【モバマス】町外れには魔女が棲む (105)

某超絶綺麗な雪美SSに触発されて書きました。


SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1470215594

時間。それは無限に続いているようで、人に与えられた時間はわずか100年程度しかない。有限の資産である。

どんなものにも終りは必ず存在する。どんなものにも必ず終りは等しくやってくる。

永遠なんてきっと存在しない。いつか終りはやってくる。その日を夢見て今日も生き続ける。

――――*

ここの町外れには魔女が棲んでいる。毎晩怪しげな笑い声が聞こえるとか、怪しい研究をしているとか、子供をさらって食べてしまうだとか、そういう噂が絶えない場所に僕は足を運んでいる。

というのも、年甲斐もなくはしゃぎ過ぎたせいで腰を痛め、挙句の果てに熱を出した馬鹿な母親がここの薬じゃないと嫌だと駄々をこねたのがここに来る羽目になった原因だ。

僕は千川薬品がとてもよく効くし安いから、そこの薬でいいじゃないかと言ったのだが、頑なに千川薬品の薬は絶対に飲まない! と文句を言うのだ。全く年取ると人は頑固でいけないな……。

そう母親への恨み言を連ねている間に魔女の家へとたどり着いた。

魔女の家と呼ばれている割に、その家は全体的に白くとてもきれいな風貌で日当たりもよさそうだ。

庭の方を見てみるといくつか花が咲いているのが見える。

童話に出てくるような魔女の家のイメージとは大きく違ってどう見ても普通の一軒家で、一瞬場所を間違えてしまったのではないかと思ってしまった。

「すいませーん」

ドアノブには、OPENと書かれた札がついていたので扉を開けて中に入ると、草原を吹き抜ける風のような香りが僕の鼻を突き抜ける。

魔女の家というから、大きな大釜や怪しい薬品、イモリ、カエル、ヘビなんかがいるかと思ったが、むしろ植物園や花屋のように色々な植物がそこら中に生い茂っており、

植物から発せられる匂いとあたりを流れている小川のせせらぎは僕をリラックスさせる。

「あのー、薬を買いに来たんですけど……」

そういえば肝心の魔女はどこにいるのだろうか? が返事がないので、今は留守なのかもしれない。

それなら、暇つぶしにでも店内を見て回っているとクッションの上で佇んでいる人形を見つけた。

「へー、よくできてるなぁ……」

満月の夜のような髪と、雪のように白く淡い肌。

その儚くて、繊細で雪のように触ると今にも解けて消えてしまいそうな印象を持つ不思議な人形に僕の心は気が付けば魅了されていた。

その人形の頬に触れてみると、とてもひんやりしていてわらび餅のような弾力がとても心地いい。ずっと触っていたい気持ちに駆られるくらいだ。

「んぅ……。ペロ……?」

「っ……!」

お人形のような服を着ていたうえ、肌色も病的なほどに白かったので、てっきり人形だと思い込んでいたが、どうも人形ではなかったらしい。

女の子は目をこすって、僕の方をジッと見つめて首を傾げた。

「……誰…………?」

「えっと、薬を買いに来たんですけど……」

「………」

「………」

「………!」

「………」

「……いらっしゃい…」

そこで僕が客であることに気づいたのか、女の子はまだ寝むそうに欠伸をして、僕にゆっくりとお辞儀をした。

「あの君名前は?」

「………雪美……」

寝ぼけている影響であの喋り方なのかと思ったが、どうやらあの喋り方が彼女、雪美ちゃんのいつもの喋り方らしい。

話すことはあまり得意じゃないと、雪美ちゃんは少し困った顔で言った。

「魔女さんはいつになったら帰ってくるの?」

小一時間ほど雪美ちゃん特製の紅茶を飲みながら談笑に打ち込んだが、魔女が帰ってくる様子がなく、

日も傾き始めたので僕は雪美ちゃんに訊ねてみると、雪美ちゃんは首を傾げて不思議な物でも見るように僕の目を見つめていた。

ガラス細工のように繊細で鮮やかな色をしている瞳に吸い込まれてしまうんじゃないかというほどにその瞳は深く澄んでいる。

古来より、瞳には不思議な力があるというけれど、雪美ちゃんの瞳には本当にそういう力が宿っていそうな気がする。

「魔女……私……」

「えぇっ!?」

僕の中の魔女のイメージがまた一つ崩れ去っていった。魔女=醜悪な老婆かと思ったと正直にそう話すと、雪美ちゃんは小さく笑ってそういう人もいると言っていた。

「薬……何……?」

「えっと、熱冷ましと腰に効く奴を……」

「分かった……。 ちょっと……待って……」

雪美ちゃんはそう告げると、店の中に生えている薬草をいくつか採取して薬鉢に採取した薬草を入れると、薬草を棒で擦り始めた。

薬草が潰されて、その独特な青臭い匂いが部屋中に広がっていく。

僕は世間一般的な魔女のイメージと実際の魔女とのギャップにさっきから驚きっぱなしだった。

「ただいま。そこにいるのはお客様かしら?」

扉を開けて、黒真珠のような長い綺麗な髪をした女が入ってきた。僕はこの女を知っている。

「ええっ!? どうして黒川さんがここに……」

「知ってるの……?」

「いや、知ってるも何もこの国の超有名人じゃないですか」

彼女、黒川千秋はこの国有数の名家のお嬢様でありながら、

王国屈指の剣の実力者として騎士団で活躍する人で、この国では英雄みたいな扱いを受けている人だ。

そんな彼女がどうしてここにいるのだろうか?

「話してあげて……」

「いいのか?」

雪美ちゃんがコクリと頷くと、黒川さんは僕の足元に近づいてきて僕をまっすぐ見つめた。

「今から起こることは決して他言無用だ。いいな?」

その急激に変化した物言いに戸惑いながらも僕が頷くと、黒川千秋の姿をしていたものは少しずつ小さな黒猫へと変わっていた。

それどころか、声も女性から少しシックな大人の雰囲気漂う男の声へと変化した。

「ご紹介が遅れて申し訳ない。私の名前はペロ。主の飼い猫だ」

そのあまりの礼儀正しさと、黒川さんが実は猫だったということ、しかもオスだったという事にとんでもない衝撃で、しばらく硬直していた。

「因みに言っておくが、私と黒川千秋は別人だ」

てっきり、同じ黒色だからそうなのかと勝手に思ってしまったが違うようだ。

ペロはジャンプして机の上に飛び乗って、自分の身の上話を始めた。

まあ、薬をできるのを待つまでの間話を聞いてくれないか?

それは今から数年前、私がまだ野良だった頃の話だ。

私は生まれると同時に捨てられたか親が死んだのか見当もつかないが、物心ついた時からずっと一人だった。

私が黒猫で忌み嫌われていることは知っているだろう?

