沙織「リンゴとおやきとぴにゃこら太」 (183)

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アイドルマスターシンデレラガールズのSSです。
アイドルのプロダクション加入時期はモバマスに忠実ではないです(先輩、後輩関係)
また、アニメの世界線ともずれています。
肌に合わないと思われたらそっと画面を閉じてください……
めっちゃ長いです。書き溜めてありますのでガンガン投下していきます。

また、シリーズ物です。1話と前作はこちら

(1話)モバP「花と旅行とそばかすと」
モバP「花と旅行とそばかすと」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1413296228/)

(前作)聖來「星と車とバーニングハート」
聖來「星と車とバーニングハート」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1447502988/)

内容として繋がってますが、
・主人公は芽衣子。だけど今回は番外編なので、奥山沙織ちゃんが主人公です。
・沙織ちゃんは凛ちゃんに憧れてアイドルを夢見ている。
・CGプロ所属の芽衣子のプロデューサーはモバP。
・他にCu、Co、Paの各Pがいる。
くらいを押さえておいてもらえれば問題なく読んでいただけるかと。

では、しばしの間、お付き合いいただければ幸いです。
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SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1465728410



夢は、ずっと前から、わだすの中にあった。
だども、わだすみたいな田舎娘が、そんなのになれるだなんて、思えねくて。

夢は夢のまま、わだすの中に、眠っているはずだったのに。




『みなさーん、こんにちはー!』

『今日は精一杯、このライブを楽しんでいってくださいね!』



『今日このステージで、みなさんが手塩にかけて育てた、華麗に咲き誇る花と一緒に歌える事、嬉しく思います』

『聞いてください。今ここに咲く、私の歌!』






――あの日から、わだすの胸は、どっきんどっきんと、波打っている。




秋田県 山野村


沙織「ただいまぁ~」

沙織母「おかえりぃ、どした、浮かん顔して。まぁた花さ傷つけただか?」

沙織「ち、違ぇさ、きちんと育ってっけぇ、大丈夫やって……ちっと、疲れただけさ」

沙織母「ならよかけんども。ほれ、はよう手さ洗ってきぃ。芋っころの皮ぁ、剥いとくれな」

沙織「……んだ……」



奥山家 夕食時


沙織父「いんやー、母ちゃんの飯は世界一だべな!」

沙織母「やんだよう、あんたったら! それに、その芋の煮っ転がしは、沙織が作ってくれたんけぇ」

沙織父「ほうけ! よー出来るようなったのう、沙織!」ワシワシ

沙織「あはは、あんがと、父ちゃん……」



沙織父「こんだらつくれっだら、今すぐんでも嫁さ行けんべな!」

沙織「!」

沙織母「そりゃあ駄目さね、一人っ子なんやし、きちーんとした婿さん貰わねぇと」

沙織父「そうか、そりゃそうやの! ワハハハハ!」

沙織「……」ウツムキ



「そんくらいにしとき」


沙織「あ……ばあちゃん」

お婆ちゃん「跡取りだのなんだの、そがな時代と違うべえや。ほれ、“ぐろーばる”にいかんと」

お婆ちゃん「沙織かて、まだ19やし。婿やのなんやの言うよか、楽しいこと、好きなことやらせたったらえぇが」

沙織「へへ……ばあちゃん、グローバルは違うと思うけんど」

沙織(けど……あんがと)

沙織父「……まあ、そやの、変なのがついてきても困んし」

沙織母「そやね、ゆっくり考えよか」




沙織 自室


沙織「……はぁ」

沙織(父ちゃんも母ちゃんも、わだすがここさずっといると思ってんべぇなぁ……)

沙織(わだすだって、この前まで、そう思っとったけど)




部屋に張られたポスターは、三か月前、CGプロのトップアイドル、渋谷凛が、沙織の住む山野村でライブを行った時の物。

店頭に飾ってあったそれを、どうしてもと譲ってもらい、自分で小遣いを貯めて初めて買ったDVDは、プレーヤーが無いので埃を被ったままだけれど。

……何故か自分宛に送られてきた、限定版セットの方は、まだ大事にしまってある。



沙織(わだすがアイドルさなりたいなんて言ったら、父ちゃんも母ちゃんも怒んべぇなぁ……)

沙織(凛ちゃんのCDさ、擦りきれるくらい何度も聞いて……あ、CDはテープじゃねぇから、擦りへらねぇんだべか)

沙織(わだすがあんな風さなれるなんて、思わねぇけんど……でも……)



トン トン


お婆ちゃん「沙織、今、暇かや?」

沙織「あれ、ばあちゃん、どうしたん?」

お婆ちゃん「なに、おやきさ焼いたけぇ、一緒に食べんかや。沙織に茶ぁ淹れてほしくってよ」

沙織「……? んだ、そんじゃあ、一緒に食べんべぇ」



お婆ちゃんの部屋


ぱちぱち

沙織「もう夏さなるんに、火鉢さ出さんでも、台所さ使えばいいに」

お婆ちゃん「たまにゃあ、風情があってよかよ。ほれ、焼けたで」

沙織「あんがと……ん、ばあちゃんのお焼きさ、やっぱし美味しかね」

お婆ちゃん「ふふふ、沙織が淹れてくれた茶もうまかよ」ズズッ

沙織「お茶なんて、誰が淹れても同じじゃなか?」

お婆ちゃん「いんや。沙織が淹れてくれっと、ほーっとしてゆったりした気分さなんだ」

沙織「……そういうもんけ?」

お婆ちゃん「んだんだ」



お婆ちゃん「そうじゃ、沙織に渡すもんがあっけぇ、手ぇ出し」

沙織「え? 何?」

お婆ちゃん「いーから、いーから」

沙織「?」

お婆ちゃん「どっこいしょっと。ええと、あれはどこさしまったけぇの……おお、あったあった、ほれ」



ひょいと手に載せられたのは、一枚の新幹線のチケットと。


鮮やかな印刷が施された、一枚のリーフレット。




沙織「え? これ……え?」


リーフレットに印刷された文字に、目を見開く。それは――


お婆ちゃん「ほれ、こん日さ、あいどるのおーでしょん? つうのがあるっていうけえ、沙織の事さ申しこんどいたでよ」

沙織「……へ?」


沙織「え、ええええええええええええ!?!?!?!?!」



沙織「ば、ばあちゃ、そ、そら、ど、どないなっとうとよ!?」

お婆ちゃん「そだら大声だすんでねぇ。びっくらこいたなぁ」

沙織「だ、だども、だども……!」


沙織父『おーい、沙織、どうしたでや?』

沙織「な、なんでもなかとよ!」

沙織父『なんけ、ばあちゃんとこ居るんけ。もう遅いき、静かんな』



沙織「ば、ばあちゃん、なんで申し込んだん?」

お婆ちゃん「なんでもなにも、沙織、“あいどる”さ、なりたいと思ってんべ?」

沙織「え……ばあちゃん、気付いてたのけ?」

お婆ちゃん「んだ。毎朝早起きして歌の練習してんのさ、ばあちゃは知っとるきに」

沙織「! ば、ばあちゃ、あれ聞いとったのけ?」

お婆ちゃん「年寄りの朝は早いけぇの」



沙織「ううう……すんげくしょしい……」

お婆ちゃん「何がやし。ちゃーんと上手に歌えとったがや」

沙織「だ、だども……」

お婆ちゃん「沙織は、父ちゃんと母ちゃんが反対さすべえなって、心配してんべ」

沙織「……ばあちゃんは、全部、お見通しなんだべな……」



お婆ちゃん「沙織。夕飯んときもいったけんど、沙織はもっと好きなことしてええ」

お婆ちゃん「父ちゃんや母ちゃんに反対されんのが心配なのは、やりたいこと出来なくなることが怖いからじゃ。そうなりたい気持ちが無きゃ、心配にもならん」

お婆ちゃん「そんでも、あいどるさなりたくて、歌の練習さ続けてんなら、そら、ほんとに沙織のやりたいことやと、ばあちゃんは思うき」

沙織「……」



お婆ちゃん「それに、今度のおーでしょんは、沙織にとっちゃあ一番の“ちゃんす”やき」

沙織「チャンス……って?」


お婆ちゃん「なんせ、婆ちゃんはおーでしょんに行かんけえの。もし婆ちゃんが出てたら、一等はとっちまうに決まっとるきに」フンス



沙織「……ぷっ、くくく……」プルプル

お婆ちゃん「どうしたけ、沙織」

沙織「な、なんでもなかとよ……その、婆ちゃんも、アイドルさなりたいって思うん?」

お婆ちゃん「そうさなぁ……そっだらことになったら、婆ちゃん皆の引っ張りだこさなって、爺ちゃんが寂しがるけんの」

沙織「ふふ、そっかぁ……」



沙織「……婆ちゃん、ありがとう」

沙織「わだす、このオーディション、受けてみる」

お婆ちゃん「んだんだ、それがいいだ。沙織なら、きっとあいどるさなって、大きな舞台で歌えるでよ」

沙織「んだ、がんばる!」



オーディション当日朝、新青森駅構内


沙織「……」ポカーン

沙織「こ、こげな大きな駅、初めて来た……」

沙織「……はっ、呆けてる場合じゃねえだ、えっと、東京さ行く新幹線は……」オロオロ


「あの~」



沙織「はえ?」

沙織(ハンチング帽? どちらさんだべ……)

