善子「お母さんが泣いてた……」 (33)

善子「何よ……私の所為だとでも言うの……?」

善子「私が学校にも行かず、部屋でゲームばかりしているから……」

善子「……」

善子「愚かなことだわ。私はただ、低俗な者共に囲まれて、自分の時間を無駄にしたくないだけ」

善子「嘆く事など、何もないと言うのに……」

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ピンポンピンポーン

善子「!!ちょうど学校が終わった頃……またあの子ね」

善子「花丸だか何だか知らないけど、幼稚園の頃に一緒だったと言うだけで、律儀に毎日毎日……」

善子「……」

善子「ああ、何だか苛々する」

善子「ゲームでもやるか……」

※※※

善子「ふぅ。やはりこの時間帯は中々手強い連中が多いわね」

善子「とは言え、このヨハネの敵ではないのだけれど」

善子「……」

善子「……て言うか、そろそろ飽きてきたわね、このゲームも」

チラッ

善子「もうすぐ5月か……」

善子「もうすっかり、クラスの人間関係も出来上がっていることでしょうね」

善子「ただでさえ、さほど生徒数の多くない学校なのだもの。顔なんてお互いすぐに覚えて、すぐに仲良くなって……」

善子「!!べ、別に未練があるわけではないのよ」

善子「あんな田舎の女子校、私のような異端者には、所詮小さ過ぎる器」

善子「そんなところで無為に過ごす時間など、私は持ち合わせてはいないのだから」

善子「……」

善子「それはそうと、明日から何をして過ごしたものかしら……」

―翌日。

曜(今日は雨か。朝からよく降るなあ)

曜(水泳部もお休みだし……千歌ちゃんと一緒に帰ろうかな)

曜(あっ、いた)

曜「おーい、千歌ちゃ……」

千歌「あっ、梨子ちゃん」

梨子「千歌ちゃん」

曜「!!」
ササッ

曜(あれ……何で隠れてるんだろ、私)

千歌「一緒に帰ろ!」

梨子「うん。曜ちゃんは……?」

千歌「曜ちゃんはたぶん部活だよ」

梨子「そっか、水泳部だもんね。じゃ、帰ろうか」

千歌「うん!」
キャッキャウフフ

曜「あ……」

曜「……」
ポツーン

曜「あの二人……最近仲いいな」

曜「家もお隣同士らしいし」

曜「それでなくても、スクールアイドルのことであんなに熱烈アタックしたんだもんね、千歌ちゃん」

曜「……」

曜「千歌ちゃんが幸せなら、ま、いっか……」

ドンッ

花丸「あいたた、ごめんなさい。ちゃんと前を見てなかったずら」

曜「あ、花丸ちゃん」

花丸「!!あ、お、お久しぶりずら……です」

曜「どうしたの?何だか、上の空みたいだったけど」

花丸「いや、ちょっと考え事をしてたもんだから……」

曜「考え事……?」

花丸「はい。善子ちゃんのことで」

曜「善子って……あの、ちょっと風変わりな?」

花丸「はい。前にも言ったと思うけど、善子ちゃん、ずっと学校に来てなくて……。それで、マルが毎日、ノートを届けに行ってるずら」

曜「そうみたいだね」

花丸「でも、今日は別の用事があってどうしても行けないから……それで困っていたずら」

曜「そうなの?でも、別に明日まとめて届けてあげたらいいんじゃないかな」

花丸「それはそうだけど……ちょっと気になることが」

曜「気になること?」

花丸「はい。いつもマルが行っても善子ちゃんは出てこなくて、お母さんにノートを渡してるんだけど……昨日行ったとき、どうやらお母さん泣いてたらしくて、目が真っ赤に腫れてたずら」

