まゆ「Pさん、ごめんなさい…」 (40)

モバP(以降P表記)「すいません、佐久間まゆの面会に来たのですが…」


電話で聞いた病院に着くと受付で担当アイドルの病室を教えて貰い、俺はまゆの病室へと向かった。
流石に病院で走る訳にはいかないので出来る限り速足で。彼女が運び込まれたという部屋を目指す。
階段を使おうと思ったら運良くすぐにエレベーターが開いたので乗り込み、受付で聞いた階のボタンを押す。





事務所でいつものように書類作業をしているところに担当アイドルが倒れたという知らせが来たのは、つい30分前の話だ。


P(…あ、お見舞い品とか何も持ってこなかったな…)

手ぶらで来たからと言ってそれを怒るまゆでは無いだろうが、せめて何か売店で買ってくれば良かったかな。
なんて考えているとエレベーターはすぐに目的の階に止まり、ドアが開く。
まあ、お見舞いは今度改めて持ってこよう。今日の埋め合わせも兼ねて。


P(えっと、まゆの病室は…っと)

受付で聞いた病室の番号を壁の案内図を頼りに探し回っていると目当ての部屋より先に見知った顔ぶれを発見した。

まゆと同じ、俺が担当しているアイドル達。と言うことはその目の前の部屋がまゆの病室か。
おーい、と声をかけて近づいてみるとアイドル達は医者と何か話をしているようだった。

邪魔にならないように少し待とうかと思ったが、その前にアイドル達と医者がこっちに気づき、振り向く。







その時の




アイドル達の悲痛な表情を




俺は未だに忘れられない

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まゆと一緒にロケに行っていたアイドル達は、丁度まゆを診た医者から話を聞いていたところだったらしい。
俺が到着したので医者はもう一度同じ話を今度は俺にしてくれた。
そしてアイドル達からは、まゆがロケ中に突然倒れたので撮影スタッフにここに運んでもらったと聞いた。


P「…ひっでぇ顔」


アイドル達と医者からそれぞれ説明を聞いた後、俺はまゆの病室に入らず一旦トイレで顔を洗う事にした。
と言うより、まゆの所に行く前に一度頭を冷やしたかった、という理由だが。
案の定、鏡に映った良い歳こいたプロデューサーはとてもじゃないが仕事相手の前には出られないような顔だ。何だこのオッサンは。俺か。


P「…よし」

パンパン、と軽く頬を叩く。心の準備は出来た。アイドル達には後は任せておけと言って先に事務所に帰るように言った。
あんまり大勢で詰め寄るのも負担になるだろうからな…。


病室の前に戻るとアイドル達の姿は無くなっていた。言われた通りに先に帰ったのだろう。
まゆの病室の取っ手を掴み、もう片方の手でコンコン、と軽くドアを小突いてノックする。

はぁーい、と部屋の中からドア越しに聞き慣れた声の返事が聞こえてきた。

P「まゆ、俺だ。入るぞ?」

小さな声で言ったつもりは無いのに、何故か返事は帰ってこない。普段のまゆならノックする前にドアが開いて出迎えてくれるので、ちょっと新鮮だ。

P「まゆ?入るぞ」

コンコン、ともう一度ノックしてから、鍵など掛かっている筈も無い引き戸を開けて病室の中に入る。





白い壁


白い天井


白いベッドの上で、白いシーツに半身を包み、風になびく白いカーテンをバックに佇んでいたまゆは



不謹慎だとは思っていても、つい綺麗だと思ってしまった

P「居るんなら返事ぐらいしてくれよ。無視されるのは寂しいぞ」

まゆ「ご、ごめんなさい…」

思ったより元気そうでちょっとだけ肩の力が抜けた。病室は個室では無いが今はまゆ以外には誰もいないようで実質個室状態だ。
手近な椅子をまゆのベッドの横に置いて座ると、まゆは何故かシーツをぼふっ、と頭から被って隠れてしまう。

