王子「八畳一間のワンルーム?」 (56)

前作、魔王「魔王「八畳一間ワンルーム。風呂無し、共同トイレ。家賃は3万円」(魔王「八畳一間ワンルーム。風呂無し、共同トイレ。家賃は3万円」 - SSまとめ速報
(https://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1455015928/))の続きです。
書き留めがないので、ゆっくりと書きます。お付き合いいただければ幸いです。

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1467392607

王子『……なんなのそれ? お母さん』

魔王『そうだな。大まかに言えば、縦横360センチと360センチの部屋のことで……」

王子『360センチと360センチ?』

魔王『うむ』

王子『……全く意味が分かんない』

魔王『んー、なんと説明すれば良いだろうか……』

勇者『……相変わらず難しい言葉を使ってんなあ』

魔王『むっ、ゆうし――お父さん。起きていたのか』

勇者『おう……んでだな、王子』

王子『うん?』

勇者『八畳一間のワンルームってのは、まぁ、この寝室の三分の一ぐらいの大きさだ』

王子『三分の一? 小さいなあ』

勇者『そうだな。で、俺とお母さんはな、昔、そこで一緒に過ごしたことがあるんだ』

王子『2人で? 嘘だあ』

魔王『なんで嘘だと思うのだ?』

王子『だって、狭いじゃないか。このベッドだって入りやしない』

勇者『こんなに大きいベッドがおける部屋なんて、珍しいんだぜ?』

王子『そうなの?』

勇者『おう。その当時は、ベッドじゃなくて布団を使ってな』

魔王『うむ。お父さんと2人で、肩を並べるようにして眠っていたのだ』

王子『……ふーん』

魔王『いまいち信じられないって様子だな』クスッ

王子『だってさ、そんな必要はないじゃん』

魔王『必要はない?』

王子『お母さんは魔王城にずっと住んでて、お父さんは結婚してからここに住みだしたんだよね?』

勇者『そうだな』

王子『だったら、わざわざ狭いとこで2人で住む必要なんてないじゃんか。広いほうがいいんだし』

勇者『……それはまあ』

魔王『……色々あったんだ。そうしなくてはならない理由が』

王子『??』

前スレいつの間にか落ちてたからどうしたのかと思ってたわ

魔王『と、とにかくだ。そんなに悪いものでもないんだぞ。八畳一間のワンルームというのは』

王子『えー、だって狭いんでしょ?』

魔王『それはそうだが……』

王子『ストレスが溜まりそう』

魔王『す、ストレスか。確かにそうだが、どこでそんな言葉を覚えたんだ?』

王子『学校』

魔王『そ、そうか。最近の学校は進んでいるなあ……』

勇者『……なあ、王子。考えてもみろよ』

王子『うん?』

勇者『好きな子と二人っきりで過ごせるんだ。ならよ、出来るだけ近くにいたくないか?』

魔王『な、な、な……っ』カァーッ

王子『……そうなのかな? わかんないよ』

勇者『考えても見ろ。すぐそばを見れば好きな奴が無防備な寝顔を晒してて――』

魔王『ば、馬鹿者!』バァン

王子『……お母さん。そんな大声だされると、眠気が吹っ飛んじゃうよ』

