二宮飛鳥「夢中の歪んだ鏡面体」 (10)

初投稿です。

モバマスss
地の文あり・微TS成分注意です。

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ある日のことであった。その日ボク、二宮飛鳥はレッスンを終えて事務所にたむろっていた、特に事務所に用事があるわけでもないが、寮に戻ったところで特段やることもない。ならば誰かしらが定期的に置いていってるであろう雑誌を読みふける方がまだ有意義だろう、と思っての行動だった。

ボクの担当プロデューサーはというと、1時間ほど前に何処かから持ってきた段ボールをデスクに置き、中身を分けているようだった。いよいよ雑誌を読み終え、やることも無くなったボクは好奇心とともに彼に近づいていった。

どうやら彼が仕分けているのは封筒に入った手紙のようだった。アイドルの所属するこの事務所において、仕分ける必要があるもの・・・1つだけ思い当たり、彼に質問した。
「それは、いわゆるファンレターというやつかな?」

「あぁ、そうだが?」
プロデューサーは仕分けの手を止めることなく返答した。段ボールの中に入っている数は相当で、それを逐一検閲していく作業はかなり根気のいるものだろう。彼の仕事の大変さへの同情とともに、ボクの胸には熱いものがこみ上げていた。
「嬉しいね、実際にファンレターをもらうっていうのは、まさかちょっと前まで孤独を気取っていた人間にくるものとは思えないけどね。それでも、誰かのセカイに少しでも影響を与えられたっていうのは・・・ふふっ、なんだか嬉しいね」
そうだな、と彼も肯定する。
「ファンレターが届くまで人気が出たのも飛鳥、お前が作ったセカイが誰かに受け入れて貰えたからなんだ。お前のセカイは、空っぽなんかじゃなかったってことさ」
段ボールの中の声達を見つめると、含笑いが無限に出てくるような気がした。

「一応検閲済みなファンレターもあるが・・・見るか?」
「じゃあ、せっかくだし読ませてもらうとしようかな」
口ではそんなことを言ったが、本心ではきっとファンレターからの他者肯定が欲しくてたまらなかったのかも知れない。ボクの言葉を聞くと、プロデューサーは手紙の山の中から適度に1つを掴み差し出した。
「安心しろ。お前は独りなんかじゃないんだ」
手紙を受け取り、目に入れる。しかしボクはそれを十全に喜びの気持ちで読み終えることができなかった。少しだけ、眉をしかめる。

冒頭に書かれた、宛名だった。「飛鳥くん」と書かれたそれは間違いなくボクのことを指しているのだろうが、その「くん」というたった2文字が引っかかり、本文を素直な気持ちで受け止めることができなかったのだ、
間違いなく、それはファンレターだった。この前のソロライブの感想が書き連ねられていて、書き手であろう彼女がそれに感動したということが、これからもボクの見せるセカイに期待しているという旨だった。
「・・・なんか素直に喜んでいるようには見えないな?」
彼は心に機敏だ。ボクの感情の動きなんてすぐに読み取ってしまう。どこか申し訳なさそうにしながら、ボクの顔を覗き込んでいる。彼に隠し事なんてできそうもないだろうと諦め、思っていることを吐くことにした?

「この、冒頭。飛鳥『くん』ってのは、一体なんだっていうんだい?ーーまさか、ボクが男だなんて勘違いしてる訳でもあるまいし」
そういうと合点がいったようで、彼は数秒考えた後喋り始める。

「まさか、そんなことはないだろうな、ただ、飛鳥は少し中性的な外見を持っているからな。ホラ、765プロの菊地真だってそういう層のファンはいるが別に男扱いされてるわけじゃあない。ファンがいて、お前のセカイに共感してくれたって事実だけ受け取っとけ」

さて、続きをやりますかと彼は作業の手を再び進める。もうこれ以上仕事を邪魔するのも失敬かと思い、彼の元を去る。やることが完全になくなったボクは仕方なしに寮に戻ることにした。

帰り際にプロデューサーが余り気にしすぎるな、と一言だけボクに告げたが、その日の夜はそのことだけが頭を巡っていた。

とりあえず今日はここまでです。

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