でも、その時の私はそんなこと知らなかった。

だから、どうして人がここまで私に攻撃するのか理解できなかったんだ。

そのままどうしていいかも分からず迷走している時、私は市場に辿りついたんだ。

そこで、私は食べ物を盗みに来たと勘違いされ人間に捕まった。

それからは酷かったさ。棒で殴られたり蹴られたり、冷たい床に叩きつけられたりもした。

そして最後はごみのように捨てられた。

それからしばらくして気が付いたら主の家にいたんだ。

何でも主は、ごみのように捨てられていた私を保護して治療までしてくれたんだ。

最初はそんな事知らなかったからな。

私は主をひっかいたり噛んだりした。でも、主は涙を流しながら私をなだめるように優しくだいてくれたんだ。

そして主は言ってくれた。私はお前を嫌わない。だから嫌われ者同士一緒に暮らそうって。

それから、私は主の友人としてこの家で暮らすようになった。

でも、ある日思ったんだ。恩返しがしたいって。そう願ったら喋れるようになって、人に化けることも出来るようになっていたんだ。

「と、まあこれが私の身の上話だ」

「そうだったんですか……」

肝心の喋れるようになった直接的原因があやふやだけど、この世にはそういう科学とか数式とかで証明できない物だってあると思うから、

そこを聞くのは野暮な気がして聞かないことにした。

「ところで、そうして黒川さんに変身してるんですか?」

「ああ、彼女は知っての通り有名人だからな。彼女に変身することで色々な情報が手に入るんだ。物価だったり国内情勢だったりな」

そういえば、最近黒川さんのドッペルゲンガ―が各地で目撃されているという噂を聞いたことがある。

ということは、その正体はこの礼儀正しい黒猫だったという事なのか……。

「完成……」

話しを聞いている間に薬は完成したみたいだ。

雪美ちゃんはできあがった薬を小さな小瓶に詰めてコルクで蓋をして、薬の概要や使い方について説明してから袋にいれて僕に手渡した。

「えっと、お代は……」

「無料……」

「えっ、でもそれじゃ商売が成り立たないんじゃ……」

これだけの植物を育てているんだから、当然費用だってそれなりにかかっているはずだ。お金なしでこんなのやっていけるはずがない。

「善意……でやってる……。だから……お金……いらない……」

法外な値段を要求されることはないにしても、多少要求されるものだと思っていたから僕は面食らって何も言えなかった。

「で、でも、ごはんとか……」

「私たちは……大丈夫……」

何が大丈夫なのか、僕には分からなかった。もしかするとあんまり食べていないのかもしれない。

観察してみれば、肌は青白く血色もよくなさそうで、同年代くらいの子と比べても体も華奢で、身長も小さく見える。

まだまだ育ちざかりの女の子があんまり食べていないかもしれないというのは、とても不安だ。

「野菜……育てて……食べてる……」

そういえばここに入る前に家庭菜園のようなものを見かけたけれど、それなら大丈夫という理由も納得がいく。

それでも、何も払わずに相手の善意だけを受け取るなんて図々しい真似なんて、僕にはできない。

「じゃあ、その野菜を育てるお手伝いしてもいいかな?」

「お手伝い……?」

「お代の代わりに……ね?」

雪美ちゃんは暫く考えた後、分かったと承諾してくれた。

とりあえず、今日はもう遅いので明日の朝ここにまた来ることを約束して、僕は店から外に出た。

「また……ね……」

「うん、また来るよ」

雪美ちゃんは僕が見えなくなるまで小さく手を振っていた。

夜空を見上げる。今宵は新月の晩なので、星がよく見える。

雲一つない星空の下、雪美ちゃんもこの燦然と輝く綺麗な星空を見ているんだろうか?

雪美ちゃんと別れてから、僕は雪美ちゃんの事ばかり考えている。

きっと、僕は彼女に魅了され虜にされてしまったのだ。

何せ雪美ちゃんは魔女だ。

僕はきっと雪美ちゃんの魔法にかけられてしまったのかもしれないと、

ロマンチストを気取りながら星屑に照らされた家路を進んでいった。

またねって言う言葉は好きだ。

きっとまた会えることを約束する言葉だから。

でも、同時に嫌いでもある。

その言葉を聞くたびに考える。

あと何回またねって言えるんだろうって……

To be next……

一応、完結です。
全5話編成になってまして、完成してから打撃を受けるよりは小出しにして、ボロカスに叩かれた方がダメージ少ないかなって思ってやりました。
それでは申請出してきます。
すいません

