凛「店番、時々アイドル」 (34)

春の大型連休も過ぎて、降り注ぐ日差しは暖かさから暑さを感じるようになってきた。
春の陽気ももうすぐ終わって、これから湿度の高い梅雨がやってくる。
奈緒なんかは髪がまとまらなくてほんと嫌になる!なんて、ぼやき始めるんだろうな。
話しは変わるけど、何気ない口約束っていつまで有効なんだろう。
1週間、1か月、1年以上、あるいは……そんなある夏の気配を感じ始めた日のこと。

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奏「こんにちは、お邪魔するわ」

凛「いらっしゃい。今日はひとり?」

奏「ええ、実はおつかい頼まれちゃったの」

凛「奏が、おつかい?」

奏「ふふ、意外そうな顔しちゃって」

凛「だっておつかいなんてキャラじゃないでしょ。誰から頼まれたの?」

奏「フレデリカよ。『もうすぐ志希ちゃんのハッピーバースデーだから、今度はアタシがプレゼントするんだー♪でもずっとお仕事入っちゃって受け取りにいけないから、奏ちゃんにはじめてのおつかいして欲しいな☆』って――凛、なに笑ってるの?」

凛「やる気のない物真似がちょっと面白くて」

奏「そう?けっこうフレちゃんの特徴つかめてると思わない?それより、何のことか巻き込まれた私に説明してくれないかしら」

凛「えっと、フレデリカから注文なんて……あ、今度はって言ってたってことは……」

奏「何か思いあたることがあったみたいね?」

凛「フレデリカの誕生日前だったかな、志希とふたりでお店に来てね。私が選んだ花を、志希がプレゼントしたことがあったんだ」

奏「それで次は志希にお返しってことね……ふぅん、楽しそうなことしてるじゃない?」

凛「たしかに、今度は志希ちゃんのプレゼント選びだねー、なんて言ってた気がするけど……私の方が忘れちゃってたよ」

奏「あの子って適当そうで、そういう所はちゃんと覚えてたりするのよね」

凛「それを無関係な奏に頼む辺りも、フレデリカらしいというか」

奏「面白そうだし、私は構わないけどね。さて、忘れん坊の凛はどんな花を選ぶのかしら?」

凛「奏の悪戯っぽい笑顔が私に向くなんて……」

奏「凛って普段はつつけるような所を中々見せないんだもの。ふふ、その顔見れただけでも、おつかい頼まれて正解だったわ」

凛「もう、わかったから待ってて!志希にぴったりな花、選んでくるから」

奏「はいはい、ちゃんと待ってるからゆっくり選んできて」

凛「決めたよ。志希への誕生日に贈る花は、これ」

奏「薄紫色……いえ、ソフトピンクの薔薇ね。花弁が多くて普通の薔薇より見た目がふわふわしてる……うん、良い香り」

凛「色合いも志希っぽいでしょ」

奏「そうね。名前はなんていうの?」

凛「このバラの名前は、スピリット・オブ・フリーダム。花言葉は“先駆者”」

奏「自由の魂、そして先駆者か……たしかに、何者にも縛られない彼女らしい名前ね」

凛「丈夫でよく伸びるから、剪定次第ではつるバラとしても仕立てられるよ」

奏「つるバラって、よく薔薇のアーチとかで見るあれのこと?」

凛「そう。バラは大まかに、木バラと半つるバラとつるバラの種類に分けられるの」

凛「成長も早くて、放っておいたら色んな方向に向かって伸びて花を咲かせる……名前はこんなところからきてるのかも」

奏「ふふ、ちょっと目を離したら放浪しちゃうところも、志希みたいでいいじゃない。お似合いね」

凛「少しは見直してくれた?」

奏「もう、別に馬鹿にしたわけじゃないから、許して?そうやって気にするとこも可愛いけどね」

凛「も、もう、またすぐそうやって……!」

奏「なんて、冗談よ。さすがね、凛。見直しちゃったわ」

凛「お待たせしました、どうぞ」

奏「ありがとう。志希もそうだけど、フレちゃんも喜んでくれそうね」

凛「そうだと嬉しいんだけどね」

奏「きっとそうよ。あと、私の番も期待してるわ。素敵な花を選んでね?」

凛「奏への花か……実は、もう思いついてる」

奏「そうなの?」

凛「でも、考え直しだけど……」

奏「残念ね。ボツにしちゃうのも勿体ないし、その花のこと聞いてもいい?」

凛「別にいいよ。最初に考えてたのは、ザクロ」

奏「ザクロって、あの果物の?」

凛「うん。奏は撮影の消え物としても使ったでしょ」

奏「そんなのもあったわねぇ……それだけだったら、理由としては単純すぎない?」

凛「もちろん違うから。ザクロの花言葉は“成熟した優雅さ”。まさに奏らしい言葉じゃない?」

奏「そんな意味があったの。でも、ボツってことは頂くことはできないみたいね」

凛「うちじゃザクロの果樹は扱ってないからね。残念だけど」

奏「なら、それに負けないくらいの花を選んでくれるんでしょ?だったら期待してるわ。それじゃ、帰るまでがおつかいだから、そろそろ戻るわね」



後日、志希の誕生日にフレデリカからバラの花束が贈られた。
志希本人はプレゼントの件をすっかり忘れてたみたいで、そういう意味ではサプライズと言えなくもない、かも。
奏は花の意味についてもしっかり教えてくれたみたいで、フレデリカも志希も喜んでくれた。伝えてくれたこと、感謝しないと。
彼女に似合う花、いろいろ探しておかないとな。私なりの感謝の気持ちも込めて。

梅雨入りから降り続いた雨もあがって、久しぶりの晴れ模様。
それでもニュースの週間天気では、明日からまた暫く傘のマークが並ぶみたい。
家のベランダには待ってましたとばかりに、たくさんの洗濯物が風になびいていた。
お客さんもまばらな昼下がり、私も久しぶりの日光を体で受け止めようと、店先に出て商品の手入れをしている。
そんなある梅雨の晴れ間の日のこと。

