北条加蓮「藍子さんと」高森藍子「7月25日のカフェテラスで」 (37)

――おしゃれなカフェ――

北条加蓮「あ、店員さん。オレンジジュースありがとー。はい、藍子の分」

高森藍子「ありがとうございます、加蓮ちゃん。あっ、もちろん店員さんも!」

加蓮「うん、また何かあったら呼ぶね。……さてと」

加蓮「はい藍子。藍子の誕生日に乾杯っ」

藍子「乾杯♪」

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――まえがき――

レンアイカフェテラスシリーズ第30話です。
以下の作品の続編です。こちらを読んでいただけると、さらに楽しんでいただける……筈です。

・北条加蓮「藍子と」高森藍子「カフェテラスで」
・高森藍子「加蓮ちゃんと」北条加蓮「カフェテラスで」
・高森藍子「加蓮ちゃんと」北条加蓮「膝の上で」
・北条加蓮「藍子と」高森藍子「最初にカフェで会った時のこと」

~中略~

・高森藍子「加蓮ちゃんの」北条加蓮「膝の上に」
・高森藍子「加蓮ちゃんと」北条加蓮「夏景色のカフェで」
・「北条加蓮と高森藍子が、静かなカフェテラスで」
・高森藍子「加蓮ちゃんと」北条加蓮「風鈴のあるカフェテラスで」

加蓮「…………」ゴクゴク

藍子「…………♪」ゴク

加蓮「ふうっ。……大人っぽくやってみてもオレンジジュースなんだよね。微妙にカッコつかないなぁ」

藍子「ごくごく……。私たち、まだ子どもですから」

加蓮「これで藍子が年上かぁ」

藍子「1ヶ月半だけ、私の方が加蓮ちゃんより年上ですね」

加蓮「9月5日までは藍子さんって呼ばないといけないかな?」

藍子「うーん……」

加蓮「藍子さん、口元にジュースがついてます」フキフキ

藍子「ひゃっ。……ふふ、くすぐったいですっ。ありがとうございます、加蓮ちゃん――ううん、違いますよね」

藍子「ありがとう、加蓮ちゃ――加蓮っ」

加蓮「はいしゅーりょー!」ガタッ

藍子「わ!?」

加蓮「しゅーりょー! 終わり! この話は終わり! 何も無かった! 私達は何も話していない!」

藍子「か、加蓮ちゃん? 急にいったい――」

加蓮「だいたい誕生日なんてただ歳を重ねるだけの日なんだよそれをおめでとうおめでとうって馬鹿の一つ覚えじゃないんだか――」

藍子「落ち着いてください!? 何が何だか分かりませんけれど……加蓮ちゃん、深呼吸! 深呼吸しましょう! ほら、誕生日のことを好きになれない加蓮ちゃんは昔の加蓮ちゃんですっ今の加蓮ちゃんは大丈夫なハズです! ……たぶん!」