ハンチング帽の女の子「東京行の東北新幹線なら、反対側のホームだよ?」

沙織「ええっ!? でも、案内板さ見たらこっちだって……」

ハンチング帽の女の子「いや、それ現在地を読み違えてる」

沙織「はええっ!?」



沙織「ど、どうしたらいいべ!? ああっ、発車に間に合わんかったら……!」

ハンチング帽の女の子「お、落ち着いて、慌てなくてもまだ間に合うよ。アタシも同じ列車だし、良かったら一緒に行く?」

沙織「……はえ?」


東京行東北新幹線車内


沙織「ありがとうございました……おかげで間に合って……」ハァ……

ハンチング帽の女の子「いいって、気にしないでよ。ついでだったし……それにしても、指定席が隣だったなんて、偶然だね」

沙織「あはは、ほんとに……あの、わだす、奥山沙織っていいます」

ハンチング帽の女の子「アタシは工藤忍。よろしくね」



レッシャ、シュッパツシマース


沙織「忍さんは、何で青森さ来てたんだべ?」

忍「ん? いや、違うよ、青森から東京へ、これから出ていくところ」

沙織「えっ、そうなんだべか……すんげく綺麗な東京弁喋ってっけ、てっきりそっちの人かと……」

忍「あはは、そんなことないって。まあ、アタシの場合は、小さいころからアイドルになりたくて、ラジオとかで発音の練習とかしてたからかな」



沙織「えっ? あ、アイドル?」

忍「うん、ずっと憧れだったんだ。東京に行くのも、アイドルのオーディションを受けに行くため」

沙織「そ、そうなんだべか……」



忍「……やっぱり、アタシみたいな、普通の女の子に、アイドルなんて無理だと思う?」

沙織「へっ?」

忍「お母さんもそう言ってた。アタシなんて、都会に出たら何のとりえもない、どこにでもいるような女の子だって」

沙織「え、ええと……」

忍「酷いと思わない!? アタシがどれだけアイドルになろうと努力してたか知らないのに、頭ごなしに否定して! アタシは標準語もばっちりだし、お洒落だって研究してるし……!」

沙織「ちょ、ちょっと待って!」


忍「え?」

沙織「え、ええと……わだすがびっくらしたのは、そうでなくて……ええと、わだすも、そのオーディション、受けに行くからで……」

忍「……え?」



沙織「……」

忍「……」

沙織「……」

忍「…………、ええっと……なんか、ごめん……」

沙織「い、いえ、気にしないでくだせえ!」



忍「……で、でも、そっか、沙織もアイドルを目指してるんだ」

沙織「んだ、そんとおりです……」

忍「す、すっごい偶然だよね! 新幹線が同じどころか、席も隣だなんて!」

沙織「そ、そうですよね、驚いちゃいました!」

忍「そっか……ねえ、沙織は憧れのアイドルとかいるの?」

沙織「あ、わだすは、渋谷凛ちゃんが……」

忍「あー、うんうん、かっこいいよね! 私は同じ事務所の卯月ちゃんかなー。あんなふうに、可愛いアイドルになりたくて!」

沙織(アイドルの事、楽しそうに話して、可愛いべなぁ)



忍「沙織はさ、どんなアイドル目指してるの? やっぱり、凛ちゃんみたいにカッコいい感じ?」

沙織「えっ、わだす、ですか? ……ええと……」

忍「あ、ごめんごめん、いきなりそんなこと聞かれても困るよね」

沙織「いや、そんなことは、ねえですけど……」


沙織「……」



沙織「……忍さんって、すげえなぁ」

忍「えっ?」

沙織「いや、その……わだす、オーディション受けるのに、そういうの何も考えてねくて……忍さんみてぇに、言葉も綺麗じゃなくて訛り丸出しだし……」

忍「だ、大丈夫だって、アタシだって、オーディションは初めてで……」



忍「……ごめん、不安にさせちゃったかな?」

沙織「あ、いや、そっだらことじゃなくて……不安では、あるけんども」

忍「……アタシも、実はちょっと、不安なんだ」

沙織「忍さんも?」

忍「うん」



忍「アタシはアタシなりに、アイドル目指して頑張ってきたんだ。でも……さっきもちょっと言っちゃったけど、お父さんとお母さんには反対されてて」

忍「芸能界なんて、そんなに甘いところじゃない、って。実は……今日もお母さん達には、黙って出てきちゃったんだよね」

沙織「ええっ!? オーディション、受ける事をだべか!?」

忍「うん……そこまでやって、もし駄目だったらって思うと……やっぱりちょっと、不安にはなる、かな」

沙織「……」


忍「えへへ、なんちゃって。ま、アタシならきっと大丈夫だと――」

沙織「んだ。やっぱり、忍さんは凄いです」

忍「へっ?」



沙織「父ちゃんにも、母ちゃんにも反対されても、そうやって努力して、諦めないで挑戦して――」

沙織「アイドルの夢さ叶えるのに、種蒔いて、水やって、花咲かせる準備、してきたんですから」

沙織「きっと、アイドルさなって、大きな花さ、咲かせられると思います」



忍「……」



沙織「……って、あはは、いや、受け売りなんですけど……」

忍「……ううん、ありがとう。そう言ってもらえて、ちょっと気が楽になったよ」ニコッ

沙織「あ……えっと、どういたしまして……」



沙織(やっぱり、アイドルになる人って、めっさ可愛いんべなぁ……)




忍「ふふ、なんか不思議な感じ。沙織といると、なんかくつろぐ感じがする」

沙織「そうだべか……? 自分ではわからんけんど……」

忍「うんうん、同い年くらいなのに、包容力があるっていうか……」

沙織「え? 忍さん、そんな歳なんだべか?」

忍「え?」




“――間もなく、仙台に到着いたします――”


沙織「忍さんは、もっと若いもんだとばかり……」

忍「え? アタシ16だけど……沙織、高校生2年くらいでしょ?」

沙織「ええと……一応、19になります……」

忍「えっ!? いや、その、幼いというか……じゃなくて!」

沙織「……それって、喜んで良いんだべか……」フクザツ



「あの、すいません」

忍「えっ、はい……」

「私の席、その奥なので、前を通らせてもらえますか?」

沙織「は、はい、どうぞ」



「失礼します」

忍(……美人さんだぁ……)

沙織(……すらっとしてんべなぁ……)

「…………」



「あの、私に何か?」

沙織「いっ!? あ、あの、すみません!」

忍「そ、その、美人さんだなって見とれちゃって」

「……、ありがとう……ございます……?」



忍(な、なんか気まずい)

沙織(なにか話は……)

