げんきいっぱい5年3組 大人編 (オリジナル百合) (30)

みやちゃんとももちゃんがその後どうなったのかを
思いつくままに書いていくだけです

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げんきいっぱい5年3組 (オリジナル百合)
げんきいっぱい5年3組 (オリジナル百合) - SSまとめ速報
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メモ書き程度の二人の後日談を読んでない人は読んでおいた方がいいかも

最初に、同じ電車の車両に乗っていたことに気が付いたのは恐らく私の方だった。
中学生以来になるけれど、面影があったので、ああ、あの女だわ、と納得した。
少し眠たげな横顔。仕事帰りなのね。
アホ面が余計にアホ面だわ。
小学校と中学校と、あの女としか呼んだことがない。
あの女――みや。
子どもの頃の記憶が、昨日のことのように蘇る。

『みやちゃん』

彼女はそう呼ばれていた。
口を開けば、彼女とは喧嘩しかしていなかった気がする。
もともと嫌いだったし、あの女も私のことを敵視していた。
思い出話をするような仲でもないし、気づかなかったふりをするのにこしたことはない。
余計な気遣いをしたくもない。
あちらだってそうでしょうから、私なりの優しさね。

降りる駅まで来たので、私は腰を上げた。改札を出て、暗がりの駐車場を縫うように歩く。
バイクのキーをポケットから取り出して差し込むと、気だるげな牛のような音が響いた。
駐車場の入り口までバイクを押しながら進んでいると、しゃがみ込んで頭を抱える女性がいた。

「……」

そうね。気付かないふりをして、通り過ぎましょう。
面倒くさいことが起きる予感しかしないわ。
また、バイクを押そうとしたら、

「あんた……」

あんた?
私のことじゃないわよね。
知らない知らない。
ふと肩越しに振り返る。
どうやら彼女の『あんた』は、彼女の真向かいにいるタヌキみたいな会社員のようだった。

「私のバイク……穴、空けたでしょ!? ヒック」

「し、しりませんちがいます!」

「これだから……ヒック」

なに、この女。
頭おかしいのかしら。

「あ、あなたこそ、酔ってますよね?!」

「酔ってないれす!」

彼女は携帯を取り出した。

「けいらつにつうほうしま……す」

指を操作し始めたのを見て、会社員は慌てて金属のバーをかいくぐって彼女の腕を掴んだ。

「だから、違いますって!」

「いやああッ!?」

彼女の悲鳴がこだまする。
周りにいた数人が振り返っていた。

「え、ええッ」

会社員の男性は狼狽えていた。
自分から喧嘩売っておいて、この女何がしたいのかしら。

「最悪……よぉ」

それは、その男性の台詞じゃないの。

「ち、ちがうって、ほんとに、ああ、もう……」

彼はへたり込む。

何が起こったのか分からないであろう周りの人間が、
ちらちらと見ながら脇を通り過ぎていく。
私は溜息を吐いた。
バイクを止める。

「あの」

彼は顔を上げて――泣きそうな表情だった。

「私の知り合いなので、あとは任せてください」

心底ほっとしたように、彼は顔を緩ませた。
ぺこぺことお辞儀をしながら、そそくさと自転車にまたがって駐車場を出て行った。

「なに、られよッ」

この女、酒臭い。
座り込んだ彼女の腕をぐいっと引っ張って立たせた。

「どういうつも……」

睨みながら、言葉を途切れさせる。

「あなた、相変わらずね」

幽霊でも見たように、口を戦慄かせた。

「か、上林さん」

酔いも一気に醒めたのか、滑舌の良くなった彼女は、後ろに後ずさった。

「バイク、タイヤダメになったのかしら」

彼女は小さくそしてぎこちなく頷いた。
彼女の背後にあるバイクを覗く。
確かにタイヤがペチャンコになっていて、使い物にならない。
近所のバイク屋は、もう閉まっている時間だ。

「家、遠いの?」

私は聞いた。
彼女の家なんて、ついぞ知ることも聞くこともなかったけれど。

「ええ……」

聞かれるがままに返答していた彼女は、はっとして私の腕を振り払った。

「ひ、久しぶりね……上林さん」

「そうね」

あの頃、私の背はとても小さかった。
いつも、誰かを見上げていた。
いつの間にか背は伸びて、今、漸くそれを実感したような気がする。
同じ高さにあるこの女の目線のおかげで。

