ネリー「アワイとネリーは」 淡「プロ歴100年級!」 (77)


※ “性的ジョーク”に引っかかりそうなのでRにしたけど
   一般的な基準でR18になるようなエロもグロもなし



淡「あっ、テルー久しぶりー!」

照「元気そうだね」

淡「そうでもないよ。テルが引退してからチームの命運を一身に背負っちゃって大変なんだから」

照「この前の新人戦も頑張ってたね。お疲れさま」

淡「でも準優勝じゃなー。くっそー」

照「しょうがないよ。臨海は留学生が3人残ってるんだから」

淡「まあね。私がネリーと互角に渡り合えてなかったらもっとヤバかったからなー」

照「……でも、最近練習に身が入ってないって聞いたけど」

淡「だってしょうがなくない? みんな相手にならないんだもん」

照「勝ち負けだけじゃなくて、いろんな局面をたくさん経験するのは大事だよ。
  それが後々生きてくるから」

淡「だいじょぶだって。今の時点でプロ級だから」


照「私にも勝ててないのに?」

淡「テルはプロ入りしたら速攻でトップ取れる天才中の天才だもん。そのうち追い越すけどねー」

照「確かにプロ入りは決まったけど、そんなに甘くないよ」

淡「あはっ、謙遜しちゃって~」

照「……部内じゃ無双してても他校にはライバルがいるでしょ。
  インターハイの決勝もみんな1年生で、生涯のライバルだって言ってたよね」

淡「ああ、もういいよ。穏乃も、悪いけどサキも期待外れ」

照「あれ以来対戦はないんじゃなかった?」

淡「だって各県の新人戦の結果見たらさぁ、阿知賀も清澄も決勝に残ってすらいなかったんだよ。
  結局あのときだけの一発屋だったんだ。がっかりだね」

照「その2校、3年生が引退して人数足りなくなったから出てないんだよ。
  新人戦は団体戦しかないし、上につながる大会でもないから」

淡「あ、そうなんだ……でも、勝つ気があるなら人数合わせで素人出してでも出場するでしょ。
  私ならそれでも勝っちゃうよ」

照「……とにかく、慢心しないでちゃんと練習して――」

淡「はいはい、心配性だなー。テルは来年からプロとバシバシやれていいよね。
  私も早くプロになってトップであぐらかいてる人たちをビビらせてやりたいなー」

照「……」

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


ネリー「あっ、サトハ! 久しぶりだね」

智葉「ああ。バイトは終わったのか?」

ネリー「うん。よく場所知ってたね」

智葉「部のやつらに聞いてな。最近バイトを優先して練習を休みがちなんだってな」

ネリー「……まあね」

智葉「生活、苦しいのか?」

ネリー「そういうわけじゃないよ。ただあのレベルで練習しててもムダだから」

智葉「そう侮るものでもないと思うがな。ハオや明華とはいい勝負になるだろ」

ネリー「そうだけど、手の内ぜんぶさらけ出すのはできないから、本気の勝負にならないんだよね」


智葉「だからといって打つ時間を減らすと感覚が鈍るぞ」

ネリー「大丈夫だよ。ジュニアだけど世界大会でもネリーより強いやつなんかいなかったよ。
    年齢の規定とか学校とかがなければ、今すぐにでもプロの世界で活躍しちゃうのに」

智葉「……こうしている間にもライバルたちは研鑽を積んでいるだろうがな」

ネリー「宮永も高鴨ももう相手じゃないよ。まあ、認めてやってもいいのはアワイぐらいかな」

智葉「お前が他校の選手を名前で呼ぶのは珍しいな。新人戦で当たったんだったか」

ネリー「それと合同合宿でちょっと仲良くなってね。
    合宿の模擬戦じゃネリーとアワイでトップ独占したんだよ」

智葉「なるほどな。お前たちの強さは認めるが、上には上がいるものだ。
   現に私にも通算では勝ち越せてないだろう?」

ネリー「サトハは世界レベルだもん。プロ入りしたら即日本代表だろうね。
    いつか世界の舞台でサトハを倒してやるから」

智葉「……」

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


智葉「というわけなんだが」

照「やっぱりうちとおんなじ感じだね。すっかり増長しちゃって。
  前から軽いところあったけど、あそこまでじゃなかったのに」

智葉「困ったものだ。どうも度々顔を合わせるうちに意気投合して相乗効果が生じたようだな」

照「お互いに影響し合ったってこと?」

智葉「ああ。不良が悪事自慢で対抗し合って、引っ込みがつかなくなってエスカレートする感じだ」

照「なるほど」

智葉「そしてそのうち自分でも本当に凄いやつなんだと思い込んでしまう。軽い自己暗示状態だな」

照「ああ、催眠術とかすぐ掛かりそう。咲とか高鴨さんのことも、
  勘違いだってわかったのに弱いって思い込んだままだし」

智葉「一度悪感情を持ってしまうと意地になって簡単には撤回できないんだろう。
   プライドの高い者によくある傾向だ」

照「高1どころか高校最強を謳ってるんだよ。私にはけっこう負けてたのにな」

智葉「だからお前がいなくなってタガが外れたんだろう」

照「あ、そんなこと言ってたかも」


智葉「それにいくらお前でも、白糸台の上位で卓を囲めば10回やれば1回ぐらいは大星に
   トップを取られることもあっただろう? ラスはないにしても」

照「まあね」

智葉「局面によっては稼ぐ必要のないこともあるしな。大星やネリーのようなタイプは、
   その1回を都合良く自分の手柄として重んじ、他の9回を軽んじることができる」

照「なんかわかる気がする」

智葉「それに、やたらと過大評価されないか? プロでもすぐトップになるとか」

照「あるある」

智葉「こいつは自分より強い相手だ、ならこいつはプロで通用するに違いない、
   むしろトップ争いをするレベルだ、自分が負けるのも仕方ない――
   考え方としてはそんなところだろう」

照「辻垣内さんってエスパー?」

智葉「そう思いたくなる気持ちはわからなくもないからな。だがやはりそれは逃げだ。
   なんとか勘違いを正してやらないとな。本人のためにも、部のためにも」

照「私たちで2人をトバしまくる?」

智葉「無駄だろう。いくらなんでも毎回トバせるとは思えない。それにできたとしても、
   “やっぱテルつよ~い!”“さすがサトハだね!”で終わるのは目に見えている」

照「ぶふぅっ!」


智葉「なにが可笑しい」

照「いや……辻垣内さんのモノマネが不意打ちで可愛くて」

智葉「なっ……! お前が大星の普段の様子を細かく演じるからマネしただけだ」

照「もう1回テルって呼んで」

智葉「宮永、話を戻そう」

照「じゃあ一人称サトハにしてみて。サトハツモっちゃった~とか」

智葉「……お前、自分がそれ言ってるところを想像してみろ」

照「わ~い、またテルの勝ちだ……ごめん、ものすごく恥ずかしい……」

智葉「キャラクターや外見からして、許されるのは天江かネリーぐらいのものだな。
   普通の高3でそれは痛々しい」

照「そうだね、来年にはプロになるんだし。プロでそんな……」

智葉「……」

照「……」

智葉「……まあ、そういうのが好きなファンもいるんだしいいじゃないか」

照「……うん。ドリンクバー行ってくる。何か入れてくる?」

智葉「烏龍茶で頼む」


照「うーん、どうしたらちゃんと練習出るようになるかな」

智葉「やはり過信を痛感させるのがいいと思うが……」

照「プロとやりたがってるから、プロ直々にヘコませられれば身にしみるだろうけど」

智葉「そうだな、それしかない」

照「え、でもプロがただの高校生とわざわざ打ってくれるかな」

智葉「今度のプロ麻雀界の懇親会、お前も招待されてるだろ? 所属予定チームから」

照「あ、うん」

智葉「かなり大規模なパーティーになるようで、トッププロも関係者も多く参加すると聞く。
   少し無理を言ってそこにもぐり込ませてもらえば」

照「そっか。私たちみたいなプロになる予定の人とか財閥令嬢とか、
  高校生もいくらか来るって話だもんね。軽く打てるような小部屋もあるって言ってたし」


智葉「大星もネリーも一応プロが注目する選手だ。興味を持つ者も少なくないだろう」

照「1局とか15分だけとかなら打ってくれるかもしれないね。
  あ、でもそれで勝っちゃったらますます調子に乗るんじゃ……」

智葉「天江の例もあるし、ないとも言い切れないか……
   ならば特に強い方々にご教示を仰ぐという形で根回ししてみるか」

照「そんな強いプロの知り合いいないんだけど」

智葉「私だってそうだ。インターハイで知り合ったやつに話してみるだけでいい。
   同じ3年として、悩みは共感してもらえるだろう」

照「そこから話が広がってくれるのを祈るしかないか。なんて言えばいいかな」

智葉「少し大げさなくらいでいい。特にネリーのやつは何をしでかすかわからないからな。
   時々、こんなお遊びルールじゃなくて国のルールなら負けないとほのめかしてくるんだよ」

