リルトット「見えざる帝国」 (106)

BLEACHのSSです

PCがスレ立て規制受けたので携帯から立てています

>>2以降はPCから投下します

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期待

見えざる帝国(ヴァンデンライヒ)
銀架城(ジルバーン)・回廊

4人の女性騎士団員が通路を歩いている

彼女たちは、リーダー格であるバンビエッタ・バスターバインの部屋を後にしたところであった

リルトット「――ったく、気の短けぇビッチだぜ」

ジゼル「だよねだよねッ? バンビちゃんてばマジになっちゃってさ
     “見えざる帝国の未来について”よ――だってさッ、だっさ!」

キャンディス「けどまぁ、実際問題バンビの言うことにも一理あんだろ
         それであたしらにまで八つ当たりしてくるのはいい迷惑だけど」

ミニーニャ「う~ん、帝国の未来とか、正直どうでもいいと思うの(>_<)」

リル「お前はもう少し色々考えろ」ムグムグ

焼き菓子を齧りながら言い放つリルトット

e-mobileだと連続投下できないので合間に携帯からレスを混ぜます

申し訳ない

キャンディ「で、どうすんの? 本気で次の戦いは団体行動する?」

ジジ「えー、ボクめんどいからパース」

ミニー「私はどっちでもいいけど」

リル「オレもぶっちゃけどっちでもいいぜ」

キャンディ「おいっ! リルおまえ言い出しっぺだろ!」

思わずキャンディスがツッコミを入れた

当のリルトットはどこ吹く風である

リル「そりゃバンビの奴が妙に苛立ってたから、適当に協力するっぽいこと言って誤魔化しただけだ
    あいつの“爆撃”は単独戦闘の方が都合いいだろ。下手に傍に居て巻き添え喰らうのはゴメンだぜ」

ジジ「どうかーん。最初だけ一緒についてって、後はバンビちゃん独りに頑張ってもらえばいいじゃんねっ!」キャハッ

キャンディ「ったくおまえら……ま、最初の侵攻で死神連中の底は知れたし、わざわざアイツの短気に付き合いながら戦う必要もないか」

ミニー「ほどほどに戦って、サクサクッと終わらせちゃえばいいと思うの(^-^)」

ジジ「そーゆーことっ! どーせ死神なんてボクの血を浴びせただけで終わりなんだしさっ」

リル「……」

口々に語る女騎士たち

既に勝利が確定しているかのような雰囲気の中でただ一人、リルトットだけが無表情で歩を進めていた

リル(ホントにそう都合よく進めばいいがな……)

連投規制避け

銀架城・回廊

仲間と別れ、自室に向かうリル

先刻のやりとりからか、自然と第一次侵攻の事へと意識が向いてしまう

リル(確かに、最初の侵攻じゃほぼこっちの圧勝だった)テクテク

リル(席官クラスの死神もかなりの数を仕留めたし、何より奴らの総隊長を潰せたんだからな)テクテク

リル(……とはいえ)ピタッ

そこまで考えて、リルは足を止めた

前方から、一人の星十字騎士団(シュテルンリッター)が歩いてくるのが目に入ったからだ

「おっとォ……」

騎士団の中でもとりわけ神出鬼没で、かつ掴み所のない人物

かといってそっけない訳でもなく、人格的にはむしろ親しみやすい部類に入るその男――

「珍しいな、おまえが独りで居るなんてよ」


星十字騎士団“D”アスキン・ナックルヴァール

連投規制避け

リル「……ついさっき別れた所だ。次の侵攻までは各自適当にグダグダ過ごしてようってな」

ナックルヴァール「いいねェ~適当にグダグダ、最高だねェ~。できれば俺もそうしたい気分だぜ」ハァ

リル「何言ってんだ、てめぇこそ大概グダグダしてんだろうが」

ナックルヴァール「いやいやいや、俺もこう見えて結構苦労人なんだぜ?
         今だってしょうもない事で喧嘩しそうになってた連中を仲裁してきたトコだしなァ」

ナックルヴァールの言葉を訊いて、先ほどのバンビエッタを思い出したリルは、露骨に嫌そうな顔を見せた

リル「……どうせあの眼鏡野郎が喧嘩の原因だろ? こっちもひとりイライラしてやがるクソビッチが居て鬱陶しい限りだぜ」チッ

ナックルヴァール「そっちもかァ。いやはや全く、初戦勝利の余韻にも浸れる空気じゃねェよなァ、どこもよ」ハァ

リル「……浸ってられるほど、深い余韻なんざねーだろ、実際」ボソッ

ナックルヴァール「ん?」

ふと、道すがら考えていたことを口にするリルトット

リル「アイツらはもうこの戦いに勝った気でいやがるが……最初の戦い、言うほどオレらのワンサイドゲームじゃなかったろ」

普段つるんでいる仲間ではなく、さして親しくもないこの男に突然そんなことを語ったのは、単なるきまぐれか

ナックルヴァール「あー……ま、そうだよなァ」

あるいは彼ならば、同じ気持ちを抱いていると直感的に思ったからか

連投規制避け

ナックルヴァール「こっちも思いの外、死人が出ちまったしなァ……
          ドリスコール、ロイド、ベレニケ、ジェローム……それとキルゲも、虚圏で戦死したんだっけか」

やり切れないと言った様子で、かつての同胞たちの名を挙げていくナックルヴァール

能力や戦闘スタイルに差があるとはいえ、いずれも彼同様“聖文字(シュリフト)”を与えられた強力な滅却師たちであった

リル「それに、不意打ちしかけた割に卍解も言うほど奪えなかったしな
    こっちの手の内が知れた以上、次からは連中も警戒しておいそれとは使わねーだろう」

ナックルヴァール「けどまァ、悲観しすぎるのもどうかと思うぞ?
          敵の総隊長を仕留めて、その卍解を星章化できたのはデカいさ」

リル「例の、世界を壊しかねない卍解って奴か。んなもん下手に使われたらオレらもどうなるか分かったもんじゃねーぞ」

ナックルヴァール「そこは陛下がどこまで俺たちのことを大事に思ってくれてるかだなァ……
          一命を取り留めたとはいえ、始解でバスビーたちを半殺しにする性能だっていうし、巻き添え喰ったらたまんないゼ~」

