シンデレラたちの朝 (49)

シンデレラたちの朝

 ここは都内の某所にある、美城プロダクション所有の女子寮。
 日々研鑽し、高みを目指すアイドルが、心と体を休ませる憩いの場所。
 今日も可憐なシンデレラたちは、気の向くままに時をすごす・・・・・・



 ジリリリリリリン! ジリリリリリリン!


蘭子「…………」zzz


 ジリリリリリリン! ジリリリリリリン!


蘭子「んぅ…………」


 ジリリリリリリン! ジリリリリリリン!


蘭子「うぅ…………ぁい」


 ジリリリリリリン! ジリリリリ バン!


蘭子「ふぎゃあうううううっ!……っは!」


SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1468170064

 我が名は神崎蘭子! 創世の鐘の音により覚醒せし漆黒の魔王である! 封印の棺を破り向かうは

天へと通じる世界障壁……そして我を差し置き闇をもたらさんとする不届きもの!


蘭子「いざ!我が手に集え、漆黒の障壁!」シャァァァァ


カッ!


蘭子「ふぎゃ!ま、まぶしい!」シャアアア

蘭子「ふぅ…………今日は日差しが強いなあ」


 私の目は少しだけ変わっている。

色素の薄い瞳は強い光に弱く、お天気の日や夕焼けが綺麗な日は日傘が無いとずきずきと痛むの。

でも悪い事ばっかりじゃなくて、炎を宿す赤石の如き彩色はとてもかっこいい! 珍しいというのもポイントが高い。


ジリリリリリン! ジリリリリリン!


蘭子「む、小癪な! 我が一撃を受けてまだ囀るかっ!」


最近手に入れたばかりの目覚まし時計は、気に入っているけど少しうるさい。 歯車が動き回るデザインに一目ぼれをしてつい

買ってしまったのだ。 愚者の黄金の鈍い輝きが我が胸をくすぐってやまない……


飛鳥「……らんこ、それ、うるさい」

蘭子「我が片翼よ。ヒュプノスの呪縛から解き放たれたか?」

飛鳥「んー?んー、ぉぅあ…………」zzz


 また寝ちゃった。

飛鳥ちゃんは朝がとっても弱い。 一緒に寝るときはいつも起こしてあげているけど……


蘭子「飛鳥ちゃーんっ! おーきーてー!」

飛鳥「あと、20ぷん……」

蘭子「ちょっと長すぎるよ……」


 なんだかいつもより眠いみたい。 たぶん、ラジオが楽しくて寝付けなかったに違いない。

あとはお腹がすいてたとか! ふふふ、我ながらかんぺきなすいりである。


   クークルルルル……

 
 ──大変だ…… おなかがすいた。

蘭子「さあっ!我とともに生贄の祭壇へと向かおうぞっ!」ユッサユッサ

飛鳥「んんー、ひっぱってってぇ……」

蘭子「あまえんぼだ!」


 前から抱き着いて無理やり起こし、手をしっかりと握る。ふらふらとした足取りがちょっぴり不安で、ひっぱる手に

力が入ってしまう。

 時計を見るとすでに8時手前。 我が魔力を満たすにふさわしい、出来立ての朝ごはんが食べられる時間だ。


蘭子「いざ、参らん!」

飛鳥「んー……」

 もはや自分の家と同じくらい馴染んでいる長い廊下──窓からの景色が良くキャッチボールも出来る──に、

ぺたんぺたんとスリッパの音が響く。初めて引っ越してきた時はすごく違和感があったけど、いつの間にか

順応していた事実になんとなく、感傷的な気分が沸き上がってきた。


蘭子「お腹がすいたからかな」

飛鳥「なにがだい?」


 ……独り言を聞かれるとなんで恥ずかしくなるんだろう?

