【Elona】グウェン「どうしてそんなことするの・・?」 (74)

元ネタ Elona


SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1466372676

冒険者「・・・」ブンッ

少女「あっ・・・」トサッ

ヨウィンの村の片隅に血だまりが広がり、そしてすぐに、よく耕された大地であることを示すようにスッと地面に吸い込まれていった

チュンチュン...チュン...

ギルバート「むっ・・・」ムクリ

朝日の差し込む室内で、2段ベッドの上で上体を起こす大柄な中年が一人

村人「ギルバートさん、準備はいいですかなー?」

ギルバート「!・・すまない、すぐに行く!」バサバサッドサッ

村人「いえいえ、焦らんでもまだ大丈夫でs・・」

ギルバート「待たせたな!」バタンッ

村人「おぉ、いつもながらお早い。では早速まいりましょうか」

ギルバート「うむ!」

9月、農村であるここヨウィンの村において1年でもっとも忙しい月である

辺境の騎士として名をはせるギルバート大佐が、とある理由でここヨウィンの村を訪れたのは2日前のこと

しかし、人手がいくらあっても足りないというように働き続ける村人たちの姿を黙って見ていられるような男ではなく、今日の朝から農作業を手伝おうと申し出ていた

村人A「あぁ、ギルバートさん、15000sも野菜を収穫してくださったのですね」(sは重さの単位)

村人B「ほんとうに助かりました・・この時期は毎年多くの冒険者さんが収穫依頼を受けようと村を訪れてくれるのですが今年は少なくて・・」

ギルバート「ワハハ!なぁに、いつも鍛えているからな。この程度であればまたいつでも言ってくれ」

ギルバートが自慢の筋肉について語りだそうとしたところで、畑のそばに建てられた小屋の中に設置された鐘が鳴った

村長「みんな、もう昼だー、一旦昼休みとしよう」

村長の号令に一仕事終えた疲れ混じりの歓声で応え、村人たちが各々の農具をかついでゾロゾロと村へ帰り始める

ギルバートも畑のほうをチラリと見やってから村人たちに続こうとした歩みを・・止めた

ギルバート「?」

見渡す限りに広がる畑のそばに点々と立ち並ぶ穀物用の倉庫

そのひとつの陰から白く巨大ななにかが飛び出すのを見とがめたのだ

ギルバート「・・・」ダッ

コボルト

白く巨大な体躯、それに見合った筋力によって繰り出される棍棒や大剣の一撃は、そこらの駆け出し冒険者など一撃でミンチに変える

畑にはやどかりやねずみ、こうもりといったモンスターはよく見かけられるものであり、その程度であれば村人たちも軽くあしらいながら作業ができるため、ギルバートもわざわざ処理しようとは思わなかっただろう

