泉の女神「あなたが落したのは…」 (265)

投下間隔を開けすぎて、以前落としてしまったSSです。
続きを投下しようと思ったら過去ログ入りしてしまい…
終盤が近づいていたこともあり、このまま落とすのも忍びなかったので、恥ずかしながら再開させていただきます。
最初からのスタートなので、もし以前読んでくださっていた方がいれば、
しばらくは退屈な展開になると思いますがご容赦ください。

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1467539519

◆第一章 光溢れる世界

勇者「この扉の向こうに城の主がいる…」

僧侶「いよいよですね」

魔法使い「この主を倒せば、世界は平和の光を取り戻せるのよね」

戦士「ならば躊躇うことはない。早く魔王を倒し、光溢れる世界に凱旋しようではないか」

勇者「躊躇いはないけど、みんな準備は大丈夫か?」

勇者「魔王はこれまでの四天王や側近とは文字通り“格”が違うぞ。武器や防具のコンディションに問題ないか?」

魔法使い「私は常に最善の状態で戦いに臨んでいるわよ」

僧侶「神はきっと我々をお救いになることでしょう」

勇者「ところで戦士、おまえは本当にその古びた“鉄の剣”のままでいいのか?」

戦士「これは討伐当初から使ってきた剣でな」

勇者「普通は経験を積みながら武器を持ち変えるものだろう?」

魔法使い「私だって杖はこの城に入る直前に持ち替えたしね」

戦士「確かにそういう者もあろう。それ自体は否定せぬ」

戦士「だが、この剣は私にとって分身のようなものなのだ。この剣だからこそ、ここまで来れたのだ。私にはこの剣しかない」

勇者「…解った。みんな、準備はいいな」

勇者「では最後の決戦に臨もう!」

戦士・僧侶・魔法使い「「「おう!」」」

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勇者「はぁ…はぁ…魔王がこんなに巨大だとは…」

戦士「5m近くはあろうかという巨漢とは寡聞にして知らなかったぞ」ヨロッ

僧侶「神は皆さんに必ずや道をお示しになります」パァァ

勇者「僧侶、さっきから魔法を使いすぎだ。これでは後々苦しくなるぞ…」ハァハァ

魔法使い「とはいっても、二人とも体力は生存を危ぶむレベルよ…」フラッ

魔王「フハハ、人類の希望とはその程度のものか。そんな薄っぺらな希望など握りつぶしてくれるわ!」

戦士「くっ!魔王に刃を当てることすらできぬとは…!」

勇者「戦士!俺は魔王の後ろに回り込む!戦士は正面から攻撃を続けてくれ!」

僧侶「勇者と戦士に素早さのご加護を…!」パァァ

魔法使い「前と後ろにばかり気を取られてる場合じゃないわよ魔王!」ズゴーン

戦士「食らえ!」ザシュッ

魔王「フハハ、蚊が刺したかな?」

魔王「いけない蚊は叩き潰さないとな」ブン

勇者「後ろがガラ空きだぜ魔王さんよ!」ザシュッ

魔王「うぐっ!」

魔王「…とでも言うと思ったか小僧!せいぜい蟻に噛まれた程度だわ!」

魔王使い「おしゃべりに夢中になってると痛い目に遭うわよ魔王!」ズズーン

魔王「ゴホゴホ…このドS女め!」

魔王「大規模爆発魔法を繰り返されてはこの城が持たぬわ。庭園に出るがよい!」サァッ

戦士「ま、魔王!逃げる気か!」

勇者「庭園だ!追うぞみんな!」

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僧侶「この禍々しい空は何ですか?」

魔王「フハハ!貴様らを庭園に誘導したのは城を守るためだけではない。我には歴代魔王の邪念が上空から降り注いでいるのだ!」

魔王「ここなら体力も魔力も空からチャージし続けられるようなものだ」

勇者「卑怯な…!」

魔王「我の城で我の戦いたいように戦うことが卑怯とな?これは異なことを申される」

魔王「しかも、この邪念は貴様らの体力を徐々に削っていくことを忘れるな」フハハ

僧侶「邪念に惑わされるような私達ではありません!私達には神のご加護があるのですから!」

魔王「ふん、その自信がいつまで続くかな?」

戦士「戦いに生きる者が饒舌とは情けない。実力で及ばぬゆえ心理戦に訴えるつもりか魔王!」

勇者「みんな、こんな演出に惑わされるな!行くぞ!」

魔王「くだらん!ひとまとめに凍るがよい!」コォォ

僧侶「身の守りのご加護を!」パァァ

魔王「ぐっ!足が…!」

戦士「どうだ魔王、足の親指の爪を剥がされた気分は?」

魔王「貴様!いつの間に!」ブンッ

勇者「おっと、斧を前に振りかざしてどうした?俺は後ろだぞ…っと」ズバァ

魔王「はうっ!」

ドゴオォォォォォ…ン

魔王「ぐぅぅぅっ!」

魔王使い「おしゃべりに夢中になってると痛い目に遭うと言ったでしょ!長々と語ってる最中に魔法陣張らせてもらったわよ!」

魔王「きさ…ま…」

勇者「魔王!とどめだ!」

魔王「フ…フハハハハハ!」

戦士「死を目前に狂ったか魔王!」

魔王「体力が無限に補充されると言ったのを忘れたか愚か者ども!」

魔王「鉄槌を食らうがよい!」ズ…ン

勇者・戦士・僧侶・魔法使い「「「「うっ…!」」」」

戦士「斧で範囲攻撃とは…」

勇者「こんなに重い一撃があるとは…」

魔法使い「一体いつまで続くのよ…」

魔王「フハハ、終わらぬ戦いに絶望するがよい!」

僧侶「神の…ご加護を…」フラッ

魔王使い「渾身の…小範囲爆発魔法…極大!」ドゴォォォォ…ン クラッ

勇者「僧侶!魔法使い!」

魔王「ふん、大方魔力が尽きたのであろう」

魔王「だが、念のため魔力を吸いきっておこう」ヒューッ

僧侶・魔法使い「」

勇者「二人に何をした!」

魔王「魔力を吸いとって気を失わせただけだ。命に別条はないが、この戦いには二度と参加できないだろう」

戦士「貴様!」

魔王「行く末に絶望して絶叫か?散り際が見苦しいぞ小僧!」

勇者「…ふっ、誰が散るって?」

魔王「この状況で貴様ら以外の誰が散るというのだ?」

勇者「俺はこの戦いで魔力をほぼ温存してきたし、戦士はそもそも魔力なんてものがない」

戦士「二人はこれから本気を出せるってことだ」

勇者「そろそろ決着をつけさせてもらうぞ魔王!」

魔王「ならばこの斧の餌食となるがよい!」ブンッ

戦士「おっと、私はお前の股の下だぞ。股に向けて斧を振りかざしてみるか?」

勇者「いやーん、ニューハーフの魔王なんて見たくないわアタシ」

魔王「貴様!二度と我を愚弄出来ないようにしてくれr…ぐあっ!」

戦士「どこを見ている!足の指は全て薙ぎ払わせてもらった。これで貴様は満足に歩けまい」

魔王「貴様!戦士のくせにチョロチョロと!…うっ!」

戦士「動こうとするたびに激痛が走るぞ」

勇者「ま、動かないと深手を追わせちゃうんだけどね」ズバァン

魔王「ばか…な…」

戦士「喋る気力も失うがいい!」スッ!

魔王「おっと、同じ手を2回食らうか!」ズズ…ン

勇者「なっ…四つん這いになって尻尾で斧を…!」

勇者「戦士!大丈夫か!」

魔王「おっと、戦士の前に自分の命の心配をするんだな」グジャッ

勇者「くうっ!左腕が…!」

魔王「これで貴様はご自慢の“王者の剣”を我に突き立てることもできまい」

戦士「…その剣は私だって装備できるぞ…」ヨロッ

勇者「戦士!無事なのか?」

戦士「ああ、こいつを倒すまでは国に帰れぬからな。ただ、鉄の剣が折れてしまった…」

勇者「戦士!もう無理をするな!」

戦士「左腕を失っているお主がそれを言うか?」

勇者「俺には光溢れる世界を取り戻す使命がある!」

戦士「お主だけの使命ではない。ここにいる4人全員の使命だ」

勇者「だからと言って生き急いでどうする!」

戦士「何を言っている?お主らと共に生きて帰るために闘うのではないか」

戦士「幸い魔王も体力が回復しているとはいえ、その身体は相当ボロボロだ。諦めるような状況ではない」

勇者「俺たちもボロボロじゃないか」フッ

戦士「私には、ボロボロになってもお主がいる」ニッ

勇者「…解った。でも俺たちには無尽蔵の体力なんてない。次の攻撃ですべてを終わらせるつもりで行こう!」

勇者「食らえ魔王!雷撃魔法・極大!」ガガガガガガッ

魔王「くッ…視界が!しかし温存していた魔力に手を出すほど追い込まれたか?」

戦士「俺はここだ!目を開いてみるんだな!」

魔王「何?うっ、目の前に!」

戦士「ご名答!」ズブッ

魔王「へあぁ…目が、目がぁ~!」

魔王「き・さ・ま・ぁ・!」ガシッ

戦士「…!離せ、魔王!」

魔王「フン、地獄へ堕ちろ!」ブンッ……ドサッ

勇者「戦士!」ダッ

戦士「…」

勇者「おい、戦士!戦士!」ユサユサ

戦士「……うぅ…」

勇者「戦士!無事か!?無事なのか?」

戦士「…ぎは?」ハァ…ハァ…

勇者「戦士!?何だ?」

戦士「折れた鉄の剣は?」ハァ…ハァ…

勇者「剣か?あそこの泉に落ちたようだが大丈夫だ」

戦士「そうか…」

勇者「戦士!もういい、休んでいるんだ」

戦士「…勇者、今までありがとう」

勇者「何だよいきなりお礼とか…一緒に帰るんだろ?」

戦士「すまない、約束を守れそうにない…かも…」

勇者「ふざけるな!最初で最後の命令だ!一緒に帰るぞ!」

戦士「…すまない、勇者。…すまない、ハー…」クタッ

勇者「おい!」

戦士「」

勇者「おい…嘘だろ…戦士!返事をしてくれ!」

勇者「戦士…僧侶…魔法使い…」

勇者「みんなを失って戦うことに…一体何の意味が…」

待ってたぞ

以前のを知ってるからこそここが辛い

ボゴゴゴゴゴゴ……ザパァ!

泉の女神「そこの勇者よ」

勇者「うおぉぉぉっ!」ビクッ

勇者「何だ、魔王が腐った死体を召還したのか?」

泉の女神「誰が腐った死体だ!どう見てもうら若き女性だろうが?」

勇者「どう見ても水死体だよ!」

泉の女神「コホン…私は泉の女神」

勇者「女神!?ここ魔王城の庭園だぞ?」

泉の女神「細かいことにこだわっていると大物になれませんよ…」

勇者「神の祝福を得た勇者だぞ一応!」

泉の女神「事態は急を要するので本題に入りましょう」

勇者「……」

泉の女神「あなたが落したのは…」

泉の女神「この折れた鉄の剣ですか?それともラミアスの剣ですか?それともルビスの剣ですか?」

勇者「……はぁ?」

泉の女神「…って、やりにくいなあ、おい」

泉の女神「泉から泉の女神が現れたってのになんだよこの場違い感は」

泉の女神「もっとこう平和な状況で牧歌的な雰囲気の奴いねえのかよ」

勇者「新手のミミックみたいなものか?」

泉の女神「いい加減その敵認定やめろよ!美しさは正義だろ?なあ?」

勇者「…美しさが正義というなら、自ら正義じゃないって認めてるじゃんお前」プッ

泉の女神「んだとこの野郎!」

泉の女神「…失礼、私が魔族ならあなたを今すぐ消し去ることでしょう」

泉の女神「しかし私は人類の希望の灯を消さないためにここに来たのです。さあ、今こそ三択に答えるのです」

勇者「…あんたを信じたわけじゃないけど、とりあえず答えてやるよ」

泉の女神「あなたに邪心がないのなら、悪いようにはしませんよ」

勇者「俺が落したわけじゃないけど…落ちたのは折れた鉄の剣だ」

勇者「だが、その剣みんなくれ!」

勇者「いや、『くれ』とは言わない。貸してほしい。人類の未来が懸ってるんだ!頼む!」

泉の女神「正直な勇者よ、褒美として望み通りラミアスの剣とルビスの剣を差し上げましょう」

勇者「いや、その折れた鉄の剣も頼む」

泉の女神「規則上、原則的にそれはしないことになっています」

勇者「ラミアスの剣とルビスの剣は使ったらすぐに返す!だからその折れた鉄の剣だけはくれないか?」

泉の女神「この剣では魔王にダメージを与えることなど叶いませんよ?」

勇者「違うんだ。その剣は俺と共に戦って帰ると約束した奴の剣なんだ」

勇者「そいつとはもう一緒に帰れないけど…」ギリッ

勇者「でも、そいつが片時も離さなかった剣には勝利の瞬間を見届けてほしいし、その剣と一緒に光溢れる世界に帰りたいんだ」

泉の女神「…わかりました。では3本とも差し上げましょう」スッ

勇者「ありがとう!」

泉の女神「さあ勇者よ、魔王は片目を失ったとはいえまだ健在です。行くのです!」

勇者「ああ、感謝するぜ!」ダッ

泉の女神(ちょっと間に合わなかったのが悔やまれるけど…)

泉の女神(光溢れる世界とやらをその手で取り戻してこいよ、勇者)

泉の女神(……はぁ、没収ノルマをまた達成できそうにねえな。ボスに怒られるなこりゃ)

◆第二章 教義をめぐる矜持

騎士団隊長「奴らから目を離すな!追え!」

騎士団B「くそっ!逃げ足の速い奴らめ」

騎士団C「しかし、奴らはどこに逃げるつもりなのでしょう?」

騎士団B「この先は鉱山しかないはずだが…」

騎士団C「あの迷路のような鉱山に逃げ込まれたら捜索は困難を極めますが、自ら袋小路に入り込むようなことをしますかね?」

騎士団B「…確かに、鉱夫達の目を逃れるのも難しいだろうしな」

騎士団隊長「余計な詮索は後にしろ!今は黙って追うのだ!」

騎士団B・C「「はっ!」」

騎士団隊長「異端は重罪だ。必ず審問に掛けなければならない」

騎士団隊長「また、異端者を増やさないためにも、異端者が逃げ切ったという前例を作ってはならない。全力で追うのだ!」

騎士団B・C「「はっ!」」

騎士団B「おかしいな、このままだと本当に鉱山に着いてしまうぞ」

騎士団C「鉱山に向かうと分かれば寧ろ幸運かと」

騎士団B「どういうことだ?」

騎士団C「鉱山に入れば、奴らは鉱夫に見つかって連れ出されるか、坑道の奥で餓死するか、あるいは鉱山を出てこの道を戻ってくるしかありません」

騎士団C「要するに、これは鉱山の入り口を張っていればいいだけの簡単なお仕事です」

騎士団B「なるほど、なかなか鋭いなお前」

騎士団B「隊長!」

騎士団隊長「どうした、騎士団B」

騎士団B「奴らが鉱山に逃げたら、あとは奴らが鉱山から出てくるのを待ち伏せすればよいのではないでしょうか?」

騎士団隊長「甘いわ!」

騎士団B「はっ!…しかし…」

騎士団隊長「お前たちはこの道があの鉱山で行き止まりだと思っているのだろう」

騎士団B「ええ、先ほどの村からこちらに向かう道は鉱山のためにあるのですから」

騎士団C「それに、鉱山の先は“王国の壁”と言われる大山脈しかありませんし…」

騎士団隊長「その大山脈を越える登山道があるだろう」

騎士団B「…!確かにあるにはありますが、物好きな登山者が毎年死んでいる道ですよ」騎士団C「とても追われている身で越えられるような道ではありません」

騎士団隊長「馬鹿者!奴らは戻ったら確実に殺されることを知っているのだ!」

騎士団隊長「万に一つの可能性に賭けて山脈を越えようとしたっておかしくはないだろう!」

騎士団B「我々も遭難しますよ!」

騎士団隊長「こんなこともあろうかと山越えの道具を一式持ってきている」

騎士団C「あの大山脈の向こう側は王国領ではなく隣の帝国領ですが…」

騎士団隊長「ふん、おおかた帝国領に逃げきれば追ってこないとでも考えているのだろう。世事に疎い奴らの考えそうなことだ」

騎士団隊長「だが、帝国も同じ教圏だ。修道会系騎士団の我々に国境などという概念はない。どこまでも追ってやる!」

騎士団C「隊長、この先は本当に鉱山しかありません」

騎士団B「奴らが脇道に逸れる心配はないのですから、一旦この泉の前で休息しましょう」

騎士団C「鉱山に入れば水を飲むこともできませんし…」

騎士団隊長「ふむ、そうだな」

騎士団隊長「鉱山も登山道も、この馬を連れてはいけないしな」

騎士団B「げえっ!ここからは徒歩ですか」

騎士団C「…本当に山越えするんですか?」

騎士団隊長「異端者は必ず見つけ出して審問にかける!何度言わせるのだ!」

騎士団B「しかし馬を置いていくとなると、この膨大な荷物を持ってくのは大変ですよ?」

騎士団隊長「ここで必要な荷物と必要ではない荷物を選別しよう」

騎士団C「必要ではない荷物をこんなところに置いていくのですか?」

騎士団隊長「必要でない荷物は馬に乗せて、馬ごと村に引き返させればよいではないか」

騎士団隊長「一本道とはいえ奴らに引き離されるわけにはいかないのだ。可及的速やかに選別するのだ!」

騎士団B・C「「はっ!」」

騎士団C「これは持っていく…これは持っていかない…」

騎士団B「荷物を置いていくというのは難しいものだな」

騎士団C「あっ、これは読みかけの物語…」

騎士団C(ふんふん、続きが気になって止まらないな…)ペラッペラッ

騎士団隊長「急げと言っているのに何を読み耽っているのだお前たち!」

騎士団B・C「「はっ、申し訳ありません!」」

騎士団B「お前のせいで俺まで怒られたではないか」

騎士団C「すいません…」

騎士団B「とにかく早く選別を終わらすぞ」バサッバサッ

騎士団C「騎士団Bさんは随分書状が多いですね」

騎士団B「…ああ、まあな」

騎士団C「しかもほとんど持っていく方に仕分けしてますね」

騎士団B「…ああ、まあな」

騎士団C「書状はかさばりますよ?」

騎士団B「俺のことはいいからさっさと選別しろよ!」

騎士団C「…怪しいですね。一体どんな書状なんですか?」ヒョイ

騎士団B「馬鹿、やめろ!」

騎士団C「『貴方が帰ってくるのをずっと待っています…』ラブレターじゃないですかヒューヒュー」

騎士団B「仕事しろよ馬鹿!///」

騎士団C「もしかして彼女さんですか?」

騎士団B「ああ、まあな。俺、この捜索が終わったら彼女と結こ…」

騎士団隊長「回収される見込みのないフラグを立てている場合か!急げと言っているだろう!」

騎士団B・C「「はっ、申し訳ありません!」」

騎士団C「持っていくもの…持っていかないもの…」アセアセ

騎士団B「これは手配書に添付する予定だから最重要…とと」パラッ

ビュウ~~

騎士団B「しまった、奴らの肖像画が風に煽られて…!」

騎士団C「何やってるんですか!泉に落ちちゃったじゃないですか!」

騎士団隊長「捜索に必須となる奴らの肖像画を…。早く泉に飛び込んで取って参れ!」

騎士団B「は…はっ!おい、騎士団C!」

騎士団C「はい!?落としたの騎士団Bさんじゃないですか」

騎士団B「今何月だと思ってるんだ!風邪をひいたらどうする!」

騎士団C「知りませんよそんなこと」

ボゴゴゴゴゴゴ……ザパァ!

騎士団隊長・B・C「「「な、な、な、な、な…!」」」

泉の女神「そこの騎士たちよ」

騎士団隊長・B・C「「「は、はひいっ!」」」

泉の女神「私はこの泉の女神…」

騎士団隊長・B・C「「「すいませんもうしませんごめんなさいごめんなさい」」」

泉の女神「…って、聞けよ人の話を!」

泉の女神「まあ人じゃねえけどな」テヘペロ

騎士団隊長・B・C「「「ガクブルガクブル」」」

泉の女神「今のは笑う所だろうがゴルァ!顔を引き攣らせてんじゃねえぞ!」

騎士団隊長・B・C「「「は…は…はは…」」」

泉の女神「そんなに場違いな登場じゃねえだろ!そういう反応は傷つくだろうが!」

騎士団隊長・B・C「「「すいませんもうしませんごめんなさいごめんなさい」」」

泉の女神「いつから人間は美しいものを見て恐怖に怯えるようになったのだ…」ハァ

騎士団隊長・B・C「「「プッ!」」」

泉の女神「今はどこにも笑う要素がねえだろうがこの野郎!」

騎士団B「申し訳ありません!今度からは心の中に留めるようにいたします!」

泉の女神「詫びる気ゼロという気持ちしか伝わってこねえよ!」

騎士団C「まあでも、びしょ濡れで酷い惨状だということと口調が反社会勢力系だということを除けば、かわいらしい感じですよ」

騎士団隊長「…確かに」

泉の女神「うんうん」

騎士団C「騎士団Bさんの彼女さんよりもずっといいんじゃないですか?」

騎士団B「ドサクサに紛れてそういうdisりはやめろよ!」

騎士団隊長「神に仕える我々はこういう艶めかしい曲線美に飢えているからな…」

泉の女神「ふふ、もっと聞かせて」

騎士団C「泉の女神さんの胸でパフパフされたい…」

泉の女神「もう騎士団C君ったら、かわいいんだから」

騎士団B「ちょうどいい、ねえちゃん一発ヤらせてくれや」

泉の女神「………」ブチッ

ゴボボボボボボ…

騎士団隊長「何てこと言うんだ騎士団B!ヤンキーが戻っていくではないか!」

泉の女神「ヤンキーじゃねえよ!聖なる女神つってんだろ!やんのかコラ!」

ボゴゴゴゴゴゴ…

騎士団B(ヤりますヤりますヤらせてください!)