第三話「寂れた商店街の古本屋さん」

本は好きだ。

本は知らない世界に連れて行ってくれる。

天空のお城だったり、いまにも爆発しそうな火山だったり、氷に覆われた世界だったり、色々な場所に行った。

そんな空想の世界を読み進めると、よく出会って、いつもそう思っていた。

どうして、いつも悪者なんだろうって。

――――*

蝉の声がうるさい季節に僕は筋力トレーニングをさせられている。

ただでさえ暑いせいで、汗で水溜りができそうなくらいだ。

黒川さんの方をチラリと見ると、黒川さんはさも当然という風に涼しい顔で、僕の倍以上の速さで腕立て伏せをしている。

僕はてっきり剣や拳法について教えてもらえるのと思っていたので、

こんな地道なトレーニングだと思わなかったと思わず口に漏らすと、

黒川さんは僕を睨みつけて、そもそも筋肉がないのに戦い方を学んでも意味がないと一蹴され、

素人がいきなり剣を持っても、拳法をやっても強くなれるわけないし、

そんなのは空想文学の中だけの話だと言われてしまった。

「お、終わった……」

これは明日には筋肉痛になっているだろう。僕は炎天下の中仰向けになって寝転がっていると黒川さんが冷えた水を手渡してくれた。

「ありがとうございます」

運動が終わった後の水ってどうしてこんなにも美味しく感じるのだろう。

渇いたのどに、冷たい水が通っていって、頭がキーンとした。

「言っておくけど、これで終わりじゃないわよ?」

「えっ……」

黒川さんは、今度は僕に木の棒を手渡して、今から三回勝負してどこでもいいから自分に一回でもそれを当てられたらもう今後筋力トレーニングはしなくていいと言った。

「いいんですね?」

いくら黒川さんでも、一回も当らずに勝つなんて無理だろう。

「構わないわ」

僕と黒川さんの試合が始まったが、黒川さんはその場から一切動かない。

油断大敵とはこのことだ。僕は真っ直ぐ前方へと走りこんで、木の棒を思いっきり振り下ろす。

しかし、木の棒は黒川さんに当たらず思い切り空を切って地面にぶつかり、手にジーンという痛みが走る。

そしてその隙に黒川さんの木の棒が僕の首元にあてられ、あっさりと負けてしまった。

「まずは一回目ね」

考えてみれば黒川さんはこの国で最強級の剣士で、僕程度の程度の実力者でさえも油断するはずがなかった。

油断していたのは、僕の方だった。

「それじゃ次行きましょうか」

二回目の試合は始まった。今度はさっきと違って黒川さんはいきなり僕と間合いを詰めて、

木の棒を横から振ってきたので僕は咄嗟にガードしようとしたが、

その前に、僕の身体は大きくバランスを崩して倒れこんだ。

何が起きたのか分からず困惑している間に、

地面に倒れこんだ僕の眼前に木の棒が突きつけられた。

「これで二回目。次で最期よ」

これはもしかして最初から勝ち目がなかったんじゃないだろうか……。

しかし、まだ一回残っている。恐らく普通にやって勝てる相手ではない。

「それじゃ最期の試合始めるわよ。因みにこれに負けたらさっきの二倍のトレーニングしてもらうわ」

三度目の試合が始まる。僕はそれと同時に木の棒を黒川さんの方に投げた。

相手が提示したルールはこうだ。一度でも当てたら勝ち。

つまり、当てさえすれば棒はどうやって使ってもいいというわけだ。

「んなっ!」

黒川さんは、僕の奇襲に驚いてガードが遅れた。

しかし、僕の投げた木の棒は黒川さんに当たることなく、明後日の方向へと飛んで行った。

どんな奇襲も成功しなければ意味はない。

「………」

「すいません……降参します……」

木の棒がどこかに飛んで行ってしまったので、僕に最早勝ち目はなかった。

黒川さんは少し溜息をついて、僕が吹っ飛ばした木の棒を拾いに行った。

「どうして負けたと思う?」

「えっと、実力の差があったとしか……」

そう言うと黒川さんは鼻で笑って、それ以前の問題だと言い放った。

「剣での戦いにおいて一番重要なことって何だと思う?」

「相手に当てることですか?」

黒川さんは首を横に振って、剣での戦闘において一番重要なのは心でも当てることでもなく、隙を作らないことらしい。

「例えば一回目の戦いは、棒を思いっきり振り上げたでしょう? あれは最悪手よ。あれは素人か重たい剣を使っているか、よほど自分の腕力に自信がある人しか使わないわ」

黒川さんによると、剣を振り上げることで攻撃のコースを教えているようなものであり、避けやすいうえに、避けられた後大きな隙が生まれると解説した。

例えば、二回目の戦いでは棒に意識を集中するあまり相手の足元まで見ることが出来なかったことで、

足払いに気づけなかったことが敗因だと教えてくれた。

「でも、最期の手は良かったわ。真っ直ぐ飛んでいれば当たってたかもしれないわ」

しかし、褒めるところはきちんと褒めてくれるのは黒川さんが、優しい人たる所以なのだと僕は思う。

「次こそは当ててみせますから……」

「精々期待しているわ」

黒川さんは、優しい表情でそう言ってから、トレーニングの続きを始めましょうと、笑顔でそう言う。

それから、僕と黒川さんは日が傾き始めるまでトレーニングを続けた。

「も、もう無理……」

体中が筋肉痛で痛い……。帰りに雪美ちゃんの店によって筋肉痛によさそうな薬を作ってもらおう……。

「よく頑張ったわね」

黒川さんは、倒れこんだ僕の頭を撫でた。

咄嗟のことに僕は訳も分からず困惑していると、黒川さんは、顔を真っ赤にしていつもの癖が出てしまった語った。

何でも、同じ騎士団の女の子たちにうまく出来たら撫でて欲しいと頼み込まれてそうするようになってから癖づいてしまったらしい。

「私は収穫祭の準備に戻らないといけないから、もう行くわね」

黒川さんは、手を振って物陰の方でオドオドしている仲間の騎士の元へと走って行った。

そういえば、もう一か月ほどで収穫祭が始まる。

その準備で忙しいはずなのに、どうしてわざわざ僕のためにトレーニングに付き合ってくれたのだろう……?

