【艦殺(艦これ×忍殺)】ガール・フー・イズント・ボーイ・アウェイクン (455)

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【KANMUSLAYER】

【キルゾーン・ミッドナイトチンジフ】

(これまでのあらすじ:ネオサイタマ・チンジフの手練れ、ナカ=チャンは4-3でくしくも大爆発四散した。しかしセンダイたちは、姉妹の大爆発四散と引き換えに、4-3を辛くも攻略したのであった。)

草木も眠るウシミツ・アワー、ここは東京湾の中心部に浮かぶ『ネオサイタマ・チンジフ』。時折サーチライトが行き来するが、深まる闇が海を支配している。あたりを包むのは静寂だけである。

前線基地めいた様相のネオサイタマ・チンジフ内部に視点を移してみよう。本日は夜戦が行われず、業務は終了している。司令室で死んだマグロの目をしながら雑務処理を行っているクローン妖精たちを除けば施設内を往来する艦娘は極めて少ない。

しかしネオサイタマ・チンジフ地下にある小料亭、「故郷」は極めて賑やかしい。店内にはカウンター、テーブルがいくつかあるが、そのすべては業務を終え、つかの間の休息を楽しむ艦娘たちが多く集まっている。彼女たち艦娘はチンジフの戦士だ、しかし戦うことばかりが戦士の仕事ではない。このチンジフの提督は皆にそう言ったことがある。

暗黒メガチンジフ・シンカイセイカンヤとのイクサのつかの間、彼女たちは与えられし休息を楽しむ権利があるのだ。「ナチは今ごろどうしているのかしら。心配だわ」「ナチ姉さんもそうだけど、ハグロ……気弱なあの子も無事だといいけど」「うあ~…つっっっかれたねオオイっち!最近はバトルバトルバトル!戦ってばっかだわ」「本当にそうねぇ。ところでキタカミ=サン?今ここで公開前後しませんか?」

互いに談笑する者、この店のおかみ、ホウショウが作る小料理に舌鼓をうつ者、サケを飲み交わす者、ここはこのチンジフの艦娘たちの憩いの場であった。しかし!「ザッケンナコラーでち!労働基準法守れコラーでち!」酔った艦娘たちが片隅のテーブルで愚痴を言いながらサケをガブ飲みしている。ノミカイ・インシデントで日々の不満を爆発させている厄介な潜水艦娘たちだ!

「まったくその通りなの!ホウショウ=サン!おかわりちょうだいなの!」「アハトアハト!提督に一発食らわせたいです!」「やだやだやだ!仕事したくない!やだやだやだ!」ヒートアップする彼女たちをなだめるように、おかみのホウショウがオシボリを持って歩み寄ってきた。「こらこら、提督=サンの悪口を言っちゃだめよ?お仕事ご苦労さま」

だがこの部隊の旗艦であるゴーヤは熱さまやらぬ様子だ。「提督が何だオラーでち!燃料?弾薬?補給が必要?それはチンジフの都合でちッ!ゴーヤは明日もオリョクル!提督を訴えるでち!」「うーん…ちょっと酔い覚ましが必要かしら?」次の瞬間、ホウショウが手に持ったオシボリを掲げた。「はいオシボリですよ。イヤーッ!」ゴーヤの顔面に実際熱いオシボリを押し当てる!

「グワーッ!」ゴーヤは熱さのあまり、椅子ごと後ろに倒れた。酔いが冷める!「アイエエエ過剰サービスなの!」「はいイク=サンにも。イヤーッ!」「グワーッ!」「は、ハッチャンは酔いが覚めました!」「はいハッチャン=サンにも。イヤーッ!」「グワーッ!」「ごめんなさ」「はいシオイ=サンにも。イヤーッ!」「グワーッ!」

ワザマエ!なんたる迅速かつ平和的なホウショウの手腕!ネオサイタマ・チンジフを陽ながら、陰ながら支えてきた彼女に逆らえる者はこのチンジフにはいないのである。「そろそろお休みしたら?お水置いておくわね」悶絶する潜水艦娘たちを、ホウショウはにこやかに後にする。しかし彼女はピタリと止まり、何かの気配を感じとったように顔を上げた。

「ホウショウ=サーン!……ホウショウ=サン?「…あっ、ごめんね。ぼうっとしちゃって」ホウショウは我に返ったように言った。「どうしたんですか?」ホウショウは何か思うところがあるようなそぶりを見せたが、かぶりを振る。「いいえ、大丈夫よ。ちょっと何だか嫌な予感がした……それだけだから」



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「見 ィ ~ ~ ~ ~ つ け に ゃ あ ♪」



同時刻、基地の外側中間ブロックに位置する場所でネズミを見つけた猫めいて目を光らせたのは、軽巡洋艦娘のタマである。鋭いかぎ爪を、不幸にも捕まってしまった警備クローン妖精に突きつけている。泣き叫ぶクローン妖精!「あいええええ!たすけて!」「ジゴクにようこそ!今からあなたの服を剥いで壁に吊るすにゃ。いい感じだにゃ!」

ナムサン!?今、何と言ったのか?服を剥いで吊るすと?なぜ彼女は艦娘なのにも関わらず、このような非道を行おうとしているのか。それはタマの制服型装束に刻まれた2文字のカンジ、「凶」「都」を見れば分かる!彼女はネオサイタマの艦娘ではない、かつてネオサイタマ・チンジフと肩を並べ、現在ではセイカンヤとキョウリョク・カンケイにある「キョート・チンジフ」の刺客であるからだ!

【KANMUSLAYER】

(親愛なる読者の皆さんへ : このSSのニュービーの方々には「なんだこのSSは!?艦これではないのか!?ニンジャスレイヤーでもないのか!?」とこんらんしてるかとおもいます。それは正しいことだなあ。続きます。以上です)

◆ぼうとうでどうしてもナカ=チャンをばくはつさせたかったので前スレは後で貼りますのだなあ。更新な◆

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【KANMUSLAYER】

同時刻、基地の外側中間ブロックに位置する場所で、ネズミを見つけた猫めいて目を光らせたのは、軽巡洋艦娘のタマである。鋭いかぎ爪を、不幸にも捕まってしまった警備クローン妖精に突きつけている。泣き叫ぶクローン妖精!「あいええええ!たすけて!」「ジゴクにようこそ!今からあなたの服を剥いで壁に吊るすにゃ。きっといい感じだにゃあ!」

ナムサン!?今、何と言ったのか?服を剥いで吊るすと?なぜ彼女は艦娘なのにも関わらず、このような非道を行おうとしているのか。それはタマの制服型装束に刻まれた2文字のカンジ、「凶」「都」を見れば分かる!彼女はネオサイタマの艦娘ではなく、かつてネオサイタマ・チンジフと肩を並べ、現在ではセイカンヤとキョウリョク・カンケイにある「キョート・チンジフ」の刺客であるからだ!

「ちょっとまってよー」彼女の背後から気だるげな声が聞こえた。タマはクローン妖精の頬をつねりながら、首をそらし声の主を振り返る。そこには隠密活動用のサイバーサングラスをかけた少女が立っていた。制服型装束を着ている。つまり、彼女も艦娘だ。タマは不満げに目を細めた。「何にゃ?早く剥ぎ取りたいにゃ!」

「別にやっちゃっていいよ。面白そうだし」黒髪パッツンヘアの艦娘がにやけて言った。「弱い者イジメもいいけどさ、任務を忘れないでよ?」「……にゃははぁー」タマが笑った。「分かってるにゃハツユキ=サン!このネオサイタマ・チンジフの重要施設に爆弾をしかけてドカン!分かってるにゃ」

「もうこのあたりには警備がないみたいだし」サイバーサングラスに緑のUNIXライトが脈打った。「生体反応はなし、あたしたちを除けばね」ナムサン…!今回二人に課せられているのは爆破ミッションである。業務を終了したタイミングを見計らい、侵入し爆弾を仕掛け、施設を破壊するつもりなのだ!

「でもちょっとその前に遊んでからにゃ」タマは目をネコめいてキラリと光らせ、クローン妖精の頬を引っ張った。「あいえええ!いたい!」「にゃははははーっ!弱い者イジメはスカッとするにゃ!弱いのは自分が悪いのにゃ。自分の弱さを呪うのだにゃ!」「同感だ」「そうだにゃ!ハツユキ=サンもそう思……え?」

ハツユキではない声の主が、タマの後頭部をマンリキめいた力で掴んだ。「イヤーッ!」「グワーッ!?」そのままタマの顔面を海面に叩きつけ、立ち上がる!「タマ=サン!?どうしちゃったの!?」別の方向を見ていたハツユキは狼狽えた。仁王立ちする存在、赤黒い装束を見に纏い、首にはマフラーめいた装飾、顔の半分を覆うメンポ(注釈 : 面頬のこと)には恐怖を煽る書体で「憲」「兵」とレリーフされている。

「ドーモ」その艦娘、軽巡洋艦娘はハツユキにオジギし、名乗った。「センダイです」確定的殺意の籠った目がハツユキを捉える!「ア……アイエエエエエ!?ニンジャ!ニンジャナンデ!?」ハツユキは急性ニンジャ・リアリティ・ショックを起こし失禁!ナムアミダブツ、彼女に宿るカンムスソウルが、正体不明のニンジャという存在を無意識に恐れたのだ!

「アイサツせよ」「アイエエエ!アイエーエエエ!」ハツユキの混乱状態から、アイサツが返ってこないと判断したセンダイは容赦なく仕掛けた!ハッと我に返ったハツユキは身を守ろうとした。遅い!センダイはすでにワン・インチ距離!「イヤーッ!」「グワーッ!」センダイの右正拳がハツユキに突き刺さる!

ハツユキは苦悶!そしてさらなる追撃!「イヤーッ!」センダイは左正拳突きをハツユキに叩き込む!「グワーッ!」「イヤーッ!」センダイはハツユキに右正拳突きを叩き込む!「グワーッ!」ハツユキは内股になりながら数歩下がった。サイバーサングラスがスパークし、火花が散った。「アバッ……ひど、すぎ…容赦、なさすぎ……」

「敵艦!殺すべし!」センダイは両手をしならせた。すると………なんたるフシギか!血中のカラテとボーキ成分を触媒に、一瞬にしてゼロセンを作り出したのだ!「イヤーッ!」同時に投擲された二機のゼロセンはグロッキー状態のハツユキの顔面に直撃!「グワーッ!倒れ伏せたハツユキは一瞬にして大爆発四散した!「サヨナラ!」

「なんにゃ……なんなのにゃあなた!?」その様子を唖然と見ているしかなかったタマが震えながら言った。「このチンジフの憲兵だ。アイサツせよ」タマは震えながらアイサツを返す。「ド………ドーモ。センダイ=サン。タマだにゃ」イクサに臨む艦娘にとってアイサツは絶対不可侵の行為、アイサツされたら返さねばならない。古事記にもそう書かれている。白目を剥き、気絶したハツユキを背に、センダイがタマに迫った。

タマは後ずさった。「何をするつもりなのにゃ!?」「大破させる」センダイは即答した。「ナンデ!?」タマは叫んだ。「オヌシが敵だからだ」センダイは再び即答した。「にゃ……にゃめろォーッ!」タマは恐怖の叫びと共に、常人の3倍の脚力でネコめいて飛びかかった。「イヤーッ!」両手のカギ爪で斬りかかろうとする!

「イヤーッ!」センダイは空中のタマを素早くゼロセンで撃墜した。「グワーッ!」なす術もなく海面に叩きつけられるタマ!その前に立ちふさがったセンダイが頭上にチョップを構えた。「ハイクを詠むがいい、タマ=サン」恐怖と絶望にとらわれたタマは咄嗟にハイクなど詠めなかった。彼女はただ震えた。「こ、こんなのおかしいにゃ!運営からのお知らせにも書いてない」「イヤーッ!」「グワーッ!」

脳天にチョップが振り下ろされる!「サヨにゃら!」タマはそのまま大爆発四散した。その後に残ったのは再びの静寂。センダイはしばしザンシンし、この場に立ち尽くした。意識を失い大破した2名、驚愕で腰が抜けたクローン妖精、立ち尽くすセンダイ、その頭上に輝くのは月の光。この数分にも満たぬイクサを見届けた月が、「インガオホー」とでも言いたげなように雲に隠れ、光が消えた。

【キルゾーン・ミッドナイトチンジフ】終わり

◆艦娘が出て殺す!ツイッター小説ニンジャスレイヤーとブラウザゲーム艦隊これくしょんのカラテ相乗作用小説!なお作者はほんやくチームや運営とはまったく関係なく、偶然ここにきて更新していますのでごあんしんください。隔週の不定期更新。~基本夜な~◆

①ウェルカムトゥ・ネオサイタマ・チンジフ
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②ラスト・クチクカン・ガール・スタンディング
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③アトロオーシャン・イン・ネオサイタマオーシャン
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④ブレードカンムス・ヴェイカント・ヴェンジェンス
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◆Warning!: コラボライズに当たって、一部、忍殺原作の文の改変も含まれております。なお「ウワッ嫁艦がサンシタになった」「ウワッ嫁艦が変態になった」「ウワッ嫁艦が大爆発四散した」とか思われても一切の責任がとれませんのでごりょうしょうください◆

◆①②③が上手く貼れなかったので作者は早速ケジメしました。貼り直し重点◆
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◆実際これはダイレクト・マーケティング・ジツなのでごあんしんください。更新は今週中な◆

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【ガール・フー・イズント・ボーイ・アウェイクン】

ネオサイタマ・チンジフとキョート・チンジフの大規模交戦勃発の数時間前、キョート・チンジフ、グランドマスター・トネの居室にて。

チクマが盆を下げながらうやうやしくオジギした。「それではムサシ=サンにウンリュウ=サン、ごゆっくり」チクマはチンジフ内で最も礼儀作法に精通している艦娘である。ニュービー艦娘たちに礼儀指導をしているのもチクマだ。彼女はトネの妹であった。

「おう、遠慮なくくつろがせてもらうぞ!ここは相変わらず居心地がよい」「チクマ=サンの淹れたお茶、おいしい」そう言ったのはトネと同じくグランドマスター位階であるムサシとウンリュウである。チンジフ最高位階が3人が集まっている事は定例会議や定例集会以外には極めて稀、そしてこの部屋のヌシであるトネはしかめつらでオチョコにいれたラムネを煽っている。

「ふん、こ奴らをもてなすなぞ勿体無い……別に茶なんか出さなくてもよいのじゃ!」不機嫌そうなトネを見ると、チクマがすかさずたしなめた。「もう……そんなこと言って。私がいない時に二人に慰めてもらったんでしょ?少しくらいお返ししなくちゃ」「な、慰め…!ないない!断じてないのじゃ!ワs…吾輩は泣いてるところをこ奴らに地下のバーで慰められたなど決して!」

「はいはい、お二人とも、私がいない間に姉さんがお世話になりました」チクマが再び二人に向かってオジギした。彼女はトネのことを日頃から人一倍心配している。「まー気にするな。昔はヘマこいて落ち込んだこいつをよく二人で慰めたもんじゃ、懐かしいのぉ」「トネ=サン、なきむしだもんね」「もぉ~!!チクマ!早く出て行って欲しいのじゃ!もー!」これ以上昔の恥ずかしい事を喋られてはたまらない、トネはぐいぐいとチクマを押して追い出そうとする。

「仕方ないんだから~…あと姉さん?ラムネ飲みすぎちゃダメよ?このあと集まりがあるんでしょ。お腹壊しちゃうからね」「分かってるのじゃ!」「それではお二人ともシツレイします。改めてゆっくりしていってくださいね」チクマは丁寧な動作でフスマを閉め、居室を出ていった。その様子を仏頂面で見送るトネ。まるで思春期の学生めいたアトモスフィアである。

「お前なぁ…あんまりチクマ=サンに迷惑をかけるんじゃないぞ?」「チクマ=サンもたいへんだね」呆れ顔のムサシにウンリュウが追従する。それを聞いたトネは顔を真っ赤にしながらラムネをがぶ飲みする。「余計なお世話じゃ!ムサシ=サン……いや!ムサシにウンリュウ!お前らに恩ができたなぞと思っておらんからな!ふん!」

「おう?呼び捨てされるのは久方ぶりだの、ますます昔を思い出すわい」懐かしむようなムサシに対し、ウンリュウは怪訝な顔だ。「サン付けやめちゃうの?グランドマスターになった時に『これからは上に立つ者として礼儀もしっかりとするのじゃ。サン付けしないと怒るからな!』って言ってなかった?」「お前らに礼儀良くするのが馬鹿らしくなっただけぞ!その茶が飲み終わったらとっとと出ていくのじゃ、ふん!」トネ、ムサシ、ウンリュウはチンジフ発足からの古参であり、共に研鑽を積んだ仲だ。昔はお互いを呼び捨てする程親密であった。

「まあそう硬い事を言うな!ところで、今回の作戦はネオサイタマの彼奴等から奪った各地の前線基地の防衛…これであっとるかの?」「うん」「何を今更…我らの所有しているものを下郎共から守る!それだけぞ」「違う!そこじゃない!ワシは不満なんじゃ!」ムサシは不満そうにタタミに身体を投げ出した。サラシを巻いた豊満な褐色の胸が、重力に逆らいつつ大きく揺れる。その様子を見たトネは青筋を立てながら、さらにラムネをがぶ飲みした。

