タイムスクープハンター フランス革命! ジャーナリストを追え (67)

タイムスクープ社 
タイムワープ技術を駆使し あらゆる時代にジャーナリストを派遣 人々の営みを映像で記録し アーカイブする計画を推し進めている機関である

absolute position N07 W65 E70 S49
けがなしウイルス反応なし 
いつものようにタイムワープ時の衝撃によって軽い頭痛がありますが健康状態に異常はありません

absolute time
C2398451年 63時 72分 13秒
西暦変換すると 1789年 7月12日 
code number 103332

古橋さんこの時代はどんな時代ですか?


古橋「はい、この時代は絶対君主制であり、身分階層といったものが存在しました。

第一身分に聖職者、第二身分に貴族、第三身分に庶民といった形です。

また丁度ルイ16世の治世です。文化面では啓蒙主義が徐々に台頭し、

ヴォルテール、モンテスキュー、ディドロ、ダランベールやルソーなどが新しい学説等を発表しています」




わかりました。これから記録を開始します。


SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1466000784


沢嶋雄一
彼はタイムスクープ社より派遣されたジャーナリストである
あらゆる時代にタイムワープしながら時空を超えて人々を記録していくタイムスクープハンターである。


 新聞記者。日々の些事から体制まで幅広くの言説を世間に問う職業である。どの時代、どの場所にも同様の職業は存在した。

 今回はフランス、パリの新聞記者に密着取材する

 えー、この時代の人々にとって、私は時空を超えた存在です。

彼らにとって私は宇宙人のような存在です。彼らに接触する際には細心の注意が必要です。

私自身の介在によって、この歴史が変わることも有り得るからです。

彼らに取材を許してもらうためには、特殊な交渉術を用います。

それは極秘事項となっておりお見せすることは出来ませんが、

今回も無事密着取材することに成功しました。

――すみませんね、お忙しそうなのにご協力いただいて。
 
 今回密着したのはパリの小さな喫茶店にて地域の出来事を纏めているジャン=セルビーニさんである。
 彼は先日起きた大事件についての記事を推敲しているまっただ中であった。


ジャン「ああ、かまわねぇよ、おめえさんもこういうの好きなんだろ? サロンやクラブに入れなくても政治談議には花が咲くってもんさ」

――サロン……と、クラブですか?


「ああそうさ、ああいう政治談議できるクラブは第三身分の中でも裕福な野郎ばっかがいるからな、ブルジョワジーばっかさ、年会費も高いしな。あれだ、この間の三部会なんかもよ、商工業者の代表100人居るかいないかで大体は官職持ちか法律家ばっかだかんなー」


 
――セルビーニさんはいつも喫茶店で政治談議をなさってるんですね?

「まーなー、パンフレット作っても入ってくる金はそんなないし、金持ちの集まりしかいないとこにはいまんとこ行けないわな、
第三身分って言っても俺みたいな奴もいるし、金持ちもいるのよ」


――なるほど

古橋さん、この時代のサロン文化について資料ありますか?


古橋「こちら古橋です、1700年代から1790年代のサロン文化についてでよろしいですか?」


――はい、それをお願いします。


古橋「まず、サロンというのは貴族の屋敷の客間を指します。そこに人々が集まり、

会話を楽しんでいたようです。18世紀以前の女性は社会的に活躍する場は有りませんでしたが、

サロンでは別で、女主人が客をもてなしたようです。話題は科学、政治、文学など多岐にわたりました。

サロン文化が本格的になってきたのは1715年にルイ14世の死に伴って、宮廷がパリに移動してから以降です。

22年には再び宮廷が再びベルサイユに戻りましたが、貴族たちはパリに残り、自由な会話を楽しむようになりました。

宮廷があった関係上、参加した人々は官吏や政府要人などの社会的地位の高い人々になったようです」




――貴族の文化だから庶民には関係ないということですか?


古橋「いや、そういう訳でもなさそうです。こういったサロンには貴族などの第二身分しか入れなかったため、

それ以外の第三階級であるブルジョワジーなどの中産階級は各々集まりを作ることになります。それがクラブです。

ただ、このブルジョワジーという語はこの時代、この時点では都市の裕福な商人などという意味でつかわれ始めています。

今回の取材対象の様な方は同じ第三階級で、庶民と呼ばれますが、ブルジョワジーの集まりであるクラブには行かないものだと思われます」




――なるほど、ありがとうございます。ブルジョワジーも庶民であるけども、裕福であるので生活が少し違うと言う事ですね。ありがとうございました。


 見回すと確かに、セルビーニさん以外にもペンを持ち何かを書いている人も見受けられる。また、

喧々諤々の議論をあちこちで繰り広げている様子だ。彼らもセルビーニさんのように政治や時事に関心を持つ人なのだろう。


――ちょっといいですか?

客「ん、なんじゃい」

――何を飲まれているのですか?

客「ああ、ビールだよ」

客2「こっちは珈琲だ」

客3「飯食ってる……」

――色んなものが有るんですね、喫茶店なのでしょう?