トレーニングなら、収穫祭の後でもできるはずだ。わざわざ時間を割いてまで僕のために時間を割り当てる必要なんてないと思うけれど……。

とりあえず、次にまた会った時に聞くことにして、

僕は筋肉痛に効く薬を貰うために雪美ちゃんのお店に向かうことにした。


雪美ちゃんの店を目指す途中、古本屋に綺麗な女性がいるのを目撃した。

その店は本の扱いに人一倍うるさい頑固親父がいる店で、この辺では名物親父として有名だ。

僕自身もその店主に、怒鳴られたことがある。

そのせいか、僕はあんまりここが好きではない。

このお店の利用客はうちの母親含め、中年以上の世代が主であり、若い人はあんまり来ない。

だから、こんな店に若い女性が、しかも熱心に本を読んでいるので気になってしまった。

「こ、こんにちはー」

怯えなが店内へと入ってから、辺りを見回すと例の頑固親父はいなかった。

「ふー、良かった……」

「何が良かったんですか?」

さっきまで熱心に本を読んでいた女性がいつの間にか僕の正面に立っていたので、僕は思わず驚いてこけてしまった。

「すいません……。驚かせるつもりはなかったのですが……」

「いえいえ、驚いた僕が悪いので……」

女性に手を貸してもらって、僕は立ち上がった。

今のところを頑固親父見られていたら絶対にただでは済まなかっただろう……。

「そういえば、店主さんは留守?」

「はい……。お恥ずかしながら、叔父は頭に血圧が上がりすぎて倒れてしまいまして……」

何でも、今は倒れてしまった叔父の代わりに自分が店番をしているらしい。

「叔父!? あの頑固親父の!?」

全然影も形も似てないので驚いた。あんなたこみたいな顔の男の姪が、こんなにきれいな人だとは思わなかった。

「確かに、うちの叔父は頑固親父ですね」

店員さんは、クスッと笑いながらそう言う。

貴方みたいな綺麗な人が店員だったら、この店の客も増えるかもしれないと冗談交じりに言うと、

店員さんは照れて下を向いてしまった。

「口説いてる……?」

後ろから雪美ちゃんに話しかけられたので、また吃驚してこけそうになってしまった。

「ち、違うからね!?」

確かに、自分のさっきのセリフを思いかしてみればそう聞こえても全然おかしくない……。

「そう……」

雪美ちゃんはここの常連でよくここに本を買いに来ているらしく、主にファンタジー小説を好んで読んでいて、家に沢山の本を置いているらしい。

中でも雪美ちゃんが気に入っているのは、『永遠の魔女』というこの国に伝わる伝承を書いた本だ。

『永遠の魔女』は、絵本にもなっていて僕が子供の時に、母親に何度か読んでもらったことがある。

おどろおどろしい絵がいっぱいで、内容も子供向けではないような感じだったのでよく覚えている。

僕は懐かしいなと思いながら、『永遠の魔女』の絵本を読み始めた。

『永遠の魔女』  

昔々、綺麗な魔女がいました。

綺麗な魔女はその美貌で沢山の男性を虜にし、魔女は街の人気者でした。

しかし、魔女はやがて年老いて老婆になってしまいました。

老婆になった魔女は誰にも相手をされなくなり、一人ぼっちになってしまいました。

これ以上老いて行くのが怖くなった魔女は、悪魔と契約し永遠の若さと命を手に入れました。

しかし、永遠の若さと命を手に入れるにはやらなくてはいけないことがありました

それは、毎晩一人の人間を殺すこと。魔女は悪魔に言われたとおり、毎晩自分のために人を殺し続けました。

魔女は若さを取り戻し、また魔女の周りには人が戻ってきました。

しかし、魔女が人を殺し続けた結果、その村は呪われていると村人たちは村からいなくなってしまいました。

魔女はそれでは意味がないと、悪魔に元に戻すように頼みました。

悪魔はにやりと笑って、心臓を捧げれば助けてあげると言いました。

魔女は自らの心臓を捧げました。

悪魔は、全てを元通りにしました。

死んだ村人は生き返り、去って行った村人も戻ってきました。

心臓を捧げたはずなのに魔女は生きていました。

魔女はおかしいと思って自分の心臓に手を当ててみました。

しかし、そこに心臓はありませんでした。

すると、そこに悪魔が現れて言いました。

お前は奪った命の分だけ生きてもらう。と

魔女は絶望しました。

このまま醜い老婆の姿であと何百年も生きないといけなくなったからです。

やがて、いつまでも生き続ける魔女を気味悪く思った村人は魔女を追放しました

そして、魔女はまた一人ぼっちになってしまいました。

魔女は綺麗な姿になれば、またみんな戻ってくれると思いました。

それから、魔女は再び人を殺すようになりました。

国中の人間は夜に出歩かなくなり、魔女におびえる生活を送るようになりました。

その時、勇敢な若者が現れ魔女を倒して見せましょうと言いました。

勇敢な若者は魔女を待ち伏せし、攻撃を仕掛けますが魔女は死にませんでした。

魔女は殺した分だけの命を持っている。

だから、それが尽きるまでは魔女は死にません。

勇敢な若者は、魔女にどんどん追い詰められ始めました。

もうだめだ。そう思ったその時、かみさまの声が聞こえました。

魔女の弱点は心臓だ。心臓を狙えと。

かみさまのお告げ通り、魔女の心臓を剣で貫くと、

そこから殺された人たちの魂が抜けでて天に昇っていきました。

魂を失った魔女は、体が灰になり始めました。

灰になっていく魔女は幸せそうな顔をしていました。

これでやっと死ぬことが出来ると。

そして魔女は灰になって消えてしまいました。  おしまい

この話の教訓は、数ある命を大事にしようとか、夜は危ないから出歩かない様にといったところだろうか。

当時本気で信じていた俺は、夜が長い間苦手になったくらいで、

この国の子供達のトラウマの一つと言っても過言ではないと僕は思う。


「原作には勇敢な若者は登場しないんですよ」

店員さんに、『永遠の魔女』の原作を手渡されて、軽く読んでみると確かにそう言う描写はなかった。

魔女が永遠の命を手に入れるまでの下りは一緒だったが、そこからの結末はまるで違った。

原作では、魔女は村人に捕らえられ今も地下牢で命が尽きるのを待ち続けていると書かれていた。

確かに、子供に読ませるには救いがない終りだから改変されても当然だ。

「魔女はいると思いますか?」

いるもなにも、今僕の隣には魔女がいるのだ。

だから、いると答えると店員さんはフルフルと首を横に振って、こっちの魔女ですと『永遠の魔女』を横目で見ながら僕にそう聞いた。

「でも所詮は作り話だから、いないんじゃないんですか?」

「そうですね」

じゃあ、何で質問したんだと言い返そうとすると女性は立ち上って、前髪によって覆われた瞳をカッと開いて、永遠の魔女の本をパラパラと捲っていく。

「ですが物語には必ず、核となる出来事や人物がいるんです」

物語にされるなんて余程綺麗で素敵なお方だったのでしょうと、夕日を眺めながら、その人に会って見たかったと感傷に浸っていた。

「私も……」

雪美ちゃんは太陽に手を伸ばして小さく呟いて、どこか懐かしいものを見るような表情をしていた。

「また会いたい……」


永遠の魔女は皆に愛されていた。

永遠の魔女は皆を愛していた。

永遠の魔女は禁忌を犯した。

その末路が絶望へと向かうと知っていても……。

To be next……

というわけで、今回分の投下は終りです。

今回分は物語の補足のようなものなので読まなくても大丈夫です。

あと50レス分くらいで完結すると思われますので、

もう少しだけお付き合いいただけると、嬉しいです。

第四話 「街の人々は星のように」

祭りは好き。

みんな笑顔。皆輝いてる。

普段怒っている人も、悲しそうな人もみんな笑ってる。

そんな一人になりたかった。

――――*

夏は終りを迎え、夏の日差しを受け真っ直ぐ育ちきった食物の収穫の時期が来る。

そして、その収穫が終わるといよいよ収穫祭だ。

