【安価】貴方の読みたい物語 (190)

【ジャンル】

>>3

【季節】


【主人公名】





SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1469687744

ラブコメ

【ジャンル】

ラブコメ

【季節】

>>6

【主人公名】

【ジャンル】

ラブコメ

【季節】



【主人公名】

>>9

【ヒロイン名】

>>12

元男

シャルロッテ

【ジャンル】

ラブコメ

【季節】



【主人公名】

元男

【ヒロイン名】

シャルロッテ



我ながらついていない一日だ。

そう思うのも無理はない。

朝の占いでは最下位。洗濯をしようとすると洗剤が切れていた。

好きなアーティストが突然の休業宣言を出し、お気に入りの靴下には穴が開いた。

そして極めつけは、突然の白雨に襲われて、濡れそぼる体のまま立往生することになってしまった。


注文していた書物が届いたと近所の本屋から連絡があった頃は

夏の空に似つかわしい色合いをした青空だったのに。

不幸というのは中々どうして重なるものだ。

溜め息が口から漏れるも、その音は頭上のトタンに打ち付ける雨がかき消してしまう。

今はただ雨脚が遠のくのを祈るばかりだが、さて今日の私の運気で願いが叶うのかは難しいところだ。

荒らしその1「ターキーは鶏肉の丸焼きじゃなくて七面鳥の肉なんだが・・・・」 
↓ 
信者(荒らしその2)「じゃあターキーは鳥じゃ無いのか? 
ターキーは鳥なんだから鶏肉でいいんだよ 
いちいちターキー肉って言うのか? 
鳥なんだから鶏肉だろ?自分が世界共通のルールだとかでも勘違いしてんのかよ」 
↓ 
鶏肉(とりにく、けいにく)とは、キジ科のニワトリの食肉のこと。 
Wikipedia「鶏肉」より一部抜粋 
↓ 
信者「 慌ててウィキペディア先生に頼る知的障害者ちゃんマジワンパターンw 
んな明確な区別はねえよご苦労様。 
とりあえず鏡見てから自分の書き込み声に出して読んでみな、それでも自分の言動の異常性と矛盾が分からないならママに聞いて来いよw」 
↓ 
>>1「 ターキー話についてはただ一言 
どーーでもいいよ」 
※このスレは料理上手なキャラが料理の解説をしながら作った料理を美味しくみんなで食べるssです 
こんなバ可愛い信者と>>1が見れるのはこのスレだけ! 
ハート「チェイス、そこの鰹節をとってくれ」
ハート「チェイス、そこの鰹節をとってくれ」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1469662754/)


余談
7 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします sage 2016/07/28(木) 09:06:48.44 ID:10oBco2yO
ターキー肉チーッスwwwwww
まーたs速に迷惑かけに来たかwwwwwwwww

9 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします sage 2016/07/28(木) 09:12:33.84 ID:LxY8QrPAO
>>7
はいNG設定


この速さである
相変わらずターキー肉くん=>>1という事を隠す気も無い模様

31 ◆xmciGR96ca4q sage saga 2016/07/28(木) 12:50:19.79 ID:g6WSU+sH0
昨夜寝ぼけてスレ立てミスったんで憂さ晴らしも兼ねて久々のロイミュ飯でした。書き溜め半分残り即興なんで色々アレかもしれませんがアレがアレなんでアレしてください何でもシマリス(熱中症

