【咲SS】ネリー「工房【嶺】、開店だよ」 (31)

注意事項

・京太郎SS、であるようなないようなものです
・捏造設定と性格違う!と似非関西弁とニワカ知識盛りだくさんです
・誰得ネタや一部の人間にしか伝わらない系ネタ盛りだくさんです
・原作キャラの喫煙描写有ります
・更新が不定期通り越して遥かイスカンダルまで吹っ飛んでる可能性大です

もしもダメな要素がありましたら、ブラウザバックステッポしてからカリカリ梅食べてください

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1468697274

追記:この作品の元となったオマージュ元作品

坂の上の職人工房 nest /胡桃ちの

更なる追記という言い訳もできない行為

・地の文アリです

京太郎「・・・・・・・・・っかしーな。どう計算しても130円あわねー」

須賀京太郎の前にあるのは手提げ金庫。それと帳簿。
さっきから15分ほど、彼の電卓と帳簿を相手にした格闘は続いていた。

京太郎「おい、ネリー。お前何か知らないか?」
ネリー「あ、さっきジュース買ったよ」
京太郎「お前なぁ!!」

格闘、終了。
終結を告げた少女―――ネリー・ヴィルセラーゼは、おそらくそのときに購入したであろう炭酸飲料を持ちながら、悪びれることもなく本を読んでいた。

京太郎「メモ置いとけって言っただろうが・・・・・・・・・そのたびに混乱するのは俺なんだぞ」
ネリー「いやまあ、もう閉店時間だしすぐ言えばいいと思って」
京太郎「言われてないんだが」
ネリー「忘れてたからね」
京太郎「このやろう」

帳簿を訂正し、一息。と、京太郎の脇を通って引き出しに伸びるネリーの手。
取り出したのは七つの星がまぶしいタバコの箱。

京太郎「吸うならCLOSEDの看板かけてからにしろよ。お前の当番だろうが」
ネリー「はいはい」

言いながらすでに火をつけているネリーに、京太郎、ひとつ嫌みったらしくため息。
本当にこの少女は扱いに困るというかなんというか。

「もう看板なら出してきたでー。ついでに吸うなら煙かからんとこにしてーな」

言いながら茶の髪をかきつつ出てくる人影。
彼女―――江口セーラは、相変わらずタバコの煙を好まない様子だった。それが、自身でも、商品でも。

京太郎「すんません。おら、ネリー。吸うならそっち行け、しっし」
ネリー「犬猫のように扱われてる件」
セーラ「犬猫は煙ふかさんやろ」

こんなやり取りも、すでに最初の時からどれほどの時が流れただろうか。

京太郎「てかシロさんまだ帰ってきてないんですけど」
セーラ「・・・・・・・・・ま、まあもう少し待とうや」
ネリー「また捜索隊は勘弁なんだけど」
セーラ「・・・・・・・・・あと、15分待とうや」

あの日、あの時。
学生という無敵の身分を終えた少年と少女たちが。
少年と、麻雀という競技を駆け抜けた少女たちが。
その数年後、新たに見つけた道を重ねた、あの日あの時に。

ネリー「まあ、とりあえず閉店作業やっちゃおうよ。早く続き作りたいの溜まってるし」
セーラ「それは俺もや。じゃ、棚のカーテン閉めてくんでー」
京太郎「ういっす。あ、パンいくつかとっておいたんで食ってください」
セーラ「マジか!?おおきになー!!」
ネリー「ちなみに品は?」
京太郎「お前の嫌いなレーズンパン」
ネリー「ちょっと表出ようか」

奈良の一角にこの店の看板を掲げ、このメンバーが集まったとき。


工房『嶺』は、始まったのだ。
















ネリー「爽にパウチカムイ派遣してもら・・・・・・」
京太郎「おい馬鹿やめろ」

工房『嶺』は、四人の店員兼職人が集まって運営されている複合型のショップだ。
傍目にはカフェにも見える木造風の一軒の店舗、その内装をエリアごとに分け、それぞれが製作した商品を販売している。
あまり広いとはいえない店舗ということもあって中は割とごちゃごちゃしているが、最低限の整理はしているのでどこぞのド○キほどの混沌にはなっていないのが救いか。
メンバーは、先述のとおり四人。



