光の勇者と光の巫女 (402)


オリジナルssです
つたない文章ですが、よろしくお願いします

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1469890763


魔物がはびこるこの世界にかつて大きな戦争があった

最も大きく最も栄え、由緒ある騎士団を持つ大国家、シャガール王国
国の半分以上が雪と山に覆われており天然の要塞と化している要塞国家、ゼノン王国
他の2国に比べて小さいが戦闘力に長けた種族が多数おり、軍事力ならば全       
く引けを取らない軍事国家、ゲバラ王国

600年前、この国々の間で3国戦争が勃発
戦争は50年続いたという
終わらせたのは3人の英雄とその同士



そして現在
これはシャガール王国のとある青年の物語



レナード「おい待てって!また領主様に怒られるぞ!」

エル「大丈夫よ!森に入らなければ問題ないわ!」


「あらあら、またやってるわね」

「エル様に翻弄されるレナード、もはや日常の一部だな」

「ふふ、微笑ましいことじゃないか」


エルは毎度毎度こうだ
俺の話を全然聞こうとしない
あいつも俺ももう17で立派な大人
いい加減大人の女性としての慎みを持ってもらいたいものだ


エル「早くおいでー!あんたの両親に言いつけるわよー!無理やりわたしを連れ出したって!」

レナード「はぁ!?お前が俺を無理やり連れ出したんだろうが!」

エル「わたしの言葉とあんたの言葉、どっちを信じるかしらねー?」

レナード「ぐぬぬぬ…!この性悪女め!」

エル「あはは、性悪で結構よー」


くそ、さっさと捕まえて領主様の家に蹴り込んでやる
俺はまだ家の仕事が残ってるんだ


レナード「光よ…!」キィィン

エル「あ!ちょっと!それズル…」

レナード「ふっ!」ダッ


先ほどまでとは倍ほども違う速度でエルに迫り、すぐに捕まえる


エル「あーもう、ずるいわよ!『まとい』使うなんてー!」ジタバタ

レナード「はっ、何とでも言え!俺はこれを習得するのに5年もかかったんだ。文句は言わせん。さぁ戻るぞ」ズリズリ

エル「わたしだって光のホルダーなのにぃ…この卑怯者ー!」

レナード「だったら『まとい』が使えるようになるまで修行するんだな。俺は5年も修行してようやく修得したんだ。てか卑怯者とかお前に言われたくないわ!」


数十人に一人、生まれながらにある特殊能力を持つ者がいる
彼らは俗に所持者(ホルダー)と呼ばれる
彼らはそれぞれ火、水、風、雷の基本4属性か、闇、光の上位2属性のどれか一つを持つ
それらの力をある者は日常生活に役立たせ、ある者は戦闘に使う

大気に含まれるマナを目をゲートとして取り込み、体内に溜め込む
そのマナを今度は目のゲートから放出させる要領で能力を発動させているのだ
これによって能力を使用時は目に様々な変化が現れる
例えばレナードの『まとい』では目に光が宿る、などだ

能力は鍛えれば鍛えるほど強力になり、レナードが使った『まとい』ようにマナを目から身体に流し込み、身体能力を上げることも可能
ただ、日常生活では特に鍛える必要もないし、修得するのに時間がかかることもあってほとんどの人は火が少し出せる・それを操れるとか、小さな風を起こせるとかの域を出ない


「お、レナードがエル様を捕まえたようだぞ」

「今日はあんまり時間がかからなかったな」

エル「レナードが『まとい』を使ってきたのよ。みんなずるいと思わない!?」

「『まとい』ねぇ…」

「この村で使えるのはレナードだけだしな」

「ずるいと言われれば…まぁずるいのか?」

レナード「ずるくない。5年の努力の賜物だ」

「ははは、それは違いない」

「エル様、どうやら今日は堪忍した方がいいみたいですぞ」

「ですな」

エル「むー!」

「そういえばまた物をなくしちまってよ」

「またか?ここ1ヶ月で3度目じゃないか。流石に無くし過ぎだろう」

「自分で自分に呆れるよ…」


膨れっ面で領民達を睨んでいるエルをよそに領民達は会話に戻ったようだ


レナード「俺はまだ家の仕事が残ってるんだ。それが終わるまで待てって」

エル「…それが終わったら遊んでくれる?」

レナード「お前も勉強しろよ…。領主様から言われてるんだろ?」ハァ

エル「じゃあレナードが仕事してる間は勉強する。終わったら遊ぼうよ!」

レナード「はいはい。終わったらなー」


17になってこの有様だ
本当子供っぽさがいつまでも抜けない
領主様、育て方間違ったんじゃないっすかねぇ
まぁ、それがこいつの可愛いところでもあるんだが…


エル「…なに、こっちずっと見て」

レナード「なんでもねぇよ。ほら、いくぞ」


オレンジ色の短髪に見て分かるほどに鍛えている身体、身長は170cm強といったところだろうか
そんな17歳の青年、レナード・シルダはここシャガール王国ウェーバー領に住む一市民だ
そんなただの平民であるレナードとは違い、服装や気品が明らかに上級のものと思われる少女、エル・ウェーバー
もう察せるだろう。そう、彼女はここら一帯を治めているスウィフト・ウェーバー領主の娘である


何故身分が大きく異なる俺とエルが一緒に遊んでいられるのか、と言えば一重に領主のスウィフト様とその妻であるサティ様がいい人過ぎるからであろう
ウェーバー家は両親と息子、それに娘の4人家族だ
みんながみんな勤勉で頭がよくまわり、人望も厚い
それは領主であるスウィフト様は当然のことながら、妻のサティ様や長男のボルタ様も例外ではない

だがエル、こいつだけは違う
はっきり言って馬鹿だ
んでお転婆娘だ
だが妙なところで頭の回るやつでもある
ボルタ様がいる以上、跡取りという点ではまず心配ないだろう
ボルタ様はとてもしっかり者で、この人に任せておけば心配ないと思えるほどだ
今も勉強のために他の領地や帝都などを飛び回っているらしい

だが、だからこそだろうか
スウィフト様とサティ様はエルを甘やかし過ぎた
俺とエルが5歳の時に始めて会って以来、勉強が疎かになっても咎めず、俺と遊ぶことを許可している
俺の両親なんかは初め領主様の娘様と遊ぶなんて恐れ多い、とまぁ普通の反応を示していた
だがスウィフト様は

「どうかエルと一緒にいてやってほしい、この村で同年代の子はレナード君だけだ。エルは家にいるといつも寂しそうにしている。私も妻も、ボルタも忙しい身だから構ってあげられない。親として不甲斐ないが、どうかエルと仲良くしてあげてほしい。レナード君といる時のエルはとても楽しそうだ。だから、どうかお願いいたします」

と、俺の両親に頭を下げる始末だ
領主様にそこまで言われて断れるはずもなく、現在に至る


エル「勉強つまんないなぁ…」


ウェーバー邸の2階、階段から3つ離れた部屋で一人机に向かうエルはため息をつきながら窓の方をボーっと見ている
勉強すると言ってこれである
地頭はそれなりに良いのにも関わらず、ほとんど勉強をしてこなかったので機転や発想はいいが基本は馬鹿というなんとも残念な仕上がりになってしまったのである


エル「レナード仕事が終わるのは3時って言ってたな…あと2時間もある…はぁ」

「――、―――?」
「――!?―――――!!」
「―――。」

エル「ん?なんか庭が騒がしい…」


お客様だろうか?
とエルは机に突っ伏していた顔をのろのろと上げる

スウィフトを訪ねるお客さんは結構いる
1週間に1度来るか来ないかの頻度だ
領主の大事な仕事の一つが客人もてなしにあると言っても過言ではない


エル「ちょっと気になるけど…どうせまた難しい話してるだけなん…」


そう言いかけてまた机に頬を近づけようとしたその時


バァーン、とものすごい音がして思わずエルの全身が驚きで跳ね上がる


「こんちわーっす!!!『暴王の城』でーっす!依頼を受けて参上しましたよーっと」

「ダンテさん!!礼儀とか以前の問題です!人の家のドアを蹴って開けるとかあんた人として最低だ!」

「おう、自覚してる」

「あぁ、もう!」


エル「な、なに…?なんなの?」


大きな音のあとはこの部屋まで届く大きな声が二つ
ま、まさか客人じゃなくて強盗…!?
と不安がエルの頭をよぎる


エル「ど、どうにかしてお父様とお母様と逃げないと…!」


ここで一人で逃げようとしない辺りがエルという少女の人の良さを表している
だがそんなエルの心配はすぐに杞憂に終わる


スウィフト「お待ちしておりました、ダンテ様、ブレア様。王都からの長い道のりお疲れでございましょう。お茶を用意しておりますので、どうぞ中へお入りください」


と領主であり父でもあるスウィフトがいつも通りの声でそう言うのが聞こえた


ブレア「申し訳ありません。このような登場の仕方で…。この馬鹿にはきつく言っておきますので…」

ダンテ「お前は俺のお袋か」

ブレア「アンタは今は黙っててください!」


と、先ほどの二人の声も続いて聞こえる
お父様の反応を聞く限り強盗でなく、普通に客人であるらしいと理解したエルは安堵の息をもらす
だがそうなると次はどのような人物が来たのか、と気になってしまうのがエルという少女だ


エル「勉強なんてしてる暇はないわ…!」


レナードが聞いたら憤慨しそうな発言の後、エルは物音を立てないように自室のドアを開け、廊下へと繰り出す
目標は玄関ホール
ふっ、余裕だぜ
と、わけの分からない余裕を感じてエルは忍び足で1階に続く階段へと向かう


ダンテ「あー、そういうもてなしとかはいいや。さっさと仕事の話をしようや」

ブレア「そのためにも話し合う場が必要でしょうが!んでそのためにわざわざスウィフト様がお茶を用意してくださってるですよ!察せよ!」

スウィフト「は、はは…」


珍しく父親の困惑したような声が聞こえる
これは面白いことが聞けそうだ、とエルは興奮度を増していく


ブレア「とにかく行きますよ。せっかくおもてなしをして下さっているのにそれを断るなんて…無礼もいいところです」

ダンテ「へいへい、分かりましたよー」

スウィフト「で、ではご案内いたします…」


階段中腹、玄関ホールを見渡せる位置まで来たエルは下を見下ろす
後ろには大きな窓があり、そこから差し込む光で玄関ホールは明るく照らされている
下には父親の他に、黒髪で細い剣のようなものを腰にぶら下げているおじさん臭さがにじみ出ているような人が一人、そのすぐ傍で疲れた様子の長い剣を背中に携え、銀髪に眼鏡をかけた好青年といった人がもう一人
エルは彼らを見てほー、と意味もなく息を漏らす

彼らはどうやら応接間に案内されるようだ
客人が来ると決まってまずその部屋に案内していることはエルも分かっているので、ばれないように身を隠しながらついていく


ブレア「ん?」クルッ

エル「やばっ…!」バッ


ブレアと名乗った男性が突然エルの方を向くので慌てて身をかがめ、下からは見えないようにする
まさかばれた…!?とエルは緊張感に包まれる


スウィフト「どうされました?」

ブレア「…いえ、なんでもございません」クルッ


…どうやらばれてはいない様子
緊張から開放されたエルはその場にへなへなと力なく転がる


エル「あ、危なかったー…!でもわたし足音とかなんも立ててなかったはずなんだけどなぁ…。なんであの人気付いたんだろ?」


疑問は解けないが、エルは今はそんなことはどうでもいいかと頭を左右に振り、応接間の扉に張り付いて中の声を聞こうとする


スウィフト「妻のサティです」

サティ「この度は依頼を受けていただき感謝いたします」

ブレア「いえ、領主様の依頼、引いては騎士団からの依頼でもありますからね。報酬に加えて騎士団に借りを作れたと思えばお釣りが出るほどですよ」

スウィフト「早速ではございますが依頼の内容を…」

ダンテ「なー、ブレア。お前らもうちょい騎士団と仲良くできんのか?」

ブレア「無理ですね。やつらはいつも私達の邪魔ばかりしてくる。ふっふっふ、今回の借りは何倍にもさせて返させますよ…!」

ダンテ「おーこわ。俺知らねーっと」

サティ「えっと…」

スウィフト「…あ、あの、よろしいでしょうか?」

ブレア「あぁ、申し訳ありません。今回の依頼内容ですね」


両親が揃って戸惑う姿など久しぶりに見たな、とエルは少しにやっとする
1年ほど前にいたずらをした時以来だろうか
また今度久しぶりにいたずらを仕掛けてみよう、と到底17歳に思えぬ思考をはしらせる


ブレア「私達が聞いている依頼では活性化した魔物の討伐、ということでしたが…」

スウィフト「はい。ここ1ヶ月ほど何故か周囲の森の魔物が活性化しており、村の自衛団だけでは対処が間に合っていないのです」

サティ「既に村の作物や家畜、人的被害も出ております。幸い大怪我を負ったものは出ていませんが、それもこのままでは時間の問題かと」

ブレア「魔物の活性化…」

ダンテ「基本的に魔物は夜になると活性化するが、それとはまた別ってことだな?」

サティ「はい…。村の自衛団が調査しているのですが、理由はまだ判明しておりません」

スウィフト「こんなことは初めてでありまして…。正直、混乱しているのが現状で…」

ブレア「無理もない。魔物の活性化などそうそうあるものではありません。それこそ、マナの暴走や意図的に誰かが介入でもしない限りは、ね」

スウィフト「村の自衛団だけでは魔物を追い払うのが精一杯でして…。そこで帝都の騎士団に依頼をしたのですが…」

ダンテ「騎士団は今忙しいからなぁ…」

サティ「はい。返事は決して良いものではなく…」

ブレア「そこで私達に声がかかった、というわけですね」


ダンテ「騎士団としても領主からの依頼を簡単に断るなんてことができるわけがないからな。代わりに俺らを向かわせたってことか」

ブレア「こう言ってはなんですが、私達はさほど忙しいわけでもありませんしね」

ダンテ「ギルドとしていいのか、それ」

ブレア「アンタが言うな!誰のせいだと思ってるんですか!!アンタやハイドン、マーガレットが各方々で問題起こしまくってて印象が最悪だからでしょうが!!!」

ダンテ「まぁまぁ。そんな怒んなって」

ブレア「あー、もう!!!」


これは何かのコントだろうか?
エルすらも困惑した表情となっていた
だが聞き逃せないことも聞いた
森の魔物が活性化している?
そんなこと聞いたこともないことだった
だから先日森に入った時に厳しく怒られたのか


スウィフト「あなた方には魔物の討伐、及び沈静化を依頼したい」

ブレア「ん、んん!はい、承知いたしました。その依頼、正式にお受けいたしましょう」

サティ「あ、ありがとうございます!」


ブレア「報酬は依頼書の通りでいいとして、他に何かありますでしょうか?」

スウィフト「我々としては特に何もございません。報酬もきちんとお支払いいたします」

ブレア「結構。では私共は早速調査に向かいますので、一旦これで失礼いたします」

サティ「宿の方は村で一番のものを用意させましたので…」

ブレア「あぁ、いえ大丈夫だと思います」

サティ「え?」

ブレア「恐らく今日中に片付くと思うので」

スウィフト「きょ、今日中…!?」


今日中…!?
エルは玄関ホールの時計を見る
既に時刻は昼を過ぎており、太陽も徐徐に傾き始める時間だ
今日はもう残り半日しかないと言うのに
村の自衛団が1ヶ月かけて解決できなかった問題をたった二人で、しかも数時間で解決するなど本当に出来るのだろうか?
と、足音が近づいてくるのが聞こえ、エルは思考を一旦やめて急いで2階の階段へと向かう


応接間から出てきた二人はそのまま玄関へと向かい、外に出て行ってしまう


ダンテ「取り合えず村を見て回るか」

ブレア「そうですね。私達の考えが正しければ恐らくどこかに―――」


二人の会話が聞こえなくなり、エルも一度部屋に戻った
これはすごいことを聞いてしまった
レナードに今すぐ伝えなきゃ、とすぐに着替えと支度を済ます
両親に見つからないように玄関を出てすぐにレナードの家へと向かい、走る


エル「レナード!私すごいこと聞いちゃった!!」

レナード「うおっ!?エル…!はぁ、俺はまだ仕事があるって言っただろう…」

デニソン「おや、エル様ではないですか」

エル「こんにちは、デニソンおじさん」

デニソン「はい、こんにちは」


レナードは村唯一の鍛冶屋の一人息子だ
父親のデニソンから技術を教え込まれ、現在は簡単な道具や剣ならば作れるほどに成長している
なにより目利きでは父親にも劣らぬものがあり、本人の武器趣味もあって剣などの知識は既に父親を超えていると自負している
ただこんな村では剣など作っても使う場面がほとんどなく、主に作っているのは包丁や斧などの日常生活で使うものばかりだ
それでもレナードは文句一つ言わずに仕事をしている辺り、真面目さがよく分かる
レナードの両親も自慢の息子だと村で言いふらすほどだ
本人は恥ずかしいから辞めろと言っているのだが聞いてくれた例は一度としてない


エル「ってそれどころじゃないの!今ね、この村にギルドの人が来てるんだって!!」

レナード「は?ギルド?」


エルは家で盗み聞きしたことを全てレナードに伝える


レナード「お前盗み聞きなんてすんなよな…」

エル「えへへー、好奇心には勝てなかった!」

レナード「はぁ…。で?それを俺に伝えてどうしようってんだ?」

エル「見に行こ!」

レナード「は?」

エル「魔物も、ましてやその討伐なんて始めて見るじゃん!」

レナード「だからって…はぁ…」


レナードは呆れの溜め息を吐く
そんなもん危険だから駄目に決まってるだろ、と言おうとするが


エル「ギルドの人達、なんか見たことない剣もってたよ」

レナード「」ピクッ

エル「一人は細い直剣みたいなやつで、もう一人はなんか長い剣を背負ってたを」

レナード「」ピクピクッ

エル「あー、気になるなぁ…とっても気になるなぁ…」

レナード「ぬ…」


よし、もう一押し、とエルはさらに追撃を加えようとするが


デニソン「レナード」

エル「!」

レナード「親父…」

デニソン「危険だ。辞めなさい」


く、ここで伏兵か!
とエルはまずいと思ったのか慌てだす


デニソン「エル様もお止めになってください。スウィフト様とサティ様がご心配されます。先日森に入った時も怒られたでしょう」

エル「う…」

レナード「そう…だな…。エル、今回は諦めろ」


レナードもすっかり反対派になってしまったようだ


レナード「今森に近づくのは危険すぎる。最近自衛団のみんなを見ないと思ったら、そんなことになっていたとはな」

デニソン「子供達には内緒にしていたが、大人たちはみんな知っていた。お前もエル様も年齢では大人だが、まだまだ子供のうちだ。だから、教えなかった」

レナード「ああ…分かってる」

エル「…私、帰るね」

レナード「エル…」


もはやレナードを同行させるのは無理だと判断したエルは素直に退散するのが吉だと踏み、扉へと向かう


エル「お邪魔しました、デニソンおじさん」

デニソン「気をつけてお帰りください。レナード」

レナード「ああ。家まで送るよ」

エル「いや、いいよ。そんくらい一人で帰れる」


そう言い残してエルはレナードの家を駆け足で出て行く
今家に戻って両親に捕まれば十中八九今日はもう開放してくれないだろう
レナードが着いて来れば捕まる可能性も高い

こうなったら一人でも行く、とエルは決心した



そして夕方
事態は動きだす


残りは明日投下したいと思います

地の文はまぁ多めに見てくださいw

では失礼します

荒らしその1「ターキーは鶏肉の丸焼きじゃなくて七面鳥の肉なんだが・・・・」 
↓ 
信者(荒らしその2)「じゃあターキーは鳥じゃ無いのか? 
ターキーは鳥なんだから鶏肉でいいんだよ 
いちいちターキー肉って言うのか? 
鳥なんだから鶏肉だろ?自分が世界共通のルールだとかでも勘違いしてんのかよ」 
↓ 
鶏肉(とりにく、けいにく)とは、キジ科のニワトリの食肉のこと。 
Wikipedia「鶏肉」より一部抜粋 
↓ 
信者「 慌ててウィキペディア先生に頼る知的障害者ちゃんマジワンパターンw 
んな明確な区別はねえよご苦労様。 
とりあえず鏡見てから自分の書き込み声に出して読んでみな、それでも自分の言動の異常性と矛盾が分からないならママに聞いて来いよw」 
↓ 
>>1「 ターキー話についてはただ一言 
どーーでもいいよ」 
※このスレは料理上手なキャラが料理の解説をしながら作った料理を美味しくみんなで食べるssです 
こんなバ可愛い信者と>>1が見れるのはこのスレだけ! 
ハート「チェイス、そこの鰹節をとってくれ」
ハート「チェイス、そこの鰹節をとってくれ」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1469662754/)


余談
7 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします sage 2016/07/28(木) 09:06:48.44 ID:10oBco2yO
ターキー肉チーッスwwwwww
まーたs速に迷惑かけに来たかwwwwwwwww

9 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします sage 2016/07/28(木) 09:12:33.84 ID:LxY8QrPAO
>>7
はいNG設定


この速さである
相変わらずターキー肉くん=>>1という事を隠す気も無い模様

31 ◆xmciGR96ca4q sage saga 2016/07/28(木) 12:50:19.79 ID:g6WSU+sH0
昨夜寝ぼけてスレ立てミスったんで憂さ晴らしも兼ねて久々のロイミュ飯でした。書き溜め半分残り即興なんで色々アレかもしれませんがアレがアレなんでアレしてください何でもシマリス(熱中症

建てたら荒れると判ってるスレを憂さ晴らしに建てる
つまり>>1は自分の憂さ晴らしにs速を荒らして楽しんでる

うーん、いつも通りのクズ>>1で安心するわー


こんにちは
投下します


レナード「ふぅ、今日の仕事はこれで終わりかな。思ったよりかなり長引いちまった」

デニソン「お前も腕を上げたな。いい包丁だ」

レナード「なに、親父の教え方が上手いんだよ」

デニソン「嬉しいこと言ってくれるじゃねぇか」

レナード「さて、ちょっとエルのとこに行って来るか」

デニソン「昼は俺も少しきつく言いすぎたかもしんねぇ。謝っておいてくれるか」

レナード「いや、あいつはきつく言わんとわかんねぇさ。んで、いじけたあいつを宥めるのは俺の仕事だ。夜飯までには戻るよ」

デニソン「あいよ、行ってこい。お姫様の騎士殿」

レナード「やめろって」


汗だらけの服を脱ぎ、身体を拭いて新しい服に着替える
さすがに汚い状態で領主邸へと向かうのはまずい
しかし、今日のエルは珍しく聞き分けがよかったな
あいつも成長してくれたか、と少し嬉しくなるレナードは自宅を出る

すると村の何人かが集まってなにやらざわざわしているのが見えた
なんだろう、と駆け寄ると向こうもこっちに気付いたらしく


「レナード!ちょうどいいところにきた!」


レナード「どうした?なにかあったのか?」

「実は…」




「どうやらエル様の姿が昼から見えないらしい…!」




レナード「な…!?」


なんだと!?
エルは家に戻ったはずじゃ…!


「お前の家から出てくるのを見かけたってやつは何人かいるんだが、その後の消息が分かっていない」

「お前が仕事してるのは分かってたから、てっきりご自宅に戻られているのかと思っていたが…」

「さっき、領主様がエルを見なかったか…って」


なんてことだ…


レナード「あいつは多分…森だ」


そう言った直後、みんなに動揺が広がる


「森だと…!?」

「まずい、今は魔物が活性化して…!」

「お、おい!」

レナード「いや、大丈夫。既に親父から聞いてるよ」


「そ、そうか…」

「だが…それが本当だとするとかなりまずいことになる…。ただでさえ活性化しているというのに、もう夜になる。夜になってはさらに活性化してしまうぞ!」

「急いで捜索しよう!」

「自衛団にも知らせろ!」

レナード「俺も行く!」

「レナード…!いや、それは…」


レナード「あいつを守るのは俺の役目だ!!」


「…分かった。では剣をもって来い。最悪、魔物と戦うことになる。俺は先に行っているからお前も追いついて来い」

レナード「あぁ!!」


急いで自宅に戻り、部屋に置いてある剣を手に取る


デニソン「レナード?どうした、やけに早いな…」

レナード「親父、エルが消息不明だ」

デニソン「なに!?」


レナード「俺達の家を出てから消息が分かってないらしい。てっきり家に戻っているもんだと思ってたが、多分、あいつ一人で森に向かいやがった!」

デニソン「なんてことを…!俺も探すぞ!」

レナード「頼む!もう村のみんなが捜索を開始してる。最悪魔物と戦うこともあるだろうから武器を持って来いって」

デニソン「分かった!」

レナード「俺は先に行く!」


家のドアを勢いよく開け、森へと駆け出す
エル…!!

―――――――――

その頃森では…

エル「あの人達見失っちゃった…どこ行っちゃったんだろ…」


エルは村で情報収集をしていたダンテとブレアを見つけ、あとを着いてまわっていた
二人は情報収集を終えると森に入っていき、期待と興奮に染まっていたエルはもはや歯止めがきかず、一切の躊躇もなく二人に続いて森へと入っていった
だが奥へどんどん進む二人に対してエルはついていけず、遂には取り残されてしまった


エル「い、今の森って危ないんだよね…戻ろうかな…」


孤独になったエルは興奮が冷め、ようやく自分の置かれた状況を把握する
危険な森に一人ぼっち
いくらエルでも今の状況が非常によろしくないのは容易に理解できた
村に戻ろう
そう決めて振り返るが


エル「…あれ…村、どっち…?」


森の手前ならいざ知らず、ここはエルも踏み込んだことのない森の奥
周りを見渡して草木ばかりで方向の判別が出来ない
さらに太陽は沈みかけ、視界は悪くなっていく一方だ


エル「えっと…ど、どっちだろう…こっち、かな?いや、でもあっちの気が…」


方向の区別がつかず、視界は悪くなる一方
流石にエルも焦り始め、鼓動が早くなる


エル「ど、どうしよう…」


冷や汗が頬を伝うが、今のエルはそんなことにも気付かないほど切迫していた


エル「ひっ…!?」


ガササッと音がして近くの茂みが揺れる
だが現れたのは小さな小鹿
緊張していたエルの身体は一気に力が抜けていく


エル「レナード…」


エルはとうとうその場にへたり込み、手で顔を押さえてうつむいてしまう
レナード、その言葉だけが嫌に自分の耳に残った


――――――――――――――

「見つかったか!?」

「いや、まだだ…!」

「こっちも見つかんねぇ!」


既に森に入って捜索を始めて1時間
未だエルを見つけることは出来ずにいた
村の者達は5人程の小さな集団をいくつか作り、そこに自衛団の者を一人加えて捜索していた
だが成果は何もなく、手がかりすらも見つけることはできないでいた


レナード「はぁ、はぁ…くそ、どこにいるんだよ!エル!」


レナードは唯一『まとい』が使える人間だ
無理を言って一人で捜索をしている
その方が効率はいいだろうが危険だ、とみんなは言ったがレナードは聞く耳を持たず、一人で森へと駆けていった


レナード「まずい…もう陽が完全に沈んだ。早く見つけないと!」


焦る気持ちは押さえ、細心の注意を払い、だが迅速にレナードは森を探し回る
『まとい』を常に発動させており、移動速度は常人の倍だ
だが当然いつまでも使えるわけでなく、限界はくる


レナード「くそっ、もうマナも少ししか残ってねぇ…」


マナを体内にためておける容量は人それぞれだが、レナードは特別多いわけでもない
エルは常人より遥かに多いらしいが、レナードはそんなこともない
鍛えれば容量は増加するが、5年程度の修行ではそれほど増えてもいない
1時間ぶっ通しでマナを使えば、ほとんど無くなるのは至極当然のことであった
レナードは万が一魔物と戦闘になった時、マナがなくなっていてはまずいと『まとい』を解除した


レナード「エル…すぐ見つけてやるからな…!」


それでもレナードは足腰の筋肉を奮わせ、全速力で森を駆け回る


―――――――――――――

エル「レナードぉ…」


エルは変わらずその場で座り込んでおり、一歩も動けないでいる


エル「いつもみんなやお父様、お母様に迷惑かけてたから…その罰があたったのかな…」


弱気になったエルはらしくもない考えを始める
よくない傾向だ


エル「謝ったら…みんな許してくれるかな。…!!」


と、暗い思考をしていると再び茂みが揺れる
しかも音がどんどんと近づいてきているようで、エルの身体に再び緊張がはしる


エル「また小鹿さんかな…って、そんな都合よくいかないかな」




「グルルル…」




茂みから現れたのは狼のような魔物だ
村で飼っている犬の3倍はあろうかという巨体に漆黒の毛
目が赤く光っており、通常の獣とは明らかに違うと分かる


「ワォーーーーン!!!」

エル「ひっ…!」


エルに恐怖が舞い戻る
狼の魔物の雄たけびは獲物を見つけた歓喜の叫びか
弱者であるエルには抵抗する術がない
このままでは大人しく餌食になるのみだ


逃げなくては


エルもそれは分かっている
だが身体が言うことを聞いてくれない
いくら立とうとしても力が入らないのだ


エル「あ、足が…!なんで…なんでよ…!」


必死に力を込めようとするが、それも徒労に終わる
それどころか身体は恐怖のあまりに震えだす

「グルルル…」

ノシ…ノシ…
と魔物はじりじりとゆっくり距離をつめる
すぐに飛び掛ってこないのはまだ警戒しているからだろうか
だがその必要がないと判断された時、エルの命は潰える


エル「くっ…この!!」


エルは地面の土を手で掻いて魔物へと投げつける


「ワゥッ!!」


魔物はさっと後退することでそれを避ける
警戒心はやや上がっただろうか


エル「力が入ってきた…!」


今の攻撃とも言えない悪あがきでも相手を退かせられたというのは、エルの心に勇気をもたらした
足に力が入ってきており、立つこともできる
逃げることができる
エルは立ち上がり、魔物と向かい合いながら徐徐に距離を取る


エル「はぁ…はぁ…」


既に疲労は限界を迎えている
森を歩き回り、家を出てから水もろくに飲んでいない
肉体的にも、そして精神的にもエルは限界だった


魔物はエルに対して徐徐に警戒を下げているのか、エルに近づくチャンスを窺っているようだ

背を向けたら一瞬で終わる
エルは本能的にそれを察知していた

この魔物が力を持たないエルを警戒しているのはエルがすぐに逃げ出さないことが原因だ
すぐに逃げ出さないということはもしかしたら反撃されるかもしれない
そんな動物的本能が魔物に働いていた
だがそれも最初のうちだけ
このままでは碌な反撃がないことがばれるだけ
現に魔物は徐徐に詰めて来る距離と速度が増してきている


「グルルルル…!」

エル「はぁ…はぁ…」

「グルァッ!!」

エル「…!!」


遂に痺れを切らしたのか、魔物はエルに飛び掛ってくる
反撃の力がないエルではどうしようもない


エル「っ…!!」


頭をかかえてその場でうずくまる
頭を守ろうとするのは動物としての本能だろうか
だがそれも鋭い牙の前では何の意味ももたない
終わりだ



「おぉぉぉぉぉ!!!」




「グギャウ!?」


牙がエルの腕に当たろうとした瞬間、魔物の身体が真横から衝撃を受けて吹き飛ぶ


エル「え…」


エルは恐る恐る顔を上げる
そこには




レナード「エル…!ようやく見つけたぞこの野郎!!」




エルが今最も会いたい存在、レナード・シルダがそこにいた


エル「レナー…ド…。レナードぉ…!」


必死に耐えていた涙が溢れ出す


レナード「無事か…?怪我は?」

エル「だい…じょうぶ…グス」

レナード「よかった…」


レナードはほっと息をつく


エル「どうしてこの場所が…?」

レナード「魔物の咆哮が聞こえたんだよ。多分、あいつが放ったもんだろ。聞こえた方角に無我夢中に走ってったら今まさに襲われようとしてるお前も見つけた」


皮肉にも魔物のおかげでエルが見つかったということか
レナードはその魔物へと向きなおす

『まとい』で強化された状態での体当たりだが、魔物は未だピンピンしているようだ
人にむけて体当たりすれば骨折はまぬがれない威力なのだが…
この丈夫さでは自衛団のみんなが苦戦するのもうなずける


レナード「ちっ、まさか本当に魔物と戦うことになるとは…。剣持ってきて正解だったぜ」


レナードは剣を抜いて構える

魔物は怒り狂った様子で殺気を走らせている
さしものレナードにも恐怖が襲う
当然だ
自分の身体ほどもあろうかという魔物と一人で立ち向かうのだ
さらに今は夜の森
完全に向こうのホームである

だが逃げるわけにはいかない
レナード一人ならば『まとい』を使って逃げることも出来るだろうが、今レナードの後ろにはエルがいる
彼女を連れた状態でやつから逃げることなど到底不可能だ
倒すしかない
レナードは剣をぎゅっと握りなおす
マナは尽きかけている
恐らく、『まとい』をかけていられるのはあと約30秒が限度だろう
その間に仕留めなければならない


レナード「ふぅ…」


恐怖している心を落ち着かせ、身体に力を込める


エル「レナード…」

レナード「大丈夫だ。俺の後ろにいろ」

エル「うん…」


制限時間は30秒
覚悟を決めるしかない


レナード「うぉぉぉぉ!!!」

「グガァァァ!!」


両者は同時に動き、正面から激突する


レナード「ぐっ…!」


魔物の鋭い爪を剣の腹で受け止める
だが『まとい』を使っていても力は向こうが上なのだろう
徐徐に押し込まれていく
レナードは正面からでは分が悪いと即座に判断し、距離を取る


レナード「力で負けてても、速度なら!」


魔物の後ろに高速で回りこみ、斬りかかる
魔物の対応が遅れ、浅いが斬り込みが入る


レナード「よし!」


浅い、だが確かな感触を掴んだ
レナードは再び距離を取り、動き回ることで魔物を翻弄しようとする
だが


「ガルァ!!!」


レナード「なにっ!?」


魔物はレナードの動きを即座に捉えると牙を尖らせて突撃してくる


レナード「くっ!」


それを間一髪で避けるが、わずかに服にかすったようだ
その部分がまるごと消失している
身体中から嫌な汗が出るのが分かる
レナードの身体に再び緊張が走る


レナード「速度でも駄目なのかよ…」


今度は先ほどまでとは逆に、魔物がレナードを翻弄するかのようにレナードの周りを駆け回る


「ガァル!グルルル…!」


タイムリミットの30秒は刻々と近づいている
レナードは必死に頭を回らせる

考えろ!考えろ!考えろ!考えろ!考えろ!!!!