「どうやって、帰るの?」

「タクシーで帰るから……」

「ふうん……」

どこか怯えたように後ずさりする彼女。

「ねえ」

「な、なによ」

「私のマンション、すぐそこなんだけど」

「それがどうしたのよ」

「久しぶりに会ったんだから、上がっていかない?」

「い、いやよ」

「どうしてかしら」

「理由なんてないからっ」

人が親切で言ってあげているのに、こんな風に邪険にされると――逆に燃える。
思い出してきた。
中学に上がってから、彼女のこの反応を楽しんでいた自分を。
彼女が私に怯えるようになったのはいつからだったかしら。

「そう、私はあなたに会えてすごく嬉しかったのよ?」

「冗談でしょっ?」

「冗談よ。いじめっ子さん」

からかうように言うと、彼女は唇をきゅっと結んだ。
このフレーズは、今もなお彼女には有効なようだ。
中学に上がった時、あゆむに聞いた言葉が蘇る。
内心では反省している。言葉とは裏腹だけど。
つまり、素直に謝れない。
そういうプライドの高い人間。
だから、弱みを掴んで、そのプライドがザクザクと切り刻むのが楽しくてしょうがなかった。
嫌いだったけれど、今は嫌いじゃない。
彼女の楽しみ方を知ってしまったから。

私はにやりとした。

「ね、過去のこと水に流したいの。いいでしょう? 私達、中学でも仲違いばかりだったじゃない。こんな機会滅多にないわよ?」

「……う」

彼女は小さく呻く。

「今日だけでいいから」

「本当に?」

「ええ」

「わかったわ……行けばいいんでしょう」

「それだと、私が脅しているみたいじゃない」

「そうでしょ……」

「そんなことないのに。あ、ねえ」

「なに」

「そのバイクのタイヤに穴を空けたの私だから」

「はあッ!?」

「積年の恨み」

「あんたッ」

「なんて、冗談だって」

彼女をイライラさせるのはなんて快感なのかしら。

そうやって彼女をいじって、機嫌を損ねながら歩いたかいもあって、
私の部屋に足を踏み入れる頃には警戒心の塊と化していた。

「あなた、なにそんなにびくついてるの」

「あんたのせいでしょッ」

睨まれたが無視。

「荷物、そこ置いて。お茶しかないけど飲む?」

「いいわよ。変な物混ぜられたら困るから」

「小学生じゃあるまいし、そんなことしないわ」

冷蔵庫を開けて、お茶を取り出す。
こぽこぽとコップに注いだ。

「ほら」

目の前に置いた。

「顔は赤いし、酒臭いし、ちょっと飲んで薄めておいた方がいいわよ?」

あまりにも口をつけないので、私は噴き出したした。

「別に、それが醤油だろうが1年前のお茶だろうが、死にはしないわ」

「絶対、飲まないから!」

仕方なく、お茶は私が飲んだ。

「……なによ、なんなのよ。私のこと玩具にして楽しい?」

「楽しいからするんじゃない」

「悪魔……」

「あなただって、楽しかったから私のこといじめてたんでしょ?」

「私は、あんたが気に食わなかったからよ。誰も好きでやったんじゃないわ!」

この女はホントに敵を作りやすい性格をしている。

「ねえ、あれからまた誰かいじめたの?」

彼女の身体がびくりと動いた。
良い反応。
何かあったのかしら。

聞かれたくなさそうね。だから、聞きたくなるんだけれど。
だんまりの彼女を一瞥して、私は腰を上げる。
冷蔵庫にあった、度数の高いワインとグラスを二つ机の上に置いた。