しかしコボルトとなると話が違う

とはいえコボルトの走っていく方向はこちらとは真逆、一応追い払うだけはしておこうとギルバートは駆け足で向かっていくがそれほど焦る必要は・・

ギルバート「!」

コボルトの走っていく先、新たに道を通す予定のために、花や野草の生えるままにしてあるかつての畑

その真ん中で座り込む少女がいた

少女「~~~♪」

どうやら鼻唄まじりに花を摘んで集めているようで、近づいていくコボルトに気づいた様子はない

まともな武器は手に持ったクワだけ、防具など農作業の邪魔なので当然身につけていない自身の現状を冷静に把握し、駆ける足を一瞬緩めて渾身の力でクワを投げつける

ギルバート「うぉおお!」ブンッ

かなりの速度で飛んできたクワを敏感に察知して、コボルトは身をひるがえす

次の瞬間、その足元にザクッと畑の土をまき散らしながら柄の半分ほどまで深々と突き刺さるクワ

残念ながら投げるのに適した形状でなかったため投擲スキルが完全には発揮されなかったが、コボルトの注意を引くことには成功したようだ

グウェン「っ!」ポトポト

そしてようやく気が付いた少女が、手に持った花を落としながら立ち上がる

>>7
「グウェン」→「少女」に訂正です
 ごめんなさい

あまりにも遅いように思われた少女の反応であったが、幸運なことにコボルトの意識は獲物から敵へと切り替えられていた

コボルト「グルルッ・・」ザッ

力を貯めるように身をかがめるコボルト

しかし自分に相手の意識を向けさせ続けるため、臆することなく突っ込んでいくギルバート

ギルバート「フンッ!」

より多くの作物を運べるように武器防具は置いてきてしまっていた

ギルバートは徒手空拳の状態で右腕を大きく振りかぶりつつ相手の懐へ踏み込んでいく

それを待っていたかのようにコボルトは猛烈な突進とともに両手で持った棍棒を振り抜こうと

ボゴンッ

ギルバートの大柄な体躯からは想像もできない速さの右フックがコボルトの頭を打ち抜き、突進の勢いをも打ち消す

それと同時にコボルトの棍棒も――多少勢いが衰えているとはいえ――ギルバートの脇腹に叩き込まれてはいるのだが・・

ギルバート「ハァッ!」ドシュッ

ギルバートはまったくダメージを受けていないかのように、右手を振り抜いた反動と腰を使った鋭い左ストレートでコボルトの喉を叩き潰し、完全に息の根を止めた

ギルバート「ハァ・・ハァ・・」

ギルバートはたしかに鍛え上げられた戦士ではあるが、防具もなしにコボルトの両手持ち棍棒を喰らったダメージが徐々に効き始め息を切らせる

とはいえ少女を救うことはできた

とりあえずあの子を親の元にでも送り届けてやらねばならない

痛む脇腹は無視して背筋を伸ばし、こわばる顔になるべく笑みを浮かべつつギルバートは少女のほうを振りかえ・・

少女「・・・」フルフル

ギルバート「・・ワ、ワハハ・・その、そんなに脅えなくともよいのだぞ?もうモンスターは・・・」

少女「・・・」ビクビク

ギルバート「・・その・・どこか痛いのか?大丈夫か?」スッ

少女「・・・」ササッ

ギルバート「むぅ・・弱ったな」ポリポリ

少女「・・・」ジーッ

ギルバート「・・と、とりあえずここにいては危ないかもしれんのだ。村に一緒に戻ってはくれまいか?どうかな?お嬢さん?」

少女「・・・」

ギルバート「・・・」

少女「・・・」コクン

ギルバート「よ、よし、でははぐれないように付いてくるのだぞ?」

なんとか説得(?)に成功しギルバートはほっとしながら村のほうへと踵を返す

まったくもって女性の相手というのは疲れるものだと思いつつ歩き出し・・

少女「ありがと」

ギルバート「!・・ワハハ!当然のこと・・を・・」

振り返ったギルバートの目には少女などまるで初めからいなかったかのように、今朝畑に来た時と同じ土の道が映るだけだった

なんで深夜にスレあるのにこっちに立てたの?

>>17
最初速報さんのほうで書いてみようかなと思ってたんですが、R-18的なのはダメと書いてあってびびって深夜さんに書きこんじゃいました(速報Rというのもあるんですね、よく見てませんでした・・・)
ただ速報さんのSSを色々見てみると、直接的な表現のR-18ネタがダメなだけのようだったのでやっぱりこっちに書いちゃってますごめんなさい

あと単純に少し書き直したかったとこもあったり(>>7で結局失敗)