建てたら荒れると判ってるスレを憂さ晴らしに建てる
つまり>>1は自分の憂さ晴らしにs速を荒らして楽しんでる

うーん、いつも通りのクズ>>1で安心するわー


急いで走ってきたので気づかなかったが、今こうして雨宿りをしている場所を確認すると何とも古びたバス停前だった。

地方都市の郊外に住んでいると、バスの本数の少なさに比例してバス停がおんぼろ調になっている。これは田舎ではよくある事だろう。

柱の随所とトタン部位には錆が纏い始めていて、手入れをしていない事と利用客の少なさが見て取れる。

街に出る時は路面電車を利用する私としては、こうして普段使わないバス停で立ちすくむという事自体が稀なのだ。

時間を持て余すので、暇つぶしの一環としてバスの到着時間を確認してみた。

一時間に二本……。都内に住んでいた頃を思うと、田舎にいるという事が顕著に分かり思わず苦笑してしまう。

あと数分で街から郊外に戻ってくるバスが来るようだが、あいにく私には関係のない事象だ。


暇つぶしの種を蒔くために、今日降りかかった些細な不幸の群れを振り返ってみる。

そしてふと気付いた。


そういえば、以前にもこんな事があったなと。


まだ私が若い頃だったか。

高校に向かうためにバス停を利用していた時があった。

その高校の立地場所が都心部だったから、正確にはここのバス停ではなく、私の向かいに見える街行きの方を使っていた。

あの時は土曜か日曜だったか、その辺りは流石にもう覚えていない。

だが確か休日に学校に行かなければならない用事があったので、渋々歩みを進めていたのだと思う。

そして現状のような天気雨に見舞われてしまい、ビショビショで行きのバスを待っていた時の事。


「キャーッ、もう、何ですか!? ※▽◇×※○○ーーー!!」


やたら大きい声をあげながら、ぱしゃぱしゃと水たまりを蹴りながらこちらに向かってくる人影があった。

遠目ではよく分からなかったけれど、その人物が近づいてくるにつれて徐々に姿がハッキリ見えてくる。

その人物は制服に身を包んでいた。どうやら我が校の女子生徒が着用する制服のようだった。

頭には学校指定のカバンを掲げて雨傘代わりにしており、長くすらりとした足が水気を弾いていた。

しかして、その人物を一番特徴づけるのは、その髪と瞳だった。

肩まで伸びている秋の実りのような色をしたブロンドヘア。やや長い前髪から垣間見える、宝石のようなターコイズブルー。


美しいものを見た。 

ただ純粋に、そう思った。


私が腰を下ろしていたバス停に急ぎ足で駆け込んできた彼女は、ぜぇぜぇと肩で息をしながら呼吸を整えていた。

ぐえっほ、げっほ、ごっほ。 肺が落ち着かずにむせるほど走ってきたのか、それともただ単に体力が無いのかは分からない。

そんな苦しそうな彼女を見てしまったので、大丈夫ですかとつい声をかけてしまう。


「心配かけてスイマセン、ぜんぜんヘッチャラ、平気のHEYです」


何かイントネーションがおかしい気もしたけれど、そこは聞き流しておくことに。

とりあえずまだ空けていないミネラルウォーターを差し出すと、嬉しそうな顔を見せてくれる。


「それ、イタダケマスか? ありがとうございます! 嬉しいです!」


笑顔と共にお礼を言われ、自分の頬が少し赤くなるのを自覚する。

あまり女性に縁のない人生だったので、こういう事柄には慣れていない。美人なら尚更だ。

しどろもどろになる前に心を落ち着けるため、とりあえず目線を時刻表に向けてみた。

次の到着は二十分後。なんとも絶妙に長い時間だ。

さて、どうしようか。

……いや本当にどうしようか。


とりあえず腕時計を一瞥して、外の風景を視界に入れてみた。

現在は朝の十時過ぎ。

今の時間なら季節的にも茹だるような暑さと紫外線が差してくる頃合だが、

厚い雲が太陽を覆い隠しているので、似つかわしくない薄暗さが辺りに蔓延している。


「今日の天気はハレだったのに、突然の雨ってタイヘンですよね」


声の方向を見ると、先ほどの女生徒がにこやかな顔でこちらを見ていた。


「お水、ごちそうさまでした」


ああ、いえいえ。お気になさらず。そちらも急に降られて大変でしたね。

社交辞令じみた返事をしてお茶を濁してみる。

そして改めて彼女の外見を確認すると、やはりこの辺りの人ではなさそうだと改めて実感する。

金髪碧眼のルックスに、モデルのようなプロポーション。もし高校に居たのなら話題にならない筈がない。

もしかすると私がそういった噂に疎いだけなのかも知れない、という可能性は考慮せずにいよう。


この辺りではあまり見かけないお方ですが、この先の花蒔咲高校の生徒ですか?

思い切ってそう聞いてみた。


「YES! その高校に来週から転校してくる予定デス!」


転校生か、それは道理で見かけないわけだ。流行に疎いという事ではなくて隠れて安堵してしまう。

それにしたって見事な美人さんだ。これは週明けに彼女が所属するクラスはさぞ活気づくだろうなと考える。


「アナタもその高校に用事があるんですか? もしかしてセンパイさん?」


澄んだ碧の目をくりくりさせて、無邪気に彼女は問うてくる。

私もその学校に用事があって、今日は休みなのにバスに乗るところですと返答。


「Wow! じゃあ、アナタの用事、もし終わったら学校の案内とかしてくれませんか!?
 ワタシ、ここに来たばかりで友達が居なくて心細かったんです!」


彼女の言葉の後半部分を聞いて断ることが出来るほど、私の心は強くはなかった。


「じゃあ、まずは自己紹介しましょう! 
 私の名前は、シャルロッテ・マクシミリアン。親しい人からはシャルと呼ばれてます」


マクシミリアンさん、か。フルネームから察するにジャーマン系の方なのかな?

それにしたってドイツの苗字は格好いい。自分の苗字がそうだったら、私だと名前負けならぬ苗字負けしてしまいそうだ。


「ほら、そんなアナタは何て呼んだらイイですか?」


これは失礼。私の名前は、塚原 元男。

苗字か名前の呼び捨てで呼ばれることが多い者です。


「ツカハラ・モトオ? じゃあ、アナタを‘モトオ’と呼んでもいいですか?」


いきなりファーストネーム呼びには驚いたけれど、外国の方はこういう気さくな所があるのか。

断る理由もないので、了承の意味を込めて軽く頷いた。


そして、私はマクシミリアンさんと色々な事を話した。

バスを一本見送る程度には話し込んでしまった。

その中でも彼女がここに来るまでの過程を聞いて、まだ若い身空で色々と抱えているのを知る。

曰く、彼女は相当良いところのお家柄で、中学の頃にはすでに婚約者が決められていた。

その婚約者は彼女が苦手とする人物のようで、その辺りは彼についての事柄であまり口を開かない所で察することが出来た。

才女である彼女は母国語の他に英語、フランス語、日本語を習得している。

母国であるドイツでは十八歳で結婚が出来るようなので、それまでは婚約者の元から離れたいと思い来日したと。

モラトリアムという言葉を隠れ蓑にして、逃げてきたのだという。


……今日あったばかりの私に打ち明けても、良かったのですか?