騎士団C「…よかった、かわいい女神ちゃんが戻ってきた!」

泉の女神「へへ、騎士団C君とはもっと一緒にいてあげるねっ♪」

騎士団隊長・B((この女神実はちょろいんじゃ…))

騎士団隊長「ところでロリババア殿」

泉の女神「お前さっきからちょいちょい暴言吐いてるけど、年齢的にロリでもババアでもねえからな全然」

騎士団隊長「これは失礼。実は先ほどこの泉に大事な肖像画を落としてしまってな…」

泉の女神「コホン、そうでした。危うく本題を忘れるところでした」

泉の女神「私はこの泉の女神。あなた方が落したのは…」

泉の女神「この金の肖像画ですか?銀の肖像画ですか?それとも紙の肖像画ですか?」

騎士団隊長「そうだ、その紙の肖像画だ。これこそが異端者を捜索するのに必須のものなのだ」

泉の女神「まあ、この場合任務が懸かってるから正直に答えるよな、そりゃ」

泉の女神「こういう三択はつまらねえんだよなあ」

泉の女神「…しかし、正直なのは事実です。正直なあなた方には、褒美として金の肖像画と銀の肖像画を差し上げましょう」

騎士団B「なんと…!」

騎士団C「こんな敷物サイズの金と銀があれば、一生遊んで暮らせますよ!」

泉の女神「それでは失礼します。正直者に幸あらんことを…」

ゴボボボボボボ…

騎士団隊長「おい!ヤンk…じゃなくてかわいい女神殿だっけ?紙の肖像画も返してくれ!」

騎士団隊長「…って、帰ってしまったではないか!お前たち、金銀にうつつを抜かしている場合かっ!」

騎士団B「まあまあ隊長殿、金と銀ですが肖像画はあるのですから」

騎士団隊長「そんな重い物を持っていけるか!」

騎士団C「馬と一緒に村に帰して、絵師に書き起こしてもらえばいいのでは?」

騎士団隊長「金と銀の肖像画を見てみろ!確かに点描で肖像画にはなっているが、ドットが荒すぎて顔を判別できるような状況ではないわ!」

騎士団B「た、確かに…」

騎士団隊長「もうよい、とりあえず我々は先に進むぞ!」

騎士団B「恐れ入りますが隊長、こんなに大きな金と銀を馬の背に乗せて馬だけで戻すのは不用心です」

騎士団隊長「何が言いたいのだ?」

騎士団B「確実に金と銀を村に残っている騎士団員に届けるため、私は馬と一緒に村に戻りたいと思います」

騎士団C「金銀を独り占めしようなんてずるいですよ!…隊長!私も馬を護衛したく存じます!」

騎士団隊長「ああもう勝手にしろ!神罰でも食らうがよい!私は独りで異端者を追うわ!」

こんな風に、取り留めのないオムニバス風で進行していきます。

>>13
ありがとうございます。
以前を知っている方に最初から読み返して頂くのは心苦しいのですが、オムニバス風ですから(笑)

>>30
いや読み返すのが辛いのではなくてだな……
ここの伏線の意味を先の展開で知ってるから泣きそうで辛いっていう意味で

◆第三章 くろがねの誘惑

竜の子・・・パパ、パパ・・・

竜・・・どうした、わが子よ・・・

竜の子・・・ぼく達の家の近くまで、人間が穴を掘ってきたよ・・・

竜・・・そうか・・・

竜の子・・・ほっといていいの?・・・

竜・・・我等に生活があるように、彼等には彼等の生活があるのだ・・・

竜・・・竜だから正しい、人間だから悪い、なんて考えてはならぬぞ・・・

竜の子・・・うん、分かった!・・・

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男の子「パパ~、パパ~、どこにいるの~?」トテトテ

竜の子・・・きみ、誰?・・・

男の子「ぎゃあ、りゅ、竜!」

竜の子・・・大丈夫、怖くないよ・・・

男の子「や、やだ…助けて…!」

竜の子・・・うん、何か困ってるの?・・・

男の子「竜に襲われそうなんだよ!」

竜の子・・・だから襲わないって・・・

男の子「…本当?」

竜の子・・・ぼくが嘘をついたことある?・・・

男の子「知らないよ!会ったばかりだよ!」

竜の子・・・とにかく嘘はついていないの!・・・

男の子「じゃあ、パパを探すの手伝ってくれる?」

竜の子・・・いいけど、パパはどこにいるの?・・・

男の子「パパは鉱山で働いているんだ」

男の子「お弁当を忘れたから届けに来たんだけど、道に迷っちゃって…」

竜の子・・・なら、いま掘り進んでいる坑道を探してみよう。ついておいで・・・

男の子「君、鉱山に詳しいの?」

竜の子・・・鉱山に詳しいわけじゃないけど、この山のことで分からないことはないよ・・・

男の子「へぇ、すごいんだね」

竜の子・・・うん、すごいんだよ・・・エッヘン

男の子「ねえ、何か熱いんだけど」

竜の子・・・夏だからね・・・

男の子「その暑さじゃないよ!焼けるように熱いよ!」

竜の子・・・そうか、人間はマグマの熱さに耐えられないのか・・・

男の子「マグマ?今どこ歩いてるの?」

竜の子・・・坑道への近道・・・

男の子「棺桶への近道になっちゃうよ!」

竜の子・・・ごめん、人間と直接接するのは初めてなんだ・・・

竜の子・・・これからは熱くない道を歩くよ・・・

カーン カーン カーン

竜の子・・・あそこが最近掘り進んでいる坑道だけど、君のパパはいる?」

男の子「…あっ!パパがいた!」

竜の子・・・良かった、じゃあ僕はここで帰るね・・・

男の子「えっ?一緒にパパのところに行こうよ。お礼もしたいし」

竜の子・・・僕はあまり人間の前に出ない方がいいよ・・・

男の子「みんな驚いちゃうから?」

竜の子・・・まあ、そんな感じかな・・・

男の子「じゃあ、また今度ね!ちょっと熱かったけど、変わった所に行けて楽しかったよ!」

竜の子・・・うん・・・

竜の子・・・帰りは、道の広い方に進んでいけば外に出られるよ。またね!・・・

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村長「今月の鉄鉱石の産出量はなかなかのものですよ」

領主「まだだ、より一段の増産が必要じゃ」

鉱山長「お言葉ですが領主様、現状の採掘能力ではこれが限界ですぜ」

領主「大幅な増産を実現するためにそなたを起用しているのじゃ」

鉱山長「ですから今がまさにその状態ですって」

領主「そなたの能力はその程度のものか。残念じゃよ」

鉱山長「おいおい、山のことも知らねえで言ってくれるじゃねえですか」

鉱山長「50度を超える気温や熱水が噴出する中で、鉱夫の動ける時間なんて限界があるんですぜ」

領主「ならば鉱夫を増やせばよいではないか」

村長「この村の働き手はほぼ全て鉱山に携わっておりますので…」

領主「ならばシフトを細分化し、短い休憩を挟みながら長時間従事させればよいのじゃ」

鉱山長「あんたねえ…!」ダンッ

領主「とにかく、じゃ、まず増産ありきという路線は断固として譲れん」

領主「今や王国の武器や防具はほぼこの村の鉄鉱石でできておる。この村が王国を支えておると言っても過言ではないのじゃ」

村長「それは栄誉あることですね」

領主「そうじゃろう。栄誉ある事業に携わる有り難味を噛みしめるがよい」

領主「そなたたちだけでなく、鉱夫一人ひとりにきちんと指導するのじゃ」

鉱山長「…分かりましたよ。努力はしますよ」ハァ

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男の子「こんにちは~」トテトテ

竜の子・・・あれ、こんにちは・・・

竜・・・竜の子よ、その人の子は何者だ?・・・

竜の子・・・パパ、この前話した道に迷っていた男の子だよ・・・

竜・・・そうか・・・

竜の子・・・また道に迷ったの?・・・

男の子「今日はちゃんとパパにお弁当届けたよ!」

竜の子・・・パパはまたお弁当忘れたの?・・・

男の子「そうじゃないけど、最近1日中働いているから、食事の度にお弁当を届けないといけないんだ」

竜の子・・・そっか、大変だね。ところで、どうしてここが分かったの?・・・

男の子「鱗がたくさん落ちている道をたどってきたんだよ」

男の子「そんなことより、また坑道を探検しようよ!」

竜の子・・・そうだね!じゃあ今日は寒いところに行こうか!・・・

男の子「寒いところ?こんな暑い山の中で?」

竜の子・・・ふふふ、パパ、ちょっと行ってくるね・・・

竜・・・気を付けるんだぞ・・・

竜・・・それから人の子よ、早めに人の親のところに帰るようにな・・・

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領主「何じゃこの産出量は。大して増えていないではないか」

鉱山長「何てことおっしゃるんですか領主様。前月比1.5倍ですぜ」

領主「まだまだ足りん」

鉱山長「人夫の数も増やせない状況で1.5倍も掘り出したんですよ。むしろ奇跡ってもんでさあ」

領主「そなたたちはまだこの村の鉄鉱石の大切さが分かっておらんようじゃな」

鉱山長「分かってますって。しかしなぜそんなに増産を焦るんですか?」

村長「この村の鉄鉱石が王国にとって重要度が増すにつれ、領主様の王国内での地位も上がるのだ」

鉱山長「それは有り難え話ですが、とにかく人夫が足りません」

領主「なら隣の村からかき集めよう」

鉱山長「素人がむやみやたらと山を掘ったら危険ですぜ。大きな落盤事故を起こしたら鉱山としては致命的だ」

村長「領主様は選帝侯になれるかどうかという所なのだ。もし国王になれば、この村が王都になるのも夢ではない。今が踏ん張りどころなのだ」

鉱山長「しかしですね…この村の者は山を熟知しているから順調に掘り出せるんですぜ。これ以上の増産は時間をかけてじっくりやるしかありませんって」

領主「……わかった。とにかく最低でも今月の産出量を維持するのじゃ。あとのことはこちらで考える」

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男の子「あ、パパ、お帰りなさい!今日ね…」

パパ「……」フラフラ

ママ「ああ、あなた、帰って来たの」

パパ「…すまないが、食事だけしたらまた山に行く」

ママ「また山って…、あなた最近1~2時間くらいしか家にいないじゃない」

パパ「…時間がもったいない、早く食事にしてくれ」

ママ「山山山山って、いったい何なの!そんなに山が好きなら、山と心中すればいいじゃない!」

パパ「俺が山と心中すればみんな幸せになるのならそうするさ…」

ママ「じゃあ何でチョロチョロ行ったり来たりするのよ!」

パパ「時間がないんだ…もう何も考えられない、考えさせないでくれ…」フルフル

ママ「全く、1日23時間も山で何してるんだか!どんなに楽しいことがあるのかしらね!」

パパ「…もういい」ガチャ バタン

男の子「あ、パパ!どこに行くの?ママ、パパがどこかに行っちゃったよ!」

ママ「知りません!」

男の子「……」

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鉱山長「はぁ!?戦争?」

村長「ああ、この王国を苦しめる魔王との戦争だ」

領主「まだ決定ではないがな。王国の諸侯会議で内々に検討しておるのじゃ」

村長「この村は山間の僻地なので魔物を見ることも少ないが、王都や沿岸諸侯領では魔物による被害が大きいと聞く」

鉱山長「しかし、大規模な戦争に耐えうるだけの兵士や財源の当てはあるんですかい?」

領主「そこは今、国王や各諸侯間で調整中だ」

鉱山長「大々的にではなく、隠密裏にできねえんでしょうか?」

神父「この戦いは神の思し召しでもあるのだ」

鉱山長「しかし、この村の男が戦に招集されるとあっちゃ、黙ってるわけにはいきませんぜ」

領主「この村からの招集は最小限にとどめるゆえ、鉱山は今までと同じ量だけを産出してくれればいいのじゃ」

鉱山長「無茶言うなよあんた!」

鉱山長「今だって相当無理して産出しているんだ!同じ量を産出し続けようとしたら、必ず1か月以内に大規模な事故か死者が出るぜ」

神父「静粛にせい!神の思し召しであるぞ!」

鉱山長「やってらんねえぜ!俺は帝国領の山にでも移らせてもらう!」

領主「わしがそなたにどれだけ破格の対価を払っていると思っているのじゃ?帝国のどの鉱山もこんな対価を払ってはくれぬぞ?」

村長「鉱山長、王国のためにもうひと働きしてくれ」

鉱山長(国王軍や沿岸諸侯軍は既に魔族対策で疲弊しきっていると聞いている)

鉱山長(大規模な対魔戦なんてやりたくてもできるわけがねえ)

鉱山長(なのにこういう情報を喧伝するということは…)

鉱山長「分かりましたよ。ただ、今後鉱山の一切は俺に任せてもらいますからね!」

領主「…多少減っても一定の産出量を確保できるというのなら、その条件を飲もう」

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男の子「こんにちは~」トテトテ

竜・・・どうした、人の子よ・・・

男の子「あれ、竜の子は?」

竜・・・山の中を見回りに行っておる・・・

男の子「そっか…どれくらいで帰ってくるかな?」

竜・・・小一時間もしないで帰ってくるだろう・・・

男の子「じゃ、ここで待っててもいい?」

竜・・・構わぬが・・・

竜・・・人の子よ、山が好きか?・・・

男の子「うん、山も竜の子も楽しいもん!」

竜・・・そうか・・・

竜・・・だがな、人は人と触れ合うことを大事にしなければならん・・・

竜・・・山にばかり来ているが生活に支障はないのか?・・・

男の子「う、ん…」

竜・・・山は困っている者をいつでも受け入れよう。だが、それが常となってはならぬ・・・

男の子「でも、家に帰っても最近変な感じなんだ…。パパはほとんど鉱山に行きっぱなしだし…」

竜・・・鉱山と言えば、最近山に穴を掘るスピードが速くてな。あまり掘りすぎると山の怒りに触れてしまうのだが、何か聞いていないか?・・・

男の子「何も聞いていないよ。僕の方こそ知りたいよ!パパの様子が何で最近変なのか…」

~~~~~

竜の子・・・この向こうから穴を掘る音が聞こえる・・・

竜の子・・・この先はマグマが近いから危険なのに…どうやって知らせよう?・・・

鉱夫A「この先は昔の坑道につながっているはずだ、一気に掘るぞ!」

鉱夫B・C・D・パパ「「「「イエッサー!」」」」カーン カーン カーン

ドガッ!

鉱夫A「よし!貫通だ!」

鉱夫B「って、あ、あれは…!」ガクガク

鉱夫C「伝説の竜…!」ブルブル

鉱夫D「俺、鉱山長さんを呼んで来る!」ダッ

鉱夫A「ま、待て!鉱夫D!」

竜の子・・・見つかっちゃった!・・・

竜の子・・・しょうがない、ねえねえみんな!・・・

鉱夫B「どうしよう、殺される…」

鉱夫C「鉱山長さんが帰ってくるまでの辛抱だ」

竜の子(そうなんだよな…この人たち言葉が通じないんだった)

鉱夫B「そんなこと言ったって鉱山長さんはいつ来るんだよ」

竜の子(でも、この先の古い道は危険だって知らせないと)アセアセ

鉱夫A「俺たち5人で一気に攻撃すれば、竜を倒せるかも」

竜の子(ちょっと!そんなご無体な!)

鉱夫B「火とか噴いたらどうするんですか?」

鉱夫C「下手に手出ししない方がいいですよ」

竜の子(うんうん、火は噴かないけど)

鉱山長「どうしたお前たち!」タッタッタッ

鉱夫A「あっ、鉱山長!」

鉱夫B「りゅ、竜が…!」

鉱山長「こ、こりゃあ…」

竜の子・・・この先の古い道は危ないから行っちゃダメ!・・・ピギャー

鉱夫A・B・C・D・パパ「「「「「りゅ、竜が吠えた!」」」」」

鉱山長「な、何だって?」

鉱夫C「え、鉱山長さん、何を独りごとを言ってるんですか?」

鉱夫A「気でも触れたんですか?」

竜の子・・・言葉が通じるの!?・・・

鉱山長「もちろんだ」

鉱夫B「ブフォッ!」

鉱夫C「わ、笑ってる場合かよ!」

竜の子・・・この先の古い道はマグマに当たって廃れた道なんだ・・・

鉱山長「なんと…!」

鉱夫A「なんとと言いたいのはこっちですよ」

鉱夫C「鉱山長さんがブツブツ独り言を言いだして、ご乱心だ」

鉱夫D「俺、今度は村長を呼んでくるわ」ダッ

竜の子・・・それに、最近道を掘りすぎてるから山が不安定になっているよ!・・・

鉱山長「やはり…」

鉱夫A「またか鉱夫D!あいつここに居たくないだけだろ」

鉱山長「こりゃ大変だ。お前たち、絶対にここから動くなよ!俺はちょっと出かけてくる!」

鉱夫B「はぁ!?ちょっ、鉱山長さん、あなたまで…!」

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領主「鉱山に竜が現れたというのは本当なのか、村長」

村長「鉱夫の慌てようを見た限り、嘘とは思えませんが…」

領主「わが軍の兵士を連れてきてしまった手前、何もなかったでは話にならんのじゃ」

村長「は、はっ」

領主「…まあよい、今は鉱山で問題を起こしている時ではないのじゃ。選帝侯の地位がすぐそこにあるのだからな」フォッフォッフォッ

村長「あそこの泉を過ぎればすぐに鉱山です」

領主「ふむ、急ぐのじゃ」

村長「おや…?」

領主「ほう、何の真似じゃ鉱山長?つるはしなどを構えて」

鉱山長「…それはこっちのセリフですぜ、領主様よ。そんな兵士を多数引き連れて、山で何をしようっていうんですかい」

領主「領地の秩序を守るのは領主の務めじゃ。不穏分子はわしの手で排除してくれる」

鉱山長「ここは俺の山ですぜ。山と対話できねえ奴が足を踏み入れたら命の保証はできませんよ」

鉱山長「ここから先に行こうっていうなら、俺の指示に従うと誓ってくださいや」

領主「何を世迷言を言っておるのじゃ。さっさと竜のところに案内せえ!」

鉱山長「俺はあんたらの命を心配して言っているんだけどなあ」

領主「フン、雇われの鉱山長風情が…兵士ども、まずはこいつを排除しろ」

兵士A・B・C「「「はっ!」」」

鉱山長「おいてめえら!」

領主「兵士ども、聞く耳を持つ必要はないぞ」

兵士A・B・C「「「は、はあ…」」」

鉱山長「山は生き物だ。常に大切なシグナルを発してくれる」

鉱山長「金と地位に目が眩んだてめえらのボスにそれが分かると思うのか?大切なシグナルを理解できなければ、それは死を意味するぞ!」

兵士A・B・C「「「うっ…」」」

領主「気にするでない、兵士ども。わが軍の鉄の装甲は岩より堅い!」

鉱山長「てめえらのボスは自分の地位欲しさに鉄鉱石を増産させ、それが無理だと分かると、今度は戦争をでっち上げて鉄鉱石の価格を上げようとするような奴だぜ!」

鉱山長「民のことも国のことも何も考えていねえ!そんな奴の口車に乗せられて、いずれは魔界に行かされるかもしれねえんだぞ!」

兵士A・B・C「「「そ、そんな…」」」

領主「案ずるでない!愚民の妄想じゃ!」

鉱山長「その上でてめえらに問おう!死を覚悟しててめえらのボスに忠誠を誓うか?それとも俺に付いて鉱山に来るか?」

領主「取るに足らぬ話に付き合うでない。鉱山長を縛りあげるのじゃ!」

兵士A・B・C「「「……」」」タジッ

領主「ええい愚か者どもが。従いたくない奴は来んでいいわ!愚か者はここでせいぜい鉱山長を縛り上げておくがいい!」

領主「勇気ある兵士どもはついて参るのじゃ!」

鉱山長「そうはさせねえぜ」ブンッ

領主「ふん、我が軍相手に一人で何ができる?」

鉱山長「何もできないかもしれねえが、あんたらを黙って見過ごすことだけはできねえのよ!」

領主「馬鹿馬鹿しい!兵士ども、弓を放て!」

兵士D・E・F・G「「「「はっ」」」」ビシュビシュビシュビシュ

鉱山長「この期に及んで遠隔攻撃とは情けねえな!」ブンブンッ

----------

鉱夫A「あっ、村長」

鉱夫B「こんな暑苦しいところにお越しいただかなくいても…」

鉱夫C「ところで、この物々しい兵士たちは一体なんです?」

領主「わしが領内を視察したらいかんのかね?」

村長「そなたらは知らないだろうが、このお方は領主様であらせられるぞ」

鉱夫A「領主様…ですか」ハハーッ

鉱夫D「俺が村長を呼びに行ったら、村長の屋敷に領主様もいらしたんだよ」

鉱夫B「しかし領主様、視察とはいえなぜわざわざこんなところまで…?」

領主「そなたたちが竜ごときで右往左往していると聞いたから、駆け付けたのじゃ」

村長「竜というのは古い坑道の入り口にいる小さな魔物のことか?」

鉱夫C「ええ、この鉱山では『山が怒るときに竜が現れる』という言い伝えがあって、皆恐れています」

領主「下らん!見ればまだ子供のようではないか」

鉱夫A「恐れながら、竜を甘く見てはいけません!悪魔の使いのようなものですから」

村長「もしかしたら、近くに親の竜がいるかもしれませんね」

領主「なるほど…、この竜の子をダシに、竜の親をあぶりだして討つか」

鉱夫B「何と恐ろしいことを!竜に歯向かうなんて滅相もありません」

領主「そなたたちが情けないから言っているのではないか」

鉱夫C「し、しかし、竜の意向も分からないまま討つというのは…」

村長「では、こうしよう。この竜の子に縄をつなぎ、竜の親のところに案内してもらうのだ」

鉱夫A「竜の子が親のところに向かう確証がありませんし、そもそもこの竜が子供とは限らないじゃないですか」

領主「いや、もしこの竜が伝説の竜だというのなら、我々に何らかの意思を伝えるじゃろう」

領主「ところがこの竜はどうじゃ?ただこっちを見てじっとしているだけではないか。その様子はまさに子供じゃ」

村長「では早速準備だ。鉱夫達よ、そなたらはあの竜の首に縄をつなぐのだ」

鉱夫C「火を噴いたらどうするんですか?俺は遠慮しますよ!」

鉱夫B「俺だってまだ死にたくないですよ!」

鉱夫A「そうだ、お前がやれ!」

パパ「え!?いや…はあ」

竜の子(怖そうな人が沢山来たけど、何をもめているんだろう?)

鉱夫B「『はあ』じゃない、しっかりつないで来い!」

パパ「……」スタスタ

竜の子(あれは男の子のパパだ。何でこっちに来るの?)

パパ「…ごめんな、痛くしないからな」サッ

竜の子(なっ、縄なんて出してどうするの?)

パパ「すぐ終わる」シュルシュル

竜の子(ちょっと、変なもので縛らないで!)

竜の子(…本当なら暴れて振り解きたいけど、山で暴れるとパパに怒られるし…ああもう!)

村長「つなぎ終わったか?随分手際がいいな」

鉱夫A「しかし、この竜はいつ親のところに行くんですか?」

鉱夫C「こちらから『親のところに行ってくれ』とは伝えられないんですよ?」

村長「まぁ、気長に待つんだな。いずれ腹が減れば親元に帰るだろう」

竜の子(パパのところに行けって?行ってやるよ!パパに仕返しされればいいんだ!)ピョコピョコ

領主「おお、竜が歩き出したぞ」

村長「ほら見ろ、私の言う通りではないか。おい鉱夫A、逃げられないように縄をしっかり掴んでおけ」

