提督の休日 (118) 【現行スレ】

こんばんは。SSを投稿するのは初めてです。至らぬ点もあるかもしれませんがよろしくお願いします。
地の文ありです。

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1467134798

鳳翔「提督、最後にお休みを取られたのはいつですか?」

執務室で書類を整理していた矢先、突然鳳翔がそんなことを聞いてきた。

提督「えっと、いつだったかな。思い出せない」

だいぶ記憶をさかのぼってみたが、本当に思い出せなかった。
いや、そもそも休日といえるような時間をとったことがあるかどうかも怪しい。
仕事をして、疲労が溜まるとしばらく眠り、また起きて仕事をする。
提督になってからそんな日々ばかりを過ごしてきたからだ。


鳳翔「はあ、いいですか提督。私は今までに一度も提督が休日を取ってお休みになっているお姿を見たことが
ありません。提督としてのお仕事をこなすのも大事ですが、たまには趣味に打ち込んだり、どこかで外食を食
べたりして、気分をリフレッシュさせることも大事なのですよ?」

まるで母親が小さな子供に諭すような口調だった。

鳳翔「それに、艦娘の子達の中には未だに提督について知らない子だっています。この機会を活かして、是非
艦娘のみんなとコミュニケーションをとってはいかがですか?」

たしかにそうだ。たまに食堂に入ると視線が俺に集まるし、列に並ぶとやたらと順番を譲られる。できることなら
もう少しフランクに接してもらいたいのだが。

提督「だが提督業がーー」

鳳翔「提督のお仕事は私と大淀さんが秘書艦としてやっておきますから、提督はご心配なさらず、お休みを楽しん
でください。」

ーーというわけで俺は明日から三日間のオフを過ごすことになった。
しかしいままで仕事漬けの日々を過ごしてきたのにいきなりオフを与えられてもどうすればいいのか分からない。
だらだらと寝て過ごそうかとも思ったが、それではいつもと変わらない。
それに、せっかく鳳翔がつくってくれた機会なのだから有意義な時間にしたかった。

提督「どうしたものか・・・・・・。」

仕事を終わらせた深夜、自分以外に誰もいない執務室でひとりごちた。

ーー1日目ーー

結局予定の決まらないまま床に就き、朝を迎えてしまった。
時刻はマルナナゴーマル。ちょうどもうすぐで、艦娘たちは食堂で朝食をとる。
いつもなら俺はここ、提督室で一人で朝食をとるのだが、今日は食堂に降りて食べてみようと思いついた。
コミュニケーションの良い機会になるかもしれない。


軍服に着替えて食堂へ向かった。すでに艦娘たちは集まっているらしく、廊下にいてもその賑わいが伝わる。
カウンターで鳳翔から食事を受け取る。

鳳翔「あら、提督!おはようございます。休日のご計画はもうお決まりになりましたか?」

提督「いえ、それがまだなんだ。ご飯を食べながらゆっくり考えるつもりだよ。」

鳳翔「そうですか。あっ、空母の皆さんの席が空いてますからそちらにお座りくださいね。」

提督「わかった。」

空母の席か。ああ、あの一番向こうのあたりだな。赤城たちがいるのが見える。
そうだ。彼女たちに休日の過ごし方を相談してみよう。

テーブルに近づくとこちらに気付いた赤城と目が合った。

赤城「あら、提督。おはようございます。」

提督「おっす。すまないが隣いいか?」

おっといけない。挨拶が少し砕けすぎたか?

赤城「ええどうぞ。さあ、こちらに」

提督「悪いな。」

プレートをテーブルに置いて赤城の左隣に座る。

赤城「珍しいですね。提督が食堂にいらっしゃるなんて。」

提督「ああ、まあね。休日だからたまにはこういうのも悪くないと思って。」

瑞鶴「えっ!?あの提督さんがお休みなの?体でも悪くした?」

翔鶴「瑞鶴、提督にはちゃんとした口調をーー」

提督「いや、いいんだ翔鶴。あまりかしこまらなくても。少しくらい砕けたほうが俺も接しやすいし。」

翔鶴「そ、そうですか?」

提督「うん」



しばらく寝ます。またあとで更新しますね。

ちょっとだけ更新します

食事に手をつける。この料理を作ったのは誰だろう。鳳翔か、間宮か、あるいは伊良子か。
とにかく美味かった。どうして俺は今まで執務室にこもって自分で作った美味くも不味くもない飯を食ってたのかと
自問するくらいに。

提督「それでさ、今日はみんなにちょっとした質問というか相談があるんだ。」

会話のリズムを見計らって切り出してみる。俺は昔からこの会話のリズムとやらをつかむのが苦手なんだ。
喋ること自体があまり得意ではないもので。

提督「その、みんなは休日をどうやって過ごしてる?参考までに教えて欲しいんだ。」

俺があまりにも真面目な顔で妙な質問を切り出したためか、一瞬の間をおいて瑞鶴と、同じく話を聞いていたであろう
斜め前の席の蒼龍、飛龍が笑い転げた。



俺も思わずムッとした顔になっていたのだろう。瑞鶴がごめんごめんと謝りながら言った。

瑞鶴「いや、だってあの提督さんが意外な質問をしてくるんだもん。それも大真面目な顔をしてさ。
それが面白くて・・・・・・。ぷっ、あはははは!」

人が恥をしのんで聞いた質問をなんだと思っているのか。

飛龍「でもそうだねえ、私たちは休日にはよくショッピングとかカラオケに行ったりしてるかな。
ね?蒼龍?」

蒼龍「うん。あとは漫画をみたりのんびりしたりとかね。」

提督「なるほど。」

なるほどなるほど、参考になるな。ショッピングにカラオケか。頭の中にキープしておこう。

提督「赤城は何をして過ごすんだ?」

みんなの優しく真面目なリーダーというイメージの赤城に聞いてみる。
彼女が休日何をするのかには少し興味があったからだ。

赤城「私は・・・・・・、うーん、そうですねえ、やっぱり装備の整備や艦載機発着艦の鍛錬でしょうか。
あとは鎮守府の近くの飲食店を巡ることもありますね。」

提督「そうか。なるほど。」

前者は赤城らしいなと思った。後者は知らなかったが。

瑞鶴「ねえ、そんな質問をするってことは提督さん、もしかしてこの後暇なの?」

提督「うーん。まあね。休暇をもらったのはいいんだが予定を決めかねていて。」




瑞鶴「ふーん・・・・・・。」

瑞鶴がうなづく。口元が緩んでいてどこか嬉しそうだ。

提督「まあそれで君たちに相談したってわけなんだよ。」

事のいきさつを話し終えた後は他愛のない会話をした。今日の夕食は何が出るのだろうとか
二航戦の二人はカラオケで何を歌うかとか。

みんなより遅く食べ始めたので、食べ終わるのも遅くなった。すでに艦娘たちは食事を終えて
遠征や訓練に行っている。
食器を片付けて食堂を出ると、出口に瑞鶴がいた。おれを待っていたのだろうか。


瑞鶴「ねえ、提督さん。もしよければ今夜、会議室で映画観ない?」

提督「会議室で?」

会議室で映画と聞くと変に聞こえるかもしれないが、これには理由があった。
以前大本営から鎮守府に設備を調達するための予算が配布された際、俺は馬鹿正直に
その予算で設備を購入しようとしていたのだが、明石からの提案によって妖精さんの力を借りて
設備を製造した。結果、資源を使わずとも建設は完了し、予算に大きな余りが出来た。
大淀曰くそれは艦隊のためなら好きに使って良いとのことだったので悩んだ結果、
映画を上映するための映写機を購入したのだ。そして今では毎週土曜日の8時から二本立てで映画の
上映会を行っている。瑞鶴が言っているのはそれのことだろう。