加蓮「すぅー、はぁー……」

加蓮「…………」

加蓮「……いやほら、ちょっと頭をやられちゃって」

藍子「よかった、いつもの加蓮ちゃんだ……。頭をって、もしかして暑かったですか?」

加蓮「んーん。大丈夫大丈夫。そんなんじゃなくて……私の頭がおかしくなった原因は」

藍子「げ、原因は……?」

加蓮「アンタだ!」

藍子「私!?」

加蓮「あのね藍子。年上が年下を呼ぶならちゃん付けでいいでしょ」

藍子「……、……年下が年上を呼ぶ時は?」

加蓮「今、藍子が頭に誰を浮かべたかは後でじっくり問い詰めてあげる。とにかく、別に年下を呼ぶのに呼び捨てをする必要はないし、敬語をやめる必要だってないでしょうが」

藍子「やっぱり駄目ですか?」

加蓮「駄目。それは駄目」

藍子「……1ヶ月半くらい頑張れば、慣れることができるかも?」

加蓮「慣れる前に私の気力がぜんぶ吸い取られるから駄目」

藍子「むぅ。残念」

藍子「……うーん。私の方が年上なんですよね。加蓮……ちゃん」

加蓮「普通に呼んで。マジで。……藍子の方が年上なんだよねー」

藍子「実感、ぜんぜん湧かないです……」

加蓮「あれだけ誕生日おめでとうって言われて?」

藍子「誕生日だって実感はあります。自分の年齢が増えたことも。でも、加蓮ちゃんの1つ上になっちゃったっていうのが、どうしても……」

加蓮「それこそ私が藍子を"藍子さん"って呼び続けてさ。1ヶ月半もあれば慣れるんじゃない?」

藍子「1ヶ月半経ったら、また私たちは同い年ですっ」

加蓮「だよねー」

藍子「今日も、いつも通りなんです。加蓮ちゃんはここにいてくれて、私に……いじわるなこともいっぱい言いますけれど、いろんなお話をしてくれて、いろんなお話に付き合ってくれる」