~~~~~

男の子「竜の子、なかなか帰ってこないね」

竜・・・見回りにしてはちょっと時間がかかっているな。どこに行っているのか・・・

ザッザッザッザッ

男の子「誰か来る!」

竜・・・大勢の足音か。ここに大勢来るのは珍しいが・・・

男の子「あっ、竜の子!」

男の子「…って、竜の子が捕まってるよ。ねえ竜!」

アレガリュウカ? サスガデカイ ヨモスエダ…

竜・・・一体何があったのだ、わが子よ・・・

竜の子・・・この人たちがマグマのそばまで掘り進んできたから注意しようとしたら、怖い兵隊さんたちが何人も来て縛られちゃった・・・

竜・・・なんと、罪深き者どもだ・・・

竜・・・して、この者どもの願いは何なのだ?・・・

竜の子・・・よくわからないんだ。ただ『親のところに連れていけ』というだけで・・・

男の子「あっ、パパもいる。パパ!竜の子に一体何をしようとしたんだよ!」

パパ「領主様が、竜の親と話がしたいと言ってな…」

領主「そなたが竜か。今、我々は鉄鉱石を必要としている。王国にとって正念場なのじゃ。我々の邪魔をしないでくれ。我々を苦しめないでくれ」

竜・・・我は鉄鉱石の採掘を止めたつもりは一度もない・・・

竜・・・しかし、急激な採掘は落盤や火山活動の活発化を招く危険な行為だ・・・

領主「何だこの竜は、言葉を話せないのか?」

竜の子・・・ここにいるのは僕らの言葉が通じない人ばかりなんだ、パパ・・・

男の子「この竜はちゃんと喋ってるよ!『鉄鉱石の採掘はしてもいいけど、急に掘ると事故とか噴火が起こるかも』って言ってる!」

竜・・・人の子よ、助かるぞ・・・

村長「そなたは竜の言葉が分かるのか?」

男の子「もちろんだよ。普通に喋ってるよ」

領主「何と恐ろしい子じゃ…しかし今は好都合じゃ。そなたには通訳を頼む」

領主「竜とやら、我が王国は長年苦しめられてきた魔族の脅威に立ち向かうべく、勇気を振り絞って立ち上がらんと…」

竜・・・我ら竜は音波で会話をするのではない。直接脳波に働きかけて会話するのだ・・・

竜・・・つまり、うぬの言葉が本心とかけ離れていることなどお見通しだ・・・

男の子「領主様、よくわかんないけど竜は『嘘がバレバレだ』って言ってるよ」

領主「ぐぬぬ、小賢しい竜め……まあよい。もとよりわしの邪魔をする存在を排除するために来たのじゃ」

領主「竜よ、そなたの子の姿が見えるか?この子の命が惜しければ我々に協力するのじゃ」

竜・・・愚かなる者よ。我は山の守護者。山以外の存在に従うことなどないわ・・・

男の子「えっと、『お前なんかに協力するかバーカ!』かな?」

竜(ああ人の子よ、そんなスペシャル意訳では我が子の命が…)

領主「フッ、命の重みを理解しないとは、さすが魔物だな。ならよい、今ここでそなたを亡き者にしてくれる」

領主「ここに居るのはわが軍の兵士の精鋭たちだ。兵士たちよ、弓の用意を!」

兵士W・X・Y・Z「「「「はっ」」」」

鉱夫A「随分と“少数”精鋭な兵士ですね」

村長「ま、まあ色々あったのだ…」

パパ「領主様!待ってください!息子がまだ竜のそばにいるのですよ!」

領主「黙れ!」

領主「放て!」

ビシュビシュビシュビシュ

竜・・・人の子よ、危ない!・・・バッ

パパ「どういうことですか!息子に罪はありませんよ!」

領主「黙れと言っておるのじゃ!」

兵士X「そんなことより領主様、竜が男の子を庇って胸のあたりに抱きかかえてしまいました」

兵士Y「竜は心臓を一突きしなければ射止められませんが…」

兵士Z「この角度では男の子に傷をつけずに竜の心臓を射ることができません」

領主「今は余計なことを考えずに竜の討伐だけを第一に考えるのじゃ」

領主「おい、そこの鉱夫」

パパ「私…ですか?」

領主「そうじゃ。そなたがその大きなつるはしを投げて、息子ともども竜の心臓を一突きにするのじゃ」

パパ「何をおっしゃいますか!領主様は私に息子を殺せと仰せですか?」

領主「息子を殺すのではない。竜を殺すのじゃ。そなたの息子は王国の尊い犠牲じゃ。そなたの息子は王国を救った栄誉ある男として語り継がれよう」

パパ「息子が栄誉…語り継がれる…」ハハハ

領主「そうじゃ、王国の命運はそなたの手に握られているのじゃ。息子を救世主にしてみたくはないか?」

パパ「王国の救世主…」フラフラ

領主「ああ、そなたと息子は救世主。煩悩を忘れ、目を醒ますのじゃ」

パパ「煩悩…これは煩悩なのか…」

村長「そうだ、あの竜の代弁者となった不気味な子ともども討つのだ」

鉱夫A「おい、ちょっと待て。いくら何でもそんな勝手な話が…」

パパ「頭が…考えさせないでくれ…」フルフル

男の子「ちょっと、パパがやっぱりおかしい…!」

パパ「ははは、息子よ…」

男の子「パパ!パパ!」

領主「さあ、漢を見せるのじゃ!」

パパ「覚悟!」ブンッ

兵士W「領主様危な…うぐっ!」ドタッ

村長「おい貴様、気でも触れたか!なぜ領主様に向けてつるはしを投げたのだ!」

パパ「…仰せの通り、目を醒ましたんですよ。息子を庇った竜と息子を殺せという領主、私がどちらを信じるべきかは明白でしょう」

領主「貴様!」ドカッ

領主「おい鉱夫ども、この反逆鉱夫を縛り上げて村に連れていけ!村の広場で鉱山長もろとも見せしめに惨殺してくれるわ!」

鉱夫A・B・C・D「……」

村長「反逆鉱夫を縛り上げたか?戦いの邪魔だからそなたらはさっさと出ていくのだ」

鉱夫A・B・C・D「は、はい…」スタスタ

男の子「パパ!パパ!」

領主「静かにするのじゃガキ!」

領主「竜よ、こちらの兵士が1人減ったところで計画に変更はない。竜の味方をするガキを含め、皆まとめて亡き者にしてくれる!兵士ども、矢を放て!」

ビシュビシュビシュビシュ

竜・・・う ぬ ら … !!・・・ガアア

竜・・・うぬらは人類の良心を縛り上げ、人類の未来に弓を引いたのだ・・・

竜・・・いいだろう、望み通り未来を塗りつぶしてくれる!・・・ピギャー

カッ…ガラガラガラ

兵士X「落盤…!」

兵士Y「退路が断たれてしまいました!」

領主「案ずるでない。こちらにはまだ竜の子がいるのじゃ」

竜・・・お楽しみはこれからだ・・・コォォ

兵士Z「まずいですよ!火を噴こうとしています!」

領主「フハハ、こちらに向かって火を噴いたら、あやつの子も火だるまじゃ」

ゴォォォォォォォォォォ!

領主「なっ…!本当に火を噴きおった…!」

兵士X・Y・Z「「「やめ…っ、助けてくれえぇぇ…」」」

兵士X・Y・Z「」バタッ

領主「冷酷非道な魔物よ、息子の命など惜しくないというのか…」

竜・・・火山に生きる竜の子が、火炎ごときで死ぬわけなかろう・・・

竜・・・そもそも、領民を殺そうとしたうぬに『冷酷非道』と呼ばれる覚えはないわ・・・

領主「」バタッ

竜・・・我が子よ・・・

竜の子・・・熱いよ…熱いよ…・・・

竜・・・!! どうしたのだ?・・・

竜の子・・・熱いよ…熱いよ…・・・

竜・・・命に別条ないとはいえ、成長途上の鱗に火炎はダメージを与えてしまったか…すまぬ、我が子よ・・・

竜・・・我が子を冷やすものは何かないか?・・・キョロキョロ

竜・・・あれは…先ほどの落盤の際に噴出した水が泉を作ったのか。ちょうどよい・・・

竜・・・我が子よ、これで少しは楽になる・・・ジャボン

ブクブク…

竜・・・我が子よ、沈むでない!・・・

ボゴゴゴゴゴゴ……ザパァ!

泉の女神「そこの竜よ…」

男の子「ぎゃあバケモノ!」

泉の女神「何でそれを隣にいる異形の魔物じゃなくて、美しい女性に向かって言ってるのかな?ねえボク?」ゴゴゴゴゴ

男の子「竜のおじさんはそんな怖いオーラ出さないもん!」

泉の女神「竜の圧倒的な魔力を見せつけられた後にその発言!?きれいなお姉さん傷ついちゃうよ?」

男の子「?? きれいなお姉さんってどこにいるの?」

泉の女神「まあこの話は置いといて…それ以上純真無垢な攻撃を受けると、お姉さん再起不能になるから」

泉の女神「っていうかそうだよ竜だよ。竜って何!?天界の者が魔族に話しかけるとかおかしいだろ」

泉の女神「あたしみたいなぺーぺーが下手に魔族に接触すると、ボスに怒られるどころじゃ済まねえし…」

泉の女神「竜もその辺を弁えて行動してくれねえと困るんだよなあ」

竜・・・何をさっきからギャーギャー騒いでおるのだ小娘よ・・・

泉の女神「こっちの気も知らねえでギャーギャーとか…って、あっ、すいません私天界の者でして」

泉の女神「私ども天界の者は日ごろ人間を相手にする仕事ゆえ、魔族の方々には不手際等あるかもしれませんが、その際は決してボスとか上級神に告げ口しないで頂ければと思う次第です」

竜・・・相変わらずやかましい娘だ・・・

竜・・・そもそも人だの魔族だのという括りは人間が勝手に決めたもの・・・

竜・・・我は魔王に靡くつもりも国王に与するつもりもない・・・

泉の女神「魔族の世界も色々と複雑なのですね」

竜・・・単純な話だ。魔王とともに魔界に住む種族もいれば、人間とともに人間界に住む種族もいるだけだ・・・

泉の女神「人間界に住む魔族は沢山いるのですか?」

竜・・・もちろんだ。ただ残念ながら、人間界は魔界ほど様々な種族に寛容ではないが・・・

泉の女神「…確かにそのようですね」

竜・・・天界も単純ではなさそうではないか?神は皆丁寧かつ優雅に話すものと思っていたが・・・

泉の女神「丁寧に話しているではないですか」

竜・・・ビジネストークの時だけではないか・・・

泉の女神「ぶっ!……まあねー、こっちの世界にも色々あんだよ」

竜・・・天界は世界を統べるところ。創造主たちが優雅に暮らしていると思っていたが・・・

泉の女神「あー、あるある、そういう妄想」

竜・・・妄想なのか?・・・

泉の女神「考えてもみなって。例えば、人間界の国王や貴族たちだけが優雅に暮らしている世界。例えば、魔王ほどの破壊力を持つ者たちが日々談笑して過ごす世界…そんな世界を知ってるか?」

竜・・・寡聞にして知らぬ・・・

泉の女神「寡聞でも何でもねえって。ねえんだよそんな世界は」

竜・・・なるほど・・・

泉の女神「天界はまず身分制度が厳しい。まず『神官』と言われる身分、いわゆる神だよな。次に『平民』と言われる身分、これはちょっとわかりにくいかもだけど、人間界では天使とか妖精って言われる存在かな。そして異界からの『移住者』。これは他の世界と一切接触しないけど、使用人みたいな存在だろう」

竜・・・天界が身分制とは、夢が壊れるではないか・・・

泉の女神「壊れとけよそんなの」

泉の女神「これらの身分は半永久的に変わらないだけでなく、同じ身分内でも役職によってランクが細かく分かれている」

竜・・・種族ごとの緩い連合体しか知らない我にはついてゆけぬ世界だ・・・

泉の女神「いやな、天地を創造する神とか天界の方向性を決める神と、小さな地域のお守しかしない神が同じランクだったら逆に変だろ。そういうのも全部細かくランク付けされてんだよ」

泉の女神「で、泉の女神ってのは大した権限はないし、一日中濡れっぱなしだし、神のくせにノルマもあるしで、神の中では不人気…というか、ブラック職場として不動の地位を築いている」

竜・・・女神がブラックとは・・・

泉の女神「なかなか報われねえよ」

竜・・・現実を考えたらそうなのかもしれぬが・・・

泉の女神「ま、そんな職場だから、神官の身分の奴らはやりたがらなくてな。本当はいけねえんだけど、平民の奴らが金を積んでやることが多いんだよな」

竜・・・なるほど、うぬは奴隷身分から女神に成りあがったわけだな・・・

泉の女神「人の話聞いてんのかよ。そんな身分なかったろうが!」

竜・・・はて、ヤンキーだったかな?・・・

泉の女神「身分制度の話はどこに行ったんだよ…あたしの家は、天界でも5本の指に入る旧家だよ」エッヘン

竜・・・一体、何があったのだ?・・・

泉の女神「え!? あー、ま、いいじゃねえか、その話は」

竜・・・まあよい、して、何用なのだ?・・・

泉の女神「コホン…私は泉の女神」

竜・・・だろうな・・・

泉の女神「あなたが落したのは、この竜の子ですか?」

竜・・・我が子よ!!・・・バッ

泉の女神「まあ落ち着けって。最終的にこの子はきちんと返すから、一応手順だけは踏ませてくれよ」

泉の女神「…それとも、この金の竜ですか?銀の竜ですか?」

竜・・・うぬはふざけているのか?・・・

泉の女神「だから仕方ねえんだって。あたしだって、ここで金の竜とか選ぶ馬鹿がいるとは思わないけど、マニュアルは無視できねえの!」

竜・・・窮屈な世界だな。我は竜に生まれてよかった・・・

泉の女神「で、ここでどうでもいいやりは省略するけど、最終的に『貴方は正直者です、この金の竜と銀の竜を差し上げましょう』」

泉の女神「『…ちょっと待ってください!、今なら泉の女神が現れてから30分以内にお答えいただいた方に限り、なんと竜の子もプレゼント!この機会をお見逃しなく!!』」

泉の女神「…って感じに進行するだろうから、はい、豪華3点セットでお返しするわ」

竜・・・我が子よ、無事だったか?・・・

竜の子・・・…・・・

泉の女神「じゃあな」

竜・・・待ってくれ泉の女神よ!・・・

泉の女神「…なんだよ」

竜・・・我が子が息をしていない。生き返らせてはくれぬか?・・・

泉の女神「…それはできません」

竜・・・また『マニュアル』とかいうやつか?しかし、死んだ子など意味がないではないか・・・

竜・・・頼む、何としても生き返らせてほしいのだ・・・

泉の女神「できません」

竜・・・ならせめて、生死を司る神に話をつないでくれぬか?我の命を差し出してもよい・・・

泉の女神「生死を司る神も、そのようなことはできません」

竜・・・なら、うぬはなぜ泉から出てきたのだ?・・・

泉の女神「…その子は生きているのですよ」

竜・・・なんだと?・・・

泉の女神「水を沢山飲んでしまったようで、息は止まっていますが、命に別状はありません。その子はその子の力で生きているのです」

泉の女神「神になど頼らず、自分の手で竜の子の息を取り戻すのです」

泉の女神「それから、安易に命など差し出してはいけません。この山を守るのはあなたとあなたの子なのですから」

竜・・・そうか、すまない・・・

泉の女神「では、私はそろそろ…」

竜の子・・・う…ん…・・・

竜・・・我が子が息を!・・・

竜の子・・・パパ!・・・

竜・・・我が子よ、目を覚ましたか!・・・

男の子「よかった…!」

竜の子・・・うん!あのお姉さんが回復魔法をいっぱいかけてくれたから!・・・

竜・・・泉の女神よ…・・・

泉の女神「な、何のことか分かんねんな。その子の勘違いじゃねえか?ま、あたしはこれで失礼するわ」

竜・・・礼を言うぞ。またいつでも来るがよい・・・

泉の女神「この泉はすぐになくなるだろうから、来る方法がねえな」

竜・・・我ら竜は音波で会話をするのではない。直接脳波に働きかけて会話するのだ・・・

竜・・・うぬは今、『え、また来ていいの?…でも、この泉がなくなっちゃったらどうしよう…』と言ったということで間違いないな?・・・

泉の女神「なっ…お前、実は嫌な奴だろ」

竜・・・さて、なんのことやら・・・

竜の子・・・お姉ちゃん、またね!・・・

男の子「さようなら~」

泉の女神「ああ、またな。…っと、そうそう、そこのボク?」

男の子「えっ!」ビクゥ

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兵士A「鉱山長さんはこれからどうするのですか?」

鉱山長「どうするもこうするもねえ。殺されるんだろ?」

兵士B「おや、誰かこっちに来ますね」

兵士C「領主様のご帰還か?」

兵士D「さもなければまた訳の分からない生命体か」

???「おーい、皆の者」タッタッタッ

鉱山長「あれは村の傭兵だ。鉱山や鉄鉱石を守るために、村が独自で雇っているんだよな」

村の傭兵「鉱山長殿、ご無事ですか?」

鉱山長「ああ、幸い致命傷はねえし、こいつらも俺を拘束する気はない様だ」

村の傭兵「それはよかった。村の者から、鉱山長殿が領主軍と交戦していると聞いた故、急ぎ馳せ参じたのです」

鉱山長「交戦するつもりはなかったんだが…結果としては負けたな。領主の鉱山への侵入を許してしまったんだからな」ハハ

兵士E「そんなことはありません。鉱山長殿のお話を伺い、領主軍の大半は鉱山に入りませんでしたから」

村の傭兵「時に皆の者、鉱山長殿をいかがなさるおつもりか?」

兵士達「………」

村の傭兵「私はこの村や鉱山をハイエナどもから守るために仕えておる。鉱山長を亡き者にするような行為は断じて許さぬぞ」

兵士F「私だってそんなことはすべきでないと思うが、我々は領主様に仕えているのだ。その立場は理解してほしい」

村の傭兵「理解はするが、それはすなわち皆の者と戦わねばならぬということだ」チャキッ

鉱山長「まあまあ村の傭兵さんよ、そう気張るな。俺だって死にたかねえが、あの領主に頭を下げたり、あんたや村人たちを危険に晒してまで生きたいとは思わねえよ」

村の傭兵「貴殿が死ぬことは、たとえ領主が認めてもこの村の者が許さぬでしょう」

鉱山長「ふっ、そりゃありがてえな…けど…俺にはその期待に応えるだけの武力がねえんだよ」

村の傭兵「私が助太刀いたします」

鉱山長「2対100の戦いか?」

村の傭兵「貴殿はなぜそのような後ろ向きなことばかり申されますか?」

鉱山長「じゃあ聞くが、俺たちは何のために戦うんだ?」

村の傭兵「何を今更、村と鉱山を守るために決まっておりましょう。」

鉱山長「俺たちが領主に歯向かっても確実に負ける。で、負けた後、村人の処遇はどうなる?」

村の傭兵「くっ…それは…」

兵士G「今度は鉱山の方から何人か来ますよ」

兵士H「今度こそ領主様がお戻りか?」

???「鉱山長さ~ん!!」

鉱山長「あ、あれは鉱夫達じゃねえか…おーい、どうしたお前たち!」

鉱夫A「鉱山長さん、大変です!」

鉱山長「どうした?山で何かあったのか?」

鉱夫B「領主様が先ほどの竜の子を連れて竜の親のところに行き、採掘の邪魔をするなと戦闘を…」

鉱山長「何を馬鹿なことを…!」

鉱夫C「我々は戦闘が本格化する前に脱出できたのですが、そのあとで竜の怒りに触れたのか、領主様一行は坑道に閉じ込められてしまいました」

鉱夫D「そのあと、閉じ込められた坑道の奥から轟音が聞こえてきました」

鉱夫A「恐らく、領主様一行は助からないかと…」

鉱山長「何と…」

村の傭兵「しかし、これは村にとっては朗報ではないか」

パパ「とんでもありません!私の息子も閉じ込められた坑道の向こう側にいるのです!みんな、早くこの縄を解いてくれ!」

鉱山長「お前の息子ってのは、湖畔にいるあのボウズのことか?」

パパ「息子は鉱山の奥にいるんですよ!…って、息子よ、なぜここに?」

男の子「パパ~」ダッ

パパ「一体、何がどうなっているんだ???」

男の子「怖いおばちゃんが僕を無理やり鉱山の泉に引っ張り込んで、この泉に連れて来たんだ」

パパ「…話が分からないぞ???」

兵士I「先ほど、『泉の女神』を名乗る不審な生命体がそこの泉に現れ、『鉱山の奥にいた男の子を連れて来ました。間もなくここに、この子の父親が現れるでしょう』などと供述して、その男の子を置いていったんだよ」

パパ「やっぱり何だかわからないけど…とりあえず無事で何よりだ」

兵士J「領主様が戻られないのであれば、我々は撤収しますよ」

鉱山長「お、おい、俺たちの処遇は一体どうなるんだ?」

兵士K「村長殿も戻られないでしょうし、あとのことは皆さんで決めて頂ければいいと思いますよ」

兵士L「というより、鉱山長殿が新しい村長になればいい。我々は陰ながら応援しますよ」

兵士M「領主様に敢然と立ち向かった村の英雄ですからね」

村の傭兵「成程、それなら村人も喜びましょう」

鉱山長「おいおい、俺は山のことで手いっぱいだ。村のことになんて手が回らねえよ」

村の傭兵「しかし、領主に立ち向かったというカリスマ性は村人を束ねるのに大切だ」

鉱夫A「領主に立ち向かった男なら、もう一人知っていますよ」

鉱夫B「ええ、我々は見ていましたから」

鉱夫C「おい鉱夫D、なんで新村長さんを縛っているんだ。早く縄を解けよ」

鉱山D「はい俺!?」

パパ「いやいや、それはこっちのセリフですから」

村の傭兵「何があったのか皆目見当が付かぬ故、詳しく話を訊かせてくれぬか…村長宅で」

鉱山長「ま、よろしくな。新村長さんよ」

パパ「いや、その、いやいや困りますって…」

村の傭兵「しかし、これで村に平和が訪れますな」

鉱山長「いや、あと一人、領主と結託している村の神父を排除する必要がある」

鉱夫A「ああ、あの方にはだいぶ苦しめられましたね…」

パパ「領主がいない今、村の神父の行いを王都の神父に申告すれば、対応は早いかと」

鉱山長「さすが村長だ」

パパ「いや、ですからその話は…」

村の傭兵「鉄鉱石があれば、この村は本当に自治を勝ち取れる。これから忙しくなりましょうぞ」

本日の投下はここまでです。

◆第四章 異形の少女

異形の少女は、剣を抱え湖畔に佇んでいた。その視点は何かを見つめるでもなく、宙を彷徨っていた。やがてその焦点の定まらぬ眼に決意のようなものが浮かび、少女はゆっくりと歩きだした…