魔王『あっ……す、すまない』シュン

勇者『やーいやーい。息子に怒られてやんのー』

魔王『む、むう……』

王子『……ねえ、お母さん。お父さん』

魔王『む?』

勇者『ん?』

王子『さっき、お父さんが言ってた通りさ――』

王子『好きな子とだったら、そんな狭い部屋で一緒に過ごしても、苦にならないの?』

 僕の質問に、お父さんとお母さんは顔を見合わせる。
 そしてお父さんが小さく笑うと、お母さんは照れたように頬を掻きながら、口を開いた。

魔王『……私は、苦にはならなかったよ』

王子『なんで?』

魔王『お父さんに恋をしたからだ』

王子『恋?』

魔王『うむ。私はお父さんに恋をした。だから、苦しくはなかった』

王子『どういうこと?』

 僕の問いかけに、お母さんは優しく笑う。

魔王『いつか王子が、誰かに恋をしてみれば分かる』

王子『本当に?』

魔王『うむ』ニコッ

 お母さんは頷くと、僕の頭をゆっくりと撫でた。くすぐったくて、思わず目をつむる。

魔王『さあ、王子。もう夜は遅い。明日も学校があるだろう? はやく眠らなくてはいけないよ』

王子『うん……』

 そのときの僕は、お母さんに言われるまま目を閉じた。
 でも、恋とか、八畳一間のワンルームの良さとかが分からずじまいで、どこかもやもやとしたまま眠りについた。
 その意味を、僕が知ったのはそれから数年後のこと。
 それは、とろけそうなぐらい熱い夏の出来事で――

 ……いや、ちょっと違うかな。
 僕にとって大切で、かけがえのない、とろけそうなぐらい熱い夏の出来事。
 それを一言で言うのなら……ちょっと恥ずかしいけれど、恋のお話、というのがぴったりなのかもしれない。

今日はここまでです

>>7
すいません。
仕事がゴタゴタしててほっぽってたらいつのまにか落ちてまして・・・

前のスレから見てたよ
期待してます

 ――数年後。魔界、夕刻。
 暗くなりはじめた空と反するように、城下町ではぽつぽつと明かりが灯りだした。
 町民たちは仕事を終え、各々の自宅へと帰っていく。中には、帰路につかず、そのまま食事処へ向かう者たちもちらほらと。
 みんな、穏やかな顔をしている。
 それは、十数年前、魔界と人間界が戦時中だったころからは考えられない表情。豊かな生活が生みだす、充実した日々。それもこれも、全ては魔王の手腕によるものだ。
 先代より続く長きに渡った戦争を終わらせ、国交を回復させて、互いをより豊かに、平和に。
 魔王が築き上げた平和な世は、魔界と人間界に笑顔をあふれさせていた。
 そして、今、件(くだん)の名君はというと――

魔王『王子ぃ! 王子は、どこにいるのだぁっ!』

 切れ長な目をつりあげ、魔王城の長い廊下をどすどすと踏みつけながら歩いていた。

魔王『くそう。王子のやつ、今日も、勉強をさぼりおって……っ』ワナワナ

勇者『……なーに、怒ってるんだよ』

 魔王に声をかけたのは、彼女の夫である勇者だ。
 戦時中には、互いの国のエースとして敵対していた2人だが、とある事件をきっかけに結ばれることになった。
 平和に対する、彼の功績も計り知れないほど。
 そして、魔界と人間界、全ての生物の中で最強の戦士としても名高い。