あやめ「おや、凛殿ではないですか」

肇「こんにちは。花屋さんとは聞いてましたが、ここだったんですね」

凛「あれ、ふたりともどうしたの?お店に用ってわけじゃなさそうだけど」

あやめ「わたくし達はレッスンが終わってこれから戻るところです!」

肇「今日はもう予定もないしゆっくり帰ろうと、いつもと違う道にしたんですが……偶然ですね」

凛「そうだったんだ。今日は久しぶりに晴れたし、歩きたくなる気持ちもわかるな」

肇「最近はずっと雨続きでしたからね」

あやめ「忍びとは影に住まうものですが、お天道様の下にも出たいですから!」

凛「あ、時間あるならお店の中見てく?ちょうどこの時間はお客さんもあまり来ないし」

肇「いいんですか?じゃあお言葉に甘えます」

あやめ「ではお邪魔します!」

肇「どれも綺麗ですね。見ているだけで心落ち着きます」

あやめ「うむ、草花は癒されますなー」

肇「私は田舎育ちなので、こうやって緑に囲まれているのが好きですね」

凛「やっぱり都心は緑が少ない?」

肇「うーん、そうですね。ですが公園なども多いので、想像していたよりは多いですよ」

あやめ「もっとビルばかり立ち並ぶ大都会というイメージでしたが、意外とそうでもないんだなと思いました!」

凛「東京といっても地域によっては全然違うからね」

あやめ「わたくしの地元も自然豊かな地でしたので、草花の香るこのお店は落ち着きますね!」

凛「ふたりとも小さいころは自然の中で遊んでたりしてた?」

あやめ「忍者に憧れ野山を駆け回ったことはあります!」

肇「おじいちゃんと一緒に渓流釣りに行ってましたね」

凛「ふーん、なんかいいね。私は山で遊ぶって全然ないから」

あやめ「凛殿のように都会に生まれ住んでいる、というのもある意味憧れではありますよ」

肇「この前、実家に帰省した時に、田舎も都会もそれぞれ違った良い部分があると思いました」

凛「そうなんだ。やっぱり隣の芝は蒼いってことなのかな」

凛「私はずっと実家に住んでるからわからないんだけど、やっぱりたまの帰省って良いものなの?」

肇「はい、育った土地に戻って羽を伸ばすのは気持ちがいいですね」

あやめ「あとは久しぶりに会う家族に近況を話したり、ですかね?」

肇「おじいちゃんは最初、私がアイドルのために上京するのを反対したんですけれど『やるからには完璧を目指せ』と認めてくれて……あのときは嬉しかったです」

あやめ「それは嬉しいですね!わたくしも祖父と一緒に時代劇を見た影響で忍者好きになったので、祖父はいまの忍ドル活動を応援してくれてます!」

凛「ふふ、ふたりともおじいちゃん子なんだね」

あやめ「はい!……あ、でも、久しく会ってないですね」

肇「あやめちゃんは帰省しないんですか?」

あやめ「スケジュールの都合でタイミングが中々……やはり、多少まとまった日数でないと出向くのも難しいですから」

凛「両親に連絡したりとかは?」

あやめ「父や母とは携帯でやり取りできるんですけど、祖父はそういった類を持っていないので……手紙も考えたんですけど、その」

凛「手紙は良い考えだと思うけど……何か問題あり?」

あやめ「いえ、これはわたくし自身の問題ですね……なんといいますか、いざ文をしたためようとすると、何と書けばいいものかわからなくなりまして……」