-------
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村人「こんにちは~」

ハーフエルフ母「あら、いらっしゃい」

村人「頼んでいた回復薬、できましたか?」

ハーフエルフ母「あっ、はいはい…あなたー、回復薬はどこかしら?」

ハーフエルフ父「回復薬はカウンター下の引き出しだよ…ほら」ガサッ

ハーフエルフ父「あ、いらっしゃいませ。いつもありがとうございます」

村人「いえいえ、ここのお薬はよく効くって、村中の評判ですよ」

ハーフエルフ母「私たちの種族に代々伝わる独自の調合ですからね」

ハーフエルフ父「あんまり手広くやると教会から睨まれちゃいますよ」

ハーフエルフ母「『悪魔の薬を売っている』とか言ってね」

村人「子供の病気を治してくれる薬が悪魔なもんですか。教会は子供の命なんて助けてくれないんだから」

ハーフエルフ母「そう言って頂けると嬉しいですよ」

ハーフエルフ父「こんな異形の我々を受け入れてくれる村は多くありませんから…」

村人「変なこと言わないでよ。またいろいろお世話になると思うけど、よろしくね」

村人娘「………」ジィーッ

村人「あら、この娘ったらハーフエルフさんに興味があるみたい」

ハーフエルフ母「まあ、うちの娘にお友達ができるのかしら」

村人「ほら、ご挨拶しなさい」

村人娘「……こんにちは」

ハーフエルフ「………///」チラッチラッ

ハーフエルフ母「こら、ちゃんと挨拶しないとダメでしょ」

ハーフエルフ「………あ、あう、こ、こんにちは」

ハーフエルフ母「ごめんなさいね、うちの娘あまり人に慣れていなくって」

村人「いえいえ、気にしないでいいのよ」

村人娘「ねえ、耳触らせて?」

村人「こら、何てこというの!ダメでしょそんなこと言っちゃ!」

ハーフエルフ「うん…いいよ!」

ハーフエルフ父「って、乗っちゃうんかい!」

村人娘「わーい、びよーんびよーん」

ハーフエルフ「びよーんびよーん」

ハーフエルフ母「まあ、なんというのか…」

村人「これはこれで…いいのかしら…ね?」

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ハーフエルフ母「あなた、玄関に教会の関係者らしき人たちが!」

ハーフエルフ父「何、どういうことだ!?」

ハーフエルフ母「異端か何かと思われているのかしら」

ハーフエルフ父「何を馬鹿なことを!私たちは毎週教会のミサに通っているというのに」

ハーフエルフ母「でも、最近ミサの後に私たちの種族について色々聞かれてたわ」

ハーフエルフ父「確かに…僕も魔物とのつながりとか解らぬことを聞かれたな」

ハーフエルフ母「最近、魔界から人間界への侵攻が激しいらしいし、もしかして、種族が違うというだけで私たちを魔物の手先と見做したんじゃ…」

ハーフエルフ父「先祖代々この地で暮らす我々が、魔界とつながっているはずないというのに」

ハーフエルフ母「そんなことよりあなた、どうしましょう」

ハーフエルフ父「もし審問されたら、無事戻ってくる者はいないらしいよ」

ハーフエルフ母「それじゃ…」

ハーフエルフ父「ああ、逃げるしかない」

ハーフエルフ母「逃げると言ったって、一体どこに行くのよ?教会は村の入り口にあるのよ?」

ハーフエルフ父「反対側の山の方に向かうしかないかな」

ハーフエルフ母「あんな険しい山に向かってどうするのよ」

ハーフエルフ父「いや、あの山の向こう側は隣国だ。隣国は地理的に魔物の攻撃を受けていないだろうから、我々には寛容かもしれないじゃないか」

ハーフエルフ母「確かにそうだけど…」

ハーフエルフ母「でも、あの娘はどうするの?あの高山を越えられるだけの体力はまだないわよ」

ハーフエルフ父「あの娘は…この村に置いていくしかない」

ハーフエルフ母「なんてことを言うの!うちの娘を教会になんか絶対に渡さない!」

ハーフエルフ父「落ち着いて聞いてくれ」

ハーフエルフ母「自分の娘を見殺しにするような人の話を、落ち着いて聞けるわけないでしょう!」

ハーフエルフ父「だからそうじゃないんだ」

ハーフエルフ母「何がそうじゃないって言うのよ?」

ハーフエルフ父「この村の教会は、今まで子供を審問したことや拷問したことは一度もない」

ハーフエルフ父「つまり、あの娘は教会関係者に捕まることがないんだ。無理してこの村から出す方が危険なんだ」

ハーフエルフ母「だからと言って、あの娘だけをここに置いていくなんて…」

ハーフエルフ父「君の言う通り、僕ら3人では逃げられるところなんてないだろう」

ハーフエルフ父「僕らに与えられた選択肢は、娘をここに残して僕ら2人で隣国に行くか、3人でここに残って僕ら2人が処刑されるか、2つしかないんだよ」

ハーフエルフ母「…私達2人が生きていれば、いつか娘を救える日が来るかもしれない」

ハーフエルフ父「ああ」

ハーフエルフ母「逆に、私達2人が異端と断定されて処刑されてしまったら、娘も無事でいられるかどうか分からなくなる…」

ハーフエルフ父「…! 確かに、容疑者の娘と魔物の手先の娘では印象が全然違うね」

ハーフエルフ父「奴らがいつ乗り込んでくるかわからない。娘はどうしてる?」

ハーフエルフ母「さっき寝たところよ」

ハーフエルフ父「時間がない。娘を起こして事情を説明しよう」

ハーフエルフ母「起きて、ハーフエルフ」ユサユサ

ハーフエルフ「う~ん…」ムニャムニャ

ハーフエルフ父「ほら、いい子だから起きなさい」

ハーフエルフ「…ん~ん~」

ハーフエルフ「……パパ、ママ、どうしたの…?」

ハーフエルフ母「いい、ハーフエルフ、大切な話だからよく聞いて」

ハーフエルフ「……?」

ハーフエルフ母「パパとママは、教会に追われているの」

ハーフエルフ「教会っていつもお祈りしているところでしょ?何で追われるの?」

ハーフエルフ母「悪い人の仲間と勘違いされているみたいなの」

ハーフエルフ「パパとママは悪い人じゃないもん!」

ハーフエルフ母「そうね、だからこれはただの勘違いなの」

ハーフエルフ母「でもね、教会は一回勘違いしたら言い訳を聞いてくれないの」

ハーフエルフ「???」

ハーフエルフ母「だからね、パパとママは今すぐこのお家から逃げなきゃいけない」

ハーフエルフ「えー、今から?明日の朝お出掛けしようよ」

ハーフエルフ母「あのね、あなたは一緒に連れていけないの」

ハーフエルフ「…やだ!あたしも一緒に行く!」

ハーフエルフ母「あなたは悪い人と勘違いされていないから、逃げなくても大丈夫なの」

ハーフエルフ「でも一緒に行くのっ!!!」

ハーフエルフ父「駄目だ」

ハーフエルフ「やだやだ!」

ハーフエルフ父「たとえ嫌でも、一緒に行くことは君のためにならない」

ハーフエルフ母「いい子だからいう事を聞いて」

ハーフエルフ「……」

ハーフエルフ母「パパとママが逃げた後、あなたはここに残ってね」

ハーフエルフ「……」

ハーフエルフ母「多分その直後に、教会の人たちがこの家に来るわ。そうしたら『おじさんたちの声で起きたらパパとママがいなくなってた』って言うの」

ハーフエルフ「…うん」

ハーフエルフ母「いい?パパやママから逃げることを事前に聞いていたと言っては駄目よ。あなたも辛い目に遭うことになるから」

ハーフエルフ「…うん」

ハーフエルフ父「そして明日、朝になったら、教会の隣の孤児院に行くんだ。『パパとママがいなくなった』と言ってね」

ハーフエルフ「こじ…いん…?」

ハーフエルフ父「ああ、君みたいな子を引き取って、育ててくれるところだ」

ハーフエルフ母「本当は私たちがずっと育てたかったけど…」

ハーフエルフ父「こうするしかないんだ…」

ハーフエルフ「???」

ハーフエルフ母「しばらくのお別れよ」

ハーフエルフ父「ごめん…ごめんな」

ハーフエルフ「え!?え!?やだよ!」

ハーフエルフ母「あなたのことは絶対に忘れないから!」ダキッ

ハーフエルフ「やだ…やだ…」グスッ

キョウカイノイライヲウケタモノダガ ドアヲアケナサイ

ハーフエルフ父「もう行かなくては」

ハーフエルフ母「いつか迎えに来るからね!」

ハーフエルフ「……」グスッ

コチラカラドアヲアケルゾ!

騎士団隊長「失礼するぞ!」ガチャ

騎士団B「誰もいなうようですね」

騎士団C「不思議な液体の入った瓶が沢山ありますが…」

騎士団隊長「この家は薬屋を営んでいると聞く。営業時間外の店頭に人けがないのは当たり前ではないか。奥に行くぞ」

ハーフエルフ「……」グスッグスッ

騎士団隊長「おお、お嬢ちゃん。夜遅くにどうしたんだ?」

ハーフエルフ「パパとママがいないの」シクシク

騎士団隊長「いないとな!?一体いつからいないんだ?」

騎士団C「この少し泡立った黄金色の液体は何ですかね?」

騎士団B「…聖水じゃないか?」

投下直後にミス発見…
>>101
誤:騎士団B「誰もいなうようですね」
正:騎士団B「誰もいないようですね」

ハーフエルフ「外からおじさんたちの声が聞こえて目が覚めたの」

騎士団C「騎士団Bさんって筋金入りの変態ですね」

ハーフエルフ「怖くなってパパとママの寝室に行ったら、パパとママがいなくなってたの!」

騎士団B「ばっ…馬鹿か騎士団C!魔物に気付かれなくなる方の聖水だぞ!」

騎士団隊長「馬鹿はお前だ騎士団B!重要な話を訊いている時に何の話をしている!」

ハーフエルフ「パパー!ママー!」エーンエーン

騎士団隊長「おお、よしよし。お嬢ちゃん」ナデナデ

騎士団隊長「私たちは教会からの依頼でパパとママを探しているだけだ。怖いことはしないから、パパとママの行き先に心当たりがあったら教えてくれないかな?」

ハーフエルフ「知らない!」

騎士団隊長「どんな小さいことでもいいんだよ?」

ハーフエルフ「知ってたら探しに行くもん!」

騎士団隊長「うーん…そうか、困ったな」

騎士団B「じゃあ、この青い液体は何だ?」

騎士団C「ポーションじゃないですか?」

騎士団B「お前の返しはセンスが感じられないな」

騎士団隊長「お前たちは仕事のセンスを感じさせろ!異端者が逃走したんだぞ!早く手掛かりを探さないか!」

騎士団B・C「「はっ、申し訳ありません!」」

騎士団隊長「どんな些細な手掛かりでもよい。徹底的に探すのだ」

騎士団C「あっ!隊長、壁にこの家族の肖像画が掛かっています」

騎士団隊長「これは…!捜索に使えるぞ。よくやった騎士団C」

騎士団B「ちょっと大きくはないですか?」

騎士団隊長「額から外して丸めればいいだろう。文句を言っていないでさっさと作業するんだ」

騎士団B「はっ」

騎士団隊長「作業が終わったら捜索に出発するぞ!」

◆第四章 異形の少女

異形の少女は、剣を抱え湖畔に佇んでいた。その視点は何かを見つめるでもなく、宙を彷徨っていた。やがてその焦点の定まらぬ眼に決意のようなものが浮かび、少女はゆっくりと歩きだした…

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村人「こんにちは~」

ハーフエルフ母「あら、いらっしゃい」

村人「頼んでいた回復薬、できましたか?」

ハーフエルフ母「あっ、はいはい…あなたー、回復薬はどこかしら?」

ハーフエルフ父「回復薬はカウンター下の引き出しだよ…ほら」ガサガサッ

ハーフエルフ父「あ、いらっしゃいませ。いつもありがとうございます」

村人「いえいえ、ここのお薬はよく効くって、村中の評判ですよ」

ハーフエルフ母「私たちの種族に代々伝わる独自の調合ですからね」

ハーフエルフ父「あんまり手広くやると教会から睨まれちゃいますよ」

ハーフエルフ母「『悪魔の薬を売っている』とか言ってね」

村人「子供の病気を治してくれる薬が悪魔なもんですか。教会は子供の命なんて助けてくれないんだから」

ハーフエルフ母「そう言って頂けると嬉しいですよ」

ハーフエルフ父「こんな異形の我々を受け入れてくれる村は多くありませんから…」

村人「変なこと言わないでよ。またいろいろお世話になると思うけど、よろしくね」

村人娘「………」ジィーッ

村人「あら、この娘ったらハーフエルフさんに興味があるみたい」

ハーフエルフ母「まあ、うちの娘にお友達ができるのかしら」

村人「ほら、ご挨拶しなさい」

村人娘「……こんにちは」

ハーフエルフ「………///」チラッチラッ

ハーフエルフ母「こら、ちゃんと挨拶しないとダメでしょ」

ハーフエルフ「………あ、あう、こ、こんにちは」

ハーフエルフ母「ごめんなさいね、うちの娘あまり人に慣れていなくって」

村人「いえいえ、気にしないでいいのよ」

村人娘「ねえ、耳触らせて?」

村人「こら、何てこというの!ダメでしょそんなこと言っちゃ!」

ハーフエルフ「うん…いいよ!」

ハーフエルフ父「って、乗っちゃうんかい!」

村人娘「わーい、びよーんびよーん」

ハーフエルフ「びよーんびよーん」

ハーフエルフ母「まあ、なんというのか…」

村人「これはこれで…いいのかしら…ね?」

すいません。いきなり投下箇所を間違えました。
>>106-109は無視してください。
>>105の続きは>>110になります。

しまった。訂正文に続けてどうする…
>>105の続きは>>112になります。

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修道女「今日からこの孤児院の住人となったハーフエルフさんです」

