うしおとセイバー (818)


凛「……告げる。汝の身は我が下に、我が運命は汝の剣に」

凛「聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ」

凛「誓いを此処に。我は常世総ての善と成る者、我は常世総ての悪を敷く者」

凛「汝三大の言霊を纏う七天、抑止の輪より来たれ。天秤の守り手よ……!!」

凛(……間違いなく最強のカードを引き当てた)

ドーン!!

凛「はい?」


凛「え……ええぇぇ!?」


??「やれやれ……。相変わらず人間はやかましいな」



      「うしおととら」×「Fate/stay night」



          『うしおとセイバー』




SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1467519548

このスレは>>1が大昔に建てた、うしお「聖杯戦争?」というスレの内容を書き直したものです。
アニメ「うしおととら」の最終回の熱さにやられて、どうしても書き直したくなったので建てました。
完全に自己満足スレとなっております、その為もちろんのことsage進行で行きます。
皆様とアニメうしとらの感想など言い合いながら、まったり進行で行ければと思います。
それでは、よろしくお願いいたします。

ttps://www.youtube.com/watch?v=3iC5uEYtlZM

ttps://www.youtube.com/watch?v=Qy7Q77ZD_ME



【第一話 始まりの日 】



・潮の部屋


桜「蒼月君、そろそろ起きないと遅刻してしまいますよ」

うしお「……う……ん? あぁ、桜姉ちゃん。おはよう」

桜「おはようございます。蒼月君」



・蒼月家居間


うしお「はー、ごちそーさん」

桜「蒼月君。お茶をどうぞ」

うしお「それにしても親父と母ちゃんが総本山に行ってるからって、桜姉ちゃんに毎日ご飯作ってもらっていいのかなァ」

桜「気にしないで下さい。私も蒼月君にお礼がしたいんですから」

うしお「お礼って、オレが桜姉ちゃんの兄貴を止めた事かい?」

桜「はい。兄さんが弓を持ったばかりの男子を見世物にしていたのを、蒼月君が止めてくれましたから」

うしお「オレ、ああいうのは見てらんねえからさ」

桜「……はい」

うしお「……あ、あーー!? もうこんな時間だ!!」

桜「えっ、あ、そうですね。早く片付けましょう」



・遠坂邸


??「おい、人間の女ァ」

??「わしは早く強えヤツとやりてえのよ」

??「おい人間の女。聞いとんのか、人間の女」


凛「あーーもう!! この『とら』!!」


凛「アンタねぇ、私はマスターなのよ!?」

とら「あぁ? それがどうした、人間の女」

凛「あ……あったま来たーーッ!! 私のことはマスターって呼べーー!!」

とら「お、おい、おめえ分かっとんのか!? 令呪ってえのは……!!」

凛「うるさいうるさいうるさーーい!!」



・蒼月家玄関


麻子「うしお、また桜先輩に起こしてもらったんでしょ?」

真由子「うしお君が毎日ちゃんと起きてるなんて珍しいもんね~」

うしお「な、なにをーー!!」

麻子「そ、それよりあんた、おじさんとおばさんが居ないからって桜先輩に……」

麻子「や、やや、やらしいことしてないでしょーねーっ!?」

うしお「な、なに言ってるんだよ麻子ーーっ!?」


真由子「本当二人とも朝から仲いいんだからぁ」

桜「ふふっ」



・交差点


真由子「それじゃまた後でね。キリオ君」

キリオ「うん、お姉ちゃん」

うしお「キリオまたなーっ!」


キリオ「あっ、うしお兄ちゃん」

うしお「ん? どうしたキリオ」

キリオ「……うん」

キリオ「前から真由子姉ちゃんを狙ってる組織や協会がいるのは話してると思うんだけど、昨日の夜にも来たんだ」

うしお「なに!?」

キリオ「でも、昨日の奴は……。ちょっと違ったよ」



・キリオ回想


??「へぇ、ガキのくせに中々やるじゃねぇか」

キリオ「お姉ちゃんは、僕が守る」

??「嬢ちゃんからとんでもねぇ力を感じるが、魔術師ってワケじゃなさそうだ」

キリオ「ま、待て!!」

??「悪いな。ウチの雇い主がお前とは戦うなってよ」


キリオ「そいつは、『赤い槍』を持った男だったよ」

うしお「赤い……槍……?」



・穂群原学園校門


うしお(……『槍』か……)

麻子「どうしたのよ、うしお」

うしお「なんでもねえよ」


凛「…………」

うしお「ん?」


桜「蒼月君? 遠坂先輩がどうかしたんですか?」

うしお「遠坂先輩?」

麻子「あんた遠坂先輩知らないの!?」

真由子「遠坂凛先輩。容姿端麗、頭脳明晰、悪い噂は全くなくて男子生徒の憧れの的らしいよ~」

うしお「へぇ、そんな先輩がいたのかァ」



・穂群原学園屋上


凛「とら。他のサーヴァントの動きは分かる?」

とら「けっ、わしはそんなことは出来んぞ『ますたー』」

凛「そうよね」

凛(……まさか、二年前に蒼月君と一緒に白面の者から世界を救った妖怪の英霊を召喚しちゃうなんてね……)

とら「おい、ますたー。わしは早く他のヤツらをぶっ飛ばしてえんだ」

凛(しかも、召喚の失敗で二年前のことは忘れてる……)

凛「分かったわ、とら。私に付いて来て、様子を探りに行きましょう」

凛(だけど、最強のカードであることは間違いないわ)



・交差点


うしお「槍の男のことを考えてたら、一日終わっちまった……」

うしお「もう一回キリオに話を聞きに行くかァ」

うしお「ん?」


??「フフッ」

??「早く呼び出さないと死んじゃうよ、お兄ちゃん」


うしお「えっ!?」



・ビル屋上


凛「とら、この街を見ても何も思い出さない?」

とら「なぁんにもな」

凛「そう……」

とら「わしは記憶なんかどうでもいい。他の奴らをぶっ倒すだけよ」

凛「そうね、あなたの記憶がなくても関係ない。私は『聖杯戦争』に勝つだけよ」

とら「へっ、それでいいのよ。ますたー」

凛「覚悟は出来ているわ。とら」



【第二話 運命の夜 】



・交差点


うしお「キリオ。昨日の夜は大丈夫だったのか?」

キリオ「うん、何もなかったよ」

うしお「そうか、それならいいんだけどよ」


うしお(あの女の子はなんだったんだ……)


麻子「コラーっ!! うしお遅刻するわよーっ!!」

うしお「今行くってーの!!」



・穂群原学園屋上


凛「とら、気づいてる?」

とら「あぁ」

凛「近くで敵の気配がするわ。私達をずっと見てる」

とら「けっ、もったいつけやがって」

凛「面白いわ。人がいなくなるまで様子を見ましょう」



・穂群原学園屋上


とら「来たかよ。暗くなるのを待ってやがったな」

凛「凄い殺気……」


??「いい夜だな。そこの妖(バケモノ)もそう思うだろう?」


凛「とらが見えてる!? コイツ、やっぱりサーヴァント!!」

??「そういうこと。で、それが分かるお嬢ちゃんはオレの敵ってことでいいんだなぁっ!!」

凛「とら!!」

とら「へっ、やっと遊べらァ」

??「ほう、話が早くていいねぇ。そうでなくちゃ」

凛「槍使い、ランサーのサーヴァントね」

ランサー「いかにも。まさか妖の英霊がいたとはな。まぁ、出会ったからにはやるだけだ」



・穂群原学園屋上


ランサー「チィッ」

とら「おおおおお!!!!」

ランサー「ぐっ、これ程とはな……。すぐに撤退命令が出るはずだ」

とら「逃がすかよーーっ!!」

ランサー「へっ、いいのか? お前の雷のおかげで人が集まって来てるぜ」

凛「と、とら!! ダメよ、今、人に見られるワケには……」

とら「けっ、しくじったか。ますたー乗れ!!」



・蒼月家付近上空


ランサー「あのヤロウ、こっちはバケモノとやりあった後だってのに……」

ランサー「魔力を感じたから見て来いとは、人使いが荒すぎるんじゃねーか」

ランサー「あの寺か」


ランサー「……なるほど。微弱だが魔力を感じる」



うしお「また桜姉ちゃんに晩飯作ってもらっちまったなァ」

うしお「ん? 蔵の方に誰かいる……?」

うしお「桜姉ちゃんは今帰ったし、照道さんも夕方に帰ったから……」


うしお「だ、誰だ!!」


ランサー「見られたか……」

ランサー「ま、運がなかったな坊主。見られたからには死んでくれや」


うしお「赤い、槍!?」



ランサー「ハァッ!!」

うしお「うわああああ!!」


ランサー「……おいおい。まさか蔵の中に隠れたつもりか?」


うしお(あ、あれがキリオの言ってた赤い槍の男……)

うしお(オヤジもいねえのにどうすりゃいいんだ……)

うしお(この地下室もすぐにバレちまうよ……)



うしお「……そういや『アイツ』と出会ったのはここだったなァ」



ランサー「へぇ、地下室なんてあるのか」



うしお「!?」

ランサー「鬼ごっこは、ここまでだ」

ランサー「ひょっとするとお前が七人目だったのかもな」

うしお「七人目……? 何のことだが知らねえけど……」


うしお「オレは……負けねえぞ!!!!」


??「はぁっ!!!!」


ランサー「な……なに!? コ、コイツは……!?」



・蒼月家付近上空


凛「やっぱりあの場所から魔力を感じるわ」

とら「さっきの槍使いかよ?」

凛「そこまでは分からないけど、もしかしたらサーヴァント同士で戦ってるのかも」

とら「へっ、面白え。二匹いっぺんに相手してやるぜーーっ!!」

凛「ちょ、ちょっと、とらっ、飛ばしっ、過ぎっ」



うしお「え……あ……」


??「サーヴァント、セイバー」


セイバー「召喚に従い、参上した」


セイバー「問おう」


セイバー「貴方が私のマスターか」



【第三話 開幕 】



うしお「うわああああ!! なんだなんだ姉ちゃんなんだ!?」


セイバー「これより我が剣は貴方と共にあり、貴方の運命は私と共にある」

セイバー「ここに契約は完了した」

セイバー「先程の敵がまだ外にいるようです。マスターはここに」


うしお「あっ、ね、姉ちゃん!!」


うしお「行っちまった……」



ランサー「……かわしたな。我が必殺のゲイボルクを」

セイバー「ゲイボルク……。御身はアイルランドの光の御子か?」

ランサー「ドジったぜ。コイツを出すからには必殺でなけりゃヤバイってのに」

ランサー「今日はバケモノの相手をやらされたりと、厄日だな」

セイバー「バケモノ……?」

ランサー「おっと、あまり喋ると雇い主がうるさいんでね」

セイバー「逃げるのか?」

ランサー「追って来るなら構わんぞ。ただし、その時は決死の覚悟を抱いて来い」


うしお「姉ちゃん!! さっきはサンキュ、じゃなくて槍で刺された傷は!?」

うしお「あれ、治ってる……」

セイバー「いえ、これは自動修復で外面を覆っただけです。マスター、傷の治療を」

うしお「そ、そうだよな、待っててくれ!! 家から救急箱持って来るよ!!」

セイバー「マ、マスター!? そういう意味ではなく……」


セイバー「あと一度の戦闘なら支障はない、か」



うしお「あれ、いない。どこに行ったんだ……?」


セイバー「はぁぁぁぁ!!」

とら「へっ!! 大陸の剣使いか!!」

セイバー「獣のサーヴァントは初めて見ました」

とら「最初で最後にしてやるよォ!!」


うしお「おーーい!! 姉ちゃーーん!!」


セイバー「ダメですマスター!! 下がってください!!」

凛「あっ、まっずい……!! とら、引くわよ!!」

うしお「と、遠坂先輩!? そ、それに……」


とら「あ?」

うしお「……!?」



・蒼月家居間


凛「どう? これで大体の説明は終わりなんだけど」

うしお「魔術師による聖杯戦争、七人のマスター、七騎のサーヴァント……」

うしお「勝ち残った組は、聖杯で望みを叶える事が出来る、か……」

とら「ますたー、やめときな。コイツ頭悪そうな顔してるぜ」

うしお「とら!! なにをーーっ!!」


うしお「とら……。オレを、覚えてないのかよ?」

とら「けっ、おめえなんか知らねえよ」


うしお「とら……」

凛「…………」

凛「さて、そろそろ行きましょうか」

うしお「行くって、どこへだい?」

凛「この戦いを監督してる奴の所よ」



・大橋歩道橋中央


凛「ねぇ、もう少し目立たない服なかったの?」

うしお「セイバー姉ちゃんが鎧のまま着れる服なんて、この徳野さんのコートしかないからなァ」

セイバー「私のことは気にしないで下さい。マスター」

凛「蒼月君がセイバーを霊体化出来ないから仕方ないとはいえ、目立つわね……」



・言峰教会


凛「七人目のマスターを連れて来たわよ」

うしお「この人が、言峰神父さんかい?」

言峰「……ほう。現代の英雄が過去の英霊を召喚したか」

うしお「え、英雄なんて呼ぶのはやめてくれよーーっ!!」


凛「それで、これはどういうことなの。蒼月君は魔術師じゃないわよ」

言峰「フッ、忘れたのか凛。マスターとサーヴァントは己の境遇に強く影響する」

凛「……そうか。あのセイバーも蒼月君と同じく国や人々を救った英霊……」

言峰「そういうことだ。蒼月潮ならば英霊を召喚することに魔術師かどうかなど問題ではない」

言峰「この聖杯戦争に巻き込まれたのも、必然と言ってもいいほどの逸材だ」



言峰「改めて聞こう蒼月潮。選ばれしマスターとして、この聖杯戦争を戦う意志があるや否や」

うしお「あぁ、戦うよ」

うしお「俺は魔術師じゃないし、聖杯も英霊も何も知らねえさ」

うしお「でも遠坂先輩に聞いたんだ、サーヴァントってのを使って人を襲ってる奴がいるんだろ?」

言峰「そのような行為をしているマスターがいる事は、魔術協会としては不本意だがね」

うしお「そんなの聞いちまったら、もう黙って見てるなんて出来ねえよ!!」

言峰「うむ……」

凛「決まりね。さ、帰りましょ」


言峰(……蒼月潮。蒼月紫暮の息子がマスターになるとは、フフ……)



・街路


凛「これで義理は果たしたわ」

うしお「サンキュ、遠坂先輩」

凛「いいのよ。とらを召喚した縁もあるしね。何も知らずに死なれちゃ私の夢見が悪いもの」

うしお「遠坂先輩って、いい人だなァ」

凛「な、なな……て、手は抜かないわよっっ」

セイバー「……マスター」


??「こんばんは、お兄ちゃん。こうして会うのは二度目だね」



【第四話 最強の敵 】



うしお「あの時の女の子……?」

??「初めまして、リン。私はイリヤ」

イリヤ「イリヤスフィール・フォン・アインツベルン、って言えば分かるでしょ」

凛「アインツベルン……。とら!!」

とら「けけ、あーあ。退屈だったぜ」

うしお「遠坂先輩!? 何を!?」

凛「あいつはアインツベルン……。私たちの敵よ」

うしお「敵って……あの女の子が聖杯戦争のマスターの一人……!?」

とら「鈍いよなァ、剣使いの主はよ。もう戦争は始まってんのよ」

セイバー「そういうことです、マスター」



イリヤ「それがリンのサーヴァント? へぇ、噂通り本当に凄いのを召喚したのね」

凛(……まさかドジったおかげで、この『とら』を召喚出来たなんて言えないわね……)

バーサーカー「…………」

とら「わしに用があるのか。いいぜ、相手になってやらァ」

セイバー「分かるのですか?」

とら「奴の眼は常にわしを捕らえてるのよ。何かあるな」

セイバー「なるほど……」

とら「剣使い、手は出すなよ。奴はわしの獲物よ」

セイバー「分かりました。私としては共倒れを希望しますが」

とら「奴の次はおめえよ、剣使い」


イリヤ「……挨拶はもういいよね。どうせここで死んじゃうんだし」

イリヤ「じゃ殺すね。やっちゃえ!! バーサーカー!!」



とら「おおおおお!!!!」

バーサーカー「ガアアアア!!!!」


凛「とら!!」

うしお「これが、聖杯戦争か……!!」

セイバー「獣のサーヴァントが押しています」

セイバー「ですが、何かおかしい……」


イリヤ「やっぱり、言われたとおり使うしかないかな」

凛「えっ……」

イリヤ「リン。確かにリンは凄いサーヴァントを召喚したよね」

イリヤ「けど、それを知ったアインツベルンが何も対策をしないと思っていたの?」

イリヤ「カヅチ!!」

華鎚「…………」
華鎚「…………」

とら「ぐあああああ!! こ、こいつァ!?」



凛「とら!?」

うしお「なんであの妖がこんなところに!?」

イリヤ「フフ、お兄ちゃんには懐かしいかもね」

イリヤ「リンは知らないだろうから教えてあげる」

イリヤ「このカヅチは『結界自在妖』っていって、一体で四百二十体の妖怪を止められるの」

凛「四百二十!? それを二体も操ってるっていうの!?」

イリヤ「あの『決戦』で使われた妖怪たちの秘密兵器も、今はアインツベルンの秘密兵器ってことね」

とら「ぐあああああ!!」

うしお「とら!!」

イリヤ「もう終わりだね。やっちゃえ!! バーサーカー!!」



バーサーカー「ガアアアア!!!!」

セイバー「くっ、強い……!!」


とら「おい!! この結界を壊すんだよ!!」

凛「今やってるわよっっ!!」


イリヤ「やっちゃえやっちゃえーー!!」

イリヤ「ぁ……」

うしお「血が流れて……。もしかして怪我してんのか!?」

イリヤ「傷が開いただけ。こんなの、何ともないんだから」

うしお「なんだよそれ……。やめろよ……」

イリヤ「えっ……」

セイバー「マスター!! 敵のマスターは危険です!! 離れてください!!」

うしお「やめろよ!! なんでこんなことすんだよ!!」

イリヤ「……!?」

うしお「あっ、そうだ。誰かに命令されてるんじゃないか!?」

イリヤ「…………」

うしお「な、そうだろ。こんな女の子が戦いたがるワケねえよな」



イリヤ「もう、いい……。こんなの、つまんない」

うしお「えっ」

イリヤ「バーサーカー、カヅチ」

バーサーカー「…………」

華鎚「…………」
華鎚「…………」

イリヤ「リン。次に会ったときは殺すから」



凛「とらの情報は筒抜けってことか……」

とら「けっ……」

凛「アインツベルン……。この借りは、必ず返すわよ」

セイバー(……アインツベルン、か……)

うしお「本当にあんな女の子まで、聖杯戦争に参加してるってのかよ……」



・交差点


凛「それじゃあね。蒼月君」

うしお「あぁ、遠坂先輩。またな!!」

凛「……これから私達は、聖杯戦争の敵同士なんだけど」

うしお「オレは敵だなんて思ってないさ」

凛「はぁ……。蒼月君には何を言っても無駄みたいね」


とら「くく、おめえら頑固なところは似てるじゃねえのよ」

凛「な、なんですってーー!!」


うしお「セイバー姉ちゃん、オレ達も帰ろう」

セイバー「はい、マスター」



・蒼月家玄関前


うしお「あ、そうだ。オレのことはマスターじゃなく『うしお』って呼んでくれよ」

うしお「皆そう呼んでるしよ、マスターって呼ばれるのはなんだか恥ずかしいよ」

セイバー「ウシオ、ですか。分かりました。ええ、私にはこの発音のほうが好ましい」

うしお「オレもセイバーって呼んでいいかい?」

セイバー「もちろんです。真名ではありませんが、今の私はセイバーですから」

うしお「真名……。セイバーの過去の本当の名前かァ」

うしお(でも、オレが出会ったセイバーは今のセイバーだ)

うしお(オレをランサーから助けてくれたのは、今ここにいるセイバーなんだから)

うしお(『アイツ』がシャガクシャでも字伏でもないように……。それなら名前は……)


うしお「オレは魔術師じゃないし分からないことばかりだけど……」

うしお「よろしくな、セイバー!!」

セイバー「こちらこそ、よろしくお願いします。ウシオ」



【第五話 うしおとりん(前編) 】



・穂群原学園廊下


うしお「あっ、遠坂先輩!!」

うしお「探してたんだよ、ちょっと聞きたいことがあって……」


凛「…………」


うしお「あ、あれ……」

横尾「お、おい!! うしお、お前遠坂先輩と知り合いだったのか!?」

厚池「中村サンや井上サンだけじゃ飽き足らず遠坂先輩までも!!」


うしお「う、うーん、聞こえてなかったのかなァ」



・穂群原学園屋上


とら「あいつ、おめえを探しとんのか」

凛「ええ、そうみたいね」

とら「剣使いの女もいねえ。殺るなら今なんじゃねえか」

凛「分かってるわ」

とら「ますたーが殺りたくねえなら、わしが」

凛「それだけは止めて。私、貴方達が戦うところなんて見たくないのよ」

とら「けっ、わしとあいつが何だっていうんだ」

凛「行って来るわ、とら。これは遠坂として私がつけるべき、けじめよ」



・穂群原学園階段


うしお「遠坂先輩!! やっと見つけた。オレずっと探してたんだぜ、あのさ」

凛「蒼月君、自分がどれだけおバカさんか分かってる?」

うしお「えっ……?」

凛「マスターがサーヴァント抜きで出歩いてるなんて殺して下さいって言ってるようなものよ」

うしお「そうなんだよ。セイバーは霊体化ってのが出来ないからオレどうしたらいいか分からなくてさ」

凛「でしょうね。でも、それで私に頼るのは間違いよ」

凛「言ったわよね? 次に会ったときは聖杯戦争のマスター同士、敵同士だって」

うしお「そんな、まさか……」

凛「私はね、目の前のチャンスは逃さない主義なの」

凛「逃げてもいいけど、勝つのは私なんだから!!」



・穂群原学園廊下


凛「蒼月君!! 令呪を渡しなさい!!」

うしお「う、撃たれた……? 今のが魔術ってやつか!!」

凛「大人しくするなら怪我はさせないわ。抵抗するなら、分かるわよね?」

うしお「なんでオレ達が戦う必要があるんだよ遠坂先輩!!」

凛「聖杯戦争っていうのは、そういうものなのよ……!!」

凛「偶然にも最優のサーヴァント『セイバー』を召喚出来たといっても蒼月君は魔術師じゃない」

凛「この聖杯戦争に勝てる見込みなんてないのよ」

うしお「…………」

凛「だから、私が巻き込まれた戦いから降ろしてあげるわよ!!」



うしお「やっぱり遠坂先輩っていい人だなァ」

凛「な、なに言って……」

うしお「オレに聖杯戦争にはかかわるなって言ってくれてるんだろ?」

うしお「本気で俺の令呪を奪う気なら『とら』に戦わせてるはずだ」

凛「それは……」

うしお「確かに聖杯戦争っていうのは危険なんだと思う。昨日見たサーヴァント同士の戦いを見て思ったよ」

凛「それなら……!!」

うしお「だからこそ、サーヴァントを使って何か企んでるヤツがいるのを見過ごせねえよ!!」

凛「っ……!!」

うしお「これだけ近づけば、さっきのは撃てないはず……!!」

凛「私の魔術を見て、距離を詰めたのは褒めてあげるわ。でも残念ね……!!」


凛「八極拳っていうんだけど、蒼月君は知ってるかしら……えっ!?」


うしお「遠坂先輩って、拳法も使えるのか……!!」

凛「ふ、防がれてる……!?」

うしお「ありがとよっ!! 麻子のおじさん!!」

凛「空手……!?」



凛「はぁはぁ……。私の攻撃を全て防御するなんて、やるじゃない蒼月君……」

うしお「ふぅ……。遠坂先輩こそ、魔術よりこっちのほうが向いてるんじゃないかい」

凛「言ってくれるわね……」


うしお「……遠坂先輩。この令呪が必要だっていうなら渡すよ」


凛「それは、どういう風の吹き回しかしら?」

うしお「令呪は渡すよ。だけど一つ条件を聞いてほしい」

凛「条件……?」

うしお「オレに遠坂先輩の聖杯戦争を手伝わしてくれ」

凛「なっ……」

うしお「遠坂先輩は無関係な人を襲うサーヴァントやマスターをほっとくはずがねえ」

凛「それは……私だって見過ごす気はないわ」

うしお「それならオレの聖杯戦争は遠坂先輩を手伝うことさ」

うしお「確かにオレは魔術師じゃないから役には立たないかもしれねえ」

うしお「でも、お役目のおばさんって人が言ってたんだ。みんな仲良くしろってよ」

うしお「人間と妖怪も出来たんだ。オレと遠坂先輩だって、きっと相当強いぜ?」



とら「くく……。おめえの負けよ、ますたー」

凛「とら!? あんたねえ、屋上で待ってろって言ったでしょ!!」

とら「まだ剣使いの主とやるってえのか?」

凛「それは……」

うしお「まだ、戦うのかよ……。遠坂先輩……」

凛「……あーーもう!!」

とら「くく、わしはおめえのことが分かってきたかもしれねえなァ、ますたー」

凛「とらァ!!」

うしお「それじゃ……」


「キャァァァァ!!!!」


うしお「遠坂先輩、今のは!?」

凛「悲鳴、だったわよね」

うしお「くっ……!!」

凛「ちょ、蒼月君!! 場所分かってるの!?」



【第六話 うしおとりん(後編) 】



・穂群原学園廊下


うしお「お、お前は……!?」

??「…………」
女子生徒「…………」

凛「蒼月君!! こ、この感じ、サーヴァント……!?」

とら「このニオイは『馬乗り』か」

ライダー「貴方が噂の『獣』のサーヴァントですか。確かに、いい毛並みをしていますね」

ライダー「しかしここは貴方とやるには場所が悪い。この場は引かせてもらいます」

凛「とら!! 追って!!」

とら「へっ、逃がすかよォ!!」



女子生徒「…………」

うしお「よかったァ。気を失ってるだけみたいだ」

凛「そんなわけないでしょ……」

凛「魔力の源『生命力』を抜かれているのよ。この子、ほっておいたら死ぬわ」

うしお「そ、そんな……!?」

凛「蒼月君、下がって。これくらいなら……」


うしお「ん……? 今、何か光ったような……」

うしお「危ねえーーっ!!」

凛「えっ、な、なに!? 攻撃されたの……!?」

うしお「遠坂先輩!! その子、頼んだよ!!」



・弓道場裏雑木林


うしお「どこだーーっ!? いるんだろ!! 出て来い!!」

うしお「うわぁっ!? は、針!? ど、どこから攻撃してんだ……」


ライダー「驚いた。何故避けれたのですか、貴方は」

うしお「…………」

ライダー「次は、外しません」


うしお(……己の心を細くせよ。川は板を破壊できぬ。水滴のみが板に、穴を穿つ……)


うしお「そこだっ!!」

ライダー「今のを避けましたか……」

ライダー「なるほど、ダテにサーヴァントを連れずに歩いているワケではないのですね」



ライダー「当たらないなら、近接の攻撃手段に変えるまでです」

うしお「ライダーとか言ったな、来るなら来い!!」

ライダー「それは、ランサーの真似事ですか」

うしお「お前を追ってる最中に壊れたホウキを拾ったんだ」

ライダー「そんな『木の棒』で私と戦えるとでも?」

うしお「やってみなきゃわかんねえさ。でも、負ける気はねえぜ……!!」



ライダー「くっ……。貴方は、本当に人間ですか」

うしお「オレは人間だよ!! 蒼月潮ってんだ!!」

うしお「ちょっとだけ『木の棒』の扱いが得意な高校生さ!!」


とら「馬乗りがァここかァ!!」


うしお「とら!?」

ライダー「私が創った偽者を追わせていたはずですが、倒されましたか」

ライダー「獣のサーヴァントに気付かれる前にマスターを始末するつもりでしたが仕方ありません」

うしお「ライダー!! どこに行ったんだ……!?」

ライダー「今回はさすがに分が悪いようです」

とら「チィ!! 馬乗りめえ、逃げ足が速えかよ……!!」



凛「蒼月君!! 大丈夫!?」

うしお「オレは大丈夫さ。遠坂先輩、あの子は!?」

凛「安心して。どうにか持ち直したわ」

うしお「よかったァ……」

凛「……今のが学校に結界を覆ってるサーヴァントみたいね」

うしお「結界?」

凛「それもかなり悪質なね。学校の生徒を生贄にしてサーヴァントを強くするっていう最悪な結界よ」

うしお「生贄って……。学校には麻子たちや他のみんなも大勢いるんだぜ!?」

うしお「そんなこと絶対やめさせないと!!」

凛「ええ、勿論よ。結界の発動は止めてみせる」

うしお「遠坂先輩、やっぱりオレたちで争ってる場合じゃねえよ!!」

うしお「オレたちで一緒に結界を止めよう!!」


凛(……本当、真っ直ぐね……)

凛(……あの時から、変わらない……)

凛(……あの時から……)



「この公園は今からオレたちのものだァ!!」

「なによう、後から来てどけってことないでしょー」

「あ、あさこ、やめなよう」


「子供同士の喧嘩か。子供でも巻き込まれると危険だな。二人とも、葵さんのところに戻ろうか」

「は、はい、雁夜おじさん……」

「……………………」

「凛ちゃん……?」



「どけよ、おとこおんな!!」

「きゃ」


「麻子になにすんだよ!!!!!!」


「こ、こいつ、下級生のくせに……」

「みんなでこいつをやっちまえ~~!!」


「うしお!! 一人じゃ大変そうだな!!」

「士郎!?」

「後ろは任せろ、うしお!!」

「行っくぞーー!! 士郎!!」



「お、お前ら、覚えてろよ~~!!」


「ふ、二人とも大丈夫……?」

「このくらい平気だい」

「うしおは本当に『正義の味方』みたいなヤツだよなァ」

「正義の味方? なんだよそれ、そんなんじゃねえやい」

「……………………」

「ふん。オレはただ、あいつらが前から気に入らなかっただけさ」



うしお「遠坂先輩!!」


凛(……真っ直ぐに目を見るわね……)


凛「分かったわ蒼月君。それじゃ私と休戦協定を結びましょ」



・間桐邸


ライダー「…………」

慎二「邪魔が入ったな」

ライダー「…………」

慎二「まぁいいさ。遠坂も蒼月もそんな簡単に殺しちゃ面白くない」

ライダー「…………」

慎二「アイツらも、あの女と一緒に結界で殺してやる」

慎二「中村麻子……。後悔させてやるよ、この僕の誘いを断ったことを……」

ライダー「…………」

慎二「ハハ、ハハハハ!!」



【第七話 蠢動 】



・蒼月家居間


セイバー「それではウシオ、これからはリンと手を組むと」

うしお「あぁ、学校の結界をなんとかしねえとな」

セイバー「それは分かりました。ですがライダーと戦ったときに私を呼ばなかったことには納得出来ません」

うしお「呼ぶって……。あっ、令呪か!! 忘れてた!!」

セイバー「わ、忘れて……」

凛「蒼月君に何を言ってもダメよ、セイバー」

凛「あの時はライダーを追いかけることしか考えてなかったみたいだから」

セイバー「それでは困るのですリン!! リンからも何か言ってやって下さい」

うしお「わ、分かったよセイバー!! 次は絶対呼ぶからさっ」

セイバー「そうして下さい、ウシオ」

凛「さてと、それじゃ話が一段落したところで。私の部屋、決めさせてもらおうかしら」

うしお「えっ……?」



凛「うん。まぁ、これなら何とかいけそうね」

うしお「本当にウチに泊まるのかい!?」

凛「勿論よ。休戦協定を結んだんだから、お互いを守るのは当然でしょ?」

うしお「だ、だからって……」

凛「それとも蒼月君は、他のマスターに寝込みを襲われてもいいって言うの?」

うしお「そりゃ家に遠坂先輩がいてくれたら心強いけどさ……」

凛「なら問題ないじゃない。私もとらとセイバーに守ってもらえるなら安心だしね」

うしお「い、いいのかなァ……」

セイバー「部屋に関しては私からも要望があります。私はウシオと同じ部屋で寝るべきだと思う」

うしお「な、なに言ってんだよセイバー!?」

凛「夕食の当番は交代性にしましょ。今日は挨拶代わりに私が作ってあげる」

うしお「えっ!? オ、オレは『ジェットサンダーラーメン』しか……」

凛「……分かった。全部私が作ってあげる」

セイバー「話を切らないでもらいたい。私の部屋の問題に結論が出ていない」


ピンポーン



・蒼月家玄関


凛「いらっしゃい」

桜「遠坂、先輩……? なんで……」

凛「私、ここに下宿することになったの」

桜「え……」

うしお「桜姉ちゃん!! こ、これは、その、つまり……」

凛「これは私と『うしお』君が決めた事よ。もう決定事項なの、間桐さん」

桜「決定事項……」

凛「ここには来ない方があなたの為よ」

桜「……私には、遠坂先輩の仰る事が分からないです」

凛「そう、なら分かるように説明してあげるわ」

うしお(……な、なんだか変なことになってきたなァ……)



麻子「うしおーっ。また母さんが色々作ってくれたわよーって、遠坂先輩?」

真由子「うしお君。私のおかーさんからも……あ、桜先輩」

セイバー「ウシオ、リン。騒がしいようですが何かあったのですか」

キリオ「外国の、女の人……」

麻子「ちょっとうしお、これどうなってるのよ?」

うしお「それは、今日から二人が下宿することに、なったから、かな……」

麻子「な、なによそれーーっ!!」



・蒼月家居間


麻子「ちゃんと説明しなさいよ!! うしおーーっ!!」

うしお「イテテテ!!」

真由子「あ、麻子~~!!」

桜「中村さん、落ち着いて……」

うしお「わ、分かったよ!! 全部話せばいいんだろーーっ!?」

凛「ちょ、ちょっと、うしお君!?」

うしお「遠坂先輩、こいつらも学校の生徒なんだ。結界と無関係じゃない」

凛「そうだとしても聖杯戦争は他人に知られてはいけないのよ。話すことは出来ないわ」

うしお「こいつらに隠し事したくねえんだ。頼むよ」

凛(……あーっ。もう……)

凛「……この子たち以外は他言無用。いいわね?」

うしお「サンキュー遠坂先輩!!」



キリオ「……それじゃ僕が戦ったのはランサーって奴だったんだね」

うしお「あぁ、赤い槍の男はランサーだったよ」

麻子「本っ当っ、あんたは……!!」

うしお「だ、だってよォ」

真由子「あの、遠坂先輩……」

真由子「遠坂先輩の、その『サーヴァント』は今この部屋にいるんですか?」

凛「え? あぁ、とらなら家の周りを見てもらってるわ」


凛(……とら、戻って来てくれる)

とら(ああ? 周辺を警戒しとくんじゃなかったのかよ)

凛(それはいいから、早く。霊体化もしなくていいわ)


とら「おい。何がどうなってやがる」

真由子「……………………」



凛「井上さん、これで私たちの話を信じてくれるかしら……え?」

真由子「とら……ちゃん……」

とら「な、なんだァ!? この女、泣いてやがんのか」

麻子「真由子!!」

真由子「あ、麻子ぉ……とらちゃんだよ。とらちゃんが帰って来てくれたんだよ」

麻子「うん、うん。そうだね、真由子」


とら「ますたー!! わしはもういいだろ!!」

凛「あ、とら!!」

とら(……なんだ、急に、頭に、何か……くそォ、思い出せん……)



凛「……井上さん、今の話は本当?」

真由子「はい。最近学校で落書きを見つけたんですけど、私以外には見えてないみたいで……」

うしお「それって、もしかして……」

凛「その場所を明日の放課後教えてもらえるかしら」

真由子「あっ、はい。遠坂先輩」

桜「…………」

うしお「桜姉ちゃん。大丈夫かい? ずっと黙ったままだけどよ」

桜「えっ、あ、大丈夫ですよ。ちょっと色々、驚いてしまって……」

うしお「そりゃそうだよな。オレもいきなり魔術師なんて言われて驚いたさ」

うしお「桜姉ちゃんもオレたちと同じで、魔術師も聖杯戦争も知るワケないもんなァ」

桜「は、はい、そうですね……」

凛(……桜……)



・蒼月家玄関


うしお「桜姉ちゃん、真由子、キリオ。また明日なーーっ!!」


麻子「あなたが、セイバーさん?」

セイバー「はい。セイバーはクラス名で真名ではありませんが、そう呼んでいただきたい」

麻子「あの、あいつはバカで考えなしで落ち着きなくって、ケンカっ早いから……」

麻子「セイバーさん、守ってあげてもらえますか」

セイバー「……はい。騎士の誓いにかけて」


麻子「うしおーーっ!! 遠坂先輩とセイバーさんに何かするんじゃないわよーーっ!!」

うしお「な、なにもしねえよーーっ!!」


セイバー「彼女も、いい人柄をしている」



【第八話 不協の旋律 】



・放課後


真由子「うしお君、遠坂先輩を呼んできて」

うしお「よーし、遠坂先パーイ!! 次はこっちだーーっ!!」

凛「ちょ、ちょっと待ってよ。こっちの呪刻もまだ壊してないんだから」


凛「ふぅ……」

凛「それにしても井上さんがこんなに行動的だとは思わなかったわ」

とら『さぁな。「泥なんて何だい」ってヤツだろ』

凛「何、それ?」

とら『けっ、知らねえよ。あの女を見てたらそんな言葉が……』

凛「とら……?」

とら(わしは、何かを忘れとるのか……)



とら「おい、女」

真由子「とらちゃん、私の名前は『まゆこ』だよ?」

とら「名前なんかどうだっていいんだよ」

真由子「ふふ、前にもこんなことあったね」

とら「それよりわしはおめえがなんなのか知りたいのよ」

真由子「私?」

とら「おめえはわしのことをよく知っとるようだ」

真由子(……本当に、覚えてないんだね。『誓って』くれたことも……)

真由子(ううん。こうして戻って来てくれただけで、私は……)

とら「おい、どうした」


真由子「……私はね……」


真由子「とらちゃんの『でざぁと』なの」



とら「で、でざ……?」


凛「井上さーん! とらー!」


真由子「遠坂先輩たちが呼んでる。行かなきゃ」


真由子「思い出してね、とらちゃん」

真由子「また食べないうちにどっか行っちゃ、やだよ」


とら「ワケが分からん……」

とら「ちょーしのくるう女だ……」



・蒼月家居間


凛「まぁ、あれだけやれば十分でしょ」

凛「相手は結界の呪刻を一日で破壊されるとは思っていないはずだから、きっと何かアクションを起こすわ」

セイバー「その時が、結界を張るサーヴァントを倒す機会ということですか」

凛「そうなるわね」

うしお「あぁ、絶対に結界をやめさせるんだ……!!」



うしお「そういえば遠坂先輩、隣町の柳洞寺に外国の人が来てるらしいよ」

凛「柳洞寺に外国の?」

うしお「あぁ、麻子が青鳥軒に来たお客さんに聞いたって言ってた」

凛「怪しいわね。でもマスターならあんな目立つ場所を陣取るなんてありえないわよ」

セイバー「いえ、リン、それには異論があります」

セイバー「あの寺院は堕ちた霊脈、魂を集めるには絶好の拠点なのです」

凛「えっ……!?」

うしお「そうなのか!?」

セイバー「はい、今夜にでも調べに行きましょう」

うしお「ま、待ってくれよセイバー。まだその人がマスターって決まったワケじゃねえだろ?」

凛「そうね。それにもし本当に敵のホームなら、どんなサーヴァントがいるか分かるまで待つべきよ」

セイバー「ウシオ……リン……。分かりました……」



・蒼月家蔵前


セイバー「…………」

とら「…………」

セイバー「獣のサーヴァント、私を止めるつもりか?」

とら「タコが、止めねえよ」

とら「一人で行く気か?」

セイバー「…………。私は一人で戦い、勝利し、帰ってくる」

セイバー「ずっとそうしてきた。今までも、そして、これからもです」

とら(一人で、か……)

セイバー「では、私は行きます」

とら「けっ……!!」

セイバー「な、何故です!? 貴方がついて来る理由はない!!」

とら「うるせえっ!!」

とら「わしはおめえが負けるところを見て笑いてえだけよ!!」

セイバー「……もし邪魔になるようなら、貴方から斬り捨てます」

とら「やってみなァ!! そん時ゃ返り討ちよォ!!」

すみません<(_ _)>
このスレは諸事情から来月から再開しようと思います<(_ _)>
待っている方がいましたら本当にすみません<(_ _)>



【第九話 雷下流麗 】



・柳洞寺山門


セイバー「柳洞寺、ここだな。ん……?」

??「………………」

とら「におうぜ。人間じゃねえな」

セイバー「……お前は?」

??「アサシンのサーヴァント『佐々木小次郎』」

セイバー「ッ……!? ……これは、参りました……」

セイバー「名乗られたからには、こちらも名乗り返すのが騎士の礼です」

アサシン「そうか、名乗れば名乗り返さねばならぬ相手であったか」

アサシン「それは失礼をした。詫びよう、セイバー」

セイバー「何を……」

アサシン「真名など知らずともよい。我らにとって敵を知るにはこの刀だけで十分」

とら「へっ、面白えヤツだな」

アサシン「元よりサーヴァントとはそういうものであろう。違うか、『長飛丸』」



セイバー「ナガトビマル……?」

とら「……おめえ、わしを知っとるのかよ」

アサシン「見たことはない。しかし昔話を聞いたことがある」

アサシン「一つの山を拠点とし、近隣の村を全て食い尽くした物の怪がいると」

とら「…………」

アサシン「物の怪は仲間を率いて大変な暴れようだったとか……」

セイバー「そのモノノケが、ナガトビマル……?」

とら「さァな」

セイバー(……そうか、リンの話では記憶が……)

アサシン「私はその山に行ってみたが、そこには一面焼け野原の跡しかなかった」

アサシン「その凄惨な光景を見た私は、いつしか思うようになったのだ……」

アサシン「いつか『物の怪』を斬ってみたい、と」



アサシン「長飛丸、そなたこそ相応しい相手よ」


『わしを長飛丸と呼ぶんじゃねえ』


とら「……今のわしを、長飛丸と呼ぶな」

セイバー「ん……?」


とら「わしは、『とら』だ!!」


セイバー「トラ……」


アサシン「とら、虎、寅……。そうか、確かにそなたを呼ぶには単純だが明確だな」

アサシン「名付けた者は、風情が分かる者と見た」

とら「馬鹿言うんじゃねえよ、アイツがそんなもん分かるワケ……」

とら(……アイツって誰だ……。クソ……)



アサシン「少し話し過ぎたか、そのせいで立ち合いの時間がなくなっては愚の骨頂」

アサシン「さぁ、どちらが相手かな。二対一でも構わんが、そのような無粋な相手ではないと見える」

とら「勘違いすんじゃねえ。今日のわしは高みの見物よ」

アサシン「そうか。ならばセイバーを倒し、高みから引き摺り下ろすまで」

セイバー「そう簡単にいくと思うな。アサシン……!!」

アサシン「では、果たし合おうぞ。セイバー」



アサシン「秘剣、燕返し……!!」

セイバー「……!?」

とら「今の鋭さ、鎌鼬より速えかよ。こいつァただのサムライじゃねえな」

アサシン「ほう。我が秘剣をかわしたか、セイバー」

セイバー「多重次元屈折現象……」


アサシン「フッ……。このような俗世に呼び出された我が身を呪ったが、それも今宵まで」

アサシン「生前では叶わなかった『立ち合い』と『物の怪斬り』が出来るのならば……」

アサシン「呼び出せれた甲斐があるというもの……」


とら「へぇ、わしを、どうするってえ?」

アサシン「燕は斬ったことがあるが、生憎、物の怪はないのでな」

アサシン「長飛丸よ。佐々木小次郎の伝説に物の怪退治を書き加えるのも一興だと思わぬか?」

とら「やってみなァ。おめえの最期は妖に食い殺されたってなるがよォ」



セイバー「待てアサシン。私との立ち合いは終わっていない」

セイバー「それに、今日は高みから見物ではなかったのか?」

とら「けっ、あぁそうだったよ。わしは見物よォ」

アサシン「……ようやくその気になったか、セイバー」

セイバー「あぁ、確かに手加減など許される相手ではなかったようだ」

アサシン「その視えない剣の奥にあるモノ、見せてもらうぞ」


セイバー「我が一撃、受けきれるか。アサシンのサーヴァント!!」

アサシン「この風は……。さながら台風といったところか……!!」


とら「……待ちな。おい、見物客はわしだけで十分よ」

??「……っ」



アサシン「そこまでにしておけセイバー。その剣、盗み見ようとする輩がいるようだ」

セイバー「……なるほど。ランサーにライダー、それに使い魔か……」

アサシン「最良のサーヴァントと、規格外の物の怪のサーヴァントの組み合わせ……」

アサシン「宝具の一つでも知りたいのは、どの陣営も同じということか」

とら「ちまちま敵の情報なんか集めて、なァにが聖杯戦争よォ」

アサシン「……女狐も珍しく注視している、このような無粋な場での立ち合いは望まんな」

セイバー「決着をつけないつもりか、アサシン!!」

アサシン「生憎と私の役目はここの門番でな。この山門を越えるというのなら決着をつけよう」

とら「けけっ、そうかよ」

アサシン「ほう。高見から降りてきてくれるか」

とら「わしは名前や宝具を隠さないといけない連中と違って、誰に見られていようと関係ねえのよ」

アサシン「フフ、あっぱれなり……」

アサシン「……参る!!」

とら「おおおお!!!!」



とら「サムライ、やるじゃねえか……!!」

とら(……こいつァ、わしが今まで戦ったどのサムライより強えぇ……!!)

アサシン「……凄まじい。かような物の怪と手合わせ叶おうとは」

アサシン「フフ、時の果てまで迷い込んできた甲斐もあったというもの」

アサシン「しかし惜しいな。時間切れのようだ」

とら「ああ……?」

セイバー「ぐ……っ……」

とら「おい、剣使い……?」

セイバー「引いてもらおうか……。アサシン、私と決着を……」

アサシン「言ったはずだぞセイバー。そなたとは潔い決着を望んでいると」

セイバー「アサシン……」

アサシン「それに、ここで長飛丸の邪魔が入ったのはそなたにとって僥倖ではないか」

セイバー「くっ……」



とら「サムライ、わしから逃げれるとでも思っとるのかよ?」

アサシン「逃げるつもりはない。だが、そなたはこの山門を越えぬだろうからな」

とら「なにィ……?」

セイバー「……っ……」

とら「おい、剣使い!! なに倒れてやがる!!」

アサシン「セイバーを放って立ち合えば、盗み見の輩がセイバーを襲うだろう」

とら「チッ……」

アサシン「確かにそれでこそ噂に違わぬ物の怪よ」

アサシン「しかしそのような物の怪は『英霊』にはなれぬのではないか」

アサシン「違うか、長飛丸よ」

とら「……そういうとこ、ずっりィよな」

アサシン「フッ……」

とら「それとサムライ。わしを長飛丸と呼ぶんじゃねえ」

アサシン「次の立ち合いを楽しみにしているぞ。長飛丸」

とら「けっ……」



セイバー「はぁ……はぁ……」

とら「おい、剣使い」

セイバー「私のことはいい……。アサシンを追いたければ追え、ナガトビマル……」

セイバー「いや、違うか、今の貴方は……」

セイバー「ト……ラ……」

とら「おめえ……」

セイバー「…………」

とら「だからキレエなんだよ。魔力がなきゃ風も操れねえ人間はよ」



・蒼月家玄関


とら「……ますたー。こいつァどうなってやがる」

凛「多分だけど、宝具をキャンセルしたことによる負荷が身体に影響してるわね」

うしお「セイバー!! セイバー!!」

セイバー「……ウ、シオ?」

凛「気が付いたみたいね」



・蒼月家居間


セイバー「……柳洞寺におもむき、アサシンのサーヴァントと戦いました」

セイバー「トラではない他のサーヴァントの存在に多数気付き、戦いを中断しましたが」

凛「あれ? セイバーってとらのこと、とらって呼んでたっけ?」

セイバー「そ、それは、別に……」

凛「まぁとにかく、柳洞寺にアサシンか」

うしお「……そんな事よりセイバー、何で一人で戦いに行っちまったんだよ」

セイバー「ウシオ、私は……」

うしお「一人で、一人で戦うなんてよォ……そんなのいけねえよ」

凛「待って蒼月君。きっとセイバーにも考えがあったと思うし今夜はもう遅いわ。休みましょう」

うしお「あ、あぁ……」

セイバー「ウシオ……」



【第十話 穏やかな幕間、ブランコのある公園 】



・穂群原学園屋上


(……ウシオ、私は……)


うしお「…………」

凛「こんな所にいたの」

うしお「遠坂先輩……」

凛「セイバーのことを考えてたんでしょ」

うしお「あぁ……。なんでセイバーは……」

凛「サーヴァントにも叶えたい望みがあるのよ」

凛「聖杯を欲するから召喚に応じる、それがサーヴァントなの」

うしお「叶えたい、望み、か……」

凛「あ、そうだ。蒼月君、今日の帰りに買い物頼めるかしら?」

うしお「えっ、あぁ、もちろん行くよ」

凛「それで、買ってきてもらいたい物はね」


うしお(叶えたい望み……。セイバー、それに、とらにも?)



・商店街


うしお「よーし、これであらかた買ったかな」

うしお「この材料だと今日はマーボー豆腐か。遠坂先輩のマーボー豆腐楽しみだなァ」

クイックイッ

うしお「ん?」

イリヤ「ごきげんよう。生きてたんだね、お兄ちゃん」

うしお「うわーーっ!? って、あぁ、なんだあの時の女の子か」

イリヤ「私、イリヤスフィール・フォン・アインツベルン」

イリヤ「長いからイリヤでいいよ。お兄ちゃんはなんて名前?」

うしお「オレのことかい? オレは蒼月潮ってんだ」

イリヤ「アオツ、キウシオ?」

うしお「言い難いなら『うしお』でいいさ。みんなそう呼んでるしよ」

イリヤ「……ウ、シオ? ウシオ……ウシオ!!」

イリヤ「ねぇ、お話したいこといっぱいあったんだから、行こう!!」

うしお「っと、イ、イリヤ、あんまり引っ張んなーーっ」



・ブランコのある公園


うしお「へえ、あの国道の向こうにそんな大きな洋館があるのかァ。そこから一人で来たのかい?」

イリヤ「うん、こっそり抜け出して来たの。セラもリズもメイドのくせにうるさいんだもん」

イリヤ「寒いと身体に悪いとか言って、いっつも部屋に閉じ込められてたんだから。今日はご褒美なの」

うしお「…………」

うしお「……あっ、そうだっ!! これがあったあった」

イリヤ「なに、それ?」

うしお「クリームパン(イギリス人もビックリ)うめーんだぜー!!」

イリヤ「えっと、くれるの……?」

うしお「あぁ」

モグモグ

イリヤ「おいしい……」

うしお「へへっ、そうだろ?」

うしお「それにしてもイリヤの髪は白くてキレーだなァ。昔の小夜さんみたいだ」

イリヤ「この髪はね、母さま譲りでイリヤの自慢なんだから」

イリヤ「それに雪みたいで綺麗だって、父さまとシグレさまが言ってくれたの」

うしお「えっ、今、なんて」



キリオ「あれ、うしお兄ちゃん?」

うしお「おっ!? キリオ、今帰りか?」

イリヤ「…………」

キリオ(っ!? 今、法力とは違う力が……)

キリオ(気のせい、かな……?)