ちなみに書き溜め?とかは全然ないので遅いかもしれません

夕暮れ、一日の労働の疲れを酒でも飲んで発散させようと農夫たちが集う宿屋のホールは、一時的に酒場に似たような様相を呈する

そんな店内で忙しそうに働く店主が一段落したのを見計らってギルバートは喧騒に負けないよう、声を張って話しかける

宿屋「銀髪の女の子?」

ギルバート「うむ、今朝畑で出会ったんだが少し目を離したすきに煙のように消えてしまってな」

宿屋「あぁ・・グウェンちゃんだね」

ギルバート「グウェン、というのか。銀髪ということしか伝えてないが・・この村では有名なのか?」

宿屋「有名というか・・まぁ・・」

ここ2日ほどの記憶でしかないが宿屋の主人の快活さが失われたのは初めてで、ギルバートはなにか腑に落ちないものを感じさらに話を聞こうとするが・・

村人集団「女将さん!クリムエール5人分!」

宿屋「はいはい!今持ってくよー!・・ギルバートさん、ごめんなさいね?また後でもいいかしら?」

ギルバート「もちろんだ、ありがとう」

村人A「ん?そこにいるのはギルバートさんじゃないか!こっち来て一緒に呑もうや!」

ギルバート「むっ?いや、私はだな・・」

村人B「おいおいノリが悪いぜギルバートさーん。明日は休みだし飲み比べというのはどうだい?うん?」

ギルバート「・・ほぅ?私に飲み比べを挑むだと?」

村人C「お、村人Bとギルバートさんの飲み比べだ!」

村人D「この村じゃBが一番強いからなぁ、こりゃ見ものだぞ」

ギルバート「フハハハハ!なら今日からは私がこの村一番の大酒飲みだな!」

村人B「ハッハッハッ、言ってくれるじゃないか?」

宿屋「あんたら!ちゃんと自分のゲロゲロは片づけっていってちょうだいよー!」ヤレヤレ

ヨウィンの夜が更けるのは早い

ギルバート「うぅ・・・」ヨロヨロ

まだうっすらと空の白み始めた早朝

昨晩の飲み比べは結局両者意識を失いぶったおれたため、無念の引き分けということで幕を引いていた

村人は今まで村人Bと張り合える者を見たことがなかったため大盛り上がりだったが、勝負した本人としては現在後悔しか残っていない

これほどの二日酔いは久々で、屈強なギルバートといえどこたえるものがある

目当てのものが見えた。井戸だ

ギルバート「んぐっ、んぐっ」

村の中央広場に設置された井戸、その水は誰でも利用することができるのだがしかし、井戸水はけして安全ではない。凶悪なモンスターの召喚、状態異常等を引き起こす可能性を大いに含んでいるのだ

農村であり、ある程度清涼な水に恵まれているはずのここヨウィンでもそれは変わらないのである

とはいえある程度の力を持ったものにとってはそういった危険は些細なことであり、なにより「清涼な水」を体が求めていた

ギルバート「ふぅ・・・」

見事「清涼な水」を飲むことに成功し、多少頭がはっきりとしてきたところでようやくギルバートは気が付いた

少女「・・・」ジーッ

ギルバート「!」

宿屋の建物の陰から白い少女がこちらの様子をうかがっている

ギルバート「や、やぁお嬢さん、昨日はちゃんとおうちに帰れたかい?」

グウェン「・・・」

今回は自分から距離を詰めていかなかったのが幸いしたのか、それとも多少はギルバートへの警戒を解いているのか、少女はひょこっと建物の陰から出て、とことことギルバートの元へ近づいてくる