提督「いいよ。確か今日はホラーとアクションだったか。」

瑞鶴「ほんと?やったあ!じゃあ8時前に会議室の前でね。ぜったいだからね!」

提督「わかったわかった。君はこのあと訓練だったろ。早く行きなって。」

瑞鶴に訓練に行くように促し、俺も行くあてもなく歩き出した。
夜の予定は決まってもこの後のについては依然決まっていないじゃないか。

そうだ。弓道場でも見に行くか。

このままぶらついても埒があかないので弓道場にいくことにした。
それに前々から空母たちが矢を射る姿に少し興味があったのだ。この機会で見に行くのも
いいだろう。




弓道場には加賀が入っていた。集中しているようでこちらには気付いていない。
邪魔するのも申し訳ないのでそのまま声はかけずに少し離れたベンチに腰掛けて眺める。

こうして見ると本当に一航戦の艦としての貫禄を感じる。
強そうだとか怖いだとかそんなものではなく、もっと別の何か。
歴戦の兵士が持つようなオーラとでもいうべきか。

ただ、そんな彼女も最近変わってしまった。
なんだか俺を露骨に避けるようになってしまったし、ちょっと異常といってもいいくらいに
練習や訓練に打ち込んでいる。

ちょうど休憩しようとしたのだろう。振り返った彼女がこちらに気付いた。

提督「やあ、加賀。頑張ってるな。」

加賀「・・・っ!提督ですか。驚かさないでください。」

いつの間にか後ろにいた俺に驚いたのだろう。ビクリと加賀が身を震わせた。
そんなにびっくりしなくてもいいのに。

提督「出撃はしばらくないのに練習とは感心だな。ただやりすぎで体を壊すことはしないで
くれよ?」

加賀「ええ、もちろんです。私も体調には気を配っていますから。」

提督「そうか。」

どうしよう。ここらで最近やたらと訓練ばかりな理由について聞いてみるか?






練習してみたいので安価を取ります。>>21

1 単刀直入に聞いてみる
2 遠回しに聞いて見る
3 それより遊びに誘う
4 何も聞かない

提督「なあ加賀。」

よし、遠回しに聞いてみよう。

提督「その、最近何か悩んでいることでもあるのか?」

加賀「・・・?いえ、別にそのようなことはありませんが、どうかしたのですか?」

提督「いや、なんでもないならいいんだ。ただ最近妙に熱心だと思って。」

加賀「ああ、練習のことですか。別に、ただ練度を上げようと思ってやっている。
それだけのことよ。」

提督「なんだ。それなら良かった。」

あまりしつこくは聞かないようにしよう。
ただ息抜きはさせるべきかもしれない。あまりにも打ち込みすぎな気がするから。

提督「なあ、もしよければこのあとどこかに出かけないか?君は今日はオフだったろ?」

加賀「ええ、確かにそうですが、どこかとはどこへ?」

提督「まだ決まってないけど君の行きたいところでいいよ。」

ちょっと考えるようなそぶりを見せて、加賀がうなづいた。

加賀「わかりました。では私は支度をしてきます。提督は先に待っていてください。」

提督「了解だ。俺も私服に着替えてくるよ。じゃあまた後でな。」






アドバイスありがとうございます

着替えて鎮守府の玄関で待っていると遅れて加賀がやってきた。

加賀「ごめんなさい、待たせましたか?」

提督「いや、俺もいま来たところだよ。じゃあ行こうか」

正門から外に出る。久しぶりの外出ということで俺もワクワクしていた。

加賀「ところで提督、行き先は私の好きなところでいいとのことでしたが?」

提督「ああ、そうだったな。それで、加賀はどこに行きたい?」

加賀「そうですね・・・」

ーー加賀視点ーー

いけません。突然の彼からの誘いということで舞い上がっていて行き先を考えていませんでした。
こういう時世間の男女はどこへ出かけるのでしょう。
水族館?公園?映画館?
こんなことなら駆逐艦の子達のように日頃から知識を仕入れておくべきだったと後悔します。
決めかねていましたが、ふと誰かが言っていた、最近のカップルは一回のデートで色々なお店を
回って楽しむという言葉を思い出しました。

加賀「では、街の色々なお店を回りたいです」

提督「なるほどな。じゃあ電車で街に出てそこから見ていくとするか」

加賀「はい」

彼と二人きりでどこかへ行くという事に気分が高揚します。
これがデートというものでしょうか。
ただ、自分たちがそれ以前の関係であるカップルであるかどうかは怪しいものですが・・・。

電車を降りて10分ほど歩いて繁華街に出ます。
予想以上の人通りに驚きました。

提督「大丈夫か?はぐれないようにな」

加賀「え、ええ」

彼が私を気遣って声をかけてくれました。
それがなんだかうれしくてついにやけてしまいます。

加賀「では提督、まずあちらのショッピングモールが見てみたいです」

提督「ん、了解。」

にやけ顏を隠すために少し下を向きながら彼の横に付いて歩きます。

ショッピングモールに入った私たちは、まず洋服店に入りました。
私はあまり多くの服を持っていませんし、何よりデートの時に着るようなおしゃれな服を
買っておきたかったのです。

彼はどのような女性のファッションを好むのでしょうか。
案外そういった事に無頓着そうな気もしますが・・・。

加賀「提督」

提督「ん?」

加賀「私はお洋服を選んでおきたいので提督はしばらくどこかで
時間をつぶしていてもらえませんか?選び終わったら私の方から
そちらへ伺いますので」

提督「わかった。とりあえず俺は向こうの書店にいるよ」

彼と別れて近くの店員さんの方へ向かいます。こういう時は無難に専門の方に頼りましょう。



加賀「あの」

店員「はい、どうなされましたか?」

加賀「デート用の服を見繕って欲しいのですけど・・・」

店員「はい、かしこまりました」


店員さんはにっこりと笑って対応してくれました。
そしてすぐに迷いのない手つきで陳列された服から私に似合うであろうものを選んでいきます。
やはり任せて正解だったようですね。私一人で選んでいたらどうなっていた事か。

ーー手渡された服を試着室で着てみます。
どれもサイズは合っていて、ファッションに明るくない私でも一目で似合うとわかるものでした。

加賀「・・・・・・」

ふと、鏡の中の自分と目が合いました。そしていつも頭の左側で留めている髪に目がいきました。

こんな時くらいは降ろしてみようかしら。

そう思ってそっとヘアバンドを外します。彼は喜んでくれるでしょうか。


清算を済ませて書店へ行くとすぐに彼を見つけました。
小説やエッセイの本が並ぶ棚の前で立ち読みをしています。

加賀「提督」

提督「おう、選び終わったみたいだな」

彼が振り返って私をじっと見つめました。・・・・・・もしかして似合っていないのでしょうか。

加賀「あの、似合っていませんか?」

提督「いや、絶対にそんなことはない。むしろすごくいいよ」

加賀「そうですか」

提督「うん。それはそうと腹が減らないか?そろそろ昼だし」

書店のレジの上にあった時計を見ると確かに12時30分を指していました。
気付くと私のお腹も空腹を訴えてきています。

「そうですね。ではあちらのフードコートでお昼にしましょう」






すみません、直前のセリフで「加賀」を入れるのを忘れていました。8時ごろにまたちょこっと更新します。

それぞれが好きなものを注文して席に着きました。

提督「加賀は何を頼んだんだ?」

加賀「私はスパゲッティを。提督は?」

提督「俺は塩ラーメン。同じ麺類だったな」

彼がククっと笑いました。
そして遠くのお店のショーケースに入っていたあるものに目を留めます。

提督「あれはウェディングドレスかな?最近のショッピングモールってなんでもありなんだな」

加賀「・・・・・・」

それを聞いて私は黙り込んでしまいます。
なぜなら私があれほど鍛錬に打ち込む理由となった出来事を思い出してしまったから。

一ヶ月ほど前のことです。
その日、私は彼の秘書艦を任されていました。

提督「じゃあ行ってくるよ」

加賀「はい、行ってらっしゃい」

大本営に呼ばれたとのことで、彼は午後から鎮守府を留守にすることになっていました。
つまり今から執務室には私一人ということになります。
せっかくだから何か気の利いたことでもしようと思いましたが、何をすればいいのか思いつきません。
仕事は午前中に済ませてしまいましたし・・・。

そのとき部屋の隅の、掃除用具が入ったロッカーが目につきました。
とりあえず掃除でもしましょうか。明後日の朝には帰ってくるそうですから今日はそのくらいしかすることはなさそうです。







ほうきと小ぼうき、ちりとりを取り出し、窓を開けて掃除を開始します。
床の方は日常的にきれいにされているようでしたが箪笥や本棚の方にはホコリが積もっていました。
全く。提督たるもの、隅々まできれいにしなければだめでしょう?