イリヤ「……私帰る。バーサーカー起きちゃった」

うしお「あっ」

タッタッタッ

イリヤ「…………」

キリオ「……な、なに?」

イリヤ「貴方、私と『同じ』ね」

キリオ「!?」


うしお「し、ししし、しまったーーっ!!」

うしお「なんでマスターをやってるのか聞きそびれちまったーーっ!!」



・蒼月家居間


うしお「ただいまーっと……ん?」


真由子「とらちゃんこれ全部食べていいんだよーーっ!!」

とら「記憶はねえがこれは分かるぞ。こいつァ『はんばっか』てえんだ」

ぱく、もぐもぐ、もぐもぐ

セイバー「む。トラ、何を食べているのですか」

とら「なんだァ? 剣使い。おめえ、はんばっかも知らねえのか。ほらよ」

セイバー「これは、なかなか、いけますね」

凛「セイバー!! 私が夕食作ってるんだからそんなもの食べちゃダメでしょーー!!」

セイバー「リン。このハンバッカをそんなものとは……」

セイバー「今の言葉、騎士の誓いにかけても訂正してもらいます」

麻子「その為に誓いを使うの!?」

凛「ダメよ、ハンバーガーなんて……ハンバーガーなんて……。ぜ、贅肉……」

凛「贅肉が付いちゃうでしょうがーーっ!!」

桜「と、遠坂先輩!! お、おお、落ち着いて下さい!!」


うしお「な、なんだかウチも随分騒がしくなってきたなァ」



凛「今日はちょっとした収穫があったわ」

うしお「何かあったのかい?」

凛「桜の兄のことは知ってるわよね? ソイツがマスターで私に組まないかって言ってきたわ」

うしお「えぇっ!?」

凛「当然断ったわ。蒼月君は知らないかもしれないけど信頼出来るヤツじゃないもの」

うしお「……結界のことは?」

凛「知らないって言ってたわ。まぁ、本当かどうかは分からないけどね」

うしお「そう、か……」

うしお「桜姉ちゃんの兄貴が、マスター……」

とら「なぁんでそいつをブッ飛ばさねえのよ?」

凛「前にも言ったでしょ、とら。まずは結界をどうにかする、その為の蒼月君との休戦協定だもの」

うしお「あぁ、その通りさ!!」

とら「けっ、そうかよ」



・蒼月家風呂場


ガチャッ

セイバー「…………」

うしお「…………」

セイバー「すみません、ウシオの入浴したい意思に気付かなかった私の落ち度です」

うしお「うわああああああああああ!!!!」

ダッダッダッ

セイバー「ウ、ウシオ!?」


うしお「また小夜さんのときみたいに覗き男になっちまったぁぁぁぁ!!」



・蒼月家蔵前


うしお「はぁ、セイバーになんて謝れば……ん?」


うしお「開いてる……。蔵に誰かいるのか……?」



・蔵地下室


とら「人間か……?」

うしお「……!?」

とら「剣使いの主か」

うしお「う、うわああああ!! なんだなんだ、お前なんだ!?」

とら「あぁ? なにをそんなに驚いてやがる」

うしお「あ……い、いや……。なんでもねえよ……」


うしお「と……。一つ聞きたいことがあるんだ、遠坂先輩のサーヴァントに」

とら「ああ? なんだよ?」

うしお「お前も『叶えたい望み』があるから召喚されたんだよな?」

とら「そんなことかよ」

とら「わしは記憶がないから知らんぞ。だがまぁ、召喚されたってことはそうかもなァ」


とら「わしは行くぞ。えらく気になって来てみたが何にもねえ場所だ」


うしお「とら……」



【第十一話 極限結界溜と鮮血神殿 】



・蒼月家玄関


セイバー「……ウシオ」

うしお「ん? 何だいセイバー」

セイバー「気を付けて下さい。何か嫌な予感がします」

うしお「予感?」

凛「大丈夫よセイバー。休戦中は私ととらが守ってあげるんだから」

セイバー「はい、リンを信じています」

うしお「何かあったら、この令呪を使ってセイバーを呼べばいいんだよな」

セイバー「そうです。令呪の力を使えば私はマスターの場所へ行ける」

うしお「あぁ分かった。その時は頼むぜセイバー」

セイバー「はい、ウシオ」



・穂群原学園教室


厚池「うしおーー!! 放課後部活ねえならまたゲーセン寄ってかねえ?」

うしお「厚池、まーたオレをカモにする気だなーーっ!?」

横尾「うしおはホントにヘタだからなぁ……ぁ……うっ……」

うしお「横尾? どうしたんだよ?」

厚池「あ……ぁ……」ドサッ

うしお「厚池!? 横尾!!」

バタッ、バタッ

うしお「クラスのみんなが……」

大河「あ、蒼月君……」

うしお「藤村先生、これはいったい!?」

大河「分からないわ……。急にみんなが倒れだして、私も……もう……」

うしお「藤村先生!? 藤村先生!!」

大河「…………」

うしお「ど、どうなってんだ……!?」



凛「蒼月君!!」

うしお「遠坂先輩!! これは!?」

凛「結界が発動したのよ」

うしお「これが、結界……!!」

凛「まったく、あれだけ呪刻を壊したのに強制発動出来るとはね」

凛「本当サーヴァントに常識は通じないわ……!!」



・廊下


凛「とにかく結界の基点を探さなきゃ。蒼月君行くわよ!!」

うしお「あぁ!!」


慎二「よぉ遠坂、それに蒼月」

うしお「間桐先輩!?」

慎二「クク、思ったより元気そうで何よりだ」

うしお「先輩も無事なら良かった。今学校は大変なことになってるんだ。早く救急車を……」

慎二「クク、ハハハ、アッハハハ!!」

うしお「間桐、先輩……?」

凛「……そう。この結界はアンタの仕業なのね」

慎二「そうだとも遠坂。ハハハハ!!」

うしお「なんだよそれ……」

慎二「タイミングには苦労したんだぜ? 僕としちゃお前たちの顔面蒼白を見たかったからさ」

うしお「間桐先輩……結界を……結界を止めろよーーっ!!」

慎二「なに僕に命令してるわけ? 止めて欲しかったら土下座ぐらいしろよ蒼月」

凛「これが最後の忠告。結界を止めなさい」

慎二「分からないかなぁ? そんなに気に食わないなら力尽くでやってみろよ遠坂」

凛「とら」

とら「けっ、こんなガキの相手かよ」



慎二「でもさぁ遠坂。二対一ってのは卑怯なんじゃないの?」

慎二「ライダー」

ライダー「はい」
麻子「…………」

うしお「あ、麻子っ!!」

凛「アンタねぇ……」

慎二「ハハ、人質なんて使いたくなかったんだけどさ。でもこれでフェアだろう?」

慎二「ライダー、とっととその厄介な妖怪のサーヴァントを殺しちまえよ」

ライダー「はい」

とら「わしが人間の人質で言うことを聞くとでも思っとんのかよ。ああ?」

慎二「ひっ……」



真由子「と、とらちゃん。ダ、ダメだよ……」

とら「おめえ、この結界の中で動けるのか」

凛「井上さん!!」

うしお「真由子!? 大丈夫なのか!?」

真由子「うしお君……。ごめん、私、麻子を守れなかった……」

うしお「麻子はオレが助ける。だから真由子は無理すんな」

真由子「うん。でも、私も、頑張るね……!!」

凛「井上さん、なにを……」

とら「こいつァ、結界か……?」

ライダー「こ、これは……」

うしお「お役目さまの……いや、真由子の力さ!!」


真由子「っっ……!!!!」


ライダー「まさか……『鮮血神殿』が、別の結界に押し返されている……!?」



真由子「はぁ、はぁ……」

とら「おい女。もう止めな、ぶっ倒れそうじゃねえかよ」

真由子「とらちゃん。『泥なんて何だい』だよ」

とら「けっ、それがなんだってんだ……」

凛「常識が通じないのは、蒼月君の周りも一緒ね……」

凛「でも、結界が止まってる。これなら……!!」

真由子「遠坂先輩、結界の基点は学園の上空にあります。それを壊して下さい……!!」

ライダー「無駄ですよ。現代の魔術師に私の『鮮血神殿』は壊せない」

凛「確かに私の魔術じゃ壊せない。でも……」

とら「早く乗りな。ますたー」

ライダー「くっ、行かせない……!!」


慎二「なに勝手に話を進めちゃってるわけ? こっちには人質が、ぐふっ」

麻子「あんまり麻子さんをおナメじゃないよ」



うしお「麻子!!」

麻子「うしおっ!!」

うしお「麻子、お前空手やめたんじゃなかったのかよっ」

麻子「とーさんにたまに付き合わないと悲しい顔するのよね」

うしお「ハハ、おじさんらしいや」


慎二「がはっ、はぁ、はぁ」

ライダー「マスター!!」


凛「蒼月君、ここは任せたわよ。私はとらと一緒に結界を壊すわ」

うしお「分かった。よーし……。セイバァァァァ!!」


セイバー「マスター、指示を」

うしお「ライダーを頼む!! オレは間桐先輩を!!」



セイバー「はぁぁぁぁ!!」

ライダー「くっ……。流石ですね、セイバー」

セイバー「ライダー、貴方はここで倒れろ」


うしお「待てぇぇーーっ!!」

慎二「く、来るなぁっ、来るなっぁぁ」


ドーン!!

麻子「な、なに、今の音……」

真由子「はぁ、はぁ……。とらちゃん……」


ライダー「鮮血神殿が壊されましたか。ならば……」

セイバー「ウシオ!! 気を付けて!!」

うしお「うわっ!?」

慎二「ライダー!!」

ライダー「マスター。この場から離脱します」



セイバー「ウシオ。アサコとマユコも私の後ろへ」

麻子「セ、セイバーさん?」

真由子「はぁ、はぁ……。は、はい……」

セイバー「ライダーは結界の維持に使っていた魔力を開放するつもりです」

うしお「魔力を、開放……?」


慎二「な、なに考えてんだお前、蒼月のサーヴァントにすら勝てないくせに!!」

ライダー「確かに私はセイバーには及びません。ですがご安心を」

ライダー「我が『宝具』は他のサーヴァントを凌駕しています」

慎二「な、なにィ……?」

ライダー「たとえ相手が何者であろうと、我が『疾走』を妨げる事は出来ない」


セイバー「三人とも私から離れないで下さい!! ライダーは宝具を使うつもりです!!」

うしお「これが……サーヴァントの、宝具……!!!!」



セイバー「言葉通り、離脱する為だけに宝具を使ったようですね」

麻子「も、もう大丈夫なのよね……。うぅ……」ドサッ

真由子「あ、麻子……。うしお君、私も……」

うしお「麻子!! 真由子!!」

セイバー「ウシオ、大丈夫です。二人とも気を失っているだけです」

うしお「な、なんだァ……」



凛「……よっと。お疲れさま。ライダーには逃げられたみたいね」

とら「剣使いなぁにをやっとるのよ。馬乗りなんかを逃がすなよ」

セイバー「トラ、ライダーは宝具を使ったのです」

セイバー「……逃げられた言い訳にはなりませんが」

とら「けっ、その通りよ。だが、馬乗りの宝具か……」

うしお「遠坂先輩、結界は壊せたのかい?」

凛「ええ、とらが完全に破壊したわ」

うしお「そうかァ、それならよかった」

凛「井上さんのおかげよ」

凛「結界の基点が分からなかったら、今頃私たちも結界に力を奪われて倒れてたはずだもの」


とら「今回は確かに……」

真由子「…………」

とら「そこの女が、役に立ったかもな」

真由子(……とら、ちゃん……)



【第十二話 空を翔ぶ 】



・商店街


慎二(……クソ、クソ、全部、壊す、壊す、ぶっ壊しちまえ!!)

ドンッ

女子「あっ、ごめんなさい」

慎二「あぁ? なにこの女。もっと別の謝り方があるんじゃないの?」

グイッ

女子「い、いや、やめてください……」

礼子「ちょっとやめなさいよ。それに向こうから見てたけどアナタの方からぶつかったじゃない」

慎二「はぁ? なんだよお前。まさか僕が悪いとでも言うつもり?」

間崎「何かあったのか礼子」

慎二「ヒィッ!?」


通行人「お、おい。あの人は間崎さんじゃないか?」

通行人「暴走族『スピードイーター』をたった一人で潰したって言われてる……」

通行人「ひぇ~、おっかねぇー……」


慎二「ク、クソッ!! う、うあああああ!!」


間崎「なんだァ、アイツは」

礼子「さぁ……」



・蒼月家居間


うしお「遠坂先輩、学校のほうは?」

凛「そっちは綺礼がなんとかしてくれたわ。井上さんたちは?」

うしお「二人とも家で休んでる。真由子にはキリオが付いてくれてるよ」

凛「そう。井上さんのおかげで全員病院送りが自宅待機で済んだんだもの。感謝してもしきれないわね」


うしお「桜姉ちゃんの兄貴……。間桐先輩はまた何かやる気かな?」

凛「そうね。アイツの性格から言って、まず考えられるのは私たちへの復讐……」

セイバー「では、ライダーのマスターは再び結界を張ろうとすると?」

凛「間違いなくね。だから私たちが探すのはアイツ本人じゃなく」

うしお「……結界!! よーし、行こう!!」

あれ見たかったですよねぇ、麻子がヒロインやってるエピソード少ないから余計にそう感じる



・間桐邸


凛「さすがに家に居るわけないか」

とら「ちっ、馬乗りのニオイもしやがれねえな」

凛「二手に別れた蒼月君たちも気になるわ。もう行きましょ、とら」

とら「ますたーよ。ここはあの女の家なんだろ。会わなくていいのかよ」

凛「桜のこと? いいのよ、別に」

とら「わしには関係ねえからいいけどよ。ますたーとあの女は同じニオイがするのよ」

とら「おめえらは」

凛「それ以上はやめて。とら」

とら「……なら、もう行くぜ」


凛(……桜……)



・高層ビル前


うしお「セイバー。どうだい?」

セイバー「いえ、魔力は感じません」

うしお「ここも違うかァ」


うしお「ごめんよセイバー。オレが魔術師だったら手伝えるのによ……」

セイバー「ウシオ、それは気にしないで下さい」

セイバー「しかし、そうですね。少し休憩しましょう」

うしお「えっ……?」



・公園


うしお「この魚肉ソーセージうめえなァ」

セイバー「……ウシオ、私は貴方に謝らなければいけません」

うしお「えっ?」

セイバー「リンに、ウシオの旅を記録したモノを見せてもらいました」

うしお「オレの? あぁっ、守矢さんのビデオか!!」

セイバー「しかしリンは、その、機械というのが苦手なようで……」

セイバー「最終的にはアサコとマユコに手伝ってもらっていましたが……」

うしお「あ、あぁ、確か遠坂先輩はそうだったよな……」

うしお「しっかし、あれ恥ずかしいんだよなァ。でも、それがどうしたんだい?」

セイバー「それで、よかったらウシオから直接旅の事を聞かせてもらえませんか?」

うしお「セイバーが聞いても面白い話なんてあるかなァ」

セイバー「聞きたいのです!! お願いします、ウシオ!!」

うしお「わ、分かったよ。ど、どうしたんだセイバー」

セイバー「いえ、それは、別に……」


セイバー(……私は知りたい。なぜアナタが私を召喚出来たのか……)



うしお「それで、オレとアイツの旅は終わりさ」

セイバー(……そうして、ウシオとトラはこの国を救ったのですね)

セイバー(アナタたちと私は違う……)

セイバー(何故なら、私は国を救ってなどいないのだから……)

セイバー(しかしそれなら尚更、ウシオが私を召喚出来た理由がない……)

うしお「いけねーっ!! 話し込んでたら暗くなっちまった!!」

セイバー「すみませんウシオ。リンたちも気になります。行きましょう」


ドクンッ


うしお「っっ!? セイバー、今の感覚……!!」

セイバー「結界……。しかしこれは誘いですね……」

うしお「それでも、行くしかねえさっ!!」

セイバー「そうですね。ウシオ、魔力を辿ります。注意して下さい」

うしお「あぁ……!!」



・高層ビル前


セイバー「ウシオ!!」

うしお「うわっ!? またあの針か、ってことは……!!」

ライダー「フフ……」

うしお「ビ、ビルの壁に……!?」

ライダー「ついてこれますか、セイバー」

セイバー「追います。ウシオはここに居て下さい」

うしお「頼んだセイバー!!」


凛「蒼月君!! 今の、ライダーね。私たちもライダーを追ってたのよ」

うしお「遠坂先輩。あぁ、セイバーとビルの屋上へ飛んで行ったよ」

凛「とら。先に行ってセイバーのサポートを」

とら「なぁんでわしが剣使いの手伝いなんか……」


凛「いいから行けーーーー!!!!」
うしお「いいから行けーーーーっ!!!!」


とら「は、はいーーっ!!」



・高層ビル屋上


セイバー「神代のモノを持ち出すとは随分と業が深いようですね。ライダー!!」

ライダー「私は貴方たちの敵だった者に過ぎない」

ライダー「故に私が操るのは貴方たちが駆逐してきた可哀想な子たちだけよ」

セイバー「なるほど。歪んでいるとは思いましたが英霊ではなく悪鬼の類でしたか」

ライダー「言ってくれますね。私の宝具であの獣のサーヴァントを手懐ければ貴方なんて……」

セイバー「トラを……?」

セイバー「フッ……」

ライダー「セイバー。何が可笑しいのです」

セイバー「面白いことを言いますね。ライダー」

ライダー「なに……」

セイバー「あの『雷獣』を手懐け乗りこなすと?」

セイバー「それは貴方には無理だろう。『ライダー』?」

ライダー「っっ……!!」

ライダー「セイバー……!!」



とら「……なんじゃありゃ。馬乗りが羽の生えた白い馬に乗っとるかよ。初めて見たぜ」

ライダー「現れましたか、獣のサーヴァント」

とら「剣使い、なーにやっとる。馬乗りなんかに手こずっとんのかよ」

セイバー「トラ、ウシオたちは?」

とら「知るかよ。多分えらべったーとかいうやつで来るんだろ」

セイバー「なるほど、分かりました。出来れば二人が来る前に決着をつけたいところですが」


ライダー「到着した貴方たちのマスターには、消える二体のサーヴァントを見せてあげます」

ライダー「何故なら、貴方たちでは私の子に触れる事も出来ないのだから!!」



とら「へっ、馬乗りが粋がるか。よーし……」

とら「剣使いっ、乗れっ!!」

セイバー「トラ、何を……?」

とら「勝負しようじゃねえか、あの馬乗りの羽の生えた白い馬とよ」

セイバー「わ、私に、貴方に乗れと……?」

とら「乗らねーんならわしだけで行くわい」

セイバー「行きます!!」


セイバー「……ライダーにああ言った後に貴方に乗ることになるとは……」

とら「ああ? 何の話だよ?」

セイバー「いえ、こちらの話です。行きましょうトラ、私たちとライダーとの勝負です!!」

とら「へっ、振り落とされんなよ剣使いっ!!」



うしお「セイバー!!」

凛「とら!!」


慎二「ハッハハハ!! アッハハハ!!」

慎二「見たか蒼月、遠坂!! あれが僕とお前たちとの力の差だ!!」


凛「慎二……!!」


慎二「空の上ならライダーが有利なんだよォ!!」

慎二「即席でコンビを組んだサーヴァントどもが、僕のライダーと宝具に勝てるわけがない!!」


うしお「セイバー……とら……!!」


慎二「お前たちもサーヴァントもこれで終わりだな!!」

慎二「苦しまないように一瞬で殺してやるよ!! やれライダー、手足一本残すなよ!!」



・高層ビル上空


ライダー「速さ比べは同等ですか。やりますね、獣のサーヴァント」

とら「おめえもな、馬乗り。その乗りモンなかなか速えじゃねえか」


慎二「やれライダー、手足一本残すなよ!!」


ライダー「……どうやら余興はここまでのようね」

ライダー「私の真の宝具は強力で、使えばどうしても人目につく……」

ライダー「けれど、この雲の上なら覗き見される恐れはない」


セイバー「それが貴様の宝具か、ライダー!!」


ライダー「えぇ、この子は優し過ぎて戦いには向いていない」

ライダー「こんな物でも使わないと、その気になってくれないのよ」

ライダー「消えなさい!! セイバー!! 雷獣!!」


とら「馬乗りがつけあがりおって」

セイバー「…………」

セイバー「トラ、私の魔力は残り少ない。そこで貴方の力を貸して欲しい」

とら「何だァ? ……へっ、面白えじゃねえか。ドジるなよ剣使い!!」



セイバー「風よ……!!」

とら 「雷よ……!!」


とら「こいつの『剣』に落ちやがれええええ!!!!」


セイバー「こ、これが……!!」

セイバー(これがトラの雷……。凄い、これならば……!!)


セイバー「ライダー、この雲の上なら人目につかないと言ったな……」

セイバー「同感だ。ここならば地上を焼き払う憂いもない!!」


とら「黄金の剣、か」




ライダー「騎英の手綱(ベルレフォーン)!!!!」


セイバー「約束された勝利の雷剣(エクスカリバー)!!!!」





・間桐邸


桜「ライダー……」



・高層ビル屋上


凛「雨雲を、二つの金色が裂いていく……」


慎二「うひゃぁ!! 令呪が、令呪が燃えちまう!!」

凛「慎二……!!」

慎二「ひ、い、うぁ、あああああ!!」

うしお「間桐先輩が逃げる……!! 待てぇぇーー!!」



・高層ビル前


慎二「はぁ、はぁ、はぁ……」

慎二「!?」


??「…………」


慎二「な、なんだよお前!! 邪魔なんだよ!!」


??「『黄金の剣』に『黄金の獣』か」


慎二「ど、どけよぉ!!」グサッ

慎二「あ? あ……ぁ……」


??「『黄金』に相応しい英霊は我だけよ。フフ、ハァーハッハッハッ!!」



【第十三話 冬の城へ 】



・蒼月家、庭


とら「は? わしに乗りたい?」

真由子「とらちゃん、セイバーさんを乗せて飛んだって聞いたよ~!」

とら「それがなんだよ」

真由子「次は私だよ~~!!」

とら「なんでそうなるっ!?」

凛「いいじゃない、とら。井上さんには学校の結界でお世話になったんだし」

とら「おめえら、そもそも妖と人間ってのはな……」

凛「令呪に告げる、聖杯の規律に従い……」

とら「こっ、こら!! 馬鹿かっ!! んなことで令呪を使うんじゃねえ!!」

凛「ふふ、分かればよろしい」

とら「ちっくしょ~。もう好きなだけ乗りな」

真由子「やった~~!!」



セイバー「ト、トラ……」

とら「ああ? なんだよ?」

セイバー「いや、その……」

とら「今わしはこの女の乗り物やるので忙しいのよ。何か用か?」

セイバー「その、実は私は、昔ライオンを飼っていてことがあって……」

とら「何の話だよ……」

セイバー「その、良かったら、また私も……」


凛「あら蒼月君。散歩にでも行くの?」

うしお「……遠坂先輩。あぁ、ちょっと出て来るよ」


セイバー「ウシオ、私も」

凛「いいわセイバー。今は一人にしてあげましょう」

セイバー「リン、ですが……」

凛「これは聖杯戦争なのよ。ああいう事だってあるわ」

セイバー「はい、そうですね」



・ブランコのある公園


イリヤ「家に居ないと思ったらこんな所に。こんにちは、ウシオ」

うしお「イリヤ……」

イリヤ「浮かない顔してるけど、何かあったの?」

うしお「い、いや、何でもないさ。さーてと、そろそろ帰らないとなァ」

イリヤ「ライダーのマスターを倒したヤツの事を考えてたんでしょ」

うしお「あぁ、オレたちが救急車を呼んだりして命は助かったみたいだけどよ……」

うしお「ってイリヤ、なんでそれを!?」

イリヤ「フフ……」

うしお「……うっ、あぁ……」

イリヤ「あ、もう金縛りになったんだ。ウシオったら『護り』も何もないんだもの」

イリヤ「こんなに簡単に捕まっちゃうなんて、カワイイなぁ」

うしお「イ、リヤ……!!」

イリヤ「オヤスミナサイ……ウシオ……」

うしお「ッ……!!」



うしお「やめろよ、こんなこと……!!」

イリヤ「へぇ、このぐらいの魔術なら精神のほうは耐えれるんだ」

うしお「カラダが動かねえ……。朏(みかづき)の陣をかけられたときみてえだ……」

イリヤ「無駄よ。魔術師じゃないウシオにそれは解除出来ないわ」

うしお「イリヤ、オレをどうする気だよ……?」

イリヤ「フフ、前にも言ったでしょ? 私のお城にウシオを招待するの」

うしお「城……。そうか、確か国道の向こうとか言ってたっけ……」


うしお(そこに行けば、イリヤにマスターをやらせてるヤツに会えるんじゃ……)


うしお「イリヤ、魔術を解いてくれ」

イリヤ「ウシオは面白いことを言うね。そう言われて解除するはずが」

うしお「イリヤの城へ行く」

イリヤ「えっ……」

うしお「いや頼むぜ、イリヤの城へ行かせてくれ」



・蒼月家、居間


凛「……はぁ。蒼月君、帰りが遅いと思ったら……」

凛「キリオ君、その話は本当なのよね?」

キリオ「うん。銀色の髪の女の子と国道のほうへ歩いていったよ」

凛「ありがと。キリオ君が見かけたことを言いに来てくれなかったら大変なことになってたわ」

凛「セイバー、どう?」

セイバー「はい。まだ無事である事は感じ取れますがとても遠い。おそらく敵の手中に」

凛「そう……。蒼月君を一人にした私の責任ね……」

セイバー「いえ、ウシオに無理にでも付いていくべきでした。私の責任です」

とら「んなこたァどうでもいいのよ。あのクソうし、が馬鹿なだけよ」

凛「と、とら!? 今なんて言ったのよ!?」

とら「なんだァますたー? わしは剣使いの主が馬鹿と言ったのよ」

凛「そ、そう……」

凛(まさか記憶が……。いや、召喚を失敗してるのよ、そんなことは……)

セイバー「リン、トラ。同盟の盟約が続いているのなら、お願いがあります」



・アインツベルン城、大広間


うしお「うへー、森の中にこんな城が本当にあるなんてよ……」

イリヤ「ようこそ、ウシオ。私のお城へ」


??「イリヤ、どいて」


うしお「なっ……!?」

ドゴォッ!!


イリヤ「……リズ、どういうこと?」

リズ「そいつ危ない、お断り」

イリヤ「はぁ……。まぁいいわ、ウシオを捕らえるつもりだったのは確かだしね」


うしお「お前がイリヤにマスターをやらせてるのか……!?」

リズ「……? 違うよ」

うしお「ち、違うのか、そうかよ……」

リズ「お前、多分強い。さっきのも避けた」

うしお「さすがにオレだってよ、こんなことになるかもって思ってたさ!!」

リズ「私に惚れるなよ、べいびー」



うしお「はぁはぁ……」

リズ「避けるの、上手いね」

うしお「前と違って傷がすぐに治るワケじゃないからよ」

リズ「……?」

リズ「でも、それなら……。ちょっと本気、出す」

うしお(あの槍みたいなのをなんとかしないと近づくことも出来ねえか……)


リズ「ぐるぐる、飛んでけー」


うしお「うわっ!? 槍を投げてきた!?」

リズ「しまった。これも避けられた、大問題」

うしお「よーし、こっちもこれを使わせてもらうよ……!!」

うしお「オレだって『槍』の扱い方は自信あるんだぜ!!」

うしお「って、なんだこれぇ!? も、持ち上がらねえ、こんなのを振り回してたのか!?」


??「そこまでです」



リズ「セラ……」

セラ「カヅチ」
華鎚「…………」

うしお「ぐああああああああああ!!!!」


セラ「お嬢さまのためとはいえ無理をしましたね」

リズ「ちょっと、疲れた。あんまり無理すると、中がいろいろ壊れちゃう」

うしお「…………」

セラ「この方が、あの方の息子……」


セラ「どうでしたか、試したのでしょう?」

リズ「うん。あの人と同じ、優しい」

セラ「そうですか。いえ、そうでしょうね」

リズ「今度一緒に、イノシシ狩りに行きたい」

セラ「それは……」



・イリヤの部屋


うしお「……う……こ、ここは……?」

イリヤ「あ、やっと起きたんだ。声ぐらい出せるよね」

うしお「イリヤ!? ここはどこなんだ!?」

イリヤ「ここは私の部屋。誰も助けになんて来れないし邪魔は入らないわ」

うしお「何を、する気だよ……」

イリヤ「私がウシオを守ってあげるわ」

うしお「えっ……」

イリヤ「本当は、前からウシオのことは知ってたの」

うしお「オレを……?」

イリヤ「前に住んでたお城には、バルトアンデルスって妖怪が住んでたわ」

うしお「バルトアンデルス……ああ!!」

うしお「ハマーに捕まってた妖怪!! 麻子のトモダチ!!」



うしお(確か麻子が、バルはヨーロッパの古城に住む妖怪って言ってたな……)

イリヤ「そのお城で私にはその妖怪しかいなかった。他には何も残ってなかったの」

イリヤ「でも隠れて会っていたらアインツベルンに見つかって、ハマー機関に連れて行かれたわ」

うしお「ハマー機関……。そうか、博士たちが……」

イリヤ「私が吹雪の森で狼に襲われたときも、私はバルを呼び続けた。それぐらいは信頼してたのよ?」

イリヤ「でも助けに来るわけもなく、私を救ってくれたのはバーサーカーだったけどね」

うしお「あのサーヴァントか……」

イリヤ「この国に来る前に少しだけ、あの妖怪に会ったわ」

イリヤ「お爺様の厳しい監視を抜けて、ほんの少しだけ話したの」

うしお(……お爺様……? そいつがイリヤにマスターを……?)

イリヤ「私のことを助けられなくてゴメンって言ってた、何のことか分からなかったけど」

イリヤ「それから、日本に行くならウシオという『すごい』人間がいるから、もしかしたら、って……」

うしお(バル……)

イリヤ「他にも何か言ってた気がするけど、まぁいいわ。それより……」

イリヤ「あの妖怪の言ったとおり、確かにウシオは他のマスターと違って面白いわ」

イリヤ「だから私が守ってあげるの」

イリヤ「そして最後の最後で、殺してあげる」

うしお「イリヤ……!!」



【第十四話 妖怪の果て 】



・アインツベルン城周辺


凛「アインツベルン城……。ここで間違いないのよね?」

セイバー「はい」

とら「チッ、華鎚どもが巡回してやがるか」

セイバー「たとえ何が待っていようと関係ありません。サーヴァントにとってマスターは」

凛「待って。とらは姿を消して、セイバーも気配を」


イリヤ「…………」

凛(イリヤスフィール……)

イリヤ「ん? 気のせい、かな。フフ」

セイバー(ウシオ、どうか無事で……)



・イリヤの部屋


うしお「イリヤはどっか行っちまった……」

うしお「きっと遠坂先輩たちのところだ、早く知らせないと……!!」

うしお「ぐおおおお!! ぬああああ!!」

うしお「ダ、ダメだァ……。魔術の解除なんて出来ねえよォ」

バタン!!

セイバー「動くな!!」

うしお「うわっ!?」

セイバー「ウシオ!!」

うしお「セイバー!!」

凛「思ったよりは元気そうね」

とら「みてえだな」



うしお「遠坂先輩たちまで、どうしてここに……」

セイバー「私が助けを頼んだのです。ウシオが敵に拉致されたようだったので」

うしお「拉致?」

うしお「い、いやぁ、実はオレのほうからココに来たっていうか、なんていうか……」

セイバー「大丈夫ですウシオ。その事でしたら後で私からお話があります」

凛「もちろん私からもあるから、覚悟しといてよね蒼月君」

うしお「うへぇ、あっしが悪かった……」

とら「ぷぷぷ」

凛「とにかく今は、イリヤスフィールに見つかる前に早く逃げるわよ」



・大広間


とら「おいっ、剣使い見てみろ!! スゴイのがあるぞ!!」

セイバー「トラ、シャンデリアは返したほうが……」

うしお「ひゃー、ここだけでオレの部屋の何倍あるのか分かんねえぜ」

凛「…………」

うしお「遠坂先輩、どうしたんだい?」

凛「あっさりしすぎよ。ここまで上手く行き過ぎてる」

うしお「えっ……」


??「なぁんだ、もう帰っちゃうの? せっかく来たのに残念ね」


うしお「イリヤ……!!」

凛「イリヤ、スフィール……。そう、なるほどね」

凛「蒼月君で誘き寄せて、本命は私たちってことか」

イリヤ「ウシオが自分からここに来るって言ったのは想定外だったけどね。言ったでしょ、リン」

イリヤ「リンのサーヴァントにはアインツベルンが対策してるって。それがここよ」

凛「まさか……。この城や森そのものがアインツベルンのためのフィールド……!?」

とら「けけっ、どおりで息苦しいと思ったぜ」



凛「まんまと誘い込まれたってことか」

うしお「遠坂先輩、オレのせいで……」

凛「気にしないで。迂闊だったのは私も同じよ。それより……」

うしお「あぁ、この森から脱出するんだ……!!」


イリヤ「帰らせるつもりなんてないわ」

イリヤ「だって、私はこの城の主なんだからお持て成しをしなきゃ、お客様に」

バーサーカー「■■■■■■■■■■」

セイバー「バーサーカー……!!」

イリヤ「フフ」


とら「……チッ、そういうことかよ」



凛「この城の内部で戦うのは危険よ。どんな仕掛けがあるか分からないわ」

凛「とら。今はとにかく逃げて、外でバーサーカーを迎え撃つわよ」

とら「逃げる? このわしが?」

とら「なァんでわしが逃げないといけないのよ」

凛「ちょ、ちょっと何言って」

とら「逃げたきゃおめえらで逃げな。こいつァわしの獲物よ」

セイバー「トラ、それなら私たちでバーサーカーの相手を」

とら「剣使い、おめえもなんか勘違いしとるようだな」

とら「わしの獲物を横取りするならおめえが先に相手になるかよ?」

セイバー「トラ、なぜ……」

凛「アンタねぇ、イリヤスフィールは結界を操る妖怪を使役してるのよ!?」

凛「今は見当たらないけど、ソイツらが出てきたらどうすんのよ!!」

とら「相変わらず『ますたー』はやかましいな」



うしお「…………」

うしお「分かったよ。遠坂先輩のサーヴァント」

とら「なんだァ?」

うしお「何があるのかは知らねえよ。でも、何かあるんだろ?」

とら「へっ……」

とら「剣使いの主にしちゃ分かってるじゃねえか」

うしお「お前とは、付き合い長いからな」

とら「??」



うしお「行こう!! セイバー、遠坂先輩!!」

凛「あ、蒼月君!?」

セイバー「いいのですかウシオ。しんがりが必要なのは理解出来ますが」

うしお「あぁ、それにとらも俺たちを守りながらじゃ戦おうにも戦えねえよ」

うしお「とらならすぐに飛んで追いつくさ。今はここから逃げよう」

セイバー「なるほど、分かりました。トラ、ご武運を」

凛「ちょ、ちょっと、勝手に話を……。あーー、もうっ!!」

凛「このバカとらーーっ!! アンタは私のサーヴァント!!」

凛「勝手に負けたりなんかしたら許さないわよ!!」


とら「本当にやかましい『ますたー』だぜ」


とら「いいからとっとと行きな」




とら「りん」





とら「おめえ、わざとアイツらを逃がしたな。なんでだ?」

イリヤ「どうせリンたちは森から出ることなんて出来ないもの」

イリヤ「それよりここで一体のお前を確実に殺すわ」

とら「けっ、この城全体を華鎚どもが結界張ってやがんのか」

とら「確かに、これじゃ飛んで逃げることも城から出ることも出来ねえな」

イリヤ「お前のことをアインツベルンが調べたのよ」

イリヤ「過去に中国の符咒士との戦いで、この結界の使い方でかなり追い詰められてるって」

とら「昔のことは知らねえよ。で、本命はりんでも剣使いでもなく、わしかよ」

イリヤ「当然でしょ?」

イリヤ「私のバーサーカー『ヘラクレス』の相手になるヤツなんて、お前以外にいないんだもの」

イリヤ「セイバーなんて後でどうとでもするわ。お前を確実に殺した後でね」



とら「けけけ」

イリヤ「何よ……。何がおかしいのよ……」

とら「笑わせるぜ。わしをここに閉じ込めたら、おのれらは勝てるのかよ?」

イリヤ「……っ」


とら「この、わしによ!!」


イリヤ「バーサーカー!!」

バーサーカー「■■■■■■■■■■」

イリヤ「カヅチ!!」

華鎚「……!!」
華鎚「……!!」


とら「けけっ、来いよ。木っ端微塵にしてやるから……」


とら「やーっと、楽しめそうだぜ!!!!」



バーサーカー「■■■■■■■■■■」


とら「やりやがるな!! 退屈しねえや!!」


バーサーカー「■■■■■■■■■■」


とら「しかしよォ、おめえは正気のほうがつえーんだろうな」


バーサーカー「■■■■■■■■■■」


とら「残念だぜ!!」



・アインツベルンの森


凛「くっ、令呪が、熱い……」

うしお「遠坂先輩!?」

セイバー「まさか、トラが……」

凛「とらはそう簡単にやられるようなヤツじゃないわ」

凛「そうでしょ、蒼月君?」

うしお「あぁ……!!」



・大広間


イリヤ「なんで……なんで死なないのよ……」

イリヤ「結界に縛られて、身動き一つ出来ずにバーサーカーに攻撃されてるのに……」

とら「けけっ」

イリヤ「……コイツどこかおかしいわ。油断なく躊躇いなく、殺しなさい!!」

バーサーカー「■■■■■■■■■■」

とら「くくっ」

イリヤ「まさか、バーサーカーと同じ宝具を……」

とら「宝具だァ? くく、はーっはっはっはっ!!」

イリヤ「なっ!?」


とら「死なねーんだよ。それが妖(バケモノ)!!!!」



イリヤ「妖怪のサーヴァント、ここまでなんて……」

とら「…………」

イリヤ「手を抜いたワケじゃないでしょうね、バーサーカー」

バーサーカー「■■■■■■■■■■」

イリヤ「カヅチ。そのまま結界でコイツを捕まえてなさい」

華鎚「…………」
華鎚「…………」

イリヤ「マスターのリンさえ殺せばコイツだって死ぬはず……」

イリヤ「早く傷を治しなさい。今すぐリンたちを殺しに行くわよ」

バーサーカー「■■■■■■■■■■」


とら(……ちっ、潮時か……)



とら(力が入らねえ……)

とら(存在を維持する力ぐらいしか、わしの中にりんの魔力は残ってねえか……)

とら(……でもまぁ、時間は稼いだか……)

とら(この森から脱出さえ出来れば、りん、おめえなら何とか出来るだろ)

とら(わしが消えても剣使いと再契約すりゃ、あのガキどもにも負けねえだろうしな)

とら(ここで、おしめえ、か……)

とら(聖杯戦争の残りのヤツらがどんな敵か知らねえが、おまえならやっつけられる……)


とら(そうだよなァ?)


とら(うしお……)



【第十五話 追撃の交差『十二の試練』 】



・アインツベルンの森


セイバー「ウシオ、リン、止まってください」

うしお「セイバー? どうしたんだ?」

セイバー「二人とも隠れて。あれを」


リズ「…………」

セラ「…………」


うしお「あの二人は……!!」

凛「知ってるの蒼月君?」

うしお「あぁ、イリヤの仲間さ。ちょっと戦ったけどよ、かなり強いぜ」

凛「そう……。向こうも簡単には逃がしてくれないか……」

セイバー「強行突破しますか?」

凛「いえ、まだここはアインツベルンの森よ。どんな仕掛けや罠があるか分からないわ」

うしお「もう少しで国道に出るのに……。でも遠坂先輩、どうするんだい?」

凛「そうね。遠回りになるけどアレを使いましょうか」



・廃墟


うしお「ここは……?」

凛「私たちが来るときはとらの背中に乗って来たんだけど、そのときに上空から見つけたのよ」

うしお「そうか。上から見れば森に何があるか分かるもんね」

セイバー「そのときのトラの背中はモフモフでとても気持ちよく」

うしお「セ、セイバー?」

セイバー「あっ、いえ、何でもありません」


凛「とにかく、陽も落ちて暗くなってきたわ」

うしお「ホントだ。もう外は暗いや」

凛「夜の森は危険よ。この廃墟で敵をやり過ごしましょ」

セイバー「それには賛成です。夜は闇討ちの可能性もある、そうしましょう」

うしお「おーし、分かったぜ」



ぐぅ~~


凛「ちょっと蒼月君、さすがに緊張感なさ過ぎるんじゃない?」

うしお「オ、オレじゃねえよーーっ!!」

セイバー「……すみません、私です」

凛「あ、セ、セイバーだったんだ……」

セイバー「何か食べる物があればいいのですが」

うしお「食い物かァ……。あっ、これがあったんだ!!」


がさごそ、ころん


凛「……それは?」

うしお「遠野で妖怪の長から貰った『減らないオムスビ』さ。食べてもなくならないんだ」

凛「減らないって、どういうことよ……」

セイバー「確かに、もぐもぐ、これは凄い。食べると、もぐもぐ、既に次のモノが用意してある」

うしお「セイバー、ゆっくり食っても大丈夫さ」

凛「……蒼月君。これがとんでもないモノだって、分かってる?」

うしお「えっ? あぁもちろんさ。コヅカイがピンチのときは助かるんだぜ?」

うしお「今月も金欠でさ、これを持ち歩いて腹が減ったときに食うつもりだったんだ」

うしお「持っててよかったぜ」

凛「…………」

凛「はぁ……」

凛「協会の奴らが知ったら『魔法の数』が変わってるところだわ」



うしお「この建物って誰かのアトリエだったのかな……?」

凛「えっ? 蒼月君。それは分からないけど、どうして?」

うしお「いや、地面に画材道具が散らばってるから、そう思っただけさ」

凛「言われてみれば確かにそうね。まぁ、この荒れ具合から何年も前でしょうけど」

セイバー「ウシオは自身も絵を描くので気になったのでしょう」

うしお「あぁ、ってセイバーなんでオレが絵を描くこと知ってんだ!?」

セイバー「知ってるもなにも、ウシオの部屋は絵を描く道具で溢れているではないですか」

うしお「あ、そういやそうか」

凛「それに居間には描きかけの絵だって置いてあるじゃない」

凛「えっと、なんだっけ、溶けかけた虎?」


うしお「ありゃ藤村先生の肖像だよっ!!」



うしお「あーあ、誰もオレの芸術的センスを分かってくれねーんだもんなァ」

うしお「あ、そうだ!!」

うしお「いつかセイバーを描かせてくれよ!!」

セイバー「私を、ですか……?」

凛「蒼月君。セイバーは英霊なのよ? この意味忘れてない?」

うしお「分かってるよ遠坂先輩。セイバーは有名な英雄だってことだろ?」

うしお「きっとスゲェ画家たちが、もう描いてるだろうさ」

セイバー「確かに、全く経験がないワケではないですが……」

うしお「それでも描きたいんだセイバー、頼むよ!!」

凛「ふふ、絵のことになると夢中ね。蒼月君」

うしお「あったりめえよ!!」

うしお「この聖杯戦争が終わったあとでもいいからさ。セイバーを描かせてくれよ!!」

セイバー「……聖杯戦争が、終わったあと……。いえ、それは……」

うしお「オレがセイバーをモデルにするなんて、つけあがってるのは分かってる」

うしお「でもよ、あの日、蔵の地下で出会ったときにも思ったんだ」


うしお「笑ってるセイバーを、描いてみたいって!!」


セイバー「ウシオ……」



凛「蒼月君。まさかとは思うけど……」

凛「セイバーを描きたいって……。ヌ、ヌヌ、ヌードじゃないわよね!?」

うしお「な、な、なに言ってるんだ遠坂先輩!?」

うしお「んなワケないだろォ!?」


セイバー「……分かりました、ウシオ」

セイバー「聖杯戦争で勝利に導くのがサーヴァントの務め」

セイバー「約束しましょう。必ずマスターには絵を描いてもらいます」


うしお「セイバー……。あぁ、頼んだぜ」



うしお「……ん、いけね寝ちまった」

セイバー「ウシオ、起きましたか。身体は大丈夫ですか?」

うしお「あぁ大丈夫だぜ。おっ、もう外は明るくなりはじめてるんだな」

凛「蒼月君、おはよう」

うしお「おはようって遠坂先輩、もしかして全く寝てないのかい?」

凛「セイバーに見張ってもらって私も少しは仮眠をとったわよ」

うしお「そうか。よーし、それじゃ」

凛「待って蒼月君。落ち着いて聞いてね」

うしお「えっ?」

凛「今この付近でイリヤスフィールとバーサーカーが私たちを捜索してるわ」

うしお「そんな!? それじゃ、とらは……!!」

凛「大丈夫よ。私ととらの令呪の繋がりは切れてない。多分、城で華鎚の結界に捕まってるんだわ」

凛「あの馬鹿、大口を叩いたわりにはまんまとイリヤスフィールに捕まったのよ」



うしお「とらが捕まった、か。なんとかしねえと……」

セイバー「しかし、これは好機かもしれません」

うしお「好機? どういうことだい?」

セイバー「トラと戦い終わった直後のバーサーカーです」

セイバー「あのトラのことですから、必ず相手には痛手を負わせているでしょう」

凛「そしてイリヤスフィールは、とら捕縛のためにかなりの魔力と多数の華鎚を使ってるはずだわ」

うしお「そうか、今ならオレたちだけでもバーサーカーを倒せる……!?」

凛「そういうこと」

セイバー「はじめからトラの『狙い』はこれだったのかもしれませんね」

凛「どうだか。アイツのことだから本当にバーサーカーと『タイマン』やりたかっただけでしょ?」

うしお「はは、確かに」

セイバー「ですがこの好機は逃せません。ウシオ、私たちもバーサーカーと……」

うしお「あぁ、タイマンさ!!」



凛「作戦はこうよ」

凛「蒼月君とセイバーで、バーサーカーの注意を引き付けてもらうわ」

凛「そこに私が背後からの奇襲。とっておきの宝石魔術で終わらせる。どう?」

セイバー「いいと思います。単純ではありますが、それ故に効果的です」

うしお「よーし、分かったぜ!!」

凛(本当のとっておきは、とらの身につけてる宝石だけど。今は手持ちの宝石でやるしかないわね)

うしお「それじゃ行こうか」

凛「ちょっと待って。蒼月君、これを」

うしお「これは、槍……」

凛「私が魔術で作った槍よ。あのバーサーカーと対峙するのに得物がないのは困るでしょ?」

凛「一応、蒼月君の『あの槍』に似せて作ったんだけど、ちゃんと使えそうかしら……」

うしお「あぁもちろんさ。この槍があるならオレは負けないぜ。ありがとう遠坂先輩」

凛「も、もう。でも当然それはあの槍と違って何の力もない槍だから、油断しないでね」

うしお「分かったよ。よーし、それじゃ行こう!!」



・アインツベルンの森


イリヤ「見~つけた♪」

うしお「イリヤ……」

セイバー「…………」

イリヤ「……意外ね。最後まで逃げ回ると思った。それにウシオ、リンはどうしたの?」

うしお「あっ、ありゃ、えーと、遠坂先輩は、森で、はぐれた、かな?」


凛(……蒼月君、ウソがヘタすぎるわ……)


イリヤ「……そう。ならリンはあとで探して殺してやるわ」

うしお「待ってくれよイリヤ。この戦いはどうしても止めることは出来ねえのか?」

イリヤ「出来ないよ。お爺様の言いつけだもの」

うしお「そうか。やっぱりそのお爺様ってヤツに言われてやってんだな」

イリヤ「そうよ。バーサーカーがいる限り、私はアインツベルンのマスターなの」

バーサーカー「■■■■■■■■■■」

セイバー「アインツベルン……」

イリヤ「他のマスターを全員殺して、聖杯を持ち帰らないといけないんだから……!!」



うしお「オレはそのアインツベルンも聖杯もよく知らねえさ。でもよ、こんな殺し合いはいけねえよ」

うしお「あの公園で美味そうにクリームパンを食ってたイリヤが、好きでこんなことしてるとも思えねえ」

うしお「もしよ、バーサーカーを倒してイリヤをマスターからやめさせれば、少しはマシになるなら」

うしお「オレは戦うさ。何度だってイリヤのために立つ。立って戦う!!」


イリヤ「な、何を言って……。私のため……?」

イリヤ「そう言って私を騙して、バーサーカーを倒して聖杯を手に入れるつもり?」

イリヤ「もういい、いらない。ウシオもバルと同じだわ」

イリヤ「私を救ってくれるのはアインツベルンとバーサーカーだけ!!」

イリヤ「遊びはこれまで。みんな殺しちゃえ!! バーサーカー!!」


バーサーカー「■■■■■■■■■■」


うしお「来る……!!」



バーサーカー「■■■■■■■■■■」

うしお「バーサーカー、東の妖の一鬼なみの巨体にこのスピード……!!」

うしお「これなら、どうだっ!!」

バーサーカー「■■■■■■■■■■」

うしお「だ、駄目か……。オレの槍の攻撃ははじかれる……!!」

イリヤ「無駄よ。普通の人間の攻撃なんてバーサーカーに通じるはずないもの」

イリヤ「やっちゃえ、バーサーカー!!」

バーサーカー「■■■■■■■■■■」

うしお「ぐはっ……」

セイバー「ウシオ!!」

イリヤ「これで終わりだよ、お兄ちゃん!!」


凛「終わるのはそっちよ、イリヤスフィール!!」



イリヤ「リン……!?」

うしお「遠坂先輩……!!」


凛「獲ったァ!!」


セイバー「見事ですリン。背後から魔術は完全に入りました、今のは防ぎようがない」

バーサーカー「■■■■■■■■■■」

凛「ウ、ウソ……。確かに、首を吹き飛ばしたはずなのに……!?」

イリヤ「そういう作戦だったんだ。見直したわリン。まさか一度だけでもバーサーカーを殺すなんてね」

うしお「どうなってんだ、バーサーカーは倒したんじゃ……!?」

イリヤ「残念ねウシオ。教えてあげる、ソイツは『十二回』殺されないと死ねない身体なのよ」

セイバー「まさか、バーサーカーの宝具は……!!」

凛「命のストック……『蘇生魔術の重ね掛け』……!?」

うしお「そ、そんな……!!」

バーサーカー「■■■■■■■■■■」

凛「がはっ……」

イリヤ「確かに終わるのはリンのほうが先だったようね」

イリヤ「バーサーカー!! ソイツ潰しちゃえーーっ!!」



とら「……ここは、りんの家か。りんと初めて会った場所かよ」


凛「とらァ!!」


とら「りん!?」

凛「アンタこんなところで何してんのよっ!!」

とら「おめえこそ何しに来たんだよ!! 今おめえは逃げるので忙しーいんだろ!?」

凛「ええ、ちょうど今バーサーカーに握り潰されるところよ」

とら「なにやってんだよ!! あのクソ『うしお』なら何とか出来るだろ!!」

凛「とら、記憶が戻ったんだ」

とら「ああ? あぁ、それがどうかしたかよ」

凛「よかった、本当に」

とら「ちっ、なにがでえい。りん、おめえの単純な魔力不足のせいなんだぜ?」

凛「アンタみたいな規格外の英霊を召還する魔力なんて誰も持ってないわよっ!!」



凛「一つだけ、分からないことがあるわ」

とら「なんだよ?」

凛「私はセイバーを召喚するつもりだった。色々うっかりしてて失敗したけどね」

凛「それで召喚されたのはアンタだった。それだけは不可思議よ」

とら「そんなことかよ。わしはこの土地に五百年はりつけになってた。あの忌々しい槍にな」

とら「この土地に縁のある英霊ってことだ。他のヤツよりは召喚しやすいだろうぜ」

凛「それはそうかもしれないけど、本当にそれだけかしら?」

とら「他になにがあるってんだよ」

凛「マスターが召喚出来るサーヴァントは、そのマスターに似るっていうわ」

凛「私とアンタ、どこか似てるのかもね」

とら「くだらん。わしはそんなもん信じんぞ」

凛「そう? 気に入った相手に素直になれないところとか似てると思うけど」

とら「ふん。おめえにしては阿呆なこと言うよな、りん」



とら「話は終わりかよ。りん、わしはもう店じまいだ」

とら「なァんで最期の最期で記憶が完全に戻ったのか知らねえが、もうしめえよ」

凛「は? とら、アンタなに言ってんのよ」

とら「もうわしの中におめえの魔力は残っちゃいねーよ。体が動きゃしねーんだ」

凛「はぁ……。本当にとっておきの宝石を使うことになるとはねぇ」

とら「おい聞いとんのか、りん!!」

凛「アンタの耳につけてるそれ」

とら「ああ? おい、なんだこれ、いつのまにこんなもんつけやがった!!」

凛「そのペンダントは『父さんの形見』で、私の一番とっておきの宝石よ」

とら「まさかおめえ、それをわしに……」

凛「とら、アンタは『私の』サーヴァントなのよ」

凛「だから私が危なくなったときに発動するように仕掛けておいたの」

凛「だって、アンタは私を聖杯戦争で勝たせてくれるんでしょ?」

凛「約束、守ってもらうわよ」


とら「……!?」

とら「傷が、治って……」


凛(……早く助けに来なさいよね、とら……)


とら「へっ……。約束は、守るさ」



【第十六話】



凛「あ……ぁ……っ……」

バーサーカー「■■■■■■■■■■」


セイバー「リン!! 今助けます!!」

リズ「イリヤの、邪魔、させない」

セラ「ここは通しません」

セイバー「お前たち……!!」


うしお「遠坂先輩!!」

バーサーカー「■■■■■■■■■■」

うしお「離せよォ!! 遠坂先輩を離せええーーっ!!」

バーサーカー「■■■■■■■■■■」

うしお「ぐはっ……。あ、あぁ、槍が砕けて……そんな……」

イリヤ「バーサーカー!! 早くやりなさい!!」


ドオオオオン!!!!


セイバー「!? 今の音は……」

イリヤ「な、なに……? 城のほうから……?」



キィィィィン


リズ「この、音……」

セラ「何かが近づいて……」


バーサーカー「■■■■■■■■■■」

イリヤ「なに、なんなの……?」




「雄ぉ鳴ぉ雄ぉ鳴ぉ雄ぉ鳴ぉ雄ぉ!!!!!!」


ドオオオオン!!!!