藍子「でも……いつもより距離が遠いんです。もっと近づきたいのに……」

加蓮「ちょっと意識し過ぎかもね。たかが1つ差だし、たかが1ヶ月半だけの出来事なんだよ」

藍子「うーん……」

加蓮「ほら、藍子なら逆に考えられるでしょ? どうせ1ヶ月半したら終わっちゃうことなら、その間にできることをやっちゃおう! みたいにさ」

藍子「…………ふふっ、そうかも? 加蓮ちゃんに前向きな考え方を教えてもらっちゃいました」

加蓮「ってことで、何かやりたいことはある? ほらほら、どうせ誕生日なんだし言っちゃえ言っちゃえ。明日になったら加蓮ちゃんの気が変わっちゃうかもよ?」

藍子「大変っ。じゃあ急いで考えますね! ……うーん…………」

加蓮「急いで、ねぇ……。……ん~~~」ノビ

加蓮「メニューでも見て気長に待ってよっと。ふんふん、見覚えのないメニューは――」

藍子「!」ピコーン

加蓮「あれ? 早いね。もう思いついたの?」

藍子「はいっ。加蓮ちゃん。年下の人は、年上の人に甘えることができるんです。ううん、甘えないといけないんです!」

加蓮「……そうだっけ?」

藍子「本当のことはどっちでもいいんです。何か、きっかけがあれば……そうすれば加蓮ちゃん、踏み込むことができますよね」

藍子「だから、これから加蓮ちゃんの誕生日が来るまで――ううんっ。今日はいっぱい、私に甘えてください♪」

加蓮「…………」

藍子「ねっ」

加蓮「…………」

藍子「…………ね?」

加蓮「あ、自信なくした」

藍子「うぅ……無言でじーって見られたら、その、さっき、ちょっと燃え上がったような気がする心が……急にしぼんじゃって」

加蓮「それじゃまだまだだよ。私に甘えてほしければ、もっと強くなりたまえ」

藍子「はーい。がんばりますね……」

加蓮「うむうむ」

藍子「……ってそういうお話ではなくて! いつも意地を張っちゃう加蓮ちゃんへの、逆プレゼントですっ」

加蓮「逆プレゼント?」

藍子「私は、皆さんに色々な物をいっぱいもらいましたから。今度は、私から幸せのお裾分けです」

加蓮「藍子はホント、律儀っていうか優しいっていうか……。誰にでも甘い態度を見せてると、いつかころっと騙されちゃうよ?」

藍子「あうぅ。その時は加蓮ちゃん、私を守ってくださ――違います、今は私が年上だから私が加蓮ちゃんを守るんです!」

加蓮「迷走してるー」

藍子「と、とにかく私のことはいいんです」

藍子「加蓮ちゃん。……ううん、無理にとは言いません。加蓮ちゃんのこと、分かっているつもりですから」

藍子「いつも言えないことや、意地を張っちゃって隠しちゃう本音があるなら……ほら、今だけは。1ヶ月半だけは、私が年上ですから」

藍子「年下の人が、年上の人に甘えるなんて当たり前のことです。また同い年になっちゃって、できなくなっちゃうなら……今、言ってみるのはどうでしょうか」

藍子「誰にもぶつけられないことがあるなら……」

加蓮「…………」

加蓮「…………綺麗な目をしてるんだね、藍子」

藍子「目……?」

加蓮「てっきり思いつきかって思った。ほら、藍子って……アレだし」

藍子「……アレ、って?」

加蓮「何かはっきり言おうとしたら、いつの間にか何が言いたいのか分かんなくなっちゃうこととかあるし」

藍子「それは確かにありますけれど……」

加蓮「でも今日は綺麗な目で……いつものんびりしてて、へにゃってなってんのが藍子なのに。やる時にはってヤツ? すごいね、藍子は」

藍子「それくらい頑張らなきゃ、加蓮ちゃんのこころには届かないって分かってますから」

加蓮「……で? 誰にもぶつけられないことを言え、かぁ」

藍子「今の私はお姉ちゃんですから♪」

加蓮「間違えなく妹の方がしっかりする姉だよね」

藍子「……うぅ。確かに加蓮ちゃんの方がしっかりしていますけれど、そんなにはっきり言わなくたっていいじゃないですか」

加蓮「いいじゃん、ちょっと頼りない姉がいるから妹がしっかりするってよく言うし。それにさ、頼りないけど優しい姉の方が、少しは頼れるけど冷血な妹よりずっといいと思うよ?」

藍子「加蓮ちゃんだってとっても優しいのに」

加蓮「お姉ちゃんが優しいから、いつも抱え込んでばっかりの妹が抱え込まずに済むんだよ。自分の中で溜め込んでばっかりになって、爆発を起こしたりなんてしないの」

加蓮「藍子。…………ええと、その……改めて言うのもアレだけどさ、うん」

藍子「ふふっ、何ですか?」

加蓮「……………………」

藍子「加蓮ちゃん?」

加蓮「あー……じゃない、そうじゃない。そうじゃなくて……ああもう、意地を張らないって藍子は簡単に言うけど難しいんだよこれすっごく! 私、昔からずっとこういう生き方してるもん!」

藍子「はい、知っていますよ」

加蓮「アイドルになってからはさ、意地張った方が正解だってなったこともあるし!」

藍子「そういう時の加蓮ちゃん、本当にすごいですよね」

加蓮「今更、年齢がどうとかお姉ちゃんと妹がどうとかロールプレイだか台本合わせだかやっても難しいんだって!」

藍子「加蓮ちゃん、落ち着いてください。ほら、ちゃんと聞いていますから」

加蓮「ああもうっ。その……だからほら、改めて!」

加蓮「いつもありがと、藍子っ。私に付き合ってくれてっ」

藍子「……はいっ」

加蓮「…………はぁ。疲れた」ツップセ

藍子「よしよし」ナデナデ

加蓮「もー……」

□ ■ □ ■ □


藍子「何度もお礼を言っちゃって、スタッフさんやモバP(以下「P」)さんに笑われちゃうこともあるんです。何度も言わなくても分かる、なんて」

藍子「でもやっぱり、私、思ったことは何度でも言いたいなって。加蓮ちゃんを好きって言う時もそうですけれど、たいせつなことは何度だって言うって決めているんです。相手に、ちゃんと伝えられるように」