魔王『むっ、お父さん。聞いてくれ、王子がな――』

勇者『また勉強をサボったのか?』

魔王『うむ』

勇者『まっ、しゃーねえよ』

魔王『なにがしょうがないのだ?』

勇者『だってよ、勉強の内容って、せ、せ、せ……えーっと、なんだったけ?』

魔王『政治学』

勇者『そう、それだ。そんな小難しいもん、逃げたくなるのが当たり前だろ』

魔王『むう……』 

勇者『遊びたい年頃なんだ。少しぐらい自由にさせてやれよ』

魔王『……し、しかしだな。政治学もやってみれば楽しいものなのだぞ?』

勇者『楽しい?』

魔王『うむ。政治学とはな、その名の通り政治を対象とする学問であり、理性をもつ生き物の論理的、社会的諸関係全体を包括するもので――』

勇者『』ウトウト

魔王『立ったまま寝るなぁ!』

勇者『……ハッ。いやぁ、すまんすまん』

魔王『むう……しかし、お父さんが眠るほどに退屈だということか……』ガックリ

勇者『ま、俺は座学全般すぐに眠くなるけどな』

魔王『……私は、なぜ、お父さんがあんなに強力な魔法を放てるのか不思議でならんよ』

勇者『仕方ねーだろ。気がつけば使えるようになってたんだから』

魔王『天才というのは本当に羨ましい限りだ。基礎すら知らずに、魔法を使えるとは』

勇者『おいおい、基礎ぐらいは知ってるぜ。あんまり舐めてもらっちゃあ困る』

魔王『むっ、それは失礼した』

勇者『構わねーよ。それに、前にお前が教えてくれたんじゃねーか』

魔王『……前?』

勇者『おう。俺たちが日本にいたときだ』

魔王『随分前だなあ……本当に覚えているのか?』

勇者『信用がねーなあ、俺は』ニッ

 勇者は声高らかに口にする。

勇者『魔界と人間界に満ちるマギカというエネルギーに、自らの精神エネルギーを合わせることで発生する物理現象。この現象の総称を“魔法”と呼ぶ』

魔王『おお……!』

勇者『合ってるだろ?』

魔王『うむ。感心したぞ』

勇者『へへへ。よせよ、照れるじゃねーか』ニタニタ

魔王(……まあ、普通なら、子供でも知っているはずの常識なのだがな)

勇者『ん? なにか言ったか?』

魔王『い、いや。なにも言っておらぬぞ』

勇者『そうか。へへんっ』

 子供のように、勝ち誇った笑みを浮かべる勇者を見て、魔王はたまらず吹きだした。

魔王(知らぬが仏、だな。黙っておいてやろう)クスッ

勇者『……やっと、笑ったか』ボソッ

魔王『え……?』

勇者『なんでもねーよ』ニッ

 変わらず、子供のように笑う勇者。
 その笑顔を見るだけで毒気が抜かれて、いつの間にか怒りなんてどこか彼方へ消えていた。

魔王(……やはり、お主には敵わないなあ)

 そんなこと、口が裂けても言わないけれど。

勇者『んでだ、お母さん。うちのバカ息子は勉強をサボってどこに行ったんだ?』

魔王『……さあてな。それが分かれば苦労はせぬよ』

勇者『それもそうか』

 勇者は窓からのぞく空をちらりと見上げた。
 赤みがかっていたそれは、黒が混じり始めていて、そろそろ夜が来ることを告げていた。

勇者『もうじき暗くなる。遠くに行ってなければいいんだけどなあ……』

魔王『そうだな。あやつめ、一体どこへ――』

今日はここまでです。
遅筆ですいません・・・一週間に1回はできれば更新します。

>>17
ふおおー、ありがとうございます!

 行ったんだ、という言葉は口から出なかった。それよりも先に、カンカン、と2人の近くの窓がノックされたからだ。
 ノックの主は、可愛らしい小鳥。バタバタと羽を広げ、精一杯、自分の存在をアピールしている。
 その首には、王家の印が刻まれた紋章を掲げていた。

魔王『む? あれは……王子の伝書鳥か』

 魔王は窓を開けた。チチチ……と鳴き声をあげ、小鳥は彼女の腕へと舞い降りる。
 労いをこめてその喉を指先でくすぐり、背中に担いだ小筒から、丸められた小さな紙を取り出す。
 開いた瞬間、魔王の表情が一変した。