「まーったく、『わし』がいなきゃこのザマかよ」


うしお「と、とらァ!!」


とら「あいそがつきるぜ。いや、あいそなんざとっくにつかしてたか」


とら「忘れるぐらいによ」



うしお「と、とら……まさか……」

とら「なにやってやがる、このうすらバカちびが」

うしお「!?」

とら「しけた面してんじゃねーぞ!!」


とら「うしお!!!!」


うしお「な、なんでぇ……」

うしお「おめえこそ、オレのこと忘れやがって……」

とら「ああ!? おめえのアホ面がおかしくて思い出しちまったよ!!」

うしお「なにをォ!!」


うしお「とらァ!!!!」


とら「タコが!! りんを助ける気ねーのか!?」

うしお「分かってらァ!!」


とら「ドジるなよ!! うしお!!」

うしお「こっちのセリフだい!! とら!!」



イリヤ「う、うそよ……」

イリヤ「カヅチ四体の結界で縛っていたのに……。どうやって……」


うしお「バーサーカー!! こっちだ!! オレはこっちにいるぞ!!」

バーサーカー「■■■■■■■■■■」

とら「前っから思ってたけど下手だよなァ、うしお」

うしお「悪かったな、とら!!」

バーサーカー「■■■■■■■■■■」


セイバー「ウシオもトラも動きが違う……。これは……」

凛(……二体で最強。ほんと貴方たちって……)


とら「おらよォ!!」

バーサーカー「■■■■■■■■■■」

とら「わしの『ますたー』は返してもらうぞ」


凛「かはっ、はぁ、はぁ……。お、遅いのよ、とらっ!!」

とら「へっ、その調子なら大丈夫そうだな。りん」



イリヤ「ありえない。ありえないわ、こんなこと……」

イリヤ「もう、いい。もう知らないんだから……」

リズ「イリヤ……?」

イリヤ「どうなったって、もう知らない……!!」


イリヤ「カヅチ!!」


華鎚「……!!」華鎚「……!!」
華鎚「……!!」華鎚「……!!」
華鎚「……!!」華鎚「……!!」


とら「ちぃっ、まだこんなに華鎚どもがいやがったかよ!!」

うしお「とら!!」


リズ「それ駄目、イリヤ……」

セイバー「なに……?」

セラ「いけない、いけません!!」

セラ「森に配置していた全てのカヅチに同時に命令するなどと……」

セラ「ここは城の補助も何もない場所、そんなことをすれば……!!」



イリヤ「ウシオ、リン。これで私の勝ちよ」

イリヤ「もう、完全に……貴方たちの、負、け……」ドサッ

うしお「イリヤ!?」


バーサーカー「■■■■■■■■■■」


バーサーカー「■■■■■■■■■■」


セイバー「バーサーカーが暴走を……!!」

うしお「これは、どうなってんだ!?」

凛「はぁ、はぁ……。魔力の限界、ね……」

うしお「えっ!? 遠坂先輩、それって」

凛「イリヤスフィールの魔力量が、華鎚に命令するために使った分量で限界だったのよ」

セイバー「しかし、こんな行き成り?」

凛「当然といえば当然よ。自分の使い魔でもない、ましてや『妖怪』を使役出来てたほうがおかしいのよ」

凛「そこはさすがのアインツベルンってとこね。腹立たしいけど」

凛「でもイリヤスフィールには、もうバーサーカーの理性を保つ魔力がないんだわ」



バーサーカー「■■■■■■■■■■」

リズ「バーサーカー、駄目……」

セラ「こんなこと、これでは……」


バーサーカー「■■■■■■■■■■」


凛「どうにかするしかないわね……。とらは動ける?」

とら「ぐっ、駄目そうだ。華鎚のクソはあのガキの最後の命令を聞いてやがるのよ」


バーサーカー「■■■■■■■■■■」

イリヤ「…………」

うしお「!?」

うしお「まさか、バーサーカーはイリヤまで……!?」

バーサーカー「■■■■■■■■■■」

うしお「イリヤーーーーっ!!!!」

イリヤ「…………」

うしお「はぁはぁ、間に合った……。でも、このままじゃ……」



凛「とらは結界で動けないし、どうしたら……」

とら「いや、わしに出来ることはまだあるぜ。りん、準備しな」

凛「えっ?」


とら「おいうしお!! よく聞きな!!」

うしお「とらっ!?」

とら「わしにもな、剣使いと同じように『宝具』があるのよ」

うしお「宝具……とらに……?」

とら「それを使えば、おめえは昔みたいに戦えるはずだぜ」

うしお「それって、まさか……」


とら「あーあ、忌々しい」


とら「なぁんでこんなモンが、わしの宝具か」


うしお「あ、あぁ…………」




とら「この 『 獣 の 槍 』 がよォ」





【第十六話 宝具『獣の槍』 】



うしお「行っくぞォーーっ!!」

バーサーカー「■■■■■■■■■■」


凛「これがとらの宝具、使用者の魂を糧にあらゆる妖怪を討ち滅ぼす退魔の霊槍……」

凛「『獣の槍』!!!!」


うしお「どうだァーー!!」

セイバー「ウシオの髪が伸びて……。いや、それよりあの身体能力は……!!」

バーサーカー「■■■■■■■■■■」

セイバー「す、凄い……。あのバーサーカーを圧倒している……!?」


凛「アンタの宝具、本来はマスターのステータスをランクアップするモノなんでしょうね」

とら「その通りよ。りん、おめえも使えばあれぐらい動けるだろうぜ」

凛「それは無理でしょうね」

とら「あ?」


うしお「おおおおおおおお!!!!」

バーサーカー「■■■■■■■■■■」


凛「あんなこと、私には出来ないもの」

とら「へっ……。あの槍を使ってるアイツは、妖(バケモノ)よ」



『……我らは心の内に在る……』

『……耳を澄ませば聞こえます。彼の声が……』


うしお(あぁ分かってるさ。ギリョウさん、ジエメイさん)


うしお「聞こえたよバーサーカー。この『獣の槍』を通してお前の声が!!」


バーサーカー「■■■■■■■■■■」
(……少年よ。私を倒してくれ……)


リズ「バーサーカーの、声……」

セラ「何を言って……」


凛「獣の槍は意志ある妖器物……。その獣の槍がバーサーカーの心を読み取った……!?」

とら「けけけ」

セイバー「まさか、それがトラの宝具の『真の能力』……?」

とら「さーて、どうだかね」



うしお「バーサーカー!! バーサーカー!!」

バーサーカー「■■■■■■■■■■」
(……無駄だ。最早呼び掛けてどうにかなる段階ではない)

バーサーカー「■■■■■■■■■■」
(あの少女が膨大な魔力で『狂化』を抑えてくれていたが、それが完全に解けている)

バーサーカー「■■■■■■■■■■」
(逆に、使い魔に送り続けていた魔力が行き場をなくして私の『狂化』に流れているようだ)


うしお「そんな…………。どうにかならねえのか!?」


バーサーカー「■■■■■■■■■■」
(……頼む。私を倒してくれ……)


うしお「……他に方法はねえのかよ。バーサーカー!!」


バーサーカー「■■■■■■■■■■」
(……時間がない。このまま『狂化』が進めば少女の魔力、いや、生命力を全て吸い取ってしまう)


うしお「バカヤロォ……」

うしお「そんなこと言われたらオレは……オレはよォ!!」



リズ「バーサーカーと、会話してる」

セラ「分かるのですか?」

リズ「分からない。でも、あの槍を見てたら」

セラ「そんなはずは……。ですが、私も……」


バーサーカー「■■■■■■■■■■」


うしお「バーサーカー、すまねぇ…………」

うしお「これで…………終わりだァーーっ!!」ガクッ


うしお「なっ!? 槍が急に重くなった!?」


セイバー「ウシオ、どうしたのです……!!」



とら「どうなっとる!? わしの宝具の制限時間はまだだぞ!!」

凛「何か理由が……」

とら「力が足りねえのか!? りん魔力だ!! 魔力をもっとわしに送れ!!」

凛「やってるわよっ、でも私の魔力だって限界なのよ……!?」

とら「ちぃっ、準備運動なしの宝具発動はしくじったかよ……!!」

凛「不味いわね……。もう宝石も残ってないわ……」


バーサーカー「■■■■■■■■■■」


うしお「ぐっ、赤い布をグルグルに巻かれたときみてえだ……」

ガシッ

リズ「足りないなら、魔力、送る」

セラ「私たちの中の魔力など微々たるモノですが、多少は軽くなるはずです」

うしお「お前ら、なんで……」

リズ「イリヤと、バーサーカーのため。バーサーカー、倒されること、望んでる」

セラ「このままではお嬢さまが危険なのは確かです。お嬢さまのためなら私たちは……」

うしお「……よおおおおし!!」



セイバー「……そういえばトラ、私は『雷剣』の借りを返していませんでしたね」

とら「ああ!? おめえ何の話だ、今はそれどころじゃ」

セイバー「貴方と私の宝具の『相性』は悪くないという話です」

とら「だからそれが……。へっ……なーるほど。その手が、あったかい!!」




リズ「そろそろ限界、でも」

セラ「ええ、まだまだこれからです……!!」

うしお「くっそォ、持ち上げるだけで精一杯なんてよォ……!!」

セイバー「ウシオ!!」ガシッ

うしお「セ、セイバー!?」

セイバー「これがトラの宝具『獣の槍』……。ウシオ、私に任せて下さい」

うしお「セイバー、何をする気なんだ……!?」

セイバー「風王結界(インビジブル・エア)の応用技を使います」

うしお「えっ!?」



うしお「それってセイバーの剣を視えなくしてるってやつじゃ……」

セイバー「はい、そうです。ウシオ、今この槍は持ち上げて戦うことが出来ないのですよね?」

うしお「あ、あぁ、その通りだぜセイバー」

セイバー「ならば持って戦う必要などありません。この場から風の力で槍を撃ち出します」

リズ「え」

セラ「え」

うしお「ええーーっ!?」



凛「ほ、本気なのよね……!?」

とら「りん!! わしらは宝具の維持に集中すんだよ!!」

凛「分かってるわよっ」


とら「へっ、相変わらず剣使いは面白えことを考えやがるぜ」



セイバー「ウシオ、この作戦は私たちがミスをすれば終わりです」

うしお「ああ」

セイバー「目標への狙い。少しでも外せばバーサーカーは倒せず、この槍を失います」

リズ「凄い、作戦」

セラ「む、無謀すぎます。私たちの中で唯一バーサーカーに有効な槍をそんなことに……」

セイバー「では他に違う作戦があると?」

セラ「それは……」

うしお「いや、その方法でやろう」

うしお「もし違う作戦があっても時間がねえ。時間をかけただけイリヤの魔力が吸われちまう」

セイバー「はい、その通りです」

リズ「二人は、もしかして、イリヤのために」

セラ「こんな無茶なことをしようというのですか……」



セイバー「……落ち着いていますね、ウシオ」

うしお「えっ、そうかい?」

セイバー「はい。私は貴方の年齢の倍はする騎士を多く知っていますが、その者たちと同じ『場慣れ』を感じます」

うしお「そ、そんなことはねえと思うけどよ」

うしお「アイツとの旅でこういう一か八かなんて場面は何度もあった、ただそれだけさ」

セイバー「なるほど。理解出来ました」

うしお「でもオレが冷静な理由は違うぜ」

セイバー「……と、言うと……?」

うしお「セイバーが『任せてくれ』って言ったんだぜ。それなら」


うしお「なにも怖かねえさ」


セイバー「貴方は……全く……。ええ、もちろんです」


うしお「なら、やろうぜ。セイバー!!」

セイバー「はい、マスター!!」



とら「宝具の発動時間の限界も近えな……。正真正銘一発勝負よォ……!!」

凛「バーサーカーが立ち上がるわよ!!」


バーサーカー「■■■■■■■■■■」


セラ「まだ、なのですか……。もう私たちも……」

リズ「限界かも」

うしお「そろそろオレの腕も……。セイバー!!」

セイバー「まだです。まだ、もう少し……!!」


バーサーカー「■■■■■■■■■■」


セイバー「そうだ、それでいいバーサーカー」

セイバー「貴方の『狂化』は強い、いや、強まっているからこそか」

セイバー「本能的に、この場にある自身を脅かす最大の得物を標的にする」

セイバー「だがそれはこちらにとっても、好都合だ」


バーサーカー「■■■■■■■■■■」


うしお「バーサーカーが、来る…………!!!!」



セイバー「ウシオ!!」

うしお「ああ……!!」

バーサーカー「■■■■■■■■■■」

セイバー「やああああ!!!!」


凛「セイバーの髪が、伸びていく……」

とら「へっ、剣使いが槍を使うかよ」


リズ「なに、これ。今までこんなこと、なかった」

セラ「バーサーカーの感情が、流れてくる……」


バーサーカー「■■■■■■■■■■」
(…………今だ…………!!!!)


セイバー「風よ、荒れ狂え……!!」

セイバー「はああああ!!!!」

うしお「うおおおお!!!!」

うしお「いっけええぇぇーーーー!!!!」




獣槍『風王鉄槌』!!!!

(スピアオブザビースト・ストライクエア)





バーサーカー「……これが、お前の宝具か。雷獣よ」

とら「認めたくはねえがな」

バーサーカー「珍しいものだな、自身の宝具を好まない英霊か」

とら「どんな宝具を渡されても、わしはやりたいようにやるだけよ。だが」

とら「『憎しみはなんにも実らせねえ』。それが『わしの宝具』だからよ」

バーサーカー「そういうことか雷獣よ。前言を撤回しよう」

とら「けっ」


バーサーカー「見事だった騎士王」

セイバー「いえ、私だけの力ではありません」

バーサーカー「一つ尋ねたいことがある」

セイバー「何でしょうバーサーカー」

バーサーカー「暴走した我を狙うより、倒れたマスターを狙うほうが効率的だったはずだ、何故だ」

セイバー「それは……」

セイバー(あんなことがあっても、出来るはずがない。彼女は、アイリスフィールの……)

セイバー「……そんなことはウシオが許しません」

セイバー「マスターの意思を尊重するのもサーヴァントの務めです」

バーサーカー「なるほど、これが騎士王か」



バーサーカー「少年よ。我の声に耳を傾けてくれたこと、感謝する」

うしお「バーサーカー、すまねえ……」

バーサーカー「謝ることはない。これは我が望んだことだ」

うしお「でもよ……!!」

バーサーカー「我を止めるには、この方法しかなかったのだ」

うしお「バーサーカー……」


サァァァァ


バーサーカー「時間か。少年よ、もしバルトアンデルスに会ったら伝えてくれないか」

うしお「バルに……?」

バーサーカー「約束は果たしたと。それとお前の言うとおり、この国に来てよかった、と」

うしお「バーサーカー……。あぁ、分かったぜ」


イリヤ「んん…………バーサー、カー…………?」


バーサーカー「それから、その少女を、頼む……」

うしお「あったりまえだろ!!」


バーサーカー「お前は……優しいのだな……。少女と、同じ、だ……」


うしお「バーサーカー……」



【第十七話 魔女の宴への招待状 】



・潮の部屋


麻子「うしおーーっ!! もう昼よ起きんかーーい!!」

うしお「う、ん……麻子、か……?」

麻子「学校が警察の調査で休校中だからっていいかげんに……ん?」

ゴソゴソ

麻子「…………」

ガバッ

イリヤ「うーん、うるさいなぁ」

麻子「なっ……」

リズ「おはよ」

セラ「おはようございます」

麻子「え……えぇぇーーっ!?」



・蒼月家居間


麻子「うしお!! ちゃんと説明しなさいよ!!」

うしお「い、いや、だからよォ」

セイバー「アサコ。気持ちは分かりますが落ち着いて下さい」

麻子「セイバーさんは納得してるんですか!?」

セイバー「……確かにウシオはどうかしています。イリヤスフィールを保護するなどと」

うしお「そんなにおかしいかい?」

セイバー「はい、聖杯戦争を理解していない思われても仕方ないでしょう」

うしお「そ、そこまでかよ。俺だって分かってるさ」

うしお「イリヤが俺や遠坂先輩の令呪を奪ってサーヴァントと再契約するかもって話だろ?」

セイバー「その通りです」

イリヤ「再契約なんてしないわ。私はバーサーカー以外と契約なんてする気ないもの」

セイバー「その言葉を、信じろと?」

イリヤ「別にセイバーに信じてもらえなくてもいいわ」

うしお「イリヤは俺たちを襲ったりしないさ。それをやろうと思えば今朝だって出来たはずだしな」

セイバー「それは……」

うしお「ずっと隣の部屋で待機してたセイバーもそれは知ってるだろ?」

セイバー「……気付いていましたか」

うしお「屋根にとらもいたしな。そっちは遠坂先輩の指示だろうけど」



麻子「セイバーさん、私が言ってるのはイリヤちゃんのことじゃないわ」

イリヤ「イ、イリヤちゃん……」

セイバー「アサコ、違うのですか?」

麻子「私が心配してるのはセラさんとリズさんよ!!」

リズ「わたし、たち?」

セラ「どういうことでしょうか?」

麻子(セイバーさんと遠坂先輩と桜先輩で既にスゴイコトになってるのに……)

麻子(これ以上うしおの周りに美人を増やすわけには……なんとかしないと……)

麻子「その、コイツは人使い荒くて大変だからやめたほうが、なんて……」

麻子「た、例えば絵の練習に協力してくれ、とか」

リズ「それぐらいなら」

セラ「気にはしませんが」

麻子「い、いい、いやらしいポーズを要求したり……!!」

うしお「な、なに言ってんだ麻子っ!?」

リズ「うわー」

セラ「それは……」

イリヤ「お兄ちゃん……」

うしお「そ、そんなことするかい!! オレはゲージュツを志す男だぞ!!」



凛「ふぁ、おはよう。ごめん桜、牛乳飲ませて」

桜「遠坂先輩、もうお昼ですよ……」

凛「いいじゃない。一番の強敵を倒したんだからだらけもするわよ」

凛「……それで、これはなんの騒ぎ?」

とら「おめえならこうなることは分かってただろうがよ」

とら「それで、りん、あれはいいのかよ?」

凛「いいワケはないのよねぇ。あのアインツベルンだし、何回も殺されかけてるし」

とら「だったら」

凛「待って。蒼月君に考えがあるらしいからそれを聞きましょ」

とら「けっ、あの馬鹿うしおに考えなんてあるのかね」

凛「それより、アンタはどうしたのよ……?」

とら「ああ? こいつか?」

真由子「とらちゃんだぁ、本当に本当のとらちゃんだぁ」

とら「おいマユコ!! おめえいい加減離れろ!!」

真由子「あはっ……。今とらちゃんがマユコって言った……」

真由子「もう一回とらちゃん、もう一回言ってっ!!」

とら「……りん、おめえはわしのますたーだろ。なんとかしろォ!!」


凛「朝からずっと?」

桜「はい、まぁ」



凛「蒼月君がイリヤスフィールを保護したいっていうのは分かったわ」

凛「本来そういうのは教会の監督役の仕事なんだけど、まぁいいでしょ」

うしお「あぁ遠坂先輩。イリヤたちも次に行く当てがないっていうしよ」

イリヤ「お爺様の言いつけを破ったんだもの。行く場所なんてどこにもないわ」

リズ「あとは、処理されるだけ」

麻子「処理って、そんな……」

とら「あのでけえ城に戻りゃいいじゃねえかよ」

イリヤ「聖杯戦争に負けた私たちが? お城に戻った瞬間ドッカーン大爆発よ」

真由子「じょ、冗談、だよね……?」

セラ「いえ、可能性がゼロとは言い切れませんね」

凛「とりあえず分かったわ。それじゃ次は蒼月君の考えを聞きましょ」

うしお「オレは、イリヤたちとも協力出来ないかと思ってよ」

イリヤ「えっ……?」

うしお「この聖杯戦争を終わらせるためにオレは戦ってるんだ」

うしお「イリヤはすげえ魔力を持ってる、リズさんもセラさんも強いよな」

うしお「そんな強い人たちと仲良くしたらよ、こんな戦争すぐに終わりに出来るぜ」

リズ「強い……?」

セラ「私たちが……強い……」



キリオ「うしお兄ちゃん、行ってきたよ」

うしお「お、すまねえなキリオ。こんなお使いみたいなこと頼んでよ」

キリオ「ううん、これは僕のことでもあるから」

真由子「キリオくん、今朝からどこに行ってたの?」

キリオ「ただいま真由子姉ちゃん。光覇明宗の総本山に行ってたんだ」

イリヤ「コウハ、メイシュウ……?」

キリオ「そう。僕はその光覇明宗で獣の槍伝承者候補の一人だったんだ」

キリオ「でも今はそこでホムンクルスの研究をしてる」

セラ「ホムンクルスの、研究……」

キリオ「今も『囁く者達の家』に残るホムンクルスのために何か出来ないかと思って」

キリオ「僕は『九印』に何も恩返し出来なかったから」

真由子「キリオくん…………」

キリオ「九印なら、合理的じゃない、とか言いそうだけどね」

真由子「ううん、九印くんもきっと喜ぶよ」



うしお「イリヤたちには、キリオのその研究を手伝ってやってほしいんだ」

セラ「ホムンクルスの研究……。そういうことですか……」

セラ「お嬢様や我々を実験材料にすることで保護すると」

キリオ「ち、違……!!」

リズ「セラ、それ違う」

セラ「何が違いますか、お嬢様にそんなことをさせるぐらいなら私は死を選びます」

イリヤ「落ち着きなさい」

セラ「ですが……!!」

うしお「いや、セラさんのその話が聞けてよかったぜ。本当にイリヤが心配なんだな」

セラ「な……」

うしお「そんなセラさんたちだからこそ、歓迎してもらえると思うぜ!!」

凛「……なるほどね。だから光覇明宗か」

桜「遠坂先輩……?」

凛「キリオ君の研究を手伝うということは、光覇明宗に協力するということ」

凛「それはイリヤスフィールたちが光覇明宗の一員になるってことよ」

凛「ホムンクルスの研究って名目ならイリヤスフィールたちは適任だしね」

凛「そして、いくらアインツベルンでもこの国の組織『光覇明宗』に手出しは出来ない」

真由子「あっ……」

麻子「それなら……」

凛「考えたわね蒼月君」



イリヤ「ウシオ……。私たちは、助かる、の……?」

イリヤ「もう、痛いことはないの? お爺様に殺されないの……?」

リズ「イリヤ…………」

セラ「お嬢様…………」

うしお「あぁ、オレたちがイリヤを守るさ」

うしお「どんなでっけえ目標があったって、どんなエライヤツにだろうが……」

うしお「使い捨てられていい奴なんざ、この世にゼッテェいねえんだ」

麻子「うしお……」

イリヤ「その、あの、なんて言えばいいか分からないわ……」

イリヤ「感謝を……言いたいのに……」

うしお「お礼ならいらねえさ。もし誰かに言いたいならキリオに言ってくれ」

うしお「光覇明宗にかけ合ってくれたのはキリオだからよ」

イリヤ「キ、リオ……?」

キリオ「えっ……」

イリヤ「キリオ、ありがとう」

キリオ「う、うん……」


真由子「あれキリオくん、顔が赤いよ?」

キリオ「そ、そんなことないよ真由子姉ちゃん」



セラ「なぜ貴方は私たちにそこまでするのですか? 何か理由が?」

うしお「理由なんてねえさ。そうだなァ、バーサーカーに頼まれたからじゃダメかい?」

リズ「バーサーカー」

うしお「それにキリオの研究を手伝ってやってほしいってのは本当さ」

セラ「研究を……?」

うしお「その、囁く者達の家のときに知ったんだけどよ」

うしお「ホムンクルスは、短命なんだろ……?」

セラ「はい、そうです」

セイバー(……アイリスフィールも言っていた……。短い命だからこそと……)

うしお「もしキリオの研究が進んで、イリヤたちが少しでもうめーモンが食えたらいいなァってよ」

セラ「貴方は、本当にお嬢様のために……」

うしお「あっ、そうだ!!」

うしお「リズさんもセラさんもクリームパン食ったことあるかい!?」

リズ「え……」

セラ「いえ……」

うしお「それなら今度食ってみようぜ。イリヤもうめーって言ったんだ」

うしお「うめーんだぜー、クリームパン!!」

リズ「うん」

セラ「わ、分かりました」



とら「へっ、見ねえあいだにモノを考えるようになったかよ」

うしお「もうオレもチューボーじゃなくコーコーセーだからな」

とら「けっーけけ!! おいりん聞いたか、馬鹿が調子に乗りおったぞ!!」

うしお「なにをーーっ!! とらァーー!!」

凛「ちょ、ちょっと、わかった、わかったから外でやってよっ」


キリオ「そうだ。うしお兄ちゃん、総本山に行ったときに少し気になることがあったんだ」

うしお「総本山で?」

キリオ「紫暮様に今回のアインツベルンの話をしたら……」


紫暮『大丈夫だキリオ。ずっと前から準備はしていた』


キリオ「そう言ってたんだ」

うしお「親父が準備? どういうことだ?」

キリオ「僕にも分からない」

うしお「うーん……?」



セイバー「……ウシオ」

うしお「やっぱり、セイバーは納得出来ねえか」

セイバー「いえ、そうではありません」

セイバー「私からも、その……。感謝します、ウシオ」

うしお「えっ、なんでセイバーが礼を言うんだい?」

セイバー「それは……」

セイバー(アイリスフィールの代わりに? いや、私はそんな立場の者ではない)

セイバー(私は何を考えてるんだ……)

セイバー(前回の聖杯戦争の最後、聖杯を手に入れるあと一歩のところで聖杯は破壊された)

セイバー(あの『前回のマスター』の令呪で私が破壊した。そのとき、私は誓ったはずだ)

セイバー(次の聖杯戦争は騎士道も何もかも捨て、全てを排除して勝ち残ると)

セイバー(それなのに、どうして……)

セイバー(ウシオやトラたちに出会って、私のなかで何かが変わったというのか……)

セイバー(そんなはずは……)


うしお「セイバー?」

セイバー「なんでも、ありません」



うしお「柳洞寺にキャスターがいて、マスターは柳洞寺に住んでる葛木先生……!?」

凛「ええ。私とイリヤスフィールの情報から言って、その可能性が高い」

イリヤ「ウシオたちに協力すると決めたんだから、情報を出し惜しむつもりはないわ」

うしお「イリヤ……。サンキューな」

うしお「でも、それでなんで柳洞寺にキャスターで葛木先生がマスターになるんだ?」

凛「説明するわ。蒼月君はちょっと前から起こってるガス漏れ事件は知ってる?」

うしお「あぁ知ってるぜ。よく厚池たちが話題にしてるよ」

麻子「そうそう、この前ウチにもガス会社の検査が来たのよね」

桜「中村さんのところは中華料理店ですものね」

イリヤ「そのガス漏れ事件はキャスターの仕業よ」

うしお「えっ!?」

凛「正確にはガス漏れ事件に見せかけて人間の魔力、生命力を集めてるのよ」

イリヤ「魔力には流れがある。流れを辿ればどこに行き着くか分かるの」

うしお「それが柳洞寺……」

凛「そう。そしてあんな遠距離でそんな芸当が出来るのはキャスタークラスだけ」

セイバー「リン、それではアサシン陣営とキャスター陣営は組んでいると?」

凛「そういうことになるわね」

凛「山門はアサシンが守って、キャスターは力を蓄える。敵ながら上手いことやってるわ」

とら「けっ、術使いらしいチマチマしたやり方よォ」



うしお「柳洞寺にキャスターがいるのは分かったけどよ、葛木先生がマスターっていうのは?」

凛「実は、そっちはまだ確証があるワケじゃないんだけど」

イリヤ「ウシオ、キャスターは魔力集めを深夜にしか行っていないの」

うしお「そりゃガス漏れ事件が真っ昼間に起これば大事件になるからじゃ」

とら「あーあ、ちったぁ考えるようになったかと思えばこれだぜ」

うしお「な、なにをとらァ!!」

凛「キャスターは昼間は他にやることがあるのよ」

うしお「やること……?」

セイバー「なるほど。サーヴァントにとって一番やるべきこと」

うしお「あっ、そうか!! マスターの護衛!!」

凛「そういうこと。マスターだからって急に学校に来なくなれば怪しまれるわ、ということは」

うしお「昼間の葛木先生にはキャスターがついてるはず!!」

凛「そう。柳洞寺には他にも知り合いがいるんだけどそっちはもう調べたわ」

凛「あとは怪しいのは葛木先生だけなの」

セイバー「それでは柳洞寺の陣営を攻めるのですか?」

うしお「あぁ、ガス漏れ事件の話を聞いちゃ黙ってられねえよ」

凛「ええ。とにかく明日の放課後、葛木先生の後を追ってみましょう」



・柳洞寺付近道路


葛木「…………」




うしお「なぁ遠坂先輩。本当に葛木先生がマスターなのかな?」

凛「蒼月君、今それを確かめようと……。追うわよ」

うしお「オレにはどうにも葛木先生がガス漏れ事件を起こしてるようには思えねえんだ」

セイバー「ウシオはその教師と面識が?」

うしお「いや、無口な先生だからあんまり話したことはないんだけどよ」

凛「確かに蒼月君は葛木先生みたいなタイプより、藤村先生みたいなタイプのほうが気が合いそうよね」

うしお「そりゃね」

凛「まぁ蒼月君の言いたいことは分かるわよ。葛木先生は上級生の評判も悪くないもの」

うしお「そうなのかい?」

凛「ええ。っと、この先はもう柳洞寺まで一本道か。仕掛けるなら今だけど……」




葛木「……そろそろ頃合か」



葛木「いるのは分かっている。出て来たらどうだ」


凛(……気付かれてた!?)

うしお「葛木先生……」


葛木「蒼月と遠坂か」

??「忠告したはずですよ宗一郎様。このようなことがあるから貴方は柳洞寺に留まるべきだと」

葛木「そうでもない。実際に獲物が釣れた」

キャスター「それは確かにそうですね」


凛「アンタがキャスターね……」

セイバー「ウシオ、リン。下がってください」

凛「トラ、出番よ」

とら「術使いが相手じゃ楽しめそうにねえな」



うしお「セイバーもとらも待ってくれよ。オレは葛木先生に聞きたいことがあるんだ」

葛木「なんだ蒼月」

うしお「葛木先生はキャスターがガス漏れ事件で人間から魔力を奪ってるのを知らないんじゃないのかい?」

葛木「キャスターが……。そうか」

葛木「蒼月、それでその質問の出所はなんだ。疑問には理由があるはずだ」

うしお「だってよ、もし葛木先生が知ってるならそんなことさせないんじゃないかと思ってさ」

葛木「させない?」

うしお「あぁ、そんな悪いことは葛木先生なら止めさせるだろ?」

葛木「…………」

葛木「それは、悪いことなのか?」

うしお「えっ……?」

葛木「蒼月の言うとおり、善悪でいうのなら悪だろう」

葛木「だが、そのガス漏れ事件で何人死のうと私には関係ない。キャスターを止めるつもりもない」

うしお「な、なに言って……」

葛木「例外は存在する。私は蒼月が出会ってきた人間や妖怪とは違うということだ」

うしお「そんな……」

セイバー「その教師はウシオが思っていた人柄ではないようですね」



とら「ゴチャゴチャうるせえーよ」

とら「誰が死のうが気にしねえなら、おめえがここで死んでも気にしねえだろ」

キャスター「噂の妖怪のサーヴァントね。お手並み拝見といったところかしら」

葛木「妖怪、か……。私がいた組織は退魔の関係ではなかったが」

葛木「キャスター。拳に対妖怪用の補助を頼む」

キャスター「はい、宗一郎様」

凛「まさか戦うつもり……?」

凛「こっちは近接最強のセイバークラスと完全復活したとらがいるのよ」

凛「いくらキャスターがガス漏れ事件で魔力を蓄えてても勝負になるわけ……」

葛木「遠坂、例外は常に存在する。このようにな」

とら「ぐはっ!!」

うしお「とらっ!?」

葛木「有効のようだな」

凛「な、なに今の……。全く見えなかった……」

セイバー「なにか特殊な格闘術……。ただの人間ではない……!!」

とら「……ちっ、わしとしたことが油断したかよ。しかし勝負はまだついてねーぞ」

葛木「そのようだ。だが」

とら「力が抜けてく……。てめえ、何しやがったァ!?」

葛木「キャスターの補助も効果的のようだ。今からお前は殴られた場所から力が流れ出るぞ」

とら「なっ、なにィ~~っ!?」



うしお「あの葛木先生が、とらと互角に殴り合ってる……!?」

凛「こんな、バカなことが……」

葛木「言ったはずだ蒼月、遠坂。例外は常に存在すると」

葛木「私のように前に出るしか能のないマスターもいるということだ」

とら「へっ、そうかよ!! そいつァ楽しみが増えたぜ!!」


セイバー「あの男の相手はトラがやる。ならばキャスター、貴様の相手は私だ!!」

キャスター「お待ちなさいセイバー」

キャスター「ねぇ、坊やに現代の魔術師さん。野蛮な殺し合いはやめて私たちと手を組まない?」

セイバー「世迷言を……!!」

うしお「手を組むって、どういう意味だよ?」

キャスター「フフ、私はもう聖杯の仕組みを把握しているの」

キャスター「協力するなら貴方たちにも聖杯の恩恵を分けてあげてもいいわ」

凛「へぇ、それは結構な話ね。それで、どうやって聖杯を手に入れるっていうの?」

キャスター「まず、すでにこの土地は聖杯をおろすにたる霊脈を備えているのよ」



キャスター「坊やは不思議に思ったことはないかしら?」

キャスター「この土地に大きな寺院が二つあることに」

うしお「ウチの芙玄院と、柳洞寺のことかよ?」

凛「そんなの、この国にはいくらでもあるわよ」

キャスター「いいえ、特殊な使命を持つ寺院がこんな近くに二つあるのは異例よ」

凛「特殊な使命? 蒼月君のところはとらや槍のことだろうけど……」

うしお「そういえば昔オヤジが、槍のありがたあい話をするときに言ってた」

うしお「ウチは槍と妖怪を監視する使命があるけど、柳洞寺も同じような使命があるって」

キャスター「それが霊脈の監視よ。あの伝説の槍や妖怪と同等の使命ということ」

キャスター「それぐらいこの霊地は質の高い霊脈を備えている」

うしお「そういうことか……。それでそのすげえ霊脈を使ってどうするんだ?」

キャスター「質の高い霊脈があるなら、あとは聖杯召喚の器と大量の魔力さえあれば聖杯は手に入るのよ」

凛「……そう、大量の魔力ね。キャスター、それに必要な生贄はどの位いるのかしらね?」

うしお「いけ、にえ……?」

キャスター「そうねぇ。『器の魔術師』と町の人間『全て』といったところかしら」



うしお「生贄に町の人間って、そんなことさせるかよォ!!」

キャスター「残念ねぇ。手を組めると思ったのに」

凛「しらじらしいわねキャスター。そんなつもり最初からないでしょ」

キャスター「あら、その口ぶりだとお嬢さんも聖杯の仕組みは分かってたようね」

凛「まぁね。それで大量の魔力を取り込む器の魔術師は誰がやるのかしら?」

キャスター「そうね。器には優秀な魔術回路を持つ魔術師が適任よ」

キャスター「お嬢さんのような、ね」

うしお「遠坂先輩を生贄の魔術師に……!?」

凛「そういうことだろうと思ったわ、何が手を組むよ」

キャスター「フフ、察しが良くて助かるわ」

うしお「キャスター、そんなことやらせねえぜ……!!」

うしお「遠坂先輩や町の人間を生贄にするなんてこと、絶対に……!!」

凛「蒼月君……」

キャスター「勇ましいわね、セイバーのマスター」

キャスター「でもいいわ。お嬢さん以外にも一人、この町には相応しい魔術師がいるのだから……」

葛木「…………」

うしお「き、消えた……!?」

とら「ちぃっ!! 待ちやがれェ!!」



うしお「相応しい魔術師って……」

凛「この町にいる優秀な魔術回路を持つ魔術師っていったら……」

うしお「まさか、イリヤ!?」

凛「考えられるわね……」

うしお「今オレの家にはイリヤたちだけだ!!」

うしお「キリオは真由子の家にいるはず、今キャスターに襲われたら……」

凛「不味い……。蒼月君、急いで戻るわよ!!」


凛「とら!!」

とら「あのヤロウ、きっちり借りは返してやる。おめえらさっさと乗れェ!!」

うしお「セイバー!!」

セイバー「はい、急ぎましょう!!」



・蒼月家居間


うしお「イリヤーーっ!!」

リズ「どうした、ウシオ」

セラ「ウシオ様、そんなに慌ててなにかあったのですか?」

うしお「リズさんセラさん!! イリヤは!?」

セラ「お嬢様でしたら、そちらに」

イリヤ「あっ、ウシオ。さっきマユコとキリオがハンバーガーっていうのを置いていったわよ」

うしお「イリヤ……無事、なのか……?」

イリヤ「えっ、なに?」

セイバー「これはどういうことでしょう?」

うしお「い、いや、俺にもサッパリ……」

凛「まさか…………」

とら「おいりん!! 術使いの主もおらんぞ!!」

凛「イリヤ……桜は、桜はどこにいるの!?」

イリヤ「サクラ? サクラなら夕食の準備とかいって台所にこもってるわよ」

凛「っ……!!」

うしお「遠坂先輩!?」



・蒼月家台所


凛「桜っ!!」

桜「と、遠坂先輩……?」

凛「桜……」

桜「どうかしたんですか?」

凛「はぁ……。なんだ、ただの脅し」

グサッ

桜「では、ないわよねぇ?」

凛「ぐ、はぁ……。そ、その声……キャスター……!!」

桜「抜かったわね現代の魔術師さん」

凛「その短剣は……!?」

桜「これは魔術契約を解除する我が宝具『破戒すべき全ての符』(ルールブレイカー)」

凛「ルール、ブレイカー……」

桜「完全な契約解除は無理だったけど、お嬢さんの魔力供給を一時的に止めさせてもらったわ」



桜「キャスターの私が気付いていないとでも思っていたのかしら?」

桜「規格外の妖怪のサーヴァントの維持、それに加えてセイバーにも魔力を供給している」

桜「セイバーのマスターは魔術師ではないから魔力供給が出来ないですものねぇ」

凛「それは……」

桜「現代の魔術師にしてはよく頑張ってるわよ。でも供給が途切れればそれは崩壊してしまう」

桜「これでセイバーも妖怪のサーヴァントも宝具は使えず、戦闘で傷ついても回復出来ない」

うしお「遠坂先輩!!」

セイバー「これは……!?」

とら「りん、おめえその怪我!!」

凛「桜が、キャスターに操られて……」

うしお「なんだってっ!?」

桜「セイバーのマスター。この娘は、聖杯を呼ぶ生贄に貰っていくわ」

桜「フフ、取り返したければ私の神殿にいらっしゃい」

とら「神殿だとォ!? そこにてめえもあの男もいやがんのかァ!!」

桜「ええ。もっとも、セイバーも貴方もまともに戦える状態ではないでしょうがね」

とら「ああ!? なに言って」

桜「今に分かるわよ。それじゃあね、お嬢さんたち」

凛「ま、待ちなさい、キャスター……!!」

うしお「キャスター、桜姉ちゃんを返せよォ!! 桜姉ちゃぁぁん!!」



【第十八話 決戦、暁に縁消え果てず 】



・柳洞寺山門前階段


セイバー「ウシオ、イリヤたちは大丈夫でしょうか?」

うしお「キリオに来てもらったし照道さんにも残ってもらったから大丈夫さ」

凛「キャスターの言ってた神殿……。ここ以外には考えられないわよね」

とら「ああ、術使いの主もいるはずよォ」

セイバー「それにしてもリン、キャスターは何故サクラを攫ったのでしょう?」

凛「それは……」

うしお「そうだよな。間桐先輩のときに聞いたけど間桐の家にはほとんど魔術師の力は残ってないんだろ?」

とら「…………」

凛「……魔術回路は残っているのよ」


凛「あの子だって、魔術師の家系なんだから……」


うしお「なるほどな、そういうものなのかい」

セイバー「それではキャスターは、そのサクラの魔術回路を使って器の魔術師にしようと?」

凛「そうでしょうね」

うしお「魔術師だろうがなんだろうが桜姉ちゃんを生贄になんかさせねえよ!!」

凛「ええ、もちろんよ蒼月君。ぼやぼやしてる時間はないわよ!!」



・柳洞寺山門


うしお「柳洞寺、あんまり夜に来たことねえから不思議な感じだ」

凛「……待って蒼月君」

うしお「遠坂先輩、柳洞寺はこっちだぜ?」

凛「向こうから魔力を感じるわ」

セイバー「確かに。キャスターの罠でしょうか?」

凛「罠でも行くしかない、時間がないもの。こっちよ」



うしお「ここかい? オレにはただの山肌にしか見えないけどよ」

とら「いいから馬鹿はりんのやることを見てりゃいいのよ」

うしお「なにィ!? とらァ!!」

凛「……!!」

うしお「や、山肌が洞窟の入り口に!?」

セイバー「キャスターの魔術ですね。隠していたのでしょう」

うしお「魔術ってスゲェんだな……」

とら「いろんな妖の術を見てきたお前がそんなことを言うかね」

うしお「それとこれとは別だぜ、とら。人間がこんなこと出来るってのはスゲェのよ」

とら「はー、そんなもんかよ」

凛「さ、行くわよ」



・柳洞寺地下神殿


うしお「山の中に、こんなデケェ神殿が……!?」

凛「呆れたわ。古代の魔術師はやりたい放題ね」

セイバー「これがキャスターの神殿……」

とら「けけっ、こんだけ広けりゃ戦うのに不満はねーよ。楽しくやれそうだぜ」

セイバー「ウシオ、得物はそれでいいのですか?」

うしお「ああ、イリヤが魔術で作ってくれたこの槍があれば十分さ」

うしお「リズさんがハルバードを貸してくれるって言ったんだけど、あれは重すぎて使えねえしな」

凛「……来たわね」


骸骨騎士「アァァ」

骸骨騎士「ウゥゥ」


うしお「いつの間にか囲まれてる……。こいつらもキャスターの!?」

セイバー「はい、魔術で動いてるようです」

とら「術使いがァ、こんなので時間稼ぎが出来ると思っとるのかよ」

凛「とら、蹴散らして!!」

とら「へっ、雑魚に用はないんだよォ!!」



骸骨騎士「…………」
骸骨騎士「…………」


とら「こんなもんかよ」

うしお「ふぅ……。遠坂先輩は!?」

凛「私は大丈夫よ。それよりセイバーはどう?」

うしお「そうか、セイバーは魔力供給が……。セイバー!!」

セイバー「私も問題ありません」

うしお「そ、そうなのか?」

セイバー「ウシオはなにか思い過ごしをしているようですね」

うしお「えっ、でもキャスターのルールブレイカーで……」

セイバー「確かに今の私はリンに定期的に貰っていた魔力だけで戦っています」

セイバー「ですがそれでも、今の戦闘程度で私が傷つくことや消耗することはありません」

セイバー「私はセイバー。三騎士の一角、剣士の英霊です」

セイバー「宝具がなくても他のサーヴァントに遅れを取る事はない」


??「さすがは最優のサーヴァント、といったところかな」



うしお「誰だ……!?」

セイバー「貴様は……」


アサシン「そう身構えなくてもよい。不意討ちなどという無粋な真似はせん」


セイバー「アサシン……!!」

とら「おめえ、サムライ野郎がなんでここに!?」

アサシン「セイバーも長飛丸もなにを驚いている」

アサシン「私が門番だとお前たちは承知しているはずだが」

凛「そう。やっぱりキャスター陣営とアサシン陣営は組んでたか……」

うしお「アサシンのサーヴァントって、佐々木小次郎なんだよな……?」

アサシン「いかにも、私が佐々木小次郎だが」

うしお「うへー、ほ、本物かよ……」

凛「蒼月君、聖杯戦争でその反応今更過ぎない?」

うしお「だってよ遠坂先輩、あの佐々木小次郎だぜ!?」

アサシン「少年よ、私はそこまで有名なのか」

うしお「そりゃ誰だって知ってるさ、勉強が得意じゃないオレだって知ってるよ!!」

アサシン「そうか……」

セイバー「アサシン……?」



うしお「敵同士じゃなかったらサインを貰って握手したいぐらいだけどよ、今は!!」

凛「そんな時間はないのよね……!!」

アサシン「時間が惜しいのは私も同じだ、手合わせの時間が減っては意味がない」

うしお「それならアサシンのマスターも隠れてないで出てきたらどうだ!!」

凛「無駄よ蒼月君。この場に現れないということはアサシンのマスターは隠れながら援護する気だわ」

アサシン「私のマスター?」

アサシン「フッ、なにか勘違いをしているようだな」

セイバー「勘違い……?」

アサシン「私のマスターはお前たちがキャスターと呼んでいる女狐よ」

うしお「なっ、どういう意味だ!?」

アサシン「私はサーヴァントに召喚されたサーヴァント、ということだ」

凛「なるほどね……。キャスターだって魔術師だもの、サーヴァントを召喚する権利はあるってことか」

とら「へっ、術使いのくせに面白えことするじゃねえか」

凛「この神殿と同じで、この聖杯戦争でもやりたい放題じゃないキャスターのやつ」

アサシン「そのキャスターが小娘を連れて、先程この先に進んでいったぞ」

アサシン「あの女狐のことだ。また悪巧みを考えているのだろうな」

アサシン「だが私には関係のないこと。さぁ、進むがいい」

うしお「えっ!?」



セイバー「どういうつもりだアサシン……!!」

うしお「そ、そんな罠に引っかかるかよ!! 落とし穴でもあるんだろ!!」

アサシン「罠などない、進めば分かる」

凛「なら、なんで……」

アサシン「キャスターに召喚されたからといって、私と女狐が同じ思惑ではないということだ」

アサシン「私は門番を任された者。通す者も通さない者も、私が決める」

アサシン「そして、戦う相手もな」

セイバー「アサシン……。分かりました。決着をつけましょう」

とら「待ちな剣使い。おめえは前にサムライ野郎とやっただろうが」

セイバー「トラ、私とアサシンの決着をつけさせないつもりか?」

とら「あの馬鹿うしおの面倒は誰が見る、わしはやだね。それによ」

アサシン「…………」

セイバー「……なるほど、そういうことですか。ここは譲ります、トラ」

アサシン「時間がないのだろう、進まなくていいのか?」

うしお「遠坂先輩、行こう!!」

凛「ええ、行きましょう。とら、任せたわよ!!」

セイバー「アサシン、次に対峙するときは必ず決着をつけましょう」

セイバー「この剣に誓って、約束します」

アサシン「楽しみにしているぞ、セイバー」



とら「おめえ、始めから剣使いは行かせるつもりだったろ」

アサシン「さて、なんのことかな」

とら「とぼけるんじゃねえ。わしにだけ殺気を放ちやがってよ、剣使いも気づいてたぜ」

アサシン「フッ、そうであろうな」

アサシン「確かにセイバーとの立ち合いは極上だが、私は言ったはずだぞ長飛丸」

アサシン「この夢か現か分からぬ聖杯戦争、ここで私が望むは物の怪斬りのみ」

とら「へっ、そうかよ。いいぜ、相手になってやる。おめえにも借りはあるからな」

とら「だがこの先に借りがあるヤツが他にもいるのよ。あんまり遊んだりは出来ねえぜ」

アサシン「それは有難い。サーヴァントに召喚された身、おそらく朝まで保つまいからな」

アサシン「もはやセイバーにも会うことはないだろう」

とら「おめえ……」

アサシン「それに私はどうしてもお前に確かめたいことがある。ゆえに……」

とら「いいぜェ、なんでも答えてやるよ。わしをブッ倒せれたらなァ!!!!」

アサシン「望むところ……。参る……!!!!」



うしお「とら、負けんなよ……!!」

セイバー「大丈夫です。確かにアサシンは強い、ですがトラなら」

凛「先が見えてきたわよ!!」


うしお「ここは……」

凛「かなり広いわね……」

うしお「!? 遠坂先輩っ!!」

凛「えっ?」

ドンッ

葛木「防がれたか。蒼月、奇襲には慣れているようだな」

うしお「葛木先生……!!」

葛木「いや、魑魅魍魎と戦ってきた蒼月ならこの程度の奇襲は予測出来るか」

セイバー(……やはりこの男はキャスターより危険だ。初見とはいえ強さが未知数……)

セイバー(トラと互角に殴りあった事といい、ウシオやリンに任せるわけには……)



葛木「…………」


セイバー「ウシオ、リン、先へ。この男は私に任せてください」

うしお「セイバー!?」

セイバー「サクラが心配です。私のことは気にせず先へ」

凛「桜……。セイバー、頼んだわ」

うしお「遠坂先輩!? 行っちまった……」

セイバー「ウシオ、キャスターは魔術師としては破格かもしれません」

セイバー「ですがリンも優秀な魔術師です」

うしお「分かってるさ。遠坂先輩がキャスターに負けるかよ!!」

うしお「オレもいるしな!!」

セイバー「はい、ウシオとリンなら必ずキャスターに勝てます。行ってください」

うしお「ああ、セイバー。ここは頼んだぜ!!」



・地下神殿最深部


桜「…………」


凛「桜っ!!」

うしお「桜姉ちゃん!!」

桜「…………」

うしお「桜姉ちゃん、オレたちの声が聞こえないのか!?」

凛「キャスターに何かやられたわね……」

??「フフ……」

凛「キャスター!! 出て来なさい、そこにいるんでしょ!!」


キャスター「ようこそ我が神殿へ、お嬢さんたち。歓迎するわよ」


うしお「キャスター、桜姉ちゃんの魔術回路で器の魔術師にするつもりなんだろ!?」

キャスター「えぇ、そうよ」

うしお「そんなことはさせねえよ!! 無関係な桜姉ちゃんを巻き込みやがって……!!」

キャスター「無関係? 桜さんが? いいえ、そんなことはないわよねぇ?」

凛「…………」

うしお「えっ?」



キャスター「今も昔も、ずっとお待ちかねよ。桜さんはお嬢さんを」

凛「どうやら、私たちのことは全部お見通しのようね」

キャスター「えぇ、桜さんの頭の中を覗かせてもらいましたから」

キャスター「それに聖杯戦争の参加者の経歴を調べるのは当然でしょう?」

凛「そうね……」

うしお「なんだ、なんの話を……」

キャスター「フフ、聖杯召喚までにはまだ時間があるわ」

キャスター「余興として、坊やに魔術師の家系の話を聞かせてあげましょう」

凛「キャスター……!!」

キャスター「本当に魔術師とは不遇なもの、不幸なことなどいくらでもあるものよ」


キャスター「例えば、姉妹の縁が引き裂かれることも、ね」


凛「……っ!!」

うしお「し、まい……?」



とら「やるなァ、サムライ!!」

アサシン「見せ所よな……!!」

とら「けけっ、おめえ歯ごたえあるぜ。サムライ、いや、コジロウとかいったかよ」

アサシン「それは偽りの名だ」

とら「ああ? 偽り?」

アサシン「いかにも。この世界に佐々木小次郎という人物が実在した証拠はない」

とら「どういう意味だよ?」

アサシン「人々が過去を捏造し記憶だけで剣豪とされた人物、それが佐々木小次郎だ」

とら「聞いたことあるぜ。おめえ、架空の英霊ってやつか」

アサシン「そう。この私の記憶も技も、全て人々が創り上げたものかもしれん」

アサシン「ゆえに、私はお前と戦いたかった」

とら「なに……?」

アサシン「昔話『雷の舞』で長飛丸を倒す『雷の物の怪』とな」

とら「けっ、はじめからそいつが偽者だって知ってたのか」

アサシン「ああ、私のいた地方に残る有名な伝承なのでな」

とら「名が売れるのも考えモンだぜ。わしも、おめえもな」

アサシン「フッ……。だからこそ、私もお前のように自分が本物だと示す舞を」

アサシン「舞ってみせようぞ……!!!!」

とら「やってみなァーー!!!!」



葛木「……これがセイバーか。長期戦になればこちらが不利だな」

セイバー「キャスターのマスター、貴方はここで倒れろ」

葛木「そのつもりはない。しかしその勇ましさ、蒼月のサーヴァントだと納得がいく」

セイバー「なに……?」

葛木「セイバー、お前はどこまで蒼月のことを知っている?」

セイバー「我がマスターを? 何が言いたい?」

葛木「二年前、この国は『強大な妖怪』に襲われた。それを倒し、この国を救ったのが蒼月だ」

セイバー「知っている。ウシオとトラ、それに人間と妖怪が手を組み戦ったと」

葛木「私も、そのとき戦った多くの人間のうちの一人だ」

セイバー「なんだと、貴様が……?」

葛木「私は暗殺の技能を持った朽ち果てた殺人鬼だ」

葛木「いつ死んでもいいが、いきなり現れた妖怪などという存在に殺されるつもりはない」

セイバー「なるほど、自身を守るためだけに戦ったか」

葛木「いや、私の周囲でも『黒炎』と呼ばれる妖怪の手下が人々を襲っていた」

葛木「私はその黒炎を倒していった」

セイバー「それはおかしいな。貴様は他者がいくら死んでも関係ないと言ったはずだが?」

葛木「その通りだ。だが、私の生活に支障が出るほどの損害を黙ってみているつもりもない」



葛木「私は周囲から感謝された。しかし私は誰かのために戦ったわけではない」

葛木「私は自身のためだけに戦ったはずだ。だが不思議だ、失ったなにかが戻ったような気がした」

セイバー「…………」

葛木「蒼月のあの戦いを見て、この国中の人々が恐怖を忘れたように私も何かを感じたのか」

葛木「その答えを探している」

葛木「それからして、柳洞寺の前で倒れていた女を助けた」

セイバー「倒れていた女? そうか、それがキャスターか」

葛木「蒼月の強さは誰かのためになることらしい。私には分からないが、それを真似てみた」

葛木「ただの真似だが、もう始めたことだ。途中で止めることは出来ない」

セイバー「それが貴様の戦う理由、いや、望みか。しかし、なぜ貴様は私にそんな話をする?」

葛木「お前の戦う理由が気になっただけだ、セイバー」

セイバー「なに?」

葛木「あの蒼月のサーヴァントなら、それ相応の戦う理由、望みがあるのではないのか?」

セイバー「それは……。私は、私の望みは……」


セイバー(……私は偽りの王。私の戦いは全て無駄だったのだ……)

セイバー(王の選定をやり直し、過去を変え、『王国の救済』を成し遂げる……)

セイバー(それが私の戦う理由、私の望み……。聖杯に願う、奇跡……)


セイバー「私の望みは……!!!!」



キャスター「……そうして、姉妹は魔術師の家同士の協約により引き裂かれた」

キャスター「これで、その二人の物語は終わりよ。坊や」

うしお「そんな……。遠坂先輩と桜姉ちゃんが、姉妹……」

凛「…………」

キャスター「そのお姉さんが今更、妹を助けに来たというのかしらねぇ?」

凛「……ええ、そうよ。桜を器の魔術師なんかにはさせないわ、絶対に」

キャスター「そう、いいわよ。それなら機会をあげましょう」

うしお「なにっ!?」

キャスター「もうすぐ聖杯は召喚される。最後のチャンスをあげましょう」

キャスター「桜さんの洗脳を解いてみなさい。私の魔術が解ければ桜さんは器として機能しないわ」

キャスター「さぁ、精一杯足掻きなさい」


桜「…………」


凛「桜っ!! 桜、私の声が聞こえないの!?」

うしお「桜姉ちゃん!! 目を覚ましてくれ!!」


キャスター「フフ、引き裂かれたモノは戻りはしないのよ」



凛「桜っ!! 桜ーーっ!!」

桜「…………」

凛「なんとかしてキャスターの魔術を解析して……。そんな時間なんて……」

桜「…………」

うしお「桜姉ちゃん、オレは魔術師の家の協約とかは分からねえよ」

うしお「でも、いきなり仲の良い姉ちゃんと離ればなれになるなんてつらかったよなあ」

凛「蒼月君……」

うしお「でもよ、遠坂先輩は桜姉ちゃんを忘れたりなんてしてないぜ」

うしお「その証拠によ、遠坂先輩は桜姉ちゃんを助けに来たんだ」

桜「…………」

凛「桜……。駄目なの……」

うしお「まだだ、まだ……!!」

凛「蒼月君、その手にあるのは宝具『獣の槍』じゃないのよ……」

凛「バーサーカーのときみたいに心に語りかけるなんてことは出来ないわ……」


キャスター「残念、どうやら時間切れ。そろそろ聖杯召喚のようね」



桜「…………」

凛「桜……」

凛(……魔術師にとって一番大切なのは命じゃない。守らなくちゃいけないのは魂の尊厳……)

凛(アンタも魔術師の家に生まれたんだから、分かるわよね)

凛(大勢の生贄の器にされるぐらいなら……。そうでしょう、桜……)

桜「…………」

凛(……私も甘いなァ……。蒼月君、あと、お願いね……)

パシィッ

凛「蒼月君……? 放しなさい!!」

うしお「させねえさ。桜姉ちゃんの代わりに器になるなんて」

凛「……っ!?」

凛「ち、違うわ……。わ、私は、桜を、こ、殺そうと……」

うしお「今回さ、おかしいとは思ってたんだ」

凛「え……?」

うしお「いつも冷静な遠坂先輩が、キャスターの神殿をどんどん進んでいくからよ」

うしお「桜姉ちゃんを一番心配してたのは遠坂先輩だ」

うしお「そりゃそうだよァ、妹なら当然だよな」

凛「あ、蒼月君……私は……私は……」



凛「でも、私たちにキャスターの魔術を解くなんて出来ないわ……」

凛「あとは大元のキャスターを倒すしか、でも、もうその時間もないのよ……」

うしお「いや、方法はまだあるぜっ!!」

キャスター「フフ、面白いわね。まだ足掻いてくれるのかしら?」

うしお「あぁもちろんさキャスター!!」

うしお「桜姉ちゃんのためなら最後の最後まで足掻き続けてやる!!」

うしお「それによ、オレには桜姉ちゃんがキャスターの魔術に負けるなんて思えねえよ!!」

キャスター「なっ……」


うしお「桜姉ちゃん、初めて会ったときのことを覚えてるかい?」

桜「…………」



「桜、まさかお前、僕に意見するつもり?」

「そ、そんなことはないです兄さん」

「それじゃなに? なにを言いたいの、お前は」

「ただ、まだ一年生には弓を持たすのは早いんじゃないかと思って……」

「それが僕に意見してるって言ってるんだよっ……!!」

バシッ

「ただの兄妹喧嘩ならほっとくつもりだったんだけどよ」

「あ……」

「女の人に手を上げるのは黙ってみてられねえよ、センパイ」

「お、お前、あの蒼月か……。く、くそっ……」


「はぁ、うしおのケンカっ早さは高校生になっても変わんないのね」

「だ、だってよォ」

「まぁ今のはアンタが行かなくても、この麻子さんが行ったけどね」

「とか言って麻子はうしおくんが助けに行くの分かってたくせに~」

「ま、真由子!!」


「あの、ありがとうございます」

「えっ? あ、いや、礼なんてやめてくれよ。オレが勝手にやったことさ」



「蒼月君……」

「あれ、確かこの前の……」

「この間は、ありがとうございました」

「も、もう礼はいいよっ。それよりセンパイも買い物かい?」

「はい、夕飯の準備を」

「オレもさ。今、親父と母ちゃんが総本山に行っててさ、オレ一人なんだ」

「そうなんですか……。それが、今晩の夕飯ですか……?」

「あぁ、ジェットサンダーラーメン」

「……………………」

「ん……?」

「今日の夕飯は私が作ります。私にお礼をさせてください」

「えぇっ!?」

「蒼月君はこの町を、いえ、この国を救った人なんですよ。もっと食べるべきです」

「い、いや、ちょっと待ってくれよっ。それとこれなんの関係が」

「待ちません。それに後輩は先輩の言うことをきくものです」


「買い物かご持って行っちまった……」

「ひゃー、意外に強引な姉ちゃんだったんだなァ」

「でも良かったぜ。あれなら兄貴にも誰にも負けねえや」



うしお「あの桜姉ちゃんがキャスターの魔術に負けるはずがねえ!!」

桜「…………」

キャスター「まさか私の魔術を直接この娘に破らせるつもり?」

キャスター「坊や、その儚い希望も空しくなってこないのかしら」

キャスター「桜さんは抗うことなんて出来ないのよ。過去も、そして今も」

凛「そんなことないわ!!」

凛「昔は出来なくても今なら出来る。私も桜も、今なら抗える!!」

凛「桜、私も覚えてるわよ。アンタが負けず嫌いだってこと」

凛「だって私はアンタの……」

凛「桜の……姉なんだからっ!!」

桜「……っ……」

うしお「確かに桜姉ちゃんは『間桐桜になったとき』は一人ぼっちだったかもしれねえ」

うしお「でも『今の間桐桜』は一人だなんて言わせねえぜ!!」

うしお「ここに桜姉ちゃんを待ってる人間が二人もいるんだぞ!!」

桜「……あ……ぁ……」


うしお「オレたちだけじゃねえ!! 麻子も真由子もそうだ!!」

うしお「間桐桜を待ってるヤツらがたくさんいる!!」

うしお「だからよ、キャスターなんかに負けるなァーーーー!!!!」


桜「……あぁ、姉、さん……蒼月、くん……」



キャスター「そんな馬鹿な……。ありえないわ……」

キャスター「外側から魔術を破れないからって、内側から魔術を破らせるなんて……」


凛「さ、桜……。桜ァーー!!」

桜「夢の中で、ずっと、姉さんと蒼月くんの声が聞こえていました……」

凛「ごめん、ごめんね……」

桜「私は姉さんがうらやましかった……。でも、今は違う……」

桜「私を……私として必要と……。私を待ってくれている人たちがいるんですね……」

凛「ええ、ええ、そうよ、桜……」


キャスター「大人しく夢の中で私の操り人形になっていればいいものを……」

うしお「キャスター!!」

キャスター「見事、と褒めるべきかしらね。現存する英雄とはいえ島国の坊やと甘く見ていたわ」

うしお「もう桜姉ちゃんを器の魔術師になんてさせねえぞ、キャスター!!」

うしお「聖杯の召喚なんてことはやめろよ!!」

キャスター「フフ、面白いわね。すでに勝った気でいるのかしら?」

キャスター「別に器の魔術師は一人でなくてもいいのよ。そう、二人でも、ね」



桜「姉さん、これは……」

凛「ごめん桜。今は説明してる時間がないの。ここに隠れてて」


キャスター「まずは現代の魔術師さん、褒めてあげましょう」

キャスター「正攻法ではないとはいえ私の魔術を破ったのですから」

凛「そりゃどうも。でも古代の魔術師の魔術も大したことなかったわよ」

キャスター「フフ、言うようになったわね。そうでないと面白くないわ」

キャスター「今から私の魔術でアナタも桜さんも器になるのですから」

うしお「そんなことはさせねえよ」

キャスター「まさか、そのなんの能力もない槍で私と戦うつもりかしら?」

うしお「あぁそうさ」


凛(……そうよ。あれは宝具『獣の槍』じゃない。ただの槍よ……)

凛(キャスターの魔術で、桜は完全に洗脳されてた。それを蒼月くんは宝具なしで……)

凛(バーサーカーのときは宝具の能力だと思った、でも違ったってこと……?)