照「じゃあとにかくいろんな人にピンチだってアピールしておけばいいか。
  とりあえず顔広そうな竹井さんに言ってみよう」

智葉「私は五十音順で愛宕・姉帯あたりから連絡していくか。プロを舐めた生意気な1年坊がいると
   知れ渡り、大人のプライドで鼻を折りにかかる者が来てくれるといいが――」

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智葉「じゃあ私たちはチームの先輩と挨拶回りに行ってくるから、
   戻るまで勝手に勝負を吹っ掛けたりするんじゃないぞ」

ネリー「わかってるよ」

照「何人か大人の人が打ってくれることになってるから、もし声を掛けられたら礼儀正しくね」

淡「もー、だいじょぶだって」

智葉「飲み物と軽食は自由に取っていいことになってるが、タッパーに詰めたりするなよ」

ネリー「しないってば」

照「食べ物で遊んだりしちゃだめだよ。あんまりがっつくのも意地汚いからやめてね」

淡「レディーあわいちゃんがそんなことすると思う?」

智葉「心配だな……」

照「じゃあ行ってくる」

淡「はーい」


ネリー「……行ったね」

淡「まったくさあ、子供じゃないんだから余計な心配しすぎだよ」

ネリー「そうなんだよね。最近はお小言が多くなってさあ。
    二言目には“プロは甘くない”だの“慢心するな”だの」

淡「ああ、テルもそんな感じ。ちょっと強いからって上から言ってくるのがなー」

ネリー「まあ確かに強いもんね。アワイも勝てないんでしょ?」

淡「……なに言ってんの、本気でやれば勝てるよ。テルが精神的支柱になってたからさー、
  倒しちゃうと部が支えを失っちゃうかなーって、無意識に手加減しちゃってたんだよね」

ネリー「あー、あーあー、あるよねそういうの。ネリーもね、サトハがレギュラーで唯一の
    日本人だったから、圧倒しちゃったらかわいそうだと思って本気出さなかったんだよ」

淡「やっぱそうだよねー。ねえ、私たちってプロ界に交ざっても最強なんじゃないの?」

ネリー「そうかも。日本のプロは世界でもトップクラスっていうけど、
    正直そこまで凄いと思わないし」


淡「ちょうど今日は有名なプロの人たちがいっぱいいるし……やっちゃう?」

ネリー「……やっちゃおっか。勝っちゃえばサトハたちも文句言えないよね」

淡「よーし、プロをボコボコにしてスカウトされちゃうよー!
  “ぜひうちのチームに来てください”って!」

ネリー「ただ勝つだけじゃつまんないよね。まあお金賭けるわけにはいかないけど」

淡「……じゃあさ、土下座でもしてもらっちゃう? 人気でも実力でももてはやされてるプロに
  そんなことさせちゃったら、完全に規格外の高校生って感じだよ」

ネリー「……そうしよっか。話には聞くけど見たことなかったし、ジャパニーズ・ドゲザ」

淡「いひひ、一気に天下取っちゃうよー。なんたって実力からいったら――」

ネリー「アワイとネリーは」

淡「プロ歴100年級!」


小鍛治健夜「ツモ」

三尋木咏「ツモ」

健夜「ロン」

健夜「ロン」

健夜「ツモ」

咏「ロン」

健夜「ツモ」

淡(なにこれ……ダブリーできないんだけど……向こうは5巡もかからないでリーチかけてくるし……)

ネリー(なにこれ……今はネリーの流れのはずなのになんでこんなクズ配牌なの……)

健夜「ツモ……また2人一緒にトビだね」

咏「そんなところで時間ですかねぃ」

健夜「そうだね。じゃあ、また機会があったら打とうね。
   プロを目指すならもうちょっと練習頑張った方がいいかな」


咏「あ、ちょっと待ってくださいよ、ほら」

健夜「え、なに?」

咏「なんだっけ、負けたら土下座だっけ?」

淡「うっ……」

健夜「ああ、いいよそんなの」

咏「いやー、こういうのはきっちりしとかなきゃナメられるじゃないすか」

ネリー「……でも、ちゃんと賭けたわけじゃないし」

咏「あぁ? 人に要求しといて自分はリスク負わないなんて都合良すぎってもんじゃねーの?」

ネリー「くっ……」

淡「うぅ~~」

健夜「……やめて。そんなのされても逆に気分悪くなるだけだから。
   咏ちゃんも子供相手に意地悪しないでさ、ただのハンデ戦でしょ」

咏「それもそうっすね。小鍛治さんに免じてチャラにしときますか。
  ま、実力もないのにデカい口叩かない方がいいんじゃないの、知らんけど」

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ネリー「……」

淡「……」

ネリー「……まあ、なかなかやるんじゃないの」

淡「……そうだね。実質日本の1位2位だしね」

ネリー「せっかく日本に来たのにトップがザコだったら拍子抜けだから、ちょうどいいかな」

淡「でももう見切ったよ。次やったら勝てるね」

ネリー「うん、初対戦だとやっぱり試合経験多い方が有利だから、今日はしょうがないよ」

淡「底は知れたよねー」

ネリー「ま、相手としては認めてやってもいい感じかな」

淡「プロの中でも別格だしね」

ネリー「他のプロもあの2人には敵わないもんね」

淡「うん。私らとあの2人で卓を囲むのが今の日本の最高峰だろうね」

ネリー「思ったよりは楽しめるかな」

淡「まあ100年は言い過ぎたかもしれないけど、やっぱり――」

ネリー「アワイとネリーは」

淡「プロ歴50年級!」


瑞原はやり「ロン」

野依理沙「ツモ!」

はやり「ツモ」

はやり「ツモ」

理沙「ロン!」

はやり「ロン」

理沙「ツモ!」

淡(え、ちょっと……早すぎなんだけど……仕掛けの嗅覚鋭すぎでしょ……)

ネリー(流れも表情もぜんぜん読めない……)

はやり「ツモ。はややっ、トンじゃったかな?」

理沙「おわり!」

はやり「流れ早かったね。じゃあパーティーに戻ろっか☆」


理沙「まだ罰ゲーム残ってる!」

はやり「罰ゲームって……」

理沙「負けたら全裸ではやりんダンスって言った!」

ネリー「いや……」

淡「それは、瑞原プロが負けたらってことで……」

理沙「ズルい! 自分から約束したのに!」

淡「ひっ……!」

ネリー「ぐっ……」

はやり「べつにいいよ~はやりも冗談だと思ってたし。
    それに高校生にそんなことさせたらこっちが捕まっちゃうよ」

理沙「……じゃあ無しでいい。でも口は災いの元!」

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淡「……」

ネリー「……」

淡「ま、高校の頃からずっと小鍛治プロを相手にしてたんなら、これぐらいはね」

ネリー「うん。トップ集団はそこそこ骨があるみたいだね」

淡「でもまあ、ちょっと早かったり読みにくかったりするだけで、怖さはないかなー」

ネリー「打点も大したことないしね。こんなもんでしょ」

淡「今回は様子見だったけど、プロになってボコボコにするのが楽しみだなー」

ネリー「プロアマ交流戦とか話来ればいいのにね」

淡「ま、ここらへんは黄金世代とか言われてた小鍛治プロあたりの年代でもひときわ名前が
  知られてた人たちだけど、他の人って実は大したことなかったんじゃないの?」

ネリー「そうかも。学生時代に活躍しててもプロでダメだったり今プロじゃない人もいっぱいいるし」

淡「私らとは持って生まれたものが違ったんだね」

ネリー「しょうがないよね」

淡「トップの中でも本物の天才はほんの一握りだもんね。やっぱり――」

ネリー「アワイとネリーは」

淡「プロ歴30年級!」


善野一美「ロン」

赤阪郁乃「ポン」

一美「ツモ」

郁乃「チー」

一美「ツモ」

淡(この人この前まで入院してたって言ってなかったっけ……普通に強いんだけど……)

