モバP「遅く起きた朝は」 (20)

ライラさん取れたら書こうと思ってたけど、新妻感に我慢できなかった

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ゴウン、ゴウン……


遠く、静かに音が聞こえる。なんだっけな、聞いた事のある音だ。


ミンミンミン、ミンミンミン、ウーサミン……これはちがうか。心地良いリズムで絶え間なく響いている。


重い瞼を軽くこすり、薄く開く。少し明るくなってきてはいるが、朝と言うにはまだ早い時間。


(早い時間に起きる癖が付いちゃってるんだな)


久方ぶりの休みにも関わらず、平日と変わらぬ時間に目が醒める自分が少しおかしく思えてくる。


いつもなら、休みの日でもここで起きて朝の支度をするのだが。


(ま、たまにはいいか)


何連勤か数えるのも億劫な程に続いた仕事が終わり、やっと迎えた休みだ。むしろ今は休むべきだ、うん。


もとより誰に憚るわけでもないのだが、頭の片隅の罪悪感を振り払い、再び眠りに落ちていった。



――――



「大分寝たような気がしたんだけどなあ」


ピー……と大きめの機械音が聞こえ、眼が覚めた。


窓から差し込む明かりを感じ、眠気の残る体を起こして呟く。


些か肩や腰が重いが、おそらく仕事疲れのせいだろう。そんな歳ではないはずだ。まだ。


「なんて言ってると、あっという間ですよ?ウサミンパワー、わけてあげましょうか?」



いらん。


即答、後に逡巡。


「何してんの? 菜々」


「寝坊助さんを起こしにきました!」


どや顔のウサ耳メイドが、枕元にふんぞり返って立っていた。パンツ見えるぞ。



寝坊と言われる程寝てはいないんだけど、と呟くも、声をかけられるまで寝てたら、それは寝坊です!と力強く返される。


それはウサミンルールの第何条だ?


「ほらほら、もう朝ごはんの準備できてますよ?顔洗ってきてください」


促され、ゆっくりと立ち上がり、肩を一回し。大丈夫、まだ上がる。


当て付けではないのだが、ウサミンがこちらを見る眼が何だか怖い。


逃げるように退室し、そそくさと洗顔を済ませる。


ダイニングへ行くと、朝食がまだ湯気を立てていた。


ご丁寧に二人分用意してある。


「あれ、お前もまだ食べてなかったのか?」


「いえ、菜々はもう済ませましたよ」


じゃあ誰の分だよ、と聞く前に、


「当ててみてください。ちなみに、作ったのも菜々じゃありませんよ」


いたずらっ子のような顔で菜々がそう言う。今いくつだと思ってんだよ17歳。



言われて朝食を改めると、確かに菜々の作りではない。


トーストは上手く焼けているものの、卵焼きは焦げているのと半生でとろけている物が一つずつ、サラダの野菜は甘く見ても乱雑に切られている。


極め付けに、テーブルの中央には大きめのボウルにアイスが山盛りになっている。


「あー……成る程、わかった。どこにいる?」


「ついさっきまで待ってたんですけどね。洗濯が終わったから、いつ起きるかわからないし先に干してくるって……」


「呼んでくる」


聞き終わらないうちにそう答える。


「先に食べててくださいって言ってましたよー」


後ろからそんな言葉が聞こえたような気がするが、聞こえない、知らない。オレ、ウサミン語、ワカラナイ。


良い天気だ。空が高く、青い。雲は無いが、屋上には真っ白なシャツが心地良い風に吹かれ、翻っている。


音を立てないようにそっとドアを開けると、鼻歌が小さく聞こえる。いた。


薄い水色のワンピースに、赤いエプロンがよく映える。


普段はほったらかしの金髪が、肩のところで結ばれている。菜々がやったのか? 後でジュースを奢ってやろう。


しばし眺めていると、向こうもこちらに気付いたようで、ふりふりと手を振ってくる。


何も言わずに見とれていたのが何だか気恥ずかしくなり、照れ隠しに少し大きめの声を出す。


―――ライラ!



「おはようございますですよー」


ああ、おはよう。とてとてとこちらに近づいて来る、くりくりとした青い瞳に吸い込まれそうになる。


「朝ごはんはもう食べたですか?」


問いかけと同時に頭を傾ける仕草が可愛くて、思わず笑みが漏れる。


「いや、まだだ。せっかくライラが作ってくれたんだし、一緒に食べようと思って」


「わざわざ呼びに来てくれたですか? やはりアナタは良い人ですねー」


すぐ終わらせますですよ。そう言ってにへらと笑い、作業に戻る。何とは無しに見ていたが、ライラが思いついたように声をかけてきた。


「すみません、お手伝いをして欲しいのですよ」


「ん? ああ、構わないよ、もちろん」


「おー、助かりますです」


少し恥ずかしそうにはにかみながら言う。


「ライラさんでは届かないのですよ」


うーん、と唸りながら背伸びをしてみせる。背が低い方ではないが、寝具用の高い物干し竿には、ようやく指先が届くかどうか、といったところだ。


「一応、踏み台もあるんだけどな」


「はいです、使おうと思っていたですが……」


ちらりと踏み台に目をやり、恥ずかしそうに続ける。


「せっかくですから、共同作業、したいです」



………
……


……ハッ! 危ない危ない、意識が飛んだか。しかしヤバイな、今の笑顔は。


俺じゃなかったら抱きしめてプロポーズしてるところだったよ流石にそれは犯罪だぜベイベいやライラさんじゅうろくさいじゃんセーフじゃん行くか俺? 行っちまうか俺!?


