テロリスト「学校に立てこもったら妄想好きな生徒だらけだった」(38)

ある高校にて――

テロリスト「たった今から、このクラスはこの私が占拠した!」

テロリスト「死にたくなければ、私のいうことに従え!」

テロリスト「大人しくしていれば、お前たちに危害は加えない!」

テロリスト「ただし! 勝手なマネをすれば、容赦なく射殺する!」ジャキッ

男「やったーっ!」

テロリスト「! ――おい、勝手なマネはするな、といったはずだぞ!」ジャキッ

テロリスト「撃ち殺されたいのか、貴様!」

男「はい、撃ち殺して下さい!」

テロリスト「ハァ!?」

男「実はですね、俺、長年ずっと“もしテロリストが学校に攻めてきたら”って妄想をしてたんです!」

テロリスト「……はぁ」

男「で、その中でいつも俺がやる役は、見せしめにテロリストに殺される役なんですよ!」

男「ほら、マンガのデスゲーム物なんかでよくいるでしょ?」

男「ゲームが始まる前に見せしめに殺されちゃう奴!」

男「俺、ああいう役をやってみたかったんですよね~! ある意味主人公より目立つし!」

テロリスト「なんなんだこいつは……」

男「さぁ! 早く撃ち殺してくれ!」

テロリスト「よせ、近づくな! おい、誰かこのバカを止めてくれ!」

メガネ「男君、よしなさい」

テロリスト「おお、お前は賢そうな奴だな! こいつを止めてくれたら解放してやってもいいぞ!」

メガネ「男君……抜け駆けはよくありませんね」クイッ

テロリスト「……へ?」

メガネ「僕もまた、こういうシチュエーションの妄想は常に行っておりました」

メガネ「そして、自分に最も相応しい役どころは――」

メガネ「『いくら勉強ができても、暴力の前では意味がないんだ!』という風に死ぬことだと分かったのです!」

メガネ「だから、第一犠牲者は僕こそ相応しいのです!」

男「なんだと~!?」

テロリスト「くっ、賢いかと思ったら、バカが二人に増えただけだった!」

DQN「よせよ、二人とも!」

テロリスト「おおっ! こいつらを止めてくれ!」

DQN「そんだったら、オレにだって長年妄想してきた、やりたい役くらいあるぜ!」

DQN「オレはな……『どうせモデルガンなんだろ』なんて笑いながらそのテロリストに突っ込んでいって」

DQN「『バカめ!』って撃ち殺される役をやりてえんだよ!」

テロリスト「お前も撃ち殺されてえのかよ!」

おてんば「あ、だったらあたしも『これ映画の撮影なんでしょ?』ってのんきにテロリストに近づいて」

おてんば「問答無用で撃ち殺される役やりたーい!」

おてんば「だから撃ち殺して!」

テロリスト「銃口の前にむやみに体を晒すんじゃねえよ! 危ないだろうが!」

女委員長「いい加減にしなさい!」

テロリスト「!」

女委員長「あなたたち、みんなして撃ち殺されたい、撃ち殺されたいって、ふざけないで!」

テロリスト「そうだそうだ! その通りだ!」

女委員長「私から提案があるわ、テロリストさん」

テロリスト「なんだろうか」

女委員長「私を犯しなさい!」

テロリスト「……はい?」

女委員長「私も常々、この“学校テロリスト妄想”をしてきたのだけれど……」

女委員長「私はいつもテロリストに犯されてきたわ!」

女委員長「そして『汚されちゃった……』って言いたいのよ! 分かるでしょ、この女心!」

テロリスト「悪いけど全然分からん」

イケメン「待ってくれ、委員長さん! 君はボクの彼女だろう!?」

テロリスト「おおっ、そうなのか! 彼氏だったら当然、彼女を守る義務があるわな!」

イケメン「だけど彼女を守り切れず、犯される彼女の前で『ちくしょう、ちくしょう……』って泣く役をやりたい!」

イケメン「で、最終的には委員長もろとも撃ち殺されたい!」

テロリスト「お前らどんだけ死にたいんだよ!」

ブス「だったらワタシも立候補ぉ~!」

テロリスト「まさかお前も犯して欲しいとかほざくクチか?」

ブス「そうよぉ~! で『誰がてめえみたいなブス犯すか』ってハチの巣にされたいのよぉ~!」

ブス「ブスはブスらしく、醜い死に花を咲かせたいのよぉ~!」

テロリスト「こんなに身の程ってやつをわきまえてるブスは初めて見たかもしれん……!」

オタク「みんな分かってないなぁ!」

テロリスト「おおっ、お前はいかにも“自分がテロリストを倒す妄想”をしてそうだな!」

オタク「と見せかけて、あっさり殺される役をやりたいんだよね」