ネリー(なんでこっちの糸目女が鳴くとぜったい裏目るの……)

一美「郁乃も自分で和了り目指してええよ」

郁乃「やぁ~ん、和了ろうとしてるのに~」

一美「相変わらずやな……」

ネリー(でもそんなに防御が堅いわけじゃない)

郁乃「ん~、とおらばリーチ~」

淡「通らないよ、ロン!」

一美「ロン。頭ハネやな」

淡「えっ……」

郁乃「安目で助かったわ~」


一美「――ツモ。2人でトンだところで終わりにしよか」

郁乃「さっすが~」

一美「まだまだ教え子の同年代には負けられへんな」

郁乃「それじゃ、落書きタイムいっとこか~」

ネリー「え、なにそれ」

郁乃「私がトンだら目ェ描いてくれる言うたや~ん。
   あんたらの方がトンだから額に第三の目描いたるわ。ほら、デコ出しや~」

淡「……でも描くものなんて」

郁乃「化粧道具は女のたしなみやで~」

ネリー「うぅ……」

一美「郁乃、お偉いさんも来てるパーティーやから、化粧の練習台くらいにしときなさい」

郁乃「え~、しゃあないな~。それやったらゴスロリ風でいってみよか」

淡「それはちょっと……」

郁乃「イヤなん? じゃあデスメタル風に」

淡「ゴスロリで!」
ネリー「ゴスロリで!」

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ネリー(……金髪に映える……お人形さんみたいでカワイイ……)

淡(……やっぱり西洋人なだけあって似合うな~……カワイイ……)

ネリー「……まあ、監督って立場だといろいろ情報取れるしね」

淡「姫松の監督だから、私らのデータもインターハイで山ほど取ってるだろうし」

ネリー「ネリーなんか直接当たってるからね」

淡「今回はたまたま情報戦がうまくいったみたいだけど、次はその情報を上回ればいいだけだからね」

ネリー「やっぱり現役選手に対抗できるだけの力はないよね」

淡「1戦だけならまだしも、連戦になると体力勝負みたいなところあるし」

ネリー「まあ、腐っても小鍛治世代ってとこかな」

淡「他の世代だったらもっと余裕だろうね」

ネリー「もっと上だと時代を築いた選手でも案外大したことないかも」

淡「当時のレベルは今よりずっと低いはずだしね」

ネリー「若い方が思考に柔軟性があるしね。歳いくと頭かたくなってダメだよ」

淡「高1なんて強さと柔軟性の1番良いバランスなんじゃないの? それなら――」

ネリー「アワイとネリーは」

淡「プロ歴10年級!」


熊倉トシ「ツモ」

愛宕雅枝「ロン」

トシ「ツモ」

トシ「ロン」

トシ「ツモ」

雅枝「ツモ」

ネリー(調整したのに……なんか流れが塞がれてる感じが……)

淡(やばいんだけど……特に宮守の監督、テンパイ気配しないし迷ってもぜったい裏目らないし)

トシ「ツモ。なんだまた揃ってトビかい」

雅枝「あんたら仲良いなぁ。ま、この人が強すぎるだけや。気ぃ落とさんでええよ」

トシ「あんたも腕は鈍ってないみたいじゃないか」

雅枝「チームの連中も娘らも生意気盛りやから、まだまだ気ぃ抜けないんです」


トシ「さ、それじゃ一筆もらおうか」

雅枝「1年間がんばりや、マグロ漁船」

淡「……は?」

ネリー「どういうこと!?」

トシ「あんたらが勝ったら私らのコネで好きなチームに入れるように取り計らえと言っただろう?
   勝ったのは私らだ。だからあんたらの身柄は私らが好きなようにする権利がある」

雅枝「負けたら選べないって了承しとったやろ」

淡「それって好きなチームを選べないって意味じゃなかったの!?」

雅枝「嬢ちゃん、大人の世界を舐めたらあかん。1年坊をプロチームに入れる約束取り付けるのに、
   どれだけの労力がいると思う? ほんで今からチームが決まるメリットはどんなもんや?」

トシ「あんたらは人生を賭けたんだ。そして賭けに負けたんだよ。
   希望に満ちたあんたらの人生は、たった今他人の手に渡っちまったよ」

ネリー「だって、そんなの……!」

淡「私、もっと軽い気持ちでぇ……!」

トシ「観念してペンを取りな。さ、これに自筆のサインをもらうよ」

ネリー「ひっ……」

淡「……え、色紙?」


トシ「なんてね。ちょっと頼まれたもんで、一筆書いてくれるかい。
   端に『豊音ちゃんへ』って入れてね」

ネリー「……ただのサイン」

淡「姉帯豊音……?」

トシ「有名選手の集めるのが趣味なんだよ」

雅枝「いやー驚きですわ。熊倉さんを使いパシリにするなんて根性座ってるなぁあの子」

トシ「ナリは大きいけど中身は小っちゃな子供みたいなもんだよ。無邪気すぎて心配になる。
   まあ監督として夢見せてやれなかったから、このくらいはしてやるさ」

ネリー「マグロ漁船とかって……」

トシ「ふふ、嘘に決まってるだろう」

淡「本気でビビった……」

トシ「あんたらみたいな女子供じゃ使いモンにならないよ」

雅枝「マグロ取りがマグロになる、やな」

トシ「はっはっは、私も若い頃は危うくマグロになるところだったよ」

雅枝「ああ、保険金で取り立てられそうになったって話でしたよね。
   麻雀で負けて電車飛び込みの最期はイヤやなぁ」

ネリー「……」
淡「……」

トシ「なんだい、やけに文字が震えてるね。最近はそういうサインが流行りなのかい?」

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


淡「……」

ネリー「……」

淡「ま、それなり?」

ネリー「そうそう、各時代のトップはそれなりのものは持ってるかな」

淡「ちょっと古い打ち方で調子狂っちゃったけどねー」

ネリー「思わず旧時代に合わせて慣れない打ち方しちゃったよ」

淡「競技は日々進化してるからね。本来の新時代麻雀でいけば勝ちのビジョンははっきり見えるよ」

ネリー「でもまあ、さすがに女子は一貫してレベル高いね」

淡「球技なんかは体力差で男子が有利だけど、麻雀は女子の方が激戦だもんね」

ネリー「スポーツで少ない分競技人口も多いし」

淡「あーあ、男子の方だったら小鍛治政権なんて目じゃないぐらい長期政権を築けるのになー」

ネリー「それはあるね」

淡「生涯現役でもいけちゃうよ。まあとりあえず――」

ネリー「アワイとネリーは」

淡「プロ歴5年級!」


大沼秋一郎「ツモ」

南浦聡「ツモ」

秋一郎「ロン」

聡「ロン」

秋一郎「ツモ」

聡「ロン」

淡(おーい、どういうことなの……とても70前後とは思えない気迫なんだけど……)

ネリー(シニアリーグってもっと和気藹々とした感じじゃないの……?)