客2「まぁなぁ……マシなもん食べようと思ったら外にいくしかねーよな」

客3「それな。それに、仕事の斡旋や商談とかもあるからな、情報交換の場だわ。なんでもあるな」

客「そうやってこことか居酒屋でくっちゃべってるから教会とかから規制くらうんだよな」


客、客2、客3「わかるわ」



――教会から規制?

客2「そうそう。皆が日曜日でも教会にいかないでこういうとこで駄弁ってるから、
批判されてな、営業日や時間なんかの規制を受けるんだよ」

――規制を受けるだなんて大変ですね……。

客3「んなこと言っても誰も守んねーけどな」

――えっ、大丈夫なんですか?

客3「大丈夫大丈夫。こんなにいっぱい喫茶店あるんだし、規制の手も回りきんねーよ」

客2「つうか、何回も禁令でてるってことは効果ないってことだしな」



 1780年のパリではおよそ2000軒の喫茶店が営業していたと言われる。

 これは人口300人に1軒という割合である。

 また、1725年のグルノーブルでは90人に1軒、さらに南部アルビジョワ地方では

人口500人程度の村に2,3件は営業していたという記録がある。

 当時の民衆の住居空間では電気、ガス、上下水道が整備されておらず、また個別の台所も無かったため、

食事をしようとすれば外食に頼るのが常であった。


――ありがとうございました。

 礼を述べ、セルビーニさんの所へ戻る。

ジャン「おう、これからこの原稿を印刷所に持ってくから来るか?」

――はいぜひ、これが全国に回る訳ですか。

ジャン「パリだけさ、他の地方には廻んないかなぁ 」

――そうなんですか

「ああ、他の地方は予約購読制をとってるからな、大きな印刷所があるパリだけなんだ、一部ずつ買えるのは」

――予約購読ですか?

「ああ、本や新聞は高いからな、出版社は宣伝パンフレットを作って地方の書店に回すんだ、
注文が入ればその分印刷するんだ、まぁ俺のはそこまでしないけどな」

――沢山刷って書店に置くという訳ではないんですね

「そうだな」


 印刷所の前に着くと何人かの男が居た。セルビーニさんに手を振っている。
どうやら知り合いらしい。

ジャン「共同で印刷費を出してるんだ」

――こんにちは
ここで、私は特殊な交渉術を使用した。
ルンドとシモーヌという仲間らしい。記事と印刷費を持ちより新聞というよりパンフレットに近いものを印刷するらしい。

ルンド「これ終わったら他のネタなに書こうかね」

シモーヌ「何かまた過激なこと書かないと売れないんじゃね」

ジャン「確かにな……真実を書いたとしても売れないとな……」

――記事についての相談ですか?

ルンド「ああ、あのオーストリアの赤字女についての記事は売れたよな」

シモーヌ「売れた売れた、あれは最高だったわ、金が無い俺らにはああいうのじゃないとな……」

――赤字女?

ジャン「マリー・アントワネットだよ、知らんのか? うちらから取り上げた税金で贅沢三昧してる奴だ。まったく……」

ルンド「頭に船の模型載せる奴はそうそう居ないよな」

シモーヌ「有りえないわ……。農民の場合とか、すっごい重税なんだぜ? 例えばさ、第一身分には十分の一税、

第二身分には三割、王族には二割も納税してる訳よ、で、種や道具買う経費抜いたら手取り一割とかになる訳よ……」

ルンド「そうそう、それに先の飢饉はどうやらあの赤字女と貴族が買い占めてるかららしい」

シモーヌ「マジかよ、それも書いてやろうぜ」

――ちょっ、

 私は少し躊躇した、確証も無しに記事にしてしまうということは許されない事だからだ。
しかし、ここで私が介入してしまえば、歴史が変わってしまうかもしれない、
ここは彼らの動向を見守る事にしよう。

 
――古橋さん、この時代の税金や身分などの情報を頂けないでしょうか

古橋「わかりました、この時代ですと、第一身分、第二身分は人口比率は2%ですが、

土地保有率は40%にも上りました。また、第一、第二は免税特権や、年金支給などの特権が付与されていました。

その一方、98%を占める第三身分に重税が掛けられました、この状況を風刺した言葉で

『フランス人の10人に9人は飢え死にし、1人は食い過ぎで死ぬ』というものがあります」


――ありがとうございます。


シモーヌ「取り敢えず、印刷所に原稿を渡したし、キオスクで売られるようにしたし、パレ・ロワイヤルで知り合いに売ろうか」

ルンド「せやな」

――パレ・ロワイヤルですか?

シモーヌ「ああ、あそこはいいぞ、俺らみたいなのがいっぱいいる。警察も来ないし」

[パレ・ロワイヤル] 
 元来ルイ13世の宰相リシュリューの城館であったが、主君に寄贈され、また、

ルイ14世からオルレアン家に渡り、オルレアン公フィリップ平等公はユダヤ人の金融業者から

80万リーヴル(当時の国家予算は20億リーヴル)を返済するため、ここの庭園にコの字を描くように建物を建て、

商人に貸出し、不動産経営を始めた。
 
カフェや商店が並び大変な繁華街になったが、警察の立ち入りを禁じたため、革命家のたまり場となった。

一同パレ・ロワイヤルに向かって歩きながら最近の出版情勢について話す。


シモーヌ「それにしても、売れるものと言っても何か微妙なものばっかなんだよな」

――そうなんですか?