…無理…なのか?




レナードの頭にそんな考えが浮かぶ
その直後


エル「レナード!!」


レナード「…!!」


エルが自分の名前を呼ぶのが聞こえた
不安だったのだろう
心配だったのだろう
俺はエルを守ると誓ったのに
誰にでもない、自分自身に誓ったのに

その俺が諦めるのか?
俺がこいつを守ると決めた5年前のあの日から、俺は修行を重ねてきた
修行して修行して、ようやく『まとい』を使えるようになった
これであいつを守ることができる


そう思っていたのに、こんな魔物一匹からも守れないのか?


―――違う!


こんなところで諦めるわけにはいかない
まだ武器はある、マナもある
まだ戦える
力は残っている
諦めるには…早すぎる!


「ガァァァァァ!!!」


魔物が鋭い牙を立ててものすごい勢いで突撃してくる

一か八か


レナード「おぉぉぉぉ!!!」


レナードは両手で持っていた剣から左手を離し、顔の前へと持ってくる

そして


「ガァゥ!!」

レナード「づっ…あぁっ!!!」


魔物が勢いよくレナードの左腕に噛み付いた
その瞬間鮮血が散るのが暗い夜でも分かった
自分の顔にかかり、その量から尋常ではない血の量だと感じ取れる


エル「レナード!!!」


痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い!!!

けど


レナード「捕まえたぜ…この野郎!」


レナードはそのまま左腕をひねり、魔物の頭をその手でしっかりと掴む
魔物もまずいと思ったのか口を離し、逃げようとする
だが


レナード「5年の修行を舐めんじゃねぇぞ…!」


「グル…!ガ…ァァ!!!」


『まとい』によって強化された腕は魔物であっても容易に振りほどくことは出来ない
そしてレナードは右手に力を込める


レナード「終わりだぁぁぁぁぁ!!!」


剣がまっすぐ振り下ろされ、そして



鈍い音とともに、魔物の首と胴体が斬り離された



残された胴体はその場で力なく倒れる
魔物の頭部がレナードの左腕から解放され、まるで跳ねないボールのように地面を転がった


レナード「はぁ…はぁ…。ぐ…ぁぁぁ…!」


呼吸を整える間もなくレナードはその場で膝をつき、激痛を押さえ込むかのように左腕の傷を右手で押さえる


エル「レナード!!」


エルがレナードに駆け寄り、その傷を見て絶句する


エル「レナード…!き、傷が…!こんなに血が…!あぁ、どうしよう…!」


エルの慌てふためく姿が目に入った
駄目だ、エルをこれ以上不安にさせてはいけない


レナード「だい…じょうぶだ…こんなもん…唾つけときゃ治る…」

エル「唾って…何言ってるの!こんな時に冗談はやめて!」


気丈に振舞おうとするが、マナを使い切ったことによる身体のだるさと疲れ、そして傷のせいで身体が全く動かない
早くエルを連れて村に帰らないといけないのに…


と、その時


ガサッ


再び茂みから音が聞こえた


エル「え…」


ガササッ ガサッ ガサッ


しかも一つではない
四方八方あらゆる方面から音が聞こえる
緊張が一気に高まる
そして、茂みから現れたのは


「グルルルル…!」


さっきの狼の魔物だった
それも1体ではなく、複数である



レナード「群れ…だと…!?」



先ほどの魔物と全く同じ魔物が10体ほども現れる
さらに恐ろしいことに、やつらはさっきの魔物よりも一回りもでかい
とある1体はそれらよりもさらに一回り大きいようだ
全員が全員恐ろしく怒っているようで、威圧感で押しつぶされそうだった


レナード「おいおい…嘘だろ…。まさか…さっきのやつは群れの子供で、こいつらが大人だってのか…」


そうとしか考えられない
身体のサイズ的に、倒した魔物は今回りを囲んでいるやつらの子供であると判断できる
さらにはこの怒り様
群れの子供が殺されてはこの怒りも当然だと言えよう


レナード「ぐ…!」

エル「あ…あぁ…」


レナードの身体は動かず、出血のせいか意識すらも薄れてくる
エルも再三の恐怖のあまりその場で呆然としている

諦めるな
言うのは簡単だ
だが現実を見ろ
苦労して大怪我してようやく倒せたやつより遥かに強いやつが10体
奇跡が起こっても無理だ


レナードは唇を噛み締める



レナード「俺に…俺にもっと力があれば…!」



―――エルを守れるのに



「オォォォォォ!!!!」


一際大きい魔物、群れのボスだろうか
そいつが雄たけびをあげると同時に魔物が一斉に動く
牙と爪が二人に襲い掛かり、そして…



「グガゥ…!?」

「ギャンッ!!」



何が…?
…熱い…?

レナードが途切れかけていた意識を起こし、周りを見渡すと


炎が、二人を囲っていた


レナード「な、なにが…」




「ギリギリ、間に合いましたね」




上からそんな声が聞こえると同時に、二人の傍に一人の人間が降り立った
その男は右手に長剣を携え、銀色の髪をたなびかせている


ブレア「大丈夫ですか?お助けに参りました」


ギルド「暴王の城」副リーダー、ブレア・マーカーがそこにいた


レナード「たす…け…?」

ブレア「はい。魔物の雄たけびが聞こえたのでもしやと思い、急いで向かってきたのですが…ギリギリ間に合ったようでよかったです」

エル「あ、あなたは…ブレア…さん?」

ブレア「おや私を知って…。あぁ、あなたは領主様のお屋敷で我々を覗いていた方ですね。領主様の娘さんですか?悪い子です」

エル「え…」


気付かれていたのか、とエルは驚く


レナード「魔物たちは…」

ブレア「この炎の壁の外にいるんじゃないでしょうか。気配…どころか殺気をひしひしと感じますよ」


この男は冷静に何を言っているのか
脅威はまだ去っていない
この炎が消えてしまえば、またやつらが…


ブレア「あぁ、ご安心を」

レナード「…?」

ブレア「この炎は私が作っているので消えることはありません。それに…」


ブレアがそう続けようとした瞬間、急に身体が重くなったように感じた


ブレア「この炎の外には我らがリーダーがいますので、大丈夫です」

レナード「なっ…!?一人でやつらと…!?無茶だ、加勢に…!」


ブレア「いえいえ、その必要はありません。むしろこの炎の結界から外に出ないでください。この結界で大分抑えていますが、外に出たら『重力』をもろにくらいますよ」

レナード「重力…?」

ブレア「そうですね…外を見れば分かります。炎の壁を低くしてみましょうか」


そう言うやいなやさっきまであった2mはあろう炎の壁か1mほどまで下がり、辺りを見渡すことが出来るようになった
そしてそこには


「おーおー、うじゃうじゃいんな」


何故だろう
魔物達が揃いも揃って地面に伏せている
まるで、見えない圧力で無理やり抑えられているかのように


ブレア「ダンテさん、一人重傷者がいます。すぐに片付けてくださいよ」

ダンテ「へいへい」


ダンテと呼ばれた男は腰にある剣も抜かずにただそこに立っているだけである
であるというのに、何故だろうか
この程度の魔物達ではこの男に絶対勝てない
レナードはそんな予感を通り越した、確信を覚えていた


ダンテ「んじゃひとまず、やりやすいようにまとまってくれや」


そう言った瞬間、10体もの魔物が見えない力に引っ張られるように一箇所にぎゅっと集められた
集められた後でもその力は働き続け、魔物達をそこに固定する
魔物達は苦しそうにもがいているが、もがくだけでその場から逃れることが出来ない
ダンテと呼ばれた男は腰の剣に手をかけ


そして


キンッ


と、音がしたかと思うと…
魔物達の身体は周りの木ごと横一線に真っ二つとなっていた


エル「は…え…?」

レナード「な…!」


ダンテ「終わったぞ」

ブレア「お疲れ様です」


それを見届けたブレアは炎の結界を解いた


ブレア「男の子が一人と女の子が一人。男の子の方が重傷で、女の子は領主様の娘さんでしょう。急いで村に戻ります」

ダンテ「あいよー」


そう言った直後ブレアの身体から赤いオーラのようなものが放たれ、その身体が宙に浮いた
ダンテも同様に黒いオーラを発して浮いている


ダンテ「ちっと我慢しろよ?」

レナード「え?」

エル「わぁっ!?」


ブレアとダンテが高速で上空へと上昇したかと思えば、レナードとエルの二人も見えない力に引っ張られるように上空へと上昇した


レナード「な、なんだこれぇ!?」

エル「そ、空を…飛んでる!?」


ブレア「村はあっちのようですね」

ダンテ「よっしゃ、最高速で向かうぜ」

ブレア「は?いやちょっとまっ…」

最高速…?
なにやら不安になる単語が聞こえ…


レナード「ぉ…!」


突然、視界が横線のみで覆われる
この感覚には覚えがある
思いっきりクルクル回っている時に見る景色だ
あらゆるものが横線で見え…


レナード「って、うぉぉぉぉぉ!?」

エル「きゃぁぁぁぁぁぁ!?」


レナードとエルはものすごい速度で空を飛んでいた
そう、視界がとらえるものが全て横線となって見えるほどに


レナード「い、息が…!!」

エル「吐く!!吐くぅ!!!」

ダンテ「はっはっはっは!」

ブレア「ちょっとダンテさん!スピード出しすぎ!!二人が顔面蒼白になってます!!」


ダンテは笑い、ブレアは怒っているが二人にはそんな余裕などなく…


ダンテ「到着!」


村の端についた頃には二人共ぐったりとしていた


ダンテ「なんだ、最近の若いやつは根性ねぇな」

ブレア「馬鹿かあんた!!」


本当に馬鹿なのかこの人は、と薄れ行く意識の中でレナードは一人つぶやいたのであった


ここまでで
次回はいつになるかな

では失礼します

あ、感想頂けたら超嬉しいです

申し訳ありません
投下出来ませんでした
今日の夜か明日には必ず投下しますね

こんばんは
投下します


レナード「ん…ここは…」


レナードはゆっくりと自らの意識が戻ってくるのを感じる
まず目に入ってきたのは見知らぬ天井だった
いや、見知らぬというよりもどこかで見たことがある気がするのだが思い出すことが出来ないといったところか
辺りを見回してみるとどうやらどこかの一室のようだ
そこでようやく自分はベッドに寝かされていたのか、と気付いたようだ


レナード「俺は確か…そうだ!」


寝起きで曖昧になっていた記憶が徐徐に戻ってくる


レナード「森で魔物の集団に襲われて、それで…」

ルル「助けられたんじゃな。あの人らに」ギィ

レナード「ルルじいちゃん…」


ドアを開けて入ってきたのはレナードにルルじいちゃんと呼ばれる村唯一の医者でかつ名医と呼ばれる老人であった
そうかここは病室か、とようやく理解する
昔骨折した時にお世話になったこともある部屋だ


レナード「あの日からどれだけ経った?」

ルル「そんな経っておらんよ。今はその翌日の夕方じゃ」

レナード「そっか…。それでも1日近くは寝てたってことか」

ルル「むしろその怪我でこんなにすぐ起きれたことにわしは驚いとるよ」

レナード「まぁ体力にはちょっと自信があるからさ」

ルル「ぬかせ」


ルルは笑いながらレナードに近寄ると、左腕を確認する


ルル「全く、無茶をしたものじゃ。食いちぎられとってもおかしくなかったわい」

レナード「そんなやばかったのか?」

ルル「あぁ、牙が骨まで届いとったぞ。ほれ、どうじゃ?痛みはまだあるか?」

レナード「つっ…!まだちょっと痛いかな…」

ルル「ちょっとなら大丈夫じゃな。ちゃんと動きもするか?」

レナード「あぁ、動くよ。問題ない」

ルル「ふん、自分の丈夫さに感謝せいよ」

レナード「へいへい」


ルルのお小言にレナードは苦笑する


レナード「エルはどうなった?」

ルル「今はお屋敷で休んどるんじゃないか?今回のことが相当堪えたんじゃろうて…」

レナード「そうか…」


レナードの頭に出血の量を見て焦っていたエルの顔が浮かぶ
あいつらしくない本当に心配していたんだろう様子が今となっては少しおかしくもある


レナード「会いにいかなきゃなんねぇな」

ルル「はぁ?今からか?お主もう少し自分の身体を労わるってことを…」

レナード「怪我は腕だけだろ?大丈夫だって」

ルル「そういうことを言っとるんじゃ…はぁ、どうせ聞かんじゃろうな」

レナード「よく分かってんじゃん」

ルル「くれぐれも無理はするんじゃないぞ」

レナード「あぁ。それと…」

ルル「ん?」

レナード「ありがとな、ルルじいちゃん」

ルル「…ふん、はよいけ」

レナード「照れんなよー」

ルル「照れとらんわ!」

レナード「うおっ、こえーこえー。じゃあ行くよ」


レナードはそう言って足早に病室を後にする
残されたルルが溜め息をつきながらもどこか嬉しそうに笑っていたことはレナードが知る由もなかった


「お、レナードじゃねぇか!」

「あらあら、怪我はもういいの?」


ルルの家兼病院を出るとすぐそこを歩いていた夫婦に話しかけられた


レナード「いいわけないじゃん。まだ普通にいてぇよ」

「じゃあ大人しくしていないと…」

レナード「エルのとこに顔出さなきゃなんねぇからさ」


そう言うと夫婦はポカンとした顔のすぐ後にやれやれと腰に手を当てる


「まったくこいつは…」

「ふふっ、それでこそレナードね」

レナード「な、なんだよ…」

「なんでもねぇよ。早くエル様のところに行ってやれ」

レナード「分かってるよ。じゃあまた!」


その後も村中の様々な人から大丈夫か、怪我はもういいのか、と聞かれまくったレナードはいちいち対応してたら日が暮れちまう、と走って村人とは挨拶だけ軽く交わして走り抜けることにした
領主邸まではルルの家から走って5分ほどだ
村のみんなの心配はありがたいし嬉しいんだけどな、とレナードは嬉しい悲鳴に思わず笑みがこぼれる


レナード「ふぅ、ようやく着いた」


レナードが領主邸に着いたのはルルの家を出て20分もした後だった
何故か少し緊張気味のレナードはんんっ!と咳払いをして普段の自分を取り戻す


レナード「すいませーん!レナードなんですけ…」

エル「レナード!?」

レナード「うおっ!?」


ドアに手をかけようとした瞬間、逆に向こうからドアが勢いよく開けられる
レナードはドアとデコがキスする寸前でそれをなんとか避ける


レナード「おまっ、そんな勢いよく開けたらあぶねぇだ…」

エル「レナードぉ!!」


最後まで言い切る前にエルがレナードの胸に飛び込んでくる
レナードもそれを慌てて受け止めるが、左腕が使えないので右手だけでエルの身体を支える


エル「怪我は?もう大丈夫なの?痛いとことかない?」

レナード「あぁ…大丈夫だよ。心配かけたな」

エル「本当だよもう…」


エルはレナードの胸に顔を押し付けたまま上げようとしない
恐らく今の顔をレナードに見られたくないのだろう


スウィフト「レナード君…!?大丈夫なのかい!?」


今度は領主のスウィフトまでが飛び出してきた


レナード「ご心配をおかけしました。この通り、大丈夫です。まだ痛みは少し残ってますが」

スウィフト「今ちょうど君の様子を見に行こうとしていたところなんだ。無事…ではないようだが、よかった…本当によかった…!」


スウィフトの顔が安堵に包まれる
他人の安否をここまで心配してくれるあたり、スウィフトの人の良さが出ている


スウィフト「エルのために身を呈して戦ってくれたと聞いた。領主として、一人の親として、本当に感謝する!」

レナード「そんな頭を下げないでください。こっちが困ってしまいますよ」


レナードは、あははと本当に困った様子で笑う


スウィフト「君の治療費は私が全額補償しよう。他に何かほしいものとかないかね?なんでも帝都から取り寄せようじゃないか」

レナード「いえいえ。そこまでしてもらわなくてもいいですよ!特に欲しいものなんてないですし。あ、でもやっぱり治療費だけはお願いします」

スウィフト「欲のない子だ…。君は私らの恩人だ。何でも言ってくれていいというのに…」

レナード「んー、あ、じゃあ一つだけ」

スウィフト「ん、なんだね?」

レナード「今回のことで、エルをあまり責めないでやってください」


その言葉を聞いた直後、スウィフトは驚きに硬直していた
エルも顔をバッと上げて困惑した表情でレナードを見る


レナード「いやもちろんエルがしたことは危険なことだったし、もう二度とあんな真似はするなよ、くらいは言ってほしいんですが…」

エル「…」

レナード「それでも、こいつをそれ以上責めないでやってください」

スウィフト「…分かった。それが君の願いであるなら」

レナード「ありがとうございます」

エル「レナー…ド…?」

レナード「エル」


レナードは今は力なく自分を掴んでいるエルの腕を掴み、それをギュッと握るとエルに向かい合う


レナード「もうあんな危険な真似はしないでくれ。心配でどうにかなっちまいそうだったよ」

エル「う…ん…。ごめんなさい…」

レナード「それと、ごめんな。心配かけちまって」

エル「そんなこと…!わたしが、わたしのせいでレナードは…」

レナード「そうかもしんないな。でも、俺だって…慢心してたんだ」

エル「慢心…?」

レナード「『まとい』が使えるようになって、この村で一番強くなって、それで天狗になってた。もう誰にも負けないだろうって」

エル「…」


エルもスウィフトも黙ってレナードの言葉を聞いている


レナード「でも、全然駄目だった。俺は魔物1匹満足に倒せない、未熟者だったんだ」

エル「レナード…」

レナード「エル、約束する。俺はもっともっと強くなる。お前が心配することがなくなるくらいに、強く、強く。ただお前を…守るために」

エル「わたしを…守るために…?」

レナード「あぁ、そうだ」

エル「でもわたし、いつもレナードに迷惑ばかりかけて、でもレナードはわたしに優しくしてくれて、でも、わたしは、そんなレナードに…何一つ…恩返しが出来てないのに…」


エルは涙を堪えきれず、その顔をぐしゃぐしゃにする


レナード「恩返し、か…。そんなもんしなくていい」

エル「え…?」

レナード「エル。俺は俺がしたくてやってるんだ。お前に何かをしてほしいからやってるわけじゃない」

エル「本当…?」

レナード「本当だ」

エル「でも、また迷惑かけちゃうかも…」

レナード「いくらでもかけろ」

エル「泣き言いうかも…」

レナード「いくらでも言え」

エル「また怒られるようなことしちゃうかも…」

レナード「それは直せ」

エル「む…ふふっ、なによ…もう。そこはいくらでもしろって言うとこでしょ」

レナード「はは、俺はそんなに甘やかさないぞ。知ってるだろ?」

エル「そうね…レナードは昔からそうだった…」


エルは涙をぐしっと拭き、改めてレナードの顔を正面から見る



エル「レナード・シルダ。わたしを、守ってくれますか?」


レナード「任せろ。俺を誰だと思ってやがる」


エル「わたしの騎士様、でしょ?」


レナード「はっ、分かってんじゃねぇか」


そう言った二人の顔は満面の笑みを浮かべていた
そして…


スウィフト「うっ…ぐすっ…あぁう…」


そんな二人を見ていたスウィフトが号泣しており…


ブレア「泣けます…涙が溢れ出しますよ、こんなの…むしろ泣かないやつの方がおかしい…」

ダンテ「歳を取ると涙腺がゆるくなって仕方ねぇ…」


号泣するスウィフトの隣にいつの間にかこれまた号泣するブレアとダンテが突然として現れていた


エル「え!?」

レナード「あ、あんたらいつの間に…!」


ブレア「ぐすっ…いえ、実は最初から近くにいたのですが、なんか聞いたらまずそうだなぁと思って一度引き返そうとしたのです…。ですが…ついつい聞き入ってしまって…」

ダンテ「子供はこうやって大人になっていくんだなぁ…」

スウィフト「ですねぇ…」


スウィフトとブレアとダンテのいい大人三人が号泣しているというなんとも奇妙な状況にレナードは頭の処理が追いつかず、エルは今のを聞かれていたことに対する恥ずかしさで顔を真っ赤にさせてその場でうずくまってしまった


ダンテ「ふぅ…ようやく落ち着いてきた…。おい、ブレア」

ブレア「あぁ、そうでした。今日は今回の依頼の報告に来たというのに…」

スウィフト「む…お見苦しいところを…」

ブレア「いえいえ、こちらこそ…」


大人達がそんなやり取りをしてるうちにレナードが現実に戻ってき、エルもまだ顔は赤いがしっかりと立ってたたずまいを直した


ブレア「えーっとですね、まず簡潔に結果から申しますと…」


そこでやや間が空き、エル、レナード、スウィフトの三人は思わず唾を飲む


ブレア「元凶を潰しましたのでもう心配ないかと思います。森の魔物ももう落ち着いており、無理に討伐などしなくても問題ないかと思います」

スウィフト「元凶、と言いますと…?」

ダンテ「近くに潜んでいた『鴉』の一派を捕らえて帝都の騎士団につき出しました」

スウィフト「『鴉』ですと…!?」

レナード「鴉…?」

エル「お父様、鴉とは?」


スウィフトはその『鴉』という単語に聞き覚えがあるようだが、レナードとエルの二人は全くの初耳のようで、エルが疑問を父親にぶつける


ブレア「『鴉』とはこの大陸の3国を股にかける盗賊集団のことです」

エル「盗賊…!!」

スウィフト「そうだ。鴉は卑怯な手段や姑息な手段を使うことを躊躇わない、3国で最も大きく危険だと言われる盗賊の集団のことだ」

ブレア「その総数は500に届くとも言われています」

レナード「500…!?」


ダンテ「ただ当然、そんな大集団がまとめて動けるはずもねぇ」

ブレア「なので鴉はその集団をさらに小さい集団として50ほどに分けていると言われています。全員が一堂に会するのは1年に数度しかない、とも言われていますね」

スウィフト「では、その集団の一つが…」

ブレア「はい。この村の近くに潜んでいました」

スウィフト「なんと…」


領主としてそれに気付かないのは失態だとスウィフトは心の中で自分を責めてしまう


レナード「けど…そいつらと、魔物の活性化がどうつながるって…」

ダンテ「あいつらは特殊な材料と製法で魔物を誘き寄せ、活性化させるある物を作ることができる」

ブレア「そうです。そしてその名を魔集団子と言います」

エル「ましゅう…だんご…?」

ダンテ「例えばそいつを何の封もせずその辺に置いとくとする。するとどうだ。魔物はその匂いにつられてあっちこっちから大集結、ってわけだ」

ブレア「さらにその匂いには魔物を活性化させる成分が含まれているようで、周囲の魔物を誘き寄せるばかりか活性化もさせる、という大変おそろしいものなのです。ちなみにこの匂いは人間には嗅ぎ取ることが出来ません」

レナード「ってことはつまり…」

ダンテ「あぁ。村の中心近くの木材置き場にあったぜ。こいつが」


そういってダンテが懐からある小瓶を取り出す
その中には


エル「団子…」

スウィフト「これが…村に…」

ブレア「はい。そして魔物の対処に追われる村の警護団や自衛団は疲弊し、普段の警備すらままならなくなってしまう。鴉のやつらはその隙に金品や物を盗んでいく、というわけです。いわゆるやつらの常套手段、ですね」

エル「怖い…」

レナード「そうか…。村のみんなが最近物をよくなくすって言ってたけど、無くしたんじゃなくて盗られてたってことか…」


レナードは昨日の昼前にエルを捕まえた時にいた村人達の会話を思い出す


ブレア「さらに魔集団子の恐ろしいところは、これを利用すれば最悪村を壊滅させることが出来てしまうという点です。そして鴉は村の物を全て奪っていく。これが最悪のパターンです」

レナード「な…村を壊滅…!?」

ダンテ「当然だ。活性化した魔物がほぼ無制限に集まってくるんだ。放置しておけば騎士団でも対処が間に合わなくなる。逃げようとしても周りは既に魔物だらけ。手の施しようがなくなっちまう」

ブレア「実際、そのように壊滅した村の例がいくつか確認されています。いずれの村も、団子が置かれてから2ヶ月ほどで壊滅したようです」

エル「ひどい…」


ブレア「私達はそのことを知っていたので、魔物の活性化と聞いた時点でまずその可能性を考えました。そして、私達が最初にお屋敷に出向いた時、確信を得ました」

スウィフト「それは…何故?」

ブレア「屋敷の窓から私達を偵察していた者がいたからです」

エル「え…!?」

スウィフト「な…!!」

ブレア「エル様…でしたね。あなたが玄関ホールの階段の中腹あたりでこちらを覗いていましたが、その後ろにあった大窓からです」

エル「…あ!」


エルはそこであの時のことを思い出す



ブレア『ん?』クルッ

エル『やばっ!』

スウィフト『どうされました?』

ブレア『…いえ、なんでもございません』クルッ



なるほど、あの時見つけたのはわたしじゃなく、その後ろの鴉の一員だったのか
そしてその途中で偶然にも私も見つけたということか
とエルはあの時の疑問にようやく合点がいった



ブレア「偵察に来た、ということは恐らく私達が村に来ることを事前に察知していたのでしょう。それも実際に私達を確認して確信を得た。そしてこうなると…」

ダンテ「やつらは逃走の準備を始める」

レナード「団子をそのままにして逃げ出すってのか!?」

ブレア「自分達が捕まるよりはマシ、ということでしょう」

ダンテ「だから1日で解決できる、と言ったんだ。俺達がやつらを捕まえようが捕まえられなかろうが、やつらは半日もあれば痕跡すら残さずこの辺りから消えちまう」

ブレア「つまり、魔物の活性化というのは我々がここに到着した時点で、魔集団子を探し出せば解決するというわけです」

エル「じゃ、じゃあ鴉の人達はどうしたの…?」

ブレア「捕まえましたよ?一人残らず」

ダンテ「俺達があいつらを見つけた時、今まさに逃走の出発をする寸前だったぜ」

スウィフト「では…問題は全て解決した…と?」

ブレア「はい。魔集団子は回収、鴉は全員捕縛して帝都の騎士団に引き渡しました。もう大丈夫です」

スウィフト「よ、よかった…」


スウィフトはそれを聞いて心の底から安心しきったのか、珍しくだらんとしている


レナード「え、じゃあ俺達を助けに来てくれた時は…」

ブレア「やつらを全員気絶させたすぐ後のことでしたね、森に魔物の咆哮が響き渡ったのは。それでまさかと思って急いでやつらを木に縛りつけ、駆けつけたというわけです」

ダンテ「お前らを村に送り返した後でやつらを連れて帝都へ向かったのさ」

ブレア「騎士団の連中が書類だとか事情聴取だとかでものすごく時間を取られてしまい、報告するのが今の今まで遅れてしまいました。申し訳ありません。全部騎士団のせいです」


笑顔で全部騎士団のせいとサラッというブレアに、レナードとエルは顔ががやや引きつる


ダンテ「ま、とにかくこれで全て解決ってわけだ」

ブレア「はい。ここに来る途中で森も確認してきましたが、既に魔物達も普段の落ち着きを取り戻しているようでした。もう心配することは何もございません」

スウィフト「ありがとうございます…!ありがとうございます!」


エルとレナードは笑顔で小さくハイタッチをする
村の危機が完全に去ったと聞いて、ようやく安心したようだ


ダンテ「それで…俺から一つ提案があるんだけどよ」

ブレア「ん?ダンテさん?」

スウィフト「はい、なんでしょうか」

ダンテ「ガキんちょ」


ダンテはそう言うとレナードの方を向く


レナード「え、俺?」

ダンテ「お前所持者(ホルダー)だろう?どこまで使える?」

レナード「どこまで…って?」

ブレア「…『まとい』や『獣霊』は使えますか?」

レナード「その『獣霊』ってのはよく知らないけど…『まとい』は使えるよ」

ダンテ「なるほどな」


未だダンテの言葉の真意がわからないレナードは頭の上に疑問符が浮かんでいる


ダンテ「強くなる、と言ってたな。どうやって強くなるつもりだ?」

レナード「え…?」


この人は急に何を言い出すのだろうか
レナードはとまどいを隠せない


レナード「そりゃもちろん修行して…」


ブレア「はぁ…そういうことですか…」

エル「え…?」


ブレアが何かに納得したように小さく呟く
それを聞き取れたのは最も近くにいたエルだけであった


ダンテ「断言する。この村で一人で修行してても今以上はほとんど強くならねぇ」

レナード「は…?」


レナードはその言葉を正しく受け取ることが出来なかった
いや、到底信じられないといった様子だ


レナード「そ、そんなことはない!俺は5年もかかったけど、それでも『まとい』を使えるほどに強くなった!」

ダンテ「『まとい』までは、な。そこまでは一人でもなんとかなる。だがその先、『獣霊』を扱えるようになることは恐らくねぇだろうよ」

レナード「な…んで…」

ブレア「なんの知識も環境もなしに独学で修行して『獣霊』を修得するには約40年かかるといわれています」

レナード「よっ…!?」


そんなおかしな話があるか、と叫びたくなったが、この人達は自分よりも強く賢く、嘘をつく理由もない
言葉は口から出なかった


ダンテ「だから、お前はこれ以上強くなることはほとんどできん。例えなれたとしても、それは何十年も先の話だ」

エル「レ、レナード…」


レナードは絶句していた
強くなると誓ったすぐ後にこれだ
自分が歩くと決めた道は、こんなにもすぐ閉ざされてしまったのか


レナード「それを俺に話して…どうしようってんだ…。お笑い草だとあざ笑いたいのか…」


レナードは睨みつけるようにダンテに視線をぶつける
だがダンテはそんなこと意にも介さないのか笑っている
そんな姿にレナードは怒りを覚え、拳を握ろうとする
その寸前、ダンテが口を開き、発した言葉は…


ダンテ「お前、うちに来ないか?」




レナード「………は?」




たっぷり間が空いて出た言葉はたったそれだけだった
唐突で、思いもしていなかったのだから当然と言えばそうなのかもしれないが


ブレア「また出ましたよ。ダンテさんの勧誘癖」

エル「勧誘…癖…?」

ブレア「ダンテさんは気に入った人を見つけるとギルドに勧誘せずにはいられない人なんですよ。実は我がギルドはそうして声がかかったメンバーのみで構成されていますしね」


ブレアの解説が耳に入ることでレナードもようやく現実に帰ってくる
それでもまだ目を丸くしたままだが


ダンテ「どうだ?俺のギルドにいれば間違いなくお前は強くなれる。悪い話じゃないと思うぜ」

レナード「…」


レナードは右手を顎に当てて真剣に考えている
頭の中でダンテの言葉を反芻する
そうして理解したことを簡潔にまとめれば、つまり今のままでは強くなることは出来ない、だがギルドに入れば強くなることができる、ということだ


レナード「…強くなれるという根拠は?」

ダンテ「根拠か。そんなもんはねぇ」

レナード「は?」


根拠がない?
なのに絶対に強くなれる、と言ったのかこの男は?