京太郎「さて、今日の品は全部並べたんで、皆さん朝飯食っちゃってくださいな」

須賀京太郎。
職業:パン職人(?)
疑問符がつくのは、時折パン以外の別のものも作ったりするが故。
基本的『嶺』の食卓事情は全部握ってるので、正直彼がいなくなった場合この店の食糧事情は崩壊する可能性が高い、とはセーラの談。



セーラ「おおきになー。こっちはあとポーチだけ並べてから行くわ」

江口セーラ。
職業:レザー職人
革のポーチやバッグ、大きいものならばジャンバーなども扱う実力派。
レザー職人とかいいつつ、実際は大工仕事も割かし自分でやってるため、何か壊れたら彼女の出番。



ネリー「ちょ、こっちはまだ終わってないんだけど。数が多いんだから誰か手伝ってよー」

ネリー・ヴィルセラーゼ。
職業:グルジアンアクセサリー職人
故国のアクセサリーを製作して販売する小物職人。若干性格がすれてる。
一番幼い見た目してるくせに(というか学生時代から外見ほぼ変わってない)『嶺』唯一の喫煙者。絵面はやばめ。



「・・・・・・・・・こっちも、終わってないんだけど」

小瀬川白望。
職業:まゆ細工職人
昨日捜索隊を出されたダルダル星人。座って自分のペースで作れる故郷の工芸品を製作して販売。
出かけるたびにどっかで一休み、それが長引きまくって捜索隊が出て回収されるまでがもはや様式美になりつつある。




京太郎「あー、わかりましたわかりました。ネリーちょい待ってろ。シロさんのほうが厄介そうだ、先に片付けてくる」
セーラ「ネリーのほうは俺が手伝っておくで。ダルダル星人は任せたわ」
ネリー「あーもう、昨日仕込みすぎたかな・・・・・・・・・ていうか匂いのせいでおなかすいてきた」

毎朝の開店準備ではあるが、ネリーとシロは昨晩まで製作していた新しい品が多いためいつもよりてこずっている様子。
双方ともに品が小さいこともあって、綺麗に陳列するまでには地味に時間がかかる。そもそも、普段は一度にこんなに並べることなどないのだが・・・・・・

京太郎「いや、お前に関してはそもそも昨日の時点で並べ忘れてたもんが大量に出てきたのが原因だろ。ほれ、マフィンやるから口あけろ」
ネリー「あむっ」

自業自得だった。
シロの口にも小さめのパンを放り込み、手を拭いてから陳列の手伝い。
見ればすでにセーラは自分のエリアの陳列を終え、ネリーの作業を手伝い始めている。
作業の途中でリモコンをとり、ボタンを押せば店内に流れ始めるBGM。安く買った型落ちのコンポだが、まだ何とか使えてるのでよし。

京太郎「てか、シロさんはどうしたんですかこの品数。並べ切れませんよ」
シロ「こっちの箱のだけ並べて・・・・・・・・・豊音とスカイプしながらぼーっと作ってたら、すごい数になってた」
京太郎「ほんと仲いいですよね・・・・・・・・・なんか言ってました?」
シロ「近々、こっちに来たいとは言ってた・・・・・・・・・ついでに、眠い」
京太郎「何時まで通話してたんですかいったい」