曜「!!」

花丸「善子ちゃんは確かに変わってるけど、根はいい子ずら。マルも久しぶりに善子ちゃんと一緒になれて、喜んでたのに……」

曜「そうだったんだ」

花丸「何とか善子ちゃんの力になってあげたくて、今日もできれば直接話したいと思ってたんだけど……一体どうすればいいずら……」
シクシク

曜「……大丈夫だよ。ほら、泣かないで」

花丸「でも……」

曜「分かった。じゃあ、今日は私がノートを届けにいくよ」

花丸「えっ?」

曜「私じゃ、直接会って話すってわけには行かないと思うけど。でも、こういうことはあまり焦って思い詰めても仕方ないし、今日は私に任せて、また明日から考えよ?」

花丸「ほ、ほんとにお願いしてもいいずら……?」

曜「うん」

曜「……今日は、私も予定なかったしね」

―その頃。

善子「雨か……」

善子「新しいゲームでも買いに行こうかしら」

善子「雨なら人に会うことも少なそうだし」

善子「傘で顔を隠すこともできるし……」

善子「……」

善子「お母さんは……部屋にいるようね」

善子「気付かれないように……」
コソコソ

※※※

善子「はぁ……あまり面白そうなゲームはなかったわね」

善子「……」

善子「これからどうしよう」

善子「家に帰っても、何となく息苦しいし」

善子「それに、そろそろ学校が終わる時間……またあの子がノートを届けにやって来る……」

善子「……」

善子「どこにも居場所が……ない……」

ザアアア……

善子「!!急に雨脚が」

善子「どうしたものかしら。こんな安物の傘では、ずぶ濡れになってしまうわ」

善子「とりあえずあのバス停に避難して……」
バシャバシャバシャ

善子「ふぅ……」

善子「……」

善子「ふふっ」

善子「相変わらずの、不幸体質ね」

善子「私が出かければ、狙い済ましたかのようなこの土砂降り」

善子「物心ついたときからずっとそう」

善子「でも、私はそれが嫌なわけじゃない」

善子「だって、薄っぺらくて退屈なのだもの……幸福なんて」

善子「まさしくクラスの連中そのもの」

善子「中身のない会話で、上辺だけで楽しそうにはしゃいで」

善子「そんなものに何の価値があるというの」

善子「それを選ぶくらいだったら、私は不幸せを選ぶわ。幸せよりもずっと豊かで奥深い、孤独な魂の住まうべき場所である不幸せを」

善子「彼らには、その闇を覗く資格がないだけ……」

ブォォォン……

善子「ん?バスが来たようね」

曜「あ……」

善子「……?」

善子(あれは確か……私が初めて登校した時にドン引きしてた二年生……?)

善子(この辺りに住んでいるのかしら。向こうが私の顔を覚えているとも思えないけど、早く行って欲しいわね)

善子(それにしても、いかにも体育会系って感じ……私が一番苦手とするタイプだわ)

曜「……」

善子(……?)

善子(何だと言うの……?じっとこっちの方を見てる……)

曜「あなた、確か……津島善子ちゃん?」

善子(!!話しかけて来た……!どうして?)

善子「わ、わ私は、私は……」

曜「よかった。あなたに用があったんだ」

善子「あ、あなたが私に……?い、一体なぜ」

曜「……隣に座ってもいいかな?」

善子「……!」

曜「よっと」

善子「な、なにを」

曜「止まないね。雨」

善子「……」

ザアアア……

曜「実は、花丸ちゃんに頼まれてきたんだ。あなたにノートを届けに」

善子「あ、あの子に……?」

曜「ずいぶん心配してたよ、花丸ちゃん」

善子「心配……?」

曜「うん。それに、寂しがってた」

善子「そ、それは……余計なお世話というものよ」

曜「……そうかな?」

善子「最初は面食らったけど、何となく話が読めてきたわ。あの子に話を聞いて、私を説得しに来たというところでしょう、どうせ」

曜「説得?」

善子「あなたは見るからに私とは正反対……体育会系そのものという感じだし、「学校に行ってないなんて可哀想!」などという短絡的な発想で、お節介にも私に登校を促しに来たに違いないわ。でもお生憎様、私は自らの意思でこの状況に身を置いているのよ」

曜「……」

善子「だから、あの子にもよく言っておいて貰えるかしら。人間風情の心配など御無用、と……」

曜「……ふふっ」

善子「!!な、何を失礼な……!」

曜「やっぱり変わってるね、あなた」

善子「そ、それは、人間から見ればそうかも知れないけど」

曜「確かに私も最初は驚いたし、あなたの言う通り、私とあなたは正反対かもって思うけど、でも……」

善子「でも……?」

曜「私ね、お父さんが船長やってるんだ」

善子「……?急に何の話……?」

曜「お休みも普通のお仕事は違うし、忙しい時とかは、結構会えないことも多くて……そのことで「可哀想」なんて言われることもあった」

善子「……」

曜「でも、私は全然そんな風には思わなかった。だって、私はお父さんの仕事が大好きだし、お父さんみたいになりたいと思ってるし、それで海が好きになって、泳ぐのが好きになって……」

ザアアア……

曜「それが今の私。でもそれって、みんなが言う普通の……普通の幸せを歩んで来たんじゃ、決して辿りつかなかった場所だよね。だから、人の幸せ不幸せを勝手に他人の物差しであれこれ言われたくないってのは……私もあなたと同じ、かな」