掃除の手を進めながら本棚の中にあるのはどういう本なのか見てみます。
きっとそのときの私には、彼がどういう本を読むのかが知りたいという好奇心があったのでしょう。

加賀「・・・」

上の方の棚には専ら戦史の研究や組織の引っ張り方について書かれた本ばかりでした。
真ん中の方は小説やエッセイ、あとはマンガが少々。
下はノートや兵学校の頃のアルバムといった雑多でサイズの大きいものが並んでいます。

ふと、一番右端にあったノート数冊が不自然に手前にせり出していることに気がつきました。
奥の方に何か挟まっているのでしょうか。



加賀「これは?」

見るとそれは指輪などのアクセサリーなどを入れるのに使うような小さく、けれども質感のある
黒い箱、そして書類一式でした。

これは何?何故こんなところに?私が見つけてよかったものなの?

様々な疑問が頭の中を駆け巡り、これがなんなのか知りたい衝動に駆られました。
しかしこんなところに隠すように置いてあったということは、本来艦娘には見せたくない、
あるいは見せてはならないものであることは想像が付きます。

しばらく逡巡するも、結局私は好奇心に負けてしまいました。






『ケッコンカッコカリについて』

1枚目からよくわからないことが書いてありました。
2枚目に目を通します。

『遂ニ貴官ノ艦隊ニモ練度99ノ艦娘ガ出タコトニツイテ、マズハ祝福ヲ贈ルモノトスル。
ソシテ既ニ存ジテイルコトト思フガ、貴官ニケッコンカッコカリノ任務ヲ命ズル』

『ケッコンカッコカリトハ、練度99ノ強ヒ関係ヲ持ツ艦娘ニ同封ノ指輪ヲ贈ルコトニヨリ、
出撃ニオケル消費資源ノ燃費ノ向上、回避率の上昇、ヨリ高ヒ練度ニナルタメノ艤装ノチカラノ
解放ト言ッタ恩恵ヲ受ケルコトデアル」

なるほど。つまりこの箱の中身はそのための指輪ということで間違いなさそうね。

『ケッコンカッコカリハ、単ナル強クナルタメノ儀礼デハナク、艦娘トノ愛情ヲ
再確認スルタメノ行為デモアル。例ヘ練度ガ99デアッテモ愛情ガ無ケレバ成立シナイ」

つまり指輪を贈った相手に、彼は好意を寄せているということになるのかしら。
でもケッコンカッコカリは最初に練度が99に達した艦娘でなければいけないの・・・?

不安が頭をよぎりますが、その答えはすぐに見つかりました。





『最初ニ練度99ニナッタ艦娘デナクトモ、条件ヲ満タシテイレバ、ドノ艦娘トモケッコンカッコカリハ
可能デアル。マタ、コノ任務ハ強制デハナイ。貴官ガ指輪ヲ授ケナイコトモ選択肢ノ一ツデアル』

・・・どうやら私でもチャンスはあるようですね。彼がまだ指輪を渡す相手を決めていなければの話ですが。
私の練度は94。必死に訓練や演習、出撃に参加すれば間に合うはずです。
しかしほかに練度の高い人は誰がいたでしょう?赤城さんや五航戦の子達、戦艦の人たちや吹雪さんの
ような古参の駆逐艦も侮れませんね。

書類の残りを見ましたがもう重要そうなことは書かれていませんでした。あとはサインのための空欄や
細かなことだけです。

箱と書類をもとの場所に戻し、ノートで隠します。

加賀「はあ・・・」

ため息を一つだけ。仮に私が練度99になったとして、彼は私を選んでくれるかは怪しいものです。
それに選んでもらったとしても私と彼の間に条件を満たすだけの愛情や信頼関係はあるのでしょうか。

またため息をついて私は道具を片付けました。

胸の中のモヤモヤとした気分が晴れないまま、その日の深夜に私は居酒屋鳳翔へと足を運びました。
誰かに相談したかったのではありません。
ただ、アルコールで今の迷いを一時でも忘れておきたかったのです。

加賀「こんばんは」

鳳翔「あら、加賀さん。いらっしゃい」

隼鷹「おおーっ、なんでだろうなあ?加賀さんが二人入ってきたぞ?」

飛鷹「隼鷹、あなたが飲み過ぎなのよ」

龍驤「あはは、すまんなあ加賀。来たばっかなのにもうこんな調子で」

加賀「いえ、大丈夫です」

扉を開けてのれんをくぐると鳳翔さんが出迎えてくれました。
そしてその前のカウンター席の方では既に軽空母の人たちが出来上がっています。









とりあえず龍驤さんの隣に座り、鳳翔さんには手羽先とビールを注文します。
あと30分ほどで閉店ということもあってか、他の席を見渡しても艦娘はいませんでした。

飛鷹「それじゃあ私たちはこのへんで失礼します。鳳翔さん、ご馳走様でした。」

鳳翔「はい、お粗末様でした」

龍驤「おう、二人ともお疲れさん!」

隼鷹「うぃ~」

飛鷹さんたちが帰ってしまい、店内には私と龍驤さん、あとは鳳翔さんの三人だけになります。

小腹しのぎとしていただいた小鉢に手をつけていると注文していた品が出てきました。

鳳翔「はい、お待ちどうさま」

加賀「ありがとうございます」

手羽先は甘辛いタレで味付けされていてビールが進みます。
しばらく無言で食べていると龍驤さんに話しかけられました。

龍驤「それにしても今日は浮かない顔やな。どないしたん?うちでよければ話聞くで?」







不思議なものです。最初はお酒だけ飲んで帰るつもりだったのに、こうして誰かが相談に乗ってくれると
いってくれた途端に胸の内をさらけ出したくなるのですから。
それに彼女ならこういった話を親身になって聞いてくれそうな気がします。

加賀「ではーー」

私は迷いを打ち明けました。



龍驤「なるほどなあ」

ケッコンカッコカリのことまでは言及しませんでしたが、私が彼にある種の好意を抱いていること、もし彼が艦娘の中から誰か一人を選ぶとき、
私を選んでくれるか不安なこと、私と彼の間に信頼と言えるような関係は築けているのか疑問であること。
それらの不安を全て龍驤さんに告白しました。
私が話している間、彼女は時折お酒を口にしながら黙って聞いてくれました。

龍驤「まず最初の相談についてなんやけどな」

加賀「ええ」

龍驤「キミ割とバレバレやで?」




加賀「・・・・・・はい?」

思わず素っ頓狂な声が出てしまいました。

龍驤 「だってそうやん。いつも司令官と話す時は普段より頬が緩んどるし、秘書艦に選ばれた時は相当ニヤけて嬉しそうやもんな。
    おまけに秘書艦外されたら三日くらい不機嫌になるし!まああれで気付くなってのが無理な話よ。・・・・・・って、聞いとるん?」

自分の顔が真っ赤になっていくのがわかりました。恥ずかしさのあまり手で顔を覆い、うつむいてしまいます。
まさか他の誰かに自分の気持ちが知られていたとは。

鳳翔「龍驤さん・・・・・・」

龍驤「ご、ごめん!まあ、その、なんというかなあ。気付いてる子はウチと鳳翔くらいだと思うで?バレバレといってもキミの表情読み取れるのなんて
   ほとんどいないわけだし」

加賀「・・・・・・それフォローのつもりですか?」

龍驤「う、ごめん・・・・・・」

加賀「まあいいです。それで、次の相談についてなんですが」

龍驤「ああ、提督がキミを選ぶかについてやな。」






  