井戸を挟んで向き合う二人

ギルバート「あー・・すまん、村の人に聞いてしまったんだが君の名前はグウェン、でいいのか?」

グウェン「・・・」コクン

ギルバート「そうか!私はギルバート大佐だ。まぁなんだ、またなにか困ったことがあれば私を呼ぶといい。力になれるかもしれ・・」

グウェン「ん・・・」スッ

ギルバート「?」

グウェンが後ろ手に持っていた花の冠を唐突に差し出してくる

ギルバート「おお、私にくれるのか?」

受け取るとグウェンはすぐにタタタッと駆け去っていこうとして一瞬立ち止まり、くるりと体ごとギルバートのほうを向き

「ざっつあぷりちーふらわー」

とだけ言って今度こそ去っていった

ギルバート「なんといえばいいのか・・変わった子だ・・・」

なんとはなしに花の冠を頭に乗せ、ギルバートは一人つぶやいた

次はいつあの子に出会えるのだろうかと考えながら

再会は意外にも早かった

今回は二人だけで、というわけにはいかなかったが・・・

『時計仕掛けの天才』アルブレオ「・・・」ジリッ

ギルバート「・・・」ザザッ

まさに一触即発の空気の中お互いがお互いの力量をはかりつつ仕掛けるタイミングをうかがう

ギルバートの後ろにはグウェンが脅えた顔で震えつつ、足がすくんだのか逃げることもできずに立っていた

その右腕に大きく、痛々しいあざを残しながら・・

時は少しさかのぼる

グウェンとの早朝の邂逅の後、なんとか酔いを醒ましきったギルバートは、街の情報屋に声をかけられていた

情報屋「いやぁ、助かります。外のお話しを、しかも辺境の騎士ギルバートさんのお話を聞かせてもらえるとは!」

ギルバート「フハハハ!かまわん、戦闘に関わる話であればいくらでもあるのでな」

情報屋「俺も一応情報屋をやらせてもらってるんですが半分農夫みたいなもんでしてね・・お恥ずかしいことになかなか外に出て見聞を広める暇がないのです・・・」

ギルバート「恥じることは無い、この村の者たちは皆働き者で見ていて気持ちがいいぞ」

情報屋「いえいえそんな・・・」

ギルバート「うちの部隊に欲しいくらいだ!」

情報屋「ハハ、勘弁してくださいよ」

ギルバート「わりと本気なのだぞ?フハハハ」

鑑定屋や情報屋が入っている建物の中で二人が談笑していると、村の入り口からきっちりとした装備をまとった男が入ってきた

ギルバート「むっ?冒険者が来たのか?」

情報屋「えぇ、おそらくそうでしょう。えーっとですね、あっ、ありました。『時計仕掛けの天才』ことアルブレオさんですね」

ギルバート「ほぉ、この時期に村を訪れてくれるとはありがたいことだな」

情報屋「えぇ、まったくです」

会話を続けようとしたギルバートだがあるものが目に入り、思わずそちらを注視してしまう



グウェン「ついていっていい?」ちょこまか
アルブレオ「・・・」スタスタ
グウェン「るるる♪」とことこ


ギルバートはあの少女が楽しげに冒険者にまとわりついているのを見て少しホッとしていた

周りの人間すべてに、自分に対するような脅えた態度で接しているのではないかと心配だったのだ

あの様子なら自分が手を差し伸べずとも大丈夫だろう

そう判断し情報屋のほうを向こうとした瞬間

アルブレオ「・・・」ニヤリ

冒険者の、邪悪な笑みが目に入った

ギルバート「・・・」

情報屋「あ、あの、ギルバートさん?」

ギルバート「すまない、話はまた後でもいいだろうか?」

情報屋「え、えぇ、もちろんです。なにか急用が・・」

ギルバート「失礼する」ダッ


情報屋「あ!あのギルバートさ・・行ってしまった・・」

情報屋「外に出るなら頭のお花の冠、外した方がいいですよって言おうとしたんだけどな・・・」

村の外れ、ガードも目の届かないような場所まで迷うことなく歩き続ける冒険者

そしてそれに自由奔放に動き回りながらまとわりつく白い少女

2人の歩みは冒険者が唐突に立ち止まったことで終わりをつげた

グウェン「サンドラさんの赤いケープほしい...」ちょこまか

アルブレオ「・・・」ギロッ

ドン!

グウェン「・・・!」ドサッ

突然自身の左に立っていたグウェンに体当たりをかまして突き飛ばす冒険者

痛みとショックで言葉を発することもできずに大地に叩き付けられるグウェン

その目には恐怖と諦観にも似たものが浮かぶ

冒険者は特にためらいもなく、まるで日常の当たり前の行動をするかのような自然さで、脅えるグウェンへと右手に持った長剣を振り下ろそうと・・

ガィン!

風切り音を立てて自身のこめかみに飛来した小石を、長剣で払う冒険者

その動作には余裕が見れたが、表情には緊張が走っていた

ギルバート「貴様、なにをしている?」

邪魔ははいったがアルブレオはこのままグウェンを殺し、欲しいものだけ回収し立ち去ってもよかった

が、突然現れ投石してきた舐めた相手を放っておけるような心の広さは彼に無く、ゆっくりと剣先をギルバートへ向ける

アルブレオ「おいおいお前正気か?いきなり冒険者に投石なんざ許されない行為だぞ?」

アルブレオはあくまで正義は自分にあるという言葉を投げかけつつ、こちらへズンズンと歩いてくる全身を装甲で覆った重武装の大柄な男を分析する

少なくとも、あなたの倍は強そうだ

馬鹿らしい、とアルブレオはその見たてを一蹴する

彼は冒険者の「相手の力量をはかる能力」は最初こそ重宝すると思ったものの、レベル依存の見たてでしかないと気づいた時から信用していないのだ

事実彼はまだ駆け出しと言ってもいい冒険者でありながら、「あなたの倍以上は強い」相手に何度も勝利してきた

ギルバート「フハハハハッ!私はお前がいたいけな少女を殴るという下劣な『音』を『奏でた』ことに対して『投石』を行っただけだ、そんなことも分からないか」

アルブレオ「・・へぇ、じゃぁこいよおっさん、屁理屈こねてねーでさ、てめぇみたいな体力しかなさそうなうすのろなんぞ、俺は腐るほど殺してきたんだよ」

ギルバート「ふむ・・参る」

そして時は戻り現在

ギルバート「・・・!」ダッ

仕掛けたのはギルバートだった

今回はしっかりと装備を持ち歩いていたギルバートの得物は大槌

それを両手持ちして相手のほうへ踏み込みつつ大きく振りかぶる

アルブレオ「!」

対するアルブレオは小盾と長剣といったスタイル

回避に重点を置いているのだろう、軽快なステップバックで大槌の振り下ろされるであろう空間から離脱し、一転してスキのできたギルバートの体へ長剣を突き立て

ドォン!

アルブレオ「ぐっ!?」

アルブレオは完璧に避けてはいた・・・大槌は

しかし右足に焼けるような痛みが走ったのは事実であり、そしてアルブレオの体勢が崩れる

ドォン!ドォン!ドォン!