そう、訊ねずにはいられなかった。


彼女は語っている間ずっと、朗らかに笑っていたから。


「モトオ、それはですね。直感です。
 いい男になら話してもいいカナ、というヤツです」


頭にクエスチョンマークが浮かぶ。
いい男と言われて呆気に取られたのもあるが、そんな事が話す理由だということに。


「ワタシは日本に友達がいません。親戚も遠縁なので、ここに来て初めて顔を合わせたくらいの初対面デス。
 だから、ここならワタシは誰に憚られることもなく、‘私’でいられる。
 人並の女の子として、友達を作って、セイシュンというのを楽しめることができる」


「そして、恋ができる。 初めて、ワタシは人に恋することができる」


「初恋の色は知らなかったけれど、もしかすると、アナタの色になりそうなの」


「声をかけてくれたのはモトオの気まぐれかも知れないけれど、優しさがなければその気まぐれさえも浮かんでコナイ。
 知らない土地で、心細くて、雨に振られて泣きそうだったワタシは。アナタの無意識の優しさに、絆されそうになっているんデス」


可哀想だな、と思った。

当たり前の優しさに飢えてしまうような彼女の在り方が。

恋とは勘違いから生まれるものなれば、マクシミリアンさんの今の気持ちはまさにそれだ。

だから私は、「有難う御座います」としか答えられなかった。


「お!? ワタシの告白、まさかのOK!? ヤッター!」


いや違います。

更なる勘違いに全力で頭を横に振るのが精いっぱいだった。


「それは残念デス……でも、これからずっと同じ学校なら、きっとチャンスはいくらでもありマスね!
 ‘初恋は女房を質に入れてでも手に入れるべき’は日本のイイ言葉です!」