ルンド「ああ、哲学書なんだけどな」

ジャン「哲学っつうか、何でもありだろ、出所のわかんねー下世話な話が受けるのさ」

 この時代の「哲学書」という分類にはいわゆるスキャンダラスな出所も知れない本も混ざっていた。
 それがベストセラーとなる現象が続いていた。

シモーヌ「ジャンは潔癖だからな、そういうの嫌いだもんな、俺の場合はそうでもねぇが」

ルンド「この際もう何かこだわってるのも無理があると思うぜ、フィロゾーフとして生きるってのは
ちっと無理があるかもなぁって最近思ってんだわ」

 ルンドさんがこういうとセルビーニさんの表情が曇る。

ジャン「確かにな、ヴォルテールやダランベールのような啓蒙思想家(フィロゾーフ)に
なるのは難しいかもしんねぇ……だけどなぁ……」

 ルンドさんとシモーヌさんも顔を見合わせ、何やら相談している様子である。
 どうやら言ってはいけなかった台詞だったようだ。
 黙ってしまったセルビーニさんの背中を叩いてそのままパレ・ロワイヤルに向かって歩きはじめる。
 一同は終始無言のままである。



パレ・ロワイヤルに着くと何やら辺りが騒がしい、千人以上はいるかと思います……

一面沢山の人が口々に何か騒ぎ立ててる模様です。一体何が起きているんでしょうか……。

 あ、何やら緑色の服を着た人が何か演説している模様です、ここからだと良く聞こえませんね、古橋さん、

超小型マイクロカメラを転送してください。
 

古橋「解りました、その緑色の服を着た男性の方に転送します」

 
 今回は大勢の人間が居る為、モニターは使用せず、イヤホンで音声を聞くことにした。

――皆さんはあの演説聞こえるんですか?

ジャン「ああ、ここからならな」

ルンド「大丈夫だ」

シモーヌ「むしろ聞こえないのか」

 雑音を消去して鮮明な音声を拾う。


緑色の男はどうやら脚を負傷している様です……、市民に武装を訴えかけています。どうやら、

チュイルリー庭園と呼ばれる場所でドイツ竜騎兵が民衆に向かって発砲、死傷者が出ている模様です。

 えー、ここにいる皆さんの怒号が、すさまじくなってきました。ドイツが、民衆を攻撃した、という情報が入ってきました、

報告者自身も、民衆に落ち着くよう叫んでいますが一向に収まる気配がありません。

 えー緑の男性が木の葉をちぎり始めています、これは一体? 民衆が一斉にこれに倣いました。

どうやら、同志である印のような意味合いを持っている様です。

セルビーニさん達も同様に葉を取っています。

おっと、辺り一面で「武器を取れ!」と叫び声が聞こえてきます。


――このあとどうするんですか?


シモーヌ「俺はやめとくよ」

ルンド「ああ、俺もだ」

二人は騒ぎに紛れて何処かへ行ってしまったようだ。


――セルビーニさん、どうするんですか? 