「このところ全くイクサに出ていない!身体がなまって仕方がないのう……トネ、お前は出撃したよな?ズルいぞ!」そんな不満顔のムサシを見たトネは呆れたようにため息をついた。「なにがズルいじゃ、グランドマスターたる者は常に部下たちの動きを上から見下ろし使役するのが当然。自らイクサに出るなどそうそう無いわ」「そこじゃ!そこが不満なんじゃワシは!エラくなったから何だ?心躍るイクサができんならエラくなった意味がない!出世するんじゃなかったわ!」

「はん!そんな事を言いながらガンガン手柄を立ててしまうから出世するのじゃ。うっとうしいイクサ馬鹿め」「イクサ馬鹿……確かにそうだなワシは」「納得しとるんでないわ!」トネとムサシのコントめいたやり取りを見つめるウンリュウ、彼女たちは昔からこういう関係であった。そして、見つめていたウンリュウも口を開いた。「でもトネ=サン?じゃあなんで出撃したの?それこそ部下のみんなだけでよかったのに」

その言葉を聞いたトネはすかさず苦虫を噛み潰したような顔になる。タイホウに怒られた記憶が蘇ったからだ。「あれは……吾輩自らで手柄を立てる事でロードの信頼を勝ち取るつもりだったのじゃ!それがなんであんなことに……くそう!カガ=サンの奴め!次に会ったらただじゃおかんぞ!」トネは何杯めか分からぬラムネを煽った。あのイクサは実際勝ちはしたが損失が大きすぎた。しかもロードを泣かせてしまい、信頼どころか嫌われてしまったかもしれない。

「ロードの信頼ねえ、そーいうのはイセ=サンに聞いたらどうだ?あやつなら色々と知ってそうじゃし」「イセ=サンはロードのお世話係だもんね」戦艦イセ、ロードの側近はタイホウであるが身の回りの世話を担当しているのが彼女、イセである。優しく面倒見のよいイセが、ロードはたいそうお気に入りらしい。「イセ=サンじゃと…?」「ウン、だってさっきもここに来る前に見たもん。えっと…」

『ワーイ!イセ!アソボ!』『それではイセ=サン、後はお願いします』タイホウの横から駆け寄ってきた小さなロードを抱え上げたイセはニッコリと笑う。屈託のない笑顔だ。『任せておいて!さーて、何して遊ぼうか?』『ナンデモイイヨ!タイホウハアソンデクレナイシ、オモチャカッテクレナイカラキライ!アソンデクレルイセハダイスキ!』『……では、私はシツレイします』『だ、ダメだよ!タイホウ=サンだって一生懸命やってくれてるんだから!ね?』口調は落ち着いているが、顔面を真っ赤にして去っていくタイホウを、イセは困ったような笑顔で見送った。

「……っていう風に」「ふん!単なる女中のような立場で信頼を得てどうするのじゃ!吾輩は組織という構造の中での信頼を得たいのじゃ、出世組からはずれたイセ=サンと一緒にするでないわ」しかし、その言葉に反応したのかムサシが身を起こしてトネに目を向けた。「トネ、お前イセ=サンとやりあった事はないのか?」「……吾輩はむやみやたらな模擬戦はせん。お前といっしょにするな」それを聞いたムサシはニッと笑った。「ないのか、知らないだろう?強いぞ、イセ=サンは」

「何じゃと…?」トネはラムネを飲む手を止め、少し驚いたような顔した。ウンリュウも同じだ。イクサオニと呼ばれるほどの壮絶な実力者のムサシが、他人を手放しで『強い』などと評する事はそうそうないことだからだ。「詳しいことは言わんがな、あのワザマエでなぜ世話役に甘んじているのか分からん。いざという時のロードの護衛、というなら納得できなくもないが」「へー」「……強いから何じゃ、地位も強さも気品も備わった吾輩には勝てんのじゃ!」

「気品ねえ……確かにその胸は平坦で奥ゆかしいが」胸を反らして威張るトネにムサシの小声は届いていない。「そうだ、それともう一つ聞きたいこともあったんだ」ウンリュウは思い出したように顔を上げ、言った。「もう一つ?何だ?」「もうそろそろ集合する時間じゃ、要件があるならとっとと済ませい」「ウン、二人は覚えてる?いつ私たちがグランドマスターっていう役職に出世したのを」

その問いを投げかけられた瞬間、今までとどまることなく喋り続けていた二人が沈黙する。そして、やや不自然な間を置いて、口を開いたのはトネだった。「……あまり覚えておらん。だがしかし、一番最初にグランドマスターの盃を受けたのはこのトネだったぞ!」「順番なんかどーでもいいじゃろうが、そういえば覚えていないモンじゃの。地位に興味などなかったが……はて」「2人とも覚えてないんだね?私もそうなの」

ウンリュウは淡々と言葉を続ける。「何か他の事を忘れてるって訳じゃない。『いつ』だったか思い出せないの、それだけなんだけど、不思議だと思わない?」ウンリュウの意味深な言葉に、2人は首を傾げた。「確かにそうだが別にどうでもよいことじゃろ。日付くらい誰でも忘れるもんじゃ」「ふん、何をまた取り留めもないことを…………ハッ!?」だが次の瞬間!トネが何かを思い立ったかのように立ち上がった。思わず目を向けるムサシとウンリュウ!「ムッ?どうした、何か思い出したのか?」「そうなの?」

2人の問いに答えないトネは、突如として中腰になり、腹部に手を当てた奇妙な姿勢を取った。まさか、この構えはカラテミサイル発射の構えか!?「何だ!敵襲か!?」突如として殺気立ったムサシが、壁に掛けていたヘビ・タイケンの柄を握り、ウンリュウは無言でコウクウキを構えた!「………その、違う!吾輩はっ…!ちょっと用事ができたのじゃ……うぐっ!その、腹の……ぐはっ!?なのでちょっと……いかなければならぬから!」「は?」「え」ぽかんとした顔の2人を取り残し、トネは奇妙な姿勢のまま、手遅れになる前に居室を出て行った。

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◆今日な~◆

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ビスマルクはしばしレーベを見つめた後、静かに口を開いた。「今回の6月イベント……一部の提督は絶望し、クリアするのを諦めた」部下の艦娘たちがさらに叫んだ。「その心は!」……禅問答だ!ビスマルクは未だレーベを見つめている。

「ハ…ハイッ!」レーベ(なお彼女はくれぐれも女性である)は背をぴんと張って返事した。「空襲システムとラスダンで道中E以外のマスが全強化される理不尽仕様だったからです!」「バカ!」ビスマルクはレーベの頬を平手で打った。「ンアーッ!」なお、これは禅問答であるため、答えの内容に関係なく、罵りと張り手は飛んでくる。

「素晴らしい!レーベ=サン、ブッダも貴方を見ています。これからもさらに励みなさい」「うう……アリガトウゴザイマス!」涙目になりながらも、駆逐艦娘レーベレヒト・マース、通称レーベは健気にオジギした。ここはグランドマスター・ビスマルクの室内カテドラル、本日も早朝から朝礼が行われている。

チェス盤めいて等間隔に並ぶレーベを含めた部下の艦娘たちの前に立つビスマルク、彼女は歩き回るのを止め、レーベを目を細めて見つめている。緊張するレーベはごくりと唾をのんだ。「時にレーベ=サン、本日貴方は始めて実戦に出ると聞きましたが?」「は、ハイ。今までは偵察任務や遠征だけだったんですが……」レーベは先日アプレンティス位階からアデプト位階になったばかりの新米だ。今回の駐屯基地防衛作戦が、始めての本格的なイクサである。

ビスマルクは柔らかなアルカイックスマイルを浮かべているが、その心情は窺い知れない。しかしそのアトモスフィアは間違いなく強者のそれである。「不安なのですか?」しばし沈黙していたビスマルクはおもむろに口を開いた。見抜かれている、レーベはびくりと震え、何を言うべきか言葉を選んだ。何か間違えればまた平手打ちされてしまうかもしれないからだ。

「その……あの……ボクは」言い淀むレーベ(なお彼女はくれぐれも女性である)、しかしビスマルクは咎めなかった。「不安なのですね。仕方のないことです、誰しもが通った道です。私もそうでした」そこでアルカイックスマイルから一転、引き締まった表情になる。「だが私たちにはロードのご加護があります、なので恐れる必要はありません」ビスマルクが目配せすると「その心は!」再び部下の艦娘が叫ぶ!ナムサン!また禅問答だ!

「ハイ!」言い淀むレーベに対し、ケイサク・メイスを持って、不用意に動いてしまった部下を殴打する役割をしていた艦娘プリンツ・オイゲン、通称プリンツが勢いよく挙手した。プリンツはビスマルクの最も忠実な部下であり、ビスマルクを「姉さま」と呼び敬愛し、常にそばにいる艦娘だ。

「はい、プリンツ=サン」ビスマルクがプリンツを刺した。「私たちにとってロードはほとんどブッダ。ゆえにロードのご加護はブッダのご加護だからです!」「バカ!」ビスマルクはプリンツの頬を平手で打った。「ンアーッ!」なお、これは禅問答であるため、答えの内容に関係なく、罵りと張り手は飛んでくる。

しかしビスマルクは涙目のプリンツをすかさず抱きかかえ、優しく囁きかけた。「プリンツ=サン……まさにその通り。流石ね、今日の夜は私の寝室に来なさい」「ああ姉さま、プリンツはとても幸せです…!」艦娘同士の顔が近い、ブディズムにおいて異性同士のむやみな恋愛は控えるべきだといわれている。なので同性同士なら何も問題はないのだ。

「分かりましたね?レーベ=サン」「え?あ、ハイ!」ビスマルクが再びレーベに向き直る。他の艦娘たちと、その様子を何とも言えぬ表情で見ていたレーベは慌てて背筋を伸ばした。「私たちはロードの拳であり、なおかつブッダの千の拳の一つ一つなのです。なのでレーベ=サン、貴方はブッダの拳として、敵を殴りなさい」ビスマルクは敬虔なブディストとして、レーベの上官として、有無を言わせぬアトモスフィアでそう言った。

【KANMUSLAYER】

(親愛なる読者のみなさんへ : 作者が夏休みメントへと突入した。更新速度を高めていきたいのでどうぞよろしくお願いしますのだなあ。以上です)

◆今日な~◆

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さらに数時間後、レーベは海の上にいた。ここはアサクサ海、ネオサイタマ第12駐屯基地……以前はそう呼ばれていた、今はキョートのものだ。奪還した矢先に凄惨なる全裸ケジメ事件が起きたことは記憶に新しい。そしてブキミな静けさが支配するこの海域には、辺りを視界を遮るように白い霧がたちこめている。

(((ふぅ…ふぅ…)))レーベは不安を押し消すように先ほどから息を整えている。初めての実戦だ、何があるか分からない。押し寄せる不安感を中々拭うことができず、レーベは落ち着かないように辺りを見回している。すると「オイ、レーベ=サンきょろきょろすんな!みっともねぇぞ?」一喝するかのような声で、レーベは小さく飛び上がってしまった。

「わっ!?は、ハイ!ゴメンナサイ!」慌ててペコペコ頭を下げるレーベをその艦娘、ジュンヨウは呆れたように見やった。「ケッ、敵どもがここまでくる確率は低いからッてこんなヒヨッコと一緒に組まされるとはな」ジュンヨウは肩に担いだ鉄塊めいた巨大メイスを一振りし、吸っていたBKTタバコを握りつぶして消した。「そんなナヨナヨしてて敵の暴力に耐えられんのか?あ?」

赤く燃えるように尖った髪、豊満な胸にサラシを巻き、片方の肩を剥き出しにし、装束の背中側に刻まれたオスモウ書体の「健」「康」の威圧的な2文字、闘争心溢れる瞳、まさに暴力を全身で体現しているかのような、キョート・シテンノのひとりであるマスター艦娘の佇まいに、レーベはただ小さくなるばかりだ。

「まあまあまあ……ジュンヨウ=サン、仕方ないよ。初めての実戦なんだから緊張して当然!だよね?」しかし縮こまるレーベと不満げなジュンヨウの間に、なだめるように1人の重巡洋艦娘が割り込んできた。「モガミ=サン…」ニコニコと快活に笑う、その艦娘モガミはレーベ肩をやさしくポンと叩く。彼女はこの海域の防衛を任された部隊の旗艦、彼女もマスター位階の艦娘である。

「センセイも私に言ったんだ、こほん…『まあ、初めてのときなら誰でもそうなるな』って、だから一緒にガンバロ!」「…はいっ!」白い霧に包まれたこの場所に咲いた一輪の向日葵のような笑顔は、たちどころにレーベの心を和らげた。「そうそう、その気持ちとっても分かるよ」「ファイトです!」同じ部隊のユラとフルタカも自分を元気づけてくれる。

「へっ、別にビビらせるつもりで言ったワケじゃねぇよ。ハッパかけたンだ、いけんのか?レーベ=サン」「が、がんばります!」「精々気張れや」そう言うとジュンヨウはレーベの方へ歩み寄ってきた。「それともう一つ、聞きたいことがある」「へ…?」目の前に立ったジュンヨウをレーベは訝しむように見た。聞きたい?何をだろうか?

「おめー本当に女なのか……よっ!」そう言ったジュンヨウは突然、レーベの股に腕を滑り込ませてきた!「ンアーッ!?」再び驚いて飛び上がるレーベ!「ち、ちょっとジュンヨウ=サン!なにしてんのさ!」慌ててモガミが止めに入る。もしジュンヨウではなくレーベの股に手を滑り込ませたのが提督だったら、憲兵が直ちにその股間にゼロセンを食らわせたであろう程のハラスメントである。しかし同性同士なのでハラスメントには当たらない。

「やっぱついてねえ…(男のは触ったことないから分からんが)女なんだな、おめー」「当たり前でしょ!」感触を確かめるかのように指を動かすジュンヨウをモガミがたしなめている。「ぼ、ボク……女の子ですよぅ」そして涙目で弱々しく抗議するレーベ。「艦娘なんだから女の子に決まってるじゃん!もー!」「触んなきゃわかんねえだろ!前から気になってたんだ、コイツが女なのか男なのかよー」

「どっからどう見ても女の子じゃん!」「そう言うおめーもだモガミ=サン!髪が短髪だからか男にも見える!そう思わねーかおめーら!?」ジュンヨウから話題を振られたユラとフルタカは困ったような笑みを浮かべるしかない。「失敬な!ボーイッシュって言ってよ、ボクだって女の子だもん!」「そのボクって一人称もだよ。紛らわしいッてんだよ、ハッキリしやがれ!」「んなこと言われても…」

めちゃくちゃな言い分のジュンヨウをなだめるように、次はユラが割って入ってきた。「まあまあそのへんにしましょうよジュンヨウ=サン。ところで、なんでいきなり男だ、女だって?」ユラの問いかけに、ジュンヨウは鼻白んだような表情になった。「え?あー……そうだな、レーベ=サンみてえな見た目の男をどっかで見たような」「男の人?キョートにはいないじゃないですか」歯切れの悪いジュンヨウの言葉に、フルタカが首を傾げる。

「わーってるよ、でもどっかで見た気がしたんだ……思い出せねーけど」「はいはい!どうせボクは女っ気ないですよーだ!センセイにも言われたことあるし慣れてるもん!」「おいおい、ヘソ曲げんなよ」一気に和やかになったアトモスフィアにレーベは胸を撫で下ろした。この張り詰めた空気が、自分を緊張させていたのかもしれない。上官のビスマルクの顔に泥は濡れない、急いだヒキャクがカロウシした、コトワザを通りにならないように落ち着いてやろう。

四方を見張るクローンヤクザ妖精たちが何かを見つけた様子もない、しばしの沈黙の後『…重点!通信重点な!』「ん…?タニカゼ=サンかな?」モガミの小型IRCに受信があったようだ。全員の目線がそちらに注目する、モガミの言った通り通信の相手はこの海域を交代で巡回警備していたタニカゼであろう。彼女は古代ローマカラテの油断ならぬ使い手である。

「モシモシ?タニカゼ=サン?どうしたの?」『……………』無言、タニカゼは何も言わない。モガミは首を傾げ、もう一度名前を呼んだ。「タニカゼ=サン…?」『……………敵しゅ、う…ヤバイの、が』そこから先は続かなかった。『……アバッ!サヨナラ!』大爆発四散音でかき消されたからだ!「タニカゼ=サン!?モシモシ!タニカゼ=サン!」モガミの呼びかけに応じる声はもうなかった。「タニカゼ=サンが、やられちゃった…!」モガミのその言葉を聞いた全員を衝撃が貫いた。タニカゼがやられた、つまり敵襲か!?