秋一郎「ツモ……お嬢ちゃんたちのトビで終わりだな」

聡「まくられたか。まだまだ全盛期終わってないんじゃないの?」

秋一郎「バカ言え。昔ならこんなリーチは一発で引いてただろうよ」

聡「違いない」


秋一郎「さて、それじゃあ約束どおりやってもらおうか」

淡「え……何を、ですか……?」

聡「“3回連続でトバしたらご奉仕”してくれるんだろ?」

秋一郎「自分で言ってたじゃねえか。経験豊富だともな」

ネリー「いや、言ったけど……」

淡「それはその……」

秋一郎「頼むぜお嬢ちゃん、こっちはもうガチガチになっちまってよぉ」

淡「ひっ……!」

聡「とりあえず脱いで上に乗ってもらおうか」

ネリー「ひっ……!」

秋一郎「最近は店にも行ってねえからな」

聡「60分コース目一杯でも満足しないんだから、高校生にはちとキツいんじゃあないの?」

秋一郎「そこまでやらせる気はねえよ」


淡「ごめんなさい! ほんとはぜんぜんそういうのしたことなくて……!」

ネリー「ネリーもほんとは経験ないの……結婚するまでそういうのしたらダメだから……」

秋一郎「くくっ、なに勘違いしてんだ」

淡「え?」

聡「まったく最近のガキはマセてるもんだ。その点うちの孫娘は貞淑で……」

秋一郎「おめえの孫自慢は聞き飽きたよ」

ネリー「あの、ちがうの?」

秋一郎「安心しろ、小便くせえ小娘に催すほど青くねえよ」

聡「おおかた友達の前で見栄張ってしまったんだろうが、
  若いモンが軽はずみに自分を安売りするようなことを言うもんじゃないな」


淡「……でも乗り気だったじゃないですか」

秋一郎「ああ、じゃあ約束どおり肩揉んでくれや。ガチガチに凝り固まっちまってな」

淡「肩揉み……」

聡「やっぱりたまに整体行かないと。揉んでくれる孫と一緒に住んでるんなら話は別だけどねえ」

秋一郎「最近は孫が部活で忙しいんだろ? おめえもだいぶ腰悪いだろが」

聡「そうなんだよな。そっちのちっこいお嬢ちゃんはこっちの長椅子んとこに来な。
  靴脱いで乗ってもらおうか。腰の上を踏む感じでな」

ネリー「腰マッサージ……」

聡「なーに、ほんの5分もやってくれりゃいい。しっかりご奉仕頼むぞ」

秋一郎「なに呆けてんだ。気は進まねえが、やっぱり不健全なマッサージにするか?」

淡「いえ! すぐに!」

ネリー「ご奉仕させていただきます!」

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


ネリー「……」

淡「……」

ネリー「そういえば男子プロは昔の方がレベル高かったんじゃなかったっけ」

淡「あー、そうだった。たしかあのぐらいの年代が最盛期だよ」

ネリー「歴代最高の時代の最高の選手じゃなー」

淡「それにおじいちゃん相手にムキになるのもアレだしね」

ネリー「そうだよ。なんか今まで調子出ないと思ったら、
    やっぱり一回り以上歳が上だと遠慮しちゃうっていうかさ」

淡「あるある……はは……」

ネリー「……」


淡「……ねえ、実は私たちってまだプロには……」

ネリー「……そんなわけない。もういいよ。もう昼間の麻雀はおしまい」

淡「え?」

ネリー「一応留学生の身だから大人しくしてたけど、もう遠慮しない。
    ネリーは国で小さい頃から大人相手に闇麻雀で力をつけたんだから。本領発揮してやる」

淡「ああ、私もそっちの方が得意かな」

ネリー「じゃあ次は手積みで相手してくれる人を探そう。
    万が一のときのためにサイコロ持ってきてよかった」

淡「へー、手積みの方が慣れてるんだ。まあ私らならどっちでも支配しちゃうけどね。
  なんたって――」

ネリー「アワイとネリーは」

淡「闇プロ級!」


国広一「ツモ」

ハギヨシ「ポン」

一「ツモ」

一「ロン」

ハギヨシ「チー」

一「ツモ」

一「ツモ」

ネリー(は……? こっちは積み込んでるのにそれより早い……
    すり替えるだけじゃ追いつけない……)

淡(みんな5向聴の気配から1巡で1向聴とかテンパイになってる!
  なにこれすっごい!)

一「萩原さん見逃ししてるでしょ? ボクばっかり和了ってごめん」

ハギヨシ「いえ、同じ高校生雀士の国広さんから引導を渡して差し上げた方が
     道を正せるという話ですので」

一「まあね。ツモ……そろそろやめる?」

ネリー「……まだだよ。次で本気出して親かぶり喰らわせてやるから」


ネリー(ちょっと危険だけど左手芸連発してやる)

一「長野から来るので疲れてるから早いとこ済ませたいんだけどな。
  パーティー終わったらとんぼ返りだし」

淡「泊まっていかないんですかー?」

一「予定入ってるからね……みんなでピクニックとか。
  ねえ萩原さん、明日は晴れるかな?」

ハギヨシ「予報では長野の降水確率は10%です。まず大丈夫でしょう」

ネリー(なにがピクニックだよ、余裕ぶっちゃって。その予定、傷心旅行に変えてあげるよ)

淡「――よーし、今度こそ……国広せんぱーい、1打目から長考ってカッコ悪くない?
  早くツモりたいんですけどー」

一「それがさ……和了ってるんだ。ツモ」

ネリー「なっ!?」

淡「はぁ!? 天和じゃん! すっごい! 初めて見た!」

ネリー「まさか……」

淡「ねえ写真撮らせて! うわ~ホントに和了ってる」

ネリー「積み込みだよ! サイも自5だし!」

一「言いがかりはやめてよね。君たちと同じ1年生でも、原村さんだったら
そんなこと言わないと思うよ。ねえ萩原さん?」

ハギヨシ「はい。確率的にはあり得ることですね」


一「それにもしこれがイカサマだとしても、イカサマっていうのは現場を押さえなきゃ。
  和了った後でケチつけても証拠がないんじゃどうしようもないよ」

ネリー「……くそ、二度振りにしておけば……同じことか……」

一「サイだけ自動卓の使う? それとも手積みはやめる?」

ネリー(自動卓なら積み込みは防げる……いや、それだとこっちがイカサマするのも難しくなるし……)

ハギヨシ「……イカサマを疑われているようでしたら、サイの取り決めを変える手もございます。
     例えば、開門の山は対面で固定、位置は上家と下家がサイを一つずつ振った合計、など」

淡「それだと親が配牌にぜんぜん関われないね」

ネリー(それならネリーの対面の国広と下家の萩原が同時にサイを振ることはないか……)

ネリー「いいよ。それでいこう」

一「それじゃ次いこうか……もう崩していい?」

淡「うん。キレイに撮れた。休み明けに部のみんなに自慢しよーっと」

ネリー(さてと、これだと国広の親では対面のネリーの山がドラになる。
    萩原がサイを操作できても、もう一つはアワイが振るから2になるのはそうそうないだろうし)

一「サイは……7だね」

淡「よーし、私も地和……無理かー。ん? ネリー、ドラめくってよ」


ネリー「あ、ルール変えたばっかりだから忘れてたよ」

ネリー(ふふ……めくるときにすり替えてネリーに都合のいいドラにしてやる。
    ここは南を置いて、後で山の右に仕込んだ西を持ってくるか)

ハギヨシ「あっ……と、失礼」

ネリー(牌を落とした……しめた、この位置ならアワイが取って渡すはず)

淡「ちゃんと取ってくださいよ~。見えちゃった。はい」

ハギヨシ「ありがとうございます」

ネリー(よし、そっちに意識がいってる隙にすり替え完了。西ドラ3確定!)