ジャン「この民衆の動きを記録しようと思う、危険だからお前さんは来ない方がいいぜ」

 セルビーニさんが見やる先には、民衆が片っ端から家々に侵入している。

家に押し入っては武器になりそうなものを持って行く、街角の武器屋の扉は叩き壊され、

商品である槍や鉄砲が無断で持ち出されています……。異様な光景です。
 瞬時にして主要な通りは騒然とした武装する民衆で溢れかえってしまった。


――危険だと思ったら対処しますので、同行させてください


ジャン「しゃあねぇな……まあ、適当についてこい」


セルビーニさんは、辺りを回り、被害の状況、民衆の様子などをスケッチも交えて記録していく、

今の時点でカメラは無いため、全て詳細なメモという形になる。
 

ジャン「大丈夫ですか、ご婦人」

 セルビーニさんが一人の老婆を発見したようだ。道の端っこで体を倒している。

彼女は老齢過ぎてこの混乱に乗ることが出来なかったようだ。


婦人「ああ……、ありがとう。やっと田舎から娘に会いに来たというのに……
でも今皆さんが私たち貧乏人の為に頑張って下さっているのでしょうからね……」

 この混乱が彼女たちの生活を変えてくれるものになると直感しているらしい。

ジャン「なに、きっと良くよくなりますよ。ところで今年でおいくつになるのでしょうか?」

婦人「今年で28になりました」

 衝撃の言葉に我々は息を飲む。
 この腰が曲がり、肌が日に焼かれ、硬くなり、皺が深く刻まれた女性はまだ28歳の若い女性だったのだ

同様の記録が残っている。
 フランス革命の直前、イギリスの経済学者A・ヤングがフランス各地を旅行し、

アンシャンレジーム下の社会を観察し、その見聞を「フランス紀行」に纏めている。

 1789年7月12日に長い坂道で出会った老婆が実は28歳の女性であったという出来事である。

当時のマリーアントワネット34歳よりも若いのにも関わらず、貧困と過労が原因でかくも

急速に老いてしまうのだという記録である。

 当時のフランス農民の平均寿命は25歳を超えなかったと言われている。

老婆、いや女性と別れた後は大体午後9時を回る頃でしょうか、

もう一度パレ・ロワイヤルに民衆が集結してきています。

皆さん手に槍、剣、鉄砲などを持って非常に殺気立っています。あちこちで叫び声や、銃声、

遠くの方では火災が見えますね……。暴動の様相を呈しております。そして辺りはもう夜だというのに

煌々と明かりがついています。

ここで、セルビーニさんが小さなホテルを借りたというのでそちらに行くこととなった。

今まで書いてきたことを纏めるようだ。

ジャン「民衆は飢えてるし、王侯貴族は腐ってるからやっぱこうなるんだよな」

 ペンをとりながら言う。

「見てみろよ」

 と窓を指さす。遠くの方で火災が起きている。

「あれはパリ市門だ。あそこはパリに来る荷物に対しての徴税所だ。パンやチーズ、
ワインとかにも重税を掛けやがるから焼かれたんだ」

――皆さん、ドイツ兵に対して怒っていたんではないのですか?


「国王か、なんかが外国の兵を雇って民衆を攻撃してるに違いねェ、
ネッケルさんも首になったんだからな……民衆に人気があったし、有能な人だったのに」

――ネッケル?

「財務大臣だ。第3身分出身で、王侯貴族の無駄遣いを改革しようとしてくれてるのに。ネッケル罷免は国王が我々と真っ向から対決するっていう意思表示だ」



 彼はそういうと一心不乱に原稿を書き始めた。この時代に原稿用紙と呼ばれるものは無かったので、

ポケットサイズの手帳に一旦見聞きしたことを書いておいて、印刷に適した紙にまた書きなおすのだという。

 その姿は鬼気迫っているように見えた。


 当時、集団ヒステリーやデマなどの研究が進んでおらず、このような流言飛語が悲しい事に国を

憂う文筆家によって量産され、事実を捻じ曲げてしまうことが見受けられたという。それは故意でもあり、
 過失の両方もあった。

 フランス革命後1895年にフランスの心理学者ルボンが「群衆心理」と言う本でデマや集団ヒステリーを
 実証的に検証する。

 ルボンは同書の中で「今われわれが歩み入ろうとしている時代は、群衆の時代である」と論じた。

どうやら書き終わったようだ。

――そもそも、どうしてセルビーニさんは新聞などを書こうと思ったんですか?


「文章が書ければ、生まれが賤しくとも、誰にでも出世の機会があるって聞いたからだ。

親方に付く必要もないしな、これでも俺は文字の教育も受けたし、

本も読んでる方だったから成功するだろうと思ったんだ、でも、

来てみたら教育を受けたけど雇用が無い文士や法律家だらけだ、

いや、自称法律家もいっぱいいたな、あいつらの中には警察のスパイをやったり、

違法すれすれの事をやってる危ないやつらもいる。正直言って碌な商売じゃ無ねえな」



識字率は1686~1690年のフランス全国平均識字率は男性29%女性14%であるが、

革命前1786~1790年に至っては男性29→48% 女性14→27%に上昇した。

 これは1698・1724年の王令によって全ての教区に教師を置き、

その下で子供を学ばせることを住民共同体に義務付けた。

 これは王権とカトリックが強く結びつき、住民を良きカトリック教徒にする政策の一環であった。

またこういった識字率上昇は印刷物の普及とも関連がある。

パリでは18世紀初頭から後半にかけて印刷業従事者が3倍にまで上昇、開明的、自由主義的な貴族官僚の

C.G.マルゼブが検閲制度にある「黙許」と呼ばれる許可の形式を強化した。

 これは、大胆な内容であったとしても禁止するには及ばない作品に対して非公式に与えられる出版許可である。

18世紀末期には年間の申請件数は他の許可方式を上回る結果となった。


 これらから見れば、書籍の出版量が急上昇したことは間違いない。しかし、多くの文筆家たちは

困窮にあえいでいる。これはなぜかというのは未だにはっきりとは分かっていない。

ランゲと言う作家は著書でこう述べている。

「中等学校は、文学少年の苗床となってしまった。彼らは息せききって悲劇や小説や物語、

その他すべてをひっくるめたような作品を書く。そして、残りの人生を、極貧と絶望のうちに送るのだ」

 多くのこの時代の「名の知れていて、裕福な」作家はセルビーニさんのような文士を軽蔑の対象としていた。




――儲からないと思ったりはしないんですか?


「そりゃ、儲かんないのは知ってるよ。印刷費が出せないから他の原稿をタダで譲渡する代わりに

新聞を刷って貰ったりするからな、そういう原稿も一般受けするような奴じゃなきゃダメなんだよ。

例えば、法律書とか実務の本とか。物語や詩だとあんまりよくないね」


――なるほど

「さっきいた、二人もそんな感じさ、尤もあいつらは金に困ってるのは俺より酷い。

だから下世話な記事を書いて小銭を稼いでる。国王が不能だかとかな、

まあ、あいつらの方が印刷所からの覚えもいいかな。金払いいいからな。マントの下の取引もやってるらしい」


――マントの下ですか?