(((…………ッ!?)))次の瞬間、レーベは身体をびくりと震わせた。ユラもフルタカも同じだ、急に顔から冷や汗が噴き出した。なぜか?突然、周囲の気温が数度下がったように感じられた……その極寒の冷気めいたアトモスフィアがこの駐屯基地に迫ってくる、そうカンムス第六感が告げている。心臓の鼓動が早鐘を打つように加速する。怖い、そちらに目を向けられない。

しかしモガミとジュンヨウは、その主たちを見据えている。「まさか……!」「ヘッ、こんな端の方で、大物が釣れちまうとはなぁ!」レーベは荒い息を吐きながら、なんとかそちらの方へと目を向けた。白い霧の中から出でる3つの影、ゆっくりと、こちらに歩を進めてくる。その暗い圧力が、この場所を覆っていく。「………君たちの仲間は、すでに1人処罰した」影の中の1人が声を発した。喉元にカタナを突きつけられたような、ゾッとするアトモスフィアがレーベを苛む。

「アタイたちの提督のさぁ、領海をブン取ってくれるなんて大した度胸してるよなあ?いい覚悟だ」「司令官に迷惑をかける悪い子たちにはお仕置きが必要よねぇ?」それ続くように残りの2人が口を開いた。3つの影にかかった霧が薄らいでゆく、まるで、恐れているかのように。レーベはガチガチと奥歯を震わせた、コワイ、コワイ、コワイコワイコワイ、その場から一歩も動けない。

そして霧が薄れ、そこにいた3人の好戦的な眼差し、にこやかな眼差し、鋭い眼差し。それに共通するのは禍々しきキリングオーラ。そのうち、鋭い眼差しの黒髪の艦娘が一歩前に出た。モガミとジュンヨウは瞬時にカラテを構えた。しかしその艦娘は平然した様子で言葉を続けた。

「僕の名前はハツヅキ、聞いたところによると君たちは、ジツに操られているそうだね?」「アサシモだ」「キサラギで~す」続く2人も一歩前に出る。ドス黒いオーラが辺りを包む。「しかしそんなことは関係ない。ネオサイタマ・チンジフ、僕の提督に仇なすものに慈悲など必要ないからね。我らコロス・カンムスクラン、君たちに死を持って償ってもらうよ」ハツヅキと名乗った艦娘が背負ったカタナを引き抜く。空気が悲鳴を上げ、切り裂かれた。

【KANMUSLAYER】

◆明日な~◆

◆艦◆カンムス名鑑#73【軽巡洋艦タマ】キョート・チンジフ所属、トネ派閥のアデプト位階。ネコめいたすばやい身のこなしで潜入任務を行う艦娘。クローン妖精を見ると噛み付いたりネコパンチを食らわせたりいじめたりしたくなるらしい。姉がクマである◆艦◆

◆◆◆◆◆◆◆◆

【KANMUSLAYER】

レーベは身体の震えを押しとどめ、恐る恐る顔を上げた。立ち込める霧の中に立つ3人の艦娘。3人とも駆逐艦娘のようだ、つまり自分と同じ………いや、違う。全くもって違う。比べものにならない実力の差は一度見ただけでも分かる。グランドマスターの面々とはまた違った凄みがそう語っている。

「…3人とも、気をつけて!」その凄みに怯むレーベ、そしてフルタカとユラを庇うようにカラテを構えるモガミは前を向いたまま言った。「コロス・カンムスクランって、なんなんですか…!?」「私もあまり知らない、でも噂には聞いたことがあるんだ。表沙汰に出来ないような仕事を秘密裏にこなすそういう名前の暗部がネオサイタマ・チンジフにはあるって」ユラの問いにモガミが答える。

「へえ?アタイたちの事少しでも知ってんのか。狩ってきた奴らはことごとく大破させてきたからその中の誰かが覚えてたとは意外だな」アサシモが嘲るように言った。「でもシツレイしちゃう。表沙汰に出来ない仕事?キサラギたちは司令官のために働いてるだけなんだからぁ」キサラギは困ったような笑みを浮かべている。しかし目の奥は全く笑っていない。それがレーベの恐怖をさらに逆撫でした。

しかし余裕なアトモスフィアの2人に構わず、ハツヅキは得物を中段に構える。これは攻撃、防御ともにバランスのとれた隙のない構えのひとつである。「2人とも、余計な発言はしなくていい。今から破壊する対象とコミュニケーションを取っても無駄だ。速やかに殲滅するよ」「へいへい」「うふふ…キサラギ、司令官のために今回も頑張っちゃう!」2人もそれぞれの得物を構えた、キリングオーラが膨れ上がり、より一層空気の重みが増してゆく!

「モガミ=サン!分かってるよなあ!?」今にも飛びかからん勢いのジュンヨウが叫ぶ。「こんなバケモノどもに作戦考えるのは面倒くせえ!面倒は殺すに限る!つまり!」「うん!各個撃破!」モガミが答える!「その通りだ!行くぜ駆逐艦のガキども!何事も暴力で解決するのが一番だぜェーッ!ヒャッハー!!」猛然としたブースト加速でジュンヨウが単騎襲いかかる!その狙いはアサシモだ!

「3人とも!クローンヤクザ妖精さんたちとキサラギ=サンを包囲して!」モガミがたじろぐ3人に指示を飛ばす、思い立ったようにユラ、フルタカ、そしてレーベも各々の武器を構えた。ここはすでにイクサの場だ、相手がどうであろうと何もしなければただ大爆発四散するだけだ!「くれぐれも無理はしないで、私はハツヅキ=サンをなんとかする…!」

「了解しました!行こう、ユラ=サンにレーベ=サン!」「ええ!」「は、ハイッ!」3人はキサラギの立つ方へと展開する。「あらら、キサラギだけ3人がかりってちょっと卑怯じゃないかしら?」そう言いながらもキサラギはハツヅキの横から離れるように霧の中へと消えた、3人はそれを追う。ジュンヨウと切り結んだアサシモも霧の中へと撃ち合いながら消えてゆく、この場に残されたのはただ2人のみだ。

「イヤーッ!イヤーッ!イヤーッ!」「イヤーッ!イヤーッ!イヤーッ!」ジュンヨウは巨大な鋼鉄メイスをまるで棒切れを振るかのように滅多打ちする。なんたる恐るべきカンムス膂力!しかしそれに対しアサシモは、両手に持ったカッターめいた刃をもつ大ぶりなブレードで互角に撃ち合っている。なんたる駆逐艦娘らしからぬ腕力か!

「イヤーッ!そういやアイサツがまだだったな!アタシはジュンヨウだ、何事も暴力が一番!よろしくなイヤーッ!」「イヤーッ!暴力か!それにはアタイも概ね同意だぜ!イヤーッ!」2人が撃ち合うごとに火花が飛び散り、霧を跳ね除けていく。力比べは互角かに思えたがジュンヨウがやや押している。体格差による優位だ!

「オラオラァ!このまま押しつぶしてやんぜチビ助がよォ!」ジュンヨウはさらに殴打の勢いを高めてゆく、ただやたらめたらに撃っているわけではない、一撃一撃に込められし必殺の威力!「ケッ、面倒くせえ!付き合ってらんねぇぜ!」アサシモは頭上から振り下ろされたメイスを見据えた、しかしブレードを持つ手は動かすのを止めている!ナムサン!自殺行為か!?

しかし振り下ろされたメイスは突如間に割り込むようにせり出した鉄板に阻まれた!「アァッ!?なんだこりゃあ!」「見てわかんだろ!盾だよ盾!」見よ!アサシモの背中のカラテ艤装を!そこから伸びる4本の強靭なアームの先には分厚い四角形のシールドが装着されている!「しかもオマケつきだ、くらいやがれ!イヤーッ!」次の瞬間、シールドの表面から爆炎が噴き出しジュンヨウのメイスを跳ね除けた!「グワーッ!」爆炎を間近で食らい、ジュンヨウはたたらを踏む!

ナムアミダブツ!これはカラテ艤装を製造する企業のひとつ、グローバル・アーマメント社製の爆破反応装甲シールドだ!衝撃を衝撃で相殺するという極めて合理的な理念の元製造された防御カラテ艤装である!「クソ!邪魔くせえモン使いやがって!」ジュンヨウは姿勢を立て直す、胸に巻いたサラシが少々焼け焦げ、豊満な胸元が晒された。「デケー胸だな、羨ましいぜ?それがアタイにもありゃあ提督の魚雷を挟んでやれるのによー……ムカつくから今からアンタを炎でひん剥いてやるぜッ!」

その一方!そこからやや離れた場所でユラ、フルタカ、レーベの3人は怪しく嗤うキサラギを包囲していた。「ドーモ、私たちはキョート・チンジフ第6防衛部隊です」ユラが代表してアイサツを行う。「改めましてキサラギよ~、よろしくねお三方さん?」キサラギはスカートの端を持ち上げて奥ゆかしくオジギした。その右手に持った禍々しい形状の大鎌とは不釣り合い限りない。

「申し訳ないけれど容赦はできないわ。3人がかり、いや!多人数がかりでやらせてもらう!」「「「「りょうかい!ざっけんなこらー!」」」」招集した数十人のクローンヤクザ妖精がキサラギに向かってヤクザガンを構え、ユラはインテリオール・ユニオン社製のパルスキャノン、フルタカはアルドラル社製のツインサブマシンガンを差し向ける。レーベも緊張の面持ちで、駆逐艦娘の標準装備のカラテ連装砲をキサラギに向けた。完全包囲である。

「あーん!こわ~い!か弱い女の子にこんなに銃を向けるなんて!」キサラギはしおらしく振舞っている。レーベは訝しんだ、本当にこの人は強いのか?と。しかし、その疑念はすぐさま確信に変わった。「……でもねぇ?いくら雑魚が集まったところで、雑魚には変わりないのよぉ~?」笑顔のキサラギの背中の黒いカラテ艤装がバキバキと音を立て始めた、3人とクローンヤクザ妖精は絶句した。まるで別の生き物かのように蠢くそれは一本、そして一本と腕を伸ばしていく。

そして合計8本の黒いクローアーム伸ばし、まるでクモめいたシルエットとなったキサラギがそこにはいた。ナムサン…!禍々しき悪魔的存在へと変化!「一気に焼き払うわね?イヤーッ!」8本のクローアームの先端から、突如としてレーザー光線が照射される!「「あばーっ!?」」「「ぐわーっ!?」」哀れ射線上にいたクローンヤクザ妖精はなすすべもなく焼き払われ爆死!「「「イヤーッ!」」」3名は咄嗟にこれを回避!

ナムアミダブツ!これはカラテ艤装を製造する企業のひとつ、水ビット社製のこじまレーザーキャノンクローである!こじま粒子と呼ばれる健康に深刻な被害をもたらす物質をレーザー状にして照射することで対象を焼却するという、発想がラリっているとしかいえない理念の元製造された拠点制圧型カラテ艤装である!「あら残念!ハエしか落とせなかったわぁ。司令官に今度こそ可愛がってもらうためにもぉ~…今回の作戦は成功させなきゃならないのよぉ。だからせめてね?キサラギのこと忘れられなくなるようにしてあげる~…うふふ」

それぞれの場所で戦闘が始まった。そして2人の艦娘は対峙する、モガミ、そしてハツヅキは向かい合ったまま動かない。「カラテ、構えたままでゴメンナサイ。私はモガミ」モガミがアイサツする。片手に装備しているのは中型のコウブカンパンである。「知っているよ。モガミ=サン、君はヒュウガ=サンの弟子だったよな」ハツヅキは言った。「センセイを知っているの?」モガミは相手の出方を伺う。ウカツに仕掛ければ即、大爆発四散もありうる……そういう相手だと理解しているからだ。

「勿論だ、僕の提督の忌々し……尊敬には値する秘書艦。まったくもって妬ま……立派ではある艦娘だからな」ハツヅキは冷酷な目つきでモガミを見据える。付け入る隙を一切感じさせない。「そしてボクはヤヨイ=サンの弟子だ。つまり弟子同士の対決というわけだな」「そうみたいだね」ネオサイタマ・チンジフの英雄、ヤヨイの弟子。それだけでハツヅキのワザマエが自分と同じマスター位階、もしくはそれ以上であることをモガミは感じ取った。一筋の冷や汗がモガミの頬を伝う。

「つまり……だ。ボクたちは今からセンセイの名の下に戦うことになる。つまりボクが勝てば、ヒュウガ=サンよりもセンセイ…ヒュウガ=サンよりもボクが…ボクが提督にふさわしいということになるんだ」「うん、そうだね……ん?」モガミは頷きかけた、ハツヅキの様子がおかしい。顔を抑えて何かをブツブツと呟いている。「そうだ、そうに違いない……そもそもボクが一番提督を愛しているんだから、ボクが提督の一番側にいなければならないのに、なんでヒュウガ=サンなんだ?おかしいと思わないか…?」「え?そ、そう……なのかな?」

「だからおかしいんだ、こんな状況は許されない……許されないッ!」ハツヅキが突如として大声を上げる。その眼には並々ならぬ負の念が渦巻いている!コワイ!「そ、そんなことないと思うんだけどなー…」「決して全くもって…ヒュウガ=サンに恨みがある訳ではないが!ボクは今から君を叩き潰すことで提督への愛を証明する!コロス・カンムスクラン……いざ、参る!」ハツヅキは黒塗りのカタナ『提督Love Mk-3』をモガミの喉元に突きつけるように構え、全身から殺意を滾らせた!

【KANMUSLAYER】

◆ウシミツ・アワー更新になってしまって申し訳ありませんでした。それに加え艦娘たちの一人称にブレがあったのも申し訳ありませんでしたので作者はケジメしましたのでごあんしんください◆

◆艦◆カンムス名鑑#74【駆逐艦ハツユキ】キョート・チンジフ所属、グランドマスター・ローマ派閥の艦娘。敵の探知やセキュリティのハッキングが得意。普段からネットに入り浸っており常に寝不足。隠れフ・クランの艦娘であり、男同士の顔が近いのが好き◆艦◆

◆艦◆カンムス名鑑#75【軽巡洋艦ユラ】キョート・チンジフ所属、ウンリュウ派閥のアデプト艦娘。実弾ではなくエネルギー武装であるパルスライフルを使用する。性格は礼儀正しく奥ゆかしい。ネオサイタマには姉たちがいるが……◆艦◆

◆艦◆カンムス名鑑#76【重巡洋艦フルタカ】キョート・チンジフ所属、ムサシ派閥のアデプト艦娘。二丁のサブマシンガンによる近距離カラテに特化したスタイルは妹のカコのボックスカラテに通ずるものがある。ネオサイタマにいるカコを利用されているのだと信じ込み、助けたいと思っているが……◆艦◆

◆おそらく今日な◆

◆◆◆◆◆◆◆◆

【KANMUSLAYER】

駐屯基地奪還作戦開始前、出撃する艦娘たちのもとへと行く提督の足取りは重かった。今はヒュウガがそばにいない、彼女は司令室でオペレーター艦娘たちと最後のミーティングを行っているからだ。

出撃ドック内、控室の前で提督は足を止めた。ドアの開閉ボタンを押そうとした、だが手が止まる。「………やめとくか?」提督は独りごちた。しかしそれは彼のポリシーに反することだ、彼は出撃前の艦娘たちの『顔』を必ず見るようにしている。モニター越しでは何も意味がない。直接目を合わせ、表情、佇まい、その他のコンディションを見極めることが、作戦の成功、艦娘たちが無事帰還するために必要な事だと信じているからだ。

しかし、ならば提督にここまで躊躇させる要因とは何なのか?それは直接ここにくれば分かるであろう、ドアの向こうから立ち上る、禍々しきアトモスフィアを…!(((コイツらなら……面通しする必要もねえか、そうだな………いや、だが……)))

提督が立ち尽くしていた、その時!『開く、ドスエ』「!?」刹那!マイコ音声と共にドアが開き、開ききる前に提督の腕を何かが掴んだ!それは、部屋の中から伸びた小さな手!瞬く間に提督は部屋の中へと引き込まれた。『閉まる、ドスエ』間髪入れずドアが閉じられる!

室内に引き込まれた提督はたちまち3人の駆逐艦娘に囲まれた。すでにワン・インチ距離で包囲されているではないか!「来てくれたんだな。無論足音で分かったよ、君の歩幅だった」「遠慮なく入ってきてもいいんだぜ?たとえ着替え中でも遠慮なくなぁ」「すんすん…この匂い、司令官は汗をかいてるんですね。急いでキサラギに会いに来てくれたのね~?」

「どうやら……やる気十分みてーだな、4人とも」提督はつとめて冷静な口調で言った。動揺を悟られぬようにだ。普段ひとりひとりが迫ってくるなら簡単にあしらうことはできる、しかし3人同時に迫られたら不可能だ。今はヒュウガも、憲兵であるセンダイもすでにハツカゼと出撃していない。上目遣いにこちらを見つめる小柄な3人が、自分より遥かに大きく感じられるのは気のせいだろうか……

「もちろんだ。僕は君のためならなんだってできるさ、今ここで脱いでもいい」提督の胸板をさすりながら正面にいるハツヅキが言った。「だな。アタイも脱いでもいいぞ、だから提督も脱げホラ」提督の上着のボタンを外しながら、右側にいるアサシモが言った。「も~…2人とも?司令官が困っているでしょう!ふざけちゃダメよぉ?」提督の内ももを淫靡に触りながら左側にいるキサラギが言った。(段々上へと移動している)

(((ぐ……!)))提督は後ろ手でドアの開閉ボタンを探した。しかし、右手側にいるアサシモの手でボタンがある場所を阻まれている!ナムサン!脱出不可能!3人の吐息が荒くなってゆく、それに比例するように提督から血の気が引いてゆくではないか!