一「あー、まいったな」

淡「なに? さっきので運使い果たしちゃった?」

一「これ、和了ってるんだよね。ツモ」

ネリー「はぁ!?」

淡「うわーっ! 2連続天和! なにこれぇ!」

ネリー「そんなわけないでしょ! イカサマだよ!」

一「だから確率的にあり得ることだって。ねえ?」

ハギヨシ「はい。なかなかの偶然ですね」


淡「すっごいよ! だって配牌はネリーと私の山からだったし、サイは私と執事さんが振ったし!」

ネリー(そんなはずは……あっ! ツバメ返しだ! それしかない。
    開門が対面固定ってことは、萩原のサイが1なら配牌のとき国広の山には差し掛からない)

ネリー「……牌落としたのってわざとでしょ?」

ハギヨシ「はて、仰る意味がわかりませんが」

ネリー「国広と反対側に牌を落としてアワイの注意を引いて、
    牌を渡してもらう腕でネリーの視界を遮ったんだ。その隙にツバメ返しを――」

ネリー(いや、だとしてもあの一瞬で……しかもまったく音がしなかった……
    牌を積むときだって注意して見てたのに……こんなの勝てっこない……)

一「萩原さんはネリーさんがドラのすり替えしようとしてるのが気になったんじゃないかな」

ネリー「……え、なに言って……」

一「最初の局だけ様子見してたけど、あとは積み込みに左手芸に握り込みに、やり放題だったよね。
  まあこっちの方が先に和了っちゃったけどさ。はっきり言ってバレバレだよ」

淡「え、ネリーってイカサマしてたの!?」

ネリー「……」

一「普段はしてないんだろうけど。インターハイのときもちゃんと打ってたし。
  でも奥の手として使ってたらいつか痛い目に会うよ」

淡「それはダメだよネリー」


ネリー「アワイだって得意だって言ったでしょ」

淡「そんなこと言ってないよ」

ネリー「言ったよ! 昼間の麻雀より得意だって。
    闇プロっていうのもあんまり聞かない言葉だったけど、裏プロのことでしょ?」

淡「なにそれ。私はただ暗いところの方が星がよく見えるってだけで……
  だから節電って理由つけて部屋暗めにしたんじゃん」

ネリー「そんな……」

一「あれイカサマがバレにくいようにじゃなかったんだ。
  とにかく、イカサマはろくなことにならないからもうやめなよ」

ネリー「……」

一「そのうち粘着質の液体を練り練りして泡泡になる仕事に就くハメになるよ。ね?」

ネリー「……やってないよ。現場を押さえなきゃダメなんだよね? 証拠ないでしょ?」

一「……はぁ、往生際が悪いなぁ。しょうがない、ちょっとごめん――ね」

ネリー「あっ! 返せ!」

一「帽子のここと、ここと……ここもか。ほら、牌が仕込んである。動かぬ証拠ってやつだよ」

ネリー「……」

淡「ほんとにイカサマしてたんだ……」

一「じゃあ、大星さんの言ってたようにケジメつけなきゃね」


淡「え……私が……?」

ハギヨシ「“イカサマなんてしたら指つめてケジメだよ”――確かに対局前にそう仰いました」

淡「だってそんな、ネリーがやるなんて思ってなかったから……」

ネリー「そんなの無効だよ! そっちだってイカサマしてたんだから!」

一「……やっぱり君はサマを使うべきじゃないね。そんな理屈が通用すると思ってるんだから。
  イカサマを証明してみせてよ。ボクはした。君はできない。それが全てだよ。それじゃ――」

ネリー(えっ! 鎖で縛られ……どこから出した!?)

一「じゃあ手を固定して、と。ごめんね萩原さん、切る方任せちゃって」

ハギヨシ「いえ、こればかりは国広さんにさせるわけにはいきませんので」

ネリー「放せ! こんなの……!」

淡「だめだよ! 血がどばーって出るよ! 卓汚して怒られるよ!」

ハギヨシ「ご安心を。痛みも出血も最小限に致します」

一「萩原さんの腕前は見事なものだから、綺麗にいくよ。
  それになにも全部は取らないよ。親指さえなければ麻雀は難しいからね」

ネリー「ウソ……でしょ……?」

ハギヨシ「残念ながら」

ネリー(今どこからナイフ出した!?)


ネリー「やだ……待って……」

淡「私が変なこと言ったせいで……やめて……」

一「大星さんが言わなくても、どの道こうなってたよ。
  裏街道の末路はこういうものだって覚えておくといい」

ハギヨシ「参ります。御覚悟を」

淡「あ……だめっ……!」

ネリー「や……許し……」

ハギヨシ「ふっ!」

ネリー「わあああぁぁ!」

淡「いやああああぁぁ…………って、あれ? 指、ついてる……」

ネリー「…………ひっ、痛く、ない……?」

一「な~んちゃって。刃が引っ込むおもちゃナイフでした~」

ハギヨシ「よく見れば粗雑な作りですね」

ネリー「……」

一「ごめんね。怖かった? でも今回は偽物だったけど、場合が場合なら本物だったかもしれないよ。
  これに懲りたらもうイカサマに頼るのはやめなよ。そんなの使わなくても十分強いんだからさ」


ネリー「……ふ、ふええええぇぇ~……!」

一「あっと、やりすぎちゃったかな」

ネリー「ママ~! デダ~!」

一「……お母さん?」

ハギヨシ「グルジア語のお父さん・お母さんですね。ややこしいですがお父さんの方がママです」

一「万能すぎる……萩原さん何ヵ国語わかるの」

ハギヨシ「執事としてのたしなみです」

一「執事のハードル高いなぁ……」

淡「ネリー! 無事でよかったよおおおぉぉ!」

一「大星さんも安堵で泣いちゃってるし……これ、どうしよ」

ハギヨシ「昔のアイドルには泣く子を手品で元気にさせる方がいたそうです。
     今こそ手品の本来の使いどころなのでは?」

一「そっか、そうだね。それじゃ手軽にやれるやつで……ほぉ~ら、親指が――取れちゃった」

ネリー「うああああぁぁん!」

淡「びええええぇぇん!」

一「あれ、逆効果!?」

ハギヨシ「そのネタは選択ミスかと」


一「あー、久しぶりに技使っちゃったな。罪悪感が……」

ハギヨシ「公式試合でもないのですから、あまりお気になさらずに。
     そもそも透華お嬢様たってのご希望ですから、気に病む必要もないのでは?」

一「そうなんだけど、透華も苦渋の選択だったと思うし。絶対竹井さんの口車に乗せられたんだよ。
  ボクにしかできない人助けだって言ってたけど、べつにボクじゃなくても解決できたでしょ」

ハギヨシ「ですから、私共にお任せいただけるように申し上げたのですが」

一「……だって、透華の期待には応えたいじゃない。嘘の話だったとしてもさ」

ハギヨシ「まったくの嘘というわけでもありませんが。ここで止めなければ悲劇を招いていた
     可能性も十分にあり得ます。そして生半可な説得では止められなかったでしょう」

一「まあ、これで懲りてくれるといいんだけど。ボクみたいになってほしくないからね」

ハギヨシ「これを機に、今後も手枷は外されてはいかがでしょう」

一「うーん……今回は特別だよ。さすがにあれがあったらあの子の目を欺くのは難しかっただろうから」

ハギヨシ「……透華お嬢様は龍門渕家としてこのような会合に招かれることが度々ございます。
     あのとおり明朗闊達なお方ですから、口さがない噂話など歯牙にもかけないのですが……」

一「噂話?」

ハギヨシ「龍門渕の跡取りは付き人に手枷を強要する嗜虐趣味――
     そのような不名誉な噂話は可能な限り霧散させたいというのが、私共の願いなのです」

一「……善処するよ。ショールか何かで隠れるかなぁ……」

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


ネリー「……」

淡「……」

ネリー「ふう~、なんだかんだ言っても日本人は甘ちゃんだね。演技に騙されるなんて。
    イカサマが見抜かれたのはちょっとびっくりしたけど、ネリーの方が一枚上手だったね」

淡「……」

ネリー「泣きの演技で同情を誘うのもテクニックのうちなんだよね。
    技ではやられたかもしれないけど、駆け引きでは勝ったかな」

淡「……ホントに心配したんだから」

ネリー「……ごめん」

淡「ねえ、もうやめよっか。やっぱり私たちまだ……」

ネリー「ダメ! ここでやめたら負け犬だよ。勝手に勝負を挑んでボロ負けって、絶対お説教だよ」

淡「それはやだけど……でも勝てないし……」

ネリー「大丈夫、次は絶対勝つから。これまでは苦手な日本式のルールだったから。
    ネリーの一番得意な欧州ルールならこっちのもんだよ」


淡「欧州ルールって、歌ってもいいってやつ?」

ネリー「それだけじゃなくて、トラッシュトークとかなんでもありなの。
    物音立てて威嚇したり、足でつっついて牽制したり。わざとノロノロ打ってペース乱したり」

淡「げ、セコいじゃん」

ネリー「ほら、サッカーとかでも時間稼ぎとか審判に隠れてユニフォーム引っ張るとかあるでしょ。
    ああいう感じでテクニックとして認められてるから、ほとんど反則取られないの」