龍驤「うーん。それについてはまあ、こうや!って感じの答えは出せへんな。
   それを決めるのは結局司令官やもん。ウチらが考えても仕方がないわ」

加賀「確かにそうですね」

龍驤「でもな」

龍驤さんはそこで「ちょっと待て」と言うように人差し指を立ててみせました。

龍驤「ぶっちゃけキミは他の艦娘たちに比べて司令官との仲は進んでるほうだと思うで。ウチは」

加賀「そんなことは・・・・・・」

龍驤「いやいや、考えてみい。加賀はウチより後から来たから分からんかもやけどな。
   司令官は今でこそ少しは気さくに挨拶するようになったけど、ウチや鳳翔が着任してすぐの頃はホンマ冷たかったんやで。
   艦娘と親交深める気なんてまるでなし!ありゃ機械や。仕事して食って寝るだけのマシーンや」

   


   

「それを世ではダメ上司と言うんやで」と言いながら彼女はお猪口の日本酒をぐいと煽りました。
それにしても私の着任前の提督ですか。今も淡白な態度ですがそれ以上に冷淡な時期があったなんて。

龍驤「でな、そんな司令官も加賀と話す時は口数が多くなってるんや。それに表情も豊かになってる。
   注意深く観察せんとわからんけどな。で、思うにそれって司令官がキミに対して心を許してる証拠だと思うんよ」

加賀「私にですか」

龍驤「そうそう。でなけりゃあんなに秘書艦にも任命しないやろうしなあ。加賀って結構頻繁に任せられてる方やと思うで」










龍驤「だからまあ、司令官と信頼関係築けてるってことには自信持っていいで。って、ウチがアドバイス出来たの結局最後の方だけやったなあ」

加賀「いえ、そんなことはありません。むしろ相談を聞いてくれて感謝しています。おかげで吹っ切れました」

龍驤「そう?なら良かったわ。」

その後は鳳翔さんも交えて雑談をし、閉店時間になるとお勘定を払ってお店を出ました。

龍驤「ほななー」

加賀「ええ。また明日」

別れの挨拶を済ませて正規空母寮へと戻ります。心なしか私の足取りは軽いものでした。



それからと言うもの、私は暇さえあれば戦闘や弓道の鍛錬に打ち込むようになりました。
理由はケッコンカッコカリの条件を満たすために少しでも練度を上げてくためです。
同時に私の中である疑問が頭をもたげました。

もし彼が私以外の誰かを相手に選んだら?

答えは驚くほどすぐに出ました。

私はほぼ間違いなく彼と、その相手とのケッコンを認めることでしょう。
なにしろ彼が選んだ相手ですし仲間たちに悪い人はいませんから、素直に祝福するつもりです。

しかしそれはそれ。私にチャンスがあるうちはそれを掴むための努力は惜しみません。

彼から外出に誘われたのはそんなある日のことでした。



提督「加賀?どうかしたのか?なんだかボーッとしてたみたいだけど」

加賀「え?ああ、そんなことは・・・・・・」

声をかけられてハッとなりました。どうやら私は回想に耽っていたみたいです。

提督「そうか。ならいいや。さあ、冷めないうちに食べようか。」

「いただきます」と呟いて彼は自分が注文したラーメンに手をつけました。同じようにして私もスパゲッティを食べます。

加賀「提督はラーメンが好きなのかしら?」

提督「まあ好きな方かな。そう言う君はパスタが好きなのか?」

加賀「ええ。パスタに限らず大抵の食べ物は好きよ。鎮守府では和食が多いからたまには洋食もいいと思って選んだの」

提督「なるほどな。俺も洋食にすれば良かったかもなあ」


加賀「・・・・・・」

苦笑する彼を見て私に思いつく事がありました。

加賀「提督、よろしければこれ、少しいかがですか?」

提督「いいのか?」

一瞬だけ彼の眉が嬉しそうに持ち上がったのを私は見逃しませんでした。

加賀「ええ。どうせ私一人では食べきれないでしょうから」

提督「そういうことなら遠慮なくいただくよ。ありがとう」

彼はお箸で器用にパスタを取って頬張り、もぐもぐと味わったあとサムズアップをします。

提督「美味いな。カルボナーラなんて久しぶりに食べたよ」

加賀「喜んでくれてなによりです」

提督「ああそうだ、俺のラーメンもいるか?」

加賀「いえ。私は遠慮しておきます」

提督「そうか」

その後はしばらくお互いに会話を交わすことなく自分の食べ物を食べ続けました。
まあ私も彼もよく喋る方ではありませんからこうなるのも仕方がありませんけど・・・・・・。
せっかく二人で出かけたのに無言で食事をするというのは少し寂しい気がします。







私がスパゲッティを食べ終わる頃、先にラーメンを平らげた彼が口を開きました。

提督「なあ加賀」

加賀「なんですか?」

提督「最近の君の訓練についてなんだが」

彼の視線はあちこちを行ったり来たりしています。どうやら次の言葉を選んでいるようです。

提督「最近の君は暇さえあれば鍛錬に時間を割いているようだな。それは嬉しいことなんだが、少しは休みを取るようにな。
   体を壊されたら元も子もないからさ」

加賀「ご心配をかけてしまったかしら」

提督「かなりね」

彼に気を遣わせてしまったことに反省を覚えました。

加賀「そう・・・・・・。それはごめんなさいね。」



提督「いや、いいんだよ。ただその、体調に気をつけながら頑張ってくれって話さ。・・・・・・じゃあ食べ終わった事だし片付けようか」

加賀「そうね」

食器とプレートを返却し、フードコートを出ました。

提督「次はどこにいこうか」

加賀「洋服店が私の希望だったから今度はあなたの行きたい所でいいわ」

提督「俺の行きたい所か・・・・・・。じゃあちょっとビデオ屋に寄ってもいいかな」

加賀「映画鑑賞でもするのかしら?」

提督「いや、今夜の上映会の映画を借りたくて。加賀も選ぶのを手伝ってくれ」

加賀「いいけれど、私に映画の善し悪しなんて分からないわ」

提督「それは俺も一緒さ」









30分後、私たちはショッピングモールを出て近くのビデオ屋で頭を抱えていました。
悩みの種はもちろん、どの映画を借りるかについてです。
たった2本のDVDを借りるのにここまで悩むとは彼も私も思いもしませんでした。

加賀「ではこれはどうでしょう」

提督「B級映画か・・・・・・。当たり外れの差が大きいからな・・・・・・」

加賀「ではこれは?」

提督「それはコメディ映画だな。今夜はホラーとアクションだからパスで。おっ、これは面白そうだ」

彼は一本のDVDを棚から引き出してみせました。でもそれは・・・・・・。

加賀「それはこの前上映したばかりでしょう?」

提督「ああ、そっか」

結局私たちだけでは決めかねるので彼が携帯でおすすめの映画を調べてそれを借りることにしました。
選んだのはゾンビものとスパイものの2本です。
お店を出て時間を確認するともう一時間半も経っていました。

加賀「最初から調べて借りれば良かったのでは・・・・・・」

提督「そうかも。時間を使わせてしまったな」

加賀「いいえ、なんだかんだでビデオを選ぶのは楽しかったからいいの」

それにあなたのおっちょこちょいな一面もわかりましたし。






時刻は午後3時。私たちは最後の行き先に海浜公園を選んでいました。
彼は今、私の横でフェンスにもたれかかって足元の海面を見ています。
視線が何かを追っているようだったので私はなんとなく聞いてみました。