凛(桜の洗脳を解き、バーサーカーの暴走を止めた能力……。それは蒼月くんの……)



キャスター「なめられたものね。サーヴァントなしで大した武器もなく私と戦うと」

キャスター「思い知らせてあげましょう。魔女の指先、とくと味わってもらおうかしら」


うしお「遠坂先輩、準備はいいかい?」

凛「ええ、蒼月くん。いつでもいけるわ」

うしお「それじゃオレたちとキャスターの……」

凛「タイマン、始めましょうかっ!!」

うしお「おう!! 行っくぜェーーっ!!」



【第十九話 教師と魔女『雨に現れ、雨に消え』 】



アサシン「……音が止んだか」

とら「ああ? 音だァ?」

アサシン「どうやら女狐の企みは失敗したようだぞ」

とら「へっ、そうかよ。それならわしもこの門をそろそろ通らせてもらおうかね」

アサシン「フッ、お互い頃合いか。私も秘剣の魔翌力しか残っていないのでな」

とら「決着といこうぜ、サムライ」


アサシン「…………」

とら「…………」


アサシン「……最後に一つだけ聞かせてくれ」

とら「なんだよ?」

アサシン「セイバーのマスター、あの少年は嬉々として私の名前を出した」

アサシン「だが私にはその実感がない。少年が真っ直ぐ私を見ても、私は返すことが出来なかった」

とら「アイツはただの馬鹿だぜ。お前が本物かどうかなんて考えちゃいねーよ」

アサシン「だからこそ知りたい。私は、いたのか……?」



アサシン「他でもない、物の怪のお前に問いたい」

とら「わしに?」

アサシン「人間では意味がないのだ。捏造された記憶を持った人間ではな」

アサシン「直接その時代にいた物の怪、そしてお前だからこそ信用に足るというもの」

アサシン「佐々木小次郎は、存在していたのか?」

とら「おめえ、それを確かめるためにわしと戦って……」


とら「……生憎だがよ、わしはおめえが知りたいことは答えられんぞ」

とら「わしは槍にはりつけにされて五百年閉じ込められてたのよ」

とら「その間にサムライの時代は終わっちまってたよ」

アサシン「そうか……」

とら「そもそもわしは人間の顔も名前も覚えちゃいねーよ」

アサシン「フッ、それもそうだな。物の怪とはそういうものか」


とら「だがよ、一つ分かることがあるぜ」

アサシン「なに……?」

とら「おめえは最強のサムライよ。わしが戦ったサムライの中で一番強えぜ」

アサシン「私が、最強の侍……?」

とら「わしが認めてやらァ。この『わし』がな」

アサシン「……そうか、私は最強の侍か。フフ、かの雷の物の怪に認められたからには……」

アサシン「無様な一芸は、披露出来んな……!!」

とら「きな、ブッ倒してやるよォ……!!」



アサシン「参る……!!!!」

アサシン「秘剣……『燕返し』!!!!」


とら(来る!! あの鎌鼬より鋭いやつかァ~~!!)


アサシン(まずは頭上から股下までを断つ縦軸の「一の太刀」)

とら(速すぎて発動は潰せねえか、避けるしかねえ……!!)


アサシン(それから一の太刀を回避する対象の逃げ道を塞ぐ円の軌跡である「二の太刀」)

とら(な、なにィ~~!? こっちにも太刀が迫ってきてやがる!?)

とら(それなら避ける場所はここしかねえ……!!)


アサシン(そして左右への離脱を阻む払いの「三の太刀」)

とら(どうなってやがる!? どこにも逃げ場所がねえ!?)


アサシン(三つの異なる太刀筋を同時に放つことで対象を囲む牢獄を作り上げる)

アサシン(これが我が秘剣『燕返し』だ)


アサシン「勝負あったな、雷の物の怪よ」

アサシン「我が剣先からは燕でさえ逃れ得ぬ。翼がなくても飛べるそなたでも酷な勝負であったかな?」




とら「……タコが。なに勝ち誇ってやがる」




アサシン「……っ!?」

アサシン(自身の身体を伸ばして、いや、変化させて牢獄から逃げ……!?)




とら「おめえの相手はツバメじゃねえ」


とら「バケモノなんだぜ……!!!!」





アサシン「……行け。勝負はついた」

とら「ああ」

アサシン「我が秘剣の全てをかけた極上の立ち合いだった」

アサシン「感謝する。長飛丸、いや……」

アサシン「とら殿」

とら「わしも楽しかったぜ。じゃあな」

とら「コジロウ」


サァァァ

アサシン「フッ、そろそろか……」

アサシン「聖杯戦争、なかなかに楽しい一時であった」

アサシン「しかし私としたことが修行不足であったな」


アサシン「だが私は『雷の物の怪』が認めた『佐々木小次郎』」

アサシン「次に呼ばれるまでには、どれ……」


アサシン「雷を斬れるようになっておこうか」



凛「今よ蒼月くん!!」

うしお「うおおおおおお!!!!」

キャスター「貴方たちの考えなんて手に取るように分かるわ」

キャスター「キャスターが相手なら二人で接近戦を挑めば数の有利で勝てる」

キャスター「今までもそんな愚かな騎士たちを多く見てきたわ。でも残念ね」

うしお「防がれた……!?」

キャスター「私の高速神言は剣士クラスの刃にさえ先んじる。坊やの槍が当たることなんてないのよ」

うしお「まだまだこれからだぜ、キャスター!!」


キャスター「貴方の戦い方は優雅さに欠けるわ」

うしお「オレは……地味さ!!」


キャスター「そうね、それなら派手に散らせてあげる……!!」

うしお「ぐっ……!?」

凛「とらの言うとおり、蒼月くんはいつも背中がお留守よねっ!!」

うしお「ごめんよ遠坂先輩!!」

キャスター「なっ……」



キャスター「押されている、私が……。あ、ありえない……!!」

キャスター「宝具の槍のない坊やと、格下の魔術師のお嬢さんに、私が……!?」

うしお「遠坂先輩!!」

凛「ええ、次行くわよっ!!」

キャスター「しかしこの連係、歴戦の槍兵と術師が組んだかのような……」

キャスター「フ、フフ。そう、そういうことね。私が甘かったわ、お嬢さん」

凛「なによ?」

キャスター「意識の共有かしら、それとも私と同じような魔術で坊やを操っていたのね」

凛「はぁ? なに言ってんのよ?」

キャスター「もう隠さなくてもいいのよ。確かに意識や洗脳の魔術も使えたのは予想外だったわ」

凛「あのねぇ、そんな魔力あったらとらに送ってるわよ!!」

キャスター「ウソが下手ね。同盟を組んで一週間程度の二人がこんな連係を出来るわけが……」

凛「ああ、そういうこと。それなら教えてあげるわよキャスター!!」

凛「こんな山の中で自分の神殿なんかコソコソ作ってるアンタと違って、私たちは!!」


うしお「『練習』出来るんだよ!!」


キャスター「なっ!?」

キャスター(お嬢さんの後ろに隠れて……!?)

うしお「どうだいキャスター!! オレの槍、当たったぜ!!」

キャスター「こ、この……!!」



キャスター「……いいわ、認めてあげる。なかなかやるわよ、貴方たち」

キャスター「でもね、何か忘れていないかしら?」

うしお「なんだ……?」


桜「きゃっ……!!」

骸骨騎士「アァァ」
骸骨騎士「ウゥゥ」


凛「桜っ!!」

うしお「桜姉ちゃん!!」

キャスター「忘れてもらっては困るわね。私は神代の魔術師。はじめから数の有利不利などないのよ」


「おめえもなーんか忘れとるよな、術使い」

ドゴーン!!


キャスター「よ、妖怪のサーヴァント!!」

凛「とら!!」


桜「あ、あの、ありがとうございます。とらさん」

とら「へっ、いいから捕まっときな」



キャスター「アサシン、あの役立たずが……!!」


セイバー「ウシオ!!」

うしお「とら、それにセイバーも!?」

桜「セイバーさんまで……」

セイバー「良かった。サクラも無事のようですね」


葛木「キャスター、状況はどうなっている」

キャスター「すみませんマスター。聖杯の召喚は失敗。人質を逃がしアサシンを失いました」

葛木「別に構わん。ここで終わりではない。それに状況が不利なら撤退するだけのことだ」

キャスター「はい、分かりました。撤退します」


セイバー「キャスター、まさかこの場から逃げれると思ってないだろうな?」

とら「ここがおめえらのしめえの場所だぜ」

凛「形勢逆転ね、キャスター」



キャスター「形勢逆転? いいえお嬢さん、形勢はそのままよ」

凛「なんですって……?」


ゴゴゴゴゴゴ


うしお「な、なんだ、地震かっ!?」

セイバー「いえ、違います。これは……」

キャスター「ここは私の神殿。造るのも思いのままなら、壊すのも思いのまま」

凛「キャスター……!!」

とら「それがどうした術使い。そんな脅しでわしが見逃すとでも思ったのかよ?」

キャスター「ええ、そうよ。妖怪のサーヴァント、貴方は逃げていくことになるわ」

とら「ああ? わしが逃げる?」

キャスター「別に私は神殿が崩れるまで貴方とやりあったっていいのよ?」

キャスター「貴方のマスターが私のように転移の魔術が使えるのなら、ね」

凛「くっ……」

うしお「だ、駄目だ。このままじゃ生き埋めになっちまうよ!!」

凛「……とら、桜を乗せて。蒼月くん、セイバー、この神殿から脱出するわよ」

キャスター「フフ、それでいいのよ。お嬢さん」



とら「おい!! りん!!」

凛「桜はキャスターの洗脳のせいで衰弱してる。アンタが運んでくれないと脱出できないわ」

凛「アンタとセイバーを神殿の崩壊限界まで残らせてキャスターを倒す手もあるけど」

凛「もしまだキャスターが奥の手を持ってるなら危険だわ。ここは逃げるしかないのよ」

とら「チッ……。あーあ、分かったよ」

うしお「へっ」

凛「どうしたのよ蒼月くん。何か変?」

うしお「いや、いつもの冷静な遠坂先輩だから嬉しくてよ」

凛「な、なによそれ……」

セイバー「ここまで来てキャスターを討てないのは不本意ですが、マスターの安全を考えれば当然です」

うしお「オレは桜姉ちゃんが無事に帰ってきたならそれで十分さ」

桜「蒼月くん……」

とら「オラ、さっさと乗りな」

桜「と、とらさん、本当にいいんですか?」

とら「おめえには手作りはんばっかの借りがあるのよ。槍で脅して乗っかるヤツと違ってな」

うしお「とらァ、聞こえてんぞ!!」

うしお「って、こんなことしてる場合じゃねえ。脱出しねえと……」



キャスター「さぁ、私の神殿からお逃げなさい。『見逃して』あげるわよ」

凛「くっ、蒼月くん行くわよ!!」

うしお「あぁ遠坂先輩」


キャスター「最後に坊やに忠告してあげるわ」

うしお「なに……?」

キャスター「私は今回のことで役立たずのアサシンを失ったわ」

キャスター「貴方のセイバーは、とても綺麗で強くて美しいわね」

セイバー「何が言いたい、キャスター」

キャスター「坊や、夜道には気をつけなさい。私のルールブレイカーが常に狙っているわよ」

うしお「桜姉ちゃんの次は、セイバーを狙うっていうのかよ!!」

キャスター「ええ、次はセイバーを頂くとしましょう」

セイバー「キャスター、貴様……!!」

キャスター「フフ、私のモノにしてみせるわ、セイバー」




??「チッ……。戯けが……」

??「身の程の違えたな、雑種」





うしお「なぁキャスター。なんでそんなことするんだよ?」

キャスター「なんで? 坊やは頭が悪いのかしら……」

とら「そいつは馬鹿だぜ」

桜「と、とらさんっ」

キャスター「この聖杯戦争に勝ち残り、聖杯を手に入れるために決まってるでしょう?」

うしお「そんなことは分かってるよ。でもよ、セイバーを奪ったりなんてしなくていいだろ?」

キャスター「……意味が分からないわね」

葛木「蒼月、その理由はなんだ。なぜそう思う」

うしお「さっきキャスターと戦って分かったんだ。キャスターの魔術はスゴかったぜ」

うしお「きっと一人じゃ負けてた。遠坂先輩と二人だったからなんとかなったけどよ」

うしお「葛木先生の拳法もすげえし、キャスターの魔術もすげえよ」

うしお「きっと二人が組めば絶対に強えんだろうな」

キャスター「私とマスターが……。そんなこと、貴方に言われなくても……」

葛木「…………」

うしお「だったら人質を取ったり、他のサーヴァントを奪わなくてもいいだろ?」

うしお「相当強いぜ、葛木先生もキャスターもさ」

キャスター「あ、貴方はいったい……」


桜「姉さん、あれ大丈夫なんですか……」

凛「面食らうわよね普通。私もそうだったし。でもあれが蒼月くんなのよ」



葛木「……キャスター。お前のやり方に口は出さないと言ったが気が変わった」

葛木「蒼月とセイバーの二人に『お前と』戦ってみたくなった。手を貸せ」

キャスター「いいえマスター。今私もそれを提案しようと思っていました」


キャスター「坊や、約束してあげるわ。貴方とセイバーは私たちが倒す、必ずね」


うしお「あぁいいぜ。オレたちも負けねえからよ」

セイバー「いずれキャスターのマスターとは決着をつけるつもりでした。望むところです」

キャスター「フフ、楽しみだわセイバー。約束よ」


??「約束? 抜かしたな雑種」

??「その女と取り決めをしていいのは、王である我(オレ)だけだ」


キャスター「っ!?」

セイバー「!?」

うしお「な、なんだ、誰だ!?」


??「先ほどの騎士王を奪うなどと口にしたのも大罪だが……」

??「我のモノであるアレと、我を差し置いて取り決めだと?」


??「……失せろ、雑種」



凛「空一面に剣や槍が……なんなのよあれ……」

うしお「飛んできた!? オレたちを狙ってるのか!?」

凛「と、とらっ、雷で撃ち落としてっ!!」

とら「こんなもん全部に当てれるかよ!! りん、防ぐしかねえぞ!!」

凛「そんなこと出来るワケ……!!」


キャスター「フン、現代の魔術師は結界も張れないのかしら……!!」


凛「広範囲結界!? なんで、私たちまで……」

キャスター「あら、私は言ったわよ、お嬢さん。私の神殿から『見逃して』あげると」

キャスター「私の神言は古代より絶対なの。だから無事にここから逃げてもらわないと困るのよ」

凛「キャスター……。アンタ……」


??「久しいなセイバー。覚えているか、我が下した決定を」


うしお「セイバーの知り合い……?」

セイバー「貴様が……なぜここに……」


??「なんだその顔は、未だ覚悟が出来ていないというのか」

??「男を待たせるとは戯けた女だ。だが、こんなみすぼらしい神殿では再会も色褪せるか」



キャスター「早く行きなさい。私の結界が維持されてる間に……!!」

凛「でも、それは……」

キャスター「貴方だって『アレ』が並じゃないことぐらい分かるはずよ、行きなさい」

キャスター「神殿の崩壊はもう私にも止められないのよ。それともこのまま潰されるつもりかしら?」


ゴゴゴゴゴゴ


凛「…………」

凛「みんな、キャスターが結界を張ってる間に逃げるわよ。急いで!!」

とら「あの金色野郎……!!」

桜「と、とらさん……」

とら「チッ、行くぜ。捕まってろ」


??「色褪せた再会など我には似合わん。今日は雑種と戯れて終わりにするか」

??「いずれ逢うぞセイバー。それまでに覚悟を決めておけ」


セイバー「…………」

凛「蒼月くん!! セイバー!!」

セイバー「はい、今行きます」

うしお「あ、あぁ」



??「どこまで耐えれるか試してみるのも一興か」

??「雑種、我が戯れに付き合ってやるのだ。少しは愉しませてみろ」


葛木「…………」

キャスター「私がこんなことをしてるのが可笑しいですか、マスター」

葛木「いや、そうでもない」

キャスター「えっ……」

葛木「お前は『こうする側』だと思っていた」

キャスター「マスター……」


ゴゴゴゴゴゴ


??「神殿の崩壊が本格的に始まったか。戯れも終わりだな」


キャスター「マスター、転移の魔術の準備が出来ました」

葛木「うむ」



キャスター「それでは……」


??「フン」


キャスター「っ!?」

キャスター(大量の武器を飛ばすのを止めて、一本の剣を……)

キャスター(私の結界を破れないと知って苦し紛れに……?)

キャスター「いえ、そんなはずはない。それでも、どんな剣でも私の結界は破れない……!!」


キャスター「……!!」


キャスター(何もないかのように貫通して……そんな宝具知らな……)


キャスター「ぐっ、はっ…………」

葛木「キャスター!!」


??「やはり雑種では愉しめんな。終わりにするか」



キャスター(だ、駄目。今の私には結界は張れない……!!)

キャスター「マスター逃げてください……!!」

葛木「それは出来ない相談だな」


??「ほう、拳で打ち落としたか」


キャスター「どうして……」

葛木「お前は私のサーヴァントだ。お前を置いて行くことなど出来ない」

キャスター「そ、宗一郎様……」


??「サーヴァントの次はマスターが道化になるか。ならば次も耐えてみせろよ?」


葛木「くっ……がっ……」

キャスター「マスター!!」

葛木「キャスター、蒼月が言っていたな。私たちは強いと」

キャスター「それは……」

葛木「人は誰かのために強くなれる。ようやく気がついた」

葛木「私は、誰かのためになりたかったのだ」


??「終わりだ」


キャスター「マスター!!!!」



「おおおおおおおおおお!!!!」


カキィィン!!


キャスター「あ、あぁ……ど、どうして……」


葛木「あ、蒼月……!!」


うしお「…………」


??「ほう……」


葛木「何故だ蒼月、何故戻ってきた……」

うしお「前にさ、見たんだ葛木先生」

葛木「なに……」

うしお「麻子と真由子が図書委員の仕事してるときに、生徒会の兄ちゃんたちと手伝ってたろ?」

葛木「たった、それだけで……?」

うしお「忘れられねえよ。オレが廊下を走ってたときしかってくれたこともさ」

うしお「そうさ、忘れられるもんかよ。だから……!!」


??「嗤わせる。まさか『槍』も『獣』もなしに我とやるつもりか」



ガラガラガラ!!

??「チッ、崩れ始めたか。時間切れだな」

??「まぁいい。興ざめな幕切れだが、ここは相応しい場所ではない」


うしお「行ってくれた、のか……?」

ドガッ!!

うしお「うおっ!? 危ねえ!!」

葛木「ここはもう、崩れるな」

うしお「葛木先生、立てるかい?」

葛木「ああ」

うしお「キャスターは……」

ガラガラ!!

キャスター「が、瓦礫が……!!」


凛「ガンドォ!!」

セイバー「はあああ!!」


うしお「遠坂先輩!! セイバー!!」

キャスター「貴方たちまで……」



キャスター「どうしてお嬢さんまで……」

凛「こんなの心の贅肉よ。でもね、止めても行っちゃうヤツがいるんだから仕方ないでしょ」

凛「それに、ここでアンタに死なれちゃ私が気持ちよく聖杯戦争に完璧に勝ったって言えないじゃない」

キャスター「……フフ、残念ね。もう少し賢かったなら教え子にしてあげてもよかったのだけれど」

凛「う、うるさいわねっ。そんなのこっちから願い下げよ!!」


キャスター「セイバー、貴方が聖杯戦争を理解してないとは思わなかったわ」

セイバー「勘違いするなキャスター。以前の私ならここでお前を確実に仕留めている」

セイバー(……そう、彼らに出会う以前の私なら……。やはり私は……)

ガラガラガラ!!

凛「っと、悠長に話してる時間はなさそうね」

キャスター「はぁ、はぁ……。私は、もういいわ。マスターは逃げてください」

うしお「キャスター、まさか……」

葛木「言ったはずだキャスター。お前は私のサーヴァントだと」

キャスター「マ、マスター!? お、下ろしてくださいっ」


凛「はぁ……。助けに来てお姫様抱っこ見せられるとは思ってなかったわ」

キャスター「う、うるさいわよ!!」



・柳洞寺山門


桜「姉さん……」

とら「おめえの姉ってやつは馬鹿だぜ」

桜「はい、知ってます」

とら「でもまぁ、先に飛び込んだクソうしおのほうが大馬鹿だけどな」

桜「それも知ってます。でも……」

桜「ふふっ」

とら「あ?」

桜「それは、とらさんのほうがもっとよく知ってますよね?」

とら「けっ……」

とら「さくら、とかいったかよ。わしはやつらと違って馬鹿じゃないのよ」

桜「は、はい」

とら「あーあ、でも仕方ねえよな。りんはわしのますたーだからよ」


とら「わしは行くしかねえのよォ!!」


桜「それも、この国の人たちならみんな知ってますよ。とらさん」



凛「もうすぐ出口よ!! 急いで!!」


ガラガラガラ!!


うしお「出口が瓦礫で塞がって……」

セイバー「くっ……」


ドガーン!!


とら「おめえらなにをやっとる!! さっさと走れェ!!」


セイバー「トラ!!」

うしお「うおおおおおお!!!!」



凛「はぁはぁ……。間一髪ってやつね……」

うしお「なんとか、脱出できたんだよな……」


キャスター「マスター、もう大丈夫です。下ろして、ください……」

葛木「ああ」

キャスター「ハァ……ハァ……」

サァァァ

葛木「これは……。どういうことだ、説明しろキャスター」

キャスター「どうやら、私はここまでのようです。マスター」


セイバー「キャスター……」

うしお「遠坂先輩、なにか方法は!?」

凛「すでにキャスターの身体は消えかかってる。今から葛木先生がなにをやっても手遅れよ」

うしお「そんな……」



キャスター「でも、良かった……。貴方の望みが叶って……」

葛木「キャスター……」

キャスター「私は、駄目ね……。分かっていたのに、私のやり方では……ぐっ……」

キャスター「願望機などでは、貴方の望みは叶わないって……。それでも、ねぇ……」

葛木「…………」

キャスター「眩しい、わね……」

うしお「えっ……?」

キャスター「フフ……。姉妹の絆も、坊やの輝きも、私には眩しすぎるわ……」

キャスター「目を背けたくなるほどよ……」

凛「キャスター……アンタ……」


葛木「キャスター、お前の望みを言え。例えお前が消えたとしても、私が代わりに果たす」

キャスター「いいえ、それは必要ありません。だって、私の望みも……」


キャスター「先ほど叶いましたから」



『初めて会ったときも、雨、でしたね』


『…………』


『待って』


『なんだ』


『傘は?』


『必要か?』


『……いいえ。でも、肩に小鳥がとまりたがっていますから』


『そうか。そうだな』



ポタ、ポタタ


凛「雨、か……」

うしお「葛木、先生……」


葛木「…………」


葛木「遠坂」

凛「えっ」

葛木「私はキャスターを失った」

葛木「私は聖杯戦争に詳しくはない。この後どうすればいいか教えてくれ」

凛「あ、は、はい」

うしお「葛木先生……」

葛木「安心しろ蒼月。私はもう聖杯戦争に関わるつもりはない」

うしお「あぁ、分かってるよ」

葛木「そうか」


葛木「……雨が、強くなってきたな」



セイバー「トラ。キャスターのマスター。あの男との決着はいいのですか?」

とら「わしは無粋な真似はせんのよ」

セイバー「フッ、アサシンの真似ですか」

とら「へっ……」


とら「それより剣使い、あの金色の野郎はなんなんでえ?」

セイバー「それは……」



・間桐邸地下蟲蔵


杜綱「これで終わりだ。柳月派不動縛呪!!」

臓硯「ぐぐ……。光覇明宗がァ……」

杜綱「この縛呪を断ち切ることはお前には出来ない。観念してもらおうか、マキリ」

臓硯「ククク、観念か。それより今更わしに光覇明宗が何用じゃ?」

杜綱「今回の聖杯戦争、いや、前回の聖杯戦争でもお前が暗躍していたことを光覇明宗は掴んでいる」

臓硯「ほう。さすがはこの国の中枢組織、褒めてやろうか」

杜綱「そして紫暮様はこの土地で見張っていたのだ。本物のお前が動き出すときを」

臓硯「前回の聖杯戦争のときから、やはりあの男……」

臓硯(キャスターから逃れるために本体を動かしたのを感づかれたか……。だが、すでに本体は……)

杜綱「妖に成り果ててまで叶えようとしたお前の野望もここまでだ」

杜綱「悪行を繰り返す妖を光覇明宗は決して見逃さない」

臓硯「そうか……。だが、ここはわしの蟲蔵よ……」

臓硯「貴様一人で、何が出来るかの……!!」

カサカサカサ

??「土剋水!!」



臓硯「誰じゃ!?」

日輪「お前こそ、元獣の槍伝承候補者をなめないでもらいたいな」

臓硯「ぐっ……二人おったか……」

日輪「油断するな杜綱。縛呪で縛られていても蟲を操ることは出来るみたいよ」

杜綱「あぁ、紫暮様が監視をしていた相手だ。何かあるはず……」

日輪「しかし……。早くしろ杜綱、さすがの私でもこの場所は不快だ」

杜綱「確かに。純を連れて来なくてよかったよ」

臓硯「クク……」

杜綱「これで本当に終わりだ。式神、ヒルコ!!」

臓硯「がっ……はっ……」

臓硯「…………」

臓硯「……」



日輪「終わったね」

杜綱「そうだな……」

日輪「どうしたの杜綱。何か変よ?」

杜綱「いや、紫暮様が危惧していた相手にしては……」

日輪「それより報告よ。杜綱はまた教会の監視に戻るんでしょ?」


??(……教会の監視……? なぜ、光覇明宗が教会を……)


杜綱「それなんだが日輪、報告と監視を代わってはくれないか?」

日輪「私は別に構わないが……。何かあるのか?」

杜綱「紫暮様は間桐慎二が入院している病院にいるだろうからね」

日輪「そういうことか。分かった、教会の監視は私が引き継ごう」

杜綱「すまない日輪」

日輪「お前も相変わらずね杜綱」

杜綱「あぁ、いつも純に過保護すぎると怒られてるよ」

杜綱「それでも兄妹の問題は見過ごせな……っ!?」

臓硯「…………」

日輪「杜綱?」

杜綱「いや、なんでもない。気のせい、か……」



・潮の部屋


うしお「遠坂先輩、あれから葛木先生はどうしたんだい?」

凛「すぐに入院よ。立っているのが不思議なぐらいだったんだから」

うしお「そうか……。そうだよな、キャスターの盾になったんだから」

凛「ええ、でも葛木先生は大丈夫よ。命に別状はないわ」

うしお「それならよかったぜ」

凛「それより蒼月くん、今の私たちにはもっと気にしないといけないことがあるわよ」



うしお「それじゃ、あの金色のヤツは前回の聖杯戦争から!?」

凛「それ以外に考えられないのよ」

凛「私はアーチャーの枠を使ってとらを特殊に召喚した。これは色々偶然が重なった結果ね」

凛「例外は確かにある。それでも聖杯戦争で呼び出せるサーヴァントは七騎だけ、これは変えられないはずよ」

凛「そうでしょセイバー?」

セイバー「そうですね。それが聖杯戦争の基本ルールのはずです」

とら「八人目の野郎がいるなら、そいつァ前回の勝者しかいねえってことかよ」

うしお「セイバーはアイツと知り合い、なんだよな……?」

セイバー「知り合い、いえ、そういうワケでは……」

凛「アイツの正体だけでも分からないの?」

セイバー「前回の聖杯戦争でも、私は正体が分かりませんでした」

凛「昨日の夜、山ほど宝具を使ってたのよ。正体を探るなんてこと」

セイバー「その山ほど飛ばしてきた宝具、どれか一つでも見覚えがありましたか?」

凛「えっ、まさかそんなこと……」

うしお「とらはなんか見覚えねえのか?」

とら「けっ、わしが人間の武器なんか覚えとるわきゃねーだろ」

とら「あのクソ忌々しい槍以外はなァ!!」

うしお「言うと思ったぜ……」



セイバー「英雄の証である宝具を、あの男は湯水のように持っているのです」

セイバー「そしてなにより私が不思議に思っているのは……」

うしお「もしかしてセイバーの剣も……?」

セイバー「ウシオ、気づいていましたか」

とら「チッ、わしの見間違いじゃねえようだな」

凛「ちょ、ちょっとなによ、なんの話?」

うしお「あの宝具のなかに『獣の槍』があったんだ」

凛「ど、どういうこと!?」

うしお「オレにも分からねえんだ」

とら「あれは獣の槍じゃねえよ。確かに似てはいたが剣にも見えたしな」

凛「まさか獣の槍が二本あったってこと?」

うしお「いや、それはないと思う」

うしお「前に妖怪たちが獣の槍を作ろうとしたことがあるんだけど、それはオレが止めたよ」

うしお「それに獣の槍は、作ろうと思って作れるものじゃねえんだ」

とら「そういうことよ。あんなもんがそう簡単に何本もあってたまるかよ」

凛「蒼月くんたちがそう言うならそうなんでしょうけど……」

セイバー「獣の槍を持った英雄が他にもいたというのは?」

うしお「獣の槍を使い続けた人間は、字伏っていう妖怪になるんだ。だからそれも違うと思う」



うしお「セイバーの剣もあの宝具の中にあったのかい?」

セイバー「はい、厳密には私の剣とは違う形状でしたが、あれはどう見ても……」

凛「獣の槍やセイバーの剣を持った英雄……? 何よそれ反則じゃない……」

とら「あの野郎が誰だろうと関係ねえよ。次に会ったときはブッ倒す、それだけよォ」

うしお「そうは言ってもよ、とら。アイツの正体だけでも知ってないと困るだろ?」

とら「けっ、わしは必要ねえな」

うしお「ったくよ。なぁセイバー、セイバーは前回の聖杯戦争も参加したんだろ?」

セイバー「はい、そうですね」

うしお「そのときのことを話してくれないか?」

セイバー「前回の……」

うしお「もしかしたらアイツの正体が分かるヒントがあるかもしれねえしよ」

セイバー「……これはいい機会なのかもしれません」

うしお「セイバー……?」

セイバー「いつかは話すつもりでした。ウシオ、貴方は聖杯戦争と全くの無関係ではないのですから」

うしお「えっ……」

セイバー「私の前回のマスターには一人の協力者がいました。それはウシオ、貴方の」


ダッダッダッ、バタンッ


麻子「う、うしお!! 桜先輩がっっ!!」



【第二十話 遠い約束の夜へ 】



・蒼月家居間


真由子「桜先輩っ!!」

桜「…………」ガクガク


キリオ「真由子姉ちゃん放れて!!」

イリヤ「キリオ、サクラを縛るわよ」

キリオ「分かった!!」


凛「桜……!!」

うしお「桜姉ちゃん!!」


桜「…………」グググ


うしお「これは、どうなってんだ!?」

麻子「急に桜先輩の様子がおかしくなって、暴れだしたのよ……」

凛「なんで、桜……」

イリヤ「今は私の魔術とキリオの法力で抑えてるわ」

キリオ「この力、このお姉ちゃんの力じゃない……?」



セイバー「まさかキャスターの洗脳がまだ?」

凛「キャスターはもういない、それはないわ」


桜「…………」グググ

パキィン!!


キリオ「そ、そんな……」

イリヤ「へぇ、やるわねサクラ。今のを破るんだ」

うしお「桜姉ちゃんっ!!」


桜『……手間取らせる。ここまで抵抗したのは蟲蔵に初めて入れたとき以来かの』


凛「さ、桜……?」


桜『ほう、なるほど。昔を思い出す出来事でもあったか』

凛「その声、でも、なんで……」

うしお「これは、いったい……」

桜『クックッ、やっと大人しくなりおったわ。こやつらの前では醜態を晒したくないか』



桜『この小娘は返してやる。お前たちもそこで大人しくしておるんじゃな』

フラッ

凛「桜……!!」

麻子「桜先輩!!」


セイバー「今のは、どういうことなのですか……」


とら「……ちっ、わしとしたことが今まで気付かんかったかよ」

うしお「とら!? どういうことだ!?」

とら「その女の身体のなかに『変化』がとり憑いてやがるのよ」

うしお「変化って……。石喰いのときのヤツかっ!!」

とら「ほーう、本当にちったぁお前もモノを覚えるようになったか!!」

うしお「なにをーー!!」

うしお「……とら。今、身体のなかって言ったよな」

とら「あぁ? それがどうし」

ダッダッダッ

とら「おいっ!! うしお!!」



・蒼月家洗面所


うしお「おんじ!! 雲外鏡のおんじ!!」

うしお「日本中の鏡はおんじに通じてる。そうだよな、おんじ!!」

とら「なーんだ、じじいになに聞くんだよ」


セラ「あれはウシオ様……?」

リズ「鏡に向かって、話しかけてる」

セラ「み、見なかったことにしましょう」

リズ「やっぱり、この間のアレが不味かったのかも」

セラ「え?」


リズ『練習でも、手加減、しない』

うしお『こっちだってさ!!』

リズ『行くよ。あっ』コケッ

うしお『リズさん!? えっ』ゴチーン


リズ「ハルバード、脳天直撃」

セラ「あなたはなにをしてるのですか……」



うしお「駄目か……。あっ」

うしお「セラさんリズさん、いいところに!!」

リズ「見つかった」

セラ「な、なんでしょうウシオ様」

うしお「雲外鏡のおんじを呼んでるんだけど反応がなくてよ」

うしお「一人で呼ぶより三人で呼ぶほうがおんじも聞こえると思うんだ」

うしお「二人とも手伝ってくれよ!!」

セラ「え、あ、わ、分かりました……」

リズ「ウシオ、やっぱり打ち所が悪くて……」

うしお「なんの話だい? とにかく行くぜ!!」


うしお「雲外鏡のおんじ!!」

リズ「おんじー」

セラ「お、おんじー」


??「……この声は聞いたことがあるのとないのがあるぞ」

??「だーれじゃ、わしを呼ぶのは」



うしお「雲外鏡のおんじ!!」

おんじ「なんじゃ蒼月潮か。久しぶりじゃの」

リズ「鏡の、中に」

セラ「こ、この方が、おんじ様ですか?」

おんじ「お~、こりゃべっぴんさんが二人も。なんじゃ紹介してくれるのか?」

うしお「おんじ!! 頼みがあるんだ!!」

おんじ「頼みィ? おい蒼月潮、人間の頼みごと一つでわしを呼んだのかァ?」

おんじ「あのな、白面のときは手を取り合ったが本来、妖怪と人間っていうのはだな」

うしお「それは分かってるっておんじ!! 急ぎなんだ!!」

セラ「おんじ様、ウシオ様の頼みごとを聞いてはもらえないでしょうか」

おんじ「うっ……」

リズ「おんじ、お願い」

おんじ「わ、わしは色んな鏡からべっぴんさん見とるから、む、無駄じゃぞ」

リズ「そんな」

セラ「おんじ様……」

??「おい、それなら誰が頼めば聞いてくれるんだよ?」

おんじ「えっ……」

とら「よう、じじい」



おんじ「げぇぇ~~!? 長飛丸ぅぅ~~!?」パリンッ

とら「けけっ」

おんじ「ど、どうなっとるんじゃ……。妖が復活するには、そりゃ長い時間がかかって」

うしお「それはまた今度説明するからさ!!」

うしお「おんじ、イズナだ!! イズナを呼んでくれ!!」

とら「イズナ? そういうことかよ」

おんじ「イズナだァ? あのな蒼月潮、妖怪と人間は」

とら「じじい、話が進まねーだろ。とっととイズナ呼んで来いよ」

バチバチ、ビリビリ

おんじ「は、はい~~~~!!!!」


リズ「トラ、頼もしい」

セラ「よ、よかったのですか、トラ様」

とら「いいんだよ。この手に限るぜ」

うしお「いいのかなァ……」



イズナ「うしおーーっ!!」

うしお「イズナっ!! 元気だったか!?」

イズナ「バッカ、妖怪に元気もなにもないって言ったろォ!!」

セラ「本当に鏡の中から出て……。魔術ではないのですよね……」

リズ「かわいい」

イズナ「ん? こりゃまた綺麗どころが増えてるなァうしお」

イズナ「北海道まで駆けつけてくれた五人じゃ飽き足らず、また二人も増やしたのかい」

うしお「な、なんの話だ?」

とら「けっ」

イズナ「よォ、長飛丸~~!!」

とら「お前はあんまり驚かんのだな」

イズナ「どうせ長飛丸のことだからな!!」

イズナ「いつかはうしおのところに戻って来ると思ってたのよォ!!」

ゴォォォォ

イズナ「きゃーー!! これこれ久しぶり!! きっくーーっ!!」

リズ「いいノリしてる」

うしお「イズナは相変わらずみたいだなァ」

セラ「だ、大丈夫なのですか?」

イズナ「綺麗な姉ちゃん、妖怪にはこんなもん挨拶みたいなもんよォ」


イズナ「ふー、さてと挨拶も済んだってことで……。聞かせてもらおうかい」

イズナ「七十五匹の眷族をもつ人間体内のエキスパート……」

イズナ「この『イズナ』様を呼んだ理由を」



イリヤ「上手いことやってるわね。キリオのほうはどう、こっちが専門でしょ?」

キリオ「駄目だ、完全に妖にとり憑かれてる。法力で無理やり倒すとこのお姉ちゃんが危険だよ」

凛「そんな……」

真由子「桜先輩……」


イズナ「なーるほどねぇ。大体の事情は分かったぜい」

麻子「イズナくん!?」

イズナ「よォ姉ちゃんたち、久しぶり!!」

セイバー「ウシオ、こ、この者は……?」

うしお「イズナさ。前に世話になった妖怪なんだ。詳しい話は今度するよ」

セイバー「分かりました……。そのときにはその、触ってもいいですか?」

うしお「えっ?」

セイバー「い、いえ、なんでもありません」


イズナ「こんなことは長の頼みでもない限りやらないんだが、うしおの頼みじゃ断れねえや」

イズナ「でもよォうしお、杜綱んときは獣の槍があったから体内に入れたんだぜい?」

イズナ「この姉ちゃんを助けたいのは分かるけど、人間のうしおを体内に連れてくことは出来ねえや」

うしお「いや、獣の槍はあるんだ。イズナ」

イズナ「け、けけ、獣の槍がある!?」



うしお「とら、頼む」

とら「待ちなうしお。おめえ分かっとんのか?」

とら「わしの宝具『獣の槍』には制限時間がある」

とら「この女の体内に入ることに力を使えばいつもの二倍、いや三倍の早さよ」

とら「本物の獣の槍のように妖になるワケじゃねえ、魔力がなくなり次第おめえはただの人間になる」

とら「そうなりゃイズナの力があったって、おめえは死ぬだけよ」

うしお「杜綱さんのときと同じ、いや、それよりもか……」

うしお「それでもよ、とら、オレは行きてえんだ」

うしお「桜姉ちゃんに何がとり憑いてるかは知らねえさ」

うしお「でもよ、もし婢妖みてえのがとり憑いてて苦しんでるなら助けてやりてえよ」

とら「てめえが死ぬかもしれねえ、それでもかよ?」

うしお「これからだったんだぜ。桜姉ちゃん、遠坂先輩を姉さんって呼んでた。もっと呼んでもらいてえよ」

凛「蒼月くん……」

とら「けっ、まぁ分かっとったがな」

とら「だが決めるのはわしじゃねえ。りんだ」

凛「私……?」



とら「宝具は大量の魔力を消費する」

とら「連戦で魔力が低下してるおめえじゃ獣の槍を維持出来るか分からねえぞ、りん」

凛「…………」

凛「まだ、よく理解出来てないけど……」

凛「宝具『獣の槍』を使えば桜を救えるっていうなら……。やって、とら」

とら「やれるのかよ?」

凛「私の魔力が完全になくなったとしても、維持してみせるわ」

とら「……おめえがそこまで言うとはな」

凛「だってここでおりたら、それこそ本当に姉なんて名乗れないわよ?」


キィィィィン

パシィッ


うしお「とら!!」


とら「わしは行かんぞ。人間の体内なんて二度と行かんと決めとるからな」


うしお「へっ、ありがとよ!!」

凛「これだけで十分よ、とら!!」



イズナ「うしお……。それ、本当に獣の槍なのかよ!?」

うしお「すまねえイズナ、説明してる時間はねえんだ。頼む、やってくれ」

イズナ「よ、よし、分かったぜい」


うしお「キリオ、イリヤ、何が起こるか分からねえ。桜姉ちゃんを抑えといてくれ」

キリオ「うん、分かったよ」

イリヤ「こっちは任せなさい、ウシオ」

うしお「セイバーもキリオたちを手伝ってやってほしいんだ」

セイバー「分かりました。サクラを助けに行くのですね?」

うしお「あぁ」

セイバー「止めるつもりはありません。ウシオ、ご武運を」


真由子「うしおくん、桜先輩を助けてあげて」

うしお「真由子、もちろんさ」

麻子「えいっ」

うしお「な、なんだよ麻子?」

麻子「私たちはまだ遠坂先輩がお姉さんだとかの話を聞いてないわよ?」

うしお「し、しかたねーだろ。そんな時間なかったんだ」

麻子「だから、絶対無事に戻ってきて説明しなさいよね、うしお」

うしお「……あぁ、分かったぜ」



うしお「それじゃ、行ってくる」

凛「待って!!」

うしお「遠坂先輩……?」

凛「私も連れて行って」


とら「はぁ~~~~!?」


凛「私も行くわ」

とら「馬鹿言うんじゃねえ!! りん、おめえはここで宝具の維持に専念すんだよ!!」

凛「その宝具の維持だって蒼月くんの状況が分からないと出来ないわよ」

とら「馬鹿より馬鹿がいやがったかよ……。おいうしお!! こいつを止めな!!」

凛「蒼月くん。あの声、いえ、桜にとり憑いてるヤツに心当たりがあるの」


凛「きっとこの戦いは……『遠坂』の私が行かなきゃならない使命なのよ」


うしお「……よし、行こう!!」



イズナ「長飛丸は来ねえのかー?」

とら「うるせえーーっ!! そんな馬鹿どもに付き合いきれるか!!」


凛「とら……」

とら「りん、おめえ死ぬかもしれねえんだぞ!? 聖杯戦争はどうすんだよ!?」

凛「それでも行くわ。もう決めたのよ」

とら「わしは行かんぞ!!」

とら「わしを連れてきたきゃ令呪でも使うんだなァ!! 令呪でもよォ!!」

凛「使えないわよ、令呪なんて。だってこの戦いは聖杯戦争とは違う私の戦いだもの」


とら(こんのォ馬鹿がァ~~。てめえの呼び名で令呪を使ったヤツが言うことか~~!!)


凛「……ごめん、とら」


とら「あ?」


凛「聖杯戦争に勝ち残るって約束、私のほうから破りそうだわ」


とら「…………」



うしお「遠坂先輩、オレと一緒に槍を握るんだ」

凛「えぇ、分かったわ」

イズナ「ククッ」

うしお「なんだイズナもか。ははっ」

凛「蒼月くん?」

うしお「あぁごめんよ。前にも同じことがあったからおかしくてよ」

とら「……おいうしお、なに笑ってやがるんだよ」

うしお「別になんでもないさ、とら」


とら(その期待した目~~!! ムカつく!! てっぺんきた!!)


イズナ「それじゃ、行くぜーーっ!!」


とら「くそったれい!!!!」


凛「とらっ!?」

うしお「とらァ!!」


とら「勘違いすんじゃねーぞ!! うしお!! りん!!」

とら「りんはわしのますたーなのよ!! だからしかたねーの!!」

とら「それに獣の槍はわしの宝具!! どんな使い方されるか見とかんとなァ!!」


凛「フフ、なるほどね。そういうことか」



うしお「へっ……。よし……」




うしお「行っくぞーっ!! とらーーっ!!」


とら「うるっせーんだよ!! うしおーーっ!!」






おんじ「なんじゃなんじゃ、こりゃどうなっとるんじゃ……」





セイバー「ウシオ……」

麻子「大丈夫ですよ。セイバーさん」

セイバー「アサコ、ですが……」

麻子「あいつは絶対戻ってきます。私たちのところへ」

セイバー「信じているのですね、ウシオを」

麻子「アホでバカだから遅刻することもありますけどねっ」

セイバー「分かりました。信じましょう、私も」



・桜の体内


イズナ「なーんだ。長飛丸、やっぱり来たのかァ」

とら「おいイズナ!! おめえも勘違いしとるようだな!!」

イズナ「もう分かってるってー。うしおとその姉ちゃんの為じゃないんだろォー?」

とら「イズナァァァァ!!!!」

イズナ「ひゃーーっ!! って長飛丸、どうやらあちらさんから来てくれたみたいだぜい」


蟲「……!!」

カサカサカサ、カサカサカサ


イズナ「こりゃまた卑猥な形をした妖だなァ」

とら「数も大きさも婢妖と似てやがるがよ、気味がわりいな」



凛「こんなのが桜の身体の中に……」

うしお「遠坂先輩、大丈夫かい?」

凛「なんとかね」

うしお「そうか、よかった」

凛「これが獣の槍なのよね。まさか自分で握ることがあるなんて思ってなかったけど」

うしお「でも遠坂先輩の髪は変わってないけど、なにかあるのかな?」

とら「わしが選んだ宝具の使用者がおめえだからだよ」

うしお「使用者?」

とら「槍の力は今うしおとりんに分散されてるが、使用者って括りならうしおだからな」

凛「なるほどね、そういうことか」

とら「その槍の力も、おめえら二人分が体内に入ることに使ってんだ。分かってんのか、りん」

凛「そうね、時間がないわ。蒼月くん。私のことはいい、派手にやって」


うしお「遠坂先輩……。よーし、分かった!!」


イズナ「あーあ、姉ちゃん。コイツらにそんなこと言っていいのかい?」

凛「えっと、イズナ、くん? どういう意味?」

イズナ「イズナでいいぜい姉ちゃん。まぁ見てなって」



蟲「……!!」

カサカサカサ、カサカサカサ


うしお「数が多いな……」

うしお「とら、来いっ!! こんなときは分かってるよなァ!!」


とら「わしに命令するんじゃねえクソうしお!!」

とら「だが……。へっ、あの方法かよ!!」


凛「ちょ、ちょっと待ってよ。派手にって言ったけど少しは手加減……」

イズナ「もう聞いちゃいねえや」


うしお「うおおおお!!!! 蹴散らせええええ!!!!」

とら「はーっはっはっはっはっ!!!!」


凛「言うんじゃ……なかったわ……」



蟲「…………」カサカサカサ


うしお「なんだ、逃げていく……?」

とら「臭うぜ。こいつらの親玉はこの先よォ」

うしお「イズナ、この奥はどこなんだ?」

イズナ「人間で言うところの心臓って部分だな」

凛「桜の、心臓に……」


イズナ「道を抜けるぜぇ。この先はいっきに広くなるんだ、気をつけてくれよ!!」


うしお「なっ……。あ、あれは……!?」

凛「心臓に何かが張りついてる!?」

うしお「なんて大きさなんだ、こんなのが桜姉ちゃんの心臓に……」


とら「タコが、間違えるんじゃねえ。今のわしらは小さくなってんだ」

とら「あんなのは外から見たらおめえらの親指大ほどしかねーよ」


うしお「そ、そうか……。とにかくアイツを心臓から切りはなさねえと!!」ダッ

イズナ「うしお駄目だーーっ!!」

凛「な、なに!?」



うしお「イズナ? どうしたんだ?」

イズナ「あぁそうか、そういうことか。長飛丸が気づかねえのも無理はねえや」

とら「おいイズナ!! なんなんだよ、あんな変化一匹わしの雷で」

イズナ「そいつは出来ねえぜ長飛丸」

イズナ「この妖は、この姉ちゃんにとり憑いてるんじゃねえや」

イズナ「姉ちゃんの心臓に、直接とり憑いてやがるのさ!!!!」


とら「な、なにィ~~~~!?」


イズナ「長飛丸の雷なんて当てたらどうなるか、人間の心臓は妖と違ってデリケイトなんだぜ?」

とら「で、でり……?」

凛「それじゃ……」

うしお「あの変化は、倒せない……!?」


??「だから言ったじゃろう。大人しくしておれと」


凛「こ、この声……!!」


??「貴様らには、何も出来ないのだからの」


凛「やっぱりアンタは……。間桐、臓硯……!!!!」


臓硯「カカッ……」



うしお「まとう、ぞうけん……。間桐ってことは間桐先輩や桜姉ちゃんの!?」

凛「ええ、そうよ。あの慎二の祖父、間桐家の実質的当主よ」


臓硯「遠坂の小娘がここまで来るとはの」


凛「話してもらえるんでしょうね、間桐臓硯」

凛「これはどういうことなのか。なんでアンタが桜の心臓にとり憑いてるのかを!!」


臓硯「うむ、いいじゃろう。ここまで来た褒美にわしの望みを聞かせてやろうか」



桜「…………」


真由子「桜先輩の震えが止まった……」

麻子「終わった、ってこと……?」


イリヤ「いいえ、サクラが起きる気配がないわ」

キリオ「妖の力もまだ感じるよ」


セイバー「むしろ、これから、ということですか」

麻子「これから……」

真由子「うしおくん……」



うしお「それじゃ、桜姉ちゃんは子供の頃からお前に……!?」

凛「……っ……」


臓硯「カカッ、貴様らにも聞かせたかったよのう」

臓硯「蟲蔵に放り込んで初めの三日は、そりゃもう散々な泣き叫びようじゃったからの」


うしお「こォの、ヤロォ……!!」


臓硯「見せたかったよの遠坂の小娘。四日目からは声すら上げなくなったこの小娘の姿をォ」


凛「…………」


凛「……蒼月くん。この槍、貸してもらうわね」

うしお「えっ、遠坂先輩……!?」


凛「アイツはここで……。私が殺す……!!!!」


臓硯「いいぞォ遠坂の小娘。いい貌じゃ」


凛(……憎い、憎い、アンタが憎い……!!!!)

うしお「獣の槍を通して、遠坂先輩の感情が流れ込んでくる……!?」



イズナ「姉ちゃんどうしちまったんだ、いきなり仕掛けるなんてよ!!」

とら「ちっ、宝具は宝具でもあれは獣の槍かよ……。槍自身が使用者を選びやがった……」

イズナ「あの心臓に攻撃しちゃ駄目だぜ!! この姉ちゃんが危ねえよ!!」

とら「おいうしお!! りんを止めなァ!!」


凛(……憎い……憎い……!!)


うしお「ダメだ遠坂先輩っ!!」

凛「なんで止めるのよ蒼月くん!?」

うしお「それじゃダメなんだよ……」

凛「どうしてよ!? 蒼月くんは桜を助けたくないの!?」

うしお「助けたいさ。でも今の先輩のままじゃ桜姉ちゃんは助けられない」

凛「そんなことないわ。今すぐアイツを殺せばいいのよ……!!」

うしお「いいや。きっと、この槍は砕けちまうよ」


うしお「オレのときみたいにさ」


凛「……っ!?」


うしお「あいつが許せないのは俺も一緒さ。だからよ、一人でやろうとなんてしないでくれよ」


凛「……わ、私……なんで……」



臓硯「……あの白面を倒した小僧か。不要なことをするわ」


うしお「間桐臓硯……。お前の思いどおりにはさせないさ!!」


イズナ「人間ってのはちょっと見ない間にあんなに変わるもんかねぇ。妖とは大違いだぜい」

とら「へっ、コーコーセーとかいうのになってマシになったかよ。だがまぁ、悪かねえぜ」


臓硯「せっかく良い貌をしておったのにのォ、遠坂の小娘」

臓硯「貴様らには分からんか、長年生きとると色々と飽いてくるものよ。なのだが……」

臓硯「飽きんよなァ、あの人間の憎悪を貌だけは……ククク……」


とら「けけっ、けけけ!!」

イズナ「へへっ、おいおい長飛丸。あんまり笑ってやるとカワイソウだぜい?」

とら「悪い悪い。ここに来る前のうしおじゃねえが笑うのを耐えられなかったぜ」


臓硯「同じく白面を倒した妖怪のサーヴァント……。何が、そんなに面白い?」


とら「いやァ、あんまりにも面白くてよォ」

とら「もっと聞かせてくれよ。たかが数百年しか生きてねえ変化の話をよ」



臓硯「その口ぶり、生前は大層な妖怪じゃったろうが……」

臓硯「今の貴様は魔力で動く人形、ただのサーヴァントじゃ」

臓硯「ククク……。貴様を殺すのも」


蟲「!!!!」


うしお「巨大な蟲が四方から……!?」

凛「とらっ!!」


臓硯「簡単じゃ」


とら「で?」


ドゴッ!!