おお……ここで提督は脱がされた挙句、脱いだこの駆逐艦娘たちによって既成事実前後されてしまうのか!?それにつけても恐るべき3人のコンビネーション!まさに彼女たちのセンセイであるヤヨイの「獲物は囲んで叩きなさい」のインストラクションの体現である!

やがてハツヅキの手がシャツの中に侵入し、アサシモがボタンを外し終えてベルトに手がかかり、キサラギの手がボールブレイカーを食らわせられるほど上昇してきたところで……提督は諦めたように笑った。「ああ……そうだな、最後に俺がキアイをいれてやろう」「「「!!!」」」3人の目が一斉に輝いた。ナムサン!思考放棄か!?

「だからほら、顔を上げろ。1人づつ熱い奴をくれてやる」「何だって!?」「マジか!?」「やったぁ!!」3人が我先にと目をつぶって唇を近づけてくる。「慌てるな、まずはそうだな……アサシモ=サン、お前からしてやる」提督はアサシモの顎をくいと上げ、顔を近づけてゆく。アサシモはされるがまま、残りの2人は早くしろとでも言いたげにそれに注目している。このままでは彼は提督失格のちBAN確実である!運営よ寝ているのですか!?

しかし次の瞬間!『開く、ドスエ』提督の背中側のドアが突如として開く!「「「シマッタ!」」」3人が我に返ったように声を上げた。アサシモが開閉ボタンから手を離した隙に提督が押したのだ!「イヤーッ!」提督は間髪入れずに3連続チョップを3人の脳天に放つ!「「「ンアーッ!」」」3人はたまらず苦悶!提督はそのまま連続バク転で部屋から脱出!ゴウランガ!おお、ゴウランガ!

「ワキが甘いんだよガキ共が!それではガンバッテやってこい!オタッシャデー!」「御意」提督はそのままダッシュで出撃ドック内から出ていった。尻餅をつき、取り残される3人。「くそう……もう少しだったのに!」「やられたちくしょうめ!」「アサシモちゃ~ん!ちょっと油断しすぎじゃないかしらぁ?大体もう!あなたも見てるだけじゃなくて…….」

(((はぁ…はぁ…クソガキどもめ、色気付きやがって)))提督は息も絶え絶えに脱がされかけた軍服を直しながら廊下を進む。完全に誤算であった、今後もし同じように包囲されてしまったらもう逃げられないだろう……提督は頭をかきながらため息をついた。「クソ……ヤヨイ=サンはあいつらにどんな教育してやが」「呼んだかしら」

「!?」提督は驚きのあまり転げそうになった。しかし、その背は曲がり角の壁が支えた。「ドーモ」突如として現れたヤヨイが道を塞いでいる。提督は後ずさろうとした、しかし壁がそうさせてくれない。「私を呼んだ?何?命令?」「あ、いや……」ヤヨイが迫ってくる。なぜか提督はヘビに睨まれたカエルのように動けない。ワン・インチ距離で止まるヤヨイ。「まだ今回の作戦については命令されていない。だから命令を頂戴」

文句が引っ込んでしまった提督はヤヨイの無表情を浮かべる顔から目が離せない。深い色のその瞳は今にも吸い込まれてしまいそうだ。彼はヤヨイが苦手だった。チンジフ発足当時からの付き合いのはずなのに、ヤヨイの考えていることは未だ何も分からない。なのにヤヨイは自分に命令を求め、必ず従い、必ずやり遂げてきた。そして常に距離感が近かった。

「命令して、私に」いつの間にか跪いてしまっていた自分の顔に、触れ合いそうになるまで顔を近づけてきたヤヨイに気づいた提督はハッと我に返り、慌てて言った。「たッ……待機だ!とりあえずは待機!」「待機」「そうだ。何かあったら出撃してもらうかもしれんが……とにかく今は待機しててくれ!」「…………」

ヤヨイはしばらく提督の顔を見つめていた。しかし、やがて顔を離し、道を開けた。「分かったわ」短くそう言ったヤヨイはただ、無表情のまま提督の横で佇んだ。「じ、じゃあそういうことだから……よろしく頼むぞ」提督は急いで立ち上がると、逃げるように司令室へと進んだ。ヤヨイは未だその場に佇んでいる。

(((なんで……作戦が始まる前からこんなに疲れてんだ、俺は)))提督は深くため息をつくと、チラリと後ろを見た。まだヤヨイはそこにいた。目と目が合う、すぐさま提督はその視線を外し、バツが悪そうな様子で廊下の曲がり角へと消える。ヤヨイは提督がいなくなっても暫くそこを見つめていた。彼女はただ、無表情だった。

【KANMUSLAYER】

◆さらに今日な◆

◆ヤヨイしんじつはいつかやる日がくるかもしれないので備えよう。明日へまたぐと思うがはじめます◆

【KANMUSLAYER】

「「イヤーッ!」」交差するシャウト!鍔迫り合うハツヅキとモガミ!それぞれのセンセイの弟子同士のイクサの火蓋が切られたのだ!「くッ…!あそこで提督からキスしてもらえていたら……君など一太刀の元に斬り伏せたところだよ!」ハツヅキは激情をカタナにぶつけている。「ち、ちょっと冷静になったほうがいいんじゃない!?」モガミはそれを右手に装備した小型のコウブカンパンで受け止めている。両者、拮抗!

「冷静にだと?常に僕は冷静だ!イヤーッ!」ハツヅキは鍔迫り合いの状況で膝蹴りを繰り出す!モガミは左手肘を振り下ろしこれを防ぐ。すかさずローキックを繰り出すモガミ!「イヤーッ!」ハツヅキはバク転でこれを回避!着地と共に踏み込み、カタナを真一文字に振るう!「イヤーッ!」

その斬撃はコウブカンパンを持たぬ防御の薄い左側を狙ったものだ、アブナイ!「イヤーッ!」しかし絶対防御たるコウブカンパン・ドー!瞬時に身を捻ったモガミがコウブカンパンで斬撃を弾き返す!一瞬姿勢を崩したハツヅキにタックルを食らわせる!「イヤーッ!」「ヌウーッ!」ハツヅキはガードを固め、これを受け止めるしかない。衝撃で後ろに吹き飛ばされる!

後退したハツヅキに両太ももに装備したカラテ連装砲で追撃を放つ!「イヤーッ!」ハツヅキは連続後転で回避!ハツヅキはカタナを扱う近距離にアドバンテージを持つ艦娘だ、対するモガミの得意とする距離は中距離、つまり近距離での戦闘が長引くほど不利!センセイであるヒュウガの教え『戦うときは常に自分の距離を保て』だ!

(((フン、やはり距離をとるつもりか?させないよ!)))しかし対するハツヅキも相手の得意距離をみすみすと許すようなサンシタではない。連続後転をストップし、再度モガミの懐へとブースト突撃する!「イヤーッ!」無論モガミはカラテ連装砲で迎撃!小口径の砲弾の嵐がハツヅキを襲う!

しかしハツヅキは臆することなく砲弾の嵐へと飛び込む!「イヤーッ!」襲い来る砲弾を凄まじい速度で振るうカタナで叩き落としながら!進む、進む!なんたる被弾を恐れぬ大胆な一手か!それを可能にするのはハツヅキの体得している剣術のひとつ『シノギ・ラン』だ。一説には敵軍から降り注ぐ矢の雨の中をカタナ一本で突破した剣士が編み出したとされる暗黒剣術である!

「イヤーッ!」砲弾の嵐を脱したハツヅキはすかさずモガミにカタナを振り下ろす!モガミはコウブカンパンで防ぐ!「イヤーッ!」ハツヅキは鍔迫り合うことなく連続斬撃を容赦なく叩き込んでゆく!「イヤーッ!イヤーッ!」モガミは防御を強要される。これはセンセイであるヤヨイの教え『相手に反撃させず殺しなさい』だ!

このままではモガミはジリー・プアー(徐々に不利)である。怒涛の連続攻撃に晒され、モガミの装束に小さな切れ込みが入ってゆく、しかしモガミはつとめて冷静であった。(((……ここだ!)))襲い来るカタナを弾くのか?否!「イヤーッ!」カタナの軌跡に割り込むように繰り出されるコウブカンパンが……斬撃を、逸らした!姿勢を崩すハツヅキ!

「イヤーッ!」「グワーッ!」劣勢を跳ね退けるモガミの回し蹴りがハツヅキを捉える!しかしハツヅキはカタナを背中から腰へとアーム機構で移動させた鞘に収め、水しぶきを上げながら踏みとどまった。腰を落とし、左腕は鞘を抱え、右腕を掲げ、頭を下げる。モガミはさらなる追撃を加えなかった、違う、加えることができなかったのだ。

モガミはこれを防いだ、いや、何とか『防ぐことができた』。超電磁力とハツヅキのワザマエによって繰り出された亜音速の斬撃は、超硬質鋼材によって鋳造されたコウブカンパンに大きな切り傷を刻み、斬撃の余波がモガミの背中のカラテ艤装の一部と右太もものカラテ連装砲を破壊した。「ッ……!!」モガミの頬を一筋の汗が垂れる。まともに食らえば間違いなく大爆発四散していたであろう凄惨たる一撃!

「どうやら僕は君を過小評価していたようだ」ハツヅキはモガミの回し蹴りの一撃の重さにしかめつつも、威嚇的にカタナを構えた。「並の敵ならリニア・イアイドを受けて立っている者はいない、流石はヒュウガ=サンの弟子と言ったところだね」モガミに対峙するハツヅキのキリングオーラが禍々しさを増してゆく。「しかし僕はその上を行く…!彼への愛の証であるこのカタナ……『提督Love Mk-3』が!次は君の喉笛を切り裂くだろう!」

◆このエピソードンにはボクっ子・カンムスクランが3人いるので実際ややこしい。間違えたらとりあえずケジメします。一旦寝る◆

◆寝休憩してからやろうと思ったが結構キリが良かったのでやめました。続きは今日な◆

◆実質次の日だがやる◆

【KANMUSLAYER】

2名が一進一退の攻防を続ける一方、ハツヅキと同じくヤヨイの弟子のひとりであるアサシモも、ジュンヨウと激しく切り結んでいた。ジュンヨウは力任せにメイスで殴る。アサシモはそれを展開型シールドで防ぐ、ブレードを繰り出す、ジュンヨウは左腕に装備した鋼鉄ガントレットで防ぐ、そして殴り返す。その繰り返しである。

ジュンヨウは反応装甲の小爆発に怯むことなくメイスを振るっている。恐るべきはそのカンムス耐久性!並の艦娘ならば無視できぬダメージを負っているであろうことは間違いない、しかし彼女に弱っている様子は全く持って無し!ただただ力の限り暴力を振るう!「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」

鉄と鉄がぶつかり合い、火花が白い霧の中で閃光めいて輝く!もしこの中に不幸なバイオスズメが紛れこめば即ネギトロと化すだろう!「イヤーッ!おいチビスケよォ!中々ブッ壊れねぇじゃねえか!本当に駆逐艦かぁ!?」「イヤーッ!見てわかんだろぉが!テメーはか弱い小娘にブッ壊されるんだよッ!」二者は同じく獰猛な目つきで相手を睨む。この2人は体格は違えど、その本質は似通っているようだ。

「イヤーッ!」ジュンヨウは盾を跳ね除け、丸太めいた蹴りを繰り出した。「チィーッ!」これをクロスしたブレードで防ぐアサシモ、衝撃のあまりタタミ数枚分後退!「ハァーッ、最初はそのめんどくせぇ盾に怯んだが……耐えりゃあどうってことねえな!」ジュンヨウは口に溜まった血を吐き出し、指をゴキゴキと鳴らした。彼女の闘志は一向に弱まらない。暴力のカリスマとして、多くの弟子を抱える身としてジュンヨウは決して沈まぬのだ。

だが、対するアサシモも一向に譲らない。凶暴な笑みで、なおもジュンヨウに真正面から対峙する。「ここまでド直球な奴は初めてだぜ……アタイもそんくらいガンガンいければ提督のヤツを抱けるかもなぁ!?アイツの初めてをアタイが奪ってやるんだ!」これは実際奥ゆかしくない発言!彼女は提督に向けた過激な発言が多く、普段から注意されている。しかしこの場に注意する者はいない、ただ叩きのめす相手のみだ!

「ほざいてろエロガキ!イヤーッ!」ジュンヨウは容赦なくメイスを振り下ろす!アサシモは当然これを反応装甲で防ぐ、またもやラリーめいた攻防か!?しかし!「イヤーッ!」次なるアサシモが繰り出したのは両手のブレードではない、強靭なアーム先の反応装甲そのものだ!「イヤーッ!」ジュンヨウは鋼鉄ガントレットで防ぐ!KBAM!すかさず襲いかかる小爆発!

「イヤーッ!イヤーッ!イヤーッ!イヤーッ!」アサシモは反応装甲板を繰り出す、さらに繰り出す!ジュンヨウはそれを防ぐ!KABMKABMKABMKABM!小爆発の嵐がジュンヨウを襲う!さしての彼女も押され始める。アサシモの専用カラテ艤装は防御するだけのものには留まらない、オスモウの連続張り手めいた怒涛の連撃!「イヤーッ!イヤーッ!イヤーッ!イヤーッ!」

反応装甲の連撃が続く中、アサシモはさらなる一手を加える!両手に持ったブレードの根元を接続!彼女がカラテを込めると刃が赤熱し始めた!「イヤァアアアーッ!」引きしぼった弩めいて繰り出された一撃をジュンヨウはメイスで受け止める。ハサミめいた形状となったブレードがメイスを挟み込んでいる。ジュンヨウの眼前で鉄の焼ける音と共に、鋼鉄メイスの表面が溶けてゆく!

「どうしたどうしたぁ!?このままじゃアンタの得物が溶断されちまうぞッ!」赤熱したブレードがメイスに徐々に食い込んでゆく。さらにそこから発される熱はジュンヨウの体力を徐々に奪ってゆく。「ヌゥーッ!」さしての彼女とてスタミナは無限ではない!「アホの一つ覚えみてーに殴るだけの能しかないアンタに負ける要素は一個もねえ!イサオシ立てて提督をモノにするのはこのアタイだッ!!」燃え上がるのはその刃だけではない!アサシモの闘志、そのものだ!

◆急ぎ更新、続きは午後な◆

◆再開◆

一対一の攻防を行う艦娘たちは、どちらが大爆発四散してもおかしくないくらい拮抗している。しかし!「アハハハハハハ!」「あばーっ!」「ぐわーっ!」「あばーっ!」こちらで行われているのは単なる殺戮であった!バレエダンサーめいて霧の中を跳ね回るキサラギが射出するレーザーが、クローンヤクザ妖精たちを黒コゲにしてゆく!次々と爆死するクローンヤクザ妖精!「あばーっ!」「ぐわーっ!」

連射されるレーザーの中を掻い潜り、ユラが果敢にカラテを打ち込む!「イヤーッ!」繰り出されるショートフック!だがキサラギはそれを難なくガード、即座にカウンターパンチを叩き込む!「イヤーッ!」「グワーッ!」フルタカがデュアルSMGを連射しキサラギを狙う!「イヤーッ!」キサラギは得物の大鎌を回転させ銃弾を弾き即座に接近、フルタカを両断する勢いで薙ぎ払う!「イヤーッ!」

フルタカは小ジャンプし致命斬撃を回避する。しかしこれはキサラギの予想範囲内だ!「イヤーッ!」頭上からクローアームが襲い来る!「グワーッ!」空中の無防備なフルタカはこれを回避できぬ。海面に叩きつけられ苦悶!「イヤーッ!」「グワーッ!」さらに容赦なくキサラギはその身体を蹴り上げる!「イヤーッ!」レーベが撃ったカラテ砲弾を連続側転で回避しながら、致命健康被害レーザーをばら撒いてゆく!クローンヤクザ妖精はさらに爆死!ナムサン、すでに半数が殉職!

しかしジゴクめいた惨状にも関わらず、当事者であるキサラギは退屈そうな表情で溜息をついている。この状況がつまらない、とでも言いたげである。「はぁ~あ……あの2人の方は当たりだったわねぇ。こっちはハズレ、倒したってあんまり価値はないかなぁ」キョートの面々がなんとか大勢を立て直すのに対しキサラギは飛んでいるハエを振り払うようにクローンヤクザ妖精たちを撃ち落とす!悲鳴が海にコダマする。まさにホラーめいた様相!コワイ!

「ふ、2人とも!大丈夫ですか!」慌ててレーベはユラとフルタカに駆け寄ってきた。「ゴホッ!なんとか大丈夫……!」「ぐぅ……ダメだ!実力に差がありすぎる」言葉の通りだ、比較的経験の浅い2名、それに初めての実戦の自分、そこにクローンヤクザ妖精の数を加えてもキサラギには及ばない。レーベは恐怖した、このキサラギという艦娘は本当に自分と同じ駆逐艦娘なのか?次元が違いすぎる!