収穫祭は、年に一度行われる大きな祭りで国内外からくる様々な出店が立ち並ぶ。

大通りを使ったパレードなんかもあり、最終日には沢山の花火も上がるこの国一番の大きなイベントだ。

母親は今年も何やらイベントに出演するみたいで、今日の朝から張り切っている。

「ところで、今日は誰かと一緒に行くんですか?」

母親がニヤニヤと笑みを浮かべながら聞いてくる。

この国では、最終日の花火を恋人同士で見ると永遠に結ばれるという伝説があるのだ。

それで、母親はわざわざ聞いてきたのだ。

ちなみに今日は、雪美ちゃんと一緒に収穫祭を巡る約束をしている。

だから、そうだと答えると母親は、僕に千円札10枚を手渡して、これで楽しんできてねと言い残して、

自分はイベントのリハーサルがあるからと戸締りよろしくと言い残して、足早々に去って行った。

そう言えば、母親が何のイベントに出るか聞いていなかった。

まあ、どうせ碌でもないイベントだと思うけど……。

僕は前日購入しておいた、流行の服に身を包んで、家の戸締りをしっかりと確認してからいつもの場所へと向かった。

今日ばかりは、商売にならないということなのか商店街の店はどこも閉まっているみたいで、

雪美ちゃんのお店にもCLOSEというプラカードがドアノブに吊り下げられている。

ドアをノックして、少しの間待っているとドアをゆっくりと開けて、雪美ちゃんが姿を現した。

「かっこいい……!」

少しだけ落ち込んでいる僕を見て、雪美ちゃんは精一杯励ましてくれたので、雪美ちゃんも可愛いよと言うと、雪美ちゃんは首を傾げる。

「いつもと……同じ……」

「確かに、いつもと同じだけど。何かこう……。逆に特別感が……。あー、もう意味分からんな……」

褒めるの下手すぎだぞ僕……。雪美ちゃんの方をチラッと横目で見ると笑っていたので、まあ良しとしよう。

こうなったら、次のステップだ。僕は、右手を雪美ちゃんの前に差し出す。

「……?」

雪美ちゃんは僕に右手を差し出した。

「それじゃ、握手だよ……」

そう言うと、雪美ちゃんは僕の意図に気が付いたのか、僕の左手を小さな手で握った。

元々、雪美ちゃんの手はひんやりとしていて、女の子の手という感じがした。

「これで迷子にならないでしょ?」

「貴方が……ってこと……?」

何も言い返せなかった。僕は、想像を接するレベルで方向音痴なのだ。

例えば、これは僕が学生の頃の話で、家から徒歩30分くらいの駅前の店舗で待ち合わせをしていた時の話だ。

僕は自分の方向音痴っぷりを理解していたので、約束の三時間前に家を出発したが結局間に合わなかったり、

学校に向かう途中、近道を使おうとして迷った挙句遅刻したりりと、僕の方向音痴はあまりにもひどいのだ。

きっと、見知らぬ土地を一人歩きすれば迷い続けていそうな気がする。

「でも、ここは僕にとって庭のようなものだからそう簡単に迷子なんてならないから安心して!」

「フラグ……?」

大丈夫。事前に何度もルートを確認済みだ。迷う筈なんてない……はずだ。


「何か食べたいものとかある?」

ここ一か月雪美ちゃんが何かを食べている様子を見た事がない。

今日この収穫祭に誘ったのは、雪美ちゃんが食べている様子を見てみたかったというのもある。

「ごめん……食べて……きた……」

その解答はある程度予測できていた。

「そっか、じゃあ僕は適当に何か食べるけど、欲しくなったらいつでも言ってね」

他人が食べているのを見ると、自分も食べたくなってくるという心理があるらしく、この前読んだ本にそう書いてあったのだ。

りんご飴売り場の手前に来た時、雪美ちゃんの目がわずかにそちらに向いた。

「欲しいの?」

そう聞くと、雪美ちゃんは首を横に振って綺麗だったから見ていただけと答えたが、

本当は欲しいのか、ジッと見ていたので買ってあげることにしよう。

「すいませーん。りんご二つ飴下さい」

りんご飴屋の店主から、こっそりりんご飴を二つ買った。

そろそろいい加減両手が食べ物だらけで塞がってしまったので僕たちは移動して、

どこか座れる場所で食べようと提案して移動を始めた。


「ここで食べよう」

ここは星見のベンチ。僕が勝手にそう呼んでいる場所だ。

祭りの会場から少し離れているせいか人もあんまりいない。

「綺麗……!」

眼下に写る、祭りの灯火と星の光があいまって、光の海を作り出してる。

「はいこれ! 欲しかったんでしょう」

僕は、さっき買っておいたりんご飴を雪美ちゃんに手渡した。

りんご飴の表面に、光が反射してとても綺麗だ。

「ありがとう……。大切に……する……」

「食べてよ……」

雪美ちゃんは、後で食べるからと言ってりんご飴を懐に仕舞いこんで、夜空を見上げた。

「私……祭り……好き……」

空を見上げながら、雪美ちゃんはそう語る。

夜の闇が雪美ちゃんの表情を覆い隠して、雪美ちゃんの考えを分からなくさせた。

「皆……笑って……輝いてる……から……」

雲から出てきた満月が雪美ちゃんの表情を露わにさせる。

雪美ちゃんの表情は、どこか遠い昔を見るような目をしていて、どこか憂いがあった。

「私も……輝きたい……」

満月に手を伸ばす、

その光景に竹取物語という物語を急に思い出して、

月が雪美ちゃんを連れて行ってしまうんじゃないかと怖くなって、思わず雪美ちゃんを抱きしめた。

「………!」

「大丈夫……。雪美ちゃんもちゃんと輝いてる」

耳元でそう囁く。

雪美ちゃんの身体は冬の夜のようにとても冷たく感じた。

「どうして……?」

雪美ちゃんはこちらをまっすぐ見つめている。

夜に雪美ちゃんの瞳が妖しく輝やいて、暗闇の中に浮かび上がる。

「どうして……そんなに……優しいの……?」

瞳が僕の身体を射抜く、今だけは時間が止まっているような気がする。

「私は……、私は……」

「みぃつけた……」

急に横槍を入れられる。

声のした方を振り向くと、雪美ちゃんの店で一悶着を起こした男がそこに立っていた。

「久しぶりだな。元気にしてたか? こっちはお前のせいで散々だったがな」

男の後ろからぞろぞろと姿を現して、僕たちを取り囲む。

「つまり、今日はお礼にしに来たって事だ」

男は薄気味悪い笑みを浮かべた。完全な逆恨みじゃないか……。

じりじりと距離を詰められる。この人数では流石に勝ち目はない。

この一か月黒川さんに鍛えてもらったとはいえ、流石にこの人数を相手にすることは無理だ。

「皆、やっちまえ!」

男たちが一斉に襲い掛かってくる。

僕はなす術もなく、暴行を受け続ける。

僕は、何とか絞り出せた声で雪美ちゃんに逃げるように促した。

意識が遠くなっていく。

死ぬってこういう感じなのだろうか?

恐ろしく冷たくて、とても暗い。

そんな世界に僕は落ちていく。


「もう……やめて……」

どうしていつもこうなのだろう。

静かに暮らせればそれでよかったのに。

でも、結局耐えられなかった。

一人ぼっちが怖かった。

頭の中に、声が響いてくる。

頭が割れそうになるほどに痛む。

人間を殺せ。

人間を滅ぼせ。

人間は愚かな生き物だ。

私たちを迫害し、追い詰め、罪のない私たちを無差別に殺した。

「な、何だよ……。これ……」

「に……げ……て……」

黒い感情が体内から噴き出して形となっていく。

人間が嫌い。

人間が好き。

人間を憎んでいる。

人間を愛している。

どうして、どうしていつもこうなってしまうの?

私は、人間を愛したい。あの人がそうしたように……。

ただそれだけなのに……。


声が聞こえた。

1人の少女の泣き声が。

少女は嘆いていた。人が憎いと嘆いていた。

けれども、少女は人が嫌いになれなかった。

少女が愛した人が、人を愛していたから。

「っ……。イテテ……」

「よかった……。目が覚めた……」

目を覚ますと、僕は雪美ちゃんのお店にいた。

身体の至るところには痛々しい傷が残っている。

そういえば、アイツらは……?