加賀「何を見ているの?」

提督「魚を見ているんだ。あの魚は何か分かるか?」

彼が指差した先には黒くて平たい大きな魚が泳いでいました。
どことなく鎮守府でお祝い事があった時に出てくるタイに似ています。

加賀「さあ。タイかしら?」

提督「まあ、そんなところだ。正しくはクロダイ。釣り人はチヌとも呼ぶな。あの群れを作ってるのはアジ。
   小さいのはメジナ。四角くて動きが遅いのはハコフグ」

加賀「よく知ってるのね」

感心して褒めると彼は頭をかいて照れくさそうに言いました。

提督「まあ、魚が好きなものでね」

加賀「そう」

意外に思いました。彼が魚好きだったとは。

提督「それにしても今日は楽しかったよ。君の私服を見られて新鮮だったし、一緒に食事もして映画も選んだし。
   君はどうだった?」

加賀「私も同じよ。一緒に外出できてよかった」

その言葉は嘘でもお世辞でもありませんでした。

加賀「あの」

提督「なんだ?」

加賀「また誘ってくれますか?」

提督「ああ、もちろん。その時はまたいろんな所に行こう」

加賀「ええ。楽しみにしてます」

またいつか一緒に行く約束を取り付けて私たちは夕方まで公園内で散歩を楽しみました。
鎮守府に帰り着いた時には辺りはとっぷり暗くなっていました。






そろそろ瑞鶴編です

ーー提督視点ーー

鎮守府の玄関で加賀と別れ、俺は会議室で上映会の準備に取り掛かった。
やる事と言ったら映写機を引っ張り出してコードをつないでスクリーンを下ろし、観に来た子に配るソーダやポップコーンを出しておく。これだけ。
今はがらんとしただだっ広い会議室だがあと一時間もすれば8割の席は艦娘で埋まるだろう。
日頃命をかけて戦う戦闘員である艦娘にとって上映会は数少ない娯楽だ。多くが週一回のこの日を楽しみにしている。

提督「さてと」

もうそろそろ夕食の時間だ。食堂に向かわないと。食事のあとはお待ちかねの映画鑑賞だ。



朝と同じように空母達の席で飯を食い、再びいち早く会議室へ向かった。
すでに気の早い艦娘が数人来ていて最前列の席についている。
その中には瑞鶴の姿もあった。

瑞鶴「あっ、提督さん!提督さんの席も取っといたよ!」

提督「ありがとう。ほら、ソーダいるか?あとポップコーンも」

会議室はすぐにいっぱいになった。8時になったのを確認してDVDをセットし、再生する。

瑞鶴「提督さん、こっちこっち」

提督「はいはい」

瑞鶴が取っていたのは最前列の真ん中。一番よく観える席だ。
映画が始まった。いや、映画本編じゃなくてDVDの最初にある他の映画の宣伝だけれども。
ラブロマンス系やコメディ系が出てきたあたりで右隣の瑞鶴に小突かれた。



瑞鶴「ねえ、提督さん」

一応上映中ということもあって小声で会話する。

提督「どうかしたか?」

瑞鶴「来週の映画はこれが見たいな。今宣伝してるの」

提督「わかった。検討しておくよ」

さて、自分の手元にあったポップコーンを平らげる頃にやっと本編が始まった。
ざわついていた室内も流石に本編開始時には静かだ。

瑞鶴「始まったね・・・・・・」

提督「そうだな」





内容がどうだったかというと評判の高かった映画なだけあって面白かった。
ゾンビどもが従来のゾンビにあるまじき速さでダッシュして人間に襲いかかるシーンは容赦ないグロテスクさだったし、
特殊部隊の隊員の一人がハリウッド映画では珍しくない男気を発揮してゾンビの群れに飛び込むシーンは男心をくすぐられた。

そんな中、事件は映画の終盤で起きた。

ホラー映画慣れしていない艦娘達は前述のグロシーンでは悲鳴を上げて怖がり、感動できるシーンでは涙を流していた。
それはとにかくいい反応で、借りてきた側としては冥利に尽きることだ。

そしてゾンビどもとの戦いがひと段落つき、これまたハリウッドでありがちな主人公とヒロインが互いの愛を確認する場面でそれは起こった。

RJの関西弁ひどいな
誰やねんこれ

標準語よりも、東京弁と関西弁が混ざりまくってて半端ないむず痒さ

>>79ご指摘感謝します。リサーチ不足で申し訳ない。

エンディングクレジットにはまだ早かったが俺は慌ててゾンビ映画のディスクを抜き取った。
なぜならこの映画、普通なら登場人物が抱き合うとかキスするとかで済ませるシーンで、あろうことか情事が開始されたのである。
ヒロインが愛の言葉をささやきながら服を脱ぎ出した時点で気付くべきだった。
「あっ、やばいな」と思ったときにはもう手遅れで、次の瞬間には弦楽器みたいにメリハリのある体型の白人美女が主役の上に乗っかっているシーンが展開された。
なんでお前らは困難を乗り越えるたびにそうイチャつくんだよ。

ディスクを変えている間、みんなからの視線が怖かった。俺は咳払いをして号令をかけた。

提督「なんというか、その・・・・・・すまない。各自休憩に入ってくれ。うん」



続けて放映すると目によろしくないので、いつも一本目と二本目の間に15分の休憩を入れている。
二本目を観る子はこの時間で目を休めるし、明日予定が入っている子は寮に戻る。
みんなが映画の内容で談笑するこの時間を、俺は断頭台に上げられた囚人のような気持ちで過ごしていた。
もう来週からは全部自然ドキュメンタリーにでもしようか。動物の交尾の方が白人美女の交尾よりは教育にいいだろう。

パイプ椅子に腰掛けると瑞鶴に慰められた。

瑞鶴「提督さん、そんなに気を落とさないで。次からはちゃんと調べればいいだけの話じゃない。ねっ?」

提督「ああ・・・・・・。ん?」

次からは?次?

提督「そうだ・・・・・・!次のやつは・・・・・・!」

もしかしたらと思って携帯を取り出し、次のスパイ映画について調べてみた。
よかった。幸い過激な濡れ場はないらしい。




二本目開始前、艦娘達の数をチェックする。今会議室にいるのは最初の3分の2くらい。
別にさっきの影響があるわけではないと思う。今日に限らずいつも二本目の人数はこのくらいだからだ。

15分経ったので次を再生する。

提督「じゃあ次いこうか」

確認してもなお、R18な場面がないことを祈らずにはいられなかった。


二本目も面白かった。ついでに言うと俺が心配していたようなことも起きなかった。
あと俺を気遣ってか、瑞鶴が映画の途中で何度かポップコーンを分けてくれた。

瑞鶴「はい、ちょっとあげる」

提督「どうも」

こんな具合だ。
上映が終わるとみんな会議室を出て行った。俺のやることは残って片付けをするくらいだ。

提督「瑞鶴は帰らないのか?」

瑞鶴「ううん、提督さんのお手伝いしたら帰るよ」

涙が出そう。

映写機やスクリーンを直し、俺たちは外のゴミ捨て場にゴミの入った袋を出しに来ていた。中身はもちろん上映会で出たゴミだ。

提督「すまないな。夜遅くに手伝わせてしまって」

瑞鶴「いいのいいの。私がしたくてしてるんだから」

瑞鶴はそう言ってくれたものの彼女の好意に甘えてばかりというわけにもいかないので何かお返しがしたかった。

提督「ちょっと待っててくれ」

俺は近くの自販機でココア二本買い、一本を瑞鶴に手渡した。

提督「ほら。手伝ってくれたお礼だ」

瑞鶴「ありがと!やっぱり寒い夜はこれだよねー」

喜んでくれて何より。










立って飲むのもアレなので少し離れたベンチへ移動した。
ここは鎮守府の正面入り口の裏。外灯の類は無いし夜空は曇っていて月明かりも出ていない。

瑞鶴「提督さん、朝言ってたお休みっていつまでなの?」

提督「多分明後日までかな。それがどうかしたか?」

瑞鶴「なんとなくね。もし暇だったら明日一緒に遊びに行きたいなーって思って」

提督「ああ、どうせ予定は無いままだしね。いいよ。それで、どこにいこうか」

隣にいる瑞鶴の表情は窺い知れなかったが、どことなく嬉しそうな雰囲気が伝わってきた。

瑞鶴「うーん、どこがいいかなあ。この前テレビで言ってた中華料理のお店に行ってみたいし・・・・・・。
   あっ、水族館とか動物園もいいかも!提督さんは行きたいとこある?」