彼女の朗らかさに突っ込む元気すら起きず、ただ「善処します」としか答えられなかった。

そもそも、彼女と恋仲になる想像が今の私にはできないので、どうあろうとマクシミリアンさんの夢物語で終わりそうなのが現実だ。

そんな事を思っていると、ようやくバスが停留所に着いた。

一本逃したことで随分と待ち時間が出来たが、その結果、すっかり雨は上がっていた。

美しい青空が頭上に広がる。彼女の瞳と同じ色。


「モトオ! 学校に着いたら、ちゃんと案内してくださいネ!」


この夏はきっと暑くなるだろう。

そんな予感をたなびく金色は想起させてくれた。



シャルロッテ・マクシミリアン。


私を好いてくれた、美しい人。

何度彼女に「気持ちに答えられない」と告げても、ずっと「諦めない」と言ってくれた。

我ながら頑固さには定評があると思っていたが、ついに根負けしてしまった事がある。

あれほどの美貌がありながら、高校生活の間中ずっと彼氏も作らず勉学と部活動に励むストイックな彼女の姿に、

ついぞ私も絆されてしまい、一つだけ約束してしまった。


「マクシミリアンさん。高校を卒業したら君は国に帰る。
 だが君がもしも、もしも本当に運命から逃げようと思ったら、高校を卒業したら私のところに来なさい」


彼女が求めて止まなかった華の青春と引き換えに、私への恋を貫こうとしていた。

だからプロポーズを彼女に返事として渡してあげた。

私が学校の先生として教鞭を振るう間は、生徒とは付き合えないから。



あのとき初めて、私は君の泣き顔を見たのだと思う。

両目から零れる滴を拭わずに笑顔を向ける貴方は、なんと美しいのだろう。

目蓋の裏に今でもしっかり焼き付いて離れない。



そして彼女は、無事に高校を卒業した。

帰国後にすぐ挙式が上がった、というのは卒業生から聞かされた話だ。

彼女は場所を問わずに猛烈なアピールをしてくれたから、その姿は下手したら全校生徒が目撃しているのやも知れない。

私にその話をしてくれた卒業生の女の子は、国に帰ったら好きな人の事を忘れるなんて、ひどいよシャル……と涙ながらに訴えてくれた。

だから私はこう答える。

もう私は何度も彼女をフッているから、きっと次の恋を見つけたのだろう。今は新たな門出を祝福しましょう。

そう告げて、シャルロッテ・マクシミリアンの恋を終わらせてあげるのがせめてもの祝儀だった。


一度だけ、手紙が届いた。

大きな草原をバックにして、白いワンピースの彼女が大きく空に手を掲げている写真と共に。

手紙にはこう書かれていた。


「あの日出会ったときの空の色を忘れていません。
 モトオ、貴方にずっと恋しています。
 いつでも、いつまでも」


馬鹿者め、私はいいから幸せになりなさい。

そんな事を思いつつ、知らず知らずに口元がフッと緩んでしまった。


その写真は未だ私の部屋の写真立てに置かれている。




トタンに落ちる雨粒の鼓動で、ふと意識が戻る。

随分と懐かしい事を思い出してしまった。

あの夏からもうすぐ七年が経つのか。

時が流れて様々な者が変わりゆくが、あの頃と変わらないのは私が独身だという事実だけなのかも知れない。


誰もいない停留所で囁いてみる。

シャルロッテ、と。

親しい人からシャルと呼ばれていた彼女。私も心の中では、いつしかそう呼んでいたというのに気づかれなかったのは幸いだろうか。

呼んであげたら喜んだのだろうか。

そんなつまらないifを考える程度には、私も恋とかいう緩やかな湖に沈んでいたようだ。


昔読んだ「若きウェルテルの悩み」を思い出す。

婚約者のいる娘に恋をした男が自殺するまでの物語だったか。

その男が焦がれた女性の名前は、シャルロッテ。

有名な書物のストーリーとの妙な重なりは笑い話のタネになってくれるかも知れない。

そうなると主役は私になるというのか? いや、ますます面白い。

物語と違うのは、主役は自ら命を絶たず、緩やかに余生を終えるだろうという事だ。

悲観することもなく、ただ、穏やかに日々が過ぎていけば良い。

彼女が幸せになるのを心から祈っている。

ただ、一つの事を心に芯と残しつつ。


「君がもしも、もしも本当に運命から逃げようと思ったら、高校を卒業したら私のところに来なさい」


彼女が運命に負けたとき。

出会ったときの停留所のごとく、雨風を凌げるような場所になってあげられるように。


私は約束を守るだけだ。 生涯を賭けて。



ぱらたったった、という上から聞こえていた軽快なリズムのビートが遅くなる。

どうやら雨脚が弱まってきたようだ。

覗き込むように空を見上げると、雲間の切れ目から夏色の空が広がり始めた。

なんとも清々しい気持ちが湧き出てくる。

さて、感傷にも十分に浸ったし、そろそろ腰を上げて帰ろう。

そう思いながらも購入した本の無事を確認しようとすると、目の前にバスが止まった。

街から帰ってくるための系統なのだが、相変わらず人が乗っている気配がない。

ふと降車口に目を向けると、誰かが一人だけ乗車券を出して支払いを済ませていた。

近隣住民の方にしては妙にもたついているようだ。

その人は車内にも関わらず大きめの麦わら帽子を被っていたので、顔は見えない。


ただ、帽子から零れている美しい金色の髪が私の眼を離さないのだ。



支払いを済ませて、大きな荷物を下げたその人は降車口から姿を見せる。

今まで陰っていた空が、出迎えるスポットライトのように青く碧く輝きだした。



「……ただいま、モトオ」



おかえりなさい、シャル。


 




運命から逃げてきたのではなく、運命と決着をつけてきた。

彼女はそう語った。

それ以上の言葉は要らなかった。




空よりもなお碧玉の色合いをしたシャルの瞳。

彼女はそっと目を瞑り、私の歩みを待ってくれる。




これから先は、話す事など無くなって。


二人で緩やかに幸せになるだけの物語。




―― END ――

少し休憩を。20時再開予定。

【ジャンル】

>>43

【季節】


【主人公名】

ディストピア

【ジャンル】

ディストピア

【季節】

>>46

【主人公名】

【ジャンル】

ディストピア

【季節】



【主人公の能力】

>>50

共感


【ジャンル】

ディストピア

【季節】



【主人公の能力】

共感

 



生まれた時から、人生の選択肢は限られている。


貧困地帯で産声を上げたならば、銃を取るか取らないかの選択肢を問われる。

山村地帯で出生したときは、神の供物に選ばれたか否かの選択肢が一方的に与えられる。

海沿付近で過ごしていると、海の長の悪戯に怯える日々しか持たされない。

豊かな国で生まれたからこそ、自由と平和を怠惰に貪ることが出来る。

人は生まれた瞬間から決定されている。

だから、この統制国家で生を受けた時点で私たちは既に地球上のどの地域の者よりも秀でている。

豊かに生きるための最上級の土台を創り上げたという偉業を成し得た、顕現せしめん我らが王に感謝を示そう。




生徒手帳を開くと、これが最初の一ページ目に書かれている。

僕は声に出さずに溜め息を吐いた。

小学校、中学校と進級して、いざ高校生になってもこの言葉は後ろをついて離れない。

もはや国歌の歌詞のような浸透具合だ。誰だってそらで唱えることが出来るだろう。
 



産声を上げて生を謳歌する準備が整った時には、その人の人生において活躍できる場が決まる。

ある人は、政治家や弁護士、医者などのノブレス・オブリージュを持ち得て。

またある人は、どの企業においてどれほど頑張っても、課長や係長のポストまでしか上り詰めることは出来ない。


生まれた時から人生は限られている。

そういう国に、僕は生まれた。


ではどのようにして、その人の人生のレールを詰めていくのか。

答えは簡単。生まれたときの能力で決まるのだ。

IQや容姿などではなく、文字通りの‘能力’がこの国の赤ん坊には授けられる。

何でも第三次世界大戦なるものが行われた際、この国の王が神と契約して受けた、国全体を覆い包んだ祝福だとか。

その辺りは学問書を読んでも僕には分かりかねるが、とにかく戦争に勝つ為に神と取引をした事がある等という、

まさに神話めいた話である。

「国を巻き込んだ災厄」だと迂闊にも一説を唱えたニュースキャスターが生放送中に粛清されたという事案もあるらしい。

個人で利用できるPCのデータベースで詳細が見れるらしいが、人の死に様を拝見しようなんて気は僕には起きない。


話が少し脱線したが、その能力というのが個人に割り振られているらしい。

それは強さというよりも、能力を使って社会に貢献できるかどうかが大事らしく、

用途によっては最高峰のランクAから最底辺のランクEまでに分類される。

例えば『気体を固体にする能力』が使える人は、使用の為の限定条件が厳しいけれど、

新薬開発のために役立つのでランクはBに分類されている。

逆に『ウィザード級を超えたハッキング能力』を持つ人は、国が見られて困る情報を漏えいされるのを恐れてか

ランクはDもしくはEに分類されて、将来的にもPCとは無縁の業務に就かされる事になるらしい。


ちなみに僕の能力は『共感』。ランクはC。

二十八歳で医療系の分野に立つことが、七歳で決まっていたとのこと。

本当の夢は小説家。これはどうやら墓まで持っていく事になりそうだ。


今日は入学初日。

この国では昔、桜という木が薄桃色の花吹雪を舞い散らせて、新生活を始める人を歓迎したという。

しかし、件の大戦以降は桜の木も枯れ果てた。

四季という季節の概念が無くなり、舞っていたであろう花吹雪は寒さを纏う本物の吹雪となって僕を歓迎してくれる。

いや、少し歓迎しすぎな気もする。

学前の駅に着いてから徒歩五分で目的地と近くの案内板に書いてあったのに、もうかれこれ一時間近く彷徨っている。

もう二時間迷ったら遭難と言ってもいいのかも知れない。

そんな限界を感じつつホワイトアウトの視界で手探りの中、ようやくそれらしき校門が見えた。

厳かな雰囲気を醸し出す門前に立つ見張りの警備員に生徒手帳を見せて、入門承諾を貰う。

前途多難な初日になってしまい、ついた溜め息が白く染まった。


いざ校門を抜けると、途端に目先が明るくなり、学生服の面々が辺りを埋め尽くす。

どうやら学校全体に何らかの能力が働いていて、校内は安全に過ごす事が可能になっているのだろう。

この広い空間すべてに影響を与えるのは相当なものだと感心しつつ、自分が所属するクラスに向かう。

見取り図を見ても学校自体が広すぎて、あまり参考にならない。

とりあえず、近くを通る先生らしき人物に声をかけて訊ねてみよう。


すいません、特進A級クラスはどちらになりますか?