いいながらも作業は継続。ようやく終わりが見えてきたところで、ふと思い出したことがひとつ。

京太郎「そういえば、今日誰か来るって言ってなかったっけか。誰が言ったんだっけ?」
ネリー「あ、それネリーだね。爽がこっち来るって話」
京太郎「ああ、そっか。てかあの人もほんとよくこの距離来るよな。しかもちょくちょく」
ネリー「あっちこっち飛び回ってるからねー。もう慣れてるんでしょ」
セーラ「ええな、その行動力。どっかの病弱少女に見習わせたいわ」
京太郎「あの人、大阪から奈良まえの距離ですら息も絶え絶えですからね・・・・・・・・・」
セーラ「・・・・・・・・・仕事があれになってからさらに病弱っぷりが増した気がするわ。えーかげん部屋の外に引っ張り出さんとって竜華も言うとったわ」
シロ「在宅の仕事、いいな・・・・・・・」
京太郎「シロさんはもう少し運動しましょうねマジで」


と、ここでようやく終了。
全員で奥の部屋のテーブルに集合、各々のタイミングでいただきますからのパン選び。
毎朝、本当に変わらない光景になった。
バタールを大口開けて頬張るセーラに、食パンにジャムをこれでもかと塗りたくるネリー。
くるみパンを誰か思い出しながらのそのそ頬張るシロに、あんパンを牛乳とセットで食べる京太郎。

セーラ「なあ、その組み合わせもしかしてあれか?」
京太郎「ええ、刑事もののせいです。どっかの文学少女が定期的に送ってくる本の中に面白い刑事ものがありまして、ついそれから連想して」
ネリー「むしろ通勤の会社員じゃないの?」
京太郎「お前は本当に日本の文化になじんだよなぁ、変な方向で」

サラダとスープも順次消費。少し多かったかとも思った京太郎、セーラの健啖家っぷりを見て杞憂だったと察す。
食べ終わるころには、時計の針は開店十五分前を指していた。

京太郎「じゃ、そろそろ開店準備しますか。今日外の掃除誰でしたっけ」
セーラ「ネリーやな。ついでに時間になったら看板回しといてや」
ネリー「ん。その前にタバコ吸ってくる」

言いながらすでに七つ星のまぶしい白い箱と傷だらけのジッポーライターを手に。
なお、一人しか使わない従業員用喫煙所は店の裏手に設置された灰皿。

京太郎「またかよ・・・・・・・・・最近吸いすぎじゃね?」
ネリー「ネリーの半分はヤニでできてるの」
京太郎「嫌過ぎる女だな、てかそんな表現どこで覚えたお前」
ネリー「テレビ」
セーラ「お前普段どんなん見とるねん・・・・・・・・・」
ネリー「まあ、とにかく吸わせてよ。一日一箱半は吸わないと手が震えるよ?」
京太郎「それ、葉の中身改めさせてもらってもいいか?」

日本へのなじみ方を間違えている疑いのある彼女に一抹の不安を抱えつつも、それぞれは食器を片付け各々の持ち場へ。なお、本日の皿洗い当番はセーラ。

シロ「ねえ、昨日の夜、廊下においてあったダンボールは何?」
京太郎「あー、すみません片付け忘れてた。この間頼んだ殺鼠剤です」
シロ「・・・・・・・・・あの量全部?」
京太郎「ネズミ死すべし、慈悲はない」

唯一の飲食物担当者、鬼の形相。
まあ奴等はマジで何でもかじるので、他の面子も他人事ではないのだが。
ついでに殺鼠剤は置く場所をちゃんと吟味しましょう。あんまりむやみに置き過ぎて逆に招きよせたなんて馬鹿な結果は避けましょう。いやマジで。本当に。えらいことになるから。後悔すんぞマジで。

ネズミ=スレイヤー、もとい京太郎はカウンターの前に座り、慣れた手つきで若干重いPCを操作。
何でも知ってる先生と評判のブラウザを開き、展開するのは自店のホームページ。管理はすべて京太郎。
ついでに、重い動作にびくびくしつつ窓をもうひとつ開き、店のツイッターとその他SNSに本日のおススメなどを投稿。
奈良の住宅街のはずれにある小さな店舗だ。宣伝を欠かすことは即経営に死の匂いを漂わせることになる。その辺は重々理解しているのだが、あまり金をかけた宣伝はできないので自分たちでできる範囲でやっていくしかない。
幸い、現代はネット社会だ。月毎の料金をしっかり念頭に入れてある程度の勉強をすれば、最安値での効率的な宣伝も無理ではない。

