モバP「雪美と梨沙と、それから千秋」 (19)

ある日の事務所 昼下がり


梨沙「へえ。明日は久しぶりにパパと会えるんだ」

雪美「………」コクン

梨沙「よかったじゃない。いっぱい話せるといいわね」

梨沙「言いたいこと、たくさんあるんでしょ?」

雪美「………」コクン

雪美「………」

梨沙「……でも、その割にはうれしそうじゃないわね。なにか嫌なことでもあるの?」

雪美「………」フルフル

梨沙「じゃあなんで」


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雪美「……会うの……久しぶり……どうしたら……」

梨沙「えっと……パパと会うのが久しぶりだから、どんな感じで接したらいいのかわかんないってこと?」

雪美「………」コクコク

梨沙「なるほどねえ」

梨沙「よし! ここはこのアタシが一肌脱いであげるわ!」

雪美「………暑い?」

梨沙「そういう脱ぐじゃないわよ! 手伝ってあげるってこと!」

梨沙「アンタがパパと楽しい時間を過ごせるように、どうしたらいいのか教えてあげるわ」

雪美「……どうして……?」

梨沙「どうしてって。そんなの当たり前じゃない」

梨沙「パパとの時間が大事だってことは、アタシが一番よく知ってるんだからっ」

雪美「………」

雪美「……ありがとう」キラキラ

梨沙「ふふん」

梨沙「それじゃ、さっそくいろいろ教えていくわよ。メモの用意はできてる?」

雪美「メモ………」キョロキョロ


ペロ「にゃあ」←メモとボールペンの上に立っている

雪美「ありがとう……ペロ……」

梨沙「アンタの猫、賢いわね……」

梨沙「まずひとつめ! 最高に決まった姿でお出迎えすること!」

雪美「………?」

梨沙「パパが家に帰ってきたら、玄関に出て『おかえりなさい』って言うでしょ?」

梨沙「この時、自分が一番かわいらしく見えるポーズと笑顔でお出迎えするの」

梨沙「玄関に入っていきなり娘のオシャカワなところを見せられたら、パパは絶対元気になるに決まってるんだから!」

雪美「………」メモメモ

梨沙「というわけで、まずは笑顔の練習よ!」

梨沙「はい、にこーっ」ニコー

雪美「………」メモメモ

梨沙「そこはメモじゃなくて自分でやるのよっ」

雪美「………」

雪美「………にこー」

梨沙「1ミリくらいしか顔の筋肉が動いてない気がするんだけど」

雪美「………にこーっ」

梨沙「声だけ大きくなっても意味ないわよ」

雪美「………」

雪美「笑顔……意識する……むずかしい……」

梨沙「ライブだと普通に笑ってるじゃない」

雪美「………」ウーン

梨沙「テンション上がってないと、笑うのが苦手ってことか……」

梨沙「うーん。どうしたらいいかな……」

千秋「そういう時は、両手の人差し指を使うといいわ」

梨沙「あ、千秋」

雪美「……人差し指」

千秋「佐城さん。両手の人差し指を立てて」

雪美「………」

千秋「それを、こうして唇の両端にくっつけて」

千秋「そのまま、上に軽く押し上げると」

千秋「口角が吊り上がって、笑顔が作れるわ」ニー

雪美「………こう?」ニー

千秋「そう、その調子。いい笑顔よ」

梨沙「さっきよりはずっといいわね。とりあえず表情はこれでオッケー!」

梨沙「じゃあ、次はセリフの練習! 最高の『おかえりなさい』を言えるようにするわよっ!」

雪美「………」コクン

千秋「ふふ、頑張って」

梨沙「おかえりなさい♪」

雪美「……おかえりなさい……」

梨沙「もっと後ろをあげなさい! うれしい感じをがーっと出して」

雪美「……おかえりなさーい」

梨沙「もう一回!」




千秋「………」

千秋「的場さん、面倒見がいいのね」

P「ああ。あれで結構、気を遣える子だから」

千秋「彼女に任せておけば、きっと佐城さんも気持ちよく父親を出迎えられるようになるでしょうね」

P「そうだな」

千秋「それにしても……的場さんは本当に父親が好きなのね。あれだけの情熱、そうそう見られるものじゃないわ」

P「パパっ子ここに極まれり、だからな。パパに対してはすごく甘えん坊らしい」

千秋「普段の彼女からは想像しがたいわね」

P「はは、確かに」

P「千秋は子どものころ、父親にべったり甘えたりはしていたのか?」

千秋「………」

千秋「さあ、どうだったかしら」

P「今の間はいったい」

千秋「さあ、どうだったかしら」

P「まさか図星」

千秋「しつこい男性は、女性に嫌われるわ」

P「わかった。これ以上追及はしない」