提督「俺は書店か図書館がいいな」

瑞鶴「提督さんいつも本読んでるじゃん!ダメ。本関連は禁止!」

なんとまあ。

提督「じゃあ・・・・・・、水族館かな。生き物見たいし」

瑞鶴「じゃあ水族館は決まりね!」

その後もしばらく二人で考えあったが結局決まらなかったのと時間が時間だったのとで明日歩きながら行き当たりばったりで決めようということになった。
俺は改めて礼を言い、瑞鶴を寮の前まで送った。

瑞鶴「それじゃあ提督さん、また明日ね!」

提督「ああ。おやすみ」

瑞鶴の背中を見送り、俺も自室の戻ろうとしたその時だった。
鼻先に冷たい雫がポツポツと当たるのを感じた。
雨が降ってきたのだ。











二日目になります。

ーー2日目ーー

二日目の朝、熟睡していた俺は瑞鶴に叩き起こされた。
確か携帯のアラームは5時に設定していたはず。それが鳴る前に起こされたということは今がかなり早い時間であることを意味する。

提督「いくらなんでも早すぎないか」

瑞鶴「・・・・・・」

瑞鶴は浮かない顔で何も答えない。見てるこっちが心配になってきた。

提督「・・・・・・どうかしたのか」

瑞鶴「・・・外見て」

提督「外?」

自室から執務室に出て窓を開けると、この時期にしては珍しい、殴りつけるような暴風と雨がなだれ込んできた。
慌てて窓を閉める。彼女の浮かない顔の原因は間違いなくこの天気だろう。

提督「この天気で外に出るのはまずいな」

瑞鶴「うん・・・・・・」

提督「まあ、そう落ち込むなよ。予定は腹ごしらえしてから考えよう。朝食は食べたか?」

瑞鶴「食べてない・・・・・・」

提督「じゃあ俺が作るよ。簡単なやつだけどね」

顔を洗い、私服に着替えて朝食の準備をする。どうせ今日も非番だから軍服に着替える必要は無い。
冷蔵庫を覗くとおあつらえ向きに鮭の切り身と、豆腐やワカメと言った味噌汁の具になりそうなものがあった。
これを使おう。

提督「まあ座っててくれ」

瑞鶴「うん・・・・・・」

テーブルに瑞鶴を座らせ、自分は朝食作りに取り掛かる。
あまり難しい物は作れる自信が無いが和朝食くらいなら難なく出来る。

料理が出来た。配膳を済ませて、最後に飯を入れたおひつを置けば食卓の準備完了だ。

提督「じゃあ食べようか。いただきます」

瑞鶴「いただきます・・・・・・」








食事の力は偉大なもので、最初は肩を落としながら食べていた瑞鶴もしばらくするといつもの調子を取り戻していた。

提督「味はどうかな」

瑞鶴「うん、美味しいよ。でもちょっとシャケとお味噌汁が塩辛いかも」

提督「そうか。今度から瑞鶴に作るときは塩を少なめにするよ」

瑞鶴「私に作るときだけじゃなくて普段からそうした方がいいよ!じゃないとそのうち病気になっちゃうよ?」

提督「俺はまだ若いからいいんだよ」

瑞鶴「ダメ!こういうのは若いうちから気をつけなきゃいけないんだから。今度から提督さんは減塩すること!わかった?」

提督「はいはい」

瑞鶴「その返事絶対わかってない!」

提督「まあ減塩はそのうちするさ。それよりも今日の予定はどうする?あいにくの雨だから外には行けないけど・・・・・・」

瑞鶴「じゃあ室内で遊ぶしかないよね。でも室内ですることって何があるかな?」

うーんと瑞鶴が首を傾げる。

提督「トランプとか?」

瑞鶴「すぐに飽きちゃいそう」

提督「だよな」

でも屋内でできる事なんていざ考えるとなるとなかなか思い浮かばないものだ。
映画は昨日観たばっかりだし・・・・・・。何か無いだろうか。
必死に無い知恵を絞り出そうとしていたら突然瑞鶴が声を弾ませて言った。

瑞鶴「あっ!私提督さんの部屋を見てみたいかも!」

提督「なんだって?俺の部屋なんてさっき入ったばかりじゃないか」

瑞鶴「さっきはちょっと上がっただけだからどんな部屋か見る暇なんて無かったもん。」

提督「大したものなんてないよ。別の場所にしよう」

瑞鶴「えー・・・・・・」

最終的に行き先は俺の部屋になった。あの後も瑞鶴が俺の部屋を見たいーーというより遊びたいーーーと駄々をこねたからだ。
俺は渋々了承し、食器を片付けた後に瑞鶴を部屋に入れた。

瑞鶴「お邪魔しまーす」

提督「散らかってますがどうぞ」

瑞鶴「全然そんな事ないよ。私なんていつも漫画とか散らかして翔鶴姉に注意されてるし」

思わず「だろうね」と返してしまいそうになって口をつぐんだ。
同時に何故か、お菓子を食べながら寝転がって漫画を読む瑞鶴とそれを咎める翔鶴の絵面が思い浮かんだ。


俺の部屋はそこまで広くないし家具や娯楽のための物品も多くない。
生活に必要な最低限の物を除いて存在するのは本棚とテレビにこたつ。あとはパソコンくらいだ。
住人の俺自身ですら時折つまらないと思うこの部屋を、瑞鶴は興味津々に探索していた。

瑞鶴「ふーん、確かに提督さんらしいなぁ。本棚の中には何が入ってるのかな・・・・・・。どれどれ・・・・・・」

提督「何もないよ」

俺の言ったことは無視して瑞鶴は本棚を漁る。興味を惹かれるような物は見つからなかったようで、やがてため息をつきながら本棚のチェックをやめた。

瑞鶴「なーんにもない」

提督「だから言ったろ」

まったく、と呟いて俺はこたつに電源を入れ、足を突っ込んだ。

瑞鶴「何か暇つぶしできるような物があると思ったのになぁ」

提督「君たちの部屋には何かあるのか?」

瑞鶴「ゲームとか漫画とかがあるかな。翔鶴姉はゲームしないからほとんど私専用だけどね」

提督「暇ならそれをすればいいじゃないか」

瑞鶴「今日は提督さんと遊ぶつもりだったからゲームなんてしたくないの」

女の子に1日の遊び相手に選んでもらったことは喜んでいいのか知らないがちょっと嬉しいのは事実だった。


俺の向かい側でこたつに入った瑞鶴の視線が再び本棚を彷徨った。
そしてある一点で停止し、そこにあった本を手に取る。

瑞鶴「提督さん、こういうのも読むんだね」

彼女が取ったのは軍隊の格闘術に関するDVD付きの本だった。

提督「ああ、まあね。男としての嗜みというか何というか」

瑞鶴「ふふっ、なにそれ」

クスクスと笑って瑞鶴が本に目を通す。DVDの挟まっているページで手が止まった。

瑞鶴「提督さん」

提督「なんだ」

瑞鶴「私これやってみたいなー・・・・・・」

このあと俺がどうなるかが分かった気がする。

『では次はシザーズチョークです。腕を交差させて相手の襟の内側をきつく握り、両肘を張って同じ側の敵の手に押し付けます。
 相手が何かに寄りかかっていたり仰向けになっている時に有効です』

テレビの中でOD色のTシャツと迷彩柄のカーゴパンツに身を包んだ、いかにも軍人という感じの男が言った。
同時に受け手の男にその技を実践して見せる。

瑞鶴「なるほどね。じゃあ提督さん寝転がってみて。私がその技を掛けてみるから」

提督「はいよ」

今俺の自室はこたつを隅にどけて簡単なトレーニングルームにしている。
床が畳張りになっているから体を強打する心配が少ないということでそのまま俺の部屋ですることになった。

仰向けに寝転ぶと左側に瑞鶴が膝をつき、腕を交差させながら俺の着ているトレーナーの襟を掴んだ。
力を加減してくれているのかあまり苦しくはない。

瑞鶴「どんな感じ?」

提督「もう少し腕を絞めたらどうかな。あと重心を低くしてごらん」

瑞鶴「こう?」

アドバイスしたとおりに瑞鶴が試す。
うぐっ、一気に苦しくなった。

提督「苦しい。タップタップ」

瑞鶴「あっ、ごめん!」

瑞鶴の手をタップして苦痛を訴えるとすぐに解放してくれた。
実は絞められている間、鼻にかかった彼女の髪の香りのおかげで頭、両腕、両足を除いた体の器官の内の出張ったある一点がその存在を激しく主張しかけたのは内緒だ。