「貴方が……倒れた……後……千秋が……来て……逃げていった……」

その後、黒川さんは僕をここに運んでから、自分の持ち場へと戻っていったらしい。

「ありがとう。雪美ちゃん……。治療してくれて……」

雪美ちゃんは、首を横に振ってそれが自分の仕事だからと言って、窓の外の星空を見ている。

それを見計らったかのように、大きな爆発とともに空に小さな花が咲いた。

「ごめんね……。こんなことになっちゃって……」

本当ならあのベンチで、花火を見る予定だったのだがアイツらのせいで見れなくなってしまった。

「ううん……。悪いのは……私……」

僕は何て言葉を掛けたらいいか分からなかった。

「最初から……薬を……売っていれば……貴方が傷つくことも……なかった……」

くだらない過去の幻想にいつまでも囚われて、あの人の教えを守ってまでする事じゃなかったと雪美ちゃんは言う。

「薬は……本来……人の治す力を……高めるために……ある……。それがあの人の……教え……だった……」

雪美ちゃんはあの日の何故薬を売らなかったのかを話し始めた。

あの男の人は、どうみても元気そうだった。それなのに薬を求めていた。

だから、売らなかった。

薬は、使い方を間違えれば毒にだってなるから。

だから私たち魔女にはそれ相応の責任がある。

薬を使う人は私たちを信じてそれを服用しているのだから。

だから決して、安易に薬を用いるような真似は絶対にしてはいけない。

それが、私があの人から魔女になるため最初に教えてもらったことだ。

「でも……。それが……正しいことなのか……今は……分からない……」

雪美ちゃんのおかげで随分と、痛みも引いて来て楽になった体を起こして、

ベッドの上に座り込んで雪美ちゃんの頭の上に手を置いた。

「多分、雪美ちゃんは大人になり始めたんだよ」

「大人……?」

雪美ちゃんの手が僕に触れて、僕と目があった。

「そう……。結局何が正しくて何が間違ってるかなんて、雪美ちゃん以外には決められないんだって、僕は思う。誰かの言いなりじゃなくて、自分で考える時が来たって事なんだよ」

何て、まだまだ10数年しか生きてないんだけどねと、笑みを浮かべ僕はそう励ましながら、雪美ちゃんの頭を撫でる。

「あれっ……?」

世界が揺らいでいく。

まるで大海原の船に乗っているみたいだ。

世界の色が混ざりあって、黒く染まっていく。

「ごめんね……」

最期にそう呟く声が聞こえた気がした。

「っ……!」

カーテンの隙間から差しこんでくる光が煩わしくて、僕は目を覚ます。

見覚えのある天井。

自分の寝室にいつの間にか運んでこられたらしい。

「あ、起きたんですね! 心配しましたよ~。階段から落ちて怪我するなんて……」

一瞬違うと反論しそうになったが、僕の母親は喧嘩がすごく嫌いで、

僕はてっきり雪美ちゃんが咄嗟に嘘をついてくれたのだと思っていた。

「道端に倒れているのを聞いたときは、心臓が止まるかと思いましたから……」

「ちょっと待って、道端で倒れてたってどういう事?」

運んでこられたんじゃないのかと質問すると、母親は首を横に振って昨日僕に起きた出来事を話した。

概要はこうだ。

昨日、僕は何者かによって階段から突き落とされ気を失ったところを、

丁度、騎士団の人に保護され医務室へと運ばれたらしい。

おかしい。僕の記憶と違うところが多すぎる……。

「雪美ちゃんって誰……ですか? もしかして彼女とかだったり~……」

雪美ちゃんは、町外れに住んでいる魔女だという事を伝えると、母親は首を傾げて何やら考え込んでいるみたいだった。

「町外れに魔女なんていましたっけ……?」

「何言ってるの? ひと月前に、僕にそこに行って薬貰って来てって言ったじゃん」

母親は本当に分からない様子だった。

僕の母親は、年齢や系列について変な嘘をつくことがあるが、それ以外の嘘はほとんどつかない。

「ど、どこに行くんですか!?」

僕はもう走り出していた。

母親が歳だから忘れていただけ、そう思いたくて。

僕は雪美ちゃんの所に……。

「な、何で……」

雪美ちゃんが棲んでいた場所には何も残っておらず、ただの空き地と化していた。

そんなはずない……。

きっと道を間違えただけなんだ……。

僕が方向音痴だから、間違えたんだ。

そう思って、何回も何回も道を確認した。

でも、たどり着く場所は同じだった。

「魔女? ここはずっと前から空き地だったけどねぇ……」

一応、商店街の住人にも聞いてみたが雪美ちゃんの事を知っている人は誰一人いなかった。

ただ一人を除いては。

「佐城雪美……。存じ上げています、確かこちらの方に記録が……」

古書店の店員さんは、常連だった雪美ちゃんの事を覚えていなかった。

しかし、佐城雪美という人物について心当たりがあると言った。

「佐城さんの名前はこちらに記録されいてます」

店員から手渡された本には、『魔女狩りにおける処刑者の記録』とそう書かれていた。

本をパラパラと捲っていくと、その本には百年以上前に魔女と疑われ、

処刑された人々の似顔絵写真とその処刑方法について綴られた本だ。

しばらく捲っていくと目当てのページを発見した。

そこには、そう書かれていた。

佐城雪美。この少女は魔女と深く関わりを持ち、また自ら魔女となった。

よって、火あぶりの刑によって彼女の家族共々――

僕はそこから先を読みたくなくて本を閉じた。

しかし、そこに書いてあった似顔絵は、雪美ちゃんにそっくりだった。

じゃあ、今まで僕があっていた少女は一体誰なんだ……。

それとも、僕は幻を見ていたとでもいうのだろうか?

分からない……。

そうだ、黒川さんなら覚えているかもしれない……。

僕は雪美ちゃんの存在を証明するために、街を駆ける。


私は、人間が嫌いだ。

自分たちと違うから、それだけ理由で迫害し差別し、死に至らしめる。

人間が憎い。

だから、私は人間に復讐する。


星見のベンチの周りには野次馬たちが集まっている。

野次馬たちが見ているのは、血に濡れた赤いベンチ。

野次馬たちの先には見覚えのある黒髪が靡いていた。

「黒川さん!」

黒川さんを呼ぶと、黒川さんは僕の声に気づいてこちらへと歩んでくる。

「ああ、貴方ね。ちょっと今は忙しいから後に……」

「いえ、すぐに終わるので……」

黒川さんは、少しだけ鬱陶しそうな顔になったがちゃんと聞いてくれるみたいだ。

「雪美ちゃんって知ってますよね?」

「佐城さんのこと? それがどうかしたの?」

良かった……。僕だけが頭がおかしくなったんじゃないかって心配していた。

雪美ちゃんは確かにここにいたんだ……。

だったら、探さないと……。

「ちょっと、どこに。待ちなさ――」

そうと決まれば、やることは一つだ。

雪美ちゃんを探し出す。

1人で勝手にいなくなるなんて、そんなことさせない。

どんなことがあっても絶対一緒だって、約束したから……。

To be next……

というわけで、恐らく明日で完結になると思われますので、もう少しだけお付き合いいただけると

とても嬉しく思います。

クオリティってどうやったら保ち続けられるんだろう……。

第五話 「町外れには魔女が棲んでいた」


「目が覚めましたか?」

そこは薄暗い部屋だった。

視界がぼやけて良く見えないが、僕の前に誰かが立っている。

お前は誰だ……?