どこまで本気なのか読めないナックルヴァールの態度に、苛立った視線を投げかけるリル

リル「一番生き残る可能性が高けぇ癖にほざきやがるぜ、くたばり損ないが」ジトォ…

ナックルヴァール「おいおいやめてくれよォ……確かに俺ァ『死ににくい』けど、別に不死身とかそういうワケじゃないんだからな……」ウンザリ

リルの言い草に対して、ナックルヴァールは心外だとばかりに首を振る

連投規制避け

リル「……おまけに向こうはまだ、虎の子の零番隊とやらを出しちゃいねぇ
    どんなぶっ飛んだ奴らが控えてるか、わかったもんじゃねーしな」ケッ

ナックルヴァール「虎の子ねェ……それを言うならこっちにだってひとり、隠し玉があるっちゃあるんだが」

さらりと出てきた言葉を聞いて、リルトットは本気で苛立ちと不快感を露わにした

リル「……寝言は死んでから言えよ。アイツが解放されることなんざあるわけねーだろ」

そんなことになればそれこそ世界の終わりだ、とでも言わんばかりの口ぶりに、ナックルヴァールはあっさり引き下がる

ナックルヴァール「ま、そらそーだ。それこそ、天変地異でも起きない限りはな……っと、冗談だよ、そんなに睨むなって」

リル「相変わらず喰えねー野郎だぜ、てめーは……まぁ、この戦いを楽観視してる馬鹿ばかりじゃねーって分かっただけでもよしとするか」

ナックルヴァール「いやはや、そっちは相変わらずシビアだねェ
          パッと見は虫も殺しませんってな、あどけない顔してんのに」ヤレヤレ

リル「うっせぇゾンビ野郎」ジロッ

連投規制避け

ナックルヴァール「オイオイ、ゾンビはお前のお仲間の方だろ……ってだから睨むな!
         お前に睨まれると結構本気で怖ェんだよ、今にも喰い殺されそうでよ!」

飄々とした身振りでリルから離れ、通り過ぎていくナックルヴァール

彼女に背を向けたまま手を振り、その場を立ち去る

ナックルヴァール「ま、陛下もこのタイミングで後継者の発表なんてしたんだ
          遠からず次の侵攻が決行されんだろうし、せいぜい今の内に束の間の休息でも楽しむとしようぜ、お互いになァ」スタスタ

リル「……楽しいことか」アムッ モグモグ

ひとりごちつつ、食べかけの焼き菓子を頬張るリル

リル「……はらぁ、へったなー」ゴクン

連投規制避け

宴の痕が残る広間

乱暴に投げ捨てられたボトルの残骸を給仕係が片付けている

つい先ほどまで酒盛りでもしていたのだろうが、今や食べ残しのひとつも見当たらない

リル「チッ、腹の足しになるもんでも残ってねーかと来てみたが…」

不満そうに呟くリルトット

既に宴に参加していたと思しき騎士団員の姿もない

「――リルトット・ランパートか」ガシャ

ひとり――いや『1体』を除いて

リル「……派手に騒ぎすぎだろ、お前ら」ジトォ…

そう悪態をつくリルの眼前には、人ならざる異形の滅却師――


星十字騎士団“K”BG9(ベー・ゲー・ノイン)

連投規制避け

BG9「早合点をするな。短気を起こしたバズビーが勝手に散らかしただけだ」

弁明するBG9の言葉を聞いて、ナックルヴァールが言っていた「喧嘩」とやらのことを思い出す

リル「ったく、どいつもコイツも気に入らねーことがあるとすぐ癇癪起こしやがって。周りの迷惑も考えろってんだ」

BG9「その意見には同感だな。しかし見ての通り、お前の空腹を満たすものなどここにはない。間食ならば他をあたることだ」

リル「みてーだな――で、短気の理由はやっぱあの眼鏡野郎なのか?」

BG9「ああ。多くの団員同様、バスビーも石田雨竜のことを快く思って居ない
   加えて、異を唱えることなく後継者の座を譲る気でいる騎士団最高位(グランドマスター)にも不満を抱いているようだ」

リル「しかも揉めた相手ハッシュヴァルトかよ……髪型だけじゃなく脳みそまでニワトリレベルかあのモヒカン」

予想よりひどい答えにリルがうんざりした表情を見せた

BG9「その意見にも同感だ――だが、陛下のあのお言葉で、騎士団内に不穏な気配が漂いつつあるのは否定できない」

リル「当たり前だろ。ポッと出のヒョロ眼鏡が次期皇帝ですって言われて、そう簡単に受け入れられる奴が居る……かよ」

その辺のことを何も気にしてなさそうなミニーやジジが一瞬脳裏をよぎったが、即座に打ち消す

リル(あいつらは受け入れてるんじゃなく何も考えてねーだけだ)

連投規制避け

BG9「マスキュリンや蒼都も明言こそしなかったが、あの後継者指名に関しては少なからず思うところがある様子だった」

リル「で、バスビーの奴がひとり先走って不満ぶちまけたってワケか。なかなか白けた男子会じゃねーか」

BG9「……尤も、陛下が仰る以上、石田雨竜は次の戦いでその力を我々に示すことだろう」

皮肉るようなリルの口ぶりを意に介さず、淡々と続けるBG9

次の侵攻を示唆する彼の言葉を承けたリルは、棒付キャンディを取り出しながら、ふと気になったことを尋ねてみた

リル「次の戦いか……そういやおまえは星章化に成功したんだったな。どうだ? 卍解ってやつの感触は」ペロッ

BG9「そうだな――『雀蜂雷公鞭』、見事な性能と言える
   破壊力、射程距離、爆発範囲、いずれも申し分ない。流石は死神の奥義とも言える術だ」

リル「ベタ誉めかよ。ま、そうでなきゃこっちも狙う甲斐がねーけどな」ナメナメ

BG9「――しかし、手に余る」

リル「は?」チュパッ

思わず訊き返すリル

BG9はあくまで分析的な口調のまま、自らが入手した卍解に淡々と評価を下す

連投規制避け

BG9「第一に重量の問題がある。発動すれば機動力の大幅な低下は免れないだろう」

BG9「第二に使用後の反動が挙げられる。強大な威力を誇る分、射出時及び起爆時の反動は無視できないレベルとなる」

BG9「第三にして最大の欠点は燃費の悪さだ。一度の発動に莫大な霊力が掛かるため連続使用が難しい
   前述の欠点も合わせると、対人戦で無策に使用すればかえって己を窮地に追いやることになるだろう」

BG9「総じて、扱いこなすのには相当の技量を求められる卍解と言える
   事実、情報(ダーテン)によればこの卍解の元の所有者も、その力を十分に御しきれていなかったようだ」