ハーフエルフ「……」ペコ

少女A「こんにちは」

少女B「よろしくねー」

少女C「変わったお耳ー」

修道女「そんなことを言ってはいけません。神の前に境遇の違いや耳の形など些細なことでしかありませんよ」

少女C「でも神様はあんなお耳じゃないよ?」

修道女「神様はあなたのように赤い髪の毛ではありませんよ?」

少女C「でも別に変じゃないもん!」

修道女「ハーフエルフさんも同じです。些細なことを騒ぎ立てるのは悲しい人間のすることですよ」

少女C「……」

ハーフエルフ「…あそぼ?」

少女C「…うん」

少女B「何で少女Cちゃんに声かけるのー?」

少女A「少女Bちゃんはハーフエルフちゃんより年上だからね。私はもっと上だし」

少女B「ううー」

修道女「その前にまずはお祈りです。そのあとは奉仕の時間ですよ」

~~~~~

少女C「やっとお仕事終わった」

少女B「お仕事じゃなくて奉仕だよー」

少女A「強制労働とも言うけどね」

ハーフエルフ「パパとママのお手伝いの方が楽しかったな…」

少女A「…奉仕も慣れれば楽しくなるよきっと!」

ハーフエルフ「うん…そういえばここは女の子ばかりだね」

少女B「そうだねー」

少女A「ハーフエルフちゃんは何でここに来たの?」

ハーフエルフ「パパとママが…突然いなくなった」

少女A「そっか、変なこと聞いてごめんね」

少女A「私は『炭鉱で働けない女の子は養えない』って捨てられたんだって」

少女A「この村は炭鉱しかないから、そんな理由で捨てられる女の子が多いみたい。だからここも女の子ばかりなのかな」

ハーフエルフ「そうなんだ」

少女A「分からないことがあったら気にせず聞いてね」

ハーフエルフ「うん!」

少女B「少女Aお姉ちゃんは何でも知ってるよー」

----------

???「おはようございます!今日は一日こちらでお世話になります!」

修道女「伺っています。皆さんと同じ日課を過ごしてくださいね」

ハーフエルフ「ねえねえ」クイクイ

少女A「ん、何?ハーフエルフちゃん」

ハーフエルフ「少女Aお姉ちゃん、あの人だれ?」

少女A「ああ、あれは少年と言って、村の傭兵さんの子だね」

ハーフエルフ「お父さんがいるなら孤児院に来なくていいのに」

少女B「村の傭兵さんは忙しいから、たまにここに少年を預けるんだよー」

少女C「お母さんはいないみたいだしね」

ハーフエルフ「ふーん」

少年「あ、初めまして!えっと…」

少女A「ああ、この子は初めてだったね。この子はハーフエルフっていうの」

少年「ハーフエルフか、よろしく」

ハーフエルフ「よろしくね!」

少年「最近ここに来たの?」

ハーフエルフ「うん、ここに来て1か月も経ってないよ」

ハーフエルフ「少年はよくここに来るの?」

少年「たまにだけど来るよ!いつも夕方には帰るけど」

少女B「ハーフエルフちゃんがちゃんと挨拶してるー…」

少女A「ふふ、あの二人歳が近そうだしね」

----------

???「あんたたち何なのこの奉仕は!神に仕える気があるの?」

ハーフエルフ「……」クイクイ

少女A「ん、何?っていうか無言!?」

ハーフエルフ「あの偉そうな子怖い…」ブルブル

少女A「ああ、あれは隣りにある教会の神父さんの娘ね」

少女A「隣りの教会がこの孤児院を運営しているから、たまに暇つぶしに来るよ」

少女B「嫌な奴だけどねー」

少女C「でも、あまり来ないから怖がらなくて大丈夫」

神父娘「ちょっとあんた!」

ハーフエルフ「…あたし?」

神父娘「あんたに決まってるでしょ!新入りのくせに私に挨拶に来ないとかどういうこと?」

ハーフエルフ「…ごめんなさい。ハーフエルフです。よろしくお願いします」

神父娘「ちょっと!私に話しかけないで!そんな魔物みたいな耳して!」

ハーフエルフ「えっ?でも…?」

神父娘「何よ!魔物のくせしてこっち見ないでよ!」

ハーフエルフ「えっ?えっ?」

修道女「神父娘様、神の前では皆平等ですよ」

神父娘「何言ってるの!魔物は神の敵でしょ!」

修道女「ハーフエルフさんは毎日神へのお祈りを欠かしていませんよ」

神父娘「ふん!面白くないところね!私は帰るわ!あんたたちちゃんと奉仕しなさいよ!」スタスタ

ハーフエルフ「…教会が…パパとママを…」

少女C「ハーフエルフちゃん、気にしちゃ駄目」

少女B「いつもあんな感じだよー」

少女A「あの人の言う事をいちいち胸に刻んでは駄目よ。聞き流すの」

----------

神父娘「ちょっと!そこの魔物!」

神父娘「何無視してんの!あんたのことに決まってるでしょ!」

修道女「神父娘様、ここには魔物なんていませんよ」

神父娘「あんたに話していないでしょ!黙ってて!」

神父娘「そこの耳女!あんたよ!」

ハーフエルフ「…私はハーフエルフ。魔物じゃない」

神父娘「よくそんなことが言えるわね!あんたのパパとママは異端で騎士団に追われているんじゃない」

ハーフエルフ「そんなことないもん!」

神父娘「あるわよ!お父様に聞いたんだから間違いないわ!この魔物!」

ハーフエルフ「パパとママは悪くない!悪いのは勝手に疑ってる教会だもん!」

神父娘「教会を悪者にするとかさすがは魔物ね!火炙りにしてやるわ!」

修道女「いい加減にしなさい」

修道女「神父娘様、これ以上神に仕える身にあるまじき行いをするのなら、今後孤児院への立ち入りをお断りしますよ」

神父娘「……今日は帰るわ」チッ

----------

修道女「15歳前後の子への縁談、10歳前後の子への養子縁組希望、7歳前後の子への養子縁組希望…」

神父「求人がちょうど孤児院の子たちと合致しているだろう」

修道女「はい…しかし、これまで親をなくした子が増える一方だったというのに、一体どうしたというのでしょう」

神父「全ては神の思し召しであるぞ」

修道女「それにしても急にこんな…」

神父「この村は急速に鉱山の開発が進んでいるおかげで、少しずつ豊かな者が増えつつあるのだ」

修道女「鉱山ですか…」

神父「こんな少人数の村で孤児院を運営できるのも、鉱山の利益あってこそなのだ」

神父「勿論、神を信じる敬虔な人間が多いからこその恵みではあるがな」

修道女「しかし、この村の民は鉱山のおかげで昼も夜もなく働いているようです」

神父「豊かになる為には、苦を乗り越えねばならぬのは当然のこと」

神父「村が富み、領主様が富めば、我々はさらに恩恵に与れるのだ」

修道女「まあ…確かに、孤児院の子を引き取りたいとおっしゃる方が増えるのは喜ばしいことですから」

神父「さて、その求人のことなのだが…先方の者たちは皆、敬虔な信者でな」

修道女「ありがたきことです」

神父「魔物との関わりを持たないことを引き取り条件としている」

修道女「神父様?」

神父「いや、孤児院に魔物がいることは承知している」

修道女「神父様」

神父「魔物とはいえ子供、私とて孤児院の魔物を追い出せとh」

修道女「神父様…!」

神父「私の話を遮って何事だ!」

修道女「神は、信じるもの全てに平等に愛の手を差し伸べます」

修道女「孤児院の子たちは、皆熱心にお祈りを捧げています。孤児院にいるのは神を信じる子たちだけです。魔物なんて一人もいません。何の問題もないのです」

神父「黙れ!異形の者など神に刃向かう不穏分子でしかない!」

修道女「神を信じるものを差別することなど聖職者のすることではありません」

神父「差別ではない!奴の両親は異端だぞ!」

修道女「毎週ミサに来ていた者たちを異端と考える方がどうかしているのです」

神父「修道女は聖職者に向いていないようだな」

修道女「はっきり申し上げますが、向いていないのは神父様ですよ」

神父「ここにある教会と修道院、孤児院の全責任は私にある」

神父「『聖職者に向いていない』と私が宣言する重みをよく考えるんだな」

修道女「どう考えたとしても、私は神父様の考えには従えません」

神父「…まあ落ち着くのだ、修道女よ」

修道女「興奮しているのは専ら神父様の方です」

神父「よいか、『魔物との関わりを持たぬものを引き取りたい』と言っているのは私ではない。先方なのだ」

修道女「そのような誤った認識を持つ者に正しい道を示すのが、神父様の役割ではありませんか」

神父「仮にそうであったとしても、今はそんなことを優先している時か?」

神父「3人の孤児が幸せになろうという機会を、我々が潰してはならないのだ」

修道女「……」

神父「わかってくれるな?」

修道女「到底納得はできませんが…仕方ありませんね」

神父「そうか。では、今後彼女たち3人は、お祈りや奉仕を除き、ハーフエルフと会話することや遊ぶことを一切禁ずる」

修道女「はい…」

(隣の部屋)

神父娘(お父様がクソ修道女をうまく説得できるか心配だったけど…)

神父娘(どうやらうまくいったようね)ニヤリ

----------

少女C「やっとお仕事が終わった」

少女B「きょうせいろうどうだよー」

少女A「いやいや奉仕だからね?」

ハーフエルフ「ねえねえ、少女Cちゃんあそぼー」

少女C「うn…っと、ごめん、ちょっと、その…」タッタッタッ

ハーフエルフ「あれ?どこか行っちゃった」

ハーフエルフ「どうしたんだろ?ね、少女Bお姉ちゃん」

少女B「うーん、そうだねー…」タッタッタッ

ハーフエルフ「少女Bお姉ちゃんも!?変なの」チラッ

少女A「さて、ああ忙しい忙しい」タッタッタッ

ハーフエルフ「???」

修道女「……」

----------

修道女「さて、今日の朝のお祈りは以上です。これから奉仕です。皆さん、掃除用具入れから自分の掃除用具を持って来て聖堂を掃除してくださいね」

「「「「はーい」」」」

少女A「モップモップ…っと」

少女B「ブラシあったー」

少女C「バケツ持ってかなきゃ」

ハーフエルフ(あれ、ここにあったはずの雑巾が…?)

ハーフエルフ「ねえみんな、雑巾知らない?」

少女A・B・C「「「………」」」

修道女「ハーフエルフさん、雑巾はどうしましたか?」

ハーフエルフ「…なくしたみたいです」

修道女「いえ、なくすようなものではありませんよね?皆さんは知りませんか?」

少女A・B・C「「「………」」」

修道女「私は雑巾の在処を知っているのかと聞いているのですよ?」

少女A・B・C「「「………」」」

修道女「なぜ黙るのですか?知らないなら『神に誓って知らない』と言えばいいのですよ?」

少女A「い、いえ…」

少女B「それはー」

少女C「バケツ重い…」

修道女「…解りました。皆さんは掃除を始めてください」

修道女「ハーフエルフさん、私の予備の雑巾を使ってください」

ハーフエルフ「…はい」

修道女「落ち込むことはありませんよ。奉仕する心が大切なのです」

---(修道院)---

修道女「一体どういうつもりですか、神父様…」

神父「一体どうしたというのだ」

修道女「私は3人の孤児達が幸せになるために、一時的にハーフエルフさんと口を利かないことを承諾しただけですよ」

神父「そうであったな」

修道女「ではなぜ、3人の孤児たちが泥棒のような真似に手を染めているのですか…!」

神父「泥棒とは…何のことか解らぬが…」

修道女「あの3人がハーフエルフさんの掃除用具を捨てたか隠したかしたんですよ」

神父「はて、なぜそのようなことを…?」

修道女「それを訊ねているのは私です!」

神父「私が知るわけがないだろう!あの3人が自発的にやったのではないか?」

修道女「何のためにですか?今ここで問題を起こすことが得策ではないことくらい、あの子たちは解っているはずですよ?」

神父「そんなことを言っても…私だってそんな無意味なことをさせるわけがないだろう!」

修道女「本当に神父様の指図ではないのですか?」

神父「当たり前だ!あまりに無意味すぎるわ!」

修道女「…それは大変失礼しました」

修道女「ところで、彼女たちを引き取りたいという方々はまだお越しにならないのでしょうか?」

神父「ん!?…ああ、そうであったな。さて、どうなっているのであろうな…。はは…」

修道女「神父様?」

(隣の部屋)

神父娘(私の差し金なんだからお父様に聞いても無駄よ、修道女)

神父娘(それにしても修道女も馬鹿ね。3人の引き取り手なんてただのでっち上げなのに)ニヤリ

----------

修道女「おはようございます。まずはお祈りですが…」

修道女「ハーフエルフさんは何で寝間着なんですか?」

ハーフエルフ「すいません…」

修道女「私は理由を聞いているのですよ」

ハーフエルフ「…服を無くしました」

修道女「ハーフエルフさんは、なぜ最近無くすはずのないものを無くすんでしょうね?」

ハーフエルフ「……」フルフル

修道女「私はハーフエルフさんに言っている訳ではありませんよ」

修道女「ここに居る資格のない犯罪者は今すぐ名乗り出ろ!!と言っているんです!!」バンッ

少女A・B・C「「「!!」」」ビクッ

修道女「今日はお祈りと奉仕を中止します。懺悔したい人はいつでも教会の方に行ってください」

少年「おはようございます!今日は一日こちらでお世話になります!」

修道女「あっ、そうでした。今日はハーフエルフさんと一緒にいてあげてくださいね」

少年「はい!」

少年「おはよう!…って、その服何?」

ハーフエルフ「…最近色々無くしちゃうの」フルフル

少年「えっ!?えっ!?何で?」

ハーフエルフ「…もうやだ」グスン

少年「もしかして盗られちゃってるんじゃないの?」

ハーフエルフ「…もうわかんないよ」

少年「判った、ちょっと話してくる!」ダッ

ハーフエルフ「…待って!」

少年「待てるわけないだろう!」

ハーフエルフ「色々な人を巻き込めない…」

少年「巻き込むとか巻き込まないとかの問題じゃないよ!」

少年「私だってこの孤児院の人間なんだ。ほっとけるわけないだろ」ダッ

ハーフエルフ「そうじゃないの、少年。待って!」

少年「おいお前たち!」

少女A・B・C「「「………」」」

少年「返事しろよ!」

少女A「…何?」

少年「何でハーフエルフに意地悪するんだ!」

少女A「何のこと?」

少年「何のことってことないだろ!ハーフエルフのあの服は何だ!」

少女A「何だと言われても、知らないものは知らない」

少年「ふざけんな!」チャキ

少女A「孤児院で木刀とか振り回さないでくれる?」

少年「お前たちこそ孤児院で泥棒の真似とかするなよ!」

少女A「さすが傭兵は野蛮ね。勝手に決めつけて武力行使するんだ」

少年「じゃあ、普段4人しかいない孤児院でハーフエルフの持ち物だけなくなる理由は何だよ!」

少女A「知らないって言ってるでしょ」

少年「お前じゃ話にならない。お前は何か知っているだろ、少女B!」

少女B「い、いやー知らないー…」

少年「じゃあ、少女Cちゃんは嘘とかつかないよね?」

少女C「怖いよー」エーンエーン

少年「いい加減にしろよ!」ブンッ

少女A・B・C「「「きゃあ!」」」

ハーフエルフ「やめて!」ガシッ

少年「ちょっ…腕を離せ、ハーフエルフ!」

ハーフエルフ「だめ!」

少年「何でだよ!どう考えても悪いのはこいつらだろ!」

ハーフエルフ「いいの!」

少年「良くない!俺が成敗してやる!」

ハーフエルフ「少年は夕方になったら帰っちゃうじゃない!」

少年「それまでに片を付ける!」

ハーフエルフ「あたしはずっとここに居るんだよ?」

少年「だからそれまでに…」

ハーフエルフ「少年が来ない明日も明後日もあたしはここにいるんだよ?」

少年「うっ…」

ハーフエルフ「だから…いいの」

少年「そんな…じゃあどうすれば…?」

---(修道院)---

修道女「神父様」

神父「今度は一体何だというのだ」

修道女「3人の孤児を引き取りたいという方々の件ですが…」

神父「お、おう…それが何か?」

修道女「お断りして頂きたいのです」

神父「へ?…あ、いや、何を言っておるのだ。折角の申し出であるぞ」

修道女「折角の申し出だからこそお断りしていただきたいのです」

神父「何だと?話が全然見えん。解るように話せ」

修道女「あの孤児3人は、人様にお預けするに値しない問題児です。今しばらくの教育が必要です」

神父「……」

修道女「神父様」

神父「値しないのは修道女の方ではないのか?」

修道女「どういう意味でしょうか?」

神父「資質に問題があって、この修道院にいるに値しないのは修道女の方だろうと言っているのだ!」

修道女「問題があるというのなら具体的におっしゃっていただけませんか?」

神父「私のやることの邪魔ばかりして、問題がないというつもりか!」

修道女「ですから具体的に」

神父「黙れ!」

神父「修道女は国元の修道院にでも行くがいい。2週間だけ猶予を与える。それまでに準備を済ませておけ」

修道女「お待ちください!」

神父「だから2週間だけ待つと言っているだろう!いいな!」

-----(数日後)-----

修道女「さあ皆さん、奉仕の時間はお終いです。これからは自由時間です」

少女C「やったー!」

少女B「これで遊べるねー」

修道女「ところでハーフエルフさん、ちょっと日用品の買い出しをお願いしたいんですけど、よろしいですか?」

ハーフエルフ「…はい」

修道女「では、必要なものはこのメモに書いておきましたので、夕方までには戻ってきてくださいね」

ハーフエルフ「…わかりました。行ってきます」バタン

修道女「ところで皆さん、私はこれから修道院の会合がありますのでこれで失礼します。いい子にしていてくださいね」

少女A「……」

修道女「では」バタン

少女A「偶然かな。ちょっと怪しいね」

修道女(さて、時間がないわ。私も急がなくっちゃ!)

-----(1週間後)-----

修道女「本日の奉仕の時間はお終いです。これから自由時間とします」

少女B「終わったねー」

少女C「今日は何しよう」

少女A「私は読みかけの本でも読もうかな」

修道女「ハーフエルフさん、ちょっとお話がありますので、隣りの事務室まで来てください」

少女A「……!」

ハーフエルフ「…何でしょうか?」

修道女「それを隣りの事務室で話すのです」

ハーフエルフ「判りました」

修道女「では、一緒に行きましょう」ガチャ バタン

少女A「…やっぱり怪しいよ」

少女C「何が?」

少女B「修道女さんとハーフエルフちゃんが時々いなくなることー?」

少女A「何かおかしな動きをしているなら、神父娘に報告しとかないと」

少女B「えー、言われてもいないことをする必要ないよー」

少女A「ここで神父娘に恩を売っておけば、それだけ早く私達への縁談や養子の話がまとまるんだよ」

少女B「だからそのために言われたことだけはやってるもんー」

少女A「言われた以上のことをやらないと認められないのが世の中なんだよ」

少女B「おかしいよー!」

少女A「全然おかしくないの。私達のためにすべきことは一つしかないんだから」

少女B「神父娘とか大っ嫌いー。神父娘に協力する少女Aお姉ちゃんも嫌いー!」

少女A「今は嫌ってもらっても構わないよ。でも、幸せになるチャンスを無駄にすることは、他の不幸せな人にも失礼なことなんだから」

少女B「うーんー…?」

少女C「よくわかんないよ…」

少女A「とにかく、少女Bちゃんは事務室の前に行って、二人がどんな話をしているか聞いてきてくれる?」

少女B「うぅー…わかった…」トトト

~~~~~

修道女「孤児院の皆さんには明日話しますが、その前にハーフエルフさんにだけは伝えておきたいことがあります」

ハーフエルフ「…なんでしょう」

修道女「私は、明日を最後にこの孤児院、そして修道院を去らなければなりません」

ハーフエルフ「えっ…!」

修道女「後任は他の修道女になるのでしょうが、私は何も聞かされていません」

修道女「ほんとに突然なんですよ。神父様に正論を言ったら、神罰が下ってしまったみたいで」フフッ

ハーフエルフ「そんな…嫌だ!」

修道女「勿論、あなたをこのままにはしません」

ハーフエルフ「だってあたし、行くところがないんだよ!」

修道女「ここ数日間、毎日修道院を抜け出して色々準備してきました」

ハーフエルフ「パパとママがいなくなって、修道女さんもいなくなったら、行くところなんてない!」

修道女「その、パパとママと住んでいた家に戻るのです」

ハーフエルフ「あの家には誰もいないよ…」

修道女「…今から、ちょっとあなたの家に行ってみましょう」

ハーフエルフ「えっ、今から?」

修道女「ええ、貴方が生きていくために大切なことなんですよ」

ハーフエルフ「……」

修道女「ささ、特に準備は必要ありませんから、ちょっと行ってみましょう」

少女B(た、大変だー…)

~~~~~

修道女「さあ、着きましたよ」

ハーフエルフ「あたしの家だから知ってるよ…」

修道女「まあ、入りましょう」

ハーフエルフ「……」ガチャ

シーン

ハーフエルフ「やっぱり誰もいないし何も変わってないよ」

修道女「ええ、お父様やお母様が戻ってくるというようなサプライズはありません」

ハーフエルフ「じゃあ何で…」

修道女「でも、あなたの持ち物を盗る人もいません」

ハーフエルフ「…でも、誰もいなんじゃ…」

修道女「孤児院に居ても誰も話してくれなかったでしょう?」

ハーフエルフ「…でも、これじゃ完全に独りぼっちだよ!」

修道女「そんなことはありません」

修道女「私は毎日修道院を抜け出してしていたと言ったでしょう?」

ハーフエルフ「はい」

修道女「その時にしていたことが2つあります」

ハーフエルフ「2つ?」

修道女「1つは、少年とその父親の村の傭兵さんと話をしていました」

修道女「少年は今後、村の傭兵さんが多忙な時は孤児院ではなくここに来る事にします。」

ハーフエルフ「…!」

修道女「そして、食費その他最低限の援助は村の傭兵さんが行います」

修道女「とはいえ、村の傭兵さんもあなたを完全に扶養できるわけではありません」

ハーフエルフ「???」

修道女「そこで2つ目です。ハーフエルフさん、あなた薬を調合したことはありますか?」

ハーフエルフ「パパのお手伝いで薬草を取りに行ったり、粉にしたりするくらいは…」

修道女「それなら充分です。これを見てください」ドサッ

ハーフエルフ「何この分厚いファイルの束…」

修道女「お父様とお母様が遺した薬の調合レシピです」

ハーフエルフ「こんなの読んだこともないよ…」

修道女「私なりに、手に入りやすい薬草でできるものや、調合が簡単そうなものから手始めに、段階別にファイルし直しました」

ハーフエルフ「あっ、これは作ったことある…」パラ

修道女「さらに、効能別にファイルの色を分けてあります」

ハーフエルフ「パパの得意だった回復系のが多い…」パラ

修道女「これを元に、簡単なものから薬を作り、売っていくのです」

ハーフエルフ「えっ、でも、そんな…」

修道女「難しいことだとは判っています。無茶をさせようとしているのも判っています。でも、きっと今より良くなる方法だと思いますよ」

ハーフエルフ「うーん」

修道女「勿論、このまま孤児院に残るのもハーフエルフさんの自由です」

ハーフエルフ「……」

修道女「結論は明日で構いませんよ。もし、ここに来たいと思ったら、明日私と一緒に行きましょう」

~~~~~

少女B「大変だよー!」

少女A「どうだったの?」

少女B「修道女さん、明日で辞めちゃうんだってー!」

少女C「えっ、そんな急に…」

少女A「待って、それは2人は前から知っていた感じだったの?」

少女B「ハーフエルフちゃんは初めて聞いたみたいだったよー。修道女さんはその話をするために呼んだみたいだしー。」

少女A「そう、後任は誰になるのかしらね」

少女B「修道女さんも聞かされていないってー」

少女A「これまでの生活態度とかがきちんと後任の人に引き継がれるといいんだけど」

少女B「修道女さんにとっても突然な話とか言っていたよー」

少女A「くっ、幸せになるためにいい子を演じて来たのに、努力が無駄になったらどうするのよ…!」

少女B「……」

少女C「新しい人がくるのかぁ」

少女A「そうそう、ハーフエルフちゃんのことは何か言ってた?」

少女B「えっ、とー…」

少女B「…ううん、修道女さんが辞める話だけだったよー」

少女A「それなら神父娘に報告することは特にないか」

-----(翌日)-----

修道女「本日の奉仕はここまでです」

少女C「やったぁ!」

修道女「この後は自由時間ですが、その前に大切なお話があります」

少女B「えぇー!」

少女A「……!」

修道女「急なお知らせですいませんが、私はこの時間をもってこの孤児院、そして修道院を去らなければなりません。ここで皆さんとはお別れです」

修道女「…ふふ、皆さん驚かないですね。なんでかな?」

少女A・B・C「「「……」」」

修道女「明日からは新任の修道女さんが来るでしょうが、今度はいい子にしてくださいね。新しい修道女さんを困らせてはいけませんよ。」

修道女「では、これから自由時間です。さようなら」

~~~~~

ハーフエルフ(修道女さん行っちゃった!)

ハーフエルフ(荷物はまとめたし、ちょうどみんないなくなっているし、早くあたしも追いかけなきゃ!)

ハーフエルフ(でも…こんな荷物を持って出て行こうとしたら誰かに見つかっちゃう。どうしよう…)キョロキョロ

ハーフエルフ(正門の辺りはいつも教会の人や修道院の人がいるし、確認してから戻ってきたらみんなに怪しまれるし…)

ハーフエルフ(裏口からこっそり抜け出そう)ソロー

???「何してるのー?」

ハーフエルフ「!!」ビクッ

ハーフエルフ「少女Bお姉ちゃん…」

少女B「随分大きな荷物だねー」

ハーフエルフ「こ、これは…今から買い出しに行くの!」

少女B「修道女さんは戻ってこないのにー?」

ハーフエルフ「あ、あの…」

少女B「これから買い出しに行くのに、何で鞄の荷物がいっぱいなのー?」

ハーフエルフ(あぁ…うぅ…)

少女B「あたし知ってるんだよー」

ハーフエルフ「!!!」

少女B「ハーフエルフちゃん、逃げるんだよねー?」

ハーフエルフ「ぁ…ぃゃ…ぁぅ…」

少女B「ごめんねー、ハーフエルフちゃん」

ハーフエルフ「ぃ…ゃ…」

少女B「私、少女Aお姉ちゃんは正しい事しか言わない人だと思ってた」

ハーフエルフ「…?」

少女B「少女Aお姉ちゃんは『幸せになるチャンスを無駄にすることは、他の不幸せな人にも失礼』って言ってたけど」

少女B「でも、関係ないハーフエルフちゃんを不幸にしていい理由にはならないよね」

ハーフエルフ「???」キョトン

少女B「でも、私は逃げていくところもないんだ。だからここで生きていくしかない」

ハーフエルフ「……」

少女B「少女Aお姉ちゃんと少女Cちゃんは裏庭で遊んでる。裏口に行くと見つかっちゃうよ」

ハーフエルフ「!!!」

少女B「逆に、正門の方は今誰もいない。行くなら正門だよ!」

ハーフエルフ「えっ…?」

少女B「ほんとにごめんねー、でも、私にはここまでしかできない…」

ハーフエルフ「!!…ううん、ありがと!」タタッ

~~~~~

ハーフエルフ(少女Bお姉ちゃんのおかげで孤児院は抜け出せたけど、やっぱり誰もいない家に行くしかないのかな…)トテトテ

ハーフエルフ(誰もいない家で、あたしに何ができるんだろう…)

ハーフエルフ(あっ、あれは…)

ハーフエルフ「村人娘ちゃん!」

村人娘「あっ!ハーフエルフちゃん!ひさしぶ…っと、一体何?」

ハーフエルフ「こんにちは!」

村人娘「だから何?用がないなら話しかけないで」

ハーフエルフ「えっ?」

村人娘「…じゃあね」

ハーフエルフ「えっ、ちょt」

村人「ハーフエルフさん」

ハーフエルフ「えっ?」

村人「異端の娘と話していると、この娘も変な目で見られるから、もう話しかけないで頂戴ね」スタスタ

ハーフエルフ「えっ、だって…」

ハーフエルフ「そんな…」

ハーフエルフ(異端異端って何なの!)

ハーフエルフ(…あたしはやっぱり独りぼっちのところに行くしかないんだ)

~~~~~

ハーフエルフ「…ただいま」ガチャ

修道女「来ましたか。待っていましたよ」

ハーフエルフ「……に?」

修道女「どうしましたか?」

ハーフエルフ「異端って何?」

修道女「いま、その言葉は忘れましょう」

ハーフエルフ「だって、みんな異端異端って…あたしは悪くない!パパは悪くない!ママは悪くない!」ウワーン

~~~~~

修道女「そんなことがあったのですね。あなたもパパもママも悪くありませんよ」ヨシヨシ

ハーフエルフ「でも…」

修道女「あなたが異端の意味を知る必要はありません。あなたたちを異端呼ばわりする人は、異端という言葉の本当の意味を知らない人たちなのですから」

修道女「もちろんあなたたちは異端でもありません」

ハーフエルフ「でも…」

修道女「いいですか、ハーフエルフさん」

ハーフエルフ「はい…?」

修道女「残念ながら、誤った知識を得た村人の一部は、これからもあなたに罵詈雑言を浴びせるでしょう」

修道女「あなたはそれに勝たなければならないのです」

ハーフエルフ「ひどいよ…」

修道女「確かに酷い話です。でも、ただ独りで耐えるのではありません。あなたには素晴らしい味方が一緒にいるのです」

ハーフエルフ「独りぼっちじゃない」

修道女「いいえ、あなたのご両親が遺してくれたこのレシピがあなたの味方です。これを元に、あなたの腕と頭で勝ち抜くのです」

ハーフエルフ「あたしはそんなすごい人じゃないよ…」

修道女「ダメな人なら、私は孤児院から脱走なんてさせません」

ハーフエルフ「でも…」

修道女「大丈夫です。ここに、心ばかりの御餞別を用意しました」ドサッ

ハーフエルフ「そんな!こんなに沢山もらえない!」

修道女「まあ、半分以上はあなたのご両親がこの家に遺していたお金ですが」

ハーフエルフ「おい」

修道女「これだけあれば半年以上は暮らせるはずです。買い物に行くのが辛ければ、少年に頼んでもいいではないですか」

ハーフエルフ「でも、やっぱりこんなにもらえません!」

修道女「私は母国に帰りますから、この国のお金はもういらないのです」

修道女「それと、これは本当に辛くなったときに開けてください」

ハーフエルフ「手紙…?」

修道女「ええ、いきなり開けてはいけませんよ」

ハーフエルフ「えっ、何?呪いの書とか?」

修道女「神に仕える女に何てこと言うのですか」フッ

修道女「では、私はそろそろ行きます。無事、生き抜いてくださいね」

ハーフエルフ「あっ、ほんとに色々ありがとうございました」フカブカ

修道女「いえいえ、気にすることはありませんよ」

ハーフエルフ「こんな森の中まで寄り道してくれて…」

修道女「寄り道ではありませんよ。私の母国はこの先の山の向こう側ですから」ガチャ

ハーフエルフ(えっ、そこはもしかして…!)