淡「なんでもって、イカサマも?」

ネリー「それはダメ……イカサマはもうしないよ」

淡「それならいいか。じゃあ次で最後にしようね」

ネリー「わかったよ。最後ならアワイも思いっきり煽るといいよ。口は得意でしょ?」

淡「まあね。好きに喋っていいのはおもしろそう」

ネリー「ふふ……公式試合でもないから審判はいない。
    なんでもありならネリーが最強って証明してあげるよ」

淡「じゃあ今度こそ――」

ネリー「アワイとネリーは」

淡「プロ……セミプロ級!」


獅子原爽「パウチカムイ」

戒能良子「ん……」

ネリー「ふひゃっ!」
淡「ふひゃっ!」

良子「……なるほど、はやりさんが恐れるのも無理はないね」

爽「あれ、効いてない……?」

良子「初手テスカトリポカで防がせてもらいました」

爽「なんだそれ!」

良子「今度はこっちからいきましょうか――アスモデウス」

ネリー「ふひゃっ!」
淡「ふひゃっ!」


良子「アスモデウスは色欲を司る悪魔。快楽を与えることも――」

爽「やっべー」

良子「……何ともないみたいだね」

爽「ホヤウがいなけりゃ即死だったな」

良子「やるね。でも私はそういう悪魔をあと2体呼び出せる。
   二重三重の感覚にいつまで耐えられるかな?」

ネリー「ふひゃんっ!」
淡「ふひゃんっ!」

爽「こっちもまだぜんぜん本気じゃないんですよね~。リミッター外すと私もしばらく
  制御できなくなるから、どうなっても知らないですよ?」

ネリー「ふひゃあぁっ!」
淡「ふひゃあぁっ!」


爽「――そろそろやめません?」

良子「……しょうがないか。ダメージを負わせることができなかったのは残念だけど」

爽「お互いに打ち消す力の方が強かったみたいですね。
  それにしても、2人とも意識あるかな? ずっとツモ切りばっかりだったけど」

良子「この子たちが何でもありで打ちたいって言ってきたんだけど、
   自信のわりにぜんぜん相手にならなかったね」

爽「こいつらの想定する“何でも”の範疇を超えてたんじゃないかなー」

良子「そういえば君が遅れて部屋に入ってきたとき、
   ネリーさんなんかはそれまでの強気が嘘のように動揺してたね」

爽「時間もなくて即始めちゃったけど、ほんとは中止にしたかったのかな。
  私もほんとは使いたくなかったんですからね。戒能プロにお願いされちゃしょうがないけど」

良子「一度直に体験してみたかったものでね。交通費は私持ちだから、
   旅行と軽食付きのアルバイトとでも思ってほしい」

爽「まあプロの人たちと会える機会も貴重なんでいいですけど」

良子「なんなら後でスイーツでもおごるよ。ここのビュッフェには置いてないような
   珍しい品を扱う隠れた名店が近くにあるんだよ。時間があれば」

爽「マジすか、さすが東京。ごちそうさまです!」

良子「じゃあ戻って何か飲みながら話そうか。君の力には興味があるからね」

爽「あれ、いいんですか? 負けたら恥ずかしい話暴露するって条件だったけど。
  “戒能プロのクールなお顔が屈辱で歪むところが見た~い”ってだいぶ煽られてたじゃないですか」