ダンテ「ただまぁ…」

レナード「…?」

ダンテ「うちは少数だが、実力は屈指のやつらばかりだ。お前が強くなるには今のままじゃ知識も環境も足りない。その点俺達ならそれを補ってやることは出来る。あとはお前の努力次第だ」

レナード「なるほどな…」


正直言って悪くない
それどころか強くなるためには今はこれが最も最短なのだろう
それは間違いない
だが…


レナード「悪くない話だけど、断るよ」

ダンテ「…なんでだ?」

レナード「エルの傍を離れるわけにはいかないからだ」

ダンテ「…」


レナード「俺はエルを守れるほど強くなりたい。でも、そのためにエルから離れたら本末転倒だ。エルから離れてる間にどんなことが起きるのか分からないからな」

ダンテ「まぁ…もっともだな」

ブレア「諦めましょう、ダンテさん。今回も駄目みたいですよ」

ダンテ「うるせー」


ダンテは頭をガシガシと掻きながら上を向いて、また断られたかーなどと言っている
本当にいい申し出だったが、こればかりは無理だ


レナード「申し訳ないっす。まぁ無理って言われても、俺は一人でなんとかす…」

エル「まって!」


レナードの言葉を遮るようにエルが待ったをかける
その場の全員がエルの方へ向く
そしてエルが口を開いて出た言葉は



エル「じゃあ、わたしもついてく。それなら問題ないでしょ?」



……え?
全員が全員絶句してその場で動きが止まる
一番最初に動いたのは、父親であるスウィフトだった


スウィフト「ま、待ちなさいエル!突然何を…!」

エル「だってレナードが強くなるにはそうするしか方法がないんでしょ?」

スウィフト「いやだからと言ってだな…」

エル「お父様」


エルは真剣な顔持ちでスウィフトに正面から向き直る


エル「わたしがここに留まっていても何一つ成長出来ません。わたしは、今回のことが良い機会だと思っています。お兄様は各地を飛び回って様々なことを吸収されているのに、わたしはただ村で遊んでいるだけ。このままでは領主の娘として面目が立ちません。だから彼らについていき、世界を知りたい。成長したいのです」

スウィフト「エル…」


レナードは口を開けたままポカンとしたままだった
だがエルの言葉は頭に入ってきている
だからこそ驚き続けているわけだが

レナードの驚きの最も大きい原因は、エルが成長したいと発言したことである
あのエルが自分で成長したいと言ったことなど一度も聞いたことがなかった
それは恐らくスウィフトも同様だろう

だが、だからこそ、スウィフトは今迷っている
成長したいと言う娘を親が何故断ることが出来ようか
しかしそれは危険が伴う
領主ではなく親として、スウィフトは苦渋の決断を迫られていた


エル「お父様…!」

スウィフト「一晩…。一晩だけ、考えさせてくれ…。妻とも話し合わねばならない」

エル「そう…ですね…。わかりました」

レナード「エル…」

ダンテ「…それじゃあ明日の朝、またここに来る。その時にまた返事を聞かせてくれ」

エル「はい…」

ブレア「スウィフト様。どちらの選択をするにせよ、後悔が残るかもしれません。ですが、我々に預けていただけるというのであれば、我々は全身全霊も持ってその期待に答えましょう」

スウィフト「…」

ダンテ「それじゃあ、また明日な」


ダンテとブレアはそういい残し、昨日のように空中へと飛び去っていった

その後はしばらく沈黙が続き、そしてスウィフトが言葉を切り出す


スウィフト「…レナード君は、両親と話しあわなくてもいいのかい?」

レナード「両親と、ですか」


当然ながら親に黙って出て行くなど出来るわけがないので、両親に話す必要は出てくるだろう
だが


レナード「多分、大丈夫だと思います。親父とお袋は、俺のやりたいことをやらせてくれるって信じてます。というか、そういう人達なので」

スウィフト「そうか…」


笑顔でそう言うレナードにスウィフトも思わず笑みがこぼれる


スウィフト「ふぅ…。親というものはつくづく大変だな。レナード君、今日はもう帰りなさい」

レナード「…はい。では失礼します」


レナードも今日を過ぎればしばらく両親と会えなくなる可能性があるのだ
エル達も、ゆっくり話し合わなければならない
今日はお互い、家族と過ごす時間が多く必要だ
レナードもそれを理解しているので、スウィフトの言葉に素直に従う


―――――――――――――――


翌朝

レナードとエル、そしてスウィフトとサティはウェーバー邸の応接間にて集まっていた
そして…


ダンテ「来たぜ。返事を聞こうか」


ダンテとブレアも、その場に現れる
スウィフトは全員を見渡し、口を開く


スウィフト「レナード君」

レナード「…はい」


レナードの額にじんわりと汗がにじむ
はたしてどちらの結論に至ったのか
エルをちらりと見ると、どうも緊張しているようだ
どうやら、両親の決定は未だエルにも伝えられていないらしい


スウィフト「エルを…守れるかい?」


その言葉が意味することをレナードはすぐさま理解し、そして言葉を返す


レナード「そうなるよう強くなります。そして、必ず守ります。守ってみせます」

スウィフト「そうか…」


スウィフトとサティが立ち上がり、背筋を伸ばす


スウィフト「ダンテさん、ブレアさん」

ダンテ「おう」

ブレア「はい」

スウィフト「そしてレナード君」

レナード「…はい」




スウィフト「エルを…よろしく頼む」

サティ「エルをよろしくお願いします」




そう言って、二人は揃って頭を下げた


エル「じゃ、じゃあ…!」

スウィフト「エル」

エル「…はい」

スウィフト「世界を知ってきなさい。そして、成長してきなさい」

エル「はい…はい…!」


ブレア「良かったですね。また断られなくて」

ダンテ「はっ、うるせぇ」


エル「じゃあ私荷物取ってくるわね!」

スウィフト「取ってくる…?まとめてくるじゃなくてかい?」

エル「だってこうなるって信じてたもん。だから昨日のうちに用意しといた!」

サティ「あらあら、この子はもう…」

レナード「え!?俺まだなんも用意してねぇけど!?」

ダンテ「あと10分な」

レナード「は!?ちょ、ちょっと待ってくれよ…!」


ダンテの非情な宣告を聞いてレナードも急いで自宅へと戻り、すぐさま準備を済まして自分の部屋を出る
そのまま居間へと向かい、玄関へと向かう途中…


レナード「親父…」

デニソン「その様子だとやはり行くのだな」

レナード「あぁ…」

デニソン「まったく…昨日突然何を言い出すかと思えば…」

レナード「悪い、親父…。鍛冶屋、引き継げねぇかもしんねぇ」

デニソン「なぁに、気にすんな。お前はお前のしたいことをやれ」

レナード「ありがとな、親父」

デニソン「らしくねぇな。しおらしくしてんじゃねぇよ。胸張って出て行けぃ。男の門出ってのはそういうもんだ」

レナード「はは、んなもん初めて聞いたぞ…。お袋は?」

デニソン「まだ寝てるぞ」

レナード「なにしてんだよ…。息子が出て行くかもしんねぇって日に…」

デニソン「…伝言だ。元気にやりなさいよ。いつでも帰ってきたらいいわ、だってよ」

レナード「直接言えよな…馬鹿お袋。親父、ありがとう、行って来ますって伝えといてくれ」

デニソン「…おうよ」

レナード「それじゃあ人も待たせてるし、そろそろ行くよ」

デニソン「エル様をちゃんとお守りするんだぞ」

レナード「分かってるさ。それじゃあ行ってくる」

デニソン「身体に気をつけろよ」

レナード「あぁ!」


レナードは笑顔でそういい残し、家を出て行った
デニソンはその後ろ姿をいつまでも眺め、そして…


デニソン「行ったぞ」


そう言うと


スーラ「グス…ヒック…レナード…いつの間にか大人になっちゃって…」


奥の扉から一人の女性が現れた
デニソンの妻であり、レナードの母親であるスーラだ


デニソン「息子に泣き顔見せたくないのは分かるが、最後くらい見送ってやれよ…」

スーラ「グスッ…いやよ、わたしのキャラじゃないわ」

デニソン「キャラて…」

スーラ「そこだけは譲れないわもの」


はっきりとそう言うスーラの顔は鼻水と涙でぐしゃぐしゃになっていた


スーラ「行ってらっしゃい…レナード」

デニソン「行ってこい、馬鹿息子」


二人の顔は息子の成長を見届ける親の顔であった


ダンテ「きたか。9分半ってとこだな。ギリギリじゃねぇか」

エル「レナード遅い」

レナード「『まとい』使ってまで全速力で来たぞおい…」


レナードは肩で息をしているが二人は容赦がない


ブレア「そろそろ行きますよ」


ブレアの言葉でダンテがオーラを発し、前のようにエルとレナードも妙な力で浮かせる
そのまま高く高く上昇し、村が完全に足元にくるまで上昇した


ダンテ「行くぜ。もうしばらく戻ってこれねぇかもしんなねぇからな。村もしっかりと目に焼き付けとけよ」

エル「うん…!」

レナード「あぁ」

ブレア「では出発しましょう」


親父、お袋、行ってくる
お父様、お母様、行ってきます

二人は心の中で村と両親に別れを告げ、そしてダンテに引っ張られるように飛んでいった


今回はここまで
ではおやすみなさい

できれば今日の夜に投下したいと思います

こんばんは
投下します


ブレア「お二人供大丈夫ですか?」

エル「は、はい…大丈夫…です!」

レナード「俺も大丈夫っす」


村を出て1時間
レナード達は未だ空を飛んでいた
目的地の『暴王の城』のギルドがある街までは飛んで約2時間ほどとのことだ
王都の隣と聞いていたので数日かかると思っていたのだが、そこはこの空を飛ぶ技術
馬車や竜車など比較にならないほどの速度なので、数日どころか2時間ほどで着くと聞いてレナードとエルは驚いていた


レナード「この速度に慣れてきた自分が怖いな…」


速度は相変わらずものすごく速い
森から村へと戻る時の速度ほどは出ていないとは言え、普通ならばまず体験しない速度だ
だがどうもレナードは慣れてきたらしく、周りの景色を見る余裕があるほどだ
エルはまだ慣れないのか目を空けるのにも苦労しているようだ


ブレア「そろそろ休憩にしますか」

ダンテ「あ?このままいけばいいだろ?」

ブレア「レナード君は大丈夫そうですが、どうもエルさんはそうではなさそうです」

すいません
PCの調子が悪いので続きは明後日にします

投下します


ダンテ「ん?」


ダンテが振り向くとエルが申し訳なさそうに、しかしそれ以上に苦しそうにしていた


エル「う…」

レナード「エル、無理はするなよ」

ダンテ「…しゃーねぇ。一度降りるか」

エル「ご、ごめんなさい…」

ブレア「お気になさらないでください」


4人は一旦地上へと降り立つ
街道が見えたのでその傍の腰を下ろせそうな岩があるところで休憩することになった


エル「ふぅ…本当にごめんなさい…。レナードは平気なのに…」

ブレア「いえいえ。むしろたった1時間程で慣れてしまっているレナード君のほうがおかしいですよ」

レナード「そうなんすか?」

ダンテ「まぁ何日もかけて慣れさせるってのが普通だな」

レナード「なるほど…」


ブレア「センスがあるのかもしれませんね」

ダンテ「どうだろうな」

レナード「センスがあってもなくても関係ないっすよ。強くなることには変わらない」

ダンテ「お、言うじゃねぇか」

ブレア「ふふふ、これは修行のしようがありますね」


レナードはこれからお世話になる二人、ひいてはギルドの人達にはなるべく敬語を使おうと決めた
が、そう決めたはいいが元々敬語になれていないのでどうも不自然であり、変な感じになっている
だがそれはレナードも分かっており、これもブレアなどに教わるということで一応まとまったのだ

休憩は15分ほどで終え、再度出発してさらに1時間
ようやく目的地に到着した


ダンテ「ようやく着いたな」

レナード「はー、すげぇ…」

エル「大きな街…!」

ブレア「ようこそ、ギルドの街『グレル』へ」


4人は街の入り口に降り立ち、そこからはおおまかに街の全貌が見ることが出来る
ブレアがグレルと言ったこの街はレンガや鉄などで作られた無骨な建物が多く見られ、貴族や上級民などとは無縁であろう格好をした人達で賑わっていた


レナード「ギルドの街っていうと…?」

ダンテ「あー、そっからか…」

ブレア「もろもろの説明や講義は我がギルドについてからまとめて致しましょう。では参りますよ」


ここから先は歩きで行くことになり、レナードとエル街の簡単な説明だけ受けた
中央にギルド統括本部があり、その周囲はもうぐっちゃぐちゃにいろんな建物があるとかなんとか
街の入り口から北東へ歩くこと約5分
とある屋敷の前でブレアとダンテが立ち止まる


ブレア「ここが我らのギルド、『暴王の城』です」

レナード「他の建物とあんまり変わんないな…」

エル「そう?立派なお屋敷じゃない」

ブレア「エルさんの住んでいたお屋敷に比べれば小さいですが、この街ではそこそこ大きい方ですよ」

ダンテ「おら、くっちゃべってないで早く入るぞ」


ダンテは屋敷の玄関のドアに手をかけ、それを勢いよく開ける


ダンテ「帰ったぞー」

コルト「おや」

ブレア「ただいま帰りました、コル爺」

コルト「お帰りなさいませ、ダンテ様、ブレア様。お疲れでしょう、今お茶を出しますので少々お待ちください」


ダンテとブレアを出迎えたのはブレアからコル爺と呼ばれる白髪の年配の男性だった
身なりはまさしく執事といったもので、対応を見てもどうやらその通り執事であるらしい


ダンテ「あぁ、俺らの他にもあと二つ頼む」

コルト「む?おや、後ろにおられる方々は…」

レナード「あ、どうも…」

エル「お、お邪魔します…」

コルト「これはこれは、失礼致しました。お客様もご一緒でしたとは」

ブレア「ふふ、お客様ではないですよコル爺」

コルト「と、言いますと…まさか」

ダンテ「新しくうちのメンバーになる二人だ!」

レナード「よ、よろしくお願いします」

エル「よろしくお願いします」


二人はペコリと頭を下げてお辞儀をする


コルト「こちらこそよろしくお願いいたします。私、このギルドで執事を勤めさせていただいておりますコルト・シベリウスと申します」

レナード「レナード・シルダです」

エル「エル・ウェーバーです」


コルト「おや、ウェーバー…?」

ブレア「エルさんは今回の依頼の主であるスウィフト様の娘様です」

コルト「なんと…。領主様の娘様がギルドなど、よろしいので?」

ブレア「はい。大丈夫ですよ」

エル「両親からちゃんと許可も頂きました」

コルト「では私からは何も言うことはございませぬな」

ダンテ「こっちはその姫君の騎士様なんだとよ」

コルト「ふむ…?」

レナード「ちょっ…!」

エル「あら、ここまできて怖気づいたの?」

レナード「そんなことはないが…」

コルト「ははは、おおよそは分かりました。これ以上は追求しませんので、ご安心ください」

レナード「す、すいません…」


レナードは何故かコルトには頭が上がらないようで、恐縮してしまっている


ブレア「さて、他のメンバーはどうされましたか?」

コルト「ハイドン様は街へ出向いておられます。マーガレット様はご自身の部屋でまだ就寝中でありまして、エルガー様は依頼のために既にお出かけになられています」

ブレア「ハイドンはどうせまたナンパでしょう。こんな昼間から全く…。マーガレットもまだ寝ているとは…お酒ですかね。エルガーだけですよ、ちゃんと仕事をしてくれるのは」


レナードがギルドにある時計を見ると既に昼の11時を指している
普通ならばとっくに活動している時間なのだが、どうもそのマーガレットという人はかなりの寝坊体質らしい


ブレア「まぁ放っておきましょう。まずはお二人の部屋に案内いたします」

レナード「助かる。正直荷物が重くて肩が痛くなってきたところだ」

エル「え?私そんな重く感じないけど…そういえばどうしてだろう?」

レナード「は?俺より荷物多いのに?」

ブレア「…ダンテさん、でしょう?」

ダンテ「さぁな。コル爺、飯作ってくれ」

コルト「かしこまりました」


ダンテとコルトは奥のキッチンがある部屋へと移動していった


エル「…以外と優しいのかな?」

ブレア「ダンテさんはああ見えてかなり優しい方ですよ。困っている人を見ると文句を言いつつすぐ助けようとしますしね」

レナード「なんか…分かりにくい人っすね」

ブレア「そうですね。長く付き合っていれば単純な人だと分かるんですが。さぁ、行きますよ」


二人はブレアに連れられ、2階へと上がる
左側一番奥をエルの部屋に、その隣がレナードの部屋となった
ちなみにレナードのさらに隣はブレアの部屋らしい


ブレア「家具はまた街へ買いに行きましょう。ひとまず…」

「なによもう、騒がしいわねぇ」


レナードが声をした方に振り向くと、エルの向かいの部屋の扉がギィと音を立ててゆっくりと開いた


ブレア「もうお昼ですよ、マーガレット」

マーガレット「ん~、頭がガンガンする。昨日のお酒が抜けきってないわ」


マーガレットと呼ばれた女性はあくびをしながら頭をがしがしと掻いて部屋から出てきた
容姿は緑の綺麗な長髪で整った顔立ち、身長はレナードと同じくらいだろうか
スリムな体型をしており、魅力的な女性だと言える


ブレア「ちょうどいいのでついてきてください」

マーガレット「んー?あら、なによこの子達」

ブレア「それについても下でお話しましょう」

―――――――――――――――

マーガレットを加えた一行は下の居間へと移動した
居間にはソファーや食事をする用であろう机やイスなどがある
レナード達は各自適当に席につくとブレアが話を切り出した


ブレア「さて、みなさん。まだ全員揃ってはいませんが…」

ダンテ「はよ進めろや。俺眠いんだよ」

マーガレット「同意~」

エル「あ、あはは…」

ブレア「…」

コルト「どうぞ。紅茶でよろしかったですか?」

エル「あ、ありがとうございます」

レナード「いただきます」

ブレア「…」

マーガレット「コル爺~、わたし水~」

コルト「承知しました」

ダンテ「コル爺、俺はコーヒーで」

コルト「温かいブラックでよろしいですか?」

ダンテ「あったりまえだろ?」

コルト「かしこまりました」

ブレア「…」

エル「レ、レナード…」

レナード「ブレアさんの額に青筋が浮かんでるな…」


ブレアが笑顔で青筋を浮かべているその様子はさながら般若の彷彿とさせた


ブレア「ごほん、もういいですか?」

ダンテ「ん?あぁ」

マーガレット「あ~、頭痛い~」

ブレア「…。ではまず、改めて自己紹介から始めましょう」

エル「そういえばまだきちんとしていませんでしたね」


エルがすっと立ち上がるのに合わせてレナードも立ち上がる


エル「エル・ウェーバーといいます。よろしくお願いします」

レナード「レナード・シルダだ。よろしくお願いします」


二人はぺこりと頭をさげて再び席に着く


ブレア「ではダンテさん」

ダンテ「あー?俺からかよ…。ダンテ・グリムトンだ。このギルドのリーダーでもあるな。敬え崇めろ俺が王だ…」


何言ってんだこの人とレナードは心の中でつぶやく


ブレア「では次は私ですね。ブレア・マーカーと申します。ギルド『暴王の城』の副リーダーを務めさせていただいております」

マーガレット「マーガレット・ジャンヌよ。ギルドの役職はないけど、一応治療師ってことになるのかな」

エル「治療師?」

ブレア「彼女は水の所持者(ホルダー)なのですよ」

マーガレット「そ。水の能力でどんな怪我もお茶の子さいさいってね」


水の能力には治療の力があることはレナードも知識として知っている
レナード達が住んでいたボストン村には水の所持者(ホルダー)はいなかった
ルルも能力など持っておらず、道具と腕前だけで人々を正しく治療していたのだから名医と呼ばれるのも納得がいく


ブレア「では最後はコル爺」


ダンテにコーヒーを、マーガレットに水を運んできたコルトはその言葉を受けてたたずまいを直す


コルト「はい。コルト・シベリウスと申します。ここで執事として働かせてもらっておりますので、何かございましたらお二人ともどうぞ遠慮なく、私になんでも申しつけくださいませ」

ブレア「そしてあと二人いるのですが…」


そうブレアが言いかけるのと同時に扉の奥からガチャッと音がして、それに続いて話し声が聞こえた
玄関から誰かが入ってきたようだ


「ちっ、どいつもこいつも俺の魅力を理解していねぇな…」

「当たり前だ。そもそも仕事も碌にせずにふらふらと遊んでるやつに魅力などない」


ブレア「ちょうどいいタイミングですね」


居間の扉が開かれ、二人の男性が入ってきた


「コル爺―!腹減ったー!!」

「帰って第一声がそれか」


ブレア「ハイドン、エルガー、ちょっといいですか?」

エルガー「帰ってたのかブレア。どうした?」

ブレア「紹介したい人達がいます」

ハイドン「あ?」

エル「あ、あの、エル・ウェーバーと言います。ここでお世話になります。よろしくお願いします」

レナード「レナード・シルダだ」

ハイドン「お、なんだなんだ、新入りか?」

エルガー「またダンテの悪い癖か?」

ブレア「その通りです」

エルガー「全く…。エルガー・カントだ。よろしく頼む」


エルガーと名乗った男性は金色の短髪をしており、身長はややレナードより高いくらいか
きりっとした顔立ちに鋭い目をしている


ハイドン「ハイドン・フロイトだ。二人共、特にエルちゃんはよろしくなー」


こっちの人は茶髪のやや長髪、身長は185cmほどもあるだろうか
端的にいってイケメンなのだが、どうも雰囲気からしてチャラい
ナンパに行っていたとも言っていたし、その通りの人物らしい


ブレア「メンバーはこれで全員です。リーダーのダンテさん、副リーダーの私、治療師のマーガレット、戦闘員のハイドン、同じく戦闘員のエルガー、そして執事のコル爺。これにあなた達二人を加えて、全員ということになります」


つまり総勢8人ということになる


レナード「8人ってのは少ない…っすよね?」

ブレア「そうですね。あなた達二人が入る前は6人でさらに少ないですしね。多いところでは100人近い構成員がいるギルドもあります。少なくても10人ほどはいるかと。我がギルドを除いて、ですが」

ダンテ「うちは数より質だ」

マーガレット「そうそう。数だけ多くしても逆にうっとうしいわ」

ハイドン「まぁ仲良くやっていくにはこんなもんがベストだと俺も思うぜ」

エルガー「人数が多ければ多いほど問題も起きるからな」

エル「なるほどー…」


レナード「質っていうと、みんな強いってことっすか?」

ダンテ「あたりめーよ」

ブレア「レナード君は『熟練度』というものをご存知ですか?」

レナード「いや、知らないっす…。あと君付けなんかしなくていいっすよ」

ブレア「ではレナード、と呼び捨てで?」

レナード「あぁ。そっちの方がいいです」

ブレア「分かりました。で、続きなのですが、『熟練度』とは言わば所持者(ホルダー)の能力をいかに使いこなせているのかという指標です」

レナード「指標…」

ダンテ「1から100まで。数字が高ければ高いほどより洗練されて、熟達になっているってわけだ」

ブレア「ちなみに私は火の所持者(ホルダー)で熟練度は71です」

ダンテ「俺は闇で熟練度は88だ」

マーガレット「私はさっきも言ったけど水の所持者(ホルダー)で熟練度は68よ」

ハイドン「俺は風の所持者(ホルダー)だ。熟練度は71だな」

エルガー「嘘をつくな、嘘を。何かとブレアと対抗しようするのはお前の悪い癖だ。お前はまだ70だろう」

ハイドン「ふん、どうせすぐ上がるしー」

エルガー「全くこいつは…。俺は雷の所持者(ホルダー)で熟練度は65だ」


レナードはその数字を聞いてもピンと来ないのか、眉をひそめている


ダンテ「『まとい』が使えるのは熟練度が20を超えてからだ。んで、『獣霊』が使えるようになるのは40くらいだな」

レナード「ってことは俺はまだ20ちょっとってことか…?」

ブレア「そういうことになりますね」

エルガー「レナードも所持者(ホルダー)なのか?」

レナード「そうっす。光の所持者(ホルダー)っすね」

コルト「光…。光の所持者(ホルダー)は珍しいですね」

ダンテ「闇と光は他の四属性に比べて数がかなり少ないからな」

レナード「そうなのか…?」

マーガレット「そうよー。ねぇ、エルはどうなのよ?」

エル「わたし?」

ハイドン「ん?エルちゃんも所持者(ホルダー)なのか?」

エル「あ、一応そうですね…。わたしも光の所持者(ホルダー)です」

コルト「なんと…!」

エル「ただ全く使えなくて…。光を少し出すことすら出来ないんですよ。あははは…」

ブレア「ふむ?おかしいですね。いくら熟練度が低くても自分の属性を表に出すことくらいは出来るはずですが…」

レナード「こんな風に指先を光らせるとか?」


レナードが人差し指を立たせ、その先が淡く光っている


ブレア「そうです。私だったら火、エルガーだったら電気と弱いながらも出せるはずなのですが…」

エル「わたし才能ないのかな…」

マーガレット「才能以前の問題よ。はっきり言って才能0の人でも使えるわ」

エル「えー…」


ダンテ(まさかな…)


ハイドン「まぁでも目をみる限り間違いなく光の所持者(ホルダー)だな」

エル「ひぇっ…」

ハイドン「目をみただけで引かれた…!?」


ハイドンがエルの目を覗くが、エルはすぐに身を引いてしまう


レナード「でもエルの体内のマナの貯蔵量は物凄く多いみたいなんだ」

ブレア「ふむ、マナは大量にあるのに能力が使えない…と」

エルガー「極度に疲労している人にはたまにこういった症状は出るが、それも一時的なものだし、なによりそんなに疲労もしていないな」

マーガレット「不思議ね」

ダンテ「…」

ブレア「能力も使えなくて戦闘能力もないとなると簡単な依頼くらいしかこなせませんね」

ハイドン「まぁこんな子が戦闘なんてこっちがヒヤヒヤするからちょうどいいんじゃないか?」


レナード「あぁ。エルは俺が守るから大丈夫っすよ」

ハイドン「お?」

エルガー「…!」

マーガレット「あらあらあら~?」

コルト「ほっほっほ」

レナード「な、なんだよみんなして…」

エル「えへへ…」

ブレア「ま、そういうことです。ではエルさんは基本的に簡単な依頼がきたらそれをこなすということにしましょうか」

エル「来ないときはどうしたらいいですか?」

ブレア「そうですね…」

ダンテ「コル爺の手伝いとかはどうだ?」

ブレア「え、領主様の娘さんですよ?家事をやらせるなんて…」

エル「いえ、大丈夫です!やらせてください!」

エルガー「いいのか?こう言ってはなんだが、コル爺の家事スキルはかなり高いからコル爺から学ぼうとすると大変だぞ?」

エル「こ、これも成長するための勉強のうちです!」


ブレア「…ということですが、コル爺」

コルト「教鞭を振るえ、ということであれば私は容赦しませんよ?」

ダンテ「おー、こわ」

エル「お願いします!」

コルト「よろしいでしょう」

ブレア「今日はいろいろと買い物に行ったり休みを取ったりした方がいいので、明日からにしましょうか」

コル爺「かしこまりました」

エル「はい!」


ハイドン「エルちゃん良い娘やなぁ」

マーガレット「あの愛くるしさ、ついつい撫でたくなるわね」

エルガー「度が過ぎると嫌われるからほどほどにしておけよ」

マーガレット「わーかってるわよー」


レナード「俺はどうしたらいいっすか…?」

ブレア「レナードはしばらくは修行と勉強の毎日になりますね。私達のギルドに舞い込んで来る依頼は極端なのが多いので、まずは力をつけることに専念しなければなりません」

レナード「極端っていうと…?」

ブレア「大体は強力な魔物の討伐や盗賊などの捕縛などですね。過去には七星獣の一匹を追い払ってくれなんて依頼もありましたよ」

レナード「七星獣…?」

ブレア「それもおいおい勉強していきましょう」

エル「あの、その勉強、わたしも受けていいですか?」

ブレア「もちろんです。では時間が合いやすい夜を勉強の時間としましょうか。昼間はエルさんは家事のお手伝い、レナードは修行です」

エル「わかりました」

レナード「了解っす」


ブレア「では今日は街に買い物にでも出かけましょうか。私もついていきますよ」

マーガレット「あ、わたしも行くわ。ちょっとほしいものもあったし」

ハイドン「いってら~。俺はまた寝るわ~」

ダンテ「俺も寝るとしますかね」

エルガー「二人とも仕事しろよ」

コル爺「行ってらっしゃいませ。夕飯を作ってお待ちしております」


この日はブレアの言うとおりに家具やらなんやらをまとめ買いした
レナードは持ち前のお金が少し足りなかったのでブレアに借りることになった
出世払いでいいですよ、とはブレアの言葉だ
そして買い物が終わる頃にはエルとマーガレットが物凄く仲良くなっていたのにはレナードも驚いたものだった


