誓子「誕生日おめでとう」 揺杏「Happy Birthday」 (21)


由暉子「こっちの飾り付けは終わりました」

誓子「こっちも終わったわ」

揺杏「間に合ったね~。成香、ケーキは?」

成香「あ、ビリヤード台の下に置いてあります」

誓子「クーラーボックスなんだからどこでもいいのに」

成香「気分的に一番陰になるところがいいかなって……」

由暉子「今回は成香先輩が作ったんですか?」

成香「一応……揺杏ちゃんに教わりながらですけど」

揺杏「成香も作り方覚えたいって言うからさ。でも上手くできたよ」

由暉子「いいですね……次は私もやってみたいです」

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誓子「次ってユキの番じゃないの。自分で自分の作る気?」

由暉子「あ」

揺杏「それはちょっとな~。じゃあインハイでいいとこまで行けたら祝勝会ってことで」

誓子「そのためには大エースに英気を養って活躍してもらわなくちゃね」

成香「あ、そろそろ大エースさんが来る時間ですね」

由暉子「あれ……揺杏先輩、ケータイ鳴ってますよ」

揺杏「お、サンキュー」

誓子「爽からだったりして。寝坊したとか言って」

成香「お昼1時の約束で寝坊って……」

由暉子「爽先輩ならあり得ますね」

揺杏「はは……あれ、マジで爽からだ。
   『ごめんいけなくなったほんとごめん』――だって」


成香「えぇ!」

誓子「はぁ!?」

由暉子「……体調でも崩したのでしょうか」

成香「昨日はあんなに元気だったのに……」

誓子「もう……ほんっとにもう……」

由暉子「電話してみますか?」

揺杏「ん~通じないと思うよ。文面からしてかなり切羽詰まってる感じだし」

誓子「何もこんな日に……」

成香「何があったかわかりますか?」

揺杏「いや、わかんないけど。まあこういう場合は大体マジで来られないから、
   もうしょーがないってことはわかる」

誓子「そうね……はぁ……」

由暉子「先に練習をして、お祝いを後にしますか?」

揺杏「いや~それでも無理かな」

誓子「爽がこうなったら、帰って来るの早くても夜中になるわ」

成香「そんなに……」


揺杏「ま、来ないものはしょーがないから主役抜きでやっちゃおうよ。
   成香の渾身のケーキも悪くならないうちに食べたいし」

由暉子「いいんですか?」

誓子「そうね。手作りは日持ちしないし、食べちゃおう」

成香「せっかくだから爽さんにも食べてもらいたかったです……」

揺杏「じゃあ一切れだけ残してクーラーボックス入れとこうか。
   後で運動部から氷もらってくれば練習終わりまで持つだろ」

誓子「それで揺杏が持って帰って冷蔵庫入れとけば大丈夫ね。
   さすがに明日には帰って来るだろうし」

成香「揺杏ちゃんは爽さんと一緒の寮ですもんね」

由暉子「じゃあ切り分けますね。五等分で……」

誓子「難しいから六等分でいいよ」

成香「あ、一切れは先生に持っていきましょうか」

誓子「そうね。いつも爽の奇行に目つぶってくれてるし」

揺杏「部室での誕生日会も黙認してくれてるしね~」

誓子「1年生のときからいろいろお世話になってるわ……」

成香「昔はもっとやんちゃだったんですよね」

由暉子「体制に縛られない、言わばジョーカー的存在……かっこいい……」


誓子「――ん、おいしい!」

由暉子「これは……おいしいです」

成香「わぁ、よかったです」

揺杏「ふふふ……そして更に仕掛けがしてあるんだよね~」

誓子「え、なに?」

揺杏「実はこのケーキ、ロシアンルーレットになってます!」

成香「そうなんです!」

誓子「はい?」

揺杏「いや~爽から言われててさ。普通のじゃつまんないから遊びを入れようって」

誓子「何でわざわざそんな要素を……いやまあ、他の人じゃなくて自分のときにするのは
   成長したとも言えるか」

由暉子「ワサビでも入ってるんですか?」

揺杏「私はそっちでもよかったんだけど、成香が」

成香「そういうのは怖いです……どうせなら当たった人が幸せになる方がいいと思って、
   生キャラメルを一つだけ入れてみました」


揺杏「本内牧場特製の生キャラメルだよ~?」

誓子「それなら安心だわ。さすが成香ね」

由暉子「性格の差が出ますね。誕生日会を練習の前にする風習も爽先輩発案なんですよね?」

成香「麻雀部ではそれが定着してますよね」

揺杏「爽は昔からそうなんだよね。あいつの言い分だとさ、先に練習とか大変なこと済ませて、
   いざ楽しいことやろうとしたときに隕石が降ってきたらもったいないんだって」