凛「たしかに、普段文字でやり取りしてない家族への手紙って、案外難しいかも……」

肇「おじいちゃんが好きだからこそ、伝えたいことがまとまらないって事なんでしょうか?なんとなくわかります……」

あやめ「って、しめっぽくなってしまいましたね!せっかくのお天気なんですから、この話はやめましょう!肇殿も凛殿も、忘れてくださって構いませんので!」

肇「あやめちゃん……」

凛「……あ、そうだ!」

あやめ「凛殿?」

凛「あやめ、手紙じゃなくてもいい方法があるよ。はい、これ」

あやめ「ん?この花は……アヤメですね。わたくしの名前と同じなので知っています!」

肇「アヤメの花が咲いていると、春から夏になるんだなって感じますね」

凛「花言葉は知ってる?」

あやめ「いえ、花言葉まではちょっと。どんな意味なんですか?」

凛「アヤメの花言葉は“吉報”“嬉しい便り”“希望”なんてのがあるよ」

あやめ「嬉しい便り、ですか……由来は何なんでしょう?」

凛「ギリシャ神話の侍女イリスが、神酒をふりかけられて虹の女神になったとき、地上に零れた神酒がアイリス(アヤメ)になった……なんて伝説からだったかな」

凛「そしてその後、イリスは虹を渡り神々の伝令を務めることになるの。これが由来」

肇「つまり、アヤメの花をお送りする、と?」

凛「そういうこと。気持ちを花言葉に乗せて贈るってよくあるし」

凛「あやめの名前の由来がこの花からきてるのかはわからないけど、きっと伝わると思うよ」

肇「うん、いいと思います!会いたくないわけじゃなく、それだけ忙しくて充実してるから中々会いに行けないって、あやめちゃんのおじいちゃんもきっとわかってますよ」

凛「それだけ仲が良いなら、なおさらね」

あやめ「……はい!あやめの気持ち、アヤメの花に託してみます!」

凛「それじゃあ、ちゃんと送っておくからね」

あやめ「凛殿、ありがとうございました!」

凛「待って。住所以外にも、あとこれ書いてもらわなきゃ。はい」

あやめ「これは……メッセージカードではないですか」

凛「ひとことだけでも、直筆で何かあった方が喜ぶよ。それくらいなら書けるでしょ?」

あやめ「う……まぁ、ひとことだけなら!」

肇「うん、その方が、あやめちゃんのおじいちゃんもきっと喜びますよ」

凛「肇の実家にも送ろうか?」

肇「意外と商売上手ですね。うーん、実家には花もたくさん飾られてますし」

凛「そんなにあるの?」

肇「そうですね、おじいちゃんの作品には花器もありますので……あ、凛さん、ちょっと相談したいことが……」

凛「ん、どうしたの?」

あやめ「書けました!って、おふたりで密談ですか!わたくしも混ぜてください!ニンッ!」




色々準備したりして、予定よりも少し遅くなったけれど、無事に旬の期間にはアヤメを贈ることができた。
それからしばらく経ったある日、あやめに一通の手紙が届く。もちろん、差出人はお祖父さんから。
『便りのないのが良い便り。体に気を付けて』短く力強い達筆で書かれたそれに、メッセージがちゃんと伝わったことがわかって嬉しかった。あやめのお祖父さん、かっこいいなぁ。
同封されていた写真には、見事な花器に生けられたアヤメと、それを囲む家族が写っている。
電話で事情を説明したら二つ返事で承諾してくれて、すぐ花器をこっちに送ってくれて……肇のお祖父さんも、負けず劣らず粋でかっこいいんだから。