そこへすかさず追撃が撃ちこまれるも何とか盾と鎧で耐えるアルブレオ

アルブレオ「くそがっ、銃かよ!」

とはいえ長距離攻撃をしてくる相手であれば話は早い、相手の懐に潜り込んで切りつけてやれば・・

ギルバート「!」サササッ

アルブレオ「こいつ!」ダッ

速い

見た目は完全に重武装近接型で鈍重と誤解されるギルバートであるが、意外にも速度は133、アルブレオの速度120ちょいではわずかに追いつけない

そしてギルバートの真骨頂は「引き撃ち」ジューア歩兵とともにイェルス軍の機械化部隊に占領された地域を解放する中で、ギルバートが相手の技術を盗んで会得した戦法だ

この基本戦術の一つである攻撃スタイルの前にアルブレオは追い詰められていく

そして

アルブレオ「ぐっ・・・ごぼっ・・・」ドサッ

ギルバート「おとなしくしろ、命まで取るつもりはない」ジャキッ

アルブレオが瀕死の状態であることを確認し、ギルバートはグウェンのほうを向く

ギルバート「大丈夫か?」

グウェン「・・・」コクン

右腕も別に骨が折れているというわけではないようだ

ギルバート「よし、早く家に帰るんだ」

グウェン「いや」フルフル

ギルバート「う・・うぅむ」

やはり女の子の相手は自分にはできないと思いつつギルバートはアルブレオに話しかける

ギルバート「どうしてこんなことをした?この子が何をしたというんだ?」

ギルバートの言葉に呆れたような顔をして、全身の痛みに耐えながらアルブレオが言葉を絞りだす

アルブレオ「ゼェ・・ゼェ・・な、何いってん、だよ・・」

アルブレオ「こ、こんなの普通のことだろ・・腹が減ってたからここに来ただけだ・・最近来たあんたは知らないのかもしれんが・・」

アルブレオ「それに俺は悪くねぇ!!お、俺は善人だ!なにが悪いっていうnっ!ゴボッ!・・ゴボッ!」

アルブレオ「お、覚えとけよ・・てめぇ必ずまた来てやるから・・な・・・」

次の瞬間アルブレオの体が空中に吊り上がり、アルブレオは息絶えた

情けをかけられたことに我慢ならずに自らロープで首を吊ったのだろう

事切れた冒険者を前にしてギルバートはひたすら困惑していた

冒険者の言い分は死の間際で意識が混濁して支離滅裂のように思えたが、同時に彼が嘘をついているようにも思えなかったのだ

この少女は一体なんなのだ・・・

グウェン「・・・」チョンチョン

ギルバート「むっ?どうした・・っとすまん、腕が痛むのだな、ワハハ!自分が多少の痛みには慣れているものだからな、ついつい自分基準で考えt・・」

グウェン「ついていって、いい?」

ギルバート「!」

ひとまず村へ戻り、情報屋のもとへ走るギルバート

グウェンには念のため祝福済み重症治癒ポーションを与えて自分の家(といっても貸家ではあるが)に留守番させている

情報屋「あっ、ギルバートさん!どうしたんです?さっきは・・ってなんだか血なまぐさいですね・・ほんとに何が・・」

ギルバート「すまない、聞きたいことは色々あるかもしれんが先に私の質問に答えてもらってもいいだろうか?これは正式な依頼で金も払わせてもらう」

情報屋「!」

ギルバートの真剣さを感じ取り思わず背筋の伸びる情報屋

情報屋「分かりました、受けさせていただきます」

ギルバート「うむ、頼む」

情報屋「して、知りたいこととは?」

ギルバート「グウェンという少女について知っていることをすべて教えてほしい・・あの子に何があった?あの子は・・何者なのだ?」

情報屋「・・グウェンちゃん・・ですか・・・」

なにやら沈鬱そうな面持ちではあったが、ギルバートが促すと情報屋はぽつぽつと語りだした

「あの子は・・そうですね、種族はローラン。村人が聞いた話によるとノースティリスの北の大氷原、その奥に位置するメイルーン王国の出身ではないかと・・・」

「あの子の両親ですが・・その・・おそらくいないです。心配した村人が何人かあの子を養ってあげようと声をかけたそうなんですが、そういうときは決まってまるで煙のように消えてしまうそうで・・・」

