前川みく「しっぽのきもち」 (32)

しっぽの気持ちになるみくにゃんのお話です。

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レッスン帰りに事務所に寄るように、ってPチャンに言われた帰り道。

「お疲れさまでーす! Pチャン、用事ってなーに?」

「おお、お疲れさま。みく、カバー曲が決まったぞ」

にこっと笑って、Pチャンが資料やら何やらをみくに差し出す。

「『しっぽのきもち』……?」

「そうだ。以前『みんなのうた』でも流れてたなぁ。その映像もあるから目を通してみな。猫が出てくるんだ」

「ねこチャン! うん、さっそく聞いてみるにゃ!」

「用事はそれだけだし、そうしてくれるとありがたい」

「わかったにゃ。Pチャン、お疲れさまー」

「ふふふーふふふ、ふふふーふふふーふ♪」

みくのカバー曲、とーっても可愛い♪
「みんなのうた」の映像も見たけど、男女のねこチャンが照れながら仲良くしてるのが、うーん、甘酸っぱい!

でも――

「しっぽになりたい、ってどういうこと?」

可愛いねこチャンになりたい、ならみくにもよく分かるんだけどなぁ。
好きなのに、しっぽになりたい……?

「あの映像の最後も、見方次第ではホラーだにゃ……」

好きな人のしっぽになってニコニコしてる女の子のねこチャン。
それに気づいたのか気づいていないのか分からないまま、背を向けて歩いて行く男の子のねこチャン。

「わ、分からないにゃあ……」

「Pチャンに相談しようかな。あ、でも明日はみくもPチャンもお休みだったにゃ」

いつも忙しいPチャン。さすがにオフの日まで迷惑はかけられないもんね。

「……うん、まずは自分で考えられるとこまで考えよう」

でも、どうすれば……。
そうだ、あの子に相談してみよう!

「………あ、もしもし、前川みくだにゃ。実はお願いがあるんだけど――」

「――うん。じゃ、明日はよろしくにゃ!」

よし。あの子に聞けば何かつかめるはず!

翌日。女子寮の前で待ち合わせ。

「みくおねーさん、おはよーごぜーます」

「おはよう、仁奈チャン。今日はありがとにゃ!」

「仁奈こそ誘ってもらってありがてーです」

そう、「○○のきもち」といえば仁奈チャン!
今日は仁奈チャンにいろいろ教わるつもりなんだ。

「あ、仁奈チャン、今日はねこチャンの気持ちかにゃ?」

「そうでごぜーます。雪美ちゃんから借りたんだー♪」

そう言って猫耳パーカーを嬉しそうに見せてくれる。

ふふふ、これは強力なライバルになるかも……なんて♪

仁奈チャンは午後からレッスンがあるらしい。
だから、それまでお散歩に付き合ってもらうんだ。

「それで、みくおねーさんが仁奈に聞きたいことってなんでごぜーますか?」

てくてくと隣を歩く仁奈チャンが疑問を口に出す。

「みく、今度『しっぽのきもち』って曲を歌んだにゃ。でも、しっぽの気持ちって何だか分からないんだ。だから、いろんな動物の気持ちになれる仁奈チャンからアドバイスをもらいたいのにゃ」

