【FEif】カムイ「強くてニューゲーム、ですか…」 (563)

これは、私の憶えている全てが終わった世界の話。

歌姫の子は負けた。竜の血を持つ子らも死んだ。

世界は全ての希望を失い、もはや滅びを待つのみだった。

ただひとりの、黒き王女を残して。

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1468236669

今日100%になったカービィに、愛を込めて

カムイ(あの日から、1年ほどがたちました)

カムイ(もし、もしも、これをしていたら、あれをしていたら)

カムイ(決して戻れないと頭では分かっていても、考えてしまうんです)

カムイ(こうして永遠と後悔に苛まれることが、皆さんへの贖罪になるとは思えませんが…)

???「…イさん。…カムイさん!姉さん!」

はっと我にかえると、そこには私の愛しい妹、今では唯一のきょうだいであるリリスが立っていました。

リリス「また考え込んでいたんですね。そんなこと、いつまでも続けていたら体に毒ですよ」

リリス「ほら、たまには外に出ましょうよ。めずらしく今日は天気がいいんですよ」

カムイ(秘境にいた私をさらい、幽霊になっていた彼女を蘇生したのが私たちの本当の父親…ハイドラ)

カムイ(もちろん彼に気を許すことはできませんが、向こうの方は積極的に『親子』の関係を作ろうと頑張っています)

カムイ(リリスさんが私の妹だったことには本当に驚きましたし、そのことは全ての仲間を、家族を失った私の暗い心に一筋の光を与えてくれたように思います)

リリス「こんな天気のいい日にお散歩なんて、久しぶりですね、姉様!」

カムイ「ええ、本当に…」

カムイ(ハイドラが地上の二つの大国を滅ぼしたことの影響かはわかりませんが、最近はずっと昼だか夜だかよくわからない天気が続いていましたからね…)

カムイ「ところでリリスさん、ハイドラはどこへ行ったかわかりますか?」

リリス「いいえ…またどこかの世界を滅ぼしに行ったんではないでしょうか。最近はここの平行世界だけでなく、別の空間にある宇宙も滅ぼしているそうですから」

カムイ「そうですか…それならばそろそろ帰りましょうか」

リリス「姉様…」

カムイ「何です?」

リリス「私たちが生きていることって、意味があるんでしょうか…?」

リリス「私たちは彼を倒すことができませんでした。それどころか今は彼に飼い殺しにされている状態です」

リリス「今も滅ぼし続けている彼を、止めることもできない」

リリス「私たちはどうして、生きているのでしょうね」



次の日、自室で冷たくなっている彼女を見つけました。星竜は自らの意志のみで命を絶つことができるんだそうです


私は何のために生きているのでしょうか?ハイドラの、父を喜ばせるためなのでしょうか?



私も覚悟を決めることにしました。長年連れ添ってきた愛刀ーーーハイドラに傷一つ負わせることのできなかった刀ーーーに、最後の血を吸わせることを。

予想以上に反響がありませんねぇ…見てる人いるんでしょうか?

カムイ(これで…皆さんのところに行けるのでしょうか…?)

………エテ…………

カムイ(?)

…………カナ………エテ…

カムイ(隣の部屋から声がしますね…一応様子を見てみましょうか)

そこにあったのは、古びた、大きな機械でした。
円筒状で、幅1メートル、高さが3メートルぐらい。異国の紋章でしょうか?見たことのない模様が彫ってあります。

辺りに積み上げられている、ハイドラが異世界から奪ってきた戦利品の中で、それは何だか不思議な雰囲気を放っています。
近くにいると懐かしいような、嬉しいような、最近は思い出すこともなくなったそんな感情が湧き上がってくるのです。

カムイ(それになんだか、あたたかい…まるで、兄さんたちと一緒に)

カムイ「夢を…語った時のような…」

???(システム二ジュウダイナソンショウヲカクニン…タダチニシュウフクヲカイシ…)

カムイ「いけませんね、独り言なんて…」

???(シュウフクカンリョウ…セーフモードデサイキドウ…)

カムイ「そろそろですね…皆さん、今、そこに参ります」チャキ

???(ショキセッテイカンリョウ…ゲンゴセッテイカンリョウ…)

ザクッ
ドサッ

カムイ「兄さん…姉さん…母さん…今、あなたのところへ参ります…」

カムイ「ううっ…すごく痛いですね。はらわたがちぎれるような…実際そうですけど…」
カシャカシャ
ヴォン
カッ
???「READY・〉?」

???「アナタノ・ネガイヲ・ヒトツダケ・カナエテ・サシアゲマス・〉」

カムイ「機械が…しゃべっ…た…?出血多量で…幻覚でも見ているので…しょうか…?ふふっ、もうすぐです…もうすぐ…」

???「ドンナ・ネガイモ・ヒトツダケ・カナエテ・サシアゲマス・〉」

カムイ「ううっ……早く…みんなの……ところに………めが…かすむ…………」ガクッ

???「OK・〉ニンショウセイコウ・カウントダウンニ・ウツリマス…」

カムイ「」

???「3」

カムイ「」

???「2」

カムイ「」

???「1」

???「…エネルギーガ・フソクシテイマス・〉シュウイニ・コウエネルギーハンノウ・〉カイセキカイシ・〉」

???「『夜刀神』…ホノオノ・モンショウ・〉1000000000デデン…」

???「OK・〉カウントヲサイカイ…」

???「5」システムオールグリーン!

???「4」パラドクスシュウセイローターキドウ!

???「3」ジクウテンイシステムアンロック!

???「2」ジゲンサーバーニンショウカンリョウ!

???「1…」ジゲンテンイソウチジュウテンリツ400%!


カッ


???「GO!!!!!!!!」

これでひと段落ですねぇ。読んでくれてありがたく思っていますよ、ええ。明日も書きますので気が向いたら来てくださるとうれしいですね。

やっぱり…?

読み返したら凄く恥ずかしくなってきた…やっぱり書き溜めてから落とします。

どれぐらい時間が経ったでしょうか?鼻をくすぐる紅茶の香りで、私は再び目を覚ましました。二度と開くことは無いと思っていた目を。

カムイ「う…」ガバ

カムイ「いてて…頭が…」

???「あら、気が付いたのね、よかった…」

???「お姉ちゃんすごく心配したのよ?あなた、突然熱を出して倒れてしまうんですもの…」

???「何か欲しいものとかある?」

ここは…あの世なのでしょうか?それとも夢を見ているのでしょうか?そうでもないと説明がつかないのです。何せ死んだはずのカミラ姉さんが、不安げな顔をして目の前に座っているのですから。

同じような夢を、ここのところ何度も見るのです。夢の中できょうだいが生きていることに喜び、目覚めて夢であったことを知ってまた絶望する。そんなことはもうたくさんでした。しかし、この時はいつもと違うものを感じたのです。

カムイ「カミラ姉さん…私、とても怖い夢を見たんです…」

カムイ「その夢の中で、私はたった一人になってしまうんです」

カムイ「仲間たちも、きょうだいもみな殺され、世界に残ったのは私一人だけ…」

カムイ「そして最後に残った私がしたのは…したのは「カムイ!」

カミラ「大丈夫、大丈夫よカムイ、もうそんな辛いこと、思い出さなくてもいいの」

カミラ「この通り、私はピンピンしてるわ。それにあなたを残して、私たちきょうだいが死ぬはずないじゃない」

カミラ「怖い夢を見たなら、私が抱きしめてあげる。ほら、今はゆっくり休みなさい…」

ゴソゴソ
ギュッ
ムニュ

カムイ(懐かしいこの質感…そしてこの重さ、大きさ、間違いなくこれは現実ですね)

カムイ(しかし…なぜ…?どうして?)

カミラ「zzz…」

カムイ(もう寝てしまうなんて…まあ姉さんのことです、寝る間も惜しんで私を看病してくださったのですね。ありがとうございます)

カムイ(私も眠くなってきました。とりあえず難しいことは明日考えましょう…)

カムイ(また会えて本当に嬉しいです…カミラ姉さん…)ギュッ

カムイ「zzz…」

不自然なのでカムイ脳内での丁寧語は無しにします

~夕日をバックに~

カミラ「カムイ」

カムイ「何ですか姉さん」

カミラ「好きよ」

カムイ「私はもっと好きです」

カミラ「じゃあお姉ちゃんはもっともっと好きよ」

カムイ「じゃあ私はもっともっともっと好きです」

カミラ「じゃあお姉ちゃんはもっともっともっともっと好きよ」

カムイ「じゃあ私はもっともっともっともっともっと好きです」

カミラ「じゃあ私はもっともっともっともっともっともっと



カムイ「はうあっ!」ガバッ

カムイ「夢ですか…不毛すぎますね」


全身に汗をかいているし、心臓も早鐘を打っている。時計を見るともう明け方前だが、とてももう一度布団に潜る気にもなれない。さっきは気づかなかったが、寝込んでいた間体を洗っていなかったのでかなり体が汚い。のでお風呂に入ることにした。寝ている間に熱は下がったようだ。

至近距離で眠っている姉さんを起こさないように気をつけながら、タオルと着替えだけ持って外に出る。一応部屋にも備え付けのものがあるが、いちいち溜めるのが面倒なのでいつもは使用人用の共有のを使わせてもらっているのだ。

ガラガラ
カムイ(中に誰もいませんね…まあこんな時間ですし当たり前ですか)

ザバー
カムイ(はあ~、いいお湯です。身も心も洗われるよう…)

これまで「あった」「経験した」ことに思えたことは、本当に夢だったのだろうか?何だか考えれば考えるほど、記憶は現実味を失っていくようだ。まずそもそも自分が白夜で生まれ、暗夜で育ったということ自体が荒唐無稽に過ぎる。仮に自分が白夜王族だったとして、マークス兄さんたちがこんなに優しくしてくれるはずがない。それに…

ガラガラ
フェリシア「あ、カムイ様!元気になられたんですね!よかったです~」

突然の訪問者に、私の思考は一時中断される。

フェリシア「納屋に住み着いてる野良猫さんが子猫ちゃんを産んだんですよ~で、心配で見守っていたらいつの間にかこんな時間に!」

カムイ「へ~そんなことがあったんですね。フェリシアさんはやっぱり優しいです。でも明日もお勤めなんじゃないんですか?」

ザバー
フェリシア「いいえ、明日は午後からなんでぐっすり休めます。四六時中ドジ踏むんだから、体調管理ぐらいしっかりしなさいって姉さんに言われてましてね」

カムイ「そうですか…それならいいですけど」ザバー

シャンプー
ワシャワシャ
カムイ「ところでフェリシアさん」

フェリシア「なんですかぁ」

カムイ「最近、変な夢とか見ませんでしたか?」

カムイ「最近、変な夢とか見ませんでしたか?」

フェリシア「夢ですか…えーと、最近だと白夜の忍者さんから白夜の暗器?をもらう夢を見ましたね」

カムイ「へえ」

フェリシア「すごく強い暗器だったんですけど、すぐにエリーゼ様が『あたしも使いたい!』って言い出したもんだから、お譲りしちゃったんです」

カムイ「…」

フェリシア「仕方がないので、私は家から持ってきた食器を投げることにしたんです。そしたらあれよあれよと敵が倒れていって…変な夢だと思いませんか?」

フェリシア「あれ、何考え込んでるんですか?」

カムイ「……! あ、ご、ごめんなさい。へ、変な夢ですね…ち、ちょっと背中流していただけますか?」

フェリシア(こんなに動揺するなんてカムイ様らしくもない…)「はいはーい、よろこんでー」ザバー

ゴシゴシ
カムイ「…」グワッシグワッシ

フェリシア(さっきからすっかり黙りこくってしまっている…なんか変なこと言ってしまいましたか?)

カムイ「」ジャーゴジャーゴ

フェリシア「カムイ様、シャンプーめっちゃあふれてます。だだ漏れです」

カムイ「ああ…本当ですね…」グワッシグワッシ

フェリシア(大丈夫ですかね?)

フェリシア「…あれ?カムイ様、カムイ様の身体って、こんなに傷だらけでしたっけ?」

カムイ「毎日訓練してますから、多少はついてるはずですけど…」

フェリシア「それにしても多すぎです…まるで、激戦を戦い抜いてきた伝説の傭兵さん、みたいな?」

フェリシア「ここのお腹のとこのキズなんて、まるでハラキリでもしたみたいな大きさです」

カムイ「…!…そんな…まさか…!」

フェリシア「どうかなさったんですか?さっきからぁ…あ!もしかしてカムイさmきゃああっ!」ツルーン

ルーン
ドンガラガッシャーン!
ゴロゴロゴロ

カムイ「あちゃー…さっきのシャンプーを踏んづけて風呂桶の山に頭から突っ込んじゃいましたねごめんなさい」

カムイ「まったく毎度のことやら…だいじょぶですかー?フェリシアさーん」

カムイ「だいじょ…!」

フェリシア「」ピヨピヨ

カムイ「フェリシアさん?フェリシアさーーーん!!!!」

お城の医務室

フェリシア「zzz…」

カムイ(先生は軽い脳しんとうって言ってましたし、多分大丈夫そうですね)

カムイ(それにしてもこの傷…明らかに『夢』の中でハラキリをした時のもの)

カムイ(何が現実で何が夢かも分からなくなってきました…どうしましょう)

カムイ(…悩んでいても仕方がありませんね。手がかりがやってくるのをこちらから待つことにしましょうか)

一向に目を覚まさないので、とりあえず自室に戻ることにした。きっと姉さんも起きている頃だろう。

カムイ「じゃあフェリシアさん、ちょっと席を外しますよ」

フェリシア「zzz…」

カムイ(きっと疲れも溜まってるんですね…お疲れ様です)

カムイ(よかった…生きてて…)

ガチャ バタン

自室にて

ガチャ

カムイ「おはようございます、カミラ姉さん」

カミラ「あら、おはようカムイ」ズズズ

カミラ「身体はもう大丈夫?」ズズズ

カムイ「ええ、おかげさまで、ありがとうございました」ドボドボ


しばし、カミラの新聞をくる手と、二人の紅茶を飲む音のみが響く


カミラ「今日の金曜ロードショウは『バケモノの子』ね。見逃さないようにしなくちゃ。カムイも一緒に見る?」

カムイ「8時からマークス兄さんが剣術のテストするから無理です」

カミラ「そう…」ズズズ

気まずい沈黙。やはり新聞と紅茶の音のみが響く。カミラ二杯目突入、砂糖は五杯入れる。

カムイ「…今度ビデオ屋さんで借りてきて見ましょう」

カミラ「…!あら、ありがとう。うれしいわ」

カムイ二杯目突入、今度はコーヒーを入れる。ミルクのみで砂糖は入れない。カミラは早くも三杯目を終えようとしている。

カムイ「ところで、なんでそんなにお砂糖入れるんですか?」

カミラ「昔の人が言ってたの…」ペラッ

カミラ「『寝る子は育つ』」

カミラ「これじゃないわね…」ペラッ

カミラ「『パラシュートは愛で開く』」

カムイ「絶対違います」

カミラ「『胸は糖分で育つ』」ペラッ

カムイ「…本当ですか?」

カミラ「見ればわかるでしょう」ばいーん

カムイ「…ちょっと朝ごはん食べてきます」

食堂


カムイ(私の朝はいつもはケロッグで始まる…)

カムイ(だけどなんだろう、今日は別のものを試してみたい)

『胸は糖分で育つ』

チラ

エルフィ「ガツガツバリバリムシャムシャモグモグ」ガガガガ

エリーゼ「いつもながらすごい…」

ハロルド「ううむ、見てるだけでお腹いっぱいだ…」

食堂のおばちゃん「いや~、エルフィちゃんはいつも食べっぷりがいいねえ、こっちも作りがいがあるってもんだよ」ドドドドドド

オバチャン、カレーオカワリダイシキュウ!
ハイハイオマチドオサマ ドゴォ

カムイ(エルフィさんはああ見えてスタイルがいい)

カムイ「おばちゃん、私にも彼女と同じ物を」

カムイ「量は10分の1で…」

おばちゃん「はいお待ち~」ドン

カムイ(モグモグ…あっ、おいしい)


エリーゼ「あれ、カムイお姉ちゃん!元気になったの?よかったあ!」

エリーゼ「あれ、いつもよりかなり多いけど、どうしたの?」

カムイ「元気になったし、体力つけようかなーって思いまして」

ハロルド「それはいい心がけですね!ささ、エリーゼ様、デザートで悩んでないで、さっさと鍛錬に向かいましょう!」

エリーゼ「ええーっ…わかったよ…おばちゃん、チュッパチャプスちょうだい!」

ハロルド「エルフィ君もほら、はやく…ってもう食べ終わっとる…」

ハロルドハナニタベタノー?
ハンバーガー4コグライデスネ
アハハーアメリカーン

廊下

カムイ「ふう~何とか食べきりましたね。お腹パンパンです」

カムイ(手がかりを待つ…)

カムイ(『夢』について隅々まで思い出してみるのも、悪くないかもしれませんね。じっくり考えるのにいいところは…)

カムイ(そういえばフェリシアさん大丈夫でしょうか?)

医務室

フェリシア「zzz…」

カムイ(変化なし…ですか。フェリシアさんには悪いですけど、この方が好都合です)


カムイ(私が『夢』で『あの』選択をしたところから遡ってみましょう)


そもそも、マークス達が白夜平原まで攻めのぼってこれたのはミコトさんが殺害されたせいである。

ミコトさんが死んだのは私が持ってきたガングレリが爆発したせいだ。

私がガングレリを持ってきたのはガロン様に持たされたから。

ガロン様がこれを持たせたのは私の技量を見込んでのこと。

彼が私の技量を図ることができたのはスズカゼさんやリンカさんと戦ったから。

私が彼らと戦えたのは…戦えたのは…



カムイ(何ででしたっけね)

カムイ(まあいいでしょう、その『きっかけ』がもし起きるならばもうすぐ…)


フェリシア「zzz…」

カムイ(ぐっすりですね…ふふふ) ギュッ

カムイ(何だかカミラ姉さんのがうつっちゃったみたいですね…)

カムイ「死なないでください…私を置いて…絶対に」

ガチャ
ジョーカー「ほーれフェリシア、調子はどうだ?ったくお前はまたドジしやがっt」

カムイ「」

ジョーカー「」

ジョーカー「…安心してください。なにも見てませんよ…」バタム

カムイ「」

思ったより進まないものですね。今日はここまでです。あとバケモノの子は来週でしたね、面目ない。

今後の展開に必要になる、かも。

使用人室

ジョーカー「そうでしたか、それは失礼なことをしました」ニコ

カムイ(ジョーカーさん…笑顔引き攣ってます)「誤解が解けて何よりです」ニコニコ

ジョーカー(いやはやカムイ様にそんなご趣味がおありになったとは…)「コーヒーをお入れしましょうか?」ニコ

カムイ(絶対誤解解けてませんね)「ではお願いします」ニコニコ

ガリガリガリガリガリガリガリガリ
シュンシュン

カムイ(一心不乱にコーヒー豆を挽いてます…何とかしなければ)「いや~ジョーカーさん、紅茶だけでなくコーヒーの淹れ方までマスターしておられるとは、知りませんでした」

ジョーカー(ううむ…恐らく2人の仲は相当なところまで)「ギュンターに最近教えてもらいましてね、『いつまでも紅茶一辺倒じゃダメだ』って」

カムイ(心なしかコーヒー挽きを回す手が震えているように見えます)「そうですか~でも大変だったでしょう?」

ジョーカー(いかんいかん何とんでもないことを考えとるんだ俺は)「いえいえ、カムイ様のためです。美味しい飲み物を入れることは私の喜びでもありますしね」

カムイ(早くどうにかしなければ…)「ふふふ、ありがとうございます」

ジョーカー「俺は、嫉妬しているのか…?フェリシアに…?」(いえいえ、滅相もありません)

カムイ「?」

ジョーカー「も、申し訳ございませんカムイ様、今のはちょっとした失言でして…」

カムイ「ジョーカーさん…」ツカツカ

ジョーカー「!?」

カムイ「…」ギュッ

カムイ「…こうしていないと、何だか落ちつかないんです…」

カムイ「ふふっ、変ですよね…」

ジョーカー「…」

言えなかった。こんな時、どんなことを言えばいいのかわからなかった。主君を元気づけることもできない俺は、執事失格なのかもしれない。

ジョーカー「…私は、どこにもいきません。カムイ様のために生き、カムイ様のために死ぬのが私の喜びです」

カムイ「………死ぬなんて絶対言わないでください。あの時だってあなたは…」


ガチャ
フローラ「ジョーカー?お菓子が焼けましt」

フローラ に ひっさつのいちげき!

フローラ「…!ううっ」バターン ドタドタドタバタ

ジョーカー「ふ、フローラ?待て誤解だ
あ!」ダダダダ

ウワアアアアン
チョットマテミンナニヒロメルナアアア
ヒトノキモチヲモテアソンドイテエエエエエエ
ナンノコトダ イタイイタイイタイ


カムイ(…上手くいかないものですね)


そんなことをしているうちに8時である。

カムイ(おや…少し昼寝をしていたら、もうこんな時間になってしまいましたね)

ギュンター「カムイ様、起きてください。夜の訓練のお時間です。…と言いたいところですが、お体の方は?つい今朝まで立てなかったではありませんか?」

カムイ「いえ、私はもう大丈夫です。それよりフェリシアさんやジョーカーさんは?」

ギュンター「それがですね…」

ーーーーーーーーーーーーーーーーー

3時間ぐらい前

医務室前の廊下


ジョーカー「フローラ、誤解だ頼むから話を聞け!」ダダダダ

フローラ「あなたにする話なんてないわよ!カムイ様と二人でいちゃこらしてればいいでしょう!」ダダダダ

ジョーカー「いやだからあれはそういうのじゃなくてだな、何というか」ダダダダ

フローラ「もういい!いいわ!あんたなんてカムイ様と幸せになっちゃえばいいのよ!私抜きで!」シュオオオオオ ピキィィィィン!

ジョーカー「冷気で廊下を凍らせた…だと?だが話を聞かせなきゃならん!待てえええ!」シャーッ

フローラ「しつこいわね…!それ!それ!もう!」バシュバシュバババシュシュ

ジョーカー「尖った氷を飛ばすんじゃねえ!あのなあ、これでも俺はお前のことを…」ヒョイヒョイヒョヒョイ

フローラ「お前のことを…何?」クルッ

ジョーカー「ちょっ、急に振り向くんじゃねえ!前見ろ前!あああああっ!」シャーッ

ガチャッ
フェリシア「すっかり元気になりました~!ってね。さあ、早速お仕事頑張らなくちゃあ!」

ーーーーーーーーーーーーーーーー

ギュンター「フェリシアが最後の意識の中で捉えたのが、実姉の後頭部だったということです。いやはや、3人とも軽症で済んだのが何より」

カムイ「…それで、いらしたのがギュンターさんだけだと」

ギュンター「そういうことです。ささ、早く防具を召して下され。マークス様がお呼びです」

城塞の屋上

マークス「よく来た…これが、お前を城塞から出す許可を得るための最後の試験」

マークス「私を倒してみせよ!カムイ!」

カムイ(これは…)

完全に『夢』の再現だった。違うところといえば今が夜であるところと、互いにてつのけんを装備していることぐらいだろうか。

マークス「突っ立っているだけでは私を倒すことは出来ん!こちらから行くぞ!カムイ!」

マークス「ぬうん!」

カムイ(そんな…そんな…そんなはずない…)

マークス の こうげき !

カムイ は すばやく みを かわした !


レオン「何やってんだい姉さんは…避けてばっかりで、一向に攻撃する気配がないじゃないか。怖気づいたのかな…」

カミラ「いいえ、あれは怖がっている顔ではないわ。むしろ…何か考え込んでる?いいえ、ひどく混乱しているようね」

レオン「おっと、やっと剣を構えたね」


カムイ(取り敢えず、今はこの戦いに集中しましょう…それにしても、兄さんは攻撃を当てる気があるのでしょうか?こんなのかすりもしませんよ)

カムイ(まず剣を構えて)ガシャ

カムイ(あれ?体が勝手に…)



ーーーーーー竜穿 ピキーン!

カムイ「逃げたり…しませんッ…!!!」ダダダダッ

ーーーーーーピキーン!

レオン&カミラ「あ」

マークス「え」

ドガッバギッ

critical!135damage!

ドジャアアアアアアッ!

マークス「」

カムイ(あれ…?いまのって私が…?)

カムイ「って大丈夫ですか?マークス兄さん!兄さん!」タタタタ

マークス「………カムイ…」

カムイ「な、何ですか?」

マークス「カムイ…見事だ…暗夜王国を……きょうだいたちを………頼んだ……ぞ……!……ぐふっ」

Stage Clear!



カムイ「マークス兄さあああああん!!!」

レオン「…どうやら気絶してるだけみたいだね。カムイ姉さんは頭持って、僕は足持つから。カミラ姉さんは兄さんの馬をお願い」

カムイ「えっ大丈夫なんですか?」

レオン「過去の文献によると、天空必殺(月光の方)食らってもピンピンしてた弓兵なんてのがいるらしいからね。兄さんなら多分大丈夫大丈夫」

マークス「ううむ…寝る前の子供にお菓子をあげるなとあれほど…」

レオン「まあ頭をかなり強く打ってるみたいだから、とりあえず医務室に運ぼうか」



カミラ「…お兄様無事だといいけど…ほら、行くわよ」

ブルルル

カミラ(それにしても、屋上に馬連れてくるなんてほんと酔狂よね…)


医務室

フェリシア「…」

ジョーカー「…」

フローラ「…」

マークス「…」

フローラ「…どうなさったんですか?マークス様」

マークス「……聞くな…」

フローラ「そうですか…」

やっと第1章終わり。分岐点までにスレが持ちますように。

医務室の外の廊下

レオン「無事でよかったね、姉さん。何だか拍子抜けしちゃったよ」

カムイ「私の……せいで…」

レオン「だから大丈夫だって。それよりほら、まだ所々凍ってるから気をつけて」

カムイ「ええ…」

スタスタ

レオン「気にすることはないさ。まあ兄さんも油断してたんだろうしね」

カムイ「私は……どうしたらいいのでしょう…?」

カムイ「……こんなことを繰り返していては、また私は…」

カムイ「私のせいで……大切な人を…」

カムイ「失うのは、もう嫌です!こりごりなんですよ!」

レオン「ちょっ、ま、待ってくれ姉さんそりゃどういう」

カムイ「あなただって…自分の実の父親を殺さなきゃならない息子の気持ちが分かるんですか!フォレオ君の!」

レオン「…疲れてるんだよ、姉さん。僕はフォレオなんて人間を知らないし、殺されもしてないよ。ほら、部屋に着いた」

カムイ「…!…………そうですね…今日はゆっくり休むことにします」

レオン「それがいいよ、姉さん。おやすみなさい」

カムイ「おやすみなさい…あと法衣裏返しですよ…」

ガチャ バタン

レオン「」


カムイ(レオンさんには悪いことをしました。突然取り乱すなんて…明日謝らないといけませんね)

カムイ(でも結局、『手がかり』はすぐにやってきました)

カムイ(考えを整理する必要がありそうですね)

カムイ(一体どうすれば…)


『私たちの生きる意味って、何なんでしょうかね』


カムイ(リリスさん…)

カムイ(そうだ!リリスさん、リリスさんに相談すればいいじゃないですか!)

我ながら迂闊だった。なぜ朝起きた時に真っ先に彼女の元に向かわなかったのだろう?まああの時は多少混乱していたし、仕方のないことではあったが。

とにかく、彼女の元を訪ねなければならない。彼女の反応次第で『夢』の正体がわかるかもしれない。

カムイ(早速行ってみますか…いまは午後11時、迷惑かもしれませんがリリスさんは自室にいるはず)

カムイ(リリスさん…また会えるんですね…)


リリスの部屋

カムイ「こんばんは、入りますよ」

リリス「あらカムイ様、どうなさいましたか?こんな夜分に」

自らの手で埋葬したはずの人間が、生きている。

わかっているはずなのに、頭のどこかがそれを猛烈な勢いで否定している。

リリス「こんな格好で失礼しますね、何しろ今から寝ようとしていたところでして」

目の前で起きていることが理解できない。ここにいるのは本当に私の妹なのだろうか?妹は死んだのではなかったか?

カムイ「リリス…さん…リリスさんですね……?」

あたたかい。本当に生きているんだ。本当に。

リリス「カムイ…様…?」

リリス「泣いていらっしゃるんですか?」

カムイ「…り…りすさん…ぐずっ……私は…あなたを………助けられ………ごめんなさい…」

リリス「……………」

リリス「………泣いてください。カムイ様。あなたの涙で私を濡らしてください。私は、もう、どこにもいきませんから…」

リリス「………私の、最愛のお姉さま…」

カムイ「ううっ……ぐすっ……ありがとう………リリス………」

涙が止まらなかった。『彼女を埋葬した時』でさえ、『自分が死ぬ時』ですら、涙は出てこなかったというのに。不思議だった。


リリス「何があったか話してもらえますか?少しずつでいいんです」

私は語り始めた。初めはゆっくりと、だんだんと速く。

カムイ「……こうして、私は文字通り死んだのです。そして、気がついたらこの城塞の自室にいた」

リリス「それは尋常なことではありませんね……でも、夢ではない……つまり……考えられるのは……」

リリス「姉様、何かタイムスリップに関係する記憶はありますか?」

カムイ「タイム…なんですかそれ?」

リリス「簡単に言えば、同じ時間軸の異なる場所に移動することですね」

カムイ「そんなことが…できるのですか?」

リリス「できるも何も、そのお腹の傷が何よりの証拠です」

リリス「例えば、机の引き出しの中に広がってた空間に飛び込んだとか、時速140キロまで加速したシューターに雷が落ちたとか、そんな記憶はありませんか?」

カムイ「いえ全く…でも…」

リリス「でも…何ですか?」

カムイ「これぐらいの…ばかでかいネジに翼が生えたみたいな形のですね…こんな機械が話しかけてきた気がするんです」カリカリ

リリス「…これは父上が異界から拾ってきたものですね…私も覚えていますよ。『あそこ』を出る時にはもうありました。なんでも『夢を叶えるキカイ』なんだそうです。聞くと時間を飛び越える願いも叶えられるんだとか」

リリス「まあ、壊れて動かなかったんですけどね」

リリス「とりあえず、タイムスリップにはその機械が少なからず関係していると考えたほうが良さそうです」

カムイ「で、では、つまり『夢』が私の未来だったなら…私は…やり直せるんですね…!もう一度…一から!」

リリス「…そういうことになりますね。となれば今度こそ失敗できません…2人で今後の計画を練るとしましょう」

ふたり「全ては破滅の未来を、防ぐために!」


コケコッコー コケッ コココココケッ




リリス「…おはようございます、カムイ姉様。寝落ちしてしまいました…」

カムイ「いいえ、そんなことありませんよ。ほら、見てくださいこの完璧な計画表!リリスさんの助けがなければこんなに早く出来上がりませんでした!」

カムイ「…ではちょっと自室に戻りますね…すごく眠いです…ファ~ァ」ガチャ バタム


リリス「おやすみなさい。さて、どんなものでしょうか………」

リリス「………………」

リリス「す、すごい…完璧です…!」

昼前

???「……えちゃん!カムイお姉ちゃん!起きてよ!カムイお姉ちゃん!」

カムイ「ファー、まだ眠い…あら、おはようございます、エリーゼさん…どうかしましたか?」

エリーゼ「今日はウィンダムに行く日だよ!覚えてないの?」

カムイ(完全に忘れてました…)

エリーゼ「さ、支度して、行くよ!」

不思議と、昨日感じていたような無性に人肌が恋しくなるような感情はなくなっていた。まあエリーゼなら喜んで抱かせてくれただろうが。リリスと触れ合ったことで大分満たされたのかもしれない。


城塞の正門前

マークス「じゃあ…行ってこい、カムイ。気をつけるんだぞ…」フラフラ

カムイ「はい、行ってきます、マークス兄さん。出てきて大丈夫なのですか?」

マークス「なあに、こうして松葉杖がつける程度には回復している…かわいい妹の門出を見送らんわけには…いかんからな」ヨロヨロ

カムイ「分かりました。では行ってきます。お留守番をお願いしますね」

マークス「ああ…任せろ…」

ワイワイ ガヤガヤ

マークス(ふふ…ついこの間まで、ほんの子供だと思っていたのだがな…)

マークス「いてて…」

クラーケンシュタイン城、王の間

~前略~

ガングレリを手に入れた フラフラフラフレー

ガロン「さあ、人質を連れてこい」

カムイ「え…あれは(≫56)さんと(≫57)さん…どうして…?スズカゼさんとリンカさんではないのですか…?」

ガロン「なんのことだ、カムイ?よもや怖気づいているのではあるまいな?」

カムイ(…ここは命令に従うことにしましょう)

カムイ「いいえ、そんなことは微塵もございません」

ガロン「そうか…やれ、カムイ」

OK・・〉朝まで待ってね。

カムイ(たしか…リョウマ兄さんとヒノカ姉さんの家臣の方…でしたね)

ボソボソ
サイゾウ「…お前のせいだぞ、セツナ…思えば、偵察任務にお前を連れて行ったのがそもそもの間違いだった…!」

セツナ「…ほめてくれて、嬉しい…」ポッ

サイゾウ「ほめてねえ…!」

カムイ(まあ、サイゾウさんが罠に引っかかったセツナさんを引っ張り上げていたら、運悪く捕まった。とかそんなんでしょうね)

ハロルド「おや、あの方々は…」

エリーゼ「え、知ってるの?ハロルド?」

ハロルド「ええ、つい先ほど森を散歩していましたら、いつものようになぜか底なし沼にはまりましてね」

ハロルド「何とか自力で脱出したのですが、ふと向こう岸を見ると同じように沼にはまった奇妙な格好をしたご婦人が、これまた奇妙な格好をした殿方に引っ張り上げられているではありませんか」

ハロルド「引っ張り上げるのを手伝って差し上げると、いつの間にか周りをたまたま通りかかった街兵に囲まれておりまして…」

ハロルド「そこから先は、これまたなぜか降ってきたタライが頭を直撃したせいで覚えていないのです」

エリーゼ「つまり、その2人が…」

ハロルド「…そうです」


カムイ(これはまた予想以上に酷い理由ですね…)

ギュンター「カムイ様…本来ならジョーカーかフェリシア、最悪でもフローラをお付けする予定だったのですが、ご存知の通り…」

カムイ「大丈夫です。代わりにベルカさんに参戦してもらいますので」

ギュンター「承知しました…ですが、なぜベルカを?」

カムイ「直感…ですかね?」

初期配置的に、ここで選んだ人はサイゾウと戦うことになる。武器相性や単純な兵種相性、今後の展開などから、今いる6人の家臣の中から彼女を選択したのだった。

カミラ「…じゃあ、気をつけてね、二人とも。怪我しないでね。応援してるからね」

ベルカ「…了解」

カムイ「では、行きましょうか、ギュンターさん、ベルカさん」

ギュンター「龍脈についてはご存知ですか?」

カムイ「ええ、でも今は使いませんよ」

ギュンター「?」

カムイ「ここで中央の瓦礫を吹き飛ばして中央に篭ったとしても、左右からはさみ打ちを食らってと危険です。ですので、あの瓦礫はこのまま障害物として使うことにします」

カムイ「私は左の弓兵を相手するので、二人には右の忍者の方をお願いします」

ギュンター「ほう…さすがカムイ様、初の指揮ながら冴えていらっしゃる。では、ご武運をお祈りしますぞ」パカラッパカラッ

カムイ(本当は戦いぶりを見られたくないからなんですけどね…玉座方面からでは瓦礫の右側が見えないのは、確認済みです)

スキル構成:天空・竜穿・白夜・死線・気合一閃

カムイ「行きますよ…!」

セツナ「う、うん…」

気絶させた上で用意していたトマト(レオンの)まみれにすれば、捕虜をガロンの目を欺いて連れ出すことも多少は楽になるだろう。そんな計画である。

カムイ『終わりました…』

ガロン『そうか』

カムイ『この者たちの血みどろの死体…明日のゴミ収集に出しておきますね』ズルズル

そして外でリカバーをかけ、解放する。

はずだったのだが。

カムイ「覚悟!はあああああっ!」ダダダダッ

セツナ「え…どうしよう…あっ」コケッ

ジダンッ

カムイ「ぐっ…はあっ……」

何もないところで転んだセツナの頭が、偶然にもカムイにジダンと当たる。死線も相まって大ダメージ。

セツナ「う…うん…あれ、だいじょうぶ?」

カムイ(HP3)「だいじょうぶじゃないです…」

カムイ「今度こそ…」

ーーーーーー天空 ピキーン

カムイ「道を開けて下さい!」

ーーーーーー ピキーン

ドゴオ

セツナ「」

カムイ「ハア、ハア、上手く峰打ちできましたね…トマトトマト」ビチャビチャ

カムイ(セツナさんの低い体力だけでは全快できませんでしたが…いいでしょう)

テクテク

カムイ「大丈夫ですか?二人とも?」ヒョイ

ベルカ「まずい…」

1分前

ベルカ「そいっ!」テオノポイー

サイゾウ「ふんっ!それっ!」バクエンポイー

ベルカ「くっ…」

ギュンター「まさか、魔法武器とは…ぬかったな」

ギュンター「交代だ!一旦退いて回復しろ!」

ベルカ「了解…」

ギュンター(とは言ってもわしの速さ・魔防もかなり低い…どこまで持ちこたえられるか、な。おや?)

ベルカ「う、うますぎる…!」パサパサ

ギュンター「む…何を食べておるのだ?傷薬ではないようだが」

ベルカ「…カロリーメイト(チーズ味)よ」モチモチ

ギュンター「なんだそれは?」

サイゾウ「ふんっ!」

ギュンター「うっ、しまった…!」

カムイ「大丈夫ですか?」ヒョイ

カムイ「!」

ベルカ(全回復…でも暗器を使わせては勝ち目がない…それなら)

カムイ「ベルカさんがサイゾウさんの所に走っていく…一体どうするつもりなんでしょう?」

ベルカ「せええい!」

サイゾウ「むっ…!」カランカラン

カムイ(手斧で手裏剣を弾き落とした…!しかし、ベルカさんも獲物をこれで失いました…)

普段、ておのてやりなどが無限に投げられるのはブーメランのように回転させ、その都度回収しているからである。(という事にしておく)しかしこの時回収を度外視して無回転で投げられた手斧は、見事サイゾウの不意をついて彼を無力化したのである。

ベルカ「はああっ…ふん!せい!それ!」

サイゾウ「甘いわ!はっ!ほっ!せい!」

カムイ(ベルカさん…近接格闘で仕留めるつもりですか…)

サイゾウ(ぐっ…この女…強い!身にまとう雰囲気からして…確実にプロだ…)

サイゾウ(だが…動きが悪いな…恐らく最近は近接格闘の訓練を行っていなかったのだろう)

ベルカ「せいやっ!う…!」

サイゾウ「ふん…掴んだぞ…はっ!ふん!それっ!」

ベルカ「ぐっ…ぐはあっ…」ゲホッゲホッ

カムイ「べ、ベルカさん!」

サイゾウ「ふん…背負い投は相当効いただろう…止めだ!」

カムイ「!…間に合わない…!」

しかし、拳を振り下ろすその瞬間に倒れたのは、ベルカではなくサイゾウの方だった。

サイゾウ「が…は…っ」

カムイ「……!?」

ベルカ「急所への必殺の一撃(蹴り上げ)…相当効いたはず…」ムクッ

ベルカ「カムイ様、止めを。私はギュンターの応急処置を行う」

カムイ「…わかりました。失礼しますよ…それっ!」ビチャビチャ

サイゾウ「ぐ………」

カムイ「静かに…」ゴン

サイゾウ「」

カムイ(死角になったから見えていないはず…)

カムイ「終わりました、父上…この汚らしい死体は明日の燃えるゴミに出しておきますね」ズルズル



ガロン「…待て」

カムイ(!!!!!)

ガロン「明日は燃えないゴミだ。燃えないゴミに出しておけ…」

カムイ(ほっ)

ガロン「…しかし、気になるな…さっきからトマトのような匂いがするのだが」

カムイ(!!!!!!!)

カムイ「き、気のせいですよ父上、ほら、レオンさん今日のお昼トマトスパゲティだったから…」

レオン「今日はたらこスパゲティだったけど」

カムイ(説明しとけばよかったああああ!)

ガロン「臭うな…こっちか?」

カムイ(まずい!このままでは間違いなくばれます…!)

カムイ(どうしましょう…あっそうだ)

カムイ、おもむろにガングレリをまさぐる。

カムイ「お父様、なんかこの剣変なんですけど…ちょっと見ていただけますか?」ワタシ

ガロン「ほう…どれどれ」ウケトリ

カムイ(やれやれ、魔法具について勉強しておいて良かったです)サッ

カムイ「皆さん!気をつけて下さい!」

ガロン「うん?」








ガロンが再び目覚めた時、最初に目にしたのは医務室の天井であったという。

ガロン「」ブスブスブス

カムイ(最悪、この場で第二形態に移行してしまう可能性があったのでこの手は使いたくなかったのですが…仕方ありませんね)

カムイ「だ、大丈夫ですかお父様?」

カミラ「大変、呼吸してないわよお父様」

エリーゼ「ら、ライブ!」ホワワワン

エリーゼ「ライブ!ライブ!…なんで…なんで回復しないの…?ぐずっ…ふええええん!」

カムイ(常人ならケシズミになるレベルの魔力を注ぎ込んで爆発させましたからね…あとガロンは元々息してませんでした)

ガチャ
マクベス「おやおや、ずいぶん大きな音がしましたね…ってガロン様!ガロン王様!大丈夫ですか?」

マクベス「今すぐ医務室に連れて行ってビフレストをかけます!ギュンターは右足を持って!ガンズは左!私は頭を持ちます!」

ダダダダダ

エリーゼ「ぐずっ…お父様…大丈夫かなあ…」

レオン「大丈夫さ。ビフレストがあれば、どんな人間でもたちまち死の淵からよみがえる。それにマクベスは最悪の杖からでさえも最高の効果を引き出すことのできる『第1級無限の杖師(国家資格)』を持っているからね」

エリーゼ「で、でも…」

カミラ「大丈夫。それに今、あなたでなければ助けられない命が2つもあるのよ…?」

エリーゼ「え…?」

カムイ「エリーゼさん、あの捕虜の方の回復をお願いします。フェリシアさんもジョーカーさんもフローラさんもいない今、お父様に知られずに二人を助けられるのはあなただけなんです」

エリーゼ「…わかった。ライブ!」ホワワワン

クラーケンシュタイン城、裏門の近く

セツナ「逃がしてくれるの…?ありがとう…じゃっ」スタスタ

サイゾウ「じゃっ、じゃない」グイッ

サイゾウ「カムイとか言ったな、なぜ捕虜を逃がすような真似をするんだ…?我々は敵なんだぞ?暗夜の」

カムイ「私は誰にも死んでほしくない…それではダメでしょうか?」

サイゾウ「………分かった。お前がどうしようもない世間知らずだということは、な。まあいい、命を助けてくれた礼だ。つまらんものだが受け取ってくれ」ゴソゴソ

マスタープルフ を 手に入れた! ▼

サイゾウ「そうだ、ところでそこの女」

ベルカ「…なに?」

サイゾウ「お前の格闘術………いや、何でもない」

サイゾウ「セツナ、ニワトリさんとおしゃべりしてないで帰るぞ、ほら」

セツナ「うん…連れてっていい?この子も来たいって」コケコッコ-

サイゾウ「いい。ではな、カムイ王女。もし次に会うときは…」


正真正銘、敵同士だ。





カムイ「気が付いてらしたんですか?二人とも」

カミラ「ええ、当たり前じゃない…あなたの考えてる事ぐらい、お姉ちゃんにはお見通しなんだから」

レオン「もちろんさ。あの姉さんが喜んで捕虜を殺すなんてことは考えられないしね」

カムイ「…じゃあなんでレオンさんはさっき話を合わせてくれなかったんです?」

レオン「……忍法法衣返し…あんな修羅場で言うことじゃなかっただろ…?」ボソッ

カムイ「すいませんでした…」

カムイ(そういや昨日の謝ってませんでしたね)



ベルカ(さっきの忍者…あの人に似てた…?まさか…そんなわけない…)

第2章「魔剣ガングレリ(の爆発)」終わり
次回からベルカと二人旅です

3日後

病室

ガロン「ということで…ゴホッゴホッカムイ、お前には無限渓谷の偵察…ゲーッホゲッホゲッホ!に行ってもらうことにする…」

エリーゼ「お父様…だいじょうぶ?」

ガロン「わしゃもう長くない…どうか、死ぬ前にお前の初陣が見たいんだ…なに、無人の基地を見てくるだけの簡単な任務…行ってくれるな…カムイ?」

カムイ「ええ…もちろんです。無限渓谷の偵察、行ってまいります、父上」

ガロン「行ってこい…期待しとるぞ…我が娘よ…」ガクッ

レオン「ち、父上!」

マクベス「ダメですまた昏睡です!早く出てってください!」



ガロン「子供らは出て行ったか、マクベス」

マクベス「ええ、全快おめでとうございます、ガロン様」

ガロン「ガンズに命じろ…隙を見てカムイを殺せ、とな。あいつは中々勘が鋭い…いや、もしかすると、もう気づいておるのかもしれんな…」

マクベス「承知しました。しっかり、伝えておきます…」

ガロン「抜かりなく、な。ふははははははっ!くははははははは!」


ガチャ バタン
マクベス「ふう。全く困ったものです」

マクベス(どれだけ変わってしまわれたとしても…私にはただ…ついていくしかないのですね、ガロン様…)

荷造りを理由に北の城塞に寄ることにしたカムイとカミラとあとベルカ。レオンとエリーゼは王都に留まり、ガロンの様子を見守る。


城塞の医務室

カムイ「マークス兄様、ただいま帰りました。どうですか?調子は」

マークス「ああ、かなり良くなった…心配をかけてすまないな」

カムイ「いえいえ、元はと言えば私のした事ですから…」

カムイ「…じゃあ、フェリシアさん達にも挨拶してきますね」ガチャ バタン

マークス「行ったか…」

マークス「ふっ。さて、続きに取り掛かるとするか…」カタカタ


使用人室

フローラ「ふう、忙しい忙しい」ガチャ

ジョーカー「…お茶入ってるぞ」コポコポ

フローラ「…頂くわ」

フローラ(くっ…おいしい…)ズズズズ

誤解の方は解けたらしい。

フローラ「…ところで」

ジョーカー「何だ」

フローラ「この前、あなたと廊下でデス鬼ごっこしてた時、私がフェリシアに激突する直前にあなた何か言いかけてなかった?」

ジョーカー「…ああ、あの事か…」ニヤッ

フローラ「何よ、教えなさいよ」

ジョーカー「…『これでもお前を…』」

フローラ「お前を、何よ」

ジョーカー「…もう交代の時間だ。じゃあな」ガチャ バーン

フローラ「え、ええっ?…何よ…」

フローラ「全く…」ズズズズ

フローラ(悔しいけどおいしい…)

フローラ(そろそろ私も行かなきゃ…)



カムイ「フェリシアさーん?あれ、誰もいませんね…あとでまた来ましょう」

夕方

リリスの小屋

カムイ「リリスさーん?」

カムイ「また誰もいませんね…む、電話が鳴っています」

カムイ「もしもし」

リリス『もしもしカムイ姉様?今すぐそこの水晶玉で星界に来てください』

カムイ「え?」

リリス『話はそこでします。早くして下さい』ガチャ ツーッツーッ

カムイ「随分とせっかちな…これですね…えいっ」



星界

カムイ(マイキャッスル…久し振りに来ました)

だが、そこはかつて仲間と(顔面で)触れ合ってきたマイキャッスルとは似ても似つかない場所に変わり果てていた。所狭しと機械の類が置いてあり、さながら巨大な研究室のようである。

作業着姿のリリスがいた。

リリス「カムイ姉様、お久しぶりです。先ほどは失礼致しました」

カムイ「いいえ、及びません…しかし、この有様は何ですか?」

リリス「この前カムイ姉様の話を聞いてから、疑問に思った事が多々あったのです。まず、カムイ姉様のお話の中の時間と、ここ、私たちの住んでいる時間の間には、多くの相違点があります」

カムイ「ええ、小さなところではそれは薄々感じていました…テレビや電話なんかは未来にはありませんでしたから」

リリス「それだけでなく、この二つの時間の間には決定的な違いがあるのです。姉様は、『夜刀神』や『ジークフリート』、『雷神刀』などの『神器』について話してくれましたね…」

カムイ「ええ。……っ!まさか!」



リリス「ええ…それらの『神器』は、この世界には存在しません」

カムイ「そんな…という事は…」

リリス「まず、はっきりするのが『姉様が元いた世界』と『今いる世界』は全くの別物だという事です」

リリス「ところでこの機械を見てください…どう思いますか?私の研究の最高傑作といってもいいでしょう」

カムイ「…この機械で何ができるんですか?」

リリス「同じ時間軸上のパラレルワールドに転移する事ができます。いははや、開発には苦労したんですよ。膨大な資産や時間を費やしました…」

カムイ「そ、そんな…あ、ありがとうございます!」

リリス「いいんですよ。このマシンは私の夢でもあったんですから。子供の時から科学に一生を捧げるのが夢でした…これも『あちら』の世界との違いですね。あっちの世界の私にそんな願望はありませんでしたから」

リリス「このマシンであちこちのパラレルワールドを調査した結果、この2つの世界の相違の原因が分かったのです」


リリス「それは強引なタイムトラベルに起因して起こった時空連続体の部分的な破壊…お分かりですか?」

カムイ「いや全く分かりません」

リリス「…図を描きますね」

ーーーーーーーーーーーーーーーー A

ーーーーーーーーー B

リリス「まずカムイ姉様がいらしたのが『A』世界だとします。姉様はこの時間軸のある地点で強引なタイムトラベルを試みました。不完全な状態のタイムマシンを使った事が、それに当たります」

リリス「そのタイムマシンが不完全であったために『A』世界を保ったまま姉様をタイムスリップさせる事が出来ず、結果時空連続体を破壊し、『本来あるはずのもの』がなくて『本来ないはずのもの』がある世界『B』を生み、そこに姉様を転移させてしまったのです。つまりそれが『ここ』」

リリス「分かりましたか?」

カムイ「少しは」

リリス「つまり、ここは本来の歴史から外れた奇妙な世界…『if』、もしもの世界です」

カムイ「なるほど」

リリス「…(本当にわかってるんでしょうか)『A』と『B』の世界の差分を冊子にまとめておきました。どうやら様々な異界の影響を引き寄せてしまったようで、相当人物設定や時代背景などが歪になっています。カムイ姉様のスポーン地点から離れるほどその歪さは増すようですね。この前作った計画書も役に立つかどうか…」

カムイ「練直しが必要そうですね…私が王都で戦った相手も『A』世界とは違う人でしたもの」

リリス「ところで…『アクア』という人物をご存知ですか?」

カムイ「そんな人……………?あ……!」

カムイ「思い出しました!何でこんな大事な事を忘れていたんでしょう?自分の命を懸けてまで頑張ってくださったのに…」

リリス「恐らく、『名前を言ってはいけないあの国』の呪いで忘れていたんでしょうね。でも、その呪いはあくまで『A』世界限定のものだった…だから簡単に思い出せたんです」

リリス「ちなみに、アクアさんも姉様と一緒にこっちに来てらっしゃったようですよ?着いた瞬間にちゃんと生身の体に戻ったみたいですし」

カムイ「…では、白夜王国に向い、アクアさんに会う事が当面の目標になりましたね」

リリス「そうなりますね…では、計画を練り直しましょう!」

翌日、早々朝

城塞の正門

カミラ「じゃあ、お気をつけなさいね、二人とも。本当はお姉ちゃんが変わってあげたいぐらいなんだけど…」

カムイ「大丈夫ですよ、心配いりません。留守の間、マークス兄さんをお願いします」

ベルカ「…」

カミラ「ところで、本当にガンズはおいていくの?」

カムイ「ええ、何されるかわかったもんじゃありませんから…(分かってますけど)このまま城塞で寝過ごしてもらいます」

カミラ「わかった…気をつけてね。着替えは持った?歯ブラシは?」

カムイ「旅行じゃないんだから…大丈夫ですよ、行ってきます」スタスタ

ベルカ「…」スタスタ


カミラ「あ、ベルカ、ちょっと待ちなさい」

ベルカ「?」

カミラ「これを持って行きなさい…きっと役に立つはずよ」

ベルカ「これは…≫78…!」

ベルカ「ありがとう」スタスタ

カミラ「気をつけるのよ~」


カムイ「なんだったんですか?さっきの」

ベルカ「…逆金棒。何でも炎の部族長の娘が持ってた物らしい…」

カムイ(…!って事はリンカさん…)

また、死なせてしまったのだ。間接的にしろ、かつての仲間を。

ベルカ「…」

カムイ(リンカさん…あなたの死、決して無駄にはしません…!)


カムイ「…」スタスタ

ベルカ「…」スタスタ

カムイ「…」スタスタ

ベルカ「…」スタスタ

これが3時間ほど続いた。書く方としてもとても楽である。目立つのでドラゴンははるか上空を旋回させている。ちなみにギュンターはガロンを下ろすときに腰をやって入院中である。

夕方

ベルカ「…」スタスタ

カムイ「…そろそろ野宿にしましょうか」

ベルカ「…ええ」

カムイは手近な木の枝の下に火を焚き付け、簡易テントを張る。ベルカは水を汲みに行く。

やがて日は暮れ、二人の少女の顔を映し出すものはパチパチと爆ぜる焚き火だけになった。

カムイ(晩ごはんはパンと干し肉です…ファンタジーのお約束ですね。味は悪くないです)

カムイ「…ベルカさん、何食べてるんですか?」

ベルカ「…カロリーメイト(チョコ味)」モグモグ

カムイ(いきなりお約束ぶち壊しに来やがったよこの人)

カムイ「そんなんばっかりじゃあ体に毒ですよ。せっかくだから何か作って差し上げます」ゴソゴソ

ベルカ「…いい」

カムイ「まあそう言わずに」

そのころの白夜王国、とある宿で


カゲロウ「……!ああん…あぁっ……ううっ……!」

サイゾウ「………」

カゲロウ「………」

カゲロウ「………」

カゲロウ「……またダメだったのか?」

サイゾウ「……すまん」

カゲロウ「……謝る事じゃ、ない」

カゲロウ「……だが、暗夜から帰ってきてから、何だかお前は変わってしまったようだ…」

サイゾウ「…(あんなの食らったらそりゃ駄目にもなるわ…)」

カゲロウ「…(まさか…任務で一緒だったセツナとかいう女と…)」

サイゾウ「…すまんな(駄目になっちまって)」

カゲロウ「…いや…仕方のない事だ…(あんな美女と日夜、生死を共にしていたんだ…何かあってもおかしくはない)」

サイゾウ「いや、これは俺の責任だ…(俺の驕りがこんな結果を生み出したんだからな)」

カゲロウ「いや、私が悪い(私に魅力がないのが悪いのだろう…)」

サイゾウ「いや、俺が悪い(セツナの実力を見誤って一緒に連れて行った俺の判断ミスだった)」

カゲロウ「うんにゃ、私が悪い!(立ち絵が斜めなだけであの子結構あるし…)」

サイゾウ「俺だって言っているだろう!」

カゲロウ「だから私だと言っているだろう!」

サイゾウ「もういい!お前のような奴はうんざりだ!もう別れる!」スルスル

カゲロウ「は!私だってお前のような堅物をとはもう御免だ!」スルスル

サイゾウ「じゃあな!」ガチャン!

カゲロウ「ああ!」バァン


カゲロウ(何であんな事を言ってしまったんだ…?)

サイゾウ(明日謝るか…?いや、もう遅いか…)

暗夜の田舎道

簡単なきのこスープ

1、キノコをオリーブ油で簡単に炒める

2、水で煮る

3、すりおろしたジャガイモと牛乳を入れる

4、コンソメスープを加えて完成!

グツグツ
カムイ「完成です!ジャガイモも牛乳も無かったのでコンソメしか入ってませんが」

カムイ「きのこはそこに生えてたのを取ってきました。多分舞茸だとおもいます」

カムイ「どうぞ!」

ベルカ「いただきます…」

カムイ「私も食べますよっ」


ベルカ「…まあまあね。素材の味が自然と生きてる。素材しか入ってないから当たり前だけど」

ベルカ「でもこの味は…舞茸じゃ…ない?」

カムイ「え゛」

ベルカ「長く自炊してたからわかるわ…このきのこ≫82するやつよ」

エロは書きません書けません
ちょっと待っててね

カムイ「そんな…zzz…」

ベルカ(まずい…!こんなところで無防備に眠り込むわけには…くっ…眠い…何かなかったかしら…)

ベルカ(確かレッドブルがバッグに…)ゴソゴソ

ガボガボガボ

ベルカ「…ふう」

「軍の中で一番、毒物が効かない」は伊達ではないのだ。常人なら一瞬で気を失う量を摂取しても、しばらくは動ける。

カムイ「zzz…」スヤァ…

ベルカ(仕方ないわね…テントに運びましょう。よいしょっ)

ドサッ
ベルカ(いい寝顔ね…)

ベルカ(どうやったらこんなに大きくなるの…?)ツンツン



カムイ「………さん…」

ベルカ「?」

カムイ「……×××さん…行かないでください…」

カムイ「…あなたまで失ったら…私は………」

ベルカ(寝ぼけてるのね…でも×××って誰かしら…?……!)

突然、カムイが手を伸ばし、ベルカを抱きすくめる。咄嗟のことで反応できず、そのまま後ろに手を回されてしまう。

ベルカ(…動けない!なんて力…?まるで万力で固定されてるみたいに…てか顔近い)

カムイ「もう離しません…絶対に…!」ギュッ

ベルカ(これが、不思議な魅力なの…?何だかポカポカする…)

ベルカ(いやいやまずいまずい、何か言った方がいいのかしら…?)

カムイ「大好きですよ…×××さん…んっ」

ベルカ「!」

ベルカ「………!…………ぶはあっ」

ベルカ(舌使いがうまい…とか考えてる場合じゃないのに…!あれっ)

どうやら再び深い眠りに入ったようで、そのまま腕から抜け出すことができた。

ベルカ(…思い人、か)

ベルカ(見張りしなくちゃ…)

まだ午前3時

ベルカ「…」


午前5時

ベルカ(溜まってた土曜プレミアム見よう…)


午前7時

タブレット『I'll be back!』ダダンダンダダン!

