『畜生門』 (3)

 ある日の暮方の事である。一人の巨人小笠原が、畜生門の下で雨やみを待っていた。
なんやかんやで畜生門の楼に上ったカッスは、微かな女の匂いから人の気配を感じ、金玉のように足音をぬすんで、やっと急な梯子を、一番上の段まで這うようにして上りつめた。そうして体を出来るだけ平にしながら、竿を出来るだけ前へ出して、恐る恐る、楼の内を覗いて見た。
 見ると、楼の内には、噂に聞いた通り、幾つかの死骸が、無造作に棄ててあるが、火の光の及ぶ範囲が、思ったより狭いので、数は幾つともわからない。ただ、おぼろげながら、知れるのは、その中に裸の死骸と、着物を着た死骸とがあるという事である。
勿論、中には女も男もまじっているらしい。カッスは若い女の死骸を強姦、射精すると、楼の奥で死骸の中にうずくまっている人間を見た。檜皮色の着物を着た、背の低い、痩せた、白髪頭の、猿のような老婆である。
その老婆は、右の手に火をともした松の木片を持って、その死骸の一つの顔を覗きこむように眺めていた。髪の毛の長い所を見ると、多分女の死骸であろう。
すると老婆は、松の木片を、床板の間に挿して、それから、今まで眺めていた死骸の首に両手をかけると、丁度、猿の親が猿の子の虱をとるように、その長い髪の毛を一本ずつ抜きはじめた。髪は手に従って抜けるらしい。
 その髪の毛が、一本ずつ抜けるのに従って、カッスの心からは、恐怖が少しずつ消えて行った。そうして、それと同時に、この老婆に対するはげしい性欲が、少しずつ動いて来た。
カッスは、すばやく老婆の着物を剥ぎとると、押し倒して強姦。「(死骸に手を出しちゃ)いかんでしょ」と老婆に魂の教育射精。絶頂したカッスは、剥ぎとった檜皮色の着物をわきにかかえて、またたく間に急な梯子を夜の底へかけ下りて死亡した。
大生義巨人軍の原監督は、「死体蹴りばっかりの猿がうちにもいるね。」と非難した。
なお次の物語には間に合う模様。

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