「ああ、発禁本とか禁制の本は国境近くのヌーシャテル印刷協会とかで印刷してくるんだ、

こっから何時間も掛かるような場所だが、そこで色々裏本とかを仲介する奴らの手先だったりすっから金は

俺よりいいんだろうな」


 マントの下で隠れて行う取引ということらしい。

「あいつらはよ、良くわかんねぇ危なっかしいことばっかやってるみたいだけどよ、

やっぱりペンで成功したいんだよ。三人そろってな。まぁいまんとこ夢なんだけどな」


 彼は欠伸をすると硬いベッドに横たわった。この急激な終わりを迎えた1日に疲労を感じたようだ。

私は彼が起きる時間までタイムワープを行う事にします。

7月13日 午前11時

彼が起床した。昨晩は非常に疲れていたのか、ぐっすりと眠っていました。

起きるやいなや鉛筆と手帳を持って外に飛び出して行きます。
私も後を追います!




えー全てが混乱状態であります。銀行は取引停止していますし、凄い、人混みです、

町中、人であふれかえっています、今から昨日と同じようにパレ・ロワイヤルに向かいますが、

目的地を同じくする人が……そうですね、4000から5000人はいると思われます。

皆、手に槍や鉄砲を持って武装している様子です。中には農具でしょうか……

長い柄のついた鎌のようなものを携えている人もいます。




ジャン「これは凄いな……お昼前に起きたのは少し遅かったのだろうか」

パリ市壁内には血気盛んな民衆がひしめいていたが、同じぐらいの数の軍隊がそれを押さえているように見えます。


ジャン「畜生……」


――どうしたんですか

「見てみろ、この街からもう出られなくなっちまったぞ」

 見ると馬車駅には「これ以降のパリへの出入りを禁止する」との張り紙があった。

――大丈夫なんですか?

「大丈夫もどうもねぇわな……しかたねぇだろう。ここにいるしかあるめぇ」


 はい、パリにある商店の総てが閉店状態となり、商売が停止しています。

駅ではパリ住民でさえも身の危険を感じて脱出を交渉していますが……駄目だそうです。

外国人も少し見受けられますが……実に不安そうな様子です。


「しかたねぇ」と言ったセルビーニさんではあったが、取材のネタを探して何処かへ向かっている様です。

――何か当てがあるんですか?

「ちょっとな、まぁ静かにしてろよ」

 少し歩くと教会でしょうか、建物が見えてきました。その前には20から30の人々が集合しています。
 その中の男がこちらに気が付いたようだ。


男「おう、ジャンじゃねーか」

 奇麗な身なりをした男性が声を掛けてきた。その男は自信をシャルガと名乗った。

 ジャン・セルビーニの知り合いらしい。


ジャン「いま、どうなってるんですか」

シャルガ「ったくおめーも野次馬だな、今危険な非常事態だからどうするか地方行政官や住民の何人かで
対策を練ってたんだ、やっと終わったとこだ」

ジャン「少し教えて貰えませんか?」

 メモ帳を手にずいとにじり寄る。シャルガは少し困ったような顔をしたが、やがて口を開いた。

シャルガ「いいけどよ、まだ秘密の事もあるから記事にするのは大分後でいいか?」

 条件を出されたが、ジャンはそれに頷いてメモを取り始めた。


シャルガ「うちらの中の名誉ある区民の内の一定人数が徴募されて武装するんだ、

町役人は市庁舎に常駐して行政官と情報交換してそこからの指示を受けるために

パリ各区に常駐の運営委員を置くことになったんだ」

ジャン「すると、今の状況だと……」

シャルガ「ああ、大部分の防衛に期待できないような下層民の奴らの武装解除が必要だな、

まぁこういうゴロツキに武器を与えちゃだめだ、今マスケットを持った代表が各地を回って

武装解除させてるとこだ」


 確かに、辺りに比較的きちんとした身なりの人間が増え、あちらこちらで武器を回収しているようだ。
 いやいやながらも槍などを渡している。

――お知合いなんですね?

シャルガ「ああ、ちょっとしたね、アイツ文士だろう? 悪くないんだけど、中々芽が出ないっていうか、
パリにはああいう奴が五万といるからなぁ」

――彼の作品に才能を感じたり?

シャルガ「まぁ、悪くないかなって感じなんだけどね……ほら、あいつの友達、シモーヌとかだったか、
あいつらよりはいいんだけどどうも何かが足りないのかもな」

――ああ、シモーヌさんともお知合いで

シャルガ「ああ、シモーヌ、ルンド、ジャンの三人は共同でパンフレット作ってるからな、
もっともちゃんと書いてるのはジャンだけだと思うわ。ここだけの話、
シモーヌ達は怪しい仕事に手を染めてるって噂だ」

――な、なるほど


 彼はそれ以上答えてはくれず、教会に戻って行った。


…………

 えー夕刻になりました。非正規軍に対する武装解除はもう粗方終わったようです。
 正規に武装した市民軍とでもいいますか、そういった団体がほとんどの通りを占拠しています。
 どうやら小隊ごとに分かれているようです。

 あれは……歩哨ですかね? パトロールに出ている者もいるようです。

 いやぁ……実に秩序立っているように見えます。


ジャン「あそこで登録やってるから見に行こう」

――登録ですか?