ベルカ(なんでかしら…目から水が…?)


午前8時

カムイ「ふあぁ~、おはようございます、ベルカさん。迷惑をかけてすいませんでした…」

ベルカ「問題ないわ」

カムイ「でも、完徹だったんでしょう…?」

ベルカ「これぐらい平気よ。それより、ガンズに追いつかれると困るんじゃないかしら」

カムイ「…!そうでした。急いで支度しましょう!」

ベルカ(あの事は覚えてないみたいね…よかった)



昼前

無限渓谷入り口

昼前だというのに、ここは夜中のように暗い。別に白夜側は夜でも明るいとかはない。

カムイ(結局リリスさんからもらった冊子読むのを忘れてました…早く読まねば)

カムイ「おや、何を見ているんですか?」

ベルカ「暗視スコープ…」

カムイ(この設定万能ですね)

ベルカ「敵影が7つ…8つ…もっといそうね。無人のはずなのに…どうする?」

カムイ「ここまで来て引き返すなんてあり得ません…強行突破しましょう」

ベルカ「本気なの…?分かった。何か作戦はあるんでしょうね」

カムイ「ええ。まずは……!しまった!ガンズさんが来ます!」

ベルカ「何てこと…どうする?」

カムイ「作戦を台無しにさせるわけにはいきません。取り敢えず話を合わせてください」

ドドドドドド
ガンズ「待てえええええ!この野郎があああああああっ!」

白夜兵「な、何だあれは?筋肉がこっちに走ってくる…?」

カムイ「気付かれた…ガンズさーん!私はこっちですよー!」タタタタ

ベルカ(おもむろに崖っぷちに立って…何する気?)

ガンズ「死ね死ね死ねぇっ!」ブオン

カムイ「おおっと、いきなり切りつけるなんてヤバンですね~」ヒョイ

ガンズ「何だとこの野郎…死ねぇっ!」ブオン

カムイ「頭に血が上りすぎて本編の方のステータスになってます…まあ雑魚ですが」ヒョイ

カムイ「どうですか?下級職相手に良いようにあしらわれる気分は?えいっ!」ウワテナゲー

ガンズ「うわあああああああぁぁぁぁぁ…」

カムイ「一件落着…と」パンパン

ベルカ「完全に見つかったけどね」

カムイ(さて…そろそろ行きますか)

カムイ「やいやい!白夜のつわものども!」

白夜兵「!」

カムイ「遠からんものは音にも聞け!近からんものは目にも見よ!我こそは、暗夜王国第二王女カムイにあるぞ!」

カムイ(あー恥ずかしい。リリスさん、もっと良い名乗り方無かったんですかね…?)

ザワザワ

カムイ「さあ、かかってくるが良い!」

カムイ(これだけ騒いでから行けばリョウマ兄さん辺りがすっ飛んで…おや?あそこにいるのは≫88さんと≫89さんじゃありませんか!)

カムイ(どうも様子がおかしいですね…ちょっとあの冊子を見てみましょうか)

ピラッ

・白夜王国現王女 ミコト

2連続正解ルートからの…
油断させといて…ばかめ!しね!
でもせっかくだから私は青の扉を選びます!


カムイ(………?)

ピラッ

・白夜王国第二王女 ヒノカ

Danger!Danger!
第一級危険人物!見つけたら直ちに逃げろ!
豹変!野獣と化した実姉(嘘)!
この人は異界の影響を最も強く受けており、その精神はカムイさm

ヒノカ「見つけたあああっ!!!カムイィィィィ!!!!」ジンライナギナター

カムイ(こりゃ油断しましたね)

ビリビリビリ

カムイ「はひぃ…」ドサッ

後で聞いたことだが、ヒノカは聖天馬level20(破天奇傾者守備封じ速さ封じ天駆ける)まで頑張ってきたらしい。フルカンとはいえ下級職のカムイに太刀打ちできるはずも無かった。


ミコト「あなたはどうしますか…?ベルカさん?」

ベルカ「どうして私の名前を…?……!」

いつの間にか後ろに回り込まれた彼女には、ただ頭の上に「!」マークを浮かべてバンザイ直立することしかできなかった。

ベルカ「…わかった。武器を捨てて投降する」

カランカランカラン

ミコト「聞き分けの良い子は嫌いじゃないですよ…ちょっとごめんなさいね…」

ベルカ(クロロホルム…!ううん…)フニャア

ミコト「では、運びますよ。みなさん手伝ってください」

その頃モズメの村では

モズメ「いただきまーす」

モズメ母「頂きます」

モズメ「お母ちゃん、お父ちゃん今日も帰って来おへんの?」

モズメ母「そうやね…まあしょうがないやない、お父ちゃんが冬の間出稼ぎに行ってるおかげで、あたいらは何とか暮らしていけるんやから」

モズメ「分かった。あたいも明日から…民芸品ゆうもん作ってみようかなあ」

モズメ母「そうやね。ありがとな、モズメ」ウリウリ

ガラガラガラ
モズ「おーう、今帰ったぞーう!」

モズメ「あ、お父ちゃん!おけーり!」

モズメ母「ど、どうしたんや?あんた無限渓谷のお勤めは?」

モズ「ああ、それなんやが…何でも王族の偉いさんが直々に警備なさるんゆうてな…」

モズ「今日付けでお払い箱や…いうてもいい働き口紹介してもろたし、手当も十二分に貰うたし…どうゆうことやろな~」

?マアエエワ、キョウハフンパツスルデ!
ヤッターカアチャンフトッパラ!

のちにその村は幾度もノスフェラトウの襲撃をはね退け、シモヘイヘ張りの優秀な狙撃兵を輩出する伝説の秘境と化したという。

だがそれは別の話。また別の時にでも話すとしよう。

第3章 「旅立ちの時」終わり
個人的にはジブリの方が好きかな

白夜王国シラサギ城

カムイの部屋

カムイ(これは…知らない天井…?いや私は知ってることになってるんでしたっけ…?アレ?)

ベルカ「食べといたほうがいいわ。多分1時間もすれば奴が来るから」つ生姜焼き定食

カムイ「絶対病人に食べさせるやつじゃないですよねこれ。トマトサラダとか無かったんですか?」

ベルカ「私が食べた」

カムイ「キャラ変わってないですか?」

カムイ「ていうかヒノカさんに会いたくない…何されるかわかったもんじゃありません」

ベルカ「それじゃあ」ドサ

カムイ「逃げないでください。なにか落としましたよ…何でダンボール箱?」

ベルカ「…///」ガラガラ ピシャッ

カムイ「逃げた…ヒノカさんにナニかされただけで多分世界が崩壊して別の板に収束する…何とか自衛しないと…おやこれは〉〉95?使えそうですね」

カムイ「かかし…?」

ピラッ

使ってください

ミコト

カムイ「何に使えと?」

カムイ(とりあえず寝巻きを着替え…うわっ、首筋にキスマーク付いてますね…絶対見つかるわけにはいきません)

カムイ「逃げても追いつかれ、後ろからアレされるだけ…下手に逃げるより、ここで仕留めるのが得策ですね」

カムイ「工作は得意ですよ…作ってワクワク~はいできました」

30分後

ヒノカ「私のカムイ~~!帰ってきたぞおおお???!可愛がってあげる!今すぐにィィィィ???」ドドドドドド

ガララ

カムイ(来るの早すぎやしませんかね)

ヒノカ「いない…のか?」ゴソゴソ

ヒノカ「カムイー、どこ行ったんだ~?」

カムイ(ガタガタガタガタガタガタ)

ヒノカ「うむ…?このカカシは…?……!そうか…ふふっ、かわいいやつだ」

カムイ(!)

ヒノカ「ばれてるぞ~!それ!…?おや…?」

ヒノカ「てっきりカムイが化けてると思ったんだが…うん?なんだこのAmazonのダンボール箱は。3つあるが…」

これこそがカムイの罠だったのである。ダンボール箱三つのうち二つにキノコで作った催眠スプレーの、簡単な噴射装置が仕込んであり、開けた瞬間に噴射&失神する。そしてカムイは残り一つに隠れているのだ。

カムイ(確率は3分の2…多分なんとかなります。たぶん)

ヒノカ「…………これだ!」ヒョイッ

カムイ「え」

ヒノカ「この私がかわいい妹の入っている箱を間違えるわけが無いだろう?」ニヤア

カムイ「い、いやあああああっ!!は、離してくださあああい!」

ヒノカ「助けを呼んでもここに人はいない…!楽しもうじゃないか!カムイ!」

カムイ「\(^o^)/」セカイオワタ


…嬉しかったのかもしれない。たとえ変わり果ててしまっていたとしても、彼女は「ヒノカ」なのだ。死んだはずの肉親に会えるのは、とてもとてもしあわせなことだ。部屋からすぐに逃げなかったのは、実はそれが理由だったからなのかもしれない。アクアと一緒に透魔王国にでも逃げてしまえば、さしものヒノカも追ってこないだろうし。

5分経過

???「侵食率400パーセント突破…このままじゃ元の板に戻れなくなる…」

???「ヒノカ様…ごめんね」プスッ

ヒノカ「ハハッカムイ!口では嫌そうなことを言っておきながらからd…ふにゃあ…?zzz…」

セツナ「カムイ様…また会いましたね」

セツナ「ほら、体拭いて。服着てください」

カムイ「ハア、ハア…あ、ありがとうございます」

セツナ「ヒノカ様も普段はああじゃ無いんですが…本当にごめんなさい」

カムイ「いいえ、セツナさんの謝ることじゃないですよ…」フキフキ

カムイ「ヒノカさんをお願いします。ちょっと行くところがあるので」


お城の近くのあの泉

誰もいない。早く来すぎたようである。なぜか泉のほとりにjoysoundが置いてあるのはご愛嬌。

カムイ(まだアクアさん来てないですか…どうしましょう)

カムイ(なんでこんなところにjoysoundが?)

10分後

カムイ「?き~みの、と~なりでずっと~かわらずまも~るだろお~」


87.9点


カムイ(まあまあですね)

アクア「…マイクをかしなさい」

カムイ「アクアさん?!いつからここに」

アクア「しっ」


アクア「?せんぼんざ~くら~よるにまぎれ~」

アクア「♪きみのこ~えも~きこえないよ」

アクア「?ここはう~たげ~はがねのおり」


93.4点


カムイ「…!」ギリッ

カムイ「…マイクをかしてください」プルプル

アクア「無駄よ」ニヤ

カムイ「?ギンギラギンにさりげなく~さりげなく~ひかる」


96.7点


アクア「なんですって…!」


アクア「?し~んじたも~のは、つごう~のいいもうそうをくりか~えしうつしだす」


98.3点


アクア「本職に勝てると思った?」

カムイ「諦めません…!」


カムイ「?きえないかな~しみも、よろ~こびも、あ~なたといれ~ば」


99.4点


アクア「…クソっ!」バキッ

カムイ(素手で松の木を…へし折った!?」

カムイ「ヒロインがクソなんて言うもんじゃありませんよ、ふふっ」

アクア「見てなさい…」


アクア「…」

アクア「ユーラリユールレリー…」ズンドコズンドコ

カムイ(ず、ずるい…!)

アクア(悔しかったらあなたも歌唱パート持ちなさい)

カムイ(でもアクアさん…自分の命を削ってまで…なぜそこまでして…?)


100.0点


カムイ「逃げたり…っ!しません…!」


カムイ「お~お~いだいなは~るとまん~」

アクア(バカね…この曲は一見簡単そうに思えるけど意外と緩急がきつくて難しい…この勝負…もらったわ!)

カムイ(ふふ…リリスさんとのカラオケの特訓…アクアさんは知りませんよね)


100.0点


アクア「ぐはあっ…!次は…私の番よ…!」フラフラ

カムイ「望むところですっ!」


カムイ「はあ…はあ…」

アクア「ゼイ…ゼイ…」

勝負がつくことはなかった。過負荷によりマシンを破壊した彼女らは、今度は素手で殴り合った。それでも、決着が付くことは無かった。壮絶な死闘の後に、二人の少女は夕日をバックにして固い握手を交わし、再戦を誓う。ともに不敵な笑みを浮かべながら…

カムイ「アクアさん…」

アクア「なに?」

カムイ「大事なことを忘れている気が…」

アクア「気のせいよ。帰りましょう」

夜7時ぐらい

シラサギ城 王の間

カムイ「お母様。ただいま帰りました」

ミコト「心配したのですよ?カムイ…こんなに傷だらけ泥だらけになって…ふふっ」

ミコト「まるで、昔に戻ったみたいですね…さあ、お風呂に入ってみんなとゆっくりしてらっしゃい」

カムイ「分かりました。…お母様…」

ミコト「何ですか?」

カムイ「今度こそ…今度こそ、必ず…守ってみせます。絶対に」

ミコト「あらあら、頼もしいことですね。ふふふ…ほら、サクラが呼んでますよ、早く行ってあげなさい」

カムイ「はい」タタタタ

ミコト(ふふ…こうしてカムイを迎えに行けたのも、あのマクベスとかいう人が幻影魔法でそのことを知らせてくれたおかげ。どこの誰かは存じませんが、感謝しています…)



クラーケンシュタイン城のどっか

マクベス(カムイ様…お元気で…私のできることはこれぐらいです。どうか、あなたはご自分の道を…切り開いてください)

ガロン「おいマクベス、ちょっと来い」

マクベス「はい!ただ今!」



シラサギ城 女湯

カムイ「今は〉〉101さんたちが入ってらっしゃる頃ですね…行ってみますか」


ところでポイポンで安価を綺麗に出す方法はありませんか

ありがたう

カッポーン…


カムイ「あ、こんばんは。えーと…カゲロウさん」

カゲロウ「こんばんは」


カッポーン…


カムイ(この重い雰囲気、凄く居心地が悪い…サクラさんとカザハナさんはまだ来ないし…)

カムイ(皆さん元気にしてますかね、特にマークス兄さん…元気になったかな。カミラ姉さんも寂しがってないでしょうか)



カミラ『胸は糖分で育つ』



カムイ「…」チラ

カゲロウ「…」バイーン

カゲロウ「…どうかなすったか?」

カムイ「いえ…カゲロウさんは、甘いモノ好きですか?」

カゲロウ「好きだ。よく分かったな…何故聞いた?」

カムイ「え…えーと、この辺においしいお菓子屋さんないかなーって思いまして。私も目がないんで」

カゲロウ「ふむ…確かこの辺は…ああ、城下町の三丁目の角の『面白い恋人』とかいう店がオススメだ。あそこのチョコレートはなかなか良くてな…」


カッポーン…

カゲロウ「それでな、その時のあいつの顔ったらありゃしないんだ。一度カムイ様に見せて差し上げたいほどに、な。ハハッ」

カムイ「ふふっ、カゲロウさんは面白いですね。その方は今どんな?」

カゲロウ「ああ…死んだ。三年前の暮れに」

カムイ「…すいません、そんなこと聞いちゃって」

カゲロウ「いやいいんだ…こちらこそすまんな…」

カゲロウ「…」

カゲロウ「カムイ様…つかぬ事を聞くが、どこかに思い人か誰かを残して来たのではないか…?」

カムイ「…ええ。いましたけど死にました。何年前のことかは…覚えていませんが」

カゲロウ「…すまんな」

カムイ「いえいえ、いいんですよ…これでおあいこです」

カムイ(本当は死んでるどころかこの世界では生まれてもいないんですけどね)

カムイ「サイゾウさんとの仲は、上手くいっていますか?」

カゲロウ「…何故そのことを?まあいい…この前別れたばかりだ。何でも私に隠れてセツナとかいう女に手を出していたらしい。けったいな奴だ」

カムイ「え゛?そ、そうなんですか?直接本人の口から?」

カゲロウ「ああ…それとなく匂わせていた。言葉には出していなかったが、あれはそういう意味だ」

カムイ(サイゾウさんはそんな人じゃなかったと思いますけどね…これも異界の影響でしょうか?)

カゲロウ「長話をしていたら茹だってしまった…失礼する」


カッポーン…

サクラ「カムイ姉様!遅くなりました!」

カザハナ「もうサクラ様!亀クエぐらい明日でよかったじゃない、ってげっ、カムイ!」

カムイ(デジャーヴ)

サクラ「すいません、呼びつけておきながらお待たせしてしまって…」

カムイ「いえ全然…でも亀クエって何です?」

サクラ「ゲリラみたいなものです」

カムイ「…?また今度ゆっくりお願いします…」


カッポーン…


カムイ「…」チラ

サクラ「…」フツー

カザハナ「…」コブリ

カザハナ「…何よ、ジロジロ見ちゃって」

カムイ「い、いえ、別に…」

カザハナ「もう上がるわね」ザパー

カムイ「えっ早くないですか」

カザハナ「長風呂、あんまり好きじゃないのよね」ゴシゴシゴシ

カザハナ「そうそうサクラ様、ポケモンGOやってるの?」グワシグワシグワシ

サクラ「ええ、今はカビゴンの厳選をしているところです」

カザハナ「相変わらずね…じゃあ」ガラガラ ピシャ



カッポーン…


サクラ「ところでお姉さまは、スマホ持ってるんですか?」

カムイ「一応持ってますよ」

カムイ(リリスさんが緊急連絡用に一個くれたんです)

サクラ「そうですか…」ニヤッ

カムイ(あれ?気のせいでしょうか。サクラさんの笑顔がシャーロッテさんのそれになってます)

サクラの部屋


デーンデンデンデンデーンデンデデーン スーパーレアー!

カムイ「十連でカーリー・ゴッスト・カムイ…もうこれでいいでしょう。面倒くさい」

サクラ「よくないです!続行ですよ!」

カザハナ「…サクラ様、いい加減やめといたほうがいいと思うよ、リセマラ」

サクラ「まだまだ…ルシガブ揃うまで許しません!」

カザハナ「…ご飯食べてくるね。じゃあまた」

カムイ「わ、私も…」

サクラ「仕方ありませんね…もう一回したら行きましょう」

カムイ「もう嫌です…」


食堂

ワイワイ ガヤガヤ

カムイ(ふうむ…各部隊ごとにまとまって食べてますね。>>108さんの所で食べますか)

リョウマ


リョウマ「…」ピコピコピコ

カゲロウ「…」バチバチバチ

サイゾウ「…」バチバチバチ

カムイ「…」モソモソモソ

ベルカ「…」ムシャムシャムシャ


沈黙の食卓。

荒地より悪い竹槍よりも悪い居心地の悪さ。凄まじいマイナスの地形効果である。(回避-40Hp-30守備-10)

別れたばかりのカップルが無言で互いの脛を蹴り合う中、黙々と飯を食いながら白猫をすることで食卓という名の修羅場からの逃避を図るダメ主君。やはりというか雷神刀がなければただのエビである。

カムイ(さっき玉座の間で簡単な挨拶をしたとはいえ、兄さんだんまりってどうなってるんですか…積もる話もあるでしょ?ないんですか?ねえ)

カムイ(だいたいベルカさんとサイゾウさんってこの前殺陣を繰り広げたばっかりですよね?何で一言も触れないんですか?猛者のやり取りに言葉は不要なんですか?なんか言いなさいよ、ねえすごい居心地悪いでしょほら)

ゴッ、ゴッという脛を蹴る音のみがしばし響く。初めに口を開いたのは意外にもベルカだった。

ベルカ「ねえ…あなたも白猫やってるの?」

リョウマ「うむ。お主もか?」

ベルカ「ええ…同僚に勧められて」


~マルチプレイ中~


リョウマ「ほう…上手いな」

ベルカ「…ありがとう」

カムイ(何でちょっといい雰囲気になってんの?バカなの?その人敵の大将なんだよ?ちょっとは警戒しなさいよふたりとも。この調子ならほっといても戦争起こんないんじゃねこれ)

カムイのフラストレーションは口調が悪化するほど募っていた。あのバカ兄貴、今度から心の中でエビって呼んでやろうか。いやミシェイルの方がいいかな。大半のステ期待値カザハナ以下だもんなとか考えるカムイであった。


カムイ「おばちゃんお代わり!」イライライラ

おばちゃん「はいよ!」ドン

カムイ「…」モグモグモグ

ヒノカ(凄まじい殺意の波動的なものを感じる…今は近づかない方がいいかな…)

カムイが無心に米を噛んでいる間に赤ロン毛バカエビ兄貴とカゲロウは帰り、ベルカとサイゾウが話に花を咲かせていた。どうやらさっきは目で会話していたらしい。

カムイ「はあー、疲れました…オバちゃん焼酎ある?」

オバちゃん「はいよ」ドン

サイゾウとベルカの話をぼうっと聞きながら、焼酎を舐めるように飲む。ペロペロ。どうやら2人も酒が入っているようで、いつもより饒舌だ。

サイゾウ「…ところでそのバンダナは何だ?四六時中付けているようだが」

ベルカ「これは…思い出、みたいなものね…師匠に貰ったもの。持っているだけで何故かポケットからカロリーメイトが無限に出てくるの。ほらね。一つどう?」

サイゾウ「もらおう…しかし…」モソモソ

サイゾウ「似ている。俺の先代が付けていたものと酷似している。もっとも、何年も前に見たきりだがな」

ベルカ「ふうん…じゃあその先代が師匠にあげたのかしらね」

サイゾウ「いや、確か最期の任務の時もつけてたぞ」

ベルカ「…」

サイゾウ「…」

ベルカ「ユニクロで売ってるのかしらね、無限バンダナ」

サイゾウ「んな訳ないだろう」

ベルカ「しまむらなら分からないわよ」

サイゾウ「もっとあり得ん」

サイゾウ「だが…その師匠の話を、もっとしてくれるか」

ベルカ「…」

ベルカ「…私は孤児だった。ストリート・チルドレンだった私を拾って育ててくれたのが、師匠だった…」

サイゾウ「ちょっと待てそれ相当長いやつじゃないのか」

ベルカ「2時ぐらいには終わる」

今は夜の8時である。

サイゾウ「長い。ジブリ長編映画並みに長い」

ベルカ「序破急全部合わせたよりは全然短い。続けるわよ」

サイゾウ「…話を振ったのは俺だったな。幸い明日は非番だ。最後まで聞こう」


明日から「暗殺者ベルカのすごく長い話」スタート

とりあえず1人目の標的を募集しときます。FEifキャラ以外で頼んます。

>>111

フォックス・マクラウド、FE限定なら漆黒の騎士

久しぶりにベルカの支援会話見直したら記憶と全然違くて焦った。まああれだ、カムイのタイムスリップは過去の事象にも影響を与えたということにしましょう。

♯0 名前

カビくさい空気。夜明けの来ない空。騒々しい人々のこえ。

私の記憶は、その直前から途切れている。

私は死ぬ事を予期していた。

私には名前がなかった。

でも名前がない子どもが死ぬことなんて、この町では朝起きてパンを食べることよりも陳腐だった。ありふれていた。

名もない裏路地の奥に、名のない私は倒れる。このまま野犬のお昼になるのも悪くない。

つまらない人生だったな。子供心にそう思った。




師匠「…坊主。おい坊主」

師匠「…まったく…」ヨイショ




師匠「ほれ、食べな。ひでえ顔してる」

「…どうして助けたの?」

師匠「なんでかねえ…強いて言えば…まあいい。ほれ、もたもたしてるとスープが冷める」

「…」ムシャムシャ

師匠(いい食べっぷりだ)

「ごちそうさま。じゃ」ガチャ

師匠「じゃじゃねえよ。まあ待て。泊まっていきな」

「…」

師匠「どうせ帰る所もないんだろう。泊まってけ。金は取らんよ」

「…ありがとう」

師匠「お前、名前は何だ?」

「…ない」

師匠「…ナイちゃんか…斬新な名前だな。流行ってんのか?」

「…」

師匠「冗談だ。早速だがいい事を教えてやろう。『人間は名前の上に成り立ってる』。含蓄があるだろ?俺の言葉」

「…」

師匠「わかんねえよ、な。まあいい。そんなお前に名前をやろう。サービスだ。何がいいかな…」

「いらない」

師匠「まあそう言うなって…げろしゃぶ…フーミン…バルログ…はじめちゃん…ヴェローナ…ルカリオ…うーむ…」

「やめて」

師匠「いいから。…千…メラゾーマ…ベルカ…ベルカ…いいなベルカ。これにするか」


こうして私は名前をもらった。なまえのない子どもは「ベルカ」になった。とりあえず「げろしゃぶ」じゃなくて本当に良かったと思った。


♯1 師匠

彼の家に住みはじめてから半年が経った。私は彼のかわりに家事をする。初めは教えてもらいながらだったが、すぐにコツは掴めた。

「…あなたは何の仕事をしているの」ゴシゴシ

師匠「…いつか分かる」

コンコン

桜井「すいません。私、株式会社SORAの桜井と申します」

師匠「早速仕事がやってきた。ベルカ、コーヒーを淹れろ」

他の家事は何とかこなせたが、なぜかこれだけは何度やっても慣れなかった。インスタントコーヒーにお湯を注ぐだけなのに。

師匠「…」ズズ

少し味見をすると、師匠はいつも通り自分のグラスにだけ砂糖をしこたまぶち込んで、客の相手を始めた。

桜井「…ええ、そうです。あなたにはこの…おや。その子は?」

ベルカ「…」

師匠「ああ、隠し子です。ハハッ」ズズズズ

桜井「ははっ、面白い冗談だ。…でございますね、この件ばかりは外部の手をかりねばならんのですよ…」

その後さして長くもないやり取りが続き、客は師匠に封筒を渡して帰った。他の客と同じようにコーヒーには口をつけなかった。


師匠「じゃあ、ちょっと行ってくる。留守番頼んだぞ」

ベルカ「…」

師匠「明日には帰るから、昼メシ用意しとけ。棚の食材は好きに調理していい」

ベルカ「…」

師匠「じゃあな」ガチャ バタン


彼の家は地下街のはずれにあった。まわりのと何ら変わらない小さな家だったし、内装にも変わったところはなかった。

3日後の夕方

師匠「帰ったぞ。お、いい匂いだ」ガチャ バタム

「…」

師匠「おかえりはどうした。おかえりは。ほれお土産」ウリウリ

師匠(出迎えてくれる人間がいるってのは…いいもんだな)

「…」ガサゴソ

「…これ何?」

師匠「リフレクターだ。何でも飛び道具を跳ね返せるんだと。ご飯は何だ?腹ペコでな」

「…クリームシチュー」

師匠「ほー、凄いじゃねえか。どおれ…」ズズズ ブフォォ

「…」

師匠「ゲホッゲホッ…味見してるの?いつも」

「…」ズズズ

「…普通だと思う」

師匠「いやおかしい。絶対辛い。ちょっとお隣さんにも食わせてくる」

チョットアジミシテクレマセンカ?
イイデスヨ ブフォオ

師匠「何でだろうな…俺が教えるといつもこうなる…俺のは甘すぎるぐらいなのに…まあいい」

「…ごめん」

師匠「いや。いいんだ。牛乳を足せば食える。昔の人が言った。『料理とはすなわち人生である』」

「…どういう意味?」

師匠「何事も勉強だってことだ。ほれ、さっさと食って銭湯行こうや」

「…うん」


後は2人とも口をきかず、黙々とシチューを口に運んだ。彼は食べ終わった後もしばらくは飴を舐めていた。よほど辛かったらしい。牛乳で5倍ほどに薄めて出したのだが。



これが私の新しい日常になった。家事をして、コーヒーを出し、留守番をして、ご飯を作って帰りを待つ。



テーブルの上には、師匠が持ってきた新聞が一部乗っていた。私は字が読めなかったから内容は分からなかったが、後で聞いたところによると、一面はこんな記事だったらしい。


『スマブラ労働組合副会長、フォックス・マクラウド氏、死体で発見される。彼の死によって、組合と任天堂本社との間の賃上げ交渉は白紙となる見込みである』

次のターゲットの方お願いしまーす
>>118

ツバキ

どうやら話がひと段落ついたようなので、周りを見渡すカムイ。怒りにもひと段落ついた。タクミ隊は帰ったようで、サクラ隊とヒノカ隊だけ残っている。しかし、何だか違和感が…

カザハナ「な、何ですって~!もう一度行ってみなさいよ、ほら!」

ツクヨミ「私は本当の事を言ったまでではないか!胸ぐらを掴むんじゃない!苦しいから!」

サクラ「あわわわ…ふ、ふたりとも、けんかはやめて下さ~い!」

カムイ「サクラさん…ツバキさんは?何でツクヨミさんがここにいるんですか?」

サクラ「家臣だからですけど…?ツバキさんってどなたですか?」

カムイ「い、いえ、忘れてください。ほら、物が飛んできて危ないですよ」

カザハナ「ふん!それ!そりゃあ!」

ツクヨミ「やめろ!皿を投げるな!痛いから!」ガシャンパリーン


これはサクヨミだかカザヨミだかの異界の影響に違いないとか思うカムイだった。

カムイ(だとしても、ツバキさんは…?)


ヒノカ(思案に耽るカムイもかわいい?)ポロポロ

アサマ「ヒノカ様、そこ口じゃないです。目です」

ヒノカ「え?痛ででででで!早く言えアサマ!」

アサマ「見てて面白かったですよ。では私たちは食べたので帰ります」

セツナ「見張らなくていいの…?」

アサマ「近くに人もいるし大丈夫ですよ。では失礼」

ヒノカ「…」ジー


カムイ(すごいこっち見てる…まあいいや。話の続きを聞きましょう)

♯2 門出

それからの数年間、私は師匠に様々な訓練をさせた。瞬発力を高める訓練。持久力を高める訓練。集中力を高める訓練。それと読み書き。あと暗器の使い方も。

「…何でこんなことを教えるの?」

何度聞いても答えは同じだった。

「…今に分かる」ズズズ

いつもコーヒーを飲んでいたのである。私がまともなコーヒーを淹れても、砂糖は五杯ずつ入れていた。どうやら甘いものが好きらしかった。

そして、私の体つきがほんのり女らしくなった頃。料理の腕も上がり、辛味を自由に抑えられるようになった頃。

バタン←客が帰った音

師匠「さて、おれはいつものように仕事に行くが…来るか?」

「行く」

師匠「即答かよ…」

「家事をやらせるために瞬発力を鍛えさせたわけじゃないでしょ」

師匠「ほ、勘がいいな。じゃあ行くか。荷物を詰めな。着替えは2日分あればいい」

やっと師匠の仕事について知ることができる。少し嬉しかった。

道具屋


主人「いらっしゃ~い?師匠さん、今日は何買いにきたのお?傷薬?速さの薬?それとも…わたs」

師匠「終いまで言うな、バカ。偽造ビザだ。子供1人分よこしな。あと俺の分の更新も」

主人「おー、怖いわね~え、もしかしてそこの嬢ちゃんの分?」

主人「…ふーん、あんたも弟子なんて取るようになったんだね。人も変わるもんだ」

「?」

師匠「いいからほれ」



主人「まいどあり~?」

バタン

「何であの人、男なのに女の格好してたの?」

師匠「世の中にはな…知るべきことと知るべきじゃないことがあるんだ。これは後者」

いずれ、時が来たら分かるのだそうだ。世の中には不思議がいっぱいある。

師匠「じゃあ今度こそ出発だ。相当歩くから覚悟しとけ」


初めて生まれ育った町を離れ、遠いところに行く。

師匠「ワクワクするか?」

「…少し」

師匠「『人はワクワクのために生きてるんだ』ってな。異界の英雄の言葉だそうだ」


後は特に語るべきこともなく、白夜領に入った。野宿の時にスープは2倍に薄めて飲んでいた。彼は辛いものが嫌いらしい、とやっと気づいた。

♯3 光

隣の国のことは噂で少し知っていたけど、もちろん見るのは初めてだった。写真で見るよりもずっと、ずっと良かった。

明るい空。賑やかな人々の声。澄み渡った空気。何もかもが、あの街とは違った。



旅館

オボロ(13)「いらっしゃいませ~」

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

カムイ「ちょっと待ってください」

ベルカ「…何よ」

カムイ「あの人の家、呉服屋さんじゃなかったでしたっけ?」

ベルカ「旅館の一人娘だった。間違いなく」

カムイ「…邪魔してすいませんでした」

ベルカ「続けるわよ」

カムイ(嫌な予感がする…)

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

オボロ「ご予約は?」

師匠「してない。2人部屋一つ。飯はいらない」

オボロ「まいど♪では、宿場台帳にご記入をお願いしまーす」

師匠「…これでいいか?」ドサッ

オボロ「…!…へっへっへ、お客様も悪にこざいますね~」ボソボソ

オボロ「お客様2名入りまーす!」



師匠「人間ってのはみんな同じようなもんさ。住んでるところが違っても、『本質』みたいなものは変わらん」

師匠「上っ面はともかく、やってることはだいたい同じだ。分かるか?ん?」

「…誰の言葉?」

師匠「これは一般論さ」

師匠「あの街もあれでいいもんだよ…いつか分かる時が来る。ほれ、ご飯食べ行くぞ」

「…」

表の通り

ワイワイ ガヤガヤ

屋台の店主「らっしゃい」

師匠「おでん2人前」

店主「あいよ」

店主「…久しぶりじゃねえか。元気してたか?」

師匠「生憎くたばってはいねえな」

店主「そりゃ残念なこったな、ハッ」

店主「ほれ、本日のおすすめ」ドン ドン

師匠「いただきまーす」

「…いただきます」

とりあえずおいしかったことだけは覚えている。

店主「かわいい嬢ちゃんだ。ほれ煮卵」コロン

「…ありがと」

店主「ハハッ」



師匠「ほい、おあいそだ。じゃあな」チャリン

店主「100ゴールド足りんぞ」

師匠「って金取るんかーい!…ったく…ほい」チャリン

店主「ハハッ、まいど!」

後は宿に戻って寝る時まで話をしなかった。布団に入り、明かりを消す。

師匠「…ベルカ」

「…」

師匠「寝たか」

「…起きてる」

師匠「…そうか」

「…」

師匠「…」

「…」

師匠「…人を…殺したことはあるか?」

「…ある」

師匠「…」

「…パンが欲しかったから」

師匠「…」

「…」

師匠「…」

「…何か言わないの?『人はパンのみに生きるにあらず』とか」

師匠「…」

「…」

師匠「…そういう仕事ってのも、あるんだ…興味ないか?」

「…ある」

師匠「…それでこそ教えてきた甲斐があるってもんさ…もう寝な。明日は早い」

「…おやすみ」

師匠「おやすみ」

「…布団に入っていい?」

師匠「…zzz」

大きい背中だった。

♯4 仕事

早朝

さっさと宿を引き払って街道に出る。店も空いていないので朝はおにぎりだけだ。具は梅だった。人気のない街はずれまで歩いたところで、説明を受ける。

師匠「お前も想像がついてるだろうが…俺の仕事は人を消すことだ。で、今回のターゲットが今日、荷馬車でここを通ってあっちに行く。それを止めるのが俺たちの仕事だ」

「…」

師匠「何でも、かなりヤバイものを密輸してるんだと。なんだろな。とにかく荷物ごと消してくれとの依頼だ」

「…」

師匠「商人とその奥さんだけのはずだから、俺だけでも仕留められる…はずなんだが、万が一用心棒でも雇われていると困る。そんで、お前を連れてきたってわけ」

「…」

師匠「訓練させたとはいえ流石に素人のお前をプロの用心棒とやらせる訳にはいかん。俺が食い止めている間に2人をやれ。分かったか?」

「…」

師匠「いきなり実戦投入ってのもアレなんだがまあ頑張れ。用心棒がついてなければお前はただ見てるだけでいいからな」

「…了解」

師匠「気に入ったか?その言い回し」

「…うん」

師匠「そうか。じゃあ作戦の詳細は待ちながら話す」



ガラガラガラ

師匠「来た…予定通り自然な風を装って近づくぞ」


師匠「すいませーん」

「…」

師匠「ちょっといいですか?」

商人「何だこんな所で…無視していくぞ」

奥さん「そんな、かわいそうよ。ほら、小さい子供まで連れてるじゃない」

商人「…分かったよ。どうされまし…!ぬわーーーーーっ!」ドサッ

奥さん「…そんな!あなたーっ!うっ…」バタッ

師匠「…よし。警護がいなくてよかった。じゃあ死体を処分するから、一応馬車の中を見てくれ。誰かいたらその場で消せ」

「わかった」タタタ

師匠(確かこの夫婦、子供がいたよな…まあいいか。子供一人ぐらいあいつでも何とかなるだろ)

ツバキ(なんてことだ…父上も母上も、一瞬でやられてしまった…かくなる上は…どうしようか)

ツバキ(む…大人の方は…遺体を担いで行ってしまった…か?子供の方がこっちに来る…倒して、そのまま隙をついて逃げるか…?それしかないか…)

ツバキ(武器は…護身用の警棒だけか。無いよりはマシかな?使い方も完璧にマスターしたしね)

ツバキ(足音が近づいてきた…来るぞ…!)

(荷台には…)ツカツカ

ツバキ「今だ…ふんっ!」ドスッ

「ぐっ…!」

荷台に足をかけた途端、腹部に衝撃が来る。鳩尾をまともに突かれた衝撃でナイフを取り落とし、そのままうずくまってしまう。

ツバキ「女の子か…悪いけど、死んでもらうよ」

「…!」

落としたナイフが拾われて、振り上げられるのを肌で感じる。

すんでのところで後ろに飛び下がり、かわす。が、荷台から転げ落ちてしまった。

ツバキ(避けられたか…でも動きが鈍い。次は無いはず…)

ツバキ「せいっ!」

ナイフがベルカの心臓をめがけてまっすぐに投げられる。が、次の瞬間、驚くべきことにナイフは投げた本人…つまり、ツバキの胸に深々とに突き刺さっていたのだ。

ツバキ「そんな…ゲホッ…なぜ…」

膝から崩れ落ちる。この出血ではそう長くは持たないだろう。

「リフレクター…『飛び道具を跳ね返す』…」

ツバキ「そりゃずるいや…ふふっ、僕の…負けだ…完璧に…」

「…」




師匠「…誰かいたんだな」

「ええ…私が殺した」

師匠「そうか。何を使った?暗器か?」

「これ」つリフレクター

師匠「…そうか。ふん…今ので電池切れだな。まあいい。初仕事、成功だ」

積荷を焼却処分して、暗夜の地下街に帰る。外から街を見たとき、少しだけ…「懐かしく思った」。不思議なものだ。この街に、少しも愛着など感じていなかったはずなのに。

師匠「どうした。お前がそんな顔するの、初めて見たぞ」

「…別に」

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

カムイ(ツバキさああああああん!)

カムイ(そんな…間接的にでも私のせいで仲間が…)

カムイ「~!」ゴキュゴキュゴキュ

カムイ「ぶはあぁっ…おじちゃんもう一杯…」ドンッ!

おじちゃん「大丈夫かい嬢ちゃんそんなに飲んで?!」

カムイ「呑まなきゃ…やってられませんよこんなの…!」

アクア「ここで『カムイの泥酔ゲーム』スタートよ。ルールは簡単」

①ifキャラが指定されるとカムイの泥酔ゲージが1たまる

②それ以外のキャラが指定されるとゲージが1下がる

③これまでにセリフを発しているifキャラは指定不可

④ゲージが0になればアクアが乱入、本編がと同時進行となる

タクミ「で、泥酔ゲージが満タンになるとどうなるんだい…?」

アクア「ヒノカがカムイをテイク☆アウトするだけよ。運が悪ければ世界は破滅…破壊された世界はR板に収束し、絶望的に運が悪ければあなたは暗夜の第一王女と結ばれてあんなことやこんなことをしなければならなくなる…」

タクミ「え゛」

アクア「でも楽しそうよ、この世界のあなた」つiPhone

~閲覧中~

タクミ「う、うわあ…」

アクア「祈りなさい…vipperの良心に…」

アクア「ちなみにさっきがぶ飲みしてたからゲージ2からスタートね。満タンは5よ」


現在の泥酔ゲージ 2


タクミ(頼むぞみんな…!)

>>134

たのます

いくらなんでもちょっとノリを間違えてるように思う vipperじゃないし

じゃあ132はなかった方向でお願いします。
>>135
作品は何でもいいです

♯5 門出

師匠「お前には、俺の知っているすべてを教えた…もう教える事は何も無い」

丸2年かけて、暗殺術やサバイバル術に始まり、格闘術や異界の武器の使い方、忍術の類まで、実践を踏まえつつありとあらゆることを教わった。

「…出て行く」

師匠「そうか…お前がいなくなると寂しいな。またデパ地下の惣菜生活が始まるのか」

「…これ、簡単な料理の作り方。まとめといた」ピラ

師匠「ふん。ありがたく頂戴しよう」

師匠「裏タウンページの「暗殺屋」欄にお前の名前と広告を出しといた。あとは待つだけでいい」

「…ありがとう」

師匠「なあに、広告料は後で請求するさ」

「…行ってきます」

師匠「達者でな」



師匠(『幼少時の過度な精神的外傷は人格の形成に悪影響を及ぼす可能性があります』…ってな)

師匠(俺はお前に、『人並みの心』ってやつも教えたかった…)

師匠(まあそれを身に付けるのも奴の修行のうちなの、か…?)

師匠「…西友行ってくるか」

事務所を構えて3日後

まあ電話があるだけだが。

依頼が来るまでは絶望的に暇である。仕方がないので1Q84を読みながらただ待ち続ける。

ポンポンポンポロロンロンロン カチャ

「もしもし」

「…了解」ガチャ


竜の門

観光客で賑わっている。以上。

「テリウス行き大人一枚」

アンナ「2万ゴールドになります♪」

※1ゴールド=1円

「はい」ジャラジャラ

アンナ「ご利用ありがとうございます。7番線になります。よい旅を♪」





カタンカタン カタンカタン

(独り立ちしての初仕事が異界、とはね。少し緊張する…)

ダラハウ「ちょっと隣失礼するわよ~」

「!」

ダラハウ「緊張しなくてもいいのよ~子供には変なことしないから~」

「…」

ダラハウ「あなた、どこからきたの~?もちろん答えなくてもいいけど」

「…そういうのは普通、まず自分から明かすものよ」

ダラハウ「ふふ、面白い嬢ちゃんね~教えたげる。ダラハウはFFからきたのよ~」

「…何それ」

ダラハウ「だから言わなかったのよ~で、あなたの番よ」

「…私は暗yアンナ「車内販売でございまーす♪コーヒーはいかがですかー?」

ダラハウ「アイスとコーヒー2つづつお願い~」

アンナ「ありがとうございます♪」チャリン

「…」イラッ

ダラハウ「は~いあなたのぶん」コトン

「?」

ダラハウ「子供には優しいのよ~?」

「いらない」

ダラハウ「いいから食べる!ここのアイスは絶品なんだから~それに子供はアイスが好きって相場が決まってんの」

「それでもいやって言ったら?」

ダラハウ「別に~?ダラハウ人の仕事なんて興味無いしぃ~?暗殺なんて別に~?」

「…!何でわかったの…?」

ダラハウ「においよ、におい。見りゃわかるの。長く生きてると」

ダラハウ「で、アイスよ~アイス」

ダラハウ「ここのアイスは絶品なんだけど、いかんせん硬くってすぐには食べられないのね~スプーンの方が折れちゃうのね~」

ダラハウ「でも、ここに少しコーヒーを垂らしてあげるとあら不思議、いい感じに溶けるのね~当たり前か。しかも、コーヒーとアイスがいい感じにマッチしてすごくおいしいのね~」

ダラハウ「新幹線でも売ってるから、良かったらお盆の帰省の時に試してみるのね~」

「どこ見ていってるのよ」

ダラハウ「いいからさっさと試すのね~コーヒー冷めるのね~」



(おいしい…)

車掌『間も無く~ガリア王国~ガリア王国~お乗り換えの方は、〇〇〇の××…』

ベルカ「じゃあね。これあげる。コーヒーのお礼」

ダラハウ「あら、お料理のレシピなのね~ありがと~お仕事頑張るのね~」

ベルカ「…本気で言ってるの…?人を殺しに行くのに?」

ダラハウ「ダラハウも戦うのが仕事なのね~それにダラハウ子供の味方なのね~」

ベルカ「そう…ありがと」

ダラハウ「諦めない限り、成功は必ずやって来るのね~ばいばいなのね~」

ガリア王国、あの砦の近く

(結局着くのに夜になってしまった…約束の時間まであまり無い…ん?)

砦の外に出て辺りを見回す赤鎧の妙齢の女性が一人。

ティアマト「…遅いわね…」

「…」

ティアマト「…!いつの間に…」

「…要件は?」

ティアマト「とりあえず中に入って話さない?」

「ここで構わない。あまり時間も無いはず」

ティアマト「…依頼は…漆黒の騎士の殺害。ただしグレイルとアイクにはに気づかれずに」

「了解。前金で50万ゴールド」

ティアマト「はい」

「…」ジャラ

ティアマト「じゃあお願いします。絶対ですよ」

「失敗は、しない…」スッ

ティアマト「消えた…」

ティアマト(本当はこんなことしたく無いけど…そうでもしないと…あなたは…!)

おいでよしっこくの森


(これが森の名前…?)

看板に書いてあるのだから仕方が無い。

しっこく「誰だお前は…?」

「…!」

しっこく「…ふん。私を殺しに来たのだろう?」

「…そうよ」

しっこく「…無駄足だったな。小娘よ。死ぬのはお前だ。身の程をわきまえよ…ふん!」ブオンッ!

「…!」サッ

エタルドの剣先からビイムがほとばしり、さっきまでベルカが居た地点の地面を深くえぐる。

(すごい威力ね…一撃でも食らえば即死…おまけに技も速さも相当高い…当然防御面も鉄壁ときている強敵…まともに戦えば勝ち目は薄い…)

しっこく「ふん!せい!」ブオンッ!ブオンッ!

「…」スタッ!スタッ!

(弱点は…無さそうね…一応針手裏剣を使ってみる…?)チャキ

「それっ!」

No Damage!

しっこく「ふん…効かぬわ。食らえ!」

(まずい…食らう!)



???「何をやっとるんだ!」

いきなりの登場に驚き、手元が狂うしっこく。その隙に回避し、あとずさるベルカ。

しっこく「グレイルですか…待っていましたよ」

「…」

グレイル「誰だお前は…?」

(見つかった…!任務は失敗…このまま逃走する…?)

その時、脳裏に蘇るダラハウの言葉!





諦めない限り、成功は必ずやって来るのね~





「…」ニッ

グレイル「誰だと聞いている!」

「…殺し屋よ」

グレイル「そんなこったろうと思った。誰の差し金だ?」

「…ティアマト」

グレイル「そんなこったろうと思った。ふん…あの女がな…」

「…援護する」

グレイル「いや、これは俺の戦いだ。俺が一人で決着を付ける…と言いたいところだが…」

グレイル「やっぱり援護してくれ。あいつのためだと思ってな」

「…指示を」

グレイル「…俺が奴の攻撃を受け止めるから、その隙に攻撃しろ。後は臨機応変に。絶対に死ぬな!以上!」

「了解」

しっこく「話は終わりですか?…行きますよ。せいっ!」ブンッ!

しっこくがグレイルに直接斬りかかる!

グレイル「ふんががが…!」ギリギリギリ!

が、斧で受け止められ、まともに隙を晒してしまうしっこく。

「もらった…食らえ!」グオンッ!

しっこく「…!ぐわあっ…」ドジャーッ!

全盛期のベーブ・ルースの如き豪快なフルスイングで振り抜かれたハンマーはしっこくの鳩尾をしっかりとミートし、そのまま吹き飛ばす。

「…すくみ不利とはいえ最高威力の特攻武器を貰って、無事なはずが無い…」

しかし、みんなも知っての通り、しっこくは土ボコリの中からむくりと起き上がった。ダメージは無い。

「そんな…なぜ…」

グレイル「『女神の加護』だな。あの鎧は、同じく加護を受けた武器しか受け付けん…」

しっこく「そうです。そして加護を受けた武器はこの世に二つだけ。このエタルドと…このラグネルだけです」

しっこく「本当はラグネルをお貸しする予定でしたが…二人相手だとどうも分が悪い。止めときますよ」

グレイル「御託はもういい。行くぞ!」

(速い…!)

グレイル「はああっ!」ドドドドッ

しっこく「…」ガギンッ!

ウルヴァンを力任せに叩きつけるグレイル。が、その一撃も軽く盾でいなされてしまう。

しっこく「無駄だと言ったはずです」バッ

グレイル「無駄なもんかい…馬鹿め…」

しっこく「…?ら、ラグネルが…ない!?」

「…スリは得意でね」つラグネル

しっこく「ふん…で、どうする。切り掛かってくるか?ラグネルの重量は20ある…小柄なお前には扱えまいて」

「…こうするのよ」ポイッ

唐突にラグネルを地面に投げ捨てる。

グレイル「な、何をするだー!?」

しっこく「馬鹿め…気でも触れたか…?」

身を屈め、ラグネルを拾い上げようとするしっこく。だが、結果的にそれが命取りとなったのだ。

ダダダダダッ
「…せあっ!」ドスッ!

しっこくの背中に飛び乗り、装甲と装甲の隙間に思い切り暗器を突っ込んだのである。

しっこく「…ぐ…なぜだ…なぜ私が…」ドサッ

「いくら加護が付いていると言っても、鎧のないところまで守れはしない。そこを突いた…」

しっこく「…ふん…頭のいい奴だ…この剣を持って行け…俺からのはなむけだ……」

▼神剣エタルドを 手に入れた!



グレイル「…何が…お前を変えちまったんだろうな…ゼルギウス…」

しっこく「…分かりませんね……私は…ゼルギウスじゃ…ない……ただの………しっこく……」


グレイル「見ろ。夜明けだ」

「…」

グレイル「こいつがどんな奴だったかって?いい奴だったよ。ただ、いい奴すぎたんだ……きっと、な」

「…ティアマトによろしく言っといて。じゃ」スタスタ

グレイル「待て」グイッ

グレイル「朝飯食って行きな。あと違約金も貰ってねえぞ。ハハッ」

「…案外きっちりしてるのね」

グレイル「こっちも商売やってるんでね。うちの朝はいつもベーコンエッグだ。うまいぞ!」




ティアマト「もう行ってしまうのね」

「…これ、違約金50万ゴールド。グレイルに知られてしまったから」

ティアマト「いいのよ。結果良ければ全て良し、ってね!」

「…じゃあ交通費だけ貰ってく」

ティアマト「…分かったわ。じゃあね。食べ物には気をつけなさい」

「さようなら…ベーコンエッグありがと」スタスタ

実は蒼炎と暁と聖戦とトラキアはやったことないんだ。すまない。

>>151

もっと加持さんとかベガ様とか指定していいのよ?

ベルカ「こうしてティアマトは幸せな結婚を果たし、しっこくという目玉を失った蒼炎の売り上げはガタ落ちしたのでした。おしまい」

サイゾウ「…もはや師匠関係ないな」

カムイ「ちょっと面白いからいいです。続けてください」

おばちゃん「もう食堂閉めるよ~」

カムイ「仕方ありませんね…場所を移しましょう」



城下のおでん屋


店主「…注文は?」

サイゾウ「厚揚げ」

ベルカ「煮卵」

カムイ「焼酎」

店主「銘柄は」

カムイ「くろきりしま」

ヒノカ「餅巾着」

アクア「トマト」

タクミ「大根」



カムイ「…」

カムイ「…なんか多いような」

アクア「気のせいよ」

タクミ「それよりあのさ、安価つかないんだけど」

アクア「え?」

タクミ「半日待ったのに安価つかないんだけど」

アクア「1が下手糞な文章書くからかしらね」

タクミ「別に何でもいいけど…どうすんの?話進まないじゃないか」

アクア「じゃあ本編を進めるとして…私がカムイに話しかけるバージョンとヒノカがカムイに話しかけるバージョン、どっちがいい?」

タクミ「後者だと取り返しがつかなくなるだろ!暗夜に婿入りなんて真っ平だ!他の選択肢はないのか?」

アクア「ない」

タクミ「…『運命を変える!』」

アクア「無理ね」

タクミ「…ベルカ、何か喋ってくれ。僕のためだと思って」

ベルカ「…」


埒があかないので選択肢にして再安価します。もう心折れそうだZE!