クーラーで冷えたフローリングの床は、裸足の飛鳥ちゃんが目覚めるのに十分な刺激を与えたみたい。

なんとなく、少しぼかした返事を返してみた。


蘭子「んー、廊下が長いな……って」

飛鳥「そうだね……きっと、これも新世界の風景の一つさ」

蘭子「我らはここにいると?」

飛鳥「そう、ボクらはここにいる。 だけれど、ここ以外に居なくなったわけじゃないさ」


──目の前のトビラをあけても、あるのはダイニングだけだけどね

そんな、何かが分かったようで何も残らない会話をしながらドアを開き、先にいるであろう仲間たちに挨拶をする。

まだ続きます。

すいません、これはアイドルマスターシンデレラガールズという作品の二次小説になります。
話の内容に関しては僕の腕の未熟さによるものですが、タイトルを売女達の朝にしてしまうと薬と汚い金が動き回る
ダウンタウンの話になってしまいそうなので変えることができません。

蘭子「闇に飲まれよ!」

奏「おはよう蘭子ちゃん、それに飛鳥も。 随分と早起きなのね」

 
 大勢の寮生が一度に食事をする事を前提に設計された広いダイニングに居たのは奏さん一人。 優雅に食後の

コーヒーを飲みながら挨拶を返してくれた。 うーん、かっこいいなあ……

 せっかくなので、奏さんの前の席に座ることにする。 


飛鳥「やあ、奏……さん」

奏「もう気にしないでいいのよ? 呼びたいように呼んでくれた方が嬉しいわ」

飛鳥「そうなのかい……? いや、一つの戒めとして、この鎖はそのままにしておくよ」

奏「フフッ、そういう所は好きよ?」


 なにやら意味深な会話をする二人に置いてかれる。 握ったままだった飛鳥ちゃんの手のひらを、両手でムニムニと

弄りまわして疎外感を紛らわす。

奏「……アナタ達、本当に仲良しよね」

蘭子「我らは近しき世界に住みしものゆえ」

飛鳥「否定はしないけれど、どうしたんだい急に?」

奏「何でもないの。……まあ、同性同士の距離感なんて傍から見ればこんなものかしらね……」ポソッ

蘭子「?」 飛鳥「?」

 
 首をかしげて飛鳥と顔を見合わせる。 奏さんは時々に難しい事を言うけれど、そういう時は答えを尋ねても

はぐらかされてしまうことが多い。


奏「ところで、朝ごはんはいいのかしら?」


 食べながらでもおしゃべりは楽しめるわ、と奏さんが言う。
 

飛鳥「それもそうだね。 まぁ、ボクは蘭子の付き添いみたいなものだけd」グー

奏「……」プルプル

飛鳥「……」プルプル


 これはいけない。 たぶん飛鳥ちゃんが私を出汁にして言い訳をしたと思われているパターン。

誤解を解くならすぐに解いた方が良いって周子ちゃんも言ってたし…… なんとかしなきゃ!

蘭子「あ、あーおなかすいたなー!はやくごはんがたべたいなー!」

奏「んふっ、そ、そうねっ、ふっ、ふふっ」プルプル

蘭子「あ、あれ?」

飛鳥「もしかしてわざとやってるんじゃないだろうな!?」

奏「大丈夫よ、ええ。 おなかが空くのは、悪っ、悪い事じゃないわ」

飛鳥「違うんだ…… 奏さんは誤解をしている……」

奏「わかってるから、気にしないで準備していらっしゃふふふふふ……」プルプル


 おかしいな、想像してた結果と違う。 飛鳥ちゃんは顔を赤くして怒ってくるし、奏さんは笑いすぎてテーブルに

突っ伏してしまった。 くくくく、と断続的な声が漏れるたびに、コーヒーカップがカチャカチャと返事を返している。

まあいいや、まずは朝ごはん。 用意が終わるころには奏さんも元に戻っているだろうし。


蘭子「では、饗宴の準備を始めようぞ!」

 この寮では学校がある平日を除き、部活やお仕事の予定が入っていない人が順番に食事当番をすることになっている。

プロデューサーが言うには、これもレッスンの内……らしい。 材料は用意されてるけど作る人によって様々な個性が

でてくるから大体においては楽しい。 今朝の当番は誰だったかな?


奈緒「お、二人とも早いじゃん! 今作ってやるからなーっ」


 少し高めのカウンター越しに、ふわふわとボリュームのある髪の乙女が立っていた。


蘭子「あー……」 

飛鳥「あー……」

奈緒「おーーーい!? なんだよ! いきなり失礼だぞっ!?」


 怒りの声をよそに、期待に盛り上がったテンションがしおしおと盛り下がっていく。 正直に言うと少しだけ嬉しくない。

彼女の料理はとても丁寧でボリュームもあり、そのうえ盛り付けがとても可愛い。 でも……


蘭子「奈緒ちゃんのごはん、味が薄いし……」

飛鳥「若いボクらに必要なのは栄養じゃなくて即物的な味付けなのさ……」


 美味しいんだけどね?