「最初は村人もあの子を気にかけていたんですが・・あの子全然人の話を聞こうとしないでしょう?それでみんな関わるのを諦めてしまって・・・」

「それで・・あの・・少しショックを受けられるかもしれませんが・・その・・・」

「あの子・・今日見られたようにまとわりつくんですよ、冒険者さんに・・それが冒険者さんの反感を買ってしまったらしく・・」

「ある時一人の冒険者さんに殺されたんです」

「彼女も一応この世界の住人だったようで、2,3日後にはふらっとまた現れたんですけどね」

「さすがにその時私は、もうこれ以上冒険者さんにまとわりつくのは辞めるようにと強く言い聞かせたんですが・・・」

「全然やめようとしなくて・・彼女の噂が広まるにつれて多くの冒険者がここヨウィンを訪れる際には彼女を・・・」

「ご、ごめんなさい・・・俺、彼女が殺されるのを最初は冒険者にびびって止めれなかったんです、ただもう最近は彼女のことを意識から外してしまってる自分がいて・・・」

「最後に、これはただの噂なんですが・・彼女がなにかとても貴重なものを持っている、という風に言われてるらしいです。まぁ噂なんですが・・・」

「これで・・・全部です」

意気消沈して奥に下がろうとする情報屋に、なんと言葉をかけたらいいか分からず、礼だけのべて10000gpほど置いてきたギルバートは何とも言えない心境だった

冒険者

その力量はまったくもってピンキリである

はてはそのあたりのプチに殴り殺される駆け出しから、単独でこの世界の神そのものへ挑みそれを打ち負かすような伝説的存在まで様々だ

「相手の力量を見定める能力」はあくまで冒険者の特権であり、一般的な住人にはその冒険者がどの程度の力量を持っているか即座に知る手段などない

ゆえに、冒険者に対して喧嘩を売るのは大変リスキーであり誰もが避ける行為なのである

村人たちが、グウェンが村のはずれでもしくは堂々と中央の広場で殺されるのを黙って見ているしかなかったのは容易に想像できる

ギルバートに村人を責めることはとてもできなかった

厳しい話ではあるが、少なくともここティリスの地においては自分の身は自分で守らなくてはならない

とはいえグウェンをこのまま見捨てるのかと言われれば・・・

気づけば自身の貸家の入り口が見えてくる

2段ベッド、みすぼらしい本棚、丸机と椅子、それだけの家具が置かれた簡素なワンルームゆえ、椅子にちょこんと座るグウェンの白い姿が目立っていた

両手で空になったポーションの瓶を握り、暇そうに足をプラプラとさせてうつむく少女になんと声をかければいいか考えつつギルバートは室内へ入った

グウェン「・・・」

ギルバート「腕は治ったか?」

グウェン「!」スッ、タタタ

ギルバート「む?ど、どうした?」

ギルバートの声を聞いた途端に素早い動作で立ち上がったグウェンは、彼の背後にまとわりつき、振り向こうとするとそれに合わせて動いて姿を見せようとしない

しばらくその場でグルグル回るという中年の男とその背後を取り続ける少女という奇妙な光景を晒したあと、諦めてギルバートは前を向いたまま語り掛けることにした

ギルバート「フゥ・・参った参った!いや元気そうでなによりだ」

グウェン「・・・」

ギルバート「・・今日は災難だったな、いや、今日も、と言うべきなのか」

昼に冒険者に絡んでいた時とはまるで別人のようにおとなしいグウェン

ギルバート「むぅ・・」

いかんせん背後の少女が何を考えているか分からないので当たり障りのない言葉しかかけれないのをギルバートはもどかしく思う

とはいえ、なにも聞けないままではどうしようもない

考えた末にギルバートは万人に通じるであろう手、食欲に訴える作戦にでることにした

ギルバート「・・あー、ところでお嬢さん?お腹は減っていないか?私と遅めのランチなどいかがかな?うん?」

言いつつ後ろに右手を差し出す

しばしの沈黙が続き、この手でもダメかと落胆しかけた時

グウェン「・・・グウェン」

ギルバート「!・・ワハハ、これは失礼!ではグウェン、いかがだろうか?」

右手に生まれた小さなぬくもりを返答に、二人は貸家をあとにした

グウェン「あー...かわいいお花!」

グウェンの歓声がそよ風に溶けていく

ここはヨウィンの村から歩いて20分ほどの草原

一面の・・とはいかないが小さな花々が点々と生えている見晴らしのよい場所だ

村の中で食事をしていては、また冒険者が来た際にグウェンが駆け寄っていってしまうかもしれないと考えた結果であった

変わりやすいノースティリスの天候ではあるが、今日はルルウィ様の機嫌がよろしいらしく雲一つない晴天

花々を集めようと駆け回る少女の姿に、ギルバートは笑いをこぼす

ギルバート「ワハハ!花を集めるのもいいがせっかくの食事だ、先に食べてしまわないか」

グウェン「~~~♪」

ギルバート「む、むむっ・・聞いていないな」

ギルバートは草原にころがっていた岩に腰をおろし、楽しげに花を集める少女を見守る