クローンヤクザ妖精はすでに2/3以上は始末された。キサラギはコロス・カンムスクランの中でも多人数戦闘に特化した艦娘である。3人は知る由もないがキサラギの8本のクローアームそれぞれには小型カメラが搭載されており、全方位の映像がリアルタイムでキサラギの両目のサイバネコンタクレンズに送られてくる。ゆえに彼女に隙はない、クモめいた複眼カメラは得物を見逃さぬ!

「ねえねえお話でもしない?このままじゃ退屈だから~」キサラギはニコニコと笑いながら近づいてくる。大鎌をバトンめいて回しながら。「キサラギねぇ、司令官の事と~っても好きなの!だからね?今回の作戦も成功させてヨシヨシペロペロしてもらいたいのよ~!」キサラギは頬を染めてうっとりと語った。その姿は紛れもない乙女、しかしブキミに蠢めくクローアームが絶望的なまでにミスマッチである。

「だからぁ、貴方たちみたいなザコでもぉ~……司令官の前に3人の残骸を並べればぁ!きっとキサラギこと褒めて逆ボディタッチした後ベッドの中で可愛がってくれるわ~!むしろ!逆に可愛がりたい!いや~ん!」キサラギは1人で一喜一憂している。3人は戦慄した。相手は一級の実力者であり狂人、しかし負ける訳にはいかない!「2人とも!連携攻撃でいくよ!」ユラが叫ぶ!「「ハイ!」」2人も覚悟を決め、カラテを構える!「あらぁ?まだ無駄な抵抗つづけるのぉ~!?イヤーッ!」襲い来るレーザー光線!

3人はレーザー光線を掻い潜って回避!「イヤーッ!」「イヤーッ!」ユラはパルスキャノンを、レーベはカラテ魚雷を射出!「イヤーッ!」キサラギは小ジャンプでパルス弾をかわし、真下で爆発する魚雷を回避する。「「「ざっけんなこらー!」」」そこでユラから無線指示を受けた残り少ないクローンヤクザ妖精たちが一斉掃射を行う!しかし無防備なキサラギを覆うようにクローアームが閉じ、銃弾を弾き返す!

着地したキサラギに躍り掛かったのはフルタカだ!「イヤーッ!」トビゲリで強襲する!「イヤーッ!」キサラギは左側のクローアームで受け止める!「イヤーッ!」さらにフルタカはSMGを近距離銃撃!キサラギの頬を銃弾が掠める!「ッ!ちょっと生意気じゃない!」キサラギは大鎌をすくい上げるように振るう!「イヤーッ!」

「イヤーッ!」だがその刃がフルタカの喉元に届く前にインターラプトしたユラが大鎌の柄にパルスキャノンの先端を割り込ませ止める!「イヤーッ!」キサラギは8本のクローアームで2人に同時攻撃を繰り出そうとした、しかし!「イヤーッ!」キサラギの後方でカラテシャウト!「ンアーッ!」キサラギの背中にカラテ砲弾が直撃!攻撃の主は後ろに回り込んでいたレーベだ!「ヤッタ!」ワザマエ!実際高度な連携攻撃!

「ナイスよレーベ=サン!」「初めての有効打です!」連続後転で戻ってきた2人がレーベを讃えた。キサラギは咄嗟に身体を逸らしたようでカラテ艤装は小爆発四散寸前でとどまっている。しかしダメージには変わりない!「あ~もう!いきなりなんなのよ!?よくもキサラギのカワイイ艤装ちゃんを!」口調こそおどけているが、キサラギから笑みが消えた。次は本気でこちらを潰しにくるであろう。

しかし3人は怯まない、覚悟を決めたのだ!「イヤーッ!」「イヤーッ!」ユラとフルタカはキサラギへとブースト突撃した!レーベも援護すべくカラテ砲を構える!危機に瀕した艦娘たちは、しばしば実力以上のカラテを見せると言われている。一人一人が敵わずとも協力すればいかなる強敵にも対抗手段がある!ユラは右側から、フルタカが左側からキサラギを挟み撃ちにする!

レーベは恐怖を振り払った。このままゆけばなんとかなるかもしれない。そう思った。そう思っていた。フルタカの動きが止まった。「…….え?アバッ」フルタカは血を吐いた。それを見て怯んだユラをキサラギは即座に蹴り飛ばした。「イヤーッ!」「グワーッ!」援護を行おうとしていたレーベは絶句した。(((え、フルタカ=サン、ナンデ)))フルタカの背中のカラテ艤装に何かが突き刺さっている。背後に、何かがいる。

フルタカはガクリと膝をつき倒れ、大爆発四散した。「サヨナラ!」一撃でカラテ艤装の動力炉を破壊され、刃で貫かれたのだ。バチバチとノイズを鳴らしながら、インターラプトした者の姿が可視化される。光化学迷彩制服に身を包み、両手にサイを持った艦娘がそこにはいた。その表情は幼い顔立ちに似合わぬ怜悧な表情。「も~…今回もまさか見てるだけかと思っちゃったわよぉ」「機を伺っていた」キサラギに短く返すその駆逐艦娘はアンブッシュを終え、残った唖然とした表情の2人にアイサツした。「ドーモ、キクヅキです」

【KANMUSLAYER】

◆艦◆カンムス名鑑#77【駆逐艦アサシモ】ネオサイタマ・チンジフ所属、ヤヨイの4人の弟子の1人でありコロス・カンムスクランの一員。極めて好戦的な性格で、チンジフの敵とみなした者は徹底的に叩き潰す。ヒートブレードと変幻自在な反応装甲シールドが専用装備。提督へのハラスメント発言が過剰。因みに暴走状態の提督に襲われたことはないので処女である◆艦◆

◆艦◆カンムス名鑑#78【駆逐艦キサラギ】ネオサイタマ・チンジフ所属、ヤヨイの4人の弟子の1人でありコロス・カンムスクランの一員。常に笑顔で物腰も柔らかいが、その本性は極めて残忍なサディスト。提督のためならばどんな手段でも拷問でも厭わない。タツタとは仲が良いらしい。有害物質こじま粒子レーザーを射出できるクローアーム艤装と大鎌が専用武器。提督へのボディタッチは過剰。因みに暴走状態の提督に襲われたことはないので処女である◆艦◆

◆艦◆カンムス名鑑#79【駆逐艦キクヅキ】ネオサイタマ・チンジフ所属、ヤヨイの弟子の1人でありコロス・カンムスクランの一員。常に理知的で冷静、不言実行を体現する艦娘。その佇まいは弟子の中で最もヤヨイに似ているといっても過言ではない。一定時間なら心音すら止められるシニフリ・ジツを駆使し、光化学迷彩制服を身にまとうチンジフ随一のアサシン。4人の中では珍しく提督に過剰な愛情表現をすることなく寡黙に命令に付き従う。因みに暴走状態の提督に襲われたことがあるので本人はショックで忘れているが処女ではない。◆艦◆

(親愛なる読者の皆さんへ : 作者が学校の実習週間に入ったので更新頻度が落ちるようです。完走はするのでごあんしんください。なおキクヅキ=サンは幸せです。以上です。)

(親愛なる読者の皆さんへ : 作者は過酷な学校研修期間メントの中で死の淵をさまよっているが、明日か来週あたりから更新を再開できそうになる。なおそれでも待てないという方は『提督(ああもう…やっぱりここで、ドMだということをバラしてしまうべきか!?)http://ex14.vip2ch.com/i/responce.html?bbs=news4ssnip&dat=1472096779』を見るのがよい。貴方!このスレの2~7レスめの酉を見ても作者が全く誰だか見当もつかないかもしれないがこのSSは非常にひどく、凄い。なので前作からしよう。以上です)

◆明日な~◆

◆◆◆◆◆◆◆

【KANMUSLAYER】

(これまでのあらすじ:センダイそしてハツカゼがアンノウン艦娘と交戦していたその頃、掌握した第2駐屯基地を守るキョートの部隊はネオサイタマ暗部、コロスカンムスクランの襲撃を受けた)

(司令官への異常な偏愛をもつ恐るべき艦娘、ハツヅキをはじめとするもはやどちらが悪なのかわからぬ駆逐艦娘たちの蹂躙ともいえる攻勢に絶体絶命の危機に立たされるキョートの部隊!このジゴクの中で彼…いや、彼女、レーベレ・ヒトマースは何を見るのか…)

「それでどう?まわりに伏兵はいなかったのぉ?」「一人いたが排除した。実際サンシタ、問題無い」たった今仲間を大破させた二人の艦娘は平然とした様子で立っている。レーベは震えた。目の前で大爆発四散した、共に戦っていた仲間が。

「あらそう、じゃあキサラギの事はもういいわよ~」「御意」そういうとキクヅキと名乗った艦娘はバチバチと音をたて、再び虚空へと消えた。カンムスソウルのわずかな痕跡すら残さずに。「ふふふお疲れ、さーてと…」横を向いていたキサラギがゆっくりとこちらを振り向いた。笑顔を浮かべている。そのアトモスフィアにレーベは失禁しかけた。

「キサラギ、ちょっと聞いたことあるのよね~」キサラギはおもむろに話しかけてきた。その姿勢はまったくの自然体である、まるで自分とユラなど眼中に無いかのように。「窮地に陥ったコが、自分の実力以上のカラテを発揮することがあるってね~」アームの先端の凶悪なツメを可愛がるかのようにさするキサラギ。

「まさかぁ~…今さっきの『アレ』のことじゃないわよねぇ?」突如、唖然と立ち尽くすレーベの股下にレーザーが着弾する!((ひっ!))声にならぬ叫び声を上げるレーベ!「ちょっとだけ遊ばせてあげたけど、ネコちゃんに噛みつくようなネズミちゃんは、オシオキが必要よねぇ?」レーベは予感した。今から始まるのが、一方的な殺戮だということを。

◆一日空いて申し訳なく再開◆

「イヤーッ!」「イヤーッ!」一方その時!仲間の大破をまだ知らぬモガミと、恐るべき伏兵を忍ばせておいたコロス・カンムスクラン主将のハツヅキは苛烈なカラテ・ラリーを繰り広げていた。ハツヅキがカタナを突き出せばモガミはコウブカンパンで防ぎ、モガミがアッパーカットを繰り出せばハツヅキがカタナでいなす。その高速の攻防はまさにチョーチョー・ハッシ!「イヤーッ!」「イヤーッ!」

攻防の末、両者は何度目かわからぬ鍔迫り合いの姿勢となった。モガミの闘志溢れる表情に反してハツヅキは先程の私怨溢れる形相から一転、底知れぬ冷酷さを感じさせる怜悧な表情を浮かべている。「ここまでやる敵は深海棲艦にも中々いない……ましてや艦娘にもね」ハツヅキは言った。

「ボクはセンセイを助けなきゃならないんだ!それまでは倒れやしないよ!」モガミは決然と言い返した。だがそれを見るハツヅキの表情は冷たさを増してゆく。「ふん、盲信もここまでいくとアワレだね。キミは何も分かっていない」「何を……」「何もかもだ。自分が、キョート・チンジフがどうなっているかも全く理解していない。いや、知らないだけかもしれないが」

モガミはハツヅキの真意を測りかねた。突然何を言い出すのだろう?「同じチンジフにセンセイを持つ者同士としてひとつだけ教えてあげよう。キミは騙されている」「え?な、何のことか分からないよ!」「そうか、やはり分かっていなかったか……この調子で全員が、なるほど」言葉の後半は独りごちるようだった。依然カタナにこもる力は緩まない。

「言ったところで無駄だろうが降伏したらどうだい?そうすれば目を覚まさせてあげよう」「しないよ!そういうハツヅキ=サンたちだって騙されてるんだ!ネオサイタマの悪い提督に!」モガミはハツヅキのカタナを押し返す!モガミが教えられたこと、それはネオサイタマの艦娘たちは司令官たる提督に日々洗脳かつ凌辱を重ねられており、利用されているという事!それがロードの言葉を代弁するタイホウから伝えられた衝撃の事実だったのだ!

(あんなに……あんなにセンセイは、ヒュウガ=サンは提督のことを慕っていたのに!それを騙していたなんて許せない!センセイはぼくが助けるんだ!)モガミは全く一片の疑いもなくそう思った。ごく自然に、それを当然だと信じて。「提督を……ボクの提督を愚弄するなッ!」ハツヅキは突如として暗い闘志を剥き出しにした。モガミのコウブカンパンを押し返す!「気が変わった、キミを徹底的に大破させ無理矢理目を覚まさせる。ヒュウガ=サンはボロボロの君を見て泣くだろうな、なんと愚かな弟子だとね!」

モガミはハツヅキの殺意を正面から受け止めた。やはりこの異常とも言える執着は洗脳と凌辱(意味は知らないが)によるものなのだ!((この人も助けてあげなきゃ…!))そう思ったその時、鍔迫り合うハツヅキの目線が一瞬、わずかにそれたのにモガミは気づいた。その視線は自分の背後に向けられたものだった。これは、まさか!

「!」モガミは考える前に動いていた。カタナを受け止めていたコウブカンパンを引き抜き、背中に回す。次の瞬間、『何か』がコウブカンパンに突き立てられたのだ!「ううっ!?」カタナを代わりに受け止めた左手のブレーサーに刃が食い込み、隙間から血が垂れる。その様子を見て舌打ちするハツヅキ。「今のアイコンタクトを見破るとは」「アンブッシュ失敗」自分の背後から声がする、バチバチと音を立てて何者かが姿を現した。

「あなたは…!」「ドーモ、キクヅキです」「イヤーッ!」すかさずモガミは馬めいた後ろ蹴りを繰り出す!アンブッシュ者は突き立てたサイを手放し、連続バク転でこれを回避する!「イヤーッ!」「ンアーッ!」しかしハツヅキの膝蹴りは受け止められずもぎ離される!モガミは海面を転がりながらも、なんとか姿勢を持ち直した。左手の傷はやや深い、鮮血が海へと吸い込まれてゆく。

「ハツヅキ=サン、命令は?」「戦場をかき乱せ。それだけでいい」「御意」キクヅキはモガミに追撃をすることなく姿を消した。モガミは改めて仲間のバイタルサインを小型IRCで確認する。タニカゼのものに加え、フルタカのものが消えている。「くぅ…!」「卑怯、とでも言いたそうな顔をしているね」ハツヅキはカタナについた血を拭った。「ここは戦場だ、卑怯も何もない。それにキミたちは裏切り者なんだよ?我らコロス・カンムスクランは……いかなる手段をもってしても徹底的に敵を殲滅する。それだけだ」

【KANMUSLAYER】

◆間が空いてしまってすいませんね?エピソードンのおわりまで突き抜けます。なおツイッタアーげんさくの4部もはじまったので、しよう!始まります◆

【KANMUSLAYER】

「グワーッ!」ジュンヨウは突如虚空から投擲されたダートのうち2本を左ブレーサーで、残り一本を肩で受けた。「イヤーッ!」すかさずアサシモが恐るべきハサミ型ブレードを繰り出す!「イヤーッ!」ジュンヨウは刃の間にメイスを滑り込ませ防ぐ!「クソ!モガミ=サンの言う通りか!コソコソしやがって!」

ジュンヨウは突き刺さったダートを忌々しげに引き抜き言った。たった今、イヤホン型IRCに入ってきたモガミの言葉、『見えない敵がいる』。ジュンヨウはやすやすとアンブッシュを許すようなサンシタではないが、防ぎきることはできなかった。アンブッシュ者が実際恐るべき伏兵であることに疑いの余地はない。

「ククク……どうだ?『ニンジャ』みたいだろ、まるでさぁ」「ハッ!ニンジャなんかいてたまるかよ!面倒は徹底的にブッ殺す!」しかしかく言うジュンヨウもダメージが無視できぬものになってきているのは本人が一番分かっている。長期戦はこちらが不利になるだけである。とにかく目の前のこの敵を叩き潰さねばならぬ。ジュンヨウはただただメイスを振るうのみ、暴力のおもむくままに!

「あ」レーベは声にならない声を出した。ユラが背中の艤装ごと鎌で袈裟に斬られ、倒れる間も無く、6つの爪が艤装に食い込み、猛獣が獲物を噛みちぎるようにバラバラに解体した。「サヨナラ!」ユラは大爆発四散した。それを微笑を浮かべて見るキサラギはその様子を楽しんでいるのは明らかだった。

レーベは周りを見た。何もいない。霧の向こうではカラテの打撃音が聞こえる。しかし自分の周りには何もない。ただひ弱な、イクサに初めて出るような小娘がいるだけだった。仲間は2人とも大破し、クローンヤクザ妖精はもはや全滅している。自分は一人きりであることをレーベはようやく理解した。

((逃げ……なきゃ!))レーベの行動は速かった。白い霧の中に紛れ込むように逃げ出した。初陣、ビスマルクからの命令、すべてを忘れたようにレーベは怯え、逃げ出したのだ!「あら~?逃げちゃいやーん!」しかしそれをキサラギが許すはずもなし!後方からレーザーが掃射される!「アイエエエエエ!」襲い来るレーザーが身を掠めていく!恐怖におののくレーべ!