藍子「……きいていますか?」

加蓮「聞いてる~……。よいしょ、っと」カラダオコス

加蓮「藍子の言いたいことも分かるんだけどさ。私はやっぱり、そういうのって何度も言うのは好きじゃないんだ」

加蓮「上っ面っぽくなるっていうか、薄っぺらくなるっていうか。誰にでも言えることばっかり言って優しいフリするばっかりの人とか、たくさん知ってるし」

加蓮「藍子だって最初は――って、思い出してみたら藍子は最初からそんなことなかったんだっけ」

藍子「そう、だったかな……? よく覚えていませんけれど、そういえば加蓮ちゃん、初めてここで会った時もそんな感じだったような……」

加蓮「どんな感じだった?」

藍子「私のことをぜんぜん信じられないって顔をしてて、どうしてなんだろう、って。加蓮ちゃん、初めて会うタイプでしたから」

加蓮「かなぁ。私もよく覚えてないや」

加蓮「正直言っていい?」

藍子「ふふっ、いつもは言えないことでも今なら何でも聞きますっ」

加蓮「そんなこと言ってたね、さっき。藍子とさ……カフェで話す前はね、ぶっちゃけ印象がそこまでよくなかった」

藍子「…………え?」

加蓮「なんていうか、とりあえず八方美人にしとけばよくて、肝心なところではしっかりPさんの側をキープしてたりしてさ」

加蓮「すぐにそうでもなくなったし、そもそも藍子のことよく知らなかっただけなんだけど……」

加蓮「もし優しいフリをされても絶対に無視してやるって、うっすらとだけど。考えてたよーな覚えがあるの」

藍子「そうですか……。私、昔の加蓮ちゃんに嫌われていたんですね」

加蓮「嫌っていたっていうんじゃなくて、なんていうか……昔の話ってだけだし……」

藍子「……ごめんなさい。そういうつもりじゃなくて……」

加蓮「……その……ごめん。言うべきことじゃなかったね、これ」

藍子「…………」

加蓮「…………」

藍子「…………」

加蓮「…………」

藍子「…………」

加蓮「…………」

藍子「…………」

加蓮「…………」

加蓮「……ねえ」

藍子「あ、はいっ。何ですか?」

加蓮「あのさ……。…………いや、なんでもない。言わない方がいいことだし、やめと――」

藍子「……、言いにくいことでも何でも――」

加蓮「それ」

藍子「え?」


加蓮「できないんだったら、最初から言うなっての」

藍子「え……」

加蓮「いつも言えないこととか意地を張ってて見えてない本音とかってアンタ言うけどさ。意地っ張りな人間から意地を取り外したら残るのはぜんぶ綺麗な物だって思ってんの?」

加蓮「馬鹿じゃないの。人間、そんな綺麗な訳ないじゃん」

加蓮「もしそう思ってなかったとして、受け止めきれないなら最初から受け止めようとしないでよ」

加蓮「人間、いろんな隠し事をしてて、誰にも話したくないことを抱えて生きてるんだよ。それは曝け出さなくても生きていけること。誰かが受け止めようとする必要もないんだよ」

加蓮「それでも受け止めたいって思うんだったら……できないなら、最初からしようとしないで。優しいフリをして手を差し伸べて、ちょっと手が痛かったからって、引っ張られたからってパッと離すのはやめてよ」