修道女「ではでは、お元気でね」バタン

ハーフエルフ「あっ、待っ…行っちゃった」

本日は孤児院編までの投下とさせていただきます。

修道女「まあ、半分以上はあなたのご両親がこの家に遺していたお金ですが」

ハーフエルフ「おい」


相変わらずのツッコミ

-----(1年後)-----

ハーフエルフ(やっぱり、この花でいいはずなんだけど…)

少年「おーい」

ハーフエルフ「…あ、少年!どうしてここが分かったの?」

少年「家に行ってもいなかったから、薬草を取りに行ったのかと思って森の奥に来てみたんだ」

ハーフエルフ「ここは普段誰も来ないところなのに、よく迷子にならなかったね」

少年「傭兵は戦場で道に迷うわけにはいかないからな」

ハーフエルフ「戦場に行ったことなんてないくせに」

少年「まあ、たとえ話だよ」

少年「それにしてもきれいな所だね、森の中にこんなところがあったなんて」

ハーフエルフ「泉があってきれいでしょ。薬草がいっぱい生えてるところなんだけど、何となく心が落ち着くんだ」

ハーフエルフ「ところで今日はどうしたの?」

少年「そうそう、頼まれてた食糧の買い出しに行ってきたんだ。食糧はハーフエルフの家に置いてきたよ」

ハーフエルフ「ありがとう。この耳だと村に行きにくいから…」

少年「この村の『異端排斥』っていうのは今もひどくなっているって父上が言っていたよ」

ハーフエルフ「やっぱり…」

少年「孤児院の方も、新しい修道女さんが神父娘みたいにうるさい人でみんな大変みたい」

ハーフエルフ「そういえば、少女Bお姉ちゃんたちはどうしてるのかな…」

少年「今もみんな孤児院にいるよ。新しい修道女さんにいつも怒られてるけど」

ハーフエルフ「みんなも大変なのかぁ」

少年「そうは言ってもお祈りと奉仕の時間だけだから、ハーフエルフが心配することないよ」

ハーフエルフ「そうかなぁ。まあ、あたしは少年に迷惑かけてばかりだから、まず自分のことを何とかしないとね」

少年「そんなことないよ。買い物くらいいつでも任せてよ」

ハーフエルフ「うん、いつもありがとう」

少年「ところで、お金とかは大丈夫なの?」

ハーフエルフ「お父さんやお母さんや修道女さんが遺してくれたお金はまだあるよ」

少年「なら安心だね」

ハーフエルフ「ただ、いつかはなくなっちゃうお金だから、お薬作りも始めようと思って材料を取りに来たんだけど…」

少年「かごに入ってるのが薬の材料?花かぁ」

ハーフエルフ「今作ろうとしている薬は簡単な頭痛薬なんだけど、この青い花が原料になるはずなんだよね…」

少年「あまりうまくいかないの?」

ハーフエルフ「何回やっても、パパが作っていた薬みたいにいかないの」

少年「効き目が全然ないとか?」

ハーフエルフ「なくはないんだけど、ものすごく弱いの」

少年「弱いってことは、完全に間違っている訳じゃなさそうだね」

ハーフエルフ「そうは思うんだけど、何度試してもうまくいかなくて…」ハァ

少年「このかごに入っている花、何だか元気なさそうだね」

ハーフエルフ「えっ?」

少年「生えている青い花に比べて、かごの中の花は小さくて色も薄くない?」

ハーフエルフ「言われてみれば…」

少年「もしかしたら、大きくて色のきれいな花なら強く効くかもしれないよ」

ハーフエルフ「そっかぁ、試してみる!ありがと少年!」

少年「いや、薬のこととかよくわからないけどさ」

ハーフエルフ「そんなことないよ。全然気づかなかったもん!」

少年「ハーフエルフに花をあげるとしたら、大きくてきれいなのを選ぶよなーって思っただけだし…///」

ハーフエルフ「えっ!?」

-----(数年後)-----

村人B「この前頼んだ頭痛薬はできてるかい?」

ハーフエルフ「はい、ご用意しております。少々お待ちください」

村人B「こんなところに来たことを他の人に知られたら大変だから、早くしておくれよ」

ハーフエルフ「すいませんお待たせして、こちらになります」ゴトッ

村人B「ああ、はいはい。物は確かだからお代はきちんと払わせてもらうよ」チャリン

ハーフエルフ「ありがとうございました!」

村人B「じゃ」ソソクサ

ハーフエルフ「…ふぅ」

少年「こんにちはー!」ガチャ

ハーフエルフ「こんにちは」

少年「今日は忙しそうだね」

ハーフエルフ「薬はだいぶまともなのが作れるようになったし、最近ようやくお客さんも来てくれるようになったのよ」

少年「すごいじゃないか。もう独りで生活できそうだな」

ハーフエルフ「お金の心配はあまりしなくてもよくなったけど、何だか怪しいヤクの売人みたいな扱いよ」

少年「ハハハッ」

ハーフエルフ「笑うけど、今度教会に目をつけられたら確実に火炙りね」フッ

ハーフエルフ「それに、まだ村に行くのも難しいしね…」ハァ

少年「ああ、その問題はまた厄介なことになりそうなんだ」

ハーフエルフ「何か起きてるの?」

少年「ああ、ハーフエルフは『魔王』って知ってるか?」

ハーフエルフ「……」ジト

少年「違う違う!ハーフエルフと魔物の繋がりを疑っているのではない!」

少年「私も最近耳にした話だから、ハーフエルフが魔王の動きについて何か聞いたことはあるかなと思って」

ハーフエルフ「私達は人間ではないけど、魔王とは無関係の種族よ」

少年「いや、ほかの村の人とかからさ」

ハーフエルフ「村の人たちが私と雑談すると思う?」

少年「いや、ごめん」

少年「実は、最近魔王がこの王国への攻勢をはじめているらしいんだ」

ハーフエルフ「魔王は、私が小さいころから人間界に侵攻していたと聞いたことがあるけど…」

少年「本格的に魔王の攻撃に晒されてきたのは南方の島国で、この王国は一部の魔物との小競り合いって感じだったんだ」

少年「ところが、最近は王国の港町に魔王軍の本体が攻めてきているらしい」

ハーフエルフ「嫌っ…!」

少年「同じ王国と言っても、港町とこの国境沿いの村は離れているから直接の脅威はないよ」

少年「ただ、教会や村長が『魔物は脅威だ』と煽りはじめているのが問題なんだ」

ハーフエルフ「何でそんなことを…」

少年「詳しいことは解らないけど、父上が言うには領主様の意向だとかなんとか…」

ハーフエルフ「いつになったら、昔みたいに普通に村に行けるのかな」

少年「そうなるまで全力でサポートするよ!買い出しにも行くからな!」

ハーフエルフ「ありがとう…って、そうだ、買ってきてほしいものがあるの」

少年「よし、今すぐ買ってくるよ!」

-----(数年後)-----

男性「えーっと、解熱剤はできますか…?」

ハーフエルフ「あ、はい。できますけど、どなたが熱を出されたんですか?」

男性「いや、息子がね…」

ハーフエルフ「息子さんはおいくつぐらいですか?」

男性「10歳ですよ」

ハーフエルフ「何か熱のほかに特徴的な症状はありませんか?」

男性「いや、特には…。しょっちゅう鉱山の暑いところや寒いところに行っているようだから、体調を崩したんでしょう」

男性「…しかし、随分細かく聞くんですね」

ハーフエルフ「一口に熱と言っても、年齢や状況によって下げ方が異なるんですよ」

ハーフエルフ「お子さんの体調不良による熱なら…えっと、調合しますので少々お待ちいただけますか」

男性「ああ、勿論ですよ」

少年「失礼する!」ガチャ

男性「えっと、確か君は村の傭兵さんの…」

少年「あっ!父がいつもお世話になっています!」

ハーフエルフ「あ、いらっしゃい少年。お客様のお薬を調合してるから、ちょっと待っててくれる?」

少年「ああ、では泉の前で待っている。では、これにて失礼します」バタン

ハーフエルフ「お待たせしました。こちらがお子さん用の解熱剤です」ゴトッ

男性「おお、助かります」

ハーフエルフ「1日3回、食後に飲ませてくださいね」

男性「わかりました。ところで、先ほどの少年は確かこの王国でも有数の剣の使い手ですが…」

ハーフエルフ「村の傭兵さんと少年には、ずっとお世話になっているんですよ」

男性「それはまた不思議なつながりですね」

ハーフエルフ「私はこんな姿ですから、助けてくださる方がいないとなかなか…」

男性「でも、ここは良い薬屋だと村じゅうの噂になっていますよ」

ハーフエルフ「そういう噂はありがたいですけど、薬を売れるようになったのはここ数年のことですし…この耳ですから、村に行くこともできません」

男性「それは…」

ハーフエルフ「さっ、早くお子さんにお薬を飲ませてあげてください」

男性「ああ、そうですね。では」

ハーフエルフ「お大事に」

ハーフエルフ「少年!」タッタッタッ

少年「ハーフエルフか、薬屋は繁盛しているようだな」

ハーフエルフ「おかげさまで、最近はお客さんも以前みたいにコソコソ来る感じじゃなくなったわ」

少年「そうであろうな。さっきのお客様は村長だしな」

ハーフエルフ「えっ、村長!? 村長ってもっと年寄りかと思ってた」

少年「しばらく鉱山関係でゴタゴタがあったが、数日前、この村は領主の支配から離れて自治都市となったのだ。その際に村長も変わったゆえな」

ハーフエルフ「え、じゃあ魔物の脅威を煽っていた人たちは…?」

少年「ああ、領主はいなくなり、村長も変わり、今までの神父も家族ごと村を追われた」

ハーフエルフ「ということは…」

少年「ああ、もうハーフエルフがコソコソ隠れるように生きる必要はなくなったんだ」

ハーフエルフ「ああ…ところで、孤児院はどうなったの?」

少年「孤児院は残っている。実は、今までの神父は領主との癒着を司教に知られて破門され、今は新しい神父の下で教会や修道院、孤児院は運営されている」

少年「それゆえ、ハーフエルフが孤児院に戻ろうと思えばいつでも戻れる状況だ」

ハーフエルフ「もう薬屋も軌道に乗ってるし、さすがに孤児院には戻らないわ」

ハーフエルフ「でも、少女Bお姉ちゃんたちは?」

少年「あの3人はもう孤児院にはいない。それぞれどこかに引き取られて行っていったゆえな」

ハーフエルフ「そっかぁ、なんか新しい時代が急に来た感じね」

少年「本当にそうなんだ。ただ…」

ハーフエルフ「ただ?」

少年「最近、魔王軍が沿岸諸侯領だけでなく王都まで攻勢をかけてきている」

少年「この村は王都からも港からも距離がある上、自治を確立しているから今のところ問題はないが…あまりいい状況ではない」

ハーフエルフ「魔王はこの世界をどうしたいのかしら?」

少年「それは判らぬ」

少年「…と、ネガティブな話題はこれくらいにして、今は新しい時代を素直に受け入れよう」

ハーフエルフ「そうね、ようやく普通の生活ができるのね」

少年「今まで大変だったな」

ハーフエルフ「普通の生活がどんなものか思い出すのも大変だわ。まずは村に買い物にいこうかしら」フフッ

少年「これからは買い物にも自由に行けるし、堂々と収入を得ることができる」

ハーフエルフ「何だか実感がないけど…すごいことになったのよね」

少年「…ああ、もう私が手伝えることもなくなるだろう…」

ハーフエルフ「…え!?」

少年「これからはハーフエルフ自身で世界を広げていくんだ」

ハーフエルフ「そうね、少年と一緒にね」

少年「えっ?」

ハーフエルフ「私は、これまで少年のしてくれたことも言ってくれたことも絶対忘れない。だから、これからは私が少年のために頑張るから、これからもずっとよろしくね」

少年「あ、ああ」

ハーフエルフ「えー、反応がなんか薄いんだけど。私結構頑張って言ったのに…」

少年「お、おう…///」

ハーフエルフ「あれ、なんか顔色がおかしいけど、解熱剤とか必要?」

少年「いや、馬鹿…っと、竜神祭の準備がある故失礼する!…///」ダダッ

ハーフエルフ(あ~、言っちゃった~)

ハーフエルフ(ふふ、少年ったら顔真っ赤…ふふふ)ピョンピョン

ハーフエルフ「はぁ~、う~ん///」ピョンピョンピョン

バサッ

ハーフエルフ「あっ、お守り代わりに肌身離さず持っていた、修道女さんからのお手紙が…」

ボチャッ

ハーフエルフ(泉に落ちちゃった!どうしよう…)

ハーフエルフ(でも、もう必要ないかも! 今日まで頑張ってこれたのは修道女さんのおかげ!本当にありがとう!)

-----(1年後)-----

村人「こんにちは~…」

ハーフエルフ「いらっしゃ…!」

村人「あら~、ハーフエルフさん立派になって!すごいわね」

ハーフエルフ「…一体どういうご用件でしょうか?」キッ

村人「いえね、貧血に効くお薬を…」

ハーフエルフ「異端の娘と話していると変な目で見られるでしょうから、こんな所にいらっしゃらない方がいいんじゃないですか?」

村人「そのことは本当にごめんなさい。立派なご両親の遺志を継いだ素敵な人に冷たいことを言ったことは後悔しているわ」

ハーフエルフ「謝っていただく必要はありませんし、懺悔するなら教会に行ってください」

村人「そんな…」

ハーフエルフ「お詫びしなければいけないのはこちらですし」

村人「えっ?」

ハーフエルフ「お薬はお作りできません」

村人「いや、そこを何とかして頂戴よ」

ハーフエルフ「お薬は、材料をただ調合すればできるというものではありません」

ハーフエルフ「誰かを助けたいという思いで、材料選びから加工・調合まで細心の注意を払うことで、いいお薬ができるのです。申し訳ありませんが、今の私はあなたに対してそんな思いになれません」

村人「私のことはいくら恨んでも構わないわ」

ハーフエルフ「では、お引き取りください」

村人「でも、貧血薬が必要なのは私じゃないのよ」

ハーフエルフ「えっ?」

村人「うちの娘が最近貧血気味なの」

ハーフエルフ「村人娘ちゃんが…」

村人「私はうちの娘を守りたい一心で、あなたとうちの娘の仲を裂こうとして、娘にあんなことを言わせたの。だからうちの娘には何にも非はないわ。それにうちの娘はずっと『ハーフエルフちゃんと遊びたい』って言っていたのよ」

ハーフエルフ「村人娘ちゃん…。分かりました。少しお待ちください」

村人「作ってくれるの?」

ハーフエルフ「やれるだけのことは、やってみます」

村人「ありがとう!あなたはやっぱり立派なご両親の娘ね!悪魔なんかじゃないわ」

ハーフエルフ「私はずっとそう言ってきたのに、誰も信じてくれませんでした」

村人「これからは私もハーフエルフちゃんの応援をさせてもらうわ」

ハーフエルフ「はあ、それはそれは」

少年「し、失礼する…///」ガチャ

ハーフエルフ「あ、少年!ごめん、今ちょっと取り込み中なの!」

少年「あ、ああ。では暫しここで待たせてもらう」

村人「でもハーフエルフちゃん、気を付けてね」

ハーフエルフ「安心してください、あなたへの警戒はずっと怠りませんから」

村人「いや、そうじゃなくてね。この国の情勢よ…」

ハーフエルフ「このところ至って平和じゃないですか」

村人「この村はねぇ、平和どころか繁栄しているわよ」

ハーフエルフ「では、何に気を付けるのでしょうか?」

村人「魔王よ」

ハーフエルフ「私には関係ない種族の話です!」

村人「それはもう充分に分かってるつもりよ。でも、この国の王都が魔王軍に制圧されかかってるらしいのよ」

ハーフエルフ「この村は、領主からも王都からも一定の距離を保った自治都市ですから問題ないと聞いていますけど」

村人「その王都が陥落したら、その次はこの村も危なくなるわよ。それに、どうしても魔族そのものに対するイメージは悪くなりやすいから」

ハーフエルフ「……」

村人「かつての私の対応を思い出して結構よ。勿論私はもう同じ過ちは冒さないけどね」

ハーフエルフ「…そう言われても、私には何もできません」

少年「ハーフエルフ…」

ハーフエルフ「あ、少年!もうちょっと掛かりそうなの!」

少年「いや、また今度にするよ」バタン

ハーフエルフ「ちょっ…少年!」

村人「あら私、何か邪魔しちゃったようね」

ハーフエルフ「いえ、そんなことはありませんけど…」

-----(1週間後)-----

ハーフエルフ「ごめん少年、待った?」タッタッタッ

少年「いや、先刻着いたばかりだ」

ハーフエルフ「このところお客さんが行列するほどの繁盛で、食事をする時間もないの」

少年「村人に頼られるようになって、何よりではないか」

ハーフエルフ「確かに、村の人と普通に話ができるようになって夢みたいだけど…」

ハーフエルフ「もっと少年とゆっくり話したいな」ニコ

少年「あ、ああ…」

ハーフエルフ「ところで、話って何かしら?」

少年「ああ、そうであった」

ハーフエルフ「この前、顔を赤くして家に来て、すぐに帰っちゃったから気になってたんだ」

少年「それは…」

少年「…なあ、ハーフエルフ」

ハーフエルフ「はい」

少年「私は魔王討伐に行こうと思う」

ハーフエルフ「えっ…!?」

少年「不安を根本的に解決するには、魔王を倒して世界に光を取り戻すしかないのだ」

ハーフエルフ「私には不安なんてない。少年と一緒に、この村で平和に暮らせたら、不安なんて何もない!」

少年「私とてそうしたい」

ハーフエルフ「だったら何で!どうして幸せを壊そうとするの?今度こそ本当の孤独になっちゃうのよ?」

少年「魔王の侵攻に怯え、村の人の再度の変心を疑いながらの平和が本当の幸せと言えるだろうか」

ハーフエルフ「そんなのまだ…」

少年「決まったことではないと?この前、村人さんも言っていただろう。魔王の侵攻は、実際に村の人の心境に暗い影を落とし始めているのだ」

ハーフエルフ「でも…」

少年「私は、ハーフエルフが孤児院を去った日に心に誓ったのだ」

ハーフエルフ「!」

少年「何があってもハーフエルフを守る。ハーフエルフの障害になるようなものは全力で取り除くとな。それ故、私は何としても魔王の存在しない真の平和な世界をハーフエルフにプレゼントしたいのだ」

ハーフエルフ「少年…」

少年「勝手なことを言っているのは承知している。一時寂しい思いをさせてしまうのも忍びない。だが、魔王討伐に行きたいのだ」

ハーフエルフ「やっぱり…」フッ

少年「ハーフエルフ?」

ハーフエルフ「そうまで言われたら、私に拒否することなんてできないわ」

少年「ありがとう!」

ハーフエルフ「馬鹿、お礼言わなきゃいけないのはこっちよ」

ハーフエルフ「これ…」ガサゴソ

少年「えっ、その鉄の剣は何だ?」

ハーフエルフ「我が家にお守りとして代々伝わる剣なの。少年、まだ戦闘用の武器はないんでしょ?魔王討伐にはこれを持って行って」

少年「いや、その様な大切なものは預かれない」

ハーフエルフ「私たちハーフエルフは剣なんて扱えないわ。持っていてもお守りにもならないの。だから、剣を使える少年に持っていってほしいの」

少年「…分かった、しかと心得た」

ハーフエルフ「でも、魔王の討伐ってどうやって行くの?国王軍みたいなのに入るの?」

少年「国王軍も諸侯軍も魔王の攻勢の前に崩壊寸前なんだ」

ハーフエルフ「だったら一体…」

少年「今回の魔王討伐は、神の祝福を得た勇者が特殊な能力者とともに少数精鋭で魔王を討ちに行くんだ」

ハーフエルフ「えっ、少年はいつの間にか神の祝福を得ていたの?」

少年「違う、私は勇者ではない」

ハーフエルフ「でも、勇者が魔王を討ちに行くって…」

少年「特殊な能力者枠の方だ」

ハーフエルフ「じゃあ、剣の使い手として行くってことかしら」

少年「ああ、こう見えても剣の腕は王国でも有数でな。今回の討伐については以前から内々に戦士として参加の打診があったのだ」

ハーフエルフ「少年が、戦士…」

少年「ああ」

ハーフエルフ「必ず、帰ってきてね」

少年「無論だ」

ハーフエルフ「約束だから」

少年「ああ。なあ、ハーフエルフ」

ハーフエルフ「うん?」

少年「魔王討伐から帰ってきたら、ハーフエルフに本当に伝えたいことがあるんだ。それまで、ハーフエルフも待っていてくれるかな」

ハーフエルフ「ええ、勿論」

本日はここまでです。
次回の途中から新規投下分になります。

もうすでにいろいろこみ上げてくるものが…

-----(1年後)-----

村人「そうそう、勇者一行が魔王を倒したらしいわよ!」

ハーフエルフ「えっ、それじゃあ…」

村人「そうよ、きっと少年だった戦士も帰ってくるわよ」

ハーフエルフ「戦士が、帰ってくる…」

村人「よかったわね、ハーフエルフちゃん」

ハーフエルフ「…でも、戦士からは何の連絡もないし、王国から村に使者が来たとも聞きませんよ。どこでそんな情報を仕入れたんですか?」

村人「ふふふ、私の情報収集能力を見くびらないでよね。実は昨晩、勇者が王都に戻る前にこの村をこっそり訪れたらしいのよ」

ハーフエルフ「勇者がこっそり…?何だか不自然な話ですね」

村人「あら、信じないの?こんないい話だってのに」

ハーフエルフ「勿論、本当に戦士が帰ってくるならこんなうれしい話はありません。でも、それだけにぬか喜びになるのが怖くて…」

村人「もう、心配性なんだから」

バアン

村人「あら、何かと思ったらうちの娘じゃない。どうしたの、そんなに勢いよくドアを開けて」

ハーフエルフ「村人娘ちゃん…?久しぶり!」

村人娘「そんなことより…」ハアハア

村人「息が上がってるけど、そんなに急いでどうしたっていうのよ?」

村人娘「ハーフエルフちゃん、大変!!」ハアハア

ハーフエルフ「村人娘ちゃん、どうしたの一体?」

村人娘「せ、戦士が…戦士が死んだって!!」

ハーフエルフ「え…」

---(教会)---

ゴーン ゴーン

村長「戦士さんは勇者とともに魔王を倒し、この村に、この国に、この世界に平和をもたらしました。村長としては誇りに思うべきかと思いますが、どうしても私は素直に誇れません。たとえ神のもとに召されたのだとしても、悲しさを禁じ得ません。私たちは、戦士さんに何を与えられたのでしょうか?戦士さんは何を望んで魔王討伐に赴いたのでしょうか?村長として悩みは尽きません…」

神父「それでは遺族を代表して村の傭兵殿から一言です」

村野傭平「この村とこの村に暮らす人々の平和と安寧を願い、息子は旅に出ました。そして、魔王討伐という成果を挙げ、主によって御許へと召されました。別れは惜しまれますが、願いを叶えた息子は、皆様の役に立てたことを喜んでいることでしょう。日々、心身の鍛錬を欠かすことなく…」

参列者A「別れが惜しまれるっていうけど、平和になったんだからいいわよね」ヒソヒソ

参列者B「一人の犠牲で何万という命が救われたんだものねぇ」ヒソヒソ

神父「それでは参列の方々は順に献花をお願いします」

ハーフエルフ(献花…)