①カミユ
②ダール
③ウルスラ
④その他


⑤綾波

↓1

♯6 童帝

ビラク「ベルカ…殺し屋ベルカだな」

「…」

ビラク「随分と若いんだな…初めまして。よろしく頼む」スッ

「…利き手で握手はしない。それに、暗殺に年齢は関係ない」

ビラク「おっと、済まないな…」スッ

「…依頼は?」ギュッ

ビラク「…カミユという男を知っているか?」

「…いいえ」

ビラク「…彼はグルニアの騎士だった。武勇においては、大陸でも1、2を争うほどの…いや、大陸一の実力を持っていた。一騎打ちで彼に敵うものはいなかった。例え相手が人間でなかろうとね」

ビラク「しかし、彼は負けた。指揮官としての彼はさほど有能ではなかったんだ。マルス率いるアリティア軍に武器を壊され…エストに散々(経験値を)搾り取られて殺された」

ビラク「しかし、それはあくまで作られた歴史。表向きの歴史だ」

ビラク「アリティア軍に敗北した後も、ニーナ姫の必死の看病のおかげで彼は一命を取り留めたんだ。姫は大喜びしていたよ…しかし、よほど強い精神的ショックを受けていたのか、彼は記憶を失っていた」

ビラク「ある日、彼はニーナの見ていないうちに病室から逃げ出した。のたれ死んだとも、他の大陸に渡ったとも言われていたが…最近消息が分かったんだ」

「…なぜあなたがそんな事を知っているの?」

ビラク「俺はこう見えてハーディン様の古くからの部下でね…いろいろな情報が流れてくるんだ。それで、あなたにして欲しいのがこの男の暗殺だ」

「…なぜ?」

ビラク「ハーディン様は、ニーナ姫のことで酷く悩んでおられる。カミユを今度こそ地上から抹殺し、ニーナ姫をハーディン様に振り向かせなければならないんだ」

「…」

ビラク「確かに、俺はハーディン様を愛している。でもそれとこれとは話が別だ。俺は男である前にハーディン様の部下だ。騎士だ。ハーディン様の幸せを第一に考えなければならない」

ビラク「薄給の俺がコツコツ貯めた200万ゴールドだ。これで足りるか?」

「…問題ない。やってみよう」ガチャ バタン

ビラク「ハーディン様…」

グルニアのとある海岸にあるとある海の家の外のベンチの右から3番目

カア… カア… ザザーン…

カミユ「…」

「…こんにちは」

カミユ「…私に何の用だ?」

「別に…ご一緒していい?」

カミユ「…構わん」

カア… カア… ザザーン…

カミユ「…こうして海を見ていると…いろんな事を忘れられるな」

「…忘れたいことって何?」

カミユ「ふふ…女の事だな…」

カミユ「昔の女のところに帰ってきたが…こうして毎日海を見ている。何でだろうな」

「…自分の気持ちに嘘をつくのは良くない。好きでもない女のところに行く必要なんてない。海の向こうの女の子は…きっと、あなたの帰りを待ってる」

カミユ「…そう思うか…?」

「…女心なんてそんなもんよ。待つときはとことん待つ…」

カミユ「……帰るか」

「…そうね」

カア… カア… ザザーン…

ビラク「…そうか。分かった。では俺はどうすればいいと思う?」

「…自分で考えなさい。でも…」

「『未来は僕らの手の中』。夢は、実行すればきっと実現する」

ビラク「そうか。ありがとう。そうだよな…」

「…暗殺はしなかったからお金は返すわ…かわりにアドバイス料として100万ゴールド貰ってくけど」

ビラク「好きにしな。俺は指輪を買ってくるから忙しいんだ。じゃあな」

「…頑張ってね。多少応援してる」スタスタスタ

ベルカ「こうしてカミユはジークとして残りの人生を向こうの大陸で送り、ハーディンとビラクは幸せな人生を送りましたとさ。おしまい」

サイゾウ「…感無量だな」

カムイ「短い話でした」

次の話

①ウルスラ
②ダール
③本編
④綾波

↓1

そうですか

アクア「残念…①なら世界が終わってたのに…」

タクミ「いやウルスラさん何するんだよ」

アクア「はい」つiPhone


~閲覧中~


タクミ「うへえ…本編で『お優しいソーニャ様』なんて一言言ったばっかりに…」

アクア「間違いなくベルカが捕まって陵辱調教とかされた体験談とかになる…」

タクミ「やめてくれよ…てか姉さんさっきから静かになったけどどうしたんだろう?諦めたかな」

アクア「ああ、カムイをクンカクンカしすぎて酸欠で伸びてるのよ」

タクミ「…」




サイゾウ「どんどん話が本筋から逸れてる気がするんだが?」

ベルカ「そうね。あと20人ぐらいで師匠が出てくるから」

サイゾウ「すでに70人は殺してるよな?」

ベルカ「これでもかいつまんで話してるんだけど」

サイゾウ「…続けてくれ」


ベルカ「…いつものように電話のベルが鳴って、私は家を出た…」



カムイ「うーい、おじちゃんもう一杯…」

店主「もういい加減にしときなよ姉ちゃん…さっきから人間の飲める量じゃない量飲んでるよ…?」

カムイ「…今日は死ぬまで飲むのよ…うえっ…ぐずっ…」

店主「泣くなって…」

カムイ「アクアさん…ところで何でユーレイじゃなくなってるんですか?」

アクア「今更すぎるわ。教えるけどね。あのね、あの時瀕死のあなたの肩に触ってたらね、そのままいっしょに飛んできたの。こっちに。気づいたら日課の腹筋してたの。たしかあの時もやってた腹筋を」

カムイ「そんなことしてるからアクアニキとか言われるんですよ…?」

アクア「歌うのにも腹筋は使うのよ?」

そのころのサクラの部屋

カザハナ「はあ…はあ…もう…やめなよサクラ…明日早いんだよ…?」

サクラ「うふふ…今楽しまなくていつ楽しむんですか…?人生は短いんですよ…?」

カザハナ「こんな時だけ…ほら…もうやめよう…?ツクヨミが起きちゃう…」

サクラ「じゃあ一緒にすればいいじゃないですか…3人ならもっと楽しめるかもしれませんよ…?あと一回…一回だけでいいですから…」

ツクヨミ(…?何をやってるんだ…?気になって眠れん…そういえばこの前もこんな事があったが…)

カザハナ「いやよお…もう…昔っから…そんなに溜まってるならひとりですればいいじゃない!」

サクラ「そんなこと言って、カザハナさんだってじゃぶじゃぶで処理に困ってるんじゃないんですか…?」

ツクヨミ(何の話をしとるんだ…?二人して同じ布団に入って…)

カザハナ「むう…痛いとこつくのね…いいじゃない。明日早起きして処理するもん」

サクラ「うふっ、私はもう一回ひとりでしてから休みます…お休みなさい」

ツクヨミ(朝から何するというんだ…?ま、まさか…!?いやいや、そんな訳無かろう…)

ツクヨミ(いくら二人が昔からの幼馴染だからって、いくらさっきから2人の息が荒いからって、いくら…いくら…)

ツクヨミ(…フロリダだかブロリーナだかの例もあるし…)

ツクヨミ(…)

ツクヨミ(クソッ…眠れん…)

おでん屋


アクア「…」ペラッ ペラッ

カムイ「…どうですか?」

アクア「うん、いいと思う。続きは自室で読むから、じゃあね。そうだタクミ」

タクミ「何だい」

アクア「ちょっと来てもらえる?」

アクア「月が綺麗ね…」

タクミ「…」

アクア「『天の原 振り放みれば 春日なる 三笠の山に いでし月かも』…見る場所が違っても、いつも月は同じように見えるのね」

タクミ「…何を企んでるんだ?」

アクア「別に…あら、首に何か付いてるわよ」

タクミ「…!やめ…ぐっ」ドスッ

アクア「ごめんなさいね…ちょっと眠ってて」

オボロ「…あなた…何やってるの…?」ギロ

ヒナタ「なかなか部屋に戻ってこないと思ったら…タクミ様を返してもらう!」

アクア「あら…油断したわね…仕方ない…」

ユーラリユールレリー…

オボロ「む…力が抜ける…」

ヒナタ「何じゃこりゃ…zzz」

アクア「大丈夫よ、傷つけはしないから…」






カムイ「…zzz」

店主「…はー、やっと眠ったか。あんだけ飲みゃな」

ヒノカ「…おぶって帰る。ごちそうさま」チャリン

店主「まいどありー」



ヒノカ「起きてるか…カムイ?」

カムイ「zzz…」

ヒノカ「寝てるか…月が綺麗だぞ。綺麗な緑色の月だ」

カムイ「…?」

ヒノカ「あの時も…こんな月が出てたな…」

カムイ「みどり…?」

ヒノカ「ああ、緑だ」

カムイ「…いいめじるしですね…zzz…」

ヒノカ「?…ふう…重くなったもんだな、カムイ」

カムイの部屋

ドサ

カムイ「すう…すう…」

ヒノカ「…」

ヒノカ「はあ…」

ヒノカ(何故だろうか…?不思議と雑念が消えていくようだ…)

カムイ「……シグレ…さん……行か…ないで…あなたまで…失ったら……私は…」

ヒノカ「…ふむ」

ヒノカ「…大丈夫です。俺はどこにも行きませんよ」(裏声)

カムイ「…ほんとに…?」

ヒノカ「ええ、決して」(裏声)

カムイ「…抱きしめて…くれますか…?」

ヒノカ「もちろんだ」ギュッ

カムイ「zzz…」



ヒノカ「じゃあな。おやすみ、カムイ」パタン

ヒノカ「ん、どうしたアクア。そんな変な顔して」

アクア「別に…」

ヒノカ「そうか。おやすみ」

アクア(なぜ…?念には念を入れて、殺人的な量の媚薬をAmazonのあの噴霧器で部屋中に満たしておいたのに…)

パカ

『ウコンの力』

アクア(何で瓶がすり替わってるのよ…またあいつが邪魔を…くっ…)


ヒノカはウコンの匂いで鎮静化するやばい体質であった。

おでん屋


ベルカ「これが私の234番目の任務だった。ニノのことを、私は絶対に忘れないと思う」

ベルカ「ピアスの穴は塞いだし、刺青は焼いて消したけど、脳ミソに刻みつけられたものは並大抵なことでは消えなかった」

ベルカ「帰ってきて3日ぐらいで気づいた。自分が女の子にしか興味が持てなくなっていることを」

サイゾウ「…それはそれは」

ベルカ「この事は上司にも、もちろん同僚にも言ってない。恋人はいるけど…」

サイゾウ「もういい。それ以上言うな。何でそんなこと俺に言ったんだ?」

ベルカ「…理由は2つある。一つ目はあなたが不能だから」

サイゾウ「何で知ってるんだ」

ベルカ「あの時ぐしゃりという音が2回聞こえたから」

サイゾウ「」

ベルカ「二つ目は…今から話す。これは、私の235番目の仕事だった…」

♯7 離別

フウマ王国

コタロウ「…ということだ。頼めるな?」

「…仕事の選り好みはしない…前金で3000万ゴールド」

コタロウ「ほれ」

「…やってみる」シュパッ

コタロウ「消えた…ふっ…ふふふ…!今度こそ…今度こそ…お前は死ぬのだ…!」

コタロウ「それも…かつての教え子の手にかかってだ…!さぞ嬉しかろう…フフフ…ははははは…ハーッハッハッハッ!」

地下街

「ただいま…」ガチャ

師匠「おかえり。早かったな」ズズズ

久しぶりに会った彼は、またコーヒーを飲んでいた。あの甘い甘いやつだ。

「…」

師匠「何しに来た?」

「…あなたを…殺しに来た」

師匠「…だろうな。わざわざパエリヤを作りに来てくれた訳でもあるまい」

「…たくさんの人を、殺した」

「…いろんな人を殺した。強い人もいたし、弱い人もいた。騎士もいたし、盗賊だっていた。相手が女も、子供でさえも依頼なら迷わず殺した…」

師匠「…ならばこんな老ぼれに躊躇することもなかろ」

「…いろんな人と出会った…優しい人もいた。意地悪な人もいた。ある人はご飯を作ってくれたし、ある人は私をレイプしようとした。でも…」

「私は殺した。私は依頼なら誰であっても殺した。きっとそれは、相手が世界の王であっても、地獄の鬼であっても変わらないと思う」

師匠「…なかなか詩的な表現だ」

「でも…私は機械じゃない」

「…私は、あなたを殺せない」

カチャカチャ

師匠「いつぶりだろうな。こんな風に2人で食事するのは」

「…あのレシピ、ちゃんと役に立った?」

師匠「ああ。そうめんなら茹でられるようになったぞ」

「…ふふっ」ゴソゴソ

師匠「…なんだ?それは」

「…これは、ある黒騎士が持っていた魔剣」

「これは、ある盗賊が持っていたサンダーソード。彼の放つ言葉のひとつひとつが伝説となった」

「これはある女が持っていた雷の魔道書。1人の女を心から慕っていた…愚かな人だった」

「これは…ある少女が持っていた装身具。頭に付けるらしい。彼女もまた、哀しい操り人形だった…」

「色んな経験をした。まだ沢山ある」

「でも私は、あなたの話が聞きたい。あなたは私の全てを知っていた。でも私はあなたの名前すら知らない」

師匠「…俺の、過去か?」

「そう」

師匠「ハハッ…俺は、お前の思っているような人間じゃないぞ?」

「構わない。聞かせて」

師匠「後悔しないか?」

「しない」

師匠「分かった。…教えよう…」




師匠「…俺は…空っぽだ」

師匠「…俺はあの時、国を捨てた。家族を捨てた。自分の名前すら捨てた…逃げたんだ」

師匠「逃げて逃げて逃げて逃げまくった。いろんな国に行った。色んな世界に行った。色んな人とも会った」

師匠「でも…逃げきれなかった」

師匠「俺は…自分から逃げてた…弱い…何も守ることのできない…自分から、な」

師匠「で、逃げることも出来なくなった俺は仕方なくこの世界に帰ってきた。怖くて怖くて仕方がなかった」

師匠「また、俺のせいで人が死ぬのは真っ平だったし…何より怖かったんだ。自分が死ぬのが」

師匠「そこで出会ったのが、お前だ。初めて街で見かけた時、何か…グッとくるものがあったんだな…そうだ。息子に似てた」

師匠「そして、名前を付けた…なまえのない奴が名前を…な」

「『人間は、名前の上に成り立ってる』…あなたが最初に言った言葉」

師匠「そうだ。俺は空っぽさ」

「…あげる。私が名前を付けてあげる」

師匠「いやいや、その必要はない。なぜって?俺はな…」

師匠「やめたんだ。逃げるの」

師匠「一回しか言わないからよ~く聞いとけよ…」

師匠「……かつて、俺は白夜王国に仕える忍者だった」

師匠「俺には2人の息子がいた。兄には俺の名を…弟にはスズカゼと名付けた」

師匠「…俺の名前は……名前はな!」


パリンッ ドスッ


師匠「ぐっ…」ブッ

「…!敵…10以上いる…」

師匠「…どうやら…お前の雇い主は…お前を信用して…なかったらしいな…ゲホッ…」

「…喋っちゃダメ…あなたを担いで逃げる…」

師匠「無理だ…敵はプロ…勝ち目はない」

師匠「だが…お前だけなら何とか…なるかもしれん…」

「…ダメよ」

師匠「じゃあな」

「ダメ…」

師匠「そうそう、これを貸してやる。絶対返せよ」

「…絶対返す。だから…」

師匠「また会おう」バッ

師匠「やいやい、フウマ王国の犬ども!手柄を立てたいやつは誰だ?かかってくるがいい!俺は逃げも隠れもするけどね!ふははははっ!」シュタタタ

フウマ兵達「いたぞ…!あそこだ!クソッ、あの怪我でなぜ動ける?」



追いかけたかった。走り出したかった。なのに、動かなかった。足が動かなかった。

私はまた、ひとりになった。

♯8 最期

「…ギルティ」

コタロウ「」ドサッ

「仇は討った…なのに…どうして…」



胸が痛い。ズキズキする。頭も痛い。

これは、どんな気持ち?思い出せない。



ジリリリリリン ジリリリリリン

「…もしもし」

「了解」



????「お礼は幾らでも積むわ。あの子を殺して頂戴。どう?」

「…了解。前金で5000万ゴールド」

????「はい」

「時間がかかる…しばし待て」

????「分かったわ…でもあなた大丈夫?目に生気がないわよ…?」

「…」ガチャ バタン


(今回のターゲットは王族。失敗は万が一にでも許されない。いつも以上に綿密な計画を練る)

(まずはターゲットの行動パターンを完全に把握する)


北の城塞 カミラの部屋

カミラ「あなたが私の新しいメイドさんかしら?よろしくね」ニコ

「よろしくお願いします」

カミラ「あなた…」ツカツカ

(!)

カミラ「随分ひどい顔してるじゃない…大丈夫?」

「ええ、健康体です」

カミラ「辛かったら言いなさい…うふふっ」ムニ

「…」

カミラ「前の召使いが急に里帰りしちゃってね、困ったのよ?」ギュッ

「…どうして抱きしめるんですか?」

カミラ「ああ、私の悪い癖ね。(胸の)かわいそうな子を見ると、つい抱きしめたくなっちゃう…」ギュウウウウ

「…」

カミラ「さあ、もうお風呂の時間ね。一緒に来て頂戴な」

前の召使いが帰ってくることは決してない。今頃三途の川の向こう側で両親と再会しているところだろうから。

お風呂

カムイと違ってこういう所にはきっちりしており、お風呂は専用。


カミラ「はあー…いいお湯ね~…」

ザパーン…

「私も一緒に入るんですか?」

カミラ「当たり前じゃない?もっとあなたと仲良くしたいの」

「…」ヌギヌギ

ザパーン…

カミラ「あら、メイドにしてはいい体してるわね。筋肉質で…よく締まってる」

「…」

カミラ「ちょっと触っていいかしら…?」

「!」

カミラ「ほーら…緊張しないで…?ふんふん…あらあら…逃げちゃダメよ…?あら…気絶しちゃった…ちょっと撫でただけなのに…」

「」ボコボコボコ




「申し訳ございません。介抱までして頂いて」

カミラ「いいのよ。それに、こういう時は『ありがとう』よ?」

「…ありがとうございます」

カミラ「ふふ、それでいいの。さあ、ご飯食べに行きましょう」

食堂

カミラ「あなた、どこの生まれなの?」

「城下の商人の生まれで…」

カミラ「ふうん…大きな声じゃ言えないけど私、よくお忍びで城下に遊びに行ってるの…今度遊びに行ってみていいかしら?」モグモグ

「ええ。構いません」モグモグ

(いざとなったら何か理由を付けて断ればいい。それより…どうしてこのご飯、味がしないの…?ゴムでも噛んでるみたい)

「先に戻ってベッドメイクをしておきます」

カミラ「分かったわ。あら、マークス兄様じゃない」

マークス「おや、どうしたカミラ?」



バタン

(気のせいじゃ…ない。あの人の近くにいると…近くにいると…?分からない…どんな気持ち…?呼吸が増える…心拍数が上がる…)

(ベッドを整えなきゃ…)



カミラ「どう?できてるかしら?」

「はい」

カミラ「ふふふ…よろしい。ちょっと本を読むから、紅茶を入れてもらえる?」

「…はい」コポコポコポ

カミラ「濃~いのを入れてね?」

「…はい」

カミラ「ふふふ…手際がいいのね」

「…恐縮です」

「…できました」

カミラ「ありがとう。砂糖をちょうだいな」

彼女は砂糖を五杯入れた。大さじにたっぷり五杯。




『甘くないとな、飲めねえんだよ。甘くない紅茶なんて紅茶じゃない。ピクルスのないハンバーガーみたいなもんだ』

『ピクルス程度の違い…?』

『こういうのは細部が大事なんだ。細かいところの積み上げが自分を作る。わかるか?』

『…うん』

『ほれ、砂糖だ。俺と同じ五杯』

ズズズ

『甘すぎる…!』


カミラ「…」ズズズ

「…」

カミラ「…どうしたの…?」

「…帰れない…」

カミラ「?」

「…あなたを殺さなきゃ…でも…」

「…帰りたくない…これは…何の気持ち…?」

カミラ「…帰らなくてもいい。ここをあなたの家にすればいい」

カミラ「悲しいのなら…泣きなさい。私の胸の中で。思いっきり泣きなさい」ギュッ



私は泣いた。生まれて初めて。恥も外聞もなく泣いた。身体中の水分が出尽くしたと思うまで泣いた。

私を捨てた家族のために泣いた。私が殺した人達のために泣いた。そして、師匠のために泣いた。

「私は…一生…あなたに仕える…いいでですか…?」

カミラ「もちろんよ…私の大切な…ベルカ…」

エピローグ


それから私は、いろいろなものを得て、いろいろなものを失った。

いろいろな人とも会った。殺し屋としてでなく、一人の人間として。支援力も0から30まで上がった。でも、代わりに私の体は急速に力を失っていった。人を殺すのを止めたからかもしれない。


ルーナ「ほらベルカ!金曜ロードショーの時間よ!早く来る!」


たくさん仲間も出来た。愉快な同僚もできた。やたらうるさいのには閉口だけど。


「分かったわ…今日は何?」

ルーナ「確か新劇場版の急よ!早くそのカロリーメイト食べなさい!ったくもう…私も手伝う!モグモグモグ…ゴクン…べ、別に…」

「『あんたのためじゃないんだからね!』でしょ?悪いわね。ダイエット中じゃなかった?」

ルーナ「そ、そうよ!さっさと行くためなんだから!早く!こっち!ポップコーン持って!」

「…はいはい」





カミラ「ふう~面白かったわ。ね、ベルカ」

「…髪を内巻きにするのを止めて」

カミラ「いいじゃない…ふふふ…そうだルーナ、ドイツ語に興味はない?」

ルーナ「ないですよ!あんたバカァ?…うっ!」

「…プッ」

ルーナ「わ、笑ったわね~!待ちなさい!この無表情女!」

「私は捕まらない…さっさと逃げるもの。じゃあね」タタタタ

ルーナ「待ちなさいよ~!もう!」

カミラ「ふふふ…仲が良くて何よりだにゃん♪」

ルーナ「ミサトさんの方がまだマシだと思いますよ?」


もう、ひとりじゃない。見てる?師匠…


終劇

サイゾウ「何で初めて会った時に言わなかったんだ?こんな重要なこと」

ベルカ「面白いかなって」

サイゾウ「あのな、おそらく…9割9分9厘お前の師匠とやらは死んだはずの俺の親父だ」

サイゾウ「うちの家系は味覚がかなり変わっててな、甘味が嫌いな形質と好きな形質が交互に現れる」

ベルカ「ハゲフサの法則みたいね」

サイゾウ「次に、スズカゼは俺の弟だ。そんなに多い名前じゃない」

ベルカ「でも、死んだんでしょう?」

サイゾウ「死んだはずなんだが…昔から死んだふりと甘味が大好きな親父だった。ことに死んだふりに関しては超一流だった。昔から何度騙されたことやら…なんせ死んだふりをしながら寝るんだからな」

サイゾウ「最後に、風魔の奴らが狙ってたってのが理由だ。一度殺し損ねた相手を殺しに来た…とても自然だ」

サイゾウ「まあ、今となっては真実は闇の中…だが」

忍者「あち~、よっこらしょ」

店主「おう、久しぶりじゃねえか。元気してたか?」

忍者「生憎元気でな、ピンピンしてら」

店主「はんっ、そら残念なこったね」

忍者「『本日のおすすめ』3つ」

店主「おうよ!」

ベルカ「…あなた、どっかで見たことがある…?」

サイゾウ「……何で生きてるんだ?」

師匠「何のことかな~」

店主「ほいできた。おすすめ3つ」

師匠「ベルカ、ほら返せ。約束のバンダナ」

ベルカ「…」ゴッ

師匠「あたっ…何すんだ!」

ベルカ「…他に言うことはないの?」

師匠「…ただいま」

ベルカ「おかえり、師匠」ギュッ

師匠「ハハっ、大きくなったな…こっちは大きくなってないg」

ベルカ「…」ギチギチギチ

師匠「あだだだだだ!痛い!痛いから!」

サイゾウ「…父上は変わりませんね」

師匠「…ふん…簡単に変わるもんじゃねえよ。人ってのはな」


「ベルカの凄く長くて重い話」おしまい

カップリングが色々とおかしいね。いつの間にか脳みそソレイユになってるね。でも、悪くないと思う。

毒食わば皿までという言葉がありまして。ベルカの馴れ初めでも書こうかなと。

暗夜女子から一人。カミラとルーナ以外

↓1

そらルナティックな…書くけどね。

…?まあいいや、使います。ピエリ百合はあっちの方ので満足して下され。

家臣になってからから1ヶ月後

クラーケンシュタイン城の裏口


ザー…

ガチャ

「…ただいま」

カミラ「あら、おかえりなさい。雨降ってたでしょう?お風呂はいってきたら?」

「そうする」

カミラ「また前の事務所に行ってきたの?」

「…依頼が来てたから。専用の道具がいるの」

カミラ「大変ね…これでも随分減らしたんでしょう?」

「…週一ぐらいには。前は一日一殺がノルマだったけど」

カミラ「…」

「シャワー浴びてくる…」



ザー…


『お花は要りませんかー?そこのお姉さん!安くしとくよ~!』

『…一本お願い』

『まいどあり~!』


ピチョン…ピチョン…


なぜ買ってしまったのだろう?欲しくもない花を。

「…」

次の日


花売り「あら、お客さんまた来てくれたの?嬉しい!」

(また来てしまった…昨日買ったばっかりなのに…)

「一本ちょうだい」

花売り「まいどあり~!」

花売り「あれ…お客さん!お花忘れてる!お花!」

「…あ、ごめんなさい」

花売り「ねえ…あなたどこかで会わなかった?」

「…覚えてないけど」

花売り「うっそ~絶対にあったもん!」

男「おい嬢ちゃん、お花おくれ」

花売り「はいは~い!ただいま!えーっと、明日また来てもらえる?朝早くならゆっくり話せると思う」

「…分かった。じゃあまた明日」




あの花売りのことを考えると体が熱くなる。胸がズキズキする。でも、何だかあの時とは違う感じで…


カミラ「どうしたの?いつになくぼーっとしちゃって」

「…!べ、別に…」

カミラ「ふふ、珍しいこともあるものね~。当ててあげる…」

「…やめて」

カミラ「ふむ…分かった。恋…かしら?」

「…」

カミラ「図星ね。相手まではわからないけど…どう、私に相談しない?」

自分の性癖の事は言っていない。言えるか。

「…いい」ガタッ

カミラ「ふーん、そうなの…無理にとは言わないけど…」

ガチャ バタン


(やっぱり相談しよう…)

(む、あっちから来るのは…)

ラズワルド「ふー、おいしかったなー。やっぱりこっちのご飯はおいしい…」

ピエリ「北の城塞でフェリシアのご飯ばっか食べてたから当たり前なの!」

ラズワルド「うん。あれ何の罰ゲーム…おや、ベルカじゃない。お茶でも一つどぉゲフッオ!」

「…」

ピエリ「出会い頭にサイコクラッシャーかけるひと、初めて見たのよ?」

「…別に昇竜拳でもよかったけど」

ピエリ「いいから運ぶのよ!気絶してるの…」

ラズ公の部屋


ピエリ「…1はラズワルドに恨みでもあるの?表記がおかしいの…」

「…字数の都合よ」ポイ

ピエリ「気絶してる人投げたの…血も涙もないの…」

「…お茶でも飲む?」

ピエリ「いただくの!」

(勝手に使うわよ。ごめんなさいね)



(お茶菓子は…カロリーメイトしかない)

「はい出来た」

ピエリ「ありがとなの!ピエリもよくお茶飲むのよ?」

「そう。今度淹れてもらおうかしら」

ピエリ「で、何を話に来たの?」

「…別に」

ピエリ「見りゃわかるの!ベルカ、何か困ってるの?」

「…少しだけ」




ピエリ「なるほどなの。難しい話なの…」

(さすがに相手が女の子とは言えないわね)

ピエリ「うーん…むー…ピエリが思うに、こっちから仕掛けていくしかないとおもうの」

ピエリ「待ってても獲物は逃げてくだけなのよ?」

「そう…ありがとう」

ピエリ「こっちこそ、カロリーメイトありがとなの!」


ガチャ バタン
(あと一人ぐらい相談してみよう…)

↓1

(よく考えたら私、ホモに恋愛指南してたじゃない。最近忘れっぽくなった…?)

鈍ってたのは私の頭でした。申し訳ない。

(大体ね、あんたが変な気起こして烈火引っ張り出してくるのが悪い)

申し訳ございませんでした。

(しかも何でよりによって夜明け前の攻防で詰んでるのよ)

たしかに。

(そりゃね、索敵マップは難しい。マキシマムマクシムが突っ込んでくるのも酷い)

ぱしかに。

(それでもセイン辺りがハルベルト叩き込めば一発で落ちるでしょ?)

パスカル。

(ウルスラの位置だって乾き茶見りゃわかるでしょ?)

パステル。

(そもそも何で私が同性愛に目覚めなきゃならないの?)

パタリロ。

(安価だからって何でもいいわけじゃないでしょ?しかも指定されなかったやつだし)

パンタロン。

(そこは大人しくニノかジャファルにしときゃいいのに何でわざわざウルスラなの?バカなの?)

パラサイト。

(あー!さっきから何なのパタリロって!当てこすりのつもり?!)

いいからさっさと相談を持ちかけなさい。口調も戻して。ルーナみたいになってるから。

(くそっ…分かった…)

そう。それでいい。あとね、また安価が埋まんない。

(え…またなの?)

だからマクベスにする。

(…わけがわからない)

マクベスに相談しなさい。ほら、歩いてたらマクベスの部屋前に来たよ。

(…また悪ふざけを…)

マクベスの書斎

コンコン
マクベス「どうぞ」

ガチャ
「…こんにちは」

マクベス「こんにちは。ベルカさん…でしたか?何の用です?」

「恋愛相談」

マクベス「いや訳がわからん」




マクベス「そういう事ですか…ふん…私はこう思いますね」

マクベス「『手段を選んだら負け』。あなたの得意とするところと同じですよ。何としてでもその人の心をスナイプしたいんでしょう?」

マクベス「そんなあなたにはい救心♪」

??超強力な媚薬を手に入れた!

「いらない」

マクベス「まあそう言わずに」

「…一応もらっとく。でも…こんな事で手に入れるものって…意味があるの…?」

マクベス「それはあなたが決める事です。まあ持っておきなさいって。きっと役に立ちますよ」

「役に立つシチュエーションが1通りしか見えないんだけど」

マクベス「まあアレです。何事も実行あるのみ」

「…むしろそのひと言だけでよかった」
ガチャ バタン

その夜

明日、あの子に何て声をかけようか。何か物でも持って行った方がいいのだろうか。どんな服を着t

エリーゼ「ただいま~」

「!?」

エリーゼ「あれ、どうしたの…?あ、地下街のお姉ちゃん」

頭が真っ白になる。何を言えばいいのかわからない。今日もきれいねとか言えばいいのか?え、えーと

カミラ「おかえり、エリーゼ。この子は私の新しい家臣。ベルカよ」

エリーゼ「へー、よろしく!ベルカ!」

「よ、よろしく…」

エリーゼ「ご飯食べいこ!」

「う、うん…」



カミラ「…ふふっ」

エリーゼ「それでね、今日はね、…」

近くにいるだけで卒倒しそうだ…むしろ卒倒していないのがおかしいぐらいだ。

エリーゼ「でも、多分お城のどこかですれ違いでもしたから、会った気がしたんだよね」

「そうね…」

エリーゼ「どうしたの、見とれちゃって…エビフライ欲しいの?」

「う、うん…」

エリーゼ「じゃああげる!はい、あーん」

「…!」

バターン!

「」

エリーゼ「だ、だいじょうぶ?……大変、呼吸してない!?」

意識はあった。エビフライが思いっきり喉に詰まっているだけで。

エリーゼ「杖も無いし…えっと、しんぱいそせいほうは…この前習ったよね…」

今行うべきはハイムリッヒ法であるが、幸か不幸かそれを伝えるすべはなかった。

エリーゼ「きどうをかくほして…1分間に30回のペースできょうこつあっぱく…」

ズンズンズンズン

健康な人にはくれぐれもかけないようにしましょう。物凄く苦しい上に下手すれば肋骨が折れて内臓に刺さります。

エリーゼ「…ふう…でもって人工呼吸…」

ムチュー

「ぶはあっ!」ゲホッゲホッ

エリーゼ「あ、元気になったね。よかったぁ…」

エリーゼ「もう…心配したんだから…ぐずっ…」

「…泣かないで」

エリーゼ「うん…」

「…お顔、拭いてあげる」

エリーゼ「ありがと…うえっ…」ゴシゴシ

(かわいい…)ポー

タッタッタッ
ハロルド「AED持って来ましたよ!すぐに使いましょう!」

「大丈夫。もう元気になった…」

ハロルド「ほう、そりゃよかった。じゃあこれは元に戻しておき ビリビリビリ

ハ、ハロルドダイジョウブ!?
ブスブスブス
タイヘン!AEDモッテキテ!
AEDソレヨエリーゼサマ

ベルカ×エリーゼの百合とかどの層に受けるんでしょうかねぇ…それはそうとベルエリってキャンディの名前みたい。

ここからは本編と交互に進めたいと思います。


ここで、物語は3日ほど前に戻る。

カムイがヒノカの迅雷の薙刀で気絶して長いこと寝込んでいた頃。


クラーケンシュタイン城


マークス「父上、只今戻りました。怪我の具合はいかがでございますか」

ガロン「うむ。問題は無い。お前も大怪我を負っていたというが…」

マークス「大事ありません」

ガロン「そうか。まあゆっくりと休め。カムイのことも心配は無い」

マークス「ああ、この手紙ですね。一匹で帰ってきたドラゴンに付いていた…」

ガロン「そうだ。人質という形だが、向こうで息災にやっとるらしい。今度迎えに行ってやらんとなあ…」

マークス「…失礼します」

ガロン「うむ」

エリーゼ「でね、リリスの提案で、お父様のお食事をみんなの交代で作って差し上げることにしたの。毎日同じ献立じゃかわいそうでしょ?」

マークス「ほう…いい考えだ。で、最初は誰が当番だ?」

エリーゼ「>>205よ」

王族と、ベルカを除いた家臣から一人。

ルーナ

ルーナ「という事で、今日は私がガロン様のお食事を担当させていただきます」

ガロン「そうか。よきにはからえ」

ルーナ「どうぞご期待下さい!」




ルーナ「さあ、腕により掛けて頑張っちゃうわよ~!」

リリス「頑張ってください。少し手伝います」

ルーナ「ところであんた、北の城塞勤めじゃなかったの?」

リリス「いろいろあって転勤になりました」



少し前、星界にて


テロリスト達「あそこだ!捕まえろ!」

リリス「しまった…プルトニウムを騙し取ったのがばれましたか…ここが分かるとは、ずいぶん頭が回るんですね」

テロリスト「ははーん、馬鹿め。もう囲まれとるぞ」

リリス「くっ…まっ・・待って下さい
お願い・・許してください・・・
わしは ガロン王の言うとおりに
してきただけなのです…
私も イヤだったのですが
しかたなかったのです
で・・・ですから
たっ・・助けてください・・・・
何でも言うことをききます
ほら・・・このとおり・・・」

テロリストA「ほーん、面白い事言う姉ちゃんだな。じゃあ早速しゃぶってもらおうか」ボロン

リリス「はい…」

リリス(と・・・ ゆだんさせといて・・
ばかめ・・・ 死ね!!!)

テロリスト「ぎゃああああ!早速食い千切られたああああ!」

リリス「セキュリティシステム起動!マクラディア!敵を駆逐せよ!」

セキュリティサービス「了解」ギュオーン

マクラディア「了解」ギュオーン

リリス(とは言っても長くは持たない…あの装置だけ持って逃げましょう)


お外

リリス(よし、後は水晶を叩き割って…)

ガシャーン!

ギュンター「何をしとる!小屋が燃えとるじゃないか!」

リリス「げっ…す、すいません」

ギュンター「最近のお前のやり方は目に余る!賃貸の小屋を研究と称して流用したり、馬に次元転移装置を付けたり、はたまた時速140キロで走る馬を開発しようとしたり…」

ギュンター「もういい!くびだ!今日を持って馬舎係を解任し、明日から王城勤めのメイドをやってもらう!」

リリス(という事で、あの改造シューターを残して私の研究は消し炭と化したのでした。めでたくないめでたくない)

リリス(まあ人に言えた話じゃないですけどね)

ルーナ「ほら、ぼさっとしてないで手伝いなさい。下準備終わったわよ」

スパゲティ(1.6mm)・・・・・160g
なす・・・・・1本
ズッキーニ・・・・・1/2本
パプリカ(赤)・・・・・1/2個
玉ねぎ・・・・・1/2個
アスパラガス・・・・・4本
オリーブオイル・・・・・大3
にんにく・・・・・1片

トマト水煮(カット)・・・・・400g
トマトペースト・・・・・大2
バジル・・・・・適量
赤ワイン・・・・・大2
バター・・・・・10g
コンソメ顆粒・・・・・小1
塩・こしょう・・・・・各少々
パルミジャーノチーズ(すりおろし)・・・・・適量


ルーナ(今日のZIPでやってた奴だから失敗はない)

ルーナ「まずはスパゲティを塩茹でします。この時に鍋にオリーブオイルを入れると味が引き立つんですって」

ルーナ「次に上四つの食材をいい感じにカット。刻んだニンニクと一緒にオリーブで炒めます」

ルーナ「後は適当に残りを煮て塩胡椒オリーブオイルで味を整えます。でもってパスタに混ぜれば完成!」

リリス「お疲れ様です」

ルーナ「じゃ、麺が伸びないうちに持ってくわよ!」


ガロン「ほう…何だこれは?」

ルーナ「夏野菜のトマトパスタです。では失礼」

ガロン「ふむ…いただこう」バタン

ハイドラ『お、うまそうではないか』

ガロン「変な時に出てくるんじゃない」モシャモシャ

ガロン「これは…うまいな。丁寧に煮込んであるおかげで野菜の旨味がいい感じに凝縮されとる」

ハイドラ『それでいてバジルの爽やかさが全体を引き立てる…さすがMocos Kitchen』

ガロン「こんなに食欲が湧いたのも久しぶりだ…全て平らげてしまったぞ」

ハイドラ『いくら食ってももはや意味はないがな』

ガロン「それを言うな」

その3



「じゃあお休みなさい」

エリーゼ「おやすみ。またあしたね!」

「…」バタン


自室

ルーナとの相部屋である。ちなみにゼロとオデンもルームシェア。ラズとハロルドもそう
。ピエリとエルフィも。

「…」ゴロゴロ

眠れない。

「…」ゴロゴロ

眠れない。体が酷く熱い。顔も真っ赤になっているはずだ。

「…」ゴロゴロ

眠れない。だめだ。下腹部が特に疼く。

「…」ゴロゴロ

これも「あの任務」で背負わされた呪いである。一度発情してしまうともう止めようがなくなるのだ。

「…」ゴロゴロ

このままでは気が狂う。落ち着ける方法はいくつかあるが…

「…」ピタ

なぜか自分でしても満足は得られないのだ。必ず他人を媒介しなければならない。

①無理矢理寝てしまう
②娼館に行く
③その辺の飲み屋で誰か引っ掛ける





④隣で寝てるルーナでアレする


↓1

まったく…4ね。もう書いちゃったよ。いっくら人気が無くったって完走はしますよ。ええ。


もう限界だ。このままでは本当に気が狂ってしまう。

「性欲を持て余す」という表現はもはや当てはまらないだろう。まるで性欲そのものが意思を持っていて、自分という器を持て余し、内側から焼き尽くそうとしているかのようだ。

普段は、この「衝動」が起こるとすぐに「それなりの処置」を取って収めていたが、王城兵になってからは忙しさから、その対応が後手後手になっていた。あの子のことを考えたことも原因の一つになっているかもしれない。

全く汚らわしい、我慢ならないものだ。なんせ、今も隣に寝ている同僚に発情している自分がいるのだから。

こんな時のために、事後に記憶を消す方法は熟知している。皮肉なことに、「あいつ」から身をもって教わった方法だ。その方法とは…





記憶がぶっ飛ぶまでイかせること。




ルーナ「すう…すう…」

この方法を使うと、相手の脳みそにかなりの負担がかかる。一種の精神攻撃をしているようなものなのだから当たり前だが…

(はあ…)

自分に食い尽くされ、汚し尽くされた女が、目の前で眠っている。記憶を失って、ぐっすり眠っている。上手くいけばーーーー今まで上手くいかなかったことはなかったーーー今夜の事は何も覚えていないだろう。朝になれば起きてきて、よく眠れなかったとかぼやくはずだ。


少しでも眠ろう。もうすぐ夜が明ける頃だ。

だがこんな夜は悪夢ばかり見ると相場が決まっている。今夜もまたそうだった。


夢の中


罪悪感が心をさいなむ。何であんな事をしてしまったんだろう?本当に愛しているのは彼女だけのはずなのに。


今エリーゼのとこに行ったら、おまえさん確実にりんごになってたよ


…うるさい。あんたの助けなんかいらない。私はエリーゼ様が好き。それで十分よ。私は自分の力で、エリーゼ様をものにしてみせる。


へぇ…本当に好きなのかい?あの子のこと


もちろん。絶対に手に入れてみせる。こんなにもやる気に満ち溢れているのは…生まれて初めて。


邪魔するっていったら?


…あなたが私の物語を終わらせる前に、かたを付ければいいだけ。何の問題もない。


いい心がけだ


…もう起きる。


そうか 幸運を祈ってる


二度と会いたくない。




変な夢を見た。変な人と話すだけの、変な夢。それでも何だか気持ちが落ち着いた気がする。二度と見たくないけど。

昨夜のことは…忘れよう。


『人間ってのはな、都合よくできてるんだ。都合の悪いことは片っ端から忘れちまう』

『…そんなんでいいの?』

『へっ…だから生きてけんの』


朝からこんなことを思い出すなんて、疲れているのだろう。さっさと顔を洗おう。歯を磨こう。ご飯も食べよう。思えば昨夜はエビフライの尻尾しか食べていない。

「エリーゼ様…」


つい数時間前に別の女と不純に交わっていたというのに、無意識にこんなことを呟いている自分。大嫌いだ。

でも構わない。どんな犠牲を払ったとしても、たとえ我が身を滅ぼすことになろうとも、私はエリーゼ様と結ばれなければならない。





ではなぜ…こんなにも頭が痛いの?



ルーナ「う…あん…ベルカ様ぁ…」

(まずい…上手く消えてなかった…?)

ルーナ「…あら、おはよう。どうしたの?朝からそんな顔しちゃって」

「…別に」

ルーナ「じゃあ早くカミラ様起こしに行きましょ。顔洗うからちょっと待ってなさい」

「…」

もし覚えていたならどうしようかと思った。その場で消していたかもしれない。それでもって、みんなには「彼女は来た時と同じように風のように去ってしまった」とか言って。

又はカミラ様のところにご報告に行ったかもしれない。私たち、今度結婚するんですよ、って。

あほらしい。



エリーゼ「おはよう!ベルカ!調子はどう?」

「ええ、元気よ。おかげさま」

寝不足だが元気である。おそらく彼女に会ったならば、末期癌で死の床に臥せっていたとしても元気になるに違いない。

エリーゼ「よかった。一緒に食べよ!」

「…ええ」

王城の朝もケロッグで始まる。コーンフレークとは偉大な発明である。


「…」サクサクサク

エルフィ「…」サクサクサクサクサクサクサクサクサクサクサクサクサクサクサク

「…」ジロ

エルフィ「…」ギラ


「…」サクサクサクサクササクサクサクサクササクサクサクサクササクサクサクサクササクサクサクサクササクサクサクサクササクサクサクサクサクサクサクサクサクササクサクサクサクササクサクサクサクササクサクサクサクササクサクサクサクササクサクサクサクササクサクサクサクサク


エルフィ「…」サクサクサクサクササクサクサクサクササクサクサクサクササクサクサクサクササクサクサクサクササクサクサクサクササクサクサクサクサクサクサクサクサクササクサクサクサクササクサクサクサクササクサクサクサクササクサクサクサクササクサクサクサクササクサクサクサクサクサクサクサクサクササクサクサクサクササクサクサクサクササクサクサクサクササクサクサクサクササクサクサクサクササクサクサクサクサクサクサクサ

サクササクサクサクサクササクサクサクサクササクサクサクサクササクサクサクサクササクサクサクサクササクサクサクサクサクサクサクサクサクササクサクサクサクササクサクサクサクササクサクサクサクササクサクサクサクエリーゼ「ちょ、ちょっと二人とも!何やってるの!」ササクサクサクサクササクサクサクサクサクサクサクサクサクササクサクサクサクササクサクサクサクササクサクサクサクササクサクサクサクササクサクサクサ

サクサクササクサクサクサクササクサクサクサクササクサクサクサクササクサクサクサクサクサクサクサクサクササクサクサクサクササクサクサクサクササクサクサクサクササクサクサクサクササクサカミラ「あ~こりゃスイッチ入っちゃったわね2人とも」クサクサクササクサクサクサクサクサクサクサクサクササクサクサクサクササクサクサクサクササクサクサクサクササクサク

おばちゃん「もうケロッグないよ!やめなさい!」

「…はーい」

エルフィ「…分かった」



「…」タッタッタッタッ

ルーナ「…何であんたと一緒に走んなきゃなんないわけ?」タッタッタッ

「…決まりだから?」タッタッタッタッ

ルーナ「ふーん、そう。何で顔赤くなってんの?」タッタッタッタッ

「…別に」タッタッタッタッ



ルーナ「あっ、エルフィ!」タッタッタッタッ

「…だから?」タッタッタッタッ

ルーナ「べつにぃ?あっカミラ様だ!」タッタッタッタッ

「…そうね」タッタッタッタッ

ルーナ「反応なし…と。あ、エリ…」タッタ


「どこ!?どこにいるの!?」ガシッ

ルーナ「ぐ、ぐるじい…おろして…」

「いいから…教えなさい…ぶち殺すわよ…!」ギリギリギリ

ゼロ「おいおいどーしたんだい二人とも?昼間っからお熱いねえ…大丈夫か?」

ルーナ「た…たすけなさい…」

ゼロ「ほれ止めろって…今にもこいつイっちまいそうじゃねえか」

「…」ドサッ

ルーナ「げほっ…どうしたのよあんた…いきなり人を釣り上げて」

「…エリーゼ様がどうしたの」

ルーナ「そんなこと言ってない。襟が立ったまんまだって言おうとしたのよ」

「…ごめんなさい」

ルーナ「いいのよ…大丈夫?あんたがこんなに取り乱すなんて、熱でもあるんじゃないの?」

「…気にしないで。喉は大丈夫?」

ルーナ「まだクラクラする…」

「無意識に頸動脈を締めてた。ごめんなさい…」

ルーナ「いいの。頸動脈の一つや二つ。それより早く走り込みしましょ」

「…うん」

(…一瞬だけれど、本気で…殺そうとした…どうして…仲間なのに)

この時の私には知る由もなかったことだが、昨夜の夜這いはルーナの深層心理に深刻な影響を与えていた。精神の奥深くに差し込まれた「毒針」は徐々に徐々にと彼女の精神全体を蝕んでいくのである。 ハーッレルヤ♪ ハーッレルヤ♪

ルーナ「何だか背中に悪寒が…何よこれ…」ブルッ

リリス「ガロン様、喜んでらしましたよ。よかったですね」

ルーナ「あったりまえじゃない!私が作ったのよ?美味しくないわけないんだから!」

リリス「元気でなによりですね」

リリス(本当に元気でなによりですよ…あの世界ではあなた、捕獲さえされずに殺されてしまったんですから…)


ガレージ

誰も使っていないので勝手に借りている。

リリス(まあよかったとしましょう。この装置だけでも持ってこれましたし)

ガシャ プシュー

リリス(あれ…?何で黒煙なんてあげてるんでしょうか…?しまった…逃げる時に弾を食らいましたか…)

ガシャガシャ カチャカチャ

リリス(だめだこりゃ…心臓部に相当ダメージがはいってます…努力してはみるけど…直らないでしょうね…もうスペアの部品もないし…)

バリッ ビリビリッ ビリッ

ボガーン! ブスブスブス

リリス「げほっげほっ…ったくもう!」

リリス(もう一回作り直すしかないですね…)


明日のごはん係 ↓1

ピエリ「ご、ごめんなさいガロン様…遅れちゃったの…晩ごはんはカレーなの…自信作なの…ピエリスペシャルよ?」

ガロン「2、3分ぐらい構わんわい。お前の料理は大層美味とマークスから聞いとる。が…何で車椅子に乗って全身包帯まみれなのだ?」

ピエリ「おかし作りに失敗したの…ごめんなさいなの…」

ガロン「…そうか。退がれ」

ピエリ「はいなの…」バタン

ハイドラ『臭うな…』

ガロン「ああ、いい匂いだ。お前が嗅覚と味覚を復旧させてくれたお陰だな。礼を言おう」

ハイドラ『そういう意味ではない。さっきのピエリとかいう女…』

ガロン「うるさいわい。先ずはカレーを食う。食ってから探しに行っても遅くはなかろう」

ハイドラ『…』

ガロン「飯を食うときはな、誰にも邪魔されず、何というか…救われてなきゃならんのだ。飯も食わず、夢も見ないお前には分からんかも知れんが」

ガロン「つまり…一人で…静かで…豊かで…特にお前みたいなのには決して」

ハイドラ『わかった。分かったから。俺が悪かったからさっさと飯を食ってしまえ。早く探しに行かなければならん』


その12時間ほど前

冷房はおろか窓すらないガレージで一人、汗だくになりながらマシン(の残骸)と格闘するリリス。辺りには中世風の馬小屋におよそ似つかわしくない電子部品が転がっている。

リリス(このマシンがないとどうしようもないのに…やっぱり部品がいくつか足りないですね…)

リリス(どれもこの世界は発明されていないモノばかり…代用を利かせれば何とかなる…?)

リリス(量子加速器…電子変圧コンバーター…電磁サブリミナルビーコン…材料を拾ってくれば何とか…?)

リリス(行きますか!拾いに!)

カミラの部屋

カミラ「何?急に」

リリス「溶岩をバケツに二十杯ください」

カミラ「…」

リリス「水はバケツに一杯でいいです」

カミラ「…どうせ黒曜石でしょ?」

リリス「…!なぜ分かったんですか?」

カミラ「昨日、オーディンが同じことを言っていたのよ。でもね、火を付けただけじゃ開かないのよ?」

リリス「分かってます。この世界では特別な術式を組まないと発生しない…ですよね?」

カミラ「そう。そして彼はいつも通り失敗した。黒曜石の枠は鉄のツルハシで取り除かせたわ」

リリス「…何時間かかりましたか?」

カミラ「朝見たらまだ頑張ってたわよ」

リリス「…その枠借りますね」

カミラ「勝手にしなさい」

彼女は少し疲れているようだった。ベルカがいないからだろうか?それとも…

屋上


ガガガガガガガッガガッガガガッガガガ

リリス「お疲れ様です。調子はいかがですか?はい差し入れ」つポカリ

オーディン「ぜー、ぜー、これ…本当に壊れんのか?」ゴキュゴキュ

リリス「鉄じゃ絶対に無理ですよ」

オーディン「…マジかよ…ん?あんた…」

オーディン「あーっ!お前、あの時の!」

リリス「な、何のことでしょーかねー。私はご覧の通りただの配管工でして…マンマミーヤ」

オーディン「何のことでしょーかじゃないだろう!何でお前がここにいるんだ?また殺しに来たとか?」

リリス「バレましたか…まあ見りゃわかりますよね」

オーディン「当たり前だ!あのとき嗅いだ機械油と生魚の混ざったような匂い…あんなの漂わせながら歩いてる女なんてお前しかいねえよ!」

リリス「え、そんな匂いしますか私?」

オーディン「するよ!ちゃんと体洗ってんのか?」

リリス「ひ、酷いです…あんまりです…仮にも年頃の女の子にそんなこと言うなんて…これでもあの時より大分マシになったのに…」

オーディン「ありゃ、泣かしちゃった…す、すまん…何ていうか、そんなつもりじゃ無かったんだが」

リリス「グズ…ひどい…」

オーディン「ごめん…」

リリス「…ホントに悪いと思ってますか?」

オーディン「(やな予感しかしねえ)思ってる思ってる」

リリス「そうですか。じゃあちょっと買い物行ってきて貰えますか?」

オーディン「どうしてこうなったし」

リリス「その間、お風呂はいってきますから」

オーディン「そうした方がいい」



カミラ「あ~すごい臭いだった…あの子、最近お風呂入って無さそうだったわね…でも普通2、3日じゃああはならないわよ…体質かしら?」

ミーンミンミーン…

オーディン「結局押されて買い物に来てしまった…」

オーディン「あちぃ~」

オーディン(にしても何であいつがここに…敵意は無さそうだが…)


以下回想

ハイドラ(人)「何ということだ…あの狂った竜が子を…って臭っ!なんじゃこりゃあ!」

セレナ「げほっげほっ…こんなの…こんなのってないわよ…こんなアホな死に方あるもんですか…」

ウード「何という…瘴気…!圧倒的瘴気…!」

アズール「うひゃあ…これじゃ近づけないね…目が痛い…」ボロボロ

リリス「え、そんなに臭いますか?」クンクン

ハイドラ「あいつらには嗅覚がないからな…ゴホッゴホッ、気づかないのも…無理はない」

セレナ「何か…方法はないの…?あいつに近付く方法は…」

ハイドラ「…ない。生身では危険だ…」


リリス「酷い言いようですね…傷つきましたよ。深く、ふかあく…まあいいです。あなた達はここで死ぬんですから」

リリス「私の芸術を喰らいなさい…加粒子砲セット…量子加速器起動…目標をセンターに入れて…方位775…」

ハイドラ「いかん!」

リリス「発射!」バシュウウウン!

ハイドラ「A.T.フィールド!」ガキンッ!

リリス「ちっ…弾かれましたか…でも次はありませんよ…?リロード!」ガシャンッ

ハイドラ「まずいな…次は流石に耐えきれんぞ…ん?どうしたウード。トランペットに憧れる少年みたいに目をキラキラさせて」

ウード「今…何したんだ?」

ハイドラ「A.T.フィールドだが…?」

ウード「めちゃくちゃカッコよかったじゃねえか!俺にも教えてくれよ!」

ハイドラ「今はそんな場合じゃ…いや、もうこれに賭けるしかない…それっ!フィールド投げ!」ポイッ

リリス「クソッ…加粒子砲が…予備を出さないと…」

ハイドラ「お前達を信じる。絶対に悪用するなよ?ほら、始祖竜の血だ。飲め。飲まねば話は始まらん」ザクッ ブシャアアア

アズール「切り過ぎでしょうが!大丈夫ですか!?」

ハイドラ「飲め…飲まなければ帰れ…」ブシャアアア

セレナ「手首から直接…分かったわよ…さっきの無しには勝ち目無さそうだし…」ゴク

ウード「何味だった?コーラ?」

アズール「んな訳…」

ルーナ「ブドウ味だった」

アズール「…んなアホな…」ゴク

ルーナ「あれ?名前変わってる?」

ウード「…」ゴクゴクゴク

ラズワルド「本当だ、ブドウだ。名前も変わってるし」

ウード「…」ゴクゴク

ルーナ「いつまで飲んでんのよバカ!ハイドラさん貧血になってるじゃない!」バキッ

オーディン「痛えな…喉乾いてたんだよ…ん…?何だか体が軽い…」

ラズワルド「水ぐらい飲んでから来ればいいのに…おや…力が…溢れる!」

ルーナ「A.T.フィールド!うわっ、本当に出た…これなら勝てる…の?」

リリス「ふん…付け焼き刃のフィールドで敵うわけがないでしょう…食らえ!」バシュウウウン!

ルーナ「せええい!」ガギィン!

リリス「きゃっ、跳ね返すなんて…やっぱりダメなんでしょうか…私の発明じゃ…」

リリス「いくら優れた発明をしても…父上は認めてくれない…この前なんか孫の手で恒星間ロケットを作ったのに…見向きもしてくれなかった」

リリス「『今は孫の手が使いたかったのだ』とか言って…」

ハイドラ「この状況で敵にぐちぐち言ってるのもどうかとは思うが?」

リリス「…出てきなさい、イスラフェル!ガキエル!サキエル!この者達を滅するのです!」

※全て等身大

イスラフェル「…」

サキエル「…」

ガキエル「…」ピチピチ

??ガキエルは はねる を使った!

??しかし意味がない!

ラズワルド「…人選をミスったね」

リリス「う、うるさい!まだ2体もいるんです!」






オーディン「ふー、何とか片付いたな」

ルーナ「実質甲乙合わせて三体だったじゃない…」

リリス「意外としぶといですね…最後の手段です。ゼルエル!ラミエル!シャムシエル!アルミサエル!ラファエル!ダブリス!」

アオーン ファーw

ハイドラ「まずい…今度こそまずい…流石に全員相手するのは無理だな…よし、お前達を地上に送る。まずは暗夜王城に行ってくれ。身元不明でも、あの国なら家臣として採用してくれるはずだ」

オーディン「随分とルーズなんだな…」

ハイドラ「じゃあ送るぞ…カムイを…娘を頼んだ…あ、そうそう言い忘れてたがルーナ…」

ルーナ「?」

ハイドラ「お前さんとことん女運無いぞ…気を付けろ…それっ!」

ホワワワワン



オーディン(で、気づいたら白夜平原に倒れてたんだよな。国境越えが面倒くさかった…座標設定ぐらいちゃんとしてくれよな…)

オーディン(にしても何であいつがここに…?)


屋上

オーディン「ふっ…買ってきたぞ。じゃあここにいる理由を教えてもらおうか」

リリス「…あなた達が向こうに飛んでから…」



リリス「という事です」

オーディン「あそ」

リリス「信じたんですか?」

オーディン「まあな…嘘ついてる人間とついてない人間の違いぐらい分からあ…風呂入ったか?ファブリーズやるよ。ほれ」

リリス「…」

オーディン「じゃあな。ちょっと寝てくるよ…」

リリス「…徹夜だったんでしょう?」

オーディン「んだ。ゲートならやるよ。片付けといてくれ。おやすみ」

リリス「おやすみなさい…」

リリス(いい人ですね…ちゃんと買ってきてくれましたし…)ガサ



ニュクス「…どうしたの、お姉ちゃん」

リリス「とぼけても無駄です」

ニュクス「何のことかわからないなー」

リリス「ネザーゲートを開く術式を教えてください」

ニュクス「知恵袋で聞けks」

リリス「あっさり本性を現しましたね」

ニュクス「…本当に開くつもりかしら?」

リリス「勿論です。ちゃんと豚除けの柵も買ってきました」

ニュクス「よろしい。じゃあ、呪文を唱えるから下がってなさい…」


ニュクス「我は禁忌を犯せしもの…扉を開くもの…我が命を糧とし、遥か彼方の異世界へ続く扉を開きたまえ…究竟次第即身成仏…まがことつみけがれ…以下省略…」


ズゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

リリス「わっ、開きましたね」
ズゴゴゴゴゴゴゴゴゴ
ニュクス「よかった…もう…思い残す事は…ない…」
ズゴゴゴゴゴゴゴゴゴ
リリス「え…?本当に命で開いたんですか…?」
ズゴゴゴゴゴゴゴゴゴ
ニュクス「もちろん…ちなみに以下省略までがちゃんとした呪文よ…」
ズゴゴゴゴゴゴゴゴゴ
リリス「そんな…」
ズゴゴゴゴゴゴゴゴゴ
ニュクス「私は死ぬ…およそ80年後に、家族に看取られながらベッドの上で幸せな最期を迎える…禁忌を犯したものにはふさわしい…死に方ね…ふっ…」
ズゴゴゴゴゴゴゴゴゴ
リリス「一般論ではそれが理想的な死に方ですよ」
ズゴゴゴゴゴゴゴゴゴ
ニュクス「てか煩いわねこれ。久しぶりに使ったけどやっぱり煩い。ちゃんとディスペンサー持ってきた?」
ズゴゴゴゴゴゴゴゴゴ
リリス「もちろんです。…でもつけ直せるんですか?」
ズゴゴゴゴゴゴゴゴゴ
ニュクス「一回これで開いてしまえば着火でも開くようになるの。たるいから回路組んでくれる?」
ズゴゴゴゴゴゴゴゴゴ
リリス「ええ、よろこんで」


リリス「黒曜石持ってるなら、先にくれればよかったじゃないですか」

ニュクス「こういうのは自分の足を動かすのが大事なのよ。万が一ゲートが破壊されたらそれで直しなさい。それよりそんな装備で大丈夫?」

リリス「問題ありません」

ニュクス「問題しかないじゃない…鉄の剣ぐらい持ちなさいよ」

リリス「ちょっとネザー水晶取ってくるだけですから。いざとなればスタコラ逃げますよ」

ニュクス「防具も無しに…」

リリス「いいんです。体が重くなるだけですから」

ニュクス「…行ってらっしゃい」カチャ
ズゴゴゴゴゴゴゴゴゴ



リリス(ここがネザー…あれ…?)

リリス「力が…みなぎっていきます…す、すごい…あそこにいた時よりも…ずっと…!」

リリス(まあ好都合ですね…ネザー水晶だけなんて、大嘘だったんですから)

リリス(まずはソウルサンド…次にネザーガイコツ・スカル…そして…)

リリス(あれさえ組み込めれば…)




ニュクス「それにしても…私を騙そうだなんて、100年早いわよ?ふふっ…まあせいぜい頑張ることね」テトテト

リリス「採ってきましたよ!」

ニュクス「早っ!」

リリス「次に奴の召喚方法を…教えてください」

ニュクス「…今度こそ、死ぬかもしれないのよ?さっきのインチキ法術の比じゃない」

リリス「分かっています。奴は本物の魔王…かつて、世界をたった七日間で滅ぼしたと言われている…」

ニュクス「奴は全ての生きとし生けるものの、その「死」をもって自らの「生」とする…」



「「正に、『死』そのもの」」



リリス「構いません。召喚後、即丸石製造機にかけて圧殺しますから」

ニュクス「ちょっとは敬意とかいうものを払いなさい」

リリス「じゃあ丸石製造機を作りますから、ちょっと待っててください」



リリス「…できました。皆さんを呼んできますね。召喚をお願いします」

ニュクス「全く…ほいほいほい…と。後は呪文をかけるだけね」



リリス「さあさ、寄ってらっしゃい見てらっしゃい。面白いものが見られますよ~!」

ザワザワ
ザワザワ

ルーナ「ちょっとよく見えない…ラズワルド、おんぶ」

ラズワルド「勘弁してくれよ…君最近またおもk」

ラズワルド「ぎゃあああ!痛い!痛いから!痛いからパイルドライバーは止めて!」

ザワザワ
ザワザワ


リリス「ではニュクスさん、呪文をお願いします!」


ニュクス「…ブンブンハローユーチューブ…」


マークス「…呪文って、今のがか?」

カミラ「あら、なんかブルブル震えだしたわよ」

レオン「なんか浮いてるけど…」

エリーゼ「え…だいじょうぶなの…?」

ドガアアアアン!

リリス「」

ニュクス「さ、…逃げようかしら…」テトテト

リリス「そ、装置を吹っ飛ばされました…ニコ動では上手くいってたのに…」

マークス「前のバージョンだったのではないか?」

???「愚かな人間共めが…また我を目覚めさせたか…ならば知るが良い…本物の恐怖と絶望というものを…その身をもってだ!」


マークス「ウィザー…だな。実物は初めて見るが…」

エリーゼ「え、知ってるの?」

マークス「3年もしていれば嫌でも組み立てることになる。今は丸石製造機の歯車になってもらっている」

カミラ「…政務は?」

マークス「そんなもの二の次だ」

レオン(…いつかクーデターでも起こそうか)

ピエリ「無駄話しないの!何か飛んでくるのよ!きゃあっ!」ゴスッ

マークス「いかん、全員撤退!作戦を練るぞ!」

ウィザー「逃がさん…ぐっ…!何をする!」

リリス「邪魔はさせません…私が体勢を立て直す時間を作ります…」

ウィザー「ふん…透魔竜と星竜の半純血ごときが…何分持つかな…?」

リリス「あなたを倒し…運命を変えてみせます。ウィザー、覚悟!私の超火力を喰らいなさい!」


ドガシャアアン!