誓子「それで楽しいことを先にやる方針なのよね」

由暉子「なんとも爽先輩らしい発想ですね」

揺杏「夏休みの宿題を最終日に一気にやるタイプって感じかな」

成香「私は先にやっちゃいます」

誓子「それでいいのよ。あの生き方はマネしない方がいいわ。爽はなんて言うか、
   引きの強さがそれを可能にしてるだけだから」

由暉子「引き、ですか。確かに麻雀でもここぞというところで引いてきますね」

揺杏「麻雀もそうだし、人生全般において引きが強いんだよね」

誓子「そのせいで損してる面もあるんだけど……」


成香「来られなかったのは残念です……後でメールでお祝いします」

由暉子「してなかったんですか? 私は日付が変わった瞬間に送りましたけど」

成香「起きてられないんです……」

誓子「成香は寝るの早いもんね」

揺杏「でもユキだって私のときそんな速攻でくれたりしなかったじゃん。
   なに、爽だけ特別だって~?」

由暉子「そういうわけではありません。最近クラスの友達に聞くまでそういう風習を知らなかったんです。
    中学の頃は機会がなかったものですから」

揺杏「あ、ゴメン……」

誓子「いや、まあ私も送ってないけどね」

揺杏「あれ、そうなの?」


誓子「どうせ誕生会やるからそのときでいいと思って。自分から大々的に祝えって言ってたし。
   その本人が来ないなんて思わないわ……」

揺杏「え、考えてること一緒じゃん。私も送ってないんだけど」

誓子「え。ってことは、現時点で送ってるのユキだけ……?」

由暉子「それで会も行けなくなったとなると……」

揺杏「……ちょっと同情してきた」

成香「今すぐ送ります!」

揺杏「いやーもう今更でしょ」

誓子「今頃なにしてるのかな……」

―――――――――
――――――
―――


爽「はぁ~やっと戻って来れた……もうとっくに日付変わっちゃってるし……
  あーあ、年に一度の主役になれる日が台無しだ……ケーキ食べたかったなぁ……」

爽「ま、しょーがないね。夜のうちに戻って来れただけでもよしとしよう。
  今回も無事解決したし。門限を余裕で過ぎてても部屋が3階でも窓から侵入できるし。
  サンキュー、フリカムイ」