リル「……要するにハズレ引いたってことか?」

BG9「そうは言っていない。使い所が限られるとはいえ、強力な卍解であることは事実だ」

リル「それ結局使い所がなきゃ持ち腐れってことだろ。散々欠点あげつらっといてよく言うぜ」ペロペロ

容赦なく言い放つリルトットに対し、「そうとも限らない」とBG9は返す

BG9「性能がどうであれ、この『雀蜂雷公鞭』が元の持ち主にとって切り札であったことは紛れもない事実だ
   それを失えば戦力は著しく損なわれる。他のどんな方法であれ、卍解を上回るほどの戦闘術がそう易々と体得できる訳もないだろう」

リル「ま、確かに陛下は、卍解を奪われた連中が他の戦法を練ってくるだろうとは言ってたが、所詮は付け焼刃だしな」チュパチュパ

連投規制避け

BG9「何にせよ、折角手に入れた卍解だ。蒼都のように、扱いこなすための鍛錬はしておくとしよう」スクッ…

そう言うとBG9はリルトットに背を向けた

リル「マジメな野郎だなー。いや、精密な野郎だなって言うべきか?」ペロ

彼女の方もまた、用の無くなった宴席にいつまでも居残る理由はない

その時ふと、思い浮かんだ疑問をBG9の背に投げかけてみた

リル「そういやお前、機械だから食事とか必要ないよな?」

BG9「…………」ガシャ、ガシャ

リル「なんで飲み会に顔出してたんだ?」

BG9「…………」ガシャ…ガシャ

リル「ひょっとしてお前、意外と付き合い良いタイプか?」ニヤニヤ

BG9「…………回答を拒絶する」

連投規制避け

再び回廊

リル「……チッ」

自室へ戻るべく歩いていたリルの行く手に、丸々とした黒い影が待ち構えている

「ゲッゲッゲッゲッ」

不気味な笑い声を漏らす褐色の老人

サングラスに隠された目は、一体何を見ているのか


星十字騎士団“L”ペペ・ワキャブラーダ


リル「邪魔だ消えろ」

ペペ「ひどーい♪ せっかく会えたんだし、ミーとお話ししていってくれてもイイじゃない?」

リル「キメぇんだよブタ野郎。てめーと話すことなんてねーよ」

ペペ「ゲッゲッゲ、そうカナ? リルトットちゃんだって吐き出したいことが溜まってるんじゃない?」

リル「あ?」

ペペ「たとえばあの眼鏡ボウヤの事とか、サ♪」ニヤリ

ぺぺの問いかけに、リルの表情が強張る

連投規制避け

リル「……それこそてめーにゃ関係ねーだろ」

ペペ「関係なくないモーン♪ そもそも、この見えざる帝国で、今回の重大発表と関係せずにいられる滅却師なんて居ないでしょ?」

リル「オレが言いてーのは、何の話題であれてめーと話なんざしたかねーってことだ」

ペペ「もォ、つれないナ~♪ これから色々面白いことになりそうだしもっと仲良くしようよ~
    バスビーとハッシュヴァルトの喧嘩だって、邪魔が入らなきゃもっと面白くなりそうだったのにサ~」

リル「アイツらの喧嘩も覗いてやがったのか。油断も隙もねー豚だな」フン

ペペ「人聞き悪いナ、ちょっと観察してただけだって♪」ゲッゲッ

リル「“観察”はナジャークープの十八番だろーが。てめーのはただの出歯亀だ変態
    大方、ハッシュヴァルトが問題起こす現場をおさえてゲスなことでも企む算段だったんだろーが」

ペペ「違うって~。ミーは、同じ見えざる帝国の仲間同士なのにミンナ“愛”が足りないな~って、心を痛めてるんだよ」

ペペの発した“愛”という言葉を聞いて、リルの表情に嫌悪が走った

リル「くだらねえ。愛で腹が膨れるかよ」

ペペ「少なくとも心は満たされるよ。“愛”があればね」ニヤリ

ペペが薄気味悪い笑みを浮かべる

連投規制避け

ペペ「心と身体は一つずつ、別々のものだけど根底では繋がってる
    いくら身体を満たしても、心が飢えてたらそんな生き方に意味なんてないモン」

ペペ「でも“愛”を忘れた者、“愛”を知らない者は後を絶たない」

ペペ「だからこそミーは、ミンナに“愛”を分けてあげるのサ!」

ペペ「“愛”は人を強くする! “愛”は人を優しくする! ミンナが“愛”に殉じる時、初めて真実の“愛”が生まれるッ!!」バッ

両手を広げ、高らかにそう言い放つペペ

リルの反応は冷ややかだった

リル「――ずいぶんと押しつけがましい“愛”なこった」

連投規制避け

ペペ「背中を押してあげなきゃ、“愛”に触れられない人だって居るからね
    ミーはただ、自発的な“愛”の芽生えを手助けしてあげてるだけだよ」

リル「ただの洗脳だろうがこのゲロブタ
    結局てめーのほざく“愛”なんざ、てめーにとって都合のいい“愛”でしかねーよ」ケッ

ペペ「そうカナ? そうかもネ♪ けど、考えてもみてよ?
    もしミンナがミーのことを愛したくなっちゃって――ミーへの“愛”でひとつになれたら、それは究極の愛の形じゃないカナ?」