加蓮「……できないとか、やろうともしないとか。その癖に言うだけの人間って……ホント、心から大っ嫌い」

藍子「…………!」

加蓮「…………」

藍子「…………」

加蓮「…………」

藍子「……ごめんなさい」

加蓮「――――!」

藍子「…………」

加蓮「……こっちこそ……何度も……ごめん。ちょっと頭に血が昇りすぎた」

加蓮「いつも藍子に助けてもらってるのにね、私……。いつもありがとうって言いそびれてるの私の方だし、私が勝手に言ってるだけなのに」

藍子「そんなことないですっ。悪いのは私で――」

加蓮「…………」

藍子「…………」

加蓮「…………」

藍子「…………私……」

加蓮「ん?」

藍子「私も、言ってもいいですか?」

加蓮「うん」

藍子「私……やっぱり、加蓮ちゃんの年上なのは嫌です」

加蓮「うん――は? いや……嫌、って言われても……誕生日を迎えちゃったんだし」

藍子「そうじゃなくてっ。その……私の方こそ勝手でごめんなさい! ただ、年上っぽく受け止めるって思っても、よく分からなくて……」

藍子「加蓮ちゃんの為に頑張ろうって思っても、加蓮ちゃんの言葉にショックを受けちゃって、そうしたら加蓮ちゃんを傷つけていました」

藍子「私、それなら同い年でいいです」

藍子「同い年がいいです」

藍子「どっちが上とか、どっちが年下とか、そうじゃなくてっ。あ……加蓮ちゃんの方が、いつも年上って感じはしちゃいますけれど」

藍子「……上手く説明できないけれど……私は、あなたと同じ目線のところにいたいんです。それだけは、間違いなくて……」

加蓮「…………」

藍子「加蓮ちゃん。勝手でごめんなさい。さっきの……加蓮ちゃんの言葉を、1ヶ月半だけ1つ上として受け止めるっていうの、無しにさせてください」

藍子「…………あ、でも! でも、言いにくいことを言ってほしいっていうのは今も本当で、何かきっかけがあるなら起こした方がって!」

藍子「きっと……そのきっかけを間違えたんです、私」

加蓮「…………」

加蓮「……うん、分かった」

藍子「はい……」

加蓮「慣れないことを無理にしても、誰も幸せにならないよね」

藍子「そんなことない筈なのに……今までは、そんなことなかった筈なんです。頑張ったら最後にちゃんと上手くできたんです、でも――」

加蓮「……藍子ってさ、ホント、どこまでも独りよがりにならないよね」

藍子「ひとりよがり……?」

加蓮「上手くいかなかったけど自分のしたいことはやった、次こそは上手くいくからまたチャレンジしよう! なんて、ふざけたこと言うタイミングだったんだよ? 今のって」

加蓮「なのに藍子は――」

加蓮「……いいや。私の方こそ何が言いたいのか分からなくなっちゃった。うーん、ほら、藍子は変わってるなぁっていうか……強いなぁ」

加蓮「私なんて」

加蓮「……って言ったら、藍子、怒るんだっけ」

藍子「……はい」

加蓮「駄目だ、今ちょっと頭の中ぐっちゃぐちゃ……私、何が言いたくて、どうしたいんだろ……。間違っても藍子を泣かせたいなんて絶対思ってないのに……」

藍子「ゆっくり探しましょう、加蓮ちゃん。探しものが見つかった時って、とっても嬉しくなりますから」

加蓮「……気が向いた時にでも探そっか。藍子と一緒に」

藍子「その時は、見守るだけじゃなくて……加蓮ちゃんの隣に並んで、一緒に探してあげたいです」

藍子「……うん。私、見守るんじゃなくて、一緒にいたいんです!」

加蓮「ん。そうだね、私もそれがいいな。でも……そっか。……あははっ」

藍子「?」

加蓮「ねえ藍子。馬鹿なこと言っていい? っていうか言わせて」

加蓮「私達、誕生日が同じだったらよかったのにね」

藍子「誕生日が、同じ……?」

加蓮「そしたらほら、どっちが年上でどっちが年下とかややこしいこと考えなくて済むし、ずっと同い年でいられるでしょ?」

藍子「……本当ですっ。そうしたら、私の悩みなんてなくなっちゃいますよね」

加蓮「まー私が早死にしちゃって藍子がどんどん年上になっちゃうってパターンも、」

藍子「もしそうなったら私も後を追いますから心配しないでください」

加蓮「えー。……何を言ってるの高森さん! 天国の加蓮ちゃんはそんなこと望んでないわ!」

藍子「あ、また始まった。――ごほんっ。あっ、あなたに何が分かるんですか! 加蓮ちゃんはずっと私と一緒にいたんです。独りぼっちになんてさせないっ!!」

加蓮「…………」

藍子「…………」

加蓮「駄目だ、案外望んでたりする可能性ある」

藍子「加蓮ちゃんってそういうの詳しそうですよね。…………目を輝かせないでください……」

加蓮「私のことを何が分かるんだって言われるのって複雑だね」

藍子「お芝居ですからっ」

加蓮「ま、その辺は冗談でさ。もしもそうだったら、っていうのは所詮もしもの話。藍子は悩んじゃったし私は傷つけちゃった。現実から目を逸らしちゃ駄目なんだよね」