沙織「そ、その、わだすら、東京にアイドルのオーディション受けに行くとこで……」

忍「そ、そうなの、ついそれで、綺麗な人だなーって見とれちゃって」

「……アイドル?」


沙織「へ?」

「……偶然ですね、私が受けに行くのも、多分そのオーディションです」

忍「え、あなたもアイドルに?」

「はい」



「申しおくれました。私、綾瀬穂乃香といいます」


忍「あ、工藤忍です」

沙織「奥山沙織です」

穂乃香「よろしくお願いします……こんなこと、あるんですね」

忍「ほんと……同じ列車ってだけならわかるけど、指定席が三つ重なるなんて」

沙織「二人だけでも、驚きだったんだども……」



穂乃香「――じゃあ、お二人は別々のところから?」

忍「うん。アタシは青森から」

沙織「わだすは秋田から……」

穂乃香「そうなんですか」

忍「ねえ、穂乃香ちゃんは、好きなアイドルって誰?」

穂乃香「好きなアイドル……ですか……?」



穂乃香「……そうですね……」カンガエチュウ

沙織「あれ? 好きなアイドルさ憧れて、アイドルさ目指したんじゃないんだべか?」

穂乃香「……はい。興味が無い訳ではないですが、もともと私はバレエに打ち込んでいましたから」

忍「バレエ?」


沙織「バレエって、あの、片足立ちしたりする、アレだべか?」

忍「白鳥の湖とかの?」

穂乃香「はい。幼少の頃から、バレエのレッスンを受けていました。賞を頂いたこともありますし、一応、それなりの形にはなっていたと思います」

沙織「どおりですらっとしてると思った……」


穂乃香「ですが、最近、表現の幅に限界を感じていまして……自分自身をもっと表現する方法を探すために、アイドルという道を歩いてみようと思っているんです」シンケン

沙織「ほ、ほええ……」

忍「なんていうか……すごく、真面目?」



穂乃香「そうですね、よく言われます。真面目に考えすぎだと……」

忍「ああいや、そういう意味で言ったんじゃ」

穂乃香「……やはり、私のような者には向いてないんでしょうか……」

沙織「そだら真剣に悩まんでも……」

沙織(いやでも、それくらいでないと駄目なんだべか……)


穂乃香「……いえ、やはり――」



クゥ~



忍「……」

沙織「……」

穂乃香「……」


忍「ええと……今の、穂乃香ちゃん?」


穂乃香「わ、忘れてください! 今朝緊張していてご飯を抜いていて、それだけで」カアーッ

忍「あはは、気にしない気にしない」

沙織「んだ、しかたねえですし……」

穂乃香「ううううう……」カオマッカ



忍(かわいい)ホンワカ

沙織(めんこいなぁ)ホンワカ



忍「あ、じゃあもう良い時間だし、お昼にしない? すいませーん!」

販売員「はい、ご用でしょうか?」ワゴン ガラガラー

忍「お弁当見せてもらえますか?」

販売員「はい、こちらになります」

沙織「へええ、色々あんべなぁ……ん?」

忍「あれ?」



沙織・忍(なんか、緑の変なのがある……)




沙織(箱が豆の形さしてるけんど、何かのキャラクターだべか……)

忍(あの目つき、なんかちょっとキモい……)

販売員「いかがしましたか?」

沙織「あ、いや、ええっと……じゃあわだすは、鮭弁当を……」

忍「えっと、三色そぼろ弁当ください。穂乃香ちゃんはどれに……!?」




穂乃香「…………………」ジーーーーーツ



”ぴにゃこら太弁当”




忍(あの変なのをガン見してるー!)

穂乃香「あの、その緑色のお弁当は……?」

販売員「はい、東北名産のずんだ餅のアピールにと、有名キャラクターとコラボしたキャラクター弁当、ぴにゃこら太弁当です!」

沙織(なんだべかそれ!?)



穂乃香「では、それをください」



沙織・忍(ええっ!?)



販売員「ありがとうございましたー」ワゴンガラガラー

沙織・忍「……」ポカーン

穂乃香「……あの、何か……」

忍「いや、うん、そのお弁当選ぶんだなーって……」

穂乃香「わ、私はですね、地元の名産品の売り上げに少しでも貢献しようと思って選んだだけで、別に他意はなくて……」ニコニコ サスサス

沙織(ニコニコしながら弁当箱撫でてる……)



忍「……ふふっ、じゃ、食べよっか! いただきます!」

沙織「いただきます」

穂乃香「……いただきます」


忍「んー、おいしー。実は私も、朝ちゃんと食べてなかったんだよね」

沙織「この鮭の切り身も、塩加減がいい塩梅で、美味しいです」

穂乃香「中身は普通のお弁当なんですね……」

忍(しょんぼりしてる……)

沙織(何を期待していたんだべか……)



忍「ねえ、穂乃香ちゃん、その緑のってなあに?」

穂乃香「これですか? 一口サイズに纏めた、ずんだ餅みたいですね……よかったら、一ついかがですか?」

忍「いいの? じゃあ、おかず交換しようよ! アタシは……この鳥の照り焼きをあげる!」

沙織「わだすは、玉子焼きを……」

穂乃香「ふふ、ありがとうございます。はい、どうぞ」


忍「ふー、ごちそうさま」

穂乃香「ご馳走様でした」

沙織「ご馳走さまです……そうだ、二人とも、お茶飲むべか」

忍「お茶?」

沙織「んだ、今朝、出かける前に淹れてきたから……水筒と、あ」ガサゴソ

穂乃香「?」

沙織「それと、よかったらこっちも」

忍「ん? それって……おやき?」

穂乃香「沙織さんが焼いたんですか?」


沙織「あはは、実は、今朝ばあちゃんが……」


お婆ちゃん『あいどるでもなんでも、腹が減っちゃあどんしょうもなか。たーんと用意しといたき、持ってき!』


沙織「って。だども、こんなにたくさん、一人じゃ食べきれんし、もしよかったら」

忍「へえ、それじゃあ一つもらおうかな」

穂乃香「なるほど、食事は全ての基本……おろそかにしてはいけないということですね! 勉強になります!」

沙織「あ、いや、ばあちゃんのことやし、あんまり真面目に受け取らんでも……」


沙織「まあそれはそれとして……」キュッ

コポコポコポ…

沙織「おやきは冷めちまってるけど、お茶と一緒ならあまりぱさつかんと思うし、どんぞ」

忍「いただきまーす」

穂乃香「いただきます」



パク コクコク……



忍・穂乃香「「ふはぁ~~~~~~」」ホワーン


沙織「はえ?」



忍「……なんか……いいね……」ホワーン

穂乃香「はい……すごく、リラックスします……」ホワーン

沙織「え? えっと……」



穂乃香「……ふふ、正直に言うと、私、凄く緊張してたんです。だから、最初、少しきつい感じになっちゃって」

忍「あー……まあ、ちょっとそんな感じはしたかな?」

穂乃香「アイドルのオーディションなんて初めてですから、どうしても緊張して……でも、沙織さんと話していると、凄く落ち着きます」

沙織「え? ええっと……まあその、そう言われると……?」


沙織(……お弁当の時点で、だいぶゆるんでた気もすんけども)


忍「あっ、それアタシもわかるかも! 沙織、なんか癒し系みたいな雰囲気あるよね」

沙織「そ、そんなもんなんだべか……?」

穂乃香「ええ。人柄は、どうしてもにじみ出るものですから」


沙織「な、なんかその……そうまで言われんと、その……しょしい……」ウツムキ テレテレ


忍(可愛い)

穂乃香(方言可愛い……!)



マモナク、トウキョウニトウチャクイタシマス……


忍「あ、もう着くの? ふふ、沙織のおかげで、いい感じに肩の力抜けたかな。あ、そうだ、お返しってわけでもないけど、アタシからも、これ」

穂乃香「あら」

沙織「リンゴ、だべか」

忍「うん、近所の林檎園のおじさんが応援だって。その人は、アタシのアイドルの夢、応援してくれて……御守りみたいなものかな。三つあるから、二人にも一つずつ」

穂乃香「いいんですか?」

忍「もちろん! 三人全員で、合格を目指そう、ね!」

沙織「……はい!」



同時刻、CGプロ


モバP「ただ今戻りました」ガチャ

PaP「おう、営業お疲れさん」

モバP「あれ、CoPさんとCuPさんは不在ですか?」

ちひろ「お二人なら、例の合同オーディションへ行ってますよ」

モバP「ああ、そう言えば今日でしたっけ。全国から人が集まる、かなり大きい規模のやつですよね」

ちひろ「そうですねー。お二人とも、気合入れていましたよ。プロダクション側としても、眠れる原石を見つけるまたとない好機ですから」


PaP「今も昔も、若い子にとってみりゃあ、アイドルは大きな夢の一つじゃからのう。それだけ、厳しい世界でもあるが」

モバP「そうですよねぇ……当然競争はありますし、私達も全員を迎え入れるなんてできないですし」

ちひろ「当たり前です、慈善事業じゃないんですよ?」

モバP「……わかってます」

ちひろ「私達に出来るのは、アイドルを目指す子と、その子を輝かせられるプロデューサーのよき出会いが、出来るだけ多く訪れる事を祈ることだけですよ」ホホエミー

モバP「ちひろさん……!」ジーン



PaP(おかしい、ちひろが綺麗な事を言っとる……こりゃあ槍でも降るか……?)