リル「地獄以外の何物でもねーよ、んなもん」

そう吐き捨てて、ペペの横を通り過ぎるリルトット

ペペ「――あーあ、可哀そうだナー。リルトットちゃんにも“愛”を教えてアゲたいナー」ボソッ

その背中に、ペペの呟きが届く


直後

連投規制避け

リル「…っ!!」グワン

振り返ると同時に、リルの口元がありえない形に変容する


星十字騎士団“G”リルトット・ランパート

『食いしんぼう(The Glutton)』――あらゆるものを貪り喰らう、暴食の聖文字


まるで触手のようにスルスルと伸びた口が、鋭い歯を見せつけながらペペに向かっていく

しかし彼女が能力を解放した時には、ペペもまた行動を終えていた

両手の指でハートマークを形作り、それをリルトットに向けると

ペペ「ラァ~ヴ・キッス!!」ズッキュン

ハート型の光線を一直線に放ったのだ



リルトットの口がペペに喰らいつくのが先か

ペペの“愛”がリルトットの心を撃ちぬくのが先か

連投規制避け

ぐにゃり


リル・ペペ「!!」

突如、伸びきったリルの口が左へ捻じ曲がり、通路の壁に押しやられた

同時にペペの光線も、リルの口とは反対方向へ軌道を変え柱に直撃する

「うわぁ、びっくりしら……」

通路のド真ん中――床にかかる通路灯の影から現れた、その少年を避けるかのように

「こんら道の真ん中で攻撃らんて、危ないらよ」スゥゥ…

ボサボサの髪に焦点の定まらない眼

その口からは、二枚の舌が覗いている


星十字騎士団“W”ニャンゾル・ワイゾル

連投規制避け

リル「……びっくりしたはこっちの台詞だ。突然出てくんじゃねーよ」チッ

ニャンゾル「驚かせてごめんらよ。けど、あんたたちゅの方が急に攻撃し始めらのがいけないら」

ペペ「……やだナ~、ミーは攻撃なんてしてないヨ?
    ただ、リルトットちゃんに“愛”の投げキッスを送っただけ♪」

リル「オレだって、小うるせーブタネズミが跳んできそうだったからおやつ代わりに喰ってやろうと思っただけだぜ」

ニャンゾル「そうなんら? けど妙らね、攻撃れないならオイの身体を避けるハズがないんらけど」

リル・ペペ「……」

シラを切ろうとする二人に対し、とぼけた様子で返すニャンゾル

ニャンゾル「ま、星十字騎士団同士の私闘なんれ許されるはずがないし、オイの考えすぎらか?」

その独特な雰囲気に毒気を抜かれたのか、「よいしょっと」と呟いてペペが浮遊椅子に乗り込む

ペペ「マ、雑談タイムはこのぐらいにしとこうかナ。次の侵攻に向けて準備もしとかなきゃだし、ネ♪」

リル「……」ジッ…

ペペ「バイバイ、リルトットちゃん♪ 次の戦いもお互い頑張ろうネ!」

無言で睨むリルを尻目に、悠々とその場を後にするペペ

連投規制避け

ニャンゾルがリルに声をかける

ニャンゾル「ひょっとしてオイ、余計らことしたらか?」

リル「……いや、むしろ止めてくれてよかったぜ
    平時の銀架城で私闘なんざ、陛下に言い訳が立たねーし」

リル「それにペペはゲロ以下の豚だが、戦力としちゃあ申し分ない
    ついカッとなって喰い殺しちまうところだった、サンキューな」

ニャンゾル「どういたしましれ。ま、陛下は争いが嫌いらからね」

リル「けど、銀架城の内部でまでわざわざ影の中に隠れて移動することねーだろ」

ニャンゾル「オイは影に居た方が気楽らけどなー。表はろうにも物騒らことばかりらし」

リル「……外の世界で晴れて生きてくために死神連中と戦ってるってのに、本末転倒な奴だな」

連投規制避け

何気ないニャンゾルの言葉に、リルは思案する

リル(前にアキュトロンの奴から聞かされたことがある。1000年前に陛下が封印された後の、滅却師たちの話を)

リル(陛下の復活を望み、瀞霊廷の“影”に逃れ“見えざる帝国”を築いた奴ら)

リル(現世へ撤退し、死神の監視の下で生きる道を選んだ奴ら)

リル(前者は気の遠くなる程永い間、少しずつ力を蓄え仲間を増やしていき
   後者は度重なる虚の襲撃と死神による殲滅作戦によってほぼ絶滅の憂き目を見た)

リル(陛下の完全なる目覚め……そして死神共の粛清、それこそがオレら見えざる帝国の悲願)

リル(……とはいえ、新参のオレにはその辺の事情はどうでもいいっちゃいいんだがな)


ニャンゾル「――おーい、聞こえれる?」

連投規制避け

リル「ん、あ、悪りー。気にすんな
    つーか、物騒も糞もお前に関しちゃ何も心配ねーだろ」

ニャンゾル「んにゃ、そうれもないんよ。偶然落ちてら石ころに躓いれ転ぶこともある」

リル「えっ、そうなのか? てっきりそういう時は石の方から避けてくれるもんだと思ってたが……」

ニャンゾル「ま、意図的に設置されら罠らったら大丈夫なんらけど」

リル「おい待て匙加減がいまいちわかんねーぞ」

ニャンゾル「『見えてるかどうか』れなく、『本能で敵意を感じるかどうか』が問題ってこと
       隠れて攻撃してもそれは間違いなく攻撃らけど、道端の石ころは敵意なんれ放ってないらよ」

リル「相変わらず言葉の足りねー奴だな……つーかそれでもよくわかんねーっての。結局どこまでが『攻撃』になるんだよ」

ニャンゾル「実はオイもその辺の細かい所はよくわかってないんらよ」

リル「はぁ?」

ニャンゾル「らから、影の中を移動した方が気楽なんらって話」ポリポリ

連投規制避け

ぼんやりとした顔でそう語るニャンゾルに、リルは呆れたように呟いた

リル「……なんつーか、ナックルヴァールといいジジといいお前といい、無敵系の連中っつーのはどうにも適当な性格なのが多いな」

ニャンゾル「そうかな? れもオイらって――」

リル「あーもういい。お前の舌っ足らずな喋り方で言葉足らずな話聞いてたらやる気失せてきたぜ」ハァ…

やれやれと頭を振り、ニャンゾルに背を向けるリルトット

ニャンゾルもとぼけた様子のまま、再び影の中へと沈んでいく

ニャンゾル「よくわかんらんけど、怒りが収まったみたいれ何よりらよ
       お腹が空くと気が短くなるのが、あんたの悪い癖らからね」ズッ…

リル「分かってんなら食い物よこせ。“愛”なんぞより腹の足しになるもんの方がよっぽど欲しいぜ」

ニャンゾル「お生憎さま、今は何も持ってないら。回り道しながら自力で見つけることらね」スゥゥ…

連投規制避け

修練場の前を通りかかった時のことであった

リル「――ん?」

リルトットの足元に、ひとひらの花弁が飛ばされてきたのは

リル(コイツは……)

