勇者「冒険してて一番キツかったダンジョンや地形はどこか……ですか」 (16)

記者「勇者様、このたびは打倒魔王の快挙、おめでとうございます」

勇者「ありがとうございます」

記者「さっそくですが、質問よろしいでしょうか」

勇者「どうぞ」

記者「勇者様が冒険をしていて、一番キツかったダンジョンや地形はどこだったんでしょうか?」

勇者「冒険してて一番キツかったダンジョンや地形はどこか……ですか」

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勇者「まず思いつくのは……やはり“洞窟”ですかね」

記者「ほう、洞窟」

勇者「なにせ暗い、狭い、迷う、の三重苦ですからね」

勇者「体力がある時はまだしも、消耗してる時は心細いったらなかったですね」

記者「心中お察しします」

勇者「それと別れ道で正解のルートを選んでしまった時、引き返すのも面倒でした」

記者「え? なぜ正解を選んだのに引き返すんですか?」

勇者「それは……うーん……冒険者のサガ、とでもいいましょうか」

勇者「迷うといえば……そうそう“森林”でもよく迷いました」

記者「いわゆる迷いの森というやつですね?」

勇者「そうです。気づいたら同じところをグルグル回っていたりと、散々な目にあいました」

記者「広い森は方向感覚が狂う、といいますしね」

勇者「それに森には当然、植物系のモンスターが多くいるわけなんですけど」

勇者「彼らは普通の植物に擬態したり、毒を飛ばしたりと非常に嫌らしい攻撃をしてくるんです」

記者「それは大変ですねー……」

勇者「おかげで、しばらくは木を見るのもイヤになりましたね」

勇者「山賊が持っていた木の棍棒を見ただけで、吐き気をもよおしたり」

記者「相当トラウマになってたんですね」

勇者「あとは……“砂漠”もキツかった」

記者「それはやはり……暑さや渇き、がですか?」

勇者「もちろんそれもあります。が、なによりキツかったのは、景色の単調さでしたね。本当に砂だらけで」

記者「あー……なるほど」

勇者「どこまでいっても、砂、砂、砂……砂時計いくつ作れるんだよ、って感じでした」

記者「ハハハ」

勇者「しかも砂漠に建っているピラミッド、これの攻略がまた大変で」

勇者「中は罠だらけだし、ボスは強いしで、もう思い出したくもないですね」

勇者「ずっと同じ景色が続くといえば、“海”も辛かったですね」

記者「ほう! 大海原の大冒険、というと思わず憧れてしまいますが」

勇者「私も船を入手して、航海に出た当初はそうでした。ですが、すぐに飽きましたね」

勇者「陸が恋しくて、恋しくて……たまりませんでした」

勇者「どこまでいっても、水、水、水……プールいくつ作れるんだよ、って感じでした」

記者「ハハハ」

勇者「無理に笑わなくてもいいですよ」

記者「すみません」

勇者「生物は海から誕生した、なんていわれてますけど、やっぱり人は大地で生きる生き物なんだと実感しましたよ」

勇者「あれ以来、海の漁師さんや、あるいは海賊といった連中を見る目が変わりましたね」

勇者「水だらけの海と対をなす……“火山”、あそこも苦労させられました」

記者「火山にも乗り込まれたんですか!」

勇者「ええ、ある村の人々に火山に住む竜を倒してくれ、と頼まれましてね」

勇者「足場は悪いし、溶岩はドロドロ煮えたぎり熱いしで、汗まみれになりました」

記者「竜の実力はいかがだったでしょうか?」

勇者「もちろん強かったですよ」

勇者「というより、あそこにいたモンスターは火山らしくみんな攻撃力が高く、タフで、手強かったですね」

勇者「回復アイテム足りなくなるんじゃないか、とヒヤヒヤものでした」

記者「勇者様の右腕にある火傷も、もしやその時に……?」

勇者「いえ、これは昨日、料理してた時にできた火傷です」

勇者「思い返すと、“塔”も大変でしたね」

記者「塔、ですか」

勇者「伝説の装備を手に入れるために、古びた石造りの塔を延々と登っていくわけなんですが」

勇者「とにかく高い……長い! 登り切る頃には足がパンパンになってましたよ」

記者「あー……それは大変でしたね。ですが、足は鍛えられたんじゃないですか?」

勇者「ええ、おかげさまで」

勇者「あの塔で鍛えた脚力でのキックは、魔王戦でも活躍しましたよ」

記者「下らない単純作業が実はすごい修行になっていた、ってやつですね」

勇者「他には……“雪原”にも苦労させられました」

記者「やはり寒さ……ですか?」

勇者「ええ、凍結状態にしてくるモンスターには苦戦させられました」

勇者「あと、地面が雪なので足跡が残るというのも厄介でしたね」

勇者「サクサク雪を踏んで歩いてたら、敵から思いっきりバックアタックを喰らってしまって……」

記者「尾行されちゃってたわけですね」

勇者「私の住む地方では、雪なんかめったに降らないもので……つい楽しくて……」

勇者「それともちろん、“魔王城”もキツかったです」

記者「なにしろ、敵の本拠地ですもんねえ」

勇者「ええ、広い、敵は強い、罠だらけ、雰囲気が不気味……と最終決戦の地に相応しい難所でした」

勇者「で、私、魔王に出会った時に思わず聞いちゃったんです」

記者「ほう、なにを?」

勇者「この城、迷宮だし罠だらけだったけどお前が外に出たい時はどうするの、って」

記者「そしたら、魔王はなんと?」

勇者「そりゃもちろん外に出る時は頑張るよ、と答えてくれました」

記者「一瞬で出られる方法があるとかじゃなく、頑張ってたんですか……」

勇者「魔王はとてつもなく強かったですが、奴が強い理由がなんとなく分かった気がしましたよ」

記者「こうしてインタビューしていると、勇者様の冒険は難所難所の連続だったんですねえ」

勇者「そうですね、ここは楽勝だったな、と思えた局面はほとんどなかったですね」

記者「それなのに、一番キツかったのはどこだ、だなんて……ナンセンスな質問をしました」

勇者「いえいえ」

記者「それじゃ、そういった難所攻略の合間に寄る、人間が暮らす“町”などは――」

記者「まさに“オアシス”といった感じだったんじゃないですか?」

勇者「そうですね。町では休息や補給もできましたし、探索も楽しくて、苦しい旅の中で唯一安らげる空間でしたね」

記者「本日はお忙しい中取材を受けて下さり、どうもありがとうございました!」

勇者「こちらこそ、あなたが聞き上手だったので話してて楽しかったですよ」

勇者「…………」





勇者(まあ、今となっては――)

ヒソヒソ… ヒソヒソ… 

「おい、あれ勇者だぜ」 「ウチの家宝、アイツにパクられたんだよ」 「ウチは5000Gやられたわ!」

「ウチも貴重品を丸ごと奪われたぜ」 「ふざけんなってんだよ」 「いくら勇者だからってなぁ……」

ヒソヒソ… ヒソヒソ…





勇者(“町”を歩いてる時が、一番キツイんだけどね……)







―おわり―

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