蟲「」


臓硯「なっ……」


とら「誰が、誰を、殺すってぇ?」



セイバー「始まったようですね」


桜「…………」ガタガタ


キリオ「結界を張るよ。お姉ちゃんたちは下がって」

真由子「私たちにも何か出来ることがあればいいんだけど……」


イリヤ「…………」

リズ「イリヤ、どうしたの」

イリヤ「ウシオたちが突入して、どれくらい経ったか分かる?」

セラ「三十分以上は経ったかと」


イリヤ「……不味いわね」


麻子「イリヤちゃん……?」



臓硯「行け、行け、蟲どもよ。奴らを嬲り殺しにしてくれるわ」


蟲「……!!」カサカサカサ

蟲「……!!」カサカサカサ


イズナ「おーおー、大勢お出ましだぜい!!」

とら「イズナ、東の妖たちはどうなっとる!? あんな若僧の変化にデカイ顔させとるのかよ!!」


イズナ「仕方ねえだろー? 長たちがこの国の礎になってから東もゴタゴタしてんだ」

イズナ「今の東の妖は、遠野妖群頭の一鬼が長を引き継いでなんとかなってるけどよ」


とら「一鬼が長だァ!? くっ、くくく、そいつァ見物だな」


イズナ「東は西と違って仲間意識があるっていっても、変化まで面倒見切れねえのさ」

イズナ「ああいう変化もいるってことだぜ。珍しくもねえや」


とら「あーあ、最近はあんな妖が増えてんのかねえ」


イズナ「妖だって色々いるんだぜい。長飛丸を知らない妖だって、ましてや変化なら当然いるって」

とら「けっ。まぁ、獣の槍に五百年はりつけにあってたからな。知名度低いのは認めるさ」



蟲「……!!」カサカサカサ


うしお「キリがねえ!! おいとらァ!!」

うしお「大口叩いといて何か方法あるんだろうなァ!?」


とら「クソうしおが!! そんなもんあったらとっくにやっとるわい!!」

とら「あんなカスに負ける気はしねえが……。ん……?」


凛「はぁ、はぁ……。なんとか、アイツを桜の心臓から離さないと……」

イズナ「姉ちゃん大丈夫かよ!?」

うしお「遠坂先輩っ!!」

とら「りん、おめえ魔力が限界を……」

凛「はぁはぁ……。私が槍を、暴走させたせいだわ……」

とら「ちげえよ。始めから無理だったろうがよ、二人分も体内に入る魔力なんてよ」

凛「それでも、ね……。一秒でも早く、桜を助けたいじゃない……」

凛「桜が、間桐に行って、姉らしいこと私、全然やれなかったからさ……」

とら「りん……」

うしお「遠坂先輩……」



とら「もういいイズナ。引き上げだ!! 脱出すんだよ!!」

イズナ「だ、脱出っていっても……。長飛丸、この状況じゃ……」


蟲「……!!」カサカサカサ

蟲「……!!」カサカサカサ


うしお「うおおおお!!」

凛「はぁ、はぁ……」


うしお「すまねえイズナ。オレが突破口を開くから道案内してくれねえか」

イズナ「うしお、姉ちゃんを抱えながらで戦えるのかよ!?」

うしお「大丈夫さ。でも、獣の槍が重くなり始めてる」

とら「宝具の時間切れかよ!? ちっ、魔力がねえなら当然か……」


臓硯「カカッ。あれだけ吠えておきながら尻尾を巻いて逃げるとはの、所詮はケモノか?」

臓硯「逃がしはせん。行け蟲ども、そのまま喰らい尽くすがいいわ」


蟲「!!!!」カサカサカサ



セイバー「ぐっ……」

麻子「セイバーさん!? どうしたんですか!?」

セイバー「おそらく、ウシオたちが危機に……」

真由子「えっ!?」

セイバー「私とウシオは、マスターとサーヴァントという契約の繋がりがあります」

麻子「繋がり……」

セイバー「ウシオは魔術師ではないので遠距離の会話は出来ませんが、繋がりは確かにあります」

キリオ「うしお兄ちゃんたちが危ないって、感じられるってこと?」

セイバー「そうですキリオ。正確な状況は分かりませんが危機的状況なのは確かです」

イリヤ「それはそうでしょうね」

セラ「お嬢さま……?」

イリヤ「今更ここにいる人間に、宝具『獣の槍』の説明なんていらないわよね」

イリヤ「あれほど規格外の強力な宝具よ。リンだけで宝具の発動、維持、本当に出来ると思う?」

リズ「まさか」

セイバー「サクラの体内で、宝具を消失……!?」

イリヤ「消えてはないわ。それならセイバーも分かるはずよ。でも、時間の問題ね」

麻子「そ、そんな……」

イリヤ「短時間で倒せる相手ならよかったけど、そんな甘い相手じゃなかったみたいね」

キリオ「いったい、どうしたら……」

イリヤ「ここは、私の出番かな」



イリヤ「私の魔力をリンに送るわ」

麻子「そんなことが出来るの!?」

イリヤ「ええ、出来るわよ」

真由子「で、でも、うしおくんたちが桜先輩の体内のどこにいるかも分からないのに……」

イリヤ「直接リンに送るワケじゃないわ。サクラに届けてもらうのよ」

セイバー「なるほど……。サクラ自身ならリンが体内のどこにいても魔力を供給できる」

イリヤ「そういうこと。とにかく魔力を送らない限りは何も始まらないわ」

セラ「待ってください、お嬢さま」

イリヤ「なによ」

リズ「イリヤでも、魔力、足りない」

イリヤ「…………」

セラ「あの宝具の魔力使用量は桁外れです。いくらお嬢さまでも、一人では……」

イリヤ「なら、このまま黙って見ていろというの?」

セラ「それは……」

イリヤ「言われなくても分かってるわよ。それでもやるわ。ウシオを見殺しになんか出来ないもの」



真由子「どういうこと、なんですか……?」

リズ「魔力が足りない。増幅でもしないと」

麻子「増幅……?」

セラ「魔術のなかには、己の魔力を高める術式が幾つかあります」

セラ「しかしそれは大掛かりな儀式、準備を必要とします。そんな時間は……」


キリオ「それは、イリヤの魔力を増幅させればいいの……?」

セイバー「キリオ、何か方法があるのですか?」

キリオ「うん……」

セイバー「その方法とは……?」


キリオ「光覇明宗、『威颶離(いぐり)』法」





セイバー「ということは、キリオの念を私たちの体を通して増幅し、イリヤが受け取り魔力を高めると」

キリオ「うん、それが『威颶離』法だよ」

セラ「そんな術式が……」

リズ「それなら準備、いらない」

キリオ「ただ、法力僧じゃないお姉ちゃんたちが体に念を通せば、かなりの苦痛になるはずだよ」

キリオ「だから本当は、このやり方は……」

真由子「待ってキリオくん。さっきイリヤちゃんも言ってた。このまま黙って見てるなんて出来ないよ」

麻子「そうよ、私もやるわよ。私にも出来ることがあるならやりたいわ!!」

イリヤ「決まりね。キリオ、私はいいわよ」

キリオ「イリヤ、一番負担がかかるのは君なんだよ……。だから僕は……」

イリヤ「キリオが心配してくれるのは悪い気分じゃないけど……」

イリヤ「それでも、大きな力を受け止める器の役割は私が適任よね」

キリオ「え……?」

セラ「お嬢さまっ!!」

イリヤ「冗談よ。でも、私以外にやれる人物がいないのも事実でしょ」

セラ「それは、そうですが……」

イリヤ「やりなさいキリオ。他の誰でもない、私がやれって言ってるの」

イリヤ「念を込めることに手加減なんかしたら許さないわ」

キリオ「イリヤ……。分かった。威颶離をやろう」



イズナ「こ、ここも出口が塞がってやがる!!」

蟲「……」カサカサカサ

とら「ちぃ~~!! やはりわしの雷でえ!!」

イズナ「だからそれはダメなんだって長飛丸ーー!!」

うしお「はぁはぁ……。ぐっ……」

凛「…………」

イズナ「まさかうしお、その獣の槍もう振れないんじゃねえのか!?」

うしお「まだ大丈夫だ……。とにかく違う脱出口を……」

イズナ「で、でもよォ!!」


臓硯「ククッ、そろそろ終わりかの」


『ウシオ、聞こえる?』


臓硯「なに……?」


うしお「この声……。イリヤっ!?」



イリヤ『ウシオ、聞こえてるものだと思って話すわよ』

イリヤ『今、魔術を使ってサクラの体全体に声を届けてるわ』

イリヤ『敵にも聞かれることになるけど、それは仕方ないわよね』


臓硯「なにをする気じゃ……?」


イリヤ『リン、随分手こずってるみたいじゃない?』

凛「悪かったわね……」

イリヤ『しょうがないから助けてあげる』

イリヤ『今からキリオのイグリ法を使って、私の魔力をサクラに送るから受け取りなさい』


うしお「威颶離って、まさか山魚のときの!?」

とら「けけっ、あれをやるかよ」


臓硯「この小娘に……。ククク……」


イリヤ『サクラ、眠らされてるところ悪いわね』

イリヤ『でも、その標本にされてもおかしくないぐらいの才能、使わせてもらうわよ』


桜「…………」



イリヤ「さてと、こんなところね。そろそろ始めましょ」

セイバー「貴方は……」

イリヤ「何してるのよセイバー。早く手を握りなさい」


セイバー(ウシオたちに出会って変わったのは私だけではないか……)

セイバー(……アイリスフィール。貴方の子供は大きくなりましたよ)


イリヤ「何よ、私の手を見つめて」

セイバー「いえ……。イリヤスフィール、いや、イリヤ」

セイバー「我がマスターの命運を貴方に託します」

イリヤ「あらたまってなに。セイバーに言われるまでもないわ」


イリヤ「でも、そうね……。私に任せなさいセイバー!!」

セイバー「はい、イリヤ」


イリヤ「キリオ、こっちはいいわ。やりなさい!!」


キリオ「こっちも法力とエレザールの鎌の準備が出来たよ」


キリオ「それじゃ……。『威颶離』法、始めるよ……!!」



麻子「な、なにこれ、体の中に何かが通っていく……」


真由子「これがキリオくんの念の力……」


セラ「ぐっ……。魔力供給とは違いますね……」


リズ「ここまで、来た、凄いの」


セイバー「こ、これがイグリ法……」


イリヤ「始まったわね……。魔力が増幅されてる……。これなら……!!」



臓硯「カカッ、これほど愉快なこともあるかのォ」

臓硯「貴様たちの足掻きが愉しくて、ついわしも笑みがこぼれるわ」


うしお「何ィ!? どういう意味だ!!」


臓硯「この小娘に魔力を送るじゃと……クク……」

臓硯「無駄じゃ。こやつの遠坂の魔術回路はとうの昔にわしが破壊しておるわ」

臓硯「魔力を送ったところで回路がなければ流れることはない」

臓硯「逆にその魔力をわしが取り込んでくれるわ」


凛「それは、どうかしらね……」

うしお「遠坂先輩っ!!」


臓硯「なに……?」


凛「アンタには見えないの、あれが……」


とら「なんだァ!? 無数に光る線が……!?」

イズナ「人間体内のエキスパートのオレ様でも見たことねえぜ!?」


臓硯「ば、馬鹿なっ……。そんな筈は無い、わしは確かにこやつを壊して……」


凛「衰退した理由も分かるってもんよね。間桐当主」

凛「これが遠坂よ。見くびらないでもらえるかしら?」


臓硯「ぐっ……!!」



蟲「……!!!!」カサカサカサ

蟲「……!!!!」カサカサカサ


とら「イズナァ!! こいつらを槍に近づけさせるんじゃねえぞォ!!」

イズナ「分かってるって長飛丸よォーー!!」


うしお「遠坂先輩、大丈夫なのかい!?」

凛「はぁ、はぁ……。ええ、大丈夫よ。桜とイリヤが魔力を送ってくれてるわ」

凛「これなら、あと少しで……!!」


臓硯「何を仕出かすつもりか知らんが……」

臓硯「外の連中さえいなければ、貴様らなど……!!」



麻子「ぐっ……くぅ……」

真由子「う、うぅ……」

イリヤ「ハァハァ……」

セイバー「イリヤ……。キリオ、まだですか!!」

キリオ「まだ、あとちょっとで……!!」


桜『なるほどの……。光覇明宗の術か。小賢しい真似をするわ』


セイバー「なっ、お前は……!?」


桜『これで、どうじゃ』


キリオ「お姉ちゃん!!」


真由子「あぁ、麻子……なんで……。手を放しちゃ……」

麻子「な、なによこれ……。何かに引っ張られて、手が……」


桜『クク、貴様らなどこれで十分よのォ』



セイバー「アサコ!! マユコ!!」

セラ「あんな初歩的な魔術など……!!」

イリヤ「手を放してはダメっ!!」

リズ「術式が途切れる。でも、このままでも」


真由子「か、金縛りみたいに体が動かない……」

麻子「たった一人分の距離も、手を伸ばせないなんて……」


キリオ(お姉ちゃんたちを助けるには威颶離を解除しないと……。でも、それじゃ……)


桜『これで魔力の供給は途切れる。クク、これであやつらも終わりじゃな』


麻子「そんなことない……」

麻子「私が手を伸ばせばアイツが助かるなら、今度は私が……!!」

真由子「あ、麻子……」


桜『無駄なことを。貴様ら小娘にはこの程度の魔術も破れまいて』


??「……そうそう。無駄なことはやめろよ、中村」


麻子「えっ!?」




慎二「だってさ、そこには僕が入るんだから邪魔なんだよねぇ」





・病院中庭


「申し訳ありません紫暮様。間桐臓硯の本体を取り逃がしました」

「間桐邸の調査の結果、あの臓硯も蟲の触覚に過ぎないようです」

「うむ……。やはり一筋縄ではいかない相手か……」

「しかし、本体はどこに……」



慎二「…………」



??「盗み聞きとは感心しませんね」


慎二「チッ……。またアンタかよ……」


慎二「蒼月須磨子さんよ」


須磨子「はい」





須磨子「何を聞いていたのですか?」

慎二「なんでもいいだろ。それよりなんでアンタがここにいるワケ?」

須磨子「異なことを聞かれますね」

須磨子「ここは光覇明宗の病院ですから、私がいるのは自然ではありませんか」


慎二「そんなことは聞いてないんだよ」

慎二「それともなに? まだ僕から聖杯戦争のことを聞きたいの?」

慎二「残念。もう聖杯戦争のことは蒼月のオヤジに洗いざらい話したんだよねぇ」

慎二「だから僕に付きまとったって何も情報はないんだよ。ハハッ、無駄足だったね」


須磨子「……そうですか。何か知っているのですね」


慎二「はぁ? なに言って……」


須磨子「ここには葛木宗一郎さんのお話を聞きにきたのです」

須磨子「あの方も大変な使命を持った方ですから」


慎二「使命、ねぇ……」



慎二「…………」


須磨子「自分の心の間で、ゆれているのですね。間桐慎二さん」

慎二「な、なにィ……?」

須磨子「今の貴方の眼には、今までになかった使命を感じます」

慎二「チッ、何も知らないくせに……偉そうにさァ……」

慎二「…………」

慎二「今更、僕が行ったって……」


「そこに誰かいるのか?」


慎二「あ……」

須磨子「ここは私に任せて、ゆきなさい」

慎二「で、でもさァ」

須磨子「その使命は貴方にしか果たせないモノではないのですか?」

慎二「それは……」

須磨子「今の貴方なら大丈夫です。ゆきなさい。それが、貴方の使命ですよ」

慎二「っ……」



麻子「間桐先輩っ!?」

セイバー「ライダーのマスターが何故ここに……!?」


桜『慎二……。お前、何をしに来た?』


慎二「よォ爺さん。ライダーを失って聖杯戦争は負けちゃったよ」

慎二「それからは大変さ。お節介なヤツらに説法を聞かされて嫌になるよ」

慎二「でもさ、僕としてはこのまま言われぱなしってワケにはいかないんだよねぇ」


桜『何を、言っておる……』


慎二「だからさァ……。こうするんだよォ!!」


ガシッ、ガシッ


麻子「そんな……!!」

真由子「せ、先輩っ!!」


慎二「ぐっ、ぐああああーーーー!!!!」



キリオ「だ、駄目だよ!! お兄ちゃん!!」

キリオ「念の流れに急に入るなんて危険すぎる!!」

キリオ「今、威颶離を解除するから、それから……!!」


慎二「や、やめろクソガキがァ……。術式を解除したら、また発動するには時間がかかる……」

慎二「回路がなくて魔術を教えてもらえなかった僕だって、それぐらい知ってるんだよねぇ……」


麻子「で、でも間桐先輩、手が……」

真由子「あ、あぁ、ボロボロに……」


慎二「ぐっあっ……。中村、井上、今回は他の女子と違って僕の誘いを断らないでくれよ……」

慎二「まぁ今回ばかりは、この手を跳ね除けられても放す気はないんだけどさ」


麻子「先輩……」



桜『慎二。貴様は自分が何をしておるのか、分かっておるのか?』


慎二「まぁね……。そろそろいいだろ爺さん。そいつさ、解放してやってよ」


桜『なっ……に……』


慎二「あぁ今更だろ、分かってる。だから助けに来たなんて言わないさ」


桜『う……ん!? い、意識が……小娘に……!?』


慎二「……桜。そこで聞いてるのかよ」


桜『こ、こんな力……どこに……』


慎二「別にさ、今まで僕がやったことを謝って許してもらえるなんて思っちゃいない……」

慎二「がはっ……。でも……、これぐらいはやらせろよ……」


慎二「今更だけど……。これが僕の『使命』らしいからさ」


桜「に……兄、さん……」



臓硯「意識を取り返された……。今まで、こんなことは……」


とら「ひゃーはっはっはっはっーーーー!!!!」


臓硯「な……!?」


とら「おいイズナ。新顔の若僧に教えてやんな」

イズナ「へへっ、そうだなァ長飛丸。変化でも妖なら知っておかなきゃなァ」


臓硯「何を……」


とら「妖の世界にはわしより、もーっと怖えモンがあるのよ」

イズナ「それは妖怪なら名前を聞いただけで震え上がる妖器物(バケモノきぶつ)……」


イズナ「獣の槍よォ!!」


臓硯「っ……!?」




うしお「よし、これなら……」

凛「もう大丈夫よ」





臓硯「……魔力供給が整った程度で何を粋がっておる」

臓硯「貴様らはわしの本体に攻撃出来ん」

臓硯「わしが小娘の心臓にとり憑く限り、貴様らは何も出来ずに嬲られるだけじゃ」

臓硯「行け蟲ども。もう目障りじゃ、そやつらを始末しろ……!!」


蟲「…………」カサカサ


臓硯「どうした……?」


蟲「…………」カサカサ


臓硯「何故、蟲どもが言うことを聞かん……」


蟲「……!!!!」カサカサカサカサ


臓硯「な、何をしておる……。心臓から本体を切り放そうとしておるのか!?」


臓硯「何故じゃ!? 何故蟲が勝手に……!?」




とら「けけけ……。ほーら、来た来た」


とら「妖の苦手で怖えモンをよ、槍が連れてきたぜえ」




??『長生きしすぎてボケたんじゃないか吸血鬼』

??『その蟲を扱えるヤツは、他にもいたじゃないか』




臓硯「き、貴様はっ……!?」




雁夜『他ならぬアンタが、オレにくれた能力だろ?』





臓硯「雁夜っ!? 貴様は前回の第四次聖杯戦争のときに死んだはず……」

臓硯「こんな場所にいるはずが……!!」


雁夜『あぁそうだな。それでも呼び出してくれたみたいだ』

雁夜『あの宝具が』


臓硯「宝具……。あの槍の、宝具としての能力か……!!」

臓硯「そうか遠坂の小娘、魔力供給は真の能力を開放するための……!!」


凛「雁夜、おじさん……?」


雁夜『凛ちゃん、オレがヤツを抑えてる間に本体を倒してくれ』

雁夜『この宝具の力がどれだけ持つかオレには分からない。頼む、早く……!!』


雁夜『桜ちゃんを、救ってくれ……!!』


うしお「おじさん……。よし、分かった!! 遠坂先輩!!」

凛「えぇ、もちろんよ!!」


イズナ「オレもこの蟲は見飽きたぜい。そろそろおいとましてえなァ長飛丸」

とら「その意見にゃ賛成よ。うしお!! りん!! 決めちまいなァ!!」



うしお「遠坂先輩、髪が伸びて……」

凛「私もここまで伸ばしたことないから、自分でも少し新鮮ね」

うしお「ははっ、似合ってるよ」

凛「もう……。気を失ってるときにね、槍のなかで二人と話したわ」

凛「私も憎しみだけで戦わない。だからきっと、本当に選んでくれたのね」

うしお「そうか。うん、それならよかった」


臓硯「か、身体が動かん……。蟲も、動かせん……。雁夜ァ、貴様ァ……!!」


凛「間桐臓硯、終わらせてもらうわよ」


臓硯「遠坂の小娘、何故そんな顔が出来る……。貴様はわしが憎くて仕方がないはず……」


凛「ええ、そうだったわ。でも不思議よね、何故だか今の私はアンタを憎んでないのよ」

凛「今はただ、アンタを桜から一刻も早く追い出したいだけ」


臓硯「そんなはずはない……。人間など、理想など、あるはずが……」


凛「そうか……。アンタも魔術師だったんだから、不老不死を目指す前が……」

凛「可哀想ね、間桐臓硯」



雁夜『これだけ心臓から引き離せば……。凛ちゃん!!』




凛「蒼月くん!!」

うしお「あぁ!!」


うしお「おおおおおお!!!!」


うしお「間桐臓硯!! 桜姉ちゃんから!!」

凛「桜から……!!」


「出て、行けええええーーーー!!!!」




臓硯「わしの聖杯……望み……き、消え……」




臓硯(……無念よ……だが、これで、やっと終わ……)





雁夜『そうか……。あの少年が、蒼月紫暮の息子……』

雁夜『参ったな。親子ともども世話になってしまったワケか』


桜「雁夜おじさん……」


雁夜『あぁ桜ちゃん。良かった、もう大丈夫みたいだね』

桜「おじさん!!」

雁夜『いや、おじさんは駄目なんだ。桜ちゃんを抱きしめることは出来ない』

雁夜『あの少年の父親が止めてくれたが、オレは色々間違ってしまったからね……』


雁夜『でも本当に良かった』

桜「え……?」

雁夜『覚えてるかな。もう遠い、遠い夜にした約束を……』

桜「あっ……」

雁夜『あの約束だけは、桜ちゃんを助けたいって願いだけは、本当にオレの望みだったから……』

雁夜『だから、あの宝具の槍が応えてくれたんだと思う』

桜「おじさん……」

雁夜『あぁ、おじさんは、もう行かないといけないみたいだ』

桜「そんな、雁夜おじさん……」

雁夜『それじゃ、凛ちゃんと仲良く、元気で』

桜「最期にこれだけ……」


桜「ごめんなさい雁夜おじさん。……それと、ありがとう」



桜「う……ん……」

凛「桜……?」


桜「姉さん……」


凛「桜っーー!!」




麻子「えいっ」

うしお「いてっ、麻子、なにすん」

麻子「おかえり」

うしお「……おう」

真由子「ふふ」


真由子「あれ……? 間桐先輩は……?」





・蒼月家正門


「会わなくていいのか?」


慎二「チッ……。また光覇明宗かよ……」


日輪「大事な妹なんだろ?」

慎二「誰があんなグズでノロマ。僕には妹なんかいないんだよね」


杜綱「相変わらずの口ぶりだね間桐慎二くん」

慎二「も、杜綱さん……」

杜綱「病院を抜け出した君を、町中探す私たちの身にもなってもらわないと」

杜綱「これは紫暮様に報告かな」

慎二「お、おい待ってくれよ。蒼月のオヤジに言うのはなしだ杜綱さんっ」

日輪「クク、かなり紫暮様に絞られてるみたいね」

慎二「ああ? この女、いつもいつも気に障るんだよ!!」

日輪「土剋水っ!! 何度言えば分かる、私は関守日輪だ馬鹿者!!」

慎二「いってぇっ、こっちはボロボロの病人だぞ!?」

杜綱「それだけ元気なら大丈夫そうだ」



杜綱「しかし、まさか臓硯の本体が間桐桜さんにとり憑いてたとはね」

日輪「お前は良かったのか? お前にとっては間桐臓硯は……」

慎二「…………」


慎二「不老不死には程遠くても、長生きはしたんじゃないの」


杜綱「そうか……。今回は君に助けられたな。さ、早く病院に戻ろうか」

慎二「あぁ、そうしたいね」


日輪「そうだな。お前には早く退院してもらわないと困るからな」

慎二「は……? どういう意味?」


杜綱「君には、やってもらいたい事があるということだよ」





【第二十一話 うしおとセイバーの縁『全て遠き理想郷』 】



・蒼月家蔵


うしお「悪いなセイバー、蔵の寄贈品の整理なんて手伝ってもらってよ」

セイバー「いえ、マスターが聖杯戦争に専念出来るようにするのもサーヴァントの務めです」


セイバー(……あれから数日、サクラの体調は良好だ)


セイバー(アサコたちは、リンとサクラが姉妹だという話を聞いたときは驚いたようだった)

セイバー(しかし、彼女たちの人柄の良さか今は既に馴染んでいる)


セイバー(それに他サーヴァントの襲撃もなければ、気配も感じられない)


セイバー(穏やかな日々が続いている……)



桜「イズナさん、本当にありがとうございましたっ!!」

ムギュ

イズナ「はっー、イイってことよォ~」

とら「イズナ、なーにニヤケてんだよ……」


セイバー「次は私の番ですサクラ!!」

イズナ「えっ?」

セイバー「この肌触り……なかなか……」

ギュ

イズナ「…………」

セイバー「ん? 先ほどと反応が違いますね。抱き方を間違えましたか」

イズナ「い、いや、そんなことはねえぜい……」

とら「イズナ……おめえ……」



おんじ「うーむ……。聖杯戦争、ねぇ……」

とら「なんだじじい。まーだ信じてねえのかよ?」

おんじ「説明されても信じられんわい」

イズナ「ま、そりゃそうだ」

おんじ「人間は土に帰るが妖怪は違う。その土からさえ帰ってくるのが妖怪じゃ」

おんじ「それには長ーい時間がかかる。だが、長飛丸はここにおる」

おんじ「あーあ、信じるしかないかの……」

イズナ「クク、確かに消えてもすーぐ戻ってきて同じ人間にとり憑くヤツなんて聞いたことねえや」

とら「ああ!? イズナ、そりゃわしのことじゃねえだろうな!?」

おんじ「イズナはどうするんじゃ、わしは鏡に帰るぞ」

イズナ「オレは久しぶりにこっちに来たから暫く厄介になるぜい」

とら「チッ、いつもの観光まじりかよ」

イズナ「いやあ、久しぶりにうしおと長飛丸の漫才が見たいのさ」

とら「イズナァァァァーーーー!!!!」

イズナ「おっと、オレは焼かれんうちにズラかるぜ~~!!」


おんじ「長飛丸に土に帰されそうなことをようやるわい……」



うしお「おんじ、本当にサンキューな」

おんじ「今回だけだぞ蒼月潮。本来、妖怪と人間は」

セラ「おんじ様、ありがとうございました」

おんじ「だから妖怪と人間は」

リズ「おんじ、またね」


おんじ「…………」パリンッ


おんじ「妖怪と人間は手を取り合ったりしねーの!!」



とら「ったく、うるせーヤツが増えやがったぜ」

ぱく、もぐもぐ、もぐもぐ

イリヤ「トラ、それなに?」

とら「ああ? なんだよおめえも『はんばっか』知らねーのか」

イリヤ「ハンバッカ……」

とら「おいマユコ。まだあるんだろ?」

真由子「はう。とらちゃん、もうハンバーガーないよ」

とら「なら仕方ねーな。食いたきゃ買いに行きな」

イリヤ「ハンバッカを買いに?」

とら「あぁ、わしも前に知り合いの妖と町に買いに行ったことがあるぜ」

真由子「えっ!?」

セラ「いけませんお嬢様!!」

セラ「お嬢様の食事は栄養バランスもカロリー計算も含めて、全て私が完璧に管理してるのです!!」

セラ「ハンバーガーなど買いに行かせませんよ!!」

イリヤ「セラ、うるさすぎ……」


イリヤ「ねぇキリオ。今度二人でハンバッカ食べに行くわよ」コソコソ

キリオ「え、えぇっ、それって、デー……」


真由子「とらちゃんが私の知らないところでデートしてた……」

とら「なに言っとんだマユコ……」



うしお「桜姉ちゃん、間桐先輩は?」

桜「間桐の家には帰ってないみたいでした」

うしお「そうか……」

凛「アイツに借りがあるなんて、ちょっと癪だけど」

凛「中村さんたちの話を聞くとそうも言ってられないわね」

うしお「あぁ、今回は間桐先輩に助けられたんだ。でも先輩はどこに……」

桜「大丈夫だと思います」

うしお「桜姉ちゃん……?」


桜「兄さんも間桐なんですから、必ずあの家に帰ってきます」


桜「私はそう思います」


凛「そうね。アイツに限ってこのまま消えるなんてないでしょ」

うしお「あぁ、それならそのときに今回の礼を言うさ」



凛「うしおくーん!!」

うしお「り、凛、姉ちゃん……。こ、これでいいのかい?」

凛「ちょっとまだぎこちないわねぇ」


桜「蒼月くん、姉さん、これはどういうことですか……?」


うしお「桜姉ちゃんっ!?」

凛「あぁ桜、そろそろ呼び方を変えようと思ったのよ」

凛「もう蒼月くんとの同盟関係も長く続いてるんだし、遠坂先輩って呼び方は余所余所しいでしょ?」

桜「それで、姉さんを、お姉ちゃんと……」

凛「桜が桜お姉ちゃんなら、当然、姉の私も凛お姉ちゃんでしょ」


うしお(桜姉ちゃんは間桐先輩がいたからそう呼ぶようになっただけで遠坂先輩は別にいいんじゃ……)


凛「とにかく、同盟関係を円滑に進めるためにも呼び方は重要なのよ」

凛「だから私も蒼月くんをうしおくんって呼ぶことにしたしね」

桜「え……」

うしお「それは別にいいぜ。みんなそう呼んでるしよ」

桜「なっ……!?」

凛「あら桜、どうしたの?」

桜「……もう我慢出来ません……。姉さん、お話があります……」

凛「ふふ、いいわよ。どこにする。広い場所がいいわね、本堂でも行く?」

うしお「え……?」

桜「本堂は私と照道さんが掃除をしたばかりです……。境内にしましょう……」

凛「オッケー。それじゃ行きましょうか」


うしお「えっと、話し合い、なんだよな……?」



・蒼月家蔵


うしお「また手伝ってもらってすまねえな、セイバー」

セイバー「いえ、気にしないでくださいウシオ」


セイバー「ん……。ウシオ、あれはなんですか?」

うしお「え? どれのことだい?」

セイバー「その一番奥にある、その、この蔵には不釣合いなアタッシュケースです」

うしお「アタッシュケースゥ……?」

うしお「そんな大層なモンはウチの蔵にはねえさ」

うしお「ここにはお祓いを頼まれた変なものと、ムシぼしが必要な古本ぐらいだぜ」

セイバー「いえ、そこにあるではないですか、大きなアタッシュケースが」

うしお「え……?」

セイバー「……?」

うしお「ははっ、なんだよ、セイバーが冗談言うなんて珍しいなァ」

セイバー「なっ……」

うしお「まぁ確かに、こんな古い蔵の整理なんて冗談の一つでも言いたくならァ」

セイバー「ウ、ウシオ……?」

うしお「よっと、オレはこの古本を外に出してくるから、セイバーは休んでてくれよ」


セイバー「ウシオには、見えてない……?」



セイバー「認識阻害の魔術……」


セイバー(リンに報告を……。いや待て、他サーヴァントが仕掛けた罠の可能性も……)

セイバー(……それはないか。こんな場所に仕掛けて効果があるとは思えない)

セイバー(それになにより、私はこれに見覚えがある気がする……)


ガチャ


セイバー「……………………」


セイバー「……そうか。これを、貴方は……」


セイバー(前回の聖杯戦争の私のマスター、衛宮切嗣……)

セイバー(キリツグ、私は『あの後』なにがあったのか知らない……)

セイバー(しかし貴方は当時協力関係だったウシオの父、シグレにこれを託したのですね)


セイバー(謎が解けた……)

セイバー(魔術師ではないウシオが私を召喚出来たのは、この蔵に私の聖遺物があったから……)


セイバー(マスターとサーヴァントの境遇で召喚したのではない……)




セイバー(私とウシオは違う……。私は、国を救ってなどいないのだから……)





・蒼月家居間


セイバー「それで、その、ピクニックというのは……?」

凛「そうね。簡単に説明すると綺麗な景色の場所に行って、お弁当を食べたり遊んだりすることかしら」

セイバー「なるほど……。専門的な言葉かと思いましたが、理解しました」

セイバー「しかし私たちは聖杯戦争の最中なのです。そんなことをしている時間はありません」

セイバー「ここ数日、敵サーヴァントの気配がないことから気が緩んでいるのではないですか?」

うしお「そんなつもりはねえけどさ……。セイバー、なにかあったのかい?」

セイバー「いえ、別に……。しかし何故いきなり、そのピクニックを?」

うしお「あぁ、よく分からねえけど麻子がどうしてもセイバーにお礼がしたいとか言ってよ」


セイバー「アサコが……」


セイバー(初めて会ったときの、騎士の誓いか……)

セイバー(残るサーヴァントはランサーとあの男……。聖杯戦争も終盤、こんな機会はもう……)


セイバー「……分かりました。ピクニックに行きましょう」



イリヤ「はいはいはーい!! 私たちもピクニック行くーー!!」

キリオ「イリヤ!?」

イリヤ「キリオも行くでしょ?」

キリオ「う、うん、行くよ」


リズ「もちろん私たちも、行く」

セラ「それではピクニックの準備を始めましょう」

凛「ええ、そうね。まずはお弁当を作らないと。桜、手伝って」

桜「はい姉さん。美味しいお弁当を作りましょう」


イズナ「なんだか楽しそうなことになってきやがったみたいだな」

イズナ「長飛丸~! オレたちも何か美味いモン作ってもらおうぜー!」

とら「妖が人間の食いモン欲しがってんじゃねえや!!」



・海浜公園


とら「おいマユコ。妖はな、人間の食いモンなんか」

真由子「じゃーん、このケーキ私が焼いたんだよ~」

真由子「とらちゃん、私が前にケーキも焼いてあげるって言ったの覚えてる?」

とら「あぁ? そんなこともあったかよ。でもなマユコ、妖は」

真由子「はい、あーん」


パクッ、もぐもぐ


とら(相っ変わらず話を聞かんヤツだ……)


イズナ「おっ、タマゴのサンドイッチか。一つ貰うぜい」

セラ「タマゴが好きなのですか?」

イズナ「おうよ。それにこいつを混ぜて飲むお蕎麦がまたいいんだよなァ」

リズ「イズナ、人間くさい」



少年「そっち行ったぞーー!!」

少年「よし、次はオレだ~~!!」


セイバー「…………」

麻子「セイバーさん?」

セイバー「アサコ、あの子供たちは何をしてるのですか?」

麻子「え? あぁ、あれはサッカーですかね」

セイバー「サッカー……」

麻子「まぁゴールがないから、ただボールを取り合ってるだけみたいですけど」

セイバー「なるほど、あの球体を奪い合っていると……」

麻子「もしかしてセイバーさん、興味あります?」

セイバー「……少し」

麻子「それなら私たちも入れてもらいますか。おーい!!」


少年「ん?」


セイバー「し、しかしアサコ」

麻子「きっと見ているより楽しいわ。だから行きましょ、セイバーさん」

セイバー「……そう、ですね。ええ、望むところです」



イリヤ「キリオ、次はブランコね!!」

キリオ「ちょ、ちょっと待ってよイリヤ~~!!」


凛「うしおくん、もちろん私のお弁当のほうが美味しかったでしょ?」

桜「私のお弁当のほうが美味しかったですよね、うしおくん?」

うしお「い、いやァ、えーと、どっちもウマかったっていうか、その」


麻子(なにようしおのヤツ、凛先輩と桜先輩にデレデレしちゃって……)


少年「ねーちゃん、ボール見つかったー?」

麻子「えっ、あぁ、あったわよ」


麻子(私のお弁当には美味しいなんて言ってくれなかったくせに……)


麻子「あの……あの……馬鹿ァーー!!」


セイバー「ア、アサコ!?」

少年「ねーちゃんどこ蹴ってんだよーー!!」

麻子「ご、ごめーん!!」



うしお「どっちかなんて決めれねえよォーー!!」


セイバー「……なるほど。そういうことですか」

麻子「セ、セイバーさん……」

セイバー「そうではないかと思っていましたが、やはりそうなのですねアサコ」

麻子「……私って、そんなに分かりやすいですか?」

麻子「よくクラスメイトにもからかわれるんですよね……」

セイバー「いいではないですか。アサコ、貴方は素晴らしい人柄をしている」

麻子「ええ? そんなことは……」

セイバー「先ほど、あの子供たちに自然に混ざっていったのを見ても確信しました」

麻子「それはただ私が子供っぽいだけのような……」


セイバー「いえ……」


セイバー「私も、アサコのように輪に入ればよかったのかもしれません」



麻子「セイバーさんが、私みたいに……?」

セイバー「はい。貴方のような人物なら、きっと……」


セイバー(……そう。私より相応しい王がいるはずだ。国を救う王が……)


麻子「なに言ってるのセイバーさん、そんなの駄目よ!!」

セイバー「えっ?」

麻子「私なんて短気でがさつで、英雄になんて絶対なれないわ!!」

セイバー「いえ、そんな」

麻子「えっと、そうだわ。消防士さんは火を消せるでしょ、パン屋さんはパンを作るのよ」

セイバー「は、はぁ……」

麻子「でもパン屋さんが消防士さんになろうとしたら大変よ。パンがなくなって消防士さんは腹ペコなの」

セイバー「腹ペコは、一大事ですね……」

麻子「そうでしょ!?」

麻子「あれ、こんな話、前にも……。と、とにかくセイバーさんだからセイバーさんなのよ」

セイバー「それは……」

麻子「なに言ってるんだ私……。だから私が言いたいことはねえ」

麻子「セイバーさんがセイバーさんだから、英雄のセイバーさんなのよ!!」


セイバー「私が……私だから……」





遠い誓いを、思い出した





うしお「あれ、セイバー?」

セイバー「……ウシオ」


セイバー「リンとサクラからは解放されたのですか?」

うしお「えっ、あ、あぁ、なんとかな……」


うしお「セイバーのほうは何をしてたんだい?」

セイバー「この公園の地形を把握するために歩いていました」

セイバー「この場所で戦闘になることがあるかもしれませんから」

うしお「ピクニックでもセイバーは相変わらずだなァ。あっ、そうだ!!」

セイバー「ウシオ?」

うしお「一緒に来てくれセイバー。オレのとっておきの場所に案内するぜ」



・夕暮れの高台


セイバー「これは、凄いですね。この町を一望出来る。こんな場所があったとは……」

うしお「地元の人間ぐらいしか知らない場所さ」

セイバー「なるほど。ここがウシオのとっておき、ですか」

うしお「ははっ、ガキん頃は近所の公園のジャングルジムやここがオレの特等席だったからよ」


うしお「おっ、見ろよセイバー。夕日が綺麗だぜ」


セイバー「…………」


セイバー「……ウシオ。一つ聞いてもいいですか?」


うしお「ん? なんだい?」

セイバー「聖杯を……いや、聖杯でなくてもいい」


セイバー「もし今、どんな望みでも叶うとしたら貴方は何を望みますか?」


うしお「あぁ、もしもの話かい? そうだなァ……」



セイバー(私は確かめたい……)

セイバー(もし万が一、貴方が聖遺物ではなく私との境遇の一致や相性で召喚したのなら……)


うしお「そりゃオレだって欲しいモンはあるさ。あの画材セットにあの筆もいいよなァ」

うしお「あ、でも画材いれは麻子がオレの名前の刺しゅうが入った袋をくれたし、うーん……」


セイバー(ウシオ、貴方なら私と同じ選択をするのではないですか……?)


うしお「オレなら何を望むかなァ……」




セイバー「あの戦いを……」




セイバー「あの旅を、なかったことにしたいとは思いませんか?」




うしお「え……」





セイバー「貴方はトラと出会い、様々な人間や妖怪と戦っていった」

セイバー「その戦いの旅のなかで貴方は沢山のものを失ったはずだ」

セイバー「そして白面という巨大な妖怪。この国の一学生だった貴方が背負うには重すぎる運命だ」

セイバー「一度でも考えたことはありませんか? いや、あるはずだ!!」


うしお「セイバー……?」


セイバー「あのとき、獣の槍を抜かなければ……」
(選定の剣を抜かなければ……)


セイバー「トラに出会わなければ……」
(私が王にならなければ……)


セイバー「もっと自分には、より良い未来があったのでないかと!!」
(私より相応しい王が、あの国をより良い未来に救済してくれる!!)


うしお「セイバー……」



セイバー「ハッ、す、すみません。私は何を言って……」

うしお「いや、いいんだ」

うしお「セイバーの言うとおりさ。一度なんてもんじゃねえ、何度だってあるよ」

うしお「後悔だってした。あの時もっと周りを見ていたら、もっと飛び込んでいたらって」


セイバー「それなら……」


うしお「確かにつかめなかったモンは沢山あるよ」

うしお「でもよ、あの旅をなかったことには出来ねえよ」

うしお「あの旅があったから、何も知らなかったオレが少しはマシになったんだ」


うしお「オレとアイツの旅は無駄じゃなかった。オレはそう思ってる」


セイバー「ウシオ……」


うしお「それに決めたんだ」


セイバー「決めた?」


うしお「あぁ、もう誰もこぼさねえって」

うしお「そう決めたからには、なかったことになんて出来ねえさ」


セイバー「決めた……」





決めた


戦うと決めた


胸に抉られた一つの言葉


何もかも失って、みんなに嫌われることになったとしても


たとえその先に、避けえない、孤独な破滅が待っていても


それでも戦うと決めた、王の誓い




遠い誓いを思い出した





うしお「まぁ、それによ……あれだ……その……」

セイバー「ん?」


うしお「アイツに出会わなかったらなんて、もう考えられねえや」


セイバー「……なるほど。いえ、そうですね」

うしお「でもそれはセイバーもだぜ」

セイバー「私も?」

うしお「全部なかったことになんてしたらセイバーとも出会えないかもしれないだろ?」


うしお「オレはそんなの、やーだね」


セイバー「貴方は……」


セイバー「それは私もだ。ウシオ」


うしお「ははっ、それなら良かったぜ」



とら「やーっと見つけた。こんなとこにいやがったかよ」

うしお「とら!?」

とら「おめえのアホ面が見えねえからリンが探しに行けってウルセーのよ」

うしお「なにをとらァ!! 誰がアホ面だァーー!!」




貴方たちに出会って、思い出した


無駄ではない。私の戦いもそうだ


斬り伏せた者も散っていった者も、無意味などではない


私も、私の戦いに胸を張れる




とら「おい剣使い、なにやってやがる。行くぜ」

うしお「セイバー、みんなが心配してるらしいんだ。さ、行こうぜ!!」




その道が正しかったと、今までの自分が間違ってなかったと信じている


王は国を守った、けれど国は王を守らなかった、ただそれだけ


私の結果は無残だったけれど


その過程に一点の曇りもないのなら、それは……




セイバー「はい、マスター」





・海浜公園


うしお「それじゃ遠坂せ……」

凛「ん……?」

うしお「り、凛姉ちゃん、この公園の対岸にサーヴァントが?」

凛「よし。ええ、とらが感じたって言うからには間違いないでしょ」

凛「敵サーヴァントが近くにいるのにうしおくんもセイバーもいないから心配したのよ?」

うしお「ごめん、急にいなくなったのは謝るからさ」

凛「まったく……。それで、セイバーはどう?」

セイバー「……はい、いますね。ランサーかあの男かまでは分かりませんが」

凛「こちらを誘ってるってことかしら?」

セイバー「いえ、本当にただこちらを見ているだけ、といった感じです」

凛「見てるだけ? 逆に不気味よそれ……」

とら「罠だろうが関係ねえな。槍使いでもあの金色野郎でも借りがあるのよ。わしは行くぜ」

凛「ちょっと待ってよとら。もうすぐ日も落ちるし桜たちもいるのよ。戦闘は許可しないわよ」

とら「チッ……。しかしいいのかよりん、今は敵の手がかりがなーんもねえんだぞ?」

凛「それは……」



セイバー「トラの言うとおりだ。ようやく掴んだ敵の尻尾。このまま逃がしたくはない」

うしお「セイバーには何か考えがあるのかい?」

セイバー「ウシオとリンは、アサコたちを連れて先に帰宅してください」

セイバー「敵サーヴァントは私とトラで追います」

とら「ああ!? なんでわしがおめえと!!」

凛「それじゃ私たちの護衛が……」

セイバー「ウシオの家にはリンやイリヤの結界があります。いざという時は令呪もある」

うしお「そう、だな。それに、このままウダウダして夜になったら敵の思う壺かもしれねえ」

凛「……分かったわ。でもあのサーヴァントが陽動や罠だったら即時撤退すること」

セイバー「了解です」

凛「いいわね、とら?」

とら「けっ、分かったよ」



・蒼月家居間


うしお「…………」

凛「うしおくん、立ってないで座ったら?」

うしお「え? あ、あぁ……」

凛「そんなにセイバーが心配?」

うしお「そりゃまぁね」

凛「そっか。うしおくんとセイバーは魔術の繋がりがないから不安になるわよね」

うしお「あぁ、でもセイバーが強いのは知ってるさ、それでもさ」

凛「大丈夫よ。私ととらは繋がってるから分かるの。戦闘にはなってないわ」

うしお「ってことは逃げられたのかな?」

凛「どうかしら。帰ってきたみたいだから直接聞きましょ」



とら「けっ、面白くねえぜ」

凛「どうだったの?」

とら「それが分からねえのよ。あの逃げ足の速さなら槍使いか、それとも……」


うしお「とら、セイバーはどこにいるんだ?」


とら「剣使い? わしが知るかよ」

凛「は……?」

とら「臭いが途中で分かれて二手になったからな」

凛「なっ……。それじゃセイバーは今一人で……」


うしお「セイバー…………」

ダッダッダッ


凛「ちょ、うしおくん……!?」

とら「なんだよ、剣使い帰ってねえのか」

凛「とらァ!! なんでセイバーと一緒に行動してないのよ!!」

とら「こっちも事情があったのよ仕方ねーだろ!!」

凛「このアホとら……。さっさと追いかける!!」

とら「はあ!? なあんでわしが」

凛「令呪をもって命ず」

とら「ば、馬鹿やめろ!! 分かった、分かったよォ!!」



・海浜公園


セイバー「…………」


??「どうしたセイバー」


セイバー「…………」


??「我(オレ)がわざわざ出向いてやったのだ。いつまでも黙っているのは無礼であろう」


セイバー「…………」ダダッ


??「山のなかに逃げ込んだか。身を隠すつもり……いや……」


??「ほう、抜け道か」



・海浜公園上空


とら「ちっ、なあんでわしがこんなこと……」


うしお「とら!! しっかり飛んでくれよ!!」

とら「分かっとるわい!!」


うしお「セイバー、どこだ……」


うしお「あっ!!」



・高台


??「フフ、逃げ込んだ先が行き止まりか。つくづく運のない女だなセイバー」

セイバー「……それは、どうかな」

??「ほう、まだ無駄な足掻きを続ける気か?」

セイバー「無駄などない。これまでの日々も、そして今日という日も」

??「なに……?」


うしお「セイバァァーー!!」

とら「なんだよ剣使い遊んでやがったのか。わしも混ぜなァァ!!」


セイバー「ウシオ!! トラ!!」


うしお「セイバー、大丈夫なのか!?」

セイバー「はい。ウシオならここで私を見つけてくれると思ってました」

セイバー「ここは貴方のとっておきですから」

うしお「へへっ、あぁそうだぜ」



??「ここがマスターとの合流地点だったわけか」

??「いいぞ。男を誘い込むとは、女としての自覚が出てきたかセイバー」


うしお「コイツは……キャスターのときの……」

とら「金色野郎……!!」


??「これで、小僧と獣を足して三対一の形は出来たわけだ」

??「それでどうするセイバー。我と戦うか、この場で」


セイバー「それは……」

うしお「ちょっと待ってくれよ。戦うとか、その前にさ!!」

??「どうした小僧」

うしお「教えてくれよ、お前はいったい誰なんだ!?」

うしお「いや、それよりも一番聞きたいことがあるんだ」


うしお「お前が持ってる獣の槍はなんなんだ!!」


??「獣の槍、か……。ククッ……フフ、ハァーハッハッハッ!!」


うしお「っ……!?」



??「小僧、貴様は獣の槍がどう創られたか知っているな?」

うしお「あ、あぁ、知ってるよ。いや、この目で見たよ」

??「ならば槍を打った鍛冶師、その人間はどこでその製法を知った?」

とら「なんでえ、なんの話だよおい」

うしお「とら、オレは覚えてるよ。ギリョウさんとおじさんの話を」


うしお「ギリョウさんは、干将と莫耶っていう名剣の話をおじさんにしたんだ」

うしお「それでおじさんはおばさんの髪を使って、神剣を造った。でもそれは折れちまった……」

うしお「だからギリョウさんは、もうあの方法しかないって……」

うしお「暗黒の邪法、人身御供で造られた大鐘の話さ。それを造剣の師匠から聞いたって言ってた」

うしお「でも、それが何だっていうんだ……?」


??「そうか。では獣の槍の元を辿れば、その名剣や大鐘になるわけだ」

セイバー「元を、辿る……?」

??「そうだセイバー。どんな宝具も元を辿っていけば『原典』に辿りつく」

セイバー「原典だと……」


??「伝説や逸話には必ず原典が存在する。それは獣の槍も例外ではない」


うしお「それじゃお前が持ってる槍は、オレたちが知ってる獣の槍じゃなく……」

とら「獣の槍の、原典の槍とでもいうつもりかよ……!!」



セイバー「馬鹿な……。宝具の原典を持つ英雄など、いるはずが……」

??「それは早計だなセイバー」

??「最も古い時代、まだ世界が一つだったころ、全ての財はたった一人の王の物だったではないか」

セイバー「なっ、そんな、貴方は……」

うしお「セイバー……?」


??「小僧、我が誰かと聞いていたな」

??「現存する英雄の端くれでありながら王の名を知らぬとは、戯けが」


??「知るがいい、我が真名を」


??「我は人類最古の英雄王、ギルガメッシュ」


うしお「英雄、王……!?」

セイバー「ギルガメッシュ……!!」




ギル「覚悟を決めよ。この身は、人間も妖怪も敵うべくもなき英霊よ」





とら「英雄王だかなんだか知らねえが、それがどうしたってんでえ」

とら「おめえはわしの獲物を横取りしやがった」

とら「わしは、その借りを返すだけよォォーー!!」


ギル「王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)」

パチンッ


うしお「なにもない空間から剣や槍が、矢みたいな速さで……!!」

とら「ちぃぃ~~~~!!!!」

ガスッ!!

とら「ぐはっ!!」

セイバー「トラ!! 無事ですか!!」

とら「わしがこんなもんでくたばるか……こんな……な、なんだァ!?」

セイバー「これは……」

セイバー「トラに刺さった剣が、形状を変えて地面に同化している……!?」

とら「こいつァ似たようなやつをやられたことがあるぜ……」

とら「黒炎どもが使ってた妖を千年ぬいつける『千年牙』と同じやつかよ……!!」


ギル「これで分かったか獣よ。古今東西、対妖怪の宝具など幾らでもある」


うしお「あ、あぁ……。空一面に武具が……」

セイバー「まさか、これが全て、妖怪のトラに対して有効な宝具……」


ギル「言ったであろう、我は妖怪が敵うはずがない英霊だと」


ギル「クククク……。ハァーハッハッハッハッ!!!!」



とら「くそったれぇぇ~~~~!!!!」

とら「うしお!! 早くこいつを抜きやがれェ!!」

うしお「よ、よし……!!」


ギル「しかし白面を倒した英霊がこの程度か。まだ『紅煉』のほうが手応えがあったな」


とら「あんなカスと比べるんじゃねぇ……!!」

うしお「紅煉を、知ってる……!?」


ギル「戯れに遊んでやっていたが宿敵に見つかり、我から尻尾を巻いて逃げたがな」


うしお「宿敵……ヒョウさん……。それじゃ……」

セイバー「ギルガメッシュ、やはり貴様は……」


ギル「よい見世物であったぞセイバー」

ギル「白面に対峙する人間と妖怪の連合、その最終決戦はな」


とら「てめえ、あの場にいやがったのか……!!」



うしお「いや、そうだ。おかしい事じゃねえのか」

うしお「凛姉ちゃんの言うとおり、コイツが前回の聖杯戦争から生き残ってるなら……」

セイバー「ウシオとトラたちの最終決戦の場にいてもおかしくはない」

セイバー「だがギルガメッシュ、貴様が『白面の者』と戦ったのか?」


ギル「戦うだと、我があの道化と。戯けたことを抜かすな」

ギル「我が手を下すまでもない、ヤツは王の器ではなかったからな」


セイバー「王の器……」


ギル「いいだろうセイバー」

ギル「貴様も無関係な話ではない。我と白面の話を聞かせてやる」



・最終決戦、北海道上空


白面「かかかかかか!!!!」

白面「美味!! 他者の恐怖とはなんと美味なことか!!!!」


白面「獣の槍は砕け、全ての人と妖は我を恐怖している。くくくっ、もはや我に敵なし」


白面「ここがこの国の北端か。めぼしい所は焼き尽くし、ここまで来てしまったな」


白面「…………」


白面「何だ……。何かが近づいてくる」


白面「あの形状……。しかしこの速さ、自衛隊の戦闘機ではない……」


白面「そして我を恐怖しておらぬ。そのような者がまだこの国にいるのか……?」




「フハハハハハハハハハハ!!!!!!」




白面「何奴…………!?」





ギル「貴様が白面の者か」

ギル「この国の怪獣映画というのを見たことがあるが、まるでそれでな」

白面「人間では、ないな。だが妖怪でもない」

白面「一瞬で消滅させる前に聞いておこう、お前は何者だ」

ギル「クク、貴様を恐怖しない我の正体が気になるか、白面よ」

白面「見当はつく。おおかた守護者の類だろうな」

ギル「ほう、守護者を知っているのか」

白面「この国に封じられる前、我の前に幾度となく現れた」


白面「だが……」




白面「全て燃やしてやったがなァア」


ニヤァァ





ギル「面白い。我は貴様を気に入ったぞ白面よ」

ギル「特に、その眼にな」

ギル「そうだ。王である我への眼差しはそうでなくてはいけない」


白面「王か……。人間の言葉で国の君主、支配権を持つ者、それらの意味を持つ言葉だ」

白面「くっくっくっ。おかしなことを言うなァ人間でも妖怪でもない者よ」

白面「人間と妖怪の希望は砕け、この国は沈み始めている」

白面「今この国で最も強い者は我だ。ならば我を王と呼ばずなんという?」


ギル「ククッ、やはり貴様は我を愉しましてくれるな」

ギル「いいだろう、貴様の言葉に乗ってやる」

ギル「この小さな国が完全に沈んだとき、我は貴様をこの国の王と認めてやろう」



白面「我はこの国に飽いてきていた。ただ一人我を恐怖しない者よ」

白面「ならばこうしよう。この場所は北端、我は今より南下し更に蹂躙する」

白面「今度は人間と妖怪、全てを燃やし尽くして戻ってこよう」

白面「そして最後に残ったお前は、ついには我を恐怖し後悔する。くっくっくっ」

白面「我を王と認めながら上げる断末魔、それがこの国の最後を飾ることになる」


ギル「ククッ、フフ、いいぞ。それでいい。道化はそうでなくてはな」


ギル「だが、そう簡単に行くかな白面よ」


白面「何……」




白面(心なしか、人間どもの恐怖が薄らいできている……?)