奈緒「もー、これでもちゃんと考えて作ってるんだからな?」

飛鳥「でも……奈緒さんの料理は美味しいからベストな状態で食べたいんだ……」

蘭子「奈緒ちゃん……」

奈緒「…………あーもー! わかったっ! わかったから悲しそうな顔やめろよ!」

蘭子「ありがとう!」

飛鳥「これからも積極的に甘やかしてくれ」


 ちくしょー可愛いと得だよなー、と言いながら奈緒ちゃんはフライパンでベーコンを焼き始めた。

ジュゥゥ……と、お肉が焼ける音とともに燻製特有の香ばしい匂いが漂ってくる。 その間にもチャッチャッと

卵のかき混ぜられる音が聞こえてきて、わたしは思わず目を閉じて耳をすませたくなった。


飛鳥「ノスタルジーに浸ってしまうな……」


ふとした瞬間にね、と飛鳥ちゃんが言う。


蘭子「郷愁は我らが此方に存在する証明であり、また彼方に共鳴する心の形よ」

 
 そうであろう? と答え、どちらともなしに自然と笑いがこぼれた。

 溶き卵がフライパンに流し込まれる音がする。 楽しそうな鼻歌、パンの焼ける香り、窓の外から吹く温かな風。

すこし感傷的だった気持ちが解けていく感覚が心地良い。


奈緒「なんだか嬉しそうだな。 そんなに楽しみだったか?」

飛鳥「まあ、そんなところかな」

蘭子「ええ、根源たるものに違いは無いわ」

奈緒「なんだその含みのある言い方。 まーいいや、出来たから取りにおいでー」

蘭子「うむ!」 飛鳥「ああ」

奈緒「はいこれ──ってお前たちなんて格好してんだよっ!?」


 いきなり怒られてしまった。 カッコウ?


