ミカサ「アルミンちゅっちゅする」(16)

※キャラ崩壊あり
※エロなし
※ネタバレコメントは自重頼む


「でも僕は好きだよ。
知恵を絞って強きを挫く、勇敢な話だよ」

「ミカサ、寒いから中入れよ」

このところ、急に風が強くなることが多かった。
少し外に出ただけなのに、エレンは最近小言が多い。

「何か見えるのか」

もう家に戻ろうと思っていたので、答えるべきか迷ったあげく、エレンの反応を
待つ。

「星か?」
「ペルセウス座」
「ペルセウス座?なんだそれ」

エレンは薄着のままこちらへ来てしまった。
二人で夜空を見上げる。

「あれがアンドロメダ、あれがペガスス座、あれがカシオペヤ座」
「あれってどれのことだよ…」

早く家に戻ろうと、知ってる星を次々と指差すと、エレンはつまらなそうに首の後ろに手をやった。

「あの点がペルセウス座。たしか、ペルセウスという人物が怪物を倒した伝説がある。
それから、あの光が」
「どれだ?」

エレンの右手をとって、瞬いてる光へと向ける。

「あなたの人差し指の先。アンドロメダ。ペルセウスが怪物を倒して彼女を助けた伝説がある。エレンもう戻ろう」
「…ああ、そうだな」

エレンの手を引いて、少しだけ暖かな家へと戻る。

「ペルセウスって奴、怪物倒してばかりだな」

扉を閉めながらエレンが呟いた。
この感想には覚えがある。

窓から空を見上げるエレンは、口が半分空いていて、子供みたいな表情だった。
あの時わたしも、こんな顔をしていたのだろうか。

******************************

「アルミン?一人で出歩いたら危ない。戻って」

開拓地で支給される毛布は薄い。
三人で身を寄せあって寝ていたから、アルミンがいなくなったことはすぐに分かった。

アルミンは、枯れた草の上に縮こまるみたいにして座っていた。

「アルミン?」
「ごめんミカサ。星を見ていたんだ」

アルミンの声が震えていたので、泣いているのと訊きかけて、言葉を呑んだ。
でも聡いアルミンには、お見通しだったらしい。

「こうやって思い出してないと、父さんと母さんと話したことを忘れてしまう気がするんだ。一緒に読んだ本は、もう残ってないから」

アルミンの両親は、領土奪還作戦のために壁の外へ連れていかれた。
アルミンは、奪還作戦は建前で口減らしが目的なんだと、泣いていた。

あれから随分経って、何も知らせはない。
知らせはないけれど、わたしもエレンもその事を口には出さなかった。

「私にも教えて」

アルミンは鼻を啜って、目を眇めた。
笑ってくれて良かった。
アルミンの目は、昼間の空の色で綺麗。


「全部は知らないけど、大きな星には名前があるんだ」

アルミンは目をキラキラさせて、たくさんの星の名前を教えてくれた。
星はずっと同じ場所にはあるのではなく、季節で位置が変わるものらしい。

季節が変わったらまた見よう、と返事をすると、アルミンは少しだけ低い声になった。

「でも一人で見ちゃ駄目だよ。夜は危ないから」
「アルミンも一人にならないで」
「…ごめん。次は気をつけるよ」

一人は危ない。
夜は暗くて、野生の動物の足音も聞こえるし、食料や持ち物を奪われる人も何人も見てきた。
そう言えば、ここに来るまでに動物の糞のようなものを踏んだ気がする。
そう伝えると、アルミンは私の足を見て少しだけ距離を開けた。

「あれがペルセウス座だよ」

「ペルセウスは、盾を使ってメデューサを倒すんだ」
「たて?」
「メデューサは、目が合ったものを石に変えてしまう怪物なんだ。だからペルセウスは、持っていた盾を磨いてメデューサ自身に自分の姿を見せることで倒すんだよ」
「そう」
「もちろん空想の話だけど。でもペルセウスはそれだけじゃなくて、その帰りにアンドロメダを救うんだ」

あれがアンドロメダだよ。
アルミンは腕を目の高さにまであげて、拳一つ分くらい右を指した。
あれ、というのがどれだか分からないけれど、アルミンが指した辺りの大きな星を見る。

アルミンは幾つかの星座の由来を説明し、私に振り向いた。
何か、感想を言わなければいけない。

「ペルセウスは、戦ってばかり」

アルミンが喜ばない感想を言ってしまったと反省した。
私はアルミンのように人を励ましたり、喜ばせたりすることが出来ない。

「でも僕は好きだよ。知恵を絞って、強きを挫く。勇敢な話だよ」
「……アルミンは、意外と熱血漢」
「僕が?熱血漢はエレンだよ」

アルミンの瞳から涙が消えて、ほっとする。
エレンは盾を磨いたりしない、と、いもしない人物とエレンを比較して2人で笑った。

「それから、あの星はうごかないんだ」
最後にアルミンは、1番上に輝く、青とも白ともつかない星を指さした。

あの星は知っている。
私も父に聞いたことがあった。

「だから、あの星を見上げて自分の場所を知るんだ。壁の外に出たときは、夜はあの星が頼りになるかもしれない。
夜間に外の世界へ行くなんて、現実的な話じゃないけど」

アルミンと同じ分だけ首を傾けて、白い輝きを見た。
そう語るアルミンの瞳は、好奇心で輝いていた。現実的じゃないと口にしながら、諦めるつもりも一欠片もなさそうで、不安になる。

「アルミン」

アルミンの冷えた手を掴んで、両手で包む。
何と言葉をかけていいのか分からずに俯くと、アルミンが苦笑したのが分かった。

「ありがとう、ミカサ」

******************************

「それなら訓練兵の時に習っただろ」

位置を変えない星を伝えると、エレンは少し得意気になった。

「真上にあって動かないから、遭難したときの目印にしろって」
「そうだったかもしれない」
「それで、あれは何て名前だよ」

エレンに訊かれて、あの星の名前を知らないことに気がついた。
時々思い出して、心の縁にしながら、私はあの星の名前を呼ばなかった。

「知らない」
「他の星は知ってて、何であれは知らないんだよ…」

エレンが呆れたように呟いて、就寝の準備を始めてしまう。
私は衝動的に出かかった言葉を、慌てて飲み込んだ。

「アルミン」と呼びたい。
そう伝えたら、きっとエレンは困ってしまうから。

終わり。
なんか思ったより短かったので、後日別の短編も投下したいと思います。

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