千川ちひろ「一日遅れの七夕」 (18)


ちひろさんのss

地の分メイン ちひろさん視点。短い。

世界線は
双葉杏「夏の匂い」
双葉杏「夏の匂い」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1467830539/)

と同じ世界線です。

向こうは長いので無理に読まなくても大丈夫だと思います。

よろしくお願いします


SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1467964466

「じゃあプロデューサー、ちひろさん、おつかれ★」
「おう、おつかれさん」
「おつかれさまです。美嘉ちゃん」

 アイドルのみんなが帰宅し、事務所は私とあなたの二人きり。
 かたかたとキーボードを5分ほど鳴らした後、

「さて、始めましょうかちひろさん」
 
 あなたはスタドリを一気に飲み干しました。

「そうですね。頑張りましょう」

 悲鳴をあげそうな腰を上げ、二人で事務所の奥に向かいます。


「今日はいつ帰れますかね」
「そんなこと言ってても帰れませんよ」

 時計を気にするあなたをふふっと笑いながら、
 私は短冊を一枚一枚丁寧に外していきます。

 4日前から急きょ始めた七夕イベントでしたが、結果は大盛況でした。 

 たくさんの色で彩られた笹が何よりの証拠です。

 アイドルのみんなが楽しんでくれたと思うと私は暖かくなります。

「今度、美嘉と莉嘉は一緒にモデルの仕事させましょうか」

 美嘉ちゃんと莉嘉ちゃんの短冊を見ながらあなたは言いました。

「それはいい考えですね」
 
 私はサ行の棚から美嘉ちゃんと莉嘉ちゃんのファイルをそれぞれ取り出し、
 そこに短冊を挟んでいきます。


「ちひろさん。この短冊誰かわかりますか?」
「んー。筆跡からして杏ちゃんだと思います」
「これ杏か。杏にしては真面目なお願いごとですね」
「私は杏ちゃんらしいと思いますよ。もう叶ったみたいですけど」
「まぁ昨日は天気よかったですもんね」

 私はピンク色の短冊を杏ちゃんのファイルに挟みました。

 

 十人十色とはよく言ったもので、短冊も皆、それぞれ違いがありました。

 予想通りのものから意外なものまで。

 内容はみんな異なっていましたが、どれも素敵な短冊でしたので、
 時間はあっという間に過ぎていきました。


「やり始めると案外あっという間でしたね」
 
 私が淹れたコーヒーを飲み、あなたは身体を伸ばしていいます。

「はい♪このファイル片付けたら終わりなので、飲み終わったら事務所の戸締り始めてください」
 
 エアコンやパソコンの電源を確認した後、部屋を一通り見渡します。
 
 笹が立ててあったところはどこか寂しげでしたが、
 とにかくいつもの事務所に戻りました。

「では帰りましょう」
 
 電気を消し、私達は事務所を出ました。



「それではプロデューサーさん。また明日」

 私の家は事務所から徒歩で10分。
 
 プロデューサーさんの家は車で30分ほど。

 事務所の近くの駐車場。

 いつものように私は、笑顔であなたに挨拶をしました。


「ちひろさん」

 いつもなら「さよなら」としか言わないあなたが珍しく私を引き留めました。

「この後時間よろしいですか」

 
 コウロギでしょうか。
 りぃりぃりぃと夜が音を奏で始めていました。


「どこに向かっているんですか?」
 
 運転席のあなたに問いかけます。
 
 あなたの家とは違う方向に向かっているようなので、
 私には目的地の見当がつきませんでした。

「それはついてからのお楽しみです」

 問いかけてもあなたはそれしか言わないので、
 仕方なく私は窓の外を見つめました。


 30分ほどでしょうか、
 
 夜の街から夜の町へ。
 ネオンライトから電灯へ。
 
 灯りはどんどん少なくなっていきました。




「もうすぐで着きますから」

 そう言ってあなたはまた黙ってしまいました。
 私は窓の外を見つめ、車は黙々と走り続けています。

 車は現在、山の中でしょうか。
 坂道をどんどん上っていきます。
 辺りから灯りは消え、車のライトだけが山道を照らしていました。

「着きましたよ」
 
 山の開けた場所にあった駐車場に車を止め、あなたは車を降りていきました。
 私もすぐさま追いかけます。

 冷や冷やとする夜風を感じながら私は辺りを見渡します。
 
 公園でしょうか、芝が敷き詰められて、木も手入れされているようでした。


「ちひろさんこっちです」

 虫たちが夜を奏でているのを流しながら、私はあなたを追いかけました。

「ほら。上みてください」

 あなたに追いついた私は、あなたに言われたとおりに空を見上げます。

 そこにはたくさんの星が敷き詰められていました。

「すごい」

 思わず私は声をもらしました。

 まさしく満天の星空でした。

 
 星を意識して見るという経験が私にはなかったので、 
 夜空に輝くその灯りに、私はとても惹きつけられました。



「ちひろさんっていつも一日遅れじゃないですか」
 
 その様子を見てか、あなたは話し始めました。
 
 目は星空を見つめたまま動かなかったので、耳をあなたの方に傾けました。


「アイドルがメイン、私は事務員だからって言って、チョコとかも一日遅かったり。
 それで日頃の感謝を込めて、僕から一日遅れの七夕です。いつもありがとうございます」

 私はあなたを見つめました。
 
 最初は得意げだったあなたの顔に、時間がたつにつれ、
 恥ずかしさが浮かんできたようなので、私は吹き出しました。

「ちょっと!何笑ってるんですかちひろさん!」

 恥ずかしそうに怒るあなたを横に、私は空を見上げます。
 
 夜空の上ではたくさんの星たちが輝いています。

 大きく光り輝く星。

 事務所のみんなの顔が浮かびました。

 
 小さくて今にも消えてしまいそうな星。

 その星をじっと眺めていたら、

「星と人って似てると思うんですよね。ほら、小さい星があるから大きいのが輝いて目立つというか」

 夜空を見ながら、あなたは横で呟きました。

 私は思わずあなたの顔を見ました。

 あなたの顔はとても素敵で。
 星のように輝いていました。

 私の視線に気づかず、あなたは夜空を見ています。
 そんなあなたの横顔を私は見つめます。

 ずっと見ていたい素敵な横顔でしたが、
 ずっと見ていると僕たちみたいになっちゃうよ。と二人のお星様に叱られたので、
 せめて今日だけ。と私は大きく光りました。

「あ、流れ星」
  
 素敵なあなたが言いました。

「どこですか」
「ちひろさん、見てなかったんですかもったいない。せっかく願い事が叶うチャンスだったのに。」
「願い事ですか。プロデューサーさんは何を願ったんですか?」
「それがいきなりだったので、何も……」

 しょんぼりとするあなたの顔が可愛らしく、
 さっきまでのギャップに、くすっと笑った後、私は空を見上げ、


 来年も天気になりますように、と願いました。



 虫が夜を奏で、星が私を照らし、あなたが私を光らせる。

 そんな七夕の夜でした。


以上です。

急いで書いたので、クオリティは許してください。


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