提督「なかなか筋がいいな」

瑞鶴「そうかな?」

提督「うん。飲み込みが早いよ」

この言葉ですっかり気を良くした瑞鶴は1時間に渡って組み技をメインに練習を続けた。
もちろん俺も付き合わされた。彼女から技を受ける間に頭の中にあったのはこれがスキンシップと言える行為なのかという疑問だった。

3時頃に更新します。

スキンシップの定義とは何だろう。
前に調べたら親しい仲にある者同士が互いの肌を触れ合わせ親密感や帰属感を高めることだと記されていた。
じゃあ今俺と瑞鶴がやっている、この徒手格闘の練習はそれに当てはまるのだろうか。
目の前の瑞鶴の表情と彼女が俺に触れる時の力加減をヒントに考えることにした。

バーチョークーーのしかかって片腕を相手の喉に押し付ける首絞めーーをする時の瑞鶴は微笑んでいた。
でもその笑顔が嗜虐心から来る笑みにはどうしても見えなかった。
なぜならこの時の瑞鶴の頬は少し紅くて、目が爛々と輝いていたからだ。
どちらかというと男性をいたぶって愉しむ少女というよりは仲のよい異性の友人とちょっかいを出して遊ぶ年頃の女の子に見えた。

また、組み技をする1時間の間、さっきのシザーズチョークを除いて瑞鶴は俺に苦痛を感じるような力加減での攻撃を行わなかった。

瑞鶴「じゃあ今度はこの技ね」

提督「うん」

裸絞めは緩すぎて本来あるべき威力を発揮していなかったし、ベアハッグに至ってはただのハグだ。こんなのベアじゃない。
テレビの中の男達は明らかに力を込めて攻撃を繰り出しているのに瑞鶴の方は彼女自身、そして俺の中に肌の触れ合いによって起こる充足感が湧く程度の力しか入れないのだ。
これは明らかに練習ではない、別の何かを目的としての組み技だった。



俺はこれがスキンシップと呼ばれるべき行為であるという結論を下した。
そして最初から瑞鶴は素手での戦い方を学ぶつもりなど無かった事にも気付いた。
どうしてもこの肌と肌のやりとりが歩兵達が学ぶような激しいそれではない、ただのじゃれあいが目的だったとしか思えなくなったのだ。

格闘術の練習と偽った一方的なじゃれあいが終わると、瑞鶴が肩を揉んでくれた。
関節技で痛んだ体をほぐしてくれるとの事だ。

瑞鶴「痛いところはある?」

提督「特に無いかな。加減してもらってたし」

瑞鶴「べ、別に加減なんてしてないから!」

思わずウトウトし始めたところで、至福の肩揉みは唐突に終わった。
まどろみから覚めると瑞鶴の携帯が鳴っていた。

瑞鶴「あっ、翔鶴姉からだ。・・・・・・もしもし翔鶴姉?うん。今提督さんの所。結局雨のせいで行けなくなっちゃった」

会話の内容から察するに瑞鶴は俺と出かけることを翔鶴に伝えていたらしい。

瑞鶴「朝ごはんは食べたよ。提督さんに作ってもらったの。翔鶴姉は食べてないんだよね?・・・・・・自分で作るの?・・・・・・うん。分かった。じゃあね」


提督「翔鶴からか」

瑞鶴「うん。雨が降ってるけど大丈夫か聞かれたよ。あと朝ごはんのことも」

提督「そうか」

実は日曜日は食堂での食事は出ない。だから基本的に日曜日の食事は自炊して作るか間宮で食べることになる。
時計を見ると時刻は8時半だ。朝飯を食い、体を動かしたのにまだそんな時間なのか。

やることが思いつかないのでこたつを元に戻し、好きなことをしてくつろぐことにした。
瑞鶴は本棚に置いてあった漫画を読み、俺は未読の小説を読み進める。
中盤まで読む頃には時刻は正午前になっていた。読書をしていれば3時間なんてあっという間だ。

提督「腹が減ったな」

朝飯を食べるのが早かったためか、いつも空腹になるのもいつもより早かった。
間宮に行ってなにか食べよう。瑞鶴も連れて。

提督「瑞鶴、腹減ってないか?」

瑞鶴「・・・・・・」

突っ伏した瑞鶴からは何も返事がない。寝ているようだ。

提督「瑞鶴起きてくれ。今から間宮行かないか?奢るよ」

瑞鶴「うーん・・・・・・」

提督「デザートも付けていいよ」

瑞鶴「やったあ!早く行こ!提督さん!」


というわけで俺たちは間宮へと向かった。
暖簾をくぐって中を覗いたが日曜日の、それも一番混む時間帯だけにどのテーブルも人が多い。
カウンターで間宮に料理の注文をする。

間宮「あら提督、お疲れ様です。何になさいますか?」

提督「カレーの中辛を大盛で。瑞鶴は?」

瑞鶴「私は甘口カレーの小盛で!」

注文を済ませ、席に座った。
席に座るなり、瑞鶴がデザートのメニュー表を広げる。

提督「気が早いな」

瑞鶴「だって間宮さんが作るスイーツ美味しいもん。今から考えておかないと決められないよ」

提督「そうかい」

甘味と言わずスイーツと言うあたりが流石年頃の女の子だなと思い、苦笑する。
しばらく迷った末に勢いよく瑞鶴がメニュー表を閉じた。

提督「決まった?」

瑞鶴「うん。間宮特製ジャンボパフェにする!」

提督「了解。カレーを食べ終わったら頼んどくよ」

伊良湖「お待たせしました!どうぞ」

頼んでいたカレーが来た。大盛という言葉に違わず具もルーもご飯もたっぷり盛られている。

提督&瑞鶴「いただきます」

スプーンでご飯とルーを掬って口に運び、咀嚼する。入っているのは豚肉のようだ。ポークカレーということか。
少し遅れて辛みがやってきた。中辛と言っていたが結構辛い。

瑞鶴「ふふふ、提督さん汗かいてる。辛かったの?」

提督「まあ、思っていたよりは」

水で辛さを消火し、さらにカレーにパクつく。辛いけれどもそれ以上に美味い。
あっという間に完食した。向かいの瑞鶴も食べ終わっていた。

提督「食べ足りないな。何か頼もう」

瑞鶴「まだ頼むの?以外と食べるね」

提督「まあね。君のパフェも頼んでくるよ」

再びカウンターに向かう。さっきはカレーだったけど今度は別のものにしよう。

>>107安価取ります。

頼むもの

1 瑞穂特製ライスコロッケ

2 足柄特製トンカツ

3 比叡特製カレー

4 瑞鳳特製玉子焼き

2

過疎ってるので入れました。kskとでも入れれば良かった。>>108

4

提督「すまない、追加で間宮特製ジャンボパフェを1つ。あとは・・・・・・」

カウンターの品書きを見て迷った。間宮には料理の腕に自信のある艦娘が手伝いに入ることがある。
そしてその時は必ず手伝いに入った艦娘の得意な料理が、少なくとも一つは日替わりメニューとして並ぶのだ。
今日はラッキーな日と言えるだろう。なにせ次はいつ来るか分からない手伝いが4人もいるのだから。
日替わりメニューは4つ。うーん、どれにしよう。