ちひろ(PaPさん?)

PaP(天使! 女神! ちひろ!)



オーディション会場


沙織「や、やっと会場さ着いただ……」グッタリ

忍「新宿駅って、なに、あれ……?」ゲッソリ

穂乃香「二度と出られないかと思いました……」ゲンナリ

忍「ま、まあでも、こうして無事につけた訳だし! 頑張って、合格目指そう!」

穂乃香「はい!」

沙織「んだ!」


CuP「――ふふ、初々しくていいわねぇ」

CoP「どうした、よさそうな子でもいたか?」

CuP「そうそうティンとは来ないわよ。それに私、こういう集団オーディションって苦手なのよ。もちろん気合入れてやるけどね、ゆっくりじっくり一人ずつ、その子自身を見ながら決めたいのよね」

CoP「まあ、その辺はやり方というか、感性の違いだな」



「ピーニャピニャピニャ! お笑い草ぴにゃね!」



CoP「げ」

CuP「この気色悪い笑い声は……」


ぴにゃP「誰の笑い声が気持ち悪いぴにゃか!」

CoP「これはどうも、PSYプロのぴにゃPさんじゃないですか」

CuP「プロデュースも好調みたいで、羨ましい限りですよ」

ぴにゃP「CGプロさんも最近は調子がいいみたいぴにゃね。まあ、せいぜい頑張ってほしいぴにゃよ」ピニャピニャピニャ


CuP(相変わらずブサイクねえ……)

CoP(余所を見下す態度はともかく、悪い奴じゃないんだが、この顔と声はどうにも……)

ぴにゃP「それより、一人ひとりきちんと見たいなんて、集団オーディションではただの甘えぴにゃ。勝負は、誰よりも早く金の卵を見抜けるかにかかってるぴにゃ」

CuP(あの寝ぐせ、なんで直してこないのかしら……)

ぴにゃP「まあ、ぴにゃのような一流プロデューサーともなれば、一目で見抜けるものだけどもぴにゃ」ピニャピニャピニャ

CoP(うぜえ……でも、こいつのスカウトの目もプロデュースの腕も、実際一流なんだよなぁ)


CoP(歌姫、高垣楓に、サイキックアイドル堀裕子、猫キャラアイドルの第一人者である前川みく……癖が強くとも、売れっ子ばかりだしなぁ)

CuP(それだけに、ほんと、なんていうか)


CoP・CuP(残念な奴……)


ぴにゃP「おっと、そろそろ時間ぴにゃね。では、よき出会いをー」


CoP「……はぁ」

CuP「悪い人じゃないんだけどね。ちょっと調子乗り過ぎよね」



Prrrrr Prrrrr


CuP「あ、ごめんなさい、電話だわ……幸子ちゃんから?」ピッ

CoP「幸子? たしか、テレビ局でバラエティ番組の撮影中だろ? 何かあったのか?」

CuP「もしもし、幸子ちゃん?」


ワーワー!! ギャーギャー!!


CuP「!?」



幸子『キュ、CuPさん、助けてください!』

CuP「ちょっと、どうしたの!? 随分後ろが騒がしいけど……」

幸子『そ、それが……』


愛海『ウェヘヘヘヘ、よいではないか、よいではないか~~!』ワキワキワキワキ

菜帆『あらあら~』

雫『んも~、おいたは駄目ですよ~?』




幸子『あ、愛海さんが余所の事務所のアイドルに手を出して撮影どころじゃなくなって……!』



CoP「……、……」




愛海『さ~ち~こ~ちゃーん♪』

幸子『ひぃっ!?』

愛海『うひひひひ、幸子ちゃんのその未成熟なお山も~、いただきまーすっ!』

幸子『フ……フギャァァァァァアーーー!!!』



ピッ ツー、ツー、ツー…




CuP「……」

CoP「……」

CuP「…………ちょっとテレビ局行ってくるわね」ピキピキ

CoP「……おう、行ってこい……」




オーディション会場 面接室


CoP「まったく、愛海の奴も、黙って大人しくしてりゃあ美少女なのに……」ハァ

ぴにゃP「どうかしたぴにゃか?」

CoP「いえ、なんでも」

ぴにゃP「しかし、今までのところ、これといった子はいないぴにゃね」

CoP「余所さんは結構スカウトしてるみたいですし、今回は豊作だと思いますけど?」

ぴにゃP「ぴにゃの目に留まるような逸材はそういないぴにゃよ」ピニャピニャピニャ

CoP(うぜぇ)


コンコン

『し、失礼します!』

CoP(ん、次の子たちか)

ぴにゃP「どうぞ」


ガチャ スタスタスタ


CoP「では、自己紹介からお願いします」


忍「はい! エントリーナンバー1061、工藤忍です! よろしくお願いします!」

穂乃香「オーディションナンバー1062、綾瀬穂乃香です。よろしくお願いします」

沙織「え、えっと、おーでしょんなんばー、せ、1063番、奥山沙織、です。その……よろしく、お願げぇします」カチコチ


CoP(ふむ。これはなかなか……)

CoP「では、それぞれ自己アピールを――」


ぴにゃP「待つぴにゃ」


CoP「は?」

ぴにゃP「1061番の工藤忍さん、1062番の綾瀬穂乃香さん」

忍「は、はい!?」(えっ、アタシ何かした!?)

穂乃香「はい……」(……ぴにゃこら太に似てる……)




ぴにゃP「合格!」



全員『えっ!?』


忍「え? えっと、あの……」

穂乃香「私たち、まだ何も……」

ぴにゃP「ああ、何も言わなくても、何もしなくても、この敏腕プロデューサーであるぴにゃにはちゃーんと伝わっているぴにゃ」


ぴにゃP「まず、工藤忍さん。貴女の目は、心の奥底に隠されている熱い情熱をしっかりと映し出している。その熱意、そしてはきはきとした受け答え、非常に好印象」

ぴにゃP「ルックスも声も快活ながらキュート。甘すぎず、賑やかすぎず、絶妙なバランス。まさに、十年に一人の逸材だ」

忍「あ、ありがとう、ございます……?」


ぴにゃP「そして、綾瀬穂乃香さん。みたところ、バレエの経験者ですね? それも、相当レベルの高い」

穂乃香「え、なぜそれを……」

ぴにゃP「ふふふ、ピンと伸びた背筋、指先まで行き届いた美しい礼、一つ一つの動きの完成度を見れば一目瞭然ですよ」


CoP(いや、普通わからんぞ? ていうかその喋り方はさっきから何なんだ)



ぴにゃP「芸術ともいえるバレエの世界から、いわば世俗のアイドルを目指そうという思いきりの良さ、そして真摯な姿勢。アイドルとしても大成功は間違いない」

穂乃香「……」



ぴにゃP「そう……このぴにゃPの目に狂いはないぴにゃー!! ぴーにゃっにゃっにゃっ!」

CoP(あ、戻った)



忍「……」

穂乃香「……」

忍(適当な事を言っている、ってわけじゃなさそうだけど……)

穂乃香(……)



ぴにゃP「まあ、ぴにゃの話を受けるも受けないも自由ぴにゃ。君たちなら、他の事務所だとしても、十分頭角を現せる力はあるぴにゃ」

ぴにゃP「だが、ぴにゃに任せてもらえれば、必ず君たちをスターダムに押し上げて見せるぴにゃ」

ぴにゃP「どうだろう。ぴにゃに君たちの夢、手伝わせてもらえないぴにゃか?」


忍「……」

穂乃香「……忍さん」

忍「……、うん!」


忍「はい!」

穂乃香「こちらこそ、よろしくお願いします!」


CoP(マジでかー……無茶苦茶だなおい)