爽「揺杏うまくやってくれたかなー、無断外泊は後がめんどくさいからな。
  適当にごまかしてくれたとは思うけど……まぁ全部明日だな」

爽「よし、侵入成功。帰ってきたぞ、ただいま我が家」

誓子「おかえり」
揺杏「おかえり~」

爽「うひゃぁ!?」


揺杏「静かにしろって」

誓子「見回りが来るんじゃない?」

揺杏「今ぐらいなら平気かな」

爽「え、なに、なんで私の部屋にいるの? 電気も点けないで真っ暗な中で?」

揺杏「いつもお互い好きに部屋入ってんのに何言ってんの。滅多に鍵なんて掛けないし。
   消灯時間過ぎてんだから電気は点けらんないっしょ」

爽「いや、まあ揺杏は、まあ。なんでチカまでいるの?」

誓子「なに、いちゃダメなの? 爽がいないのバレないように揺杏と協力してごまかしてあげたのに?」

爽「そうなんだ……いや、逆にチカがいるのバレたらやばいだろ。家は大丈夫なのかよ」

誓子「爽の誕生会で友達のところに泊まるって言ったらそれ以上は聞かれなかったわ」

爽「……え、じゃあ部活終わってから今まで二人でここにいたの?」

誓子「早めに家でご飯食べたりお風呂入ったりしてから来たけどね」

揺杏「私はともかくチカセンは寮の中動き回れないからね~」

誓子「ちょっと窮屈な思いはしたわね。まあほとんど揺杏と話したり遊んだりしてたから、
   退屈はしなかったけど」


爽「……そっか。あの、ゴメン、行けなくて」

揺杏「ほんとだよ!」
誓子「ほんとよ!」

爽「うっ……」

誓子「自分から厚かましく祝え祝えって言っといてこれだもん」

揺杏「後輩たちにドタキャンという悪い見本を見せちゃったね~」

誓子「ま、爽抜きでも四人で盛り上がったからいいけど」

揺杏「やっぱたまに麻雀から離れてトランプとかやるとおもしろいよね」

爽「くっそー……ねえ、やっぱ何があったか言った方がいい?」

揺杏「べつに。スケールがでかすぎて私ら凡人には知る由もないんだろうし。神のみぞ知るってね」

誓子「そうそう。どうせまた何か厄介なことに首突っ込むか巻き込まれるかして、遠くまで行って
   解決したもののちょっと気味悪がられたりして、大して感謝されることもなく帰って来たんでしょ」

爽「お前が神かよ」

揺杏「せっかくの誕生日に人助け優先で泥をかぶっちゃった幼馴染みを、まあ私らぐらいは
   労ってやろうかと思ってさ。門限工作ついでに二人で待ってたってわけ」

誓子「あれだから、なるかがせっかく心を込めて作ったケーキが悪くならないうちに食べさせようと
   思ったのが一番大きいから。爽に食べてほしいって一番言ってたのもなるかだから」


爽「……なんだそれ」

揺杏「泣いてもいいんだよ~?」

誓子「よしよし」

爽「泣かねーよ。でも……ありがとな」

揺杏「よーし、成香プレゼンツのケーキを食べなさい。腹減ってんじゃないの?
   一応ローソクもあるけどやる? 大っぴらに火つけるわけにはいかないから一本だけになるけど」

誓子「精神年齢的にはちょうどいいわね」

爽「……いいや、もう火はついてるし。私のハートにな!」

誓子「うわぁ……」

揺杏「くっせー」

爽「じゃあありがたく食べようかな。いただきまーす」

揺杏「召し上がれ」

爽「うっお! うまい!」

揺杏「そうだろそうだろ」

誓子「揺杏プロデュースだもんね」


爽「これは店を開けるレベル! それにしてもけっこうでかいな……
  一人で食べてんのもアレだし、揺杏とチカも食べてよ」

誓子「え、いいの?」

揺杏「あー、でもフォーク1本しか用意しなかったな」

爽「それなら特別に私が振る舞ってやろう。はい、あ~ん」

誓子「は?」
揺杏「は?」

爽「さっきから妙に息合ってんな……なんだよ、私の施しを受けられないって言うのか?
  今日の主役だぞ」

揺杏「日付変わってるけどね」

爽「北海道は時差でセーフだ」

誓子「よけい過ぎちゃうんだけど……まあいいわ。あ~ん……甘い! おいしい!」

揺杏「結局チカセンも甘いものには勝てないね」

爽「揺杏も。あ~ん」

揺杏「はいはい。あ~ん……うん、さすが私。程よい甘さ」

爽「いいねいいね。やっぱり持つべきものは幼馴染みだな。誕生日会に行けなかった切なさも
  お祝いメールほとんど来なかったのも全部帳消しだ……あ!」

揺杏「あ」
誓子「あ」


爽「行けないのわかったんならメールだけでも入れといてくれればよかったのに!
  全部終わって帰るときにスマホ見たら、夕方ぐらいに来た成香からの一件だけ!
  それより前だってユキからの一件だけ!」