瑞鳳「提督、どうしたんですか?」

調理場の奥からやってきた瑞鳳に声をかけられた。

提督「ああ、日替わりメニューをどれにしようか迷ってるんだ」

それを聞いた途端、瑞鳳は今こそ自分の得意料理を売り込むチャンスと見たらしく目を輝かせて品書きの上の玉子焼きを指差した。

瑞鳳「じゃあこれがオススメですよ!私特製の玉子焼き!腕によりをかけて作りますから!」

提督「じゃあそれで」

瑞鳳「はーい」

瑞鳳は上機嫌で調理場に向かっていった。



程なくしてパフェと玉子焼きがやってきた。

提督「そのパフェでかいな。食べられないなら言ってくれ。俺が食べよう」

瑞鶴「ちゃんと食べられるもん。ていうか提督さんこそその玉子焼き食べられるの?」

提督「食べ切れないなら注文なんてしないさ」

洒落た小皿の上に乗った玉子焼きはまだ湯気を放っている。
冷めないうちに箸で掴んで口に放り込んだ。
ああ、美味い。
残りも一気に食べたい衝動を押しとどめて一個一個をゆっくりと味わう。
少し甘めの味付けと卵のふわふわの食感を楽しんだ。

最後の一個を食べたあたりでふと調理場に視線を巡らすと瑞鳳と目があった。
自分の作った玉子焼きの感想が気になるらしい。
感想は言わなかった。でも彼女に向けて親指を立ててその代わりとした。

美味しかったよ。また頼んでもいいかな。

サムズアップの意味を理解した瑞鳳が嬉しそうに笑ってガッツポーズで返してくれた。
よし、次も玉子焼きを頼もう。

今日はここまでです。

先に食べ終わったので手持ち無沙汰だ。
瑞鶴は先割れスプーンでパフェグラス底部分のコーンフレーク掘り出し作業に移っている。間もなくガラスの岩盤が顔を出すだろう。

暇だったので今日の夕飯について考える事にした。夜は何を食べよう。
そういえば今日一日、翔鶴は何をしていたんだろうか。妹が不在の中、食事は誰と食べたんだろう。一人で?それとも誰かと?
どちらにせよあの妹思いな翔鶴の事だ。少なからず寂しい気持ちがあったに違いない。
それを考えた時、俺に思いつく事があった。

提督「瑞鶴」

瑞鶴「なあに?」

提督「今日の君と翔鶴の晩御飯はもう決まっているか?」

瑞鶴「特に決まってないけど・・・・・・、どうして?」

提督「いや、もし良ければ夜は翔鶴も入れて3人で鍋を食べたいなと思って。どうかな?」

瑞鶴「ホント⁉︎食べたい!翔鶴姉も喜ぶと思うよ!」

提督「じゃあ決まりで。食べ終わったら翔鶴も呼んで早速買い出しに行こう。そろそろ雨脚が弱まってくるだろうから」



1時間後、俺たちは翔鶴も加えて鍋の材料を買いにスーパーの野菜売り場に来ていた。
予報通り、雨は午後になると小雨になっていて、道中は傘を差せば問題なかった。

瑞鶴「キムチ鍋に必要なのって何かな?」

翔鶴「豚肉、白菜、エノキ、ネギにニラ、お豆腐、あとはお鍋の素ね」

前では二人が材料を選んでいる。俺は買い物かごを持って付いていくだけなので気が楽だ。

瑞鶴「はい、提督さん。これお願いね」

いきなり瑞鶴がかごに野菜をぶち込んできた。こら、食べ物はもっと丁寧に扱うんだ。

レジで勘定を済ませ、店を出る。片手でレジ部を提げ、もう片方で傘を持ちながら歩いた。

翔鶴「提督、大丈夫ですか?重くはありませんか?」

提督「大丈夫だよ。このくらい持てるさ」

瑞鶴「提督さんなら楽勝だもんね!」

翔鶴「もう瑞鶴ったら。また提督にそんなこと言って!」

翔鶴が瑞鶴をたしなめた。いつもの光景だ。俺は笑いながら見守った。

俺の自室に材料を運び、夕方になるのを待って押入れからカセットコンロを取り出し、準備を開始した。
翔鶴と瑞鶴が材料を切り、俺はコンロの準備と食器の配膳をする。
準備はすぐに終わり、具も煮込んだ。
鍋の蓋を開けると白い湯気の柱が天井にまで立ち上った。

提督「じゃあいただこうか」

翔鶴&瑞鶴「いただきます」

3人とも互いに遠慮せずに具を取って行った。鍋を食べる時はこうあるべきだ。
遠慮したところで何の得にもならない。

瑞鶴「美味しいー!」

翔鶴「体があったまるわね」

二人とも幸せそうに食べている。普段二人で食事する時もこんな感じで食べるのだろうか。
だとしたら本当に仲睦まじい姉妹だ。こっちまでほっこりする。

瑞鶴「提督さんどうしたの?なんだかニヤニヤしてるけど」

提督「別に」

表情に出ていたらしい。やばいやばい。

鍋を食べて後片付けを済ませた後はしばらく3人でテレビを見て過ごした。
9時を回った時、そろそろ時間だということで二人が寮に戻ることになった。
昨日瑞鶴にしたのと同じように、二人を寮の前まで送った。

翔鶴「瑞鶴がお世話になりました。では提督、おやすみなさい」

瑞鶴「またね提督さん!ご飯ごちそうさま!今度お返しするから!」

提督「楽しみにしとくよ。じゃあおやすみ」

手を振る瑞鶴の姿が入り口の向こうに消えたのを確認して俺も歩き出した。
歩きながら昨日からの休日に思いを馳せていた。
この二日間の休みは充実している。休日を過ごしてこんな気分になったのは初めてだ。
加賀と外食して一緒にビデオを選び、海浜公園で魚のことを話した。
瑞鶴と映画を観て、落ち込む彼女に朝食を振る舞い、一緒にじゃれあいを楽しんだ。
自分が少しづつ、誰かと一緒にいる心地よさを学んでいることに気付いた。
明日は何をしよう。天気が良くなるようだから散歩にでも行こうか。誰かを誘って釣りに行くのも悪くない。

二日間の余韻と、明日何をして過ごそうかという高翌揚感を胸に、俺は帰路を辿った。

次から吹雪編になります。二人で一緒に過ごしながら今までの鎮守府生活を振り返ります。
「提督の休日」はひとまずそこで終わります。

翌日の正午、俺はルアー釣り用の比較的短い竿とクーラーボックスを持って、来た道を戻っていた。
この日は雲一つない快晴で、食堂で朝餉を食べたあとは徒歩で防波堤まで行ってアジ釣りに励んでいたのだ。
誰かを連れてくることはなかった。俺は釣りを始めると夢中になってしまうから同行者の面倒を見切れない。それでは危険だということで結局一人で行くことにした。

提督「ふう・・・・・・」

近くのベンチに腰掛けてボックスを覗く。今日の戦果は素晴らしい。
釣り場に着いた時にちょうど群れが入っていて、ワームーーアジやメバル釣りで使う柔らかい疑似餌ーーを投げてすぐにアジが食い付いてきた。
さらに平日だったために他の釣り人もおらず、一人で釣果を独占できた。これは本当に運が良い。
40匹ほど釣ったところで釣りを止め、ナイフで魚を絞めて釣りを終えた。

バッグからお茶の入った水筒を取り出して喉を潤す。釣りは楽しかったが重い箱と竿を抱えて一人で帰るのは苦行だ。
荷物を持ってくれとは言わないから話し相手が欲しい。やっぱり誰かを誘って来るべきだったかもな、と思い始めた時だった。

「しれいかーん!」

道の向こうから俺を呼ぶ声が聞こえた。
見るとセーラー服姿の女の子が手を振りながらこっちに走ってきている。よく目を凝らして見ると吹雪だった。



提督「おお、吹雪か。どうしたんだこんな所で」

吹雪「お散歩に行ったら司令官の姿が見えたので声をかけたんです。司令官は何をしてたんですか?」

提督「釣りに行ってた帰りさ。ほら、見てくれ」

クーラーボックスを開けて魚を見せた。吹雪がわあっ、と声を上げる。

吹雪「凄いです!たくさん釣りましたね!」

提督「ああ。良い釣果だったよ」

荷物を持って腰を上げた。一休みした事だしそろそろ帰ろう。

吹雪「もう帰っちゃうんですか?」

提督「うん。魚が腐るといけないから。じゃあまた後でね。」

吹雪「あの、司令官!」

提督「なんだ?」

吹雪「私、いつもこの辺で往復して帰るんです。良ければ一緒に帰りませんか?」

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