 


どの学校も自己の持つ能力を参照にして、そのクラスごとに分類されている。

僕の持つ『共感』の能力は、本来ならCクラス。

本来なら普通科の一般枠で過ごすのが常である。

だが、この学校は違った。

勉学において優秀な成績を中学で収めたうえで、更に入学の為の上級試験に合格することで

特例として一般能力者も特別進学級のAクラスに属することが出来るのだ。


ただ、せっかく入る事ができても劣等感などによって普通科落ちするのが殆どだとか。

確かに選ばれたエリート達の群れへと急に混ざるとなれば、彼らからとてつもない反発がありそうだ。

その辺りも僕は気をつけなければならないだろう。


物腰の柔らかい先生から案内され、いざA級クラスの扉の前に立つ。

柄にもなくワクワクしてしまう。

この先どんな超級能力所持者が居てくれるのだろうか。


勢いよく扉を開けると、生徒が一人椅子から立っていて、皆が傾聴の姿勢を取っている。

どうやらもう既にHRが始まっていたらしく、今は初顔合わせの自己紹介をしている最中だったようだ。

担任になるらしい先生が「重役出勤お疲れさん」と苦笑いをしながら僕の席に案内してくれる。

クラスも先生の言葉にどっと笑いが出ていたので、たぶん良い雰囲気で迎えてくれたのだろうと前向きな解釈をしてみた。


自分が着席すると、立ったままの女子生徒が照れ笑いを浮かべながら咳払いをした。


「え、おほん。改めまして、新城厚樹です。男っぽい名前ですが、ちゃんと女子です!
 能力は‘時間跳躍’。 三年間、どうぞよろしく!」


耳を疑った。 

時間跳躍って、タイムジャンパー?

世界どころか歴史を揺るがすレベルの特A級が目の前にいるのか。

肌が怖気だつように震えるが、これは決して鳥肌ではないと自分で分かる。

これは、武者震いだ。口元が三日月を描かないように、必死で堪える。


「えー、次は俺か。 どうも、長良賢介です。
 能力は‘念動力・全’。 あまり役に立つ気がしないのにA級に選ばれてるマグレ持ちっす」


「俺は藤島高雄。能力は‘毒物付与’。不味いものが嫌いです」


「初めまして、円谷凛子です。能力は‘能力の間借り’。あまり嫌わずに接してくださいな」


「月森直哉。能力は‘時間停止’。 よろしく」



なんだここは。

化け物の園に迷い込んだのか僕は。
 

 


「そう思うのも無理ないよね」


ギクリと肩を震わせて横を向く。

明朗快活を絵に描いたような、ボブカットの女子生徒がそこにいた。


「よろしく、編入生くん。 私は薙沢智世。
 ‘読心’の能力持ちなもんで君の声が少し聞こえちゃったから、つい返事しちゃった」


心臓に悪いからオフにしておいてくださいよ、と心で思ってみた。


「うん、善処する」


そっか、前向きに検討しておいてください。

 


既に結構な人数の自己紹介を聞いてみたけれど、先ほどのやり取りで理解した。


現状で最凶なのは隣の席の子だ。


僕の『計画』に綻びが生まれるなら、この子が筆頭になる。



使うか。

僕の能力、‘共感’を。

 


~~



「初めまして。 僕の名前は……まぁもう知ってると思うので、割愛で。 僕の能力は‘共感’です。
 人の痛みや悲しみを感じやすいんで、みんなは僕の前では楽しく学生生活を送ってください」


僕の軽い冗談もちらほらウケてくれたようで安堵した。

特に隣の席の子は、うんうんと何度も頷いている。確か薙沢さんだったか。

心を読む人に使用した事は無かったけれど、どうにか成功したようで良かった。


僕の能力は、相手の事を思って理解するというものではない。

『相手に僕の心情を無理やり理解させる』ものだ。

強制的に共感を得るのが本当の能力。

相手がそう思っていなくても、僕の意見や意思を全面尊重させることができる。

向こうが別に泣きたくなくても、僕が悲しいなら一緒に涙して。

向こうが何も感じなくても、僕が罪悪感を抱いたなら一緒に苦しんで。

向こうが罪悪感を抱かなくても、僕が無心であれば躊躇することなく何事もこなせる。


能力の意味に気づいたとき、この力の万能さを同時に理解した。


これなら作れるのではなかろうか。

僕の思い描いた理想の国家が。

 


小学校、中学校と過ごしてきて、触れ合ってきた人物のほぼ全てに思ってもらった。

「機会があれば、この国を一度壊してしまって再建した方がいいんじゃないか」と。


ただ、問題というか心配事があった。

能力によるクラス分けで、どうしても上位能力者と接する機会がないから

いざ蜂起する際にA級所持者に敵わないのではなかろうかという懸念。

それを解消するために、死に物狂いで勉強をして、少し教師の方々に肩を持ってもらって、今の学校に入学したのだ。


ここは予想以上に素晴らしい。

特A級の能力者が沢山いる。

彼らに僕の理念を「共感」してもらって、その時が来たら兵力になってもらうことにしよう。

現状で一番の不安材料だった読心者も介添えできたので、一旦の憂いは消えた。

ただ、今日という日に遅刻したのは悔やまれる。

まだクラス内の半分はどんな能力を持っているのか不明だから、迂闊に動くことが出来ない。


まぁ、あと三年もある。


ゆっくりと、僕の考えを‘共感’してもらえるように、努力しようかな。

 