梨沙「おかえりなさいっ♪」

雪美「おかえりなさい……♪」

梨沙「そう! 今の結構よかったわ! もう一回!」

雪美「……うん……」



千秋「………」

千秋「佐城さん。あまり家族と会えないらしいわね」

P「ああ……両親ふたりとも、仕事が忙しいみたいだから」

P「こればっかりは家庭の都合だから、こっちもどうしようもない」

千秋「そうね……」

千秋「できることなら、彼女の寂しさを和らげてあげたいところだけれど」

P「それは、千秋が家族のかわりになるってことか?」

千秋「そこまで傲慢な真似はできないけれど……少しでも、役割を肩代わりできれば、とは思わなくもないわ」

千秋「たとえば……姉代わり、とか」

P「姉? お母さんじゃなくて?」

千秋「……貴方。それは私が、母親に見えるほど歳をとっているように見えるということかしら」

P「え? あ、いや。そういう意味じゃなくてだな」

千秋「そうね。10歳や12歳に比べれば、20歳なんてすでに年増かしら」

千秋「ね?」ジロリ

P「い、いやいやいや。俺は決してそんなロリコンみたいな思考は」

千秋「………」


千秋「ふふっ。冗談よ、冗談」

千秋「貴方の慌てる姿が見たくて、少し意地悪な言葉の捉え方をしてしまったわ」

P「なんだ、冗談か……」

P「美人に睨まれると怖いんだから、勘弁してくれ……」

千秋「褒めてもらえて光栄ね」

P「しかし、冗談か」

P「千秋も、はじめの頃に比べるとずいぶん丸くなったよな」

千秋「そうね。それは自分でも感じていることよ」

千秋「貴方と初めて出会ったときと比べて、私はいろいろと変わった。それはきっと、間違いない」

千秋「アイドルを通して……貴方との日々を通して、私は変わった」

千秋「10年前。佐城さんくらいの年頃の私は、物静かな子だったらしいわ。彼女ほどではないにしても」

千秋「そんな自分が、10年後にアイドルになっていると知ったら、その子はどう思うでしょうね」

P「過去の自分に教えてやって、その反応を知りたいってことか」

千秋「ええ。きっと面白い反応を見せてくれるわ」

千秋「……同じように。10年後の私も、今の私にメッセージを送りたがっているのかもしれない。そんなことを考えていると、なんだか不思議な気持ちになるの」

P「なかなかロマンチックな想像だ」

千秋「意外?」

P「いいや。千秋がロマンチストなのは知ってる」

千秋「そう」フフッ


千秋「10年後の私。いったいどうなっているでしょうね」

P「さあ、どうだろうな。想像もつかない」

千秋「30までアイドルを続けている可能性もあるし、歌手に転向している可能性だってある」

千秋「それに……」チラ

P「?」

千秋「………今とは違った形で、貴方と一緒に在る未来を過ごしているかもしれないわ」

P「………え」

千秋「さて。私はまた、あの子達のお手伝いをしてくるわ」ファサッ

P「あ、ああ」

千秋「佐城さん。お父様と会うのなら、きちんとオシャレをして臨む必要があるわ」

梨沙「そうそう。アタシもちょうどそれ言ってたところなの。千秋、アンタも雪美の服選ぶの手伝って」

千秋「ええ」

雪美「………」コクコク




P「………」

P「………一緒に在る未来、か」

P「本当、冗談がうまくなったよなあ。千秋は」


千秋「あら。冗談じゃないわよ」ヒョコッ

P「………」

P「そのセリフ自体も冗談である可能性は」

千秋「さて、どうかしらね」ニコニコ

P「………」

P「まあいいか。千秋のかわいいニヤニヤ顔が見られたし」

千秋「か、かわっ!? あ、貴方、そういう返し方は卑怯じゃないかしらっ」

P「さて、どうだろう」ニヤニヤ

千秋「~~っ! み、見てなさい……いつかリベンジしてみせるわ」

P「ははっ。そうだな、その『いつか』を楽しみにしてる」

千秋「………」



千秋「ふふっ」

千秋「そうね。いつか、いつかの未来で……ね」



おしまい

おわりです。お付き合いいただきありがとうございます
千秋さんをまともに書いたのはじめてですけど、魅力的なキャラしてますよね。書いていて楽しかったです(ちゃんと書けているかは知らない)
あと、ゆきりさはいいぞ


過去作もよければどうぞ

関裕美「自然なデートの誘い方……」
市原仁奈「梨沙おねーさんは、動物にモテモテでごぜーます」
的場梨沙「父の日のプレゼントはアタシ!」

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