ギル「白面は行ったか」


ギル「ククク、道化が。貴様は王の器ではない」


ギル「その見上げる眼で王を語るなど嗤わせる」


ギル「そして……」


ギル「貴様を恐怖していない者は、我だけではないようだぞ」


ギル「白面の者よ」






「雄ぉ鳴ぉ雄ぉ鳴ぉ雄ぉ鳴ぉ雄ぉ!!!!!!」







うしお「そんなことがあったのか……」

とら「てめえがあの場所にだとォ!!」


ギル「その後、白面は小僧と獣に倒され、我の前に戻ってくることはなかった」

ギル「賭けは我の不戦勝。いや、ヤツが戻ってこれなかったのだから完全なる我の勝ちか」


うしお「ギルガメッシュ、お前が前回の聖杯戦争の生き残りだっていうのは分かったよ」

ギル「そうだ。我は前回からこの世界に残り続けている」

うしお「でも、それならやっぱりおかしいぜ」

うしお「前回の生き残り、聖杯戦争の勝者なら聖杯で望みを叶えたんだろ!?」

うしお「なら今回の聖杯戦争に参加する必要はないじゃないか!!」

ギル「聖杯で望みを……?」


ギル「ククッ、フフ、ハハハハ!!」

ギル「セイバー、貴様、己がマスターに自分が聖杯に何をしたのか語ってないのか!!」


うしお「えっ……?」

セイバー「…………」



ギル「前回の聖杯戦争、その女は聖杯を前にして宝具を使い破壊したのだ」

うしお「セイバーがっ!?」

とら「聖杯を手に入れるために、聖杯戦争に参加してるのにかよ」

セイバー「それは……」

ギル「まったく愉しませる女だ」

ギル「その様子では、その聖杯破壊が小僧との繋がりだというのも気付いていないのだろう」

セイバー「な、に……。どういう意味だ……」

ギル「ククッ、いや、話がそれたな。小僧、我は別に今回の聖杯戦争に参加しているワケではない」

ギル「我が関心があるのはセイバーだけだからな」

うしお「セイバーだけ……?」

ギル「我は前回の聖杯戦争で、その女と婚姻することに決めたのだ」

うしお「えぇっ!? こ、婚姻って、結婚だよな……」

とら「なんだよそりゃ……」


セイバー「戯れ言はやめろ英雄王。言ったはずだ、私は誰のモノにもならないと」


セイバー「私は一人の女である前に……」


セイバー「王なのだから!!」





ギル「あの聖杯問答を乗り越え、あくまで王を名乗るか」

ギル「ならば貴様のいう王の真髄、その後ろの民を守ってみせろよセイバー」


セイバー「あぁ、望むところだ……!!」


ギル「いい気迫だ。いいだろう、こちらもそれ相応のモノで相手をしてやる」

ギル「この英雄王しか持ちえない、剣でな」


うしお「あれが剣!? いや、本当に剣なのか……?」

とら「おいうしお、わしに刺さったコイツを早く抜きな……」

うしお「とら……?」

とら「この馬鹿が分からねえのかァ!! とんでもねーのが来るってんだよ!!」

うしお「えっ!?」

とら「剣使いっ!!」

セイバー「分かっていますトラ。ですが私は引くわけにはいかない」


ギル「行くぞセイバー」

セイバー「はああああああああ!!!!」


ギル「天地乖離す開闢の星(エヌマ・エリシュ)!!!!」


セイバー「約束された勝利の剣(エクスカリバー)!!!!」





セイバー「ぐっ……。う、あぁ……!!」


ギル「味気ない。人類最強の剣がこの程度とは、相殺もまともに出来んのか!!」


うしお「そ、そんな……。セイバーの聖剣が、負けちまった……」

とら「当たり前だろうが、剣使いはりんと白いガキから魔力を少しずつ貰ってるだけよ」

とら「そんな状態で満足に宝具が撃てるかよ馬鹿剣使いがァ……」


セイバー「……ウシオ、トラ、私の後ろにいますか……?」


うしお「セイバー大丈夫なのか!?」

とら「もういい剣使い!! わしと代われェ!!」


ギル「ほう、耐えていたか。ククッ、そうでなくてはな」


セイバー「ウシオもトラも、そこにいるのですね……」

うしお「あ、あぁ、セイバーのすぐ後ろ、手の届く距離にいるよ」


セイバー「よかった。ならばそのままで……今までのように……」


セイバー「私を……私の道を、照らしていて下さい」


うしお「セイバー…………」

とら「おめえ…………」



セイバー「ギルガメッシュ、勝負はこれからだ……!!」


ギル「立ち上がるかセイバー。国のため、民のため、それが貴様の道か」

ギル「未だ分からないようだな、王にとって国とは己のモノに過ぎないことが」

ギル「そんな事だから騎士王よ、貴様は国によって滅ぼされたのだ」


セイバー「あぁその通りだ。だが英雄王よ、そんな事だから貴様は国を滅ぼしたのだ」


ギル「減らず口を……」

ギル「しかしそこまで言うのなら次も耐えれるな、セイバーよ」


セイバー「…………」


ギル「天地乖離す開闢の星(エヌマ・エリシュ)!!!!」


うしお「セイバァァァァ!!!!」

とら「剣使い…………!!!!」







その道を信じている


太陽と月が照らす私の道は


間違ってなかったと信じている


結果は無残でも


その過程に一点の曇りもないのなら


それは……


それこそは……




セイバー「全て遠き理想郷(アヴァロン)!!!!」





ギル「な、に…………!?」


とら「こ、こいつァなんだァ!?」

うしお「あのギルガメッシュの攻撃をセイバーが防いでる!?」

うしお「あれもセイバーの聖剣の力なのか……!?」

とら「いや違うぜ、ありゃ剣じゃねえ……!!」


ギル「アヴァロン、何ものにも侵害されぬ究極の護り、それこそが貴様の真の宝具……」

ギル「伝説の聖剣の鞘の力か……!!」


ギル「憎らしい女だ。そうまで我に刃向かうか、それが貴様の答えかセイバー!!!!」


セイバー「あぁそうだギルガメッシュ」


セイバー「貴様のいう王の器ではない、ライダーの語った覇道でもない」


セイバー「だが、これこそが私の理想…………」


セイバー「私の夢…………」




セイバー「私の……王道だ!!!!!!」







ギル「世迷言をォォーーーー!!!!」




セイバー「ぐっ…………くぅ…………!!」




パシィッ、ガシッ


うしお「負けるなセイバァァーー!!!!」

とら「そんな野郎に負けるんじゃねえ剣使い!!!!」




セイバー(あぁ……。感じる、私が守りたいもの、その温かさを……)




セイバー「はああああああああ!!!!」


セイバー「約束された勝利の剣(エクスカリバー)!!!!」







「アーサー王……?」




ああ……


確かに感じる


この木漏れ日の向こうに


貴方たちの温かさを……




「……見ているのですか、アーサー王」




「夢の、続きを…………」





セイバー「ハァ、ハァ…………」


うしお「セイバー大丈夫か!?」

セイバー「はい、なんとか……」

とら「あの金色野郎をやったのかよ?」

セイバー「いえ、逃げられました」

セイバー「おそらくギルガメッシュのあの宝具は大量の魔力を消費するのでしょう」

うしお「そうか、魔力が低下したからとらに刺さった剣も消えたのか」

とら「けっ……!!」

とら「おい剣使い、わしは借りだなんて思っとらんからな!!」


セイバー「いや、借りが出来たのは私のほうだ」


とら「ああ?」

うしお「セイバー?」




セイバー(やっと見つけた、私の答え……)




セイバー「帰りましょう。ウシオ、トラ」

うしお「あぁそうだな」




セイバー(貴方たちのおかげだ)




セイバー「お腹が空きました」

とら「ったく、おめえはいつもそれだな」

セイバー「む……。トラに言われたくはない!!」

とら「ああ!? やんのかァ!?」

うしお「もう夜中だぞ静かにしろい!!」




セイバー(ウシオ、トラ、ありがとう)





・潮の部屋


うしお「白面とギルガメッシュ、か……」


うしお「なんだか眠れねえなァ」


うしお「あれ……」


うしお「セイバー……?」





・蒼月家蔵


うしお「セイバーも眠れねえのかな」


うしお「でも、だからってこんな夜中に蔵の整理なんか……」


うしお「おーい、セイバー」


うしお「蔵の整理を頼んだのはオレだけどよ、なにもこんな、あれ……?」





・蔵地下室


うしお「なんだセイバー、ここにいたのかい」

うしお「ここには何もねえぜ。いや、それよりもう遅いし」




セイバー「問おう、貴方が私のマスターか」




うしお「えっ……?」




セイバー「問おう、貴方が、私のマスターか」




うしお「…………」




うしお「……うわああああ!!」


うしお「なんだなんだ姉ちゃんなんだ!?」





セイバー「やれやれ、前回は無口な男だったが今回は騒がしい少年か」

セイバー「だが、サーヴァントセイバー、召喚に従い参上した」


うしお「サーヴァント、セイバー……」


セイバー「我が真名はアルトリア・ペンドラゴン」

セイバー「問おう、我がマスターの名を」


うしお「オレの名前は、蒼月潮さ!!」


セイバー「ウシオ、これより我が剣は貴方と共にあり、貴方の運命は私と共にある」

うしお「運命か……。負けたくねえぜ、オレは」

セイバー「この聖剣に誓って、我は貴方の勝利を約束する」


セイバー「ここに、真の契約は完了した」




セイバー「…………」

うしお「…………」




セイバー「フフ……」

うしお「ふ、ふふ……」


うしお「あはははははは!!!!」





うしお「はははっ、どうしたんだよセイバー、急にこんなこと」

セイバー「フフ、すみませんウシオ。貴方が私の後ろについて来ていたのに気づいて、つい」

うしお「いやいや、いいんだけどさ。昔とらと似たようなことやったしよ」

セイバー「トラと……。なるほど、ここはそういう場所なのかもしれませんね」

うしお「でも、なんで……」

セイバー「あの日、ランサーの襲撃がなければこうなる予定だったのです」

うしお「そうか、あのときは大変だったもんなァ」

セイバー「それに……。貴方には知っておいてもらいたかった、私の真名を」

うしお「真名、セイバーの本当の名前……」

セイバー「はい」

うしお「アルトリア・ペンドラゴン……。アルトリアかァ……うん……」


うしお「いい名前だな、アルトリア!!」

セイバー「っ……」


セイバー(まったく、確かにこれではアサコも怒るわけだ……)





うしお「それじゃ今度からはアルトリアって呼んだほうがいいのかい?」


セイバー「……いえ、残りサーヴァントが少ないとはいえ、それは敵に正体を晒すことになります」

セイバー「それにアルトリアは過去の人間、自分の信じる王道を貫いて死んでいった王の名前です」


セイバー「今の私は貴方の剣、セイバーです」


うしお「そうか、そうだな。それじゃセイバー、これからもよろしく頼むぜ!!」


セイバー「はい、ウシオ」





【第二十二話 遠景『最後の令呪』 】



・蒼月家縁側


凛『前回の聖杯戦争の生き残り、英雄王ギルガメッシュか……』

凛『今回参加するつもりはないって言われても、あんな手出しされたら参加してるのと一緒よ』

凛『対策が必要ね……。そういえば前回の戦いなら私の家に少しは資料が残ってるかも』

凛『協会の機密があるからって、綺礼にほとんど処分されちゃって期待出来ないけど……』

凛『うしおくん、ちょっと私は家をかき回してみるわ』


うしお「そう言って凛姉ちゃんは出て行ったけど、とらは一緒に行かなくていいのか?」

とら「おめえが昨日みたいに飛び出さないようにとり憑いたように見張ってろってよ」

うしお「へっへっへ、返す言葉もごぜーません」

うしお「あ、でもサーヴァントなしで凛姉ちゃんの護衛はどうしてるんだ?」

とら「剣使いがついて行ったのよ。そもそも家捜しなんてのはわしよりアイツ向きだしな」

うしお「まぁ確かにそうか、とらよりは」

とら「それに前にりんが家を綺麗にしろとか言いやがるから炎で色々燃やしたら怒ってよォ」

とら「あれ以来、家に入れてくれねーのよ」

うしお「凛姉ちゃん……」



うしお「でもいいのかなァ」

とら「何がだよ?」

うしお「これじゃまるでサーヴァントを交換してるみたいじゃないか」

うしお「聖杯戦争のルール的に大丈夫なのかなァ」

とら「こいつアホウかよ!! 今さら聖杯戦争の決まりごとなんて気にしてんのか!?」

うしお「なにをとらァ!!」

うしお「人間はなァ!! ルールを守って、ルールを……」


うしお「それだっ!!」


とら「ああ?」

うしお「なんで気付かなかったんだ。そうだよ、聖杯戦争にはルールがあるじゃないか!!」

とら「なんの話だ?」

うしお「聖杯戦争の監督役、教会の言峰神父さ。あの人に言えばよかったんだよ」

うしお「今回の聖杯戦争に前回のサーヴァントが参加してる、八人目のルール違反がいるってよ」

うしお「ギルガメッシュみたいなのがいたらまともに戦えないだろ、そうなれば聖杯戦争は中止さ!!」

うしお「中止になればランサーのマスターだって戦うのをやめる、妙案だぜ!!」

とら「けっ、そんなに上手くいくかねえ」



うしお「とにかくオレは言峰神父にギルガメッシュのことを報告に行くぜ」

とら「おい待ちなうしお。せめてりんが帰ってきてからに……」

うしお「凛姉ちゃんやセイバーだって頑張ってるんだ、負けてられねえさ」

うしお「とら、凛姉ちゃんが帰ってきたらオレは教会に行ったって言ってくれよ!!」


タッタッタッ


とら「ちっ、うーつけ者がなにを言ってやがる」


うしお「とら!?」


とら「わしはりんにおめえを見張ってろって言われたのよ」

とら「とり憑いたようになァ!!」


うしお「へっ…………」

うしお「好きにしろォ!!」





・言峰教会


うしお「おーい、言峰神父さーん。いないのかーい?」


うしお「とら、何か分かるか?」

とら「人間の気配はしねえな」

うしお「留守か……。教会の扉は開いてたけど不用心だなァ」

とら「おめえのトコも似たようなもんだろうが」

うしお「うっ……。ウチは大丈夫だろ、照道さんもいるし……ん?」


うしお「へぇ、教会ってここから奥に入れるんだなァ」


とら「おい、入っていっていいのかよ」

うしお「今回は緊急事態さ」

うしお「早く言峰神父にギルガメッシュのことを伝えて、聖杯戦争を中止にしてもらいたいからな」

とら「けっ、いつもわしに勝手に行動するなとか言っといてこれだぜ」


うしお「言峰神父、本当にいないのかーい?」



・中庭


うしお「ひゃー、とら見てみろよ。シャレてるぜ~~」

とら「なぁうしお。もういいだろ帰ろうぜ」

うしお「ウチとは大違いだ。こんな中庭があったらスケッチするんだけどなァ」


とら「なぁなぁうしお帰ろうぜ。なーなー、なーなー、なぁってばよォ」


うしお「だーーっ!! うるせーぞとらァ!!」

うしお「今オレは脳内スケッチをだなァ!!」


とら「だってよー、なんかわしここ嫌いなんだよ」

うしお「そりゃ教会が好きな妖なんて聞いたことねえけどさ」

とら「そういう意味じゃねえよ。教会で吸血鬼ブッ倒したわしがそんなもん気にするかよ」

うしお「それじゃ……」

とら「臭いがな、他と違うのよ。何かありそうだぜ、ここは」

うしお「この教会に……?」

うしお「ははっ、とら考えすぎじゃないのか? 言峰神父は凛姉ちゃんの後見人だぜ?」



うしお「いいからコッチに来てみろよ、中庭がキレイだぜ」


とら「相変わらずニブイよなァ…………ッテェ!!」

とら「なんだァ!? (※)ぎやまんかっ!?」

(※)ガラスの古い呼び名


うしお「とら……?」

とら「おめえどうやってそこに入ったんだよっ!!」

うしお「なに言ってんだとら、オレは普通に……」


とら「うしお後ろだ!!!!」


うしお「ッ……!?」




「チッ、まーた外したか」




とら「おめえは…………!!!!」

うしお「ランサー…………!!!!」




ランサー「よォ坊主。久しぶりだな」





とら「てめえか槍使い、こんなチンケな罠ァ張りやがったのはァ!!」

ランサー「おいおい人聞きが悪いな。オレがそんなトラップ仕掛けて気長に待つと思うか?」

ランサー「ここは教会だぜ。妖のための結界なんて腐るほどある。それをちょっと借りただけさ」

ランサー「だが……ハッ、こんなに上手く分断出来るとは思ってなかったがな。雷獣さんよ」

とら「ちぃ~~~~」


うしお(コイツは槍を使うサーヴァント、ランサー……)

うしお(キリオから聞いた赤い槍の男、オレがこの聖杯戦争で初めて戦った相手だ……)


ランサー「そんなに身構えるなよ坊主。あのとき殺しかけたことを根に持ってんのか?」

うしお「それもあるさ。それよりこの教会、聖杯戦争では不可侵だってオレは聞いてるぜ」

ランサー「そんなルールもあったかもな」

うしお「それじゃ……!!」

ランサー「だから戦いは止めましょうってか。坊主、忘れてるみてえだな」

ランサー「オレたちがやってんのは何でもありの戦争、聖杯戦争なんだぜ?」

うしお「……本当は分かってたさ」

うしお「ルール違反なんてない。この戦いを終わらせるには勝つしかねえんだろ」

ランサー「そういうことだ坊主」



ランサー「さてと、そろそろ始めるか。坊主、早く出しな」

うしお「えっ、なにを……?」


とら「タコがっ!! 槍だよ!!」

とら「早くわしの宝具、獣の槍を呼べってんだよ!!」


うしお「で、でも、凛姉ちゃんの許可なしに宝具を使うなんて……」

とら「馬ッ鹿ヤロウ!! そいつは槍なしのおめえが敵う相手じゃねえ……!!」

とら「そいつと戦ったことがあるならおめえも分かってんだろうが、うしお!!」

うしお「それは…………」


ランサー「いいぜ。待っててやるよ」

ランサー「というより、オレはそれを期待してるんだがな」




うしお「…………槍よ」




うしお「来い!!!!」




パシィッ!!




ランサー「そうこないとな」





うしお「…………」


ランサー「へぇ、本当に噂通り髪が伸びるんだな」


うしお「噂……?」


ランサー「あぁ。坊主、お前がセイバーを召喚したあの日の夜を覚えてるよな?」

ランサー「あのときは驚かされたぜ。オレの槍を何度も避けるんだからな」

ランサー「それもあってお前を調べたんだ。そうしたら面白い話が山ほど出てくるじゃねえか」


ランサー「獣の槍……白面の者……。もちろんあそこの雷獣も含めてな」


ランサー「あんな決戦をくぐり抜けた英雄が槍兵で、しかも現存しているときてる」

ランサー「そしてこの聖杯戦争でも、その槍を手にあのバーサーカーを倒した」

ランサー「そんな話を聞いたらよ……」

ランサー「同じく槍を使う者としては戦ってみたいと思うのが自然だよなァ」


ランサー「お前もそう思うだろ?」


ランサー「獣の槍の使い手、蒼月潮もよ」



うしお「……オレもセイバーからお前の正体を聞いてるよ」




セイバー『ランサーの正体は、クー・フーリンです。間違いありません』

凛『アイルランド神話の……。そっか、まぁあんな槍の使い手、他にはいないわよね……』


うしお『食う風鈴……』


うしお『遠坂先輩、アイルランドには食える風鈴があるのか!?』


セイバー『え…………』


凛『……蒼月くん、この前の世界史のテスト、何点だったのよ』


うしお『い、いやァ、人に言える点数じゃねえかな』


セイバー『リン、これは…………』

凛『ダメみたいね』




うしお「お、お前は外国のすげえ槍の使い手なんだろ……!!」


ランサー「えらく大雑把な覚えられ方だな……」





ランサー「こっちもセイバーには必殺の槍を見せたんだ、正体ぐらいバレてると思ってたさ」

ランサー「まぁ、これでお互い実力は分かってるってワケだ」

ランサー「それにお膳立てはもう出来てるしな」


とら「チィッ!! 雷も炎も駄目かァァ!!」


うしお「とら……!?」


ランサー「無駄だ。この中庭の結界はかなり頑丈なものだぜ」

ランサー「あの雷獣だって、ここの結界を破壊するには時間がかかるはず」

ランサー「これで邪魔は入らねえ。サシの勝負の出来上がりだ」


うしお「お前を倒さない限り、この中庭からは出れないってことか」


ランサー「そのとおり。さぁ槍を使うランサー同士、楽しくやろうじゃねえか……!!」





ランサー「まずは槍兵としての腕試しだ。かかってきな」


うしお「ランサー……。行っくぞォォーー!!!!」


ランサー「ハッ!! いいぜ、いい突進力だ!!」


うしお「うおおおおおおおお!!!!」


ランサー「なるほどな、驚かされるぜ」

ランサー「その宝具の槍を使えば坊主でもサーヴァントとやり合えるってワケか」


うしお「なんで…………槍が、当たらない…………!?」


ランサー「おいおい。オレは槍のサーヴァント、ランサーなんだぞ?」

ランサー「そんな攻撃に当たってやるワケにはいかねえよなァ」


うしお「くっ、これならァァーーーー!!!!」


ドガァッ


ランサー「どこ攻撃してる。それは中庭の柱、オレはここだぜ?」


うしお「そ、そんな…………」





とら「あんのォ~~~~馬鹿たれがァ~~~~」


とら「なにを槍使いにいいように遊ばれてやがる…………ん…………?」


とら「けけ…………」





うしお「はぁ……はぁ……」

ランサー「まさか槍兵がもう足を止める気か?」

うしお「まだまだ……!!」

ランサー「いいぜ。出来ることは全部試してくれ。その上を行ってやるからよ」


うしお「言ったなァーー!! ランサァァーー!!」

うしお「おおおおおおおお!!!!」


ランサー「ハッ!! 槍の一撃が当たらないからって、破れかぶれの乱撃かァ!!」


うしお「全部、避けられて……!?」


ランサー「この調子じゃ教会が穴だらけになりそうだな」


うしお「くっそォォ~~~~!!!!」


ランサー「あのなァ、槍を使うからってお前は攻撃が直線的過ぎるぜ」


うしお「ッ……消え……!?」


ランサー「終わりだ」


うしお「がっ……はっ……。蹴、り…………」





ランサー「期待外れだな」


うしお「な、に…………」


ランサー「あんな巨大なバケモノ、白面を倒した槍の使い手がこの程度か」

ランサー「いや、本当は白面は雷獣が倒し、バーサーカーもセイバーが倒したってところか」

ランサー「どっちにしろ期待外れだぜ」


うしお「ぐっ…………」


ランサー「坊主、お前に師はいるのかよ?」

うしお「し……?」

ランサー「師匠だよ師匠。槍の師匠さ」

うしお「槍の師匠…………」


うしお(う~~~~ん…………?)

うしお(親父はケンカ相手……。麻子のおじさんは空手か……)

うしお(杜綱さんの空骸の糸の骸……。いや、あれを師匠って呼ぶのはちょっとなァ……)


うしお「う~~ん……」

ランサー「そのツラ見る限り、いねえみたいだな……」



ランサー「どうりでおかしいと思ったぜ」

ランサー「お前の槍はなにかがモノ足りねえと思ったからよ」

ランサー「まぁスジは良かったぜ。その宝具の槍の力といっても英霊とやり合えるワケだからな」

ランサー「違った形で出会ってれば、オレが教えてやったんだが仕方ねえ」

ランサー「槍使いのよしみだ。手向けとして槍の一撃で終わらせてやる」


うしお「……ランサー。オレも同じだって言ってたよな」


ランサー「あ……?」


うしお「オレは別に、誰かと戦いたいとか思ってねえよ」


ランサー「そうかい。そいつは残念だな」

ランサー「でもな坊主、そんなお前はここで死ぬんだぜ」


うしお「いや、そんなオレでも出来ることは…………」




うしお「あるさ…………!!!!」




ドゴォォォォォォン!!!!




とら「へっ、お前にしちゃ上出来よォ」





ランサー「雷獣……!?」

ランサー「こんな短時間で、あの結界を壊せるはずが……!!」


とら「周り見てみなァ槍使い」


ランサー「中庭の四方の柱……結界の起点が壊されて……」

ランサー「ハッ、そうか、あの大振りな槍の攻撃は柱を破壊するために……!!」


とら「よく気付いたな、うしお」

うしお「西の空屋敷を脱出したときの間鎚の結界線を思い出したのさ」

うしお「四方の柱を壊せば結界線が途切れるんじゃないかと思ったんだ」

とら「けけけ、やるじゃねえか」


ランサー「一杯食わされたな……」

ランサー「だが坊主、まさか結界がなくなったからってオレから逃げれるなんて思ってないよな?」


とら「うしお、こいつァ結界があろうがなかろうが関係ねえよ。どこまでも追いかけてきやがるぜ」

うしお「そんな、それじゃ……」

とら「やるしかねえってことよ」



ランサー(中庭の結界がなくなり二対一か……)

ランサー(だが坊主の槍を見させてもらったことに変わりはねえ)

ランサー(あっちは気にすることはない。動きは英霊並みとはいえ、あの程度の槍なら問題ないな)

ランサー(問題は雷獣だ。雷に炎、宝具も他にあると考え)

とら「まだだぜ槍使い、まだ言い足りねえよなァ?」


ランサー「は…………? なんのことだ?」


とら「この馬鹿に言い足りてねえって言ってんだよ!!」

とら「てめえの言うとおりだぜ!! このクソは戦い方がまるでなっちゃいねえのよ!!」

うしお「んだとォ!? とらァ!!」

とら「はっ、おめえの槍なんざ槍使いに比べりゃ三流よ三流」

とら「そのせいでわしは毎回メーワクかけられんのよ!! 分かるか槍使い!?」

うしお「おめーはどっちの味方だとらァ!!」


ランサー「お、おいおい……。お前ら、今はオレと戦って……」



うしお「そこまで言うなら見てろよォとらァ!!」

うしお「行くぞォォ!! ランサァァーー!!」


ランサー「ハッ、またそれかよ」


うしお「くっ、外した……!?」


ランサー「だから言ったろ。お前の槍は足りてねえ、直線的過ぎるってな」


ランサー(この一撃で坊主は仕留めて、雷獣に専念と……)




「な、だからもっと言えって言ったのよ」




ランサー「…………ッ…………!?」




とら「この馬鹿は言うこと聞かねえからよォ!!!!」




ランサー「ぐぅっ…………!!!!」


ランサー(雷獣…………。オレの動きを読んで…………)


ランサー(いや違う。今のは違うぜ…………)


ランサー(雷獣は、坊主の動きを読んで先に動いていた……!?)





とら「おいうしおォ!! もう終わりかァ!?」

うしお「なにをォーー!! まだまだこれからさァ!!」


ランサー(こいつ…………こいつらは…………)


うしお「ランサー!! これならどうだァァ!!」

うしお「うおおおおおおおお!!!!」


ランサー「その乱撃はもう見させてもらったぜ坊主……!!」


うしお「おりゃりゃりゃりゃりゃりゃ!!!!」


ランサー(なんだ、さっきより動きが…………避けきれねえ…………!?)


ランサー「チィッ…………!!」


とら「どうしたァ槍使い、遊びでもマジメにやらなきゃなァ!!」


ランサー(そうだろうと思ったぜ。お前が坊主のただのフォロー役なら…………)


とら「いねえ!? 消えやがった!?」


ランサー(こっちもそれを想定して動くまでよォ…………!!!!)


ランサー「その背中、貰い受ける…………!!!!」


キィィィィン!!!!


ランサー「毛の中から槍が…………!?」


うしお「危なっかしーなァ!!!! とらァ!!!!」




とら「いらんことすんじゃねえチビ人間!!!!」


うしお「そうかい、オレには大ピンチに見えたがな大妖怪!!!!」




ランサー(……ハッ、坊主の槍がモノ足りないだと……そりゃそうだ……)


ランサー(こいつらは、これで完全なんだからな……!!)





そうか、そういうことか

分かったぜ、お前たちのことが




とら「うしおォ!!!!」

うしお「任せろォォーー!!!!」


ランサー「ぐううぅぅ…………!!!!」




雷獣はアーチャーの枠を使って特殊に召喚された

この聖杯戦争、どの陣営もお前を重要視して監視した

それはお前が規格外の妖怪の英霊だから

いや、それもあるが一番の理由じゃない


それはクラスが分からなかったからだ


しかしお前と戦っても何もクラス補正を感じない

どんなイレギュラーなエクストラクラスなのか見極められなかった


気づけるはずがねえ……


特定の相手とともに戦わねえと……


クラス補正すら発動しねえ英霊なんて…………!!!!





坊主、お前は槍を使うがランサーなだけじゃねえ

しかし何かを乗りこなすだけのライダーも違う


雷獣、お前の宝具は槍だがランサーじゃねえよな

しかしその気性とは違って理性のないバーサーカーでもない


お前は…………お前たちは…………


どちらが欠けても、補正すらなくなるクラス


だが混然一体、混ぜるとキケンなほど力を発揮するサーヴァント


しいて名づけるとするなら…………協力者…………相棒…………いや…………




うしお「行っくぞォォーー!! とらァァーー!!!!」

とら「決めちまいなァ!!!! うしおォォーー!!!!」




戦友のサーヴァント!!!!




ランサー「ぐっ…………はっ…………」




二体で一体の英霊…………




うしおととら!!!!









ランサー「…………負けちまったか」


ランサー「よっと……。だが妙に清々しい気分だ」

ランサー「お前たちにやられたヤツらは皆こんな気分になるのか?」

とら「何を抜かしてやがる槍使い……。わしはこれがおめえとの決着だなんて思っとらんぞ!!」

とら「大体なんで宝具を使わねえ!!」

とら「その赤い槍の力を使えば、クソうしおなんて一発で仕留めれるはずだぜ!!」

うしお「えっ……!?」

ランサー「おっと坊主、勘違いするなよ。オレは手加減なんてしねえ、やるならいつも全力だ」

ランサー「ただ、そうだな、そろそろ雇い主に嫌気がさしててね」

ランサー「お前たちと派手にやり合って、大暴れしてスカッとしたかったのさ」

うしお「ランサー…………」

とら「こっちはそんなことに付き合わされたのかよ」

ランサー「まぁそう言うなよ雷獣。わりと楽しかったろ?」

とら「けっ…………」

うしお「なぁ、ランサーのマスターって」




「何をしているランサー」




うしお「え…………」




言峰「私は侵入者の始末を命じたはずだが」





うしお「言峰、神父…………」

言峰「あの夜以来か蒼月潮。よく来た、とでも言っておこうか」

言峰「しかし、いくら教会とはいえ勝手にこんな奥まで入り込むのは考えものだがね」

うしお「今、ランサーに命じたって…………」

言峰「あぁそうだが?」


うしお「ウ……ウソだろ……。ランサーのマスターは言峰神父……!?」


とら「けっ、思ったとおりかよ」


言峰「ほう、雷獣のほうには勘付かれていたか」


とら「あたりめえよ。わしは中庭の結界とかいうのを壊すのに特大の雷を落としたんだぜ」

うしお「そうか……こんな真っ昼間に落雷なんかあったら……」

とら「教会の、いや、ここら周辺の人間どもが集まってくるもんだろうが!!」


とら「それが人っ子一人かけつけねえ。そいつァこいつが教会全体に結界を張ってるからよォ!!」


言峰「そのとおりだ。まぁ、教会の結界はあくまで聖杯戦争のためのものだが」



ランサー「おい、そんなことより聞いてた話と違うぜ言峰」

ランサー「テメェはこの聖杯戦争、最後まで姿を晒さずに勝ち残るんじゃなかったのかよ」

言峰「意外だな。お前が私のそんな話を信じているとは思ってなかった」

ランサー「信じちゃいねえよ。テメェの話も、テメェのこともな」


うしお「ど、どういうことなんだ……?」

うしお「言峰神父がランサーのマスターっていうのは本当なんだよな……?」

ランサー「あぁ、今はな」

とら「今はァ?」

ランサー「こいつはオレの正規の召喚者じゃない」

ランサー「オレを召喚したマスターは言峰に殺され令呪を奪われた」

うしお「殺されて、令呪を……!?」

とら「ちっ…………」

ランサー「契約者を失ったサーヴァントは魔力が枯渇し消滅を待つだけだ」

ランサー「だが、そのまま消えるには寝覚めが悪すぎる。だからオレは言峰と再契約した」

ランサー「いつか言峰を討つためにな。ま、今は令呪の縛りで言うこと聞くしかねえがな」

うしお「そんなことが……」



言峰「殺された、か。フッ、まぁいい」

言峰「しかしランサー、蒼月潮にそんなことを語ってどうする?」

言峰「彼は聖杯戦争に巻き込まれただけの少年だぞ」

言峰「まして魔術師でもない彼に令呪の奪い合いの話をしてなんになる」


うしお「ちょっと待ってくれよ言峰神父……」

うしお「ランサーの話は、マジなんだな……?」


言峰「うむ……。そうだな、こちらとしては訂正する箇所はなさそうだ」


うしお「そうかい……。でもよ、他は訂正してもらうぜ」


言峰「なに?」


うしお「ここで言峰神父に初めて会ったときは、オレは何も知らねえガキだったよ」

うしお「ワケも分からねえ戦いに巻き込まれただけのさ」


うしお「でも、今ここにいるのは…………」


うしお「セイバァァァァーーーー!!!!」




セイバー「……マスター、指示を」




うしお「この聖杯戦争のいちマスター、蒼月潮だいっ!!!!」





言峰「令呪による空間転移……。セイバーを呼び出したか……」


セイバー「あの男は……それにランサー……。なるほど、そういうことですか」


言峰「蒼月潮、それは確かに聖杯戦争のマスターとしては正しい選択だ」

言峰「フフ、こちらとしては好都合な展開だがね」




「どういうつもりだ。まさかこのような場所で宴の開幕を告げるつもりか」




セイバー「なっ…………」

うしお「お前は…………!?」




ギル「教えたはずだがな言峰。宴にはそれ相応の場所と余興が必要だと」





言峰「紹介しよう。彼は、前回の聖杯戦争で私のパートナーだった英霊だ」


うしお「前回の聖杯戦争の……!?」

ランサー「どういうことだ!! そいつがお前のサーヴァントだとォ!?」


言峰「フフフ……。それはそうと十年前の再現になったなセイバー」


セイバー「なんだと……?」


言峰「私とサーヴァントと協力者、そしてお前もマスターと協力者」

言峰「十年前の再現だと思わんかね?」


セイバー「貴様、なにを言っている……」


言峰「ほう……。なるほど……」

言峰「ギルガメッシュの言うとおり、衛宮切嗣はセイバーには何も語っていないようだ」


うしお「えみや……? 誰のことなんだ……?」

とら「てめえ、さっきから何を言ってやがる……!!」


言峰「そうだな。ならば教えよう蒼月潮に雷獣よ」

言峰「なに、お前たちも無関係な話ではない。むしろお前たちはこの聖杯戦争の関係者なのだから」


とら「なにィ……?」



言峰「まずは順序を追って話すとしよう」

言峰「前回の聖杯戦争のその前、第三次聖杯戦争の話だ」

言峰「ある陣営は早期に敗退した。だが、その陣営は他の陣営に聖杯が渡るのを阻止したかった」

言峰「そう……聖杯そのものを破壊してでも……」


言峰「その陣営は密かに手に入れたある物を、聖杯に混ぜた」


うしお「ある物……?」


言峰「蒼月潮、君も知っている物だ」

言峰「カムイコタンにあった物と同じ物だよ」


うしお「カムイ、コタン…………」


うしお「まさか…………白面の者の…………体の欠片…………!?」


とら「馬鹿がァ、んなことしたらなァ…………!!」


言峰「無論、聖杯は白面の陰の気により汚染された」


言峰「その陣営の計画通り、第三次聖杯戦争の聖杯は誰の手にも渡らなかったが……」

言峰「聖杯は白面に汚染され、時間をかけて龍脈から力を吸い上げることになる」



言峰「そして十年前の第四次聖杯戦争」

言峰「白面の者は龍脈の、いや、自身の力を察知し聖杯戦争に使いを送り込んだ」


セイバー「そんな……。前回の戦いに白面が……」


言峰「しかし、白面のこととなると現れるのが光覇明宗のお役目だ」

言峰「光覇明宗はその事実を知ると、聖杯戦争に蒼月紫暮を参戦させた」


うしお「親父が…………!?」


言峰「ああ、そうだ」


うしお「ほ、本当なのかセイバー!?」

セイバー「はい、あの男の言っていることに嘘はありません」

うしお「親父が聖杯戦争に…………」

セイバー「すみませんウシオ……。いつか話すつもりではあったのですが……」


言峰「それから蒼月紫暮は前回のセイバーのマスター、衛宮切嗣と出会うことになる」


うしお「衛宮、切嗣……。セイバーのマスター……」


セイバー(……しかし、キリツグもシグレも白面の話などしていなかったはず……何故……)



言峰「蒼月紫暮と衛宮切嗣は協力関係になった。白面の使いを倒すという目的のために」


うしお「白面の使い…………」


言峰「そうだ蒼月潮。そして、私も出会った…………」

言峰「私の心の虚無を埋める方法、それを享受してくれた存在…………」


言峰「それがこのギルガメッシュと、白面の者だ」

ギル「ククク…………」


とら「白面だとォォ~~!?」


言峰「私は白面の使い斗和子を通じて、白面の者と出会ったのだ」


うしお「斗和子……。キリオのときのアイツか……!!」


言峰「そして白面は私に命じた」

言峰「汚染された聖杯、龍脈を吸い続ける白面の欠片の力を使って…………」


言峰「白面の者を封印するお役目、その者がいる石柱の破壊を」




うしお「石柱…………母ちゃんがいた場所…………!!!!」





言峰「しかし聖杯戦争も終盤、それを知った衛宮切嗣はセイバーに聖杯を破壊させた」

言峰「聖杯の破壊による反動……。その火災により私はその場から離れた」

言峰「そして斗和子は消え、衛宮切嗣は死んだ。そのとき何があったのかは私も知らない」


うしお「それじゃ、セイバーが聖杯を破壊してなかったら…………」


とら「白面が起き上がってたってことかよ…………!!!!」


セイバー「だからキリツグは、私に…………」


ギル「その聖杯破壊こそセイバー、貴様と小僧の繋がりよ」


ランサー「過去と現在で同じバケモノから国を守り、世界を救った英雄同士か」

ランサー「確かにこれ以上の繋がりはねえな」


言峰「フッ、だから初めて会ったときに言っただろう蒼月潮」

言峰「お前がセイバーを召喚したのは偶然ではない、必然だと」



とら「この聖杯戦争に白面が関係してるってのは信じてやらァ」

とら「確かにヤツがかかわってるなら、わしもうしおも無関係とは言わねえよ」

とら「だがな、もう白面はいねえ。わしらがブッ倒したからな」

とら「それで白面入りの聖杯で何が出来るってんでえ。わしらを戦わせて何が目的なんだよ?」


言峰「フフ、何か思い違いをしているようだな雷獣よ」

言峰「私は白面に聖杯を汚染されたと言ったが、何も機能を失ったとは言っていない」


セイバー「まさか……願望機としての力を残していると……?」


言峰「そのとおりだセイバー。考えてみろ、お前たち英霊を召喚出来ていることが何よりも証明だ」

言峰「聖杯は汚染された。しかし聖杯降霊の儀式、それが壊されたワケではない」


言峰「そして教会の監督役、私の役割はその聖杯の持ち主を見極めることだ」


うしお「見極める、だけ……?」

とら「てめえ、槍使いを仕向けておいて、やり合う気はねえとでも言うつもりかよ!!」


言峰「誤解があるようだな」

言峰「私はお前たちが望むなら、お前たちにも聖杯を与えようと言っているのだよ」



ランサー「待てよ言峰。聖杯はサーヴァントが残り一人になるまで現れないんじゃなかったのか?」

言峰「そうだ。残り三人ではまだ早いが、二人なら完成に近い。聖杯は降霊出来る」


言峰「……どうだセイバーよ」

言峰「その隣のマスターと雷獣を斬り殺せば、聖杯を与えよう」


セイバー「なに……?」


言峰「雷獣のことを案ずることはない。ギルガメッシュとランサーも協力させる」

言峰「お前たち三人なら雷獣にも負けることはない」


言峰「さぁ…………セイバーよ…………願いを叶えるがいい…………」


セイバー「……………………」


うしお「セイバー…………」




セイバー「聖杯など…………いらない…………」




言峰「ほう……。願いが叶わなくてもいいと?」




セイバー「あぁそうだ。聖杯など必要ない、ウシオもトラも殺させない……!!」




セイバー「私の願いは、すでに叶っていたのだから…………!!!!」





うしお「セイバー……!!」

とら「くくく…………」


言峰「つまらん答えだ…………。お前たちはどうだ、蒼月潮に雷獣よ」

言峰「セイバーを殺せば聖杯、あらゆる願いを叶える器が手に入るぞ」


とら「そもそもわしは聖杯なんてものに興味ねえのよ」

とら「わしはただ気に喰わねえヤツらをぶっ飛ばす、それだけよォ」


言峰「フン……。いや、人間と価値観が違う妖怪に何を言っても無駄か……」


うしお「あらゆる願いを叶える、か…………」


言峰「そうだ蒼月潮。どんな物でも手に入る、欲しいと思うもの全てがお前のものだ」


うしお「悪いね言峰神父、もうオレは欲しいもんは持ってるしよ」


言峰「なに…………?」


うしお「見えないかい?」




うしお「オレの両隣に、オレの欲しいもんは揃ってるぜ…………!!!!」




セイバー「ウシオ…………」

とら「ったく…………」





言峰「予想通りとはいえ、くだらん結果だ」

言峰「まぁいい。ランサー、宝具を使用し蒼月潮を始末しろ」


ランサー「…………」


セイバー「くっ、ランサーの因果逆転の魔槍か……。ウシオを守らなければ……」


ランサー「……やめだ、やめやめ。オレは降ろさせてもらうぜ」


ギル「ほう、聖杯を目の前にして契約を切るというのか」

ランサー「テメェと一緒にするな。もとよりな、オレは二度目の生なんぞに興味はない」


ランサー「それにな言峰、まさかオレがこの教会の地下にあるもんに気付いてねえと思ってねえよな?」


言峰「さて…………?」


ランサー「とぼけるんじゃねえ」

ランサー「調べたがよ。坊主と雷獣の戦い、白面との決戦で大勢の犠牲者が出てる」

ランサー「そりゃそうだ。あんなバケモノと戦って、死人が出ないなんてことはねえ」


ランサー「だがな、おかしいんだよ…………」


ランサー「この町だけ多くねえか、死亡者より行方不明者がよ…………!!!!」




言峰「さぁ、何のことを言っているのか分からんなァ……ランサー?」




ランサー「言峰ェ…………!!!!」





言峰「しかし……。どういう心情の変化だ、ランサー」


ランサー「さーてね。まぁ、あの坊主の真っ直ぐな眼を見てたらよ……」

ランサー「死んだ魚のような眼ェしたヤツなんかに従うのが嫌になっただけかもな」


ギル「クク、よく吠える」

言峰「彼と共同戦線を張れば必ず勝てるとしても、降りると?」


ランサー「フンッ、それこそ死んでもごめんだ」


言峰「……そうか。ならば死んでもらおう」


ランサー「あ?」


言峰「ギルガメッシュ、先ほど宴には余興が必要だと言っていたな」


言峰「最後の令呪をもって命じよう」




言峰「自害しろ、ランサー」





ランサー「なっに…………なっ、身体が…………勝手に…………!?」




セイバー「ランサー…………!?」

うしお「待っ…………!!」




とら「ちぃっ…………!!」




ザシュッ……




ランサー「おい…………」


とら「ぐぅ…………がっ…………」


ランサー「なに、やってやがる、雷獣…………」


とら「けけ、お前は、槍使いだろが…………」




とら「槍を使うヤツはなァ、わしの前でそう簡単に殺させねえのよ…………」




セイバー「トラ…………!!!!」

うしお「とらァ!!!!」





ギル「ククッ、フハハハ!! 獣が狗を助けたか!!」

ギル「いいぞ!! 余興としては盛り上がりに欠けるが趣向は悪くない!!」


言峰「ギルガメッシュ、ここは任せる」

言峰「光覇明宗と蒼月紫暮が動き出した。私はことを進めるとしよう」


うしお「光覇明宗が…………。何を、企んでるんだ…………」


うしお「何をする気だよ言峰神父…………!!!!」




言峰「フフフ……。ギルガメッシュ……」


言峰「ゴミを始末しろ」





とら「ぐっ……聖杯、だ……」


うしお「とらァーー!!」

セイバー「トラ、大丈夫なのですか!?」


とら「胸ェ貫かれたぐらいで、わしがくたばるかよォ」

とら「おめえら人間の英霊と一緒にすんじゃねえ、剣使い」


セイバー「全く貴方は……。ランサーの槍をその身で受けるなど無茶をする……」


とら「それより、やつァ槍使いを消して英霊の数を減らすつもりだった」

とら「それなら目的は聖杯しかねえ」


セイバー「あの男が聖杯降霊の儀式を強攻すると?」


とら「ああ、だが槍使いは殺せなかった。うしおはここにいる。それなら次の獲物は……」


うしお「まさか、凛姉ちゃん……!?」


セイバー「そうか……。リンを殺せば、一番の強敵のトラも消せる……!!」



とら「ちぃっ~~!! 胸の傷塞ぐのに魔力使っちまった……!!」

とら「わしとしたことが、しばらく動けそうにねえかよ……!!」


とら「うしお、剣使い、りんのもとへ行きな!!!!」


セイバー「トラ、ですが……!!」


とら「わしのこたァーいい!! どの道りんが死んだらわしも終わりよォ!!」


うしお「そ、そうか……そうだよな……。分かったよ、とら」

うしお「早く凛姉ちゃんに知らせねえと……。セイバー!!」


セイバー「分かりました……。ただ、ここから脱出するには……!!」




ギル「クックックッ…………」




ランサー「行きな、坊主とセイバーは」





うしお「ランサー……?」


ランサー「坊主、言峰にやった啖呵の切りかたはよかったぜ」

ランサー「そうだ。槍使いは敵を貫くだけじゃねえ、信条を貫いてこそだ」


ランサー「雷獣には借りが出来た、もう令呪の縛りはねえ」


ランサー「必ずお前たちのもとに雷獣は送り届ける。だから先に行きな」


うしお「ランサー、兄ちゃん…………」

セイバー「しかし、いくら貴方でもあの宝具の雨に無事には…………」


ランサー「けっ、仲間意識なんか持つんじゃねえセイバー」

ランサー「お前の剣に誓いがあるように、オレの槍にも誇りがある。ただそれだけだ」

ランサー「さっさと行け、育ちのいい騎士王様は目障りだぜ」


セイバー「ランサー……。ご武運を」


とら「うしおォ早く行けェ!!!!」


うしお「とら…………。兄ちゃん、頼んだぜ…………!!!!」





ギル「フフ……」


ランサー「テメェ、何故だ。なんで何もしねえ」

ランサー「オレたちを始末するように言われたはずだぜ」


ギル「実はなランサー、我もこのような決着は好みではなかったということだ」

ギル「貴様がそうやらなければ我がやっていた」


とら「うしおや剣使いを見逃すつもりだったってのか?」


ギル「あの女は我のモノだ」

ギル「そして、聖杯を呼ぶ儀式にはサーヴァントを残り一体にする必要がある」

ギル「ならば必要のないサーヴァントは誰と誰だ。クックックッ……」


とら「ちっ……。こいつの狙いはハナっからわしらかよ……」


ギル「それにだ、この聖杯戦争で言峰が主催する最初で最後の宴だ」

ギル「それ相応の参加者がいなければ盛り上がりも欠けるというもの」


ランサー「テメェら、一体なにを考えて……」



ギル「ランサーよ、この場は余興だ」

ギル「獣に助けられた命、余興なら余興らしく我を愉しませろ」

ギル「ククッ……。だが貴様に勝ち目などない」

ギル「狗畜生らしく逃げてもよいぞ、ランサー」


ランサー「テメェ……。今、オレのことを狗といったか……!!」


とら「待ちなァ!! そいつの宝具は……!!」


ギル「フフ……」パチンッ


ランサー「チィィ……!!」カキィィン!!カキィィン!!


とら「この馬鹿槍使い!! なーにをやっとる!!」

とら「あんな野郎の挑発に乗るんじゃねえや!!」


ランサー「へっ、言ってくれるぜ……!!」

ランサー「いいからテメェはオレに守られてなァ!!」


とら「な、なにィィ~~~~!?」



・遠坂邸


うしお「セイバー!! そっちはどうだ!?」


セイバー「いえ、こちらもリンの姿は見当たりません」


うしお「そうか……。凛姉ちゃん、どこに……」


セイバー「おそらく、探し物を終えたリンはウシオの家へ戻ったのではないでしょうか?」


うしお「オレの家に……。よし、セイバー急ごう!!」


セイバー「はい、ウシオ!!」



ランサー「ハッ……ハッ……」


ギル「どうしたランサーよ」

ギル「槍兵が足を止めるなと語っていたのは貴様のはずだが?」


ランサー「ハァッ……!!」カキィィン!!


ギル「ククッ、獣をかばいながらとなると自慢の足も使えんか」

ギル「己が信念を貫くのは厳しいな、ランサー」


ランサー「これも成り行き。ま、こういうのもいいもんさ」


とら「…………いいや、よかねえな」


ランサー「お、お前…………」


とら「槍を使う人間になァ、守られるなんざ…………」




とら「わしが一番キレエなことよォ!!!!」





ランサー「おいおい、もう動けるのか……」

ランサー「バケモンかよテメェ……いや、バケモンか……」


とら「りんに渡されてた石ころだ。そいつを喰ったからな」

とら「うげぇー、こいつが不味いのなんの……」

とら「はんばっかになァ、はさまねえと喰えたもんじゃねえや」


ランサー「ハッ、魔力入りの宝石を持たせてたのか」

ランサー「あの嬢ちゃん、うっかりしてそうでそういうところは抜け目ねえな」


とら「まぁ悪かねえぜ」


ランサー「それに美人で強情で肝が据わっているときている」

ランサー「女をマスターにするんならああいうのがいいよなァ、雷獣」


とら「りんはやらねえぞ。ありゃわしの喰いもんだ」


ランサー「そいつは残念」



とら「足ィやられてんのか?」

ランサー「まぁな、テメェの傷に比べりゃまだマシだが」

とら「わしはまだ動ける程度だ。雷も炎も出せやしねえ」

ランサー「刺されてすぐに動かれちゃ呪いの朱槍の名折れだぜ」

とら「ぬかせェ。わしは槍に貫かれてもそのまま五百年は平気な能力持ちよォ」

ランサー「ハッ、それがマジならテメェとやり合うランサーは相当長生きしねえとな」


ギル「クク……。どうだ、次の余興の準備は整ったのか?」


ランサー「……悪いな雷獣。テメェが動けるまで時間は稼げたが窮地に変わりなしだ」

とら「そうでもねーさ」

ランサー「あ? 何かあんのか?」

とら「わしは動けるが雷も炎も出ねえ、おめえは足ィやられてる」

とら「ならやるこたァ、一つさ」


ランサー「……おいおい、オレはランサーだぞ?」


とら「けけ、退屈はさせねーぜ?」


ランサー「へっ……。ま、これも成り行きかね」



ギル「ほう、次の余興は曲芸か。ククク、愉しませるではないか」


ランサー「よっと……。おー、意外に乗り心地はいいな」

とら「てめえ槍使い!! わしを乗り物扱いすんじゃねえ!!」

ランサー「ワリィワリィ、そう怒るなって」

とら「ちっ……。わしはヤツの妖怪用の宝具に一発でも当たったら終わりよ」

ランサー「安心しな。オレの槍で全部弾き落としてやる」

とら「ったく、本当だろうな」


ランサー「さてと、そろそろ始めるかい…………」

とら「おう、それじゃ…………」




とら「ドジるんじゃねえぞ槍使い!!!!」


ランサー「テメェもな雷獣よォ!!!!」





ダッダッダッダッ


うしお「言峰神父の目的はまだ分からねえ!!」

うしお「でも、本当に光覇明宗も動いてるなら……!!」


セイバー「あの男が聖杯で何かを行うことを止めようとしている?」


うしお「ああ!!」

うしお「前回の聖杯戦争で、言峰神父は白面を解き放とうとしていた……!!」


セイバー「今回も聖杯の力で似たような……いや、もしかするとそれ以上のことを……」


うしお「もしそうなら……。凛姉ちゃん、無事でいてくれ……!!」



ランサー「ハッハァー!! こいつはいいぜェ!!」

ランサー「こりゃライダークラスで召喚されるのもいいかもなァ!!」

とら「おい槍使い!! 次が来てんだろうが!!」


カァァン!!