「私は千川ちひろと申します」

千川ちひろ……。確か、千川薬品の最高責任者の名前がそうだったはずだ。

どうして、僕はここにいるんだ?

雪美ちゃんを探して、街を探していたところまで覚えている。

「あぁ、ここは千川薬品の本社ですよ」

徐々に視界が鮮明になっていく、千川ちひろの表情は笑っていた。

しかし、その笑顔に温度を感じなかった。

まるで、仮面のように張り付けられた偽りの顔。

「貴方には、餌になってもらおうと思いまして」

餌……?

一体何の……?

「佐城雪美をおびき寄せるためのですよ」

雪美ちゃんを、おびき寄せる……?

雪美ちゃんはただの、女の子だ。おびき寄せて何になるというんだ……?

薬の技術は千川薬品の方が明らかに勝っているはずだ。

それなら、雪美ちゃんをおびき寄せる理由は一体……?

それに、来ない可能性だって……。

「来なければ、何千万分のうちの一人がいなくなるだけです」

千川ちひろは笑顔でそう言う。

それはつまり、雪美ちゃんが来なければ俺は殺される。

そう言う事だろう。

「貴方は何も彼女から聞かされていないんですね」

佐城雪美の正体は。そこまで言いかけてところで建物が大きく揺れる。

「どうやら、来たみたいですよ。良かったですね。ひとまず寿命が延びましたよ」

千川ちひろの口ぶりからするに、ここに雪美ちゃんが来たと言う事だろう。

じゃあ、この大きな衝撃は雪美ちゃんが起こしたという事なのか?

そんなはずない。

雪美ちゃんは、どんな女の子よりも女の子らしい、ただの可愛い女の子なんだ……。

そんな思いを裏切るように、雪美ちゃんは姿を現した。

その小さな右手に、明らかに不似合の巨大な黒い何かを持って、千川ちひろを睨みつけた。


「ようやく来ましたか。佐城雪美さん。いえ、永遠の魔女と呼んだ方がいいですか?」

永遠の魔女。千川ちひろは雪美ちゃんに対してそう呼んだ。

嘘だ……。

信じたくて、雪美ちゃんの方を見ると、悲しそうな表情でこちらから目を逸らした。

「愛しの彼を返して欲しかったら、薬のレシピを教えてもらいます」

千川ちひろは、僕の喉元にナイフを当てた。

金属の冷たくおぞましい感覚が、体を震え上がらせ、死への恐怖が身近に迫ったことで体中から嫌な汗が噴き出す。

「薬……?」

「とぼけるんですか? 永遠の薬ですよ。貴方がその姿を百年も保っていることが何よりの証拠じゃないですか」

最初は、半信半疑でしたよ。

貴方を資料で偶然見つけた時はただの他人の空似か何かだと思いました。

でも、私が大人になっても貴方の姿は変わっていなかった。

そこで、気づいたんですよ。貴方が永遠の魔女だという事に。

「貴方が教えないのなら、構いませんよ。私は貴方の大切なものを壊すだけですから」

千川ちひろは僕の首にナイフを少し強く押し付ける。温かい何かが流れ出ていくのを感じる。

「どうして……こんなこと……」

「私は魔女狩りから逃れた生き残りのその末裔です。私が、何故人間に薬を売っているか知っていますか?」

千川ちひろは、答えた。

人間同士で争わせて、手っ取り早く減らすためだと。

傷が一瞬で治る。そんな都合がいい薬があれば人はそれに依存し、命を失う事への危機感がなくなってしまう。

それが千川ちひろの狙いだった。

お互いにそんな薬を持っていれば戦争は泥沼化し、犠牲者が増えることにつながるのだ。

「だから、永遠の薬が必要なのか……。戦争の火種を作るために……」

永遠の命。それはこれから先も人類の課題となることだろう。

そんなものが手に入る薬そんなものがあれば誰もが欲しがるはずだ。

そして、それを求めて人は争うだろう。

「私は人間が憎い……。私たちの先祖を殺したそ。その罪を忘れのうのうと生きている人間が。貴方だってそうでしょう? 