マークス「奴の攻撃は大体二つ。そのうち注意すべきなのがネザー・スカルの投擲だ。食らうと爆発ダメージと毒ダメージで体力をごっそり持って行かれる」

マークス「よって全員に牛乳を配布する。食らったら飲んで回復しながら戦うように」

マークス「そして、奴の最も苦手とするのがこれ…」カラン

エリーゼ「…ライブ?回復魔法なのに?」

マークス「そうだ。奴らは黒魔法で回復し、白魔法でダメージを負う変態だ。リブローは簡易メティオと化し、リカバーはスターライトの代わりになる。きずぐすりも有効だ。たくさん持っていって、隙を見て投げつけると良いだろう。」

マークス「槍使いは全員「聖なる槍」を持っていくように。矢と魔法は効きにくいからレオン隊は後方支援に集中しろ」

マークス「以上の理由から耐久戦は非常に不利だ。全員で同時に仕掛け、一気に叩き潰す」

マークス「屋上にウィザーなんぞ召喚したことがばれたら間違いなく全員打ち首獄門だ。王城兵を呼ぶことはせず、私たちだけで応戦する」

レオン「何でWikiも見ないでそんなにスラスラ出てくるんだい兄さん?」

ラズワルド「会議の時に机の下で暗夜竜できるかなしたり、1分の1スケール北の城塞作ったりしてるからです…」

レオン「…」ブチイッ

ゼロ「行きますよ、レオン様…」ズルズル

レオン「ダメだ!僕はあいつを殴らなきゃならないんだあああ!」ズルズル

ゼロ「全く…オーディンもいないし…そもそも後方支援ってナニすりゃいいんだか…」ズルズル

マークス「全員戦闘準備!行くぞ!」






ウィザー「どうした…あれだけ大口を叩いておきながら…もう終わりか…?うん?」

リリス「変身さえできれば…負けないのに…」

ウィザー「ひみつ道具だけで敵うと思ったか…愚か者め。死ね!」ポイッ

リリス「もう…結局私も死ぬんですか…こんなとこで…」

リリス「先立つ私を許してください…カムイ姉様…」

???「させないよ!はあっ!」キィンッ!

ラズワルド「ひゃ~、間一髪だったね。大丈夫…って君かァ…」

リリス「そんなに驚かないんですね」

ラズワルド「かわいい女の子に、悪い子はいないからね」

リリス「…あなたもバカですね」

ラズワルド「いいから下がっていて。あとは僕たちで何とかするから」

リリス「…」タタタ

マークス「計画通り部隊を3つに分け、敵が倒れるまで繰り返し波状攻撃を仕掛ける。行くぞ!マークス隊、突撃!」

ウィザー「無駄な事を…」

短編



休憩の時間

午後は鍛錬もなく、もしあればの話だが、主君の命令を聞くだけでいい。

カミラ「買い物行ってきなさい。仲良くね」

命令は大抵これである。


地下街

ルーナ「さ、買って買って買いまくるわよ~!」

「…」

ルーナ「あ、このお皿かわいい!ちょっとこっち来なさいよ!」

「…」

ルーナ「ふう、いっぱい買っちゃった…荷物もって。ほら」

「…」

ルーナ「…何よ。いつも以上に黙りこくっちゃってさ」

「…」

ルーナ「そうそう、この辺にあんたの家あるんでしょ?連れてってもらえる?」

「…すごく散らかってるけど」

ルーナ「いいの。ちょっと休みたいだけだから」


「…」コポコポ

ルーナ「いいお部屋ね。こじんまりしてて…普通に片付いてるじゃない」

「…」カチャカチャ

ルーナ「あら、これは何?」

「…危ないからやめて」

ルーナ「はーい…これは?」

「魔石…魔王が封印されてる」

ルーナ「…あんたも冗談とか言うのね」

(冗談じゃないんだけど…)

「…紅茶。できた」

ルーナ「あら、いい香りね。ミルクもらうわよ」

「…砂糖はいいの?」

ルーナ「いらない」

ルーナ「…おいしいわね。こんなの久しぶり…あんたが入れられるなんて驚きだけど」

「…結構頑張ったわ」

ルーナ「ふふっ、えらいえらーい」ヨシヨシ


『…はっ……ふうっ…よくできたじゃない…偉いわ…ご褒美をあげる…』

『ありがとうございます…ウルスラ様…ひゃうっ!…」

『ふふっ…どうかしら…?私の為に働いてくれる気に…なった?』

『それは…』



(気を抜くと思い出してしまう…)ズズッ

ルーナ「…」ボリボリ

「…そろそろ行く」

ルーナ「ちょっ、待ちなさいよ!まだ食べてるのに…」ボリボリ

「…」ポリポリ

ルーナ「おいしいでしょ?このクッキー、私のお気に入りなの。本当は独り占めするつもりだったんだけど…何であげちゃったんだろ」

「…もう行く。鍵閉めるから出て」

ルーナ「ま、いいか」

「ちょっと寄るところがあるから、先に戻っといてもらえる?」

ルーナ「あ、そ。じゃあね」

ガチャン



でも、あたしの不思議な足は王城ではなくベルカの向かった先に歩き出した。いつになく注意散漫に歩いていたから、尾行するのは簡単だったけど。

尾行…?

(何で私ったら尾行なんかしてるんだろ)

ベルカ「…」スタスタスタ

(歩くの速いわね…はぐれそう…あら?あそこにおわすはエリーゼ様)

ベルカ「…こんばんは、エリーゼ様」

エリーゼ「あ、また来てくれたんだ!ありがとう!」

ベルカ「うん…一本もらえる?」

エリーゼ「はいはい、まいどあり!これで売り切れちゃった…いっしょに帰る?」

ベルカ「…!いいの?」

エリーゼ「もっちろん!いろいろお話したいし!」

ベルカ「…ありがとう。片付け手伝うわ」

エリーゼ「お礼なんて言わなくていいのに。うふふっ」

ベルカ「…」ニコッ

(何よ…すごい嬉しそうじゃない…満面の笑みなんて浮かべちゃって…馬鹿馬鹿しい…かーえろっ…)


何よ。私といる時にはそんな顔する気配すらないのに。

帰ってから問い詰めてやんなくちゃ。

だけど…

何で歯なんか噛み締めてるんだろう。
何で手を痛いほど握りしめているんだろう。
何でこんなにも動悸が激しくなっているんだろう。
胸に渦巻くこの感情は何?
悲しみ?悲哀?怒り?それとも…


走って王城まで帰った。幸いなことにお皿はベルカの家に置いてきていた。


ベルカ「…ただいま」

「お帰んなさーい。お風呂先に入ったわよ」

ベルカ「…分かった」

「…」

ベルカ「…どうしたの。そんな顔して」

「…あんたには関係ない」

ベルカ「…お風呂入ってくる」


とにかく分からないことが多すぎる。彼女の考えていることも、エリーゼ様が考えていることも、そもそも自分が何の気持ちを抱いているのかすら分からない。
いろいろ考える必要が、ありそうだった。







本当は…考える必要なんてない。…認めたくないだけ。全部分かってる…分かってるのに…

本編


レオン「…みんな生きてる?点呼とるよ…」

レオン「マークス兄さん」

マークス「」

レオン「ピエリ」

ピエリ「」

レオン「ラズワルド」

ラズワルド「」

レオン「カミラ姉さん」

カミラ「」

レオン「ルーナ」

ルーナ「」

レオン「エリーゼ」

エリーゼ「…なに?」

レオン「ハロルド」

ハロルド「」

レオン「エルフィ」

エルフィ「」


レオン「立ってるのが…エリーゼだけ…か」

エリーゼ「…エルフィが…庇ってくれたの…」

レオン「…まだ息はあるみたいだが…」

ゼロ「…レオン様」

レオン「…まずいね。非常にまずい。サボってジャンプ買いに行ってたらこれだもん」

レオン「…ゼロ、杖使えるっけ?」

ゼロ「無理ですね。レオン様は?」

レオン「無理だよ」

ゼロ「…俺が時間を稼ぎます。レオン様とエリーゼ様は瀕死のお味方を…」

レオン「…」

レオン「いや、まだ勝ち目はある。ちょっと耳貸せ」ゴニョゴニョ

ゼロ「本気ですか…分かりました」

エリーゼ「…分かった。がんばる」

ウィザー「ふん…おや、新手か。少しは私を愉しませてくれよ?行くぞ…!」


ウィザー「ふんっ!はあっ!畜生めが、ちょこまかと動きおって…」

ゼロ「ほれ、後ろからだ」ピュッピュッ

ウィザー「はっ、矢は効かんと言ったはずだが?」

ゼロ「どうかね…もういっちょう」ピュッピュッ

ウィザー「ぐ…」プスプスッ

ゼロ「『聖なる弓』だ。少しは感じただろ?ん?」

ウィザー「ふん…蚊に刺された程度は…だな」

ゼロ「…そりゃ残念だね」

ゼロ「…でも動きが鈍ってるぜ」

ウィザー「何のこれしき…お前らがどこにいようとガイコツを当てることはできる…」


レオン「今だ!呪文は…『む、傷を負ったか』。龍脈、起動!」

プワァン! グオォン ドジャーッ! キラキラキラ…

ウィザー「これは…ぐ、ぐあああああっ!」

レオン「50パーセント回復床…お前にとっては、2ターンでHPを全て持っていくデストラップだけどね」

ウィザー「直ぐにどけば良いこと…もう怒ったぞ…貴様ら3人ぐらい簡単に…」

ゼロ「させねえよ。エリーゼ様、ちょっと失礼…よいしょ。ほら、この太くて硬くて立派なやつお願いします」

エリーゼ「…フリーズね…ううっ…いたい…フリーズ!」

ゼロ「もう休んで大丈夫ですよ…」

エリーゼ「…ありがと」ステン

ウィザー「ぐおおおおおお…私は…また負けるのか…?なぜ負けるのだ…どうして…」

レオン「…さあね。お前の慢心…じゃないのか?」ズシャ

レオン「ふう。マークス兄さんが国中の訓練場という訓練場にカムイ姉さん専用の回復床を仕掛けてくれたお陰だ…今だけは感謝しよう」

ゼロ「やっぱりバカ兄貴ですね…じゃあみんなを運びましょう…ん?」

レオン「どうした?」

ゼロ「今こいつなんか光って…」

レオン「んな訳ないだろうが。見せてみろ…あれ、光ってる…」

レオン「しまった!伏せろ!」

ドゴオオオン!


王の間

マクベス(やっと…やっと今日で35連勤から解放される…!負の連鎖準1級試験の実技対策で合宿してたメイド達が帰ってくる…やっと殺人当直から解放されるんだ…!万歳!メイド万歳!)フラフラ

マクベス「メイドばんざああああい!」

ガロン「どうしたお前…過労で狂ったか?さっさと帰って寝ろ」

マクベス「はっ、喜んで!」

ドゴオオ

マクベス「うっ…なんか屋上から変な音がしましたねぇ…幻聴だといいんですけど…行ってみましょうか…」

カンカンカンカンカン

ガチャ

気のせいではなかった。

その時、はっきりとマクベスにはかちゃりという音が聞こえた。

追加でビフレスト20連勤が課せられた音が、した。


医務室

リリス「…」

マークス「…」

ピエリ「…」

ラズワルド「…」

カミラ「…」

ルーナ「…」

レオン「…」

ゼロ「…」

エリーゼ「…」

エルフィ「…」

ハロルド「…」



マクベス「全員…蘇生完了しました…」バタッ

先生「…そうですか。あなたも入院しますか?」

マクベス「ぜひ…」

ピエリ「…あのー」

先生「何ですか」

ピエリ「ピエリお料理番だから、台所に行かなきゃならないの…連れてってなの…」

先生「…一応絶対安静ですが…まあいっか。じゃあ車椅子に乗せますね」

ピエリ「ありがとなの…」

マークス「…なんで退院して3日で再入院せねばならんのだ…」

リリス「沸き潰ししながらこぼす事じゃないでしょうに」

ラズワルド「全くもう…」

ルーナ「あ、あんたこの前の…何でラズワルドは普通に話してんのよ!」

ラズワルド「ああ、敵意はないそうだよ」

ルーナ「…じゃあいいか」

レオン「よく知らないけどその対応は間違っていると思います」


エリーゼ「エルフィ…大丈夫?私をガイコツからかばったりして…」

エルフィ「全然大丈夫ですよ。これぐらいへいちゃらです。それよりハロルド…あなたの方が心配なんだけど」

ハロルド「私には何の問題もないぞ?うん」

エルフィ「…あなた、走ってったらいきなり派手にずっこけて壁に頭をぶつけてたじゃない」

エリーゼ「その時たまたまポッケに入ってた骨粉が城壁のツタにかかって、爆発的に成長したそれが、レオン兄ちゃんたちの来る時までウィザーの動きを止めてくれたんだけど…覚えてない?」

ハロルド「ハッハッハッ、そんな事があったとは知りもしませんでしたよ。なんせ気絶していましたからね」

その頃白夜のカムイの部屋


カムイ「…zzz」

サクラ「…」ソワソワソワソワソワソワソワソワソワソワソワ

ヒノカ「…どうした?」

サクラ「別に?何でもないです…」ソワソワ

ヒノカ「…いやソワソワし過ぎ」

サクラ「そうですかね?」ソワソワソワ

ヒノカ「そうだ。どうしたんだ?」

サクラ「何でもないです…」ソワソワソワソワ

ヒノカ「言え」

サクラ「…ポータルが盗られまして」ソワ

ヒノカ「…」

サクラ「でも今は姉様から離れる訳には…」ソワソワ

ヒノカ「…行って来い。見ているぐらい一人でも十分だ」

サクラ「…!ありがとうございます、姉様!じゃあ行ってきます!」

サクラ「ほら!行きますよカザハナさん!」グイッ

カザハナ「何で私までええぇぇぇ!」

ドドドドドドドドドドドドドド

カムイ「…zzz」

ヒノカ「ふふふふ…邪魔者はいなくなったぞ…今こs」

ベルカ「…」ハガイジメ

ヒノカ「何をする!折角いいとこだったというのに…」

ベルカ「…カムイ様(とその貞操)の護衛が私の役目だから」

ヒノカ「くっ…牢屋からどうやって出てきた!」

ベルカ「それは企業秘密だから言えないけど…あなた…いい体してるわね…」

ヒノカ「…」ゾワッ

ベルカ「…可愛がってあげ」

ヒノカ「い、いかん、ノスフェラトウ討伐の仕事があったんだった…」ダダダダダッ

ベルカ「逃げられた…魅力的だったけど…」

カムイ「…zzz」


泉のほとり

サクラ「はあ…はあ…ここですね…」

カザハナ「そうね」

ツクヨミ「なぜ私まで…」

サクラ「人数だけ有利になりますからね。いや~、このポータルは作戦場非常に重要な拠点でございまして…」

カザハナ「…この黒い枠が?」

サクラ「そうです。誰がなんの為に建てたのかは分かりませんけど」

オロチ「おや、サクラ様ではございませぬか」

ツクヨミ「む、オロチ。どうしたのだ?」

オロチ「この辺では貴重な調合材料が取れるのでな…」カチャ

ウオンウオンウオンウオンウオンウオン

カザハナ「うわっ、枠にモヤがかかって…って何よこれ?」

ツクヨミ「ほう…異世界に通じる扉か。噂には聞いていたが…」

オロチ「もっと接続を安定させたら上に伝えるつもりだったんじゃが…見られてしまったものは仕方がないのう」

サクラ「ポータルになってる時点でお察しですよ」

オロチ「ということで…手伝ってくれんか?わらわだけでは採取が難しい材料があっての」

サクラ「…忙しいので後にしてもらえますか?」

オロチ「…最近モンストに飽きてしもうてのう…そろそろ引退するからサブ垢にしtサクラ「今すぐやりましょう」


ネザー

ツクヨミ「あ、暑い…体が溶けそうだ…」

カザハナ「どうなってるのよここ…あちこちからマグマなんか噴き出してるし…」

ガスト「」ギャースギャース

サクラ「剣で火球を跳ね返すんだそうです!頑張って!」

ガスト「」ポイッ

カザハナ「あちちち!そんなの上手くいくわけないじゃない!」

サクラ「あちゃー…春祭!」ホワワン

ツクヨミ「ここは私が…せいやっ!」クルクルクル

ガスト「」ギャアアアス

サクラ「ふう、殺りましたね…ガストの涙…あと10個手に入れたら帰っていいそうです」

オロチ「ファイトじゃぞ~!」

カザハナ「え~…もう帰りたい…」

サクラ「経験値オーブあげますから、ちょっと我慢して下さい」

テーテテレテテー!

カザハナ は レベルが 上がった!

ピンピンピンピンピンピンピンピンピン!

カザハナ「うわっ、なんか移動力まで上がった気がするけど?」

サクラ「また来ましたよ!お願いします!」

カザハナ「ばっちこーい!」


カザンギハナ「相当集まったわね…」ムキムキ

ツクヨミ「名前変わってるぞ。2文字余計なのが入ってるぞ」

サクラオウ「たぶん気のせいですよ」ムキムキ

オロチ「なぜ戦っていないサクラ様までムキムキになっとるのじゃ?」

サクラ「杖経験値はレベル差で増減しますからね」

オロチ「…まあいいわい。お陰で採取も捗ったしの。ほれ、約束のGoogleアカウント」

サクラ「やった…!これでもう野良マルチに行かなくて済みます!」

カザハナ「凄い力…今すぐ誰かに試したい!…そうだ、そこの豚さん!私と勝負なさい!」

ゾンビピッグマンA「ブ、ブヒィ…」

カザハナ「問答無用!ええええい!」ズバッ

マンA「ブヒィィィ…」ガクッ

マンB「ブヒィ!ブヒブヒ!(許さない…仲間を傷つけた…あんたたちは…)

マンC「ブヒブヒ!ブヒ!(俺たちが…絶対に…)

マンD~Z「「「「ブヒ!(討つ!」」」」

サクラ「あれ…まずくないですか、この雰囲気」

ツクヨミ「いかん、囲まれるぞ!逃げろ!」


サクラ「いや~、一時はどうなるかと思いましたが、何とか逃げ切れましたね」

カザハナ「はぐれちゃったけどね…どうしようか…あ、ゲートだ」

サクラ「二人とも先に帰ってるかもしれません…ちょっと確認します」



???

カザハナ「なんか暗いねここ…違うところ来ちゃったんじゃない?戻ろうよ」

サクラ「そうですね…あ、カイリュー!ちょっと待っててください!…」ダッ

カザハナ「あちゃー、待ってよサクラー!ていうかどこかなここ…」カチャ


見間違いかGoogle先生の冗談でなければ、そこは間違いなく暗夜の王都であった。そして残念なことにカザハナは眼病を患っておらず、Google先生は滅多に冗談を言わないのだ。


カザハナ「」

カザハナ「…違うゲートに入っちゃったみたいね」


カムイ「…zzz」

ベルカ「…何かしら、この冊子」

ペラッ ペララッ


・白夜王国第2王女の家臣 カザハナ

何の因果かレオンと縁があるようだ。混ぜるな危険。もう一度書く。混ぜるな危険。大体サクラのせい。フォレオに清流だの流星だのが付くが、肝心の魔力はお察しとなる。


・白夜王国第2王女の家臣 ツクヨミ

前王スメラギと一緒にサクラがが風の谷に視察に行った際、一緒にマリオカートをしたのをきっかけにで家臣にされた。サクラのゲーム廃人ぶりに心を痛めている。


・白夜王国第2王女 サクラ

カムイを失った悲しみを全てゲームキューブにぶつけ、今に至る。ゲー廃人に片足突っ込んでいる。あっちの呪いは全てヒノカが食らってくれたので、そっちの方はいたって健全。


ベルカ「…」

ペララッ

・暗夜王国第1王女の家臣 ベルカ

特に

ベルカ「…下らない」ポイッ

短編の方


談話室

「はあ…」

何だかイライラする。自分が自分じゃないみたいな…

違う。「自分が自分のものじゃないみたい」だ。

オーディン「ん、どうしたセr…じゃないルーナ。珍しくしょんぼりしちまって」

「うっさいわねえ…私にだってそんな時ぐらいあるわよ。そう言うあんただって、何か最近元気ないじゃない」

オーディン「それなんだがな…口調がそれっぽくならないんだ…」

「それっぽく、って『俺は漆黒(笑)のオーディン…』とかのこと?」

オーディン「(笑)は余計だ…そうだ、そうなんだよ。どうやらこっちとあっちでは言葉が違うみたいでね…」

「普通に会話できてるじゃない」

オーディン「ハイドラさんがその辺は都合よく変えてくれたらしいんだけど、どうも微妙な言い回しまではうまく行かなかったらしいんだわ」

オーディン「向こうにあってこっちに無い表現とかがそれでね。それが無いとこう…上手い言い回しにならない。今はこっちの言葉を必死で学んでるとこなんだよ…はあ…」

「へえ、お疲れ様。あんたにも悩みなんてあるのね~、下らないけど」

オーディン「んなことはどうでもいい。で、お前はどうなんだ?ばかに元気がないじゃないか?最近おかしいぞ」


「え…どういうこと?」

オーディン「昔はすぐに突っかかってきたようなことも簡単に流しちまうし、何か目つきがデレデレしてるし、挙句に言動もおかしい」

「…えー…本当に…?」

オーディン「ほら、そういうとこだ。こっちに来る前のお前なら『何よそれ!私がデレデレした目つきなんてするわけないじゃない!バッカじゃないの!?』とか何とか言っただろうよ」

「嘘…」

オーディン「はあ…まあ慣れない生活だし、過渡期の混乱とかならいいんだが…大丈夫か?いや本当に」

「うるさいわね…」

オーディン「そうそう、そんな感じだ」

「…」

オーディン「だが…何かおかしいんだよな…決定的に…オーラとかかな?精神性のものか…ちょっと調べてみるか?」

「…じゃあお願いしていい?」

オーディン「うむ。儀式に準備が必要だから、3日後ぐらいにまた連絡する」


オーディン(絶対おかしいよな…何が『じゃあお願いしていい?』だよ。そんな素直なやつじゃ無かったよな…絶対…)


「はあ…」

いつからだろう。こんな、ため息ばかりつくようになったのは…どんどん自分がヘンになっていく気がする。

ゴソ

何かが尻に当たる。

『恋愛必勝法』

(何でこんなの持ち歩いてんだろ…ああ、母さんの形見だったっけ)

とんでもない形見もあったものだ。暇つぶしにペラペラとめくってみる。

とにかくものすごい量のしおりや付箋が挟まっており、かなり使い込まれていたことが分かる本だ。

まあ役に立ったことはただの一度も無かったらしいけど。

ペラ

(ふうん…年下…年上…身分の差…年収の差…遠距離…)

(母さんもバカね…こんな本が夢を叶えてくれるわけないって、分かっていたはずなのに…)

ふと、ある章が目に止まる。そこだけ一本の付箋はおろか折り目も付いておらず、新品同様だ。

『同性愛』

(何目に止まってんのよ私。バカじゃないの?)

ペララッ ペラ ペラ

だが徐々にページを繰る早さが遅くなる。

ペラ ペラ

ペラ

(付箋が必要ね…部屋に取りに行かなきゃ…って何を読みふけってるのよ私は!)

そう思いつつも『王族と既成事実を作ろう』に挟まっていたしおりを抜き、『友情が愛情に変わったとき』のページに挟んでしまうのであった。


数日後の朝

「…」

ルーナ「…どうしたの」

「…起き上がれない」

ルーナ「どーれ…」コツン

ルーナ「うわっ、すごい熱出てるじゃない!今日は休みね…ゆっくりしなさい」

「…分かった」

ルーナ「ポカリ持ってきたげる」

「…ありがと」


先生「…あー…インフルだねこりゃ。…ゴホッゴホッ」

カミラ「先生もかかってるんじゃないですか?」

先生「私が休んだら誰が侍医をやるんだね…ゴホッゴホッ」

カミラ「今や城の人間の半分がダウンしてる状態だものね。いいから寝てなさい。どうせこれじゃ仕事もないんだから、元気な人が看病するわよ」

先生「じゃあお言葉に甘えて…ゴホッゴホッ残りは頼みましたよ…」


昔から風邪ひとつ引かなかったのは自慢だったのだが…昨日遅くまで起きていたのが悪かったかのもしれない。


カミラ「はあ…マークス隊は全滅、レオン隊は立ってるのがゼロだけ、エリーゼ隊もエルフィが寝込んでる、か」

ルーナ「おまけにメイド達も半分以上立ち上がれないと来たわね…こりゃ酷いわ」

カミラ「私達も危ないわね。ルーナもマスクしときなさい」

ルーナ「予防にマスクって効果ないらしいですよ。とっくに感染はしてるでしょうから」

カミラ「いいのよ。保湿の役割もあるんだから。はいこれ」

ルーナ「分かりましたぁ…どうベルカ?欲しいものとかある?」

「…今のところはない」

ルーナ「あそ」

こんなに苦しいものだとは思わなかった。手足が自由に動かないし、頭も激しく痛む。もし敵が来た時にこの状態だと、非常にまずいだろうということは分かる。

ルーナ「…」ペララッ

「…何、その本」

ルーナ「…べつに」ペララッ

本編


階段

よく考えたら脱水症状で死にそうなんだった。まずは水を飲まねば。

テクテク

カザハナ(だ、誰か来る…)

リリス「…」ツカツカ

カザハナ(ここは素知らぬ顔をして…)

リリス「…」ツカツカ

カザハナ「…」テクテク

カザハナ(ふう…やり過ごせた…かな?)

リリス「…あのー」

カザハナ「!」

リリス「…この辺に何か落ちてませんでしたか?キラキラ光る星みたいなのが」

カザハナ「い、いえ、何も見てないわよ~」

リリス「…そうですか」

カザハナ「…ちょっと急いでるから」

リリス「…?その服…もしかしてあなた」

カザハナ「ちょっと眠ってなさい!」ゴン

リリス「」

カザハナ「ふう…ごめんね…確かにこの服は目立つわね。早く代わりを探さないと」

コテつけ忘れてた



台所


ゴキュゴキュゴキュッ

カザハナ「ぶはあっ、何とか生きてる…」

カザハナ(運良く誰とも会わずに来れた…何か着れるものは…)

カザハナ(椅子にかかってたメイド服…4の5のいってはいらんないわね…仕方ない)

リョウリナンテムリジャナイデスカ
ヤッテミナクチャワカンナイノ!

カザハナ(誰か来る…!刀だけでも何とか隠さないと…)

ガチャ

ピエリ「あら、誰かいるの。メイドさんなの?」

先生「…?メイドは全員研修でいないはずだが…?」

カザハナ「え、えっと…」

カザハナ(ま、まずい…何て言おうか…)

ピエリ「ああ、確か昨日新人さんが来てたの!あなただったのね?」

カザハナ「は、はい。そんな感じです」

ピエリ「えへへ、よろしくなの!」

カザハナ「よろしくお願いします!」

先生「ピエリ君、やっぱり君…一人で料理は無理じゃないか?両足の腱が切れてるし利き手は折れてるし腹に穴空いてたし…常人なら痛みで起き上がれん怪我のはずだが」

ピエリ「え?全然痛くないの。それにお料理ぐらい左手でもできるのよ?」

先生「…分かった。じゃあ君、手伝ってやりたまえ。生憎私は料理がからっきしだからね」

カザハナ「分かりました」

カザハナ(面倒な事になったわね…刀は隠しちゃったから峰打ちも出来ないし…)

カザハナ(さっさとサクラ探さなきゃいけないのに~!どこ行っちゃったのよ!サクラ!)


ピエリ「今日はカレーなの。ピエリスペシャルよ?」

カザハナ「材料は…鶏肉とヨーグルト、トマトにニンニクにショウガ、玉ねぎとあとは適当に」

ピエリ「まず鶏肉をヨーグルトに漬け込むの。5時間ぐらいだけど、今回は事前に漬けといたのを使うの。ちょっと冷蔵庫から出してなの」

カザハナ「はいはい。次は?」

ピエリ「次に唐辛子を23本炒めるの。そこにニンニクと生姜と刻んだ玉ねぎを入れるの。刻むのはあなたがやるのよ?」

カザハナ「はいはーい」トトトトントントン

ジャーッ

ピエリ「香りが立ってきたらカレー粉とトマトを入れて少し煮るの。次に鶏肉をヨーグルトごと入れるの」

カザハナ「えっ、そうなの?」

ピエリ「いつもこうしてるから問題ないの!もう怒ったの!えいっするわよ!えいっ!」

カザハナ「きゃあっ!危ないじゃない!」

ピエリ「えいなのえいなのえいなのおっ!」

ピエリ「うっ…痛いの…」

先生「あちゃー…今ので傷が開いたみたいだね…悪いけど残りよろしく」

カザハナ「え、ええええっ!?嘘でしょ!?」

カラカラカラ バタン


カザハナ「何だったのよさっきの…まあいいや、今の内に逃げましょ。刀刀~っと。さっさとサクラ探さなくちゃ~」

ガチャ
リリス「うう、頭痛いです…氷のう下さい…」

カザハナ(げええええっ!)

リリス「あら、どうかしましt」ゴン

カザハナ「もう縛っておこう…」


カザハナ「ふう…縛って隠したし、あとは逃げるだけ…」

ピエリ「ただいまなの…」

カザハナ(何でこんな早く帰ってくるのよ~!)

ピエリ「やっぱり心配だったから無理を押して戻ってきたの…すっごくお腹が痛いの…」

カザハナ「あわわ…大丈夫ですか?」

ピエリ「いいからカレーなの…ああ、良く煮えてるの…」

カザハナ(さすがにこの人殴ったら死んじゃうわよね…できないわ…)

ピエリ「最後に隠し味のソース入れて、完成なの…きっとあなたも気にいるの…あと唐辛子を取り出すの…」

カザハナ「唐辛子…これね。やった!これで完成ですね!」

ピエリ「じゃあ持ってくから、一杯注いでなの…」

カザハナ「はいはーい」

カザハナ(やった!これでやっと探しに行ける!誰だか知らないけど、このカレーさえ持っていけば…!)



ガロン「遅かったな。だが何故包帯まみれなんだ?」

カザハナ(ってガロン王かよぉぉぉ!)

ピエリ「ごめんなさいなの…」

ガロン「何、数分ぐらい構わんわい。それよりお前の料理は美味いとマークスから常々聞いておる。さっさと寄越すんだ」

カザハナ「こ、こちらでございます…」プルプル

ガロン「…ふん、これが…二人とも下がって良いぞ」

ガロン「…そこのメイド」

カザハナ「…!な、何ですか…?」

ガロン「ギュンターから電話で話は聞いとる。明日から工兵として精進するがいい」

カザハナ「はっ…失礼します」

ガロン「…その白夜風の敬礼、流行っておるのか?」

カザハナ(しまったああああっ!)

カザハナ「え、えっと…個人的なブームなんです…ハイ」

ガロン「そうか。下がれ」

カザハナ(危ない危ない…)



ピエリ「いやー、喜んでるみたいで何よりなの!あれ?あのメイドさんどこ行っちゃったの…?」


医務室前

カザハナ「すっかり遅くなっちゃった…さっさと連れ戻さないと大変な事に~!」

ワイワイ ガヤガヤ

カザハナ(サクラの声…ここかしら)

ガチャ

マークス「くそっ、やりおったな!食らえ!ふん!」エアー! エアー!

カミラ「甘いわね…そいやっ!」ヌウンッ!

ハロルド「そこだ!そうれっ!」ファフコンキッ

マクベス「はあっ…負けてしまいました…」ヤラレチャッタ

エリーゼ「はいマクベスこうたーい」

マクベス「はいどうぞ」

エルフィ「…」ウオオッ

ルーナ「は、ハンマーなんて危ないじゃないのよ!びっくりした~」ウンメイヲカエマス!

ゼロ「ふっ…」ヤヒー! ヤッヒー!

サクラ「そんな大技ばかり…当たりませんよ!それ!」ピピッ ガガッ ピッピッ

カザハナ「…」ブチィ

サクラ「あ、カザハナさん。スマブラやりませんか?たのしいですよ?」

カザハナ「…帰るわよ」

サクラ「そんなに怖い顔しなくても…」

カザハナ「い い か ら!」


カザハナ(見なさいよ!第二王子凄い顔でこっち睨んでるじゃない!向こうも顔知らない訳ないんだからばれて捕まるのも時間の問題でしょうが!)ヒソヒソ

サクラ(またまた~、ゲーム好きな人に悪い人はいませんって~)ヒソヒソ

カザハナ(いいから逃げる!手え握るよ!)ヒソヒソ

バビューン!

マークス「おや、行ってしまった…勝ち逃げとはマナーがなっとらんな」

レオン「兄さん、さっきの人多分…」

マークス「ははっ、こんなところに敵国の王女なんぞいる訳がないだろう。頭にトマトでも自生してるんじゃないか?ん?」

レオン「だけど…!」

マークス「やかましい!ゲーム好きな人間に悪人はおらんのだ!趣味に敵も味方もない!文句があるなら言ってみろ!」

レオン「…」

マークス「…弟よ、世界にはまだまだお前の知らないことがたくさんあるんだ…これもその中の一つ」

レオン「……いつか必ず僕がこの国を取ってみせる。あんたにやる訳にはいかない」

マークス「好きにしろ。俺の夢は有野課長に取って代わることだ…」

エリーゼ「レオンにいちゃんもやる?」

レオン「…じゃあちょっとだけ」

レオン(こんなんで兄さんの国民支持率結構いいんだもんな…何でだよ…くそっ…)



ツクヨミ「大丈夫か…あの二人…」

オロチ「大丈夫じゃろ。あの世紀末覇王二人が豚どもに遅れをとるとは思えん」

ツクヨミ「とは言ってもな…」

カザハナ「ただいまー!」

サクラ「ただいま帰りました!」

ツクヨミ「…」

カザハナ「へっへ~、心配した?」

ツクヨミ「いや…全く」

オロチ「ふっふっふ、泣いて寂しがっておったくせにのう…」

ツクヨミ「な、何をいうかー!」

サクラ「そうだったんですか?」

ツクヨミ「違う!こら!逃げるなオロチ!」

ハッハッマダアオイノウ

マテコノヤロ-!

カザハナ「よかったよかった。じゃあ帰ろう、サクラ!…?どうしたの、考え込んじゃって」

サクラ「私は…」

カザハナ「?」

サクラ「いえ、何でもありません。帰りましょう」

カザハナ「ふふっ、変なの!」

サクラ(国境がゲーマーの間を隔てない世界…そんな世界が来ると…いいですね。マークスさん…)

ガロン「ふん…今日はカレーか…こういうのでいいんだよ、こういうので」

ハイドラ『うまいな。ヨーグルトが鶏肉によく浸みておる…柔らかいからお前のような老いぼれでも楽に食べられるという思いやり…流石だ』

ガロン「わしの歯はそこまで弱っとらんわい…だが美味いな…ご馳走様」

ハイドラ『じゃあ探しに行くぞ』




ガロン「マークス!これは一体どういうことだ!」

エリーゼ「あ、お父様!一緒にやる?」

ガロン「ほう…私をスマブラに誘うか…我が娘よ…後悔するがいい!」ガノンドロッフ!


エリーゼ「あれ…シークで負けちゃった…」

ガロン「ふん。思い知ったか」

カミラ「次は私よ…かかってきなさい!」
リウー!

ガロン「馬鹿め…返り討ちにしてくれるわ!」

ハイドラ『おい!問い詰めるんじゃ無かったのか!?』

ガロン「…」ア゛ッ!ア゛ッ!

ハイドラ『親馬鹿が…いや、この前の爆発で呆けたか…?役に立たん…』

台所のロッカーの中

リリス(出られません…)

リリス(結局この中で一夜を明かしてしまいました。さっさと出てネザースターを回収しないと…)

リリス(ご丁寧に猿ぐつわまでかまされてるから大声も出せないし…)

リリス(あの侍さん…今度会ったらビンタしてあげましょうか)

リリス(いや、デコピンの方がいいかな…)

ガチャ

フェリシア「あれ、どうしたんですか?こんなところで縛られちゃって」

リリス(助けてくださーい!)

フェリシア「大変大変、今解きますね~」

フェリシア「何で縛られてたんですか?」

リリス「ちょっといろいろありまして…フェリシアさんこそ何でこっちにいるんですか?北の城塞勤めじゃ無かったんですか?」

フェリシア「それがまた盛大にドジっちゃいまして…ギュンターさんからこっちに行けって言われたんです。メイド辞めて工作兵やれって」

リリス「そうですか…今度は何やらかしたんですか?」

フェリシア「お料理してたらお台所が爆発しちゃったんです…そうそう、リリスさんの部屋にあった機材ですけど、下の馬車に全部積んであります。もらっといてください」

リリス「え…ということは…」

フェリシア「ええ、新しく獣舎係の人が来たんですよ」

リリス「あちゃあ…まあいいや…まだ使えるのがあればいいんですけど…」

フェリシア「何のことですか?そうだ、下で珍しい石を拾ったんです。物知りなリリスさんなら何か分かるかもしれないって思ったんですけど…どうですか?」つネザースター

リリス「どれどれ…って…これネザースターじゃないですか!爆発で下に落ちちゃったんですね~貰っていいですか?」

フェリシア「構いませんよ。じゃあちょっと皆さんに挨拶してきますね~」

バタン

リリス「さあ、さっさと作業に戻らないと…」

何だかフェリシアとキャラ被ってる気がするリリスであった。




カムイ達がおでん屋で談笑している頃


フェリシア「ええ~!私がお料理番ですかぁ!?」

リリス「作れそうな人があなたしかいないんです。皆さん昨日のスマブラ大会の後のリアル大乱闘で怪我が悪化しまして…」

リリス「おまけに研修が長引いて、使用人も帰ってこない有様…」

フェリシア「で、でも私が作ったら…」

リリス「『殺人』じゃないのが出るまで頑張ればいいんですよ!私も手伝いますから、一緒に頑張りましょう!」

フェリシア「そんなにおっしゃるなら…わかりました…頑張ります…」


フェリシア「出来ました!どうでしょうか!?」

リリス「…殺人ドリアですか…」


フェリシア「今度こそどうでしょう!?」

リリス「…最低のクリームシチュー…」


フェリシア「今度のは自信作ですよ!」

リリス「炭化した寿司…」


フェリシア「…どうでしょう?」

リリス「お、おええええ!」

フェリシア「だ、大丈夫ですか!?リリスさん!リリスさーん!」


フェリシア「うわー…もう食材がほとんど残ってません…」

リリス「Fuck You...ぶち殺すぞゴミめが…」

フェリシア「そんなに怒らなくても…」

リリス「誰が試食したと思ってるんですか…たまには自分で食ってください…」

フェリシア「十分おいしいじゃないですか。ほら」パク

リリス「…味覚までポンコツだったとは…もういいです…私がします…」

フェリシア「ま、待ってください!今度は一種類で作りますから!今度こそ失敗しようがありませんから!」

リリス「本当でしょうね…」


フェリシア「出来ました!」

リリス「刺身ですか…手、大丈夫ですか?」

フェリシア「5回ぐらい切っちゃいましたけど大丈夫です!」

リリス「イカが赤くなってるじゃないですか…これ白身魚ですよ…」パク

リリス「うっ…生臭っ…」

フェリシア「…ダメですか…?」

リリス「こんなもの持って行ったら村ごと焼かれますよ…」

フェリシア「…」ショボーン



フェリシア「…」コト

リリス「おにぎりですか…形は結構いいですね…具は何ですか?」

フェリシア「ロシアンルーレット…」

リリス「え?」

フェリシア「おかかと梅です…」

リリス「…」パク

リリス「…うん、これなら大丈夫ですね。持ってっといてください」

フェリシア「…」ブツブツ

リリス「なんか言いました?」

フェリシア「…何でもないです…」ガチャ バタン



リリス「…フェリシアさん、さっき別世界のオボロさんみたいな顔と声になってましたけど…どうしたんでしょうか…」

リリス「ま、いいか…でもなんか忘れてるような気がするんですよね~」


ターメリックが充満したカムイの部屋



ヒノカ「む?何だこれは…」ペララ


・氷の部族長の娘 フェリシア

氷の部族と言ってもあの銀の斧持って氷竜と一緒に特攻してくる奴らとは無関係である。今回はオボロがオボロオボロしてないのでオボロのオボロ分がこっちに回ってきている。つまり怒らせると静かにぶち切れるので注意。


ヒノカ「何のことだ…?」

ヒノカ「まあいいや、おやすみカムイ」パタン

アクア「…」

ヒノカ「?どうしたアクア、そんな顔して。おやすみ」



アクア「チッ…しくじった…もう時間が無いのに…仕方ないか…」

アクア「かくなる上は私が…本当はこんな事、したく無いけど…」

ガシッ

アクア「!」

アクア「あら、もう催眠がとけたのね。予想より6時間も早かったわ」

タクミ「…何を…やってる…くっ…」

アクア「立っているので精一杯じゃない…無理しないで…眠りなさい、もう一度」ガッ

タクミ「…」

アクア「記憶を消し直さないと。…今日はもう無理ね…時間がないってのに…」

諸事情で更新が遅れる、かも

めんぼくない




カムイ「ふぁあ~、よくねむr」ズキ

カムイ「いたたたた」ズキズキ

カムイ(昨日飲みすぎましたね…)


洗面所


カムイ「おはようございまーす」

カムイ(皆さん早起きですね~朝からすごく混み合ってます)

アクア「おはようカムイ…よく眠れた?」

カムイ「ええ。まだ頭ガンガンしますけど…あれ、今日は寝癖付いてないんですね?」

アクア「えっと…そうね、部屋で直してきたから」

アクア(まあ歌っていたら枕に頭をつける前に夜が明けたからなんだけど)

カムイ「…今日はあの日です。勿論覚えていらっしゃいますよね?」

アクア「当たり前よ。きょうだい全員でミコトと城下の視察に行く日…つまり…」

カムイ「…今日食い止めることができなければ、私がここに来た意味がありません。今度こそ絶対に失敗はできません」

アクア「…でも、もうガングレリはないんでしょう?」

カムイ「奴らはきっと別の手を使ってきます。用心に越したことはありませんよ」

アクア「そう…私も協力する」

カムイ「ところで…私とスズカゼさんとリンカさんでノスフェラトウの一団と戦う場面ってありましたよね?あれはどうなったんでしょうか」

アクア「とっくにヒノカが一人で制圧したわ」

カムイ「…そうですか。よかったです」


第4章 白夜の同胞(とベルカ) おわり




カムイ「おはようございます、母様。お加減はどうですか?」

ミコト「ええ、悪くありませんよ。どうですか、カムイ?こっちの生活には慣れましたか?」

カムイ「ええ、とても」

ミコト「ふふ、そうですか。どうやら聞くだけ野暮だったようですね。まるで…昔からここで生活していたみたい…」

カムイ「…」

ミコト「いけない、変なことを言ってしまいましたね…」

カムイ「い、いえ…昔から馴れなれしいってよく言われます。多分そのせいですよ、多分」

ミコト「優しいですね、カムイは…ありがとう。今日は民の皆に、あなたが帰ってきたことを報告する日です。私とリョウマは後で行きますから、先にヒノカたちとその辺で遊んできなさい」

カムイ「分かりました!行きましょう、皆さん!あれ、タクミさんは?」

アクア「まだ部屋で寝てるわ」

カムイ「そうですか…」

カムイ(昨日おでん屋からアクアさんに連れ出されてそれっきり…疲れてるんでしょうかね)

カムイ「ヒノカさんは?」

アクア「…早朝のマラソンに行ったわ。日課なんですって」

カムイ「そうですか、残念です。あれ、という事は…」

サクラ「…」ニコッ

カムイ「…スマホは置いていきましょうね」

サクラ「はい…」ショボーン


リョウマ「しかし妙だ…あのタクミが朝礼に遅刻とは…」

ミコト「たまにはそんなこともありますって♪それより何着て行きましょうか♪」ウキウキ

リョウマ「母上、浮き足立ち過ぎです…いったい今年で何歳になったと思ってるんですか?少しは自かkごふっ」

ミコト「…透魔王の名の下に…滅びよ…」

リョウマ「」

ギャアアアアアアッ!


サクラ「仕方ない…ポケストのかわりにお菓子屋さんでも周りましょう、お姉さま」

カムイ「そうですね。楽しみです」

カムイ(元よりそのつもりでしたけどね)

サクラ「ほら、見えてきましたよ!」


カザハナ「二人とも仲良しそうね。よかった」

ツクヨミ「カザハナよ…」

カザハナ「何よ」

ツクヨミ「えっと…昨日の夜、何しておったのだ?」

カザハナ「別に。あんたには関係ないでしょ」

ツクヨミ「そうか…?」

カザハナ「当たり前じゃない。私とサクラ様の問題だもん」

ツクヨミ「問題って…何のだ?」

カザハナ「…べつに」

ツクヨミ「…夜は早く寝ろよ」

カザハナ「そういう意味よ」

ツクヨミ「そのままの意味だ」

カザハナ「ふーん。見てたの?」

ツクヨミ「…いや。声だけ聞こえた」

カザハナ「あそ」

ツクヨミ「やっぱりな…ああいうところでああいう事はするべきじゃないと思うぞ、うん」

カザハナ「私だって分かってるけど…昔からしてる事だし…」

ツクヨミ「昔からとは…具体的に」

カザハナ「あんまり普通じゃないとは思うけど…3年ぐらい前からずっとかな」

ツクヨミ「さ、三年前からだと!?」

カザハナ「なによ。そんなに珍しい?」

ツクヨミ「……世間では幼馴染同士でそんな事をするのか?私は世事に疎くてな…」

カザハナ「うーん、してる人もいるんじゃないかなー。今度聞いてみれば?」

ツクヨミ「聞けるわけないだろうが…そんな事…というか世間ではこれが普通なのか?」

カザハナ「たまに友達ともやるときはあるよ。この前はオボロとしたな~、あの人すんごく上手くて」

ツクヨミ「えええええっ?!」

カザハナ「何よ…そんなに驚いちゃって。あんたもする?」

ツクヨミ「え、遠慮しとこう…」

ツクヨミ(まさかそんなただれたネットワークができていたとはな…世間は広いぞ、フウガ殿…)

カザハナ(…もう最近ぱずどらも飽きてきたんだよね…やめたらサクラ怒るかな…)


アクア「そろそろ時間だけど、広場に行かなくていいの?」

カザハナ「ああ、それは問題ないです。このまま一通り遊んでから帰ってこいって、カムイ様が」

アクア「…カムイが…まあいいか…今のカムイなら小太刀スメラギぐらい瞬殺できるだろうし…」ブツブツ

サクラ「何をブツブツ言ってるんですか?お姉さま」

アクア「別に…」

アクア(多分カムイの暴走も無いし…それより運命の分岐点までもう時間がない…急いで片付けないと…)



広場

ザワザワ
ザワザワ

カムイ(敵は…今のところ見当たりませんが…油断はできませんね。一応帯刀は禁じられてますし)

カムイ(…まあいざとなれば竜石を使いましょう。アクアさんにもう一芝居打ってもらって…ん?)

ペカーッ


カムイ(おや、群衆の中に一際目立つ光が…いやいやスメラギさんは禿げて無かったし…まさか…)

ミコト「何だか騒がしいですね。どうしたんでしょうか?」

カムイ「…!危ない、伏せてください!!」

ミコト「えっ?」

ガンズ「ふはははははははっ、氏ね氏ね氏ねえ!」バシュバシュバシュッ!

カムイ(何てことでしょう、まさかガンズさんがかわりに来るなんて…!しかもガングレリのスペアまで持ってきてるじゃないですか!)

ガンズ「おっと、カムイ様。久しぶりですねぇ。調子はどうですかい!?それっ!」バシュッ!

カムイ「お母様、危ない!」バッ

ゴロゴロゴロッ!

ミコト「うっ…何とか避けましたね」

ガンズ「次はねえぜ…?親子共々…死んじまいなあ!!…ありゃっ」ガチャッ

カムイ「弾切れですか?」

ガンズ「ふん…こんなもん、すぐ込められる。さ、どっちが先がいい。希望を聞いてやろうじゃねえか。ま、いずれにしろ死んでもたう事に変わりはないがな」

カムイ(助けは来ない。自分で追い払ってしまった…おまけに竜石もさっきので落としてしまったし…まずいですね。非常にまずい)

カムイ「お母様、走れますか?」

ミコト「いいえ…さっきので足を挫いてしまいました。だから、あなただけでも…」

カムイ「そんな事言わないでください。そんな事したら…私が来た意味が…無くなるじゃないですか!!」

ガンズ「お話は終わりか?長えから続きはごゆっくり…天国かどっかでするといい。死ねぇっ!」バシュンッ!

カムイ「じゃあ、後はおねがいします…」バッ

ミコト「止めなさい、カムイ!!!」


ドスッ!


その少し前


サクラ「いやー、いいお天気ですね~。今頃、カムイ姉様は何をしてるんでしょうか…」

アクア「…サクラ」

サクラ「何ですか?アクアお姉さま」

アクア「あなたが欲しいって言っていた『マリオ64』が手に入ったわよ」

サクラ「ええっ、本当ですか!?ありがとうございます!」

アクア「はいこれ。確かゲームキューブはタクミの部屋にあったわね」

ドドドドドドドドドドドド

アクア(これで邪魔者は消えた…あの子何気に勘がいいから)

アクア「私もちょっと失礼するわよ」

カザハナ「あっ、はーい。分かりました」



ツクヨミ(うーむ…もう誰も信用できんぞ…)

カザハナ「どうしたのよ、そんなにむつかしい顔しちゃって」

ツクヨミ「常識というものは、或る日突然いとも簡単に覆るものなのだな…」

カザハナ「また変なこと言ってら…そろそろおまんじゅう買って帰ろうよ。久しぶりにぷらぷらしたら疲れてきちゃったし」

ツクヨミ「私は食わんぞ」

カザハナ「いいから」

ツクヨミ「ではお団子がいい」

カザハナ「珍しいわね」

ツクヨミ「たまにはな」

黒アクア「いらっしゃいませー!お団子はいかがですかー?あ、そこのお兄さん達!」

ツクヨミ「え、お兄さん?」デレ

カザハナ(こいつちょろい)


黒アクア「そうそうそこのお兄さん。おまんじゅう一ついかが?今なら二つ買うと二つサービス!」

カザハナ「じゃあ2っつお願い!」

黒アクア「はいまいどありー。こちらおまんじゅうふたっつと…」

つおしぼりとおまんじゅう

黒アクア「どうぞ♪」


黒アクア(このおしぼりには超高濃度のアレがたっぷり染み込ませてあるわ…拭いた手でおまんじゅうを食べるだけでその効果をてきめんに発揮するぐらいに…ね)

黒アクア(私の調査によればカザハナはこういった暗示の類に凄くかかりやすい。その後ダミープラグに切り替わった彼女がツクヨミをアレすれば計画は成功…その場で運命は分岐する…!)


カザハナ「おっ、いっただっきまーす」ヒョイ

カザハナ「ん~っ、おいしい!」

ツクヨミ「カザハナ、行儀悪いぞ。ちゃんと手を拭け。それから食べろ」フキフキ

黒アクア「…」ワナワナワナワナ


ツクヨミ「どうした?熱でもあるのか?まんじゅうもらうぞ」

黒アクア「!」ポロッ

黒アクア「いけない、落としちゃったわ。あなたにはこっちの串団子をあげる」

ツクヨミ「おお、気がきくな。ありがとう」

カザハナ「ほら、もう行くよ。ごちそうさまでしたー!」

黒アクア(また失敗した…くうっ…そろそろ着替えてカムイのところに行かないと)

アクア?『ざまあ無いわね…』

黒アクア「!」

アクア『私があなたの中にいる限り、絶対にそんな事させない。分かってるでしょう?』

黒アクア(さっさと出て行けばいいものを…死に損ないめ…)

アクア『ふふっ、私が消えたらあなたも存在できなくなるのに…生意気ね』

黒アクア(黙りなさい。いつか絶対切り離してやる…)

アクア『出来るもんならやってみなさい…時間はないわよ…?…あら、もう眠く…zzz』

黒アクア「…」

黒アクア(すでに手は打ってあるわ…今度こそセイコウさせる…どんな手段を使ってでも必ず…成し遂げないと…)

黒アクア(でも何だか胸騒ぎがする…カムイに何かあったのかしら?一応行ってみないと)


その頃のヒノカ

ヒノカの部屋

ヒノカ「ふう、いいランニングだった…冷えたお茶は…」ガチャ

※冷蔵庫は備え付け

ヒノカ「ないな…切らしてたか」ゴソゴソ

ベルカ「はい」

ヒノカ「ん、悪いな」ゴクゴク

ヒノカ「ってうわああああああ!!!」

ベルカ「何、レイプ魔でも見るような目で」

ヒノカ「な、何しにここに来た…」ガタガタ

ベルカ「別に。カムイ様の天敵は今の所あなただけだから。あなたを見張ることがカムイ様の安全に直結する」

ヒノカ「へんなことしないよ、な…?」ガタガタ

ベルカ「…必要がなければ」

ヒノカ「そ、そうか…まあ座れ」ホッ

ヒノカ(くそっ…こいつさえいなければ…大体何で母上はこんな従者まで連れてきたんだ?無限渓谷にほっぽり出しておけばよかったのに…)

ベルカ「随分殺風景な部屋ね」

ヒノカ「う、うむ。朝鍛錬昼鍛錬夜も鍛錬で、ここにはほぼ寝に来るだけだからな。お前はどうなんだ?」

ベルカ「…同僚のガラクタにテリトリーを侵食されてる」

ヒノカ「そうか。相部屋は大変なのだな…だがこんなことを話しに来たわけではなかろうよ」

ベルカ「…なぜ、あなたはここまでカムイ様にこだわるの?」


ヒノカ「お前に言う義理はない」

ベルカ「…」ギロ

ヒノカ「ヒイッ…言うよ、言うからそんな目で見るな…ゴホン、あれはカムイが暗夜に連れ去られた日のことだった…」



ヒノカ「そして私は、槍を回して飛ぶことが出来るようになったんだ。一応天馬の訓練もやったがな」

ベルカ「…ふざけてるの?」

ヒノカ「大真面目だ。やって見せようか?」





ヒノカ「では、危ないから下がっていてくれ」

ヒノカ「そうだ。もっとだ」

ヒノカ「よし…それでいい…今だ!」ダッ

ヒノカ「待ってろカムイィィィィ!今行くぞおおお!!!」ダダダダダッ

ベルカ「捕まえた」

ヒノカ「くっ、早いっ…離せっ!!むごっ…」

ベルカ「ダメ。あなたは徹底的に調教するしかないみたいだから」ズルズル


再びヒノカの部屋

ベルカ「ここなら誰も来ない…ゆっくり楽しめる…」

ヒノカ「~!!」ジタバタ

ベルカ「うるさい…痛い目にあいたいの?」

ヒノカ「…」

ベルカ「悪いようにはしないから…ほら、力、抜きなさい」

ヒノカ「~!!!」ジタバタ

ベルカ「しょうがないわね…」ゴソゴソ

ヒノカ(…ビニール袋と輪ゴム?一体何を…)

ベルカ「罰よ。あなたが悪いんだから」

ヒノカ(ま、まさか)

ベルカ「海の底に…いってらっしゃい」パチン

ヒノカ(ビニールが顔に…息が…でき…な………)



『ははっ、カムイ、こっちだ!』

『あはははっ、待ってくださいよーう!』



『姉さん…何ですか?こんな所に呼び出して…』

『カムイ…私は…お前の事が…』

『姉さんたち!ご飯ですよ!』

『あら残念。続きは後でいいですか?』

『あ、待って…』

『…』



『ヒノカ、大変です!カムイが!』

『何ですか?母上』

『カムイが暗夜に誘拐されて…あなたの父上が…スメラギが…』

『そんな…馬鹿な…嘘だ…』



ヒノカ「ぶはあっ!」

ベルカ「どうだった?海の底は」


ヒノカ「はあっ…はあっ…」

ベルカ「…」

ヒノカ「はあっ…あまり…愉快なものじゃなかったな…」

ベルカ「次はもっと長く行ってもらう。長く、ふかあく、帰ってこられないかもしれないぐらい」

ヒノカ「やめろ…頼むから…」

ベルカ「別に、洗脳が性的なものである必要はない。今の拷問を続けても…人の精神は簡単に崩壊し、何でも言うことを聞くようになる」

ヒノカ「そんな…やめろ…」

ベルカ「悪いわね。カミラ様の命令は絶対だから。カムイ様につく悪い虫を、潰せって」

ベルカ「軽口を叩けるようならまだまだ。もう一回行ってもらう」パチン


『サクラ…そんなに泣くんじゃない。身体にもドクだ』

『でもっ…ひぐっ…ヒノカ姉様だって…』

『…うるさい…私だって辛いんだ…』


『ん?しばらく見ないと思ったら…』

『…』ピコピコ

『大概にしろよ。たまには外に出るんだ』


『…』ブンッ ! ビュンッ!

『この槍で…私は…』

『今度こそカムイを…守ってみせる…!』


『…?どうした、そんな思いつめた顔をして』

『…ヒノカ、悪いわね…』

『ハハッ、何だいアク…ア…』ドサッ

『ユーラリルールレリー…あなたも、本当はこれを望んでいたんじゃなくて?せいぜい楽しむことね…』

『やめろ…私の中に…入るなっ…!!』


ヒノカ「ゲホッゲホッ…ゼイ…ゼイ…」

ベルカ「どう?言うことを聞く気になった?」

ヒノカ「いいや…」

ベルカ「そう。効果が薄いなら…やっぱり洗脳陵辱に切り替えようかしら」

ヒノカ「待ってくれ、思い出したんだ…」


ヒノカ「もう、カムイに手を出すことはしない。約束する」

ベルカ「…本当に?嘘はついていない?」グイッ

ヒノカ「…もちろんだ」

ベルカ「…じゃあもういい。あなたの目は嘘を付いてるようには見えない。何を思い出したのか知らないけど、幸運だったわね」

ヒノカ「分かってくれたか。では早くこの縄を…」

ベルカ「それは出来ない。悪いけど」

ヒノカ「なぜだ?」

ベルカ「拷問されてる時のあなたのカオ…すごく煽情的だった…ゾクゾクする」

ヒノカ「え」

ベルカ「冗談よ。ほら」バラッ

ヒノカ「そ、そうか…半分本気に見えたが…」

ベルカ「もし、誰かに言ったり、約束を破ったりしたら…」

ヒノカ「言わないさ。それより何だか外が騒がしい。一緒に来てくれるか?」

ベルカ「…」タタタッ

ヒノカ「気の早いやつ…いい家臣かどうかは分からんが、行動力があるのは確かだな」

セツナ「じーっ…」

ヒノカ「セツナ…天井裏から見ていたなら、助けてくれても良かったじゃないか」

セツナ「楽しそうだったから…」

ヒノカ「楽しくなかった!どう見ても拷問されてただろうが!!」

セツナ「今度やってみたい…」

ヒノカ「今やってやろうか!?え!?