善子「そ、それが……」

曜「……?」

善子「それがどうしたと言うの……?そ、そんなことで私を理解したとでも言うつもり……?」

曜「ごめんね。気を悪くしたんなら謝るよ。私、こういう性格だし、あんまり相手を想いやった言い回しができなくて。今のは……そうだなあ、ただ私の話を聞いて欲しくなっただけだよ」

善子「!!べ、別に謝って貰う必要は」

曜「あ、そうだ。忘れる前に、はい、ノート」

善子「……一応お礼は言っておくけど、学校に戻るつもりはないわよ。それに……」

曜「……?」

善子「今更戻ったところで、みんなはもう……」

曜「……みんなって、誰?」

善子「え?」

曜「花丸ちゃんやルビィちゃんは、善子ちゃんに会いたがってるよ」

善子「それは……」

曜「私ね。自分が幸せかどうかはよくわからないけど、みんなには幸せになって欲しいと思ってるんだ。私の友達や、大切な人には、笑顔でいて欲しいって」

善子「……」

曜「あなたがどうするのかは、あなたが決めることだけど……花丸ちゃんやルビィちゃんや、それに……善子ちゃんが笑顔でいてくれたら、私も嬉しいな」
ニッコリ

善子(……!)
ドキッ

曜「あ……雨が止んだみたいだよ」

善子「いつの間に……」

曜「!!見て!虹だよ!」

善子「本当……」

曜「すごく綺麗だね」

善子「……何を、子供みたいにはしゃいで」

曜「えへへ」
ニコッ

善子(また……)
ドキッ

曜「じゃ、私行くね」

善子「……」

曜「また会えると嬉しいな」
ニッコリ

善子「そ、それはどうかしら」
ドキドキ

曜「じゃあね!」
タタタッ

善子「……」

善子「……行ったようね」

善子「全く、何だと言うの……」

善子「いきなり現れて、よく分からないことをぺらぺらと」

善子「本当に、お節介にも程があるわ」

善子「私も帰ろうかしら……あら?」

ヒョイ

善子「あの二年……傘を忘れて行ったようね」

善子「全くそそっかしい……」

善子「……」

善子「ここに置いておけば、また取りに来るわよね」
コトッ

善子「そうよ。私が返しに行く必要などないわ。そもそも、もう二度と会うことはないのだし……」

善子「……」

善子「……はぁ」
ヒョイ

善子「全く……」

―翌日。

花丸「あっ、先輩」

曜「花丸ちゃん、おはよう」

花丸「昨日は……どうだったずら?」

曜「ちゃんと手渡してきたよ」

花丸「えっ?善子ちゃんに会えたんですか?」

曜「たまたまね。あまりちゃんとした話はできなかったけど」

花丸「それはまあ、仕方ないずら……」

曜「……あら?」

花丸「どうしたずら?」

曜「何だか、頭上に人の気配が……」

花丸「え?」

ドサッ!

曜丸「!!」

善子「ふ、ふふ。どうやら、このヨハネのことを話していたようね」

花丸「よ……」

曜「善子ちゃん!」

善子「ほら。忘れ物よ」
スッ

曜「あっ、私の傘」

善子「全く、愚かなことね。この私がわざわざ届けてあげたことに感謝しなさい」

曜「ありがとう!」
ニッコリ

善子「うっ……」
ドキドキ

花丸「善子ちゃん……また会えてマルは嬉しいずら!」

善子「……」
ジロリ

花丸「……?」

善子「……はぁ。いい?勘違いしないように、初めによく言い聞かせておくけれど。私は別に親切心でそれを持ってきた訳ではないし、ましてや、あなたたちの顔を見たいからここにきた訳では、決してないのだから!」

曜丸「うん」

善子「単に、人間風情に貸しをつくるようなことは嫌だったというだけ」

曜丸「うんうん」

善子「それと!私はヨ・ハ・ネ。善子ってゆーな!」

花丸「うん!また遊ぼうね、善子ちゃん!」

善子「だから!善子ゆーな!」
バタバタ

曜「あはは……」

曜「……」

曜(あの子たちも、スクールアイドルをやってくれるといいな)

曜(その前に、私も……)

千歌「あっ、曜ちゃん」

梨子「おはよう」

曜「あ……」

千歌「今日も頑張ろうね」

曜「……」

千歌「……?どうしたの、曜ちゃん?」

曜「……ううん、何でもないよ」

曜(そうだ)

曜(いつも千歌ちゃんと二人で一緒にいたけど……これからは違うんだ)

曜(この3人で……ううん、みんなで一緒に笑顔になれるように、頑張らないと)

曜「おはよう、千歌ちゃん、梨子ちゃん」
ニコッ

曜「これからも、3人で頑張ろうね。スクールアイドル!」

―おしまい―

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