助祭「あ、ハーフエルフさんですか?告別式の後、自宅に来てほしいと村の傭兵さんがおっしゃっていましたよ」

ハーフエルフ「…あ、はい」

~~~~~

少女A 「少女Bちゃん、少女Cちゃん、久しぶり。元気だった?」

少女B「久しぶりー」

少女C「いろいろ大変だけど、孤児院よりはいいよ」

少女A「まあね、そのために孤児院では頑張ったんだから」

少女B「少女Aお姉ちゃんは隣村の豪商の次男さんと結婚したんだよねー」

少女A「うん、おかげで不自由なく暮らせてるよ。少女Bちゃんところは?」

少女B「私は鉱山長さんの屋敷でメイドとして働いているよー」

少女C「一日中奉仕みたいで大変そう」

少女B「そうでもないよ。この村の鉱山は王国を支えている状態だから、鉱山長さんの屋敷には色々な人や情報が集まるの。勉強になるよー」

少女A「そういう少女Cちゃんは?」

少女C「あたしは普通の家の養女だからあまりネタはないよ。この村は豊かだから恵まれているんだろうけど」

少女B「それにしても、あの少年が戦士になって魔王討伐に赴いていたなんてー」

少女C「仲が良かったわけではないけど、亡くなったのは残念だよね」

少女A「ふん、あんな野蛮な傭兵の息子風情、この世から消えて当然だよ」

少女B「それはさすがに…」

少女A「言い過ぎでも何でもないって」

少女A「それに、さっきあのハーフエルフちゃんも見掛けたよ。献花が終わったらコソコソ引き揚げていったけど、きっと今もみんなから嫌われてるのね。いい気味だよ」

少女C「ハーフエルフちゃんは関係ないじゃない。戦士が亡くなって一番悲しいのは、きっとハーフエルフちゃんだよ。ハーフエルフちゃんを悪く言いうのはやめて」

少女A「なに、私に刃向かうの?私のおかげでみんないい境遇にありつけたんじゃない。恩知らずな真似はやめて」

少女B「…恩って何?」

少女A「鉱山長の屋敷で勉強できてるってあんたが言ったんでしょう!その環境は天から降ってきたとでもいうの?」

少女B「確かに、私が今の環境に居られることに関しては、かつての少女Aお姉ちゃん、修道女さん、そして今の屋敷のみんなに感謝してる」

少女B「でも、少女Aお姉ちゃんは私たちのために頑張ったんじゃなくて、自分の保身の為に頑張ってただけだよね?そんな人に恩を語る資格なんてない!」

---村野傭平の家(って誰だよ…)---

ハーフエルフ「失礼します」ガチャ

村の傭兵「おお、ハーフエルフ殿か、大変なところよういらした」

ハーフエルフ「いえ、大変なのは村の傭兵さんの方でしょうから…」

村の傭兵「慣れぬ葬儀などで大変なのは確かだが、私はこの通り元気だ。はっはっは!」

ハーフエルフ「……」

村の傭兵「時にハーフエルフ殿、外は寒かったであろう。何か温かいものでも淹れるとしよう」

ハーフエルフ「ありがとうございます。でも、村の傭兵さんこそ無理をしないでください」

村の傭兵「なに、動いていれば気が紛れるものでな。とはいえ、客をもてなすようなものはない故、ただの安物のお茶だが。はっはっはっ」

ハーフエルフ「いえ、そんな…」

村の傭兵「そういっている間にできたようだ。さ、どうぞ」コトッ

ハーフエルフ「ありがとうございます…」

村の傭兵「人は経済面だけでは生活してゆけぬ。息子がいなくなってしまって、さぞやショックであろう」

ハーフエルフ「突然の話で、正直言って何をどう飲み込めばいいのかもわからない状況なのです」

村の傭兵「そうであろう。しかし、まあ気持ちの整理を急ぐこともあるまい」

村の傭兵「だが、私は誇らしくもあるのだ。結果として身を賭すことになったが、大切なものを守…」

ハーフエルフ「やめてください!」

村の傭兵「ハーフエルフ殿…?」

ハーフエルフ「みんな口を開けば『戦士一人の命で村人が救われた』とか、『戦士の命と引き換えに村に平和をもたらした』とか、そんな話ばっかり!」

村の傭兵「まあまあ、落ち着くのだ」

ハーフエルフ「戦士の命は他の何かと引き換えにできるようなものではありません!交易品みたいに扱わないでください!戦士の存在は…何物にも代えられないんです!」

村の傭兵「…そんなことは重々解っているつもりだ」

ハーフエルフ「でも…!」

村の傭兵「私も、何物にも代えられない息子を失った。私だって辛いのだ。否、大人げない発言を許してもらえるなら、私が一番辛いと言いたいところだ」

村の傭兵「されど、目の前には息子を失って途方に暮れる者がもう一人いる。私は悲しめがいいのか、謝ればいいのか、どうしていいのか解らぬ…」

ハーフエルフ「…すいません」

村の傭兵「そうは言っても、息子は、ハーフエルフ殿を守りたい一心で魔王討伐に出たのだ。そして、魔王を倒したのだ。その息子の思いと行動を私が誇らしく思ってやらないで、誰が息子を評価してやれるというのだ!」

ハーフエルフ「村の傭兵さん…」

村の傭兵「勿論、ハーフエルフ殿を残して先立ってしまったことは、息子の父として、ハーフエルフ殿に謝っても謝り切れぬ思いだ。本当に申し訳ない」

ハーフエルフ「そんな、違うんです。村の傭兵さんに謝って欲しいなんて本当に思っていません!村の傭兵さんの助けがあって今日まで生きてこれたことは、感謝してもしきれません。」

ハーフエルフ「ただ…ただ戦士には死んでほしくなかった。…それだけなんです」

村の傭兵「ハーフエルフ殿…」

ハーフエルフ「あの、村の傭兵さん…」

村の傭兵「何かな」

ハーフエルフ「戦士は、最初から死ぬ覚悟で魔王討伐に臨んだのでしょうか?」

村の傭兵「実は、ハーフエルフ殿をお呼び立てしたのは、そのあたりの話を伝えたかったからなのだ」

ハーフエルフ「えっ」

村の傭兵「昨晩、勇者が隠密裏にここに来たのだ」

ハーフエルフ(そういえば、村人さんがそんなことを言っていたっけ)

村の傭兵「勇者は、仲間も連れずに単身で村長宅を訪ねたそうだ。そして村長に『この剣の持ち主にお会いしたい』と言ったそうだ」ガチャッ

ハーフエルフ「この剣は…!」

村の傭兵「ああ、ハーフエルフ殿が息子に渡された鉄の剣だ」

ハーフエルフ「折れてる…」

村の傭兵「…そして、それを聞いた村長が、勇者を連れて拙宅にいらしたというわけだ」

村の傭兵「勇者は開口一番、息子を守れなかったことを詫びた。そして、魔王討伐の過程で何があったのかを仔細に教えてくれた」

村の傭兵「魔王との戦いの詳細、魔王の最期、鉄の剣が折れた理由、そして息子の戦いでの様子…。勇者は王都での勇者討伐記念式典に凱旋する途中、どうしてもお詫びがしたくて単身拙宅に赴いたそうだ」

ハーフエルフ「……」

村の傭兵「さて、先ほどのハーフエルフ殿の質問だが…」

ハーフエルフ「はい」

村の傭兵「息子はこの鉄の剣を『私の分身』と言って魔王戦まで使い続けたそうだ」

ハーフエルフ「そんな…」

村の傭兵「そして、魔王戦で心が折れかけた勇者を『お主らと共に生きて帰るために闘うのだ!』と叱咤し続け、死ぬ直前まで善戦したとのことだ」

ハーフエルフ「戦士…」

村の傭兵「ハーフエルフ殿、息子は死ぬ直前まで生きて帰るつもりだったのだ。ハーフエルフ殿の元に戻るつもりだったのだ」

ハーフエルフ「うっ…うう…戦士…」

村の傭兵「ハーフエルフ殿、この折れた鉄の剣はハーフエルフ殿にお返ししたい」

ハーフエルフ「で、でも、戦士にプレゼントしたものですし」

村の傭兵「無論、単に持ち主の元にお返ししたいというのではない。この鉄の剣は息子の守護神であり息子の形見でもあるのだ。ハーフエルフ殿こそが持つにふさわしいと思う。どうか、この剣を息子だと思って見守ってやってほしい」

ハーフエルフ「わかりました。一生、大切にします!」

村の傭兵「ハーフエルフ殿、どうかお気を確かに」

ハーフエルフ「はい!」

ハーフエルフ「ところで村の傭兵さん」

村の傭兵「今度は何であろう」

ハーフエルフ「勇者が立ち寄ったなら、私も呼んでくださればよかったのに」

村の傭兵「勇者はハーフエルフ殿にもお詫びしたいと言っておった」

ハーフエルフ「でしたら」

村の傭兵「私が断ったのだ」

ハーフエルフ「な、何故…?」

村の傭兵「一つは、話がハーフエルフ殿にとってあまりに急すぎること」

村の傭兵「そしてもう一つは、戦いに生きる者は、戦うことに疑問を持った瞬間に世間に飲み込まれるのだ。勇者のためにも、それは避けたかった」

ハーフエルフ「そんな…、でも、戦いは終わったんですし」

村の傭兵「とんでもない。これから国内の矛盾が噴出しはじめるに違いない。勇者を必要とする戦いは増えるだろうし、世の中は勇者を求めるだろう。絶対的な善や悪がいないこれからこそ、勇者としての力量が問われるのだ」

ハーフエルフ「平和とは難しいものなのですね」

村の傭兵「しかし案ずるでない。勇者は『いつかきっとお詫びに来る』と言っておった。あの目に嘘はないはずだ」

ハーフエルフ「解りました。いつか勇者からも戦士の話を聞いてみたいと思います」

本日の投下は以上です。

少女の内輪揉め中に落ちたやつか

-----(数か月後)-----

村長「これはこれは国王軍…ではなかった、王国防衛隊の使者殿でしたか、今は。」

使者「む、魔王戦での教訓をもとに、国王や諸侯が個別に私兵を編成する体制を改めたのでな」

村長「本日はわざわざこんな辺境の村の拙宅までお越しいただき、どのようなご用件でしょうか?」

使者「む、その方らは魔王討伐後、体制が崩壊した魔界から大量の魔族が王国に流れ込んできている実態を知っておるか?」

鉱山長「魔王を倒したってのに、まだ魔界にはこの国を襲う余力があるのか?」

村長「そうではなく、弱い魔族が難民として押し寄せているのではないですかね?」

使者「む、その通りだ。このところ港町や王都は魔族難民が増える一方なのだ」

村長「それはさぞかし大変でしょう…」

使者「む、王国の文化習俗も理解せず、魔界風にふるまう不届き者も多く、治安は悪化の一途をたどっておる。我ら王国防衛隊も、国家憲兵ばかり増員しているのが実態でな」ハァ

村長「王都の窮状には心を痛めずにはいられません」

使者「む、しかしながら、王国内の諸都市では決して対策が後手に回っているわけではないのだ」

村長「それはそれは何よりです」

使者「む、現在王国内では、国家憲兵を中心に魔族追放作戦を展開し、一定の成果を挙げている」

村長「王国防衛隊の奮戦に感謝します」

使者「む、そこでだ。村長殿、この村でも魔族追放作戦を行うことにしたのだ。とはいってもここは自治都市。村長主導で、村の自主的な活動として魔族追放を行ってもらう」

村長「王国防衛隊の作戦に異を唱えるつもりは毛頭ありません」

使者「む」

村長「…が、おっしゃる通りこの村は王国から一定の自治を認められております。治安警察権の行使に王国の指示を仰ぐには及びません」

使者「むむっ!?」

村長「現在、この村では魔界からの魔族の侵入はなく、魔族による治安の悪化も起きておりません。魔族追放の必要性は全く認められません」

使者「む、辺境の村にいると視野が狭くなるようだな。このような作戦は、王国としての統一した意思を魔族に見せつけることが肝要だという事も判らぬとはな」

鉱山長「だから、この村には魔界から来た魔族なんざいねえって言ってるだろ!」

使者「む、何たる無礼。王国の保護下にありながら王国への恩を忘れるおつもりか!」

村長「この村は王国が必要とする鉄鉱石をほぼ全量王国に提供しているうえ、租税も欠かさず王国に収めております。恩を忘れて村の自治に踏み込もうとしているのはどちらでしょうか?」

鉱山長「言っとくが、この村の魔族は鉱山の維持や村人の健康維持に欠かせない存在でな」

使者「むむむむ…ど、どういう存在の魔族かを問うているのではないのだか…」

鉱山長「あいつらを追放したら鉄鉱石の産出に影響するから、てめえらのような下っ端の制式武器は棒っきれになるんじゃねえのか?」フン

使者「む…!ほざくがよい。これは決定事項なのだ。一応その方らの顔を立てて村内で処理させんとしたが、反論されるなら仕方ない」

村長「何が仕方ないのですか?」

使者「5日後に勇者を指揮官とする魔族追放隊がこの村に到着することになっている。勇者によって、魔族も、その方らもまとめて追放されるがよい」フン

村長「勇者が来ようと魔王が来ようと、この村のことはこの村が決めます」

鉱山長「この村が、横暴な領主を葬って自治を獲得した村だってことを忘れねえことだな」

使者「む、その方らに何ができるというのだ。唯一の戦力であった村の傭兵は、王国防衛隊の戦術指導教官として王都に召喚中というのに」

村長「用件はそれだけですか?用件がお済みでしたらお引き取りください」スッ

使者「むむっ!?」

鉱山長「消えろって言ってんだろうが!」ダンッ

使者「む、その方らがそういうなら失礼する。5日後を楽しみにしているんだな、愚かなる者たちよ」ガチャ バタン!

鉱山長「…おい、物別れに終わっちまったが、これでいいのか村長さんよ」

村長「こちらでできることはやったつもりです」

鉱山長「しかし、こいつぁいくらなんでも…」

村長「…では、神に祈りましょうか」

鉱山長「おいおい…」

-------
-----
---

-----(現在)-----

バタン!

ハーフエルフ「いらっしゃいませ…って、村人娘ちゃん!」

村人娘「ハーフエルフちゃん、大変!!」ハアハア

ハーフエルフ「その台詞も板についてきたね」

村人娘「ほんとに大変なんだから、変な耐性身に着けないで!」

ハーフエルフ「それで、今日はどうしたの?」

村人娘「村の方に大量の軍隊が向かって来てるの!」

ハーフエルフ「何かあったのかしら…?」

村人娘「何があったのか、鉱山長さんのところの少女Bさんに聞いたら『もしかしたら魔族追放隊かも』って…」

ハーフエルフ「えっ、魔族、追放…って!?」

村人娘「ハーフエルフちゃん、時間がない。早くここから逃げて!」

~~~~~

ハーフエルフ「はあっ、はあっ…」

ハーフエルフ(泉まで来たけど、これからどうすれば…)

ハーフエルフ(この先の山を越えれば、パパやママのいる国に行けるかも)

ハーフエルフ(でも、着の身着のままで来ちゃったし…、もう家には戻れないし)

ハーフエルフ(何でだろう。ただ、この村で生きていきたいだけなのに、全然うまくいかないな…)ガチャッ

ハーフエルフ(折れた鉄の剣か…持ってきたけど、戦士も私も守ってはくれなかったな。…もうこの辺で、潮時ってことなのかな)

ハーフエルフ(……………)

ハーフエルフ(行こう…!)スタスタ

ハーフエルフ(戦士、この鉄の剣と一緒に、私も今からそっちの世界に行くね)ポチャン ポチャン

ハーフエルフ(折れた鉄の剣は泉に入れたし、私もこの泉に…)

ボゴゴゴゴゴゴ……ザパァ!

ハーフエルフ(な、何!?)ビクッ

泉の女神「いつまで冷たい泉の下で主人公を待たせてんだゴルァ!」



…嘘です。本日の投下はここまでです。


む、にいちいち笑う

泉の女神「そこの異形の少女よ」

ハーフエルフ「わ、私…?」

泉の女神「私はこの泉の女神」

泉の女神「あなたがこの泉に捨てようとしているのは何ですか?」

ハーフエルフ「えっ? はぁ…、命、と言えばいいのでしょうか」

泉の女神「間違ってはいませんが、正解でもありません。残念ながらあなたの望みは叶えられませんね」

ハーフエルフ「え…っと、あなたは一体何を言っているのですか?」

泉の女神「では、質問を変えましょう。あなたが落したのは、この折れた鉄の剣ですか?」

ハーフエルフ「ええ、まあ」

泉の女神「…それとも、この大きな肖像画ですか?それとも、この分厚い手紙ですか?」

ハーフエルフ「!! パパ!ママ!修道女さん!」

泉の女神「そうですね。しかし今、これをお返しするわけにはいきません」

ハーフエルフ「何で…」

泉の女神「その理由こそが先ほどの問いかけの答えです」

ハーフエルフ「?」

泉の女神「あなたは今、平和な世界をプレゼントしたいという戦士を夢を捨ようとし、生き延びることを願ってあなたをこの村に残した両親の希望を捨てようとし、修道女があなたに託した将来を捨てようとしたのです」

泉の女神「そのような者に、これらの落とし物を受け取る資格などありません」

ハーフエルフ「……いで」

泉の女神「何ですか?」

ハーフエルフ「勝手なこと言わないで!」

ハーフエルフ「そんなこと言われなくても分かってるわよ」

ハーフエルフ「私だって好き好んで死のうなんて考えていない!私がこれまでどれだけ生きようとしてきたか分かってるの?そしてその度にどれだけ冷たい仕打ちを受けてきたと思ってるの?」

泉の女神「知らねえよそんなこと!」

ハーフエルフ「はあ?」

泉の女神「他人から受けた想いを捨てるような奴に差し伸べる手はねえって話をしてんだろうが。話逸らしてんじゃねえよ!」

ハーフエルフ「馬鹿じゃないの?話にならないわ」

泉の女神「馬鹿はてめえだろうが!剣とか画とか手紙とか見て何も思わねえのかよ!」

ハーフエルフ「ふん、天界あたりでのんびり暮らしている女神様なんかには、人間界に生きる魔族の気持ちなんてわからないのね」

泉の女神「…人間界に生きるてめえが、天界の何を知ってるってんだよ」

ハーフエルフ「考える気にもならないわ!お花畑の世界の住人のことなんて」

泉の女神「…あれが花畑か。随分見苦しい花畑だな」

泉の女神「あたしは、天界でも五本の指に入る旧家に生まれた」

ハーフエルフ「やっぱりそういう世界なんじゃない」

泉の女神「旧家という格だけが残り、役職的には全く振るわない、没落した旧家だけどな」

ハーフエルフ「……」

泉の女神「格だけは高いから上流の付き合いを強要され、家計は常に赤字だったようだ。あたしはまだ物心つく前だから、実際には覚えてねえけどな」

泉の女神「誕生日プレゼントすらもらえなかったある日、あたしは親父に言ったらしい。『友達はみんなもらってるのに、どうしてあたしだけ誕生日プレゼントがないの?』って」

泉の女神「ガキは残酷だよな。でも、親父はそれで奮起しちゃったらしい。それから親父は昼も夜も働き続け、役職も上がっていったらしい」

泉の女神「あたしの最初の記憶はそのころのものだ。大きなお屋敷で、沢山のメイドと厳しい家庭教師に囲まれていたな」

泉の女神「この家庭教師がウザくてな。勉強を放り出して遊んでいると突如現れて、能面のような表情で『そろそろ戻る時ですよ、お嬢様』とか言ってあたしの腕をつかむんだ」フッ

ハーフエルフ「…いきなり上流階級の自分語り?」

泉の女神「ただ、その頃の親父の記憶は思い出せない。当然だな、親父は激務でほとんど屋敷に戻れなかったんだから」

ハーフエルフ「メイドさんがいて、家庭教師さんがいて、大きなお屋敷があって…ああ、そうですかそうですか」

泉の女神「てめえにこの分厚い手紙を寄越した奴は、家庭教師と何が違うっていうんだよ」

ハーフエルフ「…」

泉の女神「…まあ、そんな生活は長く続くもんじゃねえよ」

泉の女神「急速に力を盛り返した旧家を、隆盛を極めていた他の旧家や新興勢力が放っておくわけがねえ」

ハーフエルフ「平和な天界で何をするというの?」

泉の女神「大きな権力を持つものがいて、特に平和でもない天界で起きることなんて簡単だ」フッ

泉の女神「盛り返してから10年ほど経って、親父は無実の罪を着せられ、役職も家格も剥奪された」

ハーフエルフ「そんな…」

泉の女神「家格も剥奪されたから、上級神の住む都を追い出され、下町の集合住宅に移住させられた。兵士による24時間監視付きでな」

泉の女神「しかも、両親は罪人として軟禁状態だから仕事も細々と内職くらいしかできねえ。メイドも家庭教師もいなくなった」

ハーフエルフ「天界って…」

泉の女神「いいこともあったんだけどな」

ハーフエルフ「どうせ家族の絆とか言い出しちゃうんでしょ?」フン

泉の女神「…あたしは、そのころの両親が嫌いだった。不器用な手で内職をする親父が惨めで見てられなかったし、陰鬱な表情しかできねえお袋と一緒に居たくなかった」

ハーフエルフ「じゃあ…」

泉の女神「家庭教師がいなくなったあたしは、下町の神学校に通うことになった」

泉の女神「下町の神学校にはろくでもない境遇の奴も多くてな、それまでメイドや家庭教師としか話したことのなかったあたしにとって、初めて話の通じる同世代の仲間ができたんだ」

泉の女神「15歳くらいになるまで、あたしには友達と呼べる奴はいなかった…」

泉の女神「まあ、神学の授業を受けたいわけじゃなかったから、早々に学校には行かなくなったんだけどな」

泉の女神「みんなで学校に行かず、現実から逃避するように毎日楽しんだ。あたしはその頃、生まれて初めて心から笑ったな」

ハーフエルフ「現実逃避って…」

泉の女神「現実逃避も必要だろ。自分たちの境遇にはあえて触れず、ただ分かり合うだけの時間がよ」

泉の女神「ただ、うちもそうだったし他の奴の家庭もそうだったけど、みんな裕福じゃなかったからな」

泉の女神「深夜に色々と資金調達したりしてたな」

ハーフエルフ「それで女神!?」

泉の女神「仕方ねえだろ金がないんだから。それに…家に帰らない口実が欲しかったしな」

泉の女神「ただな…、やっぱり楽しい時間もやがて惰性に支配されていくようになるんだよな」

泉の女神「数年経つと、遊んで楽しむというより、遊ぶという形式にこだわるようになるというか…何と言うんだろうな」

泉の女神「でも疑問を差し挟む余地はなかった」

泉の女神「私はいつの間にか、泣くことも悲しむこともできなくなっていた」

泉の女神「そんなある夜、街中でカモを物色している時に、元家庭教師に出くわした」

泉の女神「元家庭教師は、その後就職していたようで、会社帰りにあたしに偶然遭遇したらしい」

泉の女神「その家庭教師は、私に会った瞬間に何と言ったと思う?」

ハーフエルフ「さあ、『こんなところで何をしているんですかお嬢様!』ギャース とかじゃないの?」

泉の女神「ま、普通はそうなんだろうな」

泉の女神「元家庭教師は表情一つ変えず、『そろそろ戻る時ですよ、お嬢様』と言って私の腕をつかんだんだ」

泉の女神「それを聞いた瞬間、あたしはなぜか涙が出てきた。なぜか涙が止まらなかった。結局、その日はそのまま元家庭教師に連れられて家に帰ったんだ」

泉の女神「翌朝、元家庭教師はうちにやってきた」

ハーフエルフ「腐った根性を鍛え直そうというのね」

泉の女神「今までの流れで根性の腐ったやつなんて登場していねえだろうが」キョトン

ハーフエルフ(やっぱりダメな人なんだ…)

