【艦これ】グラーフ「春夏冬中、覚えたぞ」 (27)


鎮守府 執務室


提督「君がここに来て早三ヶ月か。日本の艦隊はどうだ」

グラーフ「感動続きだ。日本の艦娘は皆、練度がとても高い。支える妖精の技術も確かだ」

提督「ドイツからの派遣艦をウチで迎えられ、士気も上がっているよ」

グラーフ「そうか。なら私も負けてはいられない。午後からの空き時間も特訓を」「まぁまぁ」

提督「今日は休め」

グラーフ「どんな理由がある。それは提督としての命令か」

提督「君は命令じゃなかったら俺の言葉は聞いてくれないのか」

グラーフ「あっ、いや、これはドイツ軍人としてのだな、だが私個人としては……うぅん」

提督「……」ニコニコ

グラーフ「……アトミラール。そういう返し方は卑怯なのではないか」


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提督「あはは。意地が悪かったな。君にも色々と立場があるんだから」

グラーフ「そうだ。まったく、日本の男は意外と優しくない」ブツブツ

提督「君は特別だよ」

グラーフ「えっ」ドキッ

提督「ウチの誰よりも真面目だから、からかい甲斐がある」

グラーフ「……見損なったぞ」ギロリ


提督(からかうと表情がコロコロと変わるところが面白いんだが、言うと怒るだろうな)


提督「午後から一緒に買物へ行きたい。ドイツとは何かと勝手が違って、必要な物も揃えられてないと赤城に聞いている」

グラーフ「む、そういうことなら是非行きたい。部屋の小物や個人的にも欲しいものがある」

提督「決まりだ。グラーフ・ツェッペリン、1200までに正面玄関前へ集合せよ!」

グラーフ「了解!」


提督(………冗談だったんだが)


大型モール 


提督「ここがモールだ」

グラーフ「さすがは日本だ。店先は物に溢れて下品なのに全体としてどこか暖かさがある」

提督「……一応聞いておくが、それ冗談じゃ無いよな」

グラーフ「勿論冗談だ」

提督「あ、あははは」

グラーフ「笑ってくれて嬉しい。では、このモール内での作戦行動、その順序をまず決めよう」

提督「作戦行動!?」


グラーフ「当然だ。執務室を去ってから考えていたのだが、私は今日休暇を取っていない。ならばこれは市街地演習の一貫と見なすべきだろう」

提督「あー、これは市街地演習じゃなく買い物……」


グラーフ「こんなこともあろうかと、このモールで最も効率的な買い物ルートを事前に準備しておいた」キラキラ


提督(……とても楽しそうだ)