ジャン「ああ」

 着くと、市庁舎の前に長蛇の列が出来ています。お話しを伺ってみましょう。


――これは一体なんの行列なんですか?

男「これか? 武器を配ってるんだ、ここで名前を登録して参加するっていう手続きだ。大体同じ職業の奴らだ」


 ここで出来た市民軍の多くは同種の職業の人々からなっており、一種の中隊を編成していた。

 特に人気だったのはかつら師親方組合であり、4、5人の徒弟を抱える1000人余りの親方から構成されているもので、

 彼らの多くは驚く程美男の屈強な者たちであり、喝采の対象になったという。


 セルビーニさんも私と同様にさまざまな人間にインタビューを試みている。新たな情報に触れることに興奮を感じている様で、

 松明の灯りと相まって顔に血が昇っているように見えますね……。

――もう夜に近いですけど、宿には?

ジャン「いや、もうちょっとやってこうかと思う」

 辺りはだんだん人通りが無くなっていくがそれでももう少し取材を続けるという。


が、そのとき


「おい、おまえ、何してんだ」
「武器を持ってないってことは市民軍じゃないな?」


 二人の男が路地から飛びだしてきた。

 ぎらついた目に、手には剣、槍である。辺りには私とセルビーニさん、そして彼らだけ。

ジャン「あ、私はその、ジャン・セルビーニという者で、パリに住むものです。市民軍の方ですね?」

決して怪しい者ではないという様にして後ずさる。

「おい、その青いの、何もんだ」

――私、ですか、私は決して怪しいもんじゃないです

「怪しくないわけないだろ、東洋人か」

 剣の切っ先が私の喉元にくっつく位に近づいてきた。

 ここで私は特殊な交渉術を使用しようと思ったが、あれ、ニューロ粒子が極端に少ない場所のようで、
 使用不能に陥ってしまった。
 私のこの態度に更に不審がる二人。

 

 
男の片方がセルビーニさんの持ち物を調べているようだ。

「おい、これはなんだ」

 それは彼の取材メモだった。

「どうして教会での取り決めを知ってる!」

 男が激高した。

 確かに教えて貰う際にも機密事項であると言っていた。

「さてはお前は国王派だな!」

 スパイ活動をしていると勘違いされてしまったようだ。

ジャン「それは違う! 私は只の自由を愛する市民だ!」

 両手を挙げながら精一杯弁明する。が、

「この青い怪しい男もどうせこの市民軍に混乱を与えに来たに違いない!」




 二人を説得するのはもう困難だと思ったその時。


 遠くから幾つかの松明の明かりがやってきた。それを見るや否や二人は一目散にそこから逃げ出した。

 何が起きているか解らないままだったが、その松明の主がこちらにきた。その先頭の者が話しかけてきた。

「大丈夫だったか?」

ジャン「ありがとうございます」

「ああ、あいつは略奪者だろう。武装解除に応じなかった奴らだ。多分これを着けてなかったと思う」

 と、彼は緑色の帽章を示した。
 確かにあの二人はこれを着けていなかった。

ジャン「はい、何も……」

「はぁ……またか、さっきも出たって話だし、略奪者は見つけ次第逮捕してるから安心してくれ、
早く家に戻ったらいい」


 正規の登録された市民軍の兵は全員緑色の帽章を着けることになっていた。
 
 先程の二人はそれを着けていない略奪者だという結論が出た。
 
 事実、武器を引き渡さず、夜の間に略奪を働く者が居たという。



宿に着くとどっと疲れが出て、セルビーニさんはベッドに体を投げだした。


えー、今でもずっと外では銃声がしています。市民をマスケットなどに慣らす訓練だと思われます。

暫くぼおっとしていたところ、ドアがノックされる。
先程の略奪者を思い出し緊張が走る。

 が、宿のオーナーの声を聞いて安心し、ドアを開ける。

 そこにはオーナーと50代ぐらいの老紳士が立っていた。

オーナー「悪いけど、この方も一緒に泊めてあげられないだろうか、彼はさっき略奪にあってね、
命からがら逃げだしてきたらしいんだ。他の部屋は夫婦ばかりだから、ここしか無くてね……」

ジャン「ああ、構わねェよ」

 老紳士はピエールと名乗り、今日の話をした。


ピエール「何でも明日バスティーユを攻撃するらしいじゃないか」

ジャン「ああ、そう聞いてます。武器弾薬があそこにあるからと」

ピエール「まさかとは思うけど本気にしちゃいないだろうね」

ジャン「えっ? どうしてですか?」

ピエール「ヨーロッパで最も老練な軍隊にも耐えたんだ、昨日今日作った規律も無い人民の手に落ちると思うかね?」


[バスティーユ]

 当時は牢獄として使用されていたが、元々軍事要塞として作られたもので
 幅25mの濠と高さ30mの城壁で守られたものである。
 そもそもBastille 自体「要塞」という意味を持つ。





ジャン「たしかに……」

ピエール「だろう? まぁ、私は革命騒ぎには関わらないよ」

ジャン「そうなんですか?」

ピエール「ああ、もうそんな年じゃないしね」


 ピエールさんはそれだけ言うと壁にもたれ掛って眠った。

 
 私は明日本当にバスティーユが陥落するとセルビーニさんに教えることは出来ない。

――明日どうするんですか?

