346プロ新人オーディション (21)

――346プロダクション



面接官 「次は4番の方、自己紹介と意気込みをどうぞ」



候補生 「えっと、あの、えー・・・」



面接官 「緊張しなくてもいいですよー、落ち着いてまずは名前からどうぞ」



候補生 「あ、あの・・・ミシン針を壁に突き刺すことです」



面接官 「・・・え?」

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候補生 「す、すみません間違えました!身長は153cmです」



面接官 「いや進めないでください!まず『ミシン針を壁に突き刺す』のほうを処理してくれないと!・・・何と間違えたんですか?意気込み?」



候補生 「あの、趣味です・・・さすがにこれからお世話になる事務所の壁にミシン針を刺したりは・・・私がそういう人だと思いますか?」



面接官 「正直若干思ってますね・・・とりあえず続けましょう」

候補生 「趣味・・・はもういいですよね?」



面接官 「はい、できればもう聞きたくありませんし」



候補生 「よかったー・・・あれ以外だともう法に触れる趣味しかないから」



面接官 「よかったー・・・あえて聞かなくて」

候補生 「その・・・一つ質問よろしいですか?」



面接官 「いいですよ。わからないことがあったらどんどん聞いてください」



候補生 「一芸はいつ見せればいいんですか?」



面接官 「・・・え?」



候補生 「ですから一芸です・・・これ、一芸オーディションですよね?」

面接官 「違いますよ!?」



候補生 「えー・・・一芸オーディションじゃなかったんですか!?」



面接官 「むしろ初めて聞きましたよその言葉!意味は分かりますからその場は流しましたけど」



候補生 「違うんだー・・・」



面接官 「いやなんでそういう採用方法をとってると思ってるんですか?」

候補生 「ほら、そちらのプロダクションって個性的なアイドルが多いじゃないですか。だからきっとそういう一芸みたいなのを見込んで取ってるのかなって」



面接官 「いやいやそれは結果的にそうなってるだけであって、わざわざ変わってる娘を選んで取ってるわけじゃないんですよ」



候補生 「だとしたら、あれはどういうことなんですか?」



面接官 「あれ?」

候補生 「ほら、正面玄関に制服着て立ってた人ですよ。あれは一芸で入った人ですよね?」



面接官 「あー・・・それは多分警備員さんですね」



候補生 「え、警備員・・・?一芸があるからいかつい顔の屈強な男性にもかかわらずアイドルとして採用された人じゃないんですか?」



面接官 「むしろ何でそう思えるんですか」



候補生 「だって・・・私が挨拶したら、すごくいい笑顔を返してくれましたし」

面接官 「それはまぁ、あなたのような可愛らしい女性に話しかけられれば笑顔にもなるでしょう」



候補生 「可愛らしい・・・ということは合格ですね!ありがとうございます!」



面接官 「いやまだ早いです、というか・・・あなたずいぶん積極的ですね。最初の緊張は何だったんですか」



候補生 「合格じゃなかったんですか・・・」



面接官 「・・・むしろ、もうすでに不合格にしたいくらいですよ」

候補生 「そんな・・・どうしてですか?どこがいけなかったんですか?」



面接官 「できれば『どこがよかったか』って聞いてほしいですね。そっちのほうがはるかに楽なので」



候補生 「悪いとこはあったかもしれませんけど・・・まだ名乗ってさえいないんですよ?もう少し待っていただけませんか?」



面接官 「そうだ名前!何か足りないと思ったらまだ聞いてませんでした」

候補生 「・・・・・・蘭子。神崎蘭子です」



(――346プロダクションの人気アイドル、神崎蘭子。しかしこのときはまだ、理解者を得られぬ無力な少女に過ぎなかったのだ――)



面接官 「・・・いや彼女はもうすでにうちにいますけど?何『これはあのアイドルの過去話』みたいな感じ出して合格しようとしてるんですか」



候補生 「え、聞こえたんですか?モノローグなのに?」



面接官 「あなたが思い切り口に出してましたからね」

候補生 「・・・じゃあどうしたら合格できるんですか」



面接官 「それならせめてアイドルらしいところを見せてください」



候補生 「それなら大丈夫ですよ」



面接官 「・・・言っておきますけど、あなたの言葉に信頼性もうあんまりないですよ」

候補生 「まずですね、男性経験だって両手両足の指で足りるほどしかないですし」



面接官 「そういうの堂々と言える時点でもうダメです!大体両手両足って、両手の指では余裕で余るレベルってことじゃないですよね?どんだけアグレッシブなんですか」



候補生 「ということは合格ですね!ありがとうございます!」



面接官 「今度は褒めてすらいないですからね!初めて逢ったときのあの初々しいあなたは何だったんですか・・・」

候補生 「・・・ここまで言ってるのにまだ合格させてくれないんですか?」



面接官 「ここまで言ってることが何ひとつプラスになってないんですよ」



候補生 「・・・分かりました。では最後に一芸だけさせてください。それがダメなら諦めますから」



面接官 「あ、帰ってくれるんですね。それではお願いします」

候補生 「それでは、今からこのコーラを一気に飲んで、ゲップをせずに346プロ所属のアイドルの名前を20人言います」



面接官 「・・・よくそれ一本でオーディション通れると思いましたね・・・というか普通に聞いたことありますしそれ」



候補生 「大丈夫です。私はちゃんと最後までできますから」



面接官 「それだったら割とすごいかもしれませんけど・・・いずれにせよもう挽回しきれないレベルですよ?」

候補生 「いきます」



候補生 「望月杏奈!」



面接官 「えー・・・せめてゲップで失敗しましょうよ・・・」

候補生 「それでは約束ですし帰ります。ありがとうございました」



候補生 「ここもダメだったかぁ・・・でも諦めない!私は必ずアイドルになるんだ!」



(――羽田リサ、アイドルへの道は未だ遠い――)



面接官 「・・・よその娘にまで迷惑をかけないでください」

以上です

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