この国の 真の暗黒郷まで  あと 7149日



 

小休止

今日は一旦お開きで。睡眠を取り終えたら再開します。
安価も後程とる予定ですが、感想やこういう話が読んでみたい等のレスもお待ちしております。


【ジャンル】

ギャグ

【季節】



【主人公名】

プレシオサウルス斎藤


神「突然だが、今日から君には世界を救ってもらいたい」

男「さすがに突然過ぎませんかね」

神「まぁ有り体に言うとアレだよ、君の世界で最近流行している‘異世界転生’を依頼しているのさ」

男「いや、確かに流行ってはいるけれど、別にさほど魅力を感じているものじゃないですね」

神「昨今の若者にしては珍しい意見だ。大抵の人は喜び勇んで新世界に行くものだが」

男「そりゃ昨今の若者ならそうでしょうとも」

神「まるで自分が若者じゃないような口ぶりだね」

男「俺、今年で三十四歳ですよ」

神「……」

男「目をそらさないでこっち見てください」


男「俺の世界でよく見る書籍のタイトルだと、有名なものにはよくニートや引きこもりってありますけれど」

神「うん」

男「俺、普通に働いてるんですよ。市民税や年金やら保険もちゃんと給与から差し引かれてますし」

神「まるで社会人みたいだね」

男「社会人そのものなんです」

神「転生先での君の属性や能力は『歯車(ギア)』とかどうかな」

男「なんでその能力をチョイスしたのかは、ぐっと堪えましょう、ええ、大人ですから」


男「まぁ、そんなわけでちゃんと地に足のついた生活をしていますから、この話はなかったことに」

神「君がそう言うなら仕方ないけれど、本当にいいのかい?」

男「何がですか?」

神「君はさ、今の生活に現状で満足している?」

男「うさんくさい宗教の勧誘が始まった」

神「神様そのものだっての。
  で、さ。改めて聞くけれど、本当にいいの?」

男「しつこいですよ」

神「君の今年の夏の賞与、言ってごらんよ」

男「……」

神「ほれほれ」

男「……119円」


神「ジュースすら買えない賞与って何さ」

男「……出ないよりはマシ」

神「飼い慣らされてるなぁ。じゃあ、先月の残業時間は?」

男「……八十三時間。先々月よりも四時間少ないから上出来だ」

神「朝の満員電車に乗って、疲労困憊で終電で帰宅する。一人暮らしだから出迎えてくれる人もいない」

男「……気楽でいいもんだよ」

神「徐々に君の地が出てきて嬉しい限りだよ。
  さらに頓挫するのが分かりきったプロジェクトのリーダーに選ばれるという貧乏くじも引いちゃうんだね、君って」

男「……前任者が途中で逃げ出したから仕方ない」

神「ちなみに前任者だけれど、いま異世界で美女ばかりのハーレムパーティを作ってるよ」

男「何ィッ!?」

神「ほれ、これがその写真」

男「お、おおおぉ……体中を駆け巡る、この負の感情は何なんだ……」

神「殺意だろうね」


神「昇給とは縁のない零細企業。楽しさや喜びもない日々。先行きの分からない未来に向けて、泥に沈むような生活」

男「……」

神「そういえば先日、君の初恋の子に二人目の赤ちゃん出来たってさ」

男「……お前ぜったい悪魔だろ」

神「神様だってば」


神「さて、もう一回だけ聞こうかな」

男「……」

神「君には世界を救ってもらいたんだけれど、異世界に行く気はあるかい?」

男「……たぃ」

神「ん?」

男「……きたぃ」

神「もっと大きな声で」

男「行ぎだい゛っっ!!!」

神「本音は!?」

男「働ぎたくないっ!!!」

神「よっしゃ! ようこそ、異世界の入口へ!」


神「ではでは、君の行く世界についてまず説明しておこうかな」

男「俺あんまり若くないんだから、トリッキーな仕組みとかは勘弁してほしいな……」

神「その辺りは大丈夫。もしかしたら君の知ってるゲームにもなっているかも知れないよ」

男「へ?」

神「君が向かう地とよく似た世界観を踏破した人が、後日その出来事をゲーム化してるんだ」

男「なんだそれ初耳だぞ」

神「そりゃ素面でそんな事言ってたら、白い壁まみれの病院から抜け出せなくなるだろ」

男「確かにな。で、そのゲームの名前は?」

神「ドラ○ンクエ○ト」

男「あかんテンション上がってしまいそうや」



神「この世界は日本で言うところの秋の季節だ。紅葉が年中舞い散るような、風情のある世界。
  ただ、この秋には実りがない。人々は蓄えのない生活をもう何十年と過ごしている」