良子「まあ、興味もない――」

淡「……私、恥ずかしい、話、なんて、ないし……」

ネリー「……ネリーも、清く、正しく、生きてる、から……」

爽「あ、ずりーぞ」

良子「……黙ってれば反故にしてもよかったんだけど、ウソつきの悪い子にはおしおきかな。
   さっき呼び出した悪魔の中に、強制的に秘密を暴くのがいてね」

淡「え……」

良子「――なるほど。大星さんは中学2年の頃の体験が元で電池フェチ、と」

淡「まさか……」

良子「好奇心で単3電池を挿」

淡「ひいいいぃぃ! だめ! やめて!」

爽「マジで!? え、単2は? 単1は?」

良子「それは」

淡「やめてくださいぃ! ごめんなさい! お許しを!」


良子「まあいいでしょう。それで、清く正しく、でしたっけ?」

ネリー「……」

良子「――へえ、馬乗り遊びが好きなんだね」

ネリー「カンケリ――じゃない、缶馬ぐらいべつにいいでしょ。
    子供っぽいかもしれないけど、恥ずかしくなんかないよ」

良子「そっちじゃなくて、寮の部屋での1人遊びの方だよ」

ネリー「ちょっと」

良子「夜な夜な机の角」

ネリー「わあああぁぁ! ちがう! ちがうの!」

爽「角派かよ。小さい頃にハマっちゃったのか?」

良子「それが」

ネリー「待って! マパティエ! マパティエット!」

爽「余裕なさすぎて母国語出てる?」

良子「グルジア語の“ごめんなさい”だね」

爽「なんでわかるのこの人……マジで海外で傭兵やってたとか……?」

良子「ノーウェイノーウェイ……」

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


照「あ、いた」

智葉「その様子だとだいぶヘコまされたようだな」

照「トバされた?」

淡「数え切れないぐらい……」

ネリー「尊厳もプライドもトバされたよ……指はトバされなくて済んだけど……」

智葉「そうか。自分たちの思い上がりが身に染みたか」

淡「井の中の蛙でした」

ネリー「蛙どころかノミだったよ……社会のダニなんだ……」

淡「私はしらみだ……」

照「相当効いたみたいだね。普段からは考えられないぐらいネガティブになってる」

智葉「効きすぎじゃないか? 対局を確約できたのは3組ほどだったはずだが」

照「色々連絡してみたけど、結局は効果あったの最初の数人だけだったんだよね」

淡「……ごめんなさい、勝手に対局申し込みました」

智葉「やはりそうか。後で礼に赴く必要があるな」

照「誰と打ったの?」


ネリー「最初に頂点取ろうと思って……小鍛治プロと三尋木プロ」

智葉「ぶっ!」

照「いきなり……」

淡「そこは勝てなかったから、次に強い瑞原プロと野依プロに……」

照「チャレンジャーだね」

智葉「勇気と無謀は別だ」

ネリー「トッププロは厳しいと思ってたら、ヒメマツの監督が声掛けてきて……」

智葉「そこは愛宕が話を通してくれたところだな」

照「善野監督って体力的にプロは断念したみたいだけど、
  実力はあの黄金世代でもトップクラスって話なんだよね」

淡「その世代はみんな強いからもっと上の世代を狙おうとしたら、千里山の監督と宮守の監督が来て」

智葉「そこも愛宕ルートと姉帯ルートだな」

照「親交があったみたいで一緒に打ってくれるって言ってたよね」

ネリー「それでも勝てなくて、女子はレベル高いから男子ならって思って、大沼プロと南浦プロに」

智葉「よりによってそこか……」

照「黎明期を支えた世代って独特の凄味があるよね」


淡「それで……」

ネリー「……その、今度は手積みでって」

智葉「手積み……? ふん、なるほどな」

淡「そしたらすごい良いタイミングで龍門渕の人が打とうって言ってきて」

照「竹井さんが話通してくれたんだって」

智葉「保険が利いたな。それで指がトぶところだったというわけか」

ネリー「うん……でももうトぶようなことしないから」

智葉「……ならいい。私たちの呼んだ相手全員とは打ったようだな。それで終わりか?」

淡「負けっぱなしだったから最後に一発逆転狙って、テルに勝った人に勝てば認めてくれるかなって、
  戒能プロを倒そうと思ったの。なんでもありのルールで」

照「なんでもありで!? 一番やっちゃいけないところ……」

ネリー「そしたら戒能プロが打ちたい人呼んであるって、後から獅子原が来たんだよ」

照「うわあ……」


智葉「宮永から話は聞いていたが、そんなに危険なのか」

照「戒能プロは2年前のインターハイで当たったとき、
  チラッとしか見えなかったけどなんかものすごいものたくさんに守られてた」

智葉「獅子原とは対局経験はなかったよな?」

照「インターハイの開会式で見かけたとき、戒能プロと同じような感じがした。
  準決勝あたりではもう薄れてたけど」

智葉「私からしたらお前も同じような危険を感じるがな」

照「根本的に違うんだよ。あの人たちは麻雀とかそういう次元じゃなくて、
  なんていうかとにかくヤバい」

智葉「そうか。そうなるとやはり想定した以上に恐ろしい面子と卓を囲んだわけだな」

照「たぶん私でもこの連戦だったらしばらく落ち込む」

智葉「小言の一つでもくれてやろうかとも思ったが、私から何か言うまでもなさそうだな」

ネリー「バイトはやめるよ。サトハがいたときみたいにちゃんと練習するから」

淡「私も真面目に練習する。でも……忙しいのはわかってるけど、たまにはテルも部に顔出してよ」

照「え、うん。プロ入りのためのあれこれも一段落したから、これからはちょっと打ちに行けると思う」

智葉「私もたまには様子を見に行くか」


ネリー「ほんと? ぜったい?」

智葉「やけに食いつくな……指切りしてもいいぞ?」

ネリー「ひっ……!」

淡「だめ、それはだめ……」

照「指切りって約束のことでしょ」

智葉「すっかりトラウマになってるようだな……」

照「心配しなくても、辻垣内さんなら大事な後輩をほっぽったりしないよ」

智葉「おい」

照「ファミレスで話したときそう言ってたよね」

ネリー「大事? 代替わりしたらぜんぜん来なくなったのに?」

智葉「……宮永と同じで、プロ入りのためにいろいろ忙しかったんだよ。ずっと気には掛かっていた。
   お前は勝負には貪欲だが、どうも金が目的で麻雀はそのための手段になっている気がしてな」


ネリー「だめなの? プロだってお金のためじゃないの?」

智葉「もちろんそれも大事なことだが、プロの面々と接していると感じるんだよ、矜持をな。
   勝つことそれ自体が目的で、己の麻雀を突き詰め高みを目指す揺るぎない信念を持っている」

ネリー「そんなのむずかしいよ……サトハは持ってるの?」

智葉「どうかな。体現しようと努めてはいるが」

照「そうだね、プロとアマチュアの違いってそこかもしれない。
  淡も負けん気は強いけど遊んじゃうところあるから。アマチュア根性っていうのかな」

淡「うっ……」

智葉「2人とも才覚ならば私よりも恵まれているだろう。
   驕らず正道に就いて超えてみせてほしいものだな」

照「アマを卒業すればもっと強くなれる」

淡「……うん、がんばる」

ネリー「わかった」

智葉「ふ、結局説教じみたことを言ってしまったな」

照「ところで、2人ともなんで変なメイクしてるの?」


智葉「そうだ、急にケバケバしくなっていて驚いたぞ」

淡「あ、罰ゲームで……」

照「すごいね、白塗り黒涙に口裂けって。ジョーカーみたい」

ネリー「え!?」

智葉「いや、そういうレベルじゃないだろう。こういうのはデスメタルとか
   ブラックメタルって言うんじゃないのか」

淡「……あ! 大泣きしたから流れ落ちたんだ!」

ネリー「そういえばアワイの顔、なんか変だと思ってた」

淡「ネリーの変な顔も気にならないぐらい切羽詰まってた……」

ネリー「顔洗ってくる!」

照「メイク落とし持ってる?」

淡「石鹸でなんとかする!」

智葉「……その間に挨拶回りに行くか」


良子「おや、そこにいるのは私がディフィートしたことがある宮永さんじゃないですか」

照「……どうも」

爽「やっほー、ご無沙汰」

照「あ、獅子原さんも来てたんだ」

爽「インハイ以来だね」

智葉「戒能プロ。うちの者が世話になったようで申し訳ありません」

良子「いや、こっちも面子が欲しいところだったからね。どうせなら宮永さんを入れて
   公式試合じゃできないトバし方をすればよかったかな、残念」

爽「なに物騒なこと言ってんですか」

智葉「……なんだかお前に当たりがきつくないか?」

照「なんか知らないけど目の敵にされてるみたい。会う度に突っかかってくる」

良子「あの後輩さんたちは一緒じゃないのかな?」

智葉「ああ、ちょっと化粧直し――というか化粧落としに行ったところです」

照「あれ、獅子原さんたちが最後に対局した相手だって言ってたけど、
  そのときはもうひどい状態だったんじゃ……」


爽「化粧が? かなり気合い入ったブラックメタル風だったよね」

照「言ってくれればよかったのに」

爽「そういうメイクじゃなかったの? てっきり反キリスト系の属性で私に対抗しようとでも
  してるのかと。まあ私はそっち系依存ってわけじゃないから効果ないけど」

良子「闘牌モードとしてのメイクだと思ってたから、特に違和感はなかったね」

智葉「いや、この場であの仮装はどう見ても異常でしょう」

良子「南米なんかで勝負した時にはよく見たよ、あのぐらいのメイクは。
   非日常の装いは霊的な感覚を高めるからね」

爽「そうそう。アイヌの人たちも昔は唇のまわりに刺青入れたりしてたみたいだし」

良子「私も高校の頃は対局に備えて髪を伸ばしたりしてたね」

爽「ああ、髪は基本ですよねー。私は長いの苦手だからアシンメトリーで非日常を演出してるけど」

良子「制服のネクタイもそうかな?」

爽「あ、わかります? 正装のシンボルをあえて裏返すことで呼び寄せやすくなるって
  気づいたんですよねー。戒能プロは今は対局のとき特にそういう装いしてないですよね」

良子「シンプルに数珠的なものでまかなうようにしたからね」

智葉「……何の話をしてるんだ? 麻雀の要素あったか?」

照「ほら、なんかヤバいでしょこの人たち」


智葉「まあ、ふざけていると取られなかったのは幸いか」

照「イタズラ好きで変なメイクとかやりそうだもんね」

良子「後輩のやんちゃに困ってるみたいだね」

智葉「恥ずかしながら」

照「実力あるからって、けっこう自由にさせちゃってたところあったから……」

智葉「舐められているところはあるだろうな」

照「私も先輩の威厳あんまりないからなあ」

智葉「そういうわけで、迷惑を掛けた方々に挨拶回りに出向こうとしたところです」

爽「大変だね~。行ってらっしゃい」

良子「……私も人にどうこう言える立場ではありませんが、人生の先輩として一つ教えておきましょう」

照「はい?」

良子「それまでちゃんと練習してた子がサボったり度が過ぎて生意気になったりするのは、
   往々にして深層心理ではただかまってほしいだけだったりするものだよ。
   親とか先生とか友達とか――敬愛する先輩とかにね」

智葉「……ご助言感謝します。では失礼します」

照「それじゃ……」


爽「ふーん、なるほどね~。さっきの覗き見大好きな悪魔情報ですか~?」

良子「いや、これはただ私が感じたことを言ったまでだよ」

爽「そうすか。私もね、そういう法則一つ知ってるんですよ」

良子「?」

爽「普段礼儀正しい人がやけに突っかかったりするときっていうのは、
  往々にして嫉妬が絡んでるんですよ。敬愛する先輩とかにね~」

良子「……詳しいね」

爽「身近に嫉妬大王がいるもんで、わかっちゃうんですよね」

良子「あのアイドルの子かな?」

爽「いや、あいつは全然そういうのなくて、素直でいい子ですよ」

良子「どうかな。そういう子ほど不満があっても抱え込んで、
   爆発すると手が付けられなくなるものだよ」


爽「え、マジで」

良子「本当はアイドルなんてやりたくないんじゃないかな。
   強要してくる先輩に辟易していると思うよ」

爽「……いや、そんなことはない! 惑わせようったってそうはいかないですよ。
  はやりんの手先め……」

良子「仕方ないですね。はやりさんを付け狙う不届き者には、
   はやりさんの魅力をたっぷりと教えてあげましょう」

爽「あ、肌めっちゃキレイですよね」

良子「そう! そうなんです! 若い頃から――あ、いや、今も若々しいですけど、とにかく昔から
   節制に努め自分を磨き上げてきた人だから、その努力が形として表れているわけです。
   一緒に温泉に行ったときなんかも、それはもう天女の如く……」