飛鳥「なんて、と言われてもな。 見ての通りただの寝間着さ」

蘭子「我らは安息日ゆえ」

奈緒「休みなのはあたしもだよ! そうじゃなくて服装! ちょっとはしたなさ過ぎるだろ!?」


 はしたない? あー確かに、飛鳥ちゃんはパンツと大きめのTシャツしか身に着けていない。首元が広いタイプ

だから前かがみになるとおへそまで見えるし、なるほど、少しはしたないかもしれない。


飛鳥「確かに、蘭子のパジャマは少し小さすぎるね。 胸元あきっぱなしだし、少しはしたないかもしれない」

蘭子「えっわたし?」

飛鳥「えっ」

奈緒「両方だよっ!」


 2年前から着ているパジャマに難癖をつけられるとは思ってもみなかった。 普段着やグラビアの時に

比べれば、布面積ははるかに広いし気にし過ぎだと思うなあ。

 2年前から着ているパジャマに難癖をつけられるとは思ってもみなかった。 普段着やグラビアの時に

比べれば、布面積ははるかに広いし気にし過ぎだと思うなあ。


飛鳥「ボクらはアイドルだしね、肌を見せるのも仕事の内みたいなもんだろう?」

蘭子「それもそうであるな。 我が友飛鳥は良い事を言う」

飛鳥「そういえば今週のマガ○ンは巻頭が奈緒さんだそうじゃないか」


 奈緒さんが赤くなった顔を隠すようにしゃがんでしまった。 


奈緒「ああああああ…… 嫌なこと思い出させるなよなー……」

蘭子「な、なにゆえ嘆き悲しむ!?」

奈緒「だってさあ…… クラスの男子が毎週もってきてるんだぞ?」


 飛鳥ちゃんもしゃがみ、なんとなくわたしも目線を合わせ円になる。


飛鳥「へぇ、学校に雑誌を持っていっても良いのか。 流石というべきか、中学とは違うね」

奈緒「あーそれは学校によるかな。 いやそうじゃなくてさ、恥ずかしいじゃん……」

蘭子「それはちょっとあるけど……」

飛鳥「スタッフ相手だと気にならないんだけどね……」

奈緒「目の前で読みながらひそひそ話しあったりさー……何の罰ゲームだよー……」

飛鳥「うっ……それは未知の領域だな……」

蘭子「それも我らに与えられた試練か……」

 シン…… と言葉が途切れ、気まずい空気が流れる。 わたしは俯いて奈緒ちゃんの言ったことを想像してみる。

目の前で男子に見比べられちゃうのか…… 自信がないわけじゃないけど、なんだか想像すると顔が火照ってきちゃう……

顔を上げると、二人とも顔が赤く染まっていた。 おそらくわたしも同じ色合いになっていることだろう。

 どうしたものかと考えていると、奈緒さんが立ち上がり言った。


奈緒「ああああああ! この話おしまい! さっさと飯食え! ほら立った立った!」

飛鳥「うわ! あ、ああ、そうさせてもらうよ」

蘭子「う、うむ。 この皿でよいか?」

奈緒「そのプレートが一人一皿でサラダは取り皿とこのボウルな!
   パンは飲み物と一緒に持ってってやるから…… あー、何飲むんだ?」

蘭子「では白き生命の雫を」

飛鳥「キミはまだ大きくしたいのか……? 少し欲張りすぎなんじゃあないかな」


 飛鳥ちゃんの目つきが険しくなり、わたしの頭と胸を交互に見てくる。 そんなに変わらないと思うんだけどなあ……

以前そう言った時は思い切りおっぱいを揉みしだかれたのでもう言わないけど。


飛鳥「まあいい、ボクにも牛乳をくれ」

奈緒「あいよ。 そんなに気にするほどの事じゃないと思うけどなー」

蘭子「あっ」

奈緒「ん? 蘭子どうしたんぬあああああああああ!?」

飛鳥「言ったな!? ボクは持てる者が吐く傲慢な言葉が嫌いなんだ!」

奈緒「だからっていきなり鷲掴みにする奴があるかああああ!!」

飛鳥「凛さんに『背なんてあっても得しないよ』とか言われたら腹立つだろ!」

奈緒「ちょああああ!? わかったから揉むな! 痛い痛い痛い! 牛乳が落ちる!」

飛鳥「この無駄な脂肪がある限り! みりあと比べられたボクの気持ちはわからないさ!」

奈緒「八つ当たりかよおおおおおっ!?」

蘭子「飛鳥ちゃんお、おちついてぇ……!」

飛鳥「絶対にノウだ!」

 
 この後、飛鳥ちゃんは怒った奈緒ちゃんにげんこつを落とされ、逆に散々揉み返されることになった。

書いているうちに話がずれてきてオチにたどり着けなくなるこれはどうすればいいんですかね

ありがとうございます
夜食の書きました

 とりあえず、お前たちはブラジャーをつけろ! と怒鳴られ、半ば追い出される形でテーブルに戻る。


奏「はーおかしい。 奈緒も災難ね」

蘭子「飛鳥は意外と繊細ゆえ、時折見えざる悪魔に背を押されてしまうの」

 
 わたしは腕の中で落ち込んでいる飛鳥ちゃんの頭を撫でながら、事のあらましを説明をしている。

現在の奏さんはとても楽しそうに笑っているけれど、飛鳥ちゃんが涙目で戻ってきたきた時はすっごく心配していた。

Caerulaの打ち上げで遊園地に行ってからの二人はとても仲が良くて、頻繁にお仕事の相談なんかをしているみたい。


奏「今日の飛鳥は甘えん坊ね。 手をつながれてたり泣いて甘えてたり、なんだか蘭子ちゃんの妹みたいよ」

飛鳥「よしてくれ、まだ泣いてない」

蘭子「まだ?」

飛鳥「まだでもない……」


 そう言うと飛鳥ちゃんはわたしの膝から降りて自分の席に戻った。 右肩が少し湿っぽいのは、この際気が付かないことに