このまま逃げれば助かる。そう思いたかった。しかしそれは叶わない!一筋のレーザーがレーベの左足ホバー艤装に直撃、破壊!「ンアーッ!」もんどりうって倒れるレーベ!海面を転がり、ブザマに尻を突き出してうずくまる。「う……ううう……」そして立ち上がろうとしたレーベの目に入ってきたのは、カラテラリーの渦中のモガミと敵の首領であった!「あ……アイエエエエエ!?」

思わず声をあげたレーベにハツヅキはネズミを見つけた猫のごとく目を光らせた!「残り3人のうち一つ……確実に仕留めるべきか」即座にハツヅキは標的をモガミからレーベにシフトする!「ちょ!待っ……ううっ!!」「イヤーッ!」止めようとするモガミにすかさずキクヅキがステルスを解き襲いかかった!おお、ナムアミダブツ!ハツヅキが鞘に収めたレール・カタナから電光が迸る!

再び逃げようとしたレーベは後ろを振り向いてしまった。「…イキツ」ハツヅキの声は背後だった。レーベはそれがハツヅキのヒサツ・ワザのひとつだと知る由もなかったが、ハツヅキはレーベを確実に大破させる一手を選択していた。避けられるはずはなかった。振り向くハツヅキの目が光る。「モドリ!」

「イヤーッ!」「ンアーッ!!」レーベの背中の艤装がはじけ飛ぶ!そして斬り抜けたハツヅキは再び正面から斬りかかった。艤装を破壊したのは「イキツ」の斬撃!そしてこれは「モドリ」の斬撃!しかしレーベの意識は二回目を受ける前にホワイトアウトした。視界が周りの霧以上に真っ白に染まり、レーベは地平に放り出された。これは?サンズ・リバーの岸はここまで色がないのか?

意識が溶けてゆく。死んだのかな。レーベはまったく他人事にそう思った。何かの風景がソーマト・リコールとして瞬いていく………否、瞬いてなどいない。その風景は固定されている。ノイズがかかっているように時折ぶれるが、確かにレーベはそれを見ている。何だ?これは?ここはいつ、どこだ?誰なのだ?誰の視界、記憶なのだろうか?

…………………………………………「Oh…?タイホ01サーン?大丈夫ネ?なんか調子0011悪そうデー01ス。ナ01=サン!」「む?01どうし10110た?「あの~……みな0101さーん……そろそろ作戦01区域なんですが、だ、大0110丈夫01ですか…?」その周りには3人の艦娘がいた。その装束に見覚えがある気がするが、声と同じようにその顔にもノイズがかかり、誰だかは分からない。

視界の主が声を発した。「………いえ、問題ありませんジンツ01101101………任務を続け01ましょう」

◆午後以降に続く寝休憩◆

◆このSSはどちらか一方しか知らない人にもなんとなくわかるようにできていますのでごあんしんください。続きな◆

その声は少し震えていた。レーベはそう感じた。ここはどこなのだろう、そもそも自分は何を見ているのだろう?ノイズまじりの風景がさらにノイズに塗りつぶされ、再び晴れる。そこに映ったのは荒立つ波、立ち上る煙、そして、白くぼやける輪郭をもつ『何か』だった。

視界の主は呆けたようにへたり込んでいる。その近くには同じようにぺたりと座り込む者、そしてもう1人は大破し、波に揺さぶられている。サイドに結んだ長い黒髪と、鮮血が海へと流れ出す。「………ミョウ0101姉さ0101……みん110101101……」そう呟くと、彼女は意識をなくしてしまった。

そして白い輪郭をもつ「何か」の姿がレーベにはうっすらと見えてきた。白い長髪、白いドレス、そこから伸びる白い手が、残った1人の艦娘の首を掴み持ち上げている。「1010アア……10ウウウ……!」そのボロボロの巫女服めいた装束を身にまとった艦娘は必死に抵抗している。しかし破壊された艤装に滴る血を見れば、もはやその抵抗は無駄だということは誰の目から見ても理解できる。

『アナタモ、ホシイ』声が聞こえた。どこから?レーベは分からなかった。ノイズまみれの声しか聞こえなかったはずなのに、その言葉ははっきりと聞こえた。それは耳からではなく、ソウルに直接響くような声。『ワタシニハモクテキガアル、ダカラアナタモアタシノモノニナリナサイ』「No………サンキ010110ューネ!ワタシには、テー101101クが!妹0110たち………ンアーッ!!!」その艦娘の気丈な態度はたちまち崩れ、ガクガクと震え出した。白い手から吸い上げられている、その艦娘の『カンムスソウル』が。

やがて痙攣していた艦娘は事切れ、だらりと手足が垂れた。白い「何か」は言った。『……ジャア、ザンネンダケド、アナタハイラナイ』手を離した。艦娘は海に落ちた。そしてどこまでも落ちていき、暗い海の底へと消える。「何か」は視界の主と残ったもう1人の方へと身を移した。オバケめいたゆらめきが残像となる。ノイズがかかった虚ろな表情の艦娘を見下ろす。『アナタハワタシノモノニナッテクレル?』

その艦娘はかろうじて聴きとれるような虚ろな声で言った。「センダ1010姉1011010ナカちゃ10011010………10101010」後半は聴きとれなかった。『ミンナ、カゾクノコトバカリ?デモダイジョウブ、コレガ、スベテヲワスレサセテクレルカラ』白い手が虚空を撫でる。空中に黒い穴が空いた、中から黒く長い何かがゆっくりと出てきた。何だあれは?カタナ?

そのカタナめいた黒いものは艦娘の手に引き寄せられるように収まった。たちまちそれから出ずる黒い瘴気めいた何かが艦娘を包んでゆく。虚ろな表情は黒に染まり、見えなくなった。最後に「何か」はこちらを見た、視界の主を。次の瞬間、「何か」は主の目の前にいた。白いゆらぎのなかの光る二つの赤い目がこちらを見ている。そして、言った。『アナタモアタシノモノニナル』

主は何も言わなかった。ただ赤い二つの光から目を離さずに。『アナタモ、アナタノナカマタチモ、ゼンブワタシノモノニナル。モクテキノタメニ………デモ』そう言った「何か」の輪郭はさらにぼやけ始めた。その影が縮まってゆく。小さく、小さくなっていく。『イマハチカラガタリナイ、ダカラコノスガタニナル。コノスガタノワタシハスベテヲイチドワスレル。ソノアイダアナタハ……….ナニモシラナイワタシノ「コエ」ニナル。ワタシハアノヒトヲテニイレル。ソレマデハ……ソレマデ、ハ』小さくなった影が主の前にぺたりと座り込んだ。『……?…??』不思議そうにきょろきょろとあたりを見回している。光るふたつの赤い目で。

主は何も言わなかった。しかしやがて、その小さな白い「子供」を抱き寄せた。『………?アナタ、ダァレ?』子供は無邪気に言った。「私は………タイホ1010111で10す」彼女のもとの意識は、白い「何か」に覆われ、包まれた。「貴方101101に、お支えし101011す。我が…………マイ、ロー10101101ド101010100101110101………….」主がそう言った後、視界は途切れ消えた。


…………………


……………………………………


………………………………………………………

…………….刹那!レーベの意識は急速に現実へと戻された!「!!!!」ハッと目を見開く。自分は斬られ、大破したはずだった。誰もがそう思った………本人でさえも?否!レーベに「モドリ」の斬撃が到達することはなかった。「………ム?」恐るべきヒサツ・ワザ、イキツモドリを放ったハツヅキは訝しみ、振り返った。二撃目の手応えがない。それは、つまり!

然り!二度目の斬撃とレーベの間に割り込んだのはコウブカンパンを掲げたモガミ!その人である!「ッ……!!」キクヅキのサイで斬られた肩口の痛みを物ともせず、ハツヅキの斬撃をインターラプト防御したモガミが持つコウブカンパンは粉々に砕け、その役目を終えた。「驚いたな、まさかキクヅキ=サンを振り払い、ボクの攻撃を割り込んで防ぐとは………ましてや、使えない部下を助けるために」ハツヅキは刃こぼれした己のカタナを見て、忌々しげに言った。

ハツヅキの横にキクヅキ、キサラギが並び立った。「謝罪する、獲物をそちらにやってしまった」「あらら~?ハツヅキ=サンたら、とっても楽しそうなコとやりあってるじゃない!」レーベは感謝する前に、まず絶望した。モガミは自分のせいでダメージを負った。自分は役に立たない、どうやってこの3人と戦えばいいのだ?しかし、モガミは決断的な表情でレーベを守るように立ちふさがった。「レーベ=サン、大丈夫?」「モ、モガミ=サン!ぼくのために……こんな!」

「ううん、いいんだ」モガミは笑顔で首を横に振った。得物を失ってもモガミの闘志は少しも消えてはいない。「センセイは言ったんだ。『私達の後ろに仲間がいる限り、決して怯むことなく、退がることなく護れ。そういうことだ』って……」次の瞬間、レーベは目を見張った。

モガミの髪が逆立ち、全身からカラテが迸り始める!「これは」ハツヅキが眉をひそめた。モガミは決断的にカラテ構えを取り、3人を真正面から射抜くように見据える!「だから僕は怯まないし退かない!ズイウン!僕に力を貸してくれ!」モガミから迸るカラテが空中にコウクウキを形成する!おお、ゴウランガ!その名は『ズイウン』。センセイであるヒュウガの、モガミへのコウブカンパン・ドーに並ぶ、もう一つのインストラクションである!!

【KANMUSLAYER】

◆艦◆カンムス名鑑#80【航空巡洋艦モガミ】キョート・チンジフ所属、グランドマスター・ウンリュウ派閥のマスター位階の艦娘。尊敬するヒュウガの元でカラテを学び、キョートへと移籍した過去を持つ。師匠直伝のコウブカンパン・ドーと、ズイウンを用いたカラテはマスター位階の中でも高い実力を誇る。正義感が強く活発な性格。なお彼女はくれぐれも女の子である。◆艦◆

◆艦◆カンムス名鑑#81【駆逐艦タニカゼ】キョート・チンジフ所属、グランドマスター・スズヤ派閥のアデプト位階の艦娘。スズヤ派閥の艦娘たちは全員が古代ローマカラテを得意としており、油断ならぬ使い手と評される実力者ぞろいの派閥である。しかしそんなも彼女でさえもコロス・カンムスクランの駆逐艦娘たちに、活躍が描写されることもなく倒されてしまった。◆艦◆

◆続きは日曜までにはやりたいと思われる。クライマックスに、備えよう◆

◆◆◆◆◆◆◆

【KANMUSLAYER】

「イヤーッ!」モガミ渾身のシャウトと共に、空中に生成されたズイウンが3人に向かって突撃する!「コウクウキなど!」ハツヅキはカタナで斬り飛ばそうとした、しかし!ズイウンは即座に軌道を変更!急上昇しハツヅキの頭上へ!「あーん!なんでこんなに曲がれるの~!?」同じくクローアームで撃ち墜とそうとしたキサラギの攻撃も回避している!

「ただのゼロセンとは違う。軌道に注意を」キクヅキはバク転でやりすごしつつ2人に言った。ズイウンは爆撃、さらに機銃を掃射しながら急上昇から一転!鷹めいて急降下する!「イヤーッ!」「イヤーッ!」キサラギはクローアームを重ね合わせ防御!ハツヅキは頭上にカタナを回転させズイウンを破壊!しかしすでにモガミは踏み込んでいた!「イヤーッ!」「ンアーッ!」回し蹴りがキサラギを捉える!

「コシャク!イヤーッ!」ハツヅキは間に割り込みながらカタナを振り下ろす!「イヤーッ!」モガミは両ブレーサーをクロスし受け止める。だが背後の空間に歪みが生じた。瞬時にステルスを発動し回り込んだキクヅキだ。「…………!」彼女は無言で右手のサイでモガミを突き刺そうとした、しかしその右手に先程回避したはずのズイウンが突撃!「グワーッ!」キクヅキは苦悶!(熱感知か、ステルスは無意味…)

キクヅキは繰り出された後ろ蹴りをバックジャンプで回避するしかない。「イヤーッ!」一度身を引いたハツヅキはモガミをタックルで突き飛ばし、一旦距離を取った。だがモガミは後退しつつもズイウンを4機生成!螺旋状に突撃させる!「イヤーッ!」「イヤーッ!」ハツヅキはそれをかわし、斬り飛ばすが一瞬の隙が生じた。すかさずモガミは叫ぶ!「ダンドー・観測射撃!イヤーッ!」ズイウンの軌跡をなぞるように、カラテ砲を連続発射!ゴウランガ!

「グワーッ!」ハツヅキは回避したにも関わらず、左カラテ艤装に被弾し小爆発四散!なんたる正確性無比なカラテ砲撃!これぞヒュウガ直伝のインストラクション、『ノーカラテ、ノーズイウン、これだ』その言葉を体現せしダンドー・観測射撃である!「くッ!悪あがきを!」「まだまだへこたれないよ!あきらめるもんか!」モガミは決然と言い放ち、ズイウンを再生成する!

「おうおうどうしたァ!?そんなにお仲間が気になるかよ!エエッ!?」「クソ!うるせぇ!テメーはとっととくたばりやがれってんだ!」霧は晴れつつある、未だ撃ち合いを続けていたアサシモは忌々しげに吐き捨てた。目の前のジュンヨウはもはや血だらけで艤装は小爆発四散している。しかし初撃とほぼ違わぬ勢いで先端にスパイクをすえたメイスを突き出してきた!「イヤーッ!」

「ケッ!テメーはそれしかできねぇのかよ!?防ぐッてんだろーが!」アサシモはシールドを前面に展開しメイスを受け止めた。「ほら無駄だァ!いい加減あきらめ……グワーッ!?」次の瞬間、咄嗟に首をそらした頭のすぐ横をメイス先端のスパイクが駆け抜け、シールドを支えるアームのひとつを破壊!シールドを貫通した機構は鋼鉄メイスに内蔵されたパイルバンカーだ!「おしいねェー!もうちょっとで顔面をブチ抜けたのによォ!」ジュンヨウは血まみれの顔で凶暴に笑った。「テメッ…….このイカレ野郎がァーッ!」「イカレで結構!アタシはただ暴力あるのみなんだよ!」

((ジュンヨウ=サン、もう少し頑張って!もう……少しで!))ズイウンを繰り出しながらモガミは3人に応戦する。しかしその動きは徐々に精彩を欠き始めた。モガミは血中カラテを過剰に消費しながら戦闘を行なっている。長期戦は危険極まらぬ。さらにコロス・カンムスクランの艦娘たちもズイウンの軌道にすでに順応し始めている。このままではジリー・プアー(徐々に不利)だ!

◆遅くなって申し訳ない、一度寝休憩◆

◆再開◆

「モガミ=サン、改めて認めよう。君は強い」ハツヅキはズイウンを寸断しながら言った。「実力は僕たちコロス・カンムスクランのひとりひとりとはそう違わないだろう……しかし、3人同時ならどうかな?」冷酷な目線を受けてもモガミは怯まなかった。しかしハツヅキ、キサラギ、キクヅキは容赦なく距離をつめていく。ナムアミダブツ!彼女たちの命運、もはやこれまでか!?

その時、この光景に何もできず、固唾をのんで見守っていたレーベの装束の中から電子音が鳴った。((……えっ?これ、IRCに、入電?))懐から取り出したそれは電子マイコ音声を鳴り響かせた。『重点!緊急重点!自動音声通話モードドスエ!』「に…入電って、誰が」『ドーモ、いきなりだがその場所からタタミ一枚分下がれ、モガミ=サンにもそう言え』「え?」

声の主は極めて落ち着いた声で言った。レーベは慌てた。誰だ?このIRCに通信できるのはキョートの艦娘だけである。「あ、アノ……ボクはどうすれば?」『2度も言わせるな、そこから下がれ。でないと巻き込まれることになるぞ』次の瞬間、IRCの向こうから轟音が鳴った。何かを射出したような轟音……レーベの全身の毛が総毛立った!「モ、モガミ=サン!!下がってください!何か、何かきますっ!!」

モガミはその一言で全てを悟ったようだった。「そうか……あの人がそう言ったんだね!イヤーッ!」モガミは最後のズイウンを突撃させると、レーベを抱えて後方へジャンプした。「あららぁ~!?距離を取ろうとしてもムダよぉ?時間稼ぎなんて……あら」キサラギは上を見た。「………何だ、この音は?」ハツヅキも上を見た。「あれは」キクヅキの視線の先にあった『それ』はこちらに落ちてくる。その鋼鉄の巨大な弾頭が、こちらに凄まじい勢いで向かってきている。これは!