京太郎「本日、まゆ細工とグルジアンアクセサリーの新商品大量、この機をお見逃しなく・・・と」

ブラウザクラッシュに警戒し、一度全文コピーしてから確定。今回は上手くいったようだ。

京太郎「そろそろ開店時間だな。ネリー、掃除終わったか?」
ネリー「うん。ついでにだけど、そろそろ店先の草むしらないとやばいかもよ」
セーラ「あ、それ次の定休日に俺やっとくわ」
京太郎「手伝いますよ。ネリーもな」
ネリー「言わなきゃよかったと後悔してる」

それぞれのエリアで構え、開店を待つメンバー。
今日は平日ということもあって速攻で客が来ることはないだろうが、たまにパンの焼きたてを狙って待ってる客もいるのでぐだぐだはしていられない。


ネリー「じゃ、あけるよー。工房『嶺』、開店開店~」

ネリーが看板をCLOSEDからOPENへ。
そして、今日も工房『嶺』の一日が・・・・・・・・・・・・


















爽「や」




隠れて待ち構えていた珍客から始まった。

京太郎「・・・・・・・・・何してるんすかあんた」
爽「いや、まあサプライズ的な?」
ネリー「そのためだけに植え込みの脇に潜ってたの・・・・・・?」

あきれ気味の店員衆。
この女性―――獅子原爽は何度もこの店を訪れてはいるが、毎度まともな登場をした覚えがない。
前回は確か、店のドアの上のルーフから妖怪天井下りのごとくの登場だったはずだ。
何が彼女をそうさせるのか。それは彼女と、彼女を守る存在にしかわからない。

シロ「本日初のお客さん、いらっしゃい・・・・・・・・」
セーラ「言うてほぼ身内やけどな」

まさに。

爽「てなわけで、お邪魔さんー。ネリー、元気にしてたかい?」
ネリー「今ので若干疲れたけどね」

言葉通りの表情のネリー。

この二人、数年前のインターハイの大将戦の後になんだかんだと連絡をとり、ネリーが日本への残留を決定してからはずいぶんと爽が顔を出しているらしい。
もともとあまり好印象といえるファーストコンタクトではなかったものの、それ以降はまあぐだぐだと関わっている内に、腐れ縁に近い関係になった様子だ。
少なくとも、ネリーの型落ちの携帯の着信履歴に大量に名前がある程度には。

爽「あ、ていうかこの匂い。ネリーまたタバコ吸ってるでしょー?」
ネリー「いいじゃん別に。成人に認められた立派な権利だしー」
京太郎「その見た目で言われてもな」
ネリー「京太郎、コロンビアネクタイは好き?」
京太郎「それ処刑だよな!?」

このちびっ子、相変わらず笑顔で物騒なことを言い出す。
爽はというと、すでに本日の焼き立てパンを吟味し始めている。本当に一瞬目を離しただけでどこに行くのかわからないあたり若干怖い。

爽「んー、今日も美味しそうだねえ。店先で食べていい?」
京太郎「もち、どうぞ。コーヒー淹れてきますんで」
爽「あー、いいよいいよ。そこまで気を使わなくて。ネリー、一緒に食べる?」
ネリー「朝ごはん直後なんだけど・・・・・・・・・まあクロワッサンくらいなら」

言いながら爽とともに店先の飲食スペースである小さなテーブルに向かうネリー。なんだかんだ、彼女に懐いているので基本的にこうして後ろをついて回ることが多い。
席に着いた爽。その肩にかけていたバッグに手を伸ばすと、中から取り出したのは無骨なようで洗練されたデザインの、黒い機械。