こういった時間の過ごしかたをするのは久々だった

思えばこの半年ほど各地を転戦しつづけ、前線にいなかった時はいない

常にイェルス軍部隊の奇襲を警戒しながら過ごしていたせいで、こんな状況でも周囲に危険がないか無意識に探してしまいそうになる

グウェン「はい」スッ

ギルバート「むっ?・・おぉ、また作ってくれたのか、ハハ、ありがとう」

気づけばそばに来ていたグウェンから花の冠を手渡された

ギルバート「ふむ、それにしてもよくできているなこれは」

グウェン「この花の冠はお母さんが編み方をおしえてくれたの」

ギルバート「ほぉ、たいしたものだ!」

まだぎこちなくはあるが、グウェンがニコッと笑顔を浮かべる

多少は心を許してくれているのだろうと思い、ギルバートは質問を投げかけてみることにした

ギルバート「グウェン、少し質問してもいいだろうか?」

グウェン「?」

ギルバート「・・どうして冒険者についていく?むやみやたらとちょっかいをかけ続けていれば今日のように危険な目にも会うだろう?」

草原を吹き抜ける風が少し勢いをましてきたようだ

困ったような顔をしてしばらく考えていたグウェンは、つぶやくように

「わかんない・・・」

とだけ言った

ギルバート「分からない・・か」

なにかに操られてでもいるのだろうか?自身の意思で何度も危険に近寄っていくなど・・・

ギルバート「君は・・怖くないのか?」

グウェン「?」

ギルバート「その、だな・・以前にも今日の様な怖い目には遭わなかったか?冒険者についていって」

グウェン「昔・・・?」

ギルバート「そうだ、昔怖いことはなかったか?」

グウェン「・・・思い、だせない」

ギルバート「・・思い出せない?」

グウェン「昔のことはすぐぼんやりしちゃうの・・昨日のことも・・」

ギルバート「なんと・・・」

グウェン「・・・」

記憶障害を起こした者は前線で何人も見てきたが、毎日のように記憶が薄れるなどという事例は聞いたことがなかった

エーテル病で『痴呆』状態にでもなっているのだろうか。いや、しかしあれは魔法のような複雑な技術体系に関する能力が下がるといったものであり、これほど重度になる例など・・・

もしや変異なのだろうか・・・

いずれにしろ、ここヨウィンの村にいては解決できない問題だろう

しかし、ギルバートは現在この村を離れるわけにはいかない・・・

黙りこくってしまったギルバートを不安そうに見つめるグウェンの視線に気づき、ギルバートは我にかえる

ギルバート「ワハハハ!すまんすまん・・少し考えごとをな。・・そうだ、食事がまだじゃないか!なんてことだ私のこんがり肉が冷えてしまう!」

大慌てで自らの荷物を漁りはじめたギルバート

その様子に目を丸くしたのち、ホッとしたように笑うグウェンの手に彼女の顔ほどもあるこんがり肉が手渡され、遅めのランチが始まったのだった

陽が沈む

ここヨウィンの村において室内灯として使える様々な家具などはほぼ存在せず、明かりはモンスター避けのかがり火か、村長宅に設置されたたき火程度

そのため日没はそのまま就寝時間となる

日中にはしゃいで疲れたのか2段ベッドの下の段ですやすやと寝息を立てるグウェンのほうをチラリとうかがいながら、ギルバートは窓際に置かれた椅子に座り、思い悩んでいた

おそらく冒険者はこれからもこの村を訪れ続けるだろう

そしてそのうちの何人かはこの少女を手にかけようとするであろう

自分の力が及ぶ限りは、今日のようにこの子を守ることができるかもしれない

しかし、自分はいずれこの村を離れる

そうなればこの子はまた元の状況にもど・・いや、一時的とはいえ守ってくれる存在を得た状態から戻るわけであるから彼女にとってより残酷な状況に陥るのではないだろうか

こればかりは彼女の記憶が薄れやすいのが僥倖と言うべきか・・・なんと救いのないことだ




自分のしようとしていることは正しいのだろうか・・・

やはり、やめたほうが・・・




いつのまに時間が過ぎてしまったのか、すでに空はわずかに明るさをとりもどしかけていた

ゴゴゴゴゴ・・

突然、大地がわずかに振動し始める

しかしギルバートは、というよりティリスの住人がそれに脅えることは無い

ティリスの大地はオパートス神の機嫌によって地殻変動がたびたび起こるのである

ファサッ

ギルバート「?」

振動でなにかが、外套のポケットから落ちた

ギルバート「!」

花の冠

もう萎び始めてしまっているが、その繊細な編み込みによって形状を崩すことはないであろう美しい一品

あの少女が自分のためにと2つ贈ってくれたもの

ギルバート「・・・」

朝日が、昇る

窓から差し込む白い光に思わず目をつむったギルバートのまぶたの裏に、グウェンと過ごした、わずかではあるが充足した時間が次々と蘇っていく

・・目が朝日に慣れた頃、ギルバートの目に、もう迷いはなかった

ギルバート「すまない、グウェン」

ギルバート「君を、守りたい」

ドギュンッ!!ズバババババッ!!