…というかどうして今日に限って罠にかかってないんだ?」

セツナ「ヒノカ様が野獣化したから。冴えてる方のセツナが出てきたんです…」

ヒノカ「…?」

セツナ「カムイ様が危ない。早く行きましょう…」タタタッ

ヒノカ「う、うむ」タタタッ

ヒノカ(アクア…何が目的なんだ?)

脇道の方


『ということで、リスクを恐れずに積極的にアタックしてみるのが得策である』

「…」

どの方面でも突撃戦法しかとらないのは国風か何かなのかもしれない。

『まあ今まで本書で述べたのは主に方針や概念などの大まかなものであり、直接恋愛に役立つものではなかった。そこで、気になる詳細なテクニック等は…』

(…等は…?)ドキドキ

『2巻に続く!』





ベルカ「あの本はあなたにとって大事なものだったはず。普通は大事な本を窓から投げ捨てたりはしない」

「いいのよ、もう読んだから」

ベルカ「そういう問題でもない」

「人にはね、本を4階の窓から投げ捨てたくなる時ってのがたまに来るのよ」

ベルカ「…それは故郷の風習か何か?」

「個人的なものよ。それより外に行ってくるから、欲しいものとかある?買ってきたげるけど」

ベルカ「アイス」

「あんたが甘いモノ欲しがるなんて、めずらしいわね」

ベルカ「食欲が無い時に熱量を効果的に採るにはこれが一番いい」

「ふーん、行ってきまーす。ちゃんと寝てなさいよ」ガチャ バタン


中庭に落ちていた本を拾い上げ、近くに気絶して倒れていたハロルドに一瞥をくれてからその場を離れる。今日は晴れだから風邪をひく心配も無さそうだし。

近くの本屋に向かう。1巻は途中でひっちゃぶってくずかごに捨てる。


本屋

(純文学…雑誌…魔道書…攻略本…おっ)

なぜか攻略本のコーナーに平積みになっている『恋愛必勝法part2』を発見する。ついでに3~5もカゴに入れた。

シャーロッテ「らっしゃーい」

シャーロッテ「あ、ルーナじゃん。元気してた?」

「元気よ。てか何であんたがこんな所にいんのよ。どっかの地方に左遷されたんじゃなかったっけ」

シャーロッテ「白夜の方でもインフル大流行しててね、仕事が無いんだわ。だって来る敵いないんだもん。で、休暇取って帰省ついでにアルバイトしてる訳」ボリボリ

シャーロッテ「あと左遷のことは言うな!結構気にしてんだから」フッ

「昔は天下のマークス隊だったのにね~、今じゃ辺境の警備隊…何やらかしたんだっけ?」

シャーロッテ「殴るぞ」


「ごめんごめん。いや、でもそうあることじゃないと思うわよ?才能を妬まれてありもしないスキャンダルこしらえられて同僚ともどもぶっ飛ばされるなんて」

シャーロッテ「はっ、もういいんだけどね。逆に馬鹿でかいスキャンダルこしらえ返して処刑に追いやってやったんだから。何せ私の最短ルートを潰してくれたんだもんね。女の恨みってのは怖いのよ、テヘッ♪」

「いやー、こわいこわい。笑顔が怖い。ブノワ元気にしてる?」

シャーロッテ「ああ、あいつ?最近は森のくまさんと相撲の稽古なんてやってるわ」

「相変わらずね…」

シャーロッテ「それよりさ、客が来ないんだよね。みんな家にこもっちゃって。店番としちゃらくちんでいいんだけどさ」

「ふーん…だから素が出っぱなしなのね。じゃあ会計お願い」

シャーロッテ「随分気がせいてるのね…」ピッ ピッ ピッ ピッ ピッ

シャーロッテ「ん?あんた、このシリーズ全部買うの?」

「え、ダメなの?」

シャーロッテ「別にダメじゃないけど、ちゃんとタイトルまで見たの?ほら」

『恋愛必勝法part2~年下編~』
『恋愛必勝法part3~年上編~』
『恋愛必勝法part4~玉の輿編~』
『恋愛必勝法part5~禁断の愛編~』

「あ、ほんとだ」

シャーロッテ「要らない分は返してらっしゃいよ」


「じゃ、はいこれ」つ5

シャーロッテ「」

「か、勘違いしないでよね!別にそういう意味じゃないんだから!」

シャーロッテ「いやそういう意味しかねえだろうがよ…私だって人の事言えた義理じゃないんだけどさ…part4もいる?」

「あんたバカァ!?私がカミラ様に発情してるって言いたいの!?」ダンッ!

シャーロッテ「違うならいいわよ」

「いいから会計!さっさとやる!」バンバンバン

シャーロッテ「へーへー、一点の980ゴールドになりまーす」



シャーロッテ「悪いけどアドバイスはできそうにない…ごめんな」

「だから違うんだってば!これは知的好奇心を満たすというかなんと言うか…」

お客さん「おーい、店員さーん」

シャーロッテ「はいはい、いま参りまぁす。ということで金払ってさっさと帰んな」

「とにかくね、そういう意味じゃ無いんだからね!みんなにいっちゃダメよ!他言無用だからね!」

コロンコロン♪ バタン

お客さん「おーい、まだかーい」

シャーロッテ「はいはいただいまぁ」



(ったくもう…何で知り合いが店番なんてやってるのよ…)

いつも以上に人影がない街を、てくてく歩いて帰る。そういえばアイスを頼まれていたのを忘れていた。

※コンビニはない

ニュクス「アイスは~アイスはいらんかね~…はあ、こんなんじゃ商売あがったりね。思いつきで起業してみたけど、もうやめようかしら…店仕舞いセールだよ~アイス買っとくれ~」ガラガラ

「あっ、アイスくーださいな」

ニュクス(やった!3日ぶりの客…恐らく…私のアイス売り人生における最初で最後のお客ね…何とか全てのアイスを押し付けて…厄介払いする方法はないかしら…)

「何よ、売るの?売らないの?売らないなら行っちゃうわよ」

ニュクス「嬢ちゃん…アイスが欲しいのね…?」


「え、ええ…(口調が…変わった?)」

ニュクス「ふふ…いい度胸ね…では…賭け事なんてどうかしら?」

「か、賭け事?」

ニュクス「あなたが勝ったらアイスをタダで好きなだけあげる。ただし私が勝ったら…アイスを全ての買い取ってもらおうかしら」

「な、何よバカバカしい!暑さで頭沸いてるんじゃないの?!帰るわよ!じゃあね!」スタスタスタ

ニュクス「…怖いの?」

ピタッ

ニュクス「戦わずして負けを認めるのね…腰抜け!!」

「…今、何て言ったの?」

ニュクス「腰抜けよ!あなたみたいな腰抜けはおうちに帰って震えてるのがお似合いね…」

「…乗る」ボソッ

ニュクス「ん?聞こえないわ…」

「乗るって言ってるんでしょ!?あんたなんかケチョンケチョンのぬっこぬっこにしてやるんだから!!」

ニュクス「若い子は扱いが簡単でいいわね~」

「いいから勝負の内容を言いなさい!」

ニュクス「…>>312よ」

エルフィと早食い対決


「…え?いや、エルフィはお城で伸びてるはずだけど…てか何で面識あんのよ」

ニュクス「代わりにこの魔符を使いましょう。胃袋は本人と同じぐらいよ」

ヴオン

エルフィ「お腹すいちゃった…」

ニュクス「今から早食い対決をしてもらう。いいわね?」

エルフィ「私はいつでも準備万端よ」

「はんっ、上等じゃない!さっさと用意しなさいよ!」

ニュクス「OK、じゃあ時間は5分、このアイスをたくさん食べた方が勝ちとするわ。負けたらその分のお金も払ってもらうから」




ニュクス「位置について…よいどーん!」




同僚が息急き切らして部屋に駆け込んでくる。両手に馬鹿でかい紙袋を抱えて。どうやらドライアイスの白煙をあげるそれは、いつもの食器類では無さそうである。

ガチャ
ルーナ「はい、約束のアイス。好きなだけ食べなさいよ…あーもう!」

「…ひいむうみ、どうして200本も買ったの」

ルーナ「カクカクシカジカってことよ!全くもう!これで今月の小遣いパーよ!」

「…」ガリガリ

ルーナ「カミラ様は?」

「どっか」

「そっかー。くっそ~…何で負けちゃったのかな…」

どう考えても勝つ見込みの無い勝負である。後先考えずにほいほい挑発に乗るのは彼女の悪い癖だ。

ルーナ「次は負けないわよ~!くぅう~っ!」

自分でそれに気づいていないのだから余計始末が悪い。


「…アイス、ありがと」

ルーナ「うん…喜んでくれて、よかった」

「…」ガリガリ

ルーナ「じゃあちょっと冷蔵庫に入りきらなかったアイス、配ってくるから。またなんかあったら言いなさいよ!」バタン

「…」シャリシャリ

「…」ペロペロ

さっきのルーナの態度…余りにも従順すぎる。ほぼ間違いなく「あれ」の影響だろう。記憶さえ飛ばせば何とかなると思ったのが甘かったのだろうか。

仮にそうだとして…どうする?このまま彼女がどんどん記憶を取り戻していき、いつしか私の行為を暴露したとしたら。いや、自尊心の強い彼女のことだ。それは無いだろう。だとしたら考えられることは、一つだ…

厄介なことをしでかしたものだ。自分で蒔いた責任はいつか取らなければならない。年貢の納めどきが明日になるか、10年後になるか、はたまた次の瞬間彼女が扉を蹴破って部屋の真ん中で怒鳴り散らすのか。それは誰にも分からない。


その時はその時と割り切るしか無い。蓋を開けてみないことには、箱の中身は分からないのだから。それより今は…

「エリーゼ様…」

あの姿を思い浮かべるだけで、心拍が2オクターブも上がるのが分かる。あの可愛らしい微笑みを思い出すだけで、心臓が早鐘を打つのだ。そっと枕を抱きしめる。自分に軽く引く。

さっさと病気なんて治してしまおう。寝てしまうのが一番だ。

しかし、次に目覚めたのは真夜中で、まずいことに事態はさらに逼迫していた。


「アイス要りませんか~」ガチャッ

オーディン「いらん…」

ラズワルド「悪いけどいらないよ…しまっといて」

「あそ。張り合いのないやつら」

「あれ、アズールあんたハロルドと相部屋じゃなかったっけ」

ラズワルド「…ああ、病人はまとめて看病してもらってるんだよ…ハハッ」フラフラ

「ふーん。2人ともずいぶん悪そうね。ナントカは風邪ひかないって言うけど」

オーディン「…」グッタリ

ラズワルド「いやほんと、ほんとに辛いから。アイスありがと。おやすみ」

「おーだいじにー」バタン


どうしてだろうか、ちっとも嬉しくない。ちっともときめかない。ほんの一時期とはいえ、ラズワルドとは恋人同士だったのに。月日が人を変えてしまったのだろうか。

ベルカ『…アイス、ありがと』

ほら、絶対におかしい。この一言だけでミラの大樹のてっぺんまでぶっ飛びそうなほど嬉しかったなんて絶対おかしい。

アイスの食べ過ぎで頭をやられたに違いない。そういえば何だか体が火照っている。心臓が異常な速さで全身に血液を送り出している。インフルエンザの初期症状と酷似したものだ。


「アイスいるー?」ガチャ

ピエリ「ゴホッゴホッ…ありがとなの!今はいらないから冷やしといてなの!」

エルフィ「…いただきます」


ピエリ「わおー、瞬く間に100本ほどなくなったの…」

大きな棒付きアイスがきなこ棒のようにひょいひょいと口に放り込まれていく様はまさに圧巻であった。先ほどあのアイス屋で見たのと比べても何ら遜色はない。

エルフィ「ごちそうさま。残りはしまっておいてもらえる?」

お前絶対もう治ってるだろというセリフを何とか飲み込み、お大事にと言って部屋を出た。


「こんちわー」

レオン「…zzz」

寝ているので仕方がない。アイスを50本ほど冷蔵庫に押し込んで出て行くことにした。起きた時にどんな顔をするか楽しみだ。きっといい顔はしないだろうが。


ずいぶんと紙袋も軽くなった。中身ももう片手で数えられるほどしか残っていない。

カミラ「あら、何やってるの?」

「アイスがいっぱい手に入ったから、みんなに配ってたの。カミラ様こそ何してたの?」

カミラ「看病よ。みんなは看病てんてこ舞いだってのに、あなたはどっかに行っちゃうんだから、全くもう…用事が終わったら手伝いなさい。そうそう、エリーゼもどこで油売ってるのかしらね。見つけたら教えて頂戴」

「分かった。マークス様、どんな様子?」

カミラ「割と元気よ。ところで…」

カミラ「…あなた、この頃なんだか変よ?言葉づかいだけじゃなくて態度とか、姿勢とか」

「…」

カミラ「ふっふーん…さては何かあったわね…?」

「別に。残りのアイス配らなきゃいけないから、失礼」

カミラ「後で私の部屋に来なさい」

「…それは命令?」

カミラ「もちのロンよ」

命令とは違反するためにある。ついでに職務とは放棄するためにある。


「失礼しまーす」

仮にも大国の第一王子ともあろう人間が、ソフトのビニールカバーごときに苦戦しているとは驚きだ。

マークス「む、どうした?」

「アイスいる?余ってるのよね」

マークス「冷蔵庫にしまっておいてくれ。悪いが私は忙しいのでな」

ようやく忌々しいビニールを剥がされ、パッケージが露わになる。輝くような笑みを浮かべたガロン王がそこにいた。正確にはロゴの後ろにいた。悪趣味を絵に描いたような構図だ。

「…何よ、このゲーム。見るからにクソゲーの臭いがぷんぷんするんだけど」

マークス「まあ見ていろ」

そう言って彼はディスクを、ベッドサイドに置かれたwiiの中に押し込む。


「あっ、そこ!また湧いてる!」

マークス「む、何としつこい連中だ!メティオを喰らえ!」

隙あらば自然発生し、街中に深刻な公害を垂れ流すする鋳物工場を隕石やUFO等の自然災害を駆使して更地に還すするなかなか乙な街づくりゲームだった。

マークス「国の、為だ…」

「じゃ、帰るわね。いっぱい遊べたし。アイスは無くなったし」

マークス「うむ、悪いな。だが面白かった…今度は違うソフトを買ってくるから、その時はまたやろう。いいか?」

「うん!…じゃなかった、べ、別にマークス様を喜ばせたかったとかじゃないんだからね!たまたま面白かったから付き合ってあげただけなんだから!」

マークス「そうか」

「あと、シャーロッテが来てたわよ。仕事が休みだからって」

マークス「分かった。あいつには昔スーパースクリブルノーツを貸したはずなんだが…預かってないか?」

「いいえ」

マークス「そうか…久しぶりにやりたかったんだがな…」

核爆弾や津波、ブラックホールなどを使って公園のゴミを掃除したり、潜水艦や冷凍銃で空間を歪めたりするゲームである。死んだライオンが世界を救うゲームでもある。

マークス「まあいい。シャーロッテの事だ、自分で持ってくるだろう」

ふたたび城下町

では逃げなければならない。適当に時間を潰して帰れば、カミラ様も忘れてくれているだろう。多分。

夕方になってもやはり人通りは少ない。いつもならびっしりと並んでいるはずの薄汚い屋台やら出店やらさえ、今日はまばらだ。

と、道の向こう側から誰か歩いてくるのが見える。エリーゼ様だ。心なしか疲れているようにも見える。

「こんちは。どうしたの?」

エリーゼ「あ、ルーナ!いいところに来てくれたね!ちょっと来て!」

「えーっ…はいはい」

腕を引っ張られながら、私はベルカのことを考えていた。エリーゼ様と仲良しそうに話しながら帰途につく、その横顔を。


カシータ「おや、お客さんかい?よっこいせっとゴホッゴホッ…」

エリーゼ「わわっ、だめだよ、まだ寝てなきゃ」

カシータ「そうかい。じゃあ引っ込んでるよ」

「えっと…あの人は?」

エリーゼ「わたしの昔の乳母さんよ。ここのところ風邪が流行ってるでしょ?で、カシータもかかっちゃって、それでお見舞いに来てたの。ご飯作ったり洗濯物干したり…」

カシータ「ふふふ、まるで昔の逆だねぇ。私がエリーゼちゃんにお世話してもらうなんて」

エリーゼ「だから寝ててって!ほらほら!」

カシータ「まあまあ、せっかくのお客さんだ、お茶の一つでも…ゲェッホゲッホ!」

エリーゼ「強情なんだから!よいしょっ、ルーナ、代わりに淹れて!缶がそこに入ってるから!」


乳母さんね。確か母さんがルキナの世話係やってたな。本当に諦めの悪い人だった…とか考えながら缶を探す。そこってどこだよ。片っ端から戸棚を開ける。大体客に紅茶を淹れさせるのは褒められたことではないだろう。

「ここっかな~ここかな?ここでもないな~む?これは…」

ピンクのアドベンチャラーの衣装に、丸めた鞭とぎんの弓だ。鞭は乗馬用とかじゃなくて、あの…この前カミラ様と見た映画に出てきた…あれだ、インディとかいう人が持ってたみたいなやつ。

そっとクローゼットを閉じる。人には見られたくない一面だってあるんだ。私にだってある。一面と言わず二面も三面もある。


その後、缶はすぐに見つかった。ティーバッグ入りの奴で助かった。

あいにくティーポッドを持ち歩く趣味はないので、台所にあったティーポッドを借りる。いかにも主婦らしいキッチンで、狭いスペースが効率的に機能するように器具が収納されている。コンロには半分ほどおかゆの入った片手鍋が置いてある。


「淹れたわよ~」

エリーゼ「はーい、今行くね~」

「…で、何であたしを呼んだわけ?家事手伝いなら一人でできるでしょうに」

エリーゼ「えっとね、ちょっと話しづらい事があって…えっと…」

ガタタッ

エリーゼ「あっ、カシータ!盗み聞きしないでよっ!」

カシータ「おやおや、何のことかねえ~私は別に~」



エリーゼ「で、相談っていうのがね…ちょっとこっち来て」

体がくっつくぐらい近くに寄り、耳を澄ませる。

エリーゼ「えっとね、それが…その…」

「何よ」

エリーゼ「ううん、やっぱり…ごめん。言えない」

「言わなきゃダメ」

何だか嫌な予感がする。知ったらきっとがっかりすることになる…そんな予感が。だが残念な事に、悪い予感はいい予感よりはるかに的中しやすい。それでも催促しないわけにはいかないのだ。

エリーゼ「あのね…あなたの同僚のベルカって人、いるでしょ…?」

ほれみろ。これだから催促なんてするもんじゃない。

エリーゼ「ヘンだなって思われるかもしれないんだけど…あたしね、何だか…」

「…」

エリーゼ「あの…えっと…うーん…こんなことルーナに相談すべきじゃないのかな…」

「…あたしの思うところに多分、その問題はカミラ様に相談すべきじゃないと思う」

エリーゼ「そう…じゃあ言うけど…」

本筋の方


セツナ「はーい、こっちこっち…危ないからね…見てないでちゃんと避難して…」

カゲロウ「いいのか?主君と一緒に戦わなくて」

セツナ「めんどいからいい…平常運転のヒノカ様ならあれぐらいちょっちょいのちょいだから。あなたこそいいの…?」

カゲロウ「サイゾウと顔合わせたくないからな」


セツナ「…」

コケッコッコケッ

セツナ「…あ、フリードリヒ。こっち来ちゃだめ。危ない…」

カゲロウ「フリー…何だ?そのニワトリの名前か?」

セツナ「うん。この前暗夜で拾ってきた…」

カゲロウ「そ、そうか…あ、そうだ!お前、向こうでサイゾウと何も無かったのか?」

セツナ「…?どういう意味」

カゲロウ「だから…えーっとだな…何というか…ヒノカ様がカムイ様にやろうと長年目論んでいた類のことというか…」

セツナ「それはカムイ様の×××に×××で×××したり×××を×××したり××××××××××のこと?」

カゲロウ「…随分と直接的な言葉を使うのだな」

セツナ「長い付き合いだから…」

カゲロウ「で、あったのか?あるわけないよな…」

セツナ「なかった。沼から引っ張り上げてもらったぐらい…楽しかった…」

カゲロウ「サイゾウは楽しくなかったと思うがな。だが…私が間違っていたようだ。あいつは任務に乗じて浮気なんてするような奴ではない…」

セツナ「戦い、終わったみたい…」

カゲロウ「そうか。ではそろそろ行こう」

セツナ「怒られそう…」


カムイ「みなさん、ありがとうございました。おかげで町にもほとんど被害が出ず、簡単に鎮圧できました」

タクミ「いやいや、あんたの指示が的確だったからこそ、僕らが動けたんだ。正直見直したよ…まるで、一度見てきたみたいだったもの」

カムイ「ふふっ、前とはえらい違いですね…」

タクミ「え?」

カムイ「えっ、いえ、何でもないです…褒めても何も出ませんよ?」

タクミ「ふっ…改めてよろしく、カムイ姉さん」

カムイ「…ええ!」


リョウマ「いてて…ご苦労だったな、カムイ。役に立てず申し訳ない」

カムイ「いえいえ、前もそんな感じ…じゃなかった、お気持ちだけで十分ですよ…あら?白夜竜の様子が…?」

ミコト「カムイ…この剣を受け取ってくれますか?」

カムイ「…こ、この剣は…!」



カムイ「何ですか?」

ミコト「これはサンダーソード(+7)…白夜王家に代々伝わる伝説の神剣です」

カムイ「…あ、ありがとうございます」

ミコト「きっとあなたなら使いこなせるはずです。此度の戦…本当にお疲れ様でした。そのお礼と言っては何ですが、どうでしょうか」


カムイ「嬉しいです…(何でよりによって…?)ちょっと握ってみますね………こ、これは…!!」

カムイ(頭に流れ込んでくるこのイメージは…?そうか…これはきっと、128本のサンダーソードの記憶…なんですね。その一本一本に歴史があり、物語があり、ドラマがあった…)

カムイ(これもいわば一つの集大成…ファイアーエムブレムといってもいいのでしょうか…?なんてね。128本のみなさん…力を…少しの間、貸してください)

ミコト「どうでしたか?」

カムイ「…素晴らしい刀ですね。よく使い込まれています。きっと、持ち主に大切にしてもらっていたんですね」

ミコト「そうですか。よかった…さあさあ、今夜はパーティーですよ、皆さん!みんなでカムイの帰還を祝いましょう!」

カムイ(よかった…今度こそ守れたんですね…)

カムイ(あれ?でも母上が生きてるってことはマークス兄さんたちも来れないってことですよね…?どうしましょう…)

カムイ(まあいいや、リリスさんが向こうで何かしてくれているはずですから)


翌朝

ヒノカ「ふぁぁぁ…よく寝たぁ…よっこらしょっと、顔洗ってカムイでも眺めに行くか…うふふふふ…待ってろよ…」

ヒノカ「ん?なんじゃこりゃあ…この前から付けだしたカムイ観察日記に紙が挟まってる…?」


『未来の私へ』

この手紙を読んでいるということは、あなた(私か)はおそらく記憶を失っている。試しに昨夜の記憶を思い出してみてほしい。きっと無理だ。

今から私はアクアに事の次第を尋ねに行こうと思う。ずばり、カムイの事だ。私がカムイに異常な性欲を抱いている原因について、彼女は何かしら知っている。いや、彼女が私にかけた暗示だか催眠だかが直接の原因になっていることはほぼ間違いない。

だが…アクアは強いだろう。私はぶちのめされて、再び術を掛けられるかもしれない。そうなれば待っているのは…ぶるる、破滅しかない。今度こそあのベルカとかいう薄気味悪い女に力づくでアレされる。想像したくないが…

つまり、私が言いたいのはこういうことだ。

①カムイに手を出さない

②アクアから目を離さない

これを守ってくれればいい。奴の狙いは分からないが、ろくでもないことなのは確かだ。そろそろアクアを人気のないところに呼び出して問い詰めねばならない。

幸運を祈る。

ヒノカ


ヒノカ(思い出せないわけないだろう…確か昨日は戦闘の片付けをしたあとパーティーに行って、その後…その後どうしたんだっけか…?忘れてるな…なんてこった)

ヒノカ(…信じていいものだろうか?だがこの金釘みたいな汚ったない字は間違いなく私のだ…)

ヒノカ「ふむ…」

ガラガラ
アサマ「ヒノカ様、大変です。暗夜の大軍勢が攻めてきました。すでに白夜平原まで侵入を許しています」

ヒノカ「な、何だって!?母上のバリアがあるんじゃ無かったのか!?というか何でそんなに落ち着いていられるんだ!?」

アサマ「いえね、白夜平原から一歩も進んでこないんです。あそこでストップ」

ヒノカ「…は?」

アサマ「それに偵察部隊によれば、暗夜兵たちはやけにニコニコとして…戦争をふっかけに来た顔には見えなかったんですと」

アサマ「ですからせいぜいゆっくり支度してから来てください。セツナは私の方で探しときます。また罠にかかってるみたいですからね」

ヒノカ「そ、そうか…拍子抜けだな…」

ヒノカ(さっきから一体どうなってるんだ…)


第5章 母と子 終わり

いっこ落とすの忘れてました。以下は326の前に補完しといて下さい。


カムイ「…あれ?私、生きてる…」

師匠「ふっ、間に合った…みてえだな…」ガクッ

カムイ「あっ、あなたは…!誰でしたっけ?」

師匠「サイゾーだよ。先代サイゾー。『外伝』にいたろ?あれ俺だから」

カムイ「…は?いやいや、喋らないでください!胸に刺さってるんですから!今すぐ救護を…」

師匠「…いや、無駄だ…やめとけ」

カムイ「でも…!」

師匠「ほら。胸ポッケに入れてたあのレシピの紙…こいつが守ってくれたんだよ…」ガサゴソ

カムイ「」

師匠「嘘だ。こっちのペコちゃんキャンディーで弾が止まったんだな…」

カムイ「ふざけないでください!」

師匠「『ミルキーはママの味』ってな…」コロン

ガンズ「何やってんだおめえらは!死ねい!」バシュッ!


ガギンッ!

ベルカ「…ダンボールをいかに活用するかが作戦の成否を左右するのよ」ダンボールパサッ

師匠「遅えじゃねえか。護衛対象ほっぽってどこで油売ってたんだ?」

ベルカ「いざとなったらあなたが来ると思ってたから」

師匠「ったく…臨時料金はきっちり請求するからな」

リョウマ「…生きてたのか」

師匠「おっ、リョーマ様じゃねえか!元気してたか?ん?」

リョウマ「厄介払いできたと思ったんだがな…チッ…(そちらこそ元気そうで安心したぞ)」

ガンズ「ちっくしょう、どんどん増えてきやがる…仕方ねえ、出てこい野郎ども!」

透魔兵たち「…」ユラア…

リョウマ「厄介だな…俺が敵将の相手をする。残りに全員でかかれ。以上」

リョウマ(E:葉隠)「行くぞ!うおおおおお!!!」ダダダダダダッ

ガンズ(E:逆金棒)「何だぁ、あのエビは…」

リョウマ「ぎゃあああああっ!!!!!」

カムイ「お母様、リョウマさんの回収をお願いします」

ミコト「あらあら、世話のかかる子ですねぇ…」


カムイ(今いるのは…私にベルカさん、師匠さんだけと。あとの方々は避難する町民の誘導やなんかにてんやわんやですか。何とか私達だけで鎮圧を…)

カムイ「えっと師匠さん、でしたっけ?ちょっとクラスを拝見…」

カムイ(まあ上忍かアドベンのどっちかですよね、多分)

師匠 遊び人 Lv40

カムイ「…」

カムイ「持ち物は…」

E:トッポ

カムイ「…ベルカさん、この人何者ですか?」

ベルカ「ふざけた人」

カムイ「見りゃわかりますよ。本当に強いんですか?」

ベルカ「…残念ながら」

師匠「指示はまだか?ん?トッポなくなっちゃうぜ?いっくら最後までチョコたっぷりっつっても」

カームイー! ダイジョウブカー!


サクラ「はあ、はあ、やっと着きました。お怪我はないですか?」

カザハナ「ちょっと!ツクヨミあんた重すぎ!さっさと降りなさいよね!」

ツクヨミ「仕方ないだろう、私だけ移動力5なんだから…えっとな、ヒノカ様とタクミ様と家臣もすぐに合流するそうだ、カムイ殿」

カムイ「…?あれ、その衣装…まあいいや、どんな作戦がいいと思いますか?」

サクラ「ばくは しましょう!」

カムイ「駄目です!ここ街の中心でしょう!?…私が指揮するのでその通りに行動してください。以上!散開!」

カザハナ「じゃあ行くわよツクヨミ!祖国のために!!おりゃああああ!!!」ドゴオオン!

カムイ「ヒノカさん!タクミさん!早く来て下さ~い!!」


以上。次でこの話も大詰め。多分。

ヒノカ「さて…支度も済んだし、そろそろ出発だ。カムイ、天馬乗ってくか?」クイッ

カムイ「結構です」プイッ

ヒノカ「まあそう言わずに…」

カムイ「人を呼びますよ?」

ヒノカ「参ったな…完全に犯罪者扱いじゃないか…まあそうか。じゃあいいや。気をつけて行けよ」ポリポリ

バッサバッサバッサ

ヒノカ(空の上というのは、考え事をするのにぴったりな場所だ…眺めもいいし空気も澄んでる。悪くない一日になりそうだ)

ヒノカ(しかし…奴らはいったい全体何でこんな時期に来るんだ?ああ、カムイか。まあ取り返しに来るのが自然だな)

ヒノカ(それより…アクアはなぜあんなことをしたのだろうか?私がカムイを手篭めにして彼女が得することも無いだろうし…彼女が誰と繋がっているか分からない以上、相談できる人間は自ずと少なくなってくる)

ヒノカ(兄様は…あり得ん。あのへタレ…問題外だ。サクラは…怪しいかもしれんな。実の妹を疑いたくは無いが、かなりアクアとも親しい。繋がりがなくとも、本人も気づかないうちにバラしてしまう可能性もある。タクミは…やっぱりあり得ん。アサマは…論外だな。セツナは…うむ…今度ぼんやりしてなかった時に相談してみよう。少なくとも奴は(主に私の)命を懸けて凶行を止めようとしていたからな)

ヒノカ(あとはあの無表情女……カムイを守る為なら何でもするって言ってたよな…一応聞いてみるか…?それにしても今日は天馬がにぶい)

ヒノカ「どうした?ん?疲れたか?……え?2人も乗せるなんて聞いてない?さっさと下ろせって?いや私しか乗ってないが?下を見ろって?何だよ…」

ヒョイ

ベルカ「…奇遇ね」

ヒノカ「…いつから下にしがみ付いていた?」

ベルカ「あなたがカムイ様に話しかけた時、隙を見て」

ヒノカ「私もニブくなったかなぁ……まあ上がれよ。これでは話しづらい」

ベルカ「…」ヒョイ

ヒノカ「はあ…何で乗ってるんだ?」

ベルカ「天馬に興味があったから。飛竜とどんなに違うのかなって」

ヒノカ「本当は?」

ベルカ「早くフィアンセのところに行きたかったから」

ヒノカ「カムイは?」

ベルカ「いざとなればあなたの家臣たちが何とかすると思った」

ヒノカ「…この前から思ったんだが、お前他力本願が過ぎないか?」

ベルカ「…チームワークよ」

ヒノカ「個人プレーと言うんだ。そうそう、ちょうどいいと言えばちょうどいい時に来たな。この手紙を見てくれ。こいつをどう思う?」ピラッ

ベルカ「………了解。アクアの身辺を徹底的に洗い、その目的を調査する。カムイ様の護衛関連だから報酬はいらない」

ヒノカ「……そうか。ここまで簡単に引き受けてくれるとは思わなかったぞ」

ベルカ「それよりあなたがアクアの催眠か何かから逃れたことを、決して、誰にも言ってはいけない。分かった?」

ヒノカ「分かった分かった…要するにこれまで通りを演じていればいいんだろう?とは言っても肝心のカムイがどっちにつくか分からないとなると…それにアクアのバックに暗夜がついていたとしたら?ありえない話じゃないだろう」

ベルカ「その時はその時。場合によってはあなたの協力も仰ぐ。それに、カムイ様の敵はカミラ様の敵。つまり私の敵よ」

ヒノカ「そうか。協力、感謝する…おっ、見えて来たぞ、白夜平原だ」

__________白夜平原

ヒノカ「下流の方からなら向こうの陣の後ろから合流できるだろう。といっても…正面からでも問題はなさそうな空気だな」

ベルカ「…一応人質じゃなかったの?」

ヒノカ「いいんだ。アクアとカムイの身柄は今の所こっちにある。いざとなればそれで交渉するさ…それに、お前を置いておく方が物騒だ。早くどっかに行ってくれ」

ベルカ「…さよなら」


ヒノカ「行ったか…変な奴だった。ほんとに真ん中を突っ切って行きやがった…あの二人もあれぐらい頑張ってくれればいいのに…」

ヒノカ「というか早く来すぎたかな…?」

リョウマ「むっ…もう来ていたか、ヒノカ」

ヒノカ「兄上…あの者たちの狙いは?戦争をふっかけに来たようには見えないが」

リョウマ「分からん。多分カムイか、恐らくついでにアクアも取り返そうという腹だ…みんなが揃い次第、俺が直談判してくる」

ヒノカ「そうか…くれぐれも気をつけてくれ」

リョウマ「うむ」


そして、時は満ち________


「我こそは、白夜王国第一の王子、リョウマ!暗夜軍の将よ、一騎打ちを所望する!」


「暗夜王国第一王子、マークス。一騎打ち、受けよう。我が剣の露と消えるがいい!」







リョウマ「…空き瓶で一騎打ちか?」

マークス「そっちこそ大根で切りかかってくるとは、舐められたものだな」

カムイ(あれ…?)

マークス「む…カムイ、生きていたか。よかったよかった…では帰るぞ。こんなところに長居は無用」

カムイ「マークス兄さん、私は…」


マークス「あのサークライとかいう男に圧力をかけたお陰で、念願のスマブラ参戦も叶ったそうだ。早く帰ってみんなでやろう」

カムイ「別に構いません…じゃなかった、そんなこと出来ません!私にはこっちのきょうだいが…」

マークス「む…今度のは8人まで同時対戦出来るんだったな。多分レオンは抜けるからそっちのきょうだいを合わせてもみんなで出来るぞ」

カムイ「…」チラ

サクラ「…」ウズウズウズウズウズ

カムイ「いやいやいや、ですが戦争は…?」

マークス「そうだ、スマブラに比べてあまりにどうでもいいことなので忘れていたが、こんな手紙を預かったったんだ」ガサ

ピエリ、コレヲミコトドノニ
ハイナノ!

ハイ、オテガミサンナノ!
アラ、アリガトウゴザイマス

ミコト「………停戦、と?」

マークス「ええ、そうです。つい先日、我が父ガロン王が急に心変わりしたのでして…突然このような事を」

ミコト「そうですか…ふーん…あの人が、ね………分かりました。いいでしょう。停戦協定を結びます」

マークス「流石話が早くていらっしゃる…こちらからは、

・無限渓谷から、双方のすべての兵を撤収させる

・互いに協力して野生化したノスフェラトウ及び絡繰人形の駆除を行う

・…etc

などを要求する。どうです?」

ミコト「ええ、正式な調印は後日として、すべての条件を飲みましょう。ですが…」

マークス「何かご不満でも?」

ミコト「この『双方の軍備の縮小』…これはまだ必要ないでしょう。そうですよね、カムイ?」

カムイ「…はい。残念ながら兄様、みんなでスマブラが出来るようになるのはは少し後になるかもしれません」

カムイ「まずは…心変わりされたお父様について、教えていただけますか?」

マークス「ああ、あれは一昨日の晩のことだったな…」

フェリシア「えっと、では私から。わたしがガロン様のお食事を作って差し上げた日の事でした」

iOS10にしたら全部飛んじゃって、書き直しに時間を食いました。ついでに倍ぐらい話を思いついたのでまだまだ続きそうです。

おととい

フェリシア「おかかと梅ですよ…うふふ…」

リリス「本当ですか?なんか変な匂いですけど?マシンの燃料みたいな」クンクン

フェリシア「自分の体臭じゃないですかぁ…?また機械油とかっぱ寿司の臭いがしますよぉ…?」

リリス「えっ、そんな…体洗ってきます…」

ガチャ バタン

フェリシア「さようなら~」

フェリシア「さて…私のロシアンルーレットおにぎり…まあほぼ自動小銃ルーレットなんですけどね…うふふふふ…」

フェリシア「みぃんな滅びてしまえばいいんですよ…白夜も…暗夜も……うふふふっ…どんな顔をするでしょうか……一口が致死量…服毒……これ即ち死…!ってね…あはははははっ!」


____________________

カムイ「え…」

フェリシア「えっと、今は正気です。最後まで聞いてくださいね」

____________________

フェリシア「失礼します…うふふふっ…」ユラァ…

ガロン「入れ」

フェリシア「うふふふっ…ゆうげにございます…」ユラァ…

ガロン「む…今日は握り飯か。シンプルだが…うまそうだな…形もいい」

ガロン「なんだが苦学生時代を思い出すぞ…ふっ…そうだな。少しばかり年寄りの昔の思い出に付き合ってもらえるか?」

フェリシア「うふっ…もちろん」ユラァ…

ガロン「あれは…確か40年ほど前のことだったな。当時芸術を専攻していたわしは、ミューズ公国に一年間留学しておったのだ」

40年前、ミューズ公国にて


若かりし頃のガロン「ラッシャッセー」

ミコト「九番ください」

ピッ ピッ

ガロン「580ゴールドになります」

ガロン「アリヤッシター」

ガロン「くそっ…何でアルバイトなんぞ…」

ガロン「ラッシャッセー」

ニュクス「肉まんとピザまん一つづつ」ポン

ガロン「ポイントカードつけますか」

ガロン「アリヤッシター」

ガロン「ありえん…ありえん…いくら道楽のような留学と言っても仕送りゼロだぞ…仮にも王族だぞ?一国の未来背負ってるんだぞ…?」

ガロン「ラッシャッセー」

アシュラ「えっと、これとこれください」

ガロン「はい。230ゴールドね」

アシュラ「え、えっと…ごめんなさい…200ゴールドしかないんです…」

ガロン「む…いや、どうやら200の間違いだったようだ」

アシュラ「え?ありがと、お兄ちゃん!」

ガロン「アリヤッシター」

ガロン「子供は苦手だな…」

ガロン「ラッシャッセー」

ユウギリ「手槍と特効薬」

ガロン「ライセンスは…はい、はい。有難うございます」

ガロン「アリヤッシター」

ガロン「ったく…手槍なんざ武器屋で買えばよかろうのに…」

ガロン「ラッシャッセー」

ガロン「!?」

シェンメイ「温めお願いします」

ガロン「えっ、は、はいい…」



ガロン「今思い出せば苦い思い出だった…これが最初の出会いだった。みんな若かった」

フェリシア「…」

ガロン「そうだ、おにぎりだったな。寮ではスメラギと相部屋だったのだが…」



スメラギ「きったねーな、ちょっとは掃除しろ」

ガロン「そっち半分はお前のテリトリーだろうが!自分でやれ!」

スメラギ「ったく…金もない。飯もない。仕送りは米だけ。どーしろっての…」

ガロン「粥でもすすってろバーカ!」

スメラギ「おめーだって食パンしかねえくせによ!鳩か!」

ガロン「おまけに冷蔵庫にはハムはおろかチーズすらないと……朝は大家さんの慈悲に預かるとしても…どうやってあと1週間生き延びる?流石に一日一食じゃ死ぬだろうし、王族として生パンと心中する訳にもいかん」

スメラギ「ふん…そうだな、いっそ食パンと米を交換するか?塩と梅干しなら腐る程あるぞ」

ガロン「一応庭に自生してる謎野菜もあるしな。やってみるか」


ガロン「ということで、私は梅おにぎりだけ。奴は1週間きうりサンドだけで食いつないだ。今思えば馬鹿なことをしたものよ…」

フェリシア「うふふっ…うふふふふっ…きうりサンド、お作りしましょうか…?」ユラァ…

ガロン「いや、要らんけども…」

ガロン「おや、おまえのその紫の瘴気、お前もわしら仲間だったのだな」

フェリシア「何のことでございましょう…」ユラァ…

ハイドラ『ふん、今日は随分質素だな。今日も食べにきたが…よかろう。だがこの召使い…………いやちょっと待てこんな娘うちの名簿にいない』

ガロン「黙れ!…いただきます」

ハイドラ『…それに、これは殺意の』

モニュッ

コンコン
バタン

マクベス「みなさんの治療、完了しましt…ひ、ひいいいいっ!?」

マークス「ち、父上…!」

レオン「これは…!?」

エリーゼ「い、いやあああああああっ!!お父様ぁっ!!口からなんかでてる!?」

カミラ「そんな…これが…」

ガロン「グ、グホォ…コレホドカ……!不味すぎる……あり得ぬ……!」

ガロン「おのれえええっ、お前!わしに何を食わせたぁ!あ、あがががががっ!体が!燃えあああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!(ブリブリブリブリュリュリュリュリュリュ!!!!!!ブツチチブブブチチチチブリリイリブブブブゥゥゥゥッッッ!!!!!!! )←ハイドラが抜ける音

フェリシア「うふふふふ…何でもありませんよ…ただ、ちょっとしたね…」ユラァ…

ハイドラ『があああああっ!!かくなる上は…血だけでも回収しなければ…!逃げねば!』ドロドロ

マークス「む、父上にまとわりついていた泥の怪物が逃げるぞ!捕まえろ!」

マクベス「あわわわっ、親衛隊!親衛たーい!」

勇者「む、怪しい奴!みんな行くぞ!突撃だあ!」

勇者B「続け続けえ!!」

勇者C「ありゃ?消えちまった…」

勇者D「まだその辺にいるはずだ!草の根を分けてでも探し出せ!」

ウオオオッ!イタゾ!コッチダ!

マークス「おい、フェリシア!貴様何を食べさせた!!」

フェリシア「うふふふふふ…うふ…ふふ………」ユラァ…

フェリシア「…」ユラ

フェリシア「あれ?私は…何を……あああっ!?わ、私は何て事を……ぐずっ…」

フェリシア「命でお詫びします…こんな事をしてしまった以上、もう生きていられません」チャキ

マークス「いいから何を食べさせたんだ!言え!!」

フェリシア「あわわわわわっ、手作りのおにぎりです!これっ!」

カミラ「これは……食べ物じゃないわね。石炭か何かかしら?」

レオン「いや、どちらかと言うと魔法物質に近いものじゃないかな…こんな物を口にするのは自殺行為だよ」

フェリシア「も、申し訳ございません…」

ガロン「…構わぬ……お陰で…正気に戻ったようだ…こんな気持ちは……何十年……いや、もっと前だろうか…?礼をいうぞ…何、いずれあの化け物にとられていたはずの命……もう無くなっても構わんわい…」

フェリシア「へ…?」

エリーゼ「お、お父様!?しっかりして!」

ガロン「そこにいるか……子供達よ……」

マークス「はい…」

ガロン「わしは…ようやく……長い夢から…覚めたようだ…長い…悪夢であった…」

ガロン「……力を求める余り…わしは…大切なものを失っていた……身を滅ぼし、心を捧げ……かつての友さえこの手にかけた………」

ガロン「子供らよ…許せ……駄目な親父だった…何一つ……父親らしい事をしてやれなかったな…」

ガロン「マークスよ…どうか、暗夜王国を…この国を頼むぞ…白夜とも手を取り合い、民達が笑って暮らせるような……そんな国に…」

マークス「…はい…」

ガロン「レオンよ…お前はマークスを手伝ってやれ……奴は余りにも真っ直ぐで…どうも残忍さや冷酷さに欠ける……あいつにはお前が必要だ……」

レオン「分かった……」

ガロン「カミラ、お前は…政治には向かなんだが、お前無しにはきょうだいは…バラバラになってしまうだろう……お前の海より深い愛…絶対的で、無条件の愛が…必要だ……」

カミラ「ええ…」

ガロン「最後にエリーゼ……ハハハ、お前は…この国の太陽になる……闇に差す一筋の光…民を導き照らす…太陽になるんだ……いや、その前にあの娘を……幸せにしれやることだ、な……」

エリーゼ「え…知ってたの…?」

ガロン「子を見守るのが父親の…務めだ…お前の花嫁姿…見られないのが残念だが……」

エリーゼ「…」

ガロン「カムイとアクアにも…伝えろ……酷いことばかりしてきて……虫の良い話かもしれんがな……まるで自分の子のように……愛していた…どうか許してほしい……とな…」

ガロン「泣くんじゃない、子供らよ…笑って送ってくれ…最後ぐらい…」

ガロン「どうやら……もうこれまでのようだな……迎えが来た……おお…お前は…!……許してくれるのか…スメ……ラ…」

ガロン「……我が子らよ…ありが……」




エリーゼ「お父様あああああっ…!ううっ…うえっ………」

カミラ「ほら……泣いてはダメよ…お父様がおっしゃってたでしょう……」

エリーゼ「でもっ……お姉ちゃんだって……ううっ……」

マークス「まるで…眠っているかのような……くっ……」

レオン「父上、どうか安らかに…」











マクベス「えっと…お取り込み中失礼します。ビフレスト!」フワワワン

レオン「…」ブチッ

レオン「…塵になるがいいっ!!!」

マクベス「ぎゃあああああああっ!!!」

レオン「で、また発作だったのかい?フェリシア」

フェリシア「ええ、済みません…丁度薬を向こうに置いてきて、切らしてたんです…」

レオン「そうか。困ったね…まあ今回は暴れて消火器を振り回さなかっただけ良いとしようか」

フェリシア「あ、有難うございます!」

エリーゼ「ええっ!?そ、そんなことまであったの!?」


____________________

カムイ(オボロさんとは全然違うベクトルで酷いですね…)

マークス「父上の状態は安定しているが、かなり衰弱している。流石に歳だ。今回のはこたえたのだろうな…回復し次第、遅れてこっちに来られるらしい」

マークス「それで、とっ捕まえた泥の怪物の一部がこれだ。今も中で暴れているが…常に一定の方向に向かっているようにも見えるな。お前が言いたいのは…これ、だろう?」

カムイ「ええ…そうですけど…兄上にしてはいささか察しが良すぎます…」

マークス「何、伊達に5分に一回刺殺されているわけではないぞ」

カムイ(なーんだ。ゲーム感覚か。がっかりです…)

カムイ「ええ、そうです。このドロドロが指し示す先に…ガロン王に寄生し、戦争を引き起こした黒幕が隠れているのです」

リョウマ「本当か、カムイ?」

カムイ「いえ、単なる憶測ですが…一応の筋は通っているかな、と」

リョウマ「それで、その調査を手伝えと?」

カムイ「そうです」

リョウマ「…承知した。母上を助けてもらった恩もあるし…何よりきょうだいだものな…うむ」

ミコト「ええ。行ってきなさい、リョウマ」

カムイ「…ありがとうございます!」



こうして白夜と暗夜の戦争は終結し、ひとまず打倒『黒幕』の旗印の下に団結したのであった。

第6章 その手が拓く未来 終わり






アクア「間に合わない…このままじゃ絶対に……今夜…もう今夜しかない…」

アクア?『ふふ、無事にあなた達がハイドラ討伐に成功すれば……あなたの負け。私は体を取り戻せる…』

アクア「させるもんですか…やっとの思いで手に入れた体を……世界を……やるわけには…!」

カムイ「アークアさーん!野営の準備手伝ってくださーい!」

アクア「ぐっ……今行くわー!」


アクア「手段を選んでいる余裕はない……カムイ……それでもあなたは許してくれるかしら……」

ひさーしぶりに過去編(外伝)

「ねえ、どうしたのよ。急にやめちゃって。変よ?」

あたしは装置の片付けを手伝った後、また彼の肩を担いで、階段を降りていた。電気を落としたばかりの機械は火傷するほど熱かった。すぐ横に見える目は虚ろで、何かを考えこんでいるように見える。

オーディン「…」

「ねえってば!」

オーディン「…!ああ、うん…悪いな。おえっ…」

「わわっ、こんなとこで吐かないでよね!」

オーディン「いや、大丈夫だ。それより…本当に知りたいのか?俺の口から?後悔するかもしれんぞ?」

「どういう事よ」

オーディン「成り行きに任せた方がいいかもしれん、という事だ。こういう事は自分で知るべきなのかも…」

「…そんなに酷いことだったの」

オーディン「…ああ。俺には応えたぞ。できれば二度と見たくないな。だが新しく商売の道具になるかもな…最近発掘されたVRとかいう技術と組み合わせればあるいは…うーむ…」

オーディン「おっと、すまん。話が逸れたな。どうする?決めるのはお前だ」


「…」

「ヒントちょうだい。いっこ」

オーディン「はあ……ヒントはな、『ベルカ』だ。これ以上言ったら全部言うことになるぞ」

「………そう」

オーディン「思い出したか?」

「うん」

オーディン「そうか。まあアレだ…頑張れ。うん。どんな事があっても、少なくとも俺とあいつだけはお前の味方だ。随分頼りないかも知れないが…ごほっごほっ」

「…ありがと」

口の端に笑顔を浮かべるだけで精一杯だった。それぐらい精神的に消耗した。

母さんもこんな気持ちだったのかな。上の空で残り仕事を済ませる。枕を換え、食事を作り、溜まっていた書類を片付けるのだ。片付けるべき書類があるのは良い事だ…少なくとも片付けるべき死体があるよりずっといい。

気がつくともう夜だ。廊下の窓から外を見ると、月が沈み、もう一つの月が出てくるところだった。月が二つあるのだ。太陽のかわりに白い月がのぼり、月のかわりに緑の月が沈む。つくずく不思議な場所だ。



お風呂

水音が心地よく響く…

風呂はいい。面倒な思い出を泡と一緒に押し流してくれる。たとえば子供に『ら』とかいうふざけた名前をつけたお陰で、死ぬ間際に『らめええええええええええ!!!』と叫ぶ羽目になったファウダーの爺さんのこととか。あんなのがおじいちゃんで、『ら』が父さんなのだ。世の中は理不尽かつ不可解な物事に満ちている。

だが、結局思考は堂々めぐりしてここに戻ってくる。どうすればいいのか。どうしたいのか。

部屋に忍び込んで、「されたこと」をそのまんまやり返してやるのもいいかもしれない。高熱で弱っている今なら押さえつけるのも楽だろうし。そして二人は幸せなキスを交わしたのでした。めでたしめでたし。


駄目駄目、問題外だ。


じゃあどうする?カミラ様にでも相談してみるか。





自室の高そうなマホガニー製の机に向かっていたカミラ様は、椅子を半回転させてこちらを向く。

カミラ「え?ベルカにそんな事を?」

「…はい。どうしたらいいか分かんなくなっちゃって…」

カミラ「そう…あの子がそんな事を…かわいそうに……いいわ。私が慰めてあげる。こっちにいらっしゃい…」

「え」

カミラ「ほら、遠慮しないで…」

香しく匂う黒髪がたなびき、背後から抱き竦められる。あたしや母さんには一生かかっても習得できない動きだ。私はメンデルを心の中で口汚くののしりながら、差し伸べられた艶のある唇に応え、神とメンデルとコザキの愛を一手に受けて熟れきった、みずみずしい肉体に溺れ



まあこうなるだろう。てごわいシュミレーション。勝ってくるぞと勇ましく。だが現実は非情だ。これは考えうる限り一番生易しい結末に過ぎない。実際に突きつけられるのは懲戒免職の四文字。そして自分は彼女のクビを望んでいない。

てごわい妄想を適当なところで打ちきり、茹で蛸にならないうちに風呂を出ることにする。蛸は思考能力をほとんど持たない。茹で蛸はもっと持たない。考えなければならない目下の要件があるのだ。大至急。

自室前、廊下


ドアの前に立つ。そうだ。開くんだ。扉を…開けば自ずと答えは出る。開け…開けドア…!動け、あたしの手…!

逃げちゃダメだ…!


逃げちゃダメだ…逃げちゃダメだ…逃げちゃダメだ…逃げちゃダメだ…逃げちゃダメだ…逃げちゃダメだ…逃げちゃ……ダメだっ…!!!