「……ッ!総員!退」それに気づいたハツヅキの言葉はかき消された。凄まじい爆音に!ZGATOOOOOOOOOOOM!!爆炎が3人に襲いかかる!「「「グワーッ!!」」」さらに追い討ちめいて降り注ぐ鋼鉄弾頭榴弾!一帯を覆っていた霧は吹き飛び、風穴を空けるように青い空が広がる!「アイエエエエエエ!?い、一体何が!?」自分たちの眼前でおこるアビ・インフェルノめいた惨状にレーベは悲鳴をあげた。『その様子だと巻き込まれなかったようだな。このIRCを奴らに向けろ、大破していないならばだが』「アイエエエ分かりました!」レーベは言われるがままIRCを前に向けた!

IRCを向けられたハツヅキたちは、立ち上る黒煙の中から立ち上がる。いつの間にか3人の前に割り込んできたアサシモもそこにはいた。仲間を防御するように展開したシールドはひしゃげ、火花を上げている。「ぐっ……総員、被害状況を報告しろ」ハツヅキが肩を抑えながら言った。「見りゃ分かんだろ!シールド破損!痛ェなちくしょう!」「いや~ん!キサラギのかわいい艤装ちゃんが3本も折れちゃったわ~!」「ステルス機構が損傷。このグレネードランチャーの砲撃は………」

『ほう、大破していないのか?そんな装甲でよく耐えるものだな。感心するよ』IRCの声の主は落ち着きはらった声でそう言った。その声を聞いたハツヅキはそれが誰だかを気づいたようだった。砲撃してきた者は自分たちのセンセイであるネオサイタマの英雄、ヤヨイと並び称される、キョートの鋼鉄城と名高いあの艦娘………「貴様は」『アリサワ重工、イソカゼだ。やや遠くからだが正面からいかせてもらおう。それしか能がない、すべてを焼き尽くすだけだ』

【KANMUSLAYER】

◆キリがいいので一旦切りました。残り少しはそっこうで更新する努力をしますのでごようしゃください。アリサワバンザイ。以上です◆

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【KANMUSLAYER】

「すっ……スゴイです!センセイ!当たりました!」数km先の戦場を双眼鏡で観測していたシグレは傍の艦娘に言った。「当たってはいない、範囲には巻き込んだがな」それに応えた艦娘は……これを、艦娘と呼べるのだろうか?その姿は鋼鉄の武装と装甲板で覆いつくされ、異様なシルエットを形作っている。重戦車が海の上にいる、そう形容するほかない。

しかし、その鋼鉄の城の中心にいるのは……ナムサン!豊かな黒髪をたたえた駆逐艦娘である!鉄塊めいた武装とはもっともかけ離れたような瀟洒な少女が、この城の主であった。「はしゃぐな、敵を大破させなければ意味がない。アリサワの艦娘ならばそれくらいは理解しろ」彼女の名はイソカゼ、キョート・チンジフのマスター艦娘である。

彼女はあくまでもキョート所属だが、本人は自らをカラテ艤装の製造企業の一つ『アリサワ重工』の所有物だとしている。アリサワ重工はまさに大艦巨砲主義を地で征く企業であり、製造するカラテ艤装はグレネードキャノンのみ。ほんの一握りの艦娘でないと扱えないような、破壊力のみを追求した装備、通称『オンセン・ウェポン』をこのイソカゼはゆうに6門装備し、海上に仁王立ちしている。並外れたカンムス筋力の持ち主でないとネギトロめいて押しつぶされるのは必死である!

イソカゼに叱咤されたアプレンティス(弟子)のシグレは恐縮するように縮こまってしまった。例えばシグレが重そうに背負っているカラテ艤装、『ぬかびら』は普及型のアリサワグレネードであるが、その大きさ、重さは尋常ではない。小柄なシグレはいますぐにでも潰れてしまいそうだ。しかしそのレベルの装備を普及型と呼ぶことにアリサワの真髄がある。その破壊力に心酔する艦娘は少なくなく、イソカゼはその最たる者であろう。

「はうう……ゴメンナサイ、センセイ……」「いちいち落ち込むな。さて、ヤツらはどう出る?アイツの弟子というならば簡単には退かないだろうが、私の見立てでは、そろそろ……」イソカゼは社紋である『人』のマークのロゴを撫でながら独り言ちた。交戦中の部隊を援護するのが彼女の任務である。次の手を打つのは敵方がなんらかの行動を見せてからだ。落ち着かない様子で双眼鏡を見たりこちらの顔を見たりと忙しいシグレとは対照的に、彼女は離れた戦場を静かに見据えた。


…………………………………

「あいかわらずえげつねぇ威力だな、イソカゼ=サンがやったんだろ?」「うん!ありがとうイソカゼ=サン!」IRCで通信するモガミとレーベにジュンヨウが合流した。血まみれにも関わらず本人はまったく気にしていない様子である。「まったく逃げやがってよ!ビビッちまったのか?」「ウルセェ!今からいくらでも付き合ってやるよ……どっちかがブッ壊れるまでなァ!」ジュンヨウとアサシモが睨み合う。4人全員が小破している、しかしその殺気は今まで以上に膨れ上がっているのをレーベは肌で感じ、恐怖した。

「その通りだ、作戦は続行。先程の砲撃も味方が範囲内にいれば撃ち込んではこない。敵の消耗はこちら以上、このまま始末する…!」「御意」「うふふ~……私たちを怒らせちゃったわねぇ?徹底的に苦しんでくれなきゃ、許さないんだからね?」4人が恐ろしい目つきで徐々にこちらに距離を詰めてくる。モガミとジュンヨウはカラテを構えるが、レーベが役に立たぬ今、イソカゼの援護があるとしても不利な状況に変わりはない!ナムアミダブツ、決着がついてしまうのか!?

しかしその時、戦場に場違いなアイドルソングが鳴り響いた。『ナカチャンカワイイヤッター!サンマよりー♪アタシを見てー♪ダメよー♪解体はヤメテー♪』その場のアトモスフィアが一瞬凍りつく。その中で、平然とIRCを取り出したのはキクヅキだった。着信音を止め、耳に当てる。「はい、キクヅキです。はい、はい……そうです。はい」その間も残り3人の駆逐艦娘はキリングオーラを溢れさせながらこちらを睨んでいる。ジュンヨウとモガミは訝しんだ。

((おい、なんだあいつら?こっちから仕掛けちまうか?))((待ってジュンヨウ=サン、様子を見よう))小声でやり取りする2人を節目にキクヅキは通話を続けている。「はい、御……え?御意はヤメロ?すいません、分かりました。シツレイシマス」やがてキクヅキは通話を終えた。「どうした」ハツヅキがカタナを構えながら言った。「提督=サンから撤退命令。後方部隊をフォローしろ、と」

キクヅキがそう言った瞬間、ブキミなことが起こった。4人が全員武器を下ろし、あっという間に戦闘状態を解いてしまったのだ。禍々しいキリングオーラもどこかに消え、気迫迫る表情もなくなった。モガミたちが唖然とする中、ハツヅキはなんのためらいもなく背を向けた。「……そうか、命令か。総員撤退。モガミ=サン、勝負は預けておくよ。それじゃ」「チェー……命令ならしかたねぇな。あばよ」「あら残念。もう少しだったのにぃ~……命令だもんね、行きましょ」「御意。命令に従い、交戦中のセンダイ=サンとハツカゼ=サンのもとへ向かう」

「……なんだ?アイツらが何考えてんだかまったく分かんねえ。気味わりぃ」「いいじゃないジュンヨウ=サン、助かったんだから。あいたた………もうボクも限界寸前だし」無論2人は追わなかった。基地は守りきったのだ。コロス・カンムスクランの艦娘たちは後ろを振り返ることなく、再びまわりを覆い始めた霧の中へと消える。その後ろ姿はまるでユーレイめいていた。レーベは唖然と座り込む。「…………………」

「それにしても初めてなのにひどいことになっちゃったねレーベ=サン。………レーベ=サン?」「………あっ、はい!モガミ=サン、助けてくれてありがとうございました!」レーベはハッと気づき慌てて頭を下げる。自分は助かったのだ。しかし実感がない。自分を気遣ってくれているモガミも、大破したユラとフルタカを担ぎ上げているジュンヨウも、どこか夢の中の光景のように見えた。自分は『何か』を見た。大破しかけた瞬間に。そしてその何かを忘れている。レーベは思い出せなかった。


………………………………………

同時刻、キョート・チンジフの一室

子供部屋めいたその室内には1人の少女と艦娘がいた。毛布がかけられた少女は、すやすやと寝息をたてている。無垢な寝顔だ。遊び疲れたのだろう。少女に膝枕する艦娘はその?を優しく撫でる。「ウン………ズイウン、ホシイ………ンゥ………」寝言を聴きながらその艦娘、イセはその寝顔に顔を近づけ、話しかける。「……ねぇ」少女は起きない。




「あなた、どこから来たの?」




【ガール・フー・イズント・ボーイ・アウェイクン】終わり

(親愛なる読者のみなさんへ : 終わるのにまた長くかかってまことに申し訳ございませんでした。このままこのペースだと既読者の皆さまも新読者の皆さまも作者もしんでしまいそうなので、次エピソードンでは過去作と同じくらいの更新速度を目指すので研修します。なおコメーントや質問などをかいてくれたらパワが高まる。忍殺第4部、エイジ・オブ・マッポーカリプスがツイッターア連載中、こちらもしよう。以上です)

◆艦◆カンムス名鑑#82【駆逐艦イソカゼ】キョート・チンジフ所属、無派閥のマスター位階の艦娘。カラテ艤装製造企業アリサワ重工の艤装にディセンションした影響か、自らの存在をアリサワの力そのものだとし、それを企業自体も公認している。グランドマスター候補であったが常に前線で自社製品の性能を証明し続けるために、昇進を辞退した過去を持つ。『さくなみ』『わどう』『やまが』合計6門のグレネードキャノンの破壊力はもはや1人の駆逐艦娘が持つ戦力を逸脱している。性格は泰然自若かつ渋い。後進の育成にも尽力している。◆艦◆

◆艦◆カンムス名鑑#83【駆逐艦シグレ】キョート・チンジフ所属、アプレンティス位階の艦娘。イソカゼをメンターにもつ新人かつ半人前の駆逐艦娘。いまだアリサワ重工の艤装を使いこなすことができず、イソカゼに叱られては落ち込んでしまうが根は努力家。見ようによっては少年に見えなくもないが、れっきとした少女である。なおその胸は平坦であった◆艦娘◆

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【KANMUSLAYER】

【メナス・オブ・ダークカンムス】

「イヤーッ!」「ンアーッ!」刹那!男は掴んでいたアマギの帯を勢いよく引き抜いた!アマギのキモノ型装束はなすすべもなく引き剥がされ、下着一枚になってしまった彼女はフートンのひかれた薄暗いタタミ部屋に引き倒された。「ヤメテください!」「ムッハッハッハ!ヨイデワ・ナイカ!」男は容赦なくアマギに覆いかぶさる!「ンアーッ!」

組み伏せられたアマギの両胸が重力に逆らうかのようにそびえ立つ。なんたる豊満!彼女の頬は湯気に当てられたように上気している。「ンアーッ……だ、だめです……私とあなたは上司と部下……こんな、いけないです……」ナムアミダブツ!アマギは抵抗しない!貞操の危機への恐怖へ苛まれているのか!?男はアマギの肢体を容赦なく弄った!「ンアーッ…!」たまらず嬌声をあげるアマギ!

男の様相はまさに獣、かろうじて残った理性は目の前の雌を貪ることしか考えていなかった。そしてついに……おお!僅かに残った鎧ともいえるアマギの下着に手をかけたではないか!「ンアーッ……脱がして、しまうのですか……?」「ググググ………愚問であるぞ…….オヌシは身も心も儂のモノになるのだ。なので今から!オヌシの処女級を捧げてもらう!」「ンアーッ!優しくしてくださいね!」「ムッハッハッハ!ムッハッハッハ!」ナムアミダブツ……ナムアミダブツ!

しかし………その時である!「Wasshoi!!」勇ましきシャウトと共に、まさに男がアマギを引き摺り込もうとしていたフートンから何者かが飛び出した!「エッ?」「何!?」思わず振り向いた2人の視線の先にあったのは赤黒い影。そのフートンの上に立つ影は、ぶら下がった淫靡なピンク色の電灯のヒモをひき、その姿をあらわにしたのだ!「お前は!」男が脱ぎかけた白い軍服を振り乱し叫ぶ!

ピンク色の光の下、あらわになった襲撃者は両の掌を合わせ、決断的にオジギした。血のように赤黒い装束、口元を覆うメンポには『憲』『兵』の禍々しきカンジ、そしてその燃え上がるような両の目には溢れ出る殺提督衝動!「ドーモ、アマギ=サン。そして………提督=サン、センダイです。変態殺すべし、慈悲はない」ゴウランガ!殺戮者はすでにエントリー済みだ!

その提督と呼ばれた男は、ケモノめいた四つん這いの姿勢で新たな獲物に向かいあった。その目からは溢れんばかりの犯艦娘衝動!コワイ!「ググググ……!あくまで邪魔をするかセンダイ=サン!ならば!まずはお前からネンゴロしてやろう!イヤーッ!」提督はロケットスタートめいて人間離れした速度でセンダイに襲いかかる!狙いは彼女のたわわな両太ももだ!「イヤーッ!」センダイは飛び上がって回避!

しかし恐るべきは提督の変態性!「イヤーッ!」飛び上がったセンダイの両足を掴み、引きずり下ろす!彼女の股の間に顔を滑り込ませようとする提督!だがセンダイもさる者、己の股が提督の顔面に辿り着くよりも早く、両拳をハンマーめいて提督の顔面に叩きつける!「イヤーッ!」「グワーッ!」提督はたまらず苦悶!思わず手を離してしまった提督を、センダイは素早くフートンに組み伏せた!ナムサン!先ほどのアマギの状況となんら変わらぬインガオホーたる有様!

「貴方がキョートとセイカンヤに板挟みになり、大変苦労している事はよく知っている」センダイは眼下の提督に語りかけた。提督は抵抗しようとするが、関節を固められており身動きがとれない。「疲れているようだな。だから今から私がマッサージをしてやろう」「何……!?つまりセイカンマッサージという事でよろしいですね?グフフ、スミマセン。ならばこのままリンパの流れ前後を」「無論、カラテでだ!イヤーッ!」「何グワーッ!?」すかさずセンダイは肘打ちを提督の後頭部に叩きつける!

「イヤーッ!」「グワーッ!」右肘!「イヤーッ!」「グワーッ!」左肘!「イヤーッ!」「グワーッ!」右拳!「イヤーッ!」「グワーッ!」左拳!「イヤーッ!」「グワーッ!」右膝!「イヤーッ!」「グワーッ!」左膝!「イヤーッ!」「グワーッ!」右ストンプ!「イヤーッ!」「グワーッ!」左ストンプ!「イヤーッ!」「グワーッ!」頭突き!

すでに満身創痍となった提督をセンダイは担ぎあげ、部屋に飾ってあった掛け軸に向かって投げつけた!「イヤーッ!」「グワーッ!」ナムアミダブツ!提督の頭は『安産祈願』と書かれた掛け軸の中心に壁を破って突き刺さる!晒された無防備股間をセンダイは見逃さなかった。すかさずゼロセンを投擲!「イヤーッ!」「アバーッ!?サヨナラ!」提督の股間は爆発四散した。

センダイは静かにザンシンした。壮絶な様相で事切れた提督と、赤黒の殺戮者を唖然と見つめていた半裸のアマギは、ハッと我に返った様子で急いで衣服を集め、慌てて部屋を出て行こうとした。「あ、あの、助かりました。それでは私はこれで」「待て」センダイは彼女を引き止めた。アマギはびくりと肩を震わせた。様子がおかしい。つい先ほどまで純潔を散らそうとしていた艦娘らしからぬ態度である。「あの……私にまだ何か?」「もう一つの案件がある」

センダイは懐から何かしらの小瓶を出し、アマギに突きつけた。「これだ」「何ですかこの瓶は?私、見覚えは」「あるだろう。この『超強力眠気覚まし・ピル』は、君が提督=サンに淹れた茶に混ぜたものだ」「…………」アマギは応えなかった。センダイは構わず続ける。「すべて知っている。やっとのことで業務を終え、31時間ぶりに休もうとした提督=サンに淹れた茶の中に混ぜた薬の事。意識が朦朧とし、今にも暴走状態に陥ろうとした彼を、このネンゴロ・ルームに故意に連れ込んだ事もすべてだ」

何も答えぬアマギを、センダイは射抜くような容赦なき視線で見つめる。「おもてなし部門長の君ならば知っているだろう。暴走状態の提督=サンに故意に接触する事。さらにその状態で既成事実前後を謀る事が固く禁じられていることは。君は罪を犯した」「……ならば?」アマギは顔をあげた。笑顔はない。おかしな目つきでセンダイを見ている。「ムーホン者罰すべし、慈悲はない」センダイは怯むことなく決断的に言い放った。

「……ウフッ、ウフッ!アハハハハハハハハハッ!」次の瞬間、アマギは壊れた人形のように半裸で笑い始めた。その顔は美しいが、彼女は狂っていた。「仕方!ないじゃないですか!?提督=サンの周りには女の子がいすぎるんです!私の……私だけの提督=サンにするためには!こうするしかないじゃないですか!?そうは思いませんか!?センダイ=サン!?」「思わぬ」「違う!違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違うッ!!提督=サンは、私だけのものです!」刹那!アマギは豊満な谷間から、丸めたケッコンカッコカリ届けを引き抜き、センダイに襲いかかった!「キエーッ!」ナムアミダブツ!