男「過ごしやすい気候で何より」

神「そうなるのも、魔王が収穫を横取りするのが原因の三割だ。
  君にはその魔王を討伐する勇者として派遣されてもらう」

男「正社員から派遣社員か、まるで転職活動に失敗した人みたいだな……ん?」

神「どうしたの?」

男「原因の三割が魔王なんだろ? 残りの七割は一体なんだ?」

神「人々が三日に一回は収穫祭を行ってどんちゃん騒ぎをするからさ」

男「魔王倒したところで根本的な解決にならないだろそれ」


神「まぁまぁ、とりあえず行ってみればいいさ」

男「いやもう乗りかかった船だから行くけどさ。新天地に向かう勇者に餞別とかはないのかね?」

神「え、欲しいの?」

男「貰えるものなら頂戴したいわ」

神「君けっこう図太い性格してるんだねぇ……。いいよ、君にひとつギフトを授けよう」

男「ありがたや、ありがたや」

神「下記の三つから選んでね」


・洗濯用洗剤セット

・ビール350ml×24本

・コーヒーセット

・○大ハム、ビッグウインナー

・バスタオル12枚



男「ギフトってお中元的なアレかよ!?」



神「即物的な君の事だから食べ物系だろうと思ったら、まさかバスタオルを選ぶとはね」

男「小さなディスはさておいて、冒険とかには一番使いそうだからな。」

神「では、最後に君の名前を決めておこう」

男「え? 今の名前だと不味いのか?」

神「これから向かう世界では浮いてしまうだろうからね。世界観にあった名前を私がつけてあげよう」

男「よろしくお願いします」

神「一発決めでいい?」

男「ああ、なんでもいいぜ」

神「了解。変更したいときは私にまた会いにくればいいよ。そのときは俗にいう裏ダンジョンの最深部で待ってるからさ」

男「なんで神様が隠しボスなんだよ。つまり魔王討伐後じゃないと変えられないと」

神「では、君の名前はこれだ!」

男「おいちょっと待って、やっぱ考えなおs……」



“プレシオサウルス斎藤”



男「おいちょっと待て、待つんだ」


神「では、勇者なるプレシオサウルス斎藤よ」

男「いやこれどう考えても名前じゃなくてリングネームとか芸名だろ」

神「これから貴殿には、様々な艱難辛苦が待ち受けるだろう」

男「もう一回だけ名前をつけなおすチャンスとかないのか?」

神「だが安心するといい。同じ目的を目指す仲間と共に、支えあい、戦いぬくのだ」

男「ちくしょう急に事務的になりやがった!」

神「さぁ……新たなる地にて、伝説となるのだ」

男「だから名前の変更を……」

神「ゆくがいい、プレシオサウルス斎藤!!」

男「よっしゃ絶対に名前変更に行くからな! 覚えとけよ!!」


~~

 



~~


……なさい、おきなさい



「ん?」



……起きなさい、おきなさい



「誰かが呼んでる?」




起きなさい、私の可愛い、プレシオサウルス斎藤や



「意地でも起きたくないんですがそれは」


 


母「起きなさい、今日は貴方が王様に謁見をして、勇者となる日でしょう?」

男「あ、ああ。そうだったね」

母「まったく……何のために働きもしない引きこもりを二十年近く養ってきたと思ってるんだい」

男「新世界の方で引きこもり設定を付けられるのは予想外だわ」

母「ほれ、とっととお行き! 魔王を倒すまでアンタの帰る家は無いと思いなさい!」

男「ちょっと待って初っ端から辛辣すぎる」


【中略】


  男「さて、実際に謁見を済ませてみたら、街の酒場で仲間を募れと王様から言われたので来てみたけれど……」

  男「賑やかだなぁ……こんなのを三日に一度やってたら、そりゃ貯蓄なんてできる筈がないわ」

  男「とりあえず仲間募集の張り紙でもしておいて、ちょっと待ってみるか」

???「おい、貴様」

  男「ん?」

???「その手に持つ張り紙の内容……もしかして、勇者か?」

  男「ああ、そのつもりだが」

  男(さっそく仲間キター!!)


女騎士「もしよければ、私をパーティに入れてくれないか?」

  男「ああ、いいぜ。まだ誰一人もいなかったんで、それは願ったり叶ったりだ」

  男(うわ凄い美人さんだ。甲冑から見え隠れする浅黒い肌が、またエキゾチックを醸し出してるわ)

女騎士「そう言ってもらえるのは嬉しいな。では、宜しく頼むぞ」

  男「ああ、こちらこそ」

女騎士「私の名前は、スカラベール・カーメンムシーノ。気軽にスカラと呼んでくれ」

  男「ん?」


   男「……失礼だが、もう一度お名前を訊ねても宜しいかな?」

スカラ「スカラベール・カーメンムシーノだ。由緒正しいスカラベール家の末裔だから、勇者のパーティとして血統的にも問題はないぞ」

   男「そ、そうか! よろしく頼むぞ!」

   男(きっとこの世界ではこういう名前が普通なのか。
     あながち神様がつけた俺の名前も、苗字でいうところの佐藤さんクラスで浸透してるのかもな)