「……ね、私の携帯見たわよね」

「いつの……話してるの」

「いつだったかしら。でも、忘れたい記憶だわ。あなたと一緒に飲んだら、きれいさっぱり忘れるかも」

グラスをカチンと鳴らした。

「ね?」

にこりと笑う。
彼女は嫌そうに、ゆっくりと差し出したワイングラスを受け取った。

ここまで
また明日

一口飲んでは、彼女へ嫌味を注ぐ。

「携帯を投げられた時もあったわよね」

「だから、悪かったって……」

酔いのせいもあり、しぶしぶだが彼女は悪びれる。

「でもね、少し思ったのよ。嫌いな人間の携帯なんて見るのかしらって。あなた、私のこと気になってたからあんなことしたんじゃないの? どうなの」

「私は……」

頭を重たそうに揺らす。

「そうよ、気になってた」

こちらを見ずに、グラスを覗きながら彼女は言った。
少し予想外の答え。
噛みついてくるかと思ったのに。

「気に入らないくらい、気になってた」

「どうして?」

真っ赤な顔に尋ねる。

「言わない」

「言って」

「いや」

首を振る。
駄々をこねる子どものようね。


「飲んだら忘れるんじゃないの?」

彼女が言った。

「そうね」

「余計、思い出させてなんなわけ。どうせ、私を潰したいだけなんでしょ」

くてん、と頭を机の上に置く。

「好きにすれば……いいじゃん」

「あら、つまらない。もう、ダウン?」

「飲んで来た帰りなのよ……」

「ふうん……好きにしていいの?」

小さな鼻息が聞こえた。
そして喋らなくなって、ぴくりとも動かなくなる。

「ねえ、本当に好きなようにしてしまうけどいいの?」

「……ん」

つまらない。
私を放っておいて寝るなんて許さないから。
四つん這いで彼女のそばまで移動する。
着ていたスーツの上着の袖から腕を抜く。
するすると下に脱げ落ちていく。

白いうなじに指を当てる。
うぶげをはらうように。

「ひぁ……」

彼女が体を起こして、

「何ッ」

「寝るからでしょう?」

「何かしたッ?」

「上着脱がしただけだけど」

「なんでッ?」

「全裸に剥いてやろうかと」

「ひいッ」

もたつきながら、彼女がひっくり返る。
ちょうどいいので、馬乗りになった。

「好きにしていいって言ったわよね」

「あんた、どれだけ私のこと嫌いなの!!」

覚束ない口元。
腕力もない。
私を押し返せていない。

「私は、別にもう嫌いじゃないけど。むしろいじると楽しいから好きよ」

「それのどこが、好きだって言うのよッ」

「そうやって頑なな所もからかいがいがあるし」

右胸をわし掴んだ。

「ばかッ! やめて!」

「柔らかい」

「何言ってるの……変態ッ」

両腕をクロスさせてガードされる。

「こんな美人にいいようにされるなんて、逆に羨ましがられるわよ?」

「自分で言うなッ」

「言おう言おうと思ってたけど、あなたって男の人苦手なところ治ってないの?」

息が一瞬止まる。

「な……んで知ってるの」

「見てたらわかるのよ。ああ、それとも誰にも言ってなかった?」

まあ、この女の場合自業自得。
媚びを売る、甘える、ということができなさそうだし。
ふいに、顔を掴まれる。

「きゃッ!?」

頬を挟まれて、顔を引き寄せられた。

「言わないでよッ。それ、絶対に誰にも」

ちょっとここまで

あまりに必死に言うものだから、
つい優しくしてしまいたくなった。
まあ、そんな時もあるの。

「言わないわ」

互いの息がかかって、くすぐったい。
疑わし気に睨み付けてくる。
その目。
私の顔が、声が、話し方が、気に食わないと訴えかけてくる。

「それからね、あなた、いつまで、あゆむとやすはのこと引きずってるのよ」

彼女の腕から力が抜けた。
さらに目を細めて、唇を潰す。
地雷がたくさんあって楽しい子。

「……悪い?」

「私のこともいつまでも引きずって」

「それは、あんたが……あんたが許してくれないからでしょ」

「私の許しなんて、関係ないじゃない。あゆむなんてね、小学校の頃になんて言ったと思う? 土下座して、許さなくていいから。自分はずっと覚えてるからって言ったのよ? すごいでしょ。まるで殺し文句ね」

「同じ事言えって言うの?」

「期待してないわよ」

握りこぶしを作って、私のお腹に軽く突きを入れる。
やっと反撃してくれた。

私は彼女の反撃の2倍くらいの威力で、彼女の赤い頬を叩いた。
それから、すかさず唇に噛みつくようなキスをした。

「ふふッ……あははッ!」

「ぺッ……ペッ!?」

手の甲で、彼女は唇を拭った。

「ばーか」

「こんの……くそ女!!」

彼女の渾身の力で突き飛ばされて、後ろのベッドに背中を強く打ち付けた。
なかなかに痛くて、一瞬息が止まる。
しばらくうずくまっていると、あちらから恐る恐る近寄ってきた。

