ」

雪乃「……何がそんなに怖いの? 今だに私が裏切るとでも思っているの?」ポロポロ

八幡「……そうじゃない。そうじゃないんだ」

雪乃「じゃあなによ」グスッ

八幡「小町やお前が、……俺の大切な人たちが理不尽な暴力を振るわれた」

八幡「次は助けるという約束を守れなかった」

八幡「今までこんなに腹立ったことなんてなかったからな。怒り方が分からなくて振り切れてしまったみたいだ」

八幡「……すまない」

雪乃「」ポカーン

雪乃「え、あ、そ、そう……///」

八幡「……」

雪乃「……///」


雪乃「と、とにかく、あなたは私とどうやって仲直りするか可及的速やかに考えなければならないわ。今ココで」

八幡「今ですか…」

雪乃「明日も学校はあるのよ。早くしなさい」

八幡「…じゃあマッ缶で」

雪乃「いらないわ」

八幡「…ハニトーで」

雪乃「それと?」

八幡「と? まだ足りないのかよ…言っておくが俺はもうすっからかんだぞ」

雪乃「……ほんとバカヶ谷くんね」

雪乃「肝心な時に察し力が足りないだなんて生意気にも程があるわ」

テクテクテクテク ギュッ

八幡「」

八幡「こ、これは、な、仲直りというか、仲良くなりすぎじゃないでせうか///」

雪乃「何か問題でも?」ギュー

八幡「………無いです。というか携帯が荒ぶってて怖いです…」ヴーヴーヴー

雪乃「着信拒否しなさい」


雪乃「ねぇ? 私は見た目も頭も良いじゃない?」

八幡「お、おう」

雪乃「何の努力もなくあらゆるものを手にしてきたわ。そう思い込んでいた」

雪乃「でも違った」

雪乃「他者が絡むと上手く行かないことの方が多かった」

雪乃「私は彼らを取るに足らないバカだと切り捨てた。でも、あなたは傍観者になろうとした」

雪乃「先に答えを得ていたのは比企谷くんの方だったみたいね」

八幡「……知った上で、そこから逃げ出した俺のがよりタチが悪い」

雪乃「そんなことないわ。私はあなたの優しさを知っている」

雪乃「私が変われたのは、あなたのおかげよ」

八幡「……」

雪乃「今、生まれて初めて努力している気分よ」

雪乃「八幡、私は本物が欲しい」

雪乃「だから逃げないで」

八幡「……お、おう、わ、分かったから、ちょっと落ち付こうぜ雪ノ下。公共の場で俺の理性がヤバい」

雪乃「……名前」

八幡「へ?」

雪乃「名前で呼びなさい」

八幡「ゆ、ゆいの…さん」

雪乃「……」

雪乃「よりによって名前を噛んだわね。しかもさん付けで、由比ヶ浜さんが混じったような呼び方をしたわね」ジト

八幡「かみまみ……ごめんなさい」

雪乃「ダメよ、許さないわ」

八幡「どうすりゃいいのさ」

雪乃「罰として、今夜は」

雪乃「私に優しくしなさい///」


――――
―――
――





八幡(――後日談というか今回のオチ)

八幡(由比ヶ浜の対処法を実行するのは憚られるので、ママヶ浜に頼んでうっかりコップの水をぶっかけてもらった)

八幡(翌日から何事もなかったかのように登校しているようだ)



八幡(一色の方は平塚先生がウィスキー持参で治したらしい)

八幡(困ったことに記憶は鮮明に残っているようで、これからの学校生活に懸念が残りそうだったが、
『責任取れよ』と迫る平塚先生には勝てず、百合カップルになったらしい)

八幡(おめでとう、いろはす)



八幡(あの日以来、呪いの話はガセネタだと広まり、今では誰も話すことはなくなった)

八幡(小町は受験合格して、来期から晴れて総武高の後輩になるようだ)

八幡(俺は少し学力を上げないといけなくなったので、これまでと打って変わって猛勉強の日々を過ごしている)

八幡(厳しい監視付きなので、奉仕部の席の並びは前よりも近くなった)


八幡(由比ヶ浜の怪訝な視線が突き刺さる)

八幡(気付かれるのも時間の問題だが、まぁその時はその時だ)



八幡「あ!」

雪乃「何よ、急に」

八幡「金返してもらうの忘れてた!」



                    終わり



くぅ〜疲
昔書きかけてたSSを発見したので加筆して投稿しました。
HTML化依頼して寝ます。
お付き合いいただいてありがとうございました。

このSSまとめへのコメント

1 :  SS好きの774さん   2017年04月01日 (土) 21:01:50   ID: 216SUio8

面白かった!

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