リル「桜、か?」


「――触ルと危ナヰよ」


修練場から呼びかけられた

そこはかとなく奇妙で、耳障りな声だった

リル「……言われなくとも霊圧で分かるっつーの。舐めんな」

「アはっ」

短い笑い声と共に、長身痩躯の男が姿を見せた

漆のような長い黒髪と、口元を覆う棘付マスク

立ち居振る舞いから発せられる異様な不気味さが、視るものを不安にさせる


星十字騎士団“F”エス・ノト

連投規制避け

リル「……そいつが噂の朽木白哉からブン盗った卍解か」

エス・ノト「ソウ、『千本桜景厳』だ。実に使イ心地の良イ卍解だよ」

リル「みてーだな。うまいことアタリ引いたじゃねーか」

エス・ノト「流石に少シばかリ鍛錬は必要ダケドね
       切れ味ガ良スギて、静血装(ブルート・ヴェーネ)ヲ使用中でも下手に触ルと切り裂カレて死まう」

そう言うとエス・ノトは、自分の足元に散らばる花弁を静かに浮かせ、巻き上げていった

リルの方へ飛んできていた花弁もまた、吸い寄せられるように戻っていく

そうして集められた無数の花弁は、やがてエス・ノトの右手に光るメダリオンへと収束した

リル「にしても首尾よく卍解を奪えたとはいえ、よくあの朽木白哉に勝てたな
   特記戦力にこそ数えられちゃいねーが、それでも隊長格の中じゃ指折りって話だろ」

エス・ノト「彼ハ強かッタよ……戦闘技術ダケじゃなく、精神面に於イテもね
       僕の“恐怖”ヲ受ケテなお、込ミ上げル畏れニ耐えて刀を振ッてヰたのダカら」

エス・ノト「ケど、心ノ強さで抑え憑けラレル恐怖には限度ガある」

連投規制避け

エス・ノト「一度デモ僕の攻撃ヲ受けタラ最後……恐怖で全身ガ凍り憑く前に決着ヲつけるシカない」

リル「けど、聖兵(ゾルダート)ならともかく星十字騎士団相手に生半可な戦力で太刀打ちできる道理はねぇ
    短期決戦に持ち込むなら、切り札である卍解の使用は不可欠。そこを狙う――ってのが元々の作戦じゃーあったが」

リル「要はお前みてーなタイプの相手と当たっちまったのが運の尽きだったってことか」

エス・ノト「“恐怖”と相対しテ戦ウニは、彼ハ隊長とシテあまりに若く――狡猾さや老獪さが足リ無かッタ
       僕の放つ棘の性質ヲ見極めるべく慎重に戦オウと死テタせいで、結果的ニ恐怖が全身ニ回ったノガ彼の敗因かナ?」

そう他人事のように言いながら、リルトットの傍を通り過ぎていくエス・ノト

エス・ノト「さて、次の侵攻ニ備えておこうカ。モウ失態は許されなヰからね」

リル「失態? ああ、元柳斎に突っ込んでって死にかけた件か」

エス・ノト「千本桜景厳ヲ手に入レテ、少しばかリ調子に乗って死まッテたようだよ……使ウ暇すら与えラレなかったケド」

リル「ま、生きてただけマシだろ。精々バスビーに感謝しとくんだな」

エス・ノト「ソレモだけど……ソノ後も、ね」

リル「あ?」

訝しげに聞きかえすリル

連投規制避け

エス・ノト「今こうシテ生きて居ラレる事ニ、感謝しないと逝けナイって話さ
       下手ヲすればアノ後、陛下に処断サレても可笑しくはナカッタから」

リル「……流石に考えすぎじゃねーか? 一応お前らだって陛下に助太刀する目的で参集したんだろ?」

エス・ノト「ソンナ事は関係ナイよ。役ニ立たナイと判断されたら、陛下ハ決して容赦サレナイ
       イーバーンや、“R”のロイド・ロイドのように……簡単に消サレテ死まう」

リル「いや、それこそ気にしすぎだろ。イーバーンは所詮徴兵した破面の雑兵にすぎねーし
    ロイド・ロイドだって元柳斎に負けて、ほっといてもすぐにくたばる状態だったって話だろ」

エス・ノト「ダカラ、関係ナイんだ、そんな事。だッて陛下ハとても――怖イ人だから」

そう呟いて立ち去るエス・ノトの背に、リルは軽い調子で返した

リル「恐怖を操るお前にとって、一番の恐怖がその力を与えてくれた陛下ってのも皮肉な話だな」

エス・ノト「皮肉でも何でも無いさ……僕ノ命は陛下ノ御力で死から救ワれたんだから」

リル「?」



エス・ノト「その陛下に生を奪ワれるより他に、怖イ事なんてある筈もない」

連投規制避け

銀架城・星十字騎士団の居住区域

リル「チッ……思いのほか寄り道が長引いちまったな」ツカツカ

自室へ向かうリルトット

リル「あー、腹減ったー。こんなことならもっとたくさんお菓子持ってきとくんだったぜ」

早く部屋に戻って適当なお菓子を小腹に入れたいのだろう、心なしかイラついた様子である

リル「……ん?」

ナックルヴァール「おっとォ……今日はよく会うな」

そんな彼女が思わず足を止めたのは、ナックルヴァールと再び遭遇したから――ではない

リル「なんだ、お前ら……勢揃いしやがって」

彼の他にもう三人、滅却師が集まっていたからである

それも、指折りの実力者たちが

連投規制避け

「んん!? 誰かと思えば大喰らいの小娘か! 相変わらず覇気の無い顔だなっ!」ニィッ

星十字騎士団“M”ジェラルド・ヴァルキリー


「いつもつるんでるメンバーは無しか、珍しいね」

星十字騎士団“X”リジェ・バロ


「…… …… …… ……」

星十字騎士団“C”ペルニダ・パルンカジャス


リル「珍しい、はこっちの台詞だっての。戦争でもおっぱじめる気か?」

ジェラルド「ハッハッハ! 始めるも何も今は既に戦いの真っ最中ではないか!」

高笑いしながらフーデットコートを翻す巨漢・ジェラルド

滅却師には似つかわしくない大振りの刃と盾が見える

リジェ「ま、あながち間違いでもないけどね。これから行く所を考えるとさ」

ペルニダ「…… …… …… ……」

背中の銃を担ぎ直して嘯くリジェ

ペルニダは相変わらず沈黙を保っている

連投規制避け

ナックルヴァール「んん~~、どうせだからお前も一緒に来るか? リルトット」

リル「……また白けた男子会するわけじゃねーよな。この面子が揃って行く先なんざ碌でもねー場所でしかなさそうだが……」

ナックルヴァール「まっ、そりゃ身構えるよなァ……オレだって嫌だぜ
          こんなエリート騎士団の皆さん方に混じって召集されるのなんてよ」

リジェ「おいおい、自分が気詰まりだからってリルトットまで無許可で連れてこうっていうのか
     ハッシュヴァルトに何言われるか分かったもんじゃないよ。なぁペルニダ、そう思わない?」