ギルバート「がっ・・はっ・・」バタッ

速い

などというものではない、ギルバートの速度からすればそれはまさに「瞬間移動」であり「影分身」であった

圧倒的なまでの速度差の暴力

ギルバートが決意を固めた日から2日、珍しいことにヨウィンの村へは一人の冒険者も訪れなかった

村人がそれについて愚痴るのをギルバートは表面上は慰めてはいたが、内心ホッとしていたのは言うまでもない

ただ、安堵すると同時にギルバートは嫌な気配を常に感じていた

それは戦場で何度も彼を死から遠ざけて来た直感であり、彼はそれが発動した時は迷うことなく逃げ、幾度となく生還してきた

しかし今回は逃げることができない

彼は守ると決めたのだ

そして「ソレ」は3日目の朝にやってきた

その冒険者は背丈は150センチほど、宿屋の店主と会話する声で女性であると思われた

それをグウェンとともに朝食をとろうと歩いていたギルバートは見つけ、念のため自身の貸家へ戻ろうとしたのだが・・

ドォン!

冒険者の方向から突如飛来した銃弾

ギルバートは咄嗟に装備した重層鎧をまとった体で、グウェンをかばうことには成功した

しかし、そこまでであった

冒険者「あら?そこにいると危ないですよ?」

そう冒険者が告げた次の瞬間、ギルバートは全身から血を吹き出しながら大地に倒れ伏すことになったのである


『信者嫌いの乱交』ルネスト「あらら、だーから危ないと言いましたのに・・」


目線を地面と同じ高さにまで落としたギルバートは、その冒険者の足元でなにか白く、ヌメヌメとしたものが蠢くのを見て、ようやくなにが起きたのか理解したがもう手遅れだった

冒険者に「先手」を取られた時点ですでに勝敗は決してしまっていたのだ

ルネスト「シーちゃん、ゴーちゃん、よくやったわー。もうその男はいいからいつものあの子を狙いなさいな」

恐れていた事態がこんなにも早く来てしまった不運をギルバートは恨めしく思った

冒険者は一人で旅をしなくてはいけない決まりなどない

むしろわりと多くの冒険者がペットを連れ歩いており、そのペットの顔ぶれは実にさまざまである

そして戦闘において数の差は大変な戦力差を生む、いつかはペット持ちの冒険者が訪れるだろうとギルバートは想定していた

しかし今回現れた「ペット」は少々規格外だった

突然の銃撃に冒険者にだけ意識を集中させてしまい、その冒険者を守るように周囲を跳ねまわる金と銀の残像を見逃してしまった自身の失態に歯を食いしばりつつ

ギルバートは出血多量で死んだ

気づけばここ数日ですっかり見慣れてしまった貸家の天井を仰いでいた

這い上がるのは久々だ

装備も・・いくつか失ってしまったようだとギルバートは肩を落とす

おそらくもう落とした場所には残っていない、仮に売り払われていなかったとしてもすでに数日経っているだろうし、おそらく消え去ってしまっているはずだ

とはいえ、這い上がり地点がここヨウィンの村に設定されていたことだけは幸いなのだろう

すぐに這い上がったり、もしくは自身が死ぬまでに起きた出来事をなかったことにして、ある特定のポイントからやり直せる冒険者はなにかしらの神のご加護があるにちがいない

グウェン「あ」

ギルバート「むっ」

ギルバートが外に出ようとしたところで二人は鉢合わせた

しばしの沈黙ののち、を苦笑いしつつギルバートが切り出す

ギルバート「すまない・・まったく歯が立たなかった」

グウェン「?」

ギルバート「・・・むぅ」

まるでなにもなかったかのような顔で立っているグウェンの姿に、ギルバートは言葉をつまらせる

この様子では冒険者の姿が見えるところに連れていくのは危険すぎる

やはりグウェンには、せめて日中は貸家の中で過ごしてもらうしかないと切りだそうとした時

後ろから肩を叩く者があった

情報屋「すいませんギルバートさん、ちょっとよろしいですか?」

ギルバート「!・・おぉ、情報屋か、すまない、今は少し・・」

情報屋「申し訳ありません、ただ村長がお話ししたいことがあると・・」

ギルバート「むっ、そうか・・それはすぐに尋ねざるをえないな。分かった、少し待っていてくれるか」

情報屋「もちろんです」

所在なさげにフラフラと体を動かしているグウェンのほうを振り返る

ギルバート「グウェン、しばらく家の中で留守番していてくれるか?」

グウェン「・・・」コクン

ギルバート「うむ、よろしく頼むぞ」

情報屋の先導にしたがって足早に立ち去って行くギルバート

少女はその背中をしばらく見つめ、そして貸家の戸口をくぐることなく、村の出入り門のほうへと歩き出した

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