「だ、大丈夫なの」

「折れたわ」

「それは、嘘でしょ」

「心の方」

「……は?」

ゆっくり彼女を見上げた。

「分からない? 引きずってるのは何もあなただけじゃないのよ」

「あんたが何を引きずってるって言うの」

鼻で笑う。

「……あなたと仲直りしなかったこと、かな」

うそぶいた微笑みになってしまったかもしれない。
彼女は、やめてよ、と横を向いた。

「ほんとよ」

「いいから、もう、そういうのうんざり」

「どうしたら、信じてくれる?」

「今さら、あんたの何を信じればいいの」

「そうね……」

どうしたらいいかしら。
これは、きっと彼女に気持ちを隠したまま楽しんだ罰ね。

長い沈黙の後、

「悪いけど、やっぱり帰るから……」

彼女は自分の上着を拾って、かばんを掴んだ。
そそくさとする上半身と違い、足元は危なっかしい。
落ちていた雑誌を足蹴にしそうになって、避けようとしてよろめいて私の身体を支えに踏みとどまった。

「タクシー呼ぶから、待ちなさい」

「自分で呼べるから、いい」

私の横を通り抜ける。
壁伝いに玄関へ急ぐ彼女の腕を掴み、引き寄せる。

「やめてよ」

この手を離せば、また元の、他人のような関係に戻るような気がした。
別にそれでもかまわないのよ。
今までだって、そうだったのだから。
今、この瞬間でさえ、そうに違いないんだから。
それでも、言えば何か変わるのかしら。

「好き」

聞こえたはずだった。
けれど、彼女は何も言わず靴を履いて、玄関の扉を開けた。
もう一度待ってとは言えなかった。
振り返ることなく、彼女は部屋を出て行った。
彼女のつけていた香水の甘い匂いだけが部屋に残った。

別に、この先会うことがなくても、そんな人生だってありだろうし。
きっと、会おうなんて思うこともないし、互いにするはずもないでしょう。
あの頃に戻ってやり直したいとも思わない。
あの女が振り返らなかったから。
こんな風に、終わる。
なにかしら。
それは、
それで、
それなりに、

「気に入らないわ……」

靴を履くこともせず、多少開いた扉を乱暴に蹴り開けた。
いない。

「ッ……みやさん!!」

唇を噛みしめて、裸足で走り出す。

階段の踊り場に佇んで、階下を眺めている彼女を発見した。
何してるのかしら。
まあいいわ。

「ちょっと!」

「か、上林さん」

彼女は体が浮くぐらい飛び跳ねた。

「なんで、無視したのかしら? 聞こえたわよね」

「び、びっくりしたの!」

彼女は言って、逃げた。

「ちょっと、待ちなさいよ! みやさん!」

「上林さん、ついてこないで!」

「好きって言ってるのッ」

「聞こえてるわよ!」

「じゃあ、止まればいいでしょうッ」

「止まれるわけないじゃない!?」

この女、返事をしたくないのね。
断るなら断ればいいのに。
何を考えているのかしら。

「あなたがッ……嫌なら嫌って、……ハァッ、言えばいい話なんですけどッ!」

走るのは得意じゃない。
そう言えば、この女、体育の成績はやたら良かったわね。

「嫌なのよぉッ……!」

彼女は言った。
本当に心が折れそうになるかと思ったが、続けざまに、

「嫌なのッ、嫌なのに、嫌だって言うのも嫌なの!! もう、嫌!」

「何言ってるのッ……ハァッ」

遠ざかっていく背中をどうしても掴めない。

「これがッ……最後だからッ……好きよ! 好きだからいじめるの!! 子どもなの! 私は!」

閑静な住宅地に、私は絞り出した声が溶けていくのを感じた。
届かないかもしれない。狼少年の声は。

「……そんなの知ってる」

彼女は言った。
そして、漸く立ち止まった。

「好きだから、意地悪するなんて……あんた、最低よ」

こちらに背を向けて、暗闇を見ていた。
星空もないような曇り空。

「……そんなことしなければ、もっと早く伝わるんだから。あんたも、私も……」

と独り言のように呟いていた。





おわり

ということで、一応終わりです。
ありがとうございました。

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