賽は投げられた。扉は開き、答えは出た。最初から問題用紙に書かれていたような答えだった。a=b、b=c。このときa=cとなる。Q.E.D






酷い夢だった。年の離れていない妹と、刺し違える夢。

私はその子を憎んでいた。彼女の憎しみが空気を通して、こちらにひしひしと伝わってきた。私にはきょうだいはいなかったはずだが、血を分けた姉妹が、これ程までに妬み、憎しみをぶつけ合えるものなのだと感心した。

おおよそ女の子同士が交わすべきでないような口論の末に、彼女はナイフを突き出してきた。だが私はそれをいとも簡単に見切る。妹は武人だったが、短刀の扱いには長けていなかったのだ。首の皮一枚を切らせただけでかわし、身を返す一振りで利き手の腱を切る。そして憎悪と屈辱を湛えた目に思い切り……ナイフを突き刺した。とっさに手に持っていた果物ナイフは眼窩を通して頭蓋骨を貫通し、彼女は痙攣して地面に倒れ臥した。私の愛した男の名を____彼女の夫の名を____口にしながら。

勝負は一瞬でつく。そこには騎士道も、名誉も愛もいらない。要るのは憎悪____どんな闇よりも真っ黒で、どんな光よりもはっきりした憎悪だ。

荒い息を整え、顔についた返り血を拭う時間は、そこの私には残されていなかった。どうやらナイフには猛毒が塗ってあったようだ。傷口から侵入したそれは大動脈を通じて全身を駆け巡り、頭の働きをゆっくりと鈍らせる。心臓にやんわりと、致死的な長期休暇を勧める。ちょうどこんな風に。

_________ねえねえ、心臓さん。どうですか?この際有給でもとって、グアムにでも遊びに行ってはどうですか。あなたはもう頑張りましたよ。二十数年間も休みなしに働き続けたんです。そろそろ休んでもいい頃でしょう________

草の青臭い匂いが鼻をくすぐる。倒れた妹の靴底が目の前にあった。馬鹿なことをしたものだ。私たち姉妹はとことん男運がないらしい。最後に私の頭に蘇ってきたのは男の顔でも、ましてやもう一人の妹の顔でもなかった。それは…



その顔は………


ここで目が覚めた。本当に酷い話だ。姉妹で殺しあうなんて。でもまるでその場にいるみたいに、臨場感のある夢だった。心臓がどくどくと波打ち、息は走ってきたかのように荒く、シャツはべっとりと背中に張り付いていた。熱はいつの間にか下がっていた。いい兆候だ。明日には起き上がれるようになるだろう。

だが大変まずい事に、体がぴくりとも動かない。誰かのあたたかい吐息が首筋にかかっている。油断した…心の中でそっと舌打ちする。年貢の納め時かもしれない。これは多分好き勝手して来た罰だ。でも覚悟は出来ていた。






開け放たれた窓からの風に、カーテンがはたはたと揺れる。そっと後ろ手に閉めたドアが、不気味なほど大きな音を立てたように思えた。月光に照らされてみどり色に染まった部屋は、昼間とは違う場所みたいだ。そっと自分のベッドに腰掛ける。

「ベルカ」

返事はない。ぐっすり眠っているようだ。時々うめき声をあげ顔を歪ませている。悪夢でも見ているのだろうか。

腰を上げて、真上から顔を見下ろす。今はメロンソーダみたいな色だけど、ぞっとするほど綺麗な寝顔だ。少なくとも今のあたしにとっては、すごく。バンダナをしていない分、顔のパーツが一つ足りないように見える。そして……触れるか触れないかぐらいに唇をつける。合成された微かなソーダの残り香を感じながら、同じベッドの中に潜り込む。後ろから手を回して、耳元にそっとこう囁くのだ。


「ねえ、あなたが欲しいのよ。ベルカ…」


以下本筋

______夜の白夜平原

ホー ホー

リリリリリ

アクア「もうすっかり秋ね」

カムイ「ですね。つい1週間前まで春だったんですけどね。不思議ですね。遅筆って罪ですよね。でも秋はいいです。こうして河原に座って、のんびりしていると何もかも忘れられる気がします…」

カムイ「でも良かったですよ。いつぞやみたいに両方に喧嘩を吹っかけたお陰で両方から追われる羽目にならなくて」

アクア「…そうね。喧嘩売ってるの?」

カムイ「アクアさんが軍師に向いていないということはよーく分かりましたよ。でもほんと、何でこんなにすんなり行ったんでしょうかね。私の気持ちが通じたんでしょうか…?」

アクア「そんな訳ないでしょう。馬鹿ね。あなた、あの時から何も成長してないのね。夢見がちで、お人好しで、世間知らず…」

カムイ「…え?」

アクア「あの人達が仮にでも手を結んでいるのは、ハイ何とか討伐のためでもあなたを慕っているからでもないの。彼らを一つの道に導いているのは…利権よ」

カムイ「ど、どういう事ですか!?」

アクア「あのね、何でこの世界に電子機器が溢れているか知ってる?『掘り出した』からよ」

カムイ「掘り…?」

アクア「どうやらここの世界はあっちとは根本的に成り立ちが違うらしいの。うわべだけは同じだけど、殆ど違う世界線に連れてこられたの」

カムイ「…」

リリス「その辺の説明は私から」ヒョイ

カムイ「あれ、リリスさん。留守の間に色々やらかしてたらしいですね。クビにならなかったんですか?」

リリス「ええ、リアルに処刑されそうになりましたけどね。マークス様が各方面に口聞きしてくださったおかげで何とか生きてます。仕事ももらってます」

カムイ「すいませんでした…」

リリス「いいんですよ。どうせこれが終わったら王族になれるんだし。家と研究室も取り戻せますし」

リリス「で、この世界の電子機器ですが、全部地下から掘り出されたものなんですね。何でも何千年も昔に滅びた古代文明が丸々埋まってるんだとか。例えばこのゲームボーイ」

リリス「何千年経っていてもちゃーんと動くんです。凄いですよね。いや本当にすごいんです。一緒に出てきた古文書によれば、戦闘機の爆撃を受けてもなお問題なく電源が付いたんだとか。とにかくもうすごいんです。ここには科学技術の真髄が詰まっているんです。私も一科学者として、こんな…」

カムイ「リリスさん、脱線脱線」

リリス「おっと、失礼しました。とにかくこの古代遺産の利権を巡って、白夜も暗夜も大忙しなんです。何しろそこらじゅうから出てきますからね。私の足元の一メートル四方の土地からでも、今までの常識をひっくり返すような恐るべき発明品が出てくるかもしれないんです」

リリス「とにかく土地、土地、土地なんですよ。まあ実際は掘るべき土地がありすぎて人手が追っついてないんですけどね。戦争どころじゃないんです。『銀の剣より鉄のツルハシを』なんて標語ができるぐらいです」

リリス「何が言いたいかと言いますと、彼らは先を越されたくないんですよ。調査と称してお宝を全部持ってかれたらたまったもんじゃありませんからね」

カムイ「ふーん………なるほど…………グウ……」

リリス「絶対わかってないですよねこの人…ねえ!ほら起きて!風邪ひきますよ!」ユサユサ

カムイ「寝る前に子供にお菓子を食べさせるなって言ってるじゃあないですか……ムニャムニャ」

リリス「ったくもう…」

アクア「よいしょ。私が天幕まで運ぶわよ。じゃあおやすみなさい」ヒョイ

リリス「おやすみなさーい。…あれ?なんか忘れてるような…何でしたっけね…?最近物忘れがひどくっていけないや…」ブツブツ

パサ

リリス「むむ、何か落ちましたよ…?ああ。私の冊子ですか。この感じだとカムイ様最後まで読んでないですね…全くもう…せっかくあちこち飛び回ったってのにやんなっちゃいます」パラララッ


白夜王国第二王女 ヒノカ

~中略~

その精神はただひたすらカムイを追い求めているようだ。非常に危険である。見つかったら背中を向けずに逃げるべし。しかし……これは彼女の本心なのだろうか?私の調査によると、「ある」日を境にしてこのような性質が現れているように見える。頭でも打ったのか?それとも誰かから操られているのだろうか?これ以上の詳細な調査は過去への干渉を引き起こすため不可能だ。自分の目で慎重に確かめられたし。


名前を言ってはいけないあの王国の王女 アクア

義理のいとこである。謎の多い人だ。例えばなぜ写真を撮るたびに胸部が異常に縮んだり膨らんだりするか。これは彼女が体内の脂肪組織を自由自在に伸縮させる事ができるということを示唆している。ケーメルン・ホックの宇宙第五法則を根本から覆す可能性が無きにしもない恐るべき謎であり、ソニー・タイマーやポリゴン・ショックにも匹敵する科学史に名を残す重大な謎である。



冗談は置いといて、彼女の行動には本当に謎が多い。気をつけたほうがいい。彼女はあなたの知っている人ではないのかも。人というものは得てして変わりやすいものだ。もしかすると、あなたの知っているアクア様はすでに致命的に損なわれ、失われてしまったのかも…なんてね。



リリス(いっけね…自分で見て来たことぐらい覚えとけって話ですよね…一応見に行ってみますか。今なら過去に干渉せずに調べられますからね)

リリス「うっ…寒ぅ…やっぱ明日にしよう…」

河原(事あるごとに干上がる)

チャッチャッチャッチャッチャッ ポチャン


チャッチャッチャッ ポチャン


チャッチャッチャッチャッチャッチャッチャッチャッ ポチャン


チャッチャッチャッチャッチャッ ポチャン

師匠「へっ、俺の勝ちだな」

ベルカ「…ねえ、師匠」

師匠「何だ?」

ベルカ「どうして私を拾ったの?」

師匠「…あの日の朝のZIPでポンで3回とも大当たりを引けてな。すっごく気分がよかったって痛い痛い痛い!つねるな!」

師匠「Mocosキッチンで『オリーブのオリーブオイル炒め~謎野菜と三種のチーズをのせて~』というのをやっていてな。材料を買ってきたはいいものの俺は料理ができない。だから適当な孤児でもさらってきて料理を仕込めばいいなと思っ」

ベルカ「…あなたを最後に師と呼べてよかった…眠りなさい。わたしの思い出の中に」

師匠「分かった分かった!その死を呼ぶナイフを下ろせ!俺が悪かったから!」

エリーゼ「ベールカ!何やってるの?」ヒョイ

ベルカ「…プロレスごっこ」

エリーゼ「わたしの知ってるプロレスごっこにナイフは使わなかったと思うよ?それともルール無用のダーティファイトなの?虎の穴なの?」

エリーゼ「ほら、おいたしたいで。ね?」

ベルカ「…うん」

ベルカ「じゃあそういうことで。邪魔者は消えなさい。消される前に」

師匠「へいへいわっかりました~おっかしーな~お父さんこんな子に育てた覚えないのにな~」スタスタ


エリーゼ「よいしょっ」ステン

エリーゼ「どうだった?白夜王国。酷いことされなかった?心配だったんだよ…?昼に平気な顔して歩いてこっちにくるまではだけど」

ベルカ「全然。酷いことはしたけど」

エリーゼ「ど、どんなこと!?」

ベルカ「レイプされそうな主君を捨てて散歩に行ったり、向こうの第一王女を窒息させて拷問したり」

エリーゼ「」

ベルカ「色んなことがあったけど、わたしは元気です」

エリーゼ「わたし、ベルカのことがよく分からないかも…」

ベルカ「…怖くなった?」

エリーゼ「ううん。そういうとこ、嫌いじゃないよ?むしろ好きだって。おかしいかな?」

ベルカ「…さあ」

エリーゼ「えへへ、ありがと」

ベルカ「…」

師匠「ヒューヒュー、お熱いね~」

ドスッ

師匠「ふごっ!?」ドサ

サイゾウ「こいつをもう親父とは思わん…じゃあな」ズルズル

エリーゼ「あれ?今の忍者さんって捕虜の…」

ベルカ「…義理の兄よ」

エリーゼ「えっ?ええっ??」


ジー ジー

コロコロコロ

ザワワ…

エリーゼ「でねでね、もうちょっとで全滅するところだったけど、レオンお兄ちゃんが助けてくれたの!」

ベルカ「…そう。私なんかよりずっとえらい目にあってたのね」

エリーゼ「でも面白かったな~それでね、サクラ王女のそっくりさんが来たの!」

ベルカ「…え?」

エリーゼ「すぐにメイドさんに連れてかれちゃったんだけど、面白い子だったな。今頃どこにいるんだろ…」


サクラ「ふんふふんふふーん…あ、エリーゼさん!また会いましtグフォッ」ガツン

カザハナ「え、えっへへ~すいませんね~うちのバカ主君がえへへ~初めまして~さようならっ!」ズリズリ


サクラ「いてて…何するんですかっ!」

カザハナ「あそこで会ったらこの前の不法進入がバレるでしょうが!どあほ!」

サクラ「行軍を共にするのですから、露見は時間の問題だと思ったんです」

カザハナ「あ、そっか…?そうかな…?」

サクラ「じゃあちょっと遊びに行って来ますね~」タタッ

カザハナ「あっ!ちょっと!全くもう…どっちがお転婆だか分かったもんじゃない…ま、なよなよしいよりはましなのかな…?」

カザハナ「秘密にしときなさいよー!はあ…刀でも磨くか。確か道具は…」

サクラの天幕

カザハナ「よいしょ、あれランプ点いてる」

ゴソゴソ

カザハナ(むっ…誰だろ?怪しげなやつ。どうみても白夜風の服装じゃないから…賊か!一人なら何とかなるかな。後ろからそーっと、そーっと…)

カザハナ「せいっ!」ゴン

???「あたーっ!うう、いてててて…」

カザハナ「あれ?第二王子じゃない。何やってるのよ、こんな所で」

レオン「あたたたた…いやね、ちょっと道を間違えて」

カザハナ「あんたたちの陣は川向こうだと思ったけど?え?何しに来たのよ。はっはーん…分かった。サクラ様でしょ。一目惚れってやつ?」

レオン「いやいや誤解だ。頼むから刀にかけた手を離してくれ。危ない。ついでに氷嚢をくれると嬉しいな」

カザハナ「ダメよ。あんたは女の子を天幕の中で待ち構えているようなろくでもない男なんだから」

レオン「参ったね…」

カザハナ「後ろに持ってるものを見せて。そうよ。ゆっくり手を前に持って来て…下ろす。そのまま頭の上に両手を上げて…」


カザハナ「何よこれ…スコップと植木鉢?魔導に使うの?」

レオン「いやね、さっきちょうどこのあたりに野生のトマトが植わってるのを見たんだ。白夜だけに生える結構珍しい品種だったから失敬して持って帰ろうと…」

カザハナ「嘘おっしゃい!何がトマトよ!第一、王族なんだから苗ぐらい簡単に手に入るでしょ!?」

レオン「それじゃあ意味がないんだよ。自分の足で探し回って、自分の手で土を掘り起こすことに意味があるんだ。むしろそっちの方に意味があると言ってもいい。じゃなきゃあこんなことしない…」

レオン「って君、暗夜に親戚でもいるのかい?王城で似たようなメイドがいたような…」

カザハナ(げえっ!)

カザハナ(どうしよう…オロチはヘラヘラしてたけど多分あの装置は白夜王国の技術の真髄を集めた最高国家機密…あれでワープしましたなんてバラしたら切腹ものだよね…)

レオン「いや待てよ…あれはもしかして本当に君たちだったという可能性は無いだろうか…?この説は一見荒唐無稽に見える。第一こんな短時間で大陸の端っこ同士にある王城を往復できるはずがない。だがここで一つの仮定をしてみようじゃあないか…そうだ、あのアホが作っていたワープ装置が何らかの要因によって白夜王国のどこかのそれと連動していた…?」

カザハナ(察し良すぎぃ!)

レオン「ふむ。その証拠にどうだい?その雪駄に引っかかっている草の切れ端は暗夜でしか見られない種類のものだ…」

カザハナ「!?」ヒョイ

カザハナ「な、何バカなこと言ってるのよ!そんな物付いてないじゃない!」

レオン「ほら。ちょっとカマかけたら直ぐに引っかかる。全く白夜は機密保持がなってないね…旧日本軍じゃないんだから…それじゃ」ヨイショ

カザハナ「ち、ちょっと待って、どこ行くつもり!?」

レオン「オーディンに聞いて確かめるんだよ。3日前ぐらいにその類の装置を起動しなかったか?って」

カザハナ「や、やめなさいよ!」

レオン「…何で?」

カザハナ「え、えっと…」

レオン「悪いけど僕もあんまり暇じゃないからね。それじゃ」

カザハナ「やめてよ頼むから…お願いっ!ね?そればっかりは何とか…」

レオン「無理だね。本当にそのワープ装置を使ったのなら不法入国及び条約違反になる。第一にこれは今までの輸送の常識をひっくり返せる代物だ。今まで成功例が無かったから研究開発費もスズメの涙ぐらいしか出てなかったけど、これを報告しさえすれば少なくとも250万ゴールド…今の250倍は予算が回るだろうな…あのバカも喜ぶ」

カザハナ「に、にひゃくごじゅう…お給金何ヶ月分かな…で、でも!あなたが言わなければいい話じゃない!」

レオン「言わない理由が無いし…」

カザハナ「お願いよ…何でもするから…」

レオン「ふーん…」

レオン「…」ニヤッ

レオン「そうだね。じゃあとりあえず、これからする事を誰にも言わないでもらえるか、な?」

カザハナ「!」ビクッ

レオン「いやいや、直ぐに終わるからさ、うん…良いって言うまで目、つむってて」

カザハナ(やっぱりこうなっちゃうよね…さよなら、綺麗なままの自分…)

レオン「ここか?こっちかな?いやこっちかな?」ガタッガタガタッ

レオン「おっと、こんなところにあったな。よかった、引っこ抜かれてなくて…」

カザハナ「え?」

レオン「うまく寝具の下に隠れてたんだね。何とか掘り起こせるかな…ちょっと、そっちの端持って。そうそう。せーの、よいしょっ!…ふう」

カザハナ「ほっ…え?どこにあるのよ。雑草しか生えてないじゃない」

レオン「芽だよ。ほら。ここんとこに生えてる…スコップスコップ…あれ、どこやったっけか」

カザハナ「はいこれ」

レオン「悪いね」ガッガッ

カザハナ「ねえ、あの時からこれを狙ってたの?あんたの兄さんがリョウマ様と殺陣を繰り広げてる時に?」

レオン「そうだよ」ガッガッ

カザハナ「あの距離から見えたの?」

レオン「そうだよ。目はいいんだ。いや、これには語弊があるな。正確には僕が苗を見つけたんじゃなくて、苗の方が僕を引き寄せたんだ」

カザハナ「…」

カザハナ(王族ってあほしかいないのかも…)

レオン「よしよし、とれたぞ~帰ったら植え替えないとね…氷嚢ももらえるかい?コブになったみたいだから…」



レオン「じゃあね。おやすみ」

カザハナ「頭、ごめんね」

レオン「いいよ。ワープ装置の件は…そうだな。僕の家臣が長年の基礎研究を実らせました~って形で発表することでいいかな?」

レオン「おやすみ」




カザハナ「…シャベル忘れてってる」

カザハナ「…」

カザハナ「刀…磨かなくっちゃあ」

マークスの天幕

サクラ「『や~りはじ~めた~ら~ね~むれない~♪』」

マークス「…何の歌だ?」

サクラ「このゲームのラベルに付いてたんです。酷く傷んでてタイトルは分からないんですけど…箱いっぱいに入ってる。ふむふむ、サブタイトルは何とか読めますね。『暗黒竜』に『外伝』。『紋章』に『聖戦』。『トラキア776』、『封印』、『烈火』、『聖魔』、『蒼炎』、『暁』、『新暗黒竜』、『新紋章』、『かくs」

ラズワルド「う、うわわわーっ!サクラ様、危ない!」ヒョイ

サクラ「え?どうされました?」

ラズワルド「いえね、一応セロBだから教育上よろしくないかな~って。えへへ」

サクラ「そうですか。この次は…あれ?この人私に似てますね…てかこれ」

ラズワルド「ぎゃあああああっ!?こ、これも危ないですよ!!」バッ

マークス「騒がしいぞラズワルド!仕事の邪魔をするな!今日の報告書を書いているんだ!」バニッバニッ

ラズワルド「すいません…」

ラズワルド「これもダメです。ほら、セロCでしょ?絶対ダメです」

サクラ「といっても私もう成人して…」

ラズワルド「い・い・か・ら!こんなものは不燃ゴミに出さないといけません。では」スタスタ

サクラ「まあいいです。暗黒竜からやってみますかね…ファミコン借りますよ~」

サクラ「第二王女…オン!」キュピーン!

サクラ「あれ、まだ一本箱の底に引っかかってましたか…む、『暗…』…?色褪せてて殆ど絵柄が見えませんね…マークスさん3DSありますか?」

マークス「あいにくこの前ピエリがぶち切れて画面を割ってな…スペランカーなぞやらせたのが間違いだった。最後の一台だったが、すまんな」

サクラ「いえいえ、いいんですよ。こっちやりますから…」



ラズワルド「全くもう…何で僕たちがゲームになってるんだろ…?そもそもこれ何千年も前の遺物だよね…?他人の空似…いやでもこれどこからどうみたってそれだもんね…クロム王子…ルキナも…」ブツブツ

ラズワルド「なんかおかしいんだよな…む、あれはエリーゼ様…とベルカか。相変わらずラブラブだ…やっぱり何かおかしいんだよなあ…」ボリボリ

エリーゼ「んちゅっ……ふふっ、さっきのシチューの味がするよ…?」

ベルカ「…」ヨシヨシ

ベルカ「…仕事を忘れてた。行かなくちゃ」

エリーゼ「ええっ?そんなあ…いいとこなのにぃ、ついてっていい?」

ベルカ「だめよ。危ないわ」

エリーゼ「ぷくっ…ひどいや」

ベルカ「だめなものはだめ。ほら、明日早いんだから。一人で帰れるわよね?」

エリーゼ「はあい…じゃあね。おやすみ」

ベルカ「おやすみなさい」



エリーゼ「まあついて行くけどねっ♪」

エリーゼ「そーっと、そーっと、気づかれないように…」

エリーゼ「むむっ、あっちの陣地に行くの?」

ベルカ(尾けられてる…ま、いっか)

ヒノカの天幕



ベルカ「…寝てる」

ベルカ「…」

ベルカ「…」ツマミ

ベルカ「…」フサギ

ヒノカ「…」

ヒノカ「~~!!」

ヒノカ「ぶはぁっ…はあっ…はあっ…変な起こし方をするな!何の用だ!」

ベルカ「静かにして。作戦会議よ」

ヒノカ「明日でいいだろ…私は眠いんだ…誰かさんに拷問されて死ぬほど疲れたからな…おやすみ」

ベルカ「そう…カムイ様がトランス状態のカミラ様にあんなことやこんなことをされてもいいの。あっそう。じゃあね」クルッ

ヒノカ「作戦会議しよう!今すぐやろう!」ガバ

ベルカ「その意気よ」クルッ



エリーゼ「なになに…よく聞こえない…」ペタッ

アサマ「何を、されているのですか?」

エリーゼ「わわっ、だ、誰?」

アサマ「質問に質問で返すのは褒められたことではありませんが…私、ヒノカ様の家臣のアサマと申します。で、何をされているのですか?」

エリーゼ「えっと…かくかくしかじかで」

アサマ「ふむふむ。しかし、さっきから見張っておりましたが誰も入っていきませんでしたよ?」

エリーゼ「見逃したんじゃないかなぁ。あの子そういうの、得意だから」

アサマ「そうですか。じゃあこっそり覗いてみるのもいいかもしれませんねえ」

エリーゼ「え…?」

アサマ「考えてもみてください。あなたという女性がいるにも関わらず、むざむざほっぽり出してヒノカ様とこっそり密会」

エリーゼ「そんなことする人じゃ…ないと思うけど…」

アサマ「ちょうど天幕のこっちの方が破れているんです。昼に繕っておくように言われたのですが、面倒くさかったので無視したのが良かったですね。ちょっと引っ張れば中に気付かれずに様子を伺えますよ」

アサマ「で、来るんですか?来ないんですか?」

エリーゼ「…一緒に見る」

アサマ「そうですか。ではこちらへどうぞ」


ヒノカ「さて…私の方でも色々探りを入れてみたが、何も出て来なかった。そっちはどうだった?」

ベルカ「何も。カミラ様やマークス様にもそれとなく聞いてみたけど、多分何も知らないと思う。だから考えられるのは

・謎の第3勢力による干渉

・アクアの独断

・やっぱりあなたの妄想

ぐらいしかない。あくまであなたを信用するとして、私のリサーチが間違っていないとしたら、消去法で彼女の独断ということになる」

ヒノカ「ではやはりとっちめて聞き出すのが…」

ベルカ「…不意を突かれたとはいえ、あなたを一瞬でノック・アウトできる人間よ。二人掛かりでも上手く捕まえられるかどうか…それに人を呼ばれたら厄介なことになる。説明のしようがない以上、なるべく事を荒立てたくない」

ヒノカ「じ、じゃあなぜ私を躊躇なく拷問したんだ?」

ベルカ「…人望って知ってるかしら?」

ヒノカ「………」

ヒノカ「分かった。じゃあどうする。何か事が起こってからでは遅いだろうに」

ベルカ「…彼女の目的が何なのかわからない限り、対策のしようが無い。襲われるのはカムイ様出なければならないのか?襲うのはあなたじゃなきゃいけないのか?そもそも女性でなければならないのか?……何だか言ってたら馬鹿らしくなってきたわね…」

ヒノカ「言うな。ふん…そうだな、それなら私がカムイを、お前がアクアをそれぞれ見張ればいいんじゃないか?一応暗夜の密偵であるお前が元捕虜の素性を調査するのに不思議はないし、私がカムイを白昼堂々尾け回していても怪しがるものはいないだろう」

ベルカ「そうね。悪く無いと思う。いくつか改善点はありそうだけど………!シッ…」

ヒノカ「敵かっ!?」

ベルカ「静かに…誰かいる」

エリーゼ(あちゃー…)

アサマ(いけませんね。捕まるのは御免です。逃げましょうか)

エリーゼ(そーっと、そーっと…)

ベルカ「待ちなさい」ヌッ

________________
__________
……


……
__________
________________


エリーゼ「ごめんなさーい」

アサマ「もうしませーん」

ヒノカ「全く…盗み聞きなど王族として恥ずかしくはないのか?」

エリーゼ「だってぇ、ベルカがかまってくれないんだもん…」

エリーゼ「任務だ出撃だって、全然私の側にいてくれないじゃない…ひどいよ…」

ベルカ「そう…ごめんなさい。でも盗み聞きは駄目。どこから聞いてたの?」

アサマ「最初っからです」

ベルカ「…どうする?秘密を知っている人間が多ければ多いほど、秘密の保持は難しくなる」

ヒノカ「む…監視できる人数が増えただけ、いいんじゃないのか?」

ベルカ「ど素人が2人増えただけよ」

ヒノカ「ぐむむ…」






アサマ「結局私もやらされるんですか…あーあ。さっさと帰って寝たいんですけどねぇ」スタスタ

ベルカ「黙りなさい…先ずはアクア様を探さないと。むっ」スタスタ

アクア「…」

アサマ「カムイ様を担いで天幕に…これは危ないですね。どうしますか?」

ベルカ「……彼女が自分で襲わないとしたら、誰か人を呼んでそれとなくけしかけるはずよ。薬を使うか、催眠術を使うか…だからさっき立てた作戦通り先回りしてその可能性を確実に一つ一つ潰す」

アサマ「もし万が一アクア様がご自分で襲う気になったとしたら?」

ベルカ「……その時は嬌声が聞こえた時点でこのトーガラシ爆弾を天幕に放り込むわ。それどころじゃなくなるだろうし、動きを封じられるから堂々と現行犯逮捕できる」

アサマ「…本当に上手くいきますかねぇ?」

ベルカ「……別に世界がひっくり返る訳でもないし」

アサマ「本当にそうですか?」

ベルカ「…何が言いたいの?」

アサマ「はて、何のことやら…ほら、そうこう言っているうちにアクア様が出てきましたよ。二人に連絡しましょう」

ベルカ「…作戦開始。これより任務を遂行する」

アサマ「何ですかそれ?」

ベルカ「ジンクスよ。ジンクス。成功率が心なしかあがる」

アサマ「ふーん。興味ありませんね」

ベルカ(組むんじゃなかった…まあいい。どうせしくじっても世界が終わる訳じゃないし…)



ベルカ(でも、本当にそうかしら…?)


終わりの見えない脇道

ルーナ「ねえ、起きてるんでしょ…?」

一瞬間を空けて、そっと、気づかれないぐらい小さく首を動かす。

ルーナ「思い出したわ。全部。ぜんぶ」

「…ごめんなさい」

ルーナ「謝って欲しくなんか、ない」

ルーナ「ねえ、分かるでしょ?私がどんなに苦しかったか。身体が真っ二つに裂かれるみたいに苦しんだわ。足の先から頭のてっぺんまで」

「…ごめんなさい。償えることなら何でもする。何ならもう一度…」

ルーナ「ねえ、こっち向いてよ」

そう言って彼女は締め付けを緩めた。気づかないうちに、それは私が動けないほど強くなっていたのだ。ほっ、と息をついて、慎重に身体を半回転させる。

ルーナ「私の目を見て…そう。何が映ってる…?」

顔にかかる暖かい息。あの時と同じにおいだ。

ルーナ「私を汚した女の子。私を傷つけ、蹂躙した人。でもね、私にはあなたが必要なの。分かる…?」

「…分からない」

ルーナ「…寒いわ…もっと…」

窓を閉めようと身体を起こしかけたが、彼女は目で拒否する。再び毛布に身体を沈め、背中に手を回す。暖かな吐息。

ルーナ「あなたの…アズールのとは全然違った。あいつ、意外と慇懃無礼でね…すごく丁寧なの。す・ご・く」

ルーナ「でもあなたのは何ていうか…まるで死体を解剖する医学生みたいだった。精神的な交流や交わりとかじゃなくて、ただ、私を貪るためだけに解剖した。自分の手札を一切見せることなく私のカードを把握しちゃったのよ」

ルーナ「あなたはね、ほじくり出しちゃいけないところまでほじくりだしたの。周りのみんなはおろか、あたし自身でも気づかないようなところまで」

ルーナ「ねえ、分からないの…?」

分からなかった。分かりたくなかった。

ルーナは今にも泣き出しそうだった。涙がめの縁に溜まって、今にも溢れ出しそうだった。あの時は舌でそっと舐めとったけれど、今はそうするべきではなさそうだったのでやめた。

ルーナ「私を見てよ、ベルカ…最後まで。私が望むのはそれだけよ…」

「……どうすればいいの?」

ルーナ「こうして私を抱きしめて…話を聞くだけでいいの。そしてたまにあいづちを打ってくれればいいの。『それで、どうしたの。ルーナ』って。簡単でしょ?」

確かに簡単だ。少なくともやくざのボスの寝首をそっとかいて、そっとアジトから脱出するよりずっと簡単だ。

だけど、それは間違いだった。『本当の意味で』人の話を聞くのは人を殺すよりもずっと難しいことなのだ。私はそれを知らなかった。

次の日

間の悪いことに、次の日から3人で地方視察に行く事になっていた。最初の視察地はフウマ公国。先日、公王が「謎の死」を遂げたため、新しく王が選出されたそうだ。事実上暗夜の属国であるフウマの公王には、平時ならガロン王の息のかかった者がなるはずである。

残念ながらこちら側の諸事情によりそれが行われず、(そんな事が問題にならないぐらいの大問題があったのだ)現実としてこちらサイドが全く把握していない人物が、どんな魔術か忍術を使ったかは分からないがとにかく公王になってしまったのである。

もし戦が本格的に始まれば、フウマは真っ先に前線となる位置。万が一にでも白夜に寝返られることがない様に、先に手を打っておくのだ。つまり、新王を確実に暗夜の傀儡と化させる。第一王子はああ見えて多忙なので、代わりにカミラ王女が行くというわけだ。

表向きにはただの「就任祝い」となる。私たちにもそう聞かせられている。が…これが上記のような企みの上にあるということは明らかだ。

さらば愛しき我が家。しばしの別れ。そしてエリーゼ様…届かぬ想いと分かってはいるけど…

ルーナ「ねえ!聞いてるの!?」


いけない。耳をつんざくようなキンキン声は相変わらずだ。昨日のアレが嘘みたいだ。

ルーナ「ほら、さっさと飛竜を小屋から出しなさいよ!今日はこっちに乗るんだから!」

「カミラ様のに乗るんじゃなかったの?いつもそうだった」

ルーナ「るっさいわねえ…あたしが乗ってあげるって言ってるの!感謝なさい!」

「…そう」

飛竜に鞍を二つ付ける間、彼女はずっと神経質そうに髪をいじっていた。指に巻き付けたり解いたり、その仕草はなぜか私をいらいらさせた。

ルーナ「随分大人しいのね、その飛竜。飛竜って持ち主に似るのかしら?」

「…持ち主じゃないわ。この子は大事なパートナー。何でそんなこと聞くの?」

ルーナ「母さんの友だちにすっごくおっちょこちょいな天馬乗りがいてね。その天馬もものすごくおっちょこちょいなの。すぐ飼い葉桶を蹴っ飛ばすし、味方を敵と間違えて噛み付いたり、花壇を踏み荒らしたり…悪気があったんじゃないんだろうけどね」

ルーナが故郷のことを話すのは初めてだったが、それを口には出さなかった。

ルーナ「あんたの飛竜もそう。感情を表に出さないみたい…いや、出すのが苦手なのかしら…?乗り手に従順ではあるけど、きちんと面倒を見てあげないといけないタイプの子ね…」

「…見ただけでそんなことが分かるのね。すごいわ」

ルーナ「そうでしょそうでしょ!あたし、動物の目利きには自信があるの!」

すぐ自信過剰に陥るのも彼女の悪い癖だ。丁度準備が整った。先に離陸した主君が空中を旋回しながら、私たちのそれを待っている。

「準備出来たわ。乗って」

ルーナ「遅いじゃないのよ!もっと早く付けなさいよね!」

ルーナ「で、この子なんて名前なの?」

「…ニノ」

ルーナ「ふーん。聞かない名前ねー。よろしくね、ニノ!」

そう言って彼女は後ろの鞍にまたがって、ぺしぺしとニノの背中を撫でた。動物に接するときの彼女は、人間に接するときの彼女よりずっと気楽そうに見える。素直で、楽しそうだ…

自分も鞍に飛び乗り、鐙に両足をかけて手綱を握る。逆鱗をそっと撫でてやると、彼女は嫌がって、私を振り落とすような仕草をした。といってもこれは私達の一種の挨拶で、ニノの方も本当に嫌がっているわけではない。

「どうどう…さあ、しっかり掴まってて。それっ」


そして、特に語るべきこともなくフウマ公国に着いた。そこには語るべきことが山のようにあった。

______無限渓谷にて

マークス「…随分とすっ飛ばしたな」

カムイ「できれば四月までに終わらせたいですからね」

マークス「そうか。何のことかよく分からんが…」

ガッタガタガッタ

マークス「この瓶の中の生き物は、どうやらこの谷の底に帰りたいらしい。どうする?ここに降りて調査するとしたらそれ相応の器具が必要だが…」

リョウマ「今回はここまで…のようだな。残念だがうちの軍でザイルは標準装備ではない。帰ろうか、みんな」

アクア「まずいわね…帰っちゃうらしいわよ。あの人たち」

カムイ「ま、待ってください!ここには…ここには何かあるんです!今すぐ対処しなきゃいけない危険な物が!」

マークス「カムイ…なるべくお前の希望には添いたいが、こればかりはどうしようもない。何しろ土地の領有権を主張するためだけの寄せ集めの調査団だ…ただでさえ面倒なここの領土問題をこれ以上こじらせる訳にはいかない。もし…この下にどちらの領土でもない…前人未踏の楽園でもあれば別だがな」

カムイ「…」ニッ

カムイ「……それがあるんですよ」

マークス「…私にハッタリは通じないぞ、妹よ」

カムイ「本当です。何なら天馬でひとっ飛びして見てきますか?」

マークス「そんなものはありえないと言っているんだ。それにお前も知っている通り谷の中には常に異常な電場が渦巻いている!飛兵がほんの5秒も滞空するだけで落雷するのだぞ!そんな危険なところに行かせるわけにはいかん!」

カムイ「垂直落下すれば落ちませんよ!」

マークス「雷は落ちないかもしれないがな、それこそ自殺行為だ!谷底に叩きつけられて死ぬに決まっている!」

ミコト「…やめなさい」

カムイ「だから大丈夫だって言ってるじゃないですか!落ちますよ!私!」

マークス「できるものならやってみるがいい!ハッタリで命を捨てられるのか?」

ラズワルド「…マークス様、落ち着いて落ち着いて。これ以上額が割れたら」

マークス「黙れ!それとも貴様が先に落ちてみるか!?」

ラズワルド「そ、それは…」

ミコト「…やめなさい」

カムイ「もうたくさんです!アクアさん、リリスさん、行きましょう!3人で十分ですよ!」

アクア「……三人じゃ流石に勝てないわよ、あいつ」

カムイ「向こうまで行けばひみつ道具で何とかしてくれますよ!そうですよね?リリスさん?」

リリス「わ、私ですか…?えっと…無理じゃないですかね…さすがに。お城に着く前に死んじゃう…」

マークス「もう十分だ!…私の負けでいい。危ないから戻ってこい!カムイ!」


ミコト「お黙りなさい!!」


マークス「!」

カムイ「!…母様」

ミコト「…王国は有るのです。忘れられてしまっただけ…オロチ」

オロチ「あいやっ!今お持ちするぞい…」



ミコト「この資料を見てください。これらの綿密な調査に裏付けられた資料は、全て『この大陸に昔、別の文明が存在した』ことを示しています」

マークス「そんな事は分かっている。現にその辺を少し掘り返すだけで『がらくた』は幾らでも出てくるのだ」

ミコト「いいえ、それではありません…それはもっとずっと前の話。今問題なのは、『超古代文明』の滅んだあと、さらにもう一つ別の文明があったかもしれないという事です」

ミコト「様々な解釈は存在しますが、この証拠からただ一つ確実に言える事は…『古代文明は存在して、無限渓谷の奥底に沈んでいった』」


レオン「おいオーディン…我らが誇る暗夜王国の考古学の老人たちはこんな重大な事も知らなかったのかい?」

オーディン「え、えーとですね…考古学は俺の担当じゃないので何とも…」

レオン「…」キッ

オーディン「ひえっ…すみません…どうやらふたつを混同してたみたいですね…古代の臣民の紡ぎし幻の文明…その解の難解たるや」

レオン「…来月の給与査定、楽しみにしておくといい。ついでに研究予算も減らしてやる。大幅にな!」

オーディン「そりゃあ楽しみが増えて何より…」


マークス「…今ひとつ納得がいかない。確かに示唆しているのは分かる。だがどうしてこれが『かつて古代文明があった決定的な証拠』になるのだ?全ての資料に出てくるようだが…この印がなんだというのだ?」

ミコト「いいですか?旗印…ねえ、そこの人」

エルフィ「…」モグモグ

エルフィ「…」ゴク

エルフィ「私ですか?」

ミコト「ええ、槍を少し拝借しますよ。オボロさんも」


ミコト「こうやって二王国の国旗を重ねて光源にかざすと…見えてきませんか?」

マークス「…これは…!」

ミコト「やっとお気付きになられましたか…そうです。これこそが古代文明が存在した証拠。今現存する白夜暗夜の両国が、この古代文明のなごりと考えるに値する十分な証拠なのです」


カムイ「あれ?そんな成り立ちでしたっけ?確か…」

アクア「少し違うみたいね。さっきも言ったけどここは『同じようで少しずつ違う』のよ。気にしちゃだめよ。大事なことを見失いたくなければね」


ミコト「では…善は急げと言いますしね。行ってください、皆さん」

マークス「そうだな。一考する余地は…あるかもしれない。…ミコト王女も来るのだろう?」

ミコト「いいえ、私はここまでですね。長い間国をほったらかしにするわけにはいきませんし」

マークス「何だと…!」

ミコト「スメラギ様が生きてらしたら私もご一緒できたのですが…」ニコッ

マークス「……分かった。留守を頼もう」



レオン「…本当に大丈夫なのかな」

ヒノカ「カムイのやつ、真っ逆さまに落ちてったぞ…大丈夫か…」

レオン「とうっ!」

ヒノカ「うわっ、レオン王子まで…ううっ、深そうだな…」


エリーゼ「…ねえベルカ」

ベルカ「なに。急いでるから10字以内でね」

エリーゼ「何でお姫様だっこ?」

ベルカ「着地の衝撃を抑えるためよ。あなたに怪我なんかさせたらわたしは…」

エリーゼ「ベルカ…」

ベルカ「…その場でりんごペーストにされてしまう」

エリーゼ「…あそ」

ベルカ「愛してるわよ、エリーゼ…ふんっ!」ピョン

エリーゼ「ちょ、ちょっと待っ」

イヤアアアアア……


オーディン「時は満ちた…今こそ我らの崇高且つ至極なる望みを解放する時…定めを」

ルーナ「うっさいわね…なによ、もうマスターしちゃったの?暗夜式ジョーク」

オーディン「ふっふっふっ、残念ながらな。だが今の俺は実力のうち僅か5パーセントすら」

ルーナ「降りるわよ」ピョン

ヒュ-……

オーディン「お、おい!ちょっと!」

ラズワルド「やっぱり怖いね…」

オーディン「そうだな。俺たちだけこっそり水たまりワープを使っても…」

ラズワルド「いや、そっちじゃなくてね。こんなにスムーズに行っちゃっていいのかなって」

オーディン「ふっ…きっと異界の神々に遣わされし異形の使者たちに、この世界の神々も恐れをなし、その憐憫を垂れたのに違いない…」

ラズワルド「なんか出来すぎてる気がするんだよなぁ。じゃっ」ピョン

オーディン「えっちょっとおま…くそっ…高いとこは苦手だなぁ…どうにもあの橋を思い出すんだ…あの時は頑張ってたよな、あっちの『俺』」

リリス「どうかしましたか?」

オーディン「ん?別に?」

リリス「そうですか。一緒に頑張りましょうね!お父様の目を覚まさせましょう!」グッ

オーディン「そうか。お前にとっては親父さんなんだもんな…」

オーディン「いかんいかん、無駄に感傷的になってしまった。…俺は漆黒のオーディン!いざ、遥かなる旅路へと旅立つドンッ

オーディン「なんでですかあああああ!!!」アアアアアア……

アクア「さ。後は私達だけね。降りましょう」

リリス「そうですね。じゃあ…」

アクア「一つ、いいかしら?」

リリス「はい」





アクア「『星の夢』って、知ってる?」





リリス「…いいえ。どこでそれを?」

アクア「別に。知らないなら構わないもの。…そうそう、従姉妹同士で敬語ってのもなんだから、これからはタメってことにしない?」

リリス「いやあ、これは私の数少ないアイデンティティですから簡単に外す訳には…」

アクア「フェリシアと丸被りだと思うのは私だけかしら?」

リリス「げっ…言われてみれば…そうかもしれませんね。考えときましょう…でも今は!早く飛び込まないと!」

アクア「…そうね」

アクア「…」

リリス「どうしましたか?」

アクア「…いつか、後悔することになるかもしれないわよ」

リリス「?何がですかぁ?」

アクア「別に。さ、行きましょう」

______透魔王国、名もない平原

カムイ「名前はあるんですよ。ただ…忘れられているだけ」

ヒノカ「そうか。いいところだな…ここは。静かで。空気もうまい」

カムイ「ってうわああああっ!?悪霊退散!悪霊退散!疾風迅雷!閉所防御!」

ヒノカ「お、落ち着け。何もしないから、ほら」

カムイ「嫌ですっ!私にはもう心に決めた人がいるんですよおっ!」

ヒノカ「そりゃ本当かカムイっ!誰だっ!教えろ!教えてくれえええええっ!」ガックガック

カムイ「いやですぅ!助けて誰かぁぁ!」ガックガック

リョウマ「おいヒノカ…やめろ」

ヒノカ「い、いや兄上これは…」

リョウマ「やめるんだ。妹の胸ぐらを掴んで揺さぶるのはあまり褒められた行為ではなかろう?」

ヒノカ「む…」

リョウマ「もう子供じゃないんだ、少しは分別とか責任感という物を持ってだな…」

リョウマ「袖を引っ張るんじゃない。何だ、サクラ。ん?LINEスタンプ…?」


マークス「ほう…面白いな。半分死にに行くような気持ちで飛び込んだが…このとおり生きている。いや、本当はここはあの世ではないのか?岩も浮いている…うむ」

マークス「ラズワルド、ちょっとこっちに来い」

ラズワルド「なんですか?いてててっ!な、何するんです!いきなりつねらないでください!」

マークス「ふむ、夢でもないようだな…」

ラズワルド「何で自分で確かめないんですか!」

タッタッタッ

伝令「大変ですマークス様!東方向から敵襲!現在交戦中です!一刻も早く増援を!」

マークス「何だと…!双眼鏡を貸せ!むむっ、あれは忍びの部隊ではないか。おまけにフワフワした幻術まで使用している。どういうことか説明してもらおうか…リョウマ殿」クルッ

リョウマ「漆黒の騎士…リフすら二枠もあると言うのに…俺は…!何かしたか俺は…!そもそも覚醒から」

マークス「説明してもらおうか、タクミ殿」クルッ


タクミ「それはこっちの台詞だね。西の方から突進して来るドラゴンマスターの大群はあんた達の指揮じゃないのか?」

マークス「竜騎士隊が紫の電飾を始めたとかいう話は聞いたことがないな。そっちはどうだ?」

タクミ「紫の忍者は隠密に向かないんじゃないかな」

マークス「ふむ…ここは著しく治安の悪い土地のようだな。仮にも王族にに先制攻撃を仕掛けるとは。少し君主に灸を据えてやる必要がある。この瓶詰めの泥とも関係があるかもしらん」

マークス「となると…1度暗夜軍と白夜軍を高台に集結させ、集まってきた敵を一気に撃破するのが良さそうだ。幸いにしてここが高台になっている…」

タクミ「僕は反対だね。そんな真似したら十中八九、そのまま包囲殲滅されるだろう。逆に味方を散開させて、各個撃破した方がいい。王族六人を軸にして、その他家臣と一般兵に補佐をさせよう」

マークス「あり得ん。それこそ各個撃破されるだけだ」

タクミ「いいや、散開しかないね」

マークス「集結だ!」

タクミ「散開だ!」

伝令「何でもいいから早く指揮をお願いします!もう限界です!」


タクミ「くそっ…片方だけじゃどうしても無理がある、か。全く…こんな事なら兵士にまともな装備を着けさせておくんだった」

マークス「そうだな…ここはひとつ、カムイかアクアにでも全軍の指揮を任せてみるのが良いのかもしれん。それなら文句もあるまい?」

タクミ「確かに…姉さんの凄まじい指揮は昨日見たばかりだ。異存はないよ。姉さん!カムイ姉さーん!」


カムイ「…はあ、はあ…えっと、今の味方の配置がこうで…そうですね。こんな動きが良いんじゃ……はあ、はあ……良いんじゃないでしょうか」

マークス「ほう…斬新の一言に尽きるな。どうやら我々とは付いている目の位置が違うらしい」

タクミ「はあ…こりゃ凄いや。支援ね…カミラ隊とエリーゼ隊…」

タクミ「ん?大丈夫かい?顔色が真っ青だけど」

カムイ「いえいえ!全然!…けほっ…大丈夫ですよ!…けほっけほっ…」フラ

マークス「おい、大丈夫か!?直ぐに侍医を…」

カムイ「い、行かなきゃ…早く…敵が…」フラ

バッタ-ン!

マークス「おいカムイ!しっかりしろ!カムイ?カムイーッ!!!」

________________

__________

____


________1年前、ロウラン城 王の間

カムイ「私達の最後の戦いです!大丈夫。私達の絆は、こんな仏像の化け物なんかよりずっと強い…」

カムイ「重装兵は前へ!後ろを盗賊隊が補佐!魔道兵は討ち漏らしを狙って下さい!」

カムイ「行きますよ、全員突撃です!!」





カムイ「分かっています。ぐっ…あなたの犠牲は無駄にしません!一気に畳み掛けましょう、皆さん!」





カムイ「う、嘘でしょう、こんなに増援が…このままじゃハイドラに触ることすら…」

カムイ(どうする、どうするカムイ…乗るか、反るかです…今撤退するなら損害も軽微ですけど…トドメを刺すチャンスはもしかしたら永遠に…)

ウオオオオオオ!!

カムイ「わ、勝手に行かないで下さい!」

カムイ「…………もう一か八か…」

カムイ「彼に続きますよ!目標はハイドラただ一人!全軍前進して下さい!」





カムイ「う………ぁ……………」

アクア「まだ泣くのは早いわよ!カムイ!剣を握りなさい!」

カムイ「で、でも……ひぐっ………」

グッ

アクア「あなたがここで死んだらどうなるのよ!!暗夜は!白夜は!ここで散った仲間たちのために!今剣を握りなさい!」

カムイ「でも、もう…………」

アクア「…」

ハイドラ『…ドウシタ、モウオワリカ…ワガムスメヨ…ミソコナッタゾ……』

アクア「チッ…あんたも結局駄目だったの…そう…」

アクア「でも、もう関係のない話ね…」

アクア「…シグレ、カムイを私の後ろに」

シグレ「…はい」

ハイドラ『オワリカ…ジャマダ…ソコヲドケ……」

ゴオオオオオオ…

カッ!

ズウウウウン…

アクア「…!」パラッ

ハイドラ『アクマデテイコウスルカ…ムダナコトヲ……』

カムイ「あ、あくあ……さん……」

アクア「…」キッ

カムイ「!」ビクッ

ゴオオオオオオ…

カッ!

ズウウウウン…

………

……


ハイドラ『…ドウシタ…モウオワリカ!モウオワリカ!!』

カムイ「…や…」

カムイ「やめて下さいッ!もう…」

ハイドラ『…』

カムイ「わ、私は…何でもします…だ、だから……シグレさんだけでも……」

シグレ「ま、待って下さい!母さんは…あなたのために!」

ハイドラ『フン…トクイノジコギセイ…ヨカロウ………イケ』

カムイ「お願いです…行って下さい。ほら…握手です」ギュッ

シグレ「しかし…!」

カムイ「いいから!」

シグレ「…」ギュッ

シグレ「?」

シグレ(これは…ペンダント)

カムイ「…帰ってきて下さいね。絶対に」

シグレ「…ええ」

バサッ バサッ バサッ

ハイドラ『フン…イッタカ…』

シウウウウ…

ハイドラ「さあ、来るんだ。案内してやろう、我が娘よ」

カムイ「む、娘…?」

ハイドラ「そうだ。言っていなかったか?」

カムイ「それに、なぜ殺さないのですか…?」

ハイドラ「はっ…1度折れた心は簡単には直らん。1度折れた剣を鍛え直すようには行かんよ。それより…」

カムイ「なぜ彼を行かせたのです?」

ハイドラ「…お前の代わりを…探すためだ。異界のお前なら…きっと…」

カムイ「そもそもどうしてこんな大事なことをべらべら喋るんですか!?あとどうして口調がカタカナじゃないんですか!?」

ハイドラ「もう尺が…ないんだ。1のメンタルもそう長くは持たん」

カムイ「?」

ハイドラ「来い。案内してやろう」

ハイドラ「もたもたするな!早く来い!カムイ!」

ハイドラ「カムイ!早く…ん?どうしたうずくまって…おいカムイ?カムイ!」



____

_________

________________

______カムイの天幕

カミラ「そう。分かったわ。補給が済み次第出発ね。私には異存はないけど…」

パサ

カムイ「……ぅ…あう……」

カミラ(可哀想に、悪い夢を見ているのね…できれば代わってあげたいぐらい…)

カミラ(獣舎係の子が起こすなって言ってたけど…)

カミラ「…カムイ…起きなさい…カムイ…」ユサユサ

カムイ「…いやです…1人はいや……リリスさん…死なないで…」

カミラ「…」ユサ

カムイ「リリスさん……やぁ………ぁ……」

カムイ「…」パチ

カミラ「…おはよう。ずいぶんうなされてたわ…大丈夫?」

カムイ「だ…大丈夫です…すいません。心配おかけして」

カミラ「ふふ…あなたはいっつも人のことばかり考える。たまにはほら、お姉ちゃんに思いっきり甘えなさい…?」

カムイ「…わたしは…そんな人間じゃありませんよ」

カミラ「?」

カムイ「あっ…そうだ、戦いはどうでしたか!?」ガバッ

カミラ「ええ。アクアが代わりに頑張ってくれたから、心配はいらないわ。ほら、ゆっくり休みなさい…きっと疲れてたのね。疲れた時は悪い夢を見るものよ…」

カムイ「そうですか。良かったです…」

カミラ「どう?紅茶でも飲む?」

カムイ「……ありがとうございます。姉さんが淹れてくれたんですか?」

カミラ「いいえ、アクアがわざわざ来てくれたのよ。こちらの陣には来づらいだろうに、大変ねえ…」

カムイ「そうですか…アクアさんが」

ガシャン!

カミラ「うっ…!」

カムイ「きゃあっ!だ、大丈夫ですか!?」

カミラ「どこからか…矢が飛んで来て…」

カムイ「け、ケガは!?」

カミラ「ティーポットに当たって助かったわ…ほら、ベッドの陰に」

ルーナ「どうしたのよ!凄い音がしたわよ!?」パサッ

カミラ「…犯人はまだ近くに居るはずだから、探して捕まえなさい。ケガしないようにね」

ルーナ「任せてちょうだい!ベルカ!行くわよ!」

タタタタタ…

カムイ「変ですね。ティーポットを狙うなんて…」

カミラ「そんな訳ないでしょう。きっと私かカムイを狙って逸れたのよ」


ルーナ「ちょっと!何ニヤニヤしてるのよ!」タタタタ

ベルカ「別に…」タタタタ


カミラ「まあ、どうせ誰かの悪戯よ」

カムイ「今敵って言ったじゃないですか!」

カミラ「…この矢、刃が付いてないもの」




リリス「ちゃんと眠れてますか?」カキカキ

カムイ「…はい」

リリス「ごはんは三食食べてますか?」カキカキ

カムイ「…はい」

リリス「じゃあ何でこんなひどい数値なんですかね…」

リリス「そんな顔しないでくださいよ。元気元気。ね?笑顔が一番!」ニッ

カムイ「…ソレイユさん……あんなに素敵な笑顔だったのに…」

リリス「むー…」

カムイ「…」

リリス(ふむ、ここは一喝して元気を出させるか…)

カムイ「…」ボ-

リリス「ってカムイ様!」

カムイ「!」ビクッ

リリス「あなたがそんな事でどうするんですか!死んで行ったみんなのためにも!あなたが!立ち上がらなければならないのでしょう!?」

カムイ「…」

リリス「…」


カムイ「もう嫌なんです…何もかも…どうせ私なんて何の役にも立ちやしないんですから…」

リリス「姉様…」

カムイ「こんな事言うのも何ですけど…とどのつまり……あなたは私の妹じゃないんです…みんなも…リョウマ兄さんもマークス兄さんだって…!みんな、みんな私が殺してしまった…!」

リリス「…」

カムイ「私はひとりぼっちです…アクアさんも…何だか人が変わってしまったみたい…」



リリス「…言って欲しいですか?」



カムイ「…え?」

リリス「『あなたのせいじゃない』そう言って欲しいですか?」

カムイ「そ、そんな…」

リリス「言うのは簡単です。モルヒネを打つのと同じで」

カムイ「…う…向こうのリリスさんなら……言ってくれました…背中を撫でながら…」

リリス「…私はその人ほど優しくないということです。愚かでもない」

カムイ「う……ぁ……」

カムイ「そうですよね…他人……ですもんね……所詮……」

リリス「……人間は1年で『変わる』と言われています」

カムイ「…?」

リリス「一部の神経組織を除いて、人間の体は全て、とりかわってしまうんです。筋肉も、血液も、髪の毛だって」

リリス「皮膚組織なんて数日でビフォーアフターします。でもいまあなたが見ている私と、3日後に見る私…違うということになりますか?」

カムイ「…」フルフル

リリス「ひとりぼっちになりますか?」

カムイ「…」フルフル

リリス「それと何が違うんですか?だって、私たちはみんな、あなたが大好きです。…あなたの元の世界の私たちと同じように」

カムイ「…」

リリス「きっと…わかる日が来ますよ」

リリス(自分のミスで仲間を…それもきょうだい全員も含めて亡くして、自分も死にかけた上に子供達も目の前で負けて…とどめに向こうの『リリス』が自殺…持ち前の能天気さで今まで頑張られてたみたいですが…この地で指揮を行なった事で、一気にトラウマがフラッシュバックしてしまったのですね)

リリス(体の傷は簡単に治ります。発達した今の医術なら傷跡すら残りません…でも心の傷は……たった今、どくどくと血を流していたとしても分からない)

リリス(ごめんなさい…姉様の傷…見つけられなかった…ちょっと抱きしめたくらいで満足しちゃって…『あなたはもう立ち直った』なんて…ずっと辛かったでしょう…自分の愚かさに腹が立ちます)

リリス(心を癒すには時間がかかります。しかも必ず傷は残る…損傷が激しいほどそれは酷くなる…)

リリス(泣き続けるのも、童心に帰るのもいい。どれも心を守る強力な戦術です)

リリス(それでも…立ち上がらなければならない。運命は残酷です)

リリス「…あなたのせいでみんなは死にました。でも、あなたが気にするべきことではありません。彼らはそのために戦ったのですから。あなたがすべきなのは…立ち上がること。あなたならハイドラを倒せます…本当は元の世界のハイドラをも、ね」

リリス「その為なら私は何でもします。何でもできます。立ち上がって、剣を握るまでそばにいますよ。ずっと」

カムイ「…ありがとう…ありがとう、リリスさん…!」ギュウウ

リリス「ふふ、どういたしまして。苦し…」

リリス「どうです?元気も出てきたことだし、気晴らしに星界でも行ってみますか?」

カムイ「水浴びでも行きませんk」ガッ

リリス「やめなさい。いくら見てる人がいないからってやっていいことと悪いことがありますからね。この辺に予備の水晶が…」ゴソ


______マイキャッスル

リリス「着きましたね」

カムイ「なんか酷く焦げ臭いですけど…」

リリス「ああ、マクラディアさんが頑張ってくれたから…」

カムイ「…この炭の塊は…もしかして…」

リリス「…私の城に侵入した報いです」

カムイ「…」ゾワッ

リリス「後で充電してあげないと。お疲れ様です」

マクラディア「ドウモ」ゴゴゴゴゴ

カムイ「ううん…これ全部リリスさんが作ったんですか?」

リリス「そうですよ。向かって左半分が材料とゴミ。右半分が完成したガラクタです。持っていってもいいですよ」

カムイ「へえ………あれ?このシューターは…」

リリス「ええ、姉様が帰るための……そうだ、ぶっ壊れてたんだっけ…」

カムイ「…どれぐらいで直るんですか?」

リリス「……部品を異界に取りに行けばいいんですが、生憎ゲートが黒焦げになってましてね…」

マクラディア「スミマセン…」

リリス「ちょっと待っててくださいね」




リリス「次元転移装置は無傷…電場制御プロトコル半壊…LCTギア全壊…むむ…」ガチャガチャ

カムイ「ど、どうですか?」

リリス「話しかけないでください」

カムイ「す、スミマセン…」



リリス「結論から言って非常にまずいです」

カムイ「ちょっと焦げてるようにしか見えませんが…」

リリス「精密機器が半分ダメになっています。逃げる時に無理やりうごかしたから…」

カムイ「…え?」

リリス「何でもないです。あり合わせの材料じゃかなり低い出力になる…とてもじゃないけど異界に転移できるほどじゃありません」

カムイ「じ、じゃあ待ちますよ、わたし。部品さえ取りに行けばいいんでしょう?」

リリス「よくないです。あなたを来た時とぴったり同じ時間に向こうに送らなきゃいけない。私の力では異界に転移させる事は出来ても、時間を移動させることは不可能です。姉様がここに来るのに使った、あの機械でもなければね」

カムイ「で、でも色々な別世界を回ったっていってたじゃないですか!」

リリス「ラジコン式カメラを使ったんです。物質の転送は簡単なんですが、生物となると…倫理上の問題もありますし…」

リリス「とにかく、これ以上の問題を起こさないために、姉様を来た時とぴったり同じ時間に転送しなければならないのです!姉様がハラキリをして、こっちの世界の過去に転送されたその瞬間に、ね。でも絶対間に合いません。これの開発に10年かかりましたから。頑張っても3年…」

カムイ「じ、じゃあ…」

リリス「私がタイム・マシンを発明するまでここに待ちぼうけってことです…」

カムイ「そんな…じ、じゃあ来たときと同じ機械を使うのはどうですか!?だってロウラン城にあるんでしょう?」

リリス「あれは…最後の手段ですね。命令通り動いた試しがありませんし…また変な世界に飛ばされたらたまったもんじゃないでしょう?」

リリス「そうですね…何か強い…ものすごく強力な、世界の理を揺るがすようなイベントでも起きれば…その波に乗せて今のマシンで時間を超えられるんですが…ま、ありませんよね。そんなもの」

カムイ「…」

リリス「それとも物質転移用のタイム・マシンを使いますか?だいたい60パーセントが失敗して分子レベルで粉々になっちゃうんですけど…」

カムイ「…あるんですよ。それが。『白夜と暗夜の空が入れ替わる』…」

リリス「な…」

リリス「なんですって…!それなら…十分です!わ、分かるんですか!?その日が!」

カムイ「ええ、今からちょうど1ヶ月後の今日。…この世界では分からないんですか?」

リリス「ええ。そちらと違ってこっちでは太陽暦を使っていますから…技術が発達していないんです。やれやれ、それなら間に合いますね」

カムイ「良かったァ…一時はどうなる事かと思いましたよ」フラ

グシャ

カムイ「?」

リリス「あ…」

カムイ「…え?」

_____ロウラン城 正門前

リョウマ「こりゃまた随分飛ばしたものだな…」

カムイ「あと一月がリミットですからね。D判定連発するアホに書かせるわけにはいけませんので」

リョウマ「?」

カムイ「あとベルカさんの外伝は大幅に短縮してほんへに無理やり組み込むんだそうです…」

リョウマ「???」

カムイ「と、とにかく!全ての手がかりはここを指しています!是非とも調査すべきです!」

マークス「…待て」

マークス「もう茶番はやめにしようではないか、カムイ…アクア…ん?お前たちは何かを隠している。そうだろう?」

カムイ「…」

マークス「我々をこの国に導いたのはそもそもお前たち2人だ。ここが何であるか知っていて、私たちを戦力として利用したのだ…」

カムイ「…」チラ

アクア「…」コク

カムイ「はい。今まで隠していたことは謝ります。私とアクアさんはこの国の…『透魔王国』の王族なのです。もうすぐ話そうと思っていましたが…」

タクミ「ま、待ってくれ、あんたは僕らのきょうだいで…白夜王国の王族のはずだろう!?」

タクミ「兄さん!」

リョウマ「…すまん」

タクミ「…まさか…あんた知って…」

リョウマ「…すまぬ」

カムイ「詳しい話は後です。今は一刻も早くハイドラを、ガロン王を操り大戦を引き起こした元凶を、叩かなければなりません」

カムイ(そして『星の夢』の部品を回収し、私が壊してしまった部分を埋めなければならないのです…リリスさん…ごめん)

カムイ「また、私とアクアさんは…これまで通りそれぞれの国で過ごすことになると思います。つまりこの国は分割占領してしまって構わないということです。ハイドラを倒してくれさえすれば」

カムイ(そして然るべき時にそっと元の世界に帰れば…めでたしめでたし、と)

マークス「…理解するのにもう少し時間が欲しいが…取り敢えず今はその『元凶』を叩くのが先だろうな」

カムイ「ええ。行きましょう、皆さん」


リリス「カムイ様」

カムイ「あ、リリスさん。確かここで別れるんでしたっけ?」

リリス「はい。私は一旦、自室で一通り道具を揃えてから大広間で合流します」

カムイ「本当に護衛は付けなくていいのですか?」

リリス「大丈夫ですよ。いざとなればブレスで戦えますから。それに、この隠し通路は私しか知らないんです」

カムイ「そうですか。では…」




リリス「ふう…愛しの我が家……ああ愛しの我が家…」スタスタ

アクア「…」スタスタ

リリス「あれ、アクア様も?」スタスタ

アクア「ええ」スタスタ

リリス「えへへ、恥ずかしいところを聞かれてしまいましたね…どうしてですか?」スタスタ

アクア「…」スタスタ

リリス「…?」スタスタ

リリス「…」ゴソ

リリス(…光線銃…腰にぶら下げてたはずなのに…どこに落としたんでしょう?…ま……まさか…!)