爽「今日も撮らせてもらうねー」
京太郎「ういっす。宣伝よろです」

獅子原爽。
職業はフリーカメラマン。被写体は人物から食べ物、風景までお構いなし。
全国各地を飛び回り・・・・・・・・・というか雲のように流れていく彼女は、何かあればすぐにこうして愛用のデジタル一眼レフを取り出し、その瞬間を切り取っていく。

ついでに、人物の割合としてはかつての仲間(特に某後輩)とネリーがダントツで多い。
会う機会が少ないにもかかわらずこれなのは、まあ一度会ったときに撮りまくっているからなのだろう。

爽「ネリー、食べるところ撮っていい?」
ネリー「いいけど、変な顔写さないでよ?」

いいながらクロワッサンを口に運ぶ。
ネリーは健啖家というほどではないが、見た目よりは食べる。実際朝の食パンも三枚は食べていた。
クロワッサン程度、ネリーにとってはおやつのようなものでしかないのかもしれない。

爽「にしても、お店もだいぶ軌道に乗ってきてるみたいじゃん?」
ネリー「まあねー。固定のお客さんもついてきたし」
爽「ネリーからはじめにこの話を聞いたときはびっくらこいたもんだよ。てっきり麻雀一筋でいくもんだと思ってたからね」






クロワッサンを持つ手が、一瞬止まる。

ネリー「お金は麻雀以外でも稼げるし、やりたくなったら雀荘にでもいけばいいしね」

そういって、食事を再開するネリー。
若干気まずそうな顔をしているのは、コーヒーを持ってきた京太郎だった。

京太郎(・・・・・・ま、以前よりはだいぶましか)

かつてのことを、断片的なスライドショーのように回想する。
この店の計画を立ち上げたときの、彼女のことを。

あの街角で出会ったときの、彼女を。


動く人形と変わらなかった、あの日の彼女を。


京太郎「コーヒー、お待たせしました。砂糖はひとつでしたっけ」
爽「あ、なんかごめんね。気を使わなくていいって言ったのに」
京太郎「いえいえ。いつもうちの毒舌チビが世話になってますから」
ネリー「爽、殺傷力のあるカムイっている?」
爽「んー、その情報は秘匿したほうがよさそうな気配がするね」

その考えを振り払って、コーヒーを二人の前に。コーヒーも割と自身があるのだ、冷めてはもったいない。
春先とはいえ、まだ少し風は冷える。温かいコーヒーはそれを温めてくれる優秀な存在だった。
と、そんな二人の下に近寄るセーラ、その手には薄いブラウンの革でできたポーチがひとつ。

セーラ「おーい、獅子原。忘れんうちに渡しとくわ。この間頼まれてたもん、できあがっとるで」
爽「あ、そうか。前にポーチ頼んでたっけ。ありがとありがと」
セーラ「すぐにでもベルトに付けられるで。サイズは間違ってへんか?」
爽「オッケーオッケー。完璧だよ、さすがえぐっちゃん」

手渡されたポーチを腰のベルトに差込み、装着する。
そしてその中に、傷の目立つスマホを収納し、軽く触って感じを確かめる。どうやら、満足の様子。

爽「いやー、助かったよ。なーんか毎回毎回落としちゃってさ。いい加減壊れそうで怖かったんだよね」
ネリー「そのベストのあちこちにポケットついてるじゃん」
爽「そうなんだけど、他の持ち物が多すぎて全部埋まってるんだよね」
京太郎「どこの特殊部隊ですかあんた」

ポケットの数が売りのカメラマンベストが全部埋まるとは、彼女の所持品が激しく気になるところではある。

爽「あ、お金いくらかな?」
セーラ「ん。こんだけもらうわ」
爽「え?いくらなんでも安すぎじゃない?」
セーラ「ええって、ええって。それに俺の製品は大体そのくらいの相場やで」
ネリー「もっと取れると思うのにねー」
セーラ「革製品って高い印象があるみたいなんよ。ちっとでもハードル下げんことには客が食いつきづらいんや」