ランサー「余裕よ余裕!!」

とら「てめぇ今危なかったぞ!!」


ギル「ククク……。なるほど、次の見世物はなかなか動き回る」


とら「ちっくしょ~~~~!!!!」

とら「避けるのが精一杯で近づくことも出来やしねえ!!」

ランサー「あの宝具の射出がある限り間合いには入れねえか……!!」


ギル「さて、次は何を見せてくれる?」


とら「見下しやがってェ……!!」



ランサー「見下し……そうか……」

ランサー「おい雷獣、無理にヤツに近づくことはねえぞ」

とら「ああ?」

ランサー「ヤツの間合いに付き合う必要はねえって言ってんだ」

とら「もうわしの話を忘れたかよ槍使い!!」

とら「まだ雷も炎も出せねえって言っただろ!!」

ランサー「忘れちゃいねーよ。それに仕掛けるのはオレだ」

とら「まさかおめえ…………」

ランサー「雷獣、出来るだけヤツの宝具を引き付けて、上空に飛んでくれ」


ランサー「そのあとはオレの仕事だ」


とら「ちっ、仕方ねえ……。おめえの話に乗ってやるかァ……!!」


ランサー「乗ってるのはオレだけどなァ雷獣!!」

とら「うるせーよ槍使いがァ!!」



カキィィン!!

カキィィン!!


ランサー「よし、今だ雷獣……!!」

とら「跳べばいいんだろォォ!!」


ギル「余興ごときの獣どもが、天に仰ぎ見るべきこの我の上を取るか」

ギル「痴れ者がァ……!!」


とら「どうだァ槍使い!! こんだけ跳べば文句ねーだろ!!」


ランサー「この跳躍……マジにバケモンだな……」


ランサー「だがよ、オレも猛犬の名前は伊達じゃねえよ!!」




ランサー「突き穿つ死翔の槍(ゲイ・ボルク)!!!!」





ギル「フンッ…………」パチンッ


ドゴォォォォン!!




とら「な、なんだこりゃ~~~~!?」


ランサー「壁……いや、盾か……!?」




ギル「クックックッ…………」




ランサー「こいつは…………!!!!」


とら「馬鹿デケエ剣かよ…………!!!!」





とら「くっそ~~!! 槍使いの宝具でも駄目かァ~~!!」

ランサー「これでいい。あの剣がある限り宝具の射出は遮られる」

ランサー「ここはもういいぜ雷獣。テメェは嬢ちゃんのとこに急ぎな」

とら「ああ!? なに言ってやがる!!」

ランサー「借りは返した。あとはオレの好きなようにやるだけさ」

とら「足ィやられたおめえが一人でアイツに勝てるワケねえだろうが……!!」

ランサー「テメェのほうこそなに言ってる、サーヴァントならなァ……」

とら「あ……?」


ランサー「サーヴァントならテメェのマスターを一番に考えやがれェ!!!!」


とら「りん…………」


とら「ちっ……。槍使いはどいつもこいつもうるせえなァ!!!!」


とら「死ぬんじゃねえぞ槍使い!!!!」


ランサー「ハッ、この程度でくたばるならオレは英雄になれてねえよ、雷獣」



ランサー「よっと……」


ギル「二対一の状況を自ら壊すか」


ランサー「あのままアレに乗り続けてたら坊主が羨ましくなっちまう」

ランサー「ま、テメェみてえに欲の皮がつっぱった怨霊には分からないだろうがな」


ギル「ククッ、死に際が鮮やかだった男は言うことが違う」

ギル「さあ、最後の見せ場だぞランサー」


ランサー「ハッ、もう少し付き合ってもらうぜ」

ランサー「テメェを嬢ちゃんたちのところに行かせるワケにはいかねえんでな」





・大橋歩道橋・入口


ダッダッダッダッ


うしお「うわっ……」ガクッ


セイバー「ウシオ!? 大丈夫ですか!?」

うしお「あ、ああ、平気さ」

セイバー「まさか先ほどの戦闘の傷が……」

うしお「いや本当に大丈夫だ。ちょっと転びそうになっただけさ」

セイバー「そうですか……」


うしお「……サンキューな、セイバー」


セイバー「えっ?」


うしお「言峰神父が聖杯の力で破壊しようとした石柱……」

うしお「あそこには白面を封印してたオレの母ちゃんがいたんだ」


セイバー「石柱に、ウシオの母親が……」





うしお「セイバーと衛宮切嗣って人が聖杯を破壊してなかったら、白面は起き上がってた」




違う……


私は何も知らなかった


ただ、令呪で強制的に宝具を使用しただけ……




うしお「その頃はとらもいない、獣の槍もなかったんだ。もちろんオレだってただのガキさ」

うしお「きっとこの国、いや、世界中の人間が沢山死んだはずだぜ」


うしお「セイバーと衛宮切嗣さんが世界を救ったんだ!!」




まさかキリツグ……


貴方が言っていた世界の救済とは……




うしお「二人のおかげさ。だからサンキューな、セイバー!!」


セイバー「ウシオ、私は…………」




そんな目で……


あのときの私は、そんな目で見られる資格はない……





うしお「……っと、すまねえセイバー」

うしお「今はこんなこと言ってる場合じゃねえよな」


セイバー「そう、ですね……」

セイバー「リンたちが心配です。急ぎましょう、ウシオ」


うしお「ああ!!」




セイバー「…………」




キリツグ、貴方がくれたのですね


聖遺物などではないウシオとの確かな繋がり


白面から世界を救う


それを成し遂げた貴方と私は、たった三度の令呪のやり取りだけ……


どうして語ってくれなかったのです……




あの男は言っていた


聖杯が破壊された後、白面の使いは消え、貴方は死んだと




あの後、何があったのですか…………貴方に…………




キリツグ…………!!







【遠景『最後の令呪』】




・第四次聖杯戦争終盤・市民会館・地下駐車場








切嗣「……手を上げろ」


言峰「なんともつまらぬ結末だな」









言峰「なぜ聖杯を、いや、白面を拒んだ?」


切嗣「……貴様にも見えていたのか」

切嗣「ならば、今のは幻覚などではなく……」


言峰「聖杯は白面に汚染されたとはいえ、願望機には違いない」

言峰「お前は全てのものを犠牲にしてここまで辿り着いたはずだ」

言峰「なぜそれを今になって拒む。愚か過ぎて理解出来ん」


切嗣「願望機だと?」

切嗣「あんなものは万能の願望機などではない……!!」


言峰「願望機だ。お前にとっても、私にとっても」


切嗣「なに……?」


言峰「お前の望み、理想とは紛争の根絶……」

言峰「その願いを叶えようとしたのだ。聖杯が、白面が」

言峰「ならばそれを願望機と呼ばずなんという?」


切嗣「あぁそうだな。争う人間すべてが消え去ればそれは根絶だろう」

切嗣「あの聖杯がもたらすものはそういうものだ。白面による滅びしか手に入らない」


切嗣「僕が望んだ奇跡は、あんなものじゃない」



言峰「理解出来んな」

言峰「闘争は人間の本性だ。それを根絶することなど出来るわけがない」


切嗣「いつまでも人類同士で争っている場合じゃない。いつか必ず白面は起き上がる」

切嗣「終わらぬ連鎖を終わらせ、人類が手を取り合わなければ白面には打ち勝てない」

切嗣「人間、いや、きっと人間以外とも……。それを果たし得るには聖杯という奇跡しかない」


言峰「……なるほど、それがお前の本当の望みか。ならば聖杯は私に譲れ」

言峰「あの聖杯がお前にとっては願望機でなくても、私にとっては願望機だ」

言峰「いや……私と白面の使いにとっては、か」


切嗣「貴様……!!」

切嗣「この聖杯戦争には、お役目の予見通り白面の使いが……!!」


言峰「お役目……白面の者と未来永劫ともにいる女か……」

言峰「やはり、お前は光覇明宗と繋がっていたようだな」



切嗣「言え。貴様とともに行動していた黒髪の女、あれが白面の使いだな?」


言峰「さぁ、何のことか」


ドゥゥン!!


言峰「がっ……」


切嗣「次はどこを撃ち抜かれたい?」


言峰「フッ、無駄だ。私を拷問しても……。すでに白面の泥はあふれ始めている……」


切嗣「貴様は何を考えて……」


言峰「白面の者……。この世全ての陰の気の化生……」

言峰「あんなものが存在するのなら、私の迷いの答えも出るというもの……」


言峰「だからこそ解き放つ必要がある……!!」


言峰「私は生まれながらにして善よりも悪を愛する者!!」

言峰「どんな事柄よりも他者の苦痛に愉悦を感じるのならば!!」


言峰「白面がもたらすものこそ、私の望みなのだから……!!!!」




言峰「それを見届けるまで、私は……!!!!」




ドゥゥゥゥン!!




切嗣「貴様こそ、愚か過ぎて理解出来ないよ」









・市民会館・通路


切嗣「くっ……」


切嗣(誰かが近づいてくる……敵サーヴァント、ではない……。あれは……)


紫暮「切嗣ッ……!!」


切嗣「紫暮……」


紫暮「その怪我……。言峰綺礼をやったのか?」

切嗣「あぁ、仕留めたよ」

紫暮「そうか……。とにかく移動しよう、この会館は崩れ始めている」


切嗣「待ってくれ紫暮。状況を、教えてほしい」


紫暮「あ、ああ、舞弥殿は無事だ」

紫暮「危険な状態だったが光覇明宗の病院に運んだ。もう安心していい」


切嗣「……紫暮。アイリは?」


紫暮「アイリスフィール殿は……」



紫暮「…………」

切嗣「…………」

紫暮「すまん……」

切嗣「紫暮、君が謝ることじゃない」

切嗣「僕もアイリも覚悟の上でこの聖杯戦争に挑んでいる」

切嗣「それに、謝るのは僕のほうだ」

紫暮「ん……?」

切嗣「さっき一瞬だが聖杯に触れたよ」

紫暮「聖杯に!?」


切嗣「ああ……。そのとき感じた……アイリは器になったんだとね……」


切嗣「すまない紫暮……。本当は、分かっていたんだ……」


紫暮「切嗣…………」


切嗣「お役目の言うとおりだったよ」

切嗣「聖杯はすでに万能の願望機なんかじゃなかった」

切嗣「僕が求めた奇跡は、すでに白面に汚染されている」


紫暮「白面を倒すために求めた聖杯すら、白面に染められて……」



切嗣「あれを白面の使いに奪われるわけにはいかない」

紫暮「ああ、それを阻止するために私はここにいるのだからな」


切嗣「この先のホールでセイバーが交戦中、相手はおそらくアーチャー」

紫暮「分かるのか?」

切嗣「これでも僕は魔術師、マスターだからね」

切嗣「僕はセイバーを令呪で使って、聖杯を破壊する」


紫暮「セイバー殿を……。結局、セイバー殿には何も話さなかったのか?」


切嗣「言えるわけがない。僕たちは願いを叶えるという餌で彼女を釣ったんだ」

切嗣「お役目に言われるまで、聖杯が白面に汚染されているなんて知らなかった」

切嗣「アインツベルンは白面のことを伏せていた。いや、話す必要がなかったんだ」

切嗣「ユーブスタクハイト・フォン・アインツベルンにとっては白面なんて関係ない」

切嗣「どんな聖杯でも、アインツベルンが手に入れた、という事実が欲しいだけなんだから」



紫暮「今更セイバー殿に、願いを叶えるかどうかも分からない聖杯……」

紫暮「白面入りの願望機のために戦ってくれ、とは言えないか」


切嗣「アイリにも、セイバーには白面のことは伏せるように言ってあった」

切嗣「僕は聖杯が万能の願望機ではないと確認出来たら、破壊するつもりだったからだ」


紫暮「それをセイバー殿に気づかれないために、か」


切嗣「いや、彼女の望みを叶えるのは聖杯ではないと思っただけだよ」


紫暮「お前……まさか……だからあえて何も話さず……」


切嗣「いつか彼女をあの呪縛から解放する者が現れる、でもそれは僕じゃない」

切嗣「結局、僕は僕らしく最後まで英雄様を利用するだけさ。何も変わっちゃいない」

切嗣「君と出会ったからって、僕とセイバーの関係が変わることはないんだ」


紫暮「なるほど……。お前らしくか」


紫暮(以前、アイリスフィール殿や舞弥殿に言われたことがある)

紫暮(私と出会い切嗣は変わったと。しかし本当は、お前は元はそういう人間だったんじゃないのか)

紫暮(それがいつか、セイバー殿にも伝わればいいのだがな……)



切嗣「……セイバーのことで紫暮の言いたいことは分かる」

切嗣「自分でも、自分が器用な人間だなんて思っちゃいないよ」


紫暮「それはお互い様だな切嗣。私も器用な人間じゃなかった」


切嗣「紫暮が……? そうには見えないが」


紫暮「私にも荒れてた時期ってやつがあったんだ。妻に出会うまでな」


切嗣「妻に、出会うまで……」

切嗣「前にアイリが言ってたよ。僕と紫暮は似た者同士だって」


紫暮「私とお前がァ~~?」


紫暮「そりゃアイリスフィール殿の勘違いだ。私はお前より器用だぞォ~~?」


切嗣「フッ、相変わらず言ってくれるね」



切嗣「すまない紫暮、肩を貸してくれないか?」

紫暮「よし……これでいいか?」

切嗣「ああ、この先のホールの入り口まで頼む」




切嗣「はぁ……はぁ……」


紫暮「もう少しだ、切嗣」


切嗣「紫暮……」


紫暮「ん?」




切嗣「……僕はね、正義の味方になりたかったんだ」





紫暮「正義の、味方……?」

切嗣「笑うかい?」

紫暮「お前とはまだ短い付き合いだが、こんなときに冗談を言うようなヤツじゃないのは知っている」

切嗣「フッ、そうか」

紫暮「それで、その、正義の味方というのは?」


切嗣「僕は世界を救いたかったんだ。獣の槍を使い、白面の者を倒して」


紫暮「獣の槍ッ……!?」


切嗣「ああ」


紫暮「そうか……。だから、お前は初めて会ったときに蔵の扉を……」


切嗣「でも、僕は伝承者じゃないみたいだ」

切嗣「それに調べたが、きっとあの扉はどんな爆薬を使っても壊せない」


紫暮「お前……私の家の蔵を吹き飛ばす気だったのか……」



切嗣「そういえば、あのときの決着がまだだったね」

紫暮「あぁ、次にやるときはお前のあの動きを見切ってみせる」

切嗣「僕だって、次は君の千宝輪を全て撃ち落としてみせるよ」


紫暮「しかし……お前が獣の槍を求めていたなんてなァ」

切嗣「いや、獣の槍でなくてもいいんだ。白面の者を倒しうる兵器ならなんだって」

紫暮「兵器……。切嗣、お前の望み、理想は以前聞かせてもらった。だが……」

切嗣「その理由かい?」

紫暮「聞かせてもらってもいいのなら」


切嗣「…………」


切嗣「……紫暮、僕たち魔術師はね、さまざまな研究をしているんだ」

切嗣「でもね、どんな分野、系統、属性、あらゆる魔術の辿り着く場所は全て同じなんだよ」


紫暮「違う研究をしているのに同じ……。それは……?」


切嗣「……永遠さ。魔術師は必ず、永遠の命に辿り着く」


紫暮「永遠の、命……」



切嗣「いつか必ず来るという世界の滅亡……」

切嗣「白面による絶対の滅びから逃れるために」

切嗣「魔術師は、永遠を目指す」


紫暮「白面から逃げるため……それが魔術師の辿り着く場所……」


切嗣「ああ……」

切嗣「白面が存在する限り魔術師は、どれだけ死体の山を積み上げるか分からない」


切嗣「…………」


紫暮「切嗣……?」


切嗣「……白面さえいなければ、僕の父親も狂うことはなかったはずなんだ」

切嗣「そして、僕の大切な人たちも……」


紫暮「お前が白面の者にこだわる理由は……そうか……」



切嗣「紫暮、これを持っていってくれ」


紫暮「これは……。セイバー殿の聖遺物、聖剣の鞘か?」


切嗣「ここから先は僕一人で行く。紫暮は予定通り行動してほしい」


紫暮「ばっ、馬鹿を言うな!!」

紫暮「そんな怪我をしたお前を単独で行かせられるか!!」

紫暮「言峰綺礼は倒したようだが、まだ白面の使いがいる。どこに潜んでいるか分からんのだぞ!!」


切嗣「だからこそだよ、何が起こるか分からない」

切嗣「その鞘を白面の使いに奪われるワケにはいかないんだ」


紫暮「それは、そうだが……」


切嗣「アヴァロンを、いつか現れる獣の槍の正統伝承者に渡してほしい」

切嗣「白面との決戦で役に立つはずだ」



切嗣「行ってくれ紫暮」

切嗣「それに住民の避難や誘導は、魔術師殺しの僕には出来ない」

切嗣「でも、光覇明宗の蒼月紫暮にはそれが出来る」


紫暮「…………」


紫暮「その人が出来ることを、その人が出来る限り精一杯やればいい」

切嗣「え……?」

紫暮「商店街の中華料理店の親父が、娘にそうやって言い聞かせてたのを思い出した」

切嗣「それは、いい父親だね」

紫暮「ああ、それに作るメシも美味いんだ」


紫暮「……前に約束したことを覚えてるか、切嗣」

紫暮「私の息子とお前の娘をいつか会わせようと」


切嗣「もちろん覚えてるよ」


紫暮「こんな聖杯戦争パーッと終わらせて、その店にメシを食いに行こう」


紫暮「私たちの子供を連れて」


切嗣「それは…………願望機に頼らなくても叶えられる…………」


切嗣「僕が一番、叶えたい望みだ」







切嗣「……………………」




切嗣「紫暮…………。イリヤを、頼む…………」








紫暮「切嗣……?」


紫暮「いや、気のせいか。声が聞こえるはずがない」


紫暮「それよりも急いで光覇明宗に……」





・市民会館・コンサートホール




切嗣「衛宮切嗣の名をもって命ずる」


切嗣「セイバーよ、宝具をもって聖杯を破壊せよ」




ギル「我が婚儀を邪魔立てするか雑種!!」


セイバー「や、やめろ…………」




切嗣「セイバー。聖杯を、破壊しろ」




セイバー「やめろおおおおーーーー!!!!」





切嗣「ハァ……ハァ……」


切嗣「聖杯を、破壊……出来たのか……?」


切嗣「やった……終わった……。終わったんだ……」




??「それは、どうかしらねえ」




切嗣「お、お前は……!?」


??「この姿で会うのは初めてね、人間」


切嗣「言峰綺礼と協力し、この聖杯戦争を裏で操り、聖杯を手に入れようとした黒髪の女……」




切嗣「白面の使い…………!!!!」





??「ふふふ、よーく知ってるのね」

??「そう……。私は白面の御方の分身、斗和子」


切嗣「斗和子……。残念だったな、すでに聖杯は破壊した」


斗和子「ええ、そのようね」

斗和子「この聖杯戦争で貴方はことごとく邪魔をしてくれたわ、セイバーのマスター」


切嗣「これで、貴様の計画は水の泡だ」


斗和子「ふふふふ」

斗和子「そうね、綺礼もお世話になったようだし、お返しをしないとね」


切嗣「なに……?」


斗和子「空を見上げてご覧なさい」


切嗣「なっ……なんだ……あれは……!?」





切嗣「馬鹿なっ!! 聖杯は破壊したんだぞ……!?」


斗和子「すでに御方の力は器からあふれ始めていた。それなら器を破壊しても……」

斗和子「ね、分かるでしょ?」


切嗣「そ、そんな……そんな馬鹿なことが……」

切嗣「白面の聖杯は、もう止められないっていうのか……!!」


斗和子「ふふっ……。ほほほほ!!」


切嗣「まだだ、まだ!! 貴様にさえ聖杯を渡さなければ……!!」


ドゥゥン!!


斗和子「本当に残念ねぇ」


切嗣「妖怪用の銃弾が効かない……!?」


切嗣「今のは銃弾を体外に反射した……。こいつの能力は、まさか……」





斗和子「セイバーのマスター、私は聖杯戦争のお返しをすると言ったのよ」


切嗣「ぐっ……。なんだ、黒い靄、囲まれて……!?」


斗和子「私とお揃いの黒いドレス。よーく似合ってるでしょう?」


切嗣「アイ、リ……。くっ……はっ、放れ、ろ……!!」


斗和子「先ほどの聖杯はちょっとした試験だったの」

斗和子「貴方が綺礼のように御方の素晴らしさを理解出来たら聖杯を与えようと」

斗和子「でもね、御方を拒否するというのなら……。染まりなさい……」


切嗣「くそっ……このォ……!!」


斗和子「今度のは戯れも何もない。本物の御方の聖杯、極大の呪い……」




切嗣「ぐっ……うっ……ああああああああ!!!!」




斗和子「染めさせておくれ、人間」


斗和子「ふふふふ……。ほほほほほほ!!!!」





切嗣「………………」


切嗣「ここは……?」




『片方の船に三百人、もう一方の船に二百人。この二隻に同時に致命的な大穴が開いた』




切嗣「なんだ、これは……」




『船を修復するスキルがあるのは衛宮切嗣だけだ。時間的にどちらか一隻しか修復出来ない』


『さて、どちらの船を修復する?』




切嗣「そんなものは……。当然、三百人の船のほうだ」




『正解。それが正しい選択、賢い選択。それでこそ衛宮切嗣だ』





切嗣「やめろ白面……!!」

切嗣「こんなものを僕に見せてなんになる!!」


切嗣「もう僕はそんな選択をしたくないから、奇跡を……」


切嗣「聖杯を求めたんじゃないか……!!」




『しかし、生き残った三百人の船、その船には人間以外のバケモノが混ざっていたようだ』




切嗣「化け物……?」




『白面の者だ。白面は次に滅ぼす国を、弄ぶ国を決め、この船に乗っている』


『あの島で起こった悲劇を、白面はまた引き起こすつもりだ』




切嗣「そんな……。そんなこと、させるものか……!!」





『もう船は港に着く。衛宮切嗣には三百人のなかの誰が白面の者かは分からない』


『さて、どうする?』




切嗣「それは……だが……」


切嗣「やめろ、待ってくれっ……!!」




『正解。全員を殴殺する。正しい選択、賢い選択だ。これで次の国の大勢の人間は救われた』




切嗣「やめてくれ……」


切嗣「こんな天秤の計算なんてやりたくないから、僕は……!!!!」




「だが、残念だったなァ……」




切嗣「っ……!?」




「すでに我は、その船にはいなかったのだ」





切嗣「な、なにを……なにを言ってる…………」


切嗣「そんな…………それじゃ…………」


切嗣「僕が、救いたかった四百九十九人は…………」




「無駄死に、だったなァア」




切嗣「あ、あぁ…………」


切嗣「ふざけるな白面…………ふざけるなっ…………」


切嗣「馬鹿ヤロウ…………馬鹿、ヤロウ…………!!!!」




「くっくっくっ…………」




切嗣「貴様は……貴様は……」


切嗣「なんて、嬉しそうな……カオなんだ……」




「我を、憎め……」




切嗣「う、あ…………あぁ…………」


切嗣「ああああああああああ!!!!!!」








「我を憎めよ…………人間…………」











切嗣「…………っ…………」




斗和子「その苦痛の顔、たまらないわァ」


斗和子「ふふ、御方の泥で溺死出来るのだから光栄に思いなさいな」




切嗣「……………………」






泥、か……




ああ……そうだ……




あの時も、僕は…………







舞弥『切嗣。切嗣?』


切嗣「ん……。あ、あぁ、舞弥……」


舞弥『どうしたのです切嗣。放心するなど貴方らしくない』


切嗣「いや、何でもないんだ舞弥。気にするな」


舞弥『はい。それで、紫暮との定時連絡は?』


切嗣「ああ、終わったよ」

切嗣「これから紫暮は息子と用事があると言っていた」


舞弥『それでは予定通り別行動で動きます』

舞弥『しかし、紫暮のご子息に会わなくてもいいのですか?』


切嗣「必要ない。紫暮の家族や周辺に接触することは最小限に抑える」

切嗣「光覇明宗と僕が繋がっていることを他のマスターに知られるワケにはいかない」


舞弥『そうですね。どの陣営に白面の使いが紛れ込んでいるか分かりませんから』




少女「あぁっ……!!」





切嗣(なんだ……?)


少女「そんな……風で、帽子が……」


切嗣「…………」


切嗣「舞弥、そこから見えるか?」

舞弥『はい、見えています』

切嗣「あれをどう見る?」


舞弥『……少女の帽子が突風で飛ばされ、沼のなかに落ちた』

舞弥『幸い、帽子は木の枝にかかり泥に浸かったわけではない』

舞弥『少女はそれを見て、取りに行くか迷っている。簡単な罠ですね』


切嗣「ああ、その通り。子供を使った典型的なトラップだ」


舞弥『近づけば少女の身体に巻きつかれた爆薬が爆発』

舞弥『それとも帽子が落ちた沼のほうに仕掛けが?』


切嗣「あの子に話しかけた瞬間に狙撃、いや、少女自体が特殊な訓練を……」

切嗣「どれにせよ、こんなもの戦場で腐るほど見てきた」



切嗣「フッ……」


舞弥『切嗣?』


切嗣「あの程度のトラップを切り抜けられないようじゃ、この聖杯戦争は勝ち残れない」


舞弥『なるほど。受けて立つと』


切嗣「舞弥、周辺の確認を任せる」

切嗣「事の顛末を見ている狙撃者、マスター、サーヴァントを見逃すな」


舞弥『了解です切嗣』





切嗣「どうかしたのかい?」


少女「えっ……あ……」


切嗣「ああ、帽子が飛ばされてしまったんだね」


少女「はう……。赤いリボンが可愛くて、お母さんに買ってもらった帽子……」

少女「取りに行きたいけど……」


切嗣「暗くてじめじめしている。そんなに深くはなさそうだが泥の沼だ」


少女「私やあさこ、みんなはヘビ沼って呼んでるの」


切嗣「ヘビ沼か。それは危険だね、どんな蛇がいるか分からない怖い沼だ」


少女「ど、どうしよう……」



切嗣(洗脳は違うな、魔力は感じられない)

切嗣(トラップではなかった、か……。いや、油断はしない)

切嗣(だが接触した以上、何も言わずに立ち去るのも不自然か)


切嗣「…………」

少女「うぅ……」


切嗣「君は……。君は、賢い子だね」


少女「え?」


切嗣「君は正しい選択をしたんだ。賢い子だ」

切嗣「あの帽子と、この沼に入って帽子を取りに行く危険性を天秤にかけたんだ」


少女「てん、びん……?」



切嗣「それでいいんだ。それは正しい選択だよ」

切嗣「危険性だけじゃない。君のその綺麗な洋服、きっと泥だらけになってしまう」

切嗣「そんな姿を見たら君の親御さんも心配する」

切嗣「帽子を買ってくれた大好きなお母さんに心配をかけたくないだろう?」


少女「は……う……」


切嗣「賢い君は、あの帽子を天秤にかけて計算したんだ」

切嗣「大のために小を切り捨てる。当然だ」

切嗣「天秤が傾かなかった帽子は尊い犠牲さ。気にすることはない」


少女「で、でも……!!」




ガッポォ、ガッポォ、ガッポォ、ガッポォ




少年「……………………」





少女「えっ……!?」

切嗣「な……!?」




ガッポォ、ガッポォ


少年「…………」




少女「あっ……あっ……」


切嗣「お、おい!! 君、駄目だ!! この沼は危険なんだ!!」

切嗣「何をしてるんだい!! 戻ってくるんだ!!」




少年「…………」


ポフ





ガッポォ、ガッポォ


少年「ん!!」


少女「あっ、ありが」


切嗣「……待ってくれ、どうしてだい」

少年「ん?」

切嗣「どうして君は帽子を取りに行ったんだ」

切嗣「あれは救うことが出来ない少数、助けられないんだよ」

少年「……?」

切嗣「駄目なんだ……諦めるしかないんだよ……」


ビュゥゥウ


少年「あっ……!?」


少女「また帽子がっ……!!」







切嗣「くっ……!!」




バシャ、バシャ、バシャ、バシャ


バシャァァァァ




切嗣「…………」




切嗣「……やった」




切嗣「間に合った!! 帽子に泥はついてない!!」





少女「わ、私……」

切嗣「今日は風が強い日だ。もう飛ばされないようにね」

少女「はいっ」


少年「へへ」


切嗣「君は……。いや、教えてくれないかい」

少年「ん?」

切嗣「その格好は結婚式かなにかの服だ、しかも下ろし立ての」

切嗣「きっと君は、今から親御さんに酷く怒られるだろう」

少年「うっ……」

切嗣「計算しなかったのかい?」


少年「だって……。大事なんだろ、それ?」


少女「う、うん」


少年「それならさ」




切嗣「たった、それだけの理由で…………泥だらけに…………?」







少年「…………!!」




切嗣「今、なんて……」


少年「でもオジサン、変なこと聞くんだね」


切嗣「え?」




少年「オジサンだって、泥だらけじゃーないか」




切嗣「えっ…………あ…………」




グイグイ


少女「あの……てんびんのはなし分からなくてごめんなさい……」


少女「でも、帽子を取ってくれて……」




少女「ありがとう!!」




切嗣「……っ……」






ああ……




僕は……




僕は、本当は…………









斗和子「そろそろ終わりかしらねぇ?」


切嗣「………………ぃ……」


斗和子「な、なにィ……?」


切嗣「……て…………」


斗和子「あっ……ありえない……御方の極大の呪いを受けて……」


斗和子「人間が立ち上がれるはずがない……!!」




斗和子「聖杯の泥を浴びて……!!!!」




切嗣「…………だ……い……」






切嗣「泥なんて、なんだい……!!」







斗和子「魔術師ごときがァ……!!」


切嗣「…………」

カチャ


斗和子「ふ……ふふふ……」


斗和子「いいわよ、何度でも撃ちなさいな」

斗和子「私も何度だって溺れさせてあげる……」


ドゥゥン!!


斗和子「ッ……!?」


斗和子「こ、これは…………!?」


切嗣「貴様の能力は、もう分かってる」





切嗣「その弾は反射出来ないだろう?」


切嗣「僕の起源弾と紫暮の念を合わせた、特製弾さ」


斗和子「た、たかが特殊な銃弾で……御方の分身である私がァア……!!」




ドゥゥゥゥン!!




斗和子「きええええええええ!!!!!!」




切嗣「いつか貴様に会ったときにお見舞いするために準備していたんだ」


切嗣「遠慮せず味わうといい」





斗和子「そう……そうよねぇ……」

斗和子「準備していたのは貴方も一緒なのね、セイバーのマスター」

斗和子「でも貴方が何をしても勝者は私よ」


斗和子「あの聖杯……御方の泥は、貴方には止められない」


斗和子「ふふ、この周辺は灼熱地獄になり、人間は全て悶え死ぬことになる……」


切嗣「僕には止められない、か……。ああ斗和子、確かにその通りだ」

切嗣「でも、それならば僕以外が止めてくれればいいさ」


斗和子「なに……。おのれ、以外……?」


切嗣「まだ気付かないのかい。この会館の周りに人の気配を感じないか?」


斗和子「な、なんだ、あれは……。大勢の人間が会館を囲っている……」


斗和子「まさか……光覇明宗の法力僧!?」


切嗣「貴様の言葉だ。僕はこの聖杯戦争に準備をしてきたと」





斗和子「おのれ…………おのれええ…………!!!!」

斗和子「魔術師でありながら、本当に法力僧と繋がっていたのかァァ!!!!」


切嗣「これは驚かされるな斗和子。貴様は魔術師の事情に詳しいらしい」

切嗣「でもね、およそ僕ぐらい魔術師から程遠いところにいる魔術師もいないんだよ」


斗和子「きききき!! 謀ったなセイバーのマスター!!」


切嗣「炎の、尾……!?」


斗和子「法力僧のちゃちな結界など内側から破壊してくれるわ!!!!」


ドゥゥゥゥン!!




斗和子「かっ…………まだ……その、弾が…………」




切嗣「そんなことはやらせはしない。戦友との約束があるからね」


切嗣「斗和子……。貴様は聖杯ともども、ここで燃え尽きるんだ」





紫暮「なんなのだ……あの炎の渦は……!!」


紫暮(切嗣、お前は聖杯を破壊したらすぐに脱出するのではなかったのか……!?)

紫暮(まさか一人で白面の使いと……。お前はこうなると知っていたから私を外に……)


紫暮「くっ……。通せ!! 通してくれ!!」


法力僧「し、紫暮様!? いけません!!」

法力僧「結界内には誰も通すなとお達しが出ております!!」


紫暮「私はそんな命は出していない……!!」




御角「私が出しました、紫暮」




紫暮「お…………お役目様…………」





和羅「お役目様、やはり本山で待たれたほうがよかったのでは……」

御角「いいえ和羅。白面の使いが現れたというのなら私は出向かねばなりません」

御角「白面を三百年封じた二代目お役目、日崎御角として」

和羅「しかし……いえ、分かりました……」


紫暮「申し上げます、お役目様」

紫暮「あの炎上する会館のなかに逃げ遅れた者がおります」

紫暮「ご命令いただければ、今すぐに私が救出に」

紫暮「ですので、結界を……」


御角「紫暮、それは出来ません」


紫暮「で、ですが……!!」


四師僧「紫暮っ!! 貴様ァ!!」

四師僧「お役目様に意見する気かァ!!」



御角「下がりなさい」

四師僧「うっ……」

四師僧「は、はい……」


御角「紫暮、貴方にこそ聞こえているはずですよ」

御角「あの炎のなかで戦う彼の者の叫びのような念……」


紫暮「そ、それは……」


御角「自分に構わず結界を張り続けろと、聖杯の泥を一滴とも外に出すなと」

御角「この念が聞こえないとは言わせませんよ」


紫暮「お役目様……」


御角「紫暮、彼の者の名前を教えてはもらえませんか?」


紫暮「はっ……。名前は、衛宮切嗣……」


紫暮「魔術師殺しの異名を持つ魔術師であり……私の……戦友です……」



御角「衛宮、切嗣……」

御角「その名、このお役目がしかと覚え込みました」


紫暮「お、お役目様が……」


御角「我が光覇明宗の長い歴史のなかでも、今日は特別な日になります」

御角「おそらく魔術協会は、聖杯戦争に白面の使いが紛れ込むという失態を隠蔽するでしょう」

御角「ですが、我が光覇明宗だけは語り継ぐのです」

御角「いつか獣の槍を抜くといわれる伝承者……その者が現れる前に……」


御角「白面からこの世界を護った彼の者の名を」


四師僧「い、いけませんぞ!! お役目様……!!」

四師僧「仏門光覇明宗に西洋魔道の輩の名を残すなどと……!!」


和羅「……お役目様、確かに受け賜りました」


御角「頼みましたよ、和羅」


四師僧「そ、僧正様……」


和羅「………………」







紫暮(切嗣……。お前はなったのだな…………)


紫暮(世界を救う……正義の味方に…………)




和羅「聞けえい!!!! 光覇明宗の僧たちよ!!!!」

和羅「あの燃え盛る泥を外に出すでないぞ!!」


和羅「念を振り絞れええい!!!!」


法力僧「はっーー!!」

法力僧「はっーー!!」


紫暮「お役目様。私も結界の列に加わりたいと思います」

御角「そうですね。紫暮、頼みます」


御角(御髪が……。また貴方には心憂い戦いをさせてしまいましたね……)


紫暮「よし……!!」


紫暮(切嗣、お前がそこで戦うというのなら……私もここで戦うぞ……!!)


紫暮(場所は違えども最後まで、お前と、ともに…………!!!!)





切嗣「はぁ……はぁ……」

切嗣「どうした斗和子、もう暴れ回るのは終わりかい?」


斗和子「ふ……ふふ……そうねぇ……」

斗和子「これだけ撃ち込まれたら……さすがの私も動けないわ……」

斗和子「喜びなさい。聖杯戦争の勝者は貴方よ、セイバーのマスター」


切嗣「勝者だと? そんなものは存在しない……」


斗和子「それならやはり私の勝ちかしらねえ。私は得るものがあったのだから」


切嗣「な、に……?」


斗和子「西洋魔道……ホムンクルス……」


斗和子「ふふ、この聖杯戦争で手に入れた知識は使えそうだわ」


切嗣「き、貴様ァ……!!」



斗和子「まさか魔術師……」


斗和子「私の計画が、この聖杯戦争の一つだけなはず……」




斗和子「ないわよねぇ……?」


ニヤァア




切嗣「斗和子っ……!!」


斗和子「ふ、ふふふ…………ほほほほ…………」


切嗣「ホムンクルスだとォ……。やめろ、イリヤにはっ……!!」


斗和子「かか……」


切嗣「貴様は何を企んでいる!!!! 言えっ!!!!」




斗和子「かかかか、かかかかかか!!!!」




切嗣「斗和子ォ!!!!」







切嗣「……っ…………」


切嗣(炎と煙で、僕は意識を失って……)


切嗣(斗和子は……。そうか、完全に燃え尽きたか……)


切嗣(いや、ヤツは白面の分身……。ここで消滅しても本体がいる限り……)

切嗣(だが妖怪の復活にはそれなりの時間がいるはず……)


切嗣「ぐっ……う……」


切嗣(身体に魔力を通して、無理やり動かそうとしても駄目か……)

切嗣(あんな化け物を相手にしたんだ、当然といえば当然……)


切嗣(だけど、紫暮が上手くやってくれたみたいで……よかった…………)




切嗣(ああ……本当に、安心した……よ…………)







紫暮『……なぁ切嗣、もしもの話だ』


切嗣『なんだい急に、紫暮』





紫暮『なーに、ただの暇つぶしだ』

紫暮『いつの日か現れるといわれる獣の槍の伝承者、お前はどんな人間だと思う?』


切嗣『伝説の獣の槍、その伝承者か……。そうだね……』


切嗣『あの白面を滅ぼす力があるといわれる槍の使用者だ。屈強な身体の人間だろうな』

切嗣『いや待て……。おそらく、それだけではないはずだ』

切嗣『槍を補助する近代兵器の技術……いや、それよりも妖怪に対しての知識が……』

切嗣『そうだ。きっと僕よりも爆薬に』


紫暮『ふふっ、はははは!!』


切嗣『……紫暮、これでも僕は真面目に』


紫暮『すまんすまん、あまりにもお前らしい答えだからついな』




紫暮『だが、本当にどんな人間なのだろうなァ、伝承者とは』




切嗣『獣の槍を抜き、白面の者を倒す人間か……』







そうか……


今なら分かる……




獣の槍の伝承者……


白面の者を倒す人間というのは……




きっと…………


あの少年のような…………






「……ああ。ただいま、アイリ」




「その、一つ聞きたいことがあったんだ」




「君は、僕といて……幸せだったかい?」




「そうか……」






「ありがとう」











法力僧「はい、そうです。二名発見しました」



法力僧「おいお前、何か着るものを」


法力僧「は、はいっ」









言峰「…………ここは?」




ギル「やっとお目覚めか、綺礼よ」

言峰「ギルガメッシュ……。これは、どうなっている?」

ギル「どうもこうもない。あの薄汚れた聖杯が我たちを結界の外に吐き出したのだ」

言峰「結界……?」

ギル「見るほうが早かろう」


言峰「なんだ、あれは……」


言峰「馬鹿なっ、あんな建物一つ炎上しただけで終わるはずがない!!」

言峰「聖杯は……白面の泥は……この周辺全てを焼き尽くすほどの……!!」


ギル「セイバーのマスター、あれが何か仕組んでいたようだな」


言峰「衛宮切嗣……。ヤツが……!!」



言峰「私はヤツに撃たれた……何故……。心臓の鼓動が、ない……」


ギル「あの泥に飲み込まれ、お前は生き返り、我は受肉した」


言峰「そんなことが……有り得るというのか……?」

言峰「だが確かに、私の身体から溢れるこの黒い力は、聖杯の……」


ギル「あの女がセイバーのマスターにやられる寸前で計画を変更したとも考えられる」


言峰「斗和子が……。そうだ、それしか説明が……」


ギル「妖の分際でしたたかな女だったからな。しかし、もしかしたら……」

ギル「聖杯のなかにある確かな意思が、同属のお前をそうさせたのかもしれないな」


言峰「白面が……私を生き返らせ、炎のなかから逃がした……?」


ギル「クックックッ、ヤツはまだお前に何かをやらせたいようだぞ、綺礼よ」


言峰「フフ……。そうか……白面が、私に……!!」



ギル「我もヤツには興味が湧いた」

ギル「綺礼よ。白面を海底から引き上げ、我の前につれて来い」


言峰「いいだろうギルガメッシュ。契約は継続だ」


言峰「白面が自力で起き上がるか、それとも次の聖杯戦争が先かは分からぬが……」


言峰「必ずや私は、白面を世界に解き放とう」




言峰「それこそが、私が産まれながらに持つ疑問の……」




言峰「答えなのだから……!!」









・大橋歩道橋・出口






セイバー(……キリツグに何があったのか、私に知るすべはない)


セイバー(だが、これだけは言える)


セイバー(やり方は違えど、確かに貴方と私が目指した場所は同じだったと)




セイバー(ならば、迷うことなどない)




うしお「どうしたんだセイバー? 急に立ち止まって」


セイバー「ウシオ、先ほどの話の続きになるのですが」


セイバー「私は……白面から世界を救おうと聖杯を破壊したワケではありません」


うしお「そう、なのかい……?」


セイバー「はい。ですが、もしこれから同じことが起きようとしているのなら……」


セイバー「今度は私の意思で、聖杯を破壊します」


うしお「ああ……!!」


うしお「セイバーならそう言ってくれると思ってたぜ!!」


セイバー「はい、マスター」





【第二十三話 白面と聖杯『この世全ての悪』 】



・教会中庭


ギル「クックックッ」


ランサー「まだ、まだァ……」

ジャラ……


ギル「鎖に繋がれ狗らしさが増したな、ランサーよ」

ギル「退屈よなァ。我が手を下すまでもなかったわ」


ランサー「どこに行く……。待ちやがれェ……!!」


ギル「ランサークラスといえど、マスターを失ったあとに宝具を連発すれば魔力は尽きる」

ギル「猟犬よ。そのまま身動き出来ずに、己の無力さを噛み締めながら逝くがいい」


ランサー「待てって……言ってんだろォ……!!」


ギル「ククッ……フフフ……ハーッハッハッハッ!!!!」



・蒼月家付近


真由子「それで凛先輩が録画のやり方を教えてくれって」

麻子「え~? あの凛先輩が~?」


言峰「これはこれは……。探す手間が省けたか」


麻子「あれ? 言峰さん?」


言峰「このような場所で会うのは珍しい。米次店主は壮健かな?」

麻子「あはは……。また言峰さん用に新しい激辛麻婆を試作してるみたいです……」

言峰「それは楽しみだ。是非伺わせてもらうとしよう」


真由子「麻子、その……」


麻子「あぁ真由子ごめん。こちらは言峰さん、ウチの常連なの」


言峰「そう警戒することはない、井上真由子」


真由子「どうして私の名前……」



言峰「私はこの土地を任された教会の神父だよ」

言峰「いわば光覇明宗の蒼月紫暮と同じ立場の人間だと思ってくれるといい」


真由子「うしおくんの、おじさんと同じ……」


言峰「無論、私も君のお役目の力は知っている」

言峰「魔術協会……いや、世界中の組織が狙っていることも」


真由子「それは……」


言峰「君をホルマリン漬けの標本にしようとする連中がいるなど許し難い」

言峰「しかし井上真由子、安心していい」

言峰「この国の光覇明宗はもちろんのこと、私もそんなことはさせはしない」


真由子「は、はい……。ありがとう、ございます……」


言峰「フフ、分かってもらえたようで嬉しいよ」



言峰「ところで、君たちはどこに行こうとしていたのかな?」


麻子「それはうし……同級生に会いに芙玄院に」


言峰「なるほど。実は私も芙玄院には行くつもりだったのだよ」


麻子「言峰さんも? 教会のお仕事で?」


言峰「ああ、そんなところだ」

言峰「道すがら君たちに同行することになるかな」


真由子「それは……そうですね……」


言峰「では、行こうか」



麻子「そういえば言峰さんっていったら前にお父さんが変なこと言ってたわ」

言峰「ん……?」

麻子「商店街の催し物で空手をやったじゃないですか?」

言峰「ああ、米次店主が主催したものだ」

言峰「参加者が少なく、私も無理やり出場させられて困りものだった」

真由子「そんなことが……」

麻子「それがお父さん、言峰さんはもっと強いんじゃないのかって言ってましたよ?」


言峰「フ……。それは米次店主の買いかぶりだ」

言峰「私も昔はそれなりだったんだが、衰えていた」


麻子「やっぱり言峰さんなにかやってたのね」

麻子「でもお父さん残念がってたなァ」

麻子「言峰さんは得体の知れない強さがあるから、きっと強いって」


言峰「得体の知れない、か……。フフフ……」



言峰「さて、芙玄院はすぐそこだ。人通りも消えた」

言峰「頃合いだ」


真由子「え……?」

ガシィッ


真由子「な……んで……」

言峰「結界を張るのが一瞬遅れたな、井上真由子」


麻子「言、峰さん……? なに、してるの……」


言峰「感謝しよう中村麻子」

言峰「お前が警戒を解いてくれなかったら、こうも簡単にはいかなかった」


麻子「放して……。真由子を放して……!!」



麻子「はぁ……はぁ……」


言峰「悪くない蹴りだ」

言峰「娘が空手をやめてしまったと相談されたが、なるほど……」

言峰「才能はある。そのまま鍛えていれば凛に及ばずとも、それなりには」


麻子「きぃえええ!!」

ビシィッ


言峰「無駄だ」

麻子「そ、そんな……。う、あ……」

真由子「あ……麻子ぉ……」

言峰「衰えたといってもお前のような小娘に負けることはない」


麻子「言、峰……さん……どう、して……」


言峰「フフ、いい顔だ中村麻子」

言峰「その顔が見れるなら地域のくだらん交流というのも時間の無駄ではなかったな」


麻子「うぅ……あ……ぁ……」



麻子「…………」

真由子「…………」


言峰「なに、殺しはしない」


言峰「お役目の力は最も厄介だが……」


言峰「同様に、最も魅力あるものなのだから」




言峰「フフフ……!!」





・蒼月家居間


凛「桜、イズナ見なかった?」

桜「イズナさんなら先ほど、妙な臭いがするから仲間を呼んで来ると言って出て行きましたけど」

凛「なにそれ……。ま、妖怪には妖怪の事情があるか」


凛「書庫にいたはずのセイバーは急に消える。とらとは連絡つかない。今日はどうなってるのよ」

凛「うしおくんも勝手に出歩いてるみたいだし、これは帰ったらお仕置きね、お仕置き」



凛「あっキリオくん、いいところに……」

キリオ「え?」

凛「ちょーっと聞きたいことがあるのよねぇ」

キリオ「うん、お姉ちゃん」

凛「蔵を整理してたら綺麗な石が出てきたじゃない?」

キリオ「綺麗な石……。お祓いを頼まれてる宝石のことかな……」

凛「そうっ、それ!!」

キリオ「う、うん」

凛「それって光覇明宗のお祓いが済んだら、ど、どうなるのかしら?」


キリオ「詳しいことは紫暮様に聞かないと分からないけど……」

キリオ「多分持ち主に返したり、処分したりしてると」


凛「しょ、処分!?」



凛「…………」


凛「キリオくん、実は私は魔術でお祓いが」

桜「姉さんっ!!」

凛「さ、桜!? 聞いてたの!?」

桜「いくら金銭的に厳しくなったとしても、お祓い品を宝石魔術に使うなんて!!」

凛「冗談よ冗談っ!!」

凛「キリオくんも今のは忘れて、ね?」

キリオ「お姉ちゃん、僕も分かるよ……」

凛「え?」

キリオ「本当は僕もスーパーカーのプラモデルが欲しかったんだ……」

凛「キ、キリオくん……?」


キリオ「お金って、大事だよね……」


凛「よく分からないけどキリオくんも苦労してるのね……」

桜「姉さんのとは少し違うような感じですが……」



凛「……っ……!?」

桜「姉さん……?」


イリヤ「リン」

凛「分かってる。さてと、これはどういうことかしらねぇ」

セラ「すでに正門は越えられています」

リズ「迎撃、する」


凛「なーんでとらもセイバーもいないときに限ってこれなのよ……!!」


凛「うしおくん、早く帰ってきてくれないと本当に怒るわよっ」





・蒼月家玄関前


言峰「どうした凛。そのように身構えて」


凛「……綺礼…………」


麻子「…………」
真由子「…………」


凛(後ろの二人に目立った外傷はない。おそらく魔術で操られてるだけ……)


凛「それで、説明ぐらいしてくれるんでしょうね?」

言峰「お前のことだ、大体の予想はしているのではないか」

凛「まぁね。でも監督役がゲームに参加するなんて、ルール違反なんてもんじゃない反則よ」

言峰「ルール違反か……」

言峰「フフ……。凛、お前は未だ聖杯戦争をしているようだな」

凛「どう、いう意味よ……」

言峰「聖杯戦争とは聖杯を降臨する儀式のことだ」

言峰「ならば、この聖杯戦争は始めから聖杯戦争ではないのだよ」

凛「なにワケの分かんないことを……。とにかく二人を解放してもらうわよ」

言峰「出来ない相談だな、凛」



イリヤ「待ちなさい監督役」

凛「イリヤ……」


言峰「うむ、アインツベルンが用意した器か」


イリヤ「私が必要なんでしょ。だったら連れて行けばいいわ」

セラ「お嬢さまっ!!」

リズ「イリヤ、駄目」

イリヤ「ウシオやキリオには悪いけど、いつかこんな日が来るかもって覚悟はあったわ」

イリヤ「アサコとマユコをどう聖杯の器にする気だったかは知らないけど、私のほうが適任よ」

イリヤ「だから二人を解放しなさい」

凛「イリヤ、アンタ……」

イリヤ「勘違いしないでリン。二人を巻き込めばウシオが悲しむ、だからよ」

イリヤ「それに、アサコとマユコのお弁当は美味しかったから」


言峰「フフフ……!!」

言峰「勘違いをしているのはお前だ、アインツベルンの器よ」



言峰「私が必要としているのは聖杯を受け止める器ではない」

言峰「包み込む、皮だよ」


イリヤ「えっ……な、なにこれ……」

凛「この黒い靄……まとわり、ついてっ……!?」


言峰「なに拒むことはない。お前たちはそれを求めて戦っていたのだから」


リズ「魔力、吸われて」

セラ「こ、こんなこと……」


言峰「素晴らしいな、この力は」


??「くっ……」


言峰「どうした少年。出てこなくていいのか、では」

イリヤ「うっ……あ……」


キリオ「や、やめろっ!!」


言峰「引狭霧雄、いや、今は井上霧雄か」

言峰「その後ろ手の千宝輪、練っている念を解除してもらおうか」


キリオ「気付いて……」


言峰「フ、法力僧と戦うのはお前が初めてではない」



凛「綺礼……アンタねぇ……」


言峰「凛、お前がもう少し出来の悪い弟子ならばな」

言峰「まさか雷獣を召喚するとは予想外だった」


凛「アンタの予想なんか裏切り続けてやるわよ……」


言峰「それでこそだ凛。最後に何か言い残すことはあるか?」


凛「逝き場に迷えクソ神父っっ!!」


言峰「フフ、まさか親子二代に渡って引導を渡せるとはな」


凛「…………」


凛「……そう。父さんを殺したのは、アンタだったんだ」


言峰「当然だろう。恩師であったからな。騙まし討ちは容易かった」


凛「……っ……!!」


言峰「凛、お前は最期まで私を愉しませる」

言峰「真相を知った瞬間のお前の顔は格別だったぞ」



言峰「ん……?」




「凛姉ちゃーーん!!」

「リン!! どこですか!!」




言峰「……手を抜いたな、ギルガメッシュ」

言峰「まぁいい。儀式に必要なものは手に入っている」

言峰「雷獣のマスターを仕留めていないのは懸念事項だが……」

言峰「ギルガメッシュの言葉を借りるなら、これも沸き立たせる要素か」


凛「アンタ……いったい、何を考えて……」


言峰「言っただろう凛。これは聖杯戦争ではないと」

言峰「この儀式、いや、この戦争は……」


言峰「白面の者を降臨させる、白面戦争なのだから」


凛「……なに、を…………うぅ…………」



・蒼月家居間




凛「……ここは…………」




うしお「凛姉ちゃん、気がついたのかい!?」


凛「うしおくん……。ええ、なんとかね……」


凛「私はどのくらい気を失ってたの?」

セイバー「ほんの数分です。おそらく魔力を奪われたのではないかと」

凛「多分そうでしょうね。他のみんなは?」

うしお「イリヤたちも無事さ」

うしお「隠れてた桜姉ちゃんが今みんなを介抱してくれてる」

凛「桜、私が言ったとおり隠れててくれたのね。良かったわ」



とら「りん!! ここにおるのか!?」


凛「とらァ、アンタねぇ……!!」


とら「こりゃどうなってやがる……。何があった?」


凛「アンタがいないから大変なことに……!!」

うしお「ま、待ってくれ凛姉ちゃんっ。こっちも大変なことがあったんだ!!」

凛「え……?」

セイバー「この聖杯戦争は、初めから仕組まれていたものだったのかもしれません」

凛「仕組まれて……」

うしお「凛姉ちゃん。オレたちが見てきたこと、聞いたことを話すよ」

凛「ええ、お願い」


凛「それに……私も話すことがあるわ……」



凛「綺礼がギルガメッシュとランサーのマスター……」

凛「そして、白面の入った聖杯か……」


うしお「麻子と真由子が……」

とら「マユコ……ちっ……」


キリオ「ごめんうしお兄ちゃん。真由子姉ちゃんを守れなかった……」

うしお「なに言ってんだよキリオ。まだ終わりじゃねえさ」

とら「そのとおりよ。あの野郎をブッ飛ばしてマユコを取り戻す……!!」


とら「りん!! あのクソ野郎はどこにおる!?」

凛「……おそらく柳洞寺でしょうね」

セイバー「あの男は柳洞寺で聖杯を降臨すると?」

凛「キャスターが陣取った場所よ。聖杯の降臨場所として、あの場所以上はないもの」

うしお「柳洞寺に言峰神父や麻子たちが……」

とら「あの寺か。場所さえ分かればこっちのもんよォ」



凛「まだ私やキリオくんたちは動けないわ」

セイバー「リンたちは休んでいて下さい」

うしお「ああ、後は任せてくれよ!!」


凛「……うしおくん。これを持っていって」


うしお「これは……?」


凛「アゾット剣。その柄を魔術で伸ばして補強したの」

凛「ま、アゾットの槍ってところかしらね」


うしお「アゾットの槍……」


凛「アゾット剣は魔術師の世界ではよく使われるのよ」

凛「魔術の師匠が一人前になった弟子に贈ることが多いわ」


うしお「そうか、言峰神父は凛姉ちゃんの……」


凛「もちろん獣の槍みたいな能力はないから気をつけてね」


うしお「分かったよ凛姉ちゃん」


凛(でも、私の予想通りなら、きっと……)