「どうしましたですか?」


気付くとライラが下から覗き込むように見上げている。ホント可愛いなこいつチクショウ。


「いや、なんでもないよ。さっさと終わらせてご飯にしよう」


努めて平静を装って答える。


声の調子も普段通り、問題無い。


「でしたら、後はこれだけですのでよろしくお願いしますです」


洗濯籠の中には、一人で寝るには少し大きいベッド用のシーツが残っていた。



―――


『アイスだけは冷凍庫に入れておきました。大丈夫だとは思いますが、他のものも悪くならない内に食べてくださいね☆ それでは、ウサミン星人はクールに去るぜ』


物干しを終え、ダイニングへ戻るとこんな置き手紙があった。テーブルの上の料理には、丁寧にラップがかけられている。


「……結局何しに来たんだ、アイツ」


「ウサミンさんはわたくしが呼んだですよー。お聞きしたい事があったです」


なんと。肩こりか腰痛でもあるのか?たしか近くにできた鍼灸院の評判がいいって聞いたな……


「ああいえ、そうではなくて、お料理を教えてもらったですよ」


料理?そういえば、ライラが作ったんだったか。


「はいです。色々ためになるお話をして頂いたですよ。」


ですが、と一呼吸置き、続ける。


「あまり上手にできなくて、申し訳ありませんです」


しょんぼりライラ。可愛い。


「でも、トーストは上手に焼けたです。フゴフゴさんからコツを聞いておいたですよー。」


ドヤ顔ライラ。可愛い。


「……聞いているですか?」


いじけ顔ライラ。可愛い。


――っと、いけないいけない。


「ああ、もちろん。ただ、ライラが俺のために作ってくれたっていうのが嬉しくてな。ありがとう」


「そう言っていただけるとわたくしも嬉しいですよー、ありがとうございますです」


「どういたしまして、だな。お互いに」


礼を言い合っているときりが無いので、閑話休題。先に朝食を片付けてしまおう。


少し冷めてしまっているが、これくらいなら問題無いだろう。




――うん、美味い。


――本当ですか?


――ああ、特にこの黒い卵焼きの苦味なんか最高だ。


――むー、嘘は良くないですよ。


――これは嘘ではなく、冗談と言うんだ。


そんな他愛のない話をしながら食事は進む。


「そう言えば、ウサミンさんに洗濯機の使い方も教えてもらったです」


「先週入れたばっかりの最新式なんだけどな。あいつ使い方知ってたのか」


「説明書を読んだそうですよ。ライラさんには少し難しかったです」


「あんなもん、洗濯物と洗剤を入れてボタンを押せば、それで大体なんとかなる」


超音波だの酵素での殺菌だの、機能は色々付いてはいるが、使えなくても問題は無い。


「しかしわざわざ悪かったな、休みの日に来てもらって飯やら洗濯やら」


「いえいえ、楽しかったですよ。ウサミンさんにも良くしていただいたです。お家が近いのは良いことですね」


「呼べば答える腐れ縁、って程じゃないが、ウサミン星まで徒歩2分だからなあ。この家」


住みやすい程よい郊外に一軒家を構えることになり、その家がウサミン星の近くである事に他意はなく、全く偶然の産物である。念のため。


お互いに合鍵を持っていたりはするが、あくまで緊急時用であり、普段から使っているわけではない。決してない。



「で、何でわざわざ休日に電車で1時間もかけて来たんだ? 用事があるなら電話なりメールなりで連絡してくれれば良かったのに」


「昨日ウサミンさんに、プロデューサー殿が休みだと教えてもらったです。身の回りの世話をしてあげたら喜ぶって、快く鍵も貸してくださったですよー」


……まあライラを玄関の前で待ちぼうけさせるわけにはいかんからな。緊急時だよ、うん。グッジョブウサミン。


「それはまあ、うん。ありがとうございます」


そろそろ平静を装いきれなくなってきた。


「お世話はできたでございますが、もう一つ。せっかくのいいお天気なので、お願いがあるですよ」


「おう、なんでも言え。家事の礼だ、今なら大概の事は受け付けるぞ」


もとよりライラの頼みを断る言葉など持ってはいないが。


「おー、それはありがたいです。では、ちょっと待って下さいね」


ケータイ取り出しポパピプペ。未だに中折りタイプの携帯電話を取り出し、何事か操作を始める。


数瞬後、家の電話が音を立てる。固定電話が鳴るなんてどれだけぶりだろうか。


「これもウサミン星人の入れ知恵か?」


「はいです。ウサミンさんは負け知らずだそうですよ」


たぶん勝ちも知らないんだろうがな。


そんな事を考えながら、受話器を取りに行く。


「はい、もしもし」


「デートしてくれま・す・か?」


思わず振り向く。


いたずらが成功した子供のように笑うライラを抱き締めずに済んだ自分を褒めてあげたい。


「ライラさんは大丈夫ですよー?」


大丈夫じゃないから。俺が大丈夫じゃなくなるから。両手を広げて待ち構えるのはやめなさい、やめて下さいお願いします。




この後滅茶苦茶デートした


終わり


読んでくれてありがとうございました。ウサミンは近所のお姉さん。

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