ぴにゃP「ぴにゃぴにゃぴにゃ! ではさっそく手続きを――」



「あ、あのぅ……」




全員『あっ……』


沙織「わだすは、その、どうしたらいいんだべか……?」


忍「沙織ちゃん」

穂乃香「ええと……」


ぴにゃP「……ふむ」チラリ


ぴにゃP「君も、なにも持っていない訳ではないと思うぴにゃが……うちのプロダクションにも都合があるぴにゃ。今日は二人までしかスカウトしないと決めてあるぴにゃよ」

沙織「あ……はい……」

ぴにゃP「まあ、今日はぴにゃの所の他にも、プロダクションはあるぴにゃ。面接は全て終わったわけじゃないし、頑張ってほしいぴにゃ」

沙織「……、……はい……」


ぴにゃP(なーんて言うのは真っ赤なウソぴにゃ。ぴにゃが辣腕を揮っていて、経営も順調なうちのプロダクションなら、もう一人合格させるくらい余裕ぴにゃが……あの子はティンとこなかったぴにゃ)

ぴにゃP(大体今時、そばかすにおさげの女の子なんて流行らないぴにゃ。もっと可愛くキャッチーに、それも解らず化粧っ気もない田舎娘をスカウトする理由なんてないぴにゃ)

ぴにゃP(とはいえ、忍ちゃんと穂乃香ちゃんも気にしているようだし、あまり角の立つ言い方もあれぴにゃ。大人の処世術とはこういうことをいうぴにゃよ)



CoP(……とか考えてんだろうなぁ。でも――)






ピニャピニャピニャ……




全員『……』

CoP(あの気色悪い笑顔で全てモロバレなんだよなぁ)



沙織「……」

忍「えっと、沙織」

穂乃香「沙織さん」


沙織「あはは、やっぱ、二人ともすごかったべや。よがっただ」

忍「う、うん」

沙織「おめでとう、忍さん、穂乃香さん」

穂乃香「はい……ありがとうございます……」シュン


沙織(……二人が落ち込むことさ、無いんに……)

沙織(ばあちゃんなら……そうだ、こんなときは、きっと)



沙織「なーにさ、落ち込んでっぺ! アイドルへの第一歩、念願かなって踏み出せたんだ、よがったべや! ほら、わだすのことはいいから、笑って笑って!」

忍「……うん、ありがとう、沙織。でもね?」

沙織「うん?」



忍「アタシ、待ってるからね。沙織がアイドルになるの!」

沙織「忍さん……」

穂乃香「私もです。りんごに誓った、仲間じゃないですか」

沙織「穂乃香さん……その、ありがとう」


ぴにゃP「うんうん、美しい友情ぴにゃ。さて、忍ちゃん、穂乃香ちゃん、手続きに行くぴにゃ」

忍「はい。じゃあ、またね、沙織」

穂乃香「また会いましょうね、きっと」

沙織「んだ。……また、な」ホホエミ



CoP(……ふーむ……)