しておこう。 ふと時計を見上げると、時刻は8時30分。 なんだかんだで結構時間が過ぎてしまった。

 二人分のナイフとフォークを用意していると、奈緒ちゃんが大きめのトレイを持ってやってきた。 大きめのサラダボウル

に牛乳、バスケット、それと新しいプレートが次々並べられていく。

奈緒「お邪魔するぞー」

奏「あら、一緒に食べることにしたの?」

奈緒「ああ、まだみんな起きてこないからな……って飛鳥、そんなに睨むなよ……」

飛鳥「睨んでるつもりはないよ。 ただ、身から出た錆とはいえあんな目に合された直後だからね」

奏「触られたのが恥ずかしい、ってことよね?」

奈緒「飛鳥だって散々握っただろ! ほらあたしの牛乳もやるから機嫌直せって」

飛鳥「それは貰う」

 
 二人の会話に挟まれてはいるが、すでにわたしの意識は朝ごはんにしか向いていない。 本日のメニューは

程よく焼き色のついた厚切りベーコンと大きめのオムレツ。 オムレツにかかっているのが気取ったデミグラスソース

ではなくケチャップであることが気分を高揚させる。 スッとナイフを入れると意外に手ごたえのある感触……

なるほど、これはジャーマン風のオムレツか、嬉しい誤算だ。 一口大に切って口に入れた瞬間、バターの香しさが

鼻孔を抜けていく。 ふむ……ふむ……うん、なんていうか優しい味だ。 生クリームではなく牛乳を使っているんだろう。

それにこのチーズ! ジャガイモとチーズの出会うべくして出会ったというような相性はいっそ感動的だな…… いくら

でも食べられてしまうぞ。 そしてベーコン──しかもまがい物じゃない厚切り──を大きめに一口………… いやまいった

これはあまりにも直接的だ。 深みのある燻製の味にスパイスのピリッとした風味…… 食べるってこういうことだよね。

奈緒「え、なんだ? なんでそんな真顔なんだよ」

奏「また薄味にしたんでしょ? 気にしすぎも体に悪いわ」

奈緒「いやいや、二人のはちゃんと濃い味にしたってば!」

飛鳥「美味しいけど濃くは無いよ」

奈緒「あれっ」

奏「味覚が鋭いのね。 キスの味にうるさい女になるわよ」

奈緒「そういうのやめろって! は、恥ずかしいだろ……」


まったく騒がしい。モノを食べる時はね、誰にも邪魔されず、自由でなんというか救われてなきゃあダメなんだ

独りで静かで豊かで……


飛鳥「タバコの味ってやつか、ドラマの定番だ」

奈緒「確かによく見るけどさぁ」

飛鳥「蘭子のも同じ、ドラマだよ」

奏「ドラマって…… 月曜日のあれ? 冷たい蘭子ちゃんって新鮮よね」

奈緒「あれ結構評判良いよな! 相手役の俳優もかっこいいし……って、え? キスシーンあるのか……?」

蘭子「ぶーっ!?」

奏「きゃああ!?」


 あーびっくりしたっ! 驚きすぎて牛乳が気管に入っちゃったよもー……


飛鳥「蘭子がそんな如何わしい事をするはずないだろう。 昨夜のグルメ系さ」

奈緒「だ、だよなー! 知ってた知ってた」

蘭子「おどかさないでよ~! うええ、パジャマびしょびしょ……」


 食後の一杯が半分くらいパジャマに吸われてしまった。 濡れた服ってなんでこんなに気持ち悪いんだろ……


奈緒「ほら言ったじゃん! はしたないって!ブラつけろって言ったじゃん!」

飛鳥「確かにこれはちょっと煽情的かもしれない……」


 同じ性別でもね、と飛鳥ちゃんが言った。 流石に恥ずかしくなり、顔が赤くなってくるのが分かってしまう。

わたしは、二人の目線から隠すように胸元を押さえ身をよじった。


奈緒「そ、それダメだ! もっとだめだって!」

飛鳥「流石のボクも目のやり場に困るな……」


 どうしよう、とりあえずタオルでも…………!? 急に背筋の凍るような悪寒が…………あ!

慌てて視線を後ろに向けると、そこには凄惨な笑みを貼り付けた女神が降臨していた。

 つまるところ、奏さんが牛乳に塗れてすごーく怒ってる。

奏「ふふっ…… おそろいね? 私も、目も向けられない状態ってのになっているわ……」ガシッ

蘭子「あああああごごごごめなさぁいっ!」

奈緒「おおおおちつけって! な! あ、タオル! タオル持ってくるから!」

奏「どれだけ口に牛乳を溜めてたのかしら…… 下着まで浸透してるわよ」グニグニ

蘭子「ほへんははぁぁい……」


 有り体に言ってものすごくこわい。 以前、大切なカップを割ってしまった時の、でこぴんの痛みを思いだした。

薄く開いた金色の瞳に見据えられて目が離せないし体が震える。 たぶん魔眼保有者……


奏「申し開きはあるかしら?」

蘭子「なんでもするので…… で、でこぴんだけは……」

奏「今、なんでもするっていったわね?」


 頬をおさえられたまま首を縦に振る。 奏さんの瞳孔が開いたと思ったらスッと手が離れ、怒りの波動が収まった。


奏「まあわざとではないし、頭でも洗ってもらおうかしらね。 お風呂に行きましょ」

蘭子「か、寛大なる微笑み! あっ、でもテーブル……」

奏「それは原因を作った奈緒に片づけさせるからいいわよ。 急がないと匂いが染みちゃうし」

蘭子「う、うむ!」

 
 良かった、なんとかおでこは死守することができた。 お詫びに洗いっこで鍛えた洗髪技を存分に披露しよう!