夏の猛暑も少しずつ引いて、昼はまだ暑いけど夜は涼しい風が体感にも丁度いい。
そんな心地よい風に乗って、遠くからは小さく祭囃子が聞こえる。そういえば、今夜は秋祭り(ギリギリ夏祭り、かな?)をやってる所があるんだっけ。
お祭り自体は嫌いじゃないけど人も多いし、こうして耳を澄ましているだけでも私は十分お祭りを楽しめる。
遠くに聞こえる祭囃子って、ノスタルジックな気持ちにさせてくれて、なんか好きだな。そんなある夏の終わりの日のこと。

あずき「こんばんはー!」

文香「夜分遅く……失礼します」

凛「あずきに文香、こんな時間にどうしたの?それにその恰好」

あずき「お祭りだから浴衣大作戦だよ!」

凛「あぁ、お祭り行ってきたんだ」

文香「はい、私はあずきさんに誘われたので……まさか、浴衣まで着るとは思いませんでしたけど」

凛「あずきと文香ってそんなに仲良かったんだね、事務所で絡んでるところあんま見ない組み合わせだから驚いちゃった」

文香「そうですね……なぜ誘われたのか、私自身もがよく分かっていません……」

凛「そうなの?」

あずき「この浴衣、絶対文香ちゃんに着てほしかったんだー!似合ってるでしょ?」

凛「まぁ、似合ってはいるね。文香も誘いに乗ったっていう、それが一番意外かも」

文香「以前の私なら、どうでしょう……最近、少し考えたことがありましたので……」

凛「どんなこと?」

文香「私は本が好きで、そこから得られる知識はありますが……実際に体験しなければ、真に理解することは難しい……と」

凛「それで、色々やってみようと?」

文香「はい……アイドルという、得難い経験をさせて頂いてますし、自分なりにも……知識だけでなく、見聞を広めていこうと思いまして」

あずき「文香ちゃんって難しいこと考えてるね!やりたいことやってみて、知りたいこと知っていけばいいんだよ!そうじゃないものは後回し大作戦!」

文香「あずきさんのように即行動を起こすのは……少し難しいかも知れません……」

凛「文香があずきみたいになれってのは、ハードすぎるね。想像つかない……」

文香「だからこそ……あずきさんや、茜さんや周子さんのように、引っ張ってくれる皆さんに……感謝しています。今日も浴衣でお祭りに出掛けて……楽しかったです」

あずき「でしょ!誘ってよかったー!」

凛「うん、浴衣ほんとに似合うから、着ないと勿体ないね。プロデューサーに見せたら浴衣関係の仕事取ってきそうなくらい」

文香「あ、あまり見られると……恥ずかしいです……」

凛「下駄の花輪も浴衣に合ってていいね」

あずき「やっぱり和装は足元までセットにしてこそ、だから」

凛「花輪の柄って、意外と凝ってるもの多いよねぇ」

文香「昔の男性は、恥ずかしさから意中の女性の顔を見れず下を向いてしまう方が多かったので、女性は鼻緒のお洒落に力を入れた……なんて話も、ありますね」

あずさ「お~、奥ゆかしい日本女性らしいエピソードだっ!」

凛「大和撫子ってやつだね……あれ、よく見ると文香の下駄に、何か付いてるよ?」

文香「何でしょう……あ、これは……金木犀の花弁、ですね」

あずき「そういえば途中の庭先から、ぶわーって咲いてる所あったね」

凛「そっか、もうそんな季節なんだ」

文香「金木犀の香りがすると……いよいよ夏も終わりという気がしますね」

あずき「あずきもこの匂い好きー!いい匂いだよね!」

凛「原産の中国ではお茶やお酒に付け込んだりして、香味料としても使われるくらいだからね」

あずき「へぇ~……いい匂いなんだけど、トイレの芳香剤のイメージがあるから、口に入れるものとしては違和感かも」

文香「昔のお手洗いは汲み取り式で臭いも相応にきつかったので……それに負けないような、強い香りの金木犀を芳香剤として使うことが、多かったそうです」

凛「ふーん、いい香りなんだけど、たしかにイメージが付いちゃってる感じはあるよね」

文香「最近では、そういった商品も多様化してますし……金木犀の香りには、食欲を抑制する効果がある……という研究も発表されましたね」