セーラの作るレザー製品、それは実際安い。
彼女の言うとおりのこともあるのだが、それにしたって他のショップならもっと値がつきそうなクオリティのそれは多くの固定ファンをつかんでいる。
自身の製作した品を実際に着用している彼女の姿があまりにも男前過ぎて、別の意味での固定ファンも多いのだが。

爽「あれ?この可愛らしいのは?」

ポーチの隅に、アクセントのようにつく二つの小物。
レザーの脇にちょっとしたギャップを演出するそれは、フェルト製のオレンジ色の飾りと、小さな小鳥のやわらかい飾り。

シロ「・・・・・・・・・サービス」

いつの間にか隣の席にいたシロ。
後者の小鳥の飾りは、彼女の製作したまゆ細工のものだった。
養蚕の里発祥のやわらかい絹細工のそれは、彼女が日々ぼーっとしながらも作っているもの。
聞けば、家でできる暇つぶしをいろいろ探したところこれが一番性にあっていたらしい。何が将来役に立つのか、本当にわからないものである。

シロ「いつも、宣伝してもらってるから」
爽「おお、ますますありがとぅ。じゃあ、こっちは・・・・・・・・・」

残りは一人しかいない。
その本人は、ツンと顔を背けているのだが。

ネリー「・・・・・・・・・宣伝料」
爽「・・・・・・・・・・・」
ネリー「うひゃあ!?」

わしゃっと。彼女の髪をなでる爽。帽子を取られたことにも気づかない早業である。

爽「いやー、かわいいなぁかわいいなぁ。ネリーはほんっとかわいいかわいい」
ネリー「ちょ、髪ぐしゃぐしゃになるでしょー!?」
爽「マジでユキと一緒にデビューしてれば、今頃売れっ子になれたのになぁー」

いいながら止めようとはしない。ネリーとしても、悪い気はしないのだろう。
片手でネリーをなでながら器用にその様子をカメラに収める爽。

国籍こそ違えど、まるで姉妹のようで。

京太郎「じゃ、俺のほうからもサービスってことで。はい、焼きたてのマフィンです」
爽「うおお、何このVIP待遇。売れっ子カメラマンにでもなった気分。特徴的な口調になった方がいい?」
京太郎「あーた、戦場カメラマンじゃないでしょうに」


京太郎は、その光景を―――――――本当に、心から暖かいと、そう思えた。


が、彼女の手が離れたときにちょっとだけ寂しそうな顔をしたようにも見えたネリー。
次の瞬間にはいつもどおりの調子に戻って、携帯灰皿をテーブルに置いていつの間にかセブンスターに点火していた。

ネリー「ふー・・・・・・・」
爽「あーもう。だからー。ネリーにそれ似合わないってばー」
ネリー「似合う似合わないじゃなくて、美味しいからいいの」
爽「よーくーなーいー」

あのころから変わらず無邪気なカムイに愛された少女と、あのころより若干摺れた異国の少女。
その仲は、なんだかんだ非常に良好であった。











爽「その火を消さないと、パウチカムイを」
ネリー「ごめんなさいでした」

良好、である。



爽「いやー、なんかずいぶんご馳走になってお世話になっちゃって。今度来るときはお返しに何か持ってくるからね」
京太郎「気にしないでくださいって。それより、道中お気をつけて」

彼女は多忙だ。
全国各地、雲のように流れつつ被写体を求めて東奔西走。そんな中で隙を見つけてはここに立ち寄ってくるのはその行動力のなせる業。
他の客も来なかったので、食事とおしゃべりを一時間ほど続けていたが、そろそろ次の場所へ移らねばならなかった。

爽「んじゃ、宣伝はばっちりさせてもらうよ。今度は雑誌に出してもらえないか売り込んでみるから」
セーラ「お、頼むで!そんときゃ、取材よろしゅうな」
シロ「あんまお客増えても、生産追いつかないんだけど・・・・・・・・・」
ネリー「同意」
京太郎「まあ、忙しいのはいいことだって」
ネリー「社畜の発想だよね」
京太郎「お前の語彙はホントどうなってんだ」