「しっぽの気持ちでやがりますか……。うーん、難しいですねー」

腕を組んでうんうん唸る仁奈チャン。

「ちなみに、仁奈チャンは動物の気持ちに上手くなりきれなかったことってあるのかにゃ?」

「ヘビの気持ちになるのは難しかったですよ……」

「そのときはどうしたのかにゃ?」

「えーっと、そのときは雪菜おねーさんと一緒にヘビとたくさん触れ合ったですよ!」

そういえば、雪菜チャンが遠い目をしていたこともあったなぁ……。

「いーっぱいヘビのことを見たら、ヘビの気持ちもつかめたですよ!」

やっぱり、近くで見てみるのが一番みたい。
そうだと思って、今日のお散歩の目的地は決めてあるんだ。

「ふぅ、着いたにゃー」

ぐい、っと伸びをする。

「みくおねーさん、ここは公園でやがりますか?」

「そうにゃ。それでね、ここは結構ねこチャンが集まってくるんだにゃ」

「おおー!」

辺りを見回すと、既に何匹かねこチャンが集まっている。

「仁奈チャン、一緒にしっぽの気持ちをつかむにゃ!」

「まかせてくだせー!」

ベンチに座って仁奈チャンと猫を眺める。

「おお、たくさん猫がいやがりますね」

あのねこチャンが可愛い、あっちではゴロゴロしてるね、なんて二人で喋りながらねこチャンをじーっと観察する。

そのうち、一匹のねこチャンがやってきた。
みくと仁奈チャンの足元をうろうろして、たまに身体を擦り付けてくる。

「あ、いつものねこチャンにゃ。この子は特に人懐っこいから、少し触るくらいなら大丈夫にゃ」

「ほんとですか!?」

仁奈チャンがキラキラと目を輝かせる。

「うん、優しく触ってあげてね」

地面にしゃがんだ仁奈チャンが、そーっと手を伸ばす。

「……さ、触れた。うわぁ、ふかふかだー♪」

撫でられたねこチャンもリラックスしきった顔をしている。
しっぽがゆーっくり右に左にゆーらゆら。

「ねこチャンも喜んでるみたいだにゃ」

「本当でごぜーますか?」

「うん、しっぽを見ればねこチャンの気持ちが分かるのにゃ」

「みくおねーさん、すげーです!」

まあ、それほどでも、あるかな?

仁奈チャンにしばらく撫でてもらったあと、ねこチャンは満足したのかふらふら歩いて行ってしまった。

「みくおねーさん、仁奈もしっぽで猫の気持ちを知りて―です!」

「ふふん、みくに任せるにゃ。例えばあそこのねこチャンはね――」

二人で公園にいる猫を探しながら、あのねこチャンはどんな気持ちだろうってお喋りする。

しっぽを大きく左右にぶんぶん振ってる子は今ちょっとイライラしているんだよ、とか。

ゆっくり、大きくしっぽを振りながら歩いているあの子は何かが気になっているみたい、とか。

「あ、さっきの猫が戻って来やがりました! しっぽをピーンと立ててやがりますね」

「仁奈チャン、あれはどんな気持ちだと思うかにゃ?」

「うーん、怒ってるように見えるですよ」

「ぶっぶー、はずれにゃ。ヒント、さっきここに来たときと同じ気持ちだよ」

「うーん、えーっと、遊びたい、ですか?」

「正解! 甘えたかったり、遊びたかったりするときのしっぽだにゃ」

今度はみくの膝に乗ってきたねこチャンを二人で優しく撫でる。

まったりしちゃったけど、そういえば――

「仁奈チャン、しっぽの気持ち、つかめたかにゃ?」

「うーん、猫の気持ちはつかめたけど、しっぽのきもちはわからねーですよ」

まあ、そう簡単にはいかないよね。

「でも、猫としっぽは同じことを考えているんだー、って分かったですよ!」

「同じことを考えている?」

「そうでやがります! 猫が嬉しいとしっぽも嬉しいし、猫がイライラしているとしっぽもイライラするんでごぜーますよ」

「……うん、仁奈チャンの言う通りだにゃ」

きっと、ねこチャンとしっぽが同じことを体験しているから。
うん、ヒントになりそう!