CoP「ゴホン! あー、こんな流れになってしまって申し訳ないが、面接の続きを――」

沙織「…………」

CoP「……奥山さん?」

沙織「は、はい! おねげぇします!」



CoP「……」ムー…



数時間後、都内公園



沙織「はぁ……」



沙織「駄目、だったなぁ……」




ベンチに座って、小さくため息をつく。

結局、わだすは、キラキラに憧れただけの、ただの女の子だった。

それだけで――憧れだけで、アイドルになんてなれねぇって、頭のどこかではわかってた。

でも、直接でなくても、あんな事を言われたわだすの頭は、真っ白になっちまって――面接どころじゃなくなってた



沙織「東京の空って、遠いもんなんだべなぁ」



夕暮れが近づいてきた空を見上げて手を伸ばす。山野村から見上げた時には、手が届きそうな青空は、高いビルのさらに向こうで広がっていて。



沙織「届かないって、わがっただけ、いいんべな……」



沙織「……けえろう。畑の世話さ、しなきゃならんし……あれ?」

立ち上がってふと気付く。会場からふらふら歩きだしたから、公園が何処だかわからない。

沙織「えっと、駅はどっちだ? どげんしたもんだべか……あ、すんません!」

ちょうど、そこを通りかかった二人組の女性に、道を聞こうと声をかける。



――けれど、その道は。思いもしない方向へ伸びているものだった




「んー、今日もいい仕事したねっ!」

「キャンペーンガールとしてティッシュ配り、なんて地味な仕事だけどね」

「仕事の大小で出来を左右してるようじゃ駄目だよ、聖來?」キリッ

「あ、凛ちゃんの真似? 似てる似てる、いかにもいいそう」

「そうかな? えへへ……」テレテレ

「それにしても、美世、CuPさんからコール入って急いでいっちゃったけど、何かあったのかな」

「何か急な用件だったみたいだけどねー」


沙織「あのー、すんませんけんども、東京駅さ行くにはどっちさ行ったらいいんでしょう?」

「あ、はーい、東京駅なら……って、あれ?」

沙織「……えっ?」

「なに、どうしたの?」



芽衣子「沙織ちゃん!?」

沙織「芽衣子さん!?」



芽衣子「わー、凄い久しぶりー! っていうか、こんなところで会うなんて!」

沙織「わ、わだすもです……び、びっくらした……」

聖來「ちょっと芽衣子、その人は?」

芽衣子「あ、奥山沙織ちゃん! 前に、凛ちゃんとイベントに行った時に会ったんだ!」

聖來「ああ、前に話してくれた、あれ?」

芽衣子「そうそう! あ、沙織ちゃん、こっちは聖來、私とユニット組んでるんだ!」

沙織「あ、はい、はじめまして」

聖來「うん、よろしくね」


芽衣子「それにしても、何で東京まで……あ! そういえば今日は――」

沙織「!」ビクッ

芽衣子「そっかー、沙織ちゃんも、ついに一歩、新しい世界へ踏み出したんだ! それで結果は――」

沙織「……」ウツムキ

芽衣子「……そっか、お疲れ様。大変だったね」

沙織「……っ!」グスッ

芽衣子「! あ、ご、ごめん気安く! ええっと、」



聖來「話が掴めないけど……とりあえず、事務所にでも来てもらったら?」



CGプロ 事務所


芽衣子「ごめんね、沙織ちゃん。少しは落ち着いた?」

沙織「はい……すんません、ありがとうごぜえます……」



聖來「――ってことらしくて。モバPさんは、沙織さんの事、知ってるんだよね?」

モバP「ああ。色々お世話になったし……しかし、そうか。オーディション、駄目だったのか……」



ガチャ


CoP「ただ今戻りました」

ちひろ「CoPさん、お帰りなさい。CuPさんの事は聞いてますよ。オーディションの首尾はどうでした?」

CoP「んー、まあ、これといった子は見つかりませんでしたね……ん? あの子は?」

モバP「CoPさん、お疲れ様です。実は、今日オーディションを受けていた子で」

CoP「ああ、印象にっていうか、アクシデントがあったときの子だから覚えてる。それが、どうして事務所に?」

モバP「実は――」



CoP「……まいったね。まさか、山野村の花博のときの子だったとは」

モバP「芽衣子が出会ったのは、ほんとに偶然みたいですけど。……あの、CoPさんから見て、彼女、どうでした?」

CoP「んー……」ウデグミ


CoP「まあ正直、覚悟が足らないかな、とは感じたな。素材としては悪くないが、化粧っ気ゼロでオーディションに来られてもな……」

モバP「そうですか……」

ちひろ「モバPさん、今日のオーディションの採否は、CoPさんとCuPさんに一任しましたよね?」

モバP「わかってます。知り合いだからって手心加えるのは、沙織さんにも失礼ですし」


CoP「まあ、可哀想なところもあったんだけどな……言っても仕方ない」

モバP「そういえばアクシデントがどうとか……何かあったんですか?」

CoP「ああいや、同じグループで面接を受けていた子たちがな――」


バタン


凛「お疲れ様。プロデューサー、もう帰ってる?」

モバP「あ」

聖來「あ」

CoP「あ」

凛「……え? 何、どうしたの?」


芽衣子「沙織ちゃん、これからどうするの?」

沙織「どうって……山野村さ、けえります。アイドルさ夢見て、もしかしてって、思っとったけんど、やっぱり、ただの憧れでしかながったから」

芽衣子「……でも……」



凛「それって、本当に、沙織の本心?」




沙織「!? え、り、凛さん!?」

凛「……大体の話は聞いたよ。残念だったね」

沙織「……、けんど、それで妥当だと、思いますし」

凛「……」フー…


凛「ねえ、沙織」





凛「私が沙織の心につけた灯は、それで消えちゃうような、小さな灯だったかな」



沙織「!」

芽衣子「あ、あの時、凛ちゃんも気がついてたんだ?」

凛「気がついてたっていうか……まあ、ね。今日、オーディションに来てたってことは、そういうことでしょ?」


CoP「……あー、そういや限定BDセット送ってたな。Never say Neverの新規録り降ろしつき」

沙織「ネバー……セイ、ネバー……」

芽衣子「……あ……!」


凛「……押しつける気は無いよ。でも、聞かせて。私の思い上がりかもしれないけど……沙織の心に灯った火は、もう消えてしまったのか」


沙織「…………」




沙織「わだす……わだすは……」


思い出す。色とりどりの花畑の中で咲いた、蒼い歌姫の歌の花。



沙織「わだすは……」


そっと、鞄に触れる。


忍『アタシ、待ってるからね。沙織がアイドルになるの!』

穂乃香『私もです。りんごに誓った、仲間じゃないですか』


入っているのは、約束を交わした、一つのリンゴと。




お婆ちゃん『そんでも、あいどるさなりたくて、歌の練習さ続けてんなら、そら、ほんとに沙織のやりたいことやと、ばあちゃんは思うき』

お婆ちゃん『沙織なら、きっとあいどるさなって、大きな舞台で歌えるでよ』



沙織「……」


お婆ちゃんの、包んでくれた――夢へと後押ししてくれた、温かい、気持ちの込められた、たくさんのおやき。



沙織「わだすは、まだ、努力もなんも、してねぇです。それで、綺麗に花咲くなんて、できるわけなかったです」

芽衣子「……」

沙織「でも、わだすの夢さ知って、植えた種に土かけて、水やって、笑いかけてくれる人がいます」

凛「……うん」



沙織「だからわだす、あきらめねえです! いつか、わだすも花さ咲かせてみせます、きっと!」



芽衣子「! 沙織ちゃん!」

凛「……うん」ホホエミ





CoP「まったく、凛もお人好しだな。芽衣子のが移ったか?」

ちひろ「まぁまぁ、いいじゃありませんか」




芽衣子「大丈夫、その気持ちさえあれば、沙織ちゃんならきっとアイドルになれるよ!」

凛「うん、私も待ってる」

沙織「……えへへ、ありがとうごぜえます……なんかその、すんごく、しょしいけんど……」ウツムキ ホホエミ



芽衣子「可愛い」ニコニコ

凛「うん、文句なしに可愛い」ニコニコ

沙織「はぇっ!?」



沙織「そ、そんだ、その、こんなんでお礼になるかわからんけんど、今朝、ばあちゃんが焼いてくれたおやきがあるっけ、よかったら、皆さんで食べてもらえませんか? まだいっぱいあるし……」

芽衣子「えっ、本当!? あれ美味しかったよね~、嬉しい!」

凛「うん、そういうことなら喜んで」

モバP「せっかくだし、いただきましょうか。ちひろさんも、CoPさんもいかがです?」

ちひろ「そうですね、では、御相伴に預かりましょうか♪」


芽衣子「あ、じゃあ給湯室使う? コンロもあるし、温めたほうが美味しいでしょ?」

沙織「あ、はい、貸してもらえるなら……」

芽衣子「モバPさん、大丈夫だよね?」

モバP「まあ、勝手にってわけにはいかないから、芽衣子がついてるなら」

芽衣子「了解! 沙織ちゃん、こっちこっち!」

沙織「あ、はい!」タタタッ



CoP「……まあ、元気出たみたいでよかったよ。オーディションは少し可哀相だったからな……」

凛「可哀想……って?」

聖來「そういや、その話聞いてなかったね」

CoP「まあ大した話じゃないんだが。ほら、凛も知ってるだろ、あずきちゃんと裕子ちゃんのいるPSYプロ」

凛「うん、もちろん」

聖來「ああ、そういえばこの前、凛ちゃんその二人と期間限定ユニット組んでたっけ」

CoP「それな。それで、あそこのプロデューサーが、沙織ちゃんと同じ組で回っていた子を、面接もそこそこにいきなり採用してな」

CoP「一人残った沙織ちゃんに対して、角が立たない事を言っていたけど、『化粧っ気のない田舎娘なんて誰もスカウトするわけない』って思ってるのが表情からしてモロバレだったからな。そんなこと言われちゃ、そのあとメタメタになっちゃうのも当然というか」




凛「……ふーん……」







凛「そんなこと言ってたの、あのブサイク……」フサァ…




聖來「……。ねえ、CoPさん? なんか、凛ちゃん……ふさふさしてない?」

CoP「フサフサ? なんの話だ?」

凛「ごめんプロデューサー、ちょっと外で電話してくる」ピッポッパッ

CoP「おう」


バタン


凛『あずき? 急にごめんね、実は……』



聖來(……さっき、髪の毛でドアノブ掴んでたような……いや、目の錯覚だよね……)



ガチャリ

CuP「ただいまー……」ゲッソリ

幸子「ただいま帰りました……」グスッ

美世「おつかれさまでーす」

聖來「あ、美世、お帰り。CuPさんに幸子ちゃんも……なんか、随分げっそりしてるね?」

モバP「……バラエティの収録現場で、他の事務所のアイドルまで巻き込んで、棟方愛海が大暴走をかましてな……」


聖來「ああー……じゃあ、美世が呼ばれてたのって」

美世「うん、三人を迎えにテレビ局にね」

聖來「……でも、何で美世が?」

CuP「愛海も、美世が運転している車の中だと静かなのよ」

モバP「?」


CuP「前に、後部座席のシートベルトもつけずに、運転中の美世の胸を揉みしだいたことがあってね」

聖來「あっ……」サッシ

CuP「運転中だったから、美世もなされるがままで、愛海が調子にのってね」

モバP「……、それで、そのあとどうしたの?」

美世「別に、ただ車を止めてから、シートベルトの大切さと運転中に運転手に手を出しちゃいけませんってお話ししただけだよ?」

CoP(あの愛海を大人しくさせている時点でもう、なぁ……)


モバP「それで、愛海はどこに?」

幸子「清良さんと真奈美さんに、トレーニングルームへ連れていかれました……」

CuP「地獄の特訓コースをマストレさんに頼んであるわ」

聖來「御愁傷様……まあ、自業自得だけど」

美世「アハハ……」


幸子「もういやです! CuPさん! 愛海さんのこと、なんとかしてくださいよ!」

美世「幸子ちゃん、なんだかんだで愛海ちゃんを止めようとしてくれてるから、玉つき事故的に被害が多いもんね……」

CuP「ごめんね、幸子ちゃん……黙っていれば美少女なだけに、騙された私が悪いわ……」

CoP「あれで一部に熱狂的なファンがいるんだから始末に負えないんだよなぁ」

聖來「セクハラおやじアイドルが受けるなんて、わからない世の中だね……」

美世「だね」


芽衣子「おまたせーっ! おやき用意出来たよーっ! 沙織ちゃんの淹れてくれたお茶もあるよっ!」

沙織「すんません、お茶っ葉、使わせてもらっちゃって……」

ちひろ「いえいえ、みんなの休憩用ですから構いませんよ」

芽衣子「あ、CuPさんに幸子ちゃん。美世も帰ってたんだ……げっそりしてどうしたの?」

聖來「愛海ちゃんがテレビ撮影で大暴走」

芽衣子「……うん、ええと、お疲れ様……」ホロリ

沙織「……?」


凛「うん、じゃ、裕子にもよろしくね」ピッ

CoP「おう、電話終わったのか。ちょうど、おやきも用意出来たみたいだぞ」

凛「いいタイミングだったね。じゃ、頂きます」

沙織「はい、どんぞ」

芽衣子「聖來と美世も貰いなよ! 美味しいんだから!」

聖來「じゃあひとつ……あ、小松菜」モグモグ

美世「いただきます! あ、味噌が入ってる」モグモグ


モバP「私たちもいいですかね?」

沙織「はい、もちろん! ……あ、あの」

CuP「え?」グター

幸子「はい?」グター

沙織「よかったら、どんぞ。お疲れみたいですし」

CuP「……おやき? ありがとう、頂くわね」

幸子「頂きます」




モグモグ



CuP・幸子「「ほー…………」」


CuP「……美味しいわね、これ……」シミジミ

幸子「ええ、なんていうか……素朴な味で温かくて、ほっとしますねぇ」シミジミ


沙織「少しぱさつくかもしれんけぇ、お茶もどんぞ」コポコポ コト

CuP「あら、ありがとう。いい香り……」

幸子「嬉しい心づかいですね、いただきます」



ズズ……





CuP・幸子「「ふはぁ~~~…………」」ホワーン





沙織「?」



CuP「なんて言うか、こう……いいわねぇ……」ホワァ

幸子「癒されますねぇ……」ホワァ



沙織「ええと……?」




CuP「そういえば、貴女は?」

沙織「あ、えっと、奥山沙織っていいます。その、少しお邪魔させてもらってます」

幸子「沙織さんですか。あ、ボクはカワイイ輿水幸子です! よろしくお願いしますね!」フフーン!