荷物をまとめた爽。席を立ち、ネリーのタバコについて釘を刺してから店先へ。

爽「じゃ、また今度ー」
ネリー「ん。また今度ね」

小さく手を振るネリー。
そして爽は歩き・・・・・・・・・・

爽「あ、京太郎京太郎。ちょっちこっちへ」
京太郎「へ?」

出すかと思いきや、京太郎を手招き。

爽「数分借りるねー」
ネリー「あ、もってっちゃっても別にいいよ」
セーラ「おいやめえ。明日からの飯どーすんねん」

いろいろ言いたいことはあるが、京太郎は爽について少し離れた場所へ。
まあ最初こそ面食らったが・・・・・・・・・正直、話の内容については想像もできていた。

爽「・・・・・・・・・・ネリー、ちょっとは元気になってきたじゃん」
京太郎「・・・・・・ええ。まあ、何とかって感じです」
爽「君のおかげだね。間違いなく」

彼女は、本当にネリーを気にかけている。
あの夏に出会って以降、爽の持ち前のバイタリティで何度も顔を合わせた二人だが、だからこそ彼女はネリーの危うさを知らないはずがない。

京太郎「俺の力なんかじゃないですよ。あいつはもともと強いんですから、時間の問題です」
爽「私はそうは思わないし、君も若干嘘ついてるね?」

嘘。
それは、ネリーがもともと強い、という一言に対するもの。
指摘されて隠すこともなく、京太郎は頷く。
京太郎もまた、知らないはずがないのだ。






工房『嶺』、始まりの二人の片割れのことは。

京太郎「・・・・・・それでも、時間が少しずつあいつを何とかしてくれてるのは事実です。そこは嘘じゃないですよ」
爽「だね。けど、それはあの二人と、君がいたからだ。その要素があるからこそ、ネリーの傷は癒え始めてる」
京太郎「・・・・・・癒えきりますかね」
爽「それはわからない。けど、私はそう思いたいし、力になるつもり」

風が、吹いたように思えた。
実際は無風。もしかしたら、彼女を守る存在が彼女に同調でもしたのか。

爽「ありがとうね。これからも、ネリーのことよろしく」
京太郎「・・・・・・ええ。微力ながら」

そういうと、彼女は大きく、天に両手を掲げて伸び。んーっと唸り、全身の固まりをとって、再び笑顔の再起動。

爽「じゃ、そろそろほんとに行くね。一度北海道に帰ってまた連れてこないと行けないし」
京太郎「え?使うことあったんすか?」
爽「いやー、まさか大半消費させられるとは。おかげで命拾いしたけど」
京太郎「あんたマジで何してんの!?」

本気なのか冗談なのか。少なくとも、幼きころよりの加護はいまだに健在のようだ。

爽「んじゃ、ばいばいきーん。工房『嶺』に幸あらんことを」
京太郎「ええ。では、また」

歩いていく彼女。
その背中に、羽のようなものが見えたのは――――――見間違え、だったのだろうか。

京太郎(・・・・・・・・・ネリーのやつは、しっかり見守りますよ。約束、します)

京太郎もまた、踵を返す。
見守るべき存在と、仲間の待つ場所へ。



彼らの、『家』へと。

.











ネリー「双剣エリアルは正義だよねやっぱ」
セーラ「大剣ストライカーはええでー」
シロ「あ、回復弾忘れた・・・・・・・・がんばって」
京太郎「仕事しようよぉ」






.

というわけで、同分類してもいいのか自分でもわからないSS、初回投下です。
大筋のプロットくらいは決まってますが、正直予定は未定ということで。

あと、書き込みはじめてから自覚しましたけど読みづらいですねマジで。色々突然変えるかもしれませんが、その時はすみません。
ただ、書き溜めしてからの投下になりますので校正間に合わん可能性でかいですが。


最初の注意書きの通り、酷く不安定な更新になるかもしれませんが、もしよろしければよろしくお願いします。



【追記】ネリー脱がせたい

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