オタク「『ひいい、マンガの主人公はこうやってテロリスト倒してたのに~』ってさ!」

オタク「さ、撃ち殺して! カモン!」

テロリスト「マジかよ……なんなんだよお前ら……」

教師「君たち待ちたまえ!」

テロリスト「アンタがこいつらの担任か! よかった、こいつらに生きる希望を与えてやってくれ!」

教師「真っ先にテロリストに殺されるのは私でなければならない!」

教師「そしてみんなから『せんせええええええええい!』って涙されたいのだ!」

テロリスト「やっぱりアンタもこいつらと同じ穴のムジナか!」

男「俺を殺してくれ!」

メガネ「いや僕を!」

DQN「いやオレを!」

おてんば「あたしを!」

女委員長「犯して!」

イケメン「ボクに絶望を味わわせてくれ!」

ブス「ブスは薄命なのよぉん」

オタク「ヒーローを気取ってあっさり死ぬ役をやりたいんだ!」

教師「頼む、私を殺してくれ!」

ワイワイ…… ワイワイ……





テロリスト「…………」

テロリスト「いい加減にしろ!!!」







「!!!」ビクッ

テロリスト「どいつもこいつも……なんでそうなんだ!?」

テロリスト「どうしてそういう妄想しかできないんだ!?」

テロリスト「もっとこう、自分が華麗にテロリストをやっつける妄想をしたっていいじゃないか!」

男「でもさ……実際、そこらの高校生がテロリストに勝つなんて無理だし……」

オタク「そういう自分に都合のいい妄想って、やってて恥ずかしくなっちゃうんだよね」

おてんば「そうそう! ある程度リアリティがないと」

テロリスト「くうっ! お前たち、どうしてヒーローになりたがらないんだ!?」

テロリスト「ヒーローよりも悪者とか、脇役とか、やられ役とか、そういうのになりたがるんだ!?」

テロリスト「まったく……謙虚というか卑屈というか……」

テロリスト「どうせ妄想なんだぜ!? 他人に見られることはないんだ!」

テロリスト「自分がメチャクチャ強くてかっこよくて、ご都合主義でテロリストをやっつける……」

テロリスト「あるいは超カッコイイヒーローが登場して助けてもらえる……」

テロリスト「そんな妄想だっていいじゃないか!」

テロリスト「妄想に整合性や説得力を求めてどうする!?」

テロリスト「妄想の中でぐらい、スーパーご都合チートヒーローになってみたいと思わないのか!?」

テロリスト「たしかに今は、大っぴらに『俺はヒーローになる!』とは言いにくい世の中だ」

テロリスト「そんな奴は大抵笑われて、呆れられて、世の中から弾かれちまう……」

テロリスト「だけどそんなの、あまりに寂しすぎるじゃないか!」

テロリスト「私はそんな国を変えたいから、テロリストになったんだ!」ジャキッ

テロリスト「どうだ!? 私をブッ倒して、ヒーローになりたいってやつはいないのか!?」

テロリスト「脇役のまま死んで、みんな本当に満足なのか!?」



「…………」

男「……俺」

男「俺、本当はヒーローになりたい!」

男「堂々とこんなこというの恥ずかしくて、いえなかったけど……」

メガネ「……僕も」

DQN「オレも!」

女委員長「私も! 犯されるより、白馬の王子様に助けられるようなヒロインになりたい!」

ブス「私だってぇ~!」

教師「どうやらテロリストさんは我々に大切なことを教えてくれたようだ……」

教師「みんなの力を合わせて、テロリストさんを倒すんだッ!」

DQN「右腕を掴んだぜ!」ガシッ

オタク「左腕を掴んだよ!」ガシッ

教師「右足ゲット!」ガシッ

イケメン「左足はキャッチしたよ!」ガシッ

テロリスト「ぐっ……! しまったぁ……!」



男「よぉーし、残り全員であのテロリストに突っ込むんだ!」ダダダッ

テロリスト「う、うわぁぁぁぁぁ……!」



ドゴォンッ!!!

テロリスト「うげえ……っ!」ドサッ…



男「や、やった……! 俺たちの力でテロリストを倒したぞ!」

おてんば「あたしたち、やったのね!」

DQN「オレたちみんな、ヒーローだ!」


バンザーイ! バンザーイ! バンザーイ!





テロリスト「うう……」

テロリスト(これで……ようやく……私が長年やってた妄想が……現実になった……)

テロリスト(学校にテロのため押し入って、そこのクラスの奴らみんなの力でやられる……という妄想が……)ニヤ…









―おわり―

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