魔王『…………』

 異様な雰囲気を察してか、小鳥はすぐさま飛び立っていった。
 しーん、と2人の間に静寂が落ちる。
 わなわなと肩を震わす魔王に、勇者は慌てて声をかけた。

勇者『お、おい、どうしたんだ? そんな険しい顔をして』

魔王『……お父さん、見てくれ』

 魔王は広げた紙を勇者に見せる。
 その紙には、書いた者の気性を表すかのように、丁寧な字でこう書かれていた。

『今日は、賢者様の研究所で泊まります』

 王族の一人息子としてあるまじきその宣言に、さすがの勇者も苦笑い。

勇者『は、はは……。あれだな、怖いもの知らずっていうか……』

魔王『……あやつめ。魔王の一族としての自負がないようだな』

勇者『ま、まあ……あれだよ。なんというか、反抗期だしな。1日ぐらい家出を――』

 勇者の言葉を最後まで聞かず、魔王は再びどすどすと廊下を踏みつけ、早足で歩いていくのだった。

 魔界と人間界の境界。
 地平線まで続くような草原のかたわらに賢者の研究所はある。

王子『……そろそろ、手紙が届いた頃かな?』

 小鳥が飛び去っていった方角を見て、夜空に浮かぶ三か月を眺めながら、僕ははぁーっとため息を吐いた。

王子『我ながら、とんでもないことをしちゃったなあ……』

 一国の王子が外泊など、あってはならないことだ。
 それも一人でなどと……おそらく、後世にだって語られるかもしれない、相当な我がままだろう。

王子『……母さんは、かんかんだろうなあ』

 明日、帰ったときのことを想像すると、自然と身震いをしたが、もう後には引けない。
 僕のとなりでいななく愛馬を撫で、その荷鞄から火打ち石と布を取り出した。

王子『今夜は冷えるかもしれないから』

 愛馬に布をかぶせ、僕は研究所の戸をゆっくりと開ける。
 キィィ……と年代物の扉があき、室内は一寸先も見えない真っ暗闇に覆われていた。

王子『確か……』

 自分の感覚を信じ、どうにかカマドまでたどり着く。
 ここに来るまでの道中で拾った小枝を中に入れ、カチカチと火打ち石を叩いた。

王子『うん。ついた』

 燃え移った火を消さないように繊細の注意を払いながら、備えられていた薪をくべる。
 しばらくして火が安定すると、僕は普段やりなれていない作業のせいかどっと疲れ、それを吐き出すように息を強く吐いた。

王子『ふぅー。まずは第一関門突破、と』

 室内が柔らかい明かりで満たされ、僕は手近の燭台に火をつける。

王子『……ファイアーボールをうまく使えるなら、こんな面倒な作業しなくてもいいんだけど』

 自分の未熟さを恨みつつ、その灯火を頼りに、僕は研究所内を歩く。
 古びた棚に所狭しと置かれた本の数々。古今東西、あらゆる魔法の本が並ぶここは、魔法使いにとっては垂涎(すいぜん)の場所だろう。
 なぜなら、魔法を極めし者、魔法の革新者、黄金の魔女、1ターンに3回行動する女性……と噂される、伝説の賢者の住処だったのだから。

王子『えーっと……』

 目を凝らし、数ある本の中から目的のものを探しだす。それは、“魔法をうまく扱うこと”に関する本だ。
 少し自慢になってしまうが……僕は、常人では考えられないほどの、精神エネルギーをこの身に宿しているらしい。
 魔王である母と勇者である父の息子なのだから当然なのだろうが……とにかく、そのせいでうまく魔法を扱えないのだ。

 なぜなら、手加減ができないから。

 他の魔族が指先ほどの火を出そうとする感覚が、僕にとっては家屋を燃やし尽くしてしまうほどの業火になってしまう。
 消費する精神エネルギーと魔法の威力は比例してしまうため、まだその量を完璧にコントロールできない僕は、ちょっとのことで大災害を巻き起こしてしまっていた。

王子(魔法の授業で学校を燃やしてしまったり、風の魔法で納屋を吹き飛ばしてしまったり……)

 思いだすだけで、顔から火が出そうな思い出の数々。
 自分の未熟さが、ほんと、嫌になる。

王子(僕と同じ年のときには、父さんは1人で旅をしていて……)

王子(ううん。父さんだけじゃない。母さんだって、僕と同じ頃にはすでに魔王として魔界を支えていたんだ)

 ふと、窓の外に目をやった。
 夜風になびく草原のむこう。はるか遠くの城下町こそ見えないが、ぽつぽつと町の明かりが点在している。

王子(あれは……北の宿場町。あっちは、森の入り口にある農村。しばらく歩けば、城下町の食を支える海洋都市があって……)

 直接行ったことはないが、それだけ、この領土にはたくさんの魔族が住んでいるということだ。
 いつかは母さんにかわり、この民たちを、率いなければならない。
 魔界全体の、魔族全員の、王にならなければいけない。
 いつかは。

王子(だけど、こんな僕じゃあ……)

 ぎゅっ、と唇を噛み締める。

王子『みんなが望む王になんか、なれはしない』

 言葉にすると、目頭が少し熱くなった。
 目尻から落ちそうになる涙を指で拭い、すんと鼻を鳴らす。

王子『……やめよう。偉大な両親と比べたって、惨めになるだけだ』

 言い聞かせるようにそう呟き、僕は本を探すのを再開した。

王子(今日、ここで勉強して、魔法をうまく扱えるようになったなら)