スカラ「ところで勇者よ、貴殿の名前は?」

   男「あ、ああ。プレシオサウルス斎藤だ」

スカラ「ん? リングネームか?」

   男「やっぱり変わった名前じゃねぇかチクショウ!」


スカラ「急に叫ぶとビックリするじゃないか」

   男「いやすまんな、自分の名前は苦手なもので……」

スカラ「なるほど、そういうことか。では今後は自分を勇者と名乗ればいいだけだろう」

 勇者「スカラ、君は天才なのかも知れないな」

スカラ「稀によく言われるぞ」

 勇者「どっちだよ」


スカラ「そもそも私は力ばかりが売りではないぞ? 鎧に身を包んではいるが、こう見えても知性派でな」

 勇者「ほほぅ」

スカラ「帝都ではくっころ学を専攻してきた」

 勇者「なにを学んだって?」

スカラ「くっころ学」

 勇者「どういう学問なんだよそれ……」

スカラ「心身の苦痛を快楽に転換する事を目的とした学問だな」

 勇者「それっぽく言ってるけれどロクなもんじゃない学術なのは分かった」

スカラ「何故だ!? 由緒正しい心理学の一つで、禁欲的な騎士たちの間では盛んな学問なのだぞ!?」

 勇者「いやもう禁欲的とか謳いながら、快楽目的とか素直に言うてますやん……」


 勇者「はぁ……仲間第一号にしては心もとないが、改めて宜しく頼むよ」

スカラ「ああ、大船を乗り継ぐつもりで頼ってくれ」

 勇者「なんで途中脱落フラグを立てたんだ」



スカラ「ちなみに勇者よ、酒場の奥でゆるりと飲んでいる人物がいるだろう?」

 勇者「どれどれ? おお、本当だ。えらく顔立ちの整った男が見えるな。
    一人で飲んでいるのはワケありか?」

スカラ「あれはこの街で一番の魔術師だ。強さが突出しているので釣り合うものがおらず、いつもああして飲んでいる」

 勇者「ほほぅ、スカウトには持って来いだな」

スカラ「と思う」

 勇者「適当すぎませんかね……」

スカラ「いや、だが街一番の魔術師なのは本当さ。試しに声でもかけてみたらどうだ」

 勇者「まぁダメで元々だからな。ちょっと聞いてみるわ」


 勇者「あの、すみません」

魔術師「何か?」

 勇者「貴方がこの街で一番の魔法使いと聞いたもので。もし宜しければ私のパーティに加入しませんか?」

魔術師「ほぅ、勇者様ですか! いいでしょう、魔術の神髄を世界に知らしめるチャンスを待っておりました!」

 勇者(えらくあっさり参入してくれたな。まぁ有り難い限りだが)


魔術師「おっと失礼。まだ名乗っていませんでしたね。
    私の名前は、ショッタスキーデ・ローリモイイネ・ペルドフェリアン。紳士です」

 勇者「前世でどんだけ地蔵を蹴り倒せばそういう名前で生まれてこれるんですか?」

魔術師「ちなみに酒場の皆さんからは愛称でペドと呼ばれております」

 勇者「蔑称以外の何物でもないわ」



スカラ「首尾はどうだ?」

 勇者「仲間になってくれたよ」

スカラ「喜ばしいことなのに浮かない顔立ちだな」

 勇者「いやまぁ、ちょっとね……」

スカラ「ところでプレシオサウルス斎藤」

 勇者「フルネームは勘弁してください」

スカラ「貴様の後ろに誰かずっと立っているようなのだが」

 勇者「ん?」

 ??「…………」

 勇者「うおビックリした!?」


 僧侶「あ、あの! ずっと話が聞こえてきちゃって……。 
    わ、私を仲間に入れてもらえませんか?回復呪文とか色々補助ができるので、居れば何かと便利かなと思います!」

 勇者「そうですね。 つかぬことをお聞きしますが、お名前は何と言うのですか?」

 僧侶「私の名前はアルトリス・コーディアル。アルトって呼んでください」

 勇者(ようやくまともな名前の仲間が出来そうだ……)

 勇者「うん、喜んで。貴方の参入を歓迎するよ、アルト!」

 僧侶「あ、ありがとうございます!勇者様!」


 僧侶「ちなみに勇者様のお名前は何というのですか?」

 勇者「俺の名前はプレシオサウルス斎藤って言います」

 僧侶「凄く変な名前ですね」

 勇者「君ちょっとコミュ障の香りがするね」


 勇者「改めて、この世界を救う予定の勇者です。呪文に関しては疎いので、ご指導ご鞭撻をよしなに」

 僧侶「は、はい! 主に回復呪文のンホラメを使えますので、どうぞ宜しくお願いします!」

 勇者「なんて?」

 僧侶「え? ですので、回復呪文のンホラメを……」

 勇者「ゴメンさっきの加入の話は速やかに忘れて」

 僧侶「手の平大回転!? あんなに快く承諾をして頂いたのに!
    も、もしかして中級呪文のンホゥラァメェを覚えていなければいけないのですか!?」

 勇者「おい待ってくれ! この世界の回復呪文はそんな魔法しかないのか!?」

 僧侶「わ、私が知る一般常識ではンホラメを代表に、派生魔法の回復呪文がいくつか……」

 勇者「例えば?」

 僧侶「中級呪文のンホゥラァメェ、上級呪文のソッコハラァメェ
    活性化魔法のクヤシビクン、全体効果だとクヤシビクンビクン、とかですね」

 勇者「ありがとう。俺は意地でも怪我だけはせずに己が力で戦うと決めたよ」




こうして、魔王討伐を目的としている勇者のパーティが誕生した。

聖ドメスティックバイオレンス酒場を後にしたプレシオサウルス斎藤たち。

待ち受ける様々な試練はのちに伝承(サーガ)となるだろう。

闘将(たたかえ)、プレシオサウルス斎藤。

魔王バブミスト・ハハスキーを倒すその日まで……!



 勇者「ツッコミが渋滞してるぞオイ」



スカラ「ところで勇者よ」

 勇者「なんだね?」

スカラ「魔王を討伐したら、報奨がもらえるだろう」

 勇者「ああ、らしいな」

スカラ「貴様は何を望むのだ?」

 勇者「そうだな……隠しダンジョンに挑むための武具を調達してもらうよ」

スカラ「ほぅ、更に強き者との出会いを求めるか。まさかの武人気質があるとはな」

 勇者「いや、そんな大仰なもんじゃない」

スカラ「?」

 勇者「俺は只この旅で……」



 勇者「名前を変えたいだけなんだ」




―― END ――

外出するので、小休止。帰宅後に安価を取らせて頂きます。

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