貴方は両親も友達も皆殺された。それなのに人間が憎くないんですか?」

千川ちひろは、雪美ちゃんの方を見た。

雪美ちゃんは俯いている。

「私も……人間が……憎い……」

千川ちひろはにやりと笑って、雪美ちゃんに手を差し伸べた。

共に、人間を滅ぼしましょうと。


「でも……、私は……」

雪美ちゃんは千川ちひろの手を払いのけ、千川ちひろを睨みつけた。

「人間を……愛したい……。あの人が……そうしたように……」

その瞳には闘志と決意が込められていた。

「私は……あの人の教えを……守る……。そして……私の大切な物も……」

全部守る。もう何も失いたくないから……。

雪美ちゃんの右手に、黒く輝く剣が生成された。

その切っ先を千川ちひろに向ける。

「私の……大切な人……返して……」

そう言うと、千川ちひろは笑い声をあげた。

「はい、そうですかってなるとでも思いますか? なら、貴方の考えを変えてしまえばいいだけ!」

千川ちひろは、ナイフを振り上げる。

「させない……!」

雪美ちゃんから黒い何かが伸びてきて僕の身体を包み込んで、

間一髪ナイフの攻撃を弾いた。


「そんな……」

千川ちひろは膝から崩れ落ちた。

雪美ちゃんは、千川の元へと近づいていく。

千川ちひろがほんの少しだけ笑った気がした。

「危ない!」

千川ちひろの、右手には注射器が握られていることに気が付いた。

その注射器で、雪美ちゃんの身体に刺して血を奪った。

「最初からこうすればよかったんですよ……」

千川ちひろは、自らの腕にその注射器を刺した。

「だめっ!」

雪美ちゃんが大声を出して、それを止めようとした。


「もう遅いですよ。貴方の血液はすでに私のっ……」

千川ちひろは急に苦しみ始め、地面をのたうちまわり始めた。

「どうしてっ……!?」

「私は……もうずっと前に……死んでいる……」

私は、永遠の魔女が死んでほしくないと強く願って止まってしまった存在。

貴方は生きている。

だから、止まった私を受け入れることはできない。

「嫌だ……。死にたくない……。死ぬのは嫌……」

千川ちひろの顔から笑顔が消え、その顔は絶望に包まれていた。

「怖い……。嫌だ……・。私は……人間に復讐するまで死ぬわけには――」

その言葉を最後に千川ちひろは死んだ。


「雪美ちゃん!」

雪美ちゃんの身体が光の粒子となって消え始めていた。

私は、永遠の魔女が作り出した幻想、ただの夢。

だから、夢ならもう覚めないといけない。

「まだ、いっぱい雪美ちゃんとやりたいことあったのに……」

海に行ったり、一緒にハイキングに行ったりしたかった。

もっと、ずっと一緒にいたかった……。

「私は……貴方や千秋……それにペロも……大切な存在ができた……。

だから……もう満足……」

雪美ちゃん涙を流しながら、僕に笑顔を向けた。

「嫌だ! そんなの認めない! 何か何か方法がある筈なんだ……!」

消えるな。消えるな。消えるな。僕は必死に願う。

雪美ちゃんは、永遠の魔女の強い願いでこの世界に留まった。

だったら、そう願えば……。

しかし、一度動き始めた時はもう止まることはなかった。

「僕は約束したんだ……。絶対ずっと一緒だって……」

それがこんな結末だなんて、あんまりじゃないか……。

「逝っちゃ、やだ……。嫌だ……」

涙が零れる。止まらない。

人との別れはいつだって唐突にやってくる。

そんなことは知っている。

知っているけど、忘れていないと、とても生きてはいられない。

「ありがとう……。私は……あなたに会えて……まだ色んな気持ちが……あるってこと……知った……」

雪美ちゃんは僕を抱きしめた。

温かい光が僕を包み込む。

「ありがとう……。貴方に会えて……本当によかった……」

涙が零れる。雪美ちゃんは、泣き虫だねと笑った。

「嫌だ……。僕は雪美ちゃんと一緒に生きていきたい」


今まで死ぬことばかり考えて、生きてきたはずなのに。

今は、とても怖い。

とても怖くて、震えが止まらない。

元から死んでいたから、今更死ぬのが怖いなんて変な話だけれど、

でも最後に、皆に出会えてよかった。

十分すぎるほどの満足感と、これだけ生きたはずなのに、まだまだ未練がいっぱいだ。

「私が生まれ変わったら……絶対に会いに行くから……。だから……その時きっと……また……会おう……」

そう言い残して、雪美ちゃんは天上へと昇って行った。

「分かった。僕は待つよ。雪美ちゃんと会えるその日が来るまで」

だから、また会おう……。

そう約束した。

今度は、約束が果たせるように。

同じ時間を歩んでいきたいから。

だから、今度は雪美ちゃんが幸せになれるように。

僕はそう願った。


『永遠の魔女』   

昔々、町外れは魔女が棲んでいました。

その魔女は、とても長い時間を生きていました。

ただ一人の願いによって。

魔女はずっと一人ぼっちでした。

しかし、ある時魔女に友達が出来ました。

魔女は、楽しいという感情を思い出しました。

けれど、魔女は永遠の命を持っていました。

きっと、その人といつか別れることになってしまう。

だから魔女は怖くなって、遠くに逃げました。

けれども、その友達は魔女を見つけて言いました。

ずっと一緒にいる。

それから魔女と友達はずっと仲良く暮らしました。

しかし、何十年と言う時間が過ぎて友達は死んでしまいました。

魔女は友達のお墓に向かって言いました。

うそつき! ずっと一緒だって言ったじゃない!

魔女は涙を流しました。

会いたい。友達に会いたい……。

魔女はそう願いました。

すると、空から天使が舞い降りてきて魔女を天国へと連れて行ってくれました。

天国には、友達が待っていました。

これでずっと一緒だよ。

二人は天国で、仲良く永遠に暮らしましたとさ。

おしまい。



物語はこういうハッピーエンドであるべきだ、書き終えた物語を相方に見せる。

相方は、眉間にしわを寄せた。

「ちょっと、展開が無理矢理すぎないかしら? それにハッピーエンドじゃないし……」

「うぅ……。でも、前の物語の結末よりはマシじゃないかな……」

それもそうね。と相方は言った。これいいのかは分からない。

もっと、幸せな結末があるのかもしれない。

その時はきっと誰かが、この結末を変えてくれるだろう。

できあがった物語を持って、出版社へと向かう。

永遠の魔女を幸せな物語にするために……。


エビローグ 「生きるということ」

時間。それは無限に続いているようで、人に与えられた時間はわずか100年程度しかない。有限の資産である。

どんなものにも終りは必ず存在する。どんなものにも必ず終りは等しくやってくる。

永遠なんてきっと存在しない。いつか終りはやってくる。

だからこそ、人は一生懸命に生きているのだ。

有限だからこそ、人は輝いている。

僕の仕事はその輝きを、もっと強くすること。


「君、名前は?」

僕が名前を聞くと、少女はただ静かに僕の方を見ている。

満月の夜のような髪と、雪のように白く淡い肌。

その儚くて、繊細で雪のように触ると今にも解けて消えてしまいそうだ。

「名前は……?」

少女は喋ってくれない……。

確かに、僕じゃ頼りなさそうかもしれないけれど……。

名前くらい教えてくれても……。

「………雪美……」

「えっと、志望動機は……?」

そう聞くと、雪美ちゃんは僕の方にその小さな足で歩いて近づいてきた。

「………私……ここに……きた……。ここ……オーディション……会場? 

でも……話すの……苦手……。……人前……あまり……慣れて……ない……」

喋らなかったのはどうも緊張していたからで、僕を品定めしていたわけではなかったらしい。

雪美ちゃんの瞳に、何か力を感じたからそう言う事だと勝手に思っていたけれど、どうも違ったみたいだ。


「大丈夫だよ」

僕は優しく、雪美ちゃんをなだめた。

「……ありがとう……優しい……ふふっ。私……アイドル……なるためじゃ……ない……。

あなたに……会いに……来た……と……思う」

何だろう……。雪美ちゃんと喋っているとなんだかとても懐かしい気持ちになる……。

会った事なんて一度もないはずだけど……。

まるで、昔からの旧友に出会ったようなそんな気がした。

「これから一緒に頑張ろう!」

「……ほんと……? ……うれしい……。あなたの……ために……私……アイドルに……なる……」

今度は雪美ちゃんと、一緒に歩んでいこう。

それは雪の上の足跡のように、いつか消えてしまうものかもしれないけれど、

それが生きているってことだと僕は思うから。

これにて終了です。


ここまでお付き合いいただき本当にありがとうございました!

僕は、雪美ちゃんのデレステでのコミュやモバマスでの魂が繋がっているという発言から

何かしら前世の記憶があって、プロデューサーと何かしら関わりを持ていたのではないか?

そう思って、このSSを作りました。正直言うと最後のラストに繋げたいがためだけに書きました。

正直、文章も稚拙なところが多くお恥ずかしいことこの上ないのですが、ここまでお付き合いいただき、本当にありがとうございました!

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