とら「おいうしお!! なにしてやがる!!」

とら「ウダウダやってるヒマはねェだろうが!!」


うしお「おう!!」

うしお「よーし。とら、セイバー、行こう!!」


凛「とら、待って」


とら「ああ?」


凛「……アンタはランサーに刺されたのよ。魔力の補充がいるわ」

とら「わしにゃそんなもんいらねーよ」

セイバー「そうですね……。あのランサーの槍を受けて無事なはずがない」

うしお「とらはランサーを庇った後も、ギルガメッシュとも戦ったんだもんな……」


凛「うしおくんとセイバーは先に柳洞寺に行って待ってて」

凛「とらなら魔力を補充した後に、ひとっ飛びで追いつけるわ」


セイバー「分かりました。行きましょうウシオ!!」

うしお「ああ。とら、先に行って待ってるぜ!!」


とら「…………」



とら「おい。りん、おめえなに言って」


凛「私に隠してたわね。とら」


とら「……なにをだよ」


凛「さっきうしおくんは、ランサーと戦ったときに獣の槍を使ったって言ってたわ」

とら「それがどうしたってんでえ」

凛「なんで私からの魔力供給量が変わってないのよ?」


とら「そいつは……」


凛「確かに、宝具の発動や維持には私の魔力がいるのかもしれない」

凛「実際桜の体内に入ったときは、獣の槍を維持出来ずにイリヤたちに助けられたわ」

凛「でも獣の槍の、能力の魔力はいつ私から取ってるの?」


とら「…………」


凛「考えてみたら当たり前のことよ」

凛「私の思っている獣の槍の真の能力は、魔術、魔法、いや、奇跡と言っていいわ」

凛「そんなの私一人の魔力で供給出来るはずがないもの」


とら「……りん。なにが言いてえ」




凛「獣の槍は、魔力消費型じゃない」




凛「使用回数に制限のある宝具よ」





桜「そんなの、あるんですか……?」

イリヤ「別に珍しいものじゃないわ」

イリヤ「ちょっと違うけど私のバーサーカーの十二の試練だって回数のある宝具よ」


キリオ「獣の槍は、使用者の魂を喰らい力を貸す退魔の霊槍」

キリオ「そして槍に魂を全て喰われた者は、獣と化し元に戻ることはない」


リズ「その逸話を元に、宝具の獣の槍は出来た」

セラ「なるほど……。魂を奪われる回数、それが制限に……」


凛「とら……教えて」


凛「あと何回、宝具は使えるのよ?」




とら「…………」




凛「本当は前から限界だったんじゃないの?」





・蒼月家玄関前


うしお「槍か……」


セイバー「ウシオ? どうしたのです?」


うしお「あ、いや、前にイリヤが魔術で作ってくれた槍を思い出してさ」

うしお「あれもオレの部屋にあるんだ。持っていこうかと思ってよ」


セイバー「予備の得物ということですか?」


うしお「凛姉ちゃんから渡されたこの槍が壊れるなんて思ってない。でも……」


セイバー「……おそらく、これからの戦いがこの聖杯戦争の最後の戦いになるでしょう」

セイバー「戦場に万全の状態で挑みたい。その気負い、騎士として理解出来ます」


うしお「最後の戦い……。槍が、壊れ……」


うしお「すまねえセイバー!!」

うしお「やっぱりイリヤの槍を取ってくる!! 先に行っててくれっ!!」


セイバー「了解です。マスター」



凛「マスターとサーヴァントは魂で繋がっている」

凛「隠そうと思っても隠しきれるものじゃないわ」


とら「…………」


凛「直感的に分かってしまうのよ、私はアンタのマスターだから」


凛「ずっと前から限界だった。でも、うしおくんや井上さんのいるこの世界に留まるために……」


凛「ねえ、本当は分かってるんでしょ?」


凛「この次に宝具……獣の槍を使ったら……」




凛「とらは、消えるのよ?」




とら「……魔力の補充は終わりか、りん」




凛「こ……のォ……!!」




とら「ハラァいっぱいだ。わしはもう行くぜ」




凛「馬鹿……とらァ……」





・廊下








うしお「……………………」









・柳洞寺山門前


ダッダッダッダッ


うしお「ハァッ……ハァッ……」


セイバー「ウシオ……?」


うしお「えっ、な、なんだいセイバー」


セイバー「予備の槍を取りに行ったのではなかったのですか?」


うしお「あ……あぁ……。いや、そのオレさ、二刀流なんてやったことねえからよ」


セイバー「それは、確かにそうですね」

セイバー「二槍使いと戦ったことがありますが、あの技術が一朝一夕で手に入るとは思えない」


うしお「そ、そうだろセイバー。槍なんていらないさ……」


うしお「槍なんて、使わなくたって……」


セイバー「……?」



セイバー「ん? トラが追いついたようですね」

うしお「…………」


セイバー「トラ、魔力の補充は十分ですか?」

とら「けっ、わしの心配なんかしてんじゃねーよ剣使い」

セイバー「その様子だと大丈夫のようですね」

とら「それよりこのニオイ、もう始まってやがるか?」

セイバー「はい、日も暮れ魔力の密度も高い。前回の聖杯戦争の終盤と同じです」

セイバー「聖杯の降臨は始まっていると考えていいでしょう」


とら「いいぜ。わしの食い物を奪ったクソ野郎をブッ倒せばいいだけよォ……!!」

とら「そうだよなァうしお、マユコたちを取り戻すんだろォ!?」


うしお「あ、あぁ……!!」

うしお「全部、オレに任せろってんだ!!」

うしお「お前の……お前の出番なんてねえぞ、とらァ!!」


とら「けけけけ!! 言うじゃねえか、気合い入ってんなァうしお!!」

セイバー「これは、負けていられませんね」


うしお「それじゃ行こうセイバー、とら……」



・柳洞寺境内


ギル「待ちわびたぞセイバー。小僧、それに獣よ」


セイバー「英雄王……」

うしお「ギルガメッシュ……!!」

とら「てめえがここにいるってことは……。槍使いはどうした!?」


ギル「ククッ、ランサーならば狗畜生らしく鎖に繋いで躾けている最中だ」


とら「ちぃ~~!! あの馬鹿槍使いがァ~~」


ギル「この魔力の密度、頃合いは十分だ」

ギル「ようやく聖杯も化けの皮を着込み始めたとみえる」


セイバー「貴様たちは何を……。ギルガメッシュ、貴様の目的はなんだ!?」


ギル「目的などない。言っただろうセイバー、我の関心はお前だけだと」



うしお「一つだけ教えてくれねえか、ギルガメッシュ」


ギル「いいだろう小僧。宴の席だ、多少の無礼も許そう」


うしお「……オレは、白面のせいで変わっちまった人を知ってんだ」

うしお「もしかしたらお前や言峰神父も、聖杯のなかの白面のせいで……」


ギル「我が白面の陰の気に染められているのでは、と」

ギル「小僧、侮るな」


うしお「えっ……」


ギル「あのような見上げることしか出来ぬ小者など……」


ギル「何匹いたとしても我を染めれるものかァ!!!!」


うしお「うっ……こ、これが英雄王……ギルガメッシュ……」


ギル「クックックッ……」

ギル「しかし、言峰のほうは分からんな」

ギル「言峰の身体のなかに流れる力は紛れもなく白面のものだ」

ギル「この聖杯戦争を仕組んだのは言峰の意思か、はたまた白面の陰の気か」

ギル「それも間もなく分かる」



セイバー「なるほど。貴様たちの目的は見えずとも時間はなさそうだ」

セイバー「ウシオ、トラ。先に行ってください」


とら「いーや、先に行くのはおめえよ剣使い」


セイバー「トラ……?」


とら「おめえはあの日の夜に借りを返したろうが」

とら「わしはまだなのよ。槍使いの分も含めて、あの金色野郎はわしの獲物だ」


セイバー「トラ、これはもう貸し借りの話ではありません」

セイバー「貴方も分かっているはずです。貴方と英雄王の相性は最悪と言っていい」


うしお「相性……。確かサーヴァント同士にはクラス相性があるんだよな?」


セイバー「はい。トラは特殊なクラスですが英雄王の対妖怪の宝具は致命的です」

セイバー「勝率のことを考えれば、この場に残るのは私だ」


とら「相性だの勝率だの関係ねーな。わしがあいつより強けりゃいいだけよォ」



セイバー「ですがトラ、ここは」

うしお「ここはとらに任せよう、セイバー」


セイバー「ウシオ、これは戦局を左右する選択です。貸し借りの優先など」


うしお「ああ、セイバーの言い分のほうが正しいと思うぜ」

うしお「きっと凛姉ちゃんがいたらセイバーを残したんだろうな」


セイバー「それならば……」


うしお「オレはサーヴァントの相性とか知らねえけどよ。ただ……」


うしお「とらが同じヤツに何度も負けるなんて、オレには思えねえんだ」


とら「へっ」


セイバー「……まったく。分かりました。トラ、ここは任せます」



とら「けけ、おめえにしちゃ聞き分けがいいじゃねえか」


うしお「別に本当にそう思っただけさ。それに……」

うしお「お前がここに残ってくれたほうが、オレも安心出来るしな……」


とら「……?」


セイバー「トラ、一つだけ言わせてください」

セイバー「英雄王の対妖怪の宝具は確かに強力です。ですが」


とら「それなら言わんでいい。やつの原典の槍を見たときから分かっとる」


セイバー「え……?」


とら「いいから行きなァ、聖杯が完全に降臨しちまうぜ」

とら「マユコのこともあるのよ。わしもこいつをすぐにブッ倒して追いつくからよ」


うしお「そうだな、麻子たちを早く助けないと……。行こうセイバー!!」

セイバー「はい。トラ、ご武運を」



とら「生憎だったなァ。てめえの欲しいもんは行っちまったぜ?」


ギル「どこに行こうがあの女は我のモノだ」

ギル「むしろ自ら聖杯に染まりに行くとは……」

ギル「ククッ、泥を飲ませる手間が省けるというもの」


とら「ちっ……。計画通りってか……」


ギル「選択を見誤ったな獣よ」

ギル「我と対峙するのがセイバーならば、万が一の可能性があったかもしれぬというのに」


とら「なにも間違っちゃいねーよ」


ギル「ほう……。獣ふぜいが策を練ったか」


とら「さーて、どうだかね。それよりわしは……」

とら「そのニヤケ面をブン殴りてえだけよォーー!!!!」


ギル「その気合い……妖怪ごときでも宴を飾るに悪くないか」

ギル「よかろう、相手をしてやる。フフフ……フハハハハハハ!!!!」



言峰「ようこそ聖杯降臨の儀式へ、とでも言おうかな」

言峰「蒼月潮にセイバーよ」


うしお「言峰神父、やっぱりここに……!!」

セイバー「あの後ろの空中に捕らわれているのはアサコとマユコ……外道め……!!」


言峰「フッ……」


セイバー「貴様の欲する物は聖杯だろう、彼女たちは関係ないはずだ!!」

うしお「そうだ言峰神父!! 麻子と真由子を下ろしてくれよォ!!」


言峰「それは出来ない相談だな」

言峰「確かにセイバーの言うとおり私の望みは聖杯だ」

言峰「しかし、それには彼女たちの力が不可欠なのだから」


セイバー「なにを……。二人は魔術師ではない、何の力も……いや……」

うしお「まさか真由子の……お役目の力……!?」


言峰「フフ、そのとおりだよ蒼月潮」



言峰「聖杯などという小さな器では白面の泥は溢れてしまう」

言峰「前回の聖杯戦争で、光覇明宗が結界で泥を阻止したときから考えていた」

言峰「あの白面の泥を余すことなく受け止める術はないのかと」


セイバー「それがマユコの力か……!!」

うしお「それで白面の泥を全部手に入れて何をしようってんだよ!?」


言峰「私の望みは変わっていない」


うしお「変わって、ない……?」

セイバー「ここにきて虚言か」

セイバー「貴様の前回の望みは、白面を解き放つことだったはずだ」

セイバー「その白面はウシオとトラによって滅ぼされている」


言峰「うむ、そうだなセイバー。確かにその白面はすでに存在しない」


うしお「それなら……!!」


言峰「ならば新しく白面を生み出し、この世に解き放つ。それが私の望みだ」



セイバー「白面を生み出すっ……!?」

うしお「そ、そんなこと出来るはずがねえっ……!!」


言峰「フフ……」

言峰「聖杯のなかにある白面の体の欠片は、龍脈の力を吸い上げ続け、すでに聖杯を乗っ取っている」

言峰「最早あれは聖杯と呼ぶようなものではない。まさに白面の力そのものと呼ぶに相応しいものだ」


言峰「その白面の泥を、白面の毛皮に形作ったお役目の結界に流し込めば……」


うしお「白面が生まれるっていうのか……!?」


言峰「そうだ蒼月潮」

言峰「私が誕生させるのだ。『この世全ての悪』を」

言峰「私が生み。私が生かす。私が傷つけ私が癒す」


言峰「これこそ我が望み、我が願望……」

言峰「初めからこの世に望まれなかったもの……」




言峰「白面を……!!」




言峰「私が、誕生させるのだよ……!!!!」





セイバー「ば、馬鹿な……」

うしお「また白面が生まれる……。あの白面が復活する……」


言峰「それも間もなくだ。すでに聖杯の降臨は始まっている」


うしお「やらせるかよ……。やらせねえぞォ言峰神父!!」

セイバー「そもそも白面の皮の結界など、マユコが手を貸すはずがない!!」


言峰「それはどうかなセイバー」

言峰「中村麻子の首を圧し折る仕草を見せたら、井上真由子は快く引き受けてくれたが?」


セイバー「外道、貴様ァ……!!」

うしお「真由子を言い聞かすために麻子をォ……!!」


言峰「フフフ……」


言峰「さあ、そろそろ宴を……白面の誕生祭を始めよう」


言峰「この白面戦争、お前たちが最後のマスターとサーヴァントだ」



うしお「えっ!? な、なんだ、この黒い靄は……!?」

セイバー「次第に輪郭がハッキリと……。気をつけてくださいウシオ!!」


黒炎「ケケ……ケケ……」


うしお「こいつらは、黒炎……っ!?」


言峰「ほう、この力がここまで実体化するとは……」

言峰「フフ……。そうか白面よ、間もなくなのだな」

言峰「間もなくお前は完全に具現化する……!!」


うしお「そんな……本当に、白面が復活しちまうのかよ……」


黒炎「キシャァァァァ!!」

セイバー「ウシオっ!!!!」ザシュッ!!


うしお「す、すまねえセイバー!!」


セイバー「この黒い鬼たちは私に任せてください」

セイバー「ウシオ、まだ聖杯は完全に降臨したわけではありません」

セイバー「泥を受け止める結界さえなければ白面の復活はない」


セイバー「ウシオはあの男を倒し、アサコとマユコを助けるのです!!」


うしお「よし……分かった。セイバーここは頼んだぜ!!」



うしお「言峰神父……!!」


言峰「フフ……。開幕の夜から予感があった」

言峰「蒼月潮、最後にお前と対峙することになると」


うしお「え……」


言峰「私の身体のなかには白面の力が流れている」

言峰「つくづくお前と白面は縁があるらしい」


うしお「白面との縁か……。確かに縁がないなんて言わないさ」

うしお「最後に聞かせてくれ言峰神父。白面の復活なんてやめないかい?」


言峰「フッ、出来ない相談だ」


うしお「そうかい……。だったら……」


うしお「行っくぞォォーーーー!!!!」


言峰「さあ……。真の開幕を告げよう……!!!!」



ドガガガガガガ


ギル「……向こうも始まったか」


とら「余所見してんじゃねえーーっ!!」


ギル「王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)」

パチンッ


とら「ちぃぃ~~~~!!!!」


ギル「なんだそれは……。以前と変わらず対妖の宝具を避けるだけか」

ギル「無様な、それでは宴は盛り下がるというもの」


とら「けっ、好き放題言いやがるぜ」

とら(あの宝具の雨をかわして、金色野郎に近づけりゃ……)


ギル「まさか獣よ、このまま一芸の披露もなしではあるまいな」


とら(近づけりゃあとはどうにでもなる。だが、どうやって近づくかよ……)



うしお「うおおおおおおおお!!!!」


言峰「その槍……。いや、その剣は……」

言峰「フフ、どこぞの小娘にやった物だが。なるほど、意趣返しのつもりか」


うしお「ああ!! だから、負けられないのさァーー!!」


言峰「脇目も振らずに槍の突進、実にお前らしい。だが……」


うしお「あ、あれは……っ!?」

うしお「ぐっ……!!」


言峰「ほう、黒鍵を防いだか」

言峰「今のは知っている動きだったな、蒼月潮」


うしお「それを使う姉ちゃんと一緒に戦ったことがあってさ!!」


言峰「代行者と……。それでは黒鍵は有効ではなさそうだ」

言峰「しかし、それはこちらとしても……。フ……ッ!!」


うしお(はやっ!?)

うしお「が……はっ……。こ、拳…………」


言峰「ふー……。私としても、こちらのほうが得意だがね」



黒炎「ケケケケーーーー!!」


セイバー「はああああああ!!」


ザシュッ!!


黒炎「ケケ……ケケ……」


セイバー「際限がない……。黒炎といったか、無数に増え続ける……」

セイバー「おそらく大元の聖杯を破壊しなければ、この増殖は止まらない」


セイバー「早くウシオの援護に行かなければ……!!」


黒炎「キシャァァァァ!!」


セイバー「くっ……!!」


セイバー「ウシオ……トラ……!!」



ギル「どうした獣よ。もう逃げ場がないぞ」


とら「わしが逃げるかよォ!!」


ギル「この国の言葉で袋のネズミといったか、まさにそれだな」


とら「ちぃっ、こっちもかァ~~!!」

ドスッッ!!


とら「ぐぅぅうおおおお!!!!」


ギル「すでに身体中は穴だらけ、そろそろ終わりか」

ギル「くだらん見世物だったな」


とら「まだまだァ、終わりじゃねえ……!!」




『わたし達を使え』




とら「……やっぱそれしかねえか」





とら「わしだけの力でやりてえのによォ」


とら「しっかし本当におめえら使って上手くいくのか、それ次第だぜ」




『力を、さらなる力をやる。とら、わたし達を使え』




とら「けっ、しゃあねえな。使ってやらあ!!」




『そうだ。そうすれば、おまえは強くなる……!!』





とら「雄ぉ鳴ぉ雄ぉ鳴ぉ雄ぉ鳴ぉ雄ぉ!!!!!!」




ギル「追い詰められ、最後は苦し紛れの真正面から特攻か」


ギル「所詮は獣よ。これで終わりに……なっ……貴様、その姿は……!?」




とら「ひゃーっはっはっはっはっ!!!!」




宝具『字伏の鎧』!!!!




ギル「貴様ァ…………。獣の分際で鎧を着込むのかァァーー!!」




とら「こいつらの力を借りるのはちょいと気に入らねーが……!!」


とら「てめえのその驚く顔が見れるなら悪かァねえなァ!!!!」





ギル「戯れ言をォォーーーー!!!!」




ドガァッ!!

字伏『ぐぅぅ……!!』

とら「お、おい!!」

字伏『わたし達のことは案ずるな。やつに近づくまで必ず保たせる』

字伏『しかし、このような方法が通じるのは一度だけ』


字伏『これで決めるのだ、とら』




とら「言われるまでもねえーーーー!!!!」




ギル「くっ……!!」





ギル「クッ……ククク……」


とら「なんだァ!?」

とら「もうやつは目の前だってのに身動き出来ねえ!?」


ギル「フフフ……」


とら「こ、こいつァ……」

とら「わしの身体を無数の鎖が縛ってやがるのかよ!?」


字伏『ぐっ、がっ……』バキバキィ


ギル「フハハハ!! ハァーハッハッハッハッ!!!!」


とら「金色野郎!! てめえの宝具かァ!!」



ギル「褒めてやるぞ獣よ。我はこれを使う気はなかったからな」


とら「ちぃぃ~~!!」

とら「こんな宝具も持ってるかよ……!!」


ギル「ククク……。しかし、最後の一芸はなかなかに愉しめた」

ギル「獣が鎧を着込むなど珍奇な見世物だが、王としては褒美をやらんとな」


とら「くっそっがァァ~~!!」


ギル「暴れても無駄だ。その鎖は妖怪の貴様でも引き千切ることなど出来ん」


ギル「フフフ、褒美だ。受け取るがいい」


とら「そ……そいつァ……!!」


ギル「やはり貴様を消滅させるなら……」




ギル「この獣の槍の原典でなくてはな」





ギル「聞くところによると貴様は多くの異名を持つらしいな」

ギル「長飛丸、わいら、雷獣、字伏……。そして、黄金の獣」

ギル「これで妖怪ふぜいの貴様も理解出来たであろう」

ギル「黄金の名に相応しい英霊は我だけよ」


ギル「終わりだ」


ドスッ……


ギル「ククッ……。フフフ……ハァーハッハッハッハッ!!」




とら「……けけ、けけけ……。けけ……」




ギル「な……。笑っている……?」


ギル「何故、獣の槍で刺されて消滅しない……!?」


とら「なーんだ、やっぱりかよ。なんのことはねえ」


とら「けけっけっけっ!!」



ギル「生前、貴様は獣の槍を忌み嫌っていた……」

ギル「サーヴァントとなった貴様の弱点は、獣の槍のはずだ……!!」


とら「けけ……。ああ、そうだぜ」

とら「わしら妖にとって獣の槍は忌々しいクソ槍よォ」


とら「だが、そりゃてめえの持ってる槍じゃねえよなァ?」


ギル「な、に……」


とら「獣の槍の原典だと、けけっけ」

とら「タコが、そんなモンあるわきゃねーだろ」


ギル「この原典の槍が、獣の槍ではないだと……?」


ギル「妖怪ごときが戯れ言を抜かすな……っ!!」

ギル「獣の槍を辿って行けば、必ずこの原典に辿り着く……!!」


とら「けけけ……。いいぜ……」

とら「そこまで言うならよォ、その槍を真名解放してくれねえか」



ギル「真名解放、だと……?」


とら「その槍にゃ封印の赤布がねえ、獣の槍が出来たときのように暴走してねえワケだ」

とら「だったら使用者が能力を解放しねえとなァ」


ギル「……お…………」


とら「獣の槍は認められた人間が使わなきゃ、ただの頑丈な槍だ」

とら「てめえがその槍の使用者だって言うなら真名解放してくれよォ」




ギル「……お……のれ…………」




とら「けけえけっけっけっ!!!! 出来るわきゃねえよなァ!!!!」


とら「槍を手に持ってるのに髪がまったく変化してねえんだからよォォーー!!!!」




ギル「おのれええええ!!!!」




とら「笑わせるぜェ!!!! おめえは宝具を持ってても使えねえのよォ!!!!」


とら「英雄王とやらのくせによォ!!!!」




ギル「おのれおのれおのれおのれおのれおのれぇぇ!!!!」




とら「ひゃはははは!!!! 怒りやがった!!!!」


とら「英雄王が怒りやがったぜええ!!!!」





ギル「首を伸ばして、自身の四肢を噛み切るだと……っ!?」

ギル「おのれバケモノめええーーーー!!!!」


とら「そうだァ!! わしはバケモノだぜェ!!」

とら「これだけ近づかれりゃ得意の宝具の撃ち出しは出来ねえよなァ!!!!」


ギル「ぐぅぅ……くっ……!!」


とら「たわけえ!! そのねじれた剣は使わせねえ!!」


ギル「がっ……」


とら「そいつがてめえの真の宝具なんだろうが使わせるかァーー!!」

とら「わしは剣使いと違って騎士道精神なんて持っとらんのよォ!!!!」


ギル「おのれええ……っ!!」


とら「慢心したなァ英雄王!!」

とら「わしを殺すのにわざわざ獣の槍を使おうとするからこうなるのよォーー!!」




ギル「おのれおのれおのれおのれおのれおのれぇぇーーーー!!!!」




とら「妖殺しの逸話のある剣でも弓でも出しときゃ勝負は違ってたぜェェ~~~~!!!!」




ギル「おのれええええええええええええええええええええええええ!!!!」




とら「おのれの…………負けだ…………!!!!!!」





ギル「ククク……」


サァァァァ


ギル「いつの時代も、バケモノは我を愉しませる」


とら「けっ、こんな決着で納得出来るかよ」

とら「ただのまぐれ勝ちじゃねえか」


ギル「早く行くがいい。小僧とセイバーだけではアレには勝てぬ」

ギル「獣よ、あのときと同じだ」


とら「あのときだァ?」


とら「……待てよ……。そうだ、あのときもおかしいと思ったぜ」

とら「白面との最終局面、なんで北の土地神や雪妖があんな簡単に南の海に来れた」


とら「空は婢妖と黒炎に覆われてたってのに……!!」


ギル「フフ……舞台を盛り上げるのは、なにも演者だけではない」


ギル「ときには観客の一声で盛り上がることもある」


とら「てめえ……っ!!」




とら「……ちっ……いろんな人間を喰ってきたが……」




とら「ここまで喰えねえやつは初めてよ、英雄王」




ギル「クックックッ…………フフフフ…………」




ギル「ハァーーーーハッハッハッハッハッハッハッハッ!!!!!!」





うしお「うおおおおーーーー!!」


言峰「ハァァッ!!」


うしお「ぐっ……はっ……」


言峰「フッ……」


うしお「はぁ……はぁ……。つ、つえぇ……」

うしお「これは聖杯の力じゃない、言峰神父自身の力だ……っ!!」


言峰「私も衰えはしたが、獣の槍を持たぬお前に負けるつもりはない」


うしお「獣の槍は必要ねえさ……。それより言峰神父……」

うしお「なんでだよ、なんで白面を復活しようなんて思うんだ……!!」


言峰「……そうだな。私の望みは語ったが、その理由までは語っていないか」


うしお「白面が復活したらどうなるかなんて、もう二年前のときに分かっただろ!?」


言峰「フフ、だからこそだ。私はまたあれが見たいのだから」



うしお「え……」


言峰「二年前の白面、あれは本当に素晴らしかった」

言峰「あのような地獄の光景こそ、魂の炸裂、人間の最高の煌めきがある」

言峰「生存という助走距離をもって高く飛び、空に届き、尊く輝くもの……」

言峰「その瞬きこそ、人間の価値だ」


うしお「なにを……言って……」


言峰「理解出来ないか蒼月潮」

言峰「人間とは、死の瞬間にこそ価値がある」


うしお「言峰神父……。本気で、言ってるのかい……」


言峰「ああ、もちろんだ」

言峰「歪な形ではあるが私ほど人間を愛している者はいない」


うしお「そんなこと……そんなこと……」


うしお「分かってたまるかァァーーっ!!」


言峰「お前は白面と、いや、『この世全ての悪』と対となる存在……」

言峰「蒼月潮が理解出来ないのも道理か」



言峰「我が生涯をかけた問いの答え、それこそ白面がもたらすもの」

言峰「許しには報復を、信頼には裏切りを、希望には絶望を」

言峰「光あるものには闇を、生あるものには暗い死を」

言峰「白面の者こそ、我が望みの全て」


うしお「だから……白面を復活させるなんて言うのかよ……っ!!」


言峰「そうだ。あの地獄の光景を私は再び見る」


言峰「何故なら、白面がこの国を蹂躙していくさまを見て……」


言峰「私は生まれて初めて……」




言峰「心から嗤ったのだからなァア」




うしお「そ、その顔は……っ!?」





うしお「言峰神父、やっぱり聖杯に……」


うしお「白面に汚染されて……!!」


言峰「フフ、それは違うな蒼月潮」

言峰「私は染められてなどいない」

言峰「そしてそれこそが、私が生まれながらにして悪だという証明だ」


うしお「証明……!?」


言峰「私は前回の聖杯戦争で白面の泥を浴びた」

言峰「しかし私は白面に染められることなく生き返り、聖杯の力を手に入れたのだ」


言峰「これこそ私が白面と同じ存在であるということ」


言峰「自身の本質の証明、私が探し続けた答えだ」


うしお「言峰神父が……白面と同じ……」



言峰「つまるところ、私とお前の戦いは二年前の延長戦だ」


うしお「もう…………分かったよ…………」


うしお「言峰神父は、白面に染められてるワケじゃねえんだな……」


うしお「あの戦いの延長戦か……。だったらよ、だったら尚更……」




うしお「負けられねえじゃねえかァァーーーーッ!!!!」




言峰「それでいい蒼月潮。お前の全てを賭けろ」


言峰「私がお前を、陽の存在を破ることで白面の敗北を……」


言峰「あのようなツマラナイ結末を帳消しに出来る……!!!!」


うしお「なにをォォ!!」


言峰「私が白面を誕生させる理由、それはつまり自身を解き放つということだ」


言峰「これほどの欲望の解放があるだろうか……!!」


言峰「娯楽、愉悦、それらを超えて私は自身の、白面の誕生を祝福しよう……!!!!」



うしお「うおおおおおおおお!!!!」


言峰「フッ……!!」


うしお「どうだァァーーーー!!!!」


言峰「悪くない、やるではないか……!!」


うしお「おおおおおおおお!!!!」


言峰「しかし甘いな……!!」


うしお「くっそォォ~~~~!!!!」


言峰「ハァァッ……!!」


うしお「ぐ……はっ……」



うしお「はぁ、はぁ……」


言峰「うむ……。まだ立ち上がれるか」

言峰「これでも並の人間なら死ぬ程度には拳打を入れているつもりだが」


うしお「オレは何度でも立つぜ……」


言峰「その果てに、私に敗北するとしてもか?」


うしお「勝つさ……!!」


言峰「フフ、雷獣とセイバーの援護を期待しているなら無駄だ」


言峰「いくら待っても来れるはずがない。今のお前は一人だ」




うしお「いーや、違うぜ。言峰神父……」




うしお「今、オレは凛姉ちゃんと一緒に戦ってんだ……!!!!」





ボオォッ


うしお「こ、これは……!?」


言峰「槍が燃えて……。それは、炎の魔術……」

言峰「遠坂時臣の魔術に似せた小細工か。凛め、くだらんことをする」


言峰「……いや待て、回路のない蒼月潮に魔術の発動は出来ない」

言峰「その力は誰のものだ……っ!?」


うしお「すげえぜ凛姉ちゃん。アゾットの槍から力が溢れてくる、まるで獣の槍みてえだ」

うしお「よーし、これならァ……!!」


言峰「あのアゾット剣にそんな能力はなかったはずだ……」


言峰「だが、その力は我が師の…………馬鹿な…………」


うしお「言峰神父、行っくぞォォーーーー!!!!」


うしお「うおおおおおおおお!!!!」


言峰「ぐううううぅぅぅぅ…………!!!!」



うしお「おりゃりゃりゃりゃりゃりゃ!!!!」


言峰「ぐっ…………!!!!」


言峰(この聖杯戦争で観測された不可解な現象……)


言峰(暴走したバーサーカーの解放……間桐桜の呪縛の断ち切り……)


言峰(それらは全て雷獣の宝具、獣の槍の能力だと極め込んでいた)


言峰(そういうことか……!! 蒼月潮は……現存する英霊……!!)


言峰(宝具と呼べるほどの、昇華された能力を持っていたとしても……!!!!)




うしお「これで言峰神父……!!」


うしお「終わりだァァァァーーーー!!!!」




言峰「がっ…………はっ…………」





言峰「は……はっ……。そう、か……」


言峰「生者も死者も、関係なく……陽の存在を連れてくる……」


言峰「蒼月潮の……使用者に自覚がなくとも、能力を発揮する……」




言峰「常時発動型の宝具…………」




言峰「フ……フフ…………」




言峰「なるほど…………あの白面が敗れるはずだ…………」





うしお「もう聖杯の儀式を……。言峰神父、白面の復活を止めてくれ」


言峰「フッ……。私は言ったはずだぞ蒼月潮」


言峰「出来ない相談だと」


うしお「えっ……」



セイバー「ウシオーー!!」



うしお「セイバー!? そっちは大丈夫か!?」


セイバー「はい、私は問題ありません。一時的だとは思いますが黒炎も掃討出来ました」


セイバー「しかしウシオ、気をつけてください!!」


セイバー「このような魔力の密度は今まで感じたことがありません……!!」



とら「ちぃぃ~~~~!!!!」

とら「英雄王が言ってやがったのは、やっぱりかよォ……!!!!」


うしお「とらァ!?」


セイバー「ま、まさか……トラ…………」


セイバー「これが……これが……そうだと、いうのですか…………」


うしお「とら、セイバー、どういうことなんだ!?」


言峰「サーヴァントの雷獣とセイバーには視えているか」


言峰「いや、もうお前にも実体が視えているのではないかね」




うしお「え…………あ…………あぁ…………そ、そんな…………」




言峰「もはや誰にも聖杯の儀式を止めることは出来ない」


言峰「私にも、そして蒼月潮、お前にもだ」




『くっくっくっ…………』




言峰「さぁ…………白面の誕生だ…………」





セイバー(これが……)


セイバー(原初と混沌の時代、わだかまった陰の気より誕生した邪悪の化身……)


セイバー(白面の者……!!!!)


セイバー(黒炎のときと同じだ。まだ輪郭程度しか分からないが……)

セイバー(確かに視える。そこに存在している、生まれようと……!!)




『また、会ったな』




とら「ちっ……」




セイバー「な、なんだ、頭に響くような……」


言峰「フフ……この声は……」


うしお「白面の、声だ……」



うしお「また……って聞こえた……」


セイバー「ウシオもトラも白面と因縁のある相手、おかしくはない」

セイバー「だが、今のはトラに向けた言葉だったような……」


うしお「分からねえ……」

うしお「でも今のはオレの知ってる白面の声だった」


セイバー「しかし、まだ白面は完全には実体化していないはず。どうやって……」


セイバー「あれは……」


セイバー「ウシオ、見てください!!」


うしお「皮の結界の中心……。あれは白面の体の欠片!?」


セイバー「聖杯を染め上げ、聖杯戦争を狂わせた全ての元凶……!!」


うしお「あれから白面の声が聞こえてるのか……っ!?」



セイバー「あの白面の欠片が龍脈を吸い上げているのなら、欠片さえ壊せば……」


うしお「白面の復活を止めれる……」


セイバー「ウシオ、欠片を破壊しましょう!!」

うしお「ああ!!」


キィィン!!


うしお「これは、黒鍵……!?」


言峰「そのような行為を私が見逃すと?」


黒炎「キキキキ……」

黒炎「キシャァァァァ!!」


セイバー「貴様たち……!!」

うしお「言峰神父……!!」



『この世界……この次元だと何度目だ?』


とら「さーて、もう数えちゃいねえよ」


『くくっ……。だが、不思議に思ったであろうなアァ……』


とら「あ……?」


『守護者の召喚ではなく、聖杯戦争などという召喚……くくく……』


とら「何が、言いてえ……」




『聖杯のなかの我が、おまえを呼んだのだ』




とら「なにィ……!?」




『やはり……我が生まれるなら…………』


『おまえの魔力……いや……血肉で育ち生まれなければ…………』




『なァ、シャガクシャァア』




とら「てめえ…………っ!!!!」




『くっくっくっ…………永遠のときの淵……星の滅びで…………』








『また会おうぞ』











『……お…………』




とら「ちぃ……。そういうことかよォ~~~~!!」




『…………お………………お……………………』




うしお「白面の……」

セイバー「様子がおかしい……?」


言峰「これは、どうなっている……」




ピキピキピキ……


パリィィン!!




セイバー「聖杯のなかの、白面の欠片が……!?」


うしお「割れた……っ!!!?」






『おおおぎゃああああああああーーーーーー!!!!!!』







とら「くっそがァ~~~~!!」


うしお「お、おいとら!! こりゃどうなってんだ!?」

とら「どうもこうもねえ、ヤツの本当の狙いは始めからこれだったのよォ!!」

セイバー「あれが白面の狙い……!?」

うしお「白面は言峰神父と協力して、復活を企んでたんじゃ……」

とら「タコが、そんなもんヤツは考えちゃいねーよ」


言峰「な、に……?」


とら「考えてみろクソうしお」

とら「あの白面が魔術師の儀式ひとつで復活なんて出来るのかよ?」

うしお「そ、そりゃ多分すげえ魔術師なら……」

とら「もし本当に出来るんなら大昔からヤツは世界中の魔術師に使いを送ってらァ」

セイバー「なるほど……。それでは白面は聖杯で復活出来ないことを知っていたと?」

とら「ああ、分かってたのさ」

とら「聖杯なんて大そうな名前で呼んでやがるが、ありゃただの魔力の塊よォ」



セイバー「しかし白面は、前回の聖杯戦争からあの男と組んでいたはず」

うしお「そうだぜとら。聖杯を利用して母ちゃんのいた柱を壊そうと……」

とら「そりゃヤツの分身の目的だ。白面の本来の目的じゃねえな」

セイバー「それでは……まさか……」


うしお「斗和子と白面の狙いは別だったってことかよ……っ!?」


とら「白面にとっちゃ聖杯も聖杯戦争もどうでもよかったのさ」

とら「ヤツに重要なのは、聖杯のなかにあるモンだけだからな」


セイバー「白面の体の欠片……」


とら「人間どもが勝手にやってた聖杯戦争だ」

とら「それを壊すために欠片を利用するなんざ、ヤツが見逃すわけがねえ」


うしお「そうか……。白面の本当の目的は……」

セイバー「自身の欠片を利用した魔術師たちへの報復……!?」



とら「ヤツは前回の聖杯戦争から仕組んでやがった」

とら「あとはそこの野郎にあることないこと吹き込んで今回の聖杯を降臨させたのよ」

とら「そして龍脈の魔力が大量に集まったところで、欠片を割って聖杯を違うモンに変える」



とら「それがヤツの……白面の計画よォ……!!!!」



セイバー「あらゆる願いを叶える聖杯が手に入る直前で……」

うしお「聖杯を変える……!?」



セイバー「それは確かに、魔術師への報復としては最大限のもの……」

うしお「いや、きっとそれだけじゃねえ」

うしお「白面は自分への恐れや憎しみを取り込んで力に変えるんだ」

うしお「どんな魔術師だって、そんなことをされたら……」

とら「ああ、それも狙いだろうな」



とら「まぁヤツにも誤算はあったぜ」

セイバー「誤算……?」

とら「欠片より先にてめえがブッ倒されるなんてヤツが想像するかよ」

うしお「そうか、憎しみを取り込む白面の本体はもういねえからな」




『…………お………………お……………………』




うしお「それじゃあよ、とら……。こいつは…………」

セイバー「願いを叶える聖杯でもなく、邪悪の化身の白面の者でもない……」


とら「ああ、そうだ」


とら「こいつは白面の泥…………陰の気に染まった大量の魔力…………」




とら「それが白面の皮を被っただけの…………」




とら「バケモノだぜ…………!!!!」




白面の泥『おおおぎゃああああああああーーーーーー!!!!!!』





言峰「フ……フフ……。そうか雷獣よ、白面は誕生しないか」


うしお「言峰、神父……?」


言峰「いや、その通りだ」

言峰「確かに白面の欠片とお役目の結界を使おうとも荒唐無稽な話か」

言峰「あの白面の者を誕生させるなど、魔法使いでも及び難い」


セイバー「まさか貴様、それを知りながら……!!」


言峰「それは違うなセイバー。私は白面の者を降臨するつもりだった」

言峰「白面の欠片の囁きに従い、聖杯戦争を開幕させた。私の願いのために」

言峰「そして……。その願いは叶ったようだ」


とら「あ……?」

うしお「とらの話を聞いてただろ言峰神父!! 白面に騙されてたんだぜ!?」

うしお「言峰神父のために復活なんて、白面はこれっぽっちも考えちゃいねえよォ!!」

うしお「あれは白面でもなけりゃ聖杯でもねえんだ!!」



言峰「やはり理解出来ないか、蒼月潮」


うしお「えっ……?」


言峰「聖杯を制御する中枢、白面の核となるはずだった欠片が割れた」

言峰「最早この聖杯、このバケモノが望むまま暴れるだけだ」

言峰「お役目の結界以上に龍脈の魔力を吸い上げ続け、泥を作り続けるだろう」


うしお「そ、そんな……」


言峰「龍脈とは星に流れる魔力の軌跡、一つの巨大な生命の鼓動、この大地の要だ」


うしお「大地の要……。妖たちが石となって支えてくれた場所……っ!?」

とら「そいつの力が吸われるってえことは……」

セイバー「この地、この国が、再び沈み始める……!!」




言峰「フフ……。蒼月潮、あれはお前にとって聖杯でも白面でもないか」




言峰「私にとっては、このバケモノは望みを叶える聖杯であり白面だよ」






白面の泥『おおおおおおおおおおおおーーーーーー!!!!!!』



黒炎「!?!?!?!?」

黒炎「ギャッ……!?」



セイバー「なんだ……。仲間割れ……!?」

とら「いーや、ヤツは黒炎どもを取り込んでやがるのよォ!!」


うしお「白面の細胞が暴走したときと同じだ……」

うしお「力を……魔力を手当たり次第に飲み込んで……」

うしお「こいつは言峰神父の言うとおり、この星の龍脈も吸い尽くしちまう……!!」



白面の泥『おおおおおお…………おおお………………』

ガシィッ

言峰「そうか、白面よ、聖杯降臨後は用済みか。フフ……ハハハハ……!!」



うしお「言峰神父!?」




言峰「身体が動かん。いや、そうだろうな」

言峰「私はお前と同じ悪性を持つもの、何よりも先に取り込もうとするのは道理」

言峰「『この世全ての悪』を名乗るならば、私を取り込むのも必然か」

言峰「思惑通りだろうな白面よ。だが本来この力はお前のものだ」

言峰「前回の聖杯戦争、その力を借りて生き返った。それを返すだけのこと」


うしお「ま、待て……っ!!」


言峰「私としては好都合だ。二年前に見るはずだった地獄の光景、私が望んだ世界……」

言峰「それを、この白面に成り変わり見ることが出来る」


言峰「悦ばしい。私の望みはようやく、かな」


白面の泥『おおおぎゃああああああああ!!!!!!』

グシャァッ



うしお「あ……あぁ…………言峰神父………………」



とら「ちっ……。英雄王と同じ勝ち逃げかよ」

セイバー「しかし、置き土産が強大すぎる……」



ドロォ……ベチャ……

ベチャ、ベチャ


セイバー「トラ、あれは……」

とら「泥が溢れ出てやがる、白面の皮の許容量を超えやがった」

セイバー「それでは、このバケモノは完全に実体化を……」


とら「ああ、その通りよ」

とら「こいつは今すぐにでも暴れ出すぜェ……!!」


セイバー「私たちが倒せなければ、この国、いや、この世界は……」

とら「けけけ、なーに剣使い、心配なんかすんじゃねえよ」

セイバー「トラ……?」

とら「わしらは倒したことがあるのよ」


とら「こんな真っ黒な気味の悪ィ白面なんかじゃねえ、本物の白面よォ!!!!」


うしお「………………」



セイバー「そうか……。トラの宝具の特性は白面に対して有効のもの……!!」


とら「獣の槍がありゃ、こんな白面くせえだけのバケモノに負けるかよ」


とら「なァ、うしお?」



うしお「……っ………」



とら「くくっ、やーっとこの聖杯戦争もしめえに出来そうだぜ!!」

セイバー「そうですね。ウシオ、私たちの手で決着をつけましょう!!」


とら「さぁうしお……!!」




とら「槍を呼びなァ!!!!」




うしお「…………」




とら「あ……?」





・柳洞寺付近道路


タッタッタッ

凛「ふー……」

凛「こっちはどうかしらキリオくん、みんな集まってる?」


キリオ「うん、大丈夫だよ。お姉ちゃんのほうは?」


凛「宝石はなんとか確保出来たわ」

凛「ま、帰って来たらメイドでもなんでもやってやるわよ」


キリオ(メイド……?)


凛「キリオくんのほうはどう?」

キリオ「大丈夫。法力もエレザールの鎌も準備は出来てる」

凛「了解、お互い戦闘準備はオッケーってことね」


キリオ(真由子姉ちゃん、必ず助けるよ)



桜「でも姉さん、この山の上に本当にあの白面がいるんですか?」

凛「私だって信じたくないわよ。この聖杯戦争が二年前の延長戦だったなんてね」

凛「でも、私ととらの繋がりで大体の状況は把握してるつもりよ」


イリヤ「そのバケモノを倒せば全てが終わるならやるだけよ」

イリヤ「アインツベルンの……ううん、私自身の手で聖杯戦争を終結させるわ」


セラ「お嬢さま……。はい、やりましょう」

リズ「私も、戦う」


凛「みんな準備も覚悟も出来てる、か」

桜「私に出来ることは少ないかもしれません」

桜「それでも、私もうしおくんやとらさんたちと戦いたいです」

凛「桜……。ええ、そうね。それは私もよ」


凛「それじゃみんな、行くわよ!!」

タッタッタッ


凛(とら……。アンタは、どうするのよ……)



セイバー「ん……?」

とら「おいうしお、聞こえなかったのかァ?」

とら「わしが槍を呼べって言ったろうが」


うしお「………………」


セイバー「ウシオ、どうしたのです?」


うしお「槍は……」


うしお「獣の槍は、使わなくてもいいさ」


セイバー「それは……どういう意味ですか……?」


とら「けけけっ、おいおいうしお」

とら「まさか今更おめえが白面に怖じ気づいたなんて言うんじゃねえだろうなァ?」


うしお「そんなんじゃねえよ、とら……。オレは……」


とら「ああ……?」



セイバー「ウシオ、もちろん私たちも理解しています」

セイバー「サーヴァントである我々がマスターの貴方に戦いを要請するなど間違っている」

セイバー「ですが現状の戦力を考えればウシオも分かるはずです」


うしお「そりゃ、オレだって……」


セイバー「あの白面の泥のバケモノを倒すにはトラの宝具が、獣の槍が不可欠です」

セイバー「それにウシオの得物はリンの魔術か何かで焼失してしまっている、二槍になることもない」

セイバー「獣の槍を呼び出すことに何も問題はないはずです」


うしお「…………。ダメなんだ、セイバー……。獣の槍を呼んじゃ……」


セイバー「え……」


とら「おめえ、まさか……」


うしお「……っ………」



うしお「そ、そうだ……っ」

うしお「何も宝具は獣の槍だけじゃねえ」

うしお「オレたちにはセイバーがいるじゃないかっ!!」


セイバー「私、ですか……?」

とら「……………………」


うしお「ははっ、なんで思いつかなかったんだ」

うしお「セイバーの宝具を使えば泥のバケモノなんて簡単に倒せるぜ!!」

うしお「なぁ、とらだって認めてたじゃねえか、セイバーの聖剣はすげえってよ」


とら「……………………」


うしお「そうだろとら、獣の槍を使う必要なんてないぜ……!!」


とら「うしお」


うしお「な、なんだよ……。それじゃダメなのかよ……」



うしお「待てよ……。凛姉ちゃんから聞いたことがあるぜ」

うしお「セイバー、聖杯戦争の大元は魔術協会ってところなんだろ?」

うしお「白面の泥なんてオオゴトになったんだぜ、あとはそこに任せたほうがいいんじゃねえか?」


セイバー「ウシオ……。なにを、言って……」


うしお「それもダメだって言うなら、光覇明宗のみんなもいるじゃねえか」

うしお「親父も動いてるって話しだし……無理にオレたちが戦わなくても……」


ガシィッ!!


とら「おめえ、それ本気で言ってんのか?」


うしお「なんだよとら、放せよ……」

うしお「オレ、そんなに変なこと言ってるか……?」


とら「ああ、言ってるぜ」

とら「おめえらしくねえことをべらべらとなァ……!!!!」



セイバー「本当にどうしたのですか、ウシオ」

うしお「………………」

とら「いいさ剣使い。この馬鹿が忘れたっていうんなら思い出させるだけよ」


とら「白面は、いや、白面に関係するものは獣の槍じゃなきゃ倒せねえ」


とら「そいつをこの世で一番よーく知ってんのはおめえだぜ」




とら「うしおォ!!!!」




うしお「そんなの…………分かってらい…………」


とら「だったら槍を呼べと言っ」


うしお「……え……んだろ…………」


とら「あ……?」




うしお「消えんだろ……。次に、獣の槍を呼んだら……」




うしお「とら…………消えちまうんだろ…………?」





・言峰教会


紫暮「間に合わなかったか……」


紫暮(この国と魔術協会、その二つの上層部に阻まれ光覇明宗は今回の聖杯戦争に関われなかった)

紫暮(しかし両者のパワーゲームが終わり、やっと光覇明宗が動けるようになったと思った矢先に……)

紫暮(言峰綺礼……。侮れん人物だ、前回の聖杯戦争で切嗣が最も警戒していただけはある)


紫暮「この瘴気の密度……。やはり聖杯の降臨場所は柳洞寺……」


??「紫暮」


紫暮「舞弥か。そちらはどうなっている?」


舞弥「全て伝令通りに」

舞弥「すでに厚沢一尉率いる特殊災害対策室の部隊はこちらに向かっています」


紫暮「うむ……。総本山の法力僧たちも駆けつけている」

紫暮「遅れたが聖杯戦争は終わっていない。舞弥、私たちも戦うぞ」



・柳洞寺付近


タッタッタッ


紫暮「………………」

舞弥「どうかしましたか、紫暮」


紫暮「私は、切嗣との約束を何一つ果たせてないと思ってな」


舞弥「どういう意味です?」


紫暮「あれから、託された娘には森の結界で会うことも出来ず、使用人の二人に会えた程度だ」

紫暮「それに聖剣の鞘は、記憶を喰らう婢妖から逃れるための石化でうしおに渡せなかった」

紫暮「私は、前回の聖杯戦争で白面から世界を救ったアイツに何も出来ていない」


舞弥「……切嗣への手向けならば今からでも遅くはありません」

舞弥「あの人の望みは白面のいない世界、あの白面入りの聖杯を破壊することが最大の手向けです」


紫暮「舞弥……。ああ、そうだったな」



紫暮「それはそうと舞弥……」

紫暮「やはり、その……須磨子は、来とるのか」


舞弥「はい。紫暮の言葉、総本山に残るようにと伝えたのですが」

舞弥「押し切られました」


紫暮「舞弥でも駄目だったかァ~~」

紫暮「あれは本当にニコニコ笑って押しが強いんだよ……」


舞弥「また保険の勧誘、すすめてみますか」

紫暮「ホントーにやらせてみたくなってきたなァ」

舞弥「フ……」


紫暮「舞弥」


舞弥「そうですね、分かりました。護衛に戻りましょう」


紫暮「いつもすまん」


舞弥「いえ、押しの強いマダムの護衛は初めてではありませんから」



・柳洞寺山門


純「紫暮様!」


紫暮「おお。純、間に合ったか」


純「はっ。伝令通り聖杯戦争の後処理の件、埋葬機関の代行者へ伝えました」

紫暮「彼女はなんと?」

純「『この国の代行者として仕事をするだけです』と」

紫暮「そうか、彼女が動いてくれるならば安心だ」

純「それと、その……紫暮様に、伝言が……」

紫暮「ん……?」


純「『これは貸しですよ。またカレーの美味しい店に連れて行ってください』とのことです……」


紫暮「ふふ……」


純「紫暮様……?」


紫暮「いや、彼女も変わらずだな」



紫暮「杜綱、日輪。準備は?」


杜綱「整っています」


紫暮「そうか」

紫暮「しかし用意していたとはいえ、こんな手は使いたくなかったんだがなァ」


日輪「ですが紫暮様、今のヤツなら自分からひと役買ったかと」


杜綱「日輪がそんな風に言うとは思わなかったな」


日輪「フンッ……。まだまだ未熟者だがな」


杜綱「確かに、だが魔術の才能はなくても法力の才能は分からない」

杜綱「このまま修行を続ければあるいは……」


紫暮「うむ。なんにせよ、あとは彼しだいか」


杜綱「はい、ですが彼ならきっと」

日輪「無様な戦いをしたら私が許さないわよ、間桐」



照道「近隣の光覇明宗の法力僧、可能な限り集めております」

紫暮「よし……。総本山の和羅様たちが到着するまで我々だけで敵を阻止するしかない」




紫暮「聞け、光覇明宗の者たちよ!!」

紫暮「おそらく敵の魔術師の目的は、聖杯の力による白面の者の復活だ」


紫暮「白面の完全なる消滅は……我ら光覇明宗の悲願……」




紫暮「心せよ!!」




「「はっ!!」」





・穂群原学園付近



タッタッタッ



慎二「よくも関守のヤツ、この僕に何度も遠慮なく土剋水を……」


慎二「いつかこの借りは……ん?」


慎二「柳洞寺の山の上のほうが光って……。チッ、もう始まってるか……っ」




・穂群原学園校門


「おーーい、慎二。やっと来たか」


慎二「ああ、それより頼んだヤツらは集まってるのか?」


「言われたとおり弓道部の連中、それに生徒会の一成たちにも集まってもらった」


慎二「よし……。やっぱりこういうのは人並みにお人よしのお前に頼んで正解だったね」


「人並みってなんだよそれ、褒めてるのか……?」


慎二「気にするなよ。とにかく人手がいるんだからさ」


「それなら遠坂に頼まれたとかで三人組の女子や、それ以外にも結構な人数が集まってるけど……」

「でも本当に、柳洞寺一帯でガス漏れ事件が起きてるのか?」


慎二「いや、ガス漏れより恐ろしい二年前と同じことが……」


「えっ……?」


慎二「とにかく僕たちで周辺の住人を避難させるんだよ」

慎二「地元の人間なら抜け道の一つでも知ってるだろ」


慎二「それは光覇明宗の連中には出来ない、僕たちの使命さ」



うしお「とらは、消えちまうんだろ?」


とら「おめえやっぱり、わしとりんの話を聞いてたのか」


セイバー「消える……? トラが……?」


セイバー「……いやウシオ、それは何かの間違いです」

セイバー「確かに我らサーヴァントの宝具は多大な魔力を消費します」

セイバー「ですが存在が消えるほどの消費はそうありません」

セイバー「リンは優秀な魔術師だ」

セイバー「それにトラがいくら大食いだといっても、今はサポートにイリヤやサクラもいる」


セイバー「獣の槍を使ったからと……トラが消えるようなことは……」


とら「………………」


セイバー「トラ……なぜ、否定しないのです……」


セイバー「本当、なのですか……?」



うしお「教えてくれよ、とら」

うしお「なんで……なんで獣の槍を使うと、お前が消えるなんてことになるんだよ……」


とら「………………」


セイバー「トラ……」


とら「……そういう、契約なのよ」


うしお「契……約……?」


セイバー「まさか守護者の……英霊の……」


とら「うしお、獣の槍はどんな理由で作られた?」


うしお「え……。そりゃ、ギリョウさんが白面が憎くて、白面を倒そうと……」


とら「そうだ、獣の槍は白面を倒すために作られた。それだけに特化した宝具だ」


とら「宝具、獣の槍は……対白面専用宝具なのさ」



うしお「獣の槍が、白面専用……」


セイバー「専用宝具……。いえ、そんなはずはありません」

セイバー「現に貴方はこの聖杯戦争で何度も獣の槍を使っている」


とら「けけ、そうさ。だからおめえらが見てねえところで何度も消えかけたぜ」


うしお「なっ……!!」


とら「なにを驚いてやがる、うしお」

とら「獣の槍を使えば代償がいるのはおめえが一番知ってんだろが」


うしお「そ、そんなことならオレは……っ!!」


セイバー(……きっとウシオは宝具を、獣の槍を使わなかった。使えなかった……)

セイバー(ですがそれではバーサーカーを倒せず、サクラも救えなかった)


セイバー(トラ……。貴方はそれが分かっていたから、何も言わず……)



とら「なーに気にする