ペルニダ「…… …… …… ……」

ナックルヴァール「いや、それだけが理由じゃねぇって!
          単にこっち側のメンツは多いに越したことはねぇって話で」

リル「おいお前ら勝手に話進めてんじゃねーぞ
   つーかハッシュヴァルトも居んのかよ。いよいよどこの激戦地へ行く気だ?」

ジェラルド「激戦地とはよく言ったな! だが、正確には激戦を『巻き起こしに』行くと言った方がいいかもしれんぞ?」ニヤリ

リル「はぁ?」ジト…

連投規制避け

銀架城・地下

強化結界陣によって封鎖された部屋の前で、リルトットたちを出迎える金髪の美丈夫


星十字騎士団“B”ユーグラム・ハッシュヴァルト

見えざる帝国・皇帝補佐にして、星十字騎士団最高位


ハッシュヴァルト「――お前を招集した覚えはないが? リルトット」

リル「……文句ならコイツらに言えよ」

リジェ「悪いね、ハッシュヴァルト。ナックルヴァールが勝手なことしちゃってさ」

ナックルヴァール「うおぉいっ、そこバラしちゃうッ!? あんたらだって強く止めなかったじゃねーッスか!」

ジェラルド「フンッ、今更言い訳とは情けない奴め!
      戦力は多いに越したことはないと力説しとった癖に」

ナックルヴァール「確かにそうだけどッ! あっ、ちょっ、怖い怖いハッシュヴァルト! 無言で睨むなって!」アタフタ

連投規制避け

ハッシュヴァルト「まぁいい。ここへ来た以上、お前にも役に立ってもらうぞ、リルトット」

リル「ぶっちゃけ一番文句言いてーのはオレだけどな
   こんな場所に連れてこられるとわかってりゃ――いや」

嫌悪を露わにしながら、リルトットは続けた

リル「こんなことをするつもりと知ってりゃ、前回の襲撃で一気にケリつける心づもりだってしたのによ」

ナックルヴァール「オイオイ、何さらっと『ほどほどの気分で戦ってました』って告白してんだよ!
          そこは『最初から全力でした!』って取り繕うべきとこだろ」ヒソヒソ

リジェ「君も他人の事は言えないだろ」

ハッシュヴァルト「全ては陛下がお決めになったことだ。我々が意見を差し挟む余地などない」

そう言うとハッシュヴァルトは、封鎖隔離房へと向き直った

右手に抜いた剣を構え、封印術式に突き刺す

ハッシュヴァルト「既に陛下の御力で大部分の術式は解呪されている
          お前たちは解放直後の反応に備えろ。決して気を緩めるな」

一同「……!」

連投規制避け

集められた星十字騎士団たちに緊張が走った

ジェラルドは剣を、リジェは銃を構えて隔離房へと向ける

ペルニダは相変わらず無言のまま、ただ妖しい眼光を放っている

ナックルヴァールは人知れず後退し彼らの後ろにひっそりと位置取った

リルトットはそんな彼を横目で見つつ、意識だけはしっかりと隔離房へ向けていた

リル(『反応に備えろ』か……「反動」じゃなくて「反応」、やっぱり正気じゃねーよ)チッ

連投規制避け


封印されていた扉が開いた


「――おはよう」


姿を現したのは、年端もいかない少年だった


「ま、別に寝てた訳でもないけどね」



星十字騎士団“V”グレミィ・トゥミュー

連投規制避け

ナックルヴァール「……あ、アレ? 何もナシか?」キョトン

グレミィ「どうしたのさ? 久々に直で顔を見られたっていうのに、みんな身構えちゃって」

ナックルヴァール「い、いや、てっきり扉が開くと同時に竜巻か津波でも巻き起こるもんだとばかり……」

グレミィ「起こして欲しかった?」ニコリ

ナックルヴァール「滅相もございませんッ!」

面白がるような様子でナックルヴァールと話すグレミィ

一見おとなしそうな少年にしか見えない彼に対して、他の星十字騎士団たちは未だ警戒を解いていない

グレミィ「ところでそろそろ武器をしまってくれないかな?
     “奇跡”と“万物貫通”に武器を向けられたんじゃ、落ち着いて世間話もできないよ」クスッ

ジェラルド「ハッ! 小僧がほざきよる!」

リジェ「僕には十分落ち着いてるように見えるけどね」

ペルニダ「…… …ルア… …」ボソッ

グレミィ「顔、見えなくても警戒してるの分かってるよ、ペルニダ
      ほら、リルトットも。そんなに敵意を向けないでよ、きみのおやつ代わりにはなりたくないから」

リル(この野郎……!)ギロッ

あくまでからかうようなスタンスを崩さないグレミィの様子に、リルは苛立ちを隠せなかった

リル(殺られる気なんざ、さらさらねー癖に……)

連投規制避け

ハッシュヴァルト「生憎だがグレミィ、世間話のためにお前を解放した訳ではない」

グレミィ「だろうね。陛下の命令?」

ハッシュヴァルト「そうだ。死神共との最終決戦に向け、遂にお前にも白羽の矢が立った」

グレミィ「ふぅん、ってことは最初の侵攻で決着つかなかったんだ」

ハッシュヴァルト「意外、とでも言いたそうだな。瀞霊廷が簡単に陥落すると考えていたのか?」

グレミィ「ははっ、まさか。想像するはずないでしょ? そんな面白くないこと」

軽い口調で答えるグレミィに、ハッシュヴァルトの表情は一層険しくなる

ハッシュヴァルト「……何にせよ、お前を戦わせることが陛下の御意志だ。それを忘れるな」

グレミィ「わかってる、ちゃんと戦うからそう怒らないでよ――ただ」

ハッシュヴァルト「どうした?」

グレミィ「ぼくの頼みも聞いてくれないかなーって思ってさ」フッ…

薄く微笑みながらそう続けたグレミィ

連投規制避け

再び星十字騎士団たちに緊張が走る

リジェ「ふざけるなよ。お前が僕らに頼みなんて」ジロッ…

グレミィ「だからそんなに身構える程のことじゃないってば
      ただ、久しぶりに誰かとゆっくり話したいってだけだよ」

ナックルヴァール「話ィ?」

ジェラルド「孤独に耐えかねて――などと言うようなタマではないだろう。貴様何を企んでいる?」

グレミィ「みんな本当に疑い深いなぁ。ちょっと雑談したいだけなのに」クスクス

リジェ「そんな言葉を信じるとでも思ってるのか?」

ハッシュヴァルト「何を考えているのかは知らないが、言ったはずだ。世間話をするために――」

グレミィ「そうだな……リルトット、きみと話したい」チラッ

リル「は?」

連投規制避け

急に水を向けられたリルは、ぽかんと口を開けた

グレミィ「みんな忙しいのはぼくにも分かるからね
      とりあえず彼女と話をさせてくれればそれでいいよ」

リル「なっ……ちょっと待て! どうしてオレが――」

ハッシュヴァルト「それを許せば素直に従うということか?」

グレミィ「もちろん。1時間…いや30分でいい」

リル「だから勝手に進めんなっつーの! オレはお喋りするために連れてこられたってのか?」

リジェ「……違うよ。僕ら全員、こいつが暴走した時の為のストッパーとして集められたんだ」

慌てる彼女に、リジェが皮肉交じりの笑みを浮かべて言う

リジェ「よかったじゃないか、ストッパーとして役に立てて」ニヤリ

ペルニダ「…… …… …… ……」コクン

リル「てめーら……!」キッ

連投規制避け

ナックルヴァール「まぁまぁまぁまぁ、いいじゃねーか平和的に話が進みそうで
         あんただって文句はないだろ? これくらい許してやろうぜハッシュヴァルト」

仲裁するように割って入ったナックルヴァールの問いかけを承け、ハッシュヴァルトは険しい表情を崩さず宣告した

ハッシュヴァルト「――15分だ。それでいいな?」

グレミィ「厳しいなぁ。ま、いいよ」

リル「……っ!」チッ

ジェラルド「フハハッ、運が無かったと思って諦めることだな!」ニィ!