_____リリスの部屋兼研究室


アクア「…これは何?」スチャ

リリス「ああ、私が作った槍です。有名な古代の『あにめーしょん』から作ったコピー品ですね。赤い二股の槍でしょう?見栄えがいいんで壁にかけておいたんです」カチャカチャ

アクア「…そう。使えるの?」

リリス「ええ、良ければ差し上げます」カチャカチャ

アクア「そう…」

アクア「…手を挙げなさい」


リリス「いま忙しいんです…後にしてください。おっかしいなー…この辺に置いて…」カチャカチャ

リリス(やばい…!やばい…!どうしよう…!?レイガン…はバッテリーが上がってる…!ビームサーベル……は接触不良…動かない……!)

アクア「…胃ろうの穴が欲しいかしら?」

リリス「ま、冗談は後にしてくださいよ…」カチャカチャ

リリス(あわわわわわ…考えろ考えろ…そうだ竜に変態………で…できない……!?り、竜石は…!)

アクア「この……」プルプル

リリス(何か武器…!)

アクア「…!」ブンッ

リリス「え、A.T.フィールド!」

ガギィンッ!

ガ…シャ-ン!

リリス(一撃で…破れた…!?そうか…この槍……)

リリス「…っ!」

アクア「甘いわ。ふんっ!」ズンッ

リリス「ぐ…ほ…」ズズ…

リリス(お…おなかを殴られた…息が…)

アクア「答えなさい。時間がないの…」スチャ

リリス「…」

リリス(床に何か…落ちて……エクスカリバー……じゃなくて百科事典ですか…ははっ、笑っちゃいますね…)

アクア「…3、2、1…」

リリス「けほっ…な、何の…ことですか……!」

ザクッ

リリス「…!アアッ…!い、痛……」

アクア「とぼけないで。…次はお腹を突くわよ。死にたくないわよ、ね?」

リリス「ど…どうせ生かしておく気もないのでしょう…?」

アクア「あなたの返答次第ね。…もう一度聞くわ」

アクア「…『星の夢』はどこ?」

リリス「…………」

リリス「玉座の間の奥です…ヘッドセットがテーブルにあります……頭にかぶれば、あとは自動操縦です……」

アクア「そう。ありがとう」

リリス「…ッ……一つだけ教えてください。あなたは…何を叶えるつもりなのですか…?」

アクア「…おしゃべりが過ぎたようね」


ズチュッ

リリス「…ァ…が…はっ………」

アクア「両脚がやられてたら…流石のあなたも動けない。そうでしょう?」

リリス「…痛い…痛いです……血が……止まらない……」

アクア「…血……青色なのね」

アクア「…」ゴソゴソ

アクア「…これね。コントローラー。貰っていくわよ。ふうん…ほかにも幾つか失敬するわ」

リリス「だ…駄目…いけません……」

アクア「…喉を突いたほうが良かったかしら」

リリス「…!」

アクア「…じゃあね。…さよなら」タタタタ



リリス「…」

リリス「…止血…どうするんだっけ…?血が……足りない……何も……考えられない……?」

リリス「痛い…!」

リリス「ここで……終わりですか……」

リリス「とどのつまり…ミジメに…死んでいくんですね…ひとりぼっちで……ハゲに撲殺されたり……人形に撲殺されたり……蜂の巣にされたり……挙句に自殺……?私は…あの子達とは…違うのに………」

リリス「…もっと生きたかった……もっともっと……」

リリス(…うらやましい…です……カムイ様の…側で……腕に抱かれて……死ねた……あの子……た…ち……きっと……しあわ…せ…だっ………)

リリス「………」

リリス「…」



_____ロウラン城 王の間の前

カムイ「とうとうですね…皆さん、準備はいいですか?」

リョウマ「ああ。この奥にいるお前の父親を倒せば…全ては終わるのだろう?」

マークス「本当にいいのか?仮にも…」

カムイ「…………」

カムイ「……決めていた…事ですから。それにあべこべにやられちゃうって事も、あるかもしれませんよ?そしたら笑っちゃいますよね。あはっ?」

タクミ「笑えないよ…ねえ、大丈夫かい?緊張でおかしく…」

カムイ「…」

カムイ(扉を通して伝わるハイドラの『気』…私の世界のものよりずっと弱いです。それにそこまで邪悪でもない…総力を結集すれば、難なく倒せるはず。上手くいけば生きたまま捕虜に…)

カムイ「行きましょう。私が先陣を切ります」

タタタタ

アクア「…間に合った」

カムイ「アクアさん!良かった、間に合いましたね!…リリスさんは?」

アクア「もう少し時間がかかるみたいよ。最終兵器を持ってくるって意気込んでたわ」

カムイ「ほう、それは心強いですね!」

カムイ「…?」

アクア「どうしたの?カムイ」

カムイ「………」

カムイ「いえ、何でも無いです。行きましょう」

カムイ「涙…出てる……?」

アクア「?」

カムイ「い、いえ。何でもないです…どうしちゃったんでしょうね?」

カムイ(どうしてでしょう?まだ何も終わっていないのに…)

ギギギ……


_____ロウラン城 王の間

レオン「ここが…王の間だね。随分と散らかってるな…獣舎係の子の私物だっけ?姉さん」ペキッ

カムイ「危ない!」

レオン「ぬおおおっ!?」

ボボボボボボボボンボボンボボボ

リョウマ「くっ……罠か…何とか避けられたな。みんな無事か?」

サクラ「はい。ちょっと着物のスソが焦げちゃいましたけど…」シュゥゥゥゥ…

ツクヨミ「直撃しておるではないか!!髪が燃えとるぞ!?」

サクラ「え?何か?」

ツクヨミ(これが噂の世紀末か…?)

カムイ「み、皆さん大丈夫ですか!?怪我とか…」

マークス「……………」

マークス「カムイ、先ほどの言葉、本当に偽りはないのだな?本当は私たちを騙していて、今の爆発で全員始末する予定だった…なんて事は無いのか?」

カムイ「…(どうしましょう!?今回ギュンターさんぎっくり腰で寝てるんですよ!?)」チラ

アクア「…(どうしたもこうしたも無いでしょうが!適当に誤魔化して切り抜けなさい!)」チラ

カムイ「ま、まさかそんな事あるわけ…」

ゼロ「ふっ…言い訳は見苦しいぜ、カムイ様。先に言っておくが、あんたは今非常に不利な状態にいる」

カムイ「な…」

ゼロ「突入の直前になってあの突然の告白…マークス様の突っ込みが無ければ黙っておくつもりだったんだろう?…あんたがこの国の……透魔王国の、王族である事を!」

カムイ「そ、それは…」

ゼロ「おまけにこの罠、あんた達だけ掛からなかったじゃねえか…リリスが操作してるんじゃ無いか?今もどこからか覗いているんじゃあ無いのか!?」

カムイ「い…ち、違います!」

ゼロ「ふっ…その必死な目、いいねぇ…ゾクゾクさせやがる…」

カムイ「や…ぁ…」

レオン「やめろ。姉さんが嫌がってる」

ゼロ「くっ…真実に指を引っ掛かけた刹那に…都合よく邪魔が入る。アツいシチュエーションじゃねえか…」

レオン「…そこまで言うのなら追求を許してもいいだろう。しかしゼロ、お前は姉さんとアクア、それにリリスの造反をはっきり証明できるのか?」

ゼロ「…一度突っ込んでみないことには分からんですよ…ふっ…そうですね、シロだったら、俺が1ヶ月トマトの水やり当番をするというのはどうです?」

レオン「…それは確かに魅力的…」

カムイ「…レオンさん!」

レオン「…僕に証明することができたなら…正式な尋問を許そう。…ただし、あまり過激な手を使う事は許さないからな」

ゼロ「…だってよ、カムイ様。どうだい?弟にトマトと引き換えに売られた気持ちは…?」

カムイ「酷いです…」

レオン「馬鹿馬鹿しい。こんな頭のネジとナットとボルトが全部緩んでるような姉さんに、そんな大それたことができるわけないだろう?水やり当番は頼んだよ、ゼロ」

カムイ「だからって……いや……」

アクア「…頭の否定はしないのね。でも困った…」

ハイドラ「おーい…誰か気づいてくれー…」

カムイ「今取り込んでるので、後にしてくださいね……」

ハイドラ「」


ゼロ「ふっ…暗夜国家保安委員会(通称AKB)のトップとして、屈するわけにはいかねえんだよ。大人しく…ミジメな姿を晒してくれねえか…?カムイ様」

カムイ「そ…そんなはずないじゃありませんか!私達が…皆さんを殺そうとするだなんて!」

ゼロ「『真実』を探し出すことが俺の役目…あんたのイチバン弱くて感じるところを…繰り返し、執拗にこねくり回す。フェリシア!」

フェリシア「は、はい!」

ゼロ「…調べは大体ついてるんだ。お前の知ってること…知られたくないこと…洗いざらいぶちまけちまうんだよ。その台の上で…!」

フェリシア「あわわわ…え、えーっと…具体的には?」

ゼロ「ちっ…お前、ここは初めてか…?力抜け。…カムイ様の『傷』の事だ。毎日背中を流してやってる…知らないはずはない」

フェリシア「えーと…あ、は、はいっ!頑張ります!」


フェリシア「どきどき…じ、じゃあ喋りますね…?」

カムイ「フェリシアさん…」

フェリシア「カムイ様…私、信じてます。この証言が、カムイ様の疑いを晴らせたらいいんですけど…」

カムイ「…」




フェリシア「えーと…少し前の話です。カムイ様が城塞を出る前…」


アクア「待った!」

フェリシア「はわわ…わたし、なんか言っちゃいましたかっ!?」

アクア「具体的に、どれぐらい前の話かしら?」

フェリシア「そうですね。アクア様は知らないんでしたっけ…それがよく覚えてないんです。自分で書いたのを見返すのもめんど臭い…」

アクア「見返しなさい!」

フェリシア「一月前ですっ!!一月前に…」



フェリシア「その前の日までカムイ様、熱で寝込んでらしたんです。当然その間、湯浴みも召されてませんでした」


アクア「待った!」

フェリシア「ひゃうっ!な、何ですか!?」

アクア「…どれぐらいの間かしら?何の病気で?」

レオン「…姉さん、いや…姉さんじゃないんだっけ。アクアさん。それは意味のない質問だ。ここですべきではないんじゃないかな」

アクア「…ちっ…」

レオン「僕が答えよう。大体一週間ぐらい高熱を出して寝込んでいたね。高熱で、意識も朦朧としていた。僕とマークス兄さんは忙しかったから、カミラ姉さんが付きっきりで看病していた。エリーゼはうつるといけないから近づかせなかったよ」

アクア「…」

フェリシア「えっと…続けますね」


フェリシア「ずぼらなカムイ様は、召使いと同じお風呂に入るんです…私を呼ぶのが面倒なんでしょうか?」


フェリシア「そこで…私、見たんです。あとでよくよく考えて見たんですけど、やっぱりおかしいなーって…」


アクア「待った!」

アクア「…一体何が『おかしかった』のかしら?」

ゼロ「異議あり」

ゼロ「ふっ…証人は口に出そうとしてる。せっかちな女の子は嫌われるぜ…?」

レオン「僕も知りたい。フェリシア…続きを」

フェリシア「はい!えーと…おかしかった事、でしたよね?」

アクア「…」



フェリシア「…私、見たんです。カムイ様…全身が傷だらけでした」


アクア「待った!」

アクア「…それが『おかしかった事』だったのかしら?ふっ…笑止千万ね。カムイだって訓練で傷付くことぐらいあるでしょう?」

フェリシア「いえ!そんな事ありません!あれは確かにおかしかったんです!…あの痛々しい古傷…それなりに沢山の人のお背中をお流しして来ましたけど…あのっ……ギュンターさんと同じくらい酷かったのは初めてです…」

マークス「な…何だと!?カムイ!それは本当か!?」

カミラ「そんな…!カムイ。誰にいじめられたのか教えなさい。…可愛いカムイにそんな傷を付けた大馬鹿もののスットコドッコイには…」

カムイ「…」

カムイ「…はい。できれば秘密にしておきたかったのですが…これは私自身の秘密の特訓のせいです。別に怪しい物ではありませんよ」

レオン「…それなら一応矛盾はないね。審理に移ろうか」

フェリシア「あ、あの…違います!おかしいって思ったのはそれだけじゃなくて…」

レオン「ふーん…」



フェリシア「あの、あの…確証はないんですけど…カムイ様…寝込む前はあの傷、無かったと思うんです…」


レオン「…」

アクア「…」

マークス「…」

ヒノカ「…私達、いい感じに空気だな」

リョウマ「…家族会議なら後にしてもらいたい。いったいどこに問題があるのか?」

サクラ「問題って…あ、ありまくりじゃないですか!だって…だって…」

タクミ「普通、布団で寝てるだけじゃ生傷は付かない。それとも暗夜のベッドは人に噛み付くのかい?」

ゼロ「くっ…これは看過できない事実だな…カムイさんよ。説明してもらおうか…」

ゼロ「…」

アクア「…何を説明するのかしら?」

ゼロ「その…クッ…どうやら俺も混乱してるみてえだ…」

ゼロ「その、あんたが入れ替わった…事についてだ!カムイ様!」

レオン「…随分自信が無いみたいだね」


アクア「…ゼロ、あんたの主張は体を成していないわ。あなたはカムイが…偽物と、本物のカムイが合わせて二人いたというの!?」

ゼロ「…そこが分かんねえとこなんだ。仮に傷のあるカムイ様が…透魔王国から差し向けられて、何らかの手段で本物のカムイ様を排除して、今ここにいるというという仮定は…」

レオン「…成り立たないだろうね。その仮定の上では、父上を操った奴とこのカムイ姉さんを操ってる奴が同じって事になるだろう?『そいつ』は白夜と暗夜の戦争の激化を望んでいるはずだ。ミコト王女を身を呈して守るはずがない」

ゼロ「…その行動で俺たちを騙したあとで、こうして一網打尽にする計画だったのかもしれませんぜ…?両国の王子がここで倒れれば、否応無しに戦争は激化します…」

カムイ「もう…やめてください…」

ゼロ「…!」

アクア「まさか…やめなさい!カムイ!」

カムイ「ごめんなさい、アクアさん。私はもう…嘘を付けない…」

カムイ「私は皆さんに二重の嘘を付いていました。いま、二つ目の真実を皆さんに…」

カムイ「信じてもらえないかもしれません。私も初めは半信半疑でした。でも…夢では無かった」



カムイ「私は…カムイではないのです」



ザワザワ ザワザワ

マークス「そんな…まさか…!」

エリーゼ「お、お姉ちゃん…本当なの!?」

アクア「…」

カムイ「…私は…別の物語からやって来ました。滅んでしまった未来から…時間の旅人として」

マークス「…本当はその世界に帰るために、私たちを利用した…本当のことを言ったら引き留められると思った…そういうことか?」

カムイ「…はい。でも知られてしまった以上、帰るわけにはいきませんね…」

エリーゼ「…ぷぷぷ…」

サクラ「…ふふっ…」

タクミ「……ははははっ…」

レオン「ふ…」

マークス「…はっ…」

リョウマ「…笑わせるな、カムイ」

カムイ「…ごめんなさい…」


リョウマ「ふっ…可愛い妹の望みを、なぜ私たちが遮らなければならないのだ?」

カムイ「え…?」

リョウマ「お前はお前なりに頑張った。それで十分だ。お前が本当に幸せになれるのならば…俺たちは一切の協力を惜しまない」

カムイ「で、でも…私は皆さんを…」

リョウマ「…気にするな。本当の罪は嘘をつくことではないだろう。仮にお前が無理をしてここに残るというのなら…俺たちはきっと悲しむだろう。お前がいなくても…俺たちは何とかなる。その…『神器』とやらが無くてもな」

カムイ「…みなさん……ぐずっ……」

マークス「泣くのはまだ早いぞ。泣くのは…あいつを倒してからだ、な」

ハイドラ「…」

マークス「何だ、貴様。その顔は。私たちと戦うのだろう?」

ハイドラ「いや。お前達の話を聞いていたら…何だか…昔のことを…ふっ……本当の家族……無償で、絶対の、尽きることのない愛……ありえないはず……」

マークス「…?」

ハイドラ「…だが、私はお前達と戦わなければならない。私を倒すことで…お前達は本当に一つになれる。けじめは付けなければならぬ…」

マークス「何をごちゃごちゃと…聞こえんぞ!」

ハイドラ「……準備ができたら…かかってこい。私達は一切の手加減はしない…」

マークス「………ああ…」

マークス「カムイ、今度こそ最後の決戦だ!総指揮を取れ!」

カムイ「はい…!」

カムイ(手の震えが…弱くなった…!)

カムイ「皆さん……これが本当に最後の戦いです!絶対に……みんなで帰りましょう!ハイドラ!!あなたもです!」

カムイ「あなたを…助けてみせる!」

ハイドラ「…来るがいい、我が娘よ」




「異議あり!」



カムイ「!?」

リョウマ「!?」

マークス「!?」

サクラ「?」

タクミ「何?」

アクア「……く…!」

カミラ「…ベルカ、TSUTAYAの延滞料金なら私が…」

ベルカ「…まだ…審理は終了していない!」バンッ!

ベルカ「レオン王子!」

レオン「…!…な、何だい!?」

ベルカ「私は……この場でアクア王女を告発する!…この…この狂言の、黒幕として!」


アクア「な……何を馬鹿なことを!今はハイドラを…」

ベルカ「…はっきり言って…あなたはカムイ様と比べ物にならないほど『異常』よ。あなたも同じく別の世界からやってきたようだけど…」

ベルカ「……まだ、あなたには隠していることがある!それを暴くまで、この審理は続けなければならない!もちろん、決戦も延期しなければならない!」

ハイドラ「ほう…私も知りたい」

ベルカ「時間ならあるわ。私は…あなたの嘘を暴く鍵を持っている。アクア王女…」

レオン「…ベルカ、もしその言葉に偽りがあれば…」

ベルカ「その時は…エリーゼと一緒に亡命でもするわ」

レオン「それお前にメリットしかないじゃないか!そもそも姉さんと兄さんは同意してるかもしれないけどね、僕は同性婚なんて断じて反対…」

ベルカ「…証人としてヒノカ王女を召喚する」

レオン「聞けよ!」


ヒノカ「…」

レオン「……あんたの芳しくない噂は色々と聞いている。×××を×××で×××したとか、×××に×××したとか、色々とね」

ヒノカ「…私が証言するのは、その『噂』についてだ」

レオン「へぇ…それは興味深い」

カムイ「アクアさん…!本当なんですか!?まだ隠していることがあるって…」

アクア「……だまれ……」

カムイ「…え?」

アクア「…なんでも無いわ。この疑いを晴らすために、あなたも協力してくれるでしょう?」

カムイ「え、ええ!勿論ですとも!」

レオン「…ヒノカ王女、ではアクアの造反行為について、『証言』を」

ヒノカ「…ああ」



ヒノカ「…白夜の皆は知っていると思うが、私はカムイに……そう、色々と……しようとした。繰り返し試みてきた」


アクア「待った!」

アクア「は…話にならないわね。何をしようとしたのかしら?」

ヒノカ「それはお前が…!」

ベルカ「異議あり!」バシィッ!

ヒノカ「うおうっ!?な、何をする!」

ベルカ「…これについての詳細な発言は、されるべきでは無い。そうよね?」

レオン「…まあ、そうだね。異議はあるかい?」

アクア「…そうはいかないわ。事実を…明らかにしなければならないのでしょう?」

ベルカ「…」バシィッ!

アクア「…っ!」

ベルカ「見苦しい時間稼ぎ…無駄は省かなければならないわ」

レオン「そうだね。異議を却下する」

アクア(…もう…ダメなのかしら…?)


アクア『…もう時間切れよ。残念ながら…あなたの負け。大人しくカラダを明け渡しなさい?』

アクア(まだよ…!絶対に諦めない…!まだヒノカの洗脳も少しは残っているはず…そこを…突く!)



ヒノカ「しかし!それは私の意思で行ったことでは無い!」


アクア「待った!」

バンッ!

アクア「じゃあ……一体誰の意思だっていうの?言ってみなさい…?ほら」

ヒノカ「……あ……」ピク

アクア「…」スタスタ

ペタ

アクア「ね…言えるはず…無いわよね?だって……」

バシィッ!

アクア「…ッ!」

ベルカ「異議あり!被告があなたである以上、ヒノカ王女にへの不必要な接触は認められない!」

レオン「そうだ。これ以上の接触にはペナルティを課すよ?」

アクア(私が…誰の……!)グッ…

アクア「…」スタスタ

アクア「…証言を続けて頂戴」


ヒノカ「私を操った奴の名前は……名前は…………!!」


アクア「異議あり!」

アクア「そ…その名は……!」

ベルカ「異議あり!」バシィッ!

ベルカ「…無闇に証人を脅すことは認めない。黙って聞きなさい…」

ヒノカ「名前は………!」

ヒノカ「ア……アクア………」


レオン「な………」

カムイ「……な………な……」

カムイ「な、な、な………」

カムイ「なんですってええええええええええええええええええええええええ!!!!??」

ザワザワ ザワザワ

レオン「…静粛に!静粛に!ヒノカ王女……そ、それは本当なのかっ!?」

ヒノカ「ああ、そうだ…!よくもやってくれたな…アクア!」

アクア(ぐ…!)

アクア「し…知らないわよ!そんな事!無茶苦茶な言いがかりだわ!」

ベルカ「言いがかりかどうか…これを見なさい!」バシィッ!

ヒノカの手紙 を提出した

レオン「ほうほう…ふむふむ…な……嘘だろう!?馬鹿な…」

カムイ「か、貸して下さい!」パシッ

カムイ「…!……そ…そんな……アクア…さん…どうして……信じてたのに……」

アクア(ここで…ここで逆転しなきゃ負ける!)


アクア「……カムイ、あなたは思い違いをしているわ。全てはあの女の仕組んだ罠……あの手紙も証言も、自作自演よ」

カムイ「………」

アクア「…よくもこんな言いがかりを付けてくれたものね。ふっ…手紙?証言?何とでもなるわよ、そんな物」ニヤッ

ベルカ「な…」

レオン「…確かに、これだけでは不十分だ。他に…何か無いのかい?」

ベルカ「……」

アクア「操られているのはあなたの方よ。こんな大嘘つきに騙されて…私を訴えるなんて!」

ベルカ「そんな…そんなはずはない…!」

アクア「それともあなたは持っているのかしら?私が…ヒノカに…あるいは他の誰かに、術をかけた証拠を!」

ベルカ「………ティーポットの破片を提出する。かなり高濃度の媚薬成分が検出された。先日、あなたがカムイ様に差し入れた物よ」

アクア「フン…同じこと。私が薬を盛った証拠にはならない!私が差し入れた後、第三者が入れた可能性は否定できないでしょう?」

ベルカ「…っ!」

レオン「…極めて怪しいけど、決定的な証拠がないね」

レオン「そうだな…姉さんはどう思う?」

カムイ「……え……」

レオン「アクアと最も長い時間、一緒に過ごしてきたのは姉さんだよ。何か変わったことは無かったかい?」

カムイ「あ…ありません…アクアさんはいつも優しくて……時に厳しくて…頼りになって……」

アクア「そうよ、カムイ。カムイが『あなたを信じる』と一言言えば…審理は終わり。もうあの女に貞操を狙われて、怯えながら眠り必要も無いのよ」

ヒノカ「ち…違うっ!カムイ!信じてくれ……!私は……私は……!」

カムイ「…」

アクア「ねえ、カムイ。単純に考えなさい。あなたはヒノカと…正確にはこの世界のヒノカと出会ってからどれぐらいを過ごしたかしら?…所詮、こいつは違うのよ。前の世界のあの人とは」

カムイ「ヒノカ姉さん…私が……」

アクア「あ…あなたのせいじゃ無いわ。仕方の無かったことだもの…だから…ね。一言…言うだけでいいのよ。『あなたを信じる』って」

カムイ「私のせいじゃ…ない……?」



リリス『あなたのせいですよ。カムイ様』



カムイ「…」

カムイ「…ヒノカさん…ごめんなさい。私は…あなたを信じることはできません」

ヒノカ「……ぁ………そん……な……」ガクッ

ベルカ「…失敗…した…」

レオン「…ここまでだ!この事件は極めて明白…疑問の余地はない!ベルカを其れ相応の謹慎処分に処し、ヒノカ王女を拘束することとする。詳細は追って、結果を出す。以上!」

ベルカ「…やっぱり…モノマネじゃダメ…ね」

ヒノカ「カムイ………どうして………」

アクア「ふん…ざまあないわね。私に刃向かったことを後悔しなさい……」

カムイ(良かったんでしょうか……本当に……これで…?)

アクア「さ、行きましょう、カムイ。ハイドラを倒して、帰るのよ。元の世界にね」

アクア「そこに私の槍があるわ。取って頂戴」

カムイ「………」

アサマ「ヒノカ様……残念です。非常に残念だ。さあ…こっちへ」

ヒノカ「カムイ……」

カムイ「…」フイ

ヒノカ「カムイぃぃ……」ズルズル

カムイ「…」

カムイ「…」

カムイ「……?」

カムイ「この……槍…まさか……」

アクア「どうかしたかしら?」

カムイ「…答えてください。アクアさん…」

アクア「…何?」

カムイ「この槍に付いた血……誰のものですか?」

アクア「………透魔兵の血よ。ここに来る間…」

カムイ「………そん……な……」

アクア「…?」

カムイ「本当なんですか…それは……?本気で言っているのですか…?」

アクア「ええ。そうよ」

カムイ「…青い…血………リリスさんの…」

アクア「あ…アアッ…!」

カムイ「答えて…答えて…いや……答えなさい!リリスさんを…リリスさんをどうしたんですか!?」

アクア「…リリスは私を殺そうとしたわ。だから…」

カムイ「嘘…嘘…嘘……全部嘘です!!じゃあどうして隠そうとしたんですか!!ここに来た時に…どうして言わなかったんですか!」

アクア「………」

カムイ「どうして…どうして……」

アクア「……」

ペタ 

ペタ 

ベタ 

ペタ

ベタ

アクア「ハイドラ…」

ハイドラ「…」

ドスッ

ハイドラ「ぐ……な…に……を………」

ドッ

アクア「…こんなにも脆いのね………『フリーズ』」

カムイ「……アクアさん…!」

マークス「まさか…お前が裏切り者だったのか…!?くっ…動けん!」

リョウマ「来るなら来い…!道連れにしてやる……」チャキ

透魔兵「…!!」

透魔兵「!!?……!!」

レオン「…あいつらにもかけたのか?どうして…三国に勝てる訳ないだろ!?…僕らなんて1人でも潰せるってことかい?」

アクア「さあ…考えなさい。夢の中で…『漆黒の悪夢』…」

ズブブ…

アクア「…」

ズズズ…

カムイ「わっ…きゃぁっ!?な、何ですか、これ!?」

アクア「…ワールド・ツリーのツタよ。私の意思で動くわ。ふふっ…ここまで手こずらせるとは思っていなかったけど…最後の最後でどうやら……」

カムイ「認めるんですね!?ヒノカさんを操ったことを!」

カムイ(う…両手両足が絡め取られて…動けない…)

カムイ「なぜ…どうしてですか!?ヒノカさんをけしかけたり、こんなマネをしたり、リリスさんを…!リリスさん……!」

カムイ「余りにも…その……」

アクア「馬鹿げている」

カムイ「そうです!余りにも…ひゃぁっ!」

カムイ「や……どこ触ってるんですか!」

アクア「お話は終わりよ。いくら何でも…これを無視することはできない。あいつといえど…」

カムイ「何のことですか!それに最後の手段って…きゃうぅ…答えて…いひぃんっ!くすぐったいです!」

アクア「不感症…?まあ良いわ。少し手間が増えるだけだもの…」

カムイ(何か…この状況を何とかできるものは…!)

カタ

カムイ(サンダーソード!でも…腰まで手が届きません…ぐっ……もう…)

カムイ「アクアさん!あなたはこんな事する人じゃない筈です!昔のあなたは…もっと…どうして変わってしまったのですか!」

アクア「ふふ…答える義理は無いわ。…この服硬いわね…」

ギッ…ギギッ…

アクア「マークス…こんな邪魔な鎧を…わざわざ…」

カムイ「こんな事をして、あなたに何のメリットがあるんですか!私達みんなを敵に回して…」

アクア「…目覚めないわ」

カムイ「え…?」

アクア「…永遠に…続く悪夢。目覚める事のない…ふふ…私が術を解除するか…あるいは……くく…彼らが知ってるはずも無いわね…」

カムイ「そんな…!」

アクア「そうして、邪魔立てする者もなく、あなたは私に陵辱され続ける…ここで、永遠に」

カムイ「…?どう言う意味です?」

アクア「本当に知らないのね…?一番愚かで、世間知らずで、我儘で、情けなくて…」

アクア「すぐ分かるわ。ふふ…『あいつ』もどうやら大人しくしてるみたいだし。さあ…」




アクア「…ショーの時間よ」


#Re 蒼鴉

_____ベルンのとある城下町

大陸一の軍事大国、ベルン。時間がないので説明は飛ばす。

気持ちの良い昼下がり。特に特徴のない宿屋の前に、女が一人と少女が二人。もしこの会話に注意して耳をそばだてるものがあれば、彼女らがただの親子連れではないことに気づいたに違いない。

そしておそらく…その不幸な傍聴人は、翌日には魂を抜かれた死体と成り果てて、街道の脇に転がることになるだろう。シャーベッドかステーキかは、お優しいソーニャ様の気分次第だ。焼き加減は選べない。

彼女らは『黒い牙』。大陸一怖い暗殺集団だ。秘密を知るものを生かしてはおかない。場合によっては知らなくても生かしておかない。で、今は業務連絡中というわけ。君たちは感謝するべきだ、安全な場所からその事を知れる幸運を。

「…手順は分かってるわね、ニノ」

「うん!にんじん…パン粉に…じゃがいも…をぐにぐにと」

「…ベルカ、お仕置きしなさい」

「…はい」

「ご、ごめんなさいお母さん!いててててて…」

「…離しなさい」

「…はい」

灰の髪の方の少女が、もう片方の少女の頬をぐにぐにとつねりあげたのである。うずくまって、しばらく呻いていた少女はやがて顔を上げると

「うん…緊張ほぐそうかなって…」

「…私がそういうの嫌いだって、知らなかったかしら?」

「えへへ…」

「…ベルカ、今度は耳」



長いお説教の後で、ようやく解放された二人。どうやら彼女らは姉妹ではなさそうである。

「う…じんじんする」

「…ごめんなさい」

「あ、いいよいいよ!悪いのは私だもん…」

しばし、そのベルカと呼ばれた少女はニノの腫れた耳と頬を眺めていたが、やがて首を振ってポケットのメモを取り出すと、ニノに渡した。

「買い物メモ。おこづかいは持ってる?」

「うん!もちろん!」

「そう…できるわよね?」

「えへへ、買い物ぐらい一人でだいじょぶだよ?」

「そう…そう言って『キテレツ大百科』を全巻大人買いして大目玉を食らったのはどこの誰だったかしら」

「も、もうしないもん!じゃあね!夕方には戻るから!」

ベルカはこちらに手を振り振り、駆けだしていく少女の背中を見つめた。その若草色の髪が人混みに紛れ、見えなくなるまで。

ゆっくりと、もう一度頭を左右に振り、とある約束の場所に歩き出す。何かを振り払うように。

_____個室喫茶 『リゾチウム』

ベルカと向かい合わせに座っているのは、お馴染みウルスラさん。実力は四牙の4本の指に入るとか。え?最下位?

また女の子だって?仕方ないだろう。そういう話なんだから。悪趣味?どうとでも言いたまえ。

店内には落ち着いた音楽が流れ、同じく落ち着いた香が焚かれ、同じく落ち着いた店員が注文を取りに来る。新し物好きの暗夜王国ほど文明が進んでるわけではないので、CDプレーヤーではなくレコードを使う。

「要件…は…」

沈黙に耐えかねてそう切り出したベルカの顔は、幾分か赤らみ、それなりに手入れされた左手は、もう片方の腕を強く握りこんでいた。

「…『要件は何ですか』、でしょう…?悪い子ね…」

十分すぎる間を取り、もうとっくに冷めきてしまった紅茶をゆっくりとかき混ぜながら、彼女はそう返した。

「は…ご要件は…何ですか…ウルスラ様…?」

のちの彼女を知っている者が見れば、というかこの一月前の彼女を知る者がこの振る舞いを見れば、きっと眉をひそめることだろう。

以前の彼女なら決してこんな事はしない。渇望に身を震わせ、熱っぽい眼差しで誰かを見つめるなんて絶対にしない。精一杯の色っぽい仕草で相手を誘うなんて事は、夢にも考えないだろう。仕事以外では。というか彼女の色仕掛けの通じる相手はそう多くは

話が逸れた。とにかく彼女は今、その青白い肌を紅潮させ、向かいあった相手に蕩けた視線を送っているのだ。

しかしウルスラは顔色一つ変えず、しこたまミルクをぶち込んだ紅茶をさも美味しそうに啜る。

「ご…ごようけん…は…?」

「ふふ…しようのない子ね…」

ゆっくりと落ち着いた口調で、のらりくらりと引き延ばす。というか無視する。次第に少女はもぞもぞと余裕をなくしていき、丸いソファに沿って躰を徐々にウルスラの方にずらしていく。

狭い個室の中に、ふたり。遠くの方で微かに響くポップ・ミュージックの他には、何も聞こえない。

やがてウルスラが純白の恐るるべき紅茶を飲み干して、縁に微かな紅の残るカップを脇に押しやると、どちらからともなく顔を……近づけ……そっと唇を合わせる。一度二度、二度三度と繰りにけり。二人の軌跡の後に、暫し白銀の糸が宙に残る。

やがてついばむような柔らかい接吻は互いを貪るような貪欲なものに変わり、ウルスラはゆっくりと少女の躰をその岩より少し柔らかいソファに押し倒すべきところであるが、そうは問屋が卸さないのであった。




アクア「こんの……野郎……!いつまで………!いや、書く気が無いのかしら…?」

カムイ「何のことですか!」

アクア「……」

アクア「別に。それよりも…どうしてこの鎧には鍵がついているのかしら?」

カムイ「ベルカさんが付けてくれたんです。ヒノカさんに襲われてもいいようにって…まあ結果オーライです」

アクア「そうね。ずいぶん頑丈に作っちゃって…まあ良いわ。時間ならまだたっぷり残っているのだから…」



_____宿

ニノが間違えて荏胡麻油20リットルを買ってくるというファインプレーがあったものの、二人は何とか明日の準備を整えた。

「だって!だって!」

「…一般に、離宮ごと標的を燃やすのは『暗殺』ではなく『テロ』というわ」

「その方が楽かな…って。違うかな?」

「…本当にやるのなら10倍以上のガソリンが必要よ。馬鹿ね」

「今夜零時にここを出発。仮眠を取っておいた方がいい」

もごもごと弁明を続けようとしたニノを片手で静止し、きつい西日の差し込む窓に、カーテンをぴったりと閉めた。

この子といるとリズムが狂う。段取りが覚束なくなる。予定が滅茶滅茶になる。暗殺者としての適性は無きに等しい。一番パートナーにしたくないタイプだ。

すとん、とベッドに腰を下ろしたベルカは、寝巻きのボタンを一つずつ、コンスタントに掛け違えるニノの手に目線を止める。

「あれれ?おっかしいな…」

もぞもぞと不器用そうに動く指は、どちらのとも分からぬ体液でべとべとの私の躰を、ていねいに拭いてくれたのと同じ指。
忙しなく動く青い目は、地下牢の鉄格子越しに喘ぐ私の目を、心配そうに見つめていたのと同じ目。
お古の魔道書と新品の雑巾ぐらいしか握ったことのない手は、調教に疲れ果て、動けなくなった私の口に、スープに浸したパンを運んでくれたのと同じ手。

そしてベルカは思い返す。昼間のウルスラから言付かったあの言葉。次の行程へと進もうとする彼女を遮り、一つだけ言い放たれた『要件』。


「ニノを…あの子を殺しなさい」


あの時はためらわなかった。なぜって?ウルスラ様の命令は絶対だから。

でもようやく寝巻きに着替え終わり、布団に潜り込む彼女を見ていると、頭の中の小さいベルカはそれに反対する。それも猛烈に。

頭の中の自分について考えると、彼女の頭は激しく痛んだ。

自らも布団に包まり、眠りにつく。無論眠らなくても問題はないけど、何だか…今は眠りたい気分だった。





ふと目が覚める。背後に黒い影が一つ。何も寝込みを敵に狙われるのは、今日に始まったことではない。

飛び起きて侵入者の右腕を掴み、そのままテコの原理で後ろに捻りあげて床に引き倒す。手馴れたものだ。

「い、痛いよ!ベルカ!痛い!」

何だ、ニノだ。ベルカはニノを乱暴に引き起こし、ベッドに座らせた。叩いてホコリを払う。

「…どうしたの?トイレ?」

「う…ううん」

「そう。おやすみ」

時計を見ると、出発までまだかなり時間があった。もう一度布団に潜り込むベルカ。

ひとつくしゃみをすると、ニノは少しだけ…本当に少しだけ躊躇った後、ベルカと同じ布団に滑り込んだ。

「あ…悪かった、かな…?」

答えはない。

暫しの沈黙の後、布団の主は背中を向けたまま、僅かに首を横に振った。構わないらしい。

「…は……んっ……」

そっと腕を前に回し、薄青い髪に顔を埋める。微かに残る石鹸の匂いが、その幼い鼻腔を満たす。

「お姉ちゃんのにおい……かあさんに似てる…」

きっと血の匂いよ、とベルカ。

「ねえ…もう少しこのままで…いい?」

沈黙。

「…ベルカ?」

ニノの気付いた時には、すでに腕の中に抱かれていた。強く、とても強く。

「く…苦しいよ…」

目と、目が合う。蒼の瞳と、灰の瞳。またしても、沈黙。

やがて…ベルカはさんざ迷った末に…ニノの額にキスをして、胸元へ抱き寄せた。



もしこの時…もっと別の行動を取っていたのなら。額でなく、唇に接吻をしていたのなら。この物語はもっと違った結末を迎えていたのかもしれない。


兎に角この時、彼女は我が子を慈しむ母親のようにニノの頭を撫で、もう一度抱きしめた。

「…ありがとう…」

さて困ったぞ。ベルカは思う。こうなってしまった以上、私にこの子が始末できるのだろうか…?そもそも私は始末したがっているのだろうか…?確かにこの子を愛していたのである。

再び激しい頭痛。考えるのはよそう。きっとその時になれば…なるべきようになる。

そして、彼女もまた眠りに落ち、目覚めたのは午前零時丁度であった。

_____ベルン離宮

予定より1時間遅れの出発でも、到着時刻には間にあわせる。

「余裕を持っておいたおかげだね」

ウルスラの命令を、たった今実行しようとする自分を、死力を尽くして止める。

「…ずいぶん簡単な仕事だよね。メイドさんに化けてケーキを持って行って、脇にトロンを挟んであげるだけなんて」

『脇にトロンを挟む』とは牙式の隠語である。感電させて殺す、という意味の。

「…私は行かない。こんなに目つきの悪いメイドはそういないから」

「そんな!一人じゃ無理だよう…」

「…無理そうなら私も突入する」

そうこうするうちに扉の前である。鍵のかからないタイプのようだ。

こくりと頷き、ニノはお盆の逆の手に抱えた本を掲げた。夕方に買って来たパリパリの新品だ。

しかしベルカ、ここで不吉な予感をぴりりと感じる。ニノから引ったくったその本の表紙には、踊るような飾り文字でこう書かれていた。

『ファイアーエムブレムEchos 完全攻略Book』

小さな音で舌打ちし、モンブランの乗ったお盆も引ったくると、ベルカは扉に耳を押し当てて、突入のタイミングを計った。

「…作戦を変更。プランBに移行する」

「…分かった。ガソリンだね?」

さっきのロクでもない本で頭をぶっ叩いてやりたい気持ちに襲われるが、ニノが泣くだろうからやめた。代わりにポケットのカロリー・メイトを口に放り込む。ニノにもあげる。

「…もぐもぐ…ごくん。えっと、無言で入って行って、一発芸で注意を引いてから絞め殺すんだっけ?」

「…もしかしてあなた、緊張をほぐそうとか考えてないでしょうね?」

「しっ…ベルカ、なにか聞こえるよ…?」

あの我慢弱いソーニャがよくこの子を引き取って育てようと考えたものだ。……あの女はウルスラ様をいじめるから嫌いだ。口中にこびりついたカスを舌で必死にはがしながら、ベルカはそう思った。

「神様……」

「明日は私の成人の儀…これまで父上の期待に添えるように頑張ってまいりましたが…努力が足りないのでしょうか…?」

「父上はいつだって私に冷たい。いつもは側にいるマードックだって、今日に限っていない。おまけに王宮のランプは全て消え、皆死に絶えたように寝静まっている…」

「…?どういう事だろう?」

まずい、と思った時にはすでに遅し、扉は標的の手によって開かれ、中の明かりが廊下に溢れる。仁王立ちになったゼフィール王子には既に王としての気迫が幾分か宿り…

「ん…お前達は…」

ニノ。なんか言いなさい。私は何を言っても怪しまれるだろうから。ベルカは真剣に祈った。神様仏様エリミーヌ様。苦しい時の何とやら。

「え…えっと…お夜食です……」

「…入れ」

ベルカは真剣に、聖女エリミーヌを呪った。

部屋に置き去りになっていた大きなワゴンには、丁度小さなお茶会が開けるほどの食べ物と、それを即座に調理するための、ぴかぴかに磨かれた調理器具が積み込んであった。

小さなやかんにお湯を沸かしながら、ベルカはぐるりと部屋を見渡す。大陸中から集められたたらしい沢山の調度品が、それぞれきちんと整理されて壁際に収まっていた。きっと腕のいい掃除婦がいるのだろう。

そして部屋の奥にある二人がけの丸テーブル。王子と向かい合って、なぜかニノが座っている。手伝えよ。何の為の仮装だ。

ベルカの思いを知ってか知らずか、二人は楽しげに談笑を始める。さっさと二人とも始末して、城下に宿を構えているはずのウルスラのベッドに潜り込むべきだと分かってはいたのに、何かが…彼女を押し留めた。

沸騰したお湯で、手早く紅茶を淹れる。ジョーカーによれば、茶葉を蒸らす時間はどの工程よりも重要らしい。

ジョーカー……?

ベルカは二人ぶんの紅茶とサンドイッチを盆に乗せ、テーブルに運ぶ。そしてエプロンのポケットに入っている小刀に意識を集中させる。まず王子の頚動脈を掻き切り…ニノも同様に。そしてあたかも王子がメイドと心中したかのように現場を偽装し、裏門からスタコラ逃げる。

シミュレーションは完璧。ベルカは盆をテーブルに置くと、さりげなく右のポケットに手を突っ込み、親指の腹で銀色の刃を押し出した。

「ふう…こんなに笑ったのは久し振りのことかもしれないな。ニノ…少し、我儘に付き合ってくれるか?」

「えへへ…何ですか?」

「私を、殺せ」

「はいはい。お安い……え?」

しっかりと頚動脈を捉えたはずの右手が、動き出す直前でぴたと止まる。

「お前達は殺し屋だろう?仕事を全うするだけだ。さあ…やれ」

「ちょ…ゼフィール王子!」

がたん、と椅子を後ろに跳ね飛ばして立ち上がるニノに、ゼフィールは静かに答えた。

「…もうゼフィールでいい」

「じ、じゃあゼフィール!な…何でそんなこと言うのさ!そんな…」

「おかしいか?成人の儀の前日に、王子が自殺したら」

「おかしいも何も…だって…」

「ふん…いいだろう。話してやる。私が…」

王子は立ち上がり、脇にあった机の引き出しから、一通の封筒と魔導式拳銃を取り出した。

「…なぜ自殺を企てたか」

「そんな…じ、じゃあ、私たちが来なくても…?」

「そうだ。こいつでこめかみを撃ち抜いて死ぬつもりだった…たった今までは、な」

魔導拳銃とは今5秒で考えた設定である。一詠唱分の魔力を一個の弾丸に込んだ、その名の通り魔導式の拳銃である。生まれつき魔力を持たない者のために開発された武器だが、当然魔力を込めないがためにその威力は低く、有効な射程は僅か50センチメートル程しかない。

それでも眉間に押し当てて引き金を引けば、魔防と化したキルロイであろうと確実に絶命する。自決用の拳銃だ。

「ふっ…見てみろ、それ」

ニノは覚束ない手つきで中の便箋を引っ張り出し、三つに開く。逆さまに。

「…お前、字が読めないのか?」

ゼフィールが呆れたように言い放ち、ベルカは遺書を取り上げて読み上げる。

「…『精神的に向上心のない者は、馬鹿だ』……あなた、イニシャルはKじゃないでしょう?」

「ふっ…だから聞いてくれ。大人になれない子供の、最後の頼みを」

王子は紅茶を一口啜ると、重々しく切り出した…


王子はテーブルに乗った、未だ手を付けられていないモンブランを指差して言う。

「ニノ…お前はこいつが何で出来ているか知っているか?」

「もちろん!…牛乳と…生クリーム…あと栗、小麦粉と砂糖…ぐらいかな」

ニノは嬉々として言う。王子はもう一口紅茶を飲むと、続ける。

「…そうだ。その材料を…これは城下で買ってきたものだな…?…ケーキ屋の主人は、指一つ動かすことなくこれだけの材料を集められる。そして…」

「これは幾らだった?」

「えっと…3つで500ゴールドだった」

そのうちの2つ、即ちショートケーキとチーズケーキは今頃彼女の胃袋の中だ。と、ベルカは心の中で付け足す。そっとエプロンから手を抜き出し、机の上の盆を両手で抱えながら。

「そうだな…じゃあ諸々の材料を、ケーキ屋の主人は300ゴールドで買うことができる、としよう」

「そして店の家賃とか、ボウルとか泡立て器の維持に50ゴールド掛かるとしよう」

「小麦粉と栗をボウルにぶち込んだだけではモンブランは出来ない。クリームを泡立てて、上に栗を乗せる人間が要る…そうだな?」

「うん。パテシェさん、いっぱいいた」

「そうだ。じゃあ彼らに100ゴールド支払うとすると、残りは幾らだ?」

少女はその小さい指を折って数える。

「えっと…50ゴールド、かな」

「そうだ。50ゴールド。私はその50ゴールドのために…」

「死ぬのだ。もうすぐな」

助けを求めるかのようにパートナーを見つめるニノ。首を振り、視線で話の先を促すベルカ。

「分からないか…?ケーキ屋の主人は指一つ動かすことなく、客が三つで500ゴールドのケーキを買って行くたびに、50ゴールドが懐に転がり込むんだ。一方で、それを作るのに5人の人間が必要なら…そいつらには一人頭20ゴールドしか儲けがない。仮に40ゴールド分の仕事をしても、それは変わらない。仮に店長が給与カットを断行したとしても、彼らにはそれに対抗する手段はない…分かるか?この意味」

「人間は……余りに愚かだ。自らが弱い者である事に気付いていないふりをして、にこにこと愛想笑いをばらまきながら……もっと弱い者から搾り取る事ばかり考えている」

「そ…それはこじつけだよ!」

いいや、とゼフィールは続ける。

「もちろんこれは単なる一例さ…お前でも解るように挙げただけだ。でも…いくらお前でも解るだろう?」

「国王は貴族から…貴族は資本家から…資本家は労働者から…労働者はもっと弱い労働者から…もっと弱い労働者は貧しい子供達から……その余剰を啜って生きている。そして一番上に踏ん反り返った国王は、自分の子供を憎むんだ。いつか、自分を殺すんじゃないかって…震えながらいじめるんだ」

「諸国を回ってわかったさ……どこの国でもこの仕組みはあんまり変わらない。せいぜい国王が公爵になっているぐらいで」

「もしお前達に暗殺の腕がなくて…傭兵の口も無くて…親もなく…護ってくれる強い男も居なかったら…?私は…………」

「なあ、私とあの………エトルリアの貧民街にいたあの幼い男婦と……何が違うというのだ?余りにも……そう…理不尽だ。私はこの家に生まれて…ちょっと剣ができて…簡単な微分ができるだけの人間なんだ。あの子と何も変わらない…」

「…世界一醜く、傲慢で、強欲で、臆病な動物。この星の上で、最もつまらない生き物。私は…その王になるなんてまっぴらごめんだ。虫唾が走る」

言ってしまうと王子はもう一度カップを手に取り、口元に運んだ。

先ほどからずっと俯いているニノ。唇をぷるぷると震わせ、両手を膝の上で硬く握り締めている。やがてその震えは頂点に達し…

「違うよ!」

思わず仰け反る王子。ついでに紅茶も吹き出した。

「違う、違う、違う…全然違うよ!まるっきり違うよ!!」

違う、と口に出すたび、ニノは思い切り、そのちいさい拳を机に叩きつけた。カップが少しだけ宙に浮かび、そのまま着地する。

「何が…何が違うと言うのだ!弱く、醜く、愚かで、そして致命的に間違っている!」

ゼフィールは問う。目を剥き、歯をむき出しにして、さながら鬼のような表情で、身を乗り出して彼女に迫る。

「間違ってないもん…間違っているのはあなただもの……」

みるみるうちにその蒼色の瞳は涙で満たされ、二本の筋がツツ、と両の?を伝う。それでも…それを拭うこともせず、ニノは絞り出すように呟いた。

「だって…あの人たち…働きながら…嬉しそうだった。生きているのが楽しいって…わたしも…えぐっ…私も、あんな風になりたいって…思ったもん。私と同じぐらいの子が……銀貨4枚で身体を売らなきゃいけない女の子は……あなたよりも、明るい顔をしてた。あの子には希望があった。いつかかっこいい男の人と会って、静かな丘の上で、みんなで仲良く暮らすって夢……今のあなたには……何もないの。なにも」

「人間は…強くて、弱くて、美しくて、醜くて、賢くて、愚か」

「ある時には…そうでない時ももちろんあるかもしれないけど……それでも!最後は絶対に!正しいんだよ!ゼフィール!!」

最後はもう絶叫と呼ぶに相応しかった。少女の魂の叫びだった。

「……正しくなくちゃ…いけないんだよ。正しくしなきゃ…いけない。きっとあなたなら…いい王様に、なれると思うよ…?」

そして…袖で涙をぬぐい、鼻をすすると、冗談めかしたようにこう付け加えて、にこりと笑った。

「でも…でも、もし本当に…人間が愚かで醜いと思ったなら…その時に死ねばいいよ」

ニノ自身も気づいていなかったかも知れないが…それはベルカでさえぞっとするような…恐ろしい笑顔だった。ソーニャでさえ、眉を潜めるぐらいはしたかもしれない。

しかし、それはほんの僅かの出来事で、

「でも死ぬのは…その時でいい。その時まで一生懸命生きる意味が…あなたにはあると思う。それは、ベルン王家に生まれたあなたの務め」

「あるいは…そのつまらない世界を叩き壊すのが、あなたの役目なのかもしれないね。ゼフィール」

その凛とした表情に…メイド服の代わりに菜種油を買ってきた時とは似ても似つかないニノの表情に…魂の奥底を見つめ、眼差しで貫くようなその表情に…すっかり気圧されたような王子の口の端から、空気の抜けるような音が聞こえたかに思えたが…彼は直ぐにそれを取り消すかのように…こう言った。ただ一言…

「…ありがとう」

と。

「…ベルカ、帰ろうよ」

どこか間の抜けたような顔に戻り、ニノはベルカのエプロンの裾を引っ張った。

「……………………あなた、ここに何しに来たか覚えてる?」

「…お茶会だっけ?」

「あ ん さ つ !」

ベルカは光の速さで王子の後ろに回りこみ、腕を回して頚動脈を絞める。

「見てなさい。ニノ…正しくここを抑えれば、どんな人間でも10秒と持たずに気絶するわ」

ニノを殺す必要がある以上、このレクチャーには何の意味もない。そう知っているはずなのに、彼女はそれをした。

果たせるかな、王子はちょうど10秒で動かなくなる。乱暴に床に下ろすベルカ。

「さあ……ここからはあなたの仕事よ。その魔導拳銃で…こいつのこめかみをぶち抜きなさい。これぐらい出来るでしょう?」

銃が暴発したかのように現場を偽造する事など、彼女には訳もないことだ。数時間後には、もう永遠に大人になる事のない王子と、銃を暴発させた間抜けな暗殺者の死体を二つ、マードックは発見する事になるだろう。

……できない」

「…撃鉄を起こして、引き金を低く。分かった?」

「それぐらい知ってるよ!ねえ…ベルカ…私には……できないよ」

此の期に及んで…ベルカはぎりりと歯を食いしばり、拳銃をもぎ取ろうと手を伸ばす。

だが…そのひんやりした銃口は、ベルカの心臓に…向けられていた。

「ねえ…お願いだよ…」

無論、この場で拳銃を奪い取る事など訳はない。というかこれ、安全装置が掛かったままである。

「殺したくない。この人は殺すべきじゃないの。ねえ…」

「…私たちは道具よ。殺すべきか殺さないべきかは上が考えること…」

「ねえベルカ…考えてよ…考えて……」

ニノはそう言って…安全装置を外し、銃口を自らの口に咥えた。ベルカははっと息を飲み、やっと彼女の考えに気付く。

「…もし王子を殺すなら…私も死ぬ。ね…?」

「駄目よ…!やめなさい!」

こんな時になって初めて、ベルカは…

「…やめてくれるの?」

自分の気持ちを、知覚し始めたのだ。

「あなたを失うなら…いいえ、あなたを失うわけにはいかない。だから…拳銃を、こっちに」

「本当…?」

「本当よ。だから…!」

少女は唾液に濡れた筒を慎重に取り出し、そっと安全装置を掛け直して、地面に落とした。かしゃん、という冷たい音が、寒々とした廊下に響く。

「ニノ!」

ベルカはニノの元に駆け寄り…思い切り抱きしめた。ニノもぎこちなくではあるが、それに応える。

「はぁっ……なんて事するの…?死ぬ気なの…?」

「えへ……ごめんね?」

「もう……バカね……」

「帰ろうよ。今度こそ…ね?」

その何もかもが愛おしくて。

壊れるほどに抱きしめて。

何よりも近くなりたい。その青い瞳に、私だけを映してほしい。たったひと時だけでも。

が、この何とも甘たるい雰囲気をぶち壊す不届き者が約2名。

ウルスラさんとマクシムさんである。

「あなたは…パ、パスカル!」

「…違うな」

「じ、じゃあカムラン!」

「…惜しいな」

「…………誰だっけ?」

「マクシムだ。本名はマックスウェル・マキシマム・マクシム。よろしくな」

「うん!よろしくね!」

「…相変わらず人を苛立たせるのが上手な子ね。ベルカ…何でこの子が生きてるのかしら?」

対峙する4人。

「何しにきたの…?ここはまだ…」

「『何をしに来られらのですか』、でしょう?全く…」

「ほら、早くその子を始末しなさい。今なら百叩きで許してあげるから…ね」

「ベルカ……?それって…」

「わ、私は……もうあなたの……っ…ドレイじゃないわ。だから……」

うまく声が出ない。喉に引っかかっているのは声か唾か。

「…そう。そういう事」

ウルスラは口の端を曲げてにやりと笑い……もう1度、繰り返した。

「…その子を殺しなさい。早く」

その一言一言が彼女の心を再び抉り、血を吹き出させた。骨を砕き、痛めつけた。

「い、嫌……だ…」

「……今ならジャファルの席が空いているわ。どう?幹部になれば…もっと空いた時間が取れる。いつでも好きなように時間を使えるし…」

「……好きなだけ可愛がってあげてもいいのよ。どうかしら?」

「…ぁ…」

ベルカはもう陥落寸前だった。繰り返し植えつけられた情念は身を内部から焼き焦がし、禁断症状として表面に現れた。

身をよじり、苦悶するベルカ。ウルスラは追い討ちのように続ける。甘美な囁きで、もう一度彼女を誘惑する。

ベルカはもう陥落寸前だった。繰り返し植えつけられた情念は身を内部から焼き焦がし、禁断症状として表面に現れた。

身をよじり、苦悶するベルカ。ウルスラは追い討ちのように続ける。甘美な囁きで、もう一度彼女を誘惑する。

そして…ついにベルカは、ニノの首に手をかける。ちょっと乱暴に扱えば壊れてしまいそうなそれに、少しずつ、少しずつ加える力を増やしていく。

「そうよ…!もっと…そうすれば……あなたは……!」

「…お…ねえちゃん……けほっ………」

馬から身を乗り出すようにして叫ぶウルスラの声も、目の前で哀しげに喘ぐニノの声も、もはや彼女には遠い、遠い虚ろな響きとしか…届いてはいなかった。

「『そして私はニノを絞め殺し、逆上してウルスラその他も皆殺しにして、失意とともに暗夜王国に帰りました』。ちゃんちゃん。ってか…?」

驚くべきことに、ベルカが気が付いた時には…全てが止まっていた。燭台の炎すら、壁に描かれた絵のように、しんとして動かなかったのである。

ただ2人、マクシムとベルカを除いて。

「さて…どうする?もうとっくに気付いているはずだが…?」

ニノの首に回した手を離し、応える。

「…分かってる。夢だって。これはアクアの試練…それで、あなたは…?」

「ふっ…ただのしがない聖騎士さ。何の因果かこの人より強くなっちまったが…強いて言えば、ナビゲーターってとこだ」

そう言って、にやにやと嫌な笑みを浮かべながら、横で固まっている上司を顎で指す。

「……私はこの後、この子を絞め殺す。邪魔しないで」

「……もう一度、嘘をつく気か?」

逸らしていた目を馬上に戻すと…彼はもう、笑ってはいなかった。

「…真実を話せ。でなければ永遠に出ることはできん。無論…」

「エリーゼにも会えない、でしょう?」

「そうだ。これは忠告だ。何よりも許されざる罪は…自らへの嘘。偽り」

「………」

「真実を話せ。楽になるぞ?偽りの記憶で、自分を騙し続けるよりも。ずっとな」

「……楽になんか、ならない」

「ふん……では、身をもって語るんだな!」

マクシムは差し上げた左手をぱちんと鳴らす。途端に世界に時間が戻り、ベルカはもう一度…ニノの首を絞め直した。

もはや彼女を遮るものは何もない。気道は圧迫され、空気の通る余地は無くなった。そうであったはずなのに…

ニノは…何かを口に出した。それはベルカの目の錯覚だったかもしれない。あるいは単なる唇の痙攣だったのかもしれない。それでも…ベルカはそこに…意味を読み取った。

そっと左手の力を抜き、ニノの体の影になるように床に下ろす。

落ちていた魔導拳銃を手に取り、片手で撃鉄を上げる。安全装置を再び外す。

そして一瞬の隙を突き…一分の狂いも無く、ウルスラの眉間に向けて発射したのだ。

いくら威力が低いとは言え、まともに顔面に食らえばひとたまりもない。

暗殺者はターゲットに、立ち直る隙を与えない。無論反撃のチャンスなど与える気はさらさらないし、辞世の句など詠ませない。

三段跳びに飛び、馬の頭を支えにしてナイフを突き出す。銀色の刃はしっかりと…ウルスラの右の眼窩を捉え……それが致命傷となった。

一瞬の沈黙の後、鮮血を吹き出しつつ愛馬から崩れ落ちる【蒼鴉】。

それを目の端に見届けるとベルカは、すぐにニノの元へ駆け寄った。暗殺者としてでは無く、一人の女の子として。


だが、それが間違いだった。

『相手が血飛沫を上げて倒れるまで、油断するな』

師匠は口を開くたびにそう言った。ある時は『ごちそうさま』の代わりに口に出した。


ウルスラは最後の力を振り絞り…ほぼ無意識に、サンダーストームを唱えた。例え片目でも、頭蓋を突き破った鉄片が脳味噌に食い込んでいても、彼女は狙いを外しはしなかった。

凄まじい威力の雷雲がベルカの頭上に現れ、雷を落とそうとして……


マクシムは言った。

「これが真実だ」

_____ベルン離宮 外


「ねえ…ニノ…?」

「なあに…?」

これが、真実だ。

「明日は…いい日…?」

「…いい日だよ。きっと…」

「…何か、欲しいものはある…?」

「…ううん……」

「ニノ……明日は…いい日……?」

渦巻いた雷撃は少女の体を貫き…

「うん…いい日だよ…」

致命的な火傷が、全身を蝕んだ。

「ニノ…ごめんなさい…」

ベルカの足取りは重く…

「謝らないで…ね?」

背中の鼓動は、だんだんと弱々しくなっていく。

「おー……い………」

遠くに見えていたたくさんの点は、だんだんと人の形になり…

「ねえ、大丈夫!?あなたたちはここの…?」

深緑の髪をなびかせて一番に走ってきたのは、この人。どこと無く私と同じニオイがする、と遠い心でベルカは思った。

「うっ…凄い火傷だ…おい、セーラ!早くリライブと包帯!早くしろ!」

この人は確か新聞に出てた…オスティア侯爵の…

「ふう…ふう…だ、大丈夫かい!?」

こいつは知らない。

「ねえ、あなた達、この中から出て来たわよね!?一体…」

「…王子なら中で寝てる。敵は全滅させた…」

「……ありがとう。あなたは?」

「…………【牙】」

その少女は何か言いたげだったが、ベルカに思い切り睨まれると口をつぐんだ。

「リカバーと止血帯を持って来ました。すぐに始めましょう」

この人は…男…?女…?担架に乗せられて、運ばれていくニノ。

ぽん、と肩に手を置かれた感触がして、ベルカは振り返った。マクシムだ。

「さあ、どうする?」

「…私は真実を語った。もう帰ってもいいはず」

「ふん…とどのつまりだな。アクアはこれが言いたかったんだ。『ニノを守れなかったお前に…誰が守れる?』」

自分を見据えるマクシムから目をそらし、代わりにニノの方を見やる。

さっきの司祭が手際よく施術を進めていた。熱い湯を沸かし、傷ついた組織に丹念に癒しの光を当てる。爛れた箇所にきずぐすりを塗り込み、包帯を巻く。ニノはみるみるうちに真っ白に覆われていった。

「…現実のニノは助からなかったが、ここなら違う。間違いなく治療は成功する。ただ右脚に少し麻痺が残り…お前はあの子に一生ついてやらなくちゃならなくなる」

「そういう筋書きだ。アクアの筋書き」

そう言って、マクシムは二本の指で空中に線を描いた。

「さあ…どうする?お前はここで偽物の記憶で本物のそれを封印した。ニノを守れなかったという記憶を。そして夢うつつのまま暗夜王国に帰り……現在に至る」

「お前は選べるんだ。このままニノと過ごすか…エリーゼのところに行くかだ。後者を選ぶとすれば…お前は死ぬかもしれん。いかんせんアクアは強い。お前が二人掛かりでかかっても勝てないかもしれん」

「そもそもエリーゼ自体がお前の中で、ニノの虚像なのではないか?」

「…うるさい!」

「…時間はある。少し考えろ」

ぽこぽこと足音を立てて騎士は去り、ひとり残されるベルカ。徐々に蒼く染まっていく空と、小鳥達のさえずり。

「…こんにちは」

「…!」

「あ…驚かないでください。私、この軍の軍師…です。マーク。軍師のマーク」

また女の子か。たまげたなぁ。

「…被ったままってのもナンですね。よいしょ」


現れたのは、どことなくカムイを思わせるような顔。夢だから…だろうか?