ジャン「そうだなぁ……本格的にあそこを攻撃するとなると……何人も死ぬことになるな……
実を言うとまだ死にたくないからな、迷ってる」

――なるほど
 私はここで「行った方がいい」とか「行かない方がいい」等と言った相手の行動を左右することも言う事が出来ない。
何故なら、歴史を変えてしまう恐れがあるからだ。


ジャン「取り敢えず、今日までの原稿をパンフレットにしようと思う、明日はちょっとやめとこう、

あいつら、シモーヌとルンドを探そうかなと、どうせあいつ等も何か書いてんだろうし、

今のタイミングなら民衆も買ってくれるかもしれない」



 そう言って彼は、大きめの紙に文字を書いていく。

 取材メモでは一行に満たないものであっても、書いていくうちにそれだけで、何行にも増えていく。
 誇張や流麗な表現をこの時代の文章は好んだのだ。


 結局、陽が昇るまで彼は書きつづけました。ベッドに入ったのは実に朝の6時と言った所でしょうか、

 彼が起きるまでの時間にタイムワープします。

7月14日


昼ごろ

ジャン「かなり静かなのだが、本当にバスティーユに進軍したのか?」

 窓の外に睨みながら訝しがる。街頭は静かで遠くの方で煙が少し上がっているかな、といった程度であった。

 もう既に起きていたピエールさんが満足そうに頷く。

ピエール「寄せ集めの市民が要塞を落とすなんて無理だよ」

 その後もセルビーニさんとピエールさんはこの市民革命の行く末を話し合っていたが、

結論として首謀者が国王の軍に捕らえられてじきにおしまいになるだろうとまとまっていた。


えーただ今

 午後5時ぐらいでしょうか、何やら大勢の声……のようなものが聞こえます。

 セルビーニさんたちも気が付いたようで窓から覗いてみますと、群衆がパレ・ロワイヤルに集まってきているようです。

ジャン「行ってみるわ! 結果が気になるし、でもこんなに興奮してるんだったら、もしかして成功したのかも!

 これを書けば、一躍有名になれるかもしれんぞ!」

 急いで部屋を飛び出し、パレ・ロワイヤルに向かう。この宿から走って10分ぐらいの位置であるので、

彼は全速力で走っています。 フィジカルバージョンアップシステムを使用している為、

私は平気ですが、日頃机に向かってばかりいるセルビー二さ人は辛いものがありそうです。

どんどんと声が大きくなっていきます、近づいてきてる訳ですが、
セルビーニさんはというと非常に呼吸が荒くなっていってしまっているので、
もう半分徒歩のような形になっています。

 道半ば、教会を過ぎようとしたその時、

「ジャン! ちょっと来てくれ、いいところに来た!」

 振り返ると、教会からこちらも息せき切って先日会ったシャルガさんである。

シャルガ「ちょっと来てくれ、友達を助けてやってくれ!」

ジャン「どうしたっていうんだ……」

シャルガ「シモーヌが昨日略奪の咎で捕まってるんだよ! 
本人はやってないっていってるけどそしたら証人をつれてこいって言い出したんだ、
市民軍に捕まってんだ、あいつ等は直ぐに処刑しちまう!」

 当時、略奪をしたことが確定すれば、すぐさま処刑されてしまったという。
 ここで証人を立てて弁解すれば、助かる可能性が高い。……しかし


ジャン「シモーヌがやってないだなんて言えない……あいつが金に困ってるのは事実だし……
それに昨日は会ってないから『アイツは俺と一緒にいたからやってない』とも言えないですし……」


 苦悶の表情を浮かべる。それに、ここで時間をとられてしまえば、群衆に取材する時間が無くなる可能性がある。
バスティーユ陥落のニュースの需要は高くなるだろうと考えているためなおさらである。

シャルガ「いいんだ! 『あいつはそういうことをするやつじゃないし、証拠はないのだろう?』という風に言ってくれればいい!