P「おーい、どうした。顔も見たくない?」

まゆ「そ、そうじゃないです!だ、だってまゆ…」

P「倒れたって聞いてこっちはずっと生きた心地しなかったんだ。元気な顔見せなさい、ほら」

まゆ「あっ、あっ」

ちょっと乱暴だとは思うがシーツを無理やり引きはがしてやる。姿を隠していたものを奪い取られたまゆは手で顔を覆うような悪足掻きはせず、諦めた様子だった。

まゆ「あ、あんまり見ないでください…い、今のまゆ、メイクしてないんですから…」

P「そうなのか?全然変わらないぞ」

まぁ、嘘だけど。とは言えウチのアイドル達は元が非常に良い娘ばかりなので、例に及ばずまゆもノーメイクでも十分すぎる美少女だ。


P「元気そうで良かった。みんな心配してたんだからな」

まゆ「すいません…」

P「ゴメンな、慌てて来たからお見舞い何も持ってきてないんだ。バナナでも買ってこようか?」

まゆ「そんな、Pさんがわざわざこうして来てくれるのが、まゆにとって何よりのお見舞いですよぉ?」

P「大事な担当アイドルが倒れたなんて聞いて来ないプロデューサーなんてこの世にいないよ」

まゆ「Pさんは、まゆがアイドルだから大事なだけなんですか…?」

P「そんな憎まれ口叩けるようなら大丈夫そうだな」

まゆ「あ、誤魔化しました」

クスクスと笑うまゆに釣られて俺もつい吹き出してしまう。
こうしていると、本当にいつも通りのまゆにしか見えない。見ないようにしているだけなのかもしれないけど…。







参ったな




これじゃあ言い出せないじゃないか








もう、無くなってしまったんだよ、なんて

寝る

P「なぁまゆ。お腹空いてないか?何か売店で買ってこようか」


必死にいつも通りの自分を取り繕っているまゆが、あまりにも痛々しくてつい、そんな逃げる口実のような言葉が口から出てしまう。


まゆ「大丈夫ですよぉ?あ、でもPさんがお腹空いてるのでしたら、どうぞまゆに気を遣わずに」

P「いや、俺は大丈夫」

席を立つ理由が無くなり、ついでに言えばまゆにかける言葉すら見つからなくなってしまう。
会話が途切れてもまゆはニコニコといつも通りの温和な笑顔でこっちを見つめてくる。
それに対して俺は、そんなまゆをずっと直視している事が段々と辛くなってきてしまい…思わず視線を逸らしてしまった。

まゆ「Pさん」

まゆに呼ばれて再び視線が重なる。まゆの表情は相変わらず優しく微笑んでいるままだったが、不意にその瞳から一筋の涙が頬に流れた。


まゆ「ごめん、なさい」


零れる涙を隠すことも拭うこともせず、まゆは俺に対して謝罪の言葉を口にする。


まゆ「ごめんなさい……ごめんなさい…」


ポロポロと次第に堰を切ったようにあふれ出てくる涙にようやく両手で顔を覆い、まゆの謝罪はそのまま嗚咽へと変わっていった。
俺の前では常に笑顔でいたまゆの、初めて見る泣き顔、初めて聞く泣き声に猛烈な罪悪感と自己嫌悪に襲われる。