ここまでです
ではまた

次回は今週中には無理そうなので、来週に投下しますね

おはようございます
投下します


ブレア「さて、コル爺のおいしい夕飯も頂いてお風呂も済ませたことですし、少しだけでもお勉強会といきましょうか」

レナード「うっす」

エル「はい!」

ブレア「部屋は…居間は騒がしいですからやめたほうがいいでしょうね」

レナード「俺の部屋でいいのなら使っていいですよ」

ブレア「ではそうしましょうか」

マーガレット「あ、わたしも行くわ」

ハイドン「じゃあ俺も。どうせ暇だし」

ブレア「…邪魔だけはしないようにしてくださいね」

マーガレット「はいはい」

ハイドン「うぃうぃ」

ダンテ「いってら~」


レナード達三人は何故か着いてくるマーガレットとハイドンと共にレナードの部屋へと移動した
レナードとエルは昼間の買い物で紙とペンを大量に買い込んでおいたので、それを使って勉強することになっている


ブレア「さて、では何から始めましょうかね。文字の読み書きはお二人共大丈夫ですか?」

レナード「俺は大丈夫っすよ。親父から最低限のことは出来るようになっておけと叩き込まれていたので」

エル「私も大丈夫です。流石に貴族の娘ですし」

ブレア「そうですか。では…」

マーガレット「はい!先生!」

ブレア「……。なんでしょうか?」

マーガレット「まずは国のことについての講義がいいと思います!」

ブレア「…まぁ確かに国の成り立ちなどは必要なことですが…」

ハイドン「はいはい!俺もマーガレットちゃんに同意します!」

エル「ちゃん付け…」

マーガレット「え…きも…」

ハイドン「何でか女の子って大概俺の敵だよなっ!」


ブレア「はいはい、そこまでです。ではこの国、シャガール王国のことについてまずは勉強しましょうか」

エル「はい」

レナード「お願いします」

ブレア「ではお二人はこの国についてどこまで知っていますか?」

レナード「800年前に当時の王であるカラヤン王が周囲の小国を束ねて建国」

エル「当初は大きな力も領地も持たなかったものの、圧倒的なカリスマ性を誇ったというカラヤン王の下、豊かな土地に努力をたゆまない民、そして精鋭ばかりと言われた騎士団によってめきめきと国力を伸ばしていき、100年あまりで三大国の一つとなるまでになった」

ブレア「そうですね。大雑把にはそんな感じです。絵本などでもそう書かれていることでしょう」

マーガレット「詳しく言おうとしたらキリないしね。そんくらい知ってればまぁいいわ」

ハイドン「騎士団なんかはさらに力をつけて今でも存在してるがな」

ブレア「まぁそうですね。では三国戦争のことは?」

レナード「それ俺あんまり知らないんすよね」


エル「今からおよそ400年前、精鋭の所持者(ホルダー)を数多く有する、最大の国シャガール王国、魔術を開発し、力を大きく伸ばしたゼノン王国、人族以外の種族も多種多様に住み、他の2国に比べれば小さいが戦闘力は高いゲバラ王国。この三国の間で起きた史上最大にして最も長期に渡った戦争」

ハイドン「戦争が起こった原因は資源の奪い合いと言われているが、実のところは未だハッキリしていないという謎の大戦争だな」

ブレア「はい。最も有力な説としては、土地の性質上資源の少ないゼノン王国が魔術を開発したことで資源を求めてシャガール王国へと侵略。2国の争いに乗じて漁夫の利を得ようとしたゲバラ王国もそれに参戦。しかしゼノン王国もゲバラ王国も予想以上の力を持っていたシャガール王国に苦戦。戦いは泥沼と化します」

レナード「魔術…。噂でしか聞いたことがないな…」

ブレア「魔術は我々所持者(ホルダー)とは違い、努力と才能次第では究極的には6属性全てを扱うことも可能です。さらに所持者(ホルダー)が大気中のマナを取り込み、それを使って能力を発動させるのとは違い、魔術は大気中のマナに直接干渉して発動させます。なので魔術師がマナ切れになることはまずありません」

エル「何それ…。めちゃくちゃ強いじゃないですか…」

マーガレット「ところがそうでもないのよ。魔術ってのはそもそも1属性の修得ですら膨大な努力と時間を必要とするらしいわ。凡人では1属性の修得に何十年とかかるって言われてるの。加えて、光と闇はさらに修得が難しい。だから、そもそも魔術を扱えるようになること自体が相当に大変なのよ」

ハイドン「さらには1属性単体の出力は所持者(ホルダー)よりもかなり低い。だから、火の所持者(ホルダー)と火の魔術師が戦ったら、熟練度も影響はするだろうが、まぁまず所持者(ホルダー)が勝つだろうな」

ブレア「とまぁそんな感じで良いところもあれば悪いところもあるのです」


レナード「とすると、その魔術師ってのはかなり少ないのか?」

マーガレット「そうよ。確かこの国、シャガール王国では100人ほどだったかしらね。彼らは王都にしかいないわ。魔術は突発的に使えるようになるなんてものではないから、修得しようと思えば王都にある魔術協会に入るでもしないと無理だもの」

エル「そうだったんですね…」

ブレア「少し話が逸れてしまいましたね。話を戻しましょうか」

レナード「そうっすね。状況から見て戦争はシャガール王国と他2国の間で起きてたってことなんすか?」

ハイドン「いや、そうでもねぇ。ゼノン王国とゲバラ王国も幾度と無く衝突していたって話だ」

ブレア「これは様々な文献にも残ってるので事実でしょう」

エル「ゼノン王国は大陸の北一帯、シャガール王国は中央から南にかけて、ゲバラ王国は東一帯を領地としているので、シャガール王国は挟まれる形となる。これが地力では圧倒的な力を持つシャガール王国が攻めに出られなかった要因だって聞いたことがあるのだけれど…」

ブレア「その通りです。流石のシャガール王国も三大国の一つを制圧しようとすれば相当な戦力を一方に集中的に投下せざるを得ません。しかしそんなことをしてはもう一方の国に自国がやられてしまいます。なのでシャガール王国はひたすら守りに徹し、資源の豊かさに物を言わせて超長期間による消耗戦に移りました」

エル「なるほど…」


レナード「確か戦争は50年続いたって話だけど…その泥沼状態が50年も続いたってことなんすか?」

ブレア「膠着状態が続いたのは正確には40年ほどですね。最初の5年はまだ激しく争っていたので。そして最後の5年は…」

エル「三英雄の台頭、ですね」

ブレア「その通りです」

レナード「それなら俺も知ってます。シャガール王国の闘神・アムンゼン、ゼノン王国の賢者・ヒルベルト、ゲバラ王国の巫女・モネ。戦争を終わらせた英雄達ですよね」

ブレア「彼らは他者とは隔絶した圧倒的な力を持っていたと伝えられています」

マーガレット「戦争が始まって45年、三英雄の一人、熟練度100『闘神』を扱う光の所持者(ホルダー)、アムンゼン・ディバーの台頭」

ハイドン「それに続くように賢者と呼ばれる6属性全てを扱う天才魔術師、ヒルベルト・ヒッチコックも名をあげる」

エル「そして…光の所持者(ホルダー)にして唯一『浄化』の力を持っていたという光の巫女、モネ・メルセンヌの名が全大陸に知れ渡った」


ブレア「彼ら3人は最初は出身国の違いもあり、最初は敵同士でした。そして戦争が始まって48年、当時既に最強と謳われていた二人、アムンゼンとヒルベルトの直接対決が三国の境界にて遂に起こりました」

マーガレット「二人の戦いの爪あとは今でも残ってるわ。あの悲劇の戦争を忘れないためにってね」

ブレア「二人の戦いは丸一日続いたと言われています。そして、最後は二人同時に倒れた、と」

エル「…」

ブレア「しかしその後、その場にモネが現れました。二人は既に満身創痍で身動きも取れないほど疲弊していました。これならば戦闘力を持たないモネでも殺せてしまいます。しかし…モネは『浄化』の力を使い、彼ら二人の傷を癒しました」

レナード「『浄化』ってのは治療の能力なんすか?」

ハイドン「いや、治療の『浄化』の能力の一つだと言われてる。『浄化』の力についてはまだ不明なことが多い。なにせ、モネ以降『浄化』の力を持ったやつは現れたことがねぇからな」

ブレア「モネは治療を済ませた後、二人に訴えました。私達でこの愚かな戦争を集結させよう、と」


レナード「それが…三英雄の起こり…」

ブレア「はい。そして彼らと共に戦う道を選んだ十数人ほどの精鋭もそれに加わり、彼らは自らを『終わらせる者達(エンディーズ)』と名乗りました。かれらエンディーズの活躍により、50年続いた戦争は遂に戦争は幕を下ろしたのです」

レナード「それが三国戦争…」

ブレア「…さて、今日はこのくらいにしておきましょうか。まだ二人は疲れが残っているでしょう。明日のためにも今日はゆっくりお休みになられてください」

エル「ありがとうございます。そうさせてもらいます」

マーガレット「私も寝ようっと。ふぁーあ」

ハイドン「金無くなってきたから明日は俺も働こうかな~」

ブレア「あなた達ももし手が空くようでしたらレナードの修行に付き合ってやってくださいね」

マーガレット「おっけーおっけー」

ハイドン「暇だったらな~」

レナード「よろしくお願いします」

ブレア「ではおやすみなさい」


初日の勉強会はこれにて終わり、皆解散となった
自室に一人残されたレナードはベッドに横たわり、眠りに落ちつつも、これからの日々に期待と不安を募らせずにはいられなかった


ダンテ「おっし、やるぞ」

レナード「うっす!」


翌朝、レナードとエルの修行が始まった
エルは屋敷内でコルトの指導の下家事に勤しみ、レナードは庭で能力の修行である


レナード「初日はダンテさんなんですね」

ダンテ「俺以外誰もいねぇからな。全員仕事だ」

レナード「ハイドンさんやマーガレットさんも?」

ダンテ「二人共金がねぇとか言ってな」

レナード「は、はぁ…」

ダンテ「さて、まずお前がやるべきことは『まとい』の練度を上げることだ」

レナード「なんでですか?」

ダンテ「『獣霊』を修得するためだ。そもそも『獣霊』が何なのか、どうやれば修得できるのかとかは教えてもらったか?」


レナード「いえ、まだです」

ダンテ「ったく…まずそれを教えてやれよ。仕方ねぇ。まずは『獣霊』がどんなもんなのか説明してやる」

レナード「うっす」

ダンテ「『獣霊』ってのは自らの肉体に獣霊と呼ばれる精霊を宿すことを意味する。んで、その獣霊を宿すにはとある場所に行かなきゃなんねぇ」

レナード「とある場所?」

ダンテ「聖地フォレストクローク。ありとあらゆる死者の魂が集結すると言われてる大樹のある森だ。精霊ってのは強い個体が死してなおその強力な力を魂に宿し、存在していることを指す。そして、その魂を使役することを『獣霊』と呼んでいる」

レナード「つまり、『獣霊』を扱えるようになるには…」

ダンテ「その聖地に行くことが条件になる」

レナード「なるほど…。だから一人で修行してても限界があるのか…」


ダンテ「まぁごく稀にだが、精霊の中でも一際強い個体は聖地から離れることもあるらしい。可能性は限りなく低いが、運よくその精霊と出会い、使役することが出来れば聖地には行かなくても『獣霊』を修得することは出来る」

レナード「ちなみにそうやって『獣霊』を修得した人は何人いるんすか?100人に一人とか1000人に一人とかって感じですか?」

ダンテ「俺が知る限りでは三人しかいねぇ。三英雄の一人のアムンゼン、6代目騎士団団長、それと14代目騎士団長、つまり、現騎士団長のジークっていう爺さんだけだ」

レナード「確か騎士団長って…」

ダンテ「歴代全員熟練度100だな」

レナード「つまり全員熟練度100到達者ってことか…。そりゃ聖地に行かずに『獣霊』を修得するなんて可能性、無いにも等しいっすわ…」

ダンテ「ま、聖地には結構簡単に行けるから心配すんな。それよりも、獣霊を使役するにはそれ相応の肉体が必要となる。精霊ってのは元々強い肉体を持っていたやつらばかりだからな」

レナード「そのための『まとい』の修練ってことか…。じゃあ、具体的にはどうやって…?」

ダンテ「簡単だ。ひたすら『まとい』を使って戦う。それだけだ」

レナード「え…」

ダンテ「戦い相手は俺がやってやる。明日以降は他の誰かだな」


レナード「わかりました。ではお願いします」

ダンテ「おう。で、お前は剣を使うんだな?」

レナード「あ、はい。まぁ一応っすけど」

ダンテ「俺も剣使いだからその方が武技も教えられて丁度いい。さぁ、剣を抜け」

レナード「武技…?」

ダンテ「後から簡単に説明してやる。時間は有限だ。詳しいことが知りたかったら夜にブレアに教えてもらえ」

レナード「…うっす!」

ダンテ「いくぞ!構えろ!」


修行内容はいたって簡単なもので、レナードは拍子抜けしてしまった
なんだ、そんな簡単なものなのか、と

しかし、レナードはすぐにこの考えを正すことになった

ここまで
しばらくは更新できないと思います
すいません

ではまた

今から投下します~


レナード「っっあー!はぁ…はぁ…くそっ…」


レナードは地面に仰向けに倒れ、激しく息切れをしている


ダンテ「なんだ、もう終わりか?」


レナードが剣を抜いて全力で戦っているのに対し、ダンテは剣すら抜かずに『まとい』だけでレナードを圧倒している
レナードの剣は全ていなされ、逆に拳や蹴りのカウンターをくらう
そんな風にボコボコにされているうち(ダンテがかなり手加減しているので傷はそんなでもない)に遂にレナードに限界がきたようだ


レナード「か、身体が…はぁ…ものすごくだるいっ…!」

ダンテ「まだ修行を始めて1時間だぞ?休憩にははえぇだろ」

レナード「俺の…はぁ…マナの貯蔵量だと…『まとい』を1時間ずっと使ってれば無くなっちゃうんすよ…はぁ…はぁ…」


レナードマナ切れによるだるさに全身を覆われていた
腕を動かすのもしんどいレベルである
身体の疲労や傷はさほどでもないが、このだるさがキツイようだ


ダンテ「ったく、じゃあマナの貯蔵量も鍛えなきゃなんねぇな。いや、まぁそれはある程度は修行中に自然に増えてくからそこまで気にしなくてもいいか。でもこれを日が沈むまで毎日ずっと続けるんだぞ?根をあげるには早すぎるぜー」

レナード「ま、毎日ずっと…」


レナードの顔がややひきつり、嫌な汗が頬を伝う
毎日このだるさと戦わなければならないのかと、先ほどまで余裕だった表情がどんどん曇っていく


レナード「と、とにかく…もうマナがすっからかんなので溜める時間をください…」

ダンテ「しゃあねぇなぁ」


マナが無ければ『まとい』もへったくれもないので、ダンテは仕方なく休憩を取ることにした
休憩時間は30分だ
ダンテによればマナはレナードの貯蔵量であれば30分もあれば何割かは回復する、とのことである


ダンテ「…今のうちに少しだけ講釈してやるか」

レナード「え?」


ダンテ「武技についてだ」

レナード「あぁ、あの修行を始める前にダンテさんが言ってた…」

ダンテ「所持者(ホルダー)と魔術師ってのは基本的に3つの技を駆使して戦う。武器を扱う武技、能力を扱う能技、身体を扱う体技、この3つだ」

レナード「ふむふむ…」

ダンテ「能技や体技は熟練度、スピードや力なんかのように共通の基準なんかがあるが、武技だけは別だ」

レナード「戦いでは武器の相性があるし、その武器によって扱い方がバラバラだからですか?」

ダンテ「その通りだ。なんだ、理解がはえぇじゃねぇか」

レナード「武器、特に剣にはちょっと詳しいんすよ、俺」

ダンテ「そうなのか?あぁ、そういやお前家が鍛冶屋だとか言ってたな」

レナード「小さい頃から見てたので…。ダンテさんの剣とか見せて欲しいくらいっすよ」


ダンテ「ん?なら見てみるか?」

レナード「え、いいんすか?」


ダンテは腰にぶらさげてあるだけで抜かなかった剣をあっさり抜き、レナードへ手渡す


レナード「は~…すごいっすね、これ…。綺麗な直刃で刃こぼれも一切してないですし、装飾も…初めて見る装飾ですけどすっげぇ綺麗ですね。丁寧に扱っていて、なおかつ手入れもいきわたってる。元々かなりいい剣なんでしょうけど、それを維持するのって結構大変だったりするのに…」

ダンテ「まぁそいつが綺麗に扱え、手入れはちゃんとしろってうるせぇからな」

レナード「ん?そいつって?」

ダンテ「あ?だからそいつだよ」

レナード「え?俺の後ろには…誰もいませんけど」

ダンテ「ちげぇって…あー、そうか、それも知らねぇのか…」


レナード「…?」

ダンテ「俺が言ってるのはその剣のことだ。そいつってのはその剣、『ムラマサ』のことだ」

レナード「…?つまり、剣が…うるさい?…ん?」

ダンテ「俺の剣であるムラマサは神器の一つだ。神器ってのは知ってるか?」

レナード「いや…知らないっす」

ダンテ「獣霊の話はしたな?」

レナード「うっす。所持者(ホルダー)の身体に精霊を宿すこと、ですよね」

ダンテ「そうだ。だが精霊が宿るのは何も所持者(ホルダー)だけじゃない。ありとあらゆるものに宿る可能性がある。条件は精霊に見合った強い肉体、それだけだからな」

レナード「ってことは…」

ダンテ「ムラマサにも精霊が宿ってるってことだ。んで、このムラマサみたいに精霊が物に宿った存在を『神器』って呼んでる」

レナード「はー…この剣に精霊が…」


ダンテ「元が夜行性だから昼間は寝てることが多くて顔を出してこねぇがな。その代わり夜、特に深夜はうるせぇ」

レナード「夜行性…?」

ダンテ「ムラマサに宿ってる精霊の名は『ケット・シー』。生前は巨大な虎で、とある森の女王だったらしい」

レナード「虎…」

ダンテ「まぁ戦いの時はかなり役立ってくれるから俺としては助かってる。深夜にギャーギャー騒がなきゃ、だが」

レナード「…ちなみにダンテさんの身体に宿ってる精霊はどんなのなんですか?」

ダンテ「ん?見たいなら呼んでみるか?」

レナード「え…」

ダンテ「シャドウ、出て来い」


そうダンテが告げるとダンテの身体から黒いオーラのようなものが立ち込め始める
次第にそれは形を成していき、そして…


シャドウ「ん~?ふぁーあ…。なんじゃ、別に戦場でもないところにわしを呼び出しおって…」

ダンテ「なんだ、お前も寝てたのか?」

シャドウ「最近はやることも考えることも無くなってきたからの~。暇なんじゃよ。たまにはこうやって呼び出してくれんと退屈で仕方ないのじゃ」


ダンテとレナードの間に現れた「それ」は人型なのだが黒いモヤのようで輪郭がはっきりせず、だが存在だけは間違いなく感じられるという奇妙なものだった
見かけは若い女性のようで顔立ちも幼く、身長もエルと同じくらいだろうか
だが喋り方は老人であるので、レナードとしては非常に違和感を覚えていた


ダンテ「呼び出した用ってのはうちのギルドに新しいメンバーが入ってよ、んでお前を見せてやろうと思って」

シャドウ「新しいメンバー?」

レナード「あ、どうも…」


シャドウ「ん~?おやおや、また随分若い子じゃの~」

ダンテ「あ、一応言っとくがシャドウは元人間だ」

レナード「人間…!?人間も精霊になるんですか!?」

シャドウ「そうじゃよ~。わしの魂は超強力だからの。こうして今も精霊として人生を謳歌しておるぞ~」

ダンテ「『獣霊』ってのはあくまで精霊になるのが魔物や獣に多いからそういう名前になったってだけで、この世の全生物は精霊になることは出来る」

レナード「そうなんですね…」

ダンテ「シャドウ、そいつの名前はレナードだ。あとそいつの他にもう一人いるんだが、そいつは今屋敷の中で熱心に家事の勉強中だな」

シャドウ「そうかそうか。して、わしは何をすればよいのじゃ?何か能力でも披露すればよいかの?」


ダンテ「あ?いや別に何も…」

レナード「あの、能力っていうと…?」

シャドウ「そうじゃの…。例えば…あの木を見ておれ」


シャドウは庭の向こうの方に生えている木を指差す


ダンテ「は?おい、やめ…」


ダンテは嫌な予感がし、シャドウを制止しようとするが


シャドウ「そいっ!」


グシャッ


既に遅かった

木は大きな音を立て、中ほどからまるで何かに握りつぶされたかのようにひしゃげていた
そして自重に耐え切れなくなったようで、そのまま倒れていく


シャドウ「ふっふーん。どうじゃ?今のはほんの少しの力しか使っておらぬぞ?」

レナード「す、すげぇ…」

シャドウ「はっはっは!そうじゃろそうじゃろ!すごいじゃろ!」

レナード「すげぇ…けど…」

シャドウ「ん~?」

レナード「木が倒れて柵が…」

シャドウ「柵?」


木が倒れた方向は屋敷を囲う柵であり、木の重みに柵が耐えきれるわけもなく壊れていた


シャドウ「あ、あっちゃ~…じゃの」


ダンテ「おい、シャドウ…」

シャドウ「ひっ!じ、事故じゃ!わしのせいでは…多分ない!」

ダンテ「そもそも木を潰した時点でおかしいよなぁ?あ?」

シャドウ「う…」

ダンテ「鉄拳制裁だ」


ダンテが指をパキポキと鳴らし、縮こまっているシャドウの頭に拳骨を降らせる
ゴンッと鈍い音がしてシャドウは地面に無理やり突っ伏され、その場でのたうちまわっている
だがレナードは獣霊って触れるんだぁ、と全く違うことを考えていた
この面子、なかなかにカオスである


コルト「何かものすごい音がしましたが、何事ですかな?」


レナード「コルトさん。と、エルも」

エル「な、なにがあったの?」

レナード「あれだよ」


レナードの指差す方向には倒れた木とぐしゃぐしゃになった柵
エルはポカンと口を空けて固まっている


ダンテ「犯人はコイツだ」

シャドウ「うぅ~。ご、ごめんなさいなのじゃ…」


ダンテが未だ地面に寝転びながら涙目になっているシャドウを剣の鞘で軽く小突く


コルト「なるほど…。やれやれ、ですな」


それだけで全てを理解したらしいコルトは苦笑いを浮かべている


レナード「あのシャドウって呼ばれた子はダンテさんの獣霊で、あの木と柵はシャドウの能力のせいってことだ。獣霊は分かるか?」

エル「ハッ…!あ、そういうこと…。うん、どんなものかってぐらいなら知ってるよ」


レナードの丁寧な解説のおかげでエルもようやく現実に戻ってくる


ダンテ「さて、そろそろ修行を再開するか。身体のだるさもある程度消えてるだろ」

レナード「うっす!」

コルト「我々も戻りましょうか。洗濯についてのご教授の途中でしたな」

エル「はい!」


エルとコルトは屋敷へと戻っていき、レナードとダンテは再び戦闘体勢に入る
シャドウはダンテの中に戻ってもどうせ暇だからとこのまま残ることにしたようだ
ただ留まるだけならばダンテもシャドウにマナを与える必要はないらしいので、余計なことはしないことを条件にそれを許可
ついでに柵と木を片付けろと命じられたのでシャドウはそれを片付けてから(というよりどうやってか消滅させた)ふよふよと浮かびながらダンテとレナードの修行を見ながら助言をしたりしていた


ダンテ「うし、今日はここまでにしとくか」


時刻は夕方の6時
既に夕日が沈みかけている


レナード「よ、ようやく終わっ…た…」

シャドウ「あ、倒れた」


レナードは疲労のあまりにその場で地面に突っ伏し、寝息をたてていた


レナード「スゥ…スゥ…」

ダンテ「初日からしごき過ぎたか?」

シャドウ「わしはよいと思うぞ~。こやつもよほど強くなりたいのか、つらいきついとは言ってても辞めたいとは一言も言わなかったしの」


シャドウはレナードの頬をつんつんと突きながら柔和な笑みを浮かべている


ダンテ「ま、とにかく…」


ダンテはレナードを地面から持ち上げ、背中におぶさると屋敷へと歩き出す


ダンテ「お疲れさん、レナード」

ここまでです

ではおやすみなさい

こんばんわ
投下します


ブレア「さて、お勉強の時間になりました…が」

レナード「…」ウトウト

ブレア「ふふ、既に限界が近い人がいるようですね」

エル「レナード…!」

レナード「ん…うん…いや、起きてるよ…」


エルがヒソヒソ声で起こしにかかるがレナードは未だうつらうつらとしている
修行でよほど疲れたのかご飯の最中もお風呂の最中もこの調子だ


ブレア「レナード、大丈夫ですか?」

レナード「あ、すいません…大丈夫っす。いけます」

エル「本当?今にも寝そうじゃない」

レナード「…ちょっと顔洗ってきます」

ブレア「ええ、分かりました」


レナードが少しでも眠気を覚ますためにと顔を洗うために廊下へ出る、が


バチーン!!


エル「!?」

ブレア「何ですか今の音は…」


レナードが部屋を出て数秒でものすごい音が響き渡った


マーガレット「どう?目、覚めた?」

レナード「はい、しっかり目覚めました。ついでに殺意も目覚めそうです」

マーガレット「よし、じゃあ勉強の時間よ」


部屋を出たはずのレナードがマーガレットを引き連れてすぐに戻ってきた
レナードの左頬には何故か赤い紅葉マークがついている


ブレア「マーガレット、お仕事はもういいのですか?」

マーガレット「ええ、大丈夫よ。まだやることは残ってるけど明日中には余裕で終わるし。夜はしっかり寝ないとねー」

ブレア「それは結構です。で、さきほどの音は?」

マーガレット「レナードが眠そうにしてたから気つけの一発を、ね」


ウインクしながらそう言うマーガレットを物凄い形相で睨むレナード
眠気はしっかり取れたようだ


ブレア「やれやれ、では始めましょうか」


こうして、ようやく今夜の講義が始まる


ブレア「今日は何についてにしましょうかね…」

レナード「提案していいっすか?」

ブレア「どうぞ」

レナード「基本4属性と上位2属性について知りたいです。あと武技とか体技とかも…」

ブレア「なるほど、分かりました。んー、そうですね…。では今日は所持者(ホルダー)とは何か、ということについてお勉強するとしましょう」

レナード「お願いします」

エル「はい」

マーガレット「はい先生!質問です!」

ブレア「…それ毎回やるんですか?」

マーガレット「雰囲気でるじゃない」

ブレア「出ませんよ…。茶化しているだけでしょう…」


マーガレット「まぁまぁ。で、質問なんだけどー、そもそも所持者(ホルダー)って何?」

ブレア「そんなことあなたもう知って…ごほん、そうですね。ではそこから始めましょうか」


ブレアもマーガレットの意図を汲むことにしたようだ


レナード「所持者(ホルダー)ってどんくらい前からいたんですか?それこそ人類が誕生するのと同時に、とかっすか?」

ブレア「いえ、所持者(ホルダー)の起こりは約1000年前に遡ります」

エル「1000年…!」

ブレア「文献に残っている情報によると、今から1000年前にとあるものを人間が摂取したことで所持者(ホルダー)が誕生したと言われています」

レナード「ある物って?」

ブレア「龍の血です」

エル「龍の…血?」


マーガレット「まぁその文献自体が300年前のものだし、情報の正確さは保障できないわ」

ブレア「しかし所持者(ホルダー)の起源についてはその文献にしか載っておらず、その説以外に何もないのが実情ですね」

レナード「そうなんすね」

ブレア「しかしその文献に何の信憑性もない、と言えばそれは嘘になります」

エル「どういうことですか?」

ブレア「龍自体は現在でも存在が確認されています」

レナード「な…龍が!?」

エル「本当にいるんですか!?」

マーガレット「しかも確認されてる龍は全員能力持ち、つまり所持者(ホルダー)よ」

レナード「龍が所持者(ホルダー)…」

ブレア「つまり龍の血を摂ることで所持者(ホルダー)に目覚める、という話はあながち間違ったものではないのだろうと推測できるのです」


レナード「…龍ってなんなんですか?」

ブレア「龍は一角の七星獣です」

エル「七星獣…前も言ってましたよね」

マーガレット「七星獣は知ってる?」

レナード「いえ…」

エル「私も知らないです」

ブレア「七星獣というのは一角のドラゴン、二角のキマイラ、三角の夜叉、四角のオーク、五角のエキドナ、六角のセイレーン、七角のバハムート、この七種の生物のことを指します」

マーガレット「全生物の頂点に君臨してると言っても過言じゃないわね」

レア「まさにその通りで、七星獣は他の生物とは一線を画します。単純な能力だけでなく、龍のように所持者(ホルダー)であったり、人族を遥かに凌駕する頭脳を持っていたりと圧倒的な力を持っているのです」

エル「確か前にブレアさんが七星獣の一体を追い払う依頼が来てたって言ってましたけど…」

ブレア「ええ、四角のオークです。オークは巨大で全てを破壊するほどの筋力や鋼鉄の皮膚を有しながら知能は獣並で、まさに災害とも言える存在です。こいつの行く先に村などがあれば一大事です」


マーガレット「まぁパワーはものすごいけど、愚鈍だし知能は低いしで追い払うのは別に難しくなかったわ。倒すとなれば話は別だけどね」

レナード「七星獣を追い払うなんてすごいんじゃ…」

ブレア「七星獣を追い払うことが出来るギルドなどそうはないでしょうね」

マーガレット「そうね」

エル(ちょっと誇らしげだ…)


ブレアもマーガレットもややにやけている


ブレア「んん、話が逸れてしまいましたね。所持者(ホルダー)の起こりについては理解できたと思います。では次は所持者(ホルダー)の属性や熟練度についてお教えしましょう」

エル「あ、はい」


ブレア「所持者(ホルダー)には基本四属性の火、水、風、雷に上位二属性の光と闇で合計六属性が存在します。数としては100人に1人所持者(ホルダー)が生まれ、さらに所持者(ホルダー)100人に1人が光か闇の所持者(ホルダー)として生まれます」