ただ彼女はカムイよりずっと眠そうで、さらに薄ぼんやりとしていた。

「…あれ、どこかでお会いしましたっけ。すいません、ワタシ物忘れが激しくて…」

ぺこり、と頭を下げるマーク。背中からするりとフードが落ちて、再び頭に被さる。

「ありがとうございました。ゼフィール王子を助けてくれたんですね。ニノちゃん…でしたっけ?こっちで寝てます。ハイ」

「…王子の安否は確認したの?」

「え…?あ、ハイ。エリウッドさん達が見に行ったはずです。あ…【牙】の皆さんの死体、片付けますか?」

マークはもぞもぞと体の前で組んだり解いたりしていた指を解いて、離宮の方を指した。

「…一応確認させて。時間がなかったから」

「セインさんが持って来てくれたみたいですね。ちょっと行ってみましょうか」


「ん~この人が【アオキジ】さんですか。綺麗な人だったんですねぇ」

「…そうあ」

「へっ!?報告書には確かアオガラスって…」

草の上に寝かされた彼女にはすでに死後硬直が起こっていて、蘇生は見込めなかった。ナイフは誰かが抜いたようで、滅茶滅茶になった眼窩がグロテスクにこちらを覗いている。

「…こんばんは」

ふと目をあげると、どこかで見た顔が一つ。確かリム…リム…

「…お疲れ様」

リムステラは袖口からポケットサイズの魔導書を取り出しかけたが…一瞬遅かった。その唇が死の呪文を唱える前に、強烈なアッパー・カットが彼女の顎を捉えたのだ。嫌という程舌を噛み、もんどり打って倒れる。

「えへへ…どうです?」

拳を放ったのは、マーク。目を丸くするベルカ。

「…ぐ…」

よほど応えたのか、蹲ったまま立ち上がれないリムステラ。マークは死体をひょいと跨ぎ越し、ベルカが止める間も無く駆け寄る。

「…あなた達モルフは、こんな事を想定して作られていませんからね。苦しいでしょう?えへ…えへへ…うふふ…」

ローブからいそいそと何かのビンを取り出し、顎を上げてぐいと口に含む。表情は見えないが、多分笑っているのだろう。

そしてわかめのようにのたうつ黒髪を引っ張ってこちらを向かせ、口の液体を直接流し込んだ。

「うぐ……ん……む…」

ベルカの方からはマークの表情を伺うことはできず、ただリムステラの驚いた表情が見えるのみ。

「…ン……ぷはっ、えへ…どうです?」

その赤っぽい液体が喉を滑り落ちた途端、まるで空気の抜けた風船のように、マークに枝垂れかかるリムステラ。

「えへ…痺れてるでしょう?指一本動かない。ですよね?」

マークは実に手慣れた様子で彼女の上着を脱がせ、地面に横たえ、下着を上にずらし、ポケットから取り出した緑のチョークで、質の良い陶器を思わせる背中に一本の線を描いた。

何のためらいもなく、これまたポケットから取り出したる肉切り包丁で背中を一文字に割る。

「えへ…ちょっと痛みますよ…」

薄い手袋をした両手を中に突っ込み、作業を始めるマーク。彼女が配線を切ったり入れ替えたり繋いだりするたびに、リムステラは苦悶の表情を浮かべた。当たり前だ。

ものの1分もしないうちに作業を終え、マークは透明な体液でべとべとになった手袋を裏返してポケットにしまった。代わりにごつい針と糸を取り出して、ターキーのお腹を縫うように背中を縫い合わせていく。

「えへ…どうですか?生まれ変わったような気分でしょう?えっと…エーギルはどこです?」

驚くべきことに、リムステラはうつ伏せになったまま、腰に下げていた皮の袋を外して、震える手でマークに渡した。

「うふ…いい子ですねぇ。上手くいったみたいで良かったです」

そして、袋の中身を少し手に開けて、丁寧に背中に塗り込んだ。彼女が手を滑らせるたびに、きらきらとした命の残り香が、朝焼けの光に舞う。

エーギルの効果たるや目覚ましく、傷はたちどころに塞がり、マークは糸を抜く。徐々に感覚を取り戻しつつあるリムステラに服を着せ、体を起こして自分にもたれさせる。

「えっと…あなたの主人は誰ですか?」

もはや自分のものとなった人形と向かい合うマークの目は、元の濁ったものに戻っていた。どろんとして、何も考えていなさそうな目。

「……マーク…様…です」

しかし対するリムステラの目は、もっと何も考えていなさそうだった。

「うん、よろしい。いや~…苦労した甲斐がありましたよ。片っ端からモルフを捕まえてはばらし捕まえてはばらし…」

「でも…うへへ…ぱっちりした黒い目…波打つような黒髪…血のような赤い唇…」

マークは片方の腕を、リムステラのその贅肉一つ付いていない腰に回し、もう片方の手で順繰りに顔のパーツを撫でる。

一方リムステラはどこか恍惚とした表情を浮かべ、新しい主人の愛撫を受け止めていた。

そしてマークはリムステラの肩を担いで立ち上がると、まるでベルカのことを忘れてしまったかのように、軍の方へとフラフラ歩いていってしまった。

「…」

後にはウルスラの死体が一つ。

改めてまじまじと観察したところで、これといった感情は湧いてこなかった。

ベルカの全身に、順繰りに所有印を刻んでいった唇も、くしゃくしゃと髪をかき乱し、頭をしっかりと引き寄せた腕も、もう動かない。

かつて震える手でそのボタンを外し、ゆるゆると脱がせたやたら露出の高い上着……

上着?

「気がついたか」

はっと後ろを振り向き、飛び退くベルカ。またマクシムだ。

「さっきの…どう思った?」

「流行ってるのかしらね。洗脳陵辱」

「まさにお前の主君が受けているところだと思うぞ?」

そういってマクシムは上を指差した。なるほど。意識を失う直前に見たあれには、そういう意味があったのか。

「…早く、帰して。エリーゼのところに」

「そうか。意思は固まったか…いいだろう。いやな、お前が本当にその気になれば、すぐにでも目がさめるはずなんだが…まだ、やり残したことがあるらしい。解き明かしてない秘密。誰も知らない真実」

「…そんなもの、ない」

「探せ。そうだな…ヒントはくれてやろう」

マクシムはひらりと身を踊らせ、ウルスラの近くにしゃがみ込んだ。そして胸元から何かを取り外し、立ち上がってベルカに握らせる。

「…じゃあな」

「ばいばい。…師匠」

また助けられてしまった。そう思いながら手の平を開き、中身を確認する。

バッヂ……だった。どこかの機関のものらしい。どこかで見たような…それも最近…


そして全ての記憶が繋がり…

目を覚ました。

特に感動的なエンディングも無い、暴力的とも言っていい目覚め。夢とはそんなものだ。



Q.ベルカの正体は何でしょうか?



_____ロウラン城 王の間

アクア「ふう……ふう……や…やっと外れた……」

カムイ「鎧が邪魔でしたね」

アクア「今に……ゼイゼイ……見てなさい……はあ…はあ…」

アクア「…!」

アクア「あなたが持ってたのね…そのペンダント。寄越しなさい」

ジャラ

バチィッ!

アクア「…っ…あなた、何かした?」

カムイ「…?いいえ。シグレさんから貰ってからそのままです」

アクア「ま……いいわ。ふふ、その方が却っていいかもしれないし…裸ペンダントってのもオツかしら…」

カムイ「…」

アクア「…悔しくないの?妹を殺した相手に、あなたは今から酷い目にあわされるのよ?」

カムイ「…悔しいです」

アクア「じゃあどうして…そんな悲しそうな顔をするの?私を睨みつけて…裏切り者と、淫売と罵ってもいいのよ。むしろそうすべきでしょう?」

カムイ「…いやです」

アクア「なぜ!」

カムイ「……罵られるべきは、私だからです。リリスさんを守れなかった。ヒノカさんを信じられなかった。自分の目を閉じて、考えるのをやめてしまった…」

アクア「そうやっていっつもあなたは…自分だけが傷つけばいいと思って…周りを傷つけ続けるのよ。そしてめそめそ泣く。いっつも」

カムイ「…はい。仰る通りです」

アクア「特に『あなた』は酷いわ。余りにも…弱すぎる。二つの中の一つさえ選べないあなたに…あなたの弱さに…」

アクア「…1度でもほだされたのが間違いだったわね。カムイ」

カムイ「…何の…事ですか?」





ベルカ(ルーナ!…ルーナ!起きなさい!)ガスガス

ルーナ「…ったいわねえ…起きますよ。起きれば…んぐっ」

ルーナ(何すんのよ!びっくりしたじゃない!)フガフガ

ベルカ(…近くにいる人をそっと起こしなさい。時間がないから数人だけね)



ラズワルド(で、どうするんだい?小さなかわいい参謀さん?)

ベルカ(…いつか殺す)

ベルカ(いっせーのせで私がカムイ様に巻きついてるツタを切って、そのまま全員でアクアに斬りかかる。以上)

オーディン(ふっ…面白い。『紅い3月作戦』とでも名付けようか)

ルーナ(…なんで?)

オーディン(……何でもない)

ルーナ(…?)


カムイ「ふぁ……なんかぬるぬるします…」

アクア(調子狂うわね…こんなのでいいのかしら?)

ベルカ(いっせーの…)

ベルカ「せ!」

ダッ

ルーナ「さっきはよくもやってくれたわね!?」

ラズワルド「女の子だからって今度は容赦しないよ!」

オーディン「悪しき者に裁きを…喰らえ!超究極爆絶必殺技 !『邪剣【夜】粹魔焼練』!!」

3人「うおおおおおお!!」

アクア「……ぐっ…!」

ドッ…

カムイ「わーお…息ぴったり」

ベルカ「…切れた」ザク

カムイ「…ありがとうございます」チャキ

アクア「……ぐ…」

カムイ「ぬるぬるするけど…ええい、上から付けちゃいましょう」パチン

カムイ「さあ、一転攻勢ですね。…覚悟してください」

アクア「…あなたは…誤解をしているわ」

アクア「私はあなたのためを思って…」

カムイ「…ふざけないでください」

アクア「…そう」

ズズズズズズ…

ラズワルド「な…」

ルーナ「つ、ツタがどんどん太くなってきたわよ!?」

アクア「…」タタタ…

ベルカ「ま、待て!…ツタが壁に…?このままじゃ逃げられる…な、カムイ様!?危険よ!」

カムイ「待ってください!」ダッ

ルーナ「お、追いかけるわよ!」

ベルカ「駄目よ。もう間に合わない…」

オーディン「ちっ…一旦引くぞ!」


ラズワルド「止まった…ね。みんな、怪我はない?」

ルーナ「無いけど…せいやっ!」

ギン!



ルーナ「…このツタ、物凄く硬いわね。悔しいけど…私たちじゃどうにもならないわ。魔法で焼くしかない」

オーディン「ふっ…とうとう俺の」

ルーナ「あんたじゃ火力が足りないわよ。レオン様か…カミラ様か…あるいはエルフィに捻じ曲げてもらう…?」

オーディン「悲しいこと言ってくれるじゃねえか…レオンさまー。起きてくださーい。出番ですよー」

レオン「むにゃむにゃ………トマトがひとつ…トマトがふたつ…」

オーディン「よし、他を当たろう」

ラズワルド「エルフィ!ほら!ご飯だよ!起きて!」ユサユサ

エルフィ「」ガバ

エルフィ「夢…zzz」

ラズワルド「わわっ、寝ちゃ駄目だよ!」ユサユサ

エルフィ「…ごはん…」

ラズワルド「仕方がないね…何か食べる物は……」ゴソゴソ

ラズワルド「…?このツタ、もう実を付けてる。…これでいいかな?毒とか入って…」ブチ

ラズワルド「…どう思う?」

ベルカ「…その人に消化できないものはないわ」

ラズワルド「そりゃまた随分と。はいエルフィ。どうぞ」



ルーナ「カミラ様!ホラ起きて!カムイ様大ピンチよ!」

カミラ「何ですって!?カムイは!カムイはどこ!?」ガバ

ベルカ(最初からこうすれば良かった…)

ルーナ「一人であっちに行っちゃったんです。止める間も無く…」

カミラ「…そう。ライナロックを持ってきなさい。私があなた達の失敗に懲罰を課す前に…」

ルーナ「は、はい!これ!」

カミラ「うふふ…いい子ね…」ヨシヨシ


ボッ

ズウウウウウン…


カミラ「もう一丁!」


ボッ

ズウウウウウン…


カミラ「…私もトシかしらね…」ガックリ

ルーナ「ま、まあ…調子が悪い時ぐらい、誰にでもあるわよ。元気出して」

エルフィ「…どいて下さい」

エルフィ「…破ッ!」



エルフィ「…私が抑えてる間は通れます。早く通って下さい。長くは持ちませんから」

ラズワルド「素手でこじ開けた…何て力だ…」

オーディン「おまけに何か虹色のオーラまで出ている…?エルフィ、これは一体どういう」

エルフィ「早く!」

ルーナ「ほら!行くわよ!早く!」

ラズワルド「…迷ってる時間は無さそうだね。行こう!…?」

ベルカ「…私はみんなを起こす。カミラ様も慰めないといけないから。先に行って」

オーディン「そうか。おm

ルーナ「ほら!さっさと行く!」



カミラ「…時とは残酷なものね。幾らでもあるように思えて…後悔ができるのは、それが過ぎ去った時だけ。後の祭り」

ベルカ「…さあ、どうかしら」

カミラ「…私に、聞きたいことがあるのでしょう?ふふっ…可愛い子。何を思い出したのかしら…?」

ベルカ「…あなたはどんな夢を見たの?」

カミラ「………夢」

ベルカ「…?」

カミラ「…ふふっ…何でもないわ。こっちにいらっしゃいな」

カミラ「…どんな匂いがする?」

ベルカ「……スミレ…香水の匂い…他の花も…」

カミラ「それから?」

ベルカ「………汗と皮脂の匂い…」

カミラ「あら。やっぱり強行軍って嫌なものねぇ…」

ベルカ「…………エリーゼの匂い。少し…似てる」

カミラ「…そう。もう無いのかしら?」

ベルカ「…これ以上は意味のないこと」

カミラ「そう…ウルスラならあと3つは、挙げていたわね。あの人、『そういう人』だったから」

ベルカ「……!」

カミラ「…ゆっくり話しましょう。時間ならあるもの…ね?」


_____ロウラン城 埋もれつつある廊下

オーディン「
その 美しさで 皆を魅了する
美と 権力に 執着した
悪しき王女。 三つの国を我がものとし、
支配をもくろむ、真の……黒幕だ!


オーディン「うーん…イマイチ決まらねえんだよなぁ…」

ルーナ「何がよ!ちっ…このままじゃツタで生き埋めよ!早く走る!」

ラズワルド「あっ!あれ、カムイ様じゃないか!おーい!カムイ様ー!」


_____ローラン城 世界の裂け目


タッタッタッタッタッ


カムイ(ここは…!)

カムイ(あれが『星の夢』…前に見た時と同じ…)

カムイ「アクアさん!どこですか!出てきなさい!」


ガッ


カムイ「あ…」ドッ

アクア「…最後まで、馬鹿ね。竜石を…返しなさい」

カムイ「だ……駄目…です…」

アクア「…これだけ溜まっていれば十分かしら?」


「READY……?」


アクア「…よいしょ。ここに乗るの?」



「…えねるぎーノコリ……2ぱーせんと…EMPTY…」


アクア「これ。使えるかしら?」


「…OK…〉…ノコリ87ぱーせんと…再起動…」


アクア「…とうとう。とうとう終わりよ…カムイ。私の長い長い物語も…」

カムイ「…ふざけないで下さい!…何する気ですか!?元の世界に帰るなら…」

アクア「…【スレッドリムーバー】」

カムイ「…え?」

アクア「…いずれ、分かるわ」


「READY・〉」


アクア「…スレッドリムーバーを呼び出しなさい。異動先は…」

「あくせす権限が・ありません…ぷろせすノ・カンリョウは・フカノウ…」

アクア「…これがあればいいんでしょう?ヘッドギア。馬鹿馬鹿しい…」カチャ

アクア「…ねえ、カムイ。私はこれのためにリリスを殺した。一体…何が出来ると思う?」

カムイ「…なんでも出来る…」

アクア「そうよ。どんな夢でも叶う。文字通り夢の機械…代償さえ支払えば、ね」

カムイ「…駄目です!機械で叶えた願い……そんな物に、意味があるはずが無いじゃありませんか!」

アクア「…リリスの受け売り…でしょ?」

カムイ「…」



「アナタの・ねがいを・ひとつダケ・カナえて・さしあげマス・・・>」


アクア「…最高管理者権限を私に寄越しなさい。幾らでも願いが叶うように」


「…OK>」


アクア「ふふ…これぐらいに役得、あったっていいわよね。…スレッドリムーバーを起動。…この世界をR板に」


「OK> 3・2・1・GO!!>」


ピピピピピピ…

カムイ「な…何を…」

アクア「…依頼スレに書き込みに行ってもらうのよ。ふふ……」


「…作業・20ぱーせんとカンリョウ〉」


カムイ「…結局…何がしたいんですか!?R板だのスレッドリムーバーだの…何のことを言っているんですか!!」ヨロ

アクア「……そうね。もう良いかしら…ほら、そこに山積みになってる古本…ハイドラがまとめて捨てようとしてたのね」

カムイ「……?」ガサ

カムイ「こ……これは……私……?やたら薄い本ですね…」ペララ

カムイ「…か……は……」ペラ

アクア「…私はね、この世界を…」

カムイ「……い……いいい……」バサッ

アクア「…そんな世界に変えるの」

カムイ「嫌ですよ!!そんなの!だ、だってコレ……道徳とかモラルのカケラも無いじゃ」

アクア「…無くなるのよ。もうじきね。この世界から道徳という概念が無くなる。ほら、これを見なさい?」ポイ

カムイ「…携帯電話…」キャッチ

カムイ「……ss…」スッスッスッ

カムイ「な………なるわけないじゃ無いですか!?そんな事!そもそもそんな文章力が有ったらこんなゴミみたいなの書いてませんって!無理ですよこんなの!」

アクア「…やるのよ。否応無しに」

カムイ「う…嘘です!そんな…だってアクアさんがこんな事言うわけないじゃ無いですか!『逆…」

アクア「…無断転載禁止よ。ふふ…意外と面白そうね…これ」

カムイ「嘘です!嘘に決まってます!そんな…本心で望んでるわけじゃ無いでしょう!?何か事情があって…」

アクア「…」

カムイ「教えてください!」

アクア「……言えないわ」

カムイ「な…や、やっぱり!教えてください!」

アクア「…の…『呪い』…げほっ……」

カムイ「だ、大丈夫ですか!?」

アクア「げほっ……あのね…馬鹿すぎて忘れてるのか知らないけど…私は妹の仇なのよ?何で心配なんかしてるの…?」

カムイ「…過ぎたことは仕方ありません。…教えてください。償いのために」

アクア「………い……ゲホッ…言えないの。ふふ……当ててみなさい?無理だとは思うけど…」

カムイ「無理じゃありません。私は、あなたととても長い時間共に過ごしてきました。今となっては私が一番長くなってしまったようですけど…少しは分かっているつもりです。アクアさんの事」

アクア「…あなたは知らないわ。私のことなんて、何一つ…自分のことだって何も分かっていないくせに」

カムイ「…」

カムイ(…アクアさんが引き起こした一連の事件をまとめると、こうなります)

?ヒノカの洗脳

?リリスの殺害

?【星の夢】の強奪

カムイ(これは全て、『世界を変える』ために行われたこと。ここまでは簡単)

カムイ(ではなぜ『世界を変える』必要があったのでしょうか?)

?アクアは色狂だった

?誰かに命令されている

?その他

カムイ(?なら絶望です……?と仮定すると、『誰か』を断定する必要が出てくるわけです。今までアクアさんに接触のある人物で、アクアさんを操る能力がある人物…)

?ハイドラ

カムイ(…これしか考えられません。現にガロン王や前のギュンターさんも操られていましたからね)

カムイ(…しかし、この世界のハイドラはそこまで切れ者ではありませんでした。第一に、彼は先程アクアさんに殴られて気絶していましたから、黒幕というのはあり得ません)

カムイ(…つまり…)

カムイ「…アクアさん。やはり私に隠し事は効きませんよ」

アクア「…そう?」

カムイ「…あなたは、前の世界のハイドラに操られてこんな事をしている。…そうですね!?」

アクア「…」

アクア「…あなたには失望したわ」

カムイ「え……違いますか?」

アクア「全然違うわね。ハイドラがそんな事を望むと思う?あいつが望むのは生きとし生けるものの全てを殺すこと。日がなセックスばかりさせることじゃないでしょ」

カムイ「ぐ…考え直します」

カムイ(方向性は間違っていないはずです…)

アクア「…ペンダント」

カムイ「…え?」

アクア「…ヒントはその本の山と、あなたの首にかかってるペンダント。これで分からなかったら…もう駄目よ」

カムイ「本って…これ…ですよね。やっぱり。む…む…いやー分からないです」

アクア「あのね、片目で表紙だけ見ていても分からないわよ?開いて、中身を見るの。何冊も読めば自ずと分かるわよ」

カムイ「ええ…でも…」

アクア「…いいえ、それは参考にならないわ。その左手に持ってる…」

カムイ「…え…やたらおっぱいが大きい私とカミラ姉さんが複雑に絡み合ってる本ですか…?」

アクア「…それよりそっちね。その右手にある山の一番上にある…」

カムイ「………狐…と狼………野獣と化した野獣……世界って広いんですね…確かエポニーヌさんが縛って捨ててた資源ゴミに混ざっていた覚えがありますけど」

アクア「…分かった?」

カムイ「…分かりました。アクアさんは…」

カムイ「あなたはやはりハイドラに操られていたのです。ヒノカさんを始めとして、みんなを特殊な性癖に目覚めさせることで出生率を暴落させ、GDPを…」

アクア「…馬鹿なの?」

カムイ「でも!総人口は国力に直結します!」

アクア「…違うわ。もっとよく考えなさい?」

カムイ(…よくよく考えればそうですね。別に前者でも出生率は下がりますし…)

カムイ(…私とカミラ姉さんには無くて、ニシキさんとフランネルさんにあるもの…とは…?)

カムイ「……分かりません」

アクア「…例えが悪かったかしら?私の望む世界は…どちらも選ばなかったあなたの世界でしか、実現しない」

カムイ「……??」

アクア「…邪魔が入ったようね」

タッタッタッタッタッ

オーディン「ふう…ふう…だ、大丈夫ですか!?怪我は…」

ルーナ「うわっ…何よここ…落ちたらどうなるのよ…」

ラズワルド「…っ…あれが…アクア様…あの機械の攻撃は僕らが食い止めます。カムイ様…その合間を縫って攻撃してください」

アクア「…邪魔」

オオオン…

グワッ!

ルーナ「来るわよ…せーのっ、A.T.フィールド!」

シュゥゥゥゥ…

オーディン「長くは持ちません!カムイ様、早く!」

カムイ「………」

カムイ「…すみません、みなさん。一旦引いてください。私たちはまだ戦うわけにはいかないのです。真実を知らなければ…」

ルーナ「な…あんた、何言ってんのよ!ばっかじゃないの!?」

カムイ「…アクアさん、やめてください。これ以上近くつもりはありませんから。…今の所は」

アクア「…」

カムイ「……私は、己の軽薄さのために何度も仲間を失いました。仲間を…子供達を…先ほどはヒノカさんさえ、見捨てそうになりました。私のことを第一に考えてくれた人なのに…私は裏切った」

カムイ「……考えさせて下さい。まだ時間はある…少しは。そうですよね?」


「50ぱーせんと・カンリョウ・〉」


カムイ(とは言っても…手がかりがペンダントと…本だけ、ですか。せめてペンダントの意味が分かれば…)

カムイ(…ペンダントはアクアさんの力を補助するための道具です…アクアさんの力について、私が知っていることは?)

?竜石を作り出す

?戦意を喪失させる

?ハイドラを封印する

カムイ(この三つですね。何か共通点は…?)

カムイ(………竜石は、私の中の『憎悪』の感情を物質に定着させたもの。戦意は敵への憎しみから表れます。ハイドラは……何もかもを恨み、妬み、絶望していました)

カムイ(ペンダントは…『憎悪』を操る道具?一応説明はついています)

カムイ(そして…)


アクア『あなたが持ってたのね…そのペンダント。寄越しなさい』

ジャラ

バチィッ!

アクア『…っ…あなた、何かした?』

カムイ『…?いいえ。シグレさんから貰ってからそのままです』




カムイ(ペンダントは、あの時アクアさんにはっきりと【拒絶】の反応を示しました)

カムイ(これらの仮説から導かれるものは…)

「アクアはハイドラに呪われている」

カムイ(…アクアさんは前の世界のいつかの時点で、ハイドラの呪いに汚染されていました)

カムイ(汚染とは即ち憎しみ。ハイドラの呪いを浄化することで、自分がそれを取り込んでしまったのでしょう)

カムイ(ペンダントに拒絶されたのも納得がいきます。本来あの魔法具は透魔竜の暴走を鎮めるための道具…透魔竜が触れることを好むはずがありませんからね)

カムイ(しかし…世界を変えることは、世界を終わらせる事と相反するのでしょうか?その答えがこの本にあります)

カムイ(これらに登場する『私達』は、さしたる困難もなくハイドラを倒し、淫蕩に塗れた性生活を送っているように見えます。つまり…)

カムイ(……世界を変える事は世界を終わらせないことに繋がるということになります。たとえ、それが私達の望まない世界だとしても…少なくとも『絶望の未来』だけは回避できるという事ですか)



「100ぱーせんと・カンリョウ・〉ホントウニ・ホントウニ・イインデスネ・〉」


アクア「…時間よ。さあ、どうするの?力づくで止めてみる…?何度も言うように、これはあなた達のために…」

カムイ「……アクアさん」

アクア「…何かしら?」

カムイ「……なぜ、私達を信じてはくれなかったのですか?私たちは、ハイドラに蝕まれたあなたを…」

カムイ「助ける事だって…」

アクア「…馬鹿ね。本当に馬鹿。さあ…どうするの?」

ボタンに、指をかけるのが見えた。あと何分の1グラムかの圧力がかかるだけで、この歪んだ世界は、さらにその歪みを増すことになるだろう。

カムイ「…あなたを、止めます。救ってみせる…」

裸足の足に、冷たい埃と小石がきつく食い込む。節くれだった剣を抜くと、それは私の有り余るエネルギーを吸って、ぼうと光を帯びる。

カムイ「ルーナさん。ラズワルドさん。おでんさん。…手伝ってくれますね?」

ルーナ「もちろんよ!そのために頑張って来たんだから!」

ラズワルド「一体どこまで役立てるか分からないけど…できる限り手伝えるといいな」

オーディン「いやおでん……ふっ…どうやら時は満ちたようだ。来るべき暗黒の予言g」

アクア「…なぜ?私はあなたを裏切った。あなたの妹を殺した。あなたの心につけ込んで騙した。おまけに、治療の見込みの無い、致命的な呪いに侵されている。あなたは私を殺すべきよ」

淡々と続けた。アクアさんはいつもそう。初めて会った時も。初めて顔を触った時も。結婚の報告に来た時も。

そして今は、その有機質な──
確かに有機質な──機械の上に鎮座して、私を見つめる眼差し。

問いかけるように。あるいは射竦めるように。何も考えていないような、それでいて私の全てを知っているような目。

カムイ「できません。私はあなたを助ける」

喉に張り付く声を、力ずくでひり出す。1度目は掠れてもいい。2度目は大声で。

アクア「…陳腐な表現ね。陳腐という形容が陳腐なほど陳腐だわ」

蒼を湛えた瞳に、揺らぎは無い。

カムイ「始めましょう。ショーの時間です」

左手をそっと胸に当て、ひんやりとした鎖に指を絡ませる。その先に下がったペンダントを手繰り寄せ、ぎゅっと握りしめる。


ユラリ ユルレリ

風を受けた燕のように、目標に向かって突進する。

泡沫 思い 巡る 秤

その刹那、機械から放たれる無数の光弾。片っ端から薙ぐ。叩き落とす。あるいは避ける。

伝う 水脈

動かない表情。我ながら目を見張る迫る私を見つめ、推し量る目。

その手が 開く 明日は

突然、行く手を阻まれる。無機質な透明の壁…?

「あああああああああっ……」

誰が叫んでいるのかも分からない。ただそこに剣を叩きつけ、持てる力の全てを右手に注ぎ込む。

「ああああああああああ!!!!」

手応えは段々と強まっていく。しかし、それが臨界点へ到達した途端、呆気なく割れる。

そして一歩踏み出し、飛び上がってアクアのヘッドセットを、開いた方の手で掴む。

抵抗は、ない。身をよじることも、瞬きさえ無かったのだ。

そして置き土産とばかりに……その円柱の胴体に、深い斬撃を刻む。亀裂はその中心まで達し、竜石がころりと転がり落ちる。


カムイ「…どうですか?」

アクア「………ぁ…よくも…」

カムイ「…もう、機械は使えないはずです。投降して下さい。今なら…」

アクア「…なんて事……ヲ…シテ……くれたの……」

カムイ「…アクアさん?」

その機械は致命的な一撃を見舞われ、完全に停止した。筈だった。

アクア「…ァ……ぁ…ガ……」

カムイ「…!?どうしたんです…」

オーディン「危ない!」

カムイ「きゃあっ!」

だが、それは間違いだった。機械にとって未知のダメージは、思いもよらない結果をもたらそうとしている。【星の夢】は今や一つの生命体として、かつての主人を取り込み、それにとっての外敵を滅ぼさんとしているのだ。

アクア「……私……は……ガ…ッ…!…」

カムイ「そんな…し、しっかりしてください!今助けます!」

オーディン「待った!いまは危険です!噂には聞いていたが……これが【星の夢】か。はっきり言って最悪の事態ですよ、カムイ様」

カムイ「知ってるんですか!?」

オーディン「…ええ。大体ですがね。魂の契約の所産により、如何なる願いも、望みも叶う悪魔の絡繰。まさか本当にあったとは…」

カムイ「契約…?聞いてないですよ?」

オーディン「…身も蓋もない言い方すれば、エネルギーを馬鹿食いするって事です。何でもいいんですけどね。電気でも、熱でも、放射能でも、なんなら魔力でも。でも…」

カムイ「でも!?」

オーディン「………これが悪魔の機械と呼ばれる所以が、これなんです。こいつは、最終的に『記憶』を要求するんですよ。使用者の記憶」

カムイ「記憶が…力…?」

カムイ(そうか。シグレさんが言っていた…)


シグレ『記憶は…命より重い』


オーディン「改変されてません?…とにかく、あなたの一撃で【星の夢】はコントロールとエネルギーをいっぺんに失ったことになります。…それ、被ってみたらどうですか?コントロールが戻るかも…」

カムイ「…」カチャ

ボンッ!

カムイ「きゃっ!」

アクア?「…ァ…」

アクア?「…私は…アクア……?ハイドラ…?それとも……いいえ、もはやどうでも良い事…ね」

カムイ「な…」

アクア『……やっと…出てこられた…ふふ…あの女…よくも私をここまで…』

カムイ「あ、アクアさんを返しなさい!ハイドラ!人の体を乗っ取るなんて…卑怯ですよ!」

アクア『…?私はアクア……私は…汚染されたアクア………コレハ・〉あくまで私自身の判断…』

カムイ「……救ってみせます。少しでも、本当のアクアさんが残っているなら…」

アクア『まだ・分からないの?ホントウノ私……そんなもの・ナイ〉』

カムイ「……あなたが望むのは…世界の破滅、ですよね。なら、それを止めることが…アクアさんへの贖罪になります」

アクア『止める…?・外敵と判断・〉最終ぷろぐらむをアンロック……・〉……起動。これより、あなたたちの排除に入るわ。悪く思わないで』

カムイ「……今度こそ…今度こそ…!私たちの…いいえ。私の最後の戦いです!」



終章 Mind Controlled By A Program


カムイの送る言葉は、叫びは、もう彼女には届かない。全てを失い、暴走するかつて王女だった悲壮な骸…

亡骸 埋れ 狂い果てて
水面に 映る 我が意を 誰が 知るや


『カムイ様……』

カムイ「リリスさん…!?一体…」

『…化けて出ました。(リアルに)時間がないのでかいつまんで説明しますよ』

『【星の夢】の力だけで、すぐさまこの世界を滅ぼすことはできません。いくらアクア様の記憶のエネルギーを持ってしても、せいぜいここら一帯を吹き飛ばすのが山です」

『今のところ、やつが使えるのは亜空間転移システムだけ。【英雄の召喚】。私の妨害が効いているうちは、ね。便利ですよ?この体』

『と言っても時間の問題です。【星の夢】が自己を完全に修復したなら、もう打つ手がなくなります』

カムイ「そ、それって…」

『…具体的にはこの星全体を核融合エネルギー化させる事で第3型超巨大ブラックホールを形成し、時間軸をへし折ってスレッドをすぐさま停止させます』

カムイ「そんな…」

『…アクア様は…いや、ハイドラか、もしくは【星の夢】と呼ぶべきでしょうか?今となっては違いがありませんから……そうやって世界を滅ぼした後、元の世界に帰ってハイドラと融合するつもりのようです』

カムイ「そ…そうなったらもう…」

『ええ。全ての異界は絶望的なな危機に晒されるでしょう。【星の夢】は文字通り、どんな夢も叶えてくれます。神器で対抗できる相手ではありませんから』

カムイ「…私が食い止めます」

『…あなたを止めるためなら、【星の夢】はどんな手でも使ってきます。奴に感情やプライドはありませんから』

カムイ「…覚悟はできています。それにこのペンダント……私は、一人ではありませんでした。ずっと」


『…?』

カムイ「……かわいそうに、アクアさん。ずっと……ずっと一人ぼっちだったんです。何千年もの間…繰り返し…繰り返し生まれ変わり続け…もはや、自分が何のために生きているのかも忘れてしまった」

カムイ「私は……僕が……あたしが……俺が……」

カムイ「この夜が明けるその前に…永遠なる…眠りを!!」



アクア『……アクセス権限オール・アンロック・〉……銀河最強の騎士達を…ここに召喚するわ…』

?「…」ユラア…

?「…」ユラア…

?「…」ユラア…

カムイ「うっ…これは…」

カムイ(と…とても太刀打ちできる相手じゃない…!1人ならともかく、複数なんて…!)

透魔兵「…」ユラア…

カムイ「と、透魔兵まで…あんなにたくさん…」

透魔兵「…」ニヤ

ポイッ

カラン

カムイ「…?武器を…捨てた?」


ハイドラ「ふっ…私も、これぐらいなら手伝いができるぞ。我が娘よ」

カムイ「お、お義父さん!?一体…」

ハイドラ「…私たちは敵扱いだからな。奴らと合わせて50人までしか同時には出撃できん。46人連れてきたから…残りは何人だ?ん?」

カムイ「えー…4人ですかね?」

「アクアも合わせるから3人だよ、姉さん」

カムイ「た…タクミさん!皆さんも!目が覚めたんですね!」

タクミ「まあね。うっ…あいつらすごい気迫だ…空気がビリビリする。…まあ雑魚は僕たちで何とかするよ。姉さんは…」

カムイ「…はい。ありがとうございます」


カムイ「…アクアさん。もしあなたが少しでも残っているのなら…謝らせてください」

カムイ「ごめんね、アクア。僕は…知らなかったんだ。君がタクミの呪いを引き受けて…こんなにも苦しんでいたなんて…勿論、無知は免罪符の代わりにはならない。だから…」

カムイ「悪かったわね。あなたが消えたとき、てっきり逃げたのかと思ったもの。でも未来永劫苦しみ続けるなんて…あんまりね」

カムイ「……ハイドラを倒さない限り、あなたの物語は終わらない。そういう呪いですか。あなたが生を繰り返すたびに…私も苦しみ続けてきました。この一撃には…」

カムイ「私たちすべての思いが詰まっています。どうか…受け取ってください」

___________
________
……

フェリシア「カムイ様…起きて下さい…カムイ様…」

フェリシアさん…?

フェリシア「起きてください…カムイ様…」

ああ、私…死んでしまったんですね。また最初から…やり直し、ですか。

フェリシア「うぇっ……カムイ様ぁ…朝ですよ……起きてくださいよぅ……」

えへ…苦しいですよ。あれ…?何だか?ぺたが温かい…

カミラ「フェリシア…残念だけど、もう…」

それに…何でみんな泣いてるんですか?

フェリシア「そんなこと言わないで下さい!えうっ……カムイ様ぁぁぁ……」

カムイ「起きますよ。起きますから泣かないで…へぶぅ!」

フェリシア「うう……良かった…良かったです……生きてて…」

カムイ「く、苦しいです……」




以下、戦績と後日談




ドジな整備兵 フェリシア

戦争終結後、正式に工兵部隊に配属される。なぜか機械をいじっている時だけはドジを踏むことが無かったが、たまにお茶を汲んだりするとそれだけで一個大隊が全滅したという…




平凡な侍 リョウマ

特に語ることもなく、平凡に生き、平凡に国を治め、平凡に死んだ。普通が一番。お陰で後の、白夜史選択の学生たちに大いに恨まれることとなったが、そんな事は彼の知ったことではないのだ。



やっぱコタロウはホモ カゲロウ
&駄目になった忍 サイゾウ

結局よりを戻したらしい。ただ不幸なことに子宝に恵まれず、5代目サイゾウはミドリコが継ぐことになりそうだ。というかスズカゼ出すの忘れてたね。




ひどい役回り ヒノカ

戦前とは打って変わってモラリズムの化身と化し、専ら兄の補佐役として国に貢献した。しかし、時折思い出したように女の子の尻を追っかけ回していたのは公然の秘密だ。




ペインに蛇毒乗せたい アサマ

セツナが抜けた穴を何とか埋めようと頑張るも、自慢の毒舌が全身に廻り死亡。




(画面に)囚われし瞳 サクラ

戦争終結後、何もかもほっぽり出して異界に渡る。課長の右腕になったとも、YouTuberになったとも言われているが全て遠い国の又聞きの噂であった。



すまぬ完璧 ツクヨミ

サクラの失踪後、暫しタクミ王子に仕える事となった。成人後は修行僧として各地を廻り、族長としての器を求めたが、女性に対するトラウマと誤解は長い事消えることがなかったという。



ピンクの悪魔 エルフィ

突然失踪した主君を追って、旅に出る。が、途中に立ち寄った呆れかえるほど平和な国の軍隊に仕官し、盆と正月を除いてそのまま帰ってこなかったという。体重も20キロ増えた。




星条旗よ永遠なれ ハロルド

周囲には祖国に帰るとだけ言い残し、姿を消す。スチームパンクの力は偉大である。




ずっこけ三人組
ラズワルド&ルーナ&オーディン

晴れてアカネイアに帰還する。ルーナについては一つ小噺を拵えていたんだけど披露できなくて残念無念。



最後まで知らぬふり ジョーカー
&一転攻勢メイド フローラ



氷の部族 村の正門

ジョーカー「…じゃあ、な」

フローラ「…忘れ物は無い?」

ジョーカー「…もう5度も確認させられたからな」

フローラ「…ねえ…本当に、ここに住む気はないの?良いところよ?夏は特に」

ジョーカー「…みんなに宜しく行っとこう。じゃあな」

スタスタ

フローラ「ええい…ここで言わなくてどうするのよフローラ…言っちゃえ…よし…」

ジョーカー「あ、そうだ」クルッ

フローラ「!?」ビクッ

ジョーカー「今年から地方豪族の統治方式が変わるそうでな。たしか村ごとに地頭職を設置して、徴税やなんかを一括して任せるようになるそうだ」

ジョーカー「ガロン王も丸くなったもんだよな。近々王位を譲るなんて話も出てるし…」

フローラ「……なりなさいよ。役人」

ジョーカー「ふ…最初から言やあ良いんだよ」


カムイの去った今、王城に仕える意味の無くなったジョーカーは猛勉強の末に、地方役人として取り立てられ、残りの一生を氷の村という僻地中の僻地に捧げることとなった。実際その手腕には目を見張るものがあり、人々は彼をその地位に付けることを惜しんだとか。


我、剣を極めし者 カザハナ
&野望の王子 レオン


_____暗夜王国 クラーケンシュタイン城 執務室


レオン「ふう…ひと段落ついた。何か食べようか」

ピポパ

レオン「うん。早めにね」ガチャン

レオン「はあ…」

ガシャアン!

レオン「早かったね。そこ置いといて。あとで食べるから」

カザハナ「…久しぶりね、レオン王子。いや、もう王様なんだっけ」

レオン「……お前は…ああ、サクラ王女のアレか。窓ガラスは直していってくれよ」

レオン「何しに来た?昔話…じゃないよね」

カザハナ「…あなたを殺しに来た」

レオン「…そうか。あと5分もすればメイドがサンドイッチを持ってくるから、さっさと済ませてくれ」

カザハナ「…」

レオン「でも、僕を殺しても戦争は起こるよ。君にはもう止められない」

カザハナ「…兄を裏切り…父を殺し…それがあなたのやりたかった事なの?腐った貴族たちの傀儡になるだけの…」

レオン「…残念ながら、これはハイドラの呪いなんかよりずっと強い。本当に恐ろしいのは…人間なんだよ」

レオン「カムイ姉さんが帰ってから…みんな変わってしまった。家臣は半分以上居なくなるし、エリーゼも失踪するし、やっと正常化した国交もギクシャクしだしたし…」

カザハナ「…昔のあなたなら、そんな情けないカオなんかしなかった。のらりくらりと言い訳しながら、心の中で10も策を練っていた。このスコップだってそう」

レオン「…?何だい、それ」

カザハナ「……忘れてしまったのね。あんなに好きだったのに」

レオン「トマト…か。最近は土をいじる暇も無くてね」

カザハナ「……逃げよう」

レオン「え?」

カザハナ「私と一緒に、逃げよう。ここにいたら、いつかあなたは殺されるもの。どこか、追っ手の届かない所で…」

レオン「…残念だけど、今の僕には奥さんが3人もいるんだ。貴族に押し付けられてね…愛していないからといって、捨ておく訳にはいかないんだ」

カザハナ「…」

コンコン

ガチャ

レオン「…まあ、何か食べながら話そう。早く終わる話じゃない」

カザハナ「…」



穏健な暗夜王 マークス
&実装はまだかのう婆さんや シャーロッテ

押しかけてきたシャーロッテとともに僻地の村で早めの隠居生活を楽しんでいたが、レオンが繰り返し謝罪と王位の継承を述べてきたために仕方なく戴冠式を行う。その政治的手腕は時に見るものを唖然とさせ、やはり後世の受験生を苦しめ続けたという。


自覚せし人形 ベルカ
&あなたのための花 エリーゼ

戦が終わると、ベルカはひっそりと姿を消した。僅かな手がかりをもとに、エリーゼもまた跡を追う。それが暗夜王室の崩壊に繋がったことは、後世でも指摘されている。

別の伝承によれば、その後エリーゼは国に帰ってきて、1貴族として無名の貴族と結ばれたらしい。その家系は長いこと、その高い素質故に王室の魔導師として重宝された。

しかし、また更に別の、あまり信用に値すると言えないような資料もある。グルニア王国の民家のタンスの奥の奥に眠っていた、とある木箱。マリーシアの婆さんのの嫁入り道具と一緒に入っていたとか。中には薄汚れた、灰色の細長い布切れが入っているだけ。婆さんの話によれば、それははるか昔、エリーゼが肌身離さず身につけていた物だという。

箱に書かれた文字は、既に風化して読むことができない。ただ、布切れの一文字の刺繍だけは、はっきり残っている。

『∞』

と。



弓殺しー。 セツナ
&悲壮な骸 アクア

_____シラサギ城 アクアの私室


コンコン

カムイ「アクアさん、居ますか?」

セツナ「…入って、どうぞ」

セツナ「障子をノックするのはどうかと思います」

カムイ「えへ…つい、ですね。…何をされてるんですか?」

アクア「…」ペタペタ

セツナ「…お絵かきです。指の運動は頭に良い影響があるって、お医者さまがおっしゃってましたから」

カムイ「…へえ…これは…セツナさんですね。凄い…何というか、鬼気迫るモノを感じます」

セツナ「何の用ですか?」

カムイ「…今夜、発ちます」

セツナ「そう…ですか」

カムイ「…はい。できれば連れて行きたかったのですが、今回ばかりは戻ってこれないでしょう」

セツナ「そう…アクア様の面倒は私がみます。ほら、一応主君ですから」

カムイ(……ヒノカさん、よく異動を呑みましたね)

アクア「…?」

セツナ「…妹みたいなものでもあります。私がしっかりしなくちゃ…この前2人して落とし穴に落ちた時は、本当に危なかったから」

アクア「…」ニコ

カムイ「……奪い去られた記憶…」

セツナ「…あるいは、無くしたほうがよかったのかもしれません。何百年という記憶の重みは、一人の人間が背負うには余りにも重すぎますから」

カムイ「やたら雄弁になりましたね。この前よりしっかり者に見えますよ」

セツナ「…お姉ちゃんですから」

カムイ「フフ…」

カムイ「…アクアさん?」

アクア「…?」

その時の、夕日を背にしたアクアさんの笑顔は、今でも私の目に焼き付いています。今まで決して見せることがなかった、アクアさん本来の笑顔。幾重にもこびりついた汚れに、歪まされていない微笑み。

それは呆けてしまったひと特有の、意味のない、腑抜けた空笑いだったのかもしれません。それでも貫く様な怜悧さと、射すくめる様な冷ややかさの残滓が、そこにはあったように思います。


アクアの記憶は最後まで残ることはなかった。【星の夢】は、彼女から全てを奪っていったのだ。過去も、未来も、その身さえ、全て。




亡霊と化した妹 リリス
&未来を繰り返す王女 カムイ


無限渓谷

リリス『…遂に…帰ってしまうのですね』

カムイ「ええ。今まで本当にありがとうございました。リリスさん。おでんさん」

オーディン「ふっ…礼を言うのはこちらの方だ。あなたとリリスのおかげで、俺の

リリス『時間がありません。おでんさん、最終チェックは済みましたよね?』

オーディン「むっ、終わってるに決まってるだろ。俺はな、そういうとこは抜かりがないんだ」

リリス『ふふ、知ってます。実体がない私の代わりに、スパナを握ってくれたこと本当に感謝しています』

オーディン「えっ…それってやっぱr

リリス『出発まであと1分です。カムイ様、どうするかは分かっていますね?』

カムイ「はい。何度も練習しましたから」

リリス『計算によれば、改造したシューターが時速88マイルに達した瞬間、一点に集約されたダーク・エネルギーでこじ開けた僅かな亀裂にバンパーの頭をねじ込めます』

リリス『この機を逃せば、次のチャンスは1145141919年後…一番早い秘境でもお婆ちゃんになっちゃいます』

リリス『お土産は持ちましたね?』

カムイ「あ」

リリス『まあ良いでしょう。…時間です。カムイ様…あなたに会えて、本当に良かったです』

カムイ「ええ。私も」

バタン



ババババババン!



オーディン「成功みたい…だな」

リリス『…帰りましょうか』

オーディン「お土産…忘れてっちまったな」

リリス『…結構高かったんですけどね』


オーディンはその後、宮廷魔導師として研究に専念したが、その保守的な風潮に嫌気がさして祖国に帰った。
リリスは異界に渡り、配管工のために喋るポンプだのオバケを吸い取る掃除機だのの開発に携わったらしい。

_____透魔王国 ロウラン城 王の間

「…久しぶりですね、ハイドラ」

最後に彼を見たのは、いつだっただろうか。リリスさんが自殺した時?私が自殺した時?

「おお…カムイ…よく帰ってきてくれたな…」

嬉しそうな声色とは裏腹に、玉座に腰かけた彼の表情に揺らぎは無い。

「お前を喜ばせるために、沢山の宝を集めた のだ。見てくれ」

透魔兵たちが、次々に財宝を運んでくる。その中にはかつて共に戦った顔が、自らの手で倒した顔があった。

「どうだ…喜んでくれるか…?」

ゆっくりと首を振って、もう一度ハイドラを見つめる。がっくりと肩を落とし、ため息をつくハイドラ。

「…一体、どれ程の異界を滅ぼしたのですか?どれ程の人間を、生き物たちを、あなたは屠ってきたのですか?」

「…必要な犠牲だ」

この人は、狂っている。

「…もし、私があなたを殺そうとしたならば、あなたはどうしますか?」

私も、狂っているのかもしれない。セツナさんの言うように、時の重みに耐えかねて。

そっと、腰の剣を外し、掲げる。

「…無理であることは分かっています。今の私はどう頑張っても、あなたに傷一つ付けることはできない」

剣を捨てる。節くれだったそれは、石の床に当たって桁ましい音を立てる。

「…だから、話をさせて下さい」



私は話をした。時間はいくらでもあったから。



あの時白夜を選び、ガロン王の凶刃に倒れた僕。

あの時暗夜を選び、タクミの矢に貫かれて死んだわたし。

あの時白夜を選び、戦争に勝ったにもかかわらず、自らの良心に苛まれ、自ら命を絶ったあたし。

あの時暗夜を選び、戦争に勝ったにもかかわらず、最後は暗殺者の手に掛かって殺された俺。

あるいは、自らの種族を守るために、地龍たちを束ねる王として君臨した王。彼が優しさを失ったのは、いつからだったろうか?

あるいは、竜たちを守るために、人間を滅ぼすという恐ろしい計画を作った王。彼の心はいつから歪み、矛盾したものになっていったのだろうか?

あるいは、妻を蘇らせる。その為だけに記憶を捨て、過去を忘れ、守るべき子供達すらその手にかけようとした男は?

あるいは、国のために魂を悪魔に捧げた少年は?

あるいは自らの死をもって、運命を変えた少女は?

「…彼らは…恨んでいたと思いますか?」

「止めろ…」

「運命を呪い、毎日を退廃の色に染めていたと思いますか?」

「やめろ…!」

「…彼らには……愛するものがいたと…思いますか?」

「黙れええええええええええ!!!!!私は…私はあああああああああ!!!!」

顔を覆い、崩れ落ちるハイドラ。

そっと近づき、私は手を伸ばす。

何かを恐れるかのように、震える男の背中にそっと手を置き、こう呟く。

「私は…あなたを許す。未来は変えられる。だから…」

そっと顔を上げたハイドラの顔が、驚愕の表情に染まる。ぽたぽたと赤く染まる。

同時に、腹部に焼け付くような鈍痛が走る。徐々にそれは剣の形になり、鈍痛は激痛へと変わる。

引き抜かれた剣は、もう一度刺される。今度はもう少し下の方に。正確には下腹部のあたり。

カンナが生まれてくるはずだった場所。

ああ、そうだ。これは報いだ。

腕をついて上体を起こすと、カンナの顔が見えた。手には血染めの【夜刀神】。

「ねえ、ハイドラさん…?」

視界が真っ赤に霞んで、よく見えない。ハイドラが立っているのか、それともしゃがんだまま震えているのか。

「憎しみでは…何も変わりません…」

エリーゼさん、マネしてごめんなさい。そっと、心の中で詫びて、続ける。喉から血がせり上がってくるのを感じながら。

「大切なのは…温かい手と…涙………で……」

ぷつん。目の前が真っ暗になって、私はまた死んだ。ハイドラはどう思うだろう?それだけが心配だった。





私は償い続ける。

いつまでも満たされることなく。誰とも愛し愛されることなく。物語を紡ぎ、宇宙を彷徨い続ける。

それが、私の贖罪。払うべき代償。




_____アクシス・アークス 第三秘書室


私としたことが…居眠りしちゃったわね。失敗失敗。えーと、今日の予定は…

うん。午後から『惑星開拓』が一件か。変な夢だったなぁ…

でも、なんか懐かしいような…恐ろしいような…

『スージー!スージー!早く来い!』

いっけない、早く行かなくちゃ。全く、話すぐらいテレビ電話を使えばいいってのにネ。

_____アクシス・アークス 社長室

はあ…お説教、長いなぁ。たった100万ハルトマニーの損失、何でこんなにガミガミ言われなきゃならないんだろうなぁ。

「はい…申し訳ございません…以後気をつけます…」

この馬鹿オヤジ。私が娘だって言ったら、どんなカオするのかしら。

「迅速な惑星開拓のためには、スージー。キミの力が必要だ。これからは一層励みたまえ」

このセリフは、『もう下がっていい』っていう合図。頭を下げたまま、ホバー・シューズを後ろに下げて…

「む?キレイなペンダントだ」

ペンダント…?

こんなの付けてたっけ?ま、いいか。

「次の開拓惑星…何と言ったかな。ポップコーン星だったか?」

まったく…私がいなきゃダメね。何にもできやしないんだから。

「第17宇宙、D-L6号星系の第4惑星…シュヴァルツワリウム・ヴィクトリアス」


「現地語で、ポップスターです」



【FEif】カムイ「強くてニューゲーム、ですか…」

おしまい

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