リジェ「まぁ、いくらコイツが無軌道な奴でも、君をいきなりマグマに突き落としたりはしないだろうさ。多分ね」フッ

ナックルヴァール「か、考えようによっちゃラッキーだよリルトット!
         グレミィとサシで話す機会なんて滅多にないんだぜ? スゲェよスゲェよ!」

リル「……茶菓子ぐらいは出るんだろうな?」ハァ…

グレミィ「望むだけ創ってあげるよ」ニコリ

一見邪気の無い顔で微笑むグレミィに対し、リルトットは苛立ち混じりに溜息を吐いた

ナックルヴァール「……な? 連れてきてよかったでしょ?」ヒソヒソ

リル「……」ギロッ!

リジェにそう囁くナックルヴァールを、睨みつけるのも忘れない

連投規制避け

グレミィの想像した小部屋


ソファに腰かけたまま、食べかすが零れるのも気にせずお菓子を貪るリルトット

グレミィ「気に入ってくれた?」

リル「……ああ、いい腕してるぜパティシエさんよ。いや、いい頭か」ガツガツ

グレミィ「それはどうも。誰だってお腹が空くとイライラするからね」

リル「おまえが空腹なんて感じるのか? つーかそれより何で話し相手にオレを選んだ?」ムシャムシャ

グレミィ「そりゃあのメンバーじゃさ。ジェラルドは暑苦しいし、リジェはプライドが高すぎる」

グレミィ「かといってペルニダは喋らないし、ハッシュヴァルトとはどう頑張っても会話が盛り上がりそうにないからさ」

リル「ナックルヴァールは?」ムグムグ

グレミィ「反応を見てる分には楽しいけど、ずっと絡んでると飽きるでしょ」

無邪気そうな笑顔でさらりと毒を吐くグレミィ

連投規制避け

グレミィ「それにしても、意外だなぁ。ぼくを解放するのにあれだけしか騎士団員を集めなかったなんて」

リル「……あれ以上の面子揃えた所で、大して変わんねーだろ、ぶっちゃけ」

グレミィ「あれ、自虐?」クスッ

面白そうに笑うグレミィ

次の瞬間、リルトットの口がグチャリと開き、グレミィの頭に喰らいついた

首から上を喰い千切り、音を立てて咀嚼する

リル「グッチャグッチャ……んぐ……」

グレミィ「美味しい?」

気が付けば、先ほどまでと少しずれた位置に無傷で微笑むグレミィの姿があった

連投規制避け

リル「……見ろ、攻撃した所でご覧の有様じゃねーか、クソが」グッチャグッチャ

リル「“爆撃”も“無防備”も“恐怖”も“愛”も、お前相手じゃ効果があるのか分かったもんじゃねー」

グレミィ「あはは、まぁ、ね。本気でぼくを止めようと思ったら、それはたぶん陛下にしかできないだろうから」

リル「リジェあたりには聞かせられねー発言だな」

グレミィ「いやいや、リジェたちが冗談みたいに強いのはぼくにだって想像つくよ?」

リル「けど負ける気はしねーんだろ?」ジトー…

グレミィ「あはは」

屈託なく笑うグレミィ

連投規制避け

リル「それで? オレとどんな話をしたいんだ?」

グレミィ「んー、特にこれと言って話したい話題もないんだけどね」

リル「……おい」

グレミィ「怒った? ごめんね。ただ、たまには想像した人以外の人間とも話をしてみなきゃなーって思ってさ」ニコッ

リル「……妄想ん中のお友達とお喋りなんて話、おまえじゃなきゃ単なるキモ豚の寝言で済むんだけどな」

皮肉るような口ぶりで、リルはグレミィを見遣る

グレミィ「うん、言葉通りの意味だよ。実は今もきみのうしろにひとり居るんだけど」

リル「!?」ハッ

思わず振り返るリル

それらしい人物の姿はおろか、気配すら感じられない

連投規制避け

グレミィ「あはは、無駄だよ。消えてる時のグエナエルさんは一朝一夕じゃ見つけられないさ」

リル「……そのグエナエルってのが、おまえの新しいお友達か?」

グレミィ「うん。シャズはぼくの意識から独立しちゃったから、そろそろ新しい人を想像してみようと思ってね」

リル「どっちにしろ、気色悪りー話には変わりねーよ」

グレミィ「きついなぁリルトットは。想像通りだ」クスクス

その言葉を聞くと、リルトットは露骨に表情を歪めた

リル(想像……か)

リル「――封印されてる間も、妄想だけは制御されてなかったみてーだな、お前」

グレミィ「隔離室より外へは影響を及ぼすことができなかったけどね
      陛下は優しいから、ぼくから想像力を奪うことまではしなかったよ」

グレミィ「なにせ、ぼくからそれを奪ったら、ぼくがぼくでなくなっちゃうからさ」ニコリ

リル(……ナックルヴァールの野郎、何が「考えようによっちゃラッキー」だ)

リル(滅多に話す機会がねーのは確かだが、いざ話してみたところで面白くもなんともねーじゃねーか)チッ

連投規制避け

リル「お前みてーに想像だけで自己完結できる奴には、他人との対話なんざ必要ねーよ」

グレミィ「自己完結」

微笑みながら呟きかえすグレミィに、リルはバカバカしいとでも言う風に続けた

リル「まったく羨ましいようなそうでもないような野郎だぜ
   飯も住処も武器も仲間も、想像しただけで手に入れられるんだからな」ヤレヤレ

グレミィ「……」

リル「どうせその根暗引き籠りみてーな姿も好きに変えられるんだろ?
   そもそもオレらが知ってるお前のその姿が、本当にお前のもんなのかも怪しい話だな」パクッ

乱暴に掴み取ったお菓子を口に放りながら、事もなげに言い放つリルトット


その時彼女は、グレミィが今まで見せたことのない表情をしたことに気付いた


ニマァリ…


そんな擬音が聴こえてくるような、薄気味悪い笑顔だった

連投規制避け

リル「!?」

リル(なんだコイツ……!?)