マーガレット「つまり人が10000人いたとしたら99人が基本四属性で1人が上位二属性ってとこね」

レナード「つまり俺達は10000人に1人の存在ってことか」

エル「なんか…実感ないね」

ブレア「ダンテさんも闇なのでその1人ですね」

マーガレット「ふふ、ギルドのメンバー7人中3人が上位属性なんて滅多にないわね」

ブレア「それで熟練度についてですが…」

レナード「あ、『獣霊』についてはダンテさんから聞いてます」

ブレア「あ、そうなんですね。エルさんはどうですか?」

エル「『獣霊』については大丈夫です」


ブレア「分かりました。ではまず『まとい』について少しお話します。今のレナード君は確か通常の2倍のスピードや筋力が得られるのでしたね?」

レナード「あ、はい」

ブレア「実はそれ最低値なんですよね」

レナード「え…?」

マーガレット「エルガーで何倍だっけ?8倍?」

レナード「はっ…!?」

ブレア「今はもう9倍近くになってますね」

エル「9倍…!?」

ブレア「まぁエルガーは雷の所持者(ホルダー)なので意識しなくても大丈夫です」

マーガレット「雷の能力は特別『まとい』と相性がいいのよ」

レナード「じゃあ普通だと…」

ブレア「約2~5倍です」

レナード「それでも5倍までいくんすね」

ブレア「『獣霊』を修得するためには最低でも4倍ほどになる必要があります。ですので、『まとい』の修練をしてもらっているのです」

レナード「なるほど…。そういうことだったんすね」


ブレア「そして『獣霊』を飛ばして、次の『帝王』ですが…」


ゴーン、ゴーン


ブレアが話を続けようとするが屋敷の鐘が鳴った
夜中の10時を告げる鐘だ


マーガレット「10時か。ふぁ~あ、どうりで眠いはずだわ」

ブレア「おや、もうこんな時間ですか。明日も仕事や修行があるので今日はこれくらいにしておきましょうか」

レナード「助かります」

ブレア「いえいえ、しっかり休むのも修行のうちですよ。ではお二人とも、明日も頑張ってください」

マーガレット「おやすみ~。エルもしっかり寝るのよ」

エル「はい。ありがとうございます」

レナード「おやすみなさい」


こうしてレナードとエルのギルドでの生活の二日目が終わった

ここまでです

ではでは

今日中に投下したいと思います


ハイドン「修行二日目の担当はこの俺だ」

レナード「お願いします」


昨日の疲れは大方回復できたレナードはいつもの調子で返事をする
若さゆえの元気と回復力である


ハイドン「お前は剣使いだな?」

レナード「はい。ハイドンさんは何使うんすか?見たところ何も持ってないっすけど」

ハイドン「俺は弓だ。この修行じゃあ使わねぇだろうから部屋に置いてきた」

レナード「弓…っすか」

ハイドン「まぁパッとしないわな」

レナード「あ、いえそういうつもりじゃ…」

ハイドン「いや、いい。一般にどんな武器がよく使われてるのか、知ってるか?」


レナード「それは…一番多いのは剣っすよね?」

ハイドン「そうだ。騎士団では9割以上、シャガール王国全体で言っても8割はかてぇ」

レナード「圧倒的っすね」

ハイドン「あとは槍とか杖もそこそこ多いな。杖は魔術師だが。あ、マーガレットは槍使いだぞ」

レナード「マーガレットさんに槍か…。想像ですけどなんとなく似合いますね」

ハイドン「実際も結構似合ってるぞ。さて、話はそろそろやめにして修行にはいるか」

レナード「あ、はい」

ハイドン「剣でもなんでもガンガン使って来い。これは『まとい』の修行であると同時に戦闘そのものの修行でもあるんだからな」

レナード「うっす!いきます!」


朝の10時に始まった修行は一度の休憩を挟んで12時半頃にお昼休みとなった


ハイドン「思ったより結構やるじゃねぇか、レナード。何度かかすりそうになった場面あったぜ」

レナード「それでもかすりも出来なかったんすからまだまだですよ」

ハイドン「今まで1人で修行してきたんだろ?師匠も実践もないのにここまでやれりゃあ上等だって」

レナード「…なんか、ちょっと照れるので止めてもらっていいっすか」

ハイドン「お?なんだなんだ、かわいいやつめ!」

レナード「あ、頭ぐしゃぐしゃしないでくださいよ!」

エル「レナードー!お昼もって来たよー!」

レナード「エル」

ハイドン「おー、エルちゃんありがとなー」

エル「レナード、ハイドンさん、お疲れ様です。はい、これお茶とサンドイッチです」


ハイドン「サンキューな。…ん?これコル爺が作ったやつじゃねぇな。エルちゃんが作ったのか?あ、でも味付けはコル爺か」

エル「え、はい、その通りです。コルトさんが作ったかどうか分かるんですか?」

ハイドン「何年も食ってきたからな。形の綺麗さとか具の量とか見たら一発よ」

レナード「ハイドンさんやコルトさんはいつからこのギルドにいるんすか?」

ハイドン「コル爺は6年前にダンテやブレアと一緒にこのギルドを立ち上げた初期メンバーの1人だ。俺は確かギルドが出来てから1年くらいして入ったから、付き合いとしては5年くらいだな」

レナード「結構長いんすね。あ、これ美味い」

ハイドン「コル爺にはマジで世話になりっぱなしだぜ。あの人には永遠に頭上がんねぇだろうな」

エル「本当すごい方ですよね、コルトさん。何でもそつなく迅速に、しかも完璧にこなしてしまうんですよ」


ハイドン「家事スキルに関しちゃあの人以上の人は見たことねぇな。まぁあの人がすげぇのは家事だけじゃねぇんだけど」

レナード「え、それはどういう…」

コルト「エルさん、いつまでかかっているのですか?」


俺達が会話に花を咲かせているとコルトもやってきた
どうやらいつまでも戻ってこないエルの様子を見にきたようだ


エル「あ、すいませんコルトさん。すぐ戻ります」

ハイドン「コル爺、俺達が引きとめたんだ。責めないでやってくれ」

コルト「なるほど、承知いたしました」

エル「じゃあレナード、ハイドンさん、午後も頑張ってください」

レナード「エルもな。昼食ありがとう」

エル「うん!」


コルトとエルが屋敷へと戻っていく
昼食も食べ終わり、休憩の時間もちょうど終わりくらいだ


ハイドン「うし、午後の修行始めるか」

レナード「はい」


レナードはハイドンが言っていた言葉を気にしていたが、修行を進めていくうちに忘れていってしまった


――――――――――――――


ブレア「さて、今日はどうしましょうか」


夜の勉強会がスタートそ、ブレアが今日の議題を考える


マーガレット「はい、先生!」

ブレア「はぁ…。もう毎日いるんですね、あなた」

マーガレット「邪魔?」

ブレア「邪魔とは言いませんが…」

マーガレット「ならいいじゃない」


レナード「なぁ、マーガレットさんってブレアさんのこと好きなのかな?」ヒソヒソ

エル「え?どうしたの急に…」ヒソヒソ

レナード「いやだってさ…」

マーガレット「んー?何を内緒話してるのかな?」

レナード「あ、いえ、なんでもないっす」

マーガレット「…」ジー

レナード「いや本当…はい」


マーガレットの視線をレナードは正面から受け止められず、逸らしてしまう


エル「ほ、本当になんでもないですよ…」

マーガレット「…まぁいいわ。で、今日は何勉強するの?」

ブレア「うーん、どうしましょうね」

マーガレット「だったら三技のこととかでいいんじゃない?」

ブレア「あー、そうですね。そうしましょうか」

エル「三技…?」

レナード「多分、武技・能技・体技の三つのことだ」

ブレア「そうです、その三つです。武器の技術である武技、能力の技術である能技、身体の技術である体技、これらを三技と呼んでいます」


レナード「戦闘はこれらが基本になるって話だ」

マーガレット「というより、その三つが全てを決めると言ってもいいわ」

エル「そうなんですか?」

ブレア「そうですね。能技は熟練度で表せられるので優劣が決めやすいです。体技に関しても単純に『まとい』での筋力やスピードだったりで数値化できます。ですが武技は…」

レナード「扱う武器によるので一概に優劣がつけられない、ですよね」

ブレア「ええ、そうです。よく知っていますね」

レナード「へへ」

エル「どういうことですか?」

マーガレット「そうね…。例えばダンテやブレアは剣を使うじゃない?でも私は槍を使うし、ハイドンなんかは弓を使うわ。剣の扱いが上手くても槍の扱いが剣と同等に上手いとは限らない。つまり扱う武器によって武技のレベルってのは変わっていくのよ」

エル「な、なるほど…」

ブレア「ですので、数値化したり統一化したりすることが出来ないのです。もちろん、剣のみでの武技、槍のみでの武技、としてならばある程度は優劣がつけられますがね」


マーガレット「レナードは剣を使ってるようだけれど、なんとなくなの?」

レナード「そうっすね。というより、剣以外は村になかったっすから」

ブレア「あなたはまだ若い。いろんな武器を試してみるのも良いかもしれませんね」

レナード「剣以外の武器か…。考えたこともなかったな」

マーガレット「私もハイドンも最初は剣からよ。途中で変えたの。エルガーは最初から拳だったけど」

エル「拳…?」

ブレア「エルガーは武器を使わないんですよ。体技と能技のみで戦っています」

レナード「なんでそんな…。武器使えばいいじゃないですか」

ブレア「本人が武器を使うより己の身体で戦う方が良い、と」

マーガレット「まぁ実際エルガーは素手の方が強いと思うわ。雷の所持者(ホルダー)だから『まとい』で身体能力を跳ね上げられるしね」

レナード「雷の所持者(ホルダー)は『まとい』と相性がいい、でしたっけ?」

ブレア「はい。どうやら身体中に適度な電気を流してやると『まとい』の効力を上げられるらしいのです」

マーガレット「卑怯よねー」


エル「じゃあエルガーさんってものすごく強いんですか?」

ブレア「強いは強いですがものすごく、とまではいかないでしょうね。近接ではダンテさんはもちろん、私などの方がまだ上でしょう。雷の能力は遠距離戦に圧倒的に不向きなので、逆に得意な風の能力を持つハイドンも相性がいいと思います。彼弓使いですしね。まぁエルガーから十分な距離を取れればの話ですが」

レナード「マーガレットさんは?」

マーガレット「私は無理よ。絶対勝てないわ。そもそも私って対個人はあんまり得意じゃないの。対集団戦、いわゆる雑魚専ってとこね。あとは治療」

ブレア「水辺の近くとかですと絶大な能力になるんですけどね。水の能力って」

マーガレット「そうそうそんな場所で戦うことはないわ。そこらへんはきっぱり諦めてる。文句言っててもしょうがないもの」

レナード「水辺の近くだとどうなるんですか?」

ブレア「私でも負けるかもしれませんね。そのくらい強力になります」

エル「そんなに強くなるんですか!?」

マーガレット「大量の水さえあれば、ね」


ブレア「まぁそんな感じで能力にも特性やどれだけ使いこなしているかなどの技量が存在します。それが能技。水が治療、雷が身体能力向上、風が遠距離、などなど。特性に関してはまた追々お話していきましょう」

マーガレット「あとは体技ね」

レナード「それ俺あんまりピンとこないんすよね」

ブレア「体技はものすごく重要ですよ。近接戦ではこれが命運を分けます」

マーガレット「相手の攻撃を避ける、いなす、受け止める、そして隙を見計らって反撃する。体技はこれらの根幹を支えるものよ」

ブレア「体技を疎かにしていると相手の攻撃は避けられない、いなせない、受け止められない、反撃できない、とまさに致命的です。ですので、私などを含め多くの人は三技の中でも体技が一番重要だと考えています」

レナード「なるほど…」

マーガレット「あんたが今やってる修行でも一番鍛えなきゃならないのはこれよ。とにかく戦って実戦経験を積みなさい。体技がままならないのに『獣霊』を修得しても、格下はともかく同格には勝てないわ」

ブレア「意識して修行してみてください。ちょうど明日はエルガーが修行の相手をしてくださいます。彼からいろいろ教わるのもいいでしょう」

レナード「うっす!」


ブレア「さて、いい時間になりましたね。そろそろ寝ましょうか」

マーガレット「そうね。あ、そうそう。明日は私も仕事いれてないからレナードの修行見てたりするわ。アドバイスとか出来そうだったらしてあげる」

レナード「お願いします」

ブレア「ではお休みなさい。また明日も頑張りましょう」

エル「ありがとうございました。おやすみなさい」


体技か
レナードはベッドの中で動きをイメージする
よく考えればダンテもハイドンも自分の攻撃を様々な方法でいなしていた
ヒントはたくさんあるのだ

よく観察し、技を盗む
教えてもらうばかりではなく、自ら学びに行かなくては強くなれない
レナードはそれを始めて意識した
修行は一歩ずつ一歩ずつ、進んでいく

今日はここまでです

ではでは

こんばんわ
投下します


エルガー「それじゃあ今日一日よろしく頼む」

レナード「こちらこそよろしくお願いします」

マーガレット「二人共頑張ってねー」


修行3日目がスタートした
今日はエルガーとマーガレット二人が指導役だ
と言っても主に相手をするのはエルガーであり、マーガレットは補助の役割である
エルガーは体技の達人とブレアが言っていたが果たしてどれほどなのか
レナードは期待していた


エルガー「ダンテやハイドンはどんな修行をしていたのか教えてくれるか」

レナード「えっと、ひたすら戦ってました」

エルガー「それだけか?」

レナード「はい」

エルガー「あいつら…。真面目に修行つけてやる気あるのか…?」

マーガレット(私が担当になってもそのつもりだったなー)


レナード「でも得るものはいろいろありましたよ」

エルガー「そうか、そう言ってくれると助かる。じゃあ、そうだな…。俺は基礎を教えるか」

レナード「基礎…というと?」

エルガー「体技と『まとい』の基礎だ」

レナード「あ、そういえば昨日ブレアさんにもエルガーさんから体技を学ぶといいと言われました」

エルガー「さすがブレアだな。何も考えずに修行をさせるやつじゃない」

マーガレット(暗にダンテとハイドンを何も考えてないやつらって言ってるわね)

エルガー「さぁ始めるか。まずは一回手合わせだ。どのくらいやれるのか見せてもらう」

レナード「はい。いきます!」


そして5分後…



レナード「な、なんだよこれ…」

エルガー「どうした?どんどんこい」

レナード(いや、どんどん来いって言われても…)


レナードは始めての体験をしていた
ダンテやハイドンはレナードの攻撃を受けたり、いなしたり、避けたりしていた
だがエルガーはどうだ
それらとは全く違う動きだ
そもそも攻撃が「届かない」のだ


レナード「くっ…!」

エルガー(やっぱりそうか…)

レナード「でやぁ!!」

エルガー「甘い」


レナードの剣が振り下ろされるが、また届かない


レナード「っ…!」

エルガー「よし、ここまでだ」


結局レナードの剣は一度もエルガーに届きはしなかった
比喩表現ではなく、実際に距離が足りていないのだ


レナード「なんで…届かないんだ…?」

エルガー「それを今から教えてやる。そのための修行だ。マーガレット、来てくれ」

マーガレット「んー?なによ」

エルガー「今から俺と手合わせしてくれ」

マーガレット「は?」

エルガー「俺が今からレナードの動きを真似してマーガレットと戦う。レナードはそれを見てどこが駄目なのか考えてみろ」

マーガレット「あ、そういうこと」

レナード「はい…」

エルガー「じゃあマーガレット、頼む」

マーガレット「はいはい」


そうしてエルガーとマーガレットの手合わせが始まった
レナードはそれをよく観察する
するとあることに気付いた


レナード「あれがさっきまでの俺の動き…?あんなの…ただただ突っ込んでいってるだけだ…」


レナードはトレースされた自分の動きを見て愕然とする


エルガー「気付いたようだな…」スッ

マーガレット「あら、終わり?」ピタッ

エルガー「あぁ、ありがとうマーガレット」

マーガレット「どういたしまして」


エルガーもレナードの様子を見て戦いをやめた


エルガー「どうだ、レナード」

レナード「俺、相手に攻撃を当てようと剣を振るばかりで何も考えていなかった…。ただがむしゃらに突っ込んでいってるだけだったんだ」

エルガー「そうだ。お前の動きには駆け引きがないんだ」

レナード「駆け引き…」

エルガー「戦いは読み合いだ。常に相手の先を考えて動かなければならない」

マーガレット「ダンテやハイドンは駆け引きしてこなかった?」

レナード「そういえば…。隙が出来たと思って攻撃したら逆に反撃をくらったことが…」

エルガー「わざと隙があるように見せかけて突っ込んでくる相手を逆に利用してカウンターを叩き込む。これも駆け引きの一つだ」

レナード(やっぱり、よく観察して考えればヒントはたくさんあるんだ…)

エルガー「さて、今からはその駆け引きの訓練だ。最善の手は何か、相手が何を意図しているのか、自分が出来ることは何か、常に考えて戦え」

レナード「はい!」


レナードの修行はさらに一歩進む


マーガレット「ふふ、レナード…楽しそうに笑っちゃって…」


レナードはこの修行が楽しくてたまらなかった
一戦一戦やるごとに成長していくのがわかるのだ
この手は駄目だった、じゃあこの手を使おう、さっきよりはいい、さっきよりも駄目だ
少しずつ、少しずつ、経験が積まれていく


そして夕方
もうまもなく修行の時間が終わろうとしていた時だった


エルガー「シッ!」

レナード「…っ!」バッ


エルガーの突きをレナードが紙一重でかわし、そして


レナード「っらぁ!!」

エルガー「っ!」チッ

マーガレット「…!!掠った!」


レナードの剣がエルガーの頬を掠める
まだほんの薄皮一枚程度だが、それでも確かに掠ったのだ


エルガー「驚いたな…。たった一日でこうまで成長するか…。朝のお前とはまるで別人のようだ」

レナード「へへ…エルガーさんにそう言ってもらえるのが何より嬉しいっす。エルガーさんの修行、成長していくのが自分でも分かります。すごい楽しいっす」

エルガー(ふっ…)「修行を楽しいと思えるならお前はまだまだ強くなれる」

マーガレット「今日は見てて面白かったわ。ふふ、エルガーも最後一瞬『まとい』かけたでしょ」

エルガー「む…見抜かれていたか」

マーガレット「当然よ。避ける時の速さが段違いだったもの」

レナード「え…?ちょ、ちょっと待ってください…。最後一瞬『まとい』かけたって、修行中は…」

マーガレット「一切『まとい』を使ってなかったわよ。そうよね、エルガー?」

エルガー「あぁ」

レナード「ま、まじかよ…」


『まとい』を全開で使って本気だったレナードは、何もブーストをかけていないエルガーですら掠らせることが精一杯だったということだ
単純に考えて本気のエルガーは今日の9倍の動きをしてくるということである
エルガーは体技の達人と聞いていたが、まさかこれほどまでとは、とレナードは驚嘆する

成長したといってもまだまだ天と地ほどの差なのだ
改めてレナードは実感することとなった


レナード(やっぱりここは…すげぇ人達ばっかりだ。はは、ここにいたら絶対強くなれる。ダンテさんが自信満々に言ってたことも頷ける)


レナードの口元には笑みが浮かんでいた


マーガレット「え、どうしたのあんた突然。気持ち悪っ…」

レナード「あ、いえ、すいません。これは…。ははっ…」

エルガー「…?おかしなやつだな」


修行が楽しい
村で1人でしていたころは楽しくもなんともなかった修行が
レナードは今高揚感でいっぱいだった


エルガー「さて、時間もいいところだ。今日の修行はこれくらいでやめておこう」

レナード「あ、はい。今日はありがとうございました」

マーガレット「お疲れ様、二人共」

レナード「マーガレットさんもありがとうございました」

マーガレット「なら感謝の気持ちとして今日のおかず一品頂戴」

レナード「それは無理です」

エルガー「はははは」


レナードはダンテやハイドンと戦っていた時のことを思い出す
今にして思うと二人共単純な動きは一切なかった
二人の動きは恐らく経験や感覚によるところが多いのだろう

だから具体的にどうのこうのではなく、実践をとにかく積めと言って来たのだ
こんなことを言っては失礼なのだろうが、あの二人の性格などを考えても真面目に修行を積むタイプではないだろう
レナードは屋敷へと戻りながらそんな推測をしていた




その頃
仕事で行動を共にしていた二人がいた


ダンテ「なんか今誰かに馬鹿にされた気がすんだが」

ハイドン「同感」


――――――――――――――


マーガレット「今日はブレアが仕事でいないから勉強会は無しよ」

レナード「あ、そうなんですか」

エル「えっと、じゃあどうしたらいいですか?」

マーガレット「ん?何もしなくていいわよ。好きにしなさい。寝てもいいし、夜だけど買い物に行きたいって言うんなら行ってもいいし。まぁ行くんなら一応私とかエルガーとかが同行するけど」

エル「買い物かー…。欲しいものはあるけどわざわざ夜に行かなくてもいいかなぁ」

マーガレット「じゃあ今日はしっかり休みなさい。二人共いくら若いからって疲れは溜まっていくわ。休めるうちに休むのも大切よ」

レナード「そうさせていただきます」

エル「じゃあ私も今日は早めに寝ようかな。おやすみ、レナード、マーガレットさん」

マーガレット「ん、おやすみ。私はちょっと夜の街に繰り出してくるから」


お酒~お酒~、とマーガレットは満面の笑みで部屋から出て行った
相変わらずの様子である


今日は勉強会がないので早めに寝ることが出来る
これもそうない機会だろう
明日はブレアさんが担当とのことである

ブレアさんもエルガーさんと同じで理論的に教えてくれる人であろう
明日も楽しみだ
レナードはすっかり修行にはまってしまった

ここまでです

しばらくは投下が不定期になると思います
すいません

投下します


ブレア「それでは始めましょう」

レナード「お願いします」

ブレア「昨夜はすいませんでした。なかなか仕事が終わらず…」

レナード「あ、いえ、そんな大丈夫です」


ブレアは昨日の深夜に帰ってきていたようだ
もし今日帰ってこれなかったらマーガレットに修行をつけてもらうことになっていたが、それは無用だったようだ


ブレア「エルガーの修行はどうでした?得るものはありましたか?」

レナード「はい。特に駆け引きの大切さは身に染みて理解出来たと思います。まぁ理解しただけでまだ身体は全然ついていかないんすけど」

ブレア「知ることは成長への第一歩です。大きな進歩ですよ」

レナード「へへ」


ブレア「では修行も一段階進めましょうか。今日は間合いと実践について学びましょう」

レナード「間合い…」

ブレア「今まではみなさん素手で戦っていたと思います。ですが、今日は私が武器を使います。武器にはそれぞれ間合いがありますが、まずは私の剣を見極め
てください」

レナード「ゴクッ…」

ブレア「常に気を張ってくださいね。素手とは違い、武器には長い間合いと殺傷能力があります。私もあなたをむやみに傷つけるつもりはありませんが、うっ
かり、ということもありますので」

レナード(うっかりで重症負ったら洒落になんねぇな…)

ブレア「そして今までとは違ってより実践形式でいきます。少しでも油断したら私が遠慮なく吹っ飛ばすので、そのつもりで」

レナード「…はい!」

ブレア「ではいきますよ」


レナードの顔に緊張の色が現れる
ダンテやハイドン、エルガーはレナードになるべく怪我をさせないようにと手加減をしていて反撃が弱かった
だがブレアは別だ
レナードを次の段階に進めてもいいと踏んで段階を引き上げた


レナード(ブレアさんが使う武器は大剣。しかも普通の大剣よりも長い。つまり重さは相当なはずだ。細かい動きで翻弄すれば…)


ゴオッ!!


レナード「っ!?」バッ


ものすごい速度で迫る大剣をレナードはギリギリで避ける


ブレア「やはり今の程度では完璧に避けますか。いいですね」

レナード(嘘だろ…!?なんだ今のスピード…!?ナイフでも使ってんのかってレベルだぞ!!)


レナードの頬に汗がつたる
今の速度、レナードが避けなければ完全に首が飛んでいた
ブレアも本気でかかってきている
今までの修行とは全くの別物だ
より実践に近いとは言っていたが、これではまさに…


レナード「実践…そのものじゃ…ねぇか…!!」


ブレアの猛攻をレナードは全てギリギリで避ける
掠ったり服が破れたりはしているが大きな傷は負っていない


ブレア「避けるだけでなく反撃もしてくださいね?私に一方的にいたぶる趣味などありませんから」

レナード「簡単に…言いますねっ!!」

ブレア「ははは。その程度簡単にやっていただかないと」

レナード「この…!」

ブレア「むっ」


レナードは身体の重心を低く落として一気にブレアに迫る


レナード「シッ!!」

ブレア「甘い」


下からの切り上げをブレアは大剣を使って難なくガードする


レナード「らぁっ!」

ブレア「!!」


レナードの剣は止められたもののそのままの勢いで左足の蹴りを放つ
どうやら最初からこれを狙っていたようだ


レナード「入った!」

ブレア「…と思いましたか?」


ガンッ!


レナード「なっ!?剣の柄で…!?」

ブレア「ほら、そんな呆けていると…」

レナード「ごっ…!?」


ブレアの強烈な蹴りでレナードは数メートルも吹き飛んでしまう


レナード「がっ…は…!」

ブレア「自分の予想通りにことが運ぶことなんてよっぽどありません。その度にいちいち動きを止めていては駄目ですよ」


レナードの身体に激痛が走る
蹴りもさることながら吹っ飛ばされたことによって地面に強烈に叩きつけられたこともある


ブレア「受け身も取れていませんね。まだまだ学ぶことは多いようです」

レナード「う…くっ…!」


レナードが生まれたての小鹿のように足をプルプルさせて立ち上がる
というよりも立つのがやっとという状態だ


ブレア「ようやく立ちましたか。そんなにモタモタしていては追撃され放題ですよ?」


レナードはここで確信した


レナード(この人、普段はあれなのに修行になると…めっちゃ鬼だ!!!)


――――――――――――――


ブレア「もう夕方ですか。やれやれ、時間が経つのは早いですね」


レナードは初日と同じように地面に突っ伏していた


レナード「し、死ぬ…」

ブレア「大丈夫です。人間そんなやわじゃありませんから。もう少しやりますか?」

レナード「もう…無理…」バタリ


やはり鬼畜である


――――――――――――――


レナード「いつつ…」

エル「大丈夫?レナード」


夜、勉強会の前にレナードはマーガレットから治療を受けていた


マーガレット「あっはっはっは!ブレアも容赦ないわねー」

ブレア「容赦してあげる段階は超えたと思ったので」

マーガレット「いきなりギア上げすぎじゃない?まぁこんくらいの傷なら私がパパッと治してあげられるけどさ」

レナード「でも本物の戦いはこれ以上に相手が本気でかかってくるんですよね?ならこれくらいじゃないと…」

ブレア「ええ、いい心意気です」

マーガレット「全く、しょうがないわねぇ」

エル「あんまり無茶しないでね」

レナード「いや、今じゃなきゃ無茶できないんだ。こうやって修行をしていられるうちにとにかく強くならないと…」

エル「レナード…」


ブレア「意気込むのは大変良いのですが、焦りすぎても駄目ですよ?」

レナード「でも…」

マーガレット「別に誰かに狙われてるってわけでもないんだから。そんなに焦らなくても大丈夫よ」

レナード「それは…そうですけど」

エル「…」

レナード「…俺は多分、怖いんだと思います」

マーガレット「怖い?」

レナード「実はエルは5年前に誘拐されてるんです」

ブレア「誘拐…?」

エル「…そうです。私が領主の娘だと知って誘拐、身代金を要求してきたってお父様が言ってました」

マーガレット「まぁそういうことが全くないわけでもないしね。王都でもたまに起きるらしいわ」

ブレア「大概は騎士団にお縄にされるんですけど、たまに上手く逃げる輩もいます。注意が必要ですね」


エル「本当に…怖かったです。森の奥の方に連れていかれて、縛られて、怖くて泣きそうになると殴られたりもしました」

ブレア「…」

レナード「その時の俺は何も出来なかった。本当に…何も…。またこういうことが起きるんじゃないかって怖くて…それで…」

マーガレット「…だから力を必要としたのね」

レナード「はい…。家の仕事の合間合間に修行して、ようやく『まとい』を修得して、これでもう戦える、エルを守ることが出来るって思ってたんです。けど…」

ブレア「魔物一匹が限界だった」

レナード「…。自分の力の無さを再び痛感させられました」

エル「そんなことない。私はレナードに何回も助けられてる」

レナード「違う、運が良かっただけだ。5年前はたまたま村に来ていた騎士団の人に助けてもらって、この前はたまたまブレアさん達が来ていたから助けてもらうことが出来た。全部、運が良かっただけなんだ」

エル「そんなこと…」


エルはないとは言い切れなかった


マーガレット「…そもそもなんであんたはエルをそこまでして守ろうとするのよ?」

レナード「そんなこと決まってるじゃないですか。俺がエルを…あ、いや…」

エル「え?私を…何?」

マーガレット「んー?なになに。レナード、あんたやっぱりぃ…」


恐らく今のでマーガレットには気付かれてしまっただろう
マーガレットの顔がものすごいにやけ面になっている
恥ずかしいからか照れからか、レナードの顔が少し赤くなる


レナード「いや、その…」

マーガレット「言ってみ言ってみ?」

レナード「ぐっ…」

ブレア「マーガレット、レナードが可哀想です」


ブレアがやれやれといった様子で制止に入る


マーガレット「えー、いいじゃないこれくらい」

ブレア「あなたもう勘付いてるでしょう」

マーガレット「そういうブレアも?」

ブレア「普通分かりますよ」

マーガレット「それはそうだけど、イジるのが面白いんじゃない」

ブレア「全く…」

エル「え?え?なに?どういうこと?」

レナード「もうやめてくれ…」

マーガレット「あっはっはっはっは」


レナードの傷の治療が済んだところでいい時間になってしまった
結局この日は勉強会はお開きとなってしまった

そしてこの修行の毎日が一ヶ月ほど過ぎた頃…
再び事件が起きる

短いですがここまでです

ではまた

明日は無理かもしれませんが明後日は投下出来るかもですねw

投下します


レナード「シッ!」

ブレア「くっ!」

レナード「フッ!」

ブレア「っ!!」バッ


レナードとエルが暴王の城に来て約一ヶ月
レナードの修行はとても順調に進んでいた


エルガー「ブレアも2倍程度の『まとい』ではレナードの相手にならなくなってきたな」

ブレア「ふぅ、本当驚きですよ」

エルガー「どうだ、レナード。自分の感覚だとどんな感じだ?」

レナード「あんまり変わったって自覚はないですね…。というより一ヶ月前の俺がどんな動きしてたのかもう忘れてきてしまって…」

ブレア「私達からすれば見違えるほどに成長していますよ。ここに来た初日、買い物の途中で測った時は熟練度が21しかなかったですものね」

エルガー「『まとい』も3倍以上には確実、いや下手したらもう4倍になっているのかもしれんな」

レナード「はは、どうでしょうか…」


レナードはすっかり敬語になれてきており、不自然さもなくなっていた


エルガー「レナード、そろそろ熟練度測りに行ってみるか?」

レナード「え?」

ブレア「そうですね。そろそろ40近くなっているんじゃないでしょうか。そうなればいよいよ『獣霊』修得ですよ」

レナード「俺が…『獣霊』を…」

エルガー「よし、日が落ちるまでにまだ時間がある。ギルド統括本部に行くか」

レナード「そこに行かないと熟練度って測れないんですか?」

ブレア「この街ではそこにしか計測機器がないのですよ。王都のように大きな都市には数箇所設置されてるんですけどね」

エルガー「俺も久しぶりに測るとするか。多分変わってないと思うが」

ブレア「1くらい上がってるんじゃないですか?」

エルガー「だと嬉しいんだがな」

レナード「1って…そんなちょっとしか上がらないんですか?」

ブレア「熟練度が上がってくるとどうしてもそうなってきます」

エルガー「ダンテなんてここ数ヶ月、いや半年は上がってないだろうな」

レナード「うわぁ…」


ブレア「さ、そろそろ準備して出発しましょう」

エルガー「自分がどれくらい成長しているのか数字としてはっきり分かるんだ。楽しみだろう?」

レナード「ちょっとドキドキします」

ブレア「大丈夫です。今の実力から考えても少なくとも30は超えてるでしょう。それは保障しますよ」

エルガー「35を超えてたらすごいな」

ブレア「まぁ、とにかく早く行きましょう。日が沈んでしまいます」

レナード「はい!」


――――――――――――――――


レナード「なんかもう懐かしく感じます」

ブレア「つい一ヶ月前のことなんですけどね」

エルガー「レナード、やり方は覚えてるな?」

レナード「はい。この気味の悪い石像に手を当ててマナを込めればいいんですよね?」

ブレア「ははは、気味悪いですか。まぁ否定はしませんが」


三人の前にあるのは高さが3mほどもある大きな石像だ
下半身は馬、上半身は人の形をしており右手には大きな剣を握っている
首は蛇のように長く、顔は山羊のようだ
見る者全員が言いようの無い気味悪さを感じるのでこの石像は『不気味の像』と呼ばれている、とブレアが説明する


レナード「じゃあ、行きます…」


ブレアとエルガーは石像から少し離れた場所で待機している
レナードは石像に近づき、足部分に触れてマナを込める
するとおもむろに石像の目が赤く光り始め、そして


オオオオオオォォォォォ!!