加蓮「でも……あーあ。自分で言ってアレなんだけどさ、もし誕生日が同じだったらって思うと心があったかくなるんだ。すごく」

藍子「……少し寂しいですね。加蓮ちゃんがせっかく喜べることを見つけたのに、どんなに手を伸ばしても届かないなんて……」

加蓮「空想の世界は所詮、空想の世界。……半端に叶うって分かってると余計辛いね。夢の叶う世界でも、もしもは叶わない」

藍子「後悔しなくちゃいけない時だって、あるんですよね」

加蓮「うん」

加蓮「……終わろっか。この話」

藍子「終わりにしちゃいましょうっ」

加蓮「とりあえず、同い年ってことで」

藍子「はい。私、そっちの方がいいです」

藍子「ふふっ。ねえ加蓮ちゃん。"もしも"のお話は逃げだけじゃないんですよ。空想を広げて、いっぱい想像して、それはとっても楽しいことなんです」

藍子「何の結果にならなくてもいいじゃないですか! 楽しいだけの時間、もっといっぱい過ごしましょうっ」

加蓮「結果に目を向けすぎてたかも。ほら、私って努力とか根性とかそーいうキャラじゃないんだ。結果があればいいの」

藍子「もうっ。それじゃ楽しめることが減っちゃいます」

加蓮「どーせ損する人生ですし。隣の藍子がいっぱい持ってきてくれるからいーよ」

藍子「私が!? ううっ、なんだかプレッシャー……」

□ ■ □ ■ □


加蓮「仕切り直しの、乾杯!」チン

藍子「乾杯、ですっ♪」チン

加蓮「…………」ゴクゴク

藍子「…………♪」ゴク

加蓮「ふうっ。……なんか……ホント、ごめんね? 藍子」

藍子「ごくごく……。ううん、加蓮ちゃん。……あっ、そうだ」

藍子「私、加蓮ちゃんを許してあげます。だって私、お姉ちゃんですから♪」

加蓮「同い年がいいって言ったのアンタでしょうがっ」ベチ

藍子「あたっ」イタイ

藍子「やりませんけれど、やるんです」

加蓮「なにそれ?」ゴクゴク

加蓮「…………」ゴクゴク

加蓮「はーっ。……久々にやっちゃったなぁ。なんでよりによって今日に――」

藍子「加蓮ちゃんっ。……もうっ。これでも飲んで元気になってください!」ガバッ

加蓮「うぎゅっ」

加蓮「……いや同じオレンジジュースじゃん!」

藍子「そうですよ?」

加蓮「意味ないし!」

藍子「それがいいんです。意味がなくても、楽しいんですから♪」

加蓮「そーだね。あーあ。私の誕生日が来るまでずっと藍子のことを藍子さんって呼ぶ計画がパーになっちゃった」

藍子「あれ冗談じゃなかったんですか?」ゴク

加蓮「藍子が慌てふためいて、もうやめてって困った顔で言うところまで想像してたのに」

藍子「なんだか本当にありそうです……」

加蓮「なんでこんな話になったんだか。ホント、私って――」

藍子「…………」ジー

加蓮「……うん、藍子が悪い。藍子がぜんぶ悪い。余計なことするから」

藍子「! もうっ、加蓮ちゃんが変に考えちゃってたのが悪いんです!」

加蓮「いーや藍子のせいだ。藍子が馬鹿なことを言い出さなかったらこんなことにはならなかった」

藍子「加蓮ちゃんが普段から溜め込んでなければ、こんなことにはなっていませんでした!」

加蓮「だから人間誰にだって隠し事はあって曝け出すことは――」

藍子「でもたまにはぜんぶ見せちゃってもいいと思いますっ。ストレスを発散しなきゃいけないのと同じで、自分の中に抱えちゃってたら疲れちゃいます!」

加蓮「藍子が悪いっ」

藍子「加蓮ちゃんのせいです!」

加蓮「…………」

藍子「…………」

加蓮「そだね、私が悪い」

藍子「はい、私が悪かったです」

加蓮「やっぱこう、藍子とは一緒にいたいんだ。私」

藍子「私もです。もし傷ついちゃうなら、どっちかが見ているだけなんじゃなくて……」

加蓮「一蓮托生ってヤツなのかな。もちろん傷つかないのが良いんだけどさ」

藍子「傷つくなら一緒に傷つきましょう。見ているだけなんて嫌ですから」

加蓮「全身針だらけだよ?」

藍子「傷つかないやり方より、一緒に傷ついてもいいやり方が……加蓮ちゃんを見ていると、その方がいいって思うんです、私」

加蓮「…………」

藍子「加蓮ちゃんが優しいってことは知っていますけれど、それじゃ加蓮ちゃんが傷ついちゃうばっかりだから」ゴク

加蓮「……だから傷つかないのが一番なんだってば。ホント、私ってなんでこう――」

藍子「本当ですよ。なんで加蓮ちゃんはいっつもそうなんですか」

加蓮「ちょっ、……いやだからそれは人の本音のところに土足で入り込んできた藍子が」

藍子「加蓮ちゃんが考えすぎなんですっ。それに、嫌だと思われていたって知ったら誰だって傷つきますよ! ……そうです、やっぱり加蓮ちゃんが悪いんです!」

加蓮「いやいや、藍子がおかしいんだよ。私だって何もなければあんな話してないよ? 藍子が中途半端に受け止めるーとか何でも言ってーとかできもしないことを言うんだから」