 研究所に泊まる、というのはやり過ぎかもしれないが、それだけ僕は焦っていたのだ。
 2人に相応しい息子になれるように。
 偉大すぎる両親を、がっかりさせないように。

王子(父さんは、驚いてくれるかな。母さんは、誇りに思ってくれるかな……)

 なんてことを考えながら、僕はろうそくの火を頼りに、目的の本を探していた。

 そんなときだ。
 涙で視界が滲んでいたからだろうか。僕はなにかにつまずいてしまい、バランスを崩した。

王子『わわわ!』

 本に火がついたら大変なことになる!
 その一心で、離してしまった燭台を空中で再び掴み、僕はどかんと本棚にぶち当たった。
 本に火はついていない。
 ……良かった。
 なんて思ったのもつかの間。

王子『って、ちょっとぉぉぉ!』

 衝突したときになにかのスイッチを押してしまったのか、本棚が横にずれる。
 そして現れた石階段を――僕は、転びながら下っていった。
 がん!
 下りる勢いそのままに顔を床にぶつけ、僕はまた涙目になった。

王子『いてててて……』

 冷たい石床に倒れたまま、僕は赤くなった鼻をさする。

 突然、現れた数段の石階段には燭台が落ちていて、落とした衝撃のせいで火は消えている。
 ここは真っ暗闇だ。
 けれど、数秒して暗闇に目がなれたのか、うっすらとだが全体を把握できた。

王子『……ここ、って』

 小さな、小さな、書斎のような部屋。
 周りにはなにもなく、あるのは埃まみれの机と、これまた埃にまみれた机上の紙束だけ。

王子『秘密の部屋……?』

 そんな言葉がぴったりと当てはまる。

王子『……なんだろ、ここ。こんな部屋があるなんて、聞いたことがないけれど』

 僕は、服についた汚れを手で払い、立ち上がる。
 階段を転げ落ちたせいで足首を少しひねってしまったが、痛みを無視して机に近づいた。
 じっくりと目を凝らす。
 紙束には“ワームホールに関する研究資料”とだけ書かれてあった。

王子『ワームホール?』

 聞いたことのない単語を目にし、好奇心の赴くままにそれを手にとった。

 ページをめくる。
 書かれてあったのは、聞いたこともない魔法の理論。想像もできない、未知の領域。
 夢中になり、僕はまたページをめくった。

『――以上のことから、莫大なマギカの衝突によって異世界の門は開かれることが分かった』

『けれど、これを行うのは並大抵のことではない。異世界への門を開けるには様々な条件下ではないと難しい』

『それはなぜなら、人の身を凌駕するほどの精神エネルギーが必要だからだ。莫大なマギカを扱うための、精神エネルギーが必要だからだ』

『この魔法を唱えるのなら、満月の日が良い。時間は朝でも夜でもいい。ただ、満月が空を照らす、その日が一番好条件だ』

『わたしですら、満月の日に数千……いや、数万分の一の確率でしか発生させることはできないだろうが……』

 そう前置きをしたあと、その紙束には、こう書かれていた。

『ここに、その呪文を記す。いつか、陽の目を見ることを願いて』

 僕は、それを音読する。
 聞いたことも、見たこともない呪文を、口にする。

 そして、全てを読み終えたとき――ぱがん、と何かが割れる音がした。

 体から一気に力が抜ける。手足……いや、指の一本たりとも動かせない脱力感。
 精神エネルギーを使い過ぎるとこうなる、というのは聞いたことあるが、自分がそれにかかるのは初めてだった。

 視界が暗くなる。

 深い水底に落ちていくかのように、意識がゆっくりとなくなっていく。
 僕が、最後に見た光景。
 それは、自分の目の前に現れた空間の裂け目。うねりにうねった、時空の割れ目。

 それを一言で表すなら、そう――“歪み”だろう。

「父……さん。かあ、さ……んっ』

 僕は、意識を、失った。

今日はここまでです。

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