沙織「あ、はい、よろしくおねげぇします。あ、お茶、もう一杯……」

CuP「まあまあ、いいからいいから、ねえ、ちょっとお話しましょうよ」

幸子「お茶ならボクが淹れてあげます! カワイイボクにお茶を淹れてもらえるなんて、沙織さんはついてますね!」フフーン!

沙織「え、あ、はい……? ええっど……?」



芽衣子「……どうしたんだろ、あれ?」

聖來「さあ……?」

美世「よくわからないけど、二人とも物凄くニコニコしてるね?」



CoP「……ま、よかったんじゃないか?」

凛「ふふ、そうだね」

モバP「えっ、何が?」



CuP「そう、住まいは秋田なの。遠いところまで大変だったでしょう」

沙織「いえ、そんなでもねえですけど……」

幸子「沙織さんの淹れてくれたお茶は美味しいですね、淹れ方のこつとかあるんですか?」

沙織「いや、そんな大したもんじゃ……ええとその、わだすそろそろ……」



CuP「まぁまぁまぁ」ガシッ

幸子「まぁまぁまぁ」ガシッ



沙織「へっ?」




CuP「沙織ちゃん、うちでアイドルになりましょう」

沙織「へ?」



芽衣子「ん?」

聖來「え?」

美世「あれ?」

モバP「んんっ?」




沙織「……え、ええっ!?」



CuP「大丈夫、貴女なら絶対にいけるわ! 素朴さの中に温かみを感じる言葉づかい、それを裏打ちする天性の優しさと心配り! 貴女みたいな癒し系こそ、アイドルとして求められているもの!」

沙織「えっ、えっ、えっ???」



CoP(CuPが癒されたいだけじゃあ……いや、黙っておこう)




幸子「もしかして、アイドルに興味ないですか?」

沙織「えっ、いや、そげなことは……」

幸子「ならばこのカワイイボクが、アイドルの素晴らしさを教えてあげます! いいですか、まず……」



凛「……幸子もティンとくることあるんだ」

CoP「あれは初めて見るな」

モバP「え? あれ、ティンときてるんですか?」

CoP「相手の都合もおかまいなしに、アイドルに引きずり込もうとしてるんだ、他にないだろ」

モバP「ああ、確かに」

芽衣子「? なんで私を見るの?」




CuP「早速資料を作って登録しないと……あ、モバP、沙織ちゃんはうちのグループで貰うからね!」

モバP「あ、はい、どうぞ」

幸子「そうと決まれば、カワイイボクが事務所を案内してあげます! ほら、行きましょう!」

沙織「えっ、でも、その、そんな……わ、わだすで、いいんですか?」

CuP「ん?」



沙織「だってわだす、まだ何もしてねくて、アイドルなんて夢のまた夢で、化粧もかざりっ気もねえし……」

CoP「いや、実はな……」カクカクシカジカ

CuP「……なるほどね。ほんっと、見る目が無いわね、あのブサイクは」

幸子「全くです! それじゃ、さっそく行きましょう!」

沙織「えっ、あの、どこへ――」

CuP「衣装室よ」



衣装室


CuP「それじゃあ幸子ちゃん、一着沙織ちゃんに見繕ってもらえる?」

幸子「フフーン! カワイイボクのセンスにお任せです!」

沙織「あ、あの……」

CuP「ほらほら、あなたは化粧台に座って」


沙織「あの……」

CuP「大丈夫、任せなさい。私はプロデューサーよ? メイクするから、眼鏡外すわね」



春菜「それを外すなんてとんでもない!」バッ!