突然石像から雄たけびのような声がとどろく
レナードは手を離し、ブレア達がいる場所まで戻った


レナード「うっるさ!」

ブレア「相変わらずうるさいですね…」

エルガー「こればっかりはどうしても慣れんな。ん、出るぞ」


カンッ!


石像が動き出し、片手で持っていた剣を両手で持ち、地面に突き立てた
すると


レナード「39…」


剣の腹に数字が浮かび、それは39と示されていた


ブレア「39…!」

エルガー「『獣霊』を修得するには十分な値だな」

ブレア「やりましたね、レナード!」

レナード「は、はい」

エルガー「なんだ、嬉しくないのか?たった一ヶ月で20近くも上がったんだ。こんな話、滅多に聞くもんじゃない」

レナード「いや、なんか実感わかなくて…」

ブレア「こんなに短期間であれだけ成長しても、ですか?」

レナード「成長したって言っても、ブレアさん達と闘ってても全く追いつけた気がしなくて…。いつも結局負けちゃいますし」

エルガー「最初のお前は俺達が遊んでいても勝てるほどだったんだ。それが今では『まとい』が2倍くらいとは言え、本気でやらないと危なくなった。これはかなりの成長だぞ」

ブレア「私達は全員熟練度が60を超えていますし、そこはあまり考えない方がいいと思いますよ」

レナード「そう…ですね。そうします」


エルガー「さて、それじゃあ俺も測ってみるか」


今度はエルガーがマナを込める


カンッ!


レナード「67!」

エルガー「67…か。2も上がったのか」

ブレア「レナードの修行をつけているうちにこちらも少しずつパワーアップしているのかもしれませんね」

エルガー「ブレアはどうだ?」

ブレア「やってみます」


カンッ!


ブレア「72ですか。1上がりましたね」

エルガー「やったな」

レナード「上級者になってくると本当にそれだけしか上がらないんですね…」

ブレア「60を超えた辺りからは特に、ですね」


エルガー「さ、帰ろう。レナードは明日にでも聖地へ行くだろう?」

レナード「そうですね。出来るだけ早く行きたいです」

ブレア「明日となると空いてるのは私と…エルガーは駄目でしたっけ?他の三人などはどうだったか知ってますか?」

エルガー「俺は明日は仕事はないが別の用事が入っててな。すまない、行けそうにない。他の奴らは今日の朝にはいなかったらみんな泊まりがけで仕事なんじゃないか?」

レナード「そういえば三人共昨日の夜にどこか出かけてました」

ブレア「最近は三人共ちゃんと働いてくれるようになってくれて…うっ…うぅ…」

レナード(泣くほどなのか…)


ブレアの身体が震え、その目からは涙が流れている


エルガー「じゃあ行くのは明日。ブレアが引率って形か。まぁブレアなら場所もちゃんと把握してるし、大丈夫だな」

ブレア「任せてください」

レナード「お願いします」

ブレア「それでは帰りましょうか。聖地はそれほど遠くはありませんが、ダンテさんがいないので馬車で行くしかありません。そうなるとやや時間がかかるので今日はゆっくりと休みましょう」

レナード「はい」


そして夜
レナード達が屋敷で食事をとっていると玄関のドアが開く音がした


ダンテ「戻ったぞ~」



エル「あ、ダンテさんの声だ」

ブレア「仕事が終わったのでしょうかね。お疲れでしょうから出迎えでも…」



ハイドン「いや~、久々に丸一日飲んだな~。ヒック…!」

ダンテ「だなー」



レナード「ん?」


何やら不穏な話し声が聞こえた


マーガレット「ハイドンあんた弱いわねぇ。私はもう一日いけるわ」

ハイドン「なにおぅ!?俺だっていけるわ!」



エルガー「まさか…」

ブレア「…」ピキピキ


ガチャ、と食事部屋と玄関を繋ぐ扉が開かれ…


ダンテ「コル爺ー!水くれー!」

ハイドン「俺も~」

マーガレット「私はお茶~」


見るからに酔っ払いの三人が部屋へと入ってきた


エル「あ、私が…」

コルト「いえ、大丈夫です。今日は私がやりましょう。お水が二つにお茶が一つですね。お茶の種類はいかが致しましょう?」

マーガレット「んー、冷たい紅茶でいいわー」

コルト「承知いたしました」

ダンテ「はー、やれやれ…。よいしょっ…とー」

ハイドン「あー、ダンテずりぃ。ソファ独り占めすんなよー」

マーガレット「もう私床でいいわー。あー、ひんやりして気持ちいいー」

ハイドン「マジー?じゃあ俺もー」


ブレア「三人共ちょっといいですか?」

エルガー「昨日の夜から今までの丸一日、どこに行っていたんだ?ん?」


エル「あ、二人から黒いオーラが…」

レナード「俺は知ってるぞ。怒ったら本当に怖いのはこの二人だってことを…」


エル「レナードも前怒られてたもんね」

レナード「夜中にこっそり街に出かけてたらな。あれ以来この二人、特にブレアさんには二度と逆らわないと誓ったな…」



ダンテ「なんだよブレアー。そんな怒るなよー」

ブレア「最近はちゃんと仕事をしてくれていると思ったら…。まさかとは思いますが今まで泊り込みで仕事をしていたと思っていた日は…」

ハイドン「あー、全部ってわけじゃないけど半分は飲んでただけだなー。がはははは」

マーガレット「あんたバラしちゃ駄目じゃなーい。あはははは!」

ブレア「…レナード。水をバケツ一杯に溜めてきなさい」

レナード「はい!」

エルガー「エル」

エル「はい!私も行きます!」




そして数分後



コルト「何ですかこの状況は…」


コルトが水と紅茶を運んでくると、そこには全身水浸しの状態で正座をしている三人とそれを見下ろして説教する二人の姿があった


エル「お説教タイム(?)です」

レナード「ブレアさんを怒らせちゃ駄目なんだよ…。あぁ、駄目なんだ…」

エル「あ、レナードが恐怖のあまり震えだした」

コルト「はぁ…」


結局ブレアとエルガーの説教は2時間におよび、それが終わる頃にはダンテら三人ともの足が麻痺していたという
ブレアさんならダンテさんを倒すことができるんじゃないか?
と思ったレナードであった

短いですがここまでで

こんばんは
投下します


ダンテ「あー、頭がいてぇ…」

ブレア「だからなんですか?今日はレナードとエルを聖地までちゃんと連れて行ってもらいますよ」

ダンテ「へーへー」


翌朝の6時、レナードの『獣霊』修得のため、聖地へ行く準備が進められていた
ダンテによって(ダンテの重力の力によってレナードとエルを引っ張っていけるので)飛んでいくことが出来るので大幅な時間の短縮は出来るものの、それでもやはりどれだけ短くても丸一日はかかってしまう
準備をしているのはレナード、ダンテ、ブレア
他にもエルがいる
本来エルは同行する必要はないのだが、エルも所持者(ホルダー)の1人である
ダンテが聖地の場所の把握や精霊がどんなものなのか見ておくべきだ、と提案したことによってエルも同行することとなった


レナード「お待たせしました」

エル「ごめんなさい、少し時間がかかってしまって」

ブレア「お気になさらず。そこまで焦っているわけではないですしね」


ダンテ「おーし、じゃあ行くか。さっさと行ってさっさと帰ってくるぞ」

ブレア「レナードと精霊、どちらもが納得する契約が結べない限り帰れませんよ?」

ダンテ「えー…早く帰りたい…」

レナード(子供か…)




ブレア「さて、飛んでいけるとなると4時間ほどで到着できるでしょうか」

ダンテ「まーそんなもんだな」

レナード「飛んで4時間か。結構な距離なんですね」

ブレア「そうですよー。馬車で行こうとすると軽く倍の時間はかかります。なので今日はダンテさんがいてくれて助かりました。不本意ですがね!」

エル「今度は酔わないようにしなきゃ…」

ブレア「あ、ちゃんと休憩はとるので安心していいですよ」

ダンテ「4時間飛びっぱなしは流石に疲れるしマナもかなり消費しちまうからな。どのみち途中でマナを溜める必要があんだよ」

エル「あ、そうなんですか」

ブレア「余裕をもって1時間ごとくらいに休憩にしましょうか。時間に限りなんてありませんし、焦っても仕方ありません」

ダンテ「あいよー」


エルガー「お、もう出発か?」

ブレア「おはようございます、エルガー。早いですね」

エルガー「相手側の都合でな。こんな時間になった」

ブレア「ほら見てください。エルガーはこんな朝早くでもちゃんと仕事をするんですよ」

ダンテ「ブーブー」

エルガー「全く…。レナード、精霊は気難しいやつも多い。獣霊として使役するとなると一生のパートナーだ。じっくり考えろよ」

レナード「はい!」

エルガー「じゃあ俺は先に仕事に行ってくる。またレナード達が帰ってきたらどんな精霊と契約したのか見せてくれ」


エルガーはオーラを放出して空を飛んでいった


ブレア「我々もそろそろ出発しましょう」

エル「はい」


朝7時、レナード達は聖域へ向かうため出発した


ブレア「エル、大丈夫ですか?」

エル「はい、だ、大丈夫…です!」

ダンテ「お、じゃあもう少しスピード上げるか」

エル「えっ…」

ブレア「やめなさい」

ダンテ「冗談だよ」

レナード「あはは」


レナード達4人は快適な空の旅を楽しんでいた
現在地は目的地まで4分の1といったところだろうか


ブレア「そろそろ一度目の休憩にしましょうか」

ダンテ「うーい」

エル「ほっ…」

レナード「大丈夫か、エル?」

エル「うん、まだ大丈夫だよ」


地面へと降り立ち15分ほどの休憩となった


ダンテ「ところでレナード、熟練度はどうだったんだ?聖地へ行くってことは35は超えてるんだろ?」


レナードは、35を超えていれば『獣霊』を修得することが出来るというのが一般的な認識である、とエルガーから聞いていた
35を下回っていると精霊が満足せず、契約に至れないことが非常に多い、と


レナード「39でした」

ダンテ「ほー、もうそこまで上がったか。まだ修行始めて一ヶ月しか経ってねぇのに」

ブレア「私もエルガーも驚きましたよ。まさかたったの一ヶ月で20近くも熟練度を上げるとは」

エル「すごいことなんですか?」

ダンテ「かなり早いほうだな。早くて一年から二年、普通なら三年近く、遅いやつだと5年かかるやつもいる。ここらへんは才能と努力次第だから何とも言えん」

エル「じゃあレナードってすごいんですね!」

ブレア「ふふ、そうですよ」

レナード「なんか照れるな…。ちなみにダンテさんやブレアさんはどのくらいで…?」

ダンテ「俺は2週間だな」

エル「にっ…!?」

レナード「2週間…!?め、めちゃくちゃ早いじゃないですか!?まさかブレアさんも…!」


ブレア「いえいえ、この人が異常におかしいだけです。私は半年ほどでしたよ」

ダンテ「異常って、おい」

エル「それでも十分早いんじゃ…」

ブレア「まぁ平均よりかはかなり早いですね。と言っても我がギルドはダンテさんを除いてみんなそんなものなので体感的にはそこまで早いとは感じないんですよ。新しく来たレナードに至っては一ヶ月ですし」

エル「あはは、感覚が狂ってきてしまいますね」

ダンテ「さて、そろそろ出発しようぜ」

ブレア「そうしましょうか」


こうして休憩をやや多めに挟みながら飛んでいき、約4時間半かけて目的地である聖地フォレストクロークの手前にある街へと到着した


ブレア「到着です」

ダンテ「あー、疲れた」

エル「ダンテさん、ありがとうございました」

レナード「助かりました」

ダンテ「あいよー」


レナード「ほー、ここが…」

ブレア「聖地への入り口がある街、キュールです。規模はあまり大きくありませんが、シャガール王国全土の戦う所持者(ホルダー)が集ることもあって活気は非常にあふれています」

エル「まだ街の端っこなのにグレルの中心街と同じくらい人がいますね…」

ダンテ「おいブレア、宿取るだろ?」

ブレア「そうですね。私の見込みでは少なくとも明日までかかると踏んでいますので宿を取らなければなりませんね」

ダンテ「んじゃ先そうしようぜ。俺はその宿で寝るわ」

ブレア「分かりました。では先に宿を探しましょう」

レナード(空を飛びながら俺とエルを能力を使って引っ張っていってくれていたんだ…。多分マナだけじゃなくて体力の消耗もあるんだろうな…)


4人は宿を探しに街のさらに中心へと歩く
そして歩くこと数分、街の中心に差し掛かろうとしたところで…

「あらー?ちょっとちょっと、ダンテにブレアじゃなぁい?」


ダンテ「あ?」クルッ

「やっぱりー!久しぶりじゃなぁい?元気してたー?」

ダンテ「…ネイピアか?」

ブレア「おや、これはこれは。お久しぶりですね、ネイピアさん」

ネイピア「なんだとは素っ気無いわねー、ダンテ。本当久しぶりよねー。何年?2年くらいだっけー?」


ネイピアと呼ばれる女性が突然ダンテとブレアへと話しかけてきた
レナードとエルにとっては全く知らない女性で、首をかしげている


ネイピア「そっちのお二人さんはだぁれ?」

ブレア「あぁ、紹介します。一ヶ月前にギルドに入ったばかりの二人、レナードとエルです。二人共頑張り屋で大変優秀なんですよ」

レナード「レナード・シルダです」

エル「エル・ウェーバーです。」よろしくお願いします」

ネイピア「あらあら礼儀正しくていい子達ねー。うちの子も見習ってほしいわぁ。ネイピア・エリオットよ、よろしくねぇ」


ネイピアは銀色の長髪にローブ姿、整った顔立ちに豊満な胸、しかし引っ込むところは引っ込んでいるとまさに理想的な女性の体型と言えるだろう
エルも目を点にして口を開けた状態で固まっている
そう、完敗である


レナード「綺麗な女性だな…」ボソッ

ダンテ「そいつ35のおばさんだぞ」

レナード「え?」

ネイピア「あ゛?」

エル「え…」

ネイピア「んん、あらやだダンテったらもう~。デリカシーないわねぇ」

エル(い、今一瞬…)

ダンテ「今垣間見えたのが本性だ。気をつけろよ」ボソボソ

ネイピア「ね~ぇ、ダンテ。ちょっと向こうでお話しなぁい?」

ダンテ「嫌に決まってんだろ」

ネイピア「うふ…。うふふふふふ」

ダンテ「はっはっはっはっは」


レナード「いやこえぇよ…」


二人の間で火花が散っている
ように見えたレナードだった


ブレア「はいはいそこまでです。ネイピアさんはどうしてここへ?」

ネイピア「そうそう。あのね、うちにも新しい子が来てね、その子がかなり優秀なのよ~。たった一ヶ月で精霊と契約できそうまで成長したものだからここへ、ね」

レナード「ネイピアさんもギルドのリーダーなんですか?」

ネイピア「ううん、違うわよー」

ブレア「ネイピアさんは王都にある魔術協会の筆頭魔術師です。騎士団で言うところの騎士団長のような方ですよ」

エル「筆頭魔術師…!?ほ、ほんもの!?」

レナード「た、確か今の筆頭魔術師って…!」

ダンテ「賢者。6属性全てを操る魔術師の最高位だ」

ネイピア「ふふふ、以後お見知りおきを。お若い所持者(ホルダー)さん」

ブレア「しかし、にわかには信じられないことを聞きましたね。たった一ヶ月でもう2属性を操った新人が出た、ということですか?」

レナード「魔術師は2属性を操ることが出来てようやく精霊と契約を結べる、でしたっけ?」

ダンテ「そうだ。俺達所持者(ホルダー)が精霊と契約を結ぶのに必要なのが肉体に対して、魔術師に必要なのは精神力だ。2属性を操るほどに強靭な精神力があれば精霊と契約を結ぶことも出来るだろう、ってのが一般的だ」


ネイピア「そうよー。まぁそもそも2属性を操ることが出来る人自体あまりいないのだけれどねぇ。でも今日連れて来た子は本当すごいのよ。あそこまで才能に溢れた子は私以外には見たこともないわ」

レナード「自分で自分のこと才能に溢れてるって言うのか…」

ブレア「間違っていないことですから。魔術師に特に必要なのは才能です。魔術師にとって努力なんてのは二の次です」

ダンテ「6属性を操るなんてなったらその最たるものだからな。マジもんの『天才』ってやつだ。100年に1人ってレベルだな」

ネイピア「あらやだもう照れるわ~」

エル「すごい人だってことは分かってたけどそこまですごかったんだ…」

ネイピア「お嬢ちゃんも…所持者(ホルダー)なのね。しかも光じゃない」


ネイピアはエルの目を見る


ダンテ「エルもだがレナードも光の所持者(ホルダー)だ。今日はレナードのためにここに来たんだよ」

ネイピア「ギルドに一気に二人も光の所持者(ホルダー)が入ったってこと?すごいわねぇ」


エル「あ、でも私は才能とか全然なくて…」

ネイピア「大丈夫よ~。魔術師と違って所持者(ホルダー)なら努力すればいつかは…」

エル「っ…」

ダンテ「おい、ネイピア。ちょっと来い」グイッ

ネイピア「あ、あら?」

ブレア「…」



ダンテ「―――?――。」

ネイピア「――!?――――!!」

ダンテ「―――」

ネイピア「…――」



エル「…」

レナード「気にするな。大丈夫だ、きっとなんとかなるさ」

エル「うん…。ありがとうレナード」


ネイピア「ごめんなさい、エルちゃん。事情も知らずにあんな無責任なこと…」

エル「あ、いえ、大丈夫です…」

ダンテ「まぁそんなわけだから俺達は先行くぞ。宿も探さなきゃいけねぇしな」

ネイピア「はぁい。ウチの子は1人で聖地に行くって言って聞かなかったものだから向こうで会ったらよろしくねぇ」

ダンテ「顔知らねぇのによろしくも何もねぇだろ」

ネイピア「無愛想な黒髪の男の子がいたらその子よ~。じゃ、また会えたらねぇ」


そういってネイピアはレナード達が来た方へと歩き出した


ブレア「…さ、宿を探しましょうか。そうしたらお昼ご飯を食べて、さっそく聖地へと向かいましょう」

ダンテ「そうだな」


4人は街の中心から程近い宿を取り、その宿で昼食をとった
その後ダンテは事前に言っていた通り宿で睡眠を取るらしく、レナードとエルはブレアの牽引で聖地へと向かう


ブレア「ここが聖地への入り口です」

レナード「…森?」

ブレア「はい。聖地フォレストクローク、通称『精霊の森』です」

エル「深そうな森…」

ブレア「あぁ、魔物についてはご心配なく。この森には穏やかな魔物や動物しか生息していませんので」

レナード「ブレアさんもいますし、そこまで強くない魔物なら俺でも十分対処できるから余裕ですね」

ブレア「そのことなんですが、私は森へ入れません」

エル「え?どうしてですか?」

ブレア「原因はわかっていませんが、私のように既に精霊を宿しているものは森の効力によって侵入できないのですよ。このように…」


ブレアが森へ手を入れようとするが、見えない壁に阻まれているかのようにある一定のラインで手が止まっている


ブレア「いくら頑張っても指一本入れさせてくれないのです。精霊達に聞いてもそれが森の掟だから仕方がない諦めろ、と精霊本人達もよく知らないらしく、詳しいことは何も分かっていません」

レナード「でもそれって、森の中で精霊と契約したら…」

ブレア「その時点では大丈夫です。ですが、一度森の外に出てしまうと精霊との契約を解除しない限り二度と森へ入ることは出来ません」


エル「不思議な力なんですね」

ブレア「まぁ森の中には『まとい』だけながらも十分強い衛兵などがいますし、それほど心配することはありませんよ」

レナード「体技と武技の達人ってことですか」

ブレア「はい。まぁですので私も宿に戻っていることにします。あとはレナード、君次第です」

レナード「はい…!行ってきます!」

ブレア「エル、レナードのことよろしくお願いしますね」

エル「はい」


――――――――――――――――

ブレアと別れ、森へと入った二人は早速奥の方へと歩みを進める


ブレア『あの奥に見える大きい木が聖樹です。あそこに行けば様々な精霊がいます』

レナード「ってブレアさんが言ってたからな。あそこへ向かおう」

エル「結構遠そうだね」


レナード「でも道は完全に整備されてるからそこまで苦にはならんだろ。戻ってくる人達も結構元気そうだし」

エル「そうだね。張り切っていこ!」

レナード「張り切りすぎるとバテるぞ」

エル「こういうのは元気に楽しく行くのが一番なの!」

レナード「へいへい」


雑談をしながら歩くこと30分
二人はついに聖樹へと到着した


エル「…すごい。きれい…」

レナード「なんだこれ…あちこちで光が浮いてる…」


二人が目にしたものは、バカでかい樹木とその周りを浮遊する幾万の様々な色の光だ
その姿はとても幻想的で見る者全てをひきつけている
この光の正体こそが精霊であり、契約を結んでマナを供給してもらわないと具現化できないというのは以前に聞いた話だ


レナード「おっと、見とれてる場合じゃない。早く精霊を探さないと……自分と契約してくれる精霊ってどうやったら見つけるんだ?」

エル「えぇ…」

レナード「だって…」

エル「いや私もわかんないけどさ…」

レナード「…」

エル「…」

レナード「どうすんだこれ…」

エル「どうしようね…」


聖樹へ着いて1分
何をすればいいのか分からない二人であった


「やぁ、何かお困りかい?」

レナード「え?」

エル「衛兵さん…ですか?」

衛兵「あぁ、そうだよ。ここで案内をしているものさ。何をすればいいのか分からないって様子だったからつい、ね」


レナード「すいません、助かります」

衛兵「いいよいいよ。それが僕の仕事だしね。それで精霊と契約を結ぶ方法だけど、まずは話し合うことから始めないといけないよ」

エル「話し合う?」

衛兵「精霊だって誰とでも契約を結んでくれるわけじゃないからね。話し合って、お互いが契約に同意すればそこでようやく成立さ」

レナード「話し合うってのはどうやれば…」

衛兵「簡単さ。普通に話しかければいい」

エル「あの光にですか?」

衛兵「そうさ。生前が何であれ不思議と言葉は通じるんだ」

レナード「そうなんですね。分かりました。いろいろと話しかけてみます。ありがとうございました」

衛兵「どういたしまして。僕はこの辺をうろうろしているからまた何か困ったことがあったら何でも聞いてくれ」

エル「ありがとうございます」


レナード達は衛兵と別れ、言われたとおりに光へと話しかけてみることにした
だが…


レナード「誰も契約結んでくれねぇ…」


再び壁にぶつかってしまった


エル「なんでなんだろうね…。みんな口々に『君は重すぎる』って言うけど、どういうことなんだろう…?」

レナード「訳わかんねぇよ…。体重だって別にそんな重いわけじゃねぇよな?」

エル「流石に体重ってことはないと思うけど…。レナード別に普通でしょ?」

レナード「60キロくらいだぞ。ダンテさんやブレアさん達はもっとあるだろうし、どういうことなんだよ…」

エル「他の人とかいればどんな風に契約してるのか聞いてみたいんだけど、誰もいないしね…」

エル・レナード「「うーん…」」

レナード「…しゃあない。戻ってさっきの衛兵さんに聞いて…」



「お前――だ――のか」



レナード「ん?」


エル「あ、向こうの方に誰かいる」

レナード「衛兵さん以外にもいたんだな。おーい、あんた!」


「誰だ、お前ら?」

レナード「いやすまない、ちょっと聞きたいことがあって」

「…断る。俺は忙しいんだ」

エル「ごめんなさい、少しだけでいいから時間をください」

「…ちっ。早く言え」

レナード「助かるよ。精霊と契約したいんだけど、どの精霊も『君は重すぎる』って言われて断られるんだ。解決法を知らないか?」

「お前もか?」

エル「お前もって言うと…」

「俺もそう言われ続けている」

レナード「そうか…。ってことはみんなこうなのかな?」

エル「どうだろうね。一応衛兵さんにも聞いてみようよ」


レナード「そうだな。ありがとう…えっと…」

クロード「…クロードだ。クロード・シラー」

レナード「ありがとう、クロード。俺はレナード・シルダだ」

エル「エル・スウィフトです。また縁があったらその時はよろしくお願いします」

クロード「どうだろうな…。俺は契約してくれる精霊を探す。じゃあな」


クロードと名乗った青年はさらに森の奥へと進んでいった
どうやら聖樹の周りでなくとも多少なら精霊はいるらしく、クロードはここらに見切りをつけてその少数の精霊と契約を結ぼうというつもりらしい


エル「衛兵さんどこかな…」

レナード「ここらへんをふらふらしてるって言ってたから…ん?」

エル「レナード?どうしたの?」

レナード「…なんだ?」

エル「…?」

レナード「呼んでる…のか?」ザッ


レナードは突然そんなことを口にし、まるで何かに導かれるかのように歩き出した


エル「レナード?どうしたの?」

レナード「分からない。けど、なにか呼ばれてる気がして…。わかんないんだけど、でも…行かなきゃ」

エル「な、なにを言ってるの!?レナード!!」


エルの方を一瞥をせずにレナードは歩を進める
どんどん進むレナードはもはや藪だろうが雑草生い茂る場所だろうがお構いなしだ
エルはそれに着いて行くのが精一杯でレナードを止めることが出来ない


歩くこと5分
レナードの歩はある場所で唐突に止まった


エル「レ、レナード…!急に…はぁ…どうしたの…!?」

レナード「俺を呼んでいたのは…お前か?」

エル「…?…!!」


エルはここでようやく回りを見渡す
小さな湖畔、その周囲に生える様々な木々、花や動物も見られ、聖樹の周りに引けを取らない美しさを放っている
そしてなにより…


エル「大きい…」


聖樹の周りを飛んでいた光とは一回りも二回りも大きい光が湖畔の上に浮遊している



『何故この場所を…。あなた方はいったい…何者ですか?』



巨大な光がレナードとエルに問いかけた

ここまでです

次回はいつになるかなー

ではでは

こんな時間ですが投下します


(まさか私が生前築いた人払いの術が解けた…?いや、でも術が解けた様子はない…。一体…)


エル「えっと、あの、私達は決してあやしいものじゃなくて…」

レナード「…」

『…どういう経緯でここへ辿り着いたのかは知りませんが、本来あるはずがないのですが、もし意図せずここへ来てしまったということであるならば今すぐお帰り頂きたい』

エル「あ、はい分かりました!行こう、レナード」

レナード「…ひとつ、聞いてもいいだろうか?」

『…それで帰って頂けるのならば』

レナード「お前がここへ俺を呼んだんじゃないのか?」

『私にそんなつもりはありませんし、呼びかけてもいません。何かの勘違いでしょう』

レナード「そう…ですか」

エル「ほら、やっぱり何かの間違いだったんだよ」

レナード「うーん、確かに呼ばれたと思うんだけどなぁ…。それになんか行かなくちゃいけないと強く思ったんだけど…。気のせい…か」

エル「もう夕方だよ。急いで帰らないと日が暮れちゃう」

レナード「それはまずいな。よし、エル。背負うからこっち来い。『まとい』で一気に飛ばす」ズアッ


レナードが『まとい』を発動させる


エル「いやいや、そこまでしなくても…」

『…!?ちょっとまってください!』

レナード「?」


光が突然声を上げた


(まさか…!?ありえない、でも…今感じたマナは間違いなく…!)

レナード「あの…何か?」

『…!失礼。少し取り乱しました』

エル「何かありましたか?」

『少年さん、少しいいでしょうか?』

レナード「?」


光がゆっくりとレナードへと近づき、レナードの額に少しだけ触れる


(やはり…!でも、何故この少年が?…少し、監視させてもらいましょうか)

エル「レナード、大丈夫?」

レナード「特に何も感じないが…」

『…ありがとうございました。もう大丈夫です』


光がレナードの額から離れた


レナード「あの、今のは一体…」

『いえ、お気になさらず。少し確認したいことがあっただけなので心配することは何もありません』

エル「と言っても…」

『そこは信じてもらう他ありませんね』

レナード「まぁ初めて会った精霊さんが俺に危害を加えるメリットなんかないだろ」

『そうですね』

エル「…」ムゥ

レナード「用が済んだのならもう行っていいか?」

『はい。私から去れと言っておきながら引き止めてしまい、申し訳ありませんでした』

レナード「全然構いませんよ。あ、出来れば俺と契約とかって…」

『…申し訳ありません』

レナード「ですよね…」

エル「あー、もう日が…」

レナード「ん、急がないとな。よし、背中に…」

エル「だからそれはいいってば!」


結局レナードとエルは歩いて帰ることになった
正規の道に戻る頃には日はもう沈みかけており、辺りは暗くなり始めていた


レナード「ふぅ、ようやく整備された道に出れたな」

エル「道は…あっちが街の方だね。明かりが見えるし」

レナード「ブレアさん心配してるかな」

エル「かもしれないね。早く帰らないと…」


クロード「…ん?」


レナード「あ。あんたは…」

エル「クロードさん」

クロード「ちっ、もう少し時間ずらせばよかったか…」

レナード「まぁまぁ、いいじゃないか。街に帰るんだろ?一緒に行こうぜ」

クロード「ふん…」ザッ

レナード「無愛想なやつだなぁ…」ボソッ

エル「あ、もしかしてネイピアさんが言ってた人って…」ボソボソ

レナード「黒髪の無愛想な男…。多分そうだな」ボソボソ

クロード「聞こえてるぞ。誰が無愛想だ」

レナード(いや実際無愛想じゃん…)


エル「そういえばクロードさんは…」

クロード「…呼び捨てでいい」

レナード「クロードは何歳なんだ?俺達と近そうだけど」

クロード「17だ」

エル「あ、じゃあ私達と同じだね」

レナード「なんか親近感わくな!」

クロード「ふん…。で?俺がなんだ?」

エル「えっと、精霊と契約は結べたのかなぁって」

クロード「一応な」

レナード「おー、良かったじゃないか!」

エル「おめでとう!」

クロード「…」


暗くなってきているので分かりづらいが、少し照れている様子のクロードはレナードとエルもはっきりと分かった


レナード「俺も早く契約してくれるやつ見つけ…」



「…お?…おい、おいおいおいおい!!マジかよ!はは、すっげーラッキー!」

「なんだよ、どうした?」



突然レナード達の後ろからそんな声が飛んできた
男二人、それもその声には不快な喋り方である


レナード「…」クルッ

クロード「…」


レナードとクロードは一気に警戒を強める


エル「え…」


その時、その男の顔を見たエルは…


「はぁ~い、嬢ちゃん!俺のこと覚えてる~?」


エル「あ…」ドクン


エルの脳裏をよぎったのは5年前のあの…


エル「あ…あぁ…!」

レナード「エル、大丈夫か?…何者だあんたら」

「ん~?そこのお嬢ちゃんに聞いてみな。ギャハハハハ!」

レナード「エル、こいつらは…」



エル「5年前…私を誘拐した…」



レナード「っ!?」


それは、エルが最も恐怖する存在であった


「せいかーい!よく覚えてましたー!」パチパチパチ

「なんだ、そういうことか」


そのやり取りを聞いていたもう一人の男も納得したようだ


レナード「てめぇら…!あの時の誘拐犯共か!」

「俺は関係ねぇよ。こいつと他のやつらがやっただけだ」

クロード「上手く話が読めないが…とりあえずお前達は不快だ。消えろ」

「おー、こえぇこえぇ」

レナード「だがどうしてここに…。誘拐犯共は確か騎士団に捕まったはず…!」

「あぁ、捕まったよ。くそうぜぇ騎士団共にな」


さきほどからエルは地面にへたり込み、自らの腕で自分を抱きしめている


レナード「脱獄したってことか…」

「まぁな。5年もかかっちまったが、見ての通りよ」

クロード「なるほど、話が読めてきた。お前達は誘拐犯で、その被害者がこいつだったってことか」

レナード「俺が捕まえてもう一度牢屋にぶち込んでやる!」


レナードが叫びながら剣を抜く


レナード「5年前は何も出来なかったが、今回は違う!」

クロード「…黙ってみてるのも性に合わん。手を貸してやる。どのみち目障りなやつらだ」


「ははっ、血気さかんな小僧共だ」

「おい、お前こいつらをどうするつもりだ?」

「眠らせて集会に連れてこうと思ってよ」

「…趣味がわりぃやつだ」

「まぁ否定はしねぇよ!ギャハハハ!」


レナード「連れて行くのは俺達の方だ!覚悟し…!?」


グラァ
とレナードの視界が急に傾く


レナード「な…!?」

クロード「なんだ…?視界が…」

エル「…」フラッ


クロードとエルも同じ状況のようだ
さらに三人にひどい眠気が襲ってくる


「ようやく効いてきたか。まだ契約結んだばっかりだから上手く使いこなせねぇな」

「間に合ったんだからいいだろ」

「ギャハハ、だらだらと会話して長引かせたからなぁ!」


レナード「どう…なって…!」

クロード「くっ…!」


レナードとクロードはまだ意識があるが、エルは既に眠りに落ちてしまった



衛兵「そこ!何をやっている!」



「あー?」

レナード「衛兵…さん…!」


森の方から衛兵が走ってこちらに向かってくるのが見えた
偶然通りがかったのだろうが、レナード達にしてみれば幸運この上ないだろう


衛兵「お前達!その少年達に何をしているんだ!」

「うっるせぇなぁ」

「どうする?応援を呼ばれると厄介だぞ」

「…お前頼むわ。ここの衛兵共には真っ向勝負の『まとい』じゃ勝てねぇだろうし、俺の精霊は正面きっての戦闘向きじゃねぇしな」

「ったく、しょうがないな…」


衛兵「その子達から離れろ!さもなくば…!」

「俺の精霊も初試しだな」ズアッ

衛兵「…っ!?」

「吹き飛べ」



ゴアッ!!