飛鳥「――――行ったか」


 フフッ、ボクのハイディングスキルも侮ったものじゃないな。 日々足音を消して歩く訓練をしていた成果といった

ところだ。


美玲「オマエ、なんで椅子と机の間に挟まってんだ?」


 バカみたいだぞ? と、いきなりの罵倒を受ける。 うるさい、こっちだって非常事態だったんだ。

覗きこむように現れた彼女はここの住人ではないが、友人の偏りからか頻繁に遊びに来ている。


飛鳥「キミはその口の悪さを治すべきだな。 見た目相応に可愛らしい口調にでもしてみたらどうだい?」

美玲「うへ、気色ワルイこと言うなよな」

飛鳥「そうかい? まあどっちにしろ大した迫力はなああああああ」

美玲「今、ウチが握ってるモノをよく見て話すんだな」

飛鳥「わかった! 揺らさないでくれ!」


 人が寝ている椅子になんてことをするんだこいつ。 落ちたら危ないじゃないか。


飛鳥「謝るついでに椅子ごと引っ張ってくれないか? 入ったは良いが、抜けられそうにない」

美玲「みたいじゃなくて本当にバカだな」


 後で覚えてろよ。

飛鳥「ところで今日は早いじゃないか。 何か用事かい?」

美玲「ハァッ!? 今日は買いものに行く約束してたろッ!」


 そういえばそんな話があったかもしれない…… ああそうだ、ボクと美玲、蘭子、小梅、それに輝子さんで出かけよ

うって話になってたな。 だがそれにしても……


飛鳥「9時前に着くのは楽しみにし過ぎじゃないか? 11時集合だろ」

美玲「いいだろべつにっ! それで3人は……いや小梅達は寝てるか。 蘭子はまだなのか?」

奈緒「おーいタオル持ってきたぞーって、奏たちはどこ行ったんだ? 美玲になってるし」

美玲「おはよう奈緒さん!」

奈緒「おう、おはよう! それで二人はどこに行ったんだ?」

飛鳥「二人で浴室だよ。 奏さんがよくない目つきで蘭子を連れて行ったから助けてあげてくれ」


 あれは獲物をいたぶる肉食獣の眼差しだった。 良識のある人だから、今頃適度に蘭子をいじめていることだろう。

主に恥ずかしがらせる方向で。 まだやることあるのに、と言いながらも早足で助けに行く当たり彼女も正義の人だな……


奈緒「そうだ! 飛鳥ー! そこ頼んだからなー!」

美玲「ああ言ってるぞ」


 乾き始めている三人分の食器に空のバスケットとボウル、おまけに床にも繋がっているミルキーウェイ。

改めて、これはあんまりな惨状じゃないか?


飛鳥「ねぇ美玲……」

美玲「んじゃ、ウチはテレビ見てるから頑張れ」


 そういうと、美玲は振り向きもせず食堂付属のテレビの前に移動してしまった。 耳に入ってくるのはボクの嫌いな

誰にでも当てはまる占いコーナーの声。


『……位乙女座! 10位水瓶座! 11位蟹座! そしてごめんなさ~い!最下位は牡羊座のあなた!』


 明日から絶対に見逃さないようにしよう。 ボクの平穏のためにも。

ここは都内の某所にある、美城プロダクション所有の女子寮
青春を謳歌する乙女たちが心を通わせあう憩いの場所
少しの事故と大きな悲鳴、騒がしい朝はまだこれから・・・・・・

おわり

なんとか書き終わることが出来ました。
もし読んでくださったのなら、忌憚のないご意見をいただけると幸いです。
最後までお付き合いいただきありがとうございました。

ありがとうございます。
何を書くかも決まってはいませんが、次の機会があればまたよろしくお願いします。

一人称難しいですね
キャラクターと地の文がずれてしまいます

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