揺杏「いやーほらあれじゃん? そっちがなんか大変そうなときにこっちだけ
   浮かれてんのも悪いじゃん?」

誓子「そうよ。大切なのは気持ちだから、日付なんて誤差よ」

揺杏「いや迷いはしたんだよ、ここで爽を待ちながらさ。今日中に帰って来る保証もないんだし、
   もう送っちゃっていいかなーって」

誓子「うん。でもやっぱりできることなら直接お祝いした方がいいと思って。
   決して忘れてたわけじゃないからね。揺杏と話してたのが楽しかったのは事実だけど」

爽「そりゃ行けなかった私が悪いけどさぁ……でも日付変わっても祝われた記憶がないんだけど」

揺杏「今まさに祝ってるじゃん」

誓子「リスクを背負ってまで真っ先にお祝いしてあげようという心意気を酌んでほしいわね」

爽「そうなんだけど、それは嬉しいんだけどさ、やっぱこういうのってはっきり形にして
  ほしいっていうか、言葉にしてほしいもんじゃん?」

揺杏「あれ、言ってなかったっけ」

誓子「そういえばそうだったかも」


揺杏「まあ、もったいぶることでもないし」

誓子「うん。爽――」

誓子「誕生日おめでとう」
揺杏「Happy Birthday」

爽「そこで揃わないのかよ!」

誓子「注文が多いわね。前もって打ち合わせしてない心からの言葉だって受け止めてもいいのに」

揺杏「いや、あれは照れ隠しじゃないの~?」

誓子「あ、そうか。暗くてあんまり見えないけど顔が赤くなってる気もするわね」

爽「そうですー照れ隠しですーほんとは嬉しくてたまりませんー」

揺杏「今度は開き直りでごまかしたね~」

誓子「落ち着きなくケーキをいじってるのが動揺を物語ってるわね」

爽「ああもう……ありがと、ほんとはいつもすっげー感謝してる。こうやって大事なときに二人が
  必ずそばにいてくれるのはほんとにうれしい……うれしい……」

揺杏「……感謝はこっちのセリフだよ」

誓子「うん。爽、いつもありがとう。爽が大変なときに私たちじゃ力になれないかもしれないけど、
   絶対見放したりしないから……これからもよろしくね」


揺杏「ほら、湿っぽくなんのはキャラじゃないだろー? ケーキ食べちゃいなよ」

誓子「私たちはお昼にも食べたし、もう十分」

爽「そうだな、最後の一切れは今日の主役の私が片付けなきゃな――ん、なにこれ甘い!」

揺杏「あれ、偏りできてた?」

爽「いや、なんか食感が違う……キャラメルだ! 甘い! おいしい!」

誓子「あ、そういえば誰も引かなかったから先生のところに入ったかもって話したわね」

揺杏「ここに来てたかぁ。でも六等分を更に三人で分けたから……十八分の一か」

誓子「ほんとに引きが強いわ……」

爽「引き?」

揺杏「今日そういう話してたんだよ。爽は麻雀でもなんでも引きが強い、そういう体質なんだって」

爽「そういうことか。まあ昔からわかってたけどね」

誓子「不思議なのに守られてるものね」

爽「それもそうだけど、それより何よりチカと揺杏という最高の幼馴染みを引いたからな!」

揺杏「あっは。それなら私も相当強い引きしてるわ」

誓子「ほんと。私の引きも神の子レベルね」

―――――――――
――――――
―――


爽「……あぁ~喉いてぇ……」

揺杏「鼻水止まんないし……」

誓子「体が重い……」

成香「みんな完全に風邪引いてます……」

由暉子「インハイ間近に何やってるんですか」

爽「やっぱ夏だからって裸で寝るもんじゃねーな」

誓子「だから明け方はけっこう涼しくなることあるって」

爽「脱げって言ったのチカだろ」

誓子「だって爽、暑くなると寝相悪くなるんだもん」

揺杏「あの暴れようじゃ最初から脱いどけって言いたくなる気持ちもわかる」


爽「寝相が気になるなら床で寝ればよかったのに」

誓子「座布団もなくて硬いし……いくら部屋主だからって爽だけベッドってずるいじゃない」

揺杏「爽が自分だけ脱ぐの不公平だから私らにも脱げって言ったのが悪いよね~」

爽「一人だけパンイチってなんか屈辱だろ」

由暉子「だからって全員で脱ぐって発想はおかしいですよね。やる方もやる方ですけど。
    それに一つのベッドに三人っていうのもおかしいですよね」

揺杏「まあべつにそんなに気になることでもないし」

誓子「うん。熟睡はできたんだけどね」

由暉子「……引きが強いのは爽先輩だけじゃなかったようですね」

爽「なに、風邪まで引いちゃったとか言っちゃうの?」

由暉子「いえ、仲が良すぎてドン引きです」



おしまい

爽誕に間に合わなかった
準決アニメ化で爽くん大人気になる日が来ますように

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