グレミィ「きみの言う通り、今きみに『見せている』ぼくの姿は、本当のぼくの姿じゃない」

グレミィ「けど、姿だけだろうか?」

グレミィ「前から思ってたんだ。ぼくは何でも想像し、それを実現することができる」

グレミィ「じゃあもしかしたら、その想像をしているぼく――『グレミィ・トゥミュー』という滅却師の思考や人格すらも、想像の産物にすぎないんじゃないかってね」

リル「な、何イミフなこと言ってんだ、てめー……それだったら、その想像をしてるのは誰なんだって話になるだろーが」

グレミィ「さぁて……誰なんだろうね?」ニタニタ

グレミィ「案外、はじめに『夢想家(The Visionary)』という能力を創って、それに後から人格を与えたのがこのぼくなのかもしれないよ?」

リル「意味わかんねーっつってんだろ」

グレミィ「だって、陛下ならそれぐらいできそうじゃない。万物を与え、奪うことのできる陛下なら」

薄笑いを浮かべながら、グレミィは続ける

グレミィ「そういう意味じゃさ、ぼくが一番じっくり話をしてみたかったのは、ロイド・ロイドだったんだよね」

連投規制避け


星十字騎士団“Y”ロイド・ロイド

『貴方自身(The Yourself)』――対象の姿形はおろか「それ以上」をも写し取る能力


リル「あんま話したことはねーが……確か力をコピーする奴と、精神をコピーする奴の双子だったっけか」

グレミィ「そうそう。特に精神をコピーする方のロイドがね、前からすごく気になってたんだ」

愉しそうに語るグレミィ

グレミィ「もしかれが、ぼくの『精神』をコピーしたら――そこにはいったいどんな人物が現れていたんだろうって」

グレミィ「今こうして話してるような“ぼく”なのか、ぜんぜん違う性質の“ぼく”なのか」

リル「……んなもん、お得意の想像力で再現してみりゃいいだろ」

グレミィ「あはは、やだなぁリルトット。ぼくがロイドを想像したところで、それは結局ぼくの想像の域を出ないじゃない」

リル「はぁ?」

グレミィ「たとえば仮に『想像もつかないくらいおいしいクッキー』を創ったとしてさ
      それは所詮、『想像もつかないくらいおいしいってことはこれぐらいおいしいんだろうなー』って、想像したクッキーでしかないってこと」

連投規制避け

リル「……うるせーよ、頭痛くなってきたろ。どのみちロイド・ロイドは死んじまったんだ
    ひとりは更木剣八に、ひとりは山本元柳斎にやられてな。グダグダ言ったところで後の祭りだ」

議論を打ち切るかの如く言い捨てるリルトット

グレミィ「更木剣八……更木から来た、剣八……」クスッ

グレミィは咀嚼するようにその名を呟く

グレミィ「せっかく戦いに行くんだし、どうせなら戦ってみたいよね
      元柳斎は陛下が倒しちゃったって言うし、最強の死神の称号を持つ剣八とさ」

リル「……てめーが更木剣八と殺り合ってくれんならオレらは大助かりだがな」

グレミィ「いったいどれくらい強いのかな? 想像しただけで楽しみだ――」



その直後、グレミィが創り出していた部屋に大きな亀裂が走った

音もなく崩れ去る壁面から、抜刀したハッシュヴァルトが姿を見せる

ハッシュヴァルト「――時間だ、グレミィ」

連投規制避け

グレミィ「あーあ、せっかく想像したのに。壊さなくたってこっちから開けてあげるよ?」

ハッシュヴァルト「何かに強く関心を惹かれた時、それ以外に対する意識がおざなりになるのがお前の欠点だ
          本来であれば強固な砦も、意識の隙を突けば今のように容易く崩れ去る」

グレミィ「それなりに想像力は保ってたハズなんだけどね
     『容易く』壊すことができたなら、それはきみだからじゃないの? グランドマスターさん」

ハッシュヴァルト「無駄話の時間は終わった筈だ」

飄々としたグレミィに対し、ハッシュヴァルトは表情を変えず応じる

手元にあった食べかけのマフィンが消え去ったのを見て、リルトットもソファから立ち上がった

リル「オレの仕事も終わりってことでいいんだよな?」

ハッシュヴァルト「ああ、ご苦労だった。あとは次の侵攻に向け、準備をしておけ」

リル「言われなくてもな。妄想狂の話し相手なんて割に合わねーバイトは二度と御免だぜ」

連投規制避け

銀架城・リルの自室


リル「ったく、とんだ貧乏籤引かされたもんだぜ」ゴロン

リル「ま、おかげで腹は程々に膨れたが……想像物で満腹になるってのも、慣れねえ感じだな」

ひとりごちつつベッドに寝そべるリルトットだったが、すぐさま賑やかな来客によって邪魔される形となった

ジジ「リルちゃん居る~?」バタン!

リル「……居ねー」ゴロン

ジジ「たぬき寝入りバレバレ~。バンビちゃんが呼んでるよ?」

リル「知るかよ、少し寝かせてくれ」

ジジ「だーめだって。リルちゃん言い出しっぺなんだし、ちゃんと集合しないとまーたバンビちゃん激おこだよ」ツンツン

リル「ウザいからつつくな。わかったよ今行く」

渋々といった様子で起き上がるリルトット


けれど内心では、既に戦いに向けての算段を立てているところだった

連投規制避け

リル(星章化に対する死神側の対策、零番隊の存在、特記戦力――)

リル(こっちの生き残り面子に、グレミィの戦線投入――)

リル(奇襲がハマった前回とは条件が違う。デカい手柄を挙げたきゃ、下手に飛び込むより漁夫の利を狙うのがやっぱ確実か……)

リル「――ジジ。ミニーとキャンディ呼んでくれ。ちっと話しときたいことがある」

ジジ「なになに? バンビちゃんに聞かれちゃヤバい話?」ワクワク

リル「ああ、オレらだけで手柄山分けしようって話だ」

興味津々で顔を近づけるジジに、リルトットはいつもと同じ、あどけない少女のような笑顔で言った


リル「あの更木剣八にトドメ刺すっつー手柄をな」



BLEACH SS『The Glutton smiles sweetly』 the end.

以上です

お付き合いいただきありがとうございました


明日、短いですがバズビーのSSも投下する予定です


それではHTML化依頼を出してきます

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