藍子「…………」

加蓮「…………」

加蓮「……そろそろ馬鹿馬鹿しくなってきたからやめない?」

藍子「ふふっ。加蓮ちゃん、あんまり思い詰めすぎないでくださいね」

加蓮「はーい」

藍子「私も加蓮ちゃんも、悪かったんです。加蓮ちゃんだけが悪いんじゃないですよ?」

加蓮「分かってるってば」

藍子「自分が悪いって言いはっちゃ駄目です。そういう時は、私が悪いって言ってあげますから」

加蓮「藍子、そういうの慣れてないでしょ」

藍子「それは……勢いでなんとかします!」

加蓮「勢い!?」

藍子「……今日は加蓮ちゃんの家でお泊りですっ」

加蓮「見張ってないと気が済まないの?」

藍子「だって加蓮ちゃん、嘘つきですもん」

加蓮「嘘なんてついてないし」

藍子「私、加蓮ちゃんの嘘と冗談って見分けがつかないんです」

加蓮「それこそ藍子の嘘じゃん!」

藍子「もしかしたら加蓮ちゃん、私に隠れてこっそり傷ついているかもしれません……ううんっ、加蓮ちゃんはきっとそうです。いつも私に隠してばっかりで、何もお話してくれなくて」

加蓮「それはっ……まぁ、そういうこともあるけど」

藍子「だからお話してほしいって言ったのに、加蓮ちゃん、変な方にお話を進めちゃうから」

加蓮「あーっ! そうやってまた私を悪いって言うつもりだ! だから藍子ができもしないことを言ったのが悪いんだって!」

藍子「…………」

加蓮「…………」

藍子「……ふふっ」

加蓮「あははっ」

加蓮「もーいいってば」

藍子「はーい。今日は加蓮ちゃんをぎゅーって抱きしめて眠ることにしますね」

加蓮「そこは変わらないんだ……。ま、いっか。誕生日なんだし、藍子がやりたいっていうならしょうがないなぁ」

藍子「じゃあ今度は、加蓮ちゃんへのお返しを考えなきゃ」

加蓮「気が早いよ。あ、そうだ。プレゼント。どーぞ」

藍子「ありがとうございますっ。小箱……ですか?」

加蓮「開けてみてー」

藍子「はいっ」パカッ

藍子「わぁ……! これ、綺麗な風鈴……! あれ? 加蓮ちゃん、風鈴を事務所に飾るってお話……」

加蓮「2つ見つけたんだ。倉庫を探して1つ見つけて、お母さんに何してるのって聞かれて話したらさ、お母さんにもらっちゃった」

加蓮「それ、お母さんにもらった方。もう使わないって言うし……その風鈴、夜空みたいな綺麗な色だけど、私は静かな夜空より明るい青空の方が好きだもん」

加蓮「だからそれ、藍子にあげる」

藍子「加蓮ちゃん……! 大切に部屋に飾りますね! どんな音を奏でてくれるかな……♪ ふふっ、聞く度に加蓮ちゃんのことを思い出しちゃいそうですっ」

加蓮「ん。あと……さっきは傷つけちゃったから、追加でもう1つ」

加蓮「――ごほんっ」スワリナオス

加蓮「藍子。あの……さっきも言ったけど……いつもありがとね。ちょっと……その、色々と、だけど。私、藍子といる時間が本当に大好きだから……」

加蓮「ありがとう。藍子」

藍子「……はいっ。加蓮ちゃん」

藍子「もし、傷つくことがあっても……私の方が1つ年上になっちゃいましたけれど、私は、あなたと同じ高さにいますから」

加蓮「……ありがと」

藍子「はいっ」



おしまい。
読んでいただき、ありがとうございました。

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