衛兵「ぐぁっ…!?」ドゴッ


衝撃波が衛兵を吹き飛ばし、衛兵は背後にあった木に凄まじい速度で激突する


衛兵「が…はっ…!」

「まだ意識があるか。流石だな、だが…」


ドゴッ!


衛兵「…っ!」ドサッ

「お前も眠ってろ」


衛兵は頭を思いっきり横蹴りにされ、意識を完全に断たれた


レナード「…くっ!」


万事休すとはまさにこのことだろうか
衛兵は倒れ、クロードは既に力尽き、二人共地面に伏せて身動き一つしない


「こいつはどうする?こいつも運ぶのか?」

「いや、そいつはいらねぇわ。ガキ共だけでいい」

「じゃあ三人か。お前が言い出したことなんだからお前が二人持てよ」

「あー、わかってるよ」


レナード「てめぇ…ら…」


「目覚めたときが楽しみだなぁ、ガキ。ギャハハハハ!」


レナードの意識が途切れる前に聞いた言葉はそれが最後だった

ここまでです

ではまた

こんばんわ
投下します


――――――――――――


レナード「ん…」

エル「レナード!」

クロード「起きたか」

レナード「ここは…?…っ!!あいつらは!?」ガバッ

クロード「知らん」

エル「今ここには私達しかいないみたい」

レナード「そ、そうか…。ここは…」

クロード「空気や風、暗さなんかから推測するに洞窟ってとこだろ」

レナード「そんな感じだな。…っ、手足はロープでぎっちぎちに縛られてる、か」

エル「痛いし上手く動けない…」

レナード「剣は…まぁ取られてるよな」

クロード「おい、『まとい』で無理やり千切れないのか」

レナード「やってみる」ズァッ


レナードが『まとい』を発動させる
既に4倍近くまで上昇しているレナードの『まとい』だが…


レナード「っ…!!駄目だ、千切れない。何だかいつもより『まとい』の上昇率が悪い気が…」

クロード「ただのロープじゃねぇな。封魔材で出来たもんか?」

エル「封魔材?」

クロード「罪人の所持者(ホルダー)なんかに使われる拘束具の材料だ。接触している存在のマナを極端に抑える効果がある」

レナード「それでか…」

クロード「ってことは俺の精霊も…やはり駄目か。出てこれないみたいだ」

レナード「風の魔術とかでスパッといけないのか?」

クロード「俺はまだ風は修得していない。俺が修得してるのは水と光だけだ」

エル「あれ?光って修得するのが難しいんじゃ…」

クロード「光と闇はそうらしいな。事実闇はまだまだ修得できそうにない。光は何故かすんなり修得できただけだ」

レナード(なるほど。これが才能か…)

クロード「まぁそういうわけで手詰まりってことだ」

エル「冷静に言ってる場合!?どうするのー!!」


クロード「焦ったところで解決策が浮ぶわけでもないだろう」

レナード「でも本当どうするべきか…」


「お、三人とも起きてんじゃん。そろそろかなーって思ってたんだがビンゴだったな」


レナード「お前…!!」


「お前ら、こいつらを運べ」

「「「うぃっす!」」」


クロード「なんだお前ら」

レナード「くっ!!」

エル「きゃっ!」


レナード達が洞窟の中から担ぎ出される
そこに広がる光景は…


レナード「荒…野…?」


辺り一面の荒野であった
レナード達がいた洞窟は絶壁にあり、とても登れそうに無い
だがその上には人の気配があるようだ


しかしそれ以上に…


クロード「50…いや、100近くはいるか?」

レナード「なんだこいつら…!?」


大集団が野営のような状態でがやがやとそれぞれで雑談を交わしていたり寝ていたりとすき放題やっている


「ようこそ、『鴉』の集会へ」


エル「『鴉』…!!」

レナード「『鴉』…だと!?」

クロード「三国を股にかける大盗賊団、か」

レナード「ようこそ…?お前が攫ったんだろうが!」


「まぁまぁ、そうカリカリすんなって」


レナード「この…!」


「アギト、リーダーが呼んでるぞ」

アギト「あー?ちっ、仕方ねぇ。レオ、ガキ共を見ててくれや。特に女のガキだ。他のやつらが目ぇぎらぎらさせて見てやがる。ギヒヒ、俺の獲物だってのに先に犯されたらたまんねぇわ」

レオ「…仕方ないな。早く行って来い」

アギト「ギャハ!すまねぇな」


アギトと呼ばれたぼさぼさの茶髪男は絶壁に沿って奥の方へと歩いていった
なるほど、とクロードは察する
この壁の上にリーダーと呼ばれたやつがいるのだろう、と


レナード「エルを犯すだと!?そんなことしてみろ!てめぇらぶっ殺してやる!」

レオ「騒ぐな、うっとうしい」ドゴッ

レナード「がっ!!」

エル「レナード!」


腹を蹴られ、レナードは苦悶の表情を浮かべる


レナード(ぐっ…!このロープさえ解ければ…!!)

クロード「…」

レオ「次騒ぐごとに指が一本ずつ減ると思え」

レナード「…!!」

エル「っ…!」

レオ「そうだ。それでいい」


言葉調子はアギトの方が粗暴だが、行動ではこのレオと呼ばれる金髪の男の方が粗暴だ
ここで騒いでも意味がないと判断したレナードは思考をめぐらせる
まずはロープ
そしてここにいるレオとアギト
加えて眼前には約100人の敵
さらにリーダーと呼ばれる存在
問題は山積み、というレベルではないほどに現状はレナード達にとって厳しいものであった


レナード(駄目だ、先のことは今は考えるな。とにかくこのロープをどうにかしないと…)

クロード「おい、お前ら」ボソ

エル「!」

レナード「…!」

クロード「悟られないように聞け。あと10分ほどしたら俺の精霊を一瞬だけ具現化させられる」ボソボソ

レナード「できるのか?」

クロード「マナを練りに練って一瞬だけならな」

エル「じゃあそうしたら…」

クロード「ロープを解く。そうしたら即逃げるぞ」

レナード「逃げる…!?こいつらを潰して捕ま…!」

クロード「無理に決まってんだろ。冷静に状況を見ろ。単純に数で圧倒的不利、加えて少なくとも『獣霊』取得者が二人以上、リーダーと呼ばれるやつは下手したら『覇王』使いだ。まず勝てる相手じゃねぇ」

レナード「…くっ!」

クロード「まずは生き残ることを考えろ。そうすりゃまたチャンスはくる」

エル「レナード…」

レナード「…そうだな、わかった」


クロード「よし、ならそれに備えておけ。また合図を送る」

レナード「分かった!」

エル「うん!」



アギト「わりぃわりぃ、待たせちまったな」

レオ「話は終わったのか?」

アギト「あぁ、そろそろ始めるらしいからあいつらをまとめろだってよ」

レオ「そうか」

アギト「おい!てめぇら!フラッドのリーダーによるお話だ!黙って聞け!」


その声を聞いた100あまりの集団はピタッと話すのをやめた
統率は完全にとれているらしく全員が立ってアギトの方を向いている
と、その時、上空から人が降ってきた
その人物はアギトの隣にフワッと着地し、前を向く


フラッド「ふぅ、さて君達。定期集会を始めようじゃないか」

「「「「「「「ウッス!!!」」」」」」」


フラッドと呼ばれた黒の長髪にすらっとしたスタイルの男が絶壁から飛び降り、集団をしきる


クロード(こいつがリーダー…。フラッドとか言ってたな)

レナード(長い剣…太刀か)



フラッド「と言っても特にやることは変わらないよ。いつも通り半年の売り上げの3割を私に渡す。ただそれだけさ」

アギト「まずは第一小隊からだ!さっさと動け!」


鴉は小隊5人、大隊100人、全隊500人の構成である
それぞれの長として、隊長、リーダー、ボスが存在する
幹部は8人
リーダーが5人、側近が2人、そしてボスだ
そのうちの1人が今ここにいるフラッドという男であることをレナードは即座に理解した

集団はぞろぞろとフラッドという男の前に金や物を積んでいく
小隊単位で動いているのか5人揃って出す場合が多く、どうやらあれが『売り上げ』らしい


フラッド「ん?君、ちょっと待て」

「はい?なんでしょうか?」

フラッド「何やら少ないようだけど…?」

「あー、すんません。あんまり多く稼げなくて…。イヒヒ」

フラッド「あ、そうなの。ふーん…。君見ない顔だね。最近入った人?」

「そうっすね。ついこの間仲間達と入団しやした。それがどうしたんで?」

フラッド「いや、もういいよ」

「へいへい。んじゃあっしはこれで…」


男が去ろうとした瞬間



トスッ



「…え?」タラーッ


男の胸を太刀が貫いた
まるで水に剣をいれたように、剣にはなんの抵抗もなく…


フラッド「正しく払えないやつは僕の隊にはいらないよ。さようなら」ズッ

「は…あっ…!?」ブシュッ


フラッドが太刀を引き抜く
男は胸から滝のように血を流し、その場でドシャリと力なく倒れた


アギト「あーあ、またか」

レオ「ふぅ…」


「な、なにしやがるてめぇ!!」

「どういうつもりだコラァ!」


その男の仲間であろう連中も突然の出来事に声を荒げる


フラッド「君達、実はもっと稼いでるだろ?」

「は、はぁ!?なんの根拠があって…!」

フラッド「僕の元にはある特殊な方法でありとあらゆる情報が回ってきてね、君達や他の隊員達がどこでどのように稼いで来ているのか全て知っているのさ」

「な…!?」

フラッド「君達は入団してからこれまでで村を2つ壊滅、貴族から盗みを3件、人身売買が6件、だろう?」

「…ば、ばかな!なんで…!?」

フラッド「ってなるとどう考えてもこれっぽっちじゃ足りないんだよね」


フラッドは足元に置かれた袋を蹴飛ばす
両手で抱えきれるほどの大きさだ
男たちが置いたものである


フラッド「いいかい?鴉に入団すれば魔集団子のような便利なものを与えよう。それで存分に盗みなりなんなりするといい。だがその見返りはきっちりもらう。当然だろう?」

「ぐ…!」

フラッド「今すぐ売り上げの5割をここへ持っておいで。そうすればお前達の命だけは助けてやろう」

「5割だと!?3割じゃねぇのか!?」

フラッド「ペナルティに決まってるだろ?それとも払えないのかな?」

「…っ!…わかった、持ってくる…」

「ちっ…」

フラッド「うん、よろしい」

アギト「よし、次だ!」


その光景を見ていたレナードとエルは絶句していた
今まさに目の前で人一人が殺されたのだ
エルは吐き気さえ覚えているようだ


レナード「あいつ…仲間をあんなあっさり…!」

クロード「…これが鴉だ。あいつらに仲間意識なんてものは無い」

エル「ひどい…」

クロード「それよりあと少しだ。いいな?」

レナード「…!ああ…!」

エル「と、とにかくまずは逃げないとだもんね」


クロードのマナが溜まるまであと約1分
三人の緊張感が高まる

微妙に中途半端ですがここまでで

こんばんわ
投下します


フラッド「うん、これで全員だね。ご苦労様。じゃあもう特に用はないから解散していいよ。いつも通り新しく道具が欲しければ本部に行ってよー」


わらわらと鴉の組織員達が解散しようと準備を始める
どうやら本当にこれで集会は終わりらしい


フラッド「それで?あの子供達はなんだい?」

アギト「ギヒヒ、5年前に俺が捕まる原因となったガキ共でさぁ。まぁその女のガキしか関係ないんすけど」

フラッド「どうするんだ?売る気なのかい?」

アギト「まぁ最終的にはそうしようかと。それまでは楽しもうと思いましてね」

フラッド「上等なガキじゃないか。身なり良し、顔良し、年齢良し、品も良さそうだ」

アギト「男のガキ二人も見てくれはいいっすからね。そこそこの値段で売れると思いやす」

フラッド「じゃあ半年後を楽しみにしているよ」

アギト「そりゃぁもう。ギヒヒヒヒヒヒ!」



クロード「いくぞ!」



ドウッ!!!!!


クロードの周りにマナが凝縮し、形づくっていく


フラッド「ん?」

アギト「なに!?」



クロード「バサラ!!」

バサラ『おう!』



やがてマナは実体を生んだ
それは…


フラッド「バハムート…!」


バァンッ!!!


クロードを拘束していたロープが全て弾け飛ぶ


アギト「貴様!」


バサラ『おらよ!』ザキキン

レナード「よし!」

エル「あー、窮屈だったー!」


クロード「全速力で走れ!」

レナード「エル!」ズァ

エル「こ、今回は仕方ないか…きゃっ!」


レナードが『まとい』を全開に発動させエルを担いで一気に走る
クロードは自らの精霊であるバサラに自分を運ばせているようだ


「お?なんだ?」

「アギトのやつが連れて来たガキ共が逃げたぞ!」

「ギャハハハ!おう逃げろ逃げろ!面白そうだ!」


アギト「てめぇら!待ちやがれ!」ズァ

レオ「…」ズァ


アギトとレオがすぐさま追ってくる
だが…


アギト「…っ!なんだあのガキ共!はえぇ!」

レオ「『まとい』の練度ではあのガキのが上か…!もう1人の方の精霊も恐ろしく速い!」


クロード「バハムートにおまえら程度の『まとい』の速度で勝てるわけねぇだろ」

バサラ『これでも本来の速度の10分の1もでてねぇんだがな』


レナード「よし、撒けそうだ!」

エル「どんどん距離が開いてくよ!」


アギト「くそったれ!逃げられる!」

レオ「…っ!!」



フラッド「やれやれ…」



クロード「森か」

レナード「あそこに入れば流石にもう見つからないだろ!」

エル「うん!これで逃げ切れ…きゃっ!?」

クロード「!!」

レナード「エル…!?」


背中に担いでいたエルの重さが突然消えた
レナードは急ブレーキをかけて振り向く
そこには…


エル「いっ…!」

フラッド「この子はお金になりそうだからね。渡すわけにはいかないなぁ」


フラッドがエルの髪を掴んで悠然と佇んでいた


レナード「そんな馬鹿な…!あいつらでさえまだ俺らに追いついていないのに…!?」

クロード「これはやはり…」

バサラ『『覇王』使いだな、間違いなく』


エル「いっ…たっ…!髪が…!」

フラッド「こらこら。女の子がそんなに暴れるなんてはしたない」

エル「誰のせいだと思ってるのよ…!」

フラッド「ふぅ…。品がないなぁ」

アギト「フラッドの兄貴!」

レオ「申しわけありません。お手を煩わせました」

フラッド「いいよいいよー」


レナード「『覇王』使い…!」

クロード「…どうする?」

レナード「エルを取り返すに決まってんだろ!」

クロード「…俺は逃げるぞ」

バサラ『えっ!?助けないのか!?』


レナード「逃げたいならお前だけで逃げろ。俺は残って取り返す!」

クロード「はぁ…」

バサラ『おいクロード…』

クロード「…ちっ、分かったよ。だがまともに戦って勝てる相手じゃないぞ。エルを奪ったらまた即時退散だ」

レナード「あぁ!」

バサラ『よっしゃ!久しぶりの戦いだ!!』


フラッド「おや、彼らもやる気十分みたいだね」

アギト「ここは俺達が」

レオ「フラッドさんは野営地へ。念のためそのガキを遠くへ持っていってください」

フラッド「それじゃあそうしようかな。また後でね」

エル「きゃっ!!」


ゴォッ!!


レナード「エル…!な、なんてスピードだ…!それに空を飛んで…これは!」

クロード「『飛走(ひそう)』だな。『覇王』で修得できるものだ」

レナード「ダンテさんやブレアさん達が使っていたやつか…!」

クロード(ダンテ…?)


アギト「舐めた真似してくれたな、てめぇら」

レオ「どうする?殺すか?」

アギト「あぁ。こいつらも売ってやろうと思ってたが、やめだ。殺す」

レオ「イラつくやつらだしな。それがいい」


クロード「さっきの追いかけっこから見ても『まとい』の練度ではあいつらよりお前の方が上だろう。やつらの『獣霊』に気をつけろよ」

レナード「あぁ、分かってる!こんなやつらさっさと片付けてエルを取り返す!」ドンッ


ガキィン!!


アギトとレナードの剣が交わる


アギト「俺に勝てるつもりか?ガキぃ!」

レナード「むしろ勝てる気しかしねぇな!」


剣同士の斬り合い
だがそれは対等ではなく…


アギト「ぐっ…!」

レナード「ハァ!!!」

アギト「ぬっ!!」


明らかにレナードの優勢だ
それも当然だろう
レナードは1ヶ月実践そのものレベルの戦いをしてきたのだ
それもダンテやブレア達という遥かに格上が相手だ
それに比べればアギト程度であればぬるいとしか言いようが無いだろう


レナード(遅い、軽い、雑…!ブレアさん達の足元にも及ばない!これなら…!!)

アギト「ちぃっ!」ズアァ

レナード「!!」ババッ


アギトの身体からマナがオーラのように発せられる


アギト「調子に乗るなよ!モンフィス!!」

モンフィス『ようやくか!出すのが遅いわい!』


レナード「『獣霊』か…!」


大の大人の半分ほどの大きさもある蝶が具現化した


レナード(まず能力をはっきりと判明させないと…。身体を麻痺させるってのは分かるが、それがどういう原理で起こるのか…)


アギト「頼むぜぇ、モンフィス!」

モンフィス『わかっとるわい』


レオ(アギトが苦戦するとは…)

クロード「レナードのやつ、やるじゃねぇか」

レオ「早く加勢しに行ったほうがいいか…。さっさと終わらせないとな」

クロード「できんのか?」

レオ「…ガキが」チャキ

クロード「鉈の二刀流か…」


珍しい武器である
クロードも実際に見るのは初めてだ
リーチは短く一撃一撃はそこまで重くないが、その分手数の多さや状況に応じた使い方が出来るといった利点がある
だが魔術師相手にリーチが短いというのは基本的に致命的である
何故なら


クロード「ふん」

バサラ『グハハハハ!どうしたどうした!』

レオ「ちっ…!」バババッ


魔術師とは元来遠距離を得意とする
それは所持者(ホルダー)に対して、魔術師は『まとい』を発動できないことに起因する
周囲のマナに直接干渉し術を行使する魔術師では、身体の中にマナを流して発動させる『まとい』が無理であることは自明の理だ
なので近接は捨て、遠距離に徹する
それが存在が生まれてから今まで変わらない、魔術師としての鉄則だ
レオは避けるのに精一杯で反撃すら出来なくなっている


レオ「氷の槍に炎の槍…。厄介だな」


バサラは口から炎の槍を飛ばし、クロードは空中に氷の槍を精製し、飛ばす


レオ「水の能力に光の能力を掛け合わせているのか…?」

クロード「ご名答」

レオ(ちっ、光の能力…温度操作か)


6つの属性にはそれぞれ操作・発生させることができるものがある
火なら炎、水は液体、風は大地、雷は電気、闇は重力、そして光は温度だ
クロードは水の能力で水を発生させ、それを光の能力によって氷結させている
これが魔術師の特徴の一つである、属性の掛け合わせだ


レオ(このままではまずいな…)ズアァ

クロード「!」


ズゥン!


クロード「なんだ…あの生物?」


バサラ『ほう、珍しい。海の生き物だな、あいつは。種族名は確か…』


キュイ『シャコのキュイ様だ!お前達を殺す者の名だ、覚えとけぇ!』


バサラ『そうそう、シャコだ!』

クロード「言ってる場合か。集中しろ」


レオ「いくぞ、キュイ」

キュイ『おうよ!』ゴッ


クロード「!!」


ドッパァンッ!


キュイが放ったパンチは衝撃波を発生させた


クロード「っ!」

バサラ『うおぅ!?』


その衝撃波がクロードとバサラを襲う
体制を崩すバサラに対して備えていたクロードはなんとかその場で踏みとどまる
だが…


レオ「そら」ヒュッ

クロード「ぐっ!」ザキン


その間に距離をつめていたレオによって横腹を切りつけられる


バサラ『クロード!』

クロード「心配するな。傷はそこまで深くない」


キュイ『はっはぁ!どうだ?俺のパンチは!衝撃的だろぉ!?』

レオ「浅かったか」


簡単にはいかないか、とクロードは嘆息した



そこから少し離れた場所
レナードとアギトがにらみ合う


レナード(あの時、あいつは時間を稼いでいたとかなんとか言ってたな。ってことは精霊の能力を発動させるまでに時間がかかるってことか?…まぁとにかく…)


レナード「まずは仕掛けてみないと始まらない、か!」ドンッ

アギト「っ!!」


ガギン!ガンッ!ギギィン!


レナード「シッ!」

アギト「ぐおっ!」


アギトの肩に一太刀入る
出血はさほどではないが動きが鈍る


レナード「せりゃあ!!」

アギト「がっ!」


レナードの剣を受けきれず、アギトが吹き飛ぶ
力、技量、速度、全てにおいてレナードが圧倒している


レナード「終わりだ!」

アギト「ぐっ…!」


グラァ


レナード「!?」


レナードの視界が突然ゆらいだ


レナード「あの時と…同じ、また…!」


アギト「はぁ…はぁ…ようやくか!遅ぇんだよ!」

モンフィス『仕方あるまいに。身体の中に入ってから神経に到達するまでは時間がかかる』

アギト「ちっ…、まぁいい。…ギヒヒ、形勢逆転だなぁガキ!!」ヒュッ

レナード「がっ!!」ドゴッ


アギトの蹴りを受けてゴロゴロと転がされる
あの時と同様、レナードは身体の自由が奪われてしまう


レナード(くそ…!どういう…!!)

アギト「てめぇは楽には死なせねぇぜ。ゆっくりとなぶり殺してやる!」


バキッ!ドガッ!


レナード「っ!!」


クロード「…!レナード!」

レオ「余所見か?」

キュイ『余裕だな!』ゴッ

クロード「っ!」


パァン!


クロード「しまっ…!」


衝撃波によってクロードの体制が崩れる


レオ「死ね」ヒュッ

クロード「っ!」ドシュッ

レオ「終わりだ!」

バサラ『させるかよ!』ゴォッ

レオ「!」ババッ


バサラの炎がクロードとレオの間を遮る
間一髪だ


クロード(まずい…。1対1だから互角に戦えているが、2対1では無理だ。レナードがやられたら終わりだ)

レオ「アギトが逆転したな。俺はこのままお前をひきつければそれで決着ということだ」

クロード「…っ!」


レオも理解している
誰か1人がやられたらこの戦いはそれで決着だと



アギト「おらっ!」

レナード「ごっ!!」

アギト「ギヒヒ!そろそろ終わりにするか」チャキ


アギトが再び剣を抜く


レナード(またか…、また俺は…守れないのか)


アギト「最後はあっけなかったな、ガキ。ギャハハハハハハ!!」


レナード(これだけ力をつけても…また…)


モンフィス『全く、わしを出すのが遅いからてこずるんじゃぞ』

アギト「わーかったわーかった」


レナード(力が…ほしい…)


アギト「んじゃ、さよならだ」スッ


クロード「レナード!!」

バサラ『ちぃっ!!』


アギト「おらぁ!」


レナード(エル…)



『力が欲しいですか?』




レナード(…?)


脳に声が響く
レナードの目の前にはいつの間にか光の粒子がふわふわと浮んでいる


『私のところに来る人間はいつもそうでした。お前の力が欲しい、と』


レナード(なんだ…なにをいって…お前は…)


『その誰も彼もが己の私利私欲にまみれた汚い人間ばかり』


レナード(…)


『一つ、聞きます。あなたが欲しいのは…どんな力ですか?』


レナード(どんな力…)


『権力のためですか?』


レナード(違う…)


『名声のためですか?』


レナード(違う…!)


『あの男を倒す力ですか?』


レナード(違う!!)


『ではあなたが欲しい力は…何ですか?』


レナード(エルを…守るための力だ!!)


『…!』


レナード(あいつを倒すとか、そんなことは二の次だ!)


『倒すためではなく、守るため、と』


レナード(エルを守れるのなら、それ以外の力はなんだって捨ててやる!)


『所持者(ホルダー)としての力でも…?』


レナード(捨てる!)


『何故…そこまで…?』


レナード(惚れたやつ一人守れないで何が力だ!!)


『!!』


レナード(自分が愛した人のために、全てをなげうって守る!それが…!)


『あぁ…』


レナード(男ってやつだろうが!それが力ってものだ!!)


『やはり…同じなのですね』


レナード(…?)


『アムンゼン…。私は…この人間を信じてみたい』


レナード(なにを…)


『少年、名をなんと?』


レナード(レナード…。レナード・シルダ)


『レナード、私と契約を結びませんか?』


レナード(は…?お前なに言って…。ていうかお前…っ!そうか、あの時の精霊!なんでここに…ていうかここは…どこだ?)


『ふふ、気付くのがいろいろと遅いですよ。ここはあなたの精神世界です。現実世界と違い、ここでは時間は流れないので心配はいりませんよ』


レナード(精神世界?どうやってそんなところに俺を…)


『私が引きずり込みました』


レナード(てかなんでお前がここにいるんだよ。ここは俺の精神世界…なんだろ?)


『あなたと接触したときに侵入しました』


レナード「…あの時か」


『それで、私と契約してくれますか?』


レナード(まてまて、状況がいまいち分からん。そもそもお前の名前すら聞いてない)


『あ、まだ名乗っていませんでしたね。私は…原初の光龍、アスカ』


レナード(光龍…?龍って…あの!?)


『確か人間達の間では一角、と呼ばれていましたかね』


レナード(な、なんでそんなすごい精霊が俺と…?)


『かつての盟友との誓い故に、とでも言っておきましょうか。それにあなたは…』


レナード(…?)


『彼にとてもよく似ている。マナも、人柄も、その意思も…』


レナード(彼…?)


『とにかく、この世界にはそう長く留まることは出来ません。決断してください』


レナード(お前と契約すれば…エルも守れる力が手に入るのか?)


『少なくとも今よりかは』


レナード(…分かった。契約を結ぼう、アスカ!)


『はい!』


レナード(…で、俺は何をすればいいんだ?)


『簡単なことです。現実で私の名前を言ってくださればそれで契約完了です』


レナード(そんな簡単なことなのか?わかった)


『まずは目の前の敵を倒しましょう』


レナード(…!おう!)


『いきましょうか。大切な人を守るために!』


アギト「おらぁ!」


レナード「アスカ!!」


カッ!!!


アギト「なっ!?」


ドウッ!!!!!


レナードの身体から強烈な光が発する
それは天にまで昇る光の柱となり、雲すらも割っていく
そしてその元には…


アギト「ガキぃ…!お前、どうやって!…っ、それ…は…!!」


レナード「いくぜ、アスカ」

アスカ『はい』


レナードの背後に現れたそれは…


アギト「龍…だと…!?」


巨大な龍
人間の大きさを遥かに凌駕する、十数メートルはあろうかというとてつもなく大きな龍だ


クロード「はっ…あいつ…!」

バサラ『今、契約したのか!?ガハハ、むちゃくちゃなやつだな!!』

クロード「しかもありゃ龍か?ふっ、七星獣を『獣霊』として使役するとはな」

バサラ『いやいや、俺もだから!俺も七星獣だから!』


モンフィス『な…!』

アギト「なんだよ…こりゃ…」


レナードの身体の麻痺はすっかりなくなっていた


アスカ『どうやら麻痺の正体は鱗粉のようでしたね。鱗粉が神経を麻痺させていたようです』

レナード「なるほど、蝶ならではだな」

アスカ『全て身体から排除しておきました。ついでに周囲の鱗粉も話つぃが召還された時点で全て吹き飛んでいるのでご安心を』

レナード「助かる」


アギト「くっ…!龍の『獣霊』だと!?冗談じゃねぇ!」

モンフィス『わ、わしの鱗粉が…!』

アギト「ちっ、この役立たずが!」

モンフィス『なんじゃと!?そもそも貴様がさっさと殺しておればこんなことには…!』


レナード「ふぅ、ようやくすっきりしたぜ」ザッ


アギト「っ!」


レナード「覚悟は出来てんだろうな?」


アギト「ぐ、ぐぬ…!」


レナード「アスカ」

アスカ『はい』


アスカが翼を大きく広げる
すると徐徐にその翼が光り輝いてきた


アギト「な、なんだ…?太陽の光を吸収してやがるのか…?」


そして、それに呼応するようにレナードの剣が激しく光る


レナード「ブレアさん達との修行じゃ完成しなかったけど、今なら上手くいけそうだ」

アスカ『ふふ、必殺技ですか?』

レナード「あぁ。一つは持っておいた方がいいって言われてなんとか修得しようとしてたんだけどな」


アギト「う、うおぉぉぉ!!」ドンッ


アギトが突っ込んでくる


アスカ『大切な人を守るために、私の力を存分に振るってください、レナード』


レナード「はぁぁぁぁ!!」


アギト「おおおおおお!!!」


ギィィィィィィン!!


レナードの剣がさらに光に包まれ、巨大な光の剣を生む
そして


アギト「っ!?」


レナード「極光剣!!」


ズゥゥンッ!!