「イヤーッ!」だがセンダイがハヤイ!飛びかかろうとしたアマギの両こめかみを掴み、マンリキめいた力を込めたアイアンクローを炸裂させた!「ンアーッ!?」アマギは突然脳神経を圧迫され、あっけなく意識を失った。そしてアマギがフートンに倒れ込むと、フスマを開けて警備クローン妖精がなだれ込んできた。「御用だ御用だ!」「御用重点!確保重点!」あっという間に事切れた提督と気を失ったアマギを拘束した。それに続き、この淫靡な部屋に入ってきたのは、クロー妖精部門長のオオヨドと、秘書艦のヒュウガであった。

「どうやら間に合ったようだな」「お見事です。センダイ=サン」そう労われたセンダイの顔はすでにメンポはなく、元の人懐こい笑みが広がっていた。「おまかせあれ!暴走するのがそろそろだと思ってたんだ。私がいる限り提督の毒牙の犠牲者は出しませんから!」センダイはやや平坦な胸を誇らしげに張った。「そうだな。犠牲者を………これ以上は、な」「へ?」「何でもない。しかし真面目なアマギ=サンまで事に及んでしまおうとするとは、危ないところだった」

「一体どうしちゃったんですか……?大丈夫かな、アマギ=サン」担架に乗せられたアマギを心配そうに覗き込むセンダイにオオヨドが言った。「アマギ=サンは少々心労が溜まっていたのです。部門長としての仕事と艦娘としての任務、正気に戻ったはいいが天狗の悪夢にうなされる妹さん、そして未だキョートにいるお姉さんへの心配がアマギ=サンを混乱させてしまったのです」「そうだったんだ……」

「安心してください。タツタ=サンには念入りに研修しておくように要請しておきますから、きっと元のアマギ=サンに戻ってくれますよ」「提督は?」「いつも通り入渠ブロに浮かべておきます。それでは失礼します」オオヨドの目は優しかった。そのまま提督とアマギが乗せた担架を担いだクローン妖精を引き連れて、部屋を後にする。「それじゃ、わたしもこれで…」「ちょっといいか?」続いて出て行こうとするセンダイをヒュウガが呼び止める。

センダイには心当たりがあった。おそらくこの事だろう。「アマギ=サンの事なら大丈夫ですよ!ちょっと気絶してもらっただけだし、提督の方は、アー………ちょっと頭にきたから念入りにやっちゃいましたけど!提督は丈夫だし問題な」「違う、そんな事はどうでもいいんだ」「え…?」ヒュウガの表情は真剣だった。そしてセンダイは、次にヒュウガが言ったことに、虚を突かれたように言葉を失った。「君の家族の事についてだ。君と、ナカ=サンの姉妹…………ジンツウ=サンの事についての、な」

【KANMUSLAYER】

◆今日の午後な◆

◆作者のスマッホーンが磁気嵐を起こしてしまったので更新は遅れるので申し訳ありません。明日な◆

◆◆◆◆◆◆◆◆◆

【KANMUSLAYER】

午前7時。やや早い時間ではあるが、艦娘たちのアサレン・トレーニングにとっては終了時間が近づいている。ここ、ネオサイタマ・チンジフ内のドージョーのひとつでは熟練者からニュービーまでの駆逐艦娘たちが集団カラテトレーニングを行っていた。「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」それぞれ異なる声音のシャウトがドージョーに響く。

「オラ!声が小せえぞ!」新人や経験の浅い者たちの教育を担当するテンリュウが怒声をあげた。「俺よりデカイ声出せチビども!」「ハイ!イヤーッ!」「まだ小せえ!」「イヤーッ!!」「その意気だ!次は組み打ち!始めろオラ!」「ハイ!イヤーッ!」たちまち駆逐艦娘たちは二人ひと組となり、激しいワン・インチ組手を開始した。

「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」数十人の駆逐艦娘たちによって行われる激しい組手!「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」小柄なのにも関わらず、彼女たちの緊張感あふれるカラテは数多くのイクサで勝利を納めてきたチンジフの力の証明そのものである。

「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」組手する駆逐艦娘の中のひと組、短めの黒髪を束ねた艦娘と、ワンピース制服型装束を着た艦娘に見覚えはないだろうか?そう、一人の名はフブキ、もう一人の名はユキカゼ。数ヶ月前にひとりはスランプに陥り、もう一人は着任して間もなかったが、2人の眼光は明らかに鋭さを増している。両者のカラテは拮抗。それを見守るテンリュウは、2人のカラテの成長を確信していた。

「「イヤーッ!イヤーッ!………イヤーッ!」」正拳!掌打!………回し蹴り!繰り出されるユキカゼのカラテを丁寧に防ぐフブキ。フブキは最後の蹴り足を両手の平で挟み、捻るようにして投げた。「イヤーッ!」「イヤーッ!」ユキカゼはキリモミ回転し、バランスをとって着地。「コラ!ハマカゼ=サン!相手の服を脱がすな!ケジメはよせ。組手終わり!。互いに礼!」テンリュウの一声で両者は丁寧にオジギし、組手を終了した。

「ユキカゼ=サン、わたしが言うのもなんだけれど……」フブキが顔を汗で火照らせながら、にっこり笑った。「また強くなってるよ!練習の甲斐があったね!」「ドーモ!そちらこそ!」ユキカゼも荒い息を吐きながら笑い返した。「いつもフブキ=サンがカラテのトレーニングに付き合ってくれたおかげだよ。一緒にもっと強くなろう!」「うん!」2人は手を取り合い、お互いの成長を讃える。この2人はどこで仲良くなったのか、自主カラテトレーニングを共に行い、ユウジョウを深めていたのだ。

「おいコラ!これくらいでいい気になってんじゃねぇぞ」そんな2人に近づいてきたテンリュウが一喝する。2人は慌てて姿勢を正した。「おめーらは確かに強くなった。それは認めてやる」「「ハイ!」」「だがまだまだだ!ヒヨッコであることに変わりはねえ!もっとさらに鍛錬を……うお!?」しかし、誰かが後ろから彼女にもたれかかり、その説教は中断されてしまった。「ハイハイハイハイ!そこまでよテンリュウちゃん。アータ、クドイ説教じゃこの子達は育たないってのよ!」

「おいコラ!これくらいでいい気になってんじゃねぇぞ」そんな2人に近づいてきたテンリュウが一喝する。2人は慌てて姿勢を正した。「おめーらは確かに強くなった。それは認めてやる」「「ハイ!」」「だがまだまだだ!ヒヨッコであることに変わりはねえ。もっとさらに鍛錬を……うお!?」しかし、誰かが後ろから彼女にもたれかかり、その説教は中断されてしまった。「ハイハイハイハイ!そこまでよテンリュウちゃん。アータ、クドイ説教じゃこの子達は育たないわよ?」

テンリュウはその重巡洋艦娘を睨みつけた。「てめっ……キヌガサ!」「アーララ怖い顔。アータには笑顔が足りないのよ。笑顔が!」「うるせえ!お前は甘いんだよ!」そのキヌガサと呼ばれた艦娘は長身かつグラマーな体型に、やや不釣り合いな制服型装束に、ややうっとおしいきらびやかなアクセサリーをあしらい、なおかつやや化粧が厚めだった。困ったように笑いその様子を見つめる2人に向かって笑顔を向ける。「中々よくやってるわアナタ達。この調子でがんばりなさい!ほら、アレよ。ミヤモト・マサシのコトワザで……石の上にも30年?とにかくアレよ、がんばりなさい」「「ハ、ハイ!もっとがんばります!」」

「ったく……!お前はうざいし、グラーフのヤツは病み上がりだとか言って指導をサボるし!イラつくんだよコラ!」「ハイ、どーどーテンリュウちゃん」ニュービー艦娘たちを指導するのはチンジフ発足当時からの熟練の戦士たちである。経験に勝るものはイクサにおいて何もない、というのが提督のポリシーである。「お二人さんともこんな乱暴なセンパイになっちゃダメよん?ま、テンリュウちゃんの言う事に間違いはないケドね~。鍛錬は絶やさずに!絶やしちゃうと……」そう言うと、キヌガサは横目で未だ行われているひと組の組手をちらりと見た。

「グワーッ関節グワーッ!タップタップグワーッ!」ちょうどハツカゼがヤヨイにアームロックを決められている最中であった。「組み付きが甘いわ」「いだ…….いだだ……スイマセン……」ヤヨイはハツカゼを解放すると、無感情に言い放った。満身創痍のハツカゼに対し、ヤヨイは僅かでさえも息をあげていない。「こうなっちゃうわよねェ、ちょっとハツカゼ=サン!アータ組手で大爆発四散したりしないわよね!(冗談よ)」「だ、大丈夫!まだまだっ!」ハツカゼはよろよろと立ち上がり、果敢にヤヨイに挑んでゆく。ヤヨイに鍛えてもらうように頼んだのはハツカゼ自身であった。

((わたしは強くならなきゃ……!ジツ頼りじゃあ勝てない!まずはなまくらのカラテからなんとかしないと!))ハツカゼは自負していた。ジツはともかく、自分はカラテが絶望的に弱いと。今まで窮地に陥ったときはユメミル・ジツでなんとかしてきた。しかしそれではダメだ。ノーカラテ・ノーカンムス、ジツに頼りすぎることはいつか身を滅ぼすだろう。それをハツカゼは長らく離れていた戦場から改めて学んだのであった。「イヤーッ!」あくまで自然体のヤヨイへ向かって突き走る!

だが!「……あえっ?グワーッ!?」次の瞬間、ハツカゼはタタミに顔面から激突していた。ナムサン!突撃を軽く避けたヤヨイが足を引っ掛けたのだ。「正面からの突撃は無謀よ」そう言うと、無表情で倒れたハツカゼの尻に蹴りを入れる。「グワーッ!」「追い討ちも警戒。早く抜け出して」「グワーッ!お、おしりは弱いのグワーッ!やめグワーッ!許しグワーッ!」ハツカゼの尻に蹴りを入れ続けるヤヨイから視線を戻し、キヌガサは言った。「にしても指導を頼んだ相手がいきなりヤヨイ=サンってのはなぁ……アータらもサボったらあーなっちゃうわよ、鍛錬なさい」その言葉に2人はガクガクと頷くしかなかった。

【KANMUSLAYER】

◆今日こそ今日な◆

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【KANMUSLAYER】

アサレン・トレーニングは終わり、ドージョーの掃除を済ませた艦娘たちは食堂へと向かう。朝食、そして朝礼が終わる共に業務開始だ。こうしてネオサイタマ・チンジフは朝を迎えるのである。「大丈夫ですか。ハツカゼ姉さん」「だいじょうぶ………じゃない……おしりいたい……」「ねえねえフブキ=サン!昼休憩のときにナカナカカワイイの特別ライブがやるんだって!観に行こうよ!」「うん!」

和気藹々と話しながらドージョーを後にする若き戦士たちを、テンリュウは黙って見送った。その表情は何かを憂いているような、強気な彼女には似合わぬ表情。それに気づく者はいない、ただ1人を除いて。「どしたのテンリュウちゃん?似合わないツラね」キヌガサが横に並び、駆逐艦娘たちを見送っている。「うるせえ。アイツらがブザマに沈まねえか心配なだけだ」「わーってるわよ、これからのチンジフを支えるのはアノ子たち。だからこーして生き抜けるよう鍛えてるんだから」

「このままセイカンヤにキョートとやり合えば、三年前のあの時と同じ事がまた起こるかもしれねえ」「マルノウチ抗争、ね」キヌガサの言葉にテンリュウはしばし口をつぐみ、小声で言った。「………チビどもに同じ思いはさせたくない」

キヌガサは力強い横顔で頷く。「アタシもよ、もう絶対に繰り返さない。だからあの子たちにアタシたちが教えるの。もう……あの人はいないのだから」しかしテンリュウは最後の言葉には首を振った。「いや、『あの人』はきっと帰ってくる。それまでは俺たちが守るんだ………自分たちの家をな」その言葉は自らに言い聞かせるようであった。

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時は進み昼休憩!ここは食堂横に開設された特別ライブステージである。レクリエーション長のクマがゴリ押しで費用を捻出させ作ったと専らな噂だが、チンジフの特別行事において実際大きな役割を持っているので提督にもその存在を黙認されているのだ。今日この時間にチンジフのイメージアイドル、『ナカナカカワイイ』のスペシャルライブがあるというお知らせを受け、数十人のファンであるチンジフ内の艦娘たちがライブの開始を今か今かと待っている。

ナカナカカワイイの正体は何を隠そうあのセンダイの妹の1人、軽巡洋艦娘のナカである。当初その地道なアイドル活動は存在すら知られていなかった。しかしその活動が駆逐艦娘たちの間で小ブームになると、そのブームは瞬く間に広まり、もはや小ブームと呼べぬ中ブームへとなったのだ。その人気ぶりは20人足らずの観客たちを見ればよく分かるだろう。

「ねえねえユキカゼ=サン、まだかなまだかな……!はやく始まらないかな!」「もう始まるよ!イントロが流れ始めてるもん!」最前列で心待ちにしていたフブキとユキカゼの期待に応えるかのように電子サンプリングのイントロが鳴り始める。ズンズンズンズズポポポポーウ!ズンズンズンズズポポポポーウ!今まさにナカナカカワイイの代表曲、「ほとんど解体行為」が始まろうとしていた!

次の瞬間!ステージの床下から自称トップアイドル、ナカナカカワイイがカンムス柔軟力を最大限生かしたW字ジャンプでクローンバックダンサー妖精たちと共に垂直射出カタパルト機構で勢いよく飛び出したのだ!「カワイイヤッター!!」観客全員に向かってウィンクを飛ばす!「「「「「ワー!スゴーイ!」」」」ライブ会場は瞬く間にハイボルテージとなった!

しかし…………異常事態発生!W字ジャンプから着地したナカナカカワイイの笑顔が固まった。何が起こったのだ!?それは……おお、ナムアミダブツ!見よ、その足首を!完全に変な方向へ曲がっているではないか!?((グワッ……))ナカナカカワイイは誰にも聞こえないように小さなうめき声を出した。様子がおかしいのを察した観客たちが怪訝な表情を浮かべ始める。このままではライブ中止不可避か!?

だが!つい最近大爆発四散の修理が終わったばかりのナカナカカワイイは折れなかった!「…………もう一度いくよー!カワイイヤッター!!」額から滝のように脂汗を流しながら、しかし姉譲りの天真爛漫な笑顔で再び大きくW字ジャンプしたのだ!「「「「ワー!!カワイイヤッター!!」」」」再び最高ボルテージまで駆け上がったファンたちが一斉にW字ジャンプを行う。「カワイイヤッター」コロス・カンムスクラン所属のキクヅキも最前列でW字ジャンプ!彼女も熱心なファンの1人である!

「いっくよー!5-5-5-5-5-!」空中で足首の方向を無理矢理戻したナカナカカワイイがマイクに向かって叫ぶと、クローンバックダンサー妖精たちが一糸乱れぬナカナカカワイイ・ダンスを踊り始める!「五万燃料?、もっと私をカワイイにしてみせるー、五万鋼材?、提督もそれで楽しい気持ちでしょうー」「「「ワオオオオオーッ!」」」オーディエンスはさらなる大歓声でこれを迎える!

「今夜アップデートが終わったあとにー、私の事建造する権利あげるからー!」「「「「カワイイ!!」」」」一斉に合いの手をうつ、よく訓練されしファンたちへ向けられるのは確固たる自信に裏打ちされた屈託の無い笑顔!彼女は満面の笑みでステージ上を跳ね回る!「みんな今日はありがとう!ナカチャンがもっともーっとカワイイにしてあげるよー!!」曇る事なく輝く笑顔は歓喜を促す!なんたる一体感か!

「艦隊のアイドルですよ~!?ジャンプ!ダンス!ジャンプ!」「「「「カワイイヤッター!!!」」」」おお……おお……見よ、艦娘たちが生み出した、何物にも侵すことのできぬサンクチュアリを!古事記に予言されし、マッポーの一世を吹き飛ばすかのような熱気がここにはあった。ライブ会場に厖大なエネルギーが渦巻く。方向を持たぬ、しかし希望に溢れし衝動的かつ圧倒的なパワを……!

【KANMUSLAYER】

◆艦◆カンムス名鑑#84【正規空母アマギ】ネオサイタマ・チンジフ所属、おもてなし部門長を務める艦娘。多種多様な礼儀作法に通じる振る舞いは、同じくキョートの同部門長のチクマと並び称される。普段はつとめて奥ゆかしい性格。しかし陰では提督への劣情をそうとう拗らせていたようで、遂にばくはつしてしまった。正規空母娘の例に漏れず豊満。キョートから救い出した、最近謎の天狗の悪夢をみている妹は平坦であった。◆艦◆

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