グラーフ「候補ルートについては文字にこそ起こしていないが、頭の中にざっと50程ある」

提督「50!?」

グラーフ「そうだ。駐車場からは入り口が8箇所あるため、どこから内部へ侵入するか予想しかねたからな」

提督「それってモールへの侵入ルート!? 俺たち客だよ!?」

グラーフ「公務中である以上は艦娘として常に臨戦態勢をとっておかねばならない。よってここは敵地だ。脱出ルートも当然決めてある」

提督「こじつけが過ぎない!?」


グラーフ「むっ、甘いぞアトミラール。我々の敵は深海棲艦だけではあるまい」

グラーフ「そんなことでは他の艦娘の安全管理も疎かになってしまう。鎮守府に帰ったら対人戦闘を想定した行動計画を私と」「あーあー! もう大丈夫だから」

グラーフ「しかし、うん、そうだな。今は関係無いか」

提督「そうだよ」

グラーフ「ではこの私が候補としたルートの中で最も現実的と思えるものについて話そう」

提督「は、はい」

グラーフ「我々の現在地はE2と呼ばれる大型モール中央付近に設置された出入り口だ」

提督「えーっと」

グラーフ「我々の目的地は一号館三階、一階。そして三号館三階、五号館二階と残念ながら点在してある」

グラーフ「この時点で現在地から直線距離が最も近いのは三号館三階だが、上階へと繋がる輸送機器までの実質距離を鑑みれば――」

提督「輸送機器!? エスカレーターとかエレベーターで良くないか!?」

グラーフ「実は真っ先に五号館二階の家具屋へと直行したルートの方が早いんだ」ンフー

提督「な、なんか君はとても可哀想な子だな」


グラーフ「なんだと」

提督「目的の店だけ行くんじゃなくて、買い物にはもっと別の楽しみ方だってあるだろうに」

グラーフ「それは出来ない相談だ。職務の放棄は公費の横領と同じだ」

提督「君自身の生活経験もまた、任務の一環である。人と縁を持つ艦娘としてのな」

グラーフ「……ふむ、続けてくれ」

提督「人と交わってこその艦娘だ。一般人と変わらない姿を見せるのも公務だろう」

グラーフ「なるほど、な。私に少し思慮が足りなかった」

提督「納得してくれたかならこれから」「だが提督、それは休日に見せればいいのではないか」

グラーフ「今見せる必要もあるまい」


提督「……君という奴は本当に、なんというか」

グラーフ「どうした。私は何かおかしなことを言っているか」

提督「上官として命令する。今日の買い物は何も考えずに楽しめ」

グラーフ「む、上官がそう言うのであれば……了解だ」


提督(やっと納得してくれたか)