あずき「そうなの?凄いね金木犀!金木犀のお茶を飲めばダイエット間違いなしだっ!」

凛「やっぱり文香は物知りだね」

文香「いえ……そんなことは……」

凛「ふたりは金木犀の花言葉って知ってる?」

あずき「花言葉?んー知らない!」

文香「確か……“謙虚”や“気高い人”、でしたでしょうか……」

凛「文香は流石だね。そう、あんな良い香りを放つのに、花自体はとても小さいから“謙虚”」

文香「“高潔”は、一斉に開花して、散る際も一斉に散る……そんな潔さから、きているそうですね」

あずき「金木犀って散るときも凄いもんね!道路がオレンジ色の絨毯みたいになるくらい!」

凛「謙虚も高潔も、文香に似合う言葉だね」

文香「そんなことは……」

あずき「文香ちゃん、そういう所だよっ!」

文香「謙虚ではなく……私の言葉には、重みが足りませんので……」

凛「重み?」

文香「古今東西……時代も場所も越えて、花の美しさや素晴らしさを謳う書物は数多くあります……その1節を覚えていて、口にすることはできますが……やはり実際に見て、触れたことのある人の紡ぐ言葉のほうが……より重みがあります」

凛「……それが、知識だけじゃなく、実際に経験するってことにかかってくるんだね?」

文香「はい……ですから、いまは様々なものに触れていきたいと思っています……」

あずき「文香ちゃんかっこいー!あずきもトップアイドルになるために、おしゃれのこととか勉強してるし、つまりそういうことだよね!」

文香「はい……目指す場所は同じでも、そこへ進む方法に違いがあって、当然です」

凛「私も頑張らないとな……そういえば聞けてなかったけど、ふたりとも何しにここまで来たの?」

あずき「あ!すっかり忘れてたっ!凛ちゃん、もうすぐお店閉まる?」

凛「え?うん、そうだね。もうこんな時間だし、そろそろ閉店だけど」

文香「では……これから花を咲かせに、行きませんか?」

凛「花を咲かせる……?」

あずき「ふっふー。女子寮でお花満開大作戦だよ♪」

………
……



みく「じゃあ火を付けるにゃ!」

仁奈「うわー!すげーキレーでごぜーますね!」


蘭子「闇をも照らす地獄の業火よ!」

美穂「蘭子ちゃん!両手に持ったままそのポーズは危ないよ!」


あやめ「忍法煙玉の術!ニンッ!」

珠美「あ、忍法とはずるいですぞ!」


美波「ふふ、アーニャちゃん、綺麗だね♪」

アーニャ「ダー、キラキラしていて、流星群、みたいです」



凛「花を咲かせるって、こういうことだったんだね」

あずき「夏はフェスや特番も多くて、今年はみんなやりそこねたって話だったから!」

文香「お祭りの帰りに……凛さんも誘ってみようと、思いついたので」

柚「あずきチャン!こっちこっち~!」

忍「いっせーので点火して、誰が一番長持ちするかやろうって!」

穂乃香「来ないと3人だけでやっちゃいますよ?」

あずき「うん、いま行く!それじゃあ、凛ちゃんも楽しんでね!」


凛「行っちゃった……あ、文香はもう線香花火なんだ。締めにやるもんじゃないの?」

文香「線香花火が、好きなんです……儚さと、落ちてしまったときの余韻が……」

凛「私も隣でやっていいかな?」

文香「もちろんです……はい、どうぞ」

凛「ありがとう……綺麗だね」

文香「そうですね……とても、綺麗です」




玉が落ちてしまわないように、私も文香も自然に小声になる。
その様子が何だかおかしくて、ふたりして微笑んだ。
夏の終わりの夜風を遮るように、肩がぶつかりそうなほど傍でしゃがんで、私たちは並んで線香花火を見つめる。
静かに弾ける火花の煙に混ざって、隣の文香からほのかに金木犀の香りがした。

他、最近書いたもの

白坂小梅のとある1日

みく「炭火焼レストランさわやか?」

幸子「キャッツカフェ?」



浴衣と線香花火の似合うアイドル1位は文香だと思います。
ここまで読んでくださった方に花束を。

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