それに俺がついてる! 俺は名誉ある市民の一人だから少しは信用されてる! あとは駄目押しでお前だけなんだ!」


 必死の説得に……首を縦に振る。

シャルガ「よし、早く来い!」

肩を掴んで路地に入る。少しばかり走ったところに小さな建物があってそこに市民軍が駐留しているようだ。

シャルガ「お望みの通り連れてきたぞ!」
 
 息も絶え絶えになりながら一人の市民兵にすがりついた。
 市民兵は驚きながら、ジャンをちらとみるとまた私たちを小さな部屋に押し込めた。


 そこは椅子がいくつかおいてあるだけの小さな部屋だった。


 えー、なんでしょうか、殺風景を通り越して何もない部屋という感じが強いです。

 ここで裁判が行われるようです。


入ってきたのは一人の若い市民兵。被告人は入ってこない。

市民兵「で、連れて来たのかね」

シャルガ「そうだ、見よ!」

 セルビーニさんを指さす。セルビーニさんは頭を下げた。

市民兵「とらわれた……奴と友人だと言うが、彼は略奪をしていないのか」

ジャン「あいつはそういう奴じゃない。お前は奴が略奪するところを見たのか!」

市民兵「夜にうろついていたのを見つけたんだ。どうもアイツは良くない噂があるらしいし、
君は文士だろう? 君もあんまり信用のおける人物じゃないなぁ」

 この時代ではやはり社会的地位が低く、発言も軽くみられることが多かったという。

シャルガ「そうかもしれないが、証拠がないのに逮捕するのか!」

市民兵「そうは言っても今は非常事態であるから……」

ジャン「そういった横暴は国王を否定する者が取るべき行動ではないのではないか!」

 セルビーニさんのこの一言で市民兵の表情がこわばる。



 市民兵は少し考えた後、その場から離れ、やがて、全身傷だらけの姿となったシモーヌさんが連れられてきた。

市民兵「疑いは晴れた。じゃあな」

 乱暴にシモーヌさんを放すとまた何処かへ行ってしまいました……あれでいいんですかね。

――古橋さん、当時の取り調べの状況を教えてください。

古橋「はい、この時代は、国王の許可が有れはできる「勅許逮捕状」など王権に基づいたものがありますが、
それ以外は所謂見込捜査で無理やり犯人に仕立て上げられる者も少なくなかったと言います。
人権、という考え方はこの後すぐにでる『フランス人権宣言』まで待たなくてはいけません。
そこにようやく『何人たりとも法の手続きに従わない訴追、逮捕、拘禁をうけることはない』という考え方が
広まります」


――なるほど解りました。

古橋「また、反革命勢力、つまり国王を守ろうとする勢力はこの革命勢力の中ではまだすみわけが
出来ていない状況だと集団ヒステリーの中で危害が加えられる可能性があったため、
すんなり放してくれたと考えてもいいでしょう」

――だから、あのセリフで解放されたんですね……


 傷だらけのシモーヌさんを連れて建物から出る。

――取材は……できそうにないですか?

シモーヌ「すまねぇな……今までやばいことしすぎて、信じて貰えなかったし……
取材じゃましちゃってすまねえ……」

ジャン「大丈夫だ……。今まで書いたものがあるし、まだまだこの騒ぎはおさまんないだろうな……」

シャルガ「取り敢えず今のところは切り抜けたかもしれないが、もう目が付けられてる。
私の親戚が郊外にある。そこで少し隠れてたほうがいい、ルンドも誘えばいい」

ジャン「そうだな……おい、シモーヌ、ルンドはどうしてる?」

シモーヌ「あいつか、昨日、うちに来て、もう見込みがなさそうだからスイスの印刷工場で働くと言って直ぐに行っちまった……連絡できなくてすまねぇ」

 この知らせを聞いてぐっと唇を噛むセルビーニさん。
 瞬時に連絡する手段がないこの時代、ここでこの情報を手にいれなかったら、
 二度と友人の居場所を得ることが出来ずにいただろう。

ジャン「そうか……しかたないな……郊外にいきます、潜伏して記事でも書きますよ」

 とジャンはシャルガさんに頭を下げた。

ジャン「お前もくるかぇ?」

――いいえ、私はここで

ジャン「そうか、気を付けろよな……取材なんかしてると俺みたいになるぞ」


 思想、信条の自由を始めとした諸権利、法の下平等といった精神、 

 それらは当たり前に存在している様に見えるが、この後に本格的に始まり約10年続いた

 フランス革命によって定着されたものである。一説によると200万人もの死者の上に成り立っているという。

 また自由に情報を広める代わりに、倫理もきちんとクリアするという考え方もこの時代以降に芽生えた。

 私はジャーナリストと自由に名乗り、情報を広める自由を得ていることを幸せに思う。

 またこういった背景を私は決して忘れないだろう、Journalistとという言葉自体、

 フランス生まれであるのだから。



 その後の調査によるとジャン・セルビーニとシモーヌ、ルンドの三人はスイスで合流し、
 地下出版を経て、革命後新聞社を創業、しかしナポレオンによる言論統制によって倒産、
 田舎に帰り農業生活を送った。
 


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アウトします

終わりです。読んでくれてありがとうございました。

参考文献

図説 フランス革命史 竹中幸史

フランス革命はなぜおこったか 革命史再考 柴田三千雄

フランス革命を旅したイギリス人 リグビー博士の書簡より エドワード・リグビー 川分圭子訳

世界史劇場 フランス革命の激流 神野正史

1789年フランス革命論 不安と不満の社会学 野々垣友枝

革命前夜の地下出版 ロバート・ダーントン 関根素子 二宮宏之 訳

フランス革命と結社 政治的ソシアビリテによる文化変容 竹中幸史

革命と反動の図像学 一八四八年、メディアと風景 小倉孝誠 

群集心理 ギュスターヴ・ル・ボン 櫻井成夫 訳

乙!

珍しいまっとうでタメになるSSだった
タイムスクープハンター懐かしいな

>>57 
あのシリーズ好きすぎてこまるわ……復活きぼん
まっとうかどうかはしらん……←

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