ベテトレ「春菜ぁ! いきなりレッスンを抜け出すんじゃない!」ガシッ

春菜「ああっ、そんな、貴重なメガネストが……!」ズルズル



沙織「……めがねすと?」

CuP「アレは気にしなくていいから」



CuP「さて、続き続き」

沙織「あ……」

CuP「不安になる気持ちもわかるわ。もちろん、プロデューサーだって全能じゃないし、貴女が頑張らないならどうしようもない」

沙織「……」

CuP「でも、どう頑張ればいいかを教えてあげることはできる。最初の一歩の踏み出し方もね」



沙織「…………」



幸子「CuPさん、用意してきましたよ! これでどうですか?」

CuP「うん、いいわね、さすが幸子ちゃん」

幸子「フフーン、カワイイボクのセンスなら、これくらい当然です!」

沙織「えっ、これ……」

CuP「さ、着替えて着替えて!」

沙織「ひ、ひええ……」



事務室


CuP「入るわよー」ガチャ

幸子「ほら、沙織さん!」

沙織「ま、まっでくだせぇ、こんな踵さ高い靴、はいた事ことねくて……!」


タタッ


芽衣子「わあっ!」

聖來「へぇ……!」

美世「おお……!」

モバP「……なるほど」

CoP「変わるもんだな」

凛「よく似合ってるよ、沙織」



沙織「あの、わだす、どうなって……」

ちひろ「はい、どうぞ、姿見ならここに」




振り向いた先にいたのは、解いた髪が肩にかかる、白と赤のドレスをまとった女の子。

眉は細く整えられて、そばかすはファンデーションの下。

眼鏡を外した瞳は、少し小さく見えた。




沙織「あの……これが、わだす……?」

CuP「ええ。あなたのもう一つの姿。どうかしら、感想は?」



ぼやっと、視界が滲む。ああ、眼鏡外したから、ぼやけて……



沙織「う、ううっ、」



つうっと、一筋の水滴が頬を流れた。




沙織「うわーん!!」

幸子「ど、どうしました!?」

沙織「だって、だってわだす、こんな、こんな格好……!」

CuP「ふふ、そんなに泣かないの。お化粧が流れちゃうわよ?」



CuP「どう? ちょっとは、私たちの魔法、信じてくれる気になったかしら?」

CuP「貴女は絶対可愛くなれる。今よりも、誰よりもきっとね」

幸子「もちろんボクには及ばないでしょうけれど、ボクの次くらいにはカワイクなれますよ!」

CuP「ふふ、幸子ちゃんのカワイイは別次元だものね?」

幸子「フフーン、その通りです!」

沙織「ぐす……ふふ、あはははは!」ナキワライ



CuP「ねえ、どうかしら?」

CuP「私たちと一緒に、アイドル、目指してみない?」



沙織「ぐすっ、ふふ……ありがとうごぜぇます、プロデューサーさん」

CuP「! いま、プロデューサーって呼んでくれたわね!」

幸子「なら!」



沙織「はい! わだす、アイドル目指して頑張りますから……プロデュース、おねげーします!!」




CuP・幸子「「ヤッター!!!」」


芽衣子「沙織ちゃん、おめでとう!」

凛「おめでとう、沙織」

沙織「芽衣子さん、凛さん……ほんとうに、ありがとうごぜえます!」

芽衣子「えへへ、私はただ、友だちを連れてきただけだよ?」

凛「うん。アイドルになれたのは、沙織の魅力のおかげだよ」

沙織「えへへ……そっだら言われたら、その、しょしいです……」ウツムキ ホホエミ



モバP「……なるほどなぁ」

CoP「ふーむ、確かに、今日のオーディションみたいな形式じゃあ、あの笑顔と魅力は伝わらなかっただろうなぁ」

ちひろ「なんにせよ、良い出会いがあったみたいで、よかったですね」


モバP「それにしても、芽衣子もよくよく人を引き寄せるなぁ」

聖來「アタシたちもそうだけど……」

美世「好奇心の塊みたいなところあるもんね。それだけ出会いが多いからかも」

ちひろ「今度、芽衣子ちゃんのお給料には、スカウト査定もつけましょうか」

モバP「それ、アイドルの給料につけるものじゃないですよね?」


幸子「それにしても、あのぴにゃこら太プロデューサー、許せませんね! ボクの次にカワイイ沙織さんに対してそんな暴言を吐いていたなんて!」

凛「ああ、それなら大丈夫」ニッコリ

幸子「?」



凛「今頃、おしおき大作戦が発動している頃だから」




PSYプロ 事務所


ぴにゃP「今戻ったぴにゃ!」

あずき「あ、おかえりなさい、プロデューサー!」

柚「オーディションはどうだったのカナー?」

ぴにゃP「ふっふっふ、ぴにゃの目に狂いはないぴにゃ! 二人とも、入ってくるぴにゃ!」



穂乃香「失礼します」

忍「よ、よろしくお願いします」

あずき「あっ、新人さんだね! あずきは桃井あずき! よろしくね!」

柚「喜多見柚だよー、ヨロシク!」

忍「工藤忍といいます、よろしくお願いします!」

穂乃香「綾瀬穂乃香です、よろしくお願いします」


ぴにゃP「うんうん、思った通り、絵になるぴにゃ! ぴにゃは、君たち四人でユニットを組んでもらおうと思っているぴにゃ!」

柚「ユニット? それって楽しそう!」

あずき「ユニットデビュー大作戦だね!」

忍「は、はい!」

穂乃香(凄い勢いで話が進んでいく……!)



あずき「プロデューサーもお疲れ様! 今日はあずきがおもてなし大作戦、やっちゃうよー!」

ぴにゃP「ふふん。ぴにゃともなれば、担当アイドルからねぎらいを受けるのも当然ぴにゃね!」

柚「ほらココ、座って座って」

ぴにゃP「おおー、いい感じの椅子ぴにゃね、特注ぴにゃか?」ストン



ガチャン!!



忍・穂乃香「!?」



ぴにゃP「……あずきちゃん、柚ちゃん。何か、椅子から手かせ足かせが出てきて、拘束されたぴにゃが……」

柚「流石、秋葉ちゃん特製の仕掛け椅子だよねっ!」

ぴにゃP「なにやってるぴにゃあの子は! っていうかこれどういう状況ぴにゃ!?」



あずき「聞いたよ、プロデューサー」



あずき「プロデューサーが、オーディションで、凛ちゃんの友だちを馬鹿にしたって……」ゴゴゴゴゴ……




ぴにゃP「は!? 何の話ぴにゃ!?」

柚「認めないのカナー? 往生際が悪いぞ、ぴにゃこら太!」

あずき「そんな悪いプロデューサーには、お仕置き大作戦しないとね!」

ぴにゃP「!? 待つぴにゃ、ぴにゃは何も……!!」


柚「そんな悪いぴにゃこら太は、このぴにゃこら太剣で……」

ぴにゃP「どこから出したぴにゃ!? ちょっと柚ちゃん! 撮影の小道具でもそんなの人に向けちゃ駄目ぴにゃ!」

あずき「問答無用!」

柚「ぐさぁーーーっ!」

ぴにゃP「ぴにゃぁーーーーっ!?」



ブッブー!



ぴにゃP「ぴにゃ?」



ぴにゃP「ええと……今、その剣でぐさぁーってした、ブザーは何ぴにゃ?」


ガチャリ


楓「あずきちゃん、呼びましたか?」

ぴにゃP「へっ?」

楓「あら、プロデューサー、お疲れ様です……カッコいい椅子、いいっすね……ふふふっ」

ぴにゃP「(面倒臭い人が……)と、とりあえず楓さん。この拘束を解いて……」



あずき「あ、楓さん! 今日はプロデューサーが何処でも何でもおごってくれるって!」



ぴにゃP「ぴにゃっ!?」



楓「あら、それは素敵ですね♪ ちょうどこの前、早苗さんといい感じの小料理屋を見つけたんです」

楓「明るい緑色の暖簾をさげた、『呑喰処 ちひろ』っていうところなんですよ♪」

ぴにゃP「ぴにゃぁっ!? そ、そこはあの、最高級の料理と酒を揃えながらも、それに応じた金銭設定から、支払う者には地獄の入口と名高い……!?」



ちひろ(ぴにゃPさん?)

ぴにゃP(天使! 女神! ちひろ! って誰ぴにゃ!?)



楓「うふふ、早速早苗さんと、そうだ、志乃さんと礼子さんにも声をかけないと♪」

ぴにゃP「ちょちょちょ、ちょっと待つぴにゃ! あずきちゃん、これは一体……!?」



あずき「名付けて……世紀末歌姫による、ぴにゃこら太お財布討滅大作戦だよっ!」

柚「カナっ!」



ぴにゃP「ぴにゃぁっ!?!?」




楓「さ、いきましょうかプロデューサー♪」カラカラカラ

ぴにゃP「あ、ちょっと待つぴにゃ、このキャスター付きの椅子のまま行くぴにゃか!? せめてここからおろして……」

楓「駄目です。いつもプロデューサーさん、私たちとお酒飲もうとすると逃げちゃいますから……今日はとことん、付き合ってくださいね♪」



ぴにゃP「ぴ……ぴにゃぁぁぁぁ!!!!!!!!!」



バタン




忍「……」ポカーン

穂乃香「……どうしましょう?」

柚「あっ、ぴにゃPさんが調子に乗ってアイドルからお仕置きされるのはいつもの事だから気にしなくて大丈夫!」

忍「えっと……え?」

あずき「すぐ調子に乗って、失言を繰り返すんだよねー」

穂乃香「そうなん……ですか?」

柚「あ、プロデュースの腕は確かだから、心配しないでいいよ!」


あずき「それより、早速四人でユニット結成記念パーティー大作戦しない!?」

柚「さんせーい! いつものファミレス行こうよ!」

忍「ええと、それはその、嬉しいんだけど……」

あずき「それにいい知らせもあるから、ね?」

穂乃香「? それってどういう……」



あずき「さっき、凛ちゃんからメールが来たんだ。沙織さん? って人が、CGプロでアイドルになれたって!」


忍「!」

穂乃香「!」


柚「んー? その人誰カナー?」

あずき「あずきは知らないけど――」


忍「大切な仲間だよ!」

穂乃香「はい! 一緒にアイドルになろうって誓ったんです!」

柚「ナルホドー」

忍「……あ! じゃあ、さっきのお仕置きの理由って……」

あずき「うん、うちのプロデューサーがその友だちにひどいこと言ってごめんね? そのお仕置きだよ!」


穂乃香「……なら、助けはいらないですね」ケロリ

忍「そうだね」ケロリ


柚「うん、初日からその見放しっぷり、仲良くなれそうカモ!」

あずき「うんうん、二人ともよろしくね!」

忍「うん!」

穂乃香「はい!」



CGプロ 事務所


CoP「……まあ、あれで愛嬌もあるからな。腕もあるし、悪い奴じゃないからな」

CuP「担当アイドルたちからも、なんだかんだで慕われてるみたいだしね。お仕置きを受けるのはいつものことだけど」

凛「何の話?」

CoP「別になんでも」


沙織「……何だか、夢みえてだ」

CuP「フフ、何言ってるの、貴女の夢は、まだ始まったばかりよ?」

沙織「……はい! きっと、アイドルになって、忍ちゃんや穂乃香ちゃんと同じステージに立って、そんで、きっと故郷に錦さ飾ってみせます!」



沙織「……だから、これから、よろしくおねげーします、プロデューサーさん!!」




おわり

話の骨子はそれこそ1話の時点でまとまっていたのですが、聖來と美世の出番を先に……とかやってたらこんなに遅く。
沙織は訛りで素朴でそこが可愛い! ……方言は雰囲気なので間違ってても許して下さい

凛ちゃんの期間限定ユニットは、勝手ながらリスペクトです! 気になる人は「PKヴィオレット」で検索!

次は芽衣子と聖來と美世でユニットデビューさせてエボレボ躍らせたかったり(三人ともデレステデビュー! めでたい!)
デビュー曲作ってあげたかったり……そんなスキルが無いのが悩みどころ。いつ書き上がるかは例によって未定ですが…

とりあえず、沙織ちゃん、お誕生日おめでとう!!
(誕生日に気がついて慌てて書き上げたことは黙っておく)

あとでHTML化依頼してきます

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