泉の女神「元家庭教師はあたしだけでなく、親父やお袋も呼んで、こう切り出した」

泉の女神「『私の知っている部署が、お嬢様にちょうどいい求人を出しています。お嬢様、そこで働いてみませんか?』ってな」

ハーフエルフ「ようやくニート卒業ってこと?」

泉の女神「ニートじゃねえだろ、学生なんだからよ」

泉の女神「ま、親父やお袋はあたしが学生だからって、賛成しかねたんだよ」

泉の女神「ただ、あたしは現状が何か変わるなら何でもよかったから、軽い気持ちで『じゃ、明日からそこに行きますよ』って答えちゃったんだよな」

泉の女神「そしたら、泉の女神としてこの泉に派遣されるようになってな」

泉の女神「一日の大半を泉の底でずぶ濡れになって過ごす不人気職場だけどな」フフッ

ハーフエルフ「…結局、いいタイミングでいい人に救われてめでたしめでたしって話じゃない」フン

ハーフエルフ「あたしにはそんなタイミングもそんな人は現れなかった!」

泉の女神「いや、違うぞ?」

ハーフエルフ「何が違うっていうの?」

泉の女神「あたしが何かに気付くきっかけは、誕生日プレゼントをもらえなかった時にも、親父が不眠不休で働いてた時にも、親父やお袋が内職してでも家計を支えようとした時にも、いくらでもあったんだよ」

泉の女神「ただ、たまたま元家庭教師が現れたときに何かに気付いたってだけの話だ」

ハーフエルフ「だったら今の冗長な自分語りは何?」

泉の女神「てめえにも、いいタイミングやいい人がいたんじゃねえのか?あたしよりも沢山な」

ハーフエルフ「……」

泉の女神「それのどこか1つで何かに気付けば、それでいいんじゃねえのか?って話だ」

泉の女神「…規則違反なんだけど、この分厚い手紙、読んでみねえか?」

調子に乗ってフラグを撒き散らかすと回収に苦労します。
修道女の手紙の内容なんて知らねえよ!
…ということで、本日の投下はここまでです。

お疲れ様

・・・・・・・・・・・・・・・
ハーフエルフさんへ

この手紙を読んでいるということは、村での生活はあまりうまくいっていないのでしょうか。
私の見通しの甘さから、ハーフエルフさんに無用の苦労をさせてしまったとしたら、心から謝りたいと思います。
ご両親には会えましたか?
村には溶け込めましたか?
たとえそれが無理でも、村に誰か一人でも頼れる人ができたら、その人を大切にしてくださいね。

私は今回、故郷に帰ることになります。
この村の奥にある大山脈の向こう側にある帝国です。
魔族との争いはもちろん、内乱や外乱も少ない安定した国です。
もっとも、争いがなければ幸福かと言えば、そうでもないのが難しいところです。
帝国も決して楽園というわけではありません。

ハーフエルフさん、辛いときはハーフエルフさんをあえてこの村に残したご両親のお気持ちを考えてみてください。
また、村には本当に頼れる人がいませんか?考えてみてください。
それでも、ハーフエルフさんがどうしてもこの村の生活に耐えられなくなったときは、帝国の私のところを訪ねてください。
ここに王国内と帝国内の通行証と帝国への入国証、旅費を同封しておきます。
これがあれば、無理に山脈を越えることなく、正規のルートで帝国に入国することができます。
私の帝国の住所は……………です。
それでは、ハーフエルフさんに幸のあらんことを。

    王暦○○年○○月○○日
            修道女
・・・・・・・・・・・・・・・

ハーフエルフ「修道女さんはあの日、大山脈の方に向かった…」

ハーフエルフ「私のために、こんな貴重なものを遺して」ウウッ

泉の女神「お前、『竜神』を知っているか?」

ハーフエルフ「竜…神?竜なら山に住んでいるって聞いたことがあるけど」

泉の女神「その竜だよ」

ハーフエルフ「でも、『竜神』ってことは天界の生き物でしょ?」

泉の女神「いやいや、お前と同じ、人間界に住む魔族だ」

ハーフエルフ「じゃあ何で神なんて名乗ってるの?」

泉の女神「竜は、産まれてからずっとこの鉱山を守ってきた」

泉の女神「山を守り、山を愛するものを愛し、山に近づく者には警告も発してきた」

泉の女神「だから、鉱夫達からは災いを呼ぶと恐れられてきた」

泉の女神「ところがある時、竜は自分の身を盾にして人間の子供を守った。この村の鉱山を守った」

泉の女神「竜にとって、それは決して特別な行動じゃなかったけど、それがたまたま村の鉱夫たちの目に留まり、竜は『竜神』と呼ばれるようになった」

泉の女神「竜が『竜神』と呼ばれるようになるまで、何百年もかかった。何百年も経って、たまたまきっかけが重なって敬われるようになったんだよ。20年も経っていないお前には、まだまだ沢山のきっかけがあるんじゃねえのか?」

ハーフエルフ「でも…でも、私は魔族追放隊に追われてここまで逃げてきたのよ!もうどこにも戻れない!」

泉の女神「村で大きな騒ぎが起これば、この泉まで声が聞こえてくる。お前には、あれが悲鳴に聞こえるのか?」

オオ~ウオォ~ユウシャサマ~

~~~~~

村長「これはこれは、勇者様をはじめとする魔族追放隊の皆様。村の者が大勢、広場で皆様をお待ちしております。ささ、広場の方へどうぞ」

勇者「……」ザッザッ

村長「あっ、村の傭兵さん…」

村の傭兵「……」ザッザッ

聴衆A「おっ、魔族追放隊がこっちにやって来たぞ」

聴衆B「おお、あれが魔王を倒した勇者様か」

聴衆C「しかし、薬屋さんや竜人様を追放しようってんだろ?そいつは頂けないな」

聴衆D「勇者様がなぜそんな蛮行を…」

聴衆E「そん時はそん時だ。俺は徹底抗戦するぜ」

聴衆F「お前の折れたつるはしで何ができるってんだよ?」

聴衆E「そん時はそん時だ」

聴衆G「黙れ能なし」

聴衆E「黙れ根性なし」

聴衆G「んだとコラ!」

村長「皆さん!勇者様がいらっしゃいましたよ!静粛に!!」

村長「勇者様、こちらの壇上に上がっていただき、村の者たちに一言お願いします」

勇者「……」タンタンタン

シーン

勇者「はじめまして、勇者です」

勇者「今回、魔族追放隊としてこの村にやってきました」

聴衆C「やっぱり…」

聴衆E(このつるはしで…)

勇者「俺は魔王を倒しました。長い時間をかけて、たくさんの犠牲を出しながら…」

勇者「この村の戦士も、俺が至らなかったせいで、命を落としてしまいました。そのことは、改めてここでお詫びしたいと思います」

聴衆A「勇者様…」

勇者「俺は、魔王を倒せばこの世界が平和になると思っていました」

勇者「ところが、実際には魔王を倒したことで、それまで以上に魔族が王国にやってきました」

勇者「やってきた魔族たちは、王国で勝手に内乱を起こし、人間の生活を脅かし始めています」

勇者「俺には、魔王を倒してこの状況を生み出した張本人として、この状況を打開する責任がある!…そう思って、率先して魔族追放隊の先頭に立たせてもらっています」

勇者「俺は、王国に真の平和が訪れるまで戦い続ける責務がある!それこそが…今は亡き戦士に対して、俺ができる唯一の供養だと思っています」

聴衆D「そこまでの信念があるのか…」

勇者「この村には魔族がいると、この村の傭兵さんから聞いています」

聴衆F「あの武人めが」

勇者「今日、この村に入ってこの広場に来るまで、短い時間でしたが村の様子を拝見しました」

勇者「村の入り口には、魔族である金の竜の像と銀の竜の像が、魔除けよろしく置かれていました」

勇者「魔族がいるというのに、皆さんはいつも通りに生活し、広場ではのんびり談笑していました」

勇者「…ちょっと信じられないというのが正直な気持ちです」

聴衆G「まさかの全員惨殺ルートktkr」

勇者「村の傭兵さんは、『私の村は人間と魔族が共存することで隆盛を誇っておる』と繰り返し言っていましたが、俺には到底信じられなかったのです」

勇者「ところが、今日この村に来てようやく信じられました」

勇者「実は、魔族を追放する責務があると自分に言い聞かせながらも、こんな現実のために魔王を倒したのか、自問自答を続けてきました」

勇者「人間と魔族が共存して平和に暮らす村…。それは、俺が魔王を倒した後に訪れるだろうと思い描いていた世界です。今は亡き戦士が、亡くなる瞬間まで信じて疑わなかった世界です。この村は、俺の目標の到達地点です」

勇者「もちろん、王国の他の都市にいる魔族に対しては、厳しく事に当たる必要があります」

勇者「しかし、魔王を倒した結果逃げて来た者をどう扱うべきなのか、ずっと悩んできました。これから戦いの中で思い悩むことがあれば、またこの村の平和な日常を見て、心の道標にしたいと思います」

勇者「ですから、この村はずっとこのままでいてほしいと願わずにはいられません!」

勇者「この村の魔族を追放しようとするものを俺は許さない!この村の自治に口を出そうとするものを俺は許さない!」

勇者「俺はまだ各地を転戦しなければなりませんが、この村の守護のために、村の傭兵さんと、魔王討伐に参加した魔法使いを残していきたいと思います」

村の傭兵「また皆々の世話になる。よろしゅうに」ビシッ

魔法使い「…よろしくね」ペコ

勇者「みなさん、この村をもっともっと誇って下さい。そして、また今度立ち寄ったら、色々村のことを聞かせてください。今日は素敵な村を見せて頂き、ありがとうございました!」

聴衆「おお~!うおぉ~!勇者様~!」

村長「村の傭兵さん、勇者様への説得は首尾よくいったのではないですか。皆さん表情が硬いので緊張しましたよ」

村の傭兵「何を仰せか。村を出るとき『勇者の説得は私に一任頂きたい』と申したではないですか」ワッハッハッ

鉱山長「村の傭兵さんよ、おいたが過ぎると魔法使いちゃんに火炙りにしてもらうぞ」ガッハッハッ

村長「しかし、魔法使い様までこの村に残ってくださるとは心強い。あの魔王に痛恨のダメージを与えたと聞いております」

村人娘「どうしよう。ハーフエルフちゃんに『早く逃げて』って言っちゃった…」

村人「早くハーフエルフちゃんのところに行っておやり。あの子はこの村にとっても、あなたにとっても必要な存在なんだから」

~~~~~

ハーフエルフ「歓…声?」

泉の女神「ま、そういうことだな」

ハーフエルフ「えっ、ちょっと待って。どういうことですか?」

泉の女神「それをお前の目できちんと見て来いよ」

ハーフエルフ「で、でも…」

泉の女神「歓声を聞いてなに心配してんだよ。安心しろって」

ハーフエルフ「………」

泉の女神「今、周りが敵ばっかりなのかどうかを自分の目で見極めて来いっつってんだ」

ハーフエルフ「私の周りの人…」

泉の女神「あ、そうそう。さっき話した『竜神』から聞いたんだけどな、お前の両親は隣りの帝国で健在だそうだ」

ハーフエルフ「!!」

泉の女神「数年前に一度、お前の様子を見にそこの鉱山まで戻ってきたらしい。ただ、その時はまだ魔族への風当たりが強くて村には入れなかったようだ」

ハーフエルフ「お父さん、お母さん…」

泉の女神「そこで、お前の両親は『竜神』に言伝を頼んだんだ。『ハーフエルフに、私たちは必ず村に戻ると伝えてほしい』ってな」

泉の女神「あたしが『竜神』と出会うより前の情報だからちょっと古いけど…確かに伝えたからな」

ハーフエルフ「はい!では早速村に…」

泉の女神「っと、待った!」

ハーフエルフ「えっ!?」

泉の女神「この折れた鉄の剣と大きな肖像画と分厚い手紙、持っていけよ。お前が持っていなきゃ意味ねえ物だろ?」

ハーフエルフ「えっ、でも…」

泉の女神「おら、さっさと受け取って村に戻れよ!」

ハーフエルフ「あ、ありがとうございます!!」ダッ

泉の女神「…ああ。しっかり生きろよ。じゃあな」

泉の女神(管轄外の泉にまで行ったりして大変だったけど、これで一件落着だな)

泉の女神(いや、一件落着はこの件をボスに知られないように隠蔽してからか)

ゴボボボボボボ…

本日の投下と、第4章は以上です。

◆終章 蛇に足

---(天界の更衣室)---

泉の女神B「おはよ」

泉の女神C「おはよ。今日も一日水没だね」

泉の女神B「早く終わらないかなー」

泉の女神「ほんと、やってらんねえよな」

泉の女神B「え、泉の女神さんは泉課長に呼ばれてたよ」

泉の女神「げっ、嘘だろ!?」

泉の女神C「いやいや、事務所の行動予定表に書いてあったよ?」

泉の女神「何かしたっけ?あれかな?いやいやでも…」ブツブツ

泉の女神B「デスクワークでいいなー」

泉の女神「じゃあ替われよ!いや、替わってくださいませんか?」

泉の女神C「替わりに怒られに行くなんて聞いたことないし」

泉の女神「お呼びでしょうか、ボス」

泉課長「ボスではありません。課長と呼びなさいと何度言ったら分かるんですか?」

泉の女神「すいません、以後気を付けます。ボス」

泉課長「はぁ…ここでは何ですから、隣の会議室に行きましょう」

泉の女神「いや、ここでサクッと済ませちゃいましょうよ」

泉課長「サクッと済む話ではないから会議室に行くんですよ」

泉の女神「ですよねー…」

泉の女神「失礼しまーす」

泉課長「ドアを閉めてください」

泉の女神「いや、密室ではなく住民に開かれた環境で仕事をしましょうよ」

泉課長「ふざけているのですか?」

泉の女神「とんでもないです!」バタン

泉課長「さて…」

泉の女神(ひっ…)

泉課長「死神部長から女神部長に抗議があったようですが…」

泉の女神(来たぞ…)

泉課長「回収すべきだった死者を回収できず、棚卸の際に大騒ぎになったとのことです」

泉の女神(どいつのことだ?いや、まだ冤罪の線も残ってるじゃねえか)

泉課長「人間界にいるハーフエルフは珍しいので、すぐに犯人の目星が付いたようで…」

泉の女神「あいつか!」

泉課長「ちゃんと聞いているのですか!」

泉の女神「も、もちろんです!」

泉課長「ちゃんと聞いているなら、なぜ毎回勝手な行動を取るのですか!」

泉の女神「い、いえ、勝手と言いますが、その場の流れがありまして…」アセアセ

泉課長「その場の流れで課の大切な備品を出血大サービスされては困りますね」

泉の女神「そんな、出血大サービスなんてことは…しかも先月は没収ノルマを達成しましたし」

泉課長「ノルマを達成したのは半年ぶりじゃないですか!」

泉課長「しかも、『3点セットでお返し』などと気軽に課の備品を与えていると聞いていますよ」

泉の女神「内部告発したクソアマはどいつですか!」

泉課長「では事実なんですね!」

泉の女神「はぁうっ!」

泉課長「…私は人間の命を救うなと言っているのではありませんよ」

泉の女神「……」

泉課長「しかし、理由があって救うなら、きちんと関連部署に話を繋がないと皆が混乱するんですよ」

泉の女神「…はい」

泉課長「…あなたにこの仕事は向いていないのかも知れませんね」

泉の女神「いえ、決してそんなことは…!」

泉課長「勝手に勇者を手助けしてみたり、半魔の命を救ってみたり…それが泉の女神の仕事ですか?」

泉の女神「いや、それは…でもですね…」

泉課長「反論しようというのが向いていない証拠です!」

泉の女神「……」

泉課長「実は、そろそろ担当者が退任時期を迎え、空きそうなポストがあるのです」

泉の女神(どこだよ、その離職率の高いブラック部門は…)

泉課長「人間界事業部長を知っていますか?」

泉の女神「…名前だけは知っていますけど、見たことも話したこともありません」

泉課長「でしょうね。私の上司の上司ですからね」

泉の女神「その方に、私の処遇を伺えという事でしょうか?」

泉課長「ある意味そうかもしれませんね。この書面を持って、事業部長を訪ねてください」

泉の女神「…あたしはボスに見放されるんでしょうか?」

泉課長「私は部下だった者を見捨てたことはありません。しかし、人事は人間界事業部長が決裁されることです。」

泉の女神「…判りました。あたし、どんなブラック部門でも負けませんから!」

泉の女神「人間界事業部長とやらのところに行ってきます。…失礼しました」ガチャ バタン

泉課長(ブラック部門ねぇ…確かに今よりはるかに大変な部署でしょうけど…)

泉課長(上級神には上級神の職があるのです。上級神にそろそろ戻る時ですよ、お嬢様)

-----(数年後)-----

ハーフエルフ「ここに生えているのが熱に効く薬草、向こうに生えているのが頭痛に効く薬草よ」

ハーフエルフ娘「ふーん」

ハーフエルフ「どちらもお薬を作るのに大切な材料だから、たくさん取って帰るわよ」

ハーフエルフ娘「えー」

ハーフエルフ「『えー』じゃないでしょ。おじいちゃんがお薬を作っているのを見て、『あたしもやりたい!』って言ったのは誰?」

ハーフエルフ娘「お花摘みたいんじゃないもん!お薬作りたいんだもん!」

ハーフエルフ「お薬作りは薬草選びから始まるの!お薬を作るのに一番大事な作業なのよ」

ハーフエルフ娘「うー」トテトテ

ブチブチブチッ

ハーフエルフ娘「はい取った!帰ろ!」

ハーフエルフ「ふざけないの!」

ハーフエルフ娘「ひっ」ビクッ

ハーフエルフ「お薬はふざけたり、おままごとしながら作るものじゃないの」

ハーフエルフ娘「じゃあもういい!」バッ

ハーフエルフ「こら!何で薬草を放り投げるの!」

ハーフエルフ「お薬は病気で辛い人を元気にするために作るの。そのために、まず辛い人を元気にしてくれそうな薬草をきちんと選んで、それを大切に扱ってお薬にするの」

ハーフエルフ「薬草を粗末に扱う人に、お薬を作る資格はないのよ。さ、放り投げた薬草を取ってきなさい」

ハーフエルフ娘「ぅ~~ぅ~~!」トテトテ

ボゴゴゴゴゴゴ……ザパァ!

ハーフエルフ娘「??」

泉の女神?「あ、えっと、あなたが落としたのは、このお花ですか?それとも遠山の金さんですか?それともスリの銀次ですか?」

ハーフエルフ娘「???」

泉の女神?「あの、三択ですよ?選んでください?」

ハーフエルフ娘「????」

ボゴゴゴゴゴゴ……ザパァ!

???「ああもう、何やってんだよ」

泉の女神?「あ、教官代理!授業で習った通り、泉に物が落ちたら3択を…」

教官代理「3択の前に趣旨を伝えろって。この子は完全にキョトンとしてるじゃねえか」

教官代理「あのなあ実習生。3択ってのはこの子が本当に必要なものと、この子がズルして欲しがりそうなものを提示するのが定石なんだよ」

実習生「で、でも、そんな急に言われましても」アセアセ

教官代理「ちゃんと観察してりゃ難しいことじゃねえだろ。例えばこうだ」

教官代理「そこのガ…少女よ。あなたが落したのはこの小さなお花ですか?それとも命が復活する金のお花ですか?それともすべての病が治る銀のお花ですか?」

実習生「あのぉ…」

教官代理「何だよもう」

実習生「本来の教官だった泉課長が、今日ここに来られずに教官代理を頼んだのって、多分その金と銀のお花が原因ですよ」

教官代理「んっ? どういうことだ?」

実習生「何だか先月末の部内の棚卸で、高価な花がなくなっているのに気付いた女神部長が激怒して、泉課に緊急の実地棚卸を命じたとか…」

教官代理「げっ、ボスが、激怒…」

実習生「あの、そのお花、早く元に戻した方が…」

教官代理「な、何を言うか。あたしは人間界事業部長。部下であるボスの言う事にいちいちビクビクなんて…」

実習生「…分かりました。さあ、そこの少女よ、今こそ3択を「まあ待て!」

実習生「えぇっ!?」

教官代理「まあ、その花はまた今度にしようじゃないか」

実習生「あぁ?何ですか?結局女神部長が怖いんじゃないですか」

教官代理「ば、馬鹿なことを!これは…そう!あたしの言う通り3択を示しても、お前のためにならないだろ?そういうことだ、うんうん」

実習生(人間界事業部長がこんな残念な人で、天界はいいのだろうか…?)

ハーフエルフ「あ、あなたは確か…」トトト

教官代理「よお、久しぶりだな」

ハーフエルフ「その節は本当にありがとうございました」

教官代理「元気そうで何よりだ」

ハーフエルフ「ええ、おかげさまで」

教官代理「そうか、なら良かった。泉の女神をやっててな」

ハーフエルフ「ふふ、あなたは(残念な人のままで)変わらないですね」

教官代理「だろ? よく言われんだよ。『あなたの美貌は変わらないですね』って」

実習生(残念なだけでなく痛い人みたいです)チラッ

ハーフエルフ(…みたいね)フフッ

教官代理「おいなんだその悪意しか感じないアイコンタクトは」

教官代理「そこの少女ちゃんは違うもんねー?」

ハーフエルフ娘「こ…こわい。ちかよらないで!」ブルブル

教官代理「…またその反応かよ。もうお姉さん人生に疲れたよ。おい実習生!帰るぞ!」

実習生「はぁ?私の実習は?ちょ…教官代理!」

ゴボボボボボボ…

=完=

「本日の投下は以上です」と言いながら1時間以内に投下を始めるという…
でも、日付は変わったから嘘ではありません。
というわけで、以上であります。

完結しましたので、HTML依頼を行いました。
ご高覧頂きありがとうございました。

完結乙
読めてよかった

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