「しっぽのキグルミを着れば、もしかしたら仁奈もしっぽの気持ちが分かるかもしれねーです」

「し、しっぽのキグルミ?」

それは、恐らく鈴帆チャンあたりの領分じゃないかな……。

そのあとも仁奈チャンとしっぽ観察をして過ごした。

どんどんとねこチャンの気持ちをつかんでいく仁奈チャン。
いつか、一緒にねこチャンとしてステージに立ってみたいなぁ♪

そして、二人でお昼ご飯を食べてから、レッスンルームまで仁奈チャンを送り届けた。

仁奈チャンと別れた後、衣装室を覗きに来た。

「仁奈チャンにならって、しっぽのことをよく観察してみるにゃ」

確か、みくの衣装はあの棚だったかな?
えーっと、ここに……

「あ、あったにゃ」

みくの大事な大事な商売道具。
ステージに立つときには欠かせない猫しっぽ。

じーっと猫しっぽを眺める。

思えば長い付き合いで、何度も一緒にライブをしてきたんだなぁ。
楽しいステージも、悔しいステージも、ずーっと一緒。

「昔より少し細くなったかにゃ?」

それでも、キラキラと白い毛が眩しい自慢のしっぽ。

「うーん、でも、しっぽの気持ちかぁ……」

撫でたり、嗅いだり、色々な方向から眺めてみたけど、なかなか分からない。

「しっぽさーん、あなたの気持ちを教えてにゃー。なーんて――」

「いいですよー♪」

ビクッ、と後ろを振り返るとニコニコしたちひろさんが立っている。

「ち、ちひろさん。驚かせないでほしいにゃ……」

「すみません、ここまで驚くとは思わなくて」

あまりにいい反応で少し楽しかったです、と笑うちひろさん。
そういう方向で褒められるのはイマイチなんだけど……。

「ところで、みくちゃんは何をしていたんですか? 一人でおままごと、というわけでもなさそうですし」

「えっとね――」

今度歌うことになった「しっぽのきもち」について悩んでると打ち明ける。

「うーん、しっぽの気持ちですか」

「なかなかつかめなくて……」

「それなら、歌詞の通りにスキな人のしっぽになったらどうだろう、って考えてみるのはどうですか?」

「にゃ゛っ!?」

す、好き!? にゃ、にゃあ……。

「みくには、ちょっと、難しいかも……」

みくにはまだ、その、好き、とかそういうのは、ちょっと、早いし……。

「でも、バレンタインのお仕事前にお話したときは――」

「にゃああああ! あ、あのときの話はなしにゃ! やめやめ!」

あのときは、ちひろさんに恋ってなにか聞いたんだっけ。

みくは仕事がコイビトって言ったけど、それって、いつもプロデューサーさんのこと考えてますよね、って言われて、それで、それで、う、ううう……。

「あら、みくちゃんお顔が真っ赤ですよ?」

「き、気のせいにゃ!」

ちひろさんは、みくちゃん可愛い、なんて言ってくすくす笑ってる。
大人の余裕ってやつかな? むぅ……。

「……でも、プロデューサーさんのしっぽになったら、って考えてみるのもありかもしれませんよ?」

「みくはPチャンなんて一言も――」

「言ってなくても顔に出てますよ?」

「にゃぁ……」

やっぱり、ちひろさんは強敵にゃ……。

「でも、からかって言ってるわけじゃないですよ? それに、この歌詞の『スキ』だって、どういう好きかは分かりませんし」

「ん? どういうこと?」

好きって、えっと、そういう好きじゃないの?

「友達として、家族として、まぁ、いろいろありますよね。そういう『スキ』でもいいんじゃないかな、って」

「で、でも、『みんなのうた』の映像では、その、恋愛的な『スキ』っぽかったし……」

「みくちゃん。あれだって一つの解釈ですよ?」

確かに、ちひろさんの言う通りだ。

「恋愛的な『スキ』じゃなくたって、案外伝えるのは大変なものですよ」

じっと、ちひろさんがみくの目を見つめる。
確かに、身に覚えがない訳ではないけど……。

「だから、大切な人のしっぽになったら、って考えればいいと思うんです」

「それで、Pチャン?」

まぁ、みくのことを拾ってくれて、ここまで輝かせてくれたPチャンは、間違いなく大切な人だけど。

「ええ。それに、みくちゃんってプロデューサーさんのしっぽに見えないこともないですから」

「え? みくがPチャンのしっぽ?」

「みくちゃん、いつもプロデューサーさんの後をついていってますよね? プロデューサーさんが楽しそうなときはみくちゃんも楽しそうで、疲れていればみくちゃんもお疲れ、二人して嬉しそうにしてたり、悔しそうにしてたり……」

え、そうなの? そんなこと気にしたことなかった……。

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