何をやってるんだ、俺は



一番辛いのはまゆ自身に決まってる



なのに俺は、健気に振る舞うまゆの笑顔と向き合うのが怖くて、逃げて、そして彼女に謝らせてしまった


P「…謝るのは俺のほうだ。…ごめんな」


まゆの鳴き声が、二人きりの病室に響く



P「ごめんな、まゆ」




俺はただ、まゆの隣で彼女が泣き止むのを待つ事しか出来なかった

まゆ「すいません……お見苦しい姿を」


目を真っ赤に、涙声のまゆはまだ手で目を擦っている。
タオルを渡すとまゆはゴシゴシと濡れた顔を拭い、それからもう一度すいません、と謝ってきた。


まゆ「こんな、みっともないところをPさんに見られてしまうなんて…まゆ一生の不覚です…」

P「そうか?女性の泣き顔って色っぽくて良いと思うけどな」

まゆ「…普段は絶対そんなこと言ってくれないのに」

P「そりゃあ、まゆはいつも可愛いからな。わざわざ言う必要がないだけだよ」

まゆ「Pさんの前では、常に可愛い女の子でいたかっただけですよぉ…」


いたかった、か…。まゆの中ではもう過去形になっちゃったんだな…。


まゆ「…Pさん?」

P「ん?」

まゆ「…もう、駄目なんですか?」


何が、と聞き返そうとしたがまゆの沈痛な表情を見て咄嗟に口を紡ぐ。慎重に言葉を選ばないといけない。


まゆ「お医者さんからお話は聞きました。…でもまゆは、Pさんの口から改めて聞きたいです」

P「…誰に聞いても同じだと思うぞ?」

まゆ「それでもいいんです。…お願いします」



まゆ「Pさんの口から聞いて、諦めたいんです」


ついさっきまで泣いていたせいで真っ赤な瞳で、まっすぐこちらを見つめてくるまゆ

ステージの上でも笑顔のまゆが、真剣な顔で俺の言葉を待っている


P「…わかった」


俺はプロデューサーなんだ、どんな時でもアイドルと正面から向き合う義務がある
それにまゆの泣き顔なんてもう見たくない



一度深呼吸して、心と頭を整えてからまゆに向き直り、彼女の望む言葉を、彼女の希望を奪い去る言葉を、告げる






P「残念だけど…もう、手の施しようが無いそうだ」




再び病室にまゆの慟哭が響く

希望を打ち砕かれた彼女の、悲鳴のような泣き声が


いつまでも、いつまでも病室に響き続けた

まゆの指が、失われてしまったものを探し求めるように在るべき場所を滑る。それでも無くなってしまったものは戻らない。
無くしたものは、もう二度と元には戻らない。


まゆ「…ごめんなさい…」


折角拭いた顔をまた涙でぐしゃぐしゃに濡らして、まゆが謝罪の言葉を呟く。


まゆ「ごめんなさい…ごめんなさい…」


何度も、何度も。まゆには何の非も無いというのに、まるで自分がすべて悪いんだと言うように、まゆはひたすら謝罪の言葉を繰り返す


P「まゆ…」


そんなまゆに耐え切れず、彼女の頭にそっと手を添えて髪を撫でる。数回彼女の艶やかな髪に指先を往復させると不意にその手が捕まれる


まゆ「Pさん…ごめんなさい…ごめん、なさい…」

P「まゆは何も悪くないよ」


か弱い力でギュッ、と握られた手からまゆの震えが伝わってくる。握りしめられた手はそのままに、もう片方の手をまゆの頭に回す


P「まゆのせいじゃない。まゆは何も悪くない」

まゆ「Pさん……Pさぁん……」


まゆをそっと引き寄せると、まゆのほうから強くしがみ付いてくる。縋りつくようにベッドから身を乗り出し、涙に濡れる顔が胸元に押し当てられる



まゆ「ごめんなさい、ごめんなさい…」

P「まゆは悪くないって言ってるだろ?そんなに自分を責めないでくれよ、頼むから…」

まゆ「でも……でも…っ」


















まゆ「あれは、Pさんから貰った一番大事なリボンだったんですよぉ!?」

P「だからって破れたショックで気絶するか、普通」

まゆ「まゆがこの事務所に移籍して、Pさんの担当にしてもらって…最初のライブの打ち上げでプレゼントしてもらった掛け替えのないリボンだったんですよぉ!」

P「大袈裟だって。凛達も滅茶苦茶心配してたんだからな?まあ、事情分かったら呆れてたけど」

P「俺、多分あの時の凛や卯月達の何とも言えない表情忘れられないと思うわ」

まゆ「だって、だってぇ…」

まゆ「Pさんがくれたリボンだったんです…Pさんから貰ったリボンだったんです……」グスン

P「あれ割と安物だったんだし、そこまで思い込まれると心が痛い」

まゆ「値段の問題じゃないんです!Pさんがくれたものなら例え不○屋のケーキの包装リボンだって良いんです!」

P「んなモンをプレゼントするプロデューサーって唯のアホかクズだよ」

P「しかしホント、まゆが倒れたって電話貰った時は心臓が止まるかと思ったぞ」

まゆ「うぅ……ご、ご心配おかけしました…」

P「んで、病院ついてみんなのビミョーな顔に出迎えられて、事情聞いて。一旦トイレで心の準備しなかったらまゆの顔見た瞬間爆笑してたわ」

まゆ「ひどいですっ!」

P「こんなに心配させるヤツのほうが酷いわい」ムギュッ

まゆ「んぶぶっ」

P「とりあえずみんなに心配かけた罰な」ギュムム

まゆ(ご褒美ですけどっ!ご褒美なんですけどっ!)

P「まったくもう…。んじゃ、俺手続きしてくるから着替えて用意しときな」

まゆ「はぁい」

P「リボンなら今度新しいのを買ってくるからさ」

まゆ「あっ、あの…なら今度のオフに一緒に…」

P「構わんよ」

まゆ「わぁい!」

P「こらこら、ベッドの上で跳ねるな飛ぶな一回転するな」

まゆ「ふにゃっ!」ビタンッ

P「あ、落ちた」





後日、ズタボロに敗れたまゆのリボンを試しに芳乃に直せるか聞いてみたら一瞬で復元してくれたのでオフの買い物デートの話は流れ、復帰早々まゆは1日中デスクの下で不貞腐れていた。

そして今日も森久保は「逃走中」で勝利し、プロデューサーはGTA動画で笑いすぎて腰を痛めた

地の文(?)難しいね。一度試しにやってみたかっただけなんよ。ただそれだけなんよゴメンよ。あと出番無くてごめんよアッキー
いやマジで無理です暗い話。これからもアホな話ばっかり書いていきます。



オツカーレ

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