爽(なんだこのテンション……UFO語りするユキにそっくりだな)

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


智葉「――敬愛、か。どうなんだろうな」

照「少なくとも辻垣内さんは慕われてると思うよ、ネリーさんに」

智葉「そうか?」

照「見てればわかるよ。あの子けっこう味方にも警戒心出すけど、辻垣内さんには一切ないもん。
  あ、一見堅そうなんだけど、中身はすっごくふわふわしてる」

智葉「……しかし私から見れば大星こそお前に完全に懐いてると思うがな」

照「そうかな。菫みたいに厳しくできなくて甘やかしちゃうからだと思うけど」

智葉「役割分担というものもあるだろうが、自信家のあいつが盲目的に認めているというのは、
   そういうところを超えて慕っているということだろう」

照「それならありがたいけど」

智葉「傍から見ると口が悪く上級生にもキツいことを言うやつだが、お前にはそうでもないだろう?
   ん、柔らかく口当たりがいいな」

照「……まあ、私も淡のお調子者なところとかちょっと生意気なところとか、
  嫌いじゃないっていうか一緒にいて心地良いし。辻垣内さんもそうじゃない?」

智葉「……そうだな。ネリーは私にはない無邪気さがある。
   それがまあ、なんだ、少し羨ましかったり癒やされたりもする」

照「もう部は引退したし、新しい代にあんまり口出さない方がいいかとも思ったけど、
  やっぱりまだまだ目が離せないね」

智葉「ああ。結局のところ、私らもあるべき厳格な先輩の姿からは程遠いか。まったく、甘いな」

照「うん、甘いね」


淡「あ、テルたちいた!」

ネリー「遅いよ。どこ行ってたの?」

照「ごめん、もっと早く戻るつもりだったんだけど」

智葉「思ったより挨拶が必要な人が多くてな」

淡「……テルー、口のまわりクリームついてるよ」

照「えっ、しまっ……!」

淡「可愛い後輩をほっぽってお菓子食べてたんだ。ふ~ん……」

照「私はただ甘照大神の導きのままに……」

淡「テルも甘を卒業できてないじゃん」

智葉「だからケーキ全種類制覇はやめておけと……」

ネリー「サトハ、きな粉ついてるよ」

智葉「なっ……!? ごほっ! げほっ!」

ネリー「むせるほど……」

智葉「いやこれは、即効性のエネルギー補給としてだな……」

ネリー「信玄餅食べてるだけじゃ信念持ちにはなれないよ」


照「……まあそれはそれとして、これからも頼ってくれていいからね」

智葉「ああ。卒業しても遠慮するな」

淡「どうかな~。なんかちょっと頼りがいがな~」

照「え」

ネリー「プロになってお給料出たら際限なく買い食いしてそうだしね~」

智葉「何を言う」

淡「来年は部長やらされるかもしれないし、菫先輩に頼るべきかな~」

ネリー「ネリーも留学生特有のめんどくさいこととかあるし、
    メールとかでメグを頼った方がいいかな~」

智葉「ぐっ……」

照「そんな……」


淡「な~んてウソウソ。ありがと。これからもよろしくね、テルー」

ネリー「頼りにしてるよ、サトハ」

照「……焦った」

智葉「まったくイタズラ好きなやつらだ」

郁乃「なに~? イタズラ~?」

ネリー「あ、ヒメマツの……」

淡「さっきはどうも……」

郁乃「あら~お化粧落としちゃったん? 可愛かったのに~」

智葉「赤阪監督。うちの者が世話になったようで申し訳ありません」

照「本来こちらから伺うべきところをすみません。対局していただきありがとうございました」

郁乃「ええよ~こんぐらい」

淡「挨拶回りしたんじゃなかったの?」

照「この人だけつかまらなかった」


郁乃「まあ大星ちゃんもヴィルサラーゼちゃんも頑張ってな~。
   1年生で強いのが出てくるとウチの連中にも発破掛けやすいわ~」

淡「あ、はい」

ネリー「がんばり、ます」

郁乃「宮永ちゃんと辻垣内ちゃんも後輩にこれ以上差つけられないように頑張らんとな~」

智葉「ん?」

照「え?」

郁乃「部内じゃこの子らにボロ負けしとるんやってな~。
   プロ入りするのにそれやったら示しつかんわ~」

淡「いや、それは……」

ネリー「ちょっと吹いたっていうか……」

郁乃「え~? 宮永ちゃんはお菓子賭けていっつも巻き上げられて泣いてたんやろ?
   大星ちゃんがポッキーの持つとこだけ恵んであげてたって言ってたやん」

照「……」

淡「あわわ……」

郁乃「辻垣内ちゃんは毎回トバされて罰ゲームでセンブリ茶飲まされて泣いてたってな~。
   ヴィルサラーゼちゃんが情けでたまに烏龍茶にすり替えてあげてたんやろ?」

智葉「……」

ネリー「い、意味わかんない……」


一美「こんなところにいた。すぐどこかにふらふらと……郁乃、来なさい」

郁乃「え~、若い子らと楽しくおしゃべりしてたのに~」

一美「そういう空気やなかったわ」

郁乃「そんじゃまたな~」

ネリー「……」

淡「……あはは……」

照「……」

智葉「……宮永、この後打たないか? 久しぶりに全力でやりたい」

照「いいね。最近まともに打ってなかったから本気でやりたいな。
  明日は休日だし、夜通しでもいいよ」

智葉「それはいいな。うちなら離れで音を気にせず打てる。ネリー、お前も来い」

ネリー「え、いや、門限が……」

智葉「心配するな、寮には私から連絡しておいてやる」

ネリー「あ、うん……」


照「淡も来るよね?」

淡「あー、行きたいんだけどなー、親がなー」

照「うちは自由だから泊まりも余裕って言ってたよね。なんなら私から親御さんに電話するよ」

淡「……いやー、辻垣内先輩の家って臨海の近くじゃないの? ちょっと交通費が」

智葉「心配するな、迎えを呼んだ。帰りも送り届けてやる」

淡「あ、はい……」

照「決まりだね。より真剣に打てるようにウマの代わりに何か賭けようか」

智葉「半荘ごとにセンブリ茶はどうだ?」

照「そういえばドリアンジュースが復刻したらしいよ」

智葉「それもいいな」

照「帰りにコンビニ寄って買っていこう。勝者用のお菓子も」

智葉「そうだな。しかしもう少しバイオレンス感が欲しいところだな」

照「トンだら恥ずかしい話とか?」

智葉「なるほど。アイドルの物真似など芸もつけるか」

照「ありだね。いっそ脱衣麻雀?」

智葉「ペナルティとしてはそれも一興か」


淡「……ネリー助けて……なんとか私にも和了れるように調整して……」

ネリー「なんで。いつも勝ってるんでしょ?」

淡「ウソなの! ホントはぜんぜん勝てないのぉ!
  ねえ、いつもトバしてるぐらいだからそれぐらいの余裕あるでしょ?」

ネリー「……無理だよ。ネリーもウソだもん」

淡「は?」

ネリー「トバしたことなんてないよ。ていうか勝てることもほとんど……」

淡「……ウソつき」

ネリー「先に言ったのはアワイだよ? すぐそうやって大袈裟にホラ吹いて自爆するんでしょ」

淡「うっ……ネリーだってよく見栄張って知ったかしてるじゃん。年中そうやって恥かいてるんでしょ?」

ネリー「それは……あーあ、結局似たもの同士か」

淡「そうだね。なんか気が合うと思ったけどそういうことなんだろうね」

ネリー「うん。はぁ、それじゃ大人しくおしおきされるしかないか」

淡「今回は調子に乗り過ぎちゃったしね。まったくもって――」

ネリー「アワイとネリーは」

淡「ウソで自爆年中!」



おしまい

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