まっすぐアギトへと振り下ろされた


やがてその光が収束していき、そこには…


レオ「…アギト!!」


白目をむいてピクリとも動かなくなったアギトが倒れていた


レナード「…殺しはしねぇよ。今度はさらに厳重な牢屋に入ってもらう」


クロード「ふん…」ニッ

バサラ『やったなぁあいつ!!』


レナードが剣を鞘へと収める
そしてエルが連れ去られた方へと向かおうとするが

レナード「うっ…」フラッ

アスカ『いきなり大出力を使ってしまいましたね。マナが無くなりかけです』

レナード「あとそこらじゅう滅多打ちにされたからな…。って、そんなこと言ってる場合じゃない!エルを…!!」


クロード「まぁ待て。俺もこいつをさっさと片付けてやるから」


レナードの言葉をクロードが遮る


レオ「…なに?」

キュイ『おいおい、1人倒したからって調子に乗りすぎじゃねぇか!?』



クロード「なにせ…勝負はもう決した」



レオ「なにを…っ!?」

キュイ『これは…!?』


レオとキュイの足元が凍結されていた


クロード「動かなければ氷結のいい的だ。忘れたのか?俺は魔術師。周囲のマナに干渉する。例えそれがお前の傍であってもな」


レオ「ぐっ、身動きが…!」

キュイ「取れねぇ…!!」


クロード「バサラ」

バサラ『おうよ!』コォォォォ


レオ「ま、まて…!」

キュイ『あぁぁぁああぁ!!』


ゴォッ!!!


プス…プスッ…


クロード「俺も殺すのは目覚めが悪いからな。丸焦げで済ましてやる」

バサラ『あ、キュイとかいう野郎、エビだからか上手そうな匂いが…』


レナード(丸焦げって、死んだんじゃねぇか…?)

アスカ『…レナードさん、すいません。どうやら限界のようです』

レナード「え?」

アスカ『具現化を…維持できません。どうやらさっきので…』

クロード「仕方ないだろうな。契約はさっきしたばかりなのだろう?そもそも同調もまだ完全じゃないようだし」

バサラ『ま、あとは俺達に任せとけ。アスカとやら』

アスカ『…分かりました。私もレナードさんを中から言葉によるサポートはしますが、実際には何の手助けも出来ない状態です。よろしくお願いしますよ』


その言葉を残し、アスカはフッと消えた
だが存在そのものが消えたわけでなく、今もレナードの中に存在し続けている


アスカ【私とレナードさんの間でのみならば会話は出来ますので】


レナードの頭に言葉が響く


レナード「分かった、サポートを頼む」

クロード「行くぞ。バサラ、俺とレナードを担げ」

バサラ『あいよ!』

レナード「うわっ」


バサラは背にレナードとクロードを担ぎ、高速でエルの元へと飛んでいく
どうやらバサラの本来の大きさは現在の人の2倍程度のものではなく、もっと大きいらしいがクロードとの同調とクロード自身の力量不足でこの大きさが限界らしい


元々大して離れていなかったのもあり、すぐさま野営地へと到達する

ここまでで

次回はいつになるかまだわかんないです
ではでは

投下します


フラッド「おやおや。あの二人、負けてしまったのか」


フラッドは再び絶壁の上にいるようだ
そしてその横にはエルが見える
だがエルは…


レナード「エル…!!お前、何をした!」


フラッド「なに、少しうるさかったから眠ってもらっただけだよ。多少乱暴にはしたが傷はついていないだろう。感謝してよ」


レナード「こいつ…!」

クロード「ふざけた野郎だ…」


フラッド「他人の心配をするよりまずは自分の心配をした方がいいんじゃないかい?」


レナード「…!?」

クロード「…ちっ」



「本当に戻ってくるとはな」

「アギトとレオを倒したのならそのまま逃げればいいのによ」

「お人好しちゃんだねぇ」

「ガハハハハ、まぁ俺達の楽しみが増えただけだけどな!」


100人もの大軍勢が絶壁の前で待ち構えていた


レナード「くっ…」

バサラ『どうするよ。流石にこの数はきちぃぞ』

クロード「…」


クロードが左手をレナードへ、右手を自分の胸へとかざす
水色の淡い光が二人を包む


レナード「…!痛みが…」

クロード「とりあえず止血と痛み止めはしておいた。俺の力ではこれが限界だが気休めにはなるだろ」

レナード「助かる!」

バサラ『くるぞ!』


フラッド「やってしまえ、お前達。殺しても構わん」


「「「「「うおおおおおお!!!」」」」」


レナード「…っ!」ズアァ

バサラ『取りあえず応戦するしかねぇか!』

クロード(考えろ…頭を使え…!何かいい方法が…!)


乱戦が起こる
鴉の雑兵達は一人一人はさほど強くはない
だが中には…


「ヌハハハ!」ズァ


レナード「『獣霊』使い…!」

クロード「ちっ!」


『まとい』だけでなく『獣霊』も扱うやつらがいる
数にすれば全体の半数が『まとい』使い、さらに数人が『獣霊』使いだ
恐らく1人ずつであればクロードや、万全の状態のレナードならば倒すことが出来るだろう
だが…


「そらそらぁ!」

レナード「うっ!」ズバッ


満身創痍のレナードはもはや限界だ
かろうじて『まとい』は発動できているがそれもいつまで持つか分からない
全身打撲や傷だらけでまともに戦うことすら出来ていない


「そりゃぁ!」


アスカ【レナードさん、後ろです!】

レナード「っ!」バッ


「ちっ、まだ避ける元気があるか」


レナード「助かった、アスカ」

アスカ【気をつけてください。まだまだ敵はいます!】

レナード(痛みはクロードのおかげで抑えられてるけど…身体がいうことをきかねぇ…!)


クロードは既に何人か倒しているようだ
だがそれも長くは続かない


「ふんっ!」

「せいっ!」


クロード「っ!!」ザキン


「らぁっ!」


バサラ『ぐおっ!』ドシュッ


徐々に、徐々に、追い詰められていく
クロードとて人だ
魔術師なのでマナに限界はないとはいえ、体力には当然限界が存在する
クロードとバサラにも傷が増えていく


フラッド「限界が近いね。そろそろ終わりかな?」

エル「ん…」

フラッド「おや、起きてしまったか。この騒がしさだ、仕方ないか」

エル「っ!あなた…!」

フラッド「起きたのなら下を見てみるといい。面白いことになっているよ」

エル「下…?…レナード!!」


レナード「…!エル、気がついたのか!待ってろ、今すぐ助けて…!」


「余所見は禁物だぜぇ!」ゴッ


レナード「がっ!」ドッ


エル「レナード!!」

フラッド「全く、無駄な努力が好きだね。既に限界が近く、倒せた人数は未だ10にも満たない。この調子では到底突破できるわけがないし、仮に奇跡的に突破できたとしても僕がいる。普通諦める場面だよ?」

エル「レナードは…!レナードは違う!」

フラッド「ん?」


エル「レナードは絶対に助けてくれる!そう誓ってくれたんだもん!」

フラッド「今まさにその誓いが破られそうだけど?はは、どうせそんなもんだよ、君達の誓いってやつはさ」

エル「黙りなさい!」

フラッド「…黙りなさい?」ピクッ

エル「あなたに私達の何がわかるっていうのよ!」

フラッド「おい…お前今、僕に指図したか…?」

エル「レナードが嘘をついたことなんて一度もない!だから…!」



フラッド「黙れクソガキ」



ドカッ!


エル「きゃっ!?」


フラッドに足蹴りされたエルが強制的に地面に這いつくばされる
そしてそのままエルの腹を踏みつけた


エル「いっ…あ…!」

フラッド「僕はね、指図されるのが大っ嫌いなんだ。唯一僕に指図していいのはボスくらいだよ。それを…お前みたいな小娘が…僕に指図だと?」


ギリギリと足に力を込めていく


エル「ぎっ…あぁっ…!!」


レナード「エル!?お前、エルに何してる!!」


フラッド「下のガキ共も同じだ。たいした実力もないくせに威勢だけはいい。実に不愉快だ」


「おー、こわ。フラッドの兄貴がキレてるぜ」

「あーなったらもう駄目だな」


レナード「どういう…!」


「あの嬢ちゃんはおしまいってことだ」


レナード「なっ…!!」

クロード「…!」

バサラ『おいどうするクロード!』

クロード「今考えてる!!」


フラッド「売ればお金になりそうだったけど…まぁいいや。見てくれだけはいいから首だけでも欲しがるやつはいそうだ」スラッ

エル「ひっ…!」


レナード「おいクロード!バサラだけでも飛ばせないのか!」

クロード「無理言うな!今そんなことしたら集中攻撃受けて落されるだけだ!」

バサラ『だが他にどうしようもないだろ!一か八かで…!』


フラッド「あーあ、残念だよ。君達が悪いんだよ?素直に大人しくしていれば生かしておいてあげたのにさ。ま、これも抗えない運命ってやつなのかな?」


エル「ふざけ…ないで!あ、あなた達が…!」ボロボロ

フラッド「…また指図かい?もういいよ」チャキ


エルは恐怖のあまりか、痛みのあまりか、はたまた悔しさのあまりか、涙を流している


クロード「くそっ!」


結局なのか…


バサラ『一か八かでも行くぞ!』バサッ


結局、守れないのか…


レナードは再び絶望へと落される


「させるかよ!」バッ


バサラ『がっ!』ザキン

クロード「バサラ!」


もうさっきのようにアスカが助けてくれることはない…


フラッド「死ね」ヒュッ


もう誰も助けに来ることはない…


レナード「エ…ル…」


奇跡は起きな…





ギィン!!!!!!






フラッド「…!?」


奇跡は…




ダンテ「エルから離れろこのクソ野郎」




起きた



ドウッ!!!!!!



フラッド(重力波…!闇の所持者(ホルダー)か!!)ザザァ


ボボボボッ!!!



フラッド「!!」



ドンッ!
ドンッ!
ドンッ!
ドンッ!



「な、なんだ…!?」

「なにかが振って…!!」

「に、人間…?」


クロード「…なんだ?」

バサラ『いったい…?』


「随分と我々の家族を痛めつけてくれましたね」

「エルを泣かした罪…相当に重いわよ」

「レナード、よく耐えたな」

「あとは俺達に任せな」



レナード「ぐすっ…はい…はいっ!」ボロボロ



フラッド「何者だい…?君達は」



『暴王』とその『臣下』が―――


到来した

ここまでです

ではまた

こんばんわ
投下します


エル「ダン…テ…さん…?」

ダンテ「すまねぇ、随分待たせたな」


フラッド「ダンテ…?」ピクッ


ダンテ「だが安心しろ。俺達が来たからにはもう大丈夫だ」


フラッド「黒髪に細身の刀、そしてダンテという名…まさか…まさか!!」



「なんだてめぇら!?」

「どこから沸いて出やがった!」


ブレア「口が悪い連中ですね」

エルガー「たかが知れるというものだ」


「んだとコラ!?喧嘩うってんのか!?」


マーガレット「先に喧嘩売ったのはそっちでしょ?」

ハイドン「俺達の家族(ギルド)に手を出したこと…死ぬほど後悔させてやる」


バサラ『おい、クロード。こいつらは?』

クロード「ははっ、なんだよレナード、エル。お前らこの人達と同じギルドだったのか?先言えよな…。ふー、だがまぁ、これで一安心ってとこか」

バサラ『おい!なんだよ教えろよ!』

クロード「この人達は…」



フラッド「『暴王』…ダンテか…!」


ダンテ「俺のこと知ってんのか」


フラッド(ということは下のやつらは『暴王の城』のメンバーか…!まずいな…)


ダンテ「なら、俺達の家族に手を出したらどうなるかも…知ってるよな?」チャキ


フラッド「…まさかこのガキ共が『暴王の城』のメンバーとはね…。アギトめ、厄介な連中に手を出してくれたものだ…」


「お、おい…今フラッドの旦那から『暴王の城』がどうのこうのって声が…」

「ぼ、『暴王の城』だと!?」

「シャガール王国A級リストのやつらじゃねぇか!」



ブレア「おやおや、我々が『鴉』のリストに入っているとは」

ハイドン「それもA級かよ」

マーガレット「まぁ私らこいつらを騎士団並に捕まえてるしねぇ」

エルガー「だが、俺達だと気付くのが遅すぎたな」



「やべぇって…!」

「逃げっ…!」



ブレア「逃がすとでも?」



ゴォォォォォォォォォォ!!!



「なっ…!?」

「炎の壁が…!?」


ブレア「炎渦・大円陣。1人も逃がしませんよ」


半径100mはあろうかという巨大な炎が『鴉』の大集団を囲った


レナード「これ…森で俺達を助けてくれたあの時の…」


「こんな炎!」

「俺らの水の能力で!」


ジュゥゥゥゥッ!!!


水の所持者(ホルダー)全員で一点へ向け水を放出した


「どうだ?」

「やったか…!」


だが…



ブレア「…話になりませんね」



「だ、駄目だ…!針のすきまほどの穴すら空いてねぇ!!」


ビクともしない
それも当然だろう
たかが『まとい』を扱える程度の熟練度でブレアの炎を突破できるはずがないのだ
なにせ熟練度の差は少なくとも30
天と地ほどもある差だ


ハイドン「悪あがきはもういいか?」


「ぬっ…!」


エルガー「殺しはしないから安心しろ。全員気絶させて縛り上げるだけだ」


「ぐ…ぐぬ…!」


マーガレット「覚悟は…ま、出来てなくても知ったこっちゃないか」


「図に乗りやがってぇぇぇ!!!」

「こっちは100人近くいんだ!」

「物量で押し切るぞ!!」



ダンテ「あーあ、あいつらブレア達とやりあうつもりらしいぞ」


フラッド「ちっ!あの馬鹿共!」


ブレア「きなさい、ヴォルフ」ズアァァ

ハイドン「来い、ホーク」ズアァァ

エルガー「出番だ、ライガ」ズアァァ

マーガレット「おいで、フィル」ズアァァ


4人が『獣霊』を発動
それぞれの傍に狼、鷹、豹、イルカが具現化する


「はっ、たかが『獣霊』か!」

「『獣霊』がなんだ!」

「こっちにだって『獣霊』使いは…」




「「「「憑依」」」」ギュオォォ




「…!?」

「こいつら…フラッドの兄貴と同じ…!」


フラッド「馬鹿かお前達!なんとかして逃げることだけを考えろ!そいつらは全員空を飛んできたんだぞ…!つまり…」


それぞれの精霊からオーラが発生する



フラッド「全員…『覇王』使いだ!」



ダンテ「熟練度60以上での修得技、憑依。通称、『覇王』」


その光景はまるでブレア達が精霊を吸収しているようであり、事実その通りのことが起こっている


レナード「な、なんだあれ…身体の表面に模様が…」

バサラ『おいおい、あいつら全員『覇王』使いかよ!すげぇな!』

クロード「『覇王』、精霊を具現化するのに留まらず、さらにそれらを自分に憑依させる技…。俺も見るのは初めてだ」


エルガー「さて、久々に暴れるとするか」


「く、くそっ…やっちまえ!!」


「「「うおおおおおお!!」」」



エルガー「光雷線!!」ゴッ



ガガァァァン!!



「うわぁぁ!」

「な、なんだ!?」

「雷!?」


エルガーが勢いよく突き出した拳から雷の如き光線が走った


「いてぇ…」

「か、身体が…麻痺し…て…」

「動け…ねぇ…!」


エルガー「出力はかなり抑えておいた。この程度ならばかなりの痛みと痺れで動けなくなる程度だろう。さて次は…」ザリッ


「ひぃっ…!」


エルガー「…数が多い。どんどんいかないとな」


ブレア「シッ!!」ボッ


「ぎゃぁぁぁ!!」

「な、なんだこいつ!?あんなバカでかい剣を軽々と…!」

「ここは俺の『獣霊』で…!」ズアァ


ガンッ!


ブレアの大剣が弾かれる


ブレア「…!!亀ですか…」


「よし、弾いた!」

「ははは、どうだ!手も足もでまい!」

『俺の甲羅は全ての攻撃を跳ね返す!お前の剣撃も…』


ブレア「その程度の硬さでですか?」ボウッ


ブレアの剣が炎に包まれる


『…!?』ビリビリ


ブレア「炎刃烈破」ズッ


ザギンッ!!


炎の斬撃が甲羅を易々と斬り裂いた


「なっ…!?」

『ば、馬鹿な…俺の甲羅が…』


ブレア「眠ってなさい」


ガガガガンッ!


鴉の雑兵達はブレアの剣の腹で殴られ、どんどん気絶していく


「バケモノ共が…!」

「せめてこの女だけでも…!」


マーガレット「あら、甘く見られたものね」


「女がノコノコ戦場にきやがってよぉ!」

「しねぇ!!」


マーガレット「激流槍」ボボボッ


「がっ!?」

「ごはぁっ!!」


水の槍が二人を吹き飛ばす


マーガレット「まだたくさんいるわね…。面倒だわ、まとめてやっちゃおうかしら」ズッ


「な、なんだ…なにを…!」


マーガレット「水よ…」ザザザザザ


マーガレットの360度全方位から龍の顔の形をした水の塊が出現し…


「やべぇ…!!」

「にげっ…!」


マーガレット「龍牙衝」


それらが一斉に放たれた
水の龍は次々と雑兵達をなぎ倒していく


「くそっ、どんどん数が削られてるぞ!」

「近距離が駄目なら遠距離から…ごっ!?」

「な、なんだ!?どこからやられ…がぁっ!?」


ハイドン「遠距離からならいけるとでも思ったか?」


「あ、あんな距離から…!?」

「150mは離れてるぞ…!」


ハイドン「この程度なら余裕で俺の射程内だぜ?」ギリ…ギリ…


「またくるぞ!」


ハイドン「風ノ矢」ドドドッ


「…?」

「なんだ…なにも飛んできてな…がっ!!」

「ぐあっ!?」

「み、みえない攻撃が…がはぁっ!!」


ハイドン「お前ら程度の『眼』で風を見ることなんて出来るわけねぇだろ?しばらくおねんねしてな」



レナード「す、すげぇ…」

クロード「もう半分いったんじゃないか?」

バサラ『ガハハ、『覇王』使いともなればこんくらいやってもらわんとな』

レナード「これが『覇王』…。クロード、結局のとこ『覇王』って何なんだよ?」


クロード「精霊を自らの肉体に憑依させ、技の出力を大幅に上昇させたり、精霊の持つ能力を扱えるようになる技のことだ」

バサラ『俺達精霊は元々が強靭なる肉体や能力を持った存在だ。それを憑依すれば…あとはまぁ分かんだろ』

レナード「ってことは精霊が強ければ強いほど…」

クロード「その分大幅に強くなる。見たところ、あの人らの精霊は相当に強い」

レナード「改めて実感するけど…みんなすげぇんだな…」

クロード「ふんっ、七星獣と契約したお前が言うと嫌味にしか聞こえないな」

バサラ『だから!俺も!七!星!獣!!バハムート!七星獣の七角!!』

レナード「は、ははは…」



エル「マーガレットさん達すごい…」

ダンテ「エル、俺の後ろに隠れてろよ?」

エル「あ、はい」


フラッド「ちっ…あの馬鹿共が…」


ダンテ「下はかなり一方的な展開になってるみたいだな」

フラッド「僕を前にして余所見とはね…余裕のつもりかい?」

ダンテ「まぁな」

フラッド「…癇に障るやつだ…」ズアァ


フラッドが『獣霊』を発動させる


ダンテ「…なんだこの生き物」

フラッド「まぁ知らないだろうね。こいつは梟って生き物さ」

ダンテ「梟…?あー、名前だけ聞いたことある気がするわ」

フラッド「まぁそんなことはどうでもいいさ。…憑依」

ダンテ「…!」

フラッド「梟の能力…思い知れ」


フッ


ダンテ「ん?消えた…。気配も…完全に無しか」


「強大な君の力も僕を捉えられなければ意味がない。一方的になぶり殺してやるよ」

ダンテ「意外だな。すぐさま逃げるかと思ったが向かってくるのか」

「ここまでコケにされて逃げるのは僕の矜持に反するからね。下の雑魚共は逃げてくれないと収入源が減ってしまうから困るんだが…」

ダンテ「生憎だったな。お前も込みで全員牢屋行きだ」

「…いいだろう。その自信、粉々に打ち砕いてやる!」


ボッ!!


ダンテ「!」サッ


┣¨┣¨┣¨┣¨ド!!!


ダンテ「ちっ…!」


フラッドの高速連撃がダンテを襲う
フラッドは一撃のたびに身と気配を消し、また一撃を与える
それを繰り返しているだけだ

だが、だからこそどうしようもない
一方的な攻撃
一撃一撃はそこまで重くなくとも、ダメージを与え続ければいつかは倒れる
フラッドの戦いの真骨頂だ


「みろ!流石フラッドの兄貴だぜ!野郎防戦一方だぜ!」

「ははは!ざまーみろぉ!!」


ブレア「おや」


エル「ダンテさん!」


ダンテ「…」ガギンギィン

フラッド「どうした?手も足も出ないとはまさにこのことだな!」ゴォッ


ガガガガガガガ!!!


フラッドの攻撃は衰えるどころかさらに勢いを増していく


ダンテ「そうだな…」ギィンギン


フラッド「…?」


ダンテ「そこか?」ボッ


ダンテが突然自分の背後へと剣を突き出す
そこには…


フラッド「なっ!?」バッ


間一髪で剣を避けるフラッド


ダンテ「お、あたり」


当のダンテは余裕綽綽と言った様子で剣の感触を確かめている


フラッド(…まぐれか…?ふん、二度はない!!)スゥッ


ダンテ「また消えた…」


フラッド(これで終わ…!)ゴッ


ダンテ「もう見えてんだよ」クルッ


ゴッ!!


フラッド「っ!?」ドゴッ


ダンテの蹴りがフラッドの腹へまともに入る


フラッド「が…はっ…!!」


10mほど吹き飛ばされたフラッドはその勢いのまま地面へと叩きつけられた


ダンテ「やってることは簡単だな。一撃撃っては身を隠して気配を消し、死角から攻撃する。これの繰り返しだ」


フラッド「馬鹿な…!何故っ…!!」


ダンテ「お前自分で気付いてないのか?」


フラッド「何を…」


ダンテ「俺に一撃を与える寸前、お前は消した気配を現すんだよ」


フラッド「な…!?そんなはずは…!!」


ダンテ「ならもう一回やってみるか?ほら、こいよ」


フラッド「馬鹿にしやがって…!後悔しろ!!」ギリッ


再びフラッドの気配と姿が消える


ダンテ「そう、この段階ではまだ完全に消えてるが…」


フラッド(ハッタリだ!たまたま2回偶然が重なっただけだ!3度目は…無い!)ボッ


ダンテ「ここだ」スッ


フラッド「…っ!?」ブンッ


フラッドの剣はダンテを捉えることなく、空を斬った


ダンテ「攻撃する一瞬前、お前は『殺意』を込める。それが気配となって現れる。だからこうして避けることも簡単だ」


フラッド「馬鹿な…馬鹿な馬鹿な馬鹿な!!!今までそんなことは一度もなかった!!僕の気配が察知されるなんて…そんなこと…!」

ダンテ「そりゃお前が自分より弱い相手とばかり戦ってきたからだろ?」

フラッド「…!!」

ダンテ「強いやつとは戦わずに逃げる。お前はそうやって生きてきた。盗賊だ、それが当然ってものだろう」

フラッド「お前に僕の何が…!」

ダンテ「だから俺のような格上には通用しない。お前がやってきたことは…弱いものイジメのチキンだったってだけだ」


フラッド「…[ピーーー]」ブチッ


ズァアアアアア!!!!


ダンテ「む…」


フラッドの身体に浮んでいた模様がぐにゃぐにゃと変化していく


ダンテ「『タイプ』を切り替えたか」


フラッド「小細工は無しだ…力で叩き潰してやる!!」


ダンテ「ちっ!」バッ


ゴパッッ!!!!!


フラッドが地面に拳を叩きつける
するとそこを中心として衝撃波が周りを襲った
その衝撃波はダンテを通り越し、背後にいたエルにも襲い掛かる


エル「きゃっ!!」


ダンテ「おっと」


エル「ダンテさ…」


ダンテ「しっかり掴まってろ」ドンッ


エル「うわわっ!」


ダンテがエルを抱えて下にいるレナードとクロードの元へと一直線に飛んだ


ドォンッ!


レナード「うおっ…て、ダンテさん!?」

ダンテ「レナード、エルを守れるな?」

レナード「…!はい!!」


ダンテ「そこの少年、お前にも頼めるか?」

クロード「…ふん」

ダンテ「よし、任せたぞ」ドンッ


ダンテは再び絶壁の上へと一瞬で飛んでいった


レナード「エル!無事か!?」

エル「うん、私は大丈夫。まだちょっとお腹が痛いけど…」

クロード「見せてみろ。軽い治療なら俺でも出来る」



ダンテ「大丈夫そうだな。さて…」

フラッド「ふぅぅぅぅぅ…」

ダンテ「何故追って来なかった?」

フラッド「あんな小娘なんてもはやどうでもいい。今の僕がしなくちゃいけないことは…」ザリッ

ダンテ「…」

フラッド「お前を殺すことだけだ!!」ドンッ


ダンテ(速い…!)


ガキィィン!


フラッド「さっきまでの僕と同じだと思わないことだ!」ゴッ


ガキィン!ギィン!ガギギンッ!!


エル「きゃっ!」

レナード「な…なんて音だ…」

クロード「ただの剣のぶつかり合いで…。これが『覇王』以上の者同士の戦い…」


ダンテとフラッドの激しい斬りあいによる斬撃音が周囲に響き渡る



ブレア「こっちは終わりましたね」

エルガー「全員気絶させたから後は縛り上げるだけか。これが一番面倒だな」

マーガレット「こういう時ばかりは騎士団さっさと来いって思うわねぇ」

ハイドン「ん?騎士団ここに向かって来てんのか?」

ブレア「鴉が何人いるか分かりませんでしたから念のために、ね。100近くもいるとは正直思ってなかったので正解だったようです」


マーガレット「ダンテは?」

ブレア「今まさに轟音が聞こえてるでしょう?ドンパチやりあってる最中です」

ハイドン「相手も『覇王』使いってことは幹部の1人か。誰だ?」

ブレア「長い髪に太刀の使い手、恐らく『気消し』のフラッドかと」

マーガレット「強いの?」

ブレア「どうでしょう。そこまでは分かりません」


エル「ダンテさん、大丈夫かな…」

レナード「大丈夫さ。なんせダンテさんだ。あの人が負けるはずがない」

クロード「…」


ダンテ「シッ!」ボッ

フラッド「ハァッ!!」ゴッ


ギィンッ!!!


フラッド「ちっ…!」ザザァ


ダンテ「結構やるな、お前」ザッ


フラッド(こいつ…)


ダンテ「お前風の所持者(ホルダー)だろ?じゃなきゃその斬れ味はだせねぇ。薄く鋭い風を剣に纏わせる。繊細なコントロールが求められる技だ」

フラッド「お前…どうして『まとい』以外使わない…?」

ダンテ「ん?」

フラッド「『暴王』ダンテ…。この国じゃよく知られた名だ。わずか18人しかいない熟練度80越えの1人、だろう?」

ダンテ「俺ってそんな知られてんの?」

フラッド「ふざけたやつだ…」


フラッドは内心、焦っていた


フラッド(『まとい』だけで僕の『覇王』と対等にやり合うなんて…)


それが示すものは歴然たる『力の差』
フラッドが気付かないはずがない


ダンテ「で、俺がなんで『まとい』以外使わないのかって?そりゃ決まってんだろ」

フラッド「…?」



ダンテ「俺の精霊がお前をうっかり殺しちまう可能性があるからだよ」



フラッド「…っ!?」ゾアッ

ダンテ「でもま、このままじゃ時間かかりすぎちまうか…」ズッ


ダンテから黒いオーラが発せられる


ダンテ「来い、シャドウ」ズアァ

フラッド「…!」チャキ


シャドウ『ふぅ…なんじゃ、ようやくわしの出番か?遅いんじゃよ』

ダンテ「殺すなよ?ちょっとでもその気配見せたら即強制的に憑依させるからな」

シャドウ『むぅ…。分かった分かった。そう怖い顔をするでない』


フラッド(あれが…シャドウ)


シャドウ『さて、お主がわしの相手をしてくれるのかの?』


フラッド「二人でかかってこないのか?随分舐められたものだな」


ダンテ「は?」


シャドウ『久しぶりの戦闘じゃぞ。ダンテと二人がかり、なんてすぐに終わってしまうではないか。そんなつまらんことはせんわ』


ダンテ「あ?おい、一応俺も戦うぞ」


シャドウ『なにぃ!?ダンテ、それはないじゃろぉ!?』


フラッド「…」プルプル


ダンテ「お前1人で戦わせるとか不安でしかねぇわ」

シャドウ『たまにはいいじゃろう!?』



フラッド「いい加減にしろ!!」ゴッ


フラッドが太刀で横一線に斬り払おうとするが…


グニャァ


フラッド「!?」


剣の起動が不自然に変化し、シャドウに当たることなく空を斬った


シャドウ『はっはっは、間一髪じゃ、危なかったわい!』


フラッド(なんだ、今のは…!?僕は横に真っ直ぐ斬り込んだはず…!)


シャドウ『しかしなかなか鋭い剣筋じゃのう。今の一振りでわかるぞ~。やるではないか、坊主』


フラッド「どいつもこいつも上から目線で…!」ギリッ


ダンテ「…!シャドウ!!」


フラッド「斬風刃!」ボボボボボッ


フラッドが無数の風の刃を飛ばす
20、いや30にも及ぶだろうか
風の速度に鋭い斬れ味、そしてこの数
まともに喰らえば肉片になることは間違いない
だが


シャドウ『わかっとるわい!』バッ


シャドウが手を向けると


グニャァァァ


風の刃は全て逸れていった


フラッド(今一瞬…景色が歪んだ…?。そうか…なるほど、恐らくは…)


フラッド「空間操作の能力…生前の所持者(ホルダー)としての力か」


シャドウ『…たった二度で見破るか』


フラッド「ふん…シャドウ。有名な名だ。騎士団を知る者ならその名を知らないものはいないだろうね」


シャドウの顔から笑みが消える


フラッド「4代目騎士団長にして初の女騎士団長、そして、『災厄の女傑』と呼ばれた女。シャドウ・レイアール」


シャドウ『『災厄の魔女』…のう。わしはどうもその呼ばれ方が気に入らんのじゃが…』


フラッド「はっ、『あんなこと』をしておいて災厄と呼ばれないわけがないだろう?」


シャドウ『もうよい…』


フラッド「災厄と呼ばれ、国から追放され、世界から疎まれ、果てには…」




シャドウ『もうよいと言っている』スッ




フラッド「…っ!!」バッ


フラッドは咄嗟に直感した
あの場にいたらまずい、と
そしてその判断は正しい
正しい、が…


ボキッ!


フラッド「…は?」


遅い


フラッド「ぐ、あぁぁああぁ!?う、腕が…僕の腕がぁぁぁぁ!!」


フラッドの左腕が肘から外向きに90度以上捻じ曲がっていた


シャドウ『べらべらと…そんなに死にたいか、小僧』


フラッド「ぐっ…!この…!!」


フラッドが右腕で剣を持ち、上から斬りかかろうとするが…


シャドウ『右足』



ボキッ!!



フラッド「がっ…!!」



シャドウ『左足』



メキッ!!



フラッド「が、あぁぁぁぁ!?」



シャドウ『右腕』



バキッ!



フラッド「あ…あぁ…あぁぁぁぁあぁぁ!」





シャドウ『…首』




フラッド(死…)



フラッドは死を覚悟した



バシュゥッ!!!



だがいくら経っても意識が途切れなかった


フラッド(…?生きて…る?)


ダンテ「やりすぎだ、シャドウ。事前に言っていた通り、強制的に憑依させたぞ」ザッ


シャドウ【…】


フラッド「あ…」ガクン


フラッドは気を失った
四肢を潰されたことによる痛みもさることながら、圧倒的な力を前にして、それが消えたことによる緊張が解けたからであろう


ダンテ「…終わったか」チンッ


ダンテが剣を鞘に収める

戦いが―――ここに終結した

今日はここまでです

なんかsagaし忘れてたりドドドが大きくなってたりといろいろすいません

ではまた

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