グラーフ「では、今日は全面的に貴官の命令に従おう。どうすればいい」

提督「そうだな。一先ず君の一番オススメのルートを歩いてみたい」

グラーフ「分かった。ではまず五号館へ行く私に着いて来てくれ」

提督「ああ。行こうか」ニギツ

グラーフ「……」


提督「あ、すまない。駆逐艦の子たちと買い物する時はいつも手を握るから、癖で」

グラーフ「問題無い。行こう」スタスタ

提督「こっちは二号館方面じゃないか」

グラーフ「……間違った」スタスタ

提督「……こっちは一号館方面だ」

グラーフ「むぐっ」

提督「どうした。何かおかしいぞ」

グラーフ「……忘れた」

提督「はい?」

グラーフ「策定ルートを……いや、候補ルートも全部忘れてしまった」

提督「……ぷっ、くっ、ふふふ」

グラーフ「わ、笑わないでくれ。手を繋ぐのは、その、想定外の事態で」


提督「分かった。離すよ。悪いことをした」パッ

グラーフ「む、ああ。いや、問題無い。大丈夫だ」ニギ

提督「良いのか?」

グラーフ「問題無い。もう何もかも白紙だからな。人混みではぐれては駄目だ」

提督「ははは! 分かった。今から白紙で、色々見て回ろう」

グラーフ「了解だ」


提督「お、君はあれが読めるか」

グラーフ「店先のアレか」


春夏冬中


グラーフ「春、夏、いや秋がないな」

グラーフ「シュンカトウチュウだろう」

提督「残念。外れだ」

グラーフ「違うのか?」

提督「秋が抜けているだろう。そこからアキナイと読む」

グラーフ「なるほど、アキナイ中か」

提督「正解」

グラーフ「ドイツには無い形のジョークだな」

提督「ジョーク、なのだろうかこれは」


グラーフ「提督、この壁紙など良くはないか」

提督「女の子の部屋の壁紙にしては少し地味な気もするが」

グラーフ「いや、これがいい。穏やかなバルト海を眺めているような気分になれる」

提督「はい」


グラーフ「アトミラール、少しの間だけ手を離してくれないか」

提督「どこか一人で行きたい場所でもあるのか?」

グラーフ「女一人で買いに行ったほうが都合のいいものもある」

提督「下着選びなら手伝うが」

グラーフ「男の貴官に手伝ってもらう必要はない」ギロリ

提督「上官命令」

グラーフ「……冗談だろう」

提督「勿論」

グラーフ「私の軍人としての矜持を遊び半分で試すような真似はしないで欲しい」


提督「悪ふざけは日本流の友好の印だ」

グラーフ「私は赤城から貴官の人柄は聞いている。これは日本流ではなく貴官流だ」


グラーフ「私は今日、色々と玩具にされっ放しだった」


グラーフ「だが、そろそろ私も慣れてきた。今後、面白い反応は期待しないで貰おうか」

提督「ほう。期待しておく」

グラーフ「ドイツは期待を裏切らない。……少しここで待っていてくれ」


グラーフ「待たせた」

提督「おかえり。どんなの買ったんだ」

グラーフ「ああ、黒生地へ実に見事なレースの入った……そのようなことを女性に聞くものではない」

提督「ははは」

グラーフ「私の言葉を信用せず、まだ調子に乗っているようだな」

提督「いや。全然」

グラーフ「一つ警告しておく。このまま失望させ続けるのであれば、貴官は手に入れかけている私の下着姿を見る機会を永久に失うであろう」

提督「えっ!?」

グラーフ「さて、次の店へ行こうか」ニギ

提督「いや、ちょ、それどういう」

グラーフ「ドイツの女をいつまでも舐めるなということだ」ンフー


ギャーギャー アイスアイスアイスアイスウメェウメェウメェ


グラーフ「……」チラリ

提督「アイスが食べたいのか」

グラーフ「む、違うぞ。決してそこの女児の持っているアイスに目を奪われたわけではない」

提督「味はどれが良い」

グラーフ「イチゴが欲しい」

提督「……」ニコニコ

グラーフ「あっ……また試したのか」

提督「さぁな? 丁度俺が食べたかったから聞いたまでだ。買おう」

グラーフ「そうか。ならばその見事な気遣いは貴官の人事考課に加点しておこう」ニコニコ


グラーフ「♪~」ペロペロ

提督「ドイツはアイス消費量が世界有数と聞く」

グラーフ「その通り。ドイツ人といえばアイスだ。意外と日本では知られていないがな」

提督「俺も一口いいか」

グラーフ「勿論だ。これは私のアイスであり貴官のアイスでもある」


五時間後


グラーフ「随分と買い込んでしまったが……大丈夫か」

提督「だ、大丈夫だ。ちっとも重くはない」プルプル

グラーフ「ふふっ、そういう男の片意地を私は嫌いじゃない。加点だ」

提督「ひ、ひとまず車へ」

グラーフ「ああ。買い物任務は終了だな」


提督「よし、これで全部積んだかな」

グラーフ「欲しかったものは全て揃った。助かったよ」

提督「ツェッペリン」

グラーフ「ん? どうした。名前なんか呼んで」

提督「今日は楽しかったか」

グラーフ「アトミラール、勿論だ。今日は楽しかった。本当に感謝する」

提督「日本は良いところだろう」

グラーフ「ああ。だが貴官の今後の減点次第では……私は祖国へ帰ることになるかもしれん」


提督「なら悪い冗談は今後控えよう。君には是非日本に残って欲しい」

グラーフ「それは指揮官としてか、男としてか」

提督「君を知る存在として」

グラーフ「灰色の回答は女性に嫌われるぞ。だが逃げ方としてはそこまで悪く無い」

提督「減点されなくて良かったよ」

グラーフ「ははっ! まぁ、これからもよろしく頼む」

提督「こちらこそ。君は今日を通して一つ大きくなったように見える」

提督「グラーフ・ツェッペリン、改めて言おう。日本へようこそ」

グラーフ「ああ、こちらこそ。私はいつだって成長し続ける」

グラーフ「貴官には色々と期待しているからな。今はあくまで貴官を知る存在として」

提督「意趣返しもたまには良いな。期待には出来る限り応えよう。任せてくれ」

グラーフ「春、夏、冬」

提督「?」

グラーフ「私の日本での生活において残りの季節が来ないことを私自身祈っている